説明

体液処理装置、圧力測定器、体液処理方法

【課題】測定された圧力値の信頼性の向上。
【解決手段】圧力測定器150を有する体液処理装置100であって、基台151と、係合部215と係合することで基台151に対する圧力セル210の筐体211の距離を規制する規制手段152と、係合部215と規制手段152との係合状態を固定する固定手段153と、隔膜212と接続される接続部162を有し、基台151に対する隔膜212の変位を信号に変換する第一センサ154と、係合部215と規制手段152との係合状態を検出する第二センサ165と、第二センサ165が係合状態を検出することをトリガーとし、第一センサ154から得られる値と所定の基準値との差をオフセット値として算出するオフセット部181とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、体外に体液を導出して処理する体液処理装置であって、体液の圧力、または、体液を処理するための液体の圧力を測定する圧力測定器を備える体液処理装置に関する。また、前記圧力測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
体外に体液を導出して処理する体液処理装置の一つとして、血液透析装置が例示できる。血液透析装置は、人体から導出した血液を血液浄化器(ダイアライザ)に流通させ、血液中の過剰な水分や老廃物を除去するための装置である。人体から導出される血液が流通する流路は、血液回路とよばれ、血液透析装置に取り付けられ、血液透析装置が備える血液ポンプによって血液が強制的に流され、そこに接続された前記血液浄化器によって浄化さる。また、血液浄化器によって分離された血液中の不要物質は透析液とともに排出される。この透析液が流通する回路は透析液回路と称されている。
【0003】
特に、血液透析装置を用いて持続的腎補助療法(CRRT)を施す場合、単に血液の循環用の血液回路が存在するばかりでなく、血液の量や濃度を調整するために用いられる補正計量機構や、補水用回路なども必要となるため部品点数が多くなる。そしてこれらの部品を用いて構築される回路は非常に複雑となる。
【0004】
しかし、血液透析装置に取り付ける部品の取り付け間違いや、血液回路の構築間違いなどは被透析患者の生命に関わる重大な問題であり、間違いの発生は許されない。そこで、間違いの発生を防止しつつ、取り付け作業者の負担を軽減する目的として種々の提案がなされている。
【0005】
例えば特許文献1には、重ね合わされた樹脂シートの間に一体的に血液回路が設けられた回路体が記載されている。当該回路体によれば、既に血液回路が形成された状態で処理装置に取り付けることができるため、回路構築の間違いが少なく、取り付け作業が簡単になるとされている。
【0006】
また、特許文献2には、1枚のシートに一部が固定された血液回路が記載されている。当該血液回路によれば、チューブの折れ曲がりやもつれを防止でき、間違いなく血液回路を血液透析装置に取り付けることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−113461号公報
【特許文献2】登録実用新案第3082021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような血液回路を流れる血液の圧力や透析液回路を流れる透析液の圧力は、人命に関わる重要な指標となるため、圧力を正確にモニタリングできることが望まれている。そこで血液透析装置には、血液回路や透析液回路に流れる液体の圧力を測定する機器が取り付けられており、血液回路などを血液ポンプなどに取り付ける作業と同様に、圧力を測定する部品も血液回路などの一部として圧力を測定する機器に取り付けられる。
【0009】
ところが、血液回路などを流れる液体の圧力を安定した状態で正確に測定する場合、圧力を測定する機器と血液回路などとの位置関係が一定である必要があり、この作業が困難な場合が多い。
【0010】
そこで本願発明者らは、上記課題に鑑み、液体の圧力を測定するために血液回路などに部品として備えられている圧力セルを容易に着脱でき、かつ、正確に圧力を測定することのできる圧力測定器、当該圧力測定器を備えた体液処理装置の発明を別途出願している。
【0011】
ところが、上述の圧力セルを容易に着脱できる機構を備えた圧力測定器や体液処理装置は、作業性が高く、正確に圧力を測定できるものであるが、隔膜と筐体とが組み立てられて形成される圧力セルには、寸法的なばらつきが発生することは回避できない。また、圧力測定器にも寸法的なばらつきが存在する。このような寸法的なばらつきは、測定される圧力の値の信頼性に影響を与える。
【0012】
本願発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、圧力測定器や体液処理装置から得られる値の信頼性を向上させることを第一の目的としている。
【0013】
また、圧力セルが容易に着脱機構には、ヒューマンエラーに基づく取り付けミスを機械的に検出する機構が設けられている。ところが、当該機械的な検出機構はクリアしているものの、確実には取り付けられていない不完全な接続状態が発生する可能性が考えられる。
【0014】
本願発明者らは、上記信頼性の向上を目的とした実験と研究の中で、前記可能性があることに気づき、さらに鋭意実験と研究との結果、前記、不完全な接続状態が検出できることを見いだすに至った。
【0015】
本願発明は前記知見に基づきなされたものであり、不具合状態の検出を第二の目的としている。
【0016】
なお、上記説明において、体液処理装置の一つとして血液透析装置を説明したが、上記課題は血液透析装置に限定されるものではない。例えば、血液濾過装置、人工心肺装置、血液濃縮装置など体外に体液を導出して処理する装置全般も同様の課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記第一の目的を達成するために、本願発明にかかる体液処理装置は、係合部を備える筐体と、隔膜とで形成される貯液室を有する圧力セルを着脱自在に保持し、前記貯液室に貯留される液体の圧力を測定する圧力測定器を有する体液処理装置であって、基台と、前記係合部と係合することで前記基台に対する前記筐体の距離を規制する規制手段と、前記係合部と前記規制手段との係合状態を固定する固定手段と、前記隔膜と接続される接続部を有し、前記基台に対する前記隔膜の変位を信号に変換する第一センサと、前記係合部と前記規制手段との係合状態を検出する第二センサと、前記第二センサが係合状態を検出することをトリガーとし、前記第一センサから得られる値と所定の基準値との差をオフセット値として算出するオフセット部とを備えることを特徴としている。
【0018】
これにより、圧力セルや圧力測定器の寸法的なばらつきに基づく第一センサから得られる値の不正確さを解消し得て、血液回路や透析液回路に流れる液体の圧力を高い信頼性で測定することが可能となる。
【0019】
上記第二の目的を達成するためには、さらに、過去に算出されたオフセット値と新たに算出されたオフセット値の差の絶対値である比較値と所定の閾値とを比較し、比較値が所定の閾値以上の場合、エラー情報を出力するエラー検出部を備えることが好ましい。
【0020】
これにより、今までとは異なる状態で圧力セルが取り付けられたことを検出し、エラー情報を出力することができる。したがって、当該エラー情報を活用して、視覚的、聴覚的に血液回路などを取り付けている作業者に報知することも可能となる。また、体液処理装置が稼働しないようにインターロックを掛けることも可能となる。
【0021】
また、上記第一の目的を達成するために、本願発明にかかる圧力測定器は、係合部を備える筐体と、隔膜とで形成される貯液室を有する圧力セルを着脱自在に保持し、前記貯液室に貯留される液体の圧力を測定する圧力測定器を有する体液処理装置であって、基台と、前記係合部と係合することで前記基台に対する前記筐体の距離を規制する規制手段と、前記係合部と前記規制手段との係合状態を固定する固定手段と、前記隔膜と接続される接続部を有し、前記基台に対する前記隔膜の変位を信号に変換する第一センサと、前記係合部と前記規制手段との係合状態を検出する第二センサと、前記第二センサが係合状態を検出することをトリガーとし、前記第一センサから得られる値と所定の基準値との差をオフセット値として算出するオフセット部とを備えることを特徴とする。
【0022】
これにより、圧力セルや自身の寸法的なばらつきに基づく第一センサから得られる値の不正確さを解消し得て、血液回路や透析液回路に流れる液体の圧力を高い信頼性で測定することが可能となる。
【0023】
また、上記第一の目的を達成するために、本願発明にかかる体液処理方法は、係合部を備える筐体と、隔膜とで形成される貯液室を有する圧力セルを着脱自在に保持し、前記貯液室に貯留される液体の圧力を測定する圧力測定器を有する体液処理装置に適用される体液処理方法であって、前記圧力測定器は、基台と、前記係合部と係合することで前記基台に対する前記筐体の距離を規制する規制手段と、前記係合部と前記規制手段との係合状態を固定する固定手段と、前記隔膜と接続される接続部を有し、前記基台に対する前記隔膜の変位を信号に変換する第一センサと、前記係合部と前記規制手段との係合状態を検出する第二センサとを備えており、前記係合部と前記規制手段との係合状態を前記第二センサが検出することをトリガーとし、オフセット部が前記第一センサから得られる値と所定の基準値との差をオフセット値として算出し、測定部は、オフセット値に基づき前記第一センサから得られた値を補正することを特徴とする。
【0024】
これにより、圧力セルや圧力測定器の寸法的なばらつきに基づく第一センサから得られる値の不正確さを解消し得て、血液回路や透析液回路に流れる液体の圧力を高い信頼性で測定することが可能となる。
【0025】
上記第二の目的を達成するためには、さらに、エラー検出部が、過去に算出されたオフセット値と新たに算出されたオフセット値の差の絶対値である比較値を算出し、さらに、前記比較値と所定の閾値とを比較し、比較値が所定の閾値以上の場合、エラー情報を出力することが好ましい。
【0026】
これにより、今までとは異なる状態で圧力セルが取り付けられたことを検出し、エラー情報を出力することができる。したがって、当該エラー情報を活用して、視覚的、聴覚的に血液回路などを取り付けている作業者に報知することも可能となる。また、体液処理装置が稼働しないようにインターロックを掛けることも可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本願発明により、機械的に発生する寸法の誤差をソフトウエアで解消することで、測定された圧力値の信頼性を向上させることができる。また、寸法的な誤差を解消するためのソフトウエア処理で使用される値を用いることにより、圧力セルの取り付けミスを検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】血液回路が取り付けられた血液透析装置を模式的に示す図である。
【図2】圧力セルを示す斜視図であり、(a)は正面図、(b)は背面図である。
【図3】圧力測定器と圧力セルの一部断面を模式的に示す側面図であり、圧力セルが取り付けられる前の状態を示している。
【図4】圧力測定器と、一部を切り欠いて示す圧力セルを示す斜視図であり、圧力セルが取り付けられる前の状態を示している。
【図5】血液透析装置の制御部などを機能的に示すブロック図である。
【図6】解除手段と解除手段による挟持体の動作態様を模式的に示す図である。
【図7】圧力セルが取り付けられる圧力測定器の状態を一部切り欠いて示す側面図である。
【図8】圧力セルが取り付けられる圧力測定器の状態を一部切り欠いて示す側面図である。
【図9】圧力セルが正常に取り付けられた状態における隔膜の状態をデフォルメして示す模式図である。
【図10】圧力セルが取り外された圧力測定器の状態を一部切り欠いて示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本願発明を実施するための一形態を体液処理装置の一つである血液透析装置を例示することで説明する。
【0030】
図1は、血液回路が取り付けられた血液透析装置を模式的に示す図である。
【0031】
同図に示すように、本実施形態にかかる血液透析装置100は、血液回路201や、濾液補液回路202が取り付けられた状態で持続的腎補助療法を行うことのできる装置であって、ポンプ101と、圧力測定器150とを備えている。血液回路201や濾液補液回路202には圧力セル210が取り付けられている。
【0032】
血液透析装置100は、血液回路201内にある血液をポンプ101によって強制的に一方方向に移動させ、人体300から血液を導出し、ダイアライザ220により浄化された血液を再び人体300に戻している。そして、人体300からポンプ101までの血液の圧力、ダイアライザ220を通過する前の血液の圧力、ダイアライザ220を通過した後の血液の圧力を検出するため、血液回路201の該当する位置にはそれぞれ圧力セル210が取り付けられている。
【0033】
一方、血液透析装置100は、濾液補液回路202内にある透析液をポンプ101によって強制的に移動させ、ダイアライザ220によって抽出される血液中の不純物を排出し、必要に応じて適切な量の補液(透析液と兼用)を返血に補充している。そして、ダイアライザ220を通過した後の透析液の圧力を検出するため、濾液補液回路202の該当する位置には圧力セル210が取り付けられている。
【0034】
以上により血液透析装置100は、持続的に人体から血液を導出して血液を浄化しつつ、浄化によって不足した血液の構成成分を補充して人体300に血液を返血する。
【0035】
図2は、圧力セルを示す斜視図であり、(a)は正面図、(b)は背面図である。
【0036】
同図に示すように、圧力セル210は、血液回路201や濾液補液回路202に組み込まれ、血液回路201や濾液補液回路202内を流通する液体の圧力の変化に応じて状態が変化する装置であり、筐体211と、隔膜212と、導入口213と、導出口214とを備えている。
【0037】
筐体211は、内部に流通する液体の圧力に関係なく一定の形態を維持することのできる剛性を備えた部材であり、内部に貯液室(図示せず)を形成するための空間が設けられる箱状の部材である。また、筐体211には係合部215が備えられている。本実施の形態の場合、筐体211は、一端部が閉塞された短い円筒形状となっており、周壁には外方突出状に係合部215が設けられている。
【0038】
係合部215は、筐体211と一体に成形される矩形の部分であり、筐体211の直径方向に二つ設けられている。
【0039】
隔膜212は、内部に流通する液体の圧力に従って、膨出し、凹陥する柔軟性を備えた部材であり、筐体211が形成する貯液室の一部を覆うようにして筐体211に取り付けられている。本実施の形態の場合、隔膜212の中央には磁性体(磁石と結合できる金属等を含め)216が取り付けられている。
【0040】
磁石216は、隔膜212と後述するセンサとを着脱自在に接合するための部材であり、隔膜212とセンサとが磁石216を介して接合されることで、隔膜212の膨出状態を検出するばかりでなく、隔膜212が凹陥した状態を検出することも可能となる。
【0041】
導入口213と導出口214とはそれぞれ血液回路201や濾液補液回路202を構成するチューブと接続される部材であり、血液回路201や濾液補液回路202に流通する液体を貯液室に導入し、また、貯液室から導出するための部材である。
【0042】
図3は、圧力測定器と圧力セルの一部断面を模式的に示す側面図であり、圧力セルが取り付けられる前の状態を示している。
【0043】
図4は、圧力測定器と、一部を切り欠いて示す圧力セルとを示す斜視図であり、圧力セルが取り付けられる前の状態を示している。
【0044】
同図に示すように、圧力測定器150は、圧力セル210内方の貯液室217に貯留される液体の圧力を測定する装置であり、基台151と、規制手段152と、固定手段153と、第一センサ154と、解除手段155と、第二センサ165とを備えている。
【0045】
基台151は、隔膜212の変位を圧力として検出するための基準となる部材である。本実施の形態の場合、血液透析装置100の筐体が基台151として機能している。
【0046】
規制手段152は、圧力セル210が備える係合部215と係合することで基台151に対する圧力セル210の筐体211の距離を規制する装置である。本実施の形態の場合、規制手段152は、第二係合部156が設けられる挟持体157と、係合部215と第二係合部156とが係合する係合方向(図3中の左右方向)と交差する方向(図3中の矢印方向)に挟持体157を付勢する第一バネ158とを備えている。
【0047】
なお、係合方向とは係合部215と第二係合部156とが係合し、係合状態を維持する際に発生する力の方向である。また、係合方向と交差する方向とは、前記係合方向とは平行でない方向である。例えば、係合方向と垂直に交差する方向等を挙示することができる。
【0048】
挟持体157は、基台151に対し、回転軸159によって取り付けられており、回転軸159を中心に回転可能に取り付けられている。挟持体157は、細長い板状の部材であり、挟持体157の厚さ方向には貫通状に設けられた矩形の孔である第二係合部156が設けられている。また、挟持体157の先端は屈曲しており、圧力セル210が押し付けられる際に、付勢力に抗する方向に力が発生するものとなっている。また、挟持体157は、挟持体157に付加される付勢力に抗して挟持体157を回転させるための突出部を備えている。なお、突出部については後述する。
【0049】
第一バネ158は、挟持体157の先端が近づく方向に付勢する弦巻バネである。第一バネ158は、図3で示す上下方向かつ広がる方向に付勢力が発生しており、基台151に軸支されている挟持体157の基端部に当該付勢力が付加されることで、挟持体157の先端部は、図3中の矢印で示す方向に付勢されるものとなっている。
【0050】
固定手段153は、圧力セル210の係合部215と規制手段152との係合状態を固定する装置である。本実施の形態の場合、固定手段153は、固定体160と、第二バネ161とを備えている。
【0051】
固定体160は、挟持体157が付勢される方向と交差する方向、かつ、係合部215を第二係合部156に押し付ける方向に基台151に対し付勢される部材である。具体的に固定体160は、中央に孔が設けられた板状の部材であり、後述する第二バネ161によって、図3で示す左右方向かつ基台151から遠ざかる方向に付勢されている。また、係合部215を第二係合部156に押し付ける方向は、前記係合方向と同じ方向となる。
【0052】
第二バネ161は、固定体160を基台151から遠ざかる方向に付勢する弦巻バネである。図4に示すように、圧力セル210が取り付けられた状態において、第二バネ161の付勢力は、固定体160を介し、さらに、筐体211を介して係合部215を第二係合部156に押し付けている。
【0053】
第一センサ154は、隔膜212と接続される接続部162を有し、基台151に対する隔膜212の変位に接続部162を追随させることで隔膜212の変位を電気信号に変換することのできる装置である。本実施の形態の場合、第一センサ154は、ロードセル163と、接続部162が設けられるアーム164とを備えている。
【0054】
ロードセル163は、隔膜212の変位、すなわち貯液室217に存在する液体の圧力(力)を電気信号に変換して出力するセンサであり、本実施の形態の場合、歪みゲージが4個取り付けられたロバーバル型のロードセル163が採用されている。ロードセル163は、圧力セル210の隔膜212の膨出ばかりでなく、凹陥も検出することができるものとなっている。ロードセル163は、基端部が基台151に取り付けられており、ロードセル163の先端に加えられた力(図3、図4中の左右方向)によって発生した歪みによって歪みゲージが動作し、電気信号を送信できるものとなっている。
【0055】
なお、第一センサ154としては、上記ロードセル163の採用に限定されるわけではない。例えば、なお、引っ張り型、圧縮型等のロードセルを採用してもよい。また、歪みゲージばかりでなく、磁歪効果や、圧電効果などを利用するものでもよい。
【0056】
アーム164、接続部162は、ロードセル163の加重を掛けるポイントをロードセル163の先端部から任意の場所に移動させる部材である。本実施の形態の場合、アーム164は、剛性の高い板状の金属板であり、ロードセル163に平行かつ所定の距離を隔てて配置されている。また、アーム164の基端部は、ロードセル163の先端部と強く固着されており、アーム164の先端部はロードセル163の中央部近傍にまで伸びている。
【0057】
このようなアーム164の配置にすることで、圧力測定器150を比較的コンパクトに構成することができ、血液透析装置100に組み込みやすくなる。
【0058】
接続部162は、アーム164の先端から突出方向に延びた円柱状の部材であり、少なくとも先端は圧力セル210が備える磁性体216と磁気により着脱自在に接続することのできる磁石である。接続部162は、挟持体157や固定体160等と干渉することなく突出状に配置されており、貯液室217に液体が貯留されていない状態の圧力セル210を取り付けた状態で、圧力セル210の磁性体216と当接(磁力なしで)するように配置されている。つまり、磁力によって隔膜212が引っ張られたり、逆に接続部162によって隔膜212が押し込まれたりすることのない状態で、接続部162に対し圧力セル210が配置される。
【0059】
なお、当該状態は理想的な状態であって、実際には圧力測定器150や、圧力セル210の寸法誤差により、隔膜212は、若干引っ張られたり、逆に若干押し込まれたりした状態となっている。
【0060】
第二センサ165は、係合部215を第二係合部156に押し付けた状態における固定体160の位置と、係合部215と第二係合部156との係合が解除された状態(図3の状態)における固定体160の位置との相違を検出する装置である。本実施の形態の場合、第二センサ165としてマイクロスイッチが採用されている。
【0061】
図5は、血液透析装置の制御部などを機能的に示すブロック図である。
【0062】
同図に示すように、血液透析装置100が備える制御部180は、第一センサ154や第二センサ165から得られる信号を処理するソフトウエア、及び、当該ソフトウエアに基づき動作するハードウエアであり、オフセット部181と、エラー検出部182と、オフセット値記憶部183と、測定部184とを備えている。また、血液透析装置100は、表示装置189を備えている。
【0063】
オフセット部181は、圧力測定器150に圧力セル210が取り付けられたことをきっかけとして、貯液室217に液体が充填されていない状態における第一センサ154から得られる値に基づきオフセット値を算出する機能部である。本実施の形態の場合、オフセット部181は、第二センサ165の状態を常にモニタリングし、圧力セル210の係合部215と規制手段152との係合状態が未係合の状態から係合状態に変化したことを第二センサ165が検出すれば、この検出をトリガーとして第一センサ154から値を取得し、取得した値と、所定の基準値である0との差をオフセット値として算出する。なお、このオフセット値は正の値でも負の値でも採りうる。
【0064】
オフセット値記憶部183は、オフセット部181で算出されたオフセット値を記憶する機能部である。オフセット値記憶部183は、短期的に記憶するものでも、長期的に(電力を消費することなく)記憶するものでもかまわない。また、記憶するオフセット値の数は単数でも複数でもかまわない。
【0065】
測定部184は、第一センサ154から値を取得し、当該値にオフセット値に基づき補正する機能部である。本実施の形態の場合、測定部184は、第一センサ154から得られる値にオフセット値記憶部183に記憶されるオフセット値を加算した値を表示装置189に送信する機能部である。
【0066】
エラー検出部182は、過去に算出されたオフセット値と新たに算出されたオフセット値の差の絶対値である比較値と所定の閾値とを比較し、比較値が所定の閾値以上の場合、エラー情報を出力する処理部である。本実施の形態の場合、エラー検出部182は、オフセット値記憶部183に記憶されたオフセット値と、オフセット部181で算出されたオフセット値との差の絶対値を算出し、さらに、当該値を圧力(mmHg)となるように変換して比較値とする。一方、エラー検出部182は、閾値として10(mmHg)という値を記憶しており、比較値と閾値とを比較する。その結果、比較値が閾値以上であれば、エラー検出部182は、エラー情報を作成し、出力する。
【0067】
表示装置189は、測定部184からの値(情報)や、エラー検出部182からのエラー情報を人間の視覚で認識できる情報に変換するインターフェースである。
【0068】
なお、実験において、圧力セル210が圧力測定器150に正常に取り付けられていた場合、得られる比較値は10mmHgを超えないという結果が得られている。例えば15mmHgを閾値として採用しても良い。さらに、実験と研究との結果、第二センサ165が係合を検知し、かつ、圧力セル210が正常に取り付けられていないことを、センシティブではなく、高い確率で検出することのできる閾値は、25mmHg以上35mmHg以下の範囲から採用されることが好ましいことが経験的に得られており、具体的には30mmHgが採用される。
【0069】
なお、閾値や比較値は圧力を示す情報の状態で計算される必要はなく、前記圧力に対応する情報であれば、いかなる状態の情報で計算されてもかまわない。
【0070】
また、エラー検出部182がオフセット値記憶部183から取得するオフセット値は、前回算出されたオフセット値で無くとも良く、何回か前に算出されたオフセット値でもかまわない。また、複数回算出されたオフセット値を統計的に処理し(例えば平均など)処理結果をオフセット値としてもかまわない。
【0071】
図7は、解除手段と解除手段による挟持体の動作態様を模式的に示す図である。
【0072】
同図(a)は、解除手段155の移動(同図(b)に矢印gで示す)により挟持体157に発生する力fの方向と、挟持体157の傾く方向dとを示している。なお、(a)では解除手段155の記載が省略されている。同図(b)は、(a)とは異なる方向から示したものであり、解除手段155と挟持体157との位置関係を示している。
【0073】
解除手段155は、挟持体157に付加されている第一バネ158による付勢力に抗して挟持体157を移動させ、係合部215に対する第二係合部156との係合状態を解除する装置である。本実施の形態の場合、解除手段155は、移動方向の一面に傾斜部167を備えた凹部166を備えている。一方、挟持体157は、挟持体157の回転軸159から放射方向に突設されている突出部168と、突出部168の先端に備えられ、解除手段155と係りあうカム部169とを備えている。
【0074】
解除手段155を同図(b)中の矢印の方向に引っ張ると、傾斜部167により、カム部169が押圧されることによって、力fが発生し、カム部169が図中の左方向に向かって移動する。これによって、挟持体157は同図(a)中の矢印方向に回転移動する。同様に反対側に配置される挟持体157も同じように力を加えて回転させることによって、挟持体157の先端部分は広がる。
【0075】
次に、圧力セル210が取り付けの態様とエラー検出、オフセットなどを説明する。
【0076】
図7(a)に示すように、圧力セル210を圧力測定器150の挟持体157の間に挿入する。次に、図7(b)に示すように、挟持体157に付加される付勢力に抗して圧力セル210が挟持体157を拡げる。さらに、圧力セル210を圧力測定器150に対して押し込むと、図8(c)に示すように挟持体157を拡げながら、固定体160に付加される付勢力に抗して固定体160を押し込むことになる。最後に、図8(d)に示すように、圧力セル210を所定の位置まで押し込むと、係合部215が挟持体157に設けられる孔である第二係合部156に嵌り込むと共に、挟持体157が第一バネ158により圧力セル210を挟み込むように閉じる。一方、第二バネ161は、固定体160を介して圧力セル210を押し付ける。この第二バネ161の付勢力は、第二係合部156に対し係合部215を押し付ける方向にかかる。以上によって、圧力セル210の基台151からの距離が固定される。
【0077】
また、この状態で、第二センサ165先端部は、所定の位置まで押し下げられており、圧力セル210が圧力測定器150に取り付けられたことをオフセット部181に通知する。
【0078】
一方、隔膜212に取り付けられている磁性体216とは、磁力により接続され、隔膜212の膨出や凹陥に接続部162が追随する状態となる。ここで、取り付けられた圧力セル210の隔膜212が、例えば図9(a)に示すように、何ら圧力が加えられていない状態で膨出している場合や、同図(b)に示すように凹陥している場合などが発生する。したがって、第一センサ154は、何らかの値を出力することになる。
【0079】
オフセット部181は、この状態における第一センサ154からの値をオフセット値として算出する。つまり、この状態が0点となる。なお、同図(a)の場合、オフセット値は正であり、同図(b)の場合、オフセット値は負として扱われる。
【0080】
以上により、圧力測定器150に対して圧力セル210を押し付けるだけで、圧力セル210を圧力測定器150に取り付けることができる。また、取り付けられた圧力測定器150の筐体211の位置は、規制手段152の挟持体157によって規制されており、また、固定手段153によって固定されているため、例え圧力セル210の着脱が繰り返されたとしても基台151に対する圧力セル210の距離は一定となる。当該距離が一定であれば、基台151に対して取り付けられている第一センサ154と圧力セル210の隔膜212との距離もある微小な範囲内に納まるため、圧力セル210を製造する際に発生する寸法公差等に由来する値のみをオフセット値とすることが可能となる。
【0081】
また、二つある挟持体157の一方にのみ圧力セル210の係合部215が係合する、いわゆる片持ちの場合、第二センサ165が取り付け状態を示すことがある。この場合も、正常な取り付け状態における圧力測定器150と圧力セル210との位置関係が安定しているため、オフセット部181が算出するオフセット値と閾値とを比較するだけで、前記片持ち状態を検出することが可能となる。
【0082】
次に、血液透析装置100が稼働中においては、貯液室217に満たされた液体の圧力が高く、圧力セル210の隔膜212が膨出した場合は、接続部162が押し込められ、ロードセル163に歪みが発生する。また、圧力が低いと圧力セル210の隔膜212が凹陥した場合は、磁石216と磁力により接続された接続部162が引き出され、ロードセル163に押し込めたときとは逆の歪みが発生する。前記歪みがロードセル163によって電気的な情報に変換され、当該情報をオフセット値を用いて補正することで、信頼度の高い値を示すことが可能となる。
【0083】
一方、血液透析が終了し、血液回路201を取り外す際には、図10に示すように、解除手段(図示せず)を稼働させることによって発生する力fにより挟持体157が広がり、係合部215と第二係合部156との係合が解除される。また、固定体160に付加されている付勢力が開放されるため、当該付勢力は圧力セル210を圧力測定器150から押し出す方向に働く。
【0084】
以上により、簡単に圧力セル210を圧力測定器150から取り外すことができる。
【0085】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるわけではない。透析用の液体回路を例示して説明したが、液体回路としては人工心肺用の回路や輸液・輸血用の回路などでも良い。
【0086】
また、図面に記載された液体回路の種類や位置、各基板の配置などは適用する血液透析装置によって変化するものであり、これら変化したものも本願発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本願発明の圧力測定器、及び、当該圧力測定器を備えた血液透析装置に代表されるような体液処理装置は、圧力セルを容易に着脱でき、かつ、圧力測定器に対する圧力セルの位置を安定させることができるため、必要なオフセット値を微小な範囲に収めることが可能となる。したがって、血液回路などの取り付け作業に不慣れな作業者が取り付けを行っても、測定値の信頼性を高くすることが可能である。また、オフセット値の異常により圧力セルの僅かな取り付け異常を検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0088】
100 血液透析装置
101 ポンプ
150 圧力測定器
151 基台
152 規制手段
153 固定手段
154 第一センサ
155 解除手段
156 第二係合部
157 挟持体
158 第一バネ
159 回転軸
160 固定体
161 第二バネ
162 接続部
163 ロードセル
164 アーム
165 第二センサ
166 凹部
167 傾斜部
168 突出部
169 カム部
180 制御部
181 オフセット部
182 エラー検出部
183 オフセット値記憶部
184 測定部
189 表示装置
201 血液回路
202 濾液補液回路
210 圧力セル
211 筐体
212 隔膜
213 導入口
214 導出口
215 係合部
216 磁石
217 貯液室
220 ダイアライザ
300 人体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
係合部を備える筐体と、隔膜とで形成される貯液室を有する圧力セルを着脱自在に保持し、前記貯液室に貯留される液体の圧力を測定する圧力測定器を有する体液処理装置であって、
基台と、
前記係合部と係合することで前記基台に対する前記筐体の距離を規制する規制手段と、
前記係合部と前記規制手段との係合状態を固定する固定手段と、
前記隔膜と接続される接続部を有し、前記基台に対する前記隔膜の変位を信号に変換する第一センサと、
前記係合部と前記規制手段との係合状態を検出する第二センサと、
前記第二センサが係合状態を検出することをトリガーとし、前記第一センサから得られる値と所定の基準値との差をオフセット値として算出するオフセット部と
を備える体液処理装置。
【請求項2】
さらに、
過去に算出されたオフセット値と新たに算出されたオフセット値の差の絶対値である比較値と所定の閾値とを比較し、比較値が所定の閾値以上の場合、エラー情報を出力するエラー検出部を備える請求項1に記載の体液処理装置。
【請求項3】
前記閾値として採用しうる値が10mmHg以上である請求項2に記載の体液処理装置。
【請求項4】
係合部を備える筐体と、隔膜とで形成される貯液室を有する圧力セルを着脱自在に保持し、前記貯液室に貯留される液体の圧力を測定する圧力測定器を有する圧力測定器であって、
基台と、
前記係合部と係合することで前記基台に対する前記筐体の距離を規制する規制手段と、
前記係合部と前記規制手段との係合状態を固定する固定手段と、
前記隔膜と接続される接続部を有し、前記基台に対する前記隔膜の変位を信号に変換する第一センサと、
前記係合部と前記規制手段との係合状態を検出する第二センサと、
前記第二センサが係合状態を検出することをトリガーとし、前記第一センサから得られる値と所定の基準値との差をオフセット値として算出するオフセット部と
を備える圧力測定器。
【請求項5】
係合部を備える筐体と、隔膜とで形成される貯液室を有する圧力セルを着脱自在に保持し、前記貯液室に貯留される液体の圧力を測定する圧力測定器を有する体液処理装置に適用される体液処理方法であって、前記圧力測定器は、基台と、前記係合部と係合することで前記基台に対する前記筐体の距離を規制する規制手段と、前記係合部と前記規制手段との係合状態を固定する固定手段と、前記隔膜と接続される接続部を有し、前記基台に対する前記隔膜の変位を信号に変換する第一センサと、前記係合部と前記規制手段との係合状態を検出する第二センサとを備えており、
前記係合部と前記規制手段との係合状態を前記第二センサが検出することをトリガーとし、オフセット部が前記第一センサから得られる値と所定の基準値との差をオフセット値として算出し、
測定部は、オフセット値に基づき前記第一センサから得られた値を補正する
体液処理方法。
【請求項6】
さらに、
エラー検出部が、過去に算出されたオフセット値と新たに算出されたオフセット値の差の絶対値である比較値を算出し、さらに、前記比較値と所定の閾値とを比較し、比較値が所定の閾値以上の場合、エラー情報を出力する請求項5に記載の体液処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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