説明

体導音センサ

【課題】体導音検出の感度がよく、誘導雑音の影響を効果的に低減することができ、小型で使い勝手の良い体導音センサを提供する。
【解決手段】音波を電気信号に変換する変換体である振動板24が露出したマイクロホン素子12と、有底筒状の外形を有し底部14aの中央にマイクロホン素子12を収容する貫通孔16が形成された硬質素材の容器14を有する。マイクロホン素子12が固定された回路基板18を有する。回路基板18は、マイクロホン素子12が貫通孔16に収容された状態で、容器14の底部14aの外側に固定される。容器14の内側空間は、弾性高分子材料20が充填され、容器14の開口端14cから露出した弾性高分子材料20の表面が音波入力面20aとなる。マイクロホン素子12の振動板24が音波入力面20aに対して弾性高分子材料20を挟んで対向する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人の体内や体表を伝搬する音を検出する体導音センサに関する。
【背景技術】
【0002】
人の体内や体表には、血流音や心音、呼吸音、発声したり運動したときに生じる肉や骨の振動音、衣服が皮膚に擦れる音など様々な音が伝搬している(以下、これらの音を体導音と称す)。近年、人の体導音を検出する身体接触式のマイクロホンが複数提案されており、患者を診察するための医療用の聴診器や、騒音の多い場所にいる人が遠隔の人と会話するための通話用マイクなどの分野に応用されている。
【0003】
従来の身体接触式のマイクロホンとして、例えば、特許文献1に開示されているように、音波検出用の振動板を有するコンデンサマイクロホン素子と、人体の皮膚表面からコンデンサマイクロホン素子へ体導音を伝導する接触部とを備えた体内伝導音マイクロホンがある。接触部の素材は、人の体内軟部組織の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを有したシリコーンゴム等が用いられ、音響インピーダンスの不整合に起因する高域の減衰が抑制されている。また、この接触部は、コンデンサマイクロホン素子の外形全体をシリコーンゴム等により囲まれて設けられ、さらに、接触部の背後には、入力された体導音をコンデンサマイクロホン素子に向けて集約する働きをするパラボラ形状の金属反射板が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再公表2005/067340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の体内伝導音マイクロホンは、コンデンサマイクロホン素子の全表面が接触部の材料であるシリコーンゴム等の弾性体の中に埋設状態で保持される構造を有しているため、コンデンサマイクロホン素子に音波のエネルギーが加わると、マイクロホン素子の構造全体が振動することになる。従って、音波のエネルギーが分散して振動板に効率よく伝わらず、体導音検出の感度が低くなるという問題があった。また、金属反射板が設けられているものの、誘導雑音等を低減するという課題については考慮されていないものであった。
【0006】
この発明は、上記背景技術に鑑みて成されたもので、体導音検出の感度がよく、誘導雑音の影響を効果的に低減することができ、小型で使い勝手の良い体導音センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、音波を電気信号に変換する変換体が露出して設けられたマイクロホン素子と、上端が開口した有底筒状の外形を有し底部の中央に前記マイクロホン素子を収容可能な貫通孔が形成された硬質素材の容器と、前記マイクロホン素子が固定された回路基板とを有した体導音センサであって、前記回路基板は、前記マイクロホン素子が前記貫通孔に収容された状態で、前記容器の底部の外側に固定され、前記容器の内側空間は、弾性高分子材料が充填され、当該容器の開口端から露出した前記弾性高分子材料の表面が音波入力面となり、前記マイクロホン素子の前記変換体表面が、前記音波入力面に対して前記弾性高分子材料を挟んで対向し、前記音波入力面が人体表面に接触して入力した音波が、前記弾性高分子材料を通して前記変換体に伝達される体導音センサである。
【0008】
前記マイクロホン素子はエレクトレットコンデンサ型であり、前記回路基板には前記マイクロホン素子の出力を増幅する増幅手段が設けられているものである。
【0009】
またこの発明は、音波を電気信号に変換する変換体が露出して設けられたマイクロホン素子と、上端が開口した有底筒状の外形を有し底部の中央に前記マイクロホン素子を収容可能な貫通孔が形成された硬質素材の容器とを有した体導音センサであって、前記マイクロホン素子は、前記容器の貫通孔内に嵌合して保持され、前記容器の内側空間は、弾性高分子材料が充填され、当該容器の開口端から露出した前記弾性高分子材料の表面が音波入力面となり、前記マイクロホン素子の前記変換体表面が、前記音波入力面に対して前記弾性高分子材料を挟んで対向し、前記音波入力面が人体表面に接触したときに入力される音波が、前記弾性高分子材料を通して前記変換体に伝達される体導音センサである。
【0010】
前記容器は、導電性材料で形成され、又は絶縁材料の表面を導電性材料で覆われて形成され、前記マイクロホン素子は前記変換体の周囲を囲む導電性の筺体を有し、その筺体が前記容器の導電性部分に電気的に接続され、前記弾性高分子材料の前記振動入力面が人体表面に接触することにより、前記容器の導電性部分が人体表面に接触するものである。
【0011】
前記弾性高分子材料の前記振動入力面の面積は、前記容器の前記貫通孔の面積よりも大きく設けられ、前記マイクロホン素子の前記変換体は前記貫通孔内に配置されているものである。
【0012】
前記容器の内壁は、前記開口端から前記底面にかけて円筒状に形成されている。あるいは、前記開口端から前記貫通孔の周縁部に向けて内径が狭くなる円錐台状に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
この発明の体導音センサは、弾性高分子材料の音波入力面に入力された音波のエネルギーが、マイクロホン素子が有する音波検出用の変換体に効率よく伝わるので、高感度で体導音を検出することができる。
【0014】
また、エレクトレットコンデンサ型のマイクロホン素子を使用することにより、体導音センサの外形を小型化することができ、体導音の情報を容易にコンピュータ等の解析システム側へ送ることができ、使い勝手の良い体導音解析システムを構成することができる。
【0015】
また、容器を導電性材料等で形成し、体導音の測定時に容器及びマイクロホン素子の筺体が人体を介して接地される構造にすれば、マイクロホン素子の出力に生じる誘導雑音を格段に低減することができる。
【0016】
また、容器の内側を、パスカルの原理による振動変位の増幅作用が生じる所定形状に形成することにより、体導音検出の感度をより高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の第一の実施形態の体導音センサを示す縦断面図である。
【図2】第一の実施形態の体導音センサの構成部材を示す分解斜視図である。
【図3】第一の実施形態の体導音センサを用いた体導音解析システムを説明するブロック図である。
【図4】第一の実施形態の体導音センサの変形例を示す縦断面図である。
【図5】第一の実施形態の体導音センサの他の変形例を示す縦断面図である。
【図6】この発明の第二の実施形態の体導音センサを示す縦断面図である。
【図7】第二の実施形態の体導音センサを用いた体導音解析システムを説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の第一の実施形態の体導音センサ10について、図1〜図3に基づいて説明する。体導音センサ10は、人体表面に接触され、体内や体表に生じている体導音の音波を抽出し、電気信号に変換して出力する身体接触式のマイクロホンである。体導音センサ10は、図2に示すように、円筒外形のマイクロホン素子12と、片側有底の円筒外形を有し底部14aの中央に貫通孔16が形成された容器14と、所定の回路素子が実装された円板状の回路基板18と、容器14の内側空間に隙間なく充填された弾性高分子材料20で構成されている。
【0019】
マイクロホン素子12は、図1、図2に示すように、下端面が塞がれた筒状体である金属製の筺体22を有し、その上端付近に音波を受けて振動する振動板24が露出して設けられ、振動板24の下側近傍に対向するように固定電極板26が設けられ、振動板24と固定電極板26とでコンデンサが形成されている。すなわち、入力された音波を電気信号に変換する変換体が振動板24であり、音波を受けた振動板24の動きをコンデンサ容量の変化に変換し、電気信号として出力する動作を行う。ここでは、振動板24がエレクトレット用の高分子フィルムで構成され、いわゆるエレクトレットコンデンサ型マイクロホンになっている。エレクトレットコンデンサ型マイクロホンは、エレクトレット効果により振動板24に電荷を持続させることができるので、通常のコンデンサ型マイクロホンのように成極用の直流高電圧を供給する必要がないので、後述する回路基板18の回路構成をシンプルにすることができる利点がある。
【0020】
容器14は、アルミニウム等の金属で形成され、側壁14bの内側は、開口端14cから底部14aに向けて内径がほぼ一定の円筒状に掘り込まれている。底部14aの中央の貫通孔16は、マイクロホン素子12の筺体22が嵌挿可能に設けられている。
【0021】
回路基板18は、容器14の底部14aとほぼ同形の円板状の外形を有し、表面に所定の回路パターンが形成され、表側実装面にはマイクロホン素子12の筺体22が固定され、図示しないリード端子が回路パターンに配線されている。一方、裏側実装面には、マイクロホン素子12のコンデンサ容量の変化を増幅して信号出力する増幅手段28が設けられている。
【0022】
回路基板18の増幅手段28には、所定の長さのケーブル29を介して本体装置11が接続されている。本体装置11には、増幅手段28の出力をケーブル29を介して受信し、無線信号に変換して出力する無線送信手段30と、マイクロホン素子12、増幅手段28にケーブル29を介して電源を供給するとともに、無線送信手段30等の回路にも電源を供給する電源供給手段32が設けられている。
【0023】
弾性高分子材料20は、硬化後の状態で人体の皮膚と同等の音響インピーダンス特性をもつ疎水性の樹脂であり、例えば、2液硬化型のウレタン系ゲル等が好適である。
【0024】
体導音センサ10の組み立ては、まず、回路素子が実装された回路基板18にマイクロホン素子12を取り付け、マイクロホン素子12を、容器14の底部14aの外側から貫通孔16に挿入し、筺体22が貫通孔16の内壁に嵌合した状態に保持させる。この嵌合構造により、金属製の筺体22と金属製の容器14とが電気的に導通状態となる。また、マイクロホン素子12の挿入位置は、振動板24が貫通孔16内の出口付近に配置されるように調整する。この実施形態の体導音センサ10では、図1に示すように、回路基板18の表側実装面が容器14の底部14aに当接するまでマイクロホン素子12を挿入すれば、振動板24が所望の位置に配置されるように設定されており、簡単に位置決めをすることができる。
【0025】
回路基板18は、図示しないネジ部材等を用いて容器14に固定することが好ましい。また、回路基板18の回路素子を保護するため、図示しない絶縁カバー部材を被せ、上記ネジ部材で一体に固定してもよい。
【0026】
容器14の内側空間には、開口端14cから硬化前の柔らかい弾性高分子材料20を流し込む。このとき、弾性高分子材料20はマイクロホン素子12の筺体22内に流入し、上方に露出している振動板24の上面全体を覆う。そして、高温炉などに放置して硬化させる。
【0027】
弾性高分子材料20が硬化すると、容器14から露出する弾性高分子材料20表面が人体の皮膚に接触する音波入力面20aとなり、開口端14cの端面と面一の状態となる。
【0028】
次に、体導音センサ10の実際の動作について、これを用いた体導音解析システム34と合わせて説明する。体導音解析システム34は、図3に示すように、被測定者の体表面に直に装着される体導音センサ10と、被測定者のそばに配置される本体装置11と、無線受信手段36、及び解析手段38を有し遠隔の医療施設等に設置されるコンピュータ等の外部解析装置40とで構成されている。まず、体導音センサ10で被測定者の体内に生じている体導音を観測し、体導音の音波を弾性高分子材料20の音波入力面20aで抽出する。
【0029】
音波入力面20aに入力された音波は、弾性高分子材料20を通じて貫通孔16内にあるマイクロホン素子12の振動板24に伝導し、振動板24が振動することによって振動板24と固定振動板26とで構成されたコンデンサの容量が変化する。このとき、弾性高分子材料20が人体の皮膚と同等の音響インピーダンス特性を有しているので、皮膚から振動板24に至る経路でインピーダンスの不整合が生じず、音波のエネルギーはほとんど減衰しない。また、容器14の貫通孔16の面積S1は、開口端14cに囲まれた音波入力面20aの面積S2よりも狭くなっているので、音波入力面20aの音波は、パスカルの原理に基づき、ほぼ面積比(S2/S1)に相当する倍率で増幅されて振動板24に伝わることになる。
【0030】
マイクロホン素子12のコンデンサ容量の変化は微小信号なので、増幅手段28によって、取り扱い容易な大きな電気信号に増幅される。増幅された電気信号は、被測定者の体側等に位置した本体装置11内の無線送信手段30に、ケーブル29を介して送られ、所定の変調処理が行われて送信アンテナから無線送信される。このような電波による通信を行う場合、FM通信方式やZigBeeと呼ばれる短距離無線通信方式などが好適である。また、体導音解析システム34が使用される環境や使用条件によっては、赤外線を媒体とする光通信等の無線方式を採用してもよい。
【0031】
無線送信手段30から送信された無線信号は、外部解析装置40の無線受信手段36が受信して復調処理等が行われ、解析手段38による各種解析が行われる。得られた情報は、被測定者の状態のモニタや専門医の診断に利用される。
【0032】
以上説明したように、体導音センサ10は、マイクロホン素子12が硬質の金属製容器14に直接的に固定される構造のため、音波のエネルギーが分散することなく、効率よく音波検出用の振動板24に伝わる。さらに、容器14の内側が所定の円筒形状を有していることによってパスカルの原理に基づく音波増幅作用が生じ、体導音検出の感度をさらに向上させることができる。
【0033】
また、弾性高分子材料20を金属製の容器14で広く覆い、マイクロホン素子12内部の振動板24等も導電性材料の筺体22で覆って容器14に導通させ、音波入力面20aを被測定者の体表面に当てるとき、容器14の開口端14cも体表面に接触して人体を通じて電気的に接地されることになる。この構造により、マイクロホン素子12の出力に生じる誘導雑音を格段に低減することができる。
【0034】
また、体導音センサ10では、エレクトレットコンデンサ型のマイクロホン素子12が選択されており、マイクロホン素子12専用の直流高電圧を供給する必要がなく、増幅手段28等の回路に供給する一般的な低電圧を供給すれば動作が可能である。従って、電源供給手段32を小型ボタン電池や小型バッテリー等で簡単に構成することができ、体導音センサ10や本体装置11の小形化、軽量化を実現することができる。それにより、被測定者の体表に装着されても被測定者の動作を妨げず良好な使用感が得られ、また、無線送信手段30を設けることによって、ワイヤレスの体導音解析システム34を容易に構成することができる。
【0035】
次に、第一の実施形態の体導音センサ10の変形例である体導音センサ50について、図4に基づいて説明する。ここで、上記体導音センサ10と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。体導音センサ50は、容器14に代えて容器52が用いられている点で体導音センサ10と異なり、その他の構成は同様である。
【0036】
容器52は、絶縁性の硬質樹脂で形成された本体54を有している。本体54は、片側有底の円筒外形を有し、底部54aの中央に貫通孔16が形成され、側壁54bの内側は、開口端54cから貫通孔16の周縁部に向けて内径が狭くなる円錐台状に形成されている。そして、本体54の貫通孔16の内壁面、側壁54bの内側面、及び開口端54cの表面に導電性材料が塗られた導電層56で覆われている。
【0037】
体導音センサ50は、容器52のほとんどの部分が樹脂なので、金属製の容器14を用いた体導音センサ10よりも一段と軽量化を図ることができる。また、本体54は、内側の形状が円錐台状であり、射出成型等の方法により効率よく製造することができる。さらに、容器52の内側の形状を円錐台状に設けることによって、入力面20aの音波が振動板24に伝導するときの減衰特性が容器14よりも改善され、体導音検出の感度をさらに向上させることができる。
【0038】
さらに、本体54の内側表面に設けられた導電層56により、マイクロホン素子12の出力に生じる誘導雑音を低減することができる。これは、弾性高分子材料20を導電層56で広く覆い、マイクロホン素子12内部の振動板24等も導電性材料の筺体22で覆われて導電層56に導通され、音波入力面20aを被測定者の体表面に当てることにより、開口端54cを覆う導電層56部分も体表面に接触して、人体を通じて電気的に接地されることによるものである。
【0039】
次に、第一の実施形態の体導音センサ10の他の変形例である体導音センサ60について、図5に基づいて説明する。ここで、上記体導音センサ10と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。体導音センサ60は、容器14に代えて容器62が用いられている点で体導音センサ10と異なり、その他の構成は同様である。
【0040】
容器62は、容器14と同様に、アルミニウム等の金属で形成され、側壁62bの内側は、開口端62cから底部62aに向けて内径がほぼ一定の円筒状に掘り込まれている。しかし、底部62aの中央の貫通孔64は、マイクロホン素子12の筺体22よりもゆとりを持って大きく形成されている。
【0041】
体導音の解析は様々な目的で行われ、解析の目的等に応じてマイクロホン素子が都度選択、変更されることがある。そのような場合でも、容器62の貫通孔64のサイズを大きめに設けておき、使用され得る複数のマイクロホン素子12のどれでも収容できるようにしておけば、1種類の容器62で複数のマイクロホン素子12に対応することができるという利点がある。
【0042】
この場合、誘導雑音を低減するための接地構造が問題になるが、例えば、マイクロホン素子12の導電性材料で形成された筺体22を、回路基板18表面の配線パターンに接続し、その配線パターンを介して金属製の容器62に電気接続すれば、体導音センサ10と同様の接地効果を得ることができる。
【0043】
次に、この発明の第二の実施形態の体導音センサ70について、図6、図7に基づいて説明する。ここで、上記体導音センサ10と同様の構成は、同一の符号を付して説明する。体導音センサ70は、体導音センサ10と同様に、人体表面に装着され、体内や体表に生じている体導音の音波を抽出し、電気信号に変換して出力する体導音センサである。体導音センサ70は、図6に示すように、円筒外形のマイクロホン素子72と、片側有底の円筒外形を有し底部14aの中央に貫通孔16が形成された容器14と、容器14の内側空間に隙間なく充填された弾性高分子材料20で構成されている。なお、体導音センサ10と異なり、増幅手段等が実装された回路基板は設けられていない。
【0044】
マイクロホン素子72は、図6に示すように、下端面が塞がれた筒状体である金属製の筺体22を有し、その上端付近に音波を受けて電気信号を出力する変換体74が露出して設けられている。変換体74は、通常のコンデンサ型、可動コイル型、圧電型などから任意に選択されている。また、マイクロホン素子72の下方に、信号出力ライン、電源ライン、グランドラインなどのケーブル76が引き出されている。
【0045】
容器14は、アルミニウム等の金属で形成され、側壁14bの内側は、開口端14cから底部14aに向けて内径がほぼ一定の円筒状に掘り込まれている。底部14aの中央の貫通孔16は、マイクロホン素子12の筺体22が嵌挿可能に設けられている。
【0046】
弾性高分子材料20は、硬化後の状態で人体の皮膚と同等の音響インピーダンス特性をもつ疎水性の樹脂であり、例えば、2液硬化型のウレタン系ゲル等が好適である。
【0047】
体導音センサ70を組み立てるときは、まず、マイクロホン素子72を、容器14の底部14aの外側から貫通孔16に挿入し、筺体22が貫通孔16の内壁に嵌合した状態で保持させる。従って、この嵌合構造により、金属製の筺体22と金属製の容器14とが電気的導通状態となる。また、マイクロホン素子12の挿入位置は、変換体74が貫通孔16内の出口付近に配置されるように調整する。
【0048】
次に、容器14の内側空間に、開口端14cから硬化前の柔らかい弾性高分子材料20を流し込む。このとき、弾性高分子材料20はマイクロホン素子72の筺体22内にも流入し、上方に露出している変換体74を覆う。そして、高温炉などに放置して硬化させる。
【0049】
弾性高分子材料20が硬化すると、容器14から露出する弾性高分子材料20表面が人体の皮膚に接触する音波入力面20aとなり、開口端14cの端面と面一の状態となる。
【0050】
次に、体導音センサ70の実際の動作について、これを用いた体導音解析システム78と合わせて説明する。体導音解析システム78は、図7に示すように、被測定者の人体に装着される体導音センサ70と、増幅手段28、電源供給手段32及び解析手段38が設けられマイクロホン素子72からケーブル76を介して信号を受ける外部解析装置80とで構成されている。
【0051】
まず、体導音センサ70で被測定者の体内に生じている体導音を観測し、体導音の音波を弾性高分子材料20の音波入力面20aで抽出する。音波入力面20aに入力された音波は、弾性高分子材料20を通じて貫通孔16内にあるマイクロホン素子72の変換体74に伝導し、変換体74によって音波のエネルギーに対応した電気信号に変換される。弾性高分子材料20の音響インピーダンス特性によってインピーダンスの不整合が起きない点や、容器14の形状とパスカルの原理の関係で音波が増幅される作用がある点については、体導音センサ10と同様である。
【0052】
マイクロホン素子72の出力は、ケーブル76を通じて外部解析装置80に送られ、増幅手段28によって取り扱いが容易な電気信号に増幅される。そして、増幅された電気信号を用いて、解析手段38で各種解析を行い、得られた情報に基づいて専門医が診断を行う。
【0053】
以上説明したように、体導音センサ70は、体導音センサ10と同様に、体導音検出の感度を高くすることができる。また、同様の接地構造により、誘導雑音を格段に低減することができる。
【0054】
一方、体導音センサ70は、通常のコンデンサ型、可動コイル型、圧電型などの変換体74を備えたマイクロホン素子72が使用され、それぞれに特徴のある優れた変換特性を有している。例えば、マイクロホン素子72として通常のコンデンサ型のものを使用すると、マイクロホン素子72に高電圧を供給する必要があるが、体導音センサ70を上述の体導音センサ10よりも小形化、軽量化することができるという利点や、無線通信用の回路を省略する等してシステム全体をシンプルに構成することができる。また、この体導音センサ70を、エレクトレットコンデンサ型のマイクロホン素子72を用いて構成してもよいことは言うまでもない。
【0055】
なお、この発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、容器の外形は、円筒状、四角形の筒状、多角形の筒状など、自由に変更することができる。また、容器の素材は、硬質の導電性樹脂であってもよい。
【0056】
回路基板の形状、回路素子の実装方法、容器との固定方法等は自由に変更することができる。また、変換体の出力を増幅する増幅手段は、マイクロホン素子に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10,50,60,70 体導音センサ
12,72 マイクロホン素子
14,52,62 容器
14c54c,62c 開口端
16,64 貫通孔
18 回路基板
20 弾性高分子材料
20a 音波入力面
22 筺体
24 振動板
28 増幅手段
30 無線送信手段
32 電源供給手段
34 体導音解析システム
56 導電層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波を電気信号に変換する変換体が露出して設けられたマイクロホン素子と、上端が開口した有底筒状の外形を有し底部の中央に前記マイクロホン素子を収容可能な貫通孔が形成された硬質素材の容器と、前記マイクロホン素子が固定された回路基板とを有した体導音センサにおいて、
前記回路基板は、前記マイクロホン素子が前記貫通孔に収容された状態で、前記容器の底部の外側に固定され、
前記容器の内側空間は、弾性高分子材料が充填され、当該容器の開口端から露出した前記弾性高分子材料の表面が音波入力面となり、
前記マイクロホン素子の前記変換体表面が、前記音波入力面に対して前記弾性高分子材料を挟んで対向し、
前記音波入力面が人体表面に接触して入力した音波が、前記弾性高分子材料を通して前記変換体に伝達されることを特徴とする体導音センサ。
【請求項2】
前記マイクロホン素子はエレクトレットコンデンサ型であり、前記回路基板には、前記マイクロホン素子の出力を増幅する増幅手段が設けられた請求項1記載の体導音センサ。
【請求項3】
音波を電気信号に変換する変換体が露出して設けられたマイクロホン素子と、上端が開口した有底筒状の外形を有し底部の中央に前記マイクロホン素子を収容可能な貫通孔が形成された硬質素材の容器とを有した体導音センサにおいて、
前記マイクロホン素子は、前記容器の貫通孔内に嵌合して保持され、
前記容器の内側空間は、弾性高分子材料が充填され、当該容器の開口端から露出した前記弾性高分子材料の表面が音波入力面となり、
前記マイクロホン素子の前記変換体表面が、前記音波入力面に対して前記弾性高分子材料を挟んで対向し、
前記音波入力面が人体表面に接触したときに入力される音波が、前記弾性高分子材料を通して前記変換体に伝達されることを特徴とする体導音センサ。
【請求項4】
前記容器は、導電性材料で形成され、又は絶縁材料の表面を導電性材料で覆われて形成され、
前記マイクロホン素子は前記変換体の周囲を囲む導電性の筺体を有し、その筺体が前記容器の導電性部分に電気的に接続され、
前記弾性高分子材料の前記振動入力面が人体表面に接触することにより、前記容器の導電性部分が人体表面に接触する請求項1又は3記載の体導音センサ。
【請求項5】
前記弾性高分子材料の前記振動入力面の面積は、前記容器の前記貫通孔の面積よりも大きく設けられ、
前記マイクロホン素子の前記変換体は前記貫通孔内に配置されている請求項1又は3記載の体導音センサ。
【請求項6】
前記容器の内壁は、前記開口端から前記底面にかけて円筒状に形成されている請求項5記載の体導音センサ。
【請求項7】
前記容器の内壁は、前記開口端から前記貫通孔の周縁部に向けて内径が狭くなる円錐台状に形成されている請求項5記載の体導音センサ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−182000(P2011−182000A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41366(P2010−41366)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(594155528)日本エレクトロニクス・サービス株式会社 (5)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】