説明

体内留置電極および除細動システム

【課題】周辺組織に与える影響が少なく、体内に長期間留置することができる体内留置電極を提供する。
【解決手段】体内に留置して用いられる体内留置電極は、シート状の絶縁部材23と、導体で形成され、絶縁部材の厚さ方向の一方の面に少なくとも一部が露出して設けられた印加リード24と、絶縁部材の厚さ方向の少なくとも一方の面に形成され、体内に留置された後に絶縁部材と周辺組織との間に生じる摩擦を低減する潤滑層26とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内に留置される体内留置電極およびこれを備える除細動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓の不整脈のうち、心室細動は、心臓からの血液の拍出が即座に停止し、全身への血液の供給不足により、死に至る可能性が高いものである。
心室細動を除去して心臓の動きを正常化するためには、高エネルギーのショックを心臓に加え、個々の組織区域の無秩序な収縮を鎮めるとともに、心筋において秩序を保って組織的に広がる活動電位を再構築し、心臓組織の同期的な収縮を回復させる手段(除細動)が用いられる。
【0003】
特許文献1には、体内に埋込み可能な除細動器が記載されている。この除細動器は、一対の除細動パッチ電極を備えており、この除細動パッチ電極が心臓表面の心嚢膜上に留置され、除細動パッチ電極に電気エネルギーが印加されることにより除細動が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平4−79273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
心臓は胸腔と呼ばれる閉空間に位置されており、胸腔壁と、心臓および心嚢膜との間には肺が位置している。胸腔内に占める肺の容積は大きいため、特許文献1の除細動パッチ電極が心嚢膜上に留置された場合、ほぼ常時肺と接触している状態となる。
【0006】
ここで問題になるのが、心臓の拍動と肺の拡張および収縮に伴い、留置された電極が肺と心臓表面に対して摩擦による機械的刺激を与えることである。一般に埋込み型(植込み型とも言う。)の除細動器は、比較的長期間体内に留置されるため、上記機械的刺激は長期間にわたって肺と心臓表面に与えられる。生体は、異物である電極による機械的刺激に対応して線維組織を形成する。
【0007】
線維組織が電極を完全に包み込むように覆う(カプセル化)と、機械的刺激はひとまず治まるが、電極を覆いかけた線維組織が肺との摩擦により剥離すると、剥離した線維組織は周辺に残留しつつ、剥離した部位を覆うように新たな線維組織が形成される。この繰り返しにより線維組織は厚くなり(肥厚化)、やがて周囲組織との癒着を引き起こす。
【0008】
線維組織の肥厚化およびそれに伴う組織どうしの癒着は、肺及び心臓の動きにとって妨げとなる。また、心臓と除細動電極との間に形成された線維組織が肥厚化することで、除細動に必要な電気エネルギーの閾値が上昇し、除細動器の効果を減じてしまうことがある。これらの現象は、患者の予後を悪化させる可能性があり、問題である。
【0009】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、周辺組織に与える影響が少なく、体内に長期間留置することができる体内留置電極を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、安全に長期間留置することができる除細動システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様である体内留置電極は、体内に留置して用いられる体内留置電極であって、シート状の絶縁部材と、導体で形成され、前記絶縁部材の厚さ方向の一方の面に少なくとも一部が露出して設けられた印加部と、前記絶縁部材の厚さ方向の少なくとも一方の面に形成され、前記体内に留置された後に前記絶縁部材と周辺組織との間に生じる摩擦を低減する摩擦低減部とを備えることを特徴とする。
【0011】
前記摩擦低減部は、潤滑性材料を含む潤滑層であってもよいし、潤滑性材料が内部に配置された貯留空間と、前記一方の面に形成されて前記貯留空間と連通した開口とを有する貯留部であってもよい。
【0012】
本発明の体内留置電極は、前記絶縁部材の厚さ方向の少なくとも一方の面に突出して形成された接触低減突起をさらに備え、前記摩擦低減部は、前記接触低減突起上に形成されてもよい。
前記潤滑性材料はリン脂質極性基を有し、グラフト重合によって前記絶縁部材上に固定されることにより前記摩擦低減部が形成されてもよい。
【0013】
本発明の第一の態様である体内留置電極は、前記一方の面のうち前記摩擦低減部が形成されていない部位の少なくとも一部に設けられ、前記体内に留置された後に前記絶縁部材の周囲に形成される線維組織との密着性を高めるアンカー部をさらに備えてもよい。
【0014】
本発明の第二の態様である除細動システムは、本発明の体内留置電極を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の体内留置電極によれば、周辺組織に与える影響が少なく、体内に長期間留置することができる。
また、本発明の除細動システムは、本発明の体内留置電極を備えるため、安全に長期間留置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第一実施形態の除細動システムの概略構成を示す図である。
【図2】ヒトの胸腔内を示す模式図である。
【図3】同除細動システムの第一電極の斜視図である。
【図4】図3のA−A線における断面図である。
【図5】体内に留置された同第一電極を示す図である。
【図6】本発明の第二実施形態の除細動システムにおける第一電極が体内に留置された状態を示す図である。
【図7】本発明の第三実施形態の除細動システムにおける第一電極の斜視図である。
【図8】図7のB−B線における断面図である。
【図9】(a)および(b)は、体内に留置された同第一電極の動作を示す図である。
【図10】同除細動システムの変形例における第一電極の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第一実施形態について、図1から図5を参照して説明する。
図1は、本実施形態の除細動システム1の概略構成を示す図である。除細動システム1は、本発明の体内留置電極を備えるものであり、図1に示すように、除細動のための電気エネルギーを発生する除細動器10と、心臓100に留置される電極部20と、除細動器10と電極部20とを接続するリード30とを備えている。
【0018】
除細動器10は、電源としての電池、電気エネルギーを蓄えるコンデンサ、心電図を検出する検出回路、心電図にもとづいて心臓の状態を判定する判定回路、コンデンサからのエネルギーを放出する除細動駆動回路等の各種構成(いずれも不図示)を内部に備える。
【0019】
電極部20は、同一の構造を有する第一電極21および第二電極22を備える。第一電極21および第二電極22は、本発明の体内留置電極である。図1に示すように、第一電極21は、右室側の心嚢膜101上に留置され、第二電極22は、第一電極21と心臓100を挟んで対向するように、左室側の心嚢膜101上に留置される。
【0020】
図2に示すように、心臓100が収められたヒトの胸腔には、肺110も収容されている。したがって、第一電極21および第二電極22は、心臓100と肺110との間隙に留置され、留置中はほぼ常時心臓100および肺110と接触する。
【0021】
図3は、第一電極21の斜視図であり、図4は、図3のA−A線における断面図である。第一電極21は、シート状の絶縁部材23と、絶縁部材23に取り付けられた印加リード(印加部)24とを備えている。第二電極22は、第一電極21とほぼ同一の構造を有するため、以下では第一電極21について説明する。
【0022】
絶縁部材23を形成する材料としては、弾性、可撓性、及び絶縁性を有するとともに生体適合性を有するものが好ましい。このような材料としては、シリコーン、フッ素系ポリマー、セグメント化ポリウレタン等が挙げられ、本実施形態ではシリコーンが用いられている。絶縁部材23の厚さは、例えば、最大値が1.5ミリメートル(mm)程度となるように設定されている。本実施形態では、絶縁部材は、略小判型に形成されているが、その形状には特に制限はない。
絶縁部材23には、心臓100に留置するための縫合穴28が複数設けられており、心嚢膜101に掛けた縫合糸を縫合穴28に通して係止することにより、第一電極21を心嚢膜101上に留置することができる。
【0023】
印加リード24は、白金系材料、好ましくは白金イリジウム合金の撚り線で形成されており、リード30と電気的に接続されている。本実施形態の印加リード24は、心臓の拍動に伴う心嚢膜の絶え間ない形状変化に対応できる程度の可撓性を有するように、例えば、線径φ0.2mm程度の撚り線構造とされている。印加リード24の一部は、図4に示すように、絶縁部材23のうち心臓100に接触する下面23Aに露出し、図示しない残りの部位が絶縁部材23内に埋没して体内の臓器に対して絶縁されるように絶縁部材23に取り付けられている。
絶縁部材23の一方の面に露出するすべての撚り線は、絶縁部材23内に埋没した撚り線と接続され、当該埋没した撚り線がリード30と接続されている。これにより、一本の撚り線が断線した場合にも、確実に電気エネルギーを心臓に供給できる構成となっている。
【0024】
絶縁部材23において、印加リード24が露出する下面23Aと反対側の上面23Bには、略ドーム状に突出した複数の接触低減突起25が設けられている。接触低減突起25は、絶縁部材23と同一の材料からなり、絶縁部材23の成形時に一体成形されている。接触低減突起25の高さや上面23B上に突出する上面の形状は、電極部20が留置される部位の周囲環境等を考慮して適宜設定することができる。本実施形態では、絶縁部材23の上面23Bのうち、接触低減突起25以外の部分が肺110と接触しないように、接触低減突起25の高さは所定値(例えば絶縁部材23の厚さ)以上の値に設定されており、上面の形状は球面の一部をなしている。
【0025】
接触低減突起25の表面には、潤滑性材料からなる潤滑層(摩擦低減部)26が形成されている。潤滑層26は、体内に留置された後に体液を吸収して潤滑性を発揮し、接触低減突起25と周辺組織である肺110等との間に生じる摩擦を低減する。潤滑層26の材料となる潤滑性材料としては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine、MPC)、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体(VEMA)等の親水性ポリマーや、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコール、メチルビニルエーテル無水マレイン酸等の各種ハイドロゲル等を用いることができる。
中でも、MPC等のホスホリルコリン基(リン脂質極性基)を有する高分子は、ホスホリルコリン基が超親水性および高い生体適合性を有しているため、好ましい。なお、親水性は水との親和性が高い性質を意味し、超親水性とは極めてその性質が強いことを指す。また、ここで言う生体適合性とは、タンパク質や血球などの生体成分との相互作用がなく、タンパク質の変性や血液の凝固反応といった生体異物反応を起こさない性質を指す。
【0026】
潤滑性材料としてMPCを用いる場合、そのまま塗布等しても水に溶けやすく剥がれやすいため、MPCとアクリル酸エステルとの共重合体を用いるのが好ましい。アクリル酸エステルとしては、たとえばメタクリル酸ブチル等を好適に用いることができる。メタクリル酸ブチルとしては、メタクリル酸n−ブチル(BMA)やメタクリル酸イソブチル等を用いることができる。
上述した各種潤滑性材料に接触低減突起25をディッピングしたり、潤滑性材料を含む溶液を接触低減突起25の上面に塗布したりする等により、接触低減突起25の表面に潤滑層26を形成することができる。上述の共重合体を潤滑性材料として用いる場合は、グラフト重合により接触低減突起25の表面に固定することも可能であり、この場合は接触低減突起25上により確実に潤滑層26を固定することができる。
【0027】
リード30は、電気的な絶縁を保って除細動器10から電極部20に電気エネルギーを伝達できるものであれば、その構成は特に限定されない。本実施形態では、例えば、外径φが2mm程度のポリウレタンチューブ内に、中心に銀41%含有の芯線を有するMP35N合金線がコイル状に巻かれた構成となっている。このような構成では、MP35N合金がコイル形状に整形されているため、強い引張り強度と繰返し曲げ強度が実現される。
リード30と印加リード24とは、溶接や機械的なカシメ接続等により強固に固定されており、当該接続部位は、絶縁部材23に被覆されて露出しないようにされている。
【0028】
以上のように構成された除細動システム1の使用時の動作について説明する。
除細動システム1は、使用前に、電極部20が患者の体内において、心臓100表面の心嚢膜101上に留置される。電極部20は、絶縁部材23の縫合穴28に縫合糸を通すことにより心嚢膜101上に留置される。縫合時は、心嚢膜101のみを貫通し心臓の心筋を貫通しないように縫合を行う。これにより、電極部20は心嚢膜101に対してのみ固定される。よって、心臓100は心嚢膜101内を電極部20に影響されずに自由に動くことができ、心臓の動きが妨げられることによる不整脈の発生リスクが抑えられる。
【0029】
電極部20の設置は、開胸下で行われてもよいし、トロッカー等を用いて胸腔鏡下で行われてもよいが、患者の侵襲を抑える観点からは胸腔鏡下で設置されるのが好ましい。第一電極21および第二電極22は柔軟性に優れるため、胸腔鏡下で設置する場合は、これらの電極を丸めてトロッカー等を通過可能な形状としてから胸腔内にデリバリーし、胸腔内で平面上に展開してから設置手技を行えばよい。
体外に引き出されたリード30および除細動器10は、体外で保持されても、皮下に埋め込まれて保持されてもいずれでも構わない。
【0030】
患者に取り付けられた除細動システム1は、除細動器10が備える検出回路により、患者の心電図を常時監視する。監視中に心室細動が発生すると、心室細動の心電図を取得し、心室細動の発生を検出する。
心室細動の発生を検出すると、除細動器10の除細動駆動回路が、所定の除細動波形に基づいて電気エネルギーを発生させる。発生した電気エネルギーは、リード30を通って電極部20に伝わり、第一電極21と第二電極22との間に印加されて除細動が行われる。
【0031】
心臓100の表面の心嚢膜101上に留置された第一電極21および第二電極22は、心臓100の拍動や呼吸に伴う肺110の伸縮により、肺110と接触して摩擦を発生する。しかしながら、各電極21、22の上面23Bには、接触低減突起25が形成されているため、図5に示すように、肺110が各電極(図5には第一電極21を示す。)の上面23B側に接近すると、もっぱら接触低減突起25の上部とのみ接触する。その結果、各電極と肺110とが接触する際の接触面積が好適に低減され、肺100が摩擦により受ける刺激を低減し、当該刺激による線維組織の増殖や肥厚化が好適に抑制される。
【0032】
さらに、接触低減突起25の表面に設けられた潤滑層26が体内で体液等を吸収して潤滑性を発揮するため、接触低減突起25と周辺組織とが接触した際の摩擦を好適に低減する。その結果、周辺組織における線維組織の増殖等が起きにくくなる。
【0033】
以上説明したように、本発明の除細動システム1によれば、心臓の表面に留置される第一電極21および第二電極22に、肺110等の周辺組織との摩擦を低減する潤滑層26が設けられているため、周辺組織と接触するような環境に留置されても、当該周辺組織に与える刺激が少なくなる。その結果、線維組織の増殖や肥厚化を好適に抑制して周辺組織の挙動等に与える悪影響を抑制し、長期間にわたって安全に留置することができる。
【0034】
また、絶縁部材23の上面23Bに接触低減突起25が設けられ、その上面に潤滑層26が形成されているため、肺110との間に生じる摩擦を低減するだけでなく、肺110と第一電極21および第二電極22との接触面積自体が小さくなる。したがって、周辺組織に与える刺激をさらに抑えて、安全に長期間留置することができる。
【0035】
さらに、接触低減突起25の上面が球面の一部とされているため、周辺組織と接触低減突起との接触部位に尖ったエッジ部が存在しない。したがって、周辺組織への刺激をさらに小さくすることができる。
【0036】
次に、本発明の第2実施形態について、図6を参照して説明する。本実施形態の除細動システム41と上述の除細動システム1との異なるところは、電極部の絶縁部材に線維組織との密着性を高めるアンカー部が設けられている点である。なお、以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0037】
図6は、除細動システム41の第一電極42が心臓に留置された状態を示す断面図である。第一電極42を構成する絶縁部材23の上面23Bのうち、接触低減突起25および潤滑層26が設けられていない部位には、微小凹凸を有するアンカー部43が形成されている。アンカー部43は、絶縁部材23を成形する金型の表面に微小凹凸を設けたり、シート状の絶縁部材23の表面に対して、公知の表面粗し処理を行ったりすることにより行うことができる。アンカー部43における微小凹凸の深さ(凸形状の頂点と凹形状の底部との高低差)は、0.5mm程度に設定されると、後述するカプセル化が速やかに進むため、好ましい。
なお、図示しないが、第二電極も第一電極42と同様の構造を備えている。
【0038】
除細動システム41においては、第一実施形態の除細動システム1同様、電極部が接触低減突起25および潤滑層26を備えるため、心嚢膜110上に留置されても、肺110等の周辺組織との摩擦を低減して周辺組織に与える刺激が抑えられる。
ここで、周辺組織に与える刺激は少なくなるものの、完全に無くなるわけではないため、当該刺激に伴い、除細動システム41の電極部の周囲には、第一電極42および第二電極を包むように線維組織が形成される。形成された線維組織は、絶縁部材23上のアンカー部43と係合して線維組織との密着性を高め、第一電極42および第二電極から剥離しにくくなる。その結果、線維組織が完全に電極部を被覆し、カプセル化が完了したところで線維組織の増殖は終了し、線維化が過剰に進行することが抑制される。線維組織が比較的薄い状態でカプセル化が完了するため、電極部が肺110等の動きを阻害することもない。
【0039】
本実施形態の除細動システム41によれば、電極部が、接触低減突起25および潤滑層26に加えて、アンカー部43を備えるため、周辺組織への刺激を抑制しつつ、刺激に反応して線維化が起こった場合は、線維組織を電極部の周囲に好適に保持してカプセル化が速やかに完了するよう誘導する。したがって、長期間の留置であっても、周辺組織に悪影響を及ぼすことを防いで安全に留置することができる。
【0040】
次に、本発明の第三実施形態について、図7から図9を参照して説明する。本実施形態の除細動システム51と上述の除細動システム1との異なるところは、電極部の絶縁部材に潤滑性材料を貯留する貯留部が設けられている点である。
【0041】
図7は、除細動システム51の電極部における第一電極52を示す斜視図であり、図8は、図7のB−B線における断面図である。図7に示すように、絶縁部材23には、接触低減突起および潤滑層に代えて、複数の貯留部(摩擦低減部)53が設けられている。
【0042】
図8に示すように、各貯留部53は、絶縁部材23の内部に形成された略円柱状の貯留空間53Aと、上面23Bに設けられ、貯留空間53Aと外部とを連通する開口53Bとを有する。貯留部53を備える絶縁部材は、例えば上面側部材と下面側部材とを別々に成形し、一体に接合することによって製造することができる。このとき貯留空間53Aを形成する凹部は、上面側部材および下面側部材のいずれか一方にのみ形成してもよいし、両方に凹部を形成して接合することにより一つの貯留空間を形成してもよい。
【0043】
各貯留部53の貯留空間53A内には、流動性を有する潤滑性材料54が充填されている。潤滑性材料54は、後述するように、絶縁部材23の変形により開口53Bから絶縁部材23の外に流出可能な程度の流動性を有する。潤滑性材料54としては、上述した潤滑層26の材料等から流動性を考慮して適宜選択することができる。
【0044】
本実施形態の除細動システム51においては、第一電極52および第二電極(不図示)が心嚢膜101上に留置された当初は、図9(a)に示すように、絶縁部材23の上面23Bには潤滑性材料54は存在せず、各貯留部53内に収容されている。そして、留置後に心臓100が拍動したり、肺110に押されたりすることによって絶縁部材23が変形すると、例えば図9(b)に示すように、貯留空間53Aの形状が変化し、潤滑性材料54の一部が貯留部53の外に流出し、上面23B状に広がる。これにより、上面23B上に潤滑性材料54が層状に配置され、肺110等の周辺組織との接触に伴う摩擦が低減されて周辺組織に対する刺激が抑制される。この効果の持続期間は、貯留部の形状や総容量、潤滑性部材の充填量、開口の大きさ、潤滑性材料の流動性等を調節することにより、一定の範囲で適宜設定することができる。
【0045】
本実施形態の除細動システム51によれば、電極部の第一電極52および第二電極が、潤滑性材料54が配置された貯留部53を備えるため、上述の各実施形態の除細動システムと同様に、線維組織の増殖や肥厚化を好適に抑制し、長期間にわたって安全に留置することができる。
また、上述のように線維組織の増殖や肥厚化の抑制効果持続期間を調節することができるため、留置環境や対象疾患等に応じて最適な持続期間を設定することができる。
【0046】
本実施形態では、流動性を有する潤滑性材料を貯留部に配置した例を説明したが、これに代えて、体内に留置する前は所定の流動性を有さず、開口から貯留空間内に進入した体液等と混合されて流動性を獲得する潤滑性材料が用いられてもよい。この場合は、貯留空間の変形に伴って貯留空間内に体液等が進入できるように、貯留空間の一部が空きスペースとなる程度に潤滑性材料の充填量を調節するのが好ましい。
【0047】
また、貯留部の形状は、上述したものには限定されない。例えば、図10に示す変形例のように、貯留空間55Aおよび開口55Bの絶縁部材23の面方向(上面23Bと平行な方向)における最大寸法が1mm未満(マイクロメートルオーダー)の、微細な貯留部55が上面23Bに多数設けられてもよい。このような貯留部55は、レーザー加工等により形成することができる。貯留部がこのように形成された場合、潤滑性材料54がより均一に上面23Bに流出するため、上面23B側がより均一に潤滑性材料54で覆われるという利点がある。
【0048】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成要素の組み合わせを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0049】
例えば、上述の各実施形態では、摩擦低減部が絶縁部材の上面側に形成された例を説明したが、摩擦低減部は、下面側に形成されても構わない。ただし、上述の各実施形態のように、下面が接触した組織に印加リード等により電気エネルギーが印加される等の場合は、各種機構が印加リードと組織との接触を妨げたり、インピーダンスを増大させてエネルギー効率を著しく減じたりすることがないように摩擦低減部の形状等を設定するのが好ましい。
生体留置電極において、絶縁部材のいずれの面に、あるいは両面に摩擦低減部を設けるかについては、上記に加え、上面側および下面側の組織の線維化の起こしやすさ等も考慮して決定すればよい。
【0050】
また、本発明の生体留置電極は、上述の除細動システムに限らず、臓器や組織と接触した状態で体内に留置されるあらゆる医療機器に適用することができる。仮に留置期間が比較的短期間であったとしても、生体留置電極が異物と認識されることによる各種の炎症反応は、留置後の合併症の一因となるため、本発明の生体留置電極を適用する意義があると言える。
【符号の説明】
【0051】
1、41、51 除細動システム
21、42、52 第一電極(体内留置電極)
22 第二電極(体内留置電極)
23 絶縁部材
24 印加リード(印加部)
25 接触低減突起
26 潤滑層(摩擦低減部)
43 アンカー部
53、55 貯留部(摩擦低減部)
53A、55B 貯留空間
53B、55B 開口
54 潤滑性材料
110 肺(周辺組織)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内に留置して用いられる体内留置電極であって、
シート状の絶縁部材と、
導体で形成され、前記絶縁部材の厚さ方向の一方の面に少なくとも一部が露出して設けられた印加部と、
前記絶縁部材の厚さ方向の少なくとも一方の面に形成され、前記体内に留置された後に前記絶縁部材と周辺組織との間に生じる摩擦を低減する摩擦低減部と、
を備えることを特徴とする体内留置電極。
【請求項2】
前記摩擦低減部は、潤滑性材料を含む潤滑層であることを特徴とする請求項1に記載の体内留置電極。
【請求項3】
前記絶縁部材の厚さ方向の少なくとも一方の面に突出して形成された接触低減突起をさらに備え、前記摩擦低減部は、前記接触低減突起上に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の体内留置電極。
【請求項4】
前記潤滑性材料はリン脂質極性基を有し、グラフト重合によって前記絶縁部材上に固定されることにより前記摩擦低減部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の体内留置電極。
【請求項5】
前記一方の面のうち前記摩擦低減部が形成されていない部位の少なくとも一部に設けられ、前記体内に留置された後に前記絶縁部材の周囲に形成される線維組織との密着性を高めるアンカー部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の体内留置電極。
【請求項6】
前記摩擦低減部は、潤滑性材料が内部に配置された貯留空間と、前記一方の面に形成されて前記貯留空間と連通した開口とを有する貯留部であることを特徴とする請求項1に記載の体内留置電極。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の体内留置電極を備えることを特徴とする除細動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−143298(P2012−143298A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2102(P2011−2102)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】