説明

低融点ガラス組成物及びそれを用いた導電性ペースト材料

【課題】
結晶Si太陽電池用の導電性ペーストにおいて、高い集電効率を得られるような無鉛導電性ペースト材料用の低融点ガラス組成物が望まれている。
【解決手段】重量%でSiOを2〜10、Bを18〜30、Alを0〜10、ZnOを0〜25、RO(MgO+CaO+SrO+BaO)を20〜50、RO(LiO+NaO+KO)を10〜17含むSiO−B−ZnO−RO−RO系無鉛低融点ガラスを含むことを特徴とする導電性ペースト材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に結晶シリコン太陽電池に形成される電極において、良好な電気特性が得られ、また、シリコン半導体基板との密着性が良好な無鉛導電性ペースト材料に良好な低融点ガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体シリコン基板を用いた電子部品として、図1に示すような太陽電池素子が知られている。図1に示すように、太陽電池素子は、厚みが200μm程度のp型半導体シリコン基板1の受光面側にn型半導体シリコン層2を形成し、受光面側表面に受光効率をあげるための窒化珪素膜などの反射防止膜3、さらにその反射防止膜3上に半導体と接続した表面電極4が形成されている。また、p型半導体シリコン基板1の裏側には、アルミニウム電極層5が一様に形成されている。
【0003】
このアルミニウム電極層5は、一般に、アルミニウム粉末、ガラスフリット、エチルセルロースやアクリル樹脂などのバインダーを含む有機ビヒクルとからなるアルミニウムペースト材料を、スクリーン印刷などを用いて塗布し、600〜900℃程度の温度で短時間焼成することで形成される。
【0004】
このアルミニウムペーストの焼成において、アルミニウムがp型半導体シリコン基板1に拡散することで、アルミニウム電極層5とp型半導体シリコン基板1との間にBSF(Back Surface Field)層6と呼ばれるSi−Al共晶層が形成され、さらにはアルミニウムの拡散による不純物層p層7が形成される。
【0005】
このp層7は、pn接合の光起電力効果によって生成したキャリアの再結合による損失を抑制する効果をもたらし、太陽電池素子の変換効率向上に寄与する。
【0006】
このBSF効果に関しては、アルミニウムペーストに含まれるガラスフリットとして、鉛を含有するガラスを用いることで高い効果を得ることが可能であるということが開示されている(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−59380号公報
【特許文献2】特開2003−165744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、鉛成分はガラスを低融点とする上で重要な成分ではあるものの、人体や環境に与える弊害が大きい。上記特開2007−59380号公報や特開2003−165744号公報に開示されているガラスフリットは、鉛成分を含むという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、シリコン半導体基板を用いる太陽電池用の導電性ペーストにおいて、該ペーストに含まれる低融点ガラスの組成が、実質的に鉛成分を含まず、重量%でSiOを2〜10、Bを18〜30、Alを0〜10、ZnOを0〜25、RO(MgO+CaO+SrO+BaO)を20〜50、RO(LiO+NaO+KO)を10〜17含むSiO−B−ZnO−RO−RO系無鉛低融点ガラスであることを特徴とする導電性ペースト材料である。
【0010】
また、前記無鉛低融点ガラスの30℃〜300℃における熱膨張係数が(100〜150)×10−7/℃、軟化点が400℃以上550℃以下であることを特徴とする上記の導電性ペースト材料である。
【0011】
さらに、上記の導電性ペースト材料を使用することを特徴とする太陽電池素子である。
【0012】
さらにまた、上記の導電性ペースト材料を使用することを特徴とする電子材料用基板である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の無鉛低融点ガラスフリットを含む導電性ペースト材料を使用することで、高いBSF効果を得ることができる。また、シリコン半導体基板との良好な密着性を得ることができる。さらに、実質的に鉛成分を含まないため人体や環境に与える弊害がない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の導電性ペースト材料は、アルミニウム粉末とエチルセルロースやアクリル樹脂などのバインダーを含む有機ビヒクルに加えて、ガラスフリットを含み、ガラスフリットが実質的に鉛成分を含まず、重量%でSiOを2〜10、Bを18〜30、Alを0〜10、ZnOを0〜25、RO(MgO+CaO+SrO+BaO)を20〜50、RO(LiO+NaO+KO)を10〜17含むSiO−B−ZnO−RO−RO系無鉛低融点ガラスであることを特徴とする。
【0015】
本発明のガラスフリットにおいて、SiOはガラス形成成分であり、別のガラス形成成分であるBと共存させることにより、安定したガラスを形成することができるもので、2〜10%(重量%、以下においても同様である)の範囲で含有させる。10%を越えると、ガラスの軟化点が上昇し、成形性、作業性が困難となる。より好ましくは、4〜9%の範囲である。
【0016】
はガラス形成成分であり、ガラス溶融を容易とし、ガラスの熱膨張係数において過度の上昇を抑え、かつ、焼付け時にガラスに適度の流動性を与え、ガラスの誘電率を低下させるものである。ガラス中に18〜30%の範囲で含有させる。18%未満ではガラスの流動性が不充分となり、焼結性が損なわれる。他方30%を越えるとガラスの安定性を低下させる。より好ましくは19〜29%の範囲である。
【0017】
Alは、ガラスの結晶化を抑制して安定化させる成分である。ガラス中に0〜10%の範囲で含有させることが好ましい。10%を超えるとガラスの軟化点が上昇し、成形性、作業性が困難となる。
【0018】
ZnOはガラスの軟化点を下げるもので、ガラス中に0〜25%の範囲で含有させる。25%を超えるとガラスが不安定となり結晶を生じ易い。好ましくは0〜23%の範囲である。
【0019】
RO(MgO+CaO+SrO+BaO)はガラスの軟化点を下げ、適度に流動性を与えるもので、ガラス中に20〜50%の範囲で含有させる。20%未満ではガラスの軟化点の低下が不十分で、焼結性が損なわれる。他方50%を越えるとガラスの熱膨張係数が高くなりすぎる。より好ましくは23〜50%の範囲である。
【0020】
O(LiO、NaO、KO)はガラスの軟化点を下げ、適度に流動性を与え、熱膨張係数を適宜範囲に調整するものであり、10〜17%の範囲で含有させる。10%未満ではガラスの軟化点の低下が不十分で、焼結性が損なわれる。他方17%を越えると熱膨張係数を過度に上昇させる。より好ましくは12〜17%の範囲である。
この他にも、一般的な酸化物で表すCuO、TiO、In、Bi、SnO、TeOなどを加えてもよい。
【0021】
実質的にPbOを含まないことにより、人体や環境に与える影響を皆無とすることができる。ここで、実質的にPbOを含まないとは、PbOがガラス原料中に不純物として混入する程度の量を意味する。例えば、低融点ガラス中における0.3wt%以下の範囲であれば、先述した弊害、すなわち人体、環境に対する影響、絶縁特性等に与える影響は殆どなく、実質的にPbOの影響を受けないことになる。
前記低融点ガラスの30℃〜300℃における熱膨張係数が(100〜150)×10−7/℃、軟化点が400℃以上500℃以下であることを特徴とする導電性ペースト材料である。熱膨張係数が(100〜150)×10−7/℃を外れると電極形成時に剥離、基板の反り等の問題が発生する。好ましくは、(105〜145)×10−7/℃の範囲である。また、軟化点が500℃を越えると焼成時に十分に流動しないためシリコン半導体基板との密着性が悪くなるなどの問題が発生する。好ましくは、400℃以上480℃以下である。
【0022】
また、上記の導電性ペースト材料を使用することを特徴とする太陽電池素子である。
【0023】
さらに、上記の導電性ペースト材料を使用することを特徴とする電子材料用基板である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例に基づき、説明する。
【0025】
(導電性ペースト材料)
まず、ガラス粉末は、実施例に記載した所定組成となるように各種無機原料を秤量、混合して原料バッチを作製する。この原料バッチを白金ルツボに投入し、電気加熱炉内で1000〜1300℃、1〜2時間で加熱溶融して表1の実施例1〜5、表2の比較例1〜4に示す組成のガラスを得た。ガラスの一部は型に流し込み、ブロック状にして熱物性(熱膨張係数、軟化点)測定用に供した。残余のガラスは急冷双ロール成形機にてフレーク状とし、粉砕装置で平均粒径1〜4μm、最大粒径10μm未満の粉末状に整粒した。
【0026】
次いで、αテルピネオールとブチルカルビトールアセテートからなるペーストオイルにバインダーとしてのエチルセルロースと上記ガラス粉、また導電性粉末としてアルミニウム粉末を所定比で混合し、粘度、500±50ポイズ程度の導電性ペーストを調製した。
【0027】
なお、軟化点は、熱分析装置TG―DTA(リガク(株)製)を用いて測定した。また、熱膨張係数は、熱膨張計を用い、5℃/分で昇温したときの30〜300℃での伸び量から求めた。
【0028】
次に、p型半導体シリコン基板1を準備し、その上部に上記で作製した導電性ペーストをスクリーン印刷した。これらの試験片を、140℃のオーブンで10分間乾燥させ、次に電気炉にて800℃条件下で1分間焼成し、p型半導体シリコン基板1にアルミニウム電極層5とBSF層6を形成した構造を得た。
【0029】
このようにして得られたサンプルについて、電極間のオーム抵抗に影響を及ぼすアルミニウム電極層5の表面抵抗を4探針式表面抵抗測定器で測定した。
【0030】
次に、アルミニウム電極層5のp型半導体シリコン基板1との密着性を調べるために、メンディングテープ(ニチバン製)をアルミニウム電極層5に貼り付け、剥離したときのアルミニウム電極層5の剥がれ状態を目視にて評価した。
【0031】
その後、アルミニウム電極層5を形成したp型半導体シリコン基板1を水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して、アルミニウム電極層5およびBSF層6をエッチングすることでp層7を表面に露出させ、p層7の表面抵抗を4探針式表面抵抗測定器で測定した。
【0032】
層7の表面抵抗とBSF効果には相関があり、p層7の表面抵抗が低いほどBSF効果が高く、太陽電池素子としての変換効率が高いとされている。ここでは、p層7の表面抵抗の目標値を25Ω/□以下とした。
【0033】
(結果)
無鉛低融点ガラス組成および、各種試験結果を表に示す。
【表1】

【表2】

【0034】
表1における実施例1〜5に示すように、本発明の組成範囲内においては、軟化点が400℃〜500℃であり、好適な熱膨張係数(100〜150)×10−7/℃を有しており、p型半導体シリコン基板1との密着性も良好である。更には、太陽電池素子の変換効率に関係するp層7の抵抗値も低く結晶Si太陽電池用の導電性ペーストとして好適である。
【0035】
他方、本発明の組成範囲を外れる表2における比較例1〜4は、p型半導体シリコン基板1との良好な密着性が得られない、p層7の抵抗値が高い、または溶解後にガラスが潮解性を示すなど、結晶Si太陽電池用の導電性ペーストとしては適用し得ない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】一般的な結晶Si太陽電池セルの概略断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 p型半導体シリコン基板
2 n型半導体シリコン層
3 反射防止膜
4 表面電極
5 アルミニウム電極層
6 BSF層
7 P

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン半導体基板を用いる太陽電池用の導電性ペーストに含まれる低融点ガラスにおいて、その組成が、実質的に鉛成分を含まず、質量%で、
SiO 2〜10、
18〜30、
Al 0〜10、
ZnO 0〜25、
RO(MgO、CaO、SrO、BaOより選択される1種以上の合計) 20〜50、
及び、
O(LiO、NaO、KOより選択される1種以上の合計) 10〜17、を含むことを特徴とするSiO−B−ZnO−RO−RO系無鉛低融点ガラス。
【請求項2】
30℃〜300℃における熱膨張係数が(100〜150)×10−7/℃、軟化点が400℃以上550℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の無鉛低融点ガラス。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかの無鉛低融点ガラスを使用していることを特徴とする導電性ペースト。
【請求項4】
請求項1または請求項2のいずれかの無鉛低融点ガラスを使用していることを特徴とする太陽電池素子。
【請求項5】
請求項1または請求項2のいずれかの無鉛低融点ガラスを使用していることを特徴とする電子材料用基板。



【図1】
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【公開番号】特開2012−12232(P2012−12232A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147806(P2010−147806)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】