説明

低融性無鉛ガラス材

【課題】低融点ガラス組成物として、無鉛系であって、低い温度で封着や焼結造形等の加工を行え、鉛系ガラスに代替し得る充分な実用的性能を具備するものを提供する。
【解決手段】Li2 4 7 と、ZnO及びBaOの少なくとも一方とからなる酸化物を主成分とする低融性無鉛ガラス材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子管、蛍光表示管、蛍光表示パネル、プラズマディスプレイパネル、液晶ディスプレイ用バックライトパネル、半導体パッケージ等の各種電子部品・電気製品の開口部や接合部の封着加工、ならびに高真空部の隔壁や電極包囲部等の焼結造形に用いる鉛フリーのガラス材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、内部を高真空にして用いる各種電子部品・電気製品の封着加工や焼結造形には、低融性ガラス材が使用される。この低融性ガラス材は、低融点ガラスの粉末からなり、この粉末を有機バインダー溶液でペースト化して封着対象物品の被融着部に塗着し、電気炉等で焼成することにより、ビークル成分を揮散させてガラス粉末が融着したガラス連続層を形成させるものである。
【0003】
従来、このような低融性ガラス材としては、主としてPbO−B2 3 系の鉛ガラスの粉末が広く使用されていた。すなわち、鉛ガラスは、PbOの低融点性と高い溶融性により、低い温度で且つ広い温度範囲で加工を行える上、熱膨張が小さく、接着性、密着性、化学的安定性等にも優れるため、高い封止性、融着強度、耐久性が得られるという利点がある。しかるに、鉛は有毒物質であるため、鉛系ガラスの製造過程での労働安全衛生面での問題がある上、鉛系ガラスを使用した電子部品や電気製品が寿命に至った際、そのまま廃棄物として埋立て等で処分すれば鉛の溶出による土壌汚染や地下水汚染の懸念がある一方、再生利用するにも鉛を含むために用途上の制約が大きく、その処置に困窮している現状である。
【0004】
そこで、近年においては、毒性の問題のない無鉛の低融性ガラス材の開発が広く進められつつある。そして、既に多くの無鉛ガラス材の組成が報告されており、特許技術では、例えばP2 5 −ZnO−アルカリ金属酸化物系(特許文献1)、P2 5 −WO3 −アルカリ金属酸化物系(特許文献2)、SnO−P2 5 −ZnO系(特許文献3)、CuO−P2 5 系(特許文献4)、SnO−P2 5 −B2 3 系(特許文献5)、Bi2 3 −B2 3 −SiO2 −Al2 3 −CeO系(特許文献6)、Bi2 3 −B2 3 −ZnO系(特許文献7)、SnO−P2 5 −Cl系(特許文献8)、B2 3 −ZnO−BaO−SnO系(特許文献9)、B2 3 −ZnO−BaO−Na2 O系(特許文献10)、SiO2 −B2 3 −ZnO−BaO−アルカリ金属酸化物系(特許文献11)、B2 3 −Bi2 3 −BaO系(特許文献12)等が提案されている。
【特許文献1】特開平5−132339号公報
【特許文献2】特開平9−208259号公報
【特許文献3】特開2001−302279号公報
【特許文献4】特開2001−199740号公報
【特許文献5】特開2003−183050号公報
【特許文献6】特開2003−54987号公報
【特許文献7】特開2003−128430号公報
【特許文献8】特開2004−59366号公報
【特許文献9】特開2005−15280号公報
【特許文献10】特開2005−47778号公報
【特許文献11】特開2005−145772号公報
【特許文献12】特開2005−231923号公報
【0005】
しかしながら、これら提案の無鉛ガラス材は、いずれも鉛系ガラス材に匹敵するほどの低融性、低熱膨張性、接着性、封止性、化学的耐久性を備えていないため、鉛系ガラス材に完全に代替させ得るものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の情況に鑑み、低融性無鉛ガラス材として、非常に低い温度で加工を行え、鉛系ガラスに充分に代替し得る実用的性能を具備し、且つ既述した従来の無鉛系低融性ガラス材のような問題のないものを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者らは、ガラス構成成分が、ガラスの基本骨格である三次元網目構造を形成する網目形成酸化物と、単独ではガラス形成能はないが、三次元網目構造中に入り込んでガラス性状に影響を及ぼす網目修飾酸化物と、単独ではガラス形成能はないが、網目形成酸化物の一部に置き換わって網目形成に加わったり、網目修飾酸化物としての役割も果たし得る中間酸化物の3種に分類されることに着目した。そして、これら各機能成分に属する数多い酸化物から前記3種の組合せを様々に設定し、鉛を実質的に含まない組成での加工用ガラス材としての適性を調べるために、綿密な実験研究によって種々の物理化学的特性を評価すると共に、様々な角度から検討を重ねた。
【0008】
その結果、網目形成酸化物としてLi2 4 7 を、中間酸化物ないし網目修飾酸化物として鉛系ガラス材のPbOに代替する成分としてZnOを、更に網目修飾酸化物としてのBaOを、それぞれ選択し、これら酸化物を基本成分としたガラス材つまりLi2 4 7 −ZnO−BaO系ガラス材とすることにより、低融性無鉛ガラス材として特に好適な性能が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明の請求項1に係る低融性無鉛ガラス材は、Li2 4 7 と、ZnO及びBaOの少なくとも一方とからなる酸化物を主成分としている。
【0010】
また、請求項2の発明は、上記請求項1の低融性無鉛ガラス材において、20〜85モル%のLi2 4 7 と、0〜50モル%のZnOと、0〜65モル%のBaOとを含有する構成としている。
【0011】
請求項3の発明は、上記請求項1の低融性無鉛ガラス材において、20〜40モル%のLi2 4 7 と、10〜40モル%のZnOと、40〜60モル%のBaOとを含有する構成としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、低融性無鉛ガラス材として、Li2 4 7 −ZnO−BaO系であり、鉛系ガラス材のような毒性の問題がなく、しかも低い温度で封着加工や焼結造形が可能である上、低熱膨張性で且つ接着性及び封止性にも優れており、化学的耐久性も良好であり、鉛系ガラス材に代替し得る充分な実用的性能を具備し、また色調が白色を呈することから、プラズマディスプレイパネル内の白隔壁(リブ)や白色誘電体層に好ましく適用できると共に、顔料の配合による調色が容易なものが提供される。
【0013】
請求項2の発明によれば、上記の低融性無鉛ガラス材として、Li2 4 7 とZnO及びBaOが特定のモル比範囲で存在することから、完全な非晶質で、ガラス転移点が475℃以下、軟化点が490℃以下であって、550℃以下といった低い温度での加工を確実に行えるものが提供される。
【0014】
請求項3の発明によれば、上記の低融性無鉛ガラス材として、Li2 4 7 とZnO及びBaOがより好適なモル比範囲にあることから、ガラス転移点が380℃以下、軟化点が400℃前後であって、450℃以下といった非常に低い温度での加工を確実に行えるものが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る低融性無鉛ガラス材は、基本的にはLi2 4 7 −ZnO−BaO系のガラス組成であるが、中間酸化物ないし網目修飾酸化物であるZnOと網目修飾酸化物であるBaOの一方を省略した組成、つまりLi2 4 7 −ZnOの2成分系、ならびにLi2 4 7 −BaOの2成分系を包含する。そして、いずれの組成でも鉛系ガラスのような毒性の問題がない上、ガラス転移点〔Tg〕が500℃以下となる組成、更には400℃以下となる組成も可能であり、封着加工や焼結造形等の加工を低温で行え、それだけ被加工物に対する熱影響を少なくできると共に、熱エネルギー消費を低減できる。
【0016】
また、この無鉛ガラス材にあっては、熱膨張係数が小さく、被加工部との熱膨張特性を適合させることが容易である上、被加工物のガラス、セラミック、金属等よりなる表面に対する良好な接着性及び密着性が得られるから、被加工部での剥離やクラックが発生しににく、加工後のガラス層の化学的安定性及び強度にも優れるため、被加工部の耐久性が良好となる。更に、加工後のガラス層の色調が白色を呈するから、プラズマディスプレイパネル内の白隔壁(リブ)や白色誘電体層に好ましく適用できると共に、顔料の配合による調色も容易になる。
【0017】
しかして、このLi2 4 7 −ZnO−BaO系の無鉛ガラス材では、20〜85モル%のLi2 4 7 と、0〜50モル%のZnOと、0〜60モル%のBaOとを含み、且つZnO及びBaOの少なくとも一方を必須成分とするガラス組成が好ましい。このようなガラス組成では、後述する実施例の封着試験で示されるように、溶融によって良好なガラス状態が得られ、軟化点〔Tf〕は490℃以下、ガラス転移点〔Tg〕は475℃以下となるため、550℃以下といった低い温度での加工を確実に行え、且つガラス回収率つまり原料とする酸化物粉末からの溶融によるガラスの収率も略80%以上と良好になる。
【0018】
更に、より好適な無鉛ガラス材としては、20〜40モル%のLi2 4 7 と、10〜40モル%のZnOと、40〜60モル%のBaOとからなるガラス組成のものが挙げられる。すなわち、このようなガラス組成では、軟化点が400℃前後、ガラス転移点が380℃以下であって、450℃以下といった非常に低い温度での加工を確実に行えるものとなる。
【0019】
なお、網目形成酸化物であるLi2 4 7 は、リチウムとホウ素の複合酸化物であり、Li2 O・2B2 3 としてLi2 Oの1モルとB2 3 の2モルとの化合物に相当する。しかるに、Li2 4 7 に代えてLi2 OとB2 3 とをモル比1:2の割合で用いた場合は、Li2 4 7 を用いた本発明の無鉛ガラス材に比較して熱的安定性(ΔT=結晶化開始温度Tx−ガラス転移点Tg)が低下すると共に、加工後のガラス層が茶褐色になるという欠点を生じることが判明している。
【0020】
本発明の低融性無鉛ガラス材を製造するには、原料の粉末混合物を白金るつぼ等の容器に入れ、これを電気炉等の加熱炉内で所定時間焼成して溶融させてガラス化し、この溶融物をアルミナボート等の適当な型枠に流し込んで冷却し、得られたガラスブロックを粉砕機によって適当な粒度まで粉砕すればよい。そのガラス粉末の粒度は0.05〜100μmの範囲が好適であり、上記粉砕による粗粒分は分級して除去すればよい。
【0021】
また、このような低融性無鉛ガラス材は、封着や焼結造形等の加工に供する際、その粉末単独で用いればよいが、特に立体的に盛り付けて焼結造形する場合、ガラス粉末を焼結用母材として充填材や骨材の如きフィラーを混合した混合物形態で用いることが好ましい。このような混合物形態では、低融性ガラス材がフィラーの粒子同士を結着するバインダーとして機能するから、立体的な造形を容易に行え、高強度で緻密なセラミック形態の焼結体が得られる。また、このガラス材は溶融して無色透明のガラスになるから、充填材や骨材の配合によって焼結体を光反射性の高い白色に設定でき、発光部位に用いた際の光取出し効果を大きくできるという利点もある。
【0022】
上記のフィラーとしては、低融性無鉛ガラス材よりも高融点で、加工時の焼成温度では溶融しないものであればよく、特に種類は制約されないが、例えば珪酸ジルコニウム、コジェライト、リン酸ジルコニル、β・ユークリプタート、β・スポジュメン、ジルコン、アルミナ、ムライト、シリカ、β−石英固溶体、ケイ酸亜鉛、チタン酸アルミニウム等の粉末が好適である。しかして、これらフィラーの配合量は、低融性無鉛ガラス材/フィラーの重量比で95/5〜55/45程度の範囲とするのがよく、多過ぎてはガラス組成物による結着力が不足して強固な焼結体を形成できない。
【0023】
更に、本発明の低融性無鉛ガラス材、ならびに該ガラス材に上記フィラーを混合した混合物には、必要に応じて種々の顔料を配合することができる。しかして、この無鉛ガラス材は、既述のように溶融して白色を呈するから、顔料の配合による調色が容易である。
【0024】
本発明の低融性無鉛ガラス材の粉末、ならびに該粉末に前記フィラーや顔料を混合した混合粉末は、焼結造形では粉末のまま成形型に充填して加圧成形し、得られた成形物を被加工物の所要部位に配置して焼成する場合もあるが、一般的には粉末を有機バインダー溶液に高濃度分散させたペーストとし、これを被加工物の所要部位に塗工したり盛り付けて焼成に供するから、予めペースト形態として製品化してもよい。
【0025】
上記ペーストに用いる有機バインダー溶液としては、特に制約はないが、例えばニトロセルロースやエチルセルロースの如きセルロース類のバインダーを、パインオイル、ブチルジグリコールアセテート、芳香族炭化水素系溶剤、シンナーの如き混合溶剤等の溶剤に溶解させたもの、アクリル系樹脂バインダーをケトン類、エステル類、低沸点芳香族等の溶剤に溶解させたものがある。しかして、ペーストの粘度は、塗工作業性面より、100〜2000dPa・sの範囲とするのがよい。
【0026】
封着加工では、上記のペーストを封着対象物品の被封着部に塗着し、この物品を電気炉等の加熱炉内で焼成することにより、ガラス粉末を溶融一体化して封着ガラス層を形成すればよい。しかして、この焼成は、一回で行うことも可能であるが、封着品質を高める上では仮焼成と本焼成の2段階で行うのがよい。すなわち、2段階焼成では、まず封着加工用無鉛ガラス材のペーストを封着対象物品の被封着部に塗着し、この塗着した物品を該ペーストに含まれる無鉛ガラスの軟化点〔Tf〕付近で仮焼成することにより、ペーストのビークル成分(バインダーと溶媒)を揮散・熱分解させてガラス成分のみが残る状態とし、次いで当該無鉛ガラスの結晶化開始温度〔Tx〕付近で本焼成を行ってガラス成分が完全に溶融一体化した封着ガラス層を形成する。
【0027】
このような2段階焼成によれば、仮焼成の段階でビークル成分が揮散除去され、本焼成ではガラス成分同士が融着することになるから、封着ガラス層中に気泡や脱気によるピンホールが生じるのを防止でき、もって封止の信頼性及び封止部の強度を高めることができる。また、封着対象物品が真空パッケージのように複数の部材を封着にて接合したり封着部分に電極やリード線、排気管等を挟んで封着固定するものである場合は、組立前の部材単位で前記仮焼成を行ったのち、加熱炉から取り出した部材を製品形態に組み立て、この組立状態で本焼成を行うようにすればよい。
【0028】
なお、仮焼成の特に好適な温度範囲は前記軟化点〔Tf〕−10℃から+40℃、本焼成の特に好適な温度範囲は結晶化開始温度〔Tx〕−20℃から+50℃である。また、仮焼成では、内部に生じた気泡を層中から確実に離脱させるために緩やかな昇温速度とするのがよく、室温からガラス転移点〔Tg〕付近までは0.1〜30℃/分程度、ガラス転移点〔Tg〕付近から軟化点〔Tf〕付近までは0.1〜10℃/分程度が好ましい。一方、本焼成では、室温から結晶化開始温度〔Tx〕付近まで0.1〜50℃/分程度で昇温させ、結晶化開始温度〔Tx〕付近で一定に保持するのがよい。
【0029】
本発明の低融性無鉛ガラス材による加工対象は特に制約はなく、例えば封着加工では電子管、蛍光表示管、蛍光表示パネル、プラズマディスプレイパネル、液晶ディスプレイ用バックライトパネル、半導体パッケージ等の各種電子部品・電気製品の開口部や接合部、焼結造形では高真空部の隔壁や電極包囲部等が挙げられるが、本発明は特に内部を10-6Torr以上の高真空とする真空パッケージのように高度な封止性を要する被封着物品への適用性に優れる。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、以下において使用した原料酸化物はいずれも和光純薬社製の特級試薬であり、その他の分析試薬等についても同様に特級試薬を用いた。
【0031】
〔無鉛ガラス材の製造〕
原料酸化物としてLi2 4 7 粉末、ZnO粉末、BaO粉末を後記表1及び表2に記載の比率(モル%)で混合したもの(全量15g)を白金るつぼに収容し、電気炉内で約1000℃にて60分間焼成したのち、その溶融物をアルミナポートに流し込んでガラスバーを作成し、大気中で冷却後に該ガラスバーを自動乳鉢にて粉砕し、この粉砕物を分級して粒径100μm以下のものを採取し、無鉛ガラス材G1〜G41を製造した。
【0032】
上記実施例で製造した無鉛ガラス材G1〜G41について、ガラス回収率、ガラス転移点〔Tg〕、軟化点〔Tf〕、結晶化開始温度〔Tx〕、熱的安定性〔ΔT〕、結晶化状態、熱膨張係数〔a〕を調べた。その結果を後記表1及び表2に示す。なお、各項目の測定方法は次の通りである。
【0033】
〔ガラス回収率〕
前記の製造工程において、白金るつぼから溶融物をアルミナボートに流し込んだ際の収量より回収率を算定した。なお、回収率は、焼成後の全重量に対するアルミナボート流入量の重量%であり、残余は白金るつぼ内に残った量に相当する。
【0034】
〔ガラス転移点、軟化点、結晶化開始温度、熱的安定性〕
示差熱分析装置(島津製作所社製DT−40)により、リファレンス(標準サンプル)としてα−アルミナを用い、加熱速度10℃/分、温度範囲25℃(室温)〜600℃の測定条件でサンプルのガラス転移点〔Tg〕、軟化点〔Tf〕、結晶化開始温度〔Tx〕を測定すると共に、その結果から熱的安定性〔ΔT=Tx−Tg〕を算出した。なお、前記ガラス回収率が0のものは当然に測定不能であるが、該回収率が低い一部のものについても測定を省略した。
【0035】
〔ガラス化状態〕
粉末X線解析装置(理学電気社製ガイガーフレックス 2013型)により、走査速度:2°/分、測定角度:2θ=60°→20°の条件でガラス粉末の構造解析を行い、非晶質(完全な無定形ガラスの状態)を○、一部結晶化(ガラス状の部分と結晶部分に分相化した状態)を△、結晶化(殆どガラス化していない状態)を×として区分した。なお、封着や焼結造形等の加工のためには非晶質であることが望ましい。
【0036】
〔熱膨張係数〕
前記の粉末X線解析装置による構造解析で非晶質であった無鉛ガラス材の一部を対象として、熱機械分析装置(理学電気社製TMA8310)により、熱膨張係数を測定した。この測定は、無鉛ガラス材粉末を再度溶融し、これを5×5×20mm(縦×横×高さ)の四角柱に成形し、上底面が平行に成形されたものを測定試料として用い、25〜200℃まで5℃/分で昇温させ、平均熱膨張係数αを求めた。また、標準サンプルには、α−Al2 3 を用いた。







































【0037】
【表1】



【0038】
【表2】



【0039】
図1の三角線図に、前記実施例で製造したLi2 4 7 −ZnO−BaO系の無鉛ガラス材No.1〜36について、ガラス組成(原料酸化物の配合比)とガラス化状態との関係をプロットすると共に、非晶質のガラス化状態になる領域Zを仮想線により、更にガラス転移点〔Tg〕が380℃以下になる最も好ましい領域Gを破線により、それぞれ囲んで示した。なお、○は非晶質、△は一部結晶化、×は結晶化のガラス組成である。
【0040】
表1及び表2の結果と図1より、Li2 4 7 −ZnO−BaO系の無鉛ガラス材において完全な非晶質のガラス状態が得られるのは、Li2 4 7 が20〜85モル%、ZnOが0〜50モル%、BaOが0〜60モル%の範囲のガラス組成であることが判る。そして、このようなガラス組成の無鉛ガラス材は、ガラス転移点が475℃以下、軟化点が490℃以下であって、熱膨張係数も小さく、550℃以下といった低い温度での加工を確実に行えるものとなる。更に、図1の破線で示す最も好ましい領域Gの無鉛ガラス材は、20〜40モル%のLi2 4 7 と、10〜40モル%のZnOと、40〜60モル%のBaOとからなるガラス組成を有し、ガラス転移点が380℃以下、軟化点が400℃前後であって、450℃以下といった非常に低い温度での加工を確実に行えるから、従来の鉛ガラス材に匹敵する性能を具備していると言える。
【0041】
前記実施例で製造したLi2 4 7 −ZnO−BaO系の無鉛ガラス材について、各酸化物成分の含有率(モル%)とガラス転移点〔Tg〕との関係を図2(A)〜(C)に、各酸化物成分の含有率(モル%)と熱膨張係数α(×10-6-1)との関係を図3(A)〜(C)に、それぞれ示す。図2より、ガラス転移点〔Tg〕は、Li2 4 7 の含有率が低くなるほど、またBaOの含有率が高くなるほど、低下する傾向が認められるが、ZnOの含有率には余り影響されないことが判る。一方、図3より、熱膨張係数αについては、各成分の含有率との明瞭な相関関係は認められない。
【0042】
なお、ガラスは割れやすい材料であるから、ガラスと被封着体との熱膨張係数を適合させて封着部の応力(ストレス)を制御し、強固な封着体とする必要があるため、封着材の熱膨張係数αは低いことが望ましい。この点、本発明の無鉛ガラス材における7〜11×10-6-1という熱膨張係数は非常に低い値であり、それだけ封着材として優れることが判る。
【0043】
〔封着試験〕
前記実施例における無鉛ガラス材No.27の粉末にエチルセルロースのシンナー溶液を加え、十分に混練してガラスペーストを調製し、このガラスペーストをソーダライム板ガラスの片面に均一に塗布し、これを電気炉内で加熱速度10℃/分で230℃まで昇温させ、この温度で5分間保持したのち、更に加熱速度4℃/分で軟化点〔Tf〕(375.5℃)付近である390℃まで昇温させ、この温度で10分間保持する仮焼成を行った。その後、電気炉から取り出した板ガラスにガラスペーストを塗布していない板ガラスを重ねて、クリップで固定し、再度電気炉に入れ、加熱速度40℃/分で結晶化開始温度〔Tx〕(439.4℃)附近である450℃まで昇温し、この温度で20分間保持する本焼成を行った。その結果、封着部には応力による剥離やクラックは発生せず、封着加工用ガラス材として十分な機密性を確保できることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例で製造したLi2 4 7 −ZnO−BaO系無鉛ガラス材のガラス組成をガラス化状態と共に示す三角線図である。
【図2】同無鉛ガラス材の各酸化物成分の含有率とガラス転移点との相関を示し、(A)はLi2 4 7 の相関図、(B)はZnOの相関図、(C)はBaOの相関図である。
【図3】同無鉛ガラス材の各酸化物成分の含有率と熱膨張係数との相関を示し、(A)はLi2 4 7 の相関図、(B)はZnOの相関図、(C)はBaOの相関図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li2 4 7 と、ZnO及びBaOの少なくとも一方とからなる酸化物を主成分とする低融性無鉛ガラス材。
【請求項2】
20〜85モル%のLi2 4 7 と、0〜50モル%のZnOと、0〜60モル量%のBaOとを含有する請求項1記載の低融性無鉛ガラス材。
【請求項3】
20〜40モル%のLi2 4 7 と、10〜40モル%のZnOと、40〜60モル%のBaOとを含有する請求項1記載の低融性無鉛ガラス材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−204328(P2007−204328A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26615(P2006−26615)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【出願人】(000114927)ヤマト電子株式会社 (10)
【Fターム(参考)】