体外循環装置およびそのプライミング方法
【課題】人的資源をなるべく必要とせずにプライミング動作を効率的に実施することが可能な体外循環装置を得る。
【解決手段】体外循環装置100に対してプライミング動作が実施される際には、プライミング液導入部40から体外循環回路30内にプライミング液42が導入されることによって、体外循環回路30内の空気は空気排出部50を通して外部に排出され、駆動装置12は、領域36にまでプライミング液42が到達したことを検知部60が検知してから所定の時間経過後に遠心ポンプ10を駆動させ、遠心ポンプ10によって、プライミング液42は体外循環回路30内を循環し、体外循環回路30内に残留する空気は、体外循環回路30内を循環するプライミング液42によって、人工肺20を通して外部に排出される。
【解決手段】体外循環装置100に対してプライミング動作が実施される際には、プライミング液導入部40から体外循環回路30内にプライミング液42が導入されることによって、体外循環回路30内の空気は空気排出部50を通して外部に排出され、駆動装置12は、領域36にまでプライミング液42が到達したことを検知部60が検知してから所定の時間経過後に遠心ポンプ10を駆動させ、遠心ポンプ10によって、プライミング液42は体外循環回路30内を循環し、体外循環回路30内に残留する空気は、体外循環回路30内を循環するプライミング液42によって、人工肺20を通して外部に排出される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外循環装置およびそのプライミング方法に関し、特に、プライミング動作が実施されるとともに、そのプライミング動作の後に血液の体外循環に使用される体外循環装置、およびその体外循環装置におけるプライミング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体外循環装置は、心筋梗塞等の重症心不全、開心術後の低拍出症候群、大血管手術による補助循環等や、心肺停止のため緊急心肺蘇生が必要な患者に対して使用される。体外循環装置は、脱血および返血のための体外循環回路を備える。体外循環装置を用いることによって、心室細動や心拍出流量低下の患者に対しては、心臓の補助循環として、所定の血液流量の確保が可能となり、血流が停止している患者に対しては、血液が循環している状態に復帰させることが可能となる。
【0003】
特開2006−130078号公報(特許文献1)および特開2007−236564号公報(特許文献2)に開示されるように、体外循環装置が血液の体外循環に使用される前には、体外循環回路に対してプライミング動作が実施される。
【0004】
体外循環装置を使用する際は、患者の血管にカニューレが挿入される(カニューレーションといわれる)。患者の血管に挿入されたカニューレに、体外循環回路が接続される。プライミング動作は、このカニューレに体外循環回路が接続される前に実施される。
【0005】
プライミング動作においては、生理食塩水等のプライミング液が体外循環回路内に導入される。プライミング液によって、体外循環回路内の空気は外部へ排出される。プライミング動作が実施されることによって、体外循環回路内に残存していた空気が患者の体内に入り込むことが防止される。
【0006】
プライミング動作の完了後、体外循環回路の脱血口は、患者の大腿静脈に挿入されたカニューレに接続される。体外循環回路の返血口は、患者の大腿動脈に挿入されたカニューレに接続される。体外循環装置は、これらの2つのカニューレを通して血液を循環させる。これにより、患者は、血液が循環している状態に復帰されることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−130078号公報
【特許文献2】特開2007−236564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
体外循環装置が使用される医療現場においては、体外循環装置のプライミング動作の実施に限られず、医師によってカニューレが患者の血管内に挿入されたり、技士によって各種の医療器具が準備されたり、看護師によって各種の薬液が準備されたりする。体外循環装置におけるプライミング動作は、人的資源をなるべく必要とせずに効率的に実施されることが望まれる。
【0009】
本発明は、人的資源をなるべく必要とせずにプライミング動作を効率的に実施することが可能な体外循環装置およびそのプライミング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に基づく体外循環装置は、プライミング動作が実施された後に血液の体外循環に使用される体外循環装置であって、駆動装置によって駆動されるポンプ部と、上記ポンプ部よりも重力方向の上方に配置された血液処理部と、環状に形成されるとともに、上記ポンプ部および上記血液処理部に連通する体外循環回路と、上記体外循環回路に接続され、上記体外循環回路内にプライミング液を導入するプライミング液導入部と、上記体外循環回路に接続され、上記血液処理部よりも重力方向の上方に配置された空気排出部と、上記プライミング液導入部から上記体外循環回路内に導入された上記プライミング液が、上記体外循環回路内における上記ポンプ部よりも重力方向の上方であって且つ上記空気排出部よりも重力方向の下方の領域にまで到達したことを検知する検知部と、を備え、上記プライミング動作が実施される際には、上記プライミング液導入部から上記体外循環回路内に上記プライミング液が導入されることによって、上記体外循環回路内の空気は上記空気排出部を通して外部に排出され、上記駆動装置は、上記領域にまで上記プライミング液が到達したことを上記検知部が検知してから所定の時間経過後に上記ポンプ部を駆動させ、上記ポンプ部によって、上記プライミング液は上記体外循環回路内を循環し、上記体外循環回路内に残留する空気は、上記体外循環回路内を循環する上記プライミング液によって、上記血液処理部を通して外部に排出される。
【0011】
好ましくは、上記ポンプ部は、遠心力によって液体を送液することが可能な遠心ポンプである。好ましくは、上記血液処理部は、血液中から二酸化炭素を除去するとともに血液中に酸素を付加する人工肺である。
【0012】
本発明に基づく体外循環装置のプライミング方法は、血液の体外循環に使用される体外循環装置のプライミング方法であって、上記体外循環装置は、駆動装置によって駆動されるポンプ部と、上記ポンプ部よりも重力方向の上方に配置された血液処理部と、環状に形成されるとともに、上記ポンプ部および上記血液処理部に連通する体外循環回路と、上記体外循環回路に接続され、上記体外循環回路内にプライミング液を導入するプライミング液導入部と、上記体外循環回路に接続され、上記血液処理部よりも重力方向の上方に配置された空気排出部と、上記プライミング液導入部から上記体外循環回路内に導入された上記プライミング液が、上記体外循環回路内における上記ポンプ部よりも重力方向の上方であって且つ上記空気排出部よりも重力方向の下方の領域にまで到達したことを検知する検知部と、を含み、上記プライミング液導入部から上記体外循環回路内に上記プライミング液が導入されることによって、上記体外循環回路内の空気は上記空気排出部を通して外部に排出される工程と、上記領域にまで上記プライミング液が到達したことを上記検知部が検知してから所定の時間経過後に上記駆動装置が上記ポンプ部を駆動させる工程と、を備え、上記ポンプ部によって、上記プライミング液は上記体外循環回路内を循環し、上記体外循環回路内に残留する空気は、上記体外循環回路内を循環する上記プライミング液によって、上記血液処理部を通して外部に排出される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、人的資源をなるべく必要とせずにプライミング動作を効率的に実施することが可能な体外循環装置およびそのプライミング方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態における体外循環装置を示す図である。
【図2】実施の形態における体外循環装置のプライミング方法の第1工程を示す図である。
【図3】実施の形態における体外循環装置のプライミング方法の第2工程を示す図である。
【図4】実施の形態における体外循環装置のプライミング方法の第3工程を示す図である。
【図5】実施の形態における体外循環装置のプライミング方法の第4工程を示す図である。
【図6】実施の形態における体外循環装置のプライミング方法の第5工程を示す図である。
【図7】実施の形態における体外循環装置のプライミング方法の第6工程を示す図である。
【図8】実施の形態における体外循環装置のプライミング方法の第7工程を示す図である。
【図9】実施の形態における体外循環装置の体外循環回路に脱血口および返血口が形成された様子を示す図である。
【図10】実施の形態における体外循環装置の体外循環回路がカニューレに接続された様子を示す図である。
【図11】実施の形態の第1変形例における体外循環装置を示す図である。
【図12】実施の形態の第2変形例における体外循環装置を示す図である。
【図13】実施の形態の第3変形例における体外循環装置を示す図である。
【図14】実施の形態の第4変形例における体外循環装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に基づいた実施の形態について、以下、図面を参照しながら説明する。実施の形態の説明において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。実施の形態の説明において、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0016】
(体外循環装置100)
図1は、実施の形態における体外循環装置100を示す図である。体外循環装置100は、遠心ポンプ10(ポンプ部)、人工肺20(血液処理部)、体外循環回路30、プライミング液導入部40、空気排出部50、および検知部60を備える。詳細は後述されるが、体外循環装置100の体外循環回路30に対して、プライミング動作が実施される。このプライミング動作が実施された後、体外循環装置100は血液の体外循環または補助循環に使用される。
【0017】
遠心ポンプ10は、遠心力によって、プライミング液または血液等の液体を送液する。遠心ポンプ10は、コントローラー14に接続された駆動装置12によって駆動される。コントローラー14には、電源スイッチ16が設けられる。体外循環装置100においては、遠心ポンプ10の代わりに、スクィーズポンプ(弾力性を有するチューブを外部からローラーで潰し、液体を絞り出すように作動するポンプ)、またはローラー式の血液ポンプ等が、ポンプ部として用いられてもよい。
【0018】
人工肺20は、遠心ポンプ10よりも重力方向の上方に配置される。人工肺20は、相互に束ねられた複数の中空糸膜(図示せず)から構成される。人工肺20は、血液中から二酸化炭素を除去するとともに、血液中に酸素を付加する。体外循環装置100においては、人工肺20の代わりに、特定の物質を血液中から除去したりするもの、特定の物質を血液中に付加するもの、または、血液の温度を所定の値に調整するもの等が、血液処理部として用いられてもよい。
【0019】
体外循環回路30は、チューブ状の部材から環状に形成される。体外循環回路30は、第1経路32および第2経路34を含む。体外循環回路30の第2経路34は、遠心ポンプ10の内部、および人工肺20の内部にそれぞれ連通している。遠心ポンプ10および人工肺20は、体外循環回路30の一部として構成されている。
【0020】
プライミング液導入部40は、プライミング液42、収容バッグ44、およびプライミングライン46を含む。プライミング液導入部40は、体外循環回路30内にプライミング液42を導入する。プライミング液42は、たとえば生理食塩水である。収容バッグ44は、プライミング液42を収容する。プライミングライン46は、チューブ状の部材から形成される。本実施の形態においては、収容バッグ44は、体外循環回路30よりも重力方向における上方に配置されている。
【0021】
プライミングライン46の一端は、収容バッグ44に接続される。プライミングライン46の他端は、体外循環回路30に接続される。体外循環回路30は、プライミングライン46に接続された部分から、第1経路32および第2経路34に分岐している。第1経路32および第2経路34は、後述する空気排出部50の近傍において合流する。
【0022】
プライミング液導入部40としては、プライミング液42を落差によって体外循環回路30内に導入するものの他に、外部からプライミング液42に対して付与される圧力によって、プライミング液42が体外循環回路30内に導入されてもよい。外部からの圧力によってプライミング液42を体外循環回路30内に導入する場合、収容バッグ44は、体外循環回路30よりも重力方向の上方に設けられていてもよく、体外循環回路30よりも重力方向の下方に設けられていてもよく、体外循環回路30と同一の高さに設けられていてもよい。
【0023】
空気排出部50も、体外循環回路30に接続される。空気排出部50は、人工肺20よりも重力方向の上方に配置される。好ましくは、空気排出部50は、体外循環回路30の重力方向の最上部に配置される。具体的には、空気排出部50は、疎水性フィルター52、収容ケース54、開閉コック56、および排出ライン58を含む。排出ライン58が、体外循環回路30に接続される。排出ライン58上に、開閉コック56が設けられる。収容ケース54内に、疎水性フィルター52が設けられる。
【0024】
疎水性フィルター52は、たとえば多孔質構造を有する部材から構成される。多孔質構造を有する部材は、表面張力が低いため、水滴をはじきやすい。疎水性フィルター52は、通気性を確保しつつ、プライミング液42の通過を制限することができる。疎水性フィルター52に用いられる部材の材料としては、たとえば、セルロース、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、エチレン、プロピレン、4−メチルペンテン−1、1−ブテン等のモノマーを単体で重合または共重合して得られるポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0025】
検知部60は、コントローラー14に接続された流量センサー等から構成される。検知部60は、プライミング液導入部40から体外循環回路30内に導入されたプライミング液42が、体外循環回路30内における所定の領域36にまで到達したことを検知する。
【0026】
領域36とは、体外循環回路30内における遠心ポンプ10よりも重力方向の上方であって、且つ、空気排出部50よりも重力方向の下方の領域である。本実施の形態における領域36とは、体外循環回路30内における人工肺20よりも重力方向の上方であって、且つ、空気排出部50よりも重力方向の下方の領域である。検知部60としては、体外循環回路30内の領域36を流れるプライミング液42を、光学的、電気的、または電磁的な手段等に基づき検知するものであれば、流量センサー以外のものが用いられてもよい。
【0027】
(体外循環装置100のプライミング動作)
図2〜図8を参照して、体外循環装置100の体外循環回路30に対して実施されるプライミング動作(体外循環装置100のプライミング方法)について説明する。
【0028】
図2に示すように、体外循環装置100を使用する際は、まず、体外循環装置100を構成する各種機器が準備される(図10も参照)。各種機器が準備された時点においては、検知部60は体外循環回路30から離間している。駆動装置12は遠心ポンプ10から離間している。プライミングライン46も、収容バッグ44には接続されていない。
【0029】
各種機器が準備された後、遠心ポンプ10に駆動装置12が取り付けられる(矢印AR1参照)。体外循環回路30の領域36に検知部60が取り付けられる(矢印AR2参照)。プライミングライン46が収容バッグ44に接続(穿刺)される(矢印AR3参照)。
【0030】
次に、コントローラー14の電源スイッチ16が投入される。電源スイッチ16は、プライミングライン46が収容バッグ44に接続される前に投入されてもよい。電源スイッチ16は、体外循環回路30の領域36に検知部60が取り付けられる前に投入されてもよい。電源スイッチ16は、遠心ポンプ10に駆動装置12が取り付けられる前に投入されてもよい。電源スイッチ16が投入された時点では、駆動装置12は遠心ポンプ10を駆動していない。
【0031】
詳細は以下に説明されるが、体外循環装置100のプライミング動作に必要な作業者(医師、技士、または看護師など)の行動は、以上の動作のみである。体外循環装置100においては、以降のプライミング動作は、プライミングの動作の完了に至るまで自動的に実施される。
【0032】
したがって、医師は、体外循環回路30等から離れて、患者の血管にカニューレを挿入したり(カニューレーション)、他の準備に取り組んだりすることができる。技士も、体外循環回路30等から離れて、各種の医療器具等を準備することができる。看護師も、体外循環回路30等から離れて、各種の薬液等を準備することができる。
【0033】
図3を参照して、プライミングライン46が収容バッグ44に接続されることによって、プライミングライン46は収容バッグ44の内部に連通する。プライミング液42は、プライミング液42の自重によって、プライミングライン46内を重力方向の下方に向かって流れる(矢印AR4参照)。体外循環回路30内の空気は、排出ライン58、開閉コック56、および疎水性フィルター52を通して外部に排出される(矢印DR1参照)。
【0034】
図4を参照して、プライミング液42は、プライミングライン46内を通過して、体外循環回路30(第2経路34)内に導入される(矢印AR5参照)。体外循環回路30内の空気は、排出ライン58、開閉コック56、および疎水性フィルター52を通して引続き外部に排出される(矢印DR1参照)。
【0035】
図5を参照して、プライミング液42は、プライミング液導入部40と体外循環回路30との間の落差によって、第1経路32内を重力方向の上方に向かって流れる(矢印AR6参照)。プライミング液42は、第2経路34内も重力方向の上方に向かって流れる(矢印AR7参照)。
【0036】
第1経路32内を流れるプライミング液42および第2経路34内を流れるプライミング液42は、重力方向の上方に向かってさらに流れる。第2経路34内を流れるプライミング液42は、遠心ポンプ10の内部を通過する。その後、第2経路34内を流れるプライミング液42は、人工肺20の内部を通過する。
【0037】
図6を参照して、第1経路32内を流れるプライミング液42は、重力方向の上方に向かってさらに流れる(矢印AR7参照)。第2経路34内を流れるプライミング液42も、重力方向の上方に向かってさらに流れる(矢印AR8参照)。
【0038】
図6に示すように、第2経路34内を流れるプライミング液42が領域36にまで到達したとする。検知部60は、領域36にまでプライミング液42が到達したことを検知する。この情報は、コントローラー14に信号として入力される。コントローラー14は、タイマー(図示せず)を内蔵しており、領域36にまでプライミング液42が到達したことを検知部60が検知してから所定の時間(たとえば10秒〜20秒)の経過後に、駆動装置12を駆動させる。
【0039】
図7を参照して、領域36にまでプライミング液42が到達したことを検知部60が検知してから所定の時間(たとえば10秒〜20秒)が経過するまでの間に、体外循環回路30内および排出ライン58内は、プライミング液42によって満たされる。プライミングライン46、体外循環回路30、遠心ポンプ10、人工肺20、および排出ライン58内に存在していた空気のほとんどは、外部に排出される。
【0040】
外部に排出されなかった空気は、遠心ポンプ10、人工肺20、および体外循環回路30内(体外循環回路30とプライミングライン46とのつなぎ目または体外循環回路30が撓んでいる部分)などに、微小な気泡として残存している。体外循環装置100においては、駆動装置12が遠心ポンプ10を駆動することによって、微小な気泡を排出する。
【0041】
図8を参照して、具体的には、コントローラー14が、上記の所定の時間(たとえば10秒〜20秒)の経過後に、駆動装置12を駆動させる。遠心ポンプ10によって、プライミング液42は、体外循環回路30内、遠心ポンプ10の内部、および人工肺20の内部を循環する(矢印AR9参照)。体外循環回路30内などに残留していた気泡(空気)は、プライミング液42の循環によって、体外循環回路30内から外部に排出される。
【0042】
本実施の形態においては、体外循環回路30内などに残留していた気泡(空気)は、人工肺20を通して外部に排出される(矢印DR2参照)。この際、開閉コック56は閉塞されているか、または、開閉コック56は、体外循環回路30内における陰圧でない位置(たとえば遠心ポンプ10の下流付近)に設けられているとよい。あるいは、開閉コック56の代わりに、一方弁(逆止弁)が設けられていてもよい。プライミング液42が人工肺20を構成する複数の中空糸膜の内部に通流されることによって、体外循環回路30内などに残留していた気泡(空気)は、中空糸膜の内側から外側(人工肺20の外部)に向かって排出される。
【0043】
体外循環回路30内等を、プライミング液42がたとえば約5分間循環される。体外循環回路30内、遠心ポンプ10の内部、および人工肺20の内部に残留していた気泡は、体外循環回路30内から完全に外部に排出されることができる。以上により、体外循環装置100のプライミング動作は完了する。
【0044】
図9を参照して、プライミング動作が完了した後、体外循環回路30は所定の位置で切断される。体外循環回路30には、脱血口33および返血口35が形成される。なお、体外循環回路30を切断する位置は、図9に示される位置に限定されない。体外循環回路30は、たとえば、空気排出部50を体外循環回路30から分離しないような他の位置で切断されてもよい。
【0045】
図10を参照して、プライミング動作が実施される一方では、カニューレーションによって、カニューレ72は、患者の大体動脈82に経皮的に挿入されている。カニューレ74は、患者の大体静脈84に経皮的に挿入されている。カニューレ74の先端は、右心房86内に配置されている。体外循環回路30の脱血口33は、カニューレ74に接続される。体外循環回路30の返血口35は、カニューレ72に接続される。
【0046】
体外循環装置100が使用される際には、上記のほかにも、架台68、酸素タンク62、バッテリー64、熱交換器66などが準備される。以上のように、準備、プライミング動作、および設置が完了した体外循環装置100は、血液の体外循環に使用されることが可能となる。
【0047】
(作用・効果)
上述のとおり、体外循環装置100のプライミング動作に必要な作業者(医師、技士、または看護師など)の行動は、主として、プライミングライン46を収容バッグ44に接続(穿刺)すること、および、コントローラー14の電源スイッチ16を投入することのみである。その後、体外循環装置100に対しては、自動的にプライミング動作が実施される。
【0048】
医師は、体外循環回路30等から離れて、患者の血管にカニューレを挿入したり(カニューレーション)、他の準備に取り組んだりすることができる。技士も、体外循環回路30等から離れて、各種の医療器具等を準備することができる。看護師も、体外循環回路30等から離れて、各種の薬液等を準備することができる。
【0049】
体外循環装置100によれば、作業員は、プライミング液が体外循環回路内に満たされたか否かを確認したりする必要がなく、プライミング液が体外循環回路内に満たされたことを待って駆動装置を駆動する必要もない。体外循環装置100においては、検知部60およびコントローラー14によって、所定のタイミングにおいて自動的に駆動装置12が駆動される。したがって体外循環装置100によれば、人的資源をなるべく必要とせずにプライミング動作を効率的に実施することが可能となる。
【0050】
(第1変形例)
図11に示す体外循環装置101のように、検知部60が配置される領域36は、体外循環回路30内における遠心ポンプ10よりも重力方向の上方であって、且つ、人工肺20よりも重力方向の下方の領域であってもよい。
【0051】
本変形例においても、領域36は、体外循環回路30内における遠心ポンプ10よりも重力方向の上方であって、且つ、空気排出部50よりも重力方向の下方に位置している。当該構成によっても、上述の実施の形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0052】
(第2変形例)
図12に示す体外循環装置102においては、上述の実施の形態の場合に比べて、領域36が空気排出部50寄りに位置している。本変形例においても、領域36は、体外循環回路30内における遠心ポンプ10よりも重力方向の上方であって、且つ、空気排出部50よりも重力方向の下方に位置している。当該構成によっても、上述の実施の形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0053】
(第3変形例)
図13に示す体外循環装置103においては、領域36が第1経路32内に位置している。領域36は、体外循環回路30内における遠心ポンプ10よりも重力方向の上方であって、且つ、人工肺20よりも重力方向の下方に位置している。
【0054】
本変形例においても、領域36は、体外循環回路30内における遠心ポンプ10よりも重力方向の上方であって、且つ、空気排出部50よりも重力方向の下方に位置している。当該構成によっても、上述の実施の形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0055】
(第4変形例)
図14に示す体外循環装置104においては、領域36が第1経路32内に位置している。領域36は、体外循環回路30内における人工肺20よりも重力方向の上方であって、且つ、空気排出部50よりも重力方向の下方に位置している。
【0056】
本変形例においても、領域36は、体外循環回路30内における遠心ポンプ10よりも重力方向の上方であって、且つ、空気排出部50よりも重力方向の下方に位置している。当該構成によっても、上述の実施の形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0057】
以上、本発明に基づいた実施の形態および各変形例について説明したが、今回開示された実施の形態および各変形例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
10 遠心ポンプ、12 駆動装置、14 コントローラー、16 電源スイッチ、20 人工肺、30 体外循環回路、32 第1経路、33 脱血口、34 第2経路、35 返血口、36 領域、40 プライミング液導入部、42 プライミング液、44 収容バッグ、46 プライミングライン、50 空気排出部、52 疎水性フィルター、54 収容ケース、56 開閉コック、58 排出ライン、60 検知部、62 酸素タンク、64 バッテリー、66 熱交換器、68 架台、72,74 カニューレ、82 大体動脈、84 大体静脈、100,101,102,103,104 体外循環装置、AR1,AR2,AR4,AR5,AR6,AR7,AR8,AR9,DR1,DR2 矢印。
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外循環装置およびそのプライミング方法に関し、特に、プライミング動作が実施されるとともに、そのプライミング動作の後に血液の体外循環に使用される体外循環装置、およびその体外循環装置におけるプライミング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体外循環装置は、心筋梗塞等の重症心不全、開心術後の低拍出症候群、大血管手術による補助循環等や、心肺停止のため緊急心肺蘇生が必要な患者に対して使用される。体外循環装置は、脱血および返血のための体外循環回路を備える。体外循環装置を用いることによって、心室細動や心拍出流量低下の患者に対しては、心臓の補助循環として、所定の血液流量の確保が可能となり、血流が停止している患者に対しては、血液が循環している状態に復帰させることが可能となる。
【0003】
特開2006−130078号公報(特許文献1)および特開2007−236564号公報(特許文献2)に開示されるように、体外循環装置が血液の体外循環に使用される前には、体外循環回路に対してプライミング動作が実施される。
【0004】
体外循環装置を使用する際は、患者の血管にカニューレが挿入される(カニューレーションといわれる)。患者の血管に挿入されたカニューレに、体外循環回路が接続される。プライミング動作は、このカニューレに体外循環回路が接続される前に実施される。
【0005】
プライミング動作においては、生理食塩水等のプライミング液が体外循環回路内に導入される。プライミング液によって、体外循環回路内の空気は外部へ排出される。プライミング動作が実施されることによって、体外循環回路内に残存していた空気が患者の体内に入り込むことが防止される。
【0006】
プライミング動作の完了後、体外循環回路の脱血口は、患者の大腿静脈に挿入されたカニューレに接続される。体外循環回路の返血口は、患者の大腿動脈に挿入されたカニューレに接続される。体外循環装置は、これらの2つのカニューレを通して血液を循環させる。これにより、患者は、血液が循環している状態に復帰されることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−130078号公報
【特許文献2】特開2007−236564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
体外循環装置が使用される医療現場においては、体外循環装置のプライミング動作の実施に限られず、医師によってカニューレが患者の血管内に挿入されたり、技士によって各種の医療器具が準備されたり、看護師によって各種の薬液が準備されたりする。体外循環装置におけるプライミング動作は、人的資源をなるべく必要とせずに効率的に実施されることが望まれる。
【0009】
本発明は、人的資源をなるべく必要とせずにプライミング動作を効率的に実施することが可能な体外循環装置およびそのプライミング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に基づく体外循環装置は、プライミング動作が実施された後に血液の体外循環に使用される体外循環装置であって、駆動装置によって駆動されるポンプ部と、上記ポンプ部よりも重力方向の上方に配置された血液処理部と、環状に形成されるとともに、上記ポンプ部および上記血液処理部に連通する体外循環回路と、上記体外循環回路に接続され、上記体外循環回路内にプライミング液を導入するプライミング液導入部と、上記体外循環回路に接続され、上記血液処理部よりも重力方向の上方に配置された空気排出部と、上記プライミング液導入部から上記体外循環回路内に導入された上記プライミング液が、上記体外循環回路内における上記ポンプ部よりも重力方向の上方であって且つ上記空気排出部よりも重力方向の下方の領域にまで到達したことを検知する検知部と、を備え、上記プライミング動作が実施される際には、上記プライミング液導入部から上記体外循環回路内に上記プライミング液が導入されることによって、上記体外循環回路内の空気は上記空気排出部を通して外部に排出され、上記駆動装置は、上記領域にまで上記プライミング液が到達したことを上記検知部が検知してから所定の時間経過後に上記ポンプ部を駆動させ、上記ポンプ部によって、上記プライミング液は上記体外循環回路内を循環し、上記体外循環回路内に残留する空気は、上記体外循環回路内を循環する上記プライミング液によって、上記血液処理部を通して外部に排出される。
【0011】
好ましくは、上記ポンプ部は、遠心力によって液体を送液することが可能な遠心ポンプである。好ましくは、上記血液処理部は、血液中から二酸化炭素を除去するとともに血液中に酸素を付加する人工肺である。
【0012】
本発明に基づく体外循環装置のプライミング方法は、血液の体外循環に使用される体外循環装置のプライミング方法であって、上記体外循環装置は、駆動装置によって駆動されるポンプ部と、上記ポンプ部よりも重力方向の上方に配置された血液処理部と、環状に形成されるとともに、上記ポンプ部および上記血液処理部に連通する体外循環回路と、上記体外循環回路に接続され、上記体外循環回路内にプライミング液を導入するプライミング液導入部と、上記体外循環回路に接続され、上記血液処理部よりも重力方向の上方に配置された空気排出部と、上記プライミング液導入部から上記体外循環回路内に導入された上記プライミング液が、上記体外循環回路内における上記ポンプ部よりも重力方向の上方であって且つ上記空気排出部よりも重力方向の下方の領域にまで到達したことを検知する検知部と、を含み、上記プライミング液導入部から上記体外循環回路内に上記プライミング液が導入されることによって、上記体外循環回路内の空気は上記空気排出部を通して外部に排出される工程と、上記領域にまで上記プライミング液が到達したことを上記検知部が検知してから所定の時間経過後に上記駆動装置が上記ポンプ部を駆動させる工程と、を備え、上記ポンプ部によって、上記プライミング液は上記体外循環回路内を循環し、上記体外循環回路内に残留する空気は、上記体外循環回路内を循環する上記プライミング液によって、上記血液処理部を通して外部に排出される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、人的資源をなるべく必要とせずにプライミング動作を効率的に実施することが可能な体外循環装置およびそのプライミング方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態における体外循環装置を示す図である。
【図2】実施の形態における体外循環装置のプライミング方法の第1工程を示す図である。
【図3】実施の形態における体外循環装置のプライミング方法の第2工程を示す図である。
【図4】実施の形態における体外循環装置のプライミング方法の第3工程を示す図である。
【図5】実施の形態における体外循環装置のプライミング方法の第4工程を示す図である。
【図6】実施の形態における体外循環装置のプライミング方法の第5工程を示す図である。
【図7】実施の形態における体外循環装置のプライミング方法の第6工程を示す図である。
【図8】実施の形態における体外循環装置のプライミング方法の第7工程を示す図である。
【図9】実施の形態における体外循環装置の体外循環回路に脱血口および返血口が形成された様子を示す図である。
【図10】実施の形態における体外循環装置の体外循環回路がカニューレに接続された様子を示す図である。
【図11】実施の形態の第1変形例における体外循環装置を示す図である。
【図12】実施の形態の第2変形例における体外循環装置を示す図である。
【図13】実施の形態の第3変形例における体外循環装置を示す図である。
【図14】実施の形態の第4変形例における体外循環装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に基づいた実施の形態について、以下、図面を参照しながら説明する。実施の形態の説明において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。実施の形態の説明において、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0016】
(体外循環装置100)
図1は、実施の形態における体外循環装置100を示す図である。体外循環装置100は、遠心ポンプ10(ポンプ部)、人工肺20(血液処理部)、体外循環回路30、プライミング液導入部40、空気排出部50、および検知部60を備える。詳細は後述されるが、体外循環装置100の体外循環回路30に対して、プライミング動作が実施される。このプライミング動作が実施された後、体外循環装置100は血液の体外循環または補助循環に使用される。
【0017】
遠心ポンプ10は、遠心力によって、プライミング液または血液等の液体を送液する。遠心ポンプ10は、コントローラー14に接続された駆動装置12によって駆動される。コントローラー14には、電源スイッチ16が設けられる。体外循環装置100においては、遠心ポンプ10の代わりに、スクィーズポンプ(弾力性を有するチューブを外部からローラーで潰し、液体を絞り出すように作動するポンプ)、またはローラー式の血液ポンプ等が、ポンプ部として用いられてもよい。
【0018】
人工肺20は、遠心ポンプ10よりも重力方向の上方に配置される。人工肺20は、相互に束ねられた複数の中空糸膜(図示せず)から構成される。人工肺20は、血液中から二酸化炭素を除去するとともに、血液中に酸素を付加する。体外循環装置100においては、人工肺20の代わりに、特定の物質を血液中から除去したりするもの、特定の物質を血液中に付加するもの、または、血液の温度を所定の値に調整するもの等が、血液処理部として用いられてもよい。
【0019】
体外循環回路30は、チューブ状の部材から環状に形成される。体外循環回路30は、第1経路32および第2経路34を含む。体外循環回路30の第2経路34は、遠心ポンプ10の内部、および人工肺20の内部にそれぞれ連通している。遠心ポンプ10および人工肺20は、体外循環回路30の一部として構成されている。
【0020】
プライミング液導入部40は、プライミング液42、収容バッグ44、およびプライミングライン46を含む。プライミング液導入部40は、体外循環回路30内にプライミング液42を導入する。プライミング液42は、たとえば生理食塩水である。収容バッグ44は、プライミング液42を収容する。プライミングライン46は、チューブ状の部材から形成される。本実施の形態においては、収容バッグ44は、体外循環回路30よりも重力方向における上方に配置されている。
【0021】
プライミングライン46の一端は、収容バッグ44に接続される。プライミングライン46の他端は、体外循環回路30に接続される。体外循環回路30は、プライミングライン46に接続された部分から、第1経路32および第2経路34に分岐している。第1経路32および第2経路34は、後述する空気排出部50の近傍において合流する。
【0022】
プライミング液導入部40としては、プライミング液42を落差によって体外循環回路30内に導入するものの他に、外部からプライミング液42に対して付与される圧力によって、プライミング液42が体外循環回路30内に導入されてもよい。外部からの圧力によってプライミング液42を体外循環回路30内に導入する場合、収容バッグ44は、体外循環回路30よりも重力方向の上方に設けられていてもよく、体外循環回路30よりも重力方向の下方に設けられていてもよく、体外循環回路30と同一の高さに設けられていてもよい。
【0023】
空気排出部50も、体外循環回路30に接続される。空気排出部50は、人工肺20よりも重力方向の上方に配置される。好ましくは、空気排出部50は、体外循環回路30の重力方向の最上部に配置される。具体的には、空気排出部50は、疎水性フィルター52、収容ケース54、開閉コック56、および排出ライン58を含む。排出ライン58が、体外循環回路30に接続される。排出ライン58上に、開閉コック56が設けられる。収容ケース54内に、疎水性フィルター52が設けられる。
【0024】
疎水性フィルター52は、たとえば多孔質構造を有する部材から構成される。多孔質構造を有する部材は、表面張力が低いため、水滴をはじきやすい。疎水性フィルター52は、通気性を確保しつつ、プライミング液42の通過を制限することができる。疎水性フィルター52に用いられる部材の材料としては、たとえば、セルロース、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、エチレン、プロピレン、4−メチルペンテン−1、1−ブテン等のモノマーを単体で重合または共重合して得られるポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0025】
検知部60は、コントローラー14に接続された流量センサー等から構成される。検知部60は、プライミング液導入部40から体外循環回路30内に導入されたプライミング液42が、体外循環回路30内における所定の領域36にまで到達したことを検知する。
【0026】
領域36とは、体外循環回路30内における遠心ポンプ10よりも重力方向の上方であって、且つ、空気排出部50よりも重力方向の下方の領域である。本実施の形態における領域36とは、体外循環回路30内における人工肺20よりも重力方向の上方であって、且つ、空気排出部50よりも重力方向の下方の領域である。検知部60としては、体外循環回路30内の領域36を流れるプライミング液42を、光学的、電気的、または電磁的な手段等に基づき検知するものであれば、流量センサー以外のものが用いられてもよい。
【0027】
(体外循環装置100のプライミング動作)
図2〜図8を参照して、体外循環装置100の体外循環回路30に対して実施されるプライミング動作(体外循環装置100のプライミング方法)について説明する。
【0028】
図2に示すように、体外循環装置100を使用する際は、まず、体外循環装置100を構成する各種機器が準備される(図10も参照)。各種機器が準備された時点においては、検知部60は体外循環回路30から離間している。駆動装置12は遠心ポンプ10から離間している。プライミングライン46も、収容バッグ44には接続されていない。
【0029】
各種機器が準備された後、遠心ポンプ10に駆動装置12が取り付けられる(矢印AR1参照)。体外循環回路30の領域36に検知部60が取り付けられる(矢印AR2参照)。プライミングライン46が収容バッグ44に接続(穿刺)される(矢印AR3参照)。
【0030】
次に、コントローラー14の電源スイッチ16が投入される。電源スイッチ16は、プライミングライン46が収容バッグ44に接続される前に投入されてもよい。電源スイッチ16は、体外循環回路30の領域36に検知部60が取り付けられる前に投入されてもよい。電源スイッチ16は、遠心ポンプ10に駆動装置12が取り付けられる前に投入されてもよい。電源スイッチ16が投入された時点では、駆動装置12は遠心ポンプ10を駆動していない。
【0031】
詳細は以下に説明されるが、体外循環装置100のプライミング動作に必要な作業者(医師、技士、または看護師など)の行動は、以上の動作のみである。体外循環装置100においては、以降のプライミング動作は、プライミングの動作の完了に至るまで自動的に実施される。
【0032】
したがって、医師は、体外循環回路30等から離れて、患者の血管にカニューレを挿入したり(カニューレーション)、他の準備に取り組んだりすることができる。技士も、体外循環回路30等から離れて、各種の医療器具等を準備することができる。看護師も、体外循環回路30等から離れて、各種の薬液等を準備することができる。
【0033】
図3を参照して、プライミングライン46が収容バッグ44に接続されることによって、プライミングライン46は収容バッグ44の内部に連通する。プライミング液42は、プライミング液42の自重によって、プライミングライン46内を重力方向の下方に向かって流れる(矢印AR4参照)。体外循環回路30内の空気は、排出ライン58、開閉コック56、および疎水性フィルター52を通して外部に排出される(矢印DR1参照)。
【0034】
図4を参照して、プライミング液42は、プライミングライン46内を通過して、体外循環回路30(第2経路34)内に導入される(矢印AR5参照)。体外循環回路30内の空気は、排出ライン58、開閉コック56、および疎水性フィルター52を通して引続き外部に排出される(矢印DR1参照)。
【0035】
図5を参照して、プライミング液42は、プライミング液導入部40と体外循環回路30との間の落差によって、第1経路32内を重力方向の上方に向かって流れる(矢印AR6参照)。プライミング液42は、第2経路34内も重力方向の上方に向かって流れる(矢印AR7参照)。
【0036】
第1経路32内を流れるプライミング液42および第2経路34内を流れるプライミング液42は、重力方向の上方に向かってさらに流れる。第2経路34内を流れるプライミング液42は、遠心ポンプ10の内部を通過する。その後、第2経路34内を流れるプライミング液42は、人工肺20の内部を通過する。
【0037】
図6を参照して、第1経路32内を流れるプライミング液42は、重力方向の上方に向かってさらに流れる(矢印AR7参照)。第2経路34内を流れるプライミング液42も、重力方向の上方に向かってさらに流れる(矢印AR8参照)。
【0038】
図6に示すように、第2経路34内を流れるプライミング液42が領域36にまで到達したとする。検知部60は、領域36にまでプライミング液42が到達したことを検知する。この情報は、コントローラー14に信号として入力される。コントローラー14は、タイマー(図示せず)を内蔵しており、領域36にまでプライミング液42が到達したことを検知部60が検知してから所定の時間(たとえば10秒〜20秒)の経過後に、駆動装置12を駆動させる。
【0039】
図7を参照して、領域36にまでプライミング液42が到達したことを検知部60が検知してから所定の時間(たとえば10秒〜20秒)が経過するまでの間に、体外循環回路30内および排出ライン58内は、プライミング液42によって満たされる。プライミングライン46、体外循環回路30、遠心ポンプ10、人工肺20、および排出ライン58内に存在していた空気のほとんどは、外部に排出される。
【0040】
外部に排出されなかった空気は、遠心ポンプ10、人工肺20、および体外循環回路30内(体外循環回路30とプライミングライン46とのつなぎ目または体外循環回路30が撓んでいる部分)などに、微小な気泡として残存している。体外循環装置100においては、駆動装置12が遠心ポンプ10を駆動することによって、微小な気泡を排出する。
【0041】
図8を参照して、具体的には、コントローラー14が、上記の所定の時間(たとえば10秒〜20秒)の経過後に、駆動装置12を駆動させる。遠心ポンプ10によって、プライミング液42は、体外循環回路30内、遠心ポンプ10の内部、および人工肺20の内部を循環する(矢印AR9参照)。体外循環回路30内などに残留していた気泡(空気)は、プライミング液42の循環によって、体外循環回路30内から外部に排出される。
【0042】
本実施の形態においては、体外循環回路30内などに残留していた気泡(空気)は、人工肺20を通して外部に排出される(矢印DR2参照)。この際、開閉コック56は閉塞されているか、または、開閉コック56は、体外循環回路30内における陰圧でない位置(たとえば遠心ポンプ10の下流付近)に設けられているとよい。あるいは、開閉コック56の代わりに、一方弁(逆止弁)が設けられていてもよい。プライミング液42が人工肺20を構成する複数の中空糸膜の内部に通流されることによって、体外循環回路30内などに残留していた気泡(空気)は、中空糸膜の内側から外側(人工肺20の外部)に向かって排出される。
【0043】
体外循環回路30内等を、プライミング液42がたとえば約5分間循環される。体外循環回路30内、遠心ポンプ10の内部、および人工肺20の内部に残留していた気泡は、体外循環回路30内から完全に外部に排出されることができる。以上により、体外循環装置100のプライミング動作は完了する。
【0044】
図9を参照して、プライミング動作が完了した後、体外循環回路30は所定の位置で切断される。体外循環回路30には、脱血口33および返血口35が形成される。なお、体外循環回路30を切断する位置は、図9に示される位置に限定されない。体外循環回路30は、たとえば、空気排出部50を体外循環回路30から分離しないような他の位置で切断されてもよい。
【0045】
図10を参照して、プライミング動作が実施される一方では、カニューレーションによって、カニューレ72は、患者の大体動脈82に経皮的に挿入されている。カニューレ74は、患者の大体静脈84に経皮的に挿入されている。カニューレ74の先端は、右心房86内に配置されている。体外循環回路30の脱血口33は、カニューレ74に接続される。体外循環回路30の返血口35は、カニューレ72に接続される。
【0046】
体外循環装置100が使用される際には、上記のほかにも、架台68、酸素タンク62、バッテリー64、熱交換器66などが準備される。以上のように、準備、プライミング動作、および設置が完了した体外循環装置100は、血液の体外循環に使用されることが可能となる。
【0047】
(作用・効果)
上述のとおり、体外循環装置100のプライミング動作に必要な作業者(医師、技士、または看護師など)の行動は、主として、プライミングライン46を収容バッグ44に接続(穿刺)すること、および、コントローラー14の電源スイッチ16を投入することのみである。その後、体外循環装置100に対しては、自動的にプライミング動作が実施される。
【0048】
医師は、体外循環回路30等から離れて、患者の血管にカニューレを挿入したり(カニューレーション)、他の準備に取り組んだりすることができる。技士も、体外循環回路30等から離れて、各種の医療器具等を準備することができる。看護師も、体外循環回路30等から離れて、各種の薬液等を準備することができる。
【0049】
体外循環装置100によれば、作業員は、プライミング液が体外循環回路内に満たされたか否かを確認したりする必要がなく、プライミング液が体外循環回路内に満たされたことを待って駆動装置を駆動する必要もない。体外循環装置100においては、検知部60およびコントローラー14によって、所定のタイミングにおいて自動的に駆動装置12が駆動される。したがって体外循環装置100によれば、人的資源をなるべく必要とせずにプライミング動作を効率的に実施することが可能となる。
【0050】
(第1変形例)
図11に示す体外循環装置101のように、検知部60が配置される領域36は、体外循環回路30内における遠心ポンプ10よりも重力方向の上方であって、且つ、人工肺20よりも重力方向の下方の領域であってもよい。
【0051】
本変形例においても、領域36は、体外循環回路30内における遠心ポンプ10よりも重力方向の上方であって、且つ、空気排出部50よりも重力方向の下方に位置している。当該構成によっても、上述の実施の形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0052】
(第2変形例)
図12に示す体外循環装置102においては、上述の実施の形態の場合に比べて、領域36が空気排出部50寄りに位置している。本変形例においても、領域36は、体外循環回路30内における遠心ポンプ10よりも重力方向の上方であって、且つ、空気排出部50よりも重力方向の下方に位置している。当該構成によっても、上述の実施の形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0053】
(第3変形例)
図13に示す体外循環装置103においては、領域36が第1経路32内に位置している。領域36は、体外循環回路30内における遠心ポンプ10よりも重力方向の上方であって、且つ、人工肺20よりも重力方向の下方に位置している。
【0054】
本変形例においても、領域36は、体外循環回路30内における遠心ポンプ10よりも重力方向の上方であって、且つ、空気排出部50よりも重力方向の下方に位置している。当該構成によっても、上述の実施の形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0055】
(第4変形例)
図14に示す体外循環装置104においては、領域36が第1経路32内に位置している。領域36は、体外循環回路30内における人工肺20よりも重力方向の上方であって、且つ、空気排出部50よりも重力方向の下方に位置している。
【0056】
本変形例においても、領域36は、体外循環回路30内における遠心ポンプ10よりも重力方向の上方であって、且つ、空気排出部50よりも重力方向の下方に位置している。当該構成によっても、上述の実施の形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0057】
以上、本発明に基づいた実施の形態および各変形例について説明したが、今回開示された実施の形態および各変形例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
10 遠心ポンプ、12 駆動装置、14 コントローラー、16 電源スイッチ、20 人工肺、30 体外循環回路、32 第1経路、33 脱血口、34 第2経路、35 返血口、36 領域、40 プライミング液導入部、42 プライミング液、44 収容バッグ、46 プライミングライン、50 空気排出部、52 疎水性フィルター、54 収容ケース、56 開閉コック、58 排出ライン、60 検知部、62 酸素タンク、64 バッテリー、66 熱交換器、68 架台、72,74 カニューレ、82 大体動脈、84 大体静脈、100,101,102,103,104 体外循環装置、AR1,AR2,AR4,AR5,AR6,AR7,AR8,AR9,DR1,DR2 矢印。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライミング動作が実施された後に血液の体外循環に使用される体外循環装置であって、
駆動装置によって駆動されるポンプ部と、
前記ポンプ部よりも重力方向の上方に配置された血液処理部と、
環状に形成されるとともに、前記ポンプ部および前記血液処理部に連通する体外循環回路と、
前記体外循環回路に接続され、前記体外循環回路内にプライミング液を導入するプライミング液導入部と、
前記体外循環回路に接続され、前記血液処理部よりも重力方向の上方に配置された空気排出部と、
前記プライミング液導入部から前記体外循環回路内に導入された前記プライミング液が、前記体外循環回路内における前記ポンプ部よりも重力方向の上方であって且つ前記空気排出部よりも重力方向の下方の領域にまで到達したことを検知する検知部と、を備え、
前記プライミング動作が実施される際には、
前記プライミング液導入部から前記体外循環回路内に前記プライミング液が導入されることによって、前記体外循環回路内の空気は前記空気排出部を通して外部に排出され、
前記駆動装置は、前記領域にまで前記プライミング液が到達したことを前記検知部が検知してから所定の時間経過後に前記ポンプ部を駆動させ、
前記ポンプ部によって、前記プライミング液は前記体外循環回路内を循環し、
前記体外循環回路内に残留する空気は、前記体外循環回路内を循環する前記プライミング液によって、前記血液処理部を通して外部に排出される、
体外循環装置。
【請求項2】
前記ポンプ部は、遠心力によって液体を送液することが可能な遠心ポンプである、
請求項1に記載の体外循環装置。
【請求項3】
前記血液処理部は、血液中から二酸化炭素を除去するとともに血液中に酸素を付加する人工肺である、
請求項1または2に記載の体外循環装置。
【請求項4】
血液の体外循環に使用される体外循環装置のプライミング方法であって、
前記体外循環装置は、
駆動装置によって駆動されるポンプ部と、
前記ポンプ部よりも重力方向の上方に配置された血液処理部と、
環状に形成されるとともに、前記ポンプ部および前記血液処理部に連通する体外循環回路と、
前記体外循環回路に接続され、前記体外循環回路内にプライミング液を導入するプライミング液導入部と、
前記体外循環回路に接続され、前記血液処理部よりも重力方向の上方に配置された空気排出部と、
前記プライミング液導入部から前記体外循環回路内に導入された前記プライミング液が、前記体外循環回路内における前記ポンプ部よりも重力方向の上方であって且つ前記空気排出部よりも重力方向の下方の領域にまで到達したことを検知する検知部と、を含み、
前記プライミング液導入部から前記体外循環回路内に前記プライミング液が導入されることによって、前記体外循環回路内の空気は前記空気排出部を通して外部に排出される工程と、
前記領域にまで前記プライミング液が到達したことを前記検知部が検知してから所定の時間経過後に前記駆動装置が前記ポンプ部を駆動させる工程と、を備え、
前記ポンプ部によって、前記プライミング液は前記体外循環回路内を循環し、
前記体外循環回路内に残留する空気は、前記体外循環回路内を循環する前記プライミング液によって、前記血液処理部を通して外部に排出される、
体外循環装置のプライミング方法。
【請求項1】
プライミング動作が実施された後に血液の体外循環に使用される体外循環装置であって、
駆動装置によって駆動されるポンプ部と、
前記ポンプ部よりも重力方向の上方に配置された血液処理部と、
環状に形成されるとともに、前記ポンプ部および前記血液処理部に連通する体外循環回路と、
前記体外循環回路に接続され、前記体外循環回路内にプライミング液を導入するプライミング液導入部と、
前記体外循環回路に接続され、前記血液処理部よりも重力方向の上方に配置された空気排出部と、
前記プライミング液導入部から前記体外循環回路内に導入された前記プライミング液が、前記体外循環回路内における前記ポンプ部よりも重力方向の上方であって且つ前記空気排出部よりも重力方向の下方の領域にまで到達したことを検知する検知部と、を備え、
前記プライミング動作が実施される際には、
前記プライミング液導入部から前記体外循環回路内に前記プライミング液が導入されることによって、前記体外循環回路内の空気は前記空気排出部を通して外部に排出され、
前記駆動装置は、前記領域にまで前記プライミング液が到達したことを前記検知部が検知してから所定の時間経過後に前記ポンプ部を駆動させ、
前記ポンプ部によって、前記プライミング液は前記体外循環回路内を循環し、
前記体外循環回路内に残留する空気は、前記体外循環回路内を循環する前記プライミング液によって、前記血液処理部を通して外部に排出される、
体外循環装置。
【請求項2】
前記ポンプ部は、遠心力によって液体を送液することが可能な遠心ポンプである、
請求項1に記載の体外循環装置。
【請求項3】
前記血液処理部は、血液中から二酸化炭素を除去するとともに血液中に酸素を付加する人工肺である、
請求項1または2に記載の体外循環装置。
【請求項4】
血液の体外循環に使用される体外循環装置のプライミング方法であって、
前記体外循環装置は、
駆動装置によって駆動されるポンプ部と、
前記ポンプ部よりも重力方向の上方に配置された血液処理部と、
環状に形成されるとともに、前記ポンプ部および前記血液処理部に連通する体外循環回路と、
前記体外循環回路に接続され、前記体外循環回路内にプライミング液を導入するプライミング液導入部と、
前記体外循環回路に接続され、前記血液処理部よりも重力方向の上方に配置された空気排出部と、
前記プライミング液導入部から前記体外循環回路内に導入された前記プライミング液が、前記体外循環回路内における前記ポンプ部よりも重力方向の上方であって且つ前記空気排出部よりも重力方向の下方の領域にまで到達したことを検知する検知部と、を含み、
前記プライミング液導入部から前記体外循環回路内に前記プライミング液が導入されることによって、前記体外循環回路内の空気は前記空気排出部を通して外部に排出される工程と、
前記領域にまで前記プライミング液が到達したことを前記検知部が検知してから所定の時間経過後に前記駆動装置が前記ポンプ部を駆動させる工程と、を備え、
前記ポンプ部によって、前記プライミング液は前記体外循環回路内を循環し、
前記体外循環回路内に残留する空気は、前記体外循環回路内を循環する前記プライミング液によって、前記血液処理部を通して外部に排出される、
体外循環装置のプライミング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
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【図4】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−17580(P2013−17580A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151800(P2011−151800)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】
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