説明

体外循環装置及び体外循環方法

【課題】送血流量を所望の範囲に維持しながら、血液処理装置の最大使用流量で制限されることなく、遠心ポンプを十分に大きな流量で使用可能な体外循環装置を提供する。
【解決手段】脱血ライン1と、脱血ラインに吸込みポートが接続された遠心ポンプ2と、遠心ポンプの吐出ポートに入口ポートが接続された血液処理装置3と、血液処理装置の出口ポートに接続され送血ライン4とを備え、遠心ポンプの作動により患者から脱血ラインを介して脱血された血液が、血液処理装置により血液処理された後、送血ラインを介して患者に送血されるように構成された体外循環装置。血液処理装置の出口側と遠心ポンプの吸込み側とを接続する送脱血シャントライン6と、遠心ポンプの吐出側と吸込み側とを接続するポンプシャントライン7とを更に備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心不全等に際しての経皮的補助血液循環に使用される体外循環装置及び体外循環方法に関する。
【背景技術】
【0002】
急性心不全など自己の心機能が著しく低下した際には、患者の大腿動静脈からカニューレを経皮的に挿人し、図8に示すような装置で体外循環を行い、血液循環の補助を行うことがある(PCPS法)。
【0003】
この装置は、脱血ライン1と、遠心ポンプ2と、人工肺3と、送血ライン4とで構成された循環回路を有する。遠心ポンプ2の作動により患者から脱血ライン4のカテーテルを介して脱血された血液は、人工肺3により酸素加・脱炭酸ガスが行われた後、送血ライン4のカテーテルを介して患者に送血される。プライミング液容器13は、循環回路に対してプライミング液を供給するために配置される。
【0004】
補助循環の施行期間は最大で2週間程度であり、成人であれば1〜3L/minの流量で循環を行う。このような補助循環では、施行中の出血を抑えるためへパリンなどの抗凝固処置は最低限度の投与で行われる。従って、遠心ポンプや人工肺での血栓形成の抑制は、重要な課題である。低流量で循環させる場合には、回路内うっ血による血栓生成のリスクが大きいからである。
【0005】
補助循環は新生児や乳幼児でも適用され、その場合、血液流量は0.2〜1.OL/minと、非常に低流量で運用される。そのため、低流量に起因する回路内うっ血により血栓のリスクがさらに大きくなる。
【0006】
一方、遠心ポンプの回転数(揚程)は、乳幼児用の場合においても成人の場合と同等程度である。従って、遠心ポンプ回転数に対する血液流量は、成人の場合よりも少なくなる。図9に、遠心ポンプ回転数が4100min-1で、血液流量が1L/min、及び5L/minの場合の各々について、溶血係数(g/100L)を測定した結果を示す。これによれば、ポンプ回転数に対する血液流量が少ない方が、溶血係数が増大することが判る。すなわち、低流量で遠心ポンプを駆動した場合には、溶血悪化の原因となるリスクはより高くなる。従って、乳幼児での補助循環は、ローラーポンプを使用する場合が多い。
【0007】
但し、ローラーポンプを用いた補助循環の場合、予期しない回路閉塞の場合には急激に回路内圧を上昇させ、血液漏出や回路破損のリスクが大きい。また、脱血不良が生じた際には過剰な陰圧が発生するなど、長期にわたる管理が煩雑である。そのため、補助循環には遠心ポンプの使用が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−297272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、遠心ポンプには、前述のとおり低流量での運用には問題点がある。また、遠心ポンプを低揚程で駆動した場合、血圧の変化によって影響を受け、運転状態が不安定になるおそれがある。そこで、この問題のーつの解決策として、図10に示すような回路により体外循環を行うことが考えられる。この回路は、基本的には図8に示したものと同様であり、図10には、図8の装置の循環回路部分のみの基本構成が示される。
【0010】
図10において、図8の回路と同様の要素には同一の番号が付与されている。脱血ライン1は、遠心ポンプ2の吸込みポート2aに接続されている。遠心ポンプ2の吐出ポート2bと、人工肺3の入口ポート3aの間は、中間接続ライン5により連絡されている。
【0011】
この回路には、人工肺3の出口側と遠心ポンプ2の吸込み側を短絡させた送脱血シャントライン6が設けられている。そのため、この回路により体外循環を行う際には、人工肺3から流出した血液の一部は患者へ送血されることなく、送脱血シャントライン6を経由して再度遠心ポンプ2に吸い込まれる。これにより、患者への送血流量を変えることなく、人工肺3および遠心ポンプ2を通過する流量(以下、回路内流量と称する)を増加させることができる。この回路内流量の増加により、回路内うっ血による血栓形成のリスクを低減できる。
【0012】
しかし、この方法を用いても、乳幼児領城では、送脱血シャントライン6を経由させて増加させることができる回路内流量は、高々1.0〜2.OL/minである。回路内流量は、使用する人工肺3の最大使用流量で制限されるためである。遠心ポンプは一般的に7L/minが最大使用流量であることを考えた場合、1.0〜2.0L/minの回路内流量では、血栓抑制にはそれ程期待できない。
【0013】
以上のような問題は、人工肺が組み込まれた構成に限らず、遠心ポンプで送液される循環回路中に他の種類の血液処理装置、例えば、熱交換器、血液浄化器(特に吸着型)等が組み込まれた場合にも共通である。
【0014】
そこで本発明は、患者への送血流量を所望の範囲に維持しながら、血液処理装置の最大使用流量により制限されることなく、遠心ポンプを十分に大きな流量で使用可能な体外循環装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の体外循環装置は、脱血ラインと、前記脱血ラインに吸込みポートが接続された遠心ポンプと、前記遠心ポンプの吐出ポートに入口ポートが接続された血液処理装置と、前記血液処理装置の出口ポートに接続され送血ラインとを備え、前記遠心ポンプの作動により患者から脱血ラインを介して脱血された血液が、前記血液処理装置により血液処理された後、前記送血ラインを介して患者に送血されるように構成される。
【0016】
上記課題を解決するために、更に、前記血液処理装置の出口側と前記遠心ポンプの吸込み側とを接続する送脱血シャントラインと、前記遠心ポンプの吐出側と吸込み側とを接続するポンプシャントラインとを備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明の体外循環方法は、脱血ラインと、前記脱血ラインに吸込みポートが接続された遠心ポンプと、前記遠心ポンプの吐出ポートに入口ポートが接続された血液処理装置と、前記血液処理装置の出口ポートに接続され送血ラインとを備え、前記遠心ポンプの作動により患者から脱血ラインを介して脱血された血液が、前記血液処理装置により血液処理された後、前記送血ラインを介して患者に送血されるように構成された体外循環装置を用いた体外循環方法である。
【0018】
上記課題を解決するために、前記血液処理装置の出口側と前記遠心ポンプの吸込み側とを接続する送脱血シャントラインにより前記血液処理装置の通過流量が前記送血ラインからの送血流量よりも大きくなるように調節するとともに、前記遠心ポンプの吐出側と吸込み側とを接続するポンプシャントラインにより、前記遠心ポンプの流量が前記血液処理装置の通過流量よりも大きくなるように調節することを特徴とする。
【0019】
血液処理装置としては、遠心ポンプで送液される循環回路内に組み込まれるものであれば、限定されることなく本発明の適用が可能である。特に適用が望ましいものとしては、人工肺、熱交換器、血液浄化器(特に吸着型)等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0020】
上記構成によれば、送脱血シャントラインとともにポンプシャントラインにより回路内での循環を行なうことで、患者への送血流量を所望の範囲に維持し、血液処理装置の流量は最大使用流量を越えさせることなく、遠心ポンプを十分に大きな流量で使用することが可能である。それにより、遠心ポンプや循環回路内の血栓形成や溶血を低減でき、しかも効率よく血液処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態における体外循環装置の概要を示すブロック図
【図2】同体外循環装置について、ポンプシャントラインによる効果を確認するための実験結果を示す図
【図3】同体外循環装置について、ポンプ揚程の変化によるポンプ流量及び人工肺通過流量の変化の測定結果を示す図
【図4】同体外循環装置について、患者血圧が8.0kPaの場合のポンプ流量、人工肺通過流量及び送血流量の測定結果を示す図
【図5】同体外循環装置について、患者血圧が10.7kPaの場合のポンプ流量、人工肺通過流量及び送血流量の測定結果を示す図
【図6】同体外循環装置について、患者血圧が13.3kPaの場合のポンプ流量、人工肺通過流量及び送血流量の測定結果を示す図
【図7】同体外循環装置について、患者血圧が16.0kPaの場合のポンプ流量、人工肺通過流量及び送血流量の測定結果を示す図
【図8】従来例の体外循環装置の概要を示す斜視図
【図9】遠心ポンプについて血液流量に対する溶血係数の変化を測定した結果を示す図
【図10】従来例の体外循環装置を改善するための構成の概要を示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は上記構成を基本として、以下のような態様をとることができる。
【0023】
すなわち、上記構成の体外循環装置において、前記送脱血シャントラインの流量を調節する流量調節部を備えることが好ましい。前記流量調節部はローラークランプにより構成することができる。
【0024】
また、好ましくは、前記送血ラインにおける前記送脱血シャントラインへの分岐箇所よりも下流側に配置された流量センサーと、前記流量センサーにより検出される流量値に応じて、前記流量調節部による流量の調節を制御する制御部とを備える。
【0025】
前記制御部は、前記流量センサーにより検出される流量値が所定の範囲内に調節されるように前記流量調節部を制御する構成とすることができる。
【0026】
また、好ましくは、前記制御部は、前記流量調節部を閉鎖状態としてとして運転を開始し、その後、前記流量調節部により調節される流量を徐々に増大させながら、前記流量センサーにより検出される流量値が所定の範囲内になるように制御する。
【0027】
また、好ましくは、前記制御部は、前記流量センサーにより検出される流量値が所定流量未満のときは、前記送脱血シャントラインを閉鎖する。
【0028】
また、前記血液処理装置は人工肺であり、前記血液処理が酸素加・脱炭酸ガスである構成とすることができる。
【0029】
上記構成の体外循環方法において、好ましくは、前記送脱血シャントラインを閉鎖状態として運転を開始し、その後、前記送脱血シャントラインの流量を徐々に増大させながら、前記送血ラインからの前記送血流量が所定の範囲内になるように前記送脱血シャントラインの流量を調節する。
【0030】
また、前記血液処理装置として人工肺を用い、前記血液処理を酸素加・脱炭酸ガスとすることができる。
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。以下の説明では、血液処理装置として人工肺が用いられた場合を例として説明する。
【0032】
(実施の形態)
本発明の一実施の形態における体外循環装置の構成について、図1を参照して説明する。図1は循環回路の部分の概要を示し、図10の循環回路と同様の要素には同一の番号を付与して、説明の繰り返しを省略する。
【0033】
この循環回路は、図10に示した回路を基本構成とするものであり、その特徴は、人工肺3の出口側(送血ライン4)と遠心ポンプ2の吸込み側(脱血ライン1)を短絡させた送脱血シャントライン6に加えて、ポンプシャントライン7が設けられたことである。ポンプシャントライン7は、遠心ポンプ2の吐出側と吸込み側とを接続(短絡)している。
【0034】
この循環回路には更に、送脱血シャントライン7に対して設けられ、流量を調節する流量調節部8を有する。また、送血ライン4における送脱血シャントライン6への分岐箇所よりも下流側に、流量センサー9が設けられて、送血ライン4中の血液流量を検出する。この流量センサー9により検出される血液流量値は、制御部10に送られ、制御部10はその血液流量値に応じて、流量調節部8による流量の調節を制御するように構成されている。制御の内容については後述する。
【0035】
この循環回路により体外循環を行うと、図10に示した回路の場合と同様に、人工肺3から流出した血液の一部は患者へ送血されることなく、送脱血シャントライン6を経由して再度遠心ポンプ2に吸い込まれる。これにより、患者への送血流量を変えることなく、回路内流量(人工肺3および遠心ポンプ2を通過する流量)を増加させることができる。
【0036】
しかし、上述のとおり、送脱血シャントライン6を設けただけでは、使用する人工肺3の最大使用流量により回路内流量が制限されるため、回路内流量が血栓抑制のためには不十分な場合がある。すなわち、人工肺3の最大使用流量で制限された流量では、遠心ポンプ2にとっては十分大きい流量とならない場合である。
【0037】
そこで、本実施の形態の回路では、ポンプシャントライン7を設けることにより、遠心ポンプ2の流量を増加させる構成が採用されている。すなわち、ポンプシャントライン7により増加させることができる遠心ポンプ2の流量は、人工肺3を通過することがないので、人工肺3の能力により制限されることがない。これにより、遠心ポンプ2の流量として、血栓抑制のために十分な大きさの流量を確保することが可能となる。すなわち、最大使用流量の大きい遠心ポンプを使用した場合でも、回路内うっ血による血栓形成のリスクを低減できる。
【0038】
以上のとおり、本実施の形態の循環回路は、送脱血シャントライン6により、人工肺3の通過流量が送血ライン4からの送血流量よりも大きくなるように調節するとともに、ポンプシャントライン7により、遠心ポンプ2の流量が人工肺3の通過流量よりも大きくなるように調節する体外循環方法を可能とするものである。
【0039】
このような体外循環方法は、図1に示したような流量センサー9及び制御部10が設けられていない循環装置を用いて、手動により行なうことも可能である。その場合、流量調節部8は、例えば、手動で操作するローラークランプにより構成することができる。ローラークランプを操作することにより、送血ライン4から送血される流量に応じて、回路内流量を適切な範囲に維持することが可能である。
【0040】
一方、図1に示すように流量センサー9及び制御部10を備え、流量調節部8を、制御部10により動作を制御可能な構成にすることが望ましい。回路内流量の適切な値は、体外循環装置により循環させる血液流量、すなわち、必要とされる送血流量の大きさに応じて変化する。すなわち、患者へ送血すべき流量が大きい場合は、回路内流量を低減し、患者へ送血すべき流量が小さい場合は、回路内流量を増大させる必要がある。この条件に適合させるために、流量センサー9により検出される血液流量値に応じて、制御部10が流量調節部8を制御する構成とする。これにより、送血ライン4から送血される流量に応じた回路内流量の調節を自動的に行なうことが可能となる。
【0041】
制御部10による制御は、基本的には、流量センサー9により検出される流量値が所定の範囲内に調節されるように流量調節部8を動作させるものである。
【0042】
但し、後述するように、遠心ポンプ2の揚程と患者の血圧の関係、及び流量調節部8が通過させる流量の大きさによっては、送血ライン4から送脱血シャントライン6を介して脱血ライン1へ流れる逆流が発生する場合がある。このような事態の発生を回避するためには、図1に示すように、送血ライン4における流量センサー9の下流側、あるいは、脱血ライン1の少なくとも一方に、逆流防止弁11、12や、その他の逆流防止装置(逆流を検知した際に回路を閉鎖する装置)を設けることが望ましい。
【0043】
あるいは、この循環回路による体外循環の開始時に、次のような制御を行ってもよい。すなわち、開始にはまず流量調節部8を閉鎖して、送脱血シャントライン6の流量をゼロにした状態で循環を開始し、その後、流量調節部8により調節される流量を徐々に増大させながら、流量センサー9により検出される流量値が所定の範囲内になるように制御を行う。
【0044】
また、制御部10は、流量センサー9により検出される流量値が所定流量未満のときは、送脱血シャントライン6を閉鎖するように制御することが望ましい。運転開始後であっても、上述のような逆流の発生を回避するためである。
【0045】
なお、ポンプシャントライン7にも流量調節部を設けても良いが、必ずしも必要ではない。
<本実施の形態の体外循環装置についての測定結果>
本実施の形態の具体的な構成との一例として、以下のような循環回路を作成した。すなわち、人工肺3の出口側と遠心ポンプ2の吸込み側を短絡させる送脱血シャントライン6としては、内径3.5mmのチューブを組み込み、流量調節部8としてローラークランプを用いた。また遠心ボンプ2の流量を増加させるポンプシャントライン7には、内径4.7mmのチューブを組み込んだ。人工肺3の最大使用流量は2.0〜2.5L/min、遠心ポンプ2の最大使用流量は7L/minとした。
【0046】
この循環回路を用いて、本発明の構成による効果を確認した実験の結果を、図2に示す。同図の横軸は、ローラークランプを操作して、送脱血シャントライン6を閉鎖した場合、半開にした場合、及び全開にした場合を示す。縦軸は流量を示す。折れ線A〜Cはそれぞれ、ポンプ流量、人工肺通過流量、送血流量を示す。送血流量は、流量センサー9の位置で検出される流量である。
【0047】
患者血圧は8.0kPaに設定し、遠心ポンプ2の揚程を40.0kPa(回転数4000min-1)に設定した。この場合、送血流量Cは、クランプ(流量調節部8)を閉じている場合(閉鎖)には約ILであり、クランプを全開することで0.5Lまで変動した。ちなみに、シャントライン6、7を両方とも閉鎖して循環させた場合(シャントライン無し)には、送血流量Cは1.2L程度であった。一方、人工肺通過流量Bは、ILから2L程度まで変動しており、ポンプ流量Aも5Lから6Lまで変動している。つまり、ローラークランプ操作によって、送血流量Cを乳幼児PCPSで想定される流量(0.5L/min程度)に制御した場合でも、ポンプ流量Aや人工肺通過流量Bは、それぞれの最大使用流量の範囲内で運用されていることが判る。すなわち、人工肺通過流量B、ポンプ流量Aともに、血栓抑制のために十分な大きさの流量を確保することが可能である。
【0048】
なお、この場合のポンプ流量Aや人工肺通過流量Bは、ポンプ揚程(回転数)の変化に応じて変化する。この変化について実験した結果を、図3に示す。横軸、縦軸ともに図2の場合と同様である。A1、B1はポンプ揚程が53.3kPa(回転数4500min-1で駆動)の場合、A2、B2は40.0kPa(4000min-1)の場合、及びA3、B3は26.7kPa(3000min-1)の場合についての測定結果を示す。この測定結果から、ポンプ揚程の通常の範囲内では、ポンプ流量A、人工肺通過流量Bともに、十分な流量を確保できることが判る。
【0049】
次に、患者血圧が16.0kPaまで上昇した場合について検討した結果について、図4〜図7を参照して説明する。図4は患者血圧が8.0kPaの場合、図5は10.7kPaの場合、図6は13.3kPaの場合、図7は16.0kPaの場合を示す。各図の横軸は、図2の場合と同様、ローラークランプを閉鎖した場合、半開にした場合、及び全開にした場合を示す。左の縦軸は、ポンプ流量または人工肺通過流量を示す。右の縦軸は、送血流量を示す。
【0050】
各図において、A1〜A3はポンプ流量、B1〜B3は人工肺通過流量、及びC1〜C3は送血流量の測定結果を示す。また、各図において、A1、B1、C1はポンプ揚程が53.3kPaの場合、A2、B2、C2は40.0kPaの場合、及びA3、B3、C3は26.7kPaの場合の測定結果を示す。
【0051】
ポンプ揚程が患者血圧よりも十分に高い場合、例えば53.3kPaの場合(A1〜C1)には、ローラークランプがどのような開閉状態の場合であっても、送血流量C1が0.5〜1.0L/minを維持されるていたことが判る。一方で、ポンプ揚程が患者血圧に拮抗するような状態においては、クランプの圧閉により、例えば送血流量C3の場合のように、逆流量、すなわち、送血ライン4から送脱血シャントライン6を介して脱血ライン1へ流れる流量が生じたことが判る。
【0052】
このことを考慮して、この循環回路でPCPSを開始する場合には、患者血庄を想定してポンブ揚程を26.7〜40.0kPaに設定した後、クランプを閉じて送脱血シャントライン6の流量をゼロにした状態で循環を開始すれば、血液逆流という事態を防ぐことが出来る。そして、クランプを徐々に開放し、流量センサー9の検出値に基づいて目的とする送血流量まで調整することで、容易に適切な循環状態に管理可能である。
【0053】
本実施の形態の体外循環装置による回路内流量の増加が血栓抑制に与える効果を検証したところ、以下のような結果が得られた。すなわち、低流量(0.5L/min)で送血した場合には遠心ポンプ2のローターの軸周辺に血栓が見られた。一方で、送血流量を変えることなく、送脱血シャントライン6及びポンプシャントライン7を用いることにより遠心ポンプ2の流量を5L/minに増加させたところ、血栓は大幅に抑止できた。このことから、流量贈加による洗い流しにより、血栓の発生を抑止する効果を期待でき、この体外循環装置はPCPS法など長期対外循環に有用であることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の体外循環装置によれば、送血流量を所望の範囲に維持しながら、人工肺の最大使用流量で制限されることなく、遠心ポンプを十分に大きな流量で使用可能であるため、血栓の発生を抑止する効果が顕著であり、PCPS法など短期体外循環用の装置として有用である
【符号の説明】
【0055】
1 脱血ライン
2 遠心ポンプ
2a 吸込みポート
2b 吐出ポート
3 人工肺
3a 入口ポート
3b 出口ポート
4 送血ライン
5 中間接続ライン
6 送脱血シャントライン
7 ポンプシャントライン
8 流量調節部
9 流量センサー
10 制御部
11、12 逆流防止弁
13 プライミング液容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱血ラインと、
前記脱血ラインに吸込みポートが接続された遠心ポンプと、
前記遠心ポンプの吐出ポートに入口ポートが接続された血液処理装置と、
前記血液処理装置の出口ポートに接続され送血ラインとを備え、
前記遠心ポンプの作動により患者から脱血ラインを介して脱血された血液が、前記血液処理装置により血液処理された後、前記送血ラインを介して患者に送血されるように構成された体外循環装置において、
前記血液処理装置の出口側と前記遠心ポンプの吸込み側とを接続する送脱血シャントラインと、
前記遠心ポンプの吐出側と吸込み側とを接続するポンプシャントラインとを備えたことを特徴とする体外循環装置。
【請求項2】
前記送脱血シャントラインの流量を調節する流量調節部を備えた請求項1に記載の体外循環装置。
【請求項3】
前記流量調節部はローラークランプにより構成された請求項2に記載の体外循環装置。
【請求項4】
前記送血ラインにおける前記送脱血シャントラインへの分岐箇所よりも下流側に配置された流量センサーと、
前記流量センサーにより検出される流量値に応じて、前記流量調節部による流量の調節を制御する制御部とを備えた請求項2に記載の体外循環装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記流量センサーにより検出される流量値が所定の範囲内に調節されるように前記流量調節部を制御する請求項4に記載の体外循環装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記流量調節部を閉鎖状態として運転を開始し、その後、前記流量調節部により調節される流量を徐々に増大させながら、前記流量センサーにより検出される流量値が所定の範囲内になるように制御する請求項5に記載の体外循環装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記流量センサーにより検出される流量値が所定流量未満のときは、前記送脱血シャントラインを閉鎖する請求項4に記載の体外循環装置。
【請求項8】
前記血液処理装置は人工肺であり、前記血液処理が酸素加・脱炭酸ガスである請求項1〜7のいずれか1項に記載の体外循環装置。
【請求項9】
脱血ラインと、
前記脱血ラインに吸込みポートが接続された遠心ポンプと、
前記遠心ポンプの吐出ポートに入口ポートが接続された血液処理装置と、
前記血液処理装置の出口ポートに接続され送血ラインとを備え、
前記遠心ポンプの作動により患者から脱血ラインを介して脱血された血液が、前記血液処理装置により血液処理された後、前記送血ラインを介して患者に送血されるように構成された体外循環装置を用いた体外循環方法において、
前記血液処理装置の出口側と前記遠心ポンプの吸込み側とを接続する送脱血シャントラインにより前記血液処理装置の通過流量が前記送血ラインからの送血流量よりも大きくなるように調節するとともに、
前記遠心ポンプの吐出側と吸込み側とを接続するポンプシャントラインにより、前記遠心ポンプの流量が前記血液処理装置の通過流量よりも大きくなるように調節することを特徴とする体外循環方法。
【請求項10】
前記送脱血シャントラインを閉鎖状態として運転を開始し、その後、前記送脱血シャントラインの流量を徐々に増大させながら、前記送血ラインからの前記送血流量が所定の範囲内になるように前記送脱血シャントラインの流量を調節する請求項9に記載の体外循環方法。
【請求項11】
前記血液処理装置は人工肺であり、前記血液処理が酸素加・脱炭酸ガスである請求項9または10に記載の体外循環方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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