説明

低電圧材料を有するプラズマディスプレイパネル

複数電極と、電極上に堆積された低電圧保護層とを有し、複数電極および低電圧保護層は、放電可能ガスを収容する容器を形成し、低電圧保護層が放電可能ガスに露出されるガス放電装置。ピクセル部の各行用に設けた走査電極および維持電極を有する前面プレートと、複数の列アドレス電極が上面に配置された背面プレートと、列アドレス電極を覆っている誘電体層と、誘電体層の上方に配置され、複数の列アドレス電極を隔離しそれと間隙を有し隣接して設けた複数のバリアリブと、複数のバリアリブ間の誘電体層の上に順に配置された赤色蛍光体層、緑色蛍光体層、および青色蛍光体層と、前面プレート上の走査電極および維持電極を覆う誘電体層の上に堆積された低電圧保護層とを有し、前面プレートおよび背面プレートが放電可能ガスを収容するパネルを形成し、低電圧保護層および蛍光体層が放電可能ガスに露出されるプラズマディスプレイパネル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電極および電極上に堆積された低電圧保護層を有するガス放電装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、誘電体層および低電圧保護層で覆われた走査電極および維持電極を有する前面プレートと、複数の列アドレス電極を有する背面プレートと、誘電体層と、複数のバリアと、赤色、緑色、および青色の蛍光体層とを備えているプラズマディスプレイパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
大部分の市販のプラズマディスプレイパネル(PDP)は、面放電型である。従来例のプラズマディスプレイパネルの構成を、添付の図面を参照して以下に説明する。
【0003】
図1は、従来のAC型カラープラズマディスプレイパネルの一部分の斜視図である。AC型PDPは、前面プレートアセンブリおよび背面プレートアセンブリを備えている。前面プレートアセンブリは、ガラス基板である前面プレート110、およびピクセル部の各行用に設けた維持電極111および走査電極112を備えている。前面プレートアセンブリは、誘電体ガラス層113および保護層114をさらに備えている。保護層114は、好ましくは酸化マグネシウム(MgO)で製作される。
【0004】
背面プレートアセンブリは、上面に複数の列アドレス電極116、すなわちデータ電極が配置されたガラス製の背面プレート115を備えている。データ電極116は、誘電体層117によって覆われている。バリアリブ118が、背面プレートアセンブリ上に存在している。赤色蛍光体層120、緑色蛍光体層121、および青色蛍光体層122が、誘電体層117の上に位置し、さらにバリアリブ118によって生成される側壁に沿って位置している。PDPの各ピクセルは、(i)維持電極111および走査電極112を含む行と、(ii)3つの列アドレス電極116(赤色蛍光体層120、緑色蛍光体層121、および青色蛍光体層122のそれぞれに1つずつ)との交点の付近の領域として定められる。
【0005】
図2は、PDPの一部分の側面図であり、具体的にはアドレス電極216の長さ方向に垂直な平面に沿って得た緑色蛍光体層221に対応するサブピクセル200の側面図である。図2を参照すると、面放電型のPDPにおいては、Ne−Xeなどの不活性ガス混合物が、前面プレートアセンブリと背面プレートアセンブリとの間の空間225を満たしている。
【0006】
バリアリブ218が、背面プレートアセンブリにおいて、バリアリブ218によって形成されるカラーチャネルを隔離している。サブピクセル200は、バリアリブ218の側面と維持電極211によって定められる領域とによって画定される領域として形成される。ガス放電が、維持電極211と走査電極212(この図には示されていない)との間に加えられる電圧によって生成されて、真空紫外(VUV)光を生じ、このVUV光が、赤色、緑色、および青色蛍光体層のそれぞれを励起して、可視光を放射させる。例えば、図2に示されているように、緑色の蛍光体221がVUV光によって励起され、緑色蛍光体層221から緑色の光を生じさせる。
【0007】
図3は、アドレス電極216の長さ方向に平行な平面に沿って得たPDPの別の側面図であり、サブピクセル200を図2の平面に垂直な平面について示している。前面プレート上の透明な維持電極311および走査電極312で構成される電極ペアと背面プレート状のデータ電極316との交点を含む領域として定められるサブピクセルが図3に示されている。透明な維持電極311は、維持電極311に接続された隣接のバス電極310を有しており、透明な走査電極312は、走査電極312に接続された隣接のバス電極313を有する。バス電極310および312は、典型的には不透明である。
【0008】
PDPの動作維持電圧は、維持ギャップ330の形状、誘電体層、使用される個々のガス混合物、および前面プレートの保護MgO層314の二次電子放出係数によって決定される。維持放電において生成される可視光が、カラーPDPの輝度に関係している。
【0009】
維持放電の開始は、維持電極に先立ってプレートギャップ331を横切るアドレス放電(後述)によって達成される。フルカラーの画像が、維持電極311、走査電極312、およびアドレス電極316の駆動電圧を適切に制御することによって生成される。
【0010】
動作時に、プラズマディスプレイは、図4に示すように時間フレームをサブフィールドに分割し、それぞれのサブフィールドが、各ピクセルに正確な強度を達成するために必要とされる光の一部分を生成する。各サブフィールドは、初期化期間、アドレシング期間、および維持期間に分割されている。維持期間は、複数の維持サイクルにさらに分割されている。
【0011】
初期化期間は、オン状態のすべてのピクセルをオフ状態にリセットし、ガスおよび保護層114の表面にプライミングをもたらし、その後のアドレシングを可能にする。初期化期間においては、ピクセルの電極におけるそれぞれの内表面が、ガスの放電開始電圧にきわめて近い電圧に置かれることが好ましい。
【0012】
アドレシング期間においては、維持電極が共通の電位によって駆動され、走査電極が1つの行のピクセルを選択するように駆動される。その結果、垂直な列電極にデータ電圧が印加されることにより引き起こされるアドレス放電によって、その行内の各ピクセルが、アドレス可能となる。すなわち、アドレシング期間においては、各行が順次にアドレスされ、所望のピクセルをオン状態とする。
【0013】
維持期間においては、共通の維持パルスがすべての走査電極に印加され、アドレシング期間においてアドレスされた各サブピクセルにプラズマ放電を繰り返し生じさせる。すなわち、サブピクセルがアドレス期間においてオンされたならば、そのピクセルが維持期間において繰り返し放電され、所望の輝度を生み出す。
【0014】
プラズマディスプレイパネル(PDP)において映像源からのフルカラー画像を表示する目的で、充分な階調を達成し、動画歪みを最小化するためには、適切な駆動の仕組みが必要である。AC型プラズマディスプレイパネルにおいて、ピクセルに階調を実現するために広く使用されている駆動の仕組みは、Shinoda(Yoshikawa K、Kanazawa Y、Wakitani W、Shinoda T、およびOhtsuka A、1992 Japan. Display 92、605)によって提案された、いわゆるADS(address display separated:アドレスおよび表示の分離)である。
【0015】
図4を参照すると、この方法において、16.7ミリ秒のフレーム時間(TVフィールド1つ分)が、8つのサブフィールド(SF1〜SF8として指し示されている)に分割されていることを見て取ることができる。8つのサブフィールドのそれぞれが、アドレス期間および維持期間(すなわち、表示期間)にさらに分割されている。アドレス期間において前もってアドレスされたピクセルが、維持期間においてオンにされ、光を発する。維持期間の継続時間は、個々のサブフィールドに応じて決まっている。アドレス期間において所与のピクセルにおける各サブピクセルのアドレシングを制御することによって、ピクセルの強度を、256の階調レベルのいずれかへと変化させることができる。
【0016】
PDPの発光効率は、プラズマTVの用途においてきわめて重要な問題である。電子機器のコストを下げるため、および消費者にとってのエネルギーコストを低減するために、効率をさらに改善しなければならない。PDPの発光効率は、入力電力に対する可視の光束の比として定められる。PDPの発光効率は、維持放電からのUV生成の効率、UVを受けた蛍光体からの可視光生成の効率、および放電セルからの可視光の透過の効率によって決定される。
【0017】
PDPの低い発光効率(蛍光ランプと比べて)は、主として、放電からのUV生成の効率がより低いことに起因する。
【0018】
典型的なPDPの放電においては、大部分のエネルギーが入れ物におけるイオン加熱に失われ、電子加熱に使用されるエネルギーの割合は、より小さい(約40%以下)。電子加熱に費やされるエネルギーが、キセノンおよびネオン原子の励起およびイオン化に使用される。キセノンの励起からUVが生成される。したがって、UV生成の効率は、電子加熱に使用されるエネルギーの割合に強く結びついている。二次電子の放出が強いほど、イオン加熱に使用されるエネルギーの割合が低くなり、電子によって消費されるエネルギーの割合が高くなると、一般に考えられている。
【0019】
放電における保護層からの二次電子の放出は、イオン誘起、光子誘起、準安定誘起、などのプロセスに起因する寄与を含んでいる。
【0020】
典型的なAC型PDPの放電においては、二次電子の放出は、カソード表面のきわめて低いエネルギーのイオン(イオンの平均エネルギーが、数eV程度である)の衝突によって支配されている。このイオン誘起の二次電子の放出は、オージェ(Auger)中和および共鳴中和、ならびにその後のオージェ下方遷移に起因する。
【0021】
Hagstrum(H.D.Hagstrum、Phys. Rev.、96、336、(1954))によって明らかにされたオージェ中和プロセスによる電子放出の概念図を図5に示している。
【0022】
イオン化エネルギーEを有するイオンが絶縁体表面に近付くにつれて、価電子帯の電子を捕捉することによって中和されると同時に、中和によって得られるエネルギーによって二次電子をより高いエネルギー準位へと励起することができる。励起された電子が表面バリアを超えた場合、表面から逃げ出して二次電子となることができる。
【0023】
二次電子が放出される最大の運動エネルギーは、
(max)=E−2(E+χ)
に等しく、χは電子親和力であり、Eは固体のバンドギャップエネルギーであり、Eはガスイオンのイオン化エネルギーである。AC型カラーPDPにおいては、ネオンおよびキセノンで構成される気体混合物が、ガス放電に使用される。
【非特許文献1】Yoshikawa K、Kanazawa Y、Wakitani W、Shinoda T、およびOhtsuka A、1992 Japan. Display 92、605
【非特許文献2】H.D.Hagstrum、Phys. Rev.、96、336、(1954)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
二次電子の放出に、NeイオンおよびXeイオンが寄与する。Neのイオン化エネルギーEは21.7eVであり、MgOにおいてE−2(E+χ)=21.7−2(7.8+1.3)=3.5>0であるため、オージェ電子の放出のために充分なエネルギーが存在する。しかしながら、Xeイオンによる二次電子の放出は、Xeのイオン化エネルギーが12.1eVであり、E−2(E+χ)=12.1−2(7.8+1.3)=−6.1<0であるため、ほとんどゼロである。
【0025】
Ne−Xe気体混合物においては、とくにはXeの含有量が多い気体混合物においてキセノンイオンが支配的であるため、有効二次電子放出係数γeff(Ne−Xe気体混合物の放電における入射イオン当たりの有効な電子放出)が、ネオンイオンによる二次電子放出係数γNeよりも小さい。高効率のUV生成をもたらすことができるよう、電子加熱に費やされるエネルギーの割合を高めるために、高効率の二次電子放出が求められており、換言すると、低エネルギーのXeイオンによって引き起こされる二次電子の放出が求められている。
【0026】
オージェ電子プロセスの条件にもとづけば、Xeイオンによって二次電子の放出を生じさせるためには、バンドギャップエネルギーおよび電子親和エネルギーの合計E+χが6.1eV未満(E+χ<6.1eV)である膜が必要である。通常のMgO膜が、MgOのバンドギャップが大きすぎるがためにこの条件を満足できないことは明らかである。したがって、本発明の目的は、上述した条件を満足できる新規な保護膜を開発することにある。
【0027】
MgO膜を低バンドギャップおよび/または低電子親和力の膜で置き換えることが、本発明の重要なテーマである。
【0028】
本発明の目的は、プラズマディスプレイパネル(PDP)の発光効率を改善するために、(従来のMgO保護層に比べて)より低い電圧で機能する新規な保護層を生み出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
したがって、本発明は、複数の電極と、電極上に堆積された低電圧保護層と、を有し、複数の電極および低電圧保護層が放電可能ガスを収容する容器を形成し、少なくとも低電圧保護層が放電可能ガスに露出される、ガス放電装置を提供する。
【0030】
さらに、本発明は、誘電体層および誘電体層の上に堆積された低電圧保護層によって覆われた
ピクセル部の各行用に設けた走査電極および維持電極を有する前面プレートと、複数の列アドレス電極が上面に配置された背面プレートと、列アドレス電極を覆っている誘電体層と、誘電体層の上方に配置され、複数の列アドレス電極を隔離し、それと間隙を有し隣接して設けた複数のバリアリブと、複数のバリアリブ間の誘電体層の上に順に配置された赤色蛍光体層、緑色蛍光体層、および青色蛍光体層と、前面プレート上の走査電極と維持電極との間に堆積された低電圧保護層であって、前面プレートと低電圧保護層との間のバリアリブが放電可能ガスを収容する容器を形成し、少なくとも低電圧保護層および蛍光体層が放電可能ガスに露出される、プラズマディスプレイパネルを提供する。
【0031】
さらに、本発明は、ピクセル部の各行用に設けた走査電極および維持電極を有する前面プレートと、複数の列アドレス電極が上面に配置された背面プレートと、列アドレス電極を覆っている誘電体層と、誘電体層の上方に配置され、複数の列アドレス電極を隔離し、それと間隙を有し隣接して設けた複数のバリアリブと、複数のバリアリブ間の誘電体層の上に順に配置された赤色蛍光体層、緑色蛍光体層、および青色蛍光体層と、前面プレート上の走査電極および維持電極を覆う誘電体層の上に堆積された低電圧保護層と、を有し、前面プレートと低電圧保護層との間のバリアリブが放電可能ガスを収容する容器を形成し、少なくとも低電圧保護層および蛍光体層が放電可能ガスに露出される、プラズマディスプレイパネルを提供する。
【0032】
さらに、本発明は、化学式 MMg1−xO によって表される組成物であって、xが、0.01<x<1であり、Mが、Be、Ca、Sr、Ba、Ra、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Zn、Na、Al、およびこれらの混合物で構成されるグループから選択される金属であり、大略3.5eVから大略7eVまでのバンドギャップを有する低電圧保護層の形態である、組成物を提供する。
【0033】
本発明のこれらの態様および他の態様は、図面を参照して明細書によってさらによく理解されるであろう。
【発明の効果】
【0034】
BaMg1−xO層の最小維持電圧は、7%〜50%のXe−Ne気体混合物において、従来のMgO層よりも15V〜40V低い。BaMg1−xOとMgOとの間の放電開始電圧の差は、さらにより大きく、BaMg1−xO層の放電開始電圧の低減は、7%のXeにおいて13Vであり、25%のXeにおいて30Vであり、50%のXeにおいて100Vである。従来のMgO層に比べ、BaMg1−xO層を有する試験用パネルの発光効率は、従来のMgO層を有する試験用パネルの発光効率よりも少なくとも40%高い。高Xe濃度においてBaMg1−xO層の維持電圧および放電開始電圧がきわめて低いため、BaMg1−xO層を有するパネルは、Ne−Xe気体混合物におけるXeの割合が高くても、適度に低い電圧できわめて高い発光効率に達することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
上述のとおり、本発明の目的は、プラズマディスプレイパネル(PDP)の発光効率を改善するために、(従来のMgO保護層に比べて)より低い電圧で機能する新規な保護層を生み出すことにある。
【0036】
低電圧性能は、ネオンおよびキセノンで構成される不活性ガス混合物の放電のもとで、この新規な保護層からの有効二次イオン放出を増加させることによって達成される。有効二次イオン放射によってもたらされる低電圧が、プラズマディスプレイパネルの発光効率を向上させることができる。低い動作電圧は、低い維持電圧および低いアドレシング電圧を含む。低い維持電圧は、保護層の浸食速度を遅くすることもでき、パネルの寿命を延ばすことができる。低いアドレシング電圧は、データ駆動回路のコストを下げることができる。
【0037】
したがって、本発明の本質的態様は、放電装置およびプラズマディスプレイパネルに新規な保護層を使用することにある。保護層という用語は、アルカリ土類金属酸化物の酸化マグネシウムとの混合物、ならびに/または酸化マグネシウムの酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛、酸化チタニウム、酸化バナジウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、および/もしくはこれらの材料の多成分混合物などといった他の酸化物材料との混合物、を有する薄い絶縁層を指す。
【0038】
好ましくは、この新規な保護層は、上述した材料のうちの2つ以上を同時に堆積させることによって形成される。
【0039】
低電圧保護層は、化学式
Mg1−x
によって表される材料を含んでおり、
xは、0.01<x<1であって、より好ましくは0.01<x<0.5であり、
Mは、Be、Ca、Sr、Ba、Ra、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Zn、Na、Al、およびこれらの混合物から選択される金属である。好ましくは、Mは、Be、Ca、Sr、Ba、Ra、およびこれらの混合物から選択される金属である。
【0040】
保護層は、上述した材料のうちの2つ以上を同時に堆積させることによって形成される。好ましい低電圧保護層は、約3.5eV〜約7eVのバンドギャップを有する。したがって、これらの材料は、従来のMgO材料よりも小さいバンドギャップを生み、結果として、AC型プラズマディスプレイパネルが、より低い動作電圧およびより高い発光効率で動作することができる。より低い動作電圧は、プラズマディスプレイパネルの電子機材コストをより低くすることにもつながる。
【0041】
これらの目的を達成するために、駆動電圧の上昇およびエキソ電子の放出の低下(アドレシング放電のためのプライミング状態の悪化)を引き起こしかねない汚染から、新規な保護層を守るための特別な封止プロセスが求められる。非汚染の保護層は、AC型プラズマディスプレイパネルの動作電圧を大きく引き下げるために役に立つ。したがって、放電装置およびプラズマディスプレイパネルは、水分および/またはCOのない環境において封じられ、または真空環境において封じられる。
【0042】
この新規な保護層の利点を達成するために、封止プロセスが、駆動電圧の上昇およびエキソ電子の放出の低下(アドレシング放電のためのプライミング状態の悪化)を引き起こしかねない汚染から、新規な保護層を守るために使用される。本発明は、放電デバイスにおける低電圧の保護層(MgO保護層に比べて)を包含する。この低電圧の保護層が、電極を覆っている誘電体層の上に堆積され、放電可能なガスに直接に曝露される。電極を、低電圧の保護層によって直接覆ってもよい。
【0043】
本発明によるガス放電装置における低電圧保護層材料MMg1−xOの例として、アルカリ土類金属酸化物の酸化マグネシウムとの混合物、ならびに/または酸化マグネシウムの以下の酸化物材料、すなわち酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛、酸化チタニウム、酸化バナジウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、もしくはこれらの組み合わせとの混合物、が挙げられる。
【0044】
上述した化学式において、Mは、ベリリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、スカンジウム、イットリウム、亜鉛、チタニウム、バナジウム、ハフニウム、タンタル、アルミニウム、およびジルコニウム、またはこれらの組み合わせを表している。より好ましくは、Mが、Be、Ca、Sr、Ba、またはRaなどのアルカリ土類金属である。より好ましくは、Mは、Be、Ca、Sr、Ba、Ra、またはこれらの混合物などの金属である。
【0045】
MgOにドープされる金属の原子濃度xは、0.01〜1の範囲にあり、好ましくは0.01〜0.5の範囲にある。
【0046】
上述した濃度を達成するために、この新規な保護層を、酸化マグネシウムと、他のアルカリ土類金属酸化物もしくは以下の酸化物材料(すなわち、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛、酸化チタニウム、酸化バナジウム、酸化ハフニウム、およびこれらの化合物の任意の混合物)とを同時に堆積させることによって形成することができる。低電圧保護層は、酸化マグネシウムと上述した金属の酸化物とを同時に堆積させることによって、または複数の金属の酸化物を同時に堆積させることによって形成される。
【0047】
新規な保護層は、上述した材料のうちの2つ以上を同時に堆積させることによって形成される。同時の堆積は、2つ以上の原材料の電子ビーム蒸着によって実行でき、膜の組成は、個々の電子ビーム源の蒸着条件によって決定される。また、同時の堆積を、上述した材料のうちの2つ以上のスパッタリングによって達成することも可能である。
【0048】
新規な保護層を、あらかじめ混合された上述した材料を堆積させることによって形成することも可能である。堆積を、あらかじめ混合された上述した原材料の電子ビーム蒸着によって達成することができる。また、堆積を、あらかじめ混合された上述したターゲット材料のスパッタリングによって達成することも可能である。または、膜を、マグネシウムをベリリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、スカンジウム、イットリウム、亜鉛、チタニウム、バナジウム、ハフニウム、タンタル、アルミニウム、およびジルコニウムなどの金属と混ぜ合わせてなるターゲット材料から、酸素環境における反応性スパッタリングによって堆積させることも可能である。
【0049】
新規な保護層を、化学気相成長(CVD:chemical vapor deposition)、分子線エピタキシー(MBE:molecular beam epitaxy)、インクジェット印刷、スクリーン印刷、およびスピンコーティングなど、別の堆積技法によって形成することが可能である。また、この新規な保護材料を、保護層全体にではなく、一部の領域に配置してもよい。
【0050】
好ましい実施の形態においては、低電圧保護層が、あらかじめ混ぜ合わせた金属酸化物を同時に堆積させることによって形成される。あらかじめ混ぜ合わせた酸化物の同時堆積は、好ましくは、電子ビーム蒸着、スパッタリング、化学気相成長(CVD)、分子線エピタキシー(MBE)、インクジェット印刷、スクリーン印刷、およびスピンコーティングから選択される方法によって実行される。
【0051】
この低電圧層を、空気中の水分および二酸化炭素による汚染から保護するために、特別な注意が必要である。汚染防止層と称される追加の薄い層を、水分および二酸化炭素の低電圧層との化学反応から表面を保護するために使用することができる。汚染防止層は、以下の材料で製作され、すなわちBeO、MgO、Al、SiO、および/またはこれらの材料の混合物で製作される。この問題を克服するための別のやり方は、乾燥しかつCOが存在していない環境、乾いたチッ素環境、乾いた希ガス環境、別の非反応性ガス環境、または真空においてパネルを封じることである。
【0052】
好ましくは、放電可能ガスは、キセノン、ネオン、アルゴン、ヘリウム、クリプトン、水銀、チッ素、酸素、フッ素、およびナトリウムなどといった少なくとも1つの元素を含んでいる。
【0053】
好ましくは、低電圧保護層は、酸素環境での反応性スパッタリングにより、あらかじめ混ぜ合わされた金属を同時に堆積させることによって形成される。
(実施例1)
【0054】
新規に開発したBaMg1−xO(0.01<x<1)膜を、BaOおよびMgOを電子ビームで同時に堆積させることによって形成した。この膜を、単一の原材料、すなわちBaOおよびMgOの混合物から、電子ビーム堆積によって形成することも可能である。MgO膜の代わりにBaMg1−xOを使用した試験用パネルを、種々の気体混合物にて製造した。
【0055】
図6を参照すると、種々のNe−Xe気体混合物における新規に開発したBaMg1−xO層を有する試験用パネルについての放電電圧が、従来のMgO層と比較して示されている。
【0056】
図6において、BaMg1−xO層の最小維持電圧は、7%〜50%のXe−Ne気体混合物において、従来のMgO層よりも15V〜40V低い。BaMg1−xOとMgOとの間の放電開始電圧の差は、さらにより大きく、BaMg1−xO層の放電開始電圧の低減は、7%のXeにおいて13Vであり、25%のXeにおいて30Vであり、50%のXeにおいて100Vである。
【0057】
種々のNe−Xe気体混合物における、新規に開発したBaMg1−xO層を有する試験用パネルについての相対的発光効率が、従来のMgO層と比較して図7に示されている。発光効率は、従来のMgO層を有する試験用パネルの7%のXe−Ne気体混合物における効率を基準に正規化されている。従来のMgO層に比べ、BaMg1−xO層を有する試験用パネルの発光効率は、従来のMgO層を有する試験用パネルの発光効率よりも少なくとも40%高い。
【0058】
高Xe濃度においてBaMg1−xO層の維持電圧および放電開始電圧がきわめて低いため、BaMg1−xO層を有するパネルは、Ne−Xe気体混合物におけるXeの割合が高くても、適度に低い電圧できわめて高い発光効率に達することができる。
(実施例2)
【0059】
低電圧保護層の別の例は、CaMg1−xO(0.01<x<1)である。新規に開発したCaMg1−xO(0.01<x<1)膜を、CaOおよびMgOを電子ビームで同時に堆積させることによって形成した。この膜を、単一の原材料、すなわちCaOおよびMgOの混合物から、電子ビーム堆積によって形成することも可能である。MgO膜の代わりにCaMg1−xO膜を使用した13インチのパネルを、15%のXe−Ne気体混合物にて製造した。水酸化物および炭酸塩がCaMg1−xO上に形成されることを、水分およびCOのない環境においてパネルを封じることによって防止することができる。
【0060】
15%のXe−Ne気体混合物における、新規に開発した種々のCaMg1−xO層を有する13インチの試験用パネルについての最小維持電圧を、同じ気体混合物を含む通常のMgOパネルと比較して図8に示している。これらのCaMg1−xOパネルにおいて、従来のMgOパネルと比べて、最小維持電圧が20V〜25V低減されている。
【0061】
CaMg1−xOパネルの発光効率が、従来のMgOパネル(1.44lum/W)の効率よりも40%も高い2.02lum/W(CaMg1−xO−3の場合)もの高さになりうることを、図9に示している。CaMg1−xO−1、CaMg1−xO−2、およびCaMg1−xO−3は、CaMg1−xO層中のCaOおよびMgOの種々の混合物を表している。
【0062】
本発明を、好ましい実施の形態をとくに参照して説明した。以上の説明および実施例が、あくまでも本発明の例示にすぎないことを理解すべきである。当業者であれば、これらの様々な代案または変形を、本発明の技術的思想および技術的範囲から離れることなく考え出すことができるであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲に含まれるそのような代案、変更、および変種をすべて包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、低電圧材料を有するプラズマディスプレイパネルに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】従来例による従来のカラープラズマディスプレイ構造の斜視図である。
【図2】図1のカラープラズマディスプレイパネルのサブピクセルについて、アドレス電極の長さ方向に垂直な平面に沿って得た側面図である。
【図3】図1のカラープラズマディスプレイパネルのサブピクセルについて、アドレス電極の長さ方向に平行な平面に沿って得た別の側面図であり、図2の平面に垂直な平面におけるサブピクセルを示している。
【図4】アドレス表示分離(ADS)階調技法における駆動の仕組みの図であり、フレーム時間のサブフィールドへの分割を示している(従来例)。
【図5】オージェ中和プロセスの概念図である(従来例)。
【図6】種々のNe−Xe気体混合物における、新規に開発したBaMg1−xO層を有する試験用パネルについての放電電圧を、通常のMgO層と比較して示している。
【図7】種々のNe−Xe気体混合物における、新規に開発したBaMg1−xO層を有する試験用パネルについての相対的発光効率が、通常のMgO層と比較して示されている。発光効率は、7%のXe−Ne気体混合物における通常のMgO層を有する試験用パネルの効率を基準に正規化されている。
【図8】15%のXe−Ne気体混合物における、新規に開発した種々のCaMg1−xO層を有する13インチの試験用パネルについての最小維持電圧を、同じ気体混合物を含む通常のMgOパネルと比較して示している。
【図9】15%のXe−Ne気体混合物における、新規に開発した種々のCaMg1−xO層を有する13インチの試験用パネルについての発光効率を、同じ気体混合物を含む通常のMgOパネルと比較して示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極と、
前記電極上に堆積された低電圧保護層と、を有し、
前記複数の電極および前記低電圧保護層は、放電可能ガスを収容する容器を形成し、少なくとも前記低電圧保護層が前記放電可能ガスに露出される、ガス放電装置。
【請求項2】
さらに、前記電極と前記低電圧保護層との間に誘電体材料を有する、請求項1に記載のガス放電装置。
【請求項3】
さらに、前記低電圧保護層の上に汚染防止層を有し、
前記汚染防止層は、BeO、MgO、Al、SiO、および/またはこれらの材料の混合物で構成されるグループから選択される材料を含む、請求項1に記載のガス放電装置。
【請求項4】
さらに、蛍光体材料を有する、請求項1に記載のガス放電装置。
【請求項5】
前記蛍光体および前記低電圧保護層は、すべて前記放電可能ガスに露出される、請求項1に記載のガス放電装置。
【請求項6】
前記蛍光体層は、赤色蛍光体、緑色蛍光体、青色蛍光体、およびこれらの組み合わせで構成されるグループから選択される蛍光体材料を含む、請求項1に記載のガス放電装置。
【請求項7】
前記容器は、基板を含む、請求項1に記載のガス放電装置。
【請求項8】
前記基板は、前記基板に垂直な複数のバリアリブを含む、請求項7に記載のガス放電装置。
【請求項9】
前記放電可能ガスは、キセノン、ネオン、アルゴン、ヘリウム、クリプトン、水銀、チッ素、酸素、フッ素、およびナトリウムで構成されるグループから選択される、少なくとも1つの元素を含む、請求項1に記載のガス放電装置。
【請求項10】
前記ガス放電装置は、蛍光ランプである、請求項1に記載のガス放電装置。
【請求項11】
前記ガス放電装置は、高輝度放電ランプである、請求項1に記載のガス放電装置。
【請求項12】
前記ガス放電装置は、プラズマディスプレイである、請求項1に記載のガス放電装置。
【請求項13】
前記蛍光体は、赤色蛍光体、緑色蛍光体、青色蛍光体、およびこれらの組み合わせで構成されるグループから選択される、請求項4に記載のガス放電装置。
【請求項14】
さらに、前記複数の電極と前記蛍光体層との間に配置された誘電体層を有する、請求項4に記載の蛍光体層。
【請求項15】
前記低電圧保護層は、化学式
Mg1−x
によって表される材料を含み、
xは、0.01<x<1であり、
Mは、Be、Ca、Sr、Ba、Ra、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Zn、Na、Al、およびこれらの混合物で構成されるグループから選択される金属である、請求項1に記載のガス放電装置。
【請求項16】
前記金属は、Be、Ca、Sr、Ba、Ra、およびこれらの混合物で構成されるグループから選択される、請求項15に記載のガス放電装置。
【請求項17】
前記低電圧保護層は、酸化マグネシウムと前記金属の酸化物とを同時に堆積させることにより、または複数の前記金属の酸化物を同時に堆積させることによって形成される、請求項15に記載のガス放電装置。
【請求項18】
前記酸化物を同時に堆積させることは、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子線エピタキシー(MBE)、インクジェット印刷、スクリーン印刷、およびスピンコーティングで構成されるグループから選択される方法によって実行される、請求項17に記載のガス放電装置。
【請求項19】
前記低電圧保護層は、あらかじめ混ぜ合わせた前記金属の酸化物を堆積させることによって形成される、請求項15に記載のガス放電装置。
【請求項20】
前記あらかじめ混ぜ合わせた酸化物の堆積は、電子ビーム蒸着、スパッタリング、化学気相成長(CVD)、分子線エピタキシー(MBE)、インクジェット印刷、スクリーン印刷、およびスピンコーティングで構成されるグループから選択される方法によって実行される、請求項19に記載のガス放電装置。
【請求項21】
前記低電圧保護層は、MgOよりも低い動作電圧を有する、請求項1に記載のガス放電装置。
【請求項22】
前記低電圧保護層は、不活性ガスの放電のもとでの前記保護層からの有効二次電子放出を増加させることによって、プラズマディスプレイパネルの発光効率を改善する、請求項21に記載のガス放電装置。
【請求項23】
前記低い動作電圧は、低い維持電圧および/または低いアドレシング電圧で構成されるグループから選択され、
前記低い維持電圧は、前記保護層の浸食速度を減速させ、
前記低いアドレシング電圧は、データ駆動回路のコストを低下させる、請求項21に記載のガス放電装置。
【請求項24】
前記低電圧保護層は、放電可能ガスに直接に露出されるように、電極の上に堆積される、請求項1に記載のガス放電装置。
【請求項25】
前記低電圧保護層は、前記複数の電極上に配置された前記誘電体層の表面に堆積される、請求項2に記載のガス放電装置。
【請求項26】
前記ガス放電装置は、水分および/またはCOが存在しない環境において封じられ、または真空環境において封じられた、請求項1に記載のガス放電装置。
【請求項27】
複数のバリアリブを有する第1基板と、
前記第1基板の上方に配置された第2基板と、
前記第1および第2基板上において、前記複数のバリアリブによって隔離された複数の電極と、
前記第1基板および第2基板上における前記複数の電極の間に堆積された低電圧保護層と、を有し、
前記第1基板と前記低電圧保護層との間の前記バリアリブが、放電可能ガスを収容する容器を形成し、少なくとも前記低電圧保護層が前記放電可能ガスに露出される、プラズマディスプレイ。
【請求項28】
前記プラズマディスプレイは、水分および/またはCOが存在しない環境において封じられ、または真空環境において封じられた、請求項27に記載のプラズマディスプレイ。
【請求項29】
前記低電圧保護層は、前記前面プレートの一部分に配置され、前面プレート上の少なくとも1つの電極に整列された、請求項27に記載のプラズマディスプレイ。
【請求項30】
前記低電圧保護層は、化学式
Mg1−x
によって表される材料を含み、
xは、0.01<x<1であり、
Mは、Be、Ca、Sr、Ba、Ra、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Zn、Na、Al、およびこれらの混合物で構成されるグループから選択される金属である、請求項27に記載のプラズマディスプレイ。
【請求項31】
サブピクセル部の各行用に設けた走査電極および維持電極を有する前面プレートと、
複数の列アドレス電極が上面に配置された背面プレートと、
前記列アドレス電極を覆っている誘電体層と、
前記誘電体層の上方に配置され、前記複数の列アドレス電極を隔離し、それと間隙を有し隣接して設けた複数のバリアリブと、
前記複数のバリアリブ間の前記誘電体層の上に順に配置された赤色蛍光体層、緑色蛍光体層、および青色蛍光体層と、
前記前面プレート上の走査電極および維持電極を覆う誘電体層の上に堆積された低電圧保護層と、を有し、
前記背部にある蛍光体層および前記バリアリブが、放電可能ガスを収容するパネルを形成し、少なくとも前記低電圧保護層および前記蛍光体層が前記放電可能ガスに露出される、プラズマディスプレイパネル。
【請求項32】
化学式
Mg1−x
によって表される組成物であって、
xは、0.01<x<1であり、
Mは、Be、Ca、Sr、Ba、Ra、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Zn、Na、Al、およびこれらの混合物で構成されるグループから選択される金属であり、
大略3.5eVから大略7eVまでのバンドギャップを有する低電圧保護層の形態である、組成物。
【請求項33】
Mは、Be、Ca、Sr、Ba、Ra、およびこれらの混合物から選択される金属である、請求項32に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−537063(P2009−537063A)
【公表日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−509882(P2009−509882)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/011440
【国際公開番号】WO2007/133698
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】