説明

低質油の燃焼装置及び方法

【課題】 高炭素比燃料のような低質油を燃料として用い、カーボンの発生と堆積を抑制することができる低質油の燃焼装置及び方法を提供する。
【解決手段】 空気2を所定の低圧に圧縮する低圧圧縮機12と、圧縮された低圧空気3a,3bを所定の高圧に圧縮する高圧圧縮機14と、圧縮された高圧空気4を用いて低質油1を燃焼させる燃焼器16とを備える。更に、低圧圧縮機12と高圧圧縮機14の間に、燃焼器16における高圧空気4の温度が、低質油1の燃焼時にカーボンの発生及び堆積を抑制する所定の温度域(250℃以上、300℃以下)になるように、圧縮された低圧空気3aを冷却する中間冷却器18を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低質油の燃焼方法に係わり、さらに詳しくは、高炭素比燃料をスモークとカーボンの発生と堆積を抑制して燃焼可能な低質油の燃焼方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のガスタービン用燃焼器は、例えば、単一又は複数のパイロットバーナーと単一又は複数のメインバーナーとを備え、メインバーナーは、例えば、互いに同軸に配置された主噴射弁と予混合管とからなる。
【0003】
主噴射弁には、ケーシングを通して外部から燃料が供給される。この燃料には、例えばガス燃料又は液体燃料を用いる。予混合管は、例えば一端部が開口した円筒形の筒であり、内部で燃料と空気が互いに混合しやすくなっている。すなわち、メインバーナーは、主噴射弁と予混合管で構成された予混合希薄バーナーである。この構成により、主噴射弁により予混合管内に燃料を噴射し、予混合管内で燃料を十分な空気量と予混合しこれを希薄燃焼させることができる。
かかる予混合燃焼方式の燃焼器では、燃料を十分な空気量と予混合しこれを希薄燃焼させるものであり、このためホットスポットがなく、高温火炎の発生をなくし低NOx化を実現することができる。
【0004】
なお、スモークとカーボンの発生と堆積を抑制するガスタービン用燃焼器として、特許文献1〜2等が開示されている。
【0005】
特許文献1の「ガスタービンの燃焼器」は、図3に示すように、圧縮機から供給される圧縮空気に燃料を混合して予混合気を作る予混合室51と、予混合室からの予混合気を燃焼させる燃焼室52とを備え、前記予混合室を形成する予混合管53が、加熱コイルを絶縁部材で覆った加熱体により形成されているものである。この構成により、予混合管を加熱体で形成し、予混合管を加熱することによりカーボンの堆積を防止する。
【0006】
特許文献2の「予混合型燃焼器を備えたガスタービン」は、図4に示すように、圧縮機から供給される圧縮空気に燃料を供給して燃焼させるパイロットノズル61と、このパイロットノズルの外周に配置された環状の予混合室62と、この予混合室に予混合用の燃料を供給するメインノズル63とを備え、前記パイロットノズル61による拡散燃焼領域の外周の少なくとも一部を前記予混合室62の内周壁で覆うことにより、前記内周壁の外周面をカーボン付着温度以上に保持させるものである。この構成により、予混合室の内周壁面をパイロットバーナーの燃焼ガスで加熱し、予混合室にカーボンが堆積するのを防止する。
【0007】
【特許文献1】特開2000−213748号公報
【特許文献2】特開平10−300090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、石油化学プラント等で余剰となった原料燃料をガスタービン燃料として用いることが検討されている。このような余剰液体燃料のうちいわゆる高炭素比燃料(例えばライトサイクルオイル:LCOや重油)は、密度及び粘度が大きく、C/H比が高い。また、芳香族成分が多く、そのためセタン価とスモーク点が低く、この燃料を燃焼させた場合、配管にカーボンが析出しやすく、特に燃焼環境が高温・高圧になるにつれ、カーボンが堆積しやすくなる問題点があった。
【0009】
カーボンの堆積を防止する有効手段は確立されておらず、カーボン堆積が生じた場合は、燃料を水素含有率の高い燃料に変更することにより防止できるが、一般に水素含有率の高い液体燃料は高価であり、沸点も低いという特徴があり、使用することが困難である。
また燃焼負荷を下げ、予蒸発予混合管内の燃料濃度を低くし、カーボン堆積の防止を図ることができるが、ガスタービンの出力を低下させることとなり、性能低下が避けられず実用化は困難である。
【0010】
本発明はかかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、高炭素比燃料のような低質油を燃料として用い、カーボンの発生と堆積を抑制することができる低質油の燃焼装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、空気を所定の低圧に圧縮する低圧圧縮機と、圧縮された低圧空気を所定の高圧に圧縮する高圧圧縮機と、圧縮された高圧空気を用いて低質油を燃焼させる燃焼器とを備え、
更に、低圧圧縮機と高圧圧縮機の間に、前記燃焼器における高圧空気の温度が、低質油の燃焼時にカーボンの発生及び堆積を抑制する所定の温度域になるように、圧縮された低圧空気の温度を冷却する中間冷却器を備える、ことを特徴とする低質油の燃焼装置が提供される。
【0012】
また本発明によれば、空気を所定の低圧に圧縮する低圧圧縮ステップと、圧縮された低圧空気を所定の高圧に圧縮する高圧圧縮ステップと、圧縮された高圧空気を用いて低質油を燃焼させる燃焼ステップとを有し、
更に、低圧圧縮ステップと高圧圧縮ステップの間に、前記燃焼ステップにおける高圧空気の温度が、低質油の燃焼時にカーボンの発生及び堆積を抑制する所定の温度域になるように、圧縮された低圧空気の温度を冷却する中間冷却ステップを有する、ことを特徴とする低質油の燃焼方法が提供される。
【0013】
上記本発明の装置及び方法によれば、圧縮された低圧空気の温度を冷却するので、高圧圧縮機から出る高圧空気の温度を所定の温度域(例えば250℃以上、300℃以下)まで低下させることができ、これにより配管が高温に曝されず、低質油の燃焼時にカーボンの発生及び堆積を抑制することができる。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記中間冷却器は、水を低圧空気内に噴射して水蒸気を含む低温空気を形成する直接冷却器、又は水との熱交換で低温空気を形成する間接熱交換器である。
また、前記中間冷却ステップにおいて、水を低圧空気内に噴射して水蒸気を含む低温空気を形成し、或いは水との熱交換で低温空気を形成する。
【0015】
この構成及び方法により、直接冷却又は間接冷却により、圧縮された低圧空気を効率よく冷却することができる。
【0016】
また前記高圧空気の所定の温度域は、250℃以上、300℃以下である、ことが好ましい。
この温度域まで高圧空気を冷却することにより、低質油の燃焼時にカーボンの発生及び堆積を抑制することができることが実験により確認されている。
【発明の効果】
【0017】
カーボン堆積は、300℃〜450℃で起こりやすいが、本発明を適用すると圧縮機から出る空気の温度が低くなるため、配管が高温に曝されず、カーボンの堆積が起こりにくくなる。
すなわち、本発明の低質油の燃焼装置及び方法は、高炭素比燃料のような低質油を燃料として用い、カーボンの発生と堆積を抑制することができるという、優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0019】
図1は本発明の低質油燃焼装置の全体構成図である。この図に示すように、本発明の低質油燃焼装置10は、低圧圧縮機12、高圧圧縮機14、及び燃焼器16を備える。
【0020】
本発明の低質油燃焼装置10(以下、単に「燃焼器」と呼ぶ)は、高炭素比液体燃料等の低質油1を燃料として使用する。高炭素比液体燃料(High Carbon Ratio Fuel:HCRF)とは、ライトサイクルオイル、重質油、等であり、水素に比べて炭素の比率が一般の液体燃料(軽油、ガソリン、灯油等)に比べて多い液体燃料と定義する。
【0021】
低圧圧縮機12は、常圧(例えば約1.03kg/cm)の空気2を所定の低圧(例えば約3.5kg/cm)の低圧空気3aに圧縮する圧縮機である。この低圧圧縮機は軸流圧縮機でも遠心圧縮機でもよい。
高圧圧縮機14は、圧縮された低圧空気3bを所定の高圧(例えば約12kg/cm)に圧縮する圧縮機である。この高圧圧縮機は軸流圧縮機でも遠心圧縮機でもよい。
燃焼器16は、圧縮された高圧空気4を用いて低質油1を燃焼させる高圧燃焼機である。
【0022】
本発明の低質油燃焼装置10は、更に、低圧圧縮機12と高圧圧縮機14の間に中間冷却器18を備える。中間冷却器18は、燃焼器16における高圧空気4の温度が、低質油1の燃焼時にカーボンの発生及び堆積を抑制する所定の温度域になるように、圧縮された低圧空気3aの温度を冷却する。
図1の実施形態において、中間冷却器18は、水5を低圧空気3a内に噴射して水蒸気を含む低温空気3bを形成する直接冷却器である。しかし本発明はこれに限定されず、水5との熱交換で低温空気3bを形成する間接熱交換器(例えば、シェルアンドチュ−ブ型、プレートフィン型)であってもよい。
また、高圧空気4の所定の温度域は、250℃以上、300℃以下である、ことが好ましい。
【0023】
更にこの例において、本発明の低質油燃焼装置10は、高圧タービン20と低圧タービン22を備える。
高圧タービン20は、高圧燃焼機16で発生した高圧の燃焼ガス6で駆動され、その回転出力で高圧圧縮機14を駆動する。低圧タービン22は、高圧タービン20を出た低圧の燃焼ガス7で駆動され、その回転出力で低圧圧縮機12を駆動する。低圧タービン22を出た燃焼排ガス8は、図示しない別のタービンに供給して動力を回収するのが好ましいが、そのまま排気してもよい。
【0024】
上述した低質油燃焼装置10を用いて、本発明の低質油燃焼方法は、低圧圧縮ステップS1、高圧圧縮ステップS2、燃焼ステップS3、及び中間冷却ステップS4を有する。
【0025】
低圧圧縮ステップS1では、常圧(例えば約1.03kg/cm)の空気2を所定の低圧(例えば約3.5kg/cm)の低圧空気3aに圧縮する。
高圧圧縮ステップS2では、圧縮された低圧空気3bを所定の高圧(例えば約12kg/cm)に圧縮する。
燃焼ステップS3では、圧縮された高圧空気4を用いて低質油1を燃焼させる。
【0026】
中間冷却ステップS4では、低圧圧縮ステップS1と高圧圧縮ステップS2の間において、圧縮された低圧空気3aの温度を冷却し、燃焼ステップS3における高圧空気4の温度が、低質油の燃焼時にカーボンの発生及び堆積を抑制する所定の温度域(好ましくは250℃以上、300℃以下)にする。
この中間冷却ステップS4における冷却は、水5を低圧空気3a内に噴射して水蒸気を含む低温空気3bを形成しても良く、或いは水5との熱交換で低温空気3bを形成してもよい。
【実施例1】
【0027】
図2は、本発明の効果を示す実施例である。この図において、横軸は高圧空気4の温度、縦軸は高圧燃焼機で発生するカーボン堆積量である。カーボン堆積量は、高圧空気が350℃の場合を基準(1として)、無次元化している。
この図から、高圧空気が350℃の場合に比較して、250℃と300℃の場合は、約1/20、すなわち約5%まで大幅に低減することがわかる。この原因は、高圧空気温度が相対的に低いため、燃焼器内で燃料に含まれる揮発分(ボラタイルマター)の蒸発が遅く、燃焼火炎内に分散された後に燃焼するためと考えられる。
【0028】
図1に示した低質油燃焼装置10において、中間冷却器18に水を噴射せず、例えば約3.5kg/cm、167℃の低圧空気3aをそのまま低圧空気3bとして高圧圧縮機14に供給した場合、高圧空気4は例えば約12kg/cm、390℃となる。従って、燃焼器16で低質油1を燃焼させると、図2から従来通り大量のカーボン堆積量となることがわかる。
これに対して、中間冷却器18に水を噴射すると、同一条件で、水蒸気を含む低圧空気3bは、温度が約100℃まで下がり、高圧空気4は例えば約12kg/cm、290℃となる。従って、燃焼器16で低質油1を燃焼させても、図2からカーボン堆積を抑えることができることがわかる。
【0029】
なお本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、図1は2軸のガスタービンであるが、低圧圧縮機と高圧圧縮機を同軸に連結した1軸の構成でも同様に実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の低質油燃焼装置の全体構成図である。
【図2】本発明の効果を示す実施例である。
【図3】特許文献1の「ガスタービンの燃焼器」の模式図である。
【図4】特許文献2の「予混合型燃焼器を備えたガスタービン」の模式図である。
【符号の説明】
【0031】
1 低質油、2 常圧空気、3a 低圧空気、3b 低圧空気、
4 高圧空気、5 水、6 高圧燃焼ガス、7 低圧燃焼ガス、8 燃焼排ガス、
10 低質油燃焼装置、12 低圧圧縮機、14 高圧圧縮機、
16 燃焼器、18 中間冷却器、20 高圧タービン、22 低圧タービン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を所定の低圧に圧縮する低圧圧縮機と、圧縮された低圧空気を所定の高圧に圧縮する高圧圧縮機と、圧縮された高圧空気を用いて低質油を燃焼させる燃焼器とを備え、
更に、低圧圧縮機と高圧圧縮機の間に、前記燃焼器における高圧空気の温度が、低質油の燃焼時にカーボンの発生及び堆積を抑制する所定の温度域になるように、圧縮された低圧空気の温度を冷却する中間冷却器を備える、ことを特徴とする低質油の燃焼装置。
【請求項2】
前記中間冷却器は、水を低圧空気内に噴射して水蒸気を含む低温空気を形成する直接冷却器、又は水との熱交換で低温空気を形成する間接熱交換器である、ことを特徴とする請求項1に記載の低質油の燃焼装置。
【請求項3】
前記高圧空気の所定の温度域は、250℃以上、300℃以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の低質油の燃焼装置。
【請求項4】
空気を所定の低圧に圧縮する低圧圧縮ステップと、圧縮された低圧空気を所定の高圧に圧縮する高圧圧縮ステップと、圧縮された高圧空気を用いて低質油を燃焼させる燃焼ステップとを有し、
更に、低圧圧縮ステップと高圧圧縮ステップの間に、前記燃焼ステップにおける高圧空気の温度が、低質油の燃焼時にカーボンの発生及び堆積を抑制する所定の温度域になるように、圧縮された低圧空気の温度を冷却する中間冷却ステップを有する、ことを特徴とする低質油の燃焼方法。
【請求項5】
前記中間冷却ステップにおいて、水を低圧空気内に噴射して水蒸気を含む低温空気を形成し、或いは水との熱交換で低温空気を形成する、ことを特徴とする請求項4に記載の低質油の燃焼方法。
【請求項6】
前記高圧空気の所定の温度域は、250℃以上、300℃以下である、ことを特徴とする請求項4に記載の低質油の燃焼方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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