説明

低複屈折性の共重合体及び成形体

【課題】透明性、耐熱性及び低吸水性に優れ、低複屈折性である共重合体及びそれを成形して得られる成形体を提供する。
【解決手段】式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル(A)の単量体単位及びその他の(メタ)アクリル酸エステル(B)の単量体単位を含有する共重合体及び式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル(A)の単量体単位及びその他の(メタ)アクリル酸エステル(B)の単量体単位を含有する共重合体を成形して得られる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低複屈折性の共重合体及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル樹脂は機械的性質、成形加工性、耐候性等の性質においてバランスがとれており、シート材料又は成形材料として多方面に使用されている。
また、メタクリル樹脂は透明性、低色分散性、低複屈折性等の光学的性質にも優れている。
最近では、メタクリル樹脂の上記のような性質を活かして、ビデオディスク、オーディオディスク、コンピューター用追記型ディスク等のディスクの材料、カメラ、ビデオカメラ、投写型テレビ、光ピックアップレンズ等のレンズの材料及び光ファイバー、光コネクター等の光伝送部材の材料に使用されている。
【0003】
しかしながら、メタクリル樹脂は吸水性が高く、耐熱性が低いという問題点を有している。即ち、吸湿によりメタクリル樹脂を用いた成形品の寸法変化や反りが生じたり、吸湿と乾燥の、長期の繰り返しの状態変化によりメタクリル樹脂を用いた成形品にクラックが発生するため、メタクリル樹脂の使用が制限されている商品分野がある。特に、ディスク材料、光ピックアップレンズ、コネクター等の用途ではメタクリル樹脂の吸湿の影響が大きいと言われている。また、耐熱性が低いため車載用途等への使用が制限されることもある。更に、メタクリル樹脂シートの用途においても同様の問題点が指摘されている。
また近年、記録媒体の高密度化により、ディスク材料、レンズ等の光学樹脂材料の更なる低複屈折化が求められている。
【0004】
上記の状況から、光学的性質を保持し、且つ複屈折の少ないメタクリル樹脂を得る方法が種々提案されている。例えば、メタクリル酸メチルにメタクリル酸フルオロアルキルやメタクリル酸ベンジル等を共重合させる方法(特許文献1又は非特許文献1)や、トランススチルベン等の低分子有機化合物をドープして複屈折性を低減させる方法(特許文献2又は非特許文献2参照)が提案されているが、これらの方法はいずれも複屈折性を低減させることができるもののメタクリル樹脂の耐熱性(ガラス転移温度)を低下させてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−129211号公報
【特許文献2】特開平8−110402号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Applied Optics、1997年、36巻、4,549頁
【非特許文献2】Applied Optics、2005年、3巻、617頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、透明性、耐熱性及び低吸水性に優れ、低複屈折性である共重合体及びそれを成形して得られる成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨とするところは、下式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル(A)の単量体単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル(A)単位」という。)及びその他の(メタ)アクリル酸エステル(B)の単量体単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル(B)単位」という。)を含有する共重合体(以下、「本共重合体」という。)を第1の発明とする。
【化1】

(Rは水素原子又はメチル基を表す。R及びRはそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の炭化水素基、ヘテロ原子を含む置換基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基又はニトリル基を表し、同一でも異なっていてもよい。)
また、本発明の要旨とするところは、上記の共重合体を成形して得られる成形体(以下、「本成形体」という。)を第2の発明とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により透明性、耐熱性、低吸水性に優れ、低複屈折性である共重合体及び成形体が得られることから、ピックアップレンズ、レーザービームプリンター用fθレンズ、眼鏡レンズ、カメラレンズ、ビデオカメラレンズ、ランプレンズ等のレンズ;ビデオディスク、オーディオディスク、コンピューター用追記型ディスク等のディスク;光ファイバー、光コネクター、導光体等の光伝送部材;アクリル看板、アクリル水槽、光拡散板等のディスプレイ製品;ポリカーボネート表面コート材、ポリカーボネート積層シート等のポリカーボネート関連製品等の各種用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、(メタ)アクリル酸エステル(A)単位は本共重合体を構成する単位の1つである。
(メタ)アクリル酸エステル(A)単位を形成するために使用される原料である単量体として、式(1)で示される構造を有する単量体(以下、「(メタ)アクリル酸エステル(A)」という。)が使用される。
式(1)中のR及びRにおけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素原子が挙げられる。
式(1)中のR及びRにおける炭素数1〜6の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、n−ヘキシル基及びシクロヘキシル基が挙げられる。
【0011】
式(1)中のR及びRにおけるヘテロ原子を含む置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、モルフォリノ基、ピペリジノ基、ピローリル基、イミダゾーリル基、トリアゾーリル基、ピリジル基、メルカプト基及びチオメチル基が挙げられる。
式(1)中のR及びRにおけるアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、i−プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、i−ブトキシカルボニル基、s−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基及びシクロヘキシルオキシカルボニル基が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル(A)は、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0012】
本発明においては、式(1)中のR及びRとしては、(メタ)アクリル酸エステル(A)の合成の簡便さ及び原料入手の容易さに加え、本共重合体の低複屈折性、低吸水性、耐熱性及び機械強度に優れる点で、水素原子が好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル(A)としては、例えば、(メタ)アクリル酸o−ビフェニルが挙げられる。
尚、本発明においては、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸」及び「メタクリル酸」から選ばれる少なくとも1種を示す。
【0013】
(メタ)アクリル酸エステル(A)の製造方法としては、例えば、エステル交換法、酸クロリドとアルコールによるエステル化法及び酸無水物とアルコールによるエステル化法が挙げられる。
【0014】
本発明において、(メタ)アクリル酸エステル(B)単位は本共重合体を構成する単位の1つである。
(メタ)アクリル酸エステル(B)単位を形成するために使用される原料である単量体(以下、「(メタ)アクリル酸エステル(B)」という。)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル及び(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル(B)は、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
これらの中で、本共重合体の耐熱性及び低吸水性が優れる点で、(メタ)アクリル酸メチル、メタクリル酸ベンジル及びメタクリル酸シクロヘキシルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。
【0015】
本発明において、本共重合体は(メタ)アクリル酸エステル(A)単位及び(メタ)アクリル酸エステル(B)単位を含有する共重合体である。
本共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル(A)単位と(メタ)アクリル酸エステル(B)単位の組成比としては、本共重合体の光学的特性や物理特性が優れる点で、(メタ)アクリル酸エステル(A)単位と(メタ)アクリル酸エステル(B)単位のモル比(A/B)で1/99〜50/50が好ましく、1/99〜30/70がより好ましい。モル比(A/B)が1/99以上で機械強度が良好となる傾向にあり、50/50以下で本共重合体の耐熱性及び吸水性が良好となる傾向にある。
【0016】
本発明においては、本共重合体は目的に応じてその他の単量体(C)単位を含有することができる。
その他の単量体(C)単位を形成するために使用される原料であるその他の単量体(C)としては、例えば、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−フルオロスチレン、α−クロルスチレン、α−ブロモスチレン、フルオロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、メチルスチレン、メトキシスチレン等の芳香族ビニル単量体;及びアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体が挙げられる。その他の単量体(C)は、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0017】
本共重合体の数平均分子量(以下、「Mn」という。)としては、1,000〜500,000が好ましく、5,000〜150,000がより好ましい。Mnが1,000以上で、本共重合体の機械的強度が良好となり射出成形が容易となる傾向にあり、500,000以下で本共重合体の流動性が良好となる傾向にある。
【0018】
本共重合体の製造方法としては、例えば、ラジカル重合、リビングラジカル重合、アニオン重合、グループトランスファー重合及び配位アニオン重合が挙げられる。また、本共重合体を製造するための重合系としては、例えば、乳化重合系、乳化−懸濁重合系、懸濁重合系、塊状重合系及び溶液重合系が挙げられる。
【0019】
本共重合体をラジカル重合で得る場合、重合に使用される開始剤としては、例えば、有機過酸化物、無機過酸化物及びアゾ化合物が挙げられる。
有機過酸化物の具体例としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、スクシン酸パーオキサイド、パーオキシマレイン酸t−ブチルエステル、クメンハイドロパーオキサイド及びベンゾイルパーオキサイドが挙げられる。
無機過酸化物の具体例としては、過硫酸カリウム及び過硫酸ナトリウムが挙げられる。
アゾ化合物の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルが挙げられる。
開始剤は、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
これらの開始剤は亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、アスコルビン酸、ヒドロキシアセトン酸、硫酸第一鉄又は硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムの錯体等の還元剤と組み合わせたレドックス系開始剤として使用することができる。
【0020】
本共重合体を得るための重合温度は、開始剤の種類に応じて適宜設定できるが、一般的には0〜180℃である。
【0021】
本発明においては、本共重合体の分子量を制御するために連鎖移動剤を使用することができる。
連鎖移動剤としては、例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、i−プロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、エチルチオグリコレート、メルカプトエタノール、チオ−β−ナフトール、チオフェノール及びジメチルジスルフィドが挙げられる。
連鎖移動剤の使用量としては、本共重合体が良好な機械的強度を有し、且つ熱成形時の溶融粘度を制御する点で、本共重合体を得るために使用される単量体100質量部に対して0.001〜5質量部が好ましく、0.05〜2質量部がより好ましく、0.1〜1質量部が更に好ましい。
【0022】
本共重合体を溶液重合系で重合する場合、使用される溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド及びエーテルが挙げられる。
【0023】
本共重合体を懸濁重合系で重合する場合には、水性媒体中で懸濁剤を添加して重合を行なうことができる。
懸濁剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース等の水溶性高分子;オレイン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホン酸アンモニウム等のアニオン性界面活性剤;ラウリルアミンアセテート、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン性界面活性剤;及びポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0024】
本成形体は本共重合体を成形して得られるものである。
本発明においては、本成形体の寸法変化を抑制できる点で、本成形体の飽和吸水率は1.5%以下が好ましい。
【0025】
本発明においては、本共重合体中には、目的に応じて本共重合体以外の樹脂、添加剤等の各種添加物を含有することができる。
本共重合体以外の樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂等の塩素含有樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂等のスチレン系樹脂;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリ乳酸;ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、ポリスルフォン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレン系樹脂、熱可塑性ポリウレタン系樹脂等のエンジニアリングプラスチック及びスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0026】
添加剤としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タルク等の充填剤;酸化チタン、カーボンブラック等の顔料;染料;滑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;補強剤;加工助剤及び難燃剤が挙げられる。
【0027】
本成形体は透明性、耐熱性及び低吸水性に優れていることから導光体や耐熱アクリルシートとして用いることができる。また、本成形体は複屈折性が低いためレンズ材料、ディスク材料又は光伝送材料として十分な性能を発揮できる。更に、本成形体は耐候性に優れていることから表面被覆剤としても用いることができる。
【0028】
以上のことから、本成形体の用途としては、例えば、ピックアップレンズ、レーザービームプリンター用fθレンズ、眼鏡レンズ、カメラレンズ、ビデオカメラレンズ、ランプレンズ等のレンズ;ビデオディスク、オーディオディスク、コンピューター用追記型ディスク等のディスク;光ファイバー、光コネクター、導光体等の光伝送部材;アクリル看板、アクリル水槽、光拡散板等のディスプレイ製品;及びポリカーボネート表面コート材、ポリカーボネート積層シート等のポリカーボネート関連製品が挙げられる。
これらの用途の中で、本成形体はピックアップレンズ、レーザービームプリンター用fθレンズ、光ディスク、光ファイバーのコア材、導光板、ポリカーボネート積層シート、ランプレンズ、光拡散性成形体等の用途に好適である。
【0029】
本成形体を製造する方法としては、例えば、溶融成形法及び溶液成形法が挙げられる。
また、本成形体として板状成形体を成形する場合には2枚のガラス板間に本共重合体を得るための原料を注入した後に重合することにより直接板状成形体を得るキャスト成形法を採用することができる。
更に、本成形体として鋳型中に本共重合体を得るための原料を注入した後に鋳型中で重合することにより直接成形体を得る方法を採用することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明について説明する。尚、重合体のモル比(A/B)、Mn及びガラス転移温度(以下、「Tg」という。)並びに成形体の飽和吸水率、全光線透過率及び複屈折性の評価は以下に示す評価法により実施した。
【0031】
(1)モル比(A/B)
H−NMR(機種名「JNM−EX270」、日本電子(株)製)を用い、クロロホルム−dを溶媒とし、測定温度25℃の条件で重合体中の(メタ)アクリル酸エステル(A)単位と(メタ)アクリル酸エステル(B)単位の組成比をモル比(A/B)により求めた。
評価用の重合体を溶媒に溶解し、基準物質としてテトラメチルシランを用いて積算回数16回で測定した。単量体に由来するピーク強度の積分比から重合体中の(メタ)アクリル酸エステル(A)単位と(メタ)アクリル酸エステル(B)単位の組成比を算出した。
【0032】
(2)Mn
GPC(東ソー(株)製、商品名:HLC−8220、カラム:TSK GUARD COLUMN SUPER HZ−L(4.6×35mm)、TSK−GEL SUPER HZM−N(6.0×150mm)×2直列接続、溶離液:クロロホルム、測定温度:40℃、流速:0.6mL/分)を用いて、ポリメタクリル酸メチルをスタンダードとして重合体のMnを求めた。
【0033】
(3)Tg
示差走査熱量計(機種名「DSC220C」、セイコーインスツル(株)製)を用い、試料を150℃まで昇温した後に冷却し、−30〜200℃の温度範囲、窒素雰囲気下及び10℃/分の昇温速度の条件で重合体のTgを測定した。
【0034】
(4)飽和吸水率
小型射出成形機(機種名「CS−183−MMX」、カスタム・サイエンティフィック・インスツルメンツ社製)を用い、シリンダー温度240℃及び金型温度60℃の条件で射出成形して20mm×20mm×2mmの平板を得た。これを110℃で乾燥させた後の乾燥質量を測定した。次いで乾燥した平板を23℃の水中に質量が平衡に達するまで浸漬した後の平板の吸水質量を測定し、次の式により飽和吸水率を求めた。
飽和吸水率(%)=[(吸水質量−乾燥質量)/乾燥質量]×100
【0035】
(5)全光線透過率
飽和吸水率の測定に使用したものと同様の20mm×20mm×2mmの平板を用い、ASTM D1003に従って全光線透過率を測定した。
【0036】
(6)複屈折性
飽和吸水率の測定に使用したものと同様の20mm×20mm×2mmの平板を用い、偏光顕微鏡(ニコン(株)製、商品名:エクリプスE400POL)にて波長546nmの光線でゲートから10mmの場所の位相差δ(度)を測定して厚み方向の複屈折量(nm)を求め、複屈折性の判断に用いた。尚、複屈折量の測定下限は3nmであった。
【0037】
[製造例1] メタクリル酸o−ビフェニルの製造
トルエン500g中にo−フェニルフェノール100gと、o−フェニルフェノールに対して1.1当量のメタクリル酸クロリドとo−フェニルフェノールに対して1.2当量のトリエチルアミンを添加し、氷冷下で2時間反応させた。
次いで、得られた反応液中の副生したアンモニウム塩を濾過により取り除いた。得られた濾液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100gで洗浄した後に、1N塩酸100gで洗浄し、更に、飽和食塩水100gで洗浄した。
上記の洗浄後のトルエン溶液をエバポレーターにより溶媒留去した後、残渣を減圧蒸留により精製してメタクリル酸o−ビフェニルを得た。
【0038】
[製造例2]メタクリル酸p−ビフェニルの製造
o−フェニルフェノールの代わりにp−フェニルフェノールを使用し、精製方法を再結晶とする以外は製造例1と同様にしてメタクリル酸p−ビフェニルを得た。
【0039】
[製造例3]メタクリル酸1−ナフチルの製造
o−フェニルフェノールの代わりに1−ナフトールを使用する以外は製造例1と同様にしてメタクリル酸1−ナフチルを得た。
【0040】
[実施例1]
撹拌機及び冷却器を備えた0.5リットルの三口フラスコに、(メタ)アクリル酸エステル(A)としてメタクリル酸o−ビフェニル 3.81g(16mmol)、(メタ)アクリル酸エステル(B)としてメタクリル酸メチル 14.42g(144mmol)及びアクリル酸メチル 0.138g(1.6mmol)、n−オクチルメルカプタン 0.0117g(0.08mmol)及び重合溶媒としてトルエン 36.5gを加え、窒素バブリングを30分間行なって重合用溶液を調製した。
この重合用溶液に開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN) 0.0365gを加えた後、フラスコを75℃のオイルバスに浸漬させて重合を開始させた。重合開始から10時間後に希釈用トルエン 146gを加えて重合を終了させ、重合後溶液を得た。
得られた重合後溶液を、激しく攪拌した2.7リットルの沈澱用メタノール中にゆっくり注いで沈澱物を得た。
【0041】
沈澱物を濾過し、洗浄用メタノール0.3リットルで洗浄した後、沈澱物を乾燥させ、白色の重合体粉末13.89g(収率76%)を得た。この重合体粉末を用いて重合体の評価を実施し、得られた結果を表1に示した。
更に、この重合体粉末を用い、小型射出成形機(機種名「CS−183−MMX」、カスタム・サイエンティフィック・インスツルメンツ社製)で、シリンダー温度240℃及び金型温度60℃の条件で射出成形して20mm×20mm×2mmの平板形状の成形体を得た。この成形体を用いて成形体の評価を実施し、得られた結果を表1に示した。
【表1】

【0042】
[実施例2及び比較例1〜3]
重合後溶液を得るために使用された使用原料、沈澱用メタノール及び洗浄用メタノールとして表1に示す原料及び使用量とする以外は、実施例1と同様に操作した。得られた重合体粉末の収量及び収率並びに得られた重合体及び成形体の評価結果を表1に示す。
【0043】
実施例1及び2から明らかなように、式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル(A)単位及び(メタ)アクリル酸エステル(B)単位を含有する共重合体を用いることにより、得られる成形体は高い透明性を有し、低複屈折性、耐熱性及び低吸水性に優れていた。
これに対し、比較例1及び2においては、式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル(A)以外の単位及び(メタ)アクリル酸エステル(B)単位を含有する共重合体を用いた場合には、高い複屈折性を示した。また、比較例3の(メタ)アクリル酸エステル(B)の単独重合体を用いた場合には、飽和吸水率が低位であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル(A)の単量体単位及びその他の(メタ)アクリル酸エステル(B)の単量体単位を含有する共重合体。
【化1】

(Rは水素原子又はメチル基を表す。R及びRはそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の炭化水素基、ヘテロ原子を含む置換基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基又はニトリル基を表し、同一でも異なっていてもよい。
【請求項2】
共重合体における(メタ)アクリル酸エステル(A)の単量体単位とその他の(メタ)アクリル酸エステル(B)の単量体単位のモル比(A/B)が1/99〜50/50である請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
その他の(メタ)アクリル酸エステル(B)がメタクリル酸メチルである請求項1又は2に記載の共重合体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の共重合体を成形して得られる成形体。

【公開番号】特開2011−162624(P2011−162624A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25411(P2010−25411)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】