説明

体細胞を再プログラミングすることにおけるWNT経路の刺激

本発明は、体細胞を再プログラミングする際に使用される組成物および方法を提供する。本発明の組成物および方法は、例えば体細胞を再プログラミングすることにより誘導された多能性幹細胞を形成するか、または形成をモジュレートする(例えば増強する)ために使用できる。再プログラミングされた体細胞は、個体における医学的状態を治療または防止することを包含する多くの目的のために有用である。本発明は、多能性状態に体細胞を再プログラミングする、および/または再プログラミングの速度および/または効率を増強する薬剤を同定するための方法をさらに提供する。組成物および方法の特定のものは、Wnt経路をモジュレートすることに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の資金拠出
本明細書に記載される発明は、全体または一部で、RJに対する助成金5−RO1−HDO45022、5−R37−CA084198および5−RO1−CA087869、ならびにNational Institute of HealthからのNIH助成金HG002668によって支援された。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0002】
関連出願への相互参照
この出願は、2007年8月31日に出願された米国仮特許出願第60/967,028号および2008年8月6日に出願された米国仮特許出願第61/188,190号(これらの両方は、参考として本明細書に援用される)に対する優先権の利益を主張する。
【背景技術】
【0003】
幹細胞は、自己更新が可能でありかつより分化した細胞を形成することができる細胞である。胚性幹(ES)細胞は、集合的に身体を構成する多数の特殊化した細胞型に分化することができる。多大な科学的関心を持たれていることに加えて、多能性という特性は、ヒトES細胞を、疾患に対する細胞/組織置換療法のような再生医療における用途のために大いに臨床上期待できるものとしている。
【0004】
ES細胞を得るために、数種の異なる方法が現在使用されている。1つの方法において、ES細胞株は胚盤胞期の正常胚の内細胞塊から誘導される(特許文献1および特許文献2、非特許文献1参照)。多能性ES細胞を作成するための第2の方法は、体細胞核転移(SCNT)を利用している。この手法においては、核を正常な卵から取り出し、これにより遺伝物質を除去する。ドナー二倍体体細胞の核を摘出卵母細胞内に直接、例えばマイクロマニピュレーションにより導入するか、またはドナー二倍体体細胞を摘出卵の隣に置き、そして2つの細胞を融合させる。得られた細胞は早期の胚に成長する潜在能力を有し、これから幹細胞を産生する内細胞塊を含有する部分が得られる。第3の方法においては、ヒト細胞の核をドナー細胞とは異なる種の摘出動物卵母細胞内に移植する。例えば、特許文献3を参照のこと。得られたキメラ細胞は、多能性ES細胞、特にヒト様多能性ES細胞の製造のために使用される。この手法の不都合な点は、これらのキメラ細胞が未知のウィルスを含有し得、そして動物種のミトコンドリアを保持している場合がある点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,843,780号明細書
【特許文献2】米国特許第6,200,806号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2001/0012513号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Thompson,J.A.ら、Science(1998)282:1145−7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
伝統的なES細胞単離方法には、ヒトES細胞の形成に適用した場合に数種の制約を有するという難点がある。これらには細胞の原料に関連する倫理的な論議ならびに技術的困難が包含される。臨床用途のためのES細胞の生産的利用を大きく制約しているものは、個々の患者に遺伝子的にマッチしたES細胞を形成することに関わる困難である。多能性細胞を形成する代替方法が大いに必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、体細胞を低分化状態に再プログラミングするための組成物および方法を提供する。特定の実施形態において、該組成物および方法は体細胞から多能性の胚性幹細胞様の細胞(ES様細胞)への再プログラミングを可能にする。
【0009】
1つの態様において、本発明は、細胞が再プログラミングされるように細胞外シグナリング分子の存在下に細胞を培養することを含む、哺乳類体細胞を再プログラミングする方法を提供する。
【0010】
1つの態様において、本発明は、細胞が再プログラミングされるようにWnt馴化細胞培養培地中で細胞を培養することを含む、
哺乳類体細胞を再プログラミングする方法を提供する。特定の実施形態において、方法は細胞が多能性となるように誘導されるように体細胞を培養することを含む。特定の実施形態において、Wnt馴化細胞培養培地はWnt3a馴化培地(Wnt3a−CM)を含む。
【0011】
別の態様において、本発明は、細胞が多能性となるように誘導されるようにWnt経路の活性を増大させる薬剤に細胞を接触させることを含む、哺乳類体細胞を再プログラミングする方法を提供する。一部の実施形態において、薬剤は可溶性の生物学的に活性なWntタンパク質、例えばWnt3aタンパク質である。一部の実施形態において、薬剤は(i)例えばWntに対する細胞受容体と相互作用することによりWnt3a馴化培地または可溶性の生物学的に活性なWntタンパク質の作用を模倣する小分子;(ii)β−カテニンとTCF/LEFファミリーのメンバーとの間の相互作用をモジュレートする、および/または、TCF/LEFファミリーのメンバーの発現または活性をモジュレートする薬剤;(iii)Wnt経路の内因性阻害剤の発現または活性を阻害する薬剤よりなる群から選択される。
【0012】
本発明は、本発明の方法を用いて再プログラミングされた体細胞を提供する。
【0013】
Wnt3a活性化物質およびOct4、Klf4、および/またはSox2(またはこれらの何れかの組み合わせ)の操作された発現を代替することができる追加的な再プログラミング剤を含有する細胞培養培地は、本発明のさらなる態様である。本発明のさらなる態様は、(1)(i)Oct4、Klf4、および/またはSox2またはこれらの何れかのサブセットの自身による発現を増大させるように改変されている細胞;および(ii)Wnt経路モジュレーター、例えばWnt経路活性化物質;を含む組成物;(2)(i)1つ以上の再プログラミング因子の自身による発現または細胞内レベルを増大させるように改変されている細胞、ただしここで再プログラミング因子は場合によりOct4、Klf4、および/またはSox2またはこれらの何れかのサブセットから選択される;および(ii)Wnt馴化培地;を含む組成物;(3)(i)1つ以上の再プログラミング因子の自身による発現または細胞内レベルを増大させるように改変されている細胞、ただしここで再プログラミング因子は場合によりOct4、Nanog、Lin28および/またはSox2またはこれらの何れかのサブセットから選択される;および(ii)Wnt経路活性化物質;を含む組成物;(4)(i)1つ以上の再プログラミング因子の自身による発現または細胞内レベルを増大させるように改変されている細胞、ただしここで再プログラミング因子は場合によりOct4、Nanog、Lin28および/またはSox2またはこれらの何れかのサブセットから選択される;および(ii)Wnt馴化培地;を含む組成物である。
【0014】
本発明はまた、1つ以上の他の薬剤と組み合わせた、体細胞を低分化状態に再プログラミングする、および/または、そのような再プログラミングに寄与する薬剤を同定するための方法を提供する。該方法の特定のものにおいては、Wnt経路活性を増大させる薬剤および候補薬剤に体細胞を接触させる。細胞は多能性の特徴に関して評価される。多能性の特徴の少なくともサブセットの存在は、薬剤が体細胞を低分化状態に再プログラミングすることができることを示す。本発明により同定される薬剤は次に、薬剤に体細胞を接触させることにより体細胞を再プログラミングするために使用できる。
【0015】
本発明は、状態に対する治療を必要とする個体における状態を治療するための方法をさらに提供する。特定の実施形態において、体細胞を個体から得て、そして本発明の方法により再プログラミングする。再プログラミングされた細胞を培養において増殖させてよい。多能性の再プログラミングされた細胞(これは元の再プログラミングされた細胞、および/または、多能性の特性を保持しているその子孫を指す)を、細胞が所望の細胞型または細胞系列の細胞に成長するために適する条件下に維持する。一部の実施形態において、細胞を当該分野で知られたもののようなプロトコルを用いてインビトロで分化させる。所望の細胞型の再プログラミングされた細胞を個体に導入することにより状態を治療する。特定の実施形態において、個体から得た体細胞は1つ以上の遺伝子において突然変異を含有する。これらの場合においては、特定の実施形態において、個体から得た体細胞を先ず、例えば遺伝子の野生型の1つ以上のコピーを細胞に導入して得られた細胞が遺伝子の野生型のバージョンを発現するようにすることにより、欠損を修復または補償するように処理する。次に細胞を個体に導入する。
【0016】
特定の実施形態において、個体から得た体細胞を、それらの個体からの除去の後に、1つ以上の遺伝子を発現するように操作する。細胞は、細胞内に遺伝子、または遺伝子を含む発現カセットを導入することにより操作することができる。導入された遺伝子は、再プログラミングされた細胞を同定、選択、および/または形成する目的のために有用なものであり得る。特定の実施形態において、導入された遺伝子は、再プログラミングされた状態の開始および/または維持に寄与する。特定の実施形態において、導入された遺伝子の発現産物は、再プログラミングされた状態をもたらすことに寄与するが、再プログラミングされた状態を維持するためには無くてもよいものである。
【0017】
特定の他の実施形態において、本発明の方法は、機能器官を必要とする個体を治療するために使用できる。該方法においては、機能器官を必要とする個体から体細胞を得て、そして本発明の方法により再プログラミングすることにより再プログラミングされた体細胞を形成する。そのような再プログラミングされた体細胞を次に、所望の臓器への再プログラミングされた体細胞の成長に適する条件下で培養し、次にこれを個体に導入する。
【0018】
さらに要約すると、本発明は、哺乳類体細胞が再プログラミングされるように、Wnt経路をモジュレートする薬剤に哺乳類体細胞を接触させることを含む、哺乳類体細胞を再プログラミングする方法を提供する。本発明の特定の実施形態において、方法は、哺乳類体細胞を多能性状態に再プログラミングすることを含む。特定の態様において、本発明は、誘導された多能性幹(iPS)細胞を形成する方法における改良を提供する。例えば、特定の態様において、本発明は、c−Mycを発現するように操作されていない体細胞の多能性への再プログラミングを増強する。特定の態様において、本発明の方法は、均質なES様コロニーを形成することを促進する。一部の実施形態において、本発明の方法は、初期体細胞の遺伝子組み換えを必要とする選択工程を必要とすることなく、均質なES様コロニーの形成を増強する。
【0019】
本発明の特定の実施形態において、該方法は、Wnt馴化培地中で細胞を培養することを含む。特定の実施形態において、該方法は、Wnt3a馴化培地中で細胞を培養することを含む。特定の実施形態において、細胞はヒト細胞である。特定の実施形態において、細胞はマウス細胞である。特定の実施形態において、細胞は非ヒト霊長類細胞である。特定の実施形態において、哺乳類体細胞は、終末分化した細胞である。特定の実施形態において、細胞は線維芽細胞または免疫系細胞(例えばBまたはT細胞)である。特定の実施形態において、哺乳類体細胞は、終末分化していない細胞である。例えば、哺乳類体細胞は、前駆細胞、例えば神経前駆細胞または造血前駆細胞であってよい。特定の実施形態において、方法はインビトロで実施される。特定の実施形態において、細胞を接触させることは、薬剤を含有する培養培地中で細胞を培養することを含む。特定の実施形態において、接触させることは、少なくとも10日間薬剤を含む培養培地中で細胞を培養することを含む。特定の実施形態において、接触させることは、少なくとも12日間または少なくとも15日間、または少なくとも20日間、薬剤を含む培養培地中で細胞を培養することを含む。特定の実施形態において、体細胞は、内因性の多能性遺伝子のためのプロモーターに作動可能に連結した選択マーカーをコードする核酸配列を含有するように遺伝子組み換えされることにより、多能性となるように再プログラミングされている細胞の選択を可能にし、そして別の実施形態において、体細胞は、内因性の多能性遺伝子のためのプロモーターに作動可能に連結した選択マーカーをコードする核酸配列を含有するように遺伝的に改変されないことにより、多能性となるように再プログラミングされている細胞の選択を可能にする。特定の実施形態において、体細胞は、その型の体細胞中に通常存在するよりも高値のレベルで少なくとも1つの再プログラミング因子を発現または含有するように改変される。一部の実施形態において、再プログラミング因子はOct4である。一部の実施形態において、再プログラミング因子はSox2である。一部の実施形態において、再プログラミング因子はKlf4である。一部の実施形態において、再プログラミング因子はNanogである。一部の実施形態において、再プログラミング因子はLin28である。一部の実施形態において、再プログラミング因子はOct4およびSox2である。一部の実施形態において、再プログラミング因子はOct4、Sox2、およびKlf4である。特定の実施形態において、体細胞は、その細胞型の体細胞において通常存在するよりも高値のレベルでc−Mycを発現するように遺伝的に改変されない。特定の実施形態において、細胞を、Wnt経路をモジュレートする第2の薬剤にも接触させる。特定の実施形態において、体細胞を、外因性で可溶性の生物学的に活性なWntタンパク質を含有する培地中で培養する。特定の実施形態において、Wntタンパク質はWnt3aタンパク質である。特定の実施形態において、方法は、再プログラミングされた細胞が多能性であることを確認することをさらに含む。特定の実施形態において、方法は、細胞の集団に対して実施され、そして方法は、多能性状態となるように再プログラミングされない細胞から多能性状態となるように再プログラミングされる細胞を分離することをさらに含む。特定の実施形態において、方法は、対象に再プログラミングされた細胞を投与することをさらに含む。特定の実施形態において、方法は、細胞を再プログラミングした後にインビトロで所望の細胞型に細胞を分化させることをさらに含む。特定の実施形態において、方法は、分化した細胞を対象に投与することをさらに含む。
【0020】
本発明はまた、(a)個体から体細胞を得ること;(b)Wnt経路をモジュレートする薬剤(例えばWnt経路活性化物質)に哺乳類体細胞を接触させることを含む方法により、体細胞の少なくとも一部分を再プログラミングすること;および(c)場合により細胞を1つ以上の所望の細胞型に分化させた後に、個体に再プログラミングされた細胞の少なくとも一部分を投与すること;を含む、治療を要する個体を治療する方法を提供する。一部の実施形態において、個体はヒトである。一部の実施形態において、該方法は細胞の集団に対して実施され、そして多能性状態となるように再プログラミングされない細胞から多能性状態となるように再プログラミングされる細胞を分離することをさらに含む。一部の実施形態において、方法は、インビトロで細胞を分化させること、および、場合により、細胞療法が有用である状態に対する治療を必要とする個体に分化した細胞を投与することをさらに含む。例えば、細胞は神経細胞系列、筋肉細胞系列等のような所望の細胞系列に沿って分化させてよい。
【0021】
本発明は、(i)改変または処理を行わない場合よりも高いレベルで少なくとも1つの再プログラミング因子を発現または含有するように改変または処理を受けている哺乳類体細胞;および、(ii)Wnt経路の活性を増大させ、そして体細胞を多能性細胞に再プログラミングすることに寄与する薬剤を含む組成物をさらに提供する。特定の実施形態において、薬剤はWnt3aタンパク質である。特定の実施形態において、薬剤は小分子である。
【0022】
本発明は、(a)Wnt経路の活性をモジュレートする薬剤および候補薬剤を含有する培地中で哺乳類体細胞の集団を培養すること;および(b)適当な時間の後、適当な時間に亘って培養物中に細胞およびその子孫を維持した後にES細胞の1つ以上の特徴を有する細胞が存在するかどうかを決定することを含む、多能性状態への哺乳類体細胞の再プログラミングをモジュレートするために有用である薬剤を同定する方法であって、培地が候補薬剤を含有していない場合に予測されるものとは異なるレベルでES細胞の1つ以上の特徴を有する細胞が存在するとき、多能性状態への哺乳類体細胞の再プログラミングをモジュレートするために有用であるものとして候補薬剤を同定する方法をさらに提供する。
【0023】
特定の実施形態において、特徴は、コロニー形態、ES細胞により選択的に発現される内在性遺伝子の発現、ES細胞により選択的に発現される遺伝子の発現制御配列に作動可能に連結した検出可能なマーカーの発現、免疫無防備状態のマウスに注射した場合に内胚葉、中胚葉および外胚葉の特徴を有する細胞に分化する能力、および分娩まで生存する(survive to term)キメラの形成に関与する能力から選択される。特定の実施形態において、細胞は少なくとも1つの再プログラミング因子を発現するように改変されている。特定の実施形態において、培地はWnt馴化培地である。
【0024】
特定の実施形態において、培地はWnt3a馴化培地である。特定の実施形態において、Wnt経路の活性をモジュレートする薬剤はWnt3aタンパク質である。特定の実施形態において、Wnt経路の活性をモジュレートする薬剤は小分子である。特定の実施形態において、候補薬剤は小分子である。特定の実施形態において、方法は、哺乳類体細胞の再プログラミングを増強するために有用である薬剤を同定することを含み、培地が候補薬剤を含有していない場合に予測されるものより高値のレベルでES細胞の1つ以上の特徴を有する細胞が存在するとき、多能性状態への哺乳類体細胞の再プログラミングを増強するために有用であるものとして候補薬剤を同定する。特定の実施形態において、工程(b)は、適当な時間に亘って培養物中に細胞およびその子孫を維持した後にES細胞コロニーの1つ以上の特徴を有する細胞コロニーが存在するかどうかを決定することを含み、培地が候補薬剤を含有していない場合に予測されるものとは異なるレベルでES細胞コロニーの1つ以上の特徴を有する細胞コロニーが存在するとき、多能性状態への哺乳類体細胞の再プログラミングをモジュレートするために有用であるものとして候補薬剤を同定する。特定の実施形態において、細胞は少なくとも1つの再プログラミング因子を発現する。
【0025】
本発明はまた、(a)Wnt経路の活性を増大させる薬剤および候補薬剤に哺乳類体細胞の集団を接触させること;(b)適当な時間に亘り細胞培養系中に細胞を維持すること;および(c)ES細胞の1つ以上の特徴を有する細胞が該培養系中に存在するかどうかを決定することを含む、多能性状態に哺乳類体細胞を再プログラミングするために有用な薬剤を同定する方法であって、細胞を候補薬剤に接触させていなかった場合に予測されるものよりも高値のレベルでES細胞の1つ以上の特徴を有する細胞が存在するとき、ES様状態に哺乳類体細胞を再プログラミングするために有用であるものとして薬剤を同定する方法を提供する。
【0026】
本発明の特定の実施形態において、特徴は、コロニー形態、ES細胞により選択的に発現される内在性遺伝子の発現、ES細胞により選択的に発現される遺伝子の発現制御配列に作動可能に連結した検出可能なマーカーの発現、免疫無防備状態のマウスに注射した場合に内胚葉、中胚葉および外胚葉の特徴を有する細胞に分化する能力、および分娩まで生存するキメラの形成に関与する能力から選択される。
【0027】
特定の実施形態において、Wnt経路の活性を増大させる薬剤はWnt3aタンパク質である。特定の実施形態において、候補薬剤は小分子である。特定の実施形態において、細胞は少なくとも1つの再プログラミング因子を発現する。特定の実施形態において、工程(b)は、適当な時間に亘って培養物中に細胞およびその子孫を維持した後にES細胞コロニーの1つ以上の特徴を有する細胞コロニーが存在するかどうかを決定することを含み、培地が候補薬剤を含有していない場合に予測されるものとは異なるレベルでES細胞コロニーの1つ以上の特徴を有する細胞コロニーが存在するとき、多能性状態への哺乳類体細胞の再プログラミングをモジュレートするために有用であるものとして候補薬剤を同定する。
【0028】
本発明はまた、細胞が再プログラミングされるように細胞外シグナリング分子の存在下に細胞を培養することを含む哺乳類体細胞の再プログラミング方法を提供する。特定の実施形態において、該細胞外シグナリング分子は、細胞受容体の細胞外ドメインへのその分子の結合が細胞内のシグナル伝達経路を開始または改変する分子である。特定の実施形態において、シグナル伝達経路はWnt経路である。
【0029】
本発明はまた、(a)Wnt経路モジュレーターを含有する培地中で哺乳類体細胞の集団を培養すること;(b)適当な時間の後、適当な時間に亘って培養物中に細胞およびその子孫を維持した後にES細胞の1つ以上の特徴を有する細胞が存在するかどうかを決定すること、を含む多能性状態への哺乳類体細胞の再プログラミングをモジュレートするために有用なWnt経路モジュレーターを同定するための方法であって、培地がWnt経路モジュレーターを含有していない場合に予測されるものとは異なるレベルでES細胞の1つ以上の特徴を有する細胞が存在するとき、多能性状態への哺乳類体細胞の再プログラミングをモジュレートするために有用であるものとしてWnt経路モジュレーターを同定する方法を提供する。
【0030】
特定の実施形態において、方法は、(i)少なくとも10のWnt経路モジュレーターを試験すること;および(ii)Wnt経路モジュレーターのうちの1つ以上を、他の試験したWnt経路モジュレーターの少なくとも50%よりも再プログラミングの速度または効率に対して有意に高い作用を有するものとして同定することを含む。特定の実施形態において、方法は、少なくとも20、少なくとも50、または少なくとも100のWnt経路モジュレーターを試験することを含む。特定の実施形態において、方法は、Wnt経路モジュレーターのうちの1つ以上を、他の試験したWnt経路モジュレーターの少なくとも75%または少なくとも90%よりも再プログラミングの速度または効率に対して有意に高い作用を有するものとして同定することを含む。特定の実施形態において、Wnt経路モジュレーターは小分子である。特定の実施形態において、試験したWnt経路モジュレーターは構造的に関連している。例えば、それらは共通のコア構造に基づいて合成された化合物のセット、例えばコンビナトリアルな化合物ライブラリのメンバーであってよく、或いは、それらは1つ以上の位置において置換または付加を行うことによる等、コア構造またはリード化合物を改変することにより得られた誘導体であってよい。特定の実施形態において、適当な時間の後、培地がWnt経路モジュレーターを含有していない場合に予測されるものよりも多い数でES細胞の1つ以上の特徴を有する細胞が存在するとき、ES様状態へ哺乳類体細胞を再プログラミングする速度または効率を上昇させるために有用であるものとしてWnt経路モジュレーターを同定する。特定の実施形態において、適当な時間の後、培地がWnt経路モジュレーターを含有していない場合に予測されるものよりも多い数でES細胞コロニーの1つ以上の特徴を有する細胞コロニーが存在するとき、多能性状態へ哺乳類体細胞を再プログラミングする速度または効率を上昇させるために有用であるものとしてWnt経路モジュレーターを同定する。例えば、方法は、ES細胞コロニーの特徴を有するコロニーの増大した割合をもたらしてよく、および/または、コロニーは、Wnt経路モジュレーターの非存在下の場合よりも均質であってよい。
【0031】
本発明はさらに、(a)Wnt経路モジュレーターを含有する細胞培養培地;および(b)複数の哺乳類体細胞、ただしここで(i)細胞が1つ以上の再プログラミング因子を発現するように遺伝的に改変されているか、もしくは一過性にトランスフェクトされているか;(ii)細胞が内因性の多能性遺伝子のためのプロモーターに作動可能に連結した選択マーカーをコードする核酸配列を含有するように遺伝子組み換えされることにより、多能性となるように再プログラミングされている細胞の選択を可能にするか;または(iii)細胞培養培地がc−Myc以外の再プログラミング因子を代替する1つ以上の小分子、核酸、またはポリペプチドを含有するもの、を含む細胞培養組成物を提供する。
【0032】
特定の実施形態において、細胞培養培地は、Wnt−3aCMを含む。特定の実施形態において、培地はWnt経路をモジュレートする小分子を含有する。
【0033】
特定の実施形態において、1つ以上の再プログラミング因子は、Oct4、Nanog、Sox2、Lin28、およびKlf4から選択される。本発明は、iPS細胞およびWnt経路をモジュレートする、例えば活性化する薬剤を含む組成物をさらに提供する。特定の実施形態において、Wnt経路を活性化する薬剤はWnt3aタンパク質である。特定の実施形態において、Wnt経路を活性化する薬剤は小分子である。
【0034】
特定の実施形態において、本発明は、哺乳類体細胞を再プログラミングするための医薬の製造におけるWnt経路をモジュレートする薬剤の使用を提供する。
【0035】
本明細書に記載した実施形態の全ては本発明の種々の態様に適用されることを意図している。さらにまた、本発明の種々の実施形態およびその要素は、適切である場合は常時、1つ以上の他のそのような実施形態および/または要素と組み合わせることができることも意図している。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】Wnt3aは、後成的再プログラミングを促進する。a.実験の時系列の模式図。MEFをDOX誘導性レンチウィルスに感染させ、Wnt3−CM処理を行う場合と行わない場合の培養物に分割し、次にDOXで誘導した(第0日)。誘導後の一定の時点においてG418の選択を開始し、そしてWnt3a−CM処理を選択の7日間維持した。DOXおよびG418は耐性コロニーを評価するまで維持した。b.標準ES細胞培地中またはWnt3a−CM処理を行った場合のOct4/Sox2/Klf4/c−Mycを過剰発現しているMEFに由来するG418耐性コロニー数。c.Wnt3a−CM処理を行った場合および行わなかった場合に形成されたG418耐性コロニーの位相像。d.Wnt3a−CMの存在下および非存在下に再プログラミング因子の異なる組み合わせで感染させたMEFに由来するG418耐性コロニー数。G418耐性コロニーは、Wnt3a−CMの存在下ではc−Mycの伝達を行うことなく出現した。e.Wnt3a−CM処理を伴って形成されたMyc[−]G418耐性コロニーの位相像。本実験においては、Wnt3a−CM非存在下ではMyc[−]細胞に関してコロニーは観察されなかった。f.Wnt3a−CMの存在下(赤色バー)および非存在下(灰色バー)におけるOct4/Sox2/Klf4(Myc[−])またはOct4/Sox2/Klf4/c−Myc(Myc[+])を過剰発現しているMEFに由来するG418耐性コロニー数。G418の選択は、記載の通り誘導後の第5日または第10日に開始し、そしてコロニー(32cmの面積中)を第20日に評価した。g.Oct4/Sox2/Klf4の誘導後第20日にOct4−GFP細胞においてフローサイトメトリーを用いて自己蛍光に対してGFP強度を比較した散布図によれば、Wnt3a−CM処理を行った場合のみGFP発現細胞集団(矢印で示す)が観察された。h.Wnt3a−CM処理により誘導され、如何なる遺伝子的選択も行わなかった場合のGFP発現Myc[−]細胞の位相像。
【図2】Wnt刺激細胞における多能性の誘導。a〜d.免疫染色によればWnt3a−CM処理Myc[−]細胞における多能性マーカーNanog(a〜b)およびSSEA−1(c〜d)の誘導が明らかである。e〜g.Wnt3a−CM処理Myc[−]系統はSCIDマウスに皮下注射したところ奇形腫を形成した。Oct4/Sox2/Klf4/Wnt3aCMiPS系統由来の奇形腫は、V6.5mES注射により形成される奇形腫と同様の3胚葉の分化細胞の証拠を示した。矢印は神経組織(e)、軟骨(f)および内胚葉細胞(g)を示す。h.選択を行わずに誘導されたOct4/Sox2/Klf4/Wnt3aCMiPS系統は、(右側の野生型のBalb/cマウスとは対照的に)アグーチの毛色および色素沈着眼を有するキメラマウス(左側に示す)をもたらしており、体細胞への寄与の証拠を示している。新生仔の毛色は、今回形成したOct4/Sox2/Klf4/Wnt3aCMiPS系統が生殖細胞系コンピテントであることを確認するものである(データ示さず)。
【図3】Wnt/β−カテニン刺激は、c−Mycレトロウィルス非存在下におけるiPSコロニー形成を増強する。a.ES細胞培地、MEF馴化培地、Wnt3a過剰発現馴化培地、およびICG001(4μM)を含有するWnt3a過剰発現馴化培地中で培養されたOct4/Sox2/Klf4過剰発現MEFにおけるG418耐性コロニーに関する計数値を示す。選択は誘導後第15日に開始し、そしてコロニーは第28日に評価した。Wnt3a−CM処理は第22日まで維持した。3連の実験から得られた計数値の平均値を、SDを示すエラーバーと共に表示する。b.ES細胞培地、Wnt3a過剰発現馴化培地、およびICG001(4μM)を含有するWnt3a過剰発現馴化培地中で培養されたOct4/Sox2/Klf4/c−Myc過剰発現MEFにおけるG418耐性コロニー(32cmの面積中)に関する計数値を示す。選択は誘導後第10日に開始し、Wnt3a−CMは第17日まで維持し、そしてコロニーは第20日に評価した。c.Wnt刺激はc−Mycの伝達の非存在下のiPS細胞の形成を促進する。これはi)ES細胞におけるゲノム試験により示唆される通りOct4、Sox2およびNanogのような重要な内因性の多能性因子のWnt経路により直接の調節(Coleら、2008)、ii)内因性MycのWnt経路誘導活性化(Heら、1998;Coleら、2008)、またはiPSコロニーを形成する逐次的プロセスを加速する他の細胞増殖遺伝子によると考えられる。
【図4】(a)iPS細胞の形成を促進するWnt3a馴化培地の能力を示す初期実験の時系列。多能性誘導因子の発現を第2日に誘導した。GFPの発現およびコロニー形成を(b)に示す通り評価した。Wnt3aは、Oct4、Sox2、Klf4およびc−Mycを過剰発現する細胞においてiPS細胞形成を促進している;図4C。Wnt3aは、c−Mycの操作された発現を伴わないOct4、Sox2、Klf4を過剰発現する細胞におけるiPS細胞形成を促進し;(c)Wnt3aは、c−Mycの操作された発現を伴わないOct4、Sox2、Klf4を過剰発現する細胞におけるiPS細胞形成を促進している。
【図5】ICG−001の構造
【発明を実施するための形態】
【0037】
序論および定義
本発明は体細胞を再プログラミングするための、例えばインビトロで体細胞を多能性となるように再プログラミングするための組成物および方法に関する。本発明は体細胞を低分化状態に再プログラミングするための方法を提供する。結果として生じる細胞を本明細書においては「再プログラミングされた体細胞」(RSC)と称するか、または一部の実施形態においては、多能性状態に再プログラミングされれば、誘導多能性幹(iPS)細胞と称する。「体細胞」という用語は、生殖細胞以外の何れかの細胞、移植前の胚中に存在するか、それより得られる細胞、またはインビトロのそのような細胞の増殖から生じる細胞を指す。一部の実施形態においては、体細胞は「非胚性体細胞」であり、これは胚中に存在したり、あるいはそれより得られるものではなく、そしてそのような細胞のインビトロの増殖から生じない体細胞を意味する。一部の実施形態においては、体細胞は「成体体細胞」であり、これは胚または胎仔以外の臓器中に存在するか、それより得られる、あるいはインビトロのそのような細胞の増殖から生じる細胞を意味する。特段の記載が無い限り、低分化状態に細胞を再プログラミングするための方法はインビトロで実施され、すなわち、それらは培養物中に維持された単離された体細胞を用いて実施される。
【0038】
本発明は内因性ES細胞転写因子の発現をモジュレートする天然に存在するシグナリング分子は再プログラミングを増強する可溶性の薬剤のための期待できる候補であるという認識を包含する。本発明はまた、そのような天然に存在するシグナリング分子が相互作用する生物学的経路をモジュレートすることは再プログラミングを増強(例えばその速度および/または効率を増大)するために有用であるという認識を包含する。本発明はまた、そのような天然に存在するシグナリング分子が相互作用する生物学的経路をモジュレートする薬剤(天然に存在するか合成であるかに関わらない、例えば小分子)は、再プログラミングを増強する可溶性の薬剤のための期待できる候補であるという認識を包含する。
【0039】
以下により詳述する通り、本発明の特定の実施形態はWnt経路をモジュレート、例えば活性化することは体細胞を再プログラミングする場合に有用であるという認識に少なくとも部分的には基づいている。方法の特定のものは、体細胞におけるWnt経路の活性を、少なくとも一部の細胞が例えば多能性状態に再プログラミングされるように、増大させることを含んでいる。方法の特定のものはWnt馴化培地中で体細胞を、少なくとも一部の細胞が例えば多能性状態に再プログラミングされるように、培養することを含んでいる。
【0040】
再プログラミングとは、本明細書においては、体細胞の分化状態を改変または逆行させるプロセスを指す。細胞は再プログラミングの前には部分または終末分化の何れかであることができる。再プログラミングは体細胞の分化状態の多能性状態への完全な逆行を包含する。当該分野で知られる通り、「多能性」細胞は全てで3つの胚性の胚葉(内胚葉、中胚葉および外胚葉)から誘導された細胞に分化するか、それを生じさせる能力を有し、そして典型的には長時間、例えば1年より長く、または30継代より多く、インビトロで分裂する能力を有する。ES細胞は多能性細胞の一例である。再プログラミングにはさらに、多分化能状態への体細胞の分化状態の部分的逆行が包含される。「多分化能」細胞とは全ての3つの胚葉から誘導された細胞の全てではないが一部に分化することができる細胞である。すなわち多分化能細胞は部分的に分化した細胞である。成体幹細胞は多分化能細胞である。成体幹細胞は例えば造血幹細胞および神経幹細胞を包含する。再プログラミングにはまた、本明細書に記載するもののような追加的な操作法に付された場合に多能性状態への完全な再プログラミングに対して細胞がより感受性となる状態への体細胞の分化状態の部分的逆行を包含する。そのような接触は細胞による特定の遺伝子の発現をもたらす場合があり、そのような発現は再プログラミングに寄与する。本発明の特定の実施形態においては、体細胞の再プログラミングは体細胞に多能性ES様状態を呈させる。結果として生じる細胞は本明細書においては、再プログラミングされた多能性体細胞または誘導多能性幹(iPS)細胞と称する。
【0041】
再プログラミングは、接合子が成体に発達するに従って細胞分化の間に生じる、核酸改変(例えばメチル化)の遺伝性パターンの少なくとも一部分の改変、例えば逆転、染色質の縮合、後成的変化、ゲノム刷り込み等を包含する。再プログラミングは、単に、既に多能性である細胞の既存の未分化の状態を維持すること、または既に多分化能細胞(例えば造血幹細胞)である細胞の既存の十分ではない分化した状態を維持することとは区別可能である。再プログラミングはさらに、既に多能性または多分化能である細胞の自己更新または増殖を促進することとも区別可能であるが、本発明の組成物および方法はまたそのような目的のために有用である場合もある。本発明の組成物および方法の特定のものは多能性状態を樹立することに寄与する。方法は、既に多分化能または多能性である細胞に対してよりはむしろ、完全に分化した、および/または特定の型の細胞のみを生じるように制約された細胞に対して実施してよい。
【0042】
体細胞は本発明の方法に従って再プログラミングを起こすための種々の方法の何れかにおいて処理してよい。処理は再プログラミングに寄与する薬剤(「再プログラミング剤」)1つ以上に細胞を接触させることを含むことができる。そのような接触は、薬剤を含む培養培地中に細胞を維持することにより実施してよい。一部の実施形態においては、体細胞は遺伝子操作される。体細胞は後述する通り再プログラミング剤1つ以上を発現するように遺伝子操作されてよい。
【0043】
本発明の方法において、体細胞は、一般的に、温度、pHおよび他の環境条件の標準的な条件下において、例えば5〜10%COを含有する雰囲気中37℃で組織培養プレート中の接着細胞として、培養してよい。細胞および/または培養培地は本明細書に記載する再プログラミングを達成するために適切に改質される。特定の実施形態においては、体細胞は細胞外マトリックスの1つ以上の特徴を模倣する、または、1つ以上の細胞外マトリックスまたは基底膜成分を含む物質の上で、またはその存在下で培養する。一部の実施形態においては、Matrigel(商標)を使用する。他の物質はタンパク質またはその混合物、例えばゼラチン、コラーゲン、フィブロネクチン等を包含する。本発明の特定の実施形態においては、体細胞は細胞のフィーダー層の存在下に培養する。そのような細胞は例えばネズミまたはヒトを起源としてよい。所望によりそれらの増殖を抑制するために、それらを放射線照射するか、マイトマイシンcのような化学的不活性化剤による処理により化学的に不活性化するか、または別様に処理してよい。他の実施形態において、体細胞はフィーダー細胞を伴うことなく培養される。
【0044】
本発明の方法を用いた体細胞再プログラミングによる多能性または多分化能の細胞の形成は、多くの利点を有する。第1に、本発明の方法は自系の多能性細胞を形成可能とし、これは個体に対して特異的であり、そして遺伝子的にマッチした細胞である。細胞は個体から得られた体細胞から誘導される。一般的に、自系細胞は免疫拒絶を受ける可能性が非自系細胞よりも低い。第2に、本発明の方法によれば、当業者は、胚、卵母細胞、および/または核転移技術を使用することなく多能性細胞を形成できる。出願人の結果によれば(i)体細胞はc−Mycのような癌遺伝子を発現するように細胞を操作する必要なくES様状態に再プログラミングされることができ;そして(ii)体細胞の再プログラミングは少なくとも部分的には、再プログラミング因子を発現するように細胞を操作すること以外の手段により、すなわち、細胞に取り込まれて安定な遺伝子組み換えを誘発することができる核酸またはウィルスベクター以外の再プログラミング剤に細胞を接触させることにより行うことができる。特に、本発明は、細胞外シグナリング分子、例えば存在すれば細胞外で細胞表面受容体に結合し、そして細胞内シグナル伝達カスケードを活性化する分子が、体細胞を再プログラミングするために有用であるという認識を包含する。本発明はさらに細胞外シグナリング分子の適用以外の手段によるそのようなシグナリング経路の活性化もまた、体細胞の再プログラミングのために有用であるという認識を包含する。さらにまた、本発明の方法は選択マーカーを使用する必要なく形態学的な基準に基づいて検出可能なES様細胞のコロニーの形成を増強する。すなわち、本開示はインビトロ体細胞再プログラミング技術の分野における数種の基本的に重要な進歩を反映している。本発明の特定の態様は本明細書においてはWnt経路シグナリングを用いて例示されるが、本発明の方法は体細胞を再プログラミングする目的のための他のシグナリング経路の活性化を包含する。
【0045】
本発明の態様を理解するために有用な特定の用語の定義を以下に記載する。
【0046】
「薬剤」とは本明細書においては、何れかの化合物または物質、限定しないが例えば小分子、核酸、ポリペプチド、ペプチド、薬剤、イオン等を意味する。
【0047】
「細胞培養培地」(本明細書においては「培養培地」または「培地」とも称する)は細胞の生存性を維持し、そして増殖を支援する栄養物を含有する細胞を培養するための培地である。細胞培養培地は適切な組み合わせにおいて以下のもの何れか、すなわち:塩、緩衝物質、アミノ酸、グルコースまたは他の糖類、抗生物質、血清または血清代替物、および他の成分、例えばペプチド成長因子等を含有してよい。特定の細胞型のために通常使用される細胞培養培地は当該分野で公知である。一部の非限定的な例を本明細書に記載する。
【0048】
「細胞系統」とは単一の先祖細胞から、または定義された、および/または実質的に同一の先祖細胞集団から典型的には誘導されている、概してまたは実質的に同一の細胞の集団を指す。細胞系統は延長された期間(例えば数ヶ月、数年、無制限の期間)培養物中に維持されていてよいか、維持されることができてよい。それは細胞に対して無制限の培養寿命を付与する形質転換の自発的または誘導されたプロセスを起こしていてよい。細胞系統はそのようなものとして当該分野で認識されている全てのそのような細胞系統を包含する。当然ながら、細胞は細胞系統の個々の細胞の少なくとも一部の特性が相互に異なっていてよいように経時的に突然変異および可能性としては後成的な変化を獲得する。
【0049】
「外因性」という用語は自身のネイティブの原料以外の細胞または生物中に存在する物質を指す。例えば「外因性核酸」または「外因性タンパク質」という用語は、自身が通常存在しないか、または自身がより少量で存在する細胞または生物のような生物学的系の内部に人為的なプロセスにより導入されている核酸またはタンパク質を指す。ある物質はそれがその物質を受け継いでいる細胞または細胞の先祖の内部に導入されれば外因性とみなされることになる。一方、「内因性」という用語は生物系に対してネイティブである物質を指す。
【0050】
「発現」とはRNAおよびタンパク質を産生すること、そして適宜、タンパク質を分泌すること、例えば適用可能な場合、ただし限定しないが例えば転写、翻訳、折り畳み、改変およびプロセシングに関与する細胞プロセスを指す。「発現産物」とは、遺伝子から転写されたRNAおよび遺伝子から転写されたmRNAの翻訳により得られるポリペプチドを包含する。
【0051】
「遺伝子的に組み換えされた」または「操作された」細胞とは、本明細書においては、人為的なプロセスにより外因性核酸が導入されている細胞(または核酸の少なくとも一部分を受け継いでいるそのような細胞の子孫)を指す。核酸は例えば細胞にとって外因性である配列を含有してよく、それはネイティブの配列(すなわち細胞中に天然に存在する配列)であるが天然には生じない配列にあるもの(例えば異なる遺伝子に由来するプロモーターに連結されたコーディング領域)、またはネイティブの配列の改変された変種等を含有してよい。細胞内に核酸を転移させるプロセスは何れかの適当な手法により達成できる。適当な手法はリン酸カルシウムまたは脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、およびウィルスベクターを使用した伝達または感染を包含する。一部の実施形態においては、ポリヌクレオチドまたはその一部分が細胞のゲノム内に組み込まれる。核酸は後にゲノムから除去されるか摘出されていてよいが、ただしそのような除去または摘出は未改変であるがその他の点では等価である細胞に対して細胞における検出可能な改変をもたらす。
【0052】
「同一性」とは2つ以上の核酸またはポリペプチドの配列が同じである程度を指す。目的の配列と第2の配列の間の評価ウインドウに渡る、例えば目的の配列の長さに渡るパーセント同一性は配列をアラインすること、同一性が最大と成るようにギャップの導入を可能としながら同一の残基に対向する評価のウインドウ内の残基(ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数を測定すること、ウインドウ内に入っている目的の配列または第2の配列(何れか大きいもの)の残基の総数で割ること、そして100を掛けることにより計算してよい。特定のパーセント同一性を達成するために必要な同一残基の数を計算する場合、端数は四捨五入して最も近い整数とする。パーセント同一性は当該分野で公知の種々のコンピュータープログラムを使用して計算できる。例えば、BLAST2、BLASTN、BLASTP、GappedBLAST等のようなコンピュータープログラムはアライメントを発生させ、そして目的の配列とのパーセント同一性を与える。Karlin and Altschul,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877,1993において変更されたKarlinとAltschulのアルゴリズム(Karlin and Altschul,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:22264−2268,1990)はAltschulらのNBLASTおよびXBLASTプログラムに組み込まれている(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403−410,1990)。比較目的のためにギャップ有りのアルゴリズムを得るためには、Gapped BLASTをAltschulらの記載の通り利用する(Altschulら、Nucleic Acids Res.25:3389−3402,1997)。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメーターを使用してよい。PAM250またはBLOSUM62マトリックスを使用してよい。BLAST分析を実施するためのソフトウエアはNational Center for Biotechnology Information(NCBI)を介して公的に入手可能である。これらのプログラムに関してはURLwww.ncbi.nlm.nih.govを有するウエブサイトを参照できる。特定の実施形態においては、パーセント同一性はNCBIにより提供されたものとしてのデフォルトパラメーターによるBLAST2を用いて計算される。
【0053】
「単離された」または「部分的に精製された」とは本明細書においては、自身の天然の原料中に存在する状態の核酸またはポリペプチドと共に存在する、および/または細胞により発現された場合に、または分泌ポリペプチドの場合は分泌された場合に核酸またはポリペプチドと共に存在することになる他の成分(例えば核酸またはポリペプチド)少なくとも1つから分離された核酸またはポリペプチドを指す。化学合成された核酸またはポリペプチドまたはインビトロの転写/翻訳を用いて合成されたものは「単離された」とみなされる。「単離された細胞」はそれが元から存在していた生物から取り出されている細胞またはそのような細胞の子孫である。場合により細胞は例えば他の細胞の存在下にインビトロで培養されている。場合により細胞は後に第2の生物内に導入されるか、またはその単離元である生物(またはそれの先祖にあたる細胞)内に再導入される。
【0054】
「自身の機能が多能性に関連している遺伝子」という用語は本明細書においては、通常の条件下(例えば遺伝子発現を改変するように設計された遺伝子操作または他の操作法の非存在下)における自身の発現が多能性幹細胞において起こるか、または典型的にはそれに限定され、そしてその状態がそれらの機能的同一性のために必須である遺伝子を指す。当然ながら、多能性に機能的に関連する遺伝子によりコードされるポリペプチドは卵母細胞における母系の因子として存在してよい。遺伝子は、例えば移植前の期間の少なくとも一部分を通じて胚の少なくとも一部の細胞により、および/または、成体の生殖細胞前駆体において、発現されてよい。
【0055】
「モジュレート」とは当該分野におけるその使用と合致して使用され、すなわち、目的のプロセス、経路、または現象における定性的または定量的な変化、改変、または改変を誘発または促進することを意味する。限定しないが、そのような変化はプロセス、経路、または現象の異なる構成要素または部分の相対的な強度または活性の増大、低下、または変化であってよい。「モジュレーター」とは目的のプロセス、経路、または現象における定性的または定量的な変化、改変、または改変を誘発または促進する薬剤である。
【0056】
「多能性因子」という用語は、自身の機能が多能性に関連している遺伝子の発現産物、例えばその遺伝子によりコードされているポリペプチドを指すために使用する。一部の実施形態においては、多能性因子は成体動物の身体(生殖細胞またはその前駆体を除く)を構成する体細胞型においては通常は本質的に発現されないものである。例えば多能性因子はES細胞中の自身の平均レベルが成体哺乳類の身体中に存在する終末分化細胞型におけるその平均レベルよりも少なくとも50倍または100倍であるものであってよい。一部の実施形態においては、多能性因子はインビボのES細胞および/または従来の方法を用いて誘導されたES細胞の生存性または多能性を維持するために必須であるものである。すなわち因子をコードする遺伝子がノックアウトされているか抑制されている(すなわちその発現が排除されているか実質的に低減されている)場合、ES細胞は形成されないか、死滅するか、または一部の実施形態においては、分化する。一部の実施形態においては、自身の機能がES細胞における多能性に関連している遺伝子の発現を抑制する(例えば少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、またはそれより高値にまで、RNA転写物および/または遺伝子によりコードされるタンパク質の平均の定常状態レベルにおける低減をもたらす)ことは、生存性であるが、もはや多能性ではない細胞を生じさせる。一部の実施形態においては、遺伝子は、細胞が終末分化細胞に分化する場合にそのES細胞における発現が低下する(例えば少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、またはそれより高値にまで、RNA転写物および/または遺伝子によりコードされるタンパク質の平均の定常状態レベルにおける低減をもたらす)という特徴を有する。
【0057】
「多能性誘導遺伝子」とは、本明細書においては、自身の発現が多能性状態に体細胞を再プログラミングすることに寄与する遺伝子を指す。「多能性誘導因子」とは多能性誘導遺伝子の発現産物を指す。多能性誘導因子は、必ずしもではないが、多能性因子であってよい。外因性に導入された多能性誘導因子の発現は一過性であってよく、すなわち、それは、多能性を誘導および/または安定な多能性状態を樹立するために再プログラミングプロセスの少なくとも一部分の間は必要であるが、後には、多能性を維持するために必要でなくなってよい。例えば、因子は、自身の機能が多能性に関連する内因性の遺伝子の発現を誘導してよい。次にこれらの遺伝子は再プログラミングされた細胞を多能性状態に維持してよい。
【0058】
「ポリヌクレオチド」は本明細書においてはヌクレオシドの重合体を示すために「核酸」と互換的に使用される。典型的には、本発明のポリヌクレオチドは、ホスホジエステル結合により連結された、DNAまたはRNA中に天然に存在するヌクレオシド(例えばアデノシン、チミジン、グアノシン、シチジン、ウリジン、デオキシアデノシン、デオキシチミジン、デオキシグアノシン、およびデオキシシチジン)を含む。しかしながら、用語は、天然に存在する核酸中に存在するか否かに関わらず、化学的または生物学的に改変された塩基、改変された骨格等を含有するヌクレオシドまたはヌクレオシド類縁体を含む分子を包含し、そしてそのような分子は特定の用途のために好ましいものであってよい。この用途がポリヌクレオチドを指す場合、DNA、RNAの両方、そしておのおのの場合1本鎖および2本鎖の型の両方(および各1本鎖分子の相補体)が提供されるものと理解する。「ポリヌクレオチド配列」とは本明細書においては、ポリヌクレオチド物質そのものを、および/または、特定の核酸を生化学的に特徴づける配列情報(すなわち塩基に関する略記法として使用される文字列)を指すことができる。本明細書に記載するポリヌクレオチド配列は特段の記載が無い限り5’から3’の方向に示す。
【0059】
「ポリペプチド」とはアミノ酸の重合体を指す。「タンパク質」および「ポリペプチド」という用語は本明細書においては互換的に使用する。ペプチドは典型的には約2〜60アミノ酸長の比較的短いポリペプチドである。本明細書において使用するポリペプチドは典型的にはタンパク質中最も一般的に認められる20のL−アミノ酸のようなアミノ酸を含有する。しかしながら、当該分野で公知の他のアミノ酸および/またはアミノ酸類縁体も使用できる。ポリペプチド中のアミノ酸の1つ以上は例えば炭水化物基、ホスフェート基、脂肪酸基、コンジュゲーション、官能性付与のためのリンカー等のような化学的実体の付加により改変してよい。自身に共有結合または非共有結合により会合している非ポリペプチド部分を有するポリペプチドはなお、「ポリペプチド」とみなされる。例示される改変はグリコシル化およびパルミトイル化を包含する。ポリペプチドは天然原料から精製するか、組み換えDNA技術を用いて生成するか、従来の固相ペプチド合成のような化学的手段を介して合成する等してよい「ポリペプチド配列」または「アミノ酸配列」という用語は本明細書においては、ポリペプチド物質そのものを、および/または、ポリペプチドを生化学的に特徴付ける配列情報(すなわちアミノ酸の名称に関する略記法として使用される文字列または3文字コード)を指すことができる。本明細書に記載するポリペプチド配列は特段の記載が無い限りN末端からC末端の方向に示す。
【0060】
「ポリペプチド変異体」とはアミノ酸の挿入、欠失、および/または置換により天然に存在するポリペプチドとは異なっている何れかのポリペプチドを指す。変異体は天然に存在するものであるか、または例えば組み換えDNA手法または化学合成を用いて作成してよい。一部の実施形態においては、アミノ酸の置換は、あるアミノ酸を同様の構造的および/または化学的特性を有する別のアミノ酸により置き換えること、すなわち保存的アミノ酸置き換えの結果として生じる。「保存的」アミノ酸置換は、関与する残基の側鎖の大きさ、極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、および/または両親媒性のような種々の特定の何れかにおける同様性に基づいて行ってよい。例えば非極性(疎水性)アミノ酸はアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニンを包含する。極性(親水性)の中性アミノ酸はセリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンを包含する。正荷電(塩基性)アミノ酸はアルギニン、リジンおよびヒスチジンを包含する。負荷電(酸性)アミノ酸がアスパラギン酸およびグルタミン酸を包含する。挿入または欠失は約1〜20アミノ酸、例えば1〜10アミノ酸のサイズの範囲であってよい。一部の場合においては、より大きいドメインが実質的に機能に影響することなく除去される。本発明の特定の実施形態においては、変異体の配列は合計でわずか5、10、15または20のアミノ酸の付加、欠失、または置換を天然に存在する酵素の配列に対して行うことにより得ることができる。一部の実施形態においては、ポリペプチド中のアミノ酸の1%、5%、10%、または20%以下のものが、元のポリペプチドに対して挿入、欠失、または置換となる。目的の活性を排除または実質的に低減することなくどのアミノ酸残基を置換、付加、または欠失させてよいかを判断する場合の指針は、特定のポリペプチドの配列を相同なポリペプチド(例えば他の生物由来)のものと比較すること、および、高相同性の領域(保存された領域)において起こるアミノ酸配列交換の数を最小限にすることによるか、または、種々の種の間で保存されているアミノ酸残基は保存されていないアミノ酸よりも活性のために重要である可能性が高いため、相同な配列中に存在するものでアミノ酸を置き換えることにより、得てよい。
【0061】
「精製された」または「実質的に精製された」とは本明細書においては、示された核酸またはポリペプチドが他の生物学的巨大分子、例えばポリヌクレオチド、タンパク質等の実質的非存在下に存在することを指す。1つの実施形態においては、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは存在するポリヌクレオチドまたはポリペプチドの少なくとも90重量%、例えば少なくとも95重量%、例えば少なくとも99重量%をそれが構成するように精製される(ただし水、緩衝液、イオン、および他の小分子、特に分子量1000ダルトン未満の分子は存在できる)。
【0062】
「RNA干渉」とは、本明細書においては、2本鎖RNA(dsRNA)がdsRNAの鎖に対する相補性を有する相当するmRNAの配列特異的分解または翻訳抑制をトリガーする現象を指すために当該分野におけるその意味と合致して使用される。当然ながら、dsRNAおよびmRNAの鎖の間の相補性は100%である必要は無く、むしろ遺伝子発現の阻害(「サイレンシング」または「ノックダウン」とも称する)を媒介するために十分でありさえすればよい。例えば、相補性の程度は、鎖が(i)RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)におけるmRNAの切断をガイドすること;または(ii)mRNAの翻訳抑制を誘発することの何れかが可能であるものとする。特定の実施形態においては、RNAの2本鎖部分は約30ヌクレオチド長未満、例えば17〜29ヌクレオチド長である。哺乳類細胞においては、RNAiは細胞内に適切な2本鎖核酸を導入するか、細胞内で核酸を発現させて次にこれを細胞内プロセシングに付すことによりその内部にdsRNAを生じさせることにより達成してよい。RNAiを媒介することができる核酸は本明細書においては「RNAi剤」と称する。RNAiを媒介できる核酸の例は、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)、およびミクロRNA前駆体である。これらの用語は周知であり、本明細書においては当該分野におけるそれらの意味と合致して使用される。siRNAは典型的には相互にハイブリダイズして二重鎖を形成する2つの別個の核酸鎖を含む。それらはインビトロで、例えば標準的な核酸合成手法を用いて合成できる。それらは広範な種類の改変されたヌクレオシド、ヌクレオシド類縁体を含むことができ、そして化学的または生物学的に改変された塩基、改変された骨格等を含むことができる。RNAiのために有用であるものとして当該分野で認識されている何れかの改変を使用できる。一部の改変は安定性の増大、細胞取り込み、力価等をもたらす。特定の実施形態においては、siRNAは約19ヌクレオチド長の二重鎖および1〜5ヌクレオチド長の1つまたは2つの3’オーバーハングを含み、これはデオキシリボヌクレオチドを含むものであってよい。shRNAは主に非自己相補領域により分離された2つの相補性部分を含有する単一の核酸鎖を含む。相補性部分はハイブリダイズして二重鎖を形成し、そして非自己相補性領域は二重鎖の1つの鎖の3’末端ともう1つの鎖の5’末端を連結するループを形成する。shRNAは細胞内プロセシングを起こしてsiRNAを形成する。
【0063】
ミクロRNA(miRNA)は配列特異的な態様において遺伝子発現を阻害する約21〜25ヌクレオチド(哺乳類の系において)の小型の非コーディング1本鎖RNAである。それらは不完全な相補性の1つ以上の領域を包含する場合が多い二重鎖を含有する短いヘアピン(約70ヌクレオチド長)を含む特徴的な二次構造を有する前駆体から細胞内で形成される。天然に存在するmiRNAはそれらの標的mRNAに対して部分的にのみ相補であり、そして典型的には翻訳抑制を介して作用する。内因性ミクロRNA前駆体に対してモデリングされたRNAi剤が本発明において有用である。一部の実施形態においては、幹−ループ構造の幹部分をコードする、または、完全な幹−ループをコードする配列を、例えば内因性のミクロRNAまたは最小限(〜70ヌクレオチド)のミクロRNAヘアピンをコードする配列の代わりに、内因性ミクロRNA一次転写物の少なくとも一部分を含む核酸内に挿入できる。
【0064】
「再プログラミング因子」とは例えばインビトロの細胞再プログラミングを促進するかそれに寄与する遺伝子、RNA、またはタンパク質を指す。再プログラミング因子に関連する本発明の態様において、本発明は、再プログラミング因子が体細胞をインビトロで多能性となるように再プログラミングするために有利である実施形態を提供する。体細胞をインビトロで多能性となるように再プログラミングするために有利である再プログラミング因子の例は、Oct4、Nanog、Sox2、Lin28、Klf4、c−Myc、およびインビトロで体細胞を再プログラミングする方法においてこれらの1つ以上を置換できる何れかの遺伝子/タンパク質である。「インビトロで多能性状態に再プログラミングすること」または「インビトロで多能性となるように再プログラミングすること」とは本明細書においては、核または細胞質の転移または例えば卵母細胞、胚、生殖細胞、または多能性細胞との細胞融合を必要とせず、そして典型的には包含しないインビトロの再プログラミング方法を指す。本発明の実施形態または請求項は核または細胞質の転移または例えば卵母細胞、胚、生殖細胞、または多能性細胞との細胞融合に関するか、それが関与する組成物または方法を特に排除してよい。
【0065】
「選択マーカー」とは、発現されれば、細胞に対して選択可能な表現型、例えば細胞毒性薬剤または細胞増殖抑制剤に対する耐性(例えば抗生物質耐性)、原栄養性、またはタンパク質を発現する細胞をしない細胞から区別するための根拠として使用できる特定のタンパク質の発現を与える、遺伝子、RNA、またはタンパク質を指す。自身の発現が容易に検出されえるタンパク質、例えば蛍光性または発光性のタンパク質、または基質に対して作用することにより着色性、蛍光性、または発光性の物質(検出可能なマーカー)を生成する酵素は選択マーカーのサブセットを構成する。多能性細胞において選択的または排他的に通常発現される遺伝子にネイティブである発現制御エレメントに連結した選択マーカーの存在は、多能性状態に再プログラミングされている体細胞を同定および選択することを可能にする。種々の選択マーカー遺伝子、例えばネオマイシン耐性遺伝子(neo)、ピューロマイシン耐性遺伝子(puro)、グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、アデノシンデアミナーゼ(ada)、ピューロマイシン−N−アセチルトランスフェラーゼ(PAC)、ハイグロマイシン耐性遺伝子(hyg)、多剤耐性遺伝子(mdr)、チミジンキナーゼ(TK)、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)、およびhisD遺伝子が使用できる。検出可能なマーカーは緑色蛍光タンパク質(GFP)ブルー、サファイア、イエロー、レッド、オレンジ、およびシアン蛍光タンパク質およびこれらの何れかの変異体を包含する。発光タンパク質、例えばルシフェラーゼ(例えばホタルまたはRenillaのルシフェラーゼ)もまた使用される。当該分野で知られる通り、「選択マーカー」とは本明細書においては、遺伝子または遺伝子の発現産物、例えばコードされたタンパク質を指すことができる。
【0066】
一部の実施形態においては、選択マーカーはそれを発現しないか、または有意に低値のレベルでそれを発現する細胞に対して、それを発現する細胞に対して増殖および/または生存上の利益を付与する。そのような増殖および/または生存上の利益は典型的には、細胞が特定の条件、すなわち「選択条件」の下に維持される場合に生じる。効果的な選択を確保するためには、マーカーを発現しない細胞は増殖せず、および/または生存せず、そして集団から排除されるか、またはそれらの数が集団の極めて少ない割合にまで低減されるような条件下に十分な時間、細胞の集団を維持することができる。マーカーを発現しない細胞を大部分または完全に排除するために選択条件下に細胞の集団を維持することにより増殖および/または生存上の利益を与えるマーカーを発現する細胞を選択するプロセスは本明細書においては「陽性選択」と称し、そしてマーカーは「陽性選択のために有用」であるといえる。陰性選択および陰性選択のために有用なマーカーもまた、本明細書に記載する方法の特定のものにおいて有利である。そのようなマーカーの発現は、マーカーを発現しないか、または有意に低値のレベルでそれを発現する細胞に対して、マーカーを発現する細胞に対して増殖および/または生存上の不利益を与える(または、別の考え方をすれば、マーカーを発現しない細胞はマーカーを発現する細胞に対して増殖および/または生存上の利益を有する)。従って、マーカーを発現する細胞は、十分な期間選択条件中に維持されれば細胞集団から大部分が、または完全に排除できる。
【0067】
「処理する」、「処理すること」、「処理」等の用語は単離された細胞に適用する場合、細胞を何れかの種類のプロセスまたは条件に付すこと、または細胞に対して何れかの種類の操作法または手順を実施することを包含する。対象に適用する場合、用語は個体に対して医学的または外科的な注意、介護、または維持管理を提供することを指す。個体は通常は罹患しているか傷害を被っており、あるいは集団の平均的メンバーに対して罹患する危険性が増大しており、そしてそのような注意、介護、または維持管理を必要としている。
【0068】
「Wnt」、または「Wntタンパク質」という用語は本明細書においては、Wnt受容体に結合してWntシグナリングを活性化する天然に存在するタンパク質の能力を少なくとも部分的に保持しているWntタンパク質の天然に存在するアミノ酸配列を有するポリペプチド、またはそのフラグメント、変異体、または誘導体を指す。集団中に存在してよいWnt配列の天然に存在する対立遺伝子変異体に加えて、当然ながら、実質的に全てのタンパク質の場合と同様、ポリペプチドの機能的(生物学的)活性を実質的に改変することなく表1のアクセッション番号の下に列挙されている配列(「野生型」配列と称する)内に種々の変化を導入できる。そのような変異体は「Wnt」、「Wntタンパク質」等の用語の範囲に包含される。
【0069】
変異体は例えば完全長Wntに少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一であるポリペプチドである場合がある。変異体は完全長Wntのフラグメントである場合がある。変異体は天然に存在するスプライス変異体である場合がある。変異体はWntのフラグメントに少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一であるポリペプチドである場合があり、ここでフラグメントは完全長の野生型ポリペプチドまたはWnt受容体に結合する能力のような目的の活性を有するそのドメインの少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の長さである。一部の実施形態においては、ドメインは配列の何れかのアミノ酸位置において始まり、そしてC末端に向けて伸長する少なくとも100、200、300、または400アミノ酸長である。Wntタンパク質の活性を排除するか、または実質的に低減することが当該分野で公知である変異は好ましくは回避される。一部の実施形態においては、変異体は完全長ポリペプチドのNおよび/またはC末端の部分を欠いており、例えば核末端から10、20、または50アミノ酸までを欠いている。一部の実施形態においては、ポリペプチドは成熟Wntポリペプチドの配列を有し、これは通常の細胞内タンパク質分解プロセシングの間(例えば翻訳中または翻訳後のプロセシングの間)に除去されたシグナルペプチドのような1つ以上の部分を有していたWntポリペプチドを意味する。Wntタンパク質がそれを天然に発現する細胞からそれを精製することによらないで産生される一部の実施形態においては、タンパク質はキメラポリペプチドであり、これは2つ以上の異なる種に由来する部分をそれが含有していることを意味する。Wntタンパク質がそれを天然に発現する細胞からそれを精製することによらないで産生される一部の実施形態においては、タンパク質はWnt誘導体であり、これは、タンパク質がWntに関連しない追加的な配列を、それらの配列がタンパク質の生物学的活性を実質的に低減しない限りにおいて、含むことを意味している。
【0070】
当業者であれば、当該分野で公知の試験を用いて、特定のWnt変異体、フラグメント、または誘導体が機能性であるかどうかを知ることができ、あるいは容易に確認することができる。例えばWnt受容体に結合するWntポリペプチド変異体の能力は標準的なタンパク質結合試験を用いて評価できる。簡便な試験はルシフェラーゼのような検出可能なマーカーをコードする核酸配列に作動可能に連結したTCF結合部位を含有するレポーター構築物の転写を活性化する能力を計測することを包含する。1つの試験ではWnt変異体がβ−カテニンのホスホリル化を誘導するかどうかを調べる。ホスホリル化状態は何れかの適当な方法、例えばイムノブロッティングを用いて調べることができる。その他の試験ではWntの公知の生物学的活性に関して変異体またはフラグメントを試験する。例えばBarker,N.and Clevers,H.,Nat Rev Drug Discov.5(12):997−1014,2006を参照することができ、これはWnt経路活性をモジュレートする薬剤を同定するための適当な試験を記載している。そのような試験はWnt経路活性を活性化する薬剤を同定するかその活性を確認するために容易に適合させてよい。本発明の特定の実施形態においては、機能的な変異体またはフラグメントは完全長野生型ポリペプチドの活性の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%以上を有する。
【0071】
「Wnt経路活性」または「Wntシグナリング」はWntファミリーメンバーに対する受容体への刺激性リガンド(例えばWntタンパク質)の後に続いて起こる一連の生化学的事象を指し、これは究極的には遺伝子転写の変化をもたらし、そしてインビボであれば生物における特徴的な生物学的作用をもたらすことが多い。
【0072】
Wnt経路を活性化することによる体細胞の再プログラミング
本発明はWnt経路の活性化は体細胞を再プログラミングする場合に有用であるという認識を提供する。本発明は、Wnt経路を活性化することは、体細胞の再プログラミングの効率を、例えばそのような細胞を少なくとも一部の細胞の再プログラミングをもたらす場合がある処理に付す場合に、上昇させるという追加的認識を提供する。「再プログラミングの効率を上昇させる」とは、細胞集団を再プログラミング処理に付す場合に再プログラミングを起こす細胞の割合の上昇をもたらし、典型的には所定期間の後再プログラミングされた細胞の個々のコロニー数の増大をもたらすことを意味する。本発明の一部の実施形態においては、本発明に従ってWnt経路を活性化することは再プログラミングされた細胞の数、および/または、再プログラミングされた細胞のコロニーの数、および/または、再プログラミングを起こす細胞の割合を増大させる。本発明はさらに、Wnt経路の活性化はc−Mycのような癌遺伝子の自身による発現を増大するように遺伝子的に組み換えされていない体細胞の再プログラミングを可能とするという認識を提供する。すなわち本発明は、別様にc−Mycを発現するように細胞を操作することを含む体細胞を再プログラミングする何れかの方法におけるc−Mycの操作された発現の代替となる方法を提供する。本発明の一部の実施形態においては、Wnt経路を活性化することは別様には再プログラミングが起こらない条件下での再プログラミングを可能とするために十分である。
【0073】
本発明はWnt経路の活性をモジュレートすること、例えば増大させることを含む再プログラミングされた体細胞を形成するための方法を提供する。本発明はさらに方法において使用される組成物を提供する。1つの態様において、本発明は細胞におけるWnt経路の活性をモジュレートすること、例えば増大させることを含む体細胞を再プログラミングする方法を提供する。本発明はさらに体細胞を再プログラミングするための進歩した方法を提供し、方法は体細胞を細胞の少なくとも一部分を再プログラミングしてよい処理に付すことを含み、ここで進歩には該細胞におけるWnt経路の活性を増大させることが含まれる。処理は体細胞を再プログラミングするために有用であることが当該分野で公知である、またはこの目的のために潜在的な用途を有すると考えられる何れかの処理であってよい。本発明の特定の実施形態においては、Wnt経路の活性はWnt経路の活性化物質、例えば小分子、可溶性Wntタンパク質、またはRNA干渉を媒介することによりWnt経路の内因性阻害剤を抑制する薬剤を用いて増大させる。特定の実施形態においては、再プログラミングされるべき体細胞をWnt馴化培地中で培養する。本発明の実施形態の何れにおいても、特段の記載が無い限り、または文脈上明示されない限り、「再プログラミング」は多能性状態に再プログラミングすることを指すことができる。
【0074】
Wntは発生および生理学的なプロセスの広範なアレイにとって重要な分泌タンパク質のファミリーである(Mikels、AJ and Nusse,R.,Oncogene,25:7461−7468、2006)。Wntは配列において相互に関連しており、そして多数の種に渡って構造および機能において強力に保存されている。すなわち、ある種において活性を呈するWntタンパク質は他の種においてその種のWnt経路を活性化するために使用してよく、そして同様の活性を呈することが予測される。WntファミリーメンバーはWnt1、Wnt2、Wnt2b(Wnt13とも称する)、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt7c、Wnt8、Wnt8a、Wnt8b、Wnt8c、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、Wnt14、Wnt15、またはWnt16を包含する。Wnt遺伝子およびタンパク質の配列は当該分野で公知である。当業者であれば、GeneIDアクセッション番号、およびWntファミリーメンバーおよび本発明において有利な他の遺伝子およびタンパク質に関する配列情報を、公的に使用できるデータベースにおいて容易に発見できる(例えば表1参照)。
【0075】
【表1】

Wntシグナリングは種々の受容体、例えば膜貫通受容体のFrizzled(Fz)ファミリーのメンバーおよび低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質(LRP)ファミリー(例えばLRP5/LRP6)のメンバーとのWntタンパク質の相互作用により開始される。細胞外Wntシグナルは細胞内シグナル伝達カスケード、例えば核における遺伝子発現を調節するカノニカルな経路(Logan CY and Nusse,R.Annu.Rev.Cell Dev.Biol.,20:781−810,2004により考察されている)および数種の非カノニカルな経路(Kohn,AD and Moon,RT,Cell Calcium,38:439−446,2005により考察されている)を刺激する。慨すれば、カノニカルな経路を介したWntシグナリングは、転写因子のT細胞因子/リンパ様エンハンサー因子(TCF/LEF)ファミリーのメンバーを組み立てることにより一般的に転写を活性化する複合体を形成するβ−カテニンの安定化および核局在化をもたらす。Wntシグナリングの非存在下においては、β−カテニンはむしろβ−カテニン破壊複合体による分解のためにターゲティングされ、そしてTCF/LEFは一般的に転写の抑制をもたらす複合体を形成する。Wntシグナリングの非存在下においては、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK3)およびカゼインキナーゼ1(CK1)のようなキナーゼがβ−カテニンをホスホリル化し、これは結果としてユビキチン化され、そしてプロテアソームによる破壊のためにターゲティングされる。すなわちWnt経路の活性化はβ−カテニンのホスホリル化を減衰させ、これによりその安定化をもたらす。数種の内因性タンパク質がWntシグナリングの阻害剤として同定されており、例えばDickkopf(Dkk)、ブレークポイントクラスター領域タンパク質(Bcr)、WIF(Wnt阻害因子)ドメインを含むタンパク質等が挙げられる。
【0076】
本発明の特定の実施形態においては、再プログラミング方法はWnt経路の活性をモジュレート、例えば増大させる薬剤に細胞を接触させることを含む。一部の実施形態においては、Wnt経路を増大させることは細胞が多能性となり、そしてES細胞に特徴的な性質を保有するように誘導する。すなわち方法は多能性のES様細胞(iPS細胞)を形成する場合に有用である。本発明の特定の実施形態においては、Wnt経路の活性増大を誘発する処理はβ−カテニンの細胞内レベル上昇をもたらすものである。本発明の特定の実施形態においては、Wnt経路の活性増大を誘発する処理は、β−カテニンの核転座増大をもたらすものである。本発明の特定の実施形態においては、Wnt経路の活性増大を誘発する処理は、生物学的に活性なWntタンパク質の原料に曝露された細胞に特徴的な遺伝子発現における変化を誘発することができるものである。本発明の特定の実施形態においては、再プログラミングはWnt経路阻害剤を用いてモジュレートされる。
【0077】
レトロウィルス感染を介してマウス皮膚線維芽細胞内に多能性に関連する4つの転写因子、すなわちOct3/4、Sox2、c−MycおよびKlf4をコードする遺伝子を導入すること、そして次にこれらの因子に応答して多能性マーカーFbx15を発現した細胞を選択することにより、ES細胞の特性の一部を有する細胞系統を作成することができることが示された時点で、インビトロでの多能性状態への体細胞の再プログラミングの目標に向けたかなりの進歩が達成された(Takahashi,K.&Yamanaka,S.Cell 126,663−676,2006)。しかしながら、得られた細胞はその遺伝子発現およびDNAメチル化パターンにおいてES細胞とは異なっており、そして正常マウス胚盤胞に注入した場合に生存キメラ(自身の身体全体に渡って元の胚盤胞由来、および導入された細胞由来の両方の細胞を担持している動物)をもたらさなかった。その後の研究は、より積極的な選択を実施することによりこれらの結果を改善しており、報告された転写、刷り込み(自身の起源となる親により予め決められた対立遺伝子の発現)および染色質改変プロファイルに基づけばES細胞と本質的に同一であると見られる安定な再プログラミングされた細胞系統の誘導がもたらされた(Okita,K.ら、448,313−317,2007;Wernig M.ら、Nature 448,318−324,2007;Maherali,N.ら、Cell Stem Cell 1,55−70,2007)。これらの方法または他の方法(例えば小分子の適用を含む)を用いてインビトロで多能性状態へ再プログラミングされている体細胞は、本明細書においては当該分野における使用と合致して、「誘導多能性幹](iPS)細胞と称する。その後、ヒト体細胞もまた、これらの因子を用いて多能性に再プログラミングできることが示された。さらにまた、Oct4、Nanog、Sox2、およびLin28の組み合わせもまたインビトロで多能性状態に体細胞を再プログラミングできたことが明らかにされた(Yu J,Science,318(5858):1917−20,2007)。しかしながら、これらの細胞の形成ではやはり、多数の転写因子を発現するように細胞を操作しており、そしてレトロウィルス導入を使用している。
【0078】
出願人らは今回、Oct4、Sox2、Klf4、およびc−Mycを発現するように遺伝子操作された体細胞をWnt3a馴化培地と共に培養した場合に、対照細胞により馴化培地中、またはES細胞の増殖のために従来より使用されている標準的な細胞培養培地中で細胞を培養した場合よりも、ES様細胞を含むコロニーの増大数が生じたことを明らかにしている。出願人らはさらに、Oct4、Sox2、およびKlf4を発現するように操作されているが、c−Mycを発現するようには改変されていない体細胞をWnt3a馴化培地中で培養した場合にはES様細胞を含むコロニーは形成されたが、そのような細胞を未馴化培地または対照細胞により馴化培地中で培養した場合は図1に示す20日の期間内にはES様細胞のコロニーは形成されなかったことを示している。両方の場合において、コロニーはES細胞コロニーに特徴的な形態学的特徴およびOct4発現を示す検出可能なマーカーの発現を呈していた。試験した全ての基準によれば、細胞は多能性のES様細胞(iPS細胞)であると考えられた。さらにまた、Wnt3a馴化培地中で体細胞を培養すると再プログラミングされた細胞が選択されると考えられた。Wnt3a馴化培地の存在下に形成されたコロニーはWnt3a馴化培地の非存在下で得られたものよりも均質であると観察された。すなわち、当該方法は、自身の発現産物が薬剤耐性または蛍光を与える遺伝子のような導入された遺伝子エレメントに依存した化学的選択を必要とすることなく、再プログラミングされた細胞の同定を容易にし、そして場合によりそのような細胞の再プログラミングされていない細胞からの分離を容易にする場合に有用である。すなわち、当該方法は、再プログラミングされた細胞の選択または検出の目的のために遺伝子組み換えを担持していない再プログラミングされた細胞を形成する場合に有用である。さらにまた、当該方法は、再プログラミングされた細胞を含むコロニー中の再プログラミングされた細胞の平均割合を、Wnt経路活性を増大させる薬剤の非存在下に再プログラミングされることになる細胞の平均割合に対して、増大させる場合に有用である。
【0079】
c−Mycウィルスで細胞を感染することなく一部のiPS様細胞を形成できることは出願人らおよび他の者が察知していることである。しかしながらこれは低効率の事象であり、そして少なくとも部分的には、ウィルス組み込み事象がc−Mycまたはc−Myc標的遺伝子を直接活性化する挿入突然変異誘発の結果である。出願人らの実験においては、極めて遅い時点において、Wnt馴化培地非存在下であってもKlf4、Sox2およびOct4を過剰発現していた(c−Mycウィルスを導入することなく)一部のコロニーがプレート上で観察されている。Wnt馴化培地は必要な時間を大きく低減し、そして再プログラミングプロセスの効率を上昇させている。本発明の1つの態様は、本発明の方法を用いて達成される再プログラミングのより高速なタイミングは、iPS形成のための多能性誘導因子の過剰発現の一過性の手段(例えば一過性のトランスフェクション)、および/または、タンパク質、小分子等のような再プログラミング剤を体細胞に処理することによる再プログラミングを、ウィルス感染の代わりに使用することを容易にすることになる。さらにまた、出願人らは、本発明の方法を用いたiPS形成の効率上昇がMycの過剰発現の有無に関わらず、ヒト細胞を再プログラミングする場合に特に有用であることを提案する。
【0080】
限定しないが、当該方法はすなわち、iPS細胞に体細胞を再プログラミングする速度を増大する場合に有用である。すなわち、本発明は、Wnt馴化細胞培養培地中で哺乳類体細胞の集団を、細胞の少なくとも一部分がWnt馴化培地非存在下の場合よりも短い期間内にES様細胞になるように誘導されるように、培養することを含む体細胞を再プログラミングする速度を増大させる方法を提供する。本発明はまた、体細胞の培養された集団において、細胞の少なくとも一部分がWnt経路が活性化されない場合よりも短い期間内にES様細胞になるように誘導されるように、Wnt経路を活性化させることを含む体細胞を再プログラミングする速度を増大させる方法を提供する。本発明はまた、Wnt経路活性を増大させる薬剤の存在下で哺乳類体細胞の集団を、細胞の少なくとも一部分が該薬剤非存在下の場合よりも短い期間内にES様細胞になるように誘導されるように、培養することを含む体細胞を再プログラミングする速度を増大させる方法を提供する。本発明の一部の実施形態においては、期間は7日であり、別の実施形態では期間は10、15、または20日である。本発明の一部の実施形態においては、細胞はそれらが無処理の場合よりも高値のレベルでSox2、Klf4、Oct4、およびc−Mycを発現するように処理される(例えば遺伝子操作される)。本発明の一部の実施形態においては、細胞はそれらが無処理の場合よりも高値のレベルでSox2、Klf4、およびOct4を過剰発現するように処理されるが、c−Mycを過剰発現するようには遺伝子操作されない。処理の1つの方法は細胞をウィルス(例えばレトロウィルス、レンチウィルス)に感染させること、または、細胞を適当な発現制御エレメントに作動可能に連結した因子の配列を含有するウィルスベクター(例えばレトロウィルス性、レンチウィルス性)でトランスフェクトすることにより感染およびトランスフェクション、そして場合により当該分野で公知のゲノムへの組み込みの後に細胞内で発現を駆動することである。本発明の組成物および方法に関するさらなる詳細は後に記載する。
【0081】
本発明は細胞が再プログラミングされるようにWnt馴化細胞培養培地中で細胞を培養することを含む、体細胞を再プログラミングする方法を提供する。一部の実施形態においては、Wnt馴化細胞培養培地中で細胞を培養することは、細胞を多能性となり、そしてES細胞に特徴的な特性を保有するように誘導する。すなわち当該方法は多能性のES様細胞(iPS細胞)を形成する場合に有用である。一部の実施形態においては、Wnt馴化細胞培養培地はWnt3a馴化培地を含む。
【0082】
「馴化培地」という用語は細胞を培養するために以前より使用されている細胞培養培地を指す。馴化培地はそれが、細胞によりその培養中に産生され、そして培地中に放出される可溶性の物質、例えばシグナリング分子、成長因子、ホルモン類を含有することを特徴とする。本明細書においては、「Wnt馴化培地」とはWntを産生して分泌する細胞を培養するために以前より使用されている馴化培地を指す。培地は細胞により産生される特定のWntタンパク質に言及することによりさらに説明してよい。例えば、「Wnt3a馴化培地」はWnt3aを製造する細胞を培養するために以前より使用されている馴化培地を指す。細胞はまた、特に言及されている特定のWntに加えて他のWntを産生してよい。Wnt馴化培地を使用する本発明の何れの実施形態も特段の記載が無い限りWnt3a馴化培地を使用してよい。
【0083】
当然ながら特定のWntはWnt3aと同様の生物学的活性を有し、および/またはWnt3aに配列において緊密に関連している。そのようなWntを産生する細胞を用いて製造した馴化培地を本発明の特定の実施形態において使用する。
【0084】
馴化培地は当該分野で公知の方法により製造してよい。そのような方法は典型的には細胞培養培地中で細胞の第1の集団を培養すること、そして次に培地を採取すること(典型的には細胞を採取しない)を含む。採取された培地を濾過して細胞破砕片等を除去してよい。馴化培地(細胞により培地中に分泌された成分を含有)はその後細胞の第2の集団の生育を支援するために使用してよい。Wntのような放出された因子の十分な濃度(および/または培地成分の消費)を可能にするために十分な時間培地中で細胞を培養することにより、体細胞の再プログラミングを支援する培地を産生する。一部の実施形態においては、培地は37℃で24時間培養することにより馴化される。しかしながら、より長いかより短い時間、例えば24〜72時間を使用することもできる。細胞が所望の目的のために十分な態様において培地を馴化するその能力を保持している限り、追加的な培養時間に亘って多数のバッチの培地を馴化するために細胞を使用できる。
【0085】
馴化培地を製造するために細胞を培養する培地は細胞の生存性を維持することができる従来の細胞培養培地であってよい。一部の実施形態においては、培地は完全合成されている。一部の実施形態においては、培地は馴化培地を用いて再プログラミングすべき体細胞と同じ種の胚性幹細胞を培養するために従来使用されていた培地に組成において同様または同一である。馴化のために使用される基礎培地は部分的には使用する細胞の型に応じて、多くの異なる組成のいずれかを有することができる。培地は培地の馴化のために使用される細胞系統の培養を支援できるものでなければならない。一部の実施形態においては、培地はまた、自身が再プログラミングされる前の体細胞、および場合により、再プログラミングされている体細胞の培養を支援する。しかしながら、馴化培地は例えば馴化後に他の成分を補給したり、または他の培地と組み合わせる等により、それを体細胞および再プログラミングされた体細胞を培養するために適するものとすることができる。
【0086】
適当な基礎培地は以下の成分、すなわち:ダルベッコ変性イーグル培地(DMEM)、Invitrogenカタログ番号11965−092;ノックアウトダルベッコ変性イーグル培地(KO DMEM)、Invitrogenカタログ番号10829−018;HamのF12/50%DMEM基礎培地;200mM L−グルタミン、Invitrogenカタログ番号15039−027;非必須アミノ酸溶液、Invitrogenカタログ番号11140−050;β−メルカプトエタノール;ヒト組み換え塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)から作成できる。例示される血清含有ES培地は80%DMEM(典型的にはKO DMEM)、熱不活性化されていない20%合成ウシ胎児血清(FBS)、1%非必須アミノ酸、1mM L−グルタミン、および0.1mM β−メルカプトエタノールから作成する。培地を濾過して2週間を超えることなく4℃で保存する。血清非含有ES培地は80%KODMEM、20%血清代替物。1%非必須アミノ酸、1mML−グルタミン、および0.1mMβ−メルカプトエタノールおよび血清代替物、例えばInvitrogenカタログ番号10828−028を用いて製造してよい。培地は濾過して4℃で保存する。馴化に使用される細胞と混合する前に、ヒトbFGFを終濃度4ng/mLとなるように添加できる。ヒト胚性幹細胞の生育および増殖のために特に製剤されたStemPro(登録商標)hESC SFM(Invitrogenカタログ番号A1000701)、完全合成、血清およびフィーダー非含有培地(SFM)が有用である。
【0087】
馴化培地を製造するために使用する細胞は天然にWntを産生してよい。一部の実施形態においては、培地を製造するために使用する細胞は、例えば、Wntコーディング配列が細胞において活性な発現制御配列に作動可能に連結しているWntをコードするcDNAでそれらをトランスフェクトすることによりそれらのWntの発現を増大するように遺伝子操作される。例えばCai,L.ら、Cell Res.17:62−72,2007を参照できる。一部の実施形態においては、細胞は100ng/mL〜1000ng/mLのWntタンパク質の濃度を有する培地を生じさせるそれらの培地中でWntを産生して分泌する。一部の実施形態においては、細胞は200ng/mL〜500ng/mLのWntタンパク質の濃度を有する培地を生じさせるそれらの培地中でWntを産生して分泌する。Wntを過剰発現する細胞はまた、体細胞を再プログラミングする目的のためのフィーダー細胞として使用される。
【0088】
馴化培地は使用前に未馴化培地と混合してよい。簡略のために、得られる培地は、それが少なくとも5体積%の馴化培地を含む場合は、なお馴化培地と称する。一部の実施形態においては、馴化培地の量(体積)は少なくとも10%、例えば少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%以上の馴化培地である。一部の実施形態においては、馴化培地の量は約50体積%〜75体積%である。未馴化培地を標準細胞培養培地としてよい。一部の実施形態においては、未馴化培地は再プログラミングすべき体細胞と同じ種のES細胞を増殖するために従来使用されていた培地である。
【0089】
馴化培地はそれを製造するために使用された細胞から採取した直後に使用するか、使用時まで保存(例えば約4℃または凍結)してよい。培地は本発明の方法における再プログラミングを支援する馴化培地の能力を維持することと矛盾しない条件下および期間で保存してよい。限定しないが、そのような条件および時間は上記した方法を用いて評価してよい培地中に存在する分泌されたWntの元の生物学的活性の少なくとも20%を維持することと矛盾しないものであってよい。馴化培地は濃縮するか、または例えば標準的な方法を用いて別様に処理してよいが、ただし、そのような濃縮または処理は未馴化培地に添加した場合に再プログラミングを支援する濃縮物の能力を維持することと矛盾しない。限定しないが、そのような濃縮または処理は培地中に存在する分泌されたWntの元の生物学的活性の少なくとも20%を維持することと矛盾しないものであってよい。実施例に記載する通り、出願人の結果によれば、正常な線維芽細胞(Wntを過剰発現するように操作されていない)は再プログラミングを促進するおそらくはWnt3aを包含する因子を分泌する場合があることが示唆されており、インビトロで再プログラミングを起こしている体細胞、例えば、レトロウィルスで処理されているか、Oct4、Sox2、Klf4、および場合によりc−Mycを発現するように別様に操作されている培養物中の細胞はそのような因子を分泌する場合があり、これによりそれら自身の再プログラミングに寄与している可能性が生じる。本発明の特定の実施形態においては、Wnt馴化培地は、再プログラミングを起こしている未改変の体細胞、例えば線維芽細胞を再プログラミングを起こしている体細胞を培養するために有用であるとして当該分野で公知である培地中で培養する場合よりも、より高値のWntタンパク質濃度および/またはWnt経路活性化活性を有している。一部の実施形態においては、そのような濃度および/またはWnt経路活性化活性は実施例5に記載する通り対照線維芽細胞を培養している培地中に存在するものの少なくとも1.5、2、5、10、20倍以上である場合がある。
【0090】
本発明の特定の方法ではWnt経路活性をモジュレート、例えば増大させる定義された1つ以上の薬剤に体細胞をインビトロで接触させる。細胞は当該分野で公知の標準的な細胞培養培地中に維持してよい。薬剤は細胞を培養するためにそれを使用する前、または細胞培養中に、培地に添加してよい。「定義された薬剤」という用語はこの文脈においては、Wnt経路活性をモジュレート、例えば増大する薬剤の構造、配列、または本質が知られている、および/または薬剤が化学合成されている、および/または薬剤が(培地に添加する前に)単離または少なくとも部分的に精製されていることを意味する。例えば、薬剤は馴化培地、細胞または組織の溶解物または抽出物、細胞の細胞質または核物質等の未特性化または未同定の成分であってはならない。
【0091】
種々の薬剤をWnt経路活性を増大させるために使用してよい。そのような薬剤は本明細書中「Wnt経路活性化物質」または「Wntアゴニスト」と称する。Wnt経路活性化物質はWnt受容体と相互作用することにより直接、または、β−カテニン、β−カテニンに作用するキナーゼまたはホスファターゼ、β−カテニンと共に組み立てられる転写因子等のような、Wntシグナリング経路の1つ以上の細胞内成分と相互作用することにより間接的に作用してよい。活性化物質はWntまたはWnt経路成分、例えばβ−カテニンの発現を増大させてよい。特定の実施形態においては、Wnt経路活性化物質は体細胞の再プログラミングを増強するために十分なレベルまでWnt経路の活性を増大させる。本発明の特定の実施形態においては、Wnt経路活性化物質はβ−カテニンの分解を阻害し、これにより体細胞の再プログラミングを増強する。本発明の特定の実施形態においては、体細胞において、または再プログラミングされた体細胞において、Wnt経路を阻害することが重要である。例えば、Wnt経路阻害剤は再プログラミングが起こる機序を特性化または探索するため、および/または再プログラミング剤(Wnt経路を介して作用しない薬剤)を同定するために使用できる。さらにまた、本発明の特定の実施形態においては、Wnt経路阻害剤(例えば小分子、siRNA、タンパク質等)は例えばインビトロの分化プロトコルにおいて、所望の細胞型への再プログラミングされた多能性細胞の分化を促進するために有用である場合がある。
【0092】
本発明の特定の実施形態においては、Wnt経路活性化物質または阻害剤はWnt受容体に結合するタンパク質または小分子である。例えば、Wnt経路活性化物質は可溶性の生物学的に活性なWntタンパク質であることができる。
【0093】
一部の実施形態においては、培地に添加されるWntタンパク質の濃度は10〜10,000ng/mL、例えば100〜5,000ng/mL、例えば1,000〜2,500ng/mLまたは2,500〜5,000ng/mL、または5,000〜10,000ng/mLである。
【0094】
上記した通り、特定のWntはWnt3aと同様の生物学的活性を有する、および/または、Wnt3aに配列において緊密に関係している。そのようなWntおよび/またはそのようなWntの活性を模倣している薬剤は本発明の特定の実施形態において使用される。
【0095】
Wntタンパク質は天然に存在する原料(例えばタンパク質を天然に産生する哺乳類)から単離するか、真核生物または原核生物の細胞から組み換え発現技術を用いて生成するか、または化学合成してよい。可溶性の生物学的に活性なWntタンパク質は当該分野で公知の方法を用いて精製された形態で製造してよい。例えば米国特許公開20040248803およびWillert,K.ら、Nature,423:448−52,2003を参照できる。特定の実施形態においては、可溶性の生物学的に活性なWntタンパク質はWnt3aである。特定の実施形態においてはWntタンパク質は、Wntタンパク質がWntタンパク質を天然に発現する宿主細胞中で産生される場合に起こるように、翻訳中または翻訳後に改変される。他の実施形態において、Wntタンパク質は天然の場合のように翻訳中または翻訳後に改変されない。特定の実施形態においては、可溶性の生物学的に活性なWntタンパク質はパルミテートのような脂質部分で改変される。脂質部分は保存されたシステインに結合させてよい。例えば特定の実施形態においては、Wntタンパク質は当該分野で知られる通り保存されたシステイン上でパルミトイル化される。特定の実施形態においては、Wntタンパク質は、Wntタンパク質がWntタンパク質を天然に発現する哺乳類宿主細胞中で産生される場合に起こるように、グリコシル化される。他の実施形態において、Wntタンパク質は天然に存在する場合のようにグリコシル化されない。組み換えマウスWnt3aは市販されている(例えばMilliporeよりカタログ番号GF145、またはR&D Systemsよりカタログ番号1324−WM−002)。
【0096】
本発明の特定の実施形態においては、Wnt経路活性化物質はβ−カテニンのレベルを上昇させるか、その核局在化を促進するか、または別様にβ−カテニンのシグナリングを活性化する薬剤である。
【0097】
本発明の特定の実施形態においては、Wnt経路活性化物質は小分子であり、その意味は、多数の炭素−炭素結合および1500ダルトン未満の分子量を有する有機化合物である。典型的にはそのような化合物は例えば水素結合のようなタンパク質との構造的相互作用を媒介する1つ以上の官能基を含み、そして典型的には少なくともアミン、カルボニル、ヒドロキシルまたはカルボキシル基、そして一部の実施形態においては少なくとも2つの化学官能基を包含する。小分子の薬剤は、1つ以上の化学官能基および/またはヘテロ原子で置換された、環状の炭素または複素環の構造、および/または、芳香族またはポリ芳香族の構造を含んでよい。
【0098】
本発明の特定の実施形態においては、Wnt経路活性化物質はグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)を阻害する薬剤である。これらの薬剤は細胞外Wntを必要とすることなくWnt経路を効率的に「ターンオン」する。GSK3はグルコース代謝の調節物質として元々発見されたセリン/スレオニンキナーゼである(Frame and Cohen,Biochem J359:1−16,2001において考察されており;そしてCohen,Biochem Soc Trans7:459−80,1979;Embiら、Eur J Biochem107:519−27,1980も参照できる)。「GSK3」とは本明細書においては、GSKの何れかまたは両方のアイソフォームを指す(GSK3αおよびGSK3β)。これらのアイソフォームの何れかまたは両方を阻害する阻害剤が有用である。一部の実施形態においては、GSK3阻害剤はGSK3を特異的に阻害し、そして他の哺乳類キナーゼの大多数は実質的に阻害しない。一部の実施形態においては、GSK3阻害剤は少なくとも10の多様な哺乳類キナーゼを実質的に阻害しない。一部の実施形態においては、GSK3阻害剤はGSK3βおよびGSK3αの両方を特異的に阻害する。一部の実施形態においては、GSK3阻害剤はGSK3βを特異的に阻害するが、GSK3αは阻害しない。例えば、GSK3αのIC50はGSK3βに対するものの少なくとも10倍であってよい。一部の実施形態においては、GSK3阻害剤はGSK3αを特異的に阻害するが、GSK3βは阻害しない。例えば、GSK3βのIC50はGSK3αに対するものの少なくとも10倍であってよい。特定の実施形態においては、GSK3に対するGSK3阻害剤のIC50は他の哺乳類キナーゼの大多数に対するそのIC50よりも少なくとも10倍低値である。特定の実施形態においては、GSK3に対するGSK3阻害剤のIC50は10μM未満である。特定の実施形態においては、GSK3に対するGSK3阻害剤のIC50は1μM未満である。当然ながら、GSK3阻害剤は使用される条件下において、そこにおけるGSK3を阻害するために十分な量で細胞に進入することができなければならない。一部の実施形態においては、使用するGSK3阻害剤の濃度はインビトロで計測した場合の化合物のIC50と少なくとも等しい。一部の実施形態においては、使用するGSK3阻害剤の濃度はインビトロで計測した場合の化合物のIC50のわずか100倍である。一部の実施形態においては、使用する濃度はインビトロで計測した場合の薬剤のIC50の5〜50倍の範囲である。
【0099】
現在GSK3の多くの強力で選択的な小分子阻害剤が発見されている(Wagman AS,Johnson KW,Bussiere DE,Curr Pharm Des.,10(10):1105−37,2004)。例示される有用なGSK3阻害剤は以下のものを包含する。(1)BIO:(2’Z,3’E)−6−ブロモインジルビン−3’−オキシム。6−ブロモインジルビン−3’−オキシム(BIO)は強力で、可逆的で、そしてATP競合性のGSK−3阻害剤である(Polychronopoulos,P.ら、J.Med.Chem.47,935−946,2004)。(2)AR−A014418:N−(4−メトキシベンジル)−N’−(5−ニトロ−1,3−チアゾール−2−イル)尿素。AR−A014418はATP競合的態様においてGSK3を阻害する(IC50=104nM)(Ki=38nM)。AR−A014418はcdk2またはcdk5(IC50>100μM)または26の他のキナーゼを大きく阻害することは無く、GSK3に対する高い特異性を示している(Bhat,R.ら、J.Biol.Chem.278,45937−45945,2003)。(3)SB216763:3−(2,4−ジクロロフェニル)−4−(1−メチル−1H−インドール−3−イル)−1H−ピロール−2,5−ジオン。例えばSmith,D.G.ら、Bioorg.Med.Chem.Lett.11,635−639,(2001)およびCross,D.A.ら、J,Neurochem.77,94−102,(2001)参照、(4)SB415286:3−[(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)アミノ]−4−(2−ニトロフェニル)−1H−ピロール−2,5−ジオン。SB415286はSmith,D.G.ら、Bioorg.Med.Chem.Lett.11,635−639,2001およびCoughlan,M.P.ら、Chem.Biol.10,793−803,2000に記載されており、(5)TDZD−8:4−ベンジル−2−メチル−1,2,4−チアジアゾリジン−3,5−ジオン。この化合物はGSK−3の選択的阻害剤、チアジアゾヂジノン誘導体、GSK−3βの非ATP競合的阻害剤(IC50=2μM)である。これはCdk−1/サイクリンB、CK−II、PKAまたはPKCを>100μMで阻害しない。これはGSK−3βのキナーゼ部位に結合することが提案されている(Martinezら、J.Med.Chem.45,1292−1299,2002)。CHIR−911およびCHIR−837(それぞれCT−99021およびCT−98023とも称する)。Chiron Corporation(Emeryville,Calif.)および関連の化合物が有用である。塩化リチウム、バルプロ酸ナトリウム、およびGSK3阻害剤II(Calbiochem)が他の有用なGSK3阻害剤である。その他のGSK3阻害剤は米国特許6,057,117および6,608,063;米国特許出願公開20040092535、20040209878、20050054663に記載されている。他の有用なGSK3阻害剤は、GSK−3阻害剤として有用なピリミジン化合物を開示しているWO/2003/049739;GSK−3の阻害剤としての9−デアザグアニン誘導体を開示しているWO/2002/085909、GSK−3阻害剤としてのピラゾロン誘導体を開示しているWO/2003/011287、そしてWO/2005/039485、および/またはWO/2006/091737に記載されている。
【0100】
本発明の特定の実施形態においては、Wnt経路活性化物質はカゼインキナーゼ1(CK1)阻害剤である。例としてはD4476、IC261、およびCKI−7が包含される(例えばRena,G.ら、EMBO reports 5(1),60−65,2004を参照)。CK1およびGSK3を阻害する化合物は米国特許7098204に開示されている。
【0101】
本発明の特定の実施形態においては、Wnt経路活性化物質はGSK3またはCK1によりホスホリル化される1つ以上の部位においてβ−カテニンを天然に脱ホスホリル化するホスファターゼの活性化物質である。
【0102】
CREB結合タンパク質(CBP)および緊密に関連したタンパク質p300はβ−カテニンと共に組み立てることができ、そしてβ−カテニン結合転写同時活性化物質として作用する。例えば、転写活性複合体を形成するためには、β−カテニンは転写同時活性化物質、CREB結合タンパク質(CBP)またはその緊密に関連した相同体p300(Hechtら、EMBO J.19:1839−50(2000);Takemaruら、J.Cell Biol.149:249−54(2000))ならびに他の基礎的転写機序の成分をリクルートする。他のβ−カテニン同時活性化物質にはTBP、BRG1、BCL9/PYG等が包含される。本発明は体細胞の再プログラミングを増強するためにβ−カテニンとこれらの同時活性化物質の何れかの1つ以上との間の相互作用を直接的または間接的にモジュレートすることを包含する。例えば、本発明はこれらの複合体の何れか1つ以上におけるβ−カテニンの相対的関与を、1つ以上の他の複合体におけるその関与に対して改変することを含む。小分子のような薬剤を使用することにより特定の同時活性化物質とのβ−カテニンの相互作用を選択的に途絶させることにより、再プログラミングを阻害するかまたは分化に好都合な転写を潜在的に低減してよい。選択的な途絶は異なる同時活性化物質との相互作用に向けてバランスをシフトさせることにより再プログラミングを増強する複合体を形成する場合がある。薬剤は複合体に対して直接的または間接的に、例えばβ−カテニンまたは同時活性化物質のホスホリル化のような翻訳後改変を誘発することにより作用してよい。1つの実施形態において、薬剤は米国特許公開20070128669に記載の化合物またはその類縁体または誘導体、または同じ作用機序を有する薬剤である。β−カテニン相互作用タンパク質(ICATまたはCTNNBIP1としても知られている)はβ−カテニンに結合し、そしてβ−カテニンとTCFファミリーメンバーとの間の相互作用を阻害する(Gottardiら、Am J Physiol Cell Physiol.286(4):C747−56,2004)。コードされるタンパク質はWntシグナリング経路の負の調節物質である。本発明はWnt経路を活性化するためにICAT(この用語はβ−カテニンとTCFの相互作用を阻害する何れかの転写物変異体またはファミリーメンバーを包含する)を阻害することを包含する。本発明の特定の実施形態においてはWnt経路を活性化する薬剤は、Wnt経路の内因性阻害剤または負の調節物質の発現または活性を阻害することによりそれを行う。一部の実施形態においては、薬剤はRNA干渉(RNAi)により発現を阻害する。一部の実施形態においては、薬剤はGSK3、ICAT、CK1、またはCTNNB1P1の発現または活性を阻害する。
【0103】
一部の実施形態においては、本発明において有用な阻害剤はRNAi剤である。当業者であれば目的の遺伝子の発現を阻害するための適切なRNAi剤を同定することができるはずである。例えばYu,J−Y.ら、Molecular Therapy,7(2):228−236,2003を参照できる。RNAi剤は遺伝子から転写されたRNA(例えばmRNA)またはそのコードされたタンパク質の平均の定常状態レベルを、例えば少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、またはそれ以上まで低減するために十分発現を阻害する場合がある。RNAi剤はmRNAに100%相補である17〜29ヌクレオチド長、例えば19〜23ヌクレオチド長の配列を含有するか、または相補塩基対の最大数を達成するためにmRNAとアラインした場合にワトソンクリック塩基対に関与しない1、2、3、4、または5つまでのヌクレオチド、または約10〜30%までのヌクレオチドを含有してよい。RNAi剤は全てのヌクレオチドがワトソンクリック塩基対に関与するか、またはヌクレオチドの約10〜30%までがワトソンクリック塩基対に関与していない17〜29ヌクレオチド長の二重鎖を含有してよい。どの配列の特徴が優れたsiRNA機能に関連している場合が多いか、そしてそのようなsiRNAを設計することができるためのアルゴリズムおよび規則は当業者の知る通りである(例えばJagla,B.ら、RNA,11(6):864−72,2005を参照できる)。本発明の方法はそのような特徴を有するsiRNAを使用できるが、それを必須とするわけではない。一部の実施形態においては、RNAi剤の片方または両方の鎖の配列は非標的遺伝子をサイレンシングすることを回避するように選択され、例えば鎖は標的mRNA以外の何れかのmRNAに対して70%、80%、または90%未満の相補性を有してよい。一部の実施形態においては、多数の異なる配列を使用する。表1はGSK3をコードするヒトおよびマウスの遺伝子の遺伝子IDおよび核酸(mRNA)およびタンパク質の配列のアクセッション番号を列挙したものである。哺乳類遺伝子をサイレンシングすることができるRNAi剤は市販されている(例えばQiagen、Dharmacon、Invitrogen等のような販売元から)。多数のアイソフォームが存在する場合、目的の所定の細胞中で発現されるアイソフォームの全てにおいて存在する領域に対してターゲティングされたsiRNAまたはshRNAを設計できる。
【0104】
siRNAまたはshRNAをコードする構築物で細胞をトランスフェクトすることにより遺伝子をサイレンシングするための方法は当該分野で公知である。体細胞中でRNAi剤を発現するためには、例えばプロモーターのような適当な発現制御エレメントに作動可能に連結したRNAi剤をコードする配列を含む核酸構築物は、当該分野で知られる通り細胞内に導入できる。本発明の目的のためには、目的のRNAまたはポリペプチドをコードする配列を含む核酸構築物は、その配列が目的の細胞における転写を指向するプロモーターのような発現制御エレメントに作動可能に連結しており、それは「発現カセット」と称する。プロモーターは哺乳類体細胞において機能的なRNAポリメラーゼI、II、またはIIIプロモーターであることができる。特定の実施形態においては、RNAi剤の発現は条件的である。一部の実施形態においては、発現は調節可能な(例えば誘導可能なまたは抑制可能な)プロモーターの制御下にRNAi剤をコードする配列を置くことにより調節される。
【0105】
β−カテニンまたは他のWntシグナリング経路の成分のようなタンパク質の構成的に活性な変種もまた有用である。N末端領域における潜在的GSK−3ホスホリル化部位のN末端切断または欠失、または、そこにあるセリンまたはスレオニン残基のミスセンス突然変異は、切断された、または正常なサイズのβ−カテニンの蓄積をもたらし、そして次にβ−カテニン媒介シグナルの活性化をもたらす(de La Coste PNAS,95(15):8847−8851,1998)。Wntシグナリングを阻害する内因性タンパク質の優性の負の変種もまた有用である。一部の実施形態においては、体細胞はこれらのタンパク質を発現するように操作される。一部の実施形態においては、タンパク質は培養培地に添加される。
【0106】
一部の実施形態においては、細胞は細胞内で作用するWnt経路活性化物質の取り込みを増強するように処理される。例えば細胞膜を部分的に透過性化してよい。一部の実施形態においては、Wnt経路活性化物質は細胞による分子の細胞取り込みを増強するアミノ酸配列(「タンパク質伝達ドメイン」とも称する)を含むように改変される。そのような取り込み増強アミノ酸配列は、例えばHIV−1 TATタンパク質、単純ヘルペスウィルス1(HSV−1)DNA結合タンパク質VP22、Drosophila Antennapedia(Antp)の転写因子等に観察される。人工の配列もまた、有用である。例えばFischerら、Bioconjugate Chem.,Vol.12,No.6,2001および米国特許6,835,810を参照できる。
【0107】
限定しないが、本発明はWnt/β−カテニンシグナリングを促進するために有用なものとして米国特許公開20060147435に開示されている組成物および手順の何れかの本発明の方法における使用を意図する。
【0108】
一部の実施形態においては、体細胞は処理されない場合よりも高値のレベルでWntタンパク質を発現するように処理される。一部の実施形態においては、体細胞は処理されない場合よりも高値のレベルでWntタンパク質を安定に、または一過性に発現するように遺伝子操作される。本発明の一部の実施形態においては、体細胞は処理されない場合よりも高値のレベルでβ−カテニンまたはTCF/LEFのようなWnt経路成分を発現するように処理される。本発明の一部の実施形態においては、体細胞は処理されない場合よりも高値のレベルでβ−カテニンまたはTCF/LEFのようなWnt経路成分を安定に、または一過性に発現するように遺伝子操作される。
【0109】
本発明の方法は細胞を多数の再プログラミング剤で同時に(すなわち少なくとも部分的にオーバーラップする時間中)または逐次的に処理すること、および/または、薬剤で細胞を処理する工程を反復することを含んでよい。反復処理において使用する薬剤は第1の処理中に使用されたものと同じかまたは異なっていてよい。細胞は種々の長さの時間、再プログラミング剤と接触させてよい。一部の実施形態においては、細胞は1時間〜60日、例えば10〜30日、例えば約15〜20日の期間、薬剤に接触させる。再プログラミング剤は細胞培養培地を交換する都度添加してよい。再プログラミング剤を除去した後に、多能性細胞を濃縮するための選択を実施するか、または多能性の特性に関して細胞を評価してよい。
【0110】
目的の再プログラミング剤または候補再プログラミング剤は種々の化合物を包含する。例示される化合物はヒストン脱アセチル化を阻害する薬剤、例えばヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤およびDNAメチル化を阻害する薬剤、例えばDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤を包含する。理論に制約されないが、DNA脱メチル化は増大したヌクレアーゼ感受性として検出可能なクロマチン構造を「開放する」ことにより遺伝子発現を調節できる。クロマチン構造のこのリモデリングにより、転写因子のプロモーター領域への結合、転写複合体の組み立て、および遺伝子発現が可能となる。
【0111】
HDAC阻害剤の主要なクラスは(a)小鎖の脂肪酸(例えばバルプロ酸);(b)ヒドロキサメート小分子阻害剤(例えばSAHAおよびPXD101);(c)非ヒドロキサメート小分子阻害剤、例えばMS−275;および(d)環状ペプチド、例えばデプシペプチド(例えばCarey N and La Thangue NB,Curr Opin Pharmacol.;6(4):369−75,2006)を包含する。ヒストンデアセチラーゼ阻害剤の例はトリコスタチンA:[R−(E,E)]−7−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−N−ヒドロキシ−4,6−ジメチル−7−オキソ−2,4−ヘプタジエンアミドを包含し、これはナノモル濃度においてヒストンデアセチラーゼを阻害し;その結果生じるヒストンの超アセチル化はクロマチン弛緩および遺伝子発現のモジュレーションをもたらす。(Yoshida,M.ら、Bioessays 17,423−430,1995;Minucci,S.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94,11295−11300,1997;Brehm,A.ら;Medina,V.ら、ブチレートおよびトリコスタチンA(ヒストンデアセチラーゼの阻害剤)によるカスパーゼ−3プロテアーゼ活性およびアポトーシスの誘導:タンパク質合成に対する依存性およびミトコンドリア/チトクロームc依存性経路との相乗効果。Cancer Res.57,3697−3707,1997;Kim,M.S.ら、ヒストンデアセチラーゼの阻害はDNAをターゲティングする抗癌剤に対する細胞毒性を増大する。Cancer Res.63,7291−7300,2003);アピシジン:シクロ[(2S)−2−アミノ−8−オキソデカノイル−1−メトキシ−L−トリプトフィル−L−イソロイシル−(2R)−2−ピペリジンオキシカルボニル](Kwon,S.H.ら、J.Biol.Chem.18,2073,2002;Han,J.W.ら、Cancer Res.60,6068,2000;Colletti,S.L.ら、Bioorg.Med.Chem.11,107,2001;Kim,J.S.ら、Biochem.Biophys.Res.Commun.281,866,2001)。
【0112】
種々のDNAメチル化阻害剤が当該分野で知られており、そして本発明において有用である。例えばLyko,F.and Brown,R.,JNCI Journal of the National Cancer Institute,97(20):1498−1506,2005を参照できる。DNAメチル化の阻害剤はヌクレオシドDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、例えばデシタビン(2'−デオキシ−5−アザシチジン)、5−アザデオキシシチジン、およびゼブラリン、非ヌクレオシド阻害剤,例えばポリフェノール(−)−エピガロカテキン−3−ガレート(EGCG)および小分子RG108(2−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロ−2H−イソインドール−2−イル)−3−(1H−インドール−3−イル)プロパン酸)、WO2005085196に記載されている化合物およびフタラミド、スクシンイミドおよびWO2007007054に記載されている関連の化合物を包含する。3つのその他のクラスの化合物は、(1)4−アミノ安息香酸誘導体、例えば抗不整脈剤プロカインアミドおよび局所麻酔剤プロカイン;(2)サマプリン、すなわち同様にヒストンデアセチラーゼを阻害するもの(Pina,I.C.,J Org Chem.,68(10):3866−73,2003);および(3)オリゴヌクレオチド、例えばsiRNA、shRNA、および特定のアンチセンスオリゴヌクレオチド、例えばMG98である。DNAメチル化阻害剤は種々の異なる機序により作用する場合がある。ヌクレオシド阻害剤はDNAに取り込まれる前に細胞の経路により代謝される。取り込みの後、それらはDNMT酵素に対する自殺基質として機能する。非ヌクレオシド阻害剤プロカイン、エピガロカテキン−3−ガレート(EGCG)、およびRG108は、DNMT標的配列(すなわちプロカイン)をマスキングすることにより、または酵素の活性部位をブロッキングすることにより(すなわちEGCGおよびRG108)、DNAメチルトランスフェラーゼを阻害すると提唱されている。本発明の一部の実施形態においては、DNAメチル化阻害剤の組み合わせを使用する。一部の実施形態においては、濃度は細胞に対する毒性作用を最小限にするように選択される。一部の実施形態においては、DNA内に取り込まれる薬剤(または自身の代謝産物がDNAに取り込まれる)は使用しない。
【0113】
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT1、3a、および/または3b)および/または1つ以上のHDACファミリーメンバーを代替的または追加的にRNAi剤を用いて阻害することができる。
【0114】
本発明は体細胞を多能性となるように再プログラミングする場合に、Wnt馴化培地、可溶性WntまたはWntシグナリング経路をモジュレートする小分子を、Oct4、Sox2、Klf4、Nanog、および/またはLin28レトロウィルスを代替できる他の一過性のキュー、例えば小分子と組み合わせて使用することを包含する。本発明はWnt経路モジュレーターおよびHDAC阻害剤およびDNAメチル化阻害剤よりなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む組成物を提供する。本発明はWnt経路モジュレーター、少なくとも1つのHDAC阻害剤、および少なくとも1つのDNAメチル化阻害剤を含む組成物を提供する。本発明は薬剤の上記組み合わせの何れかを含む細胞培養培地を提供する。特定の実施形態においては、HDAC阻害剤は上記した何れかのHDAC阻害剤である。特定の実施形態においては、DNAメチル化阻害剤は上記したHDAC阻害剤の何れかである。特定の実施形態においては、Wnt経路モジュレーターはWnt経路を活性化する。特定の実施形態においては、細胞培養培地はWnt馴化培地、例えばWnt3a−CMをWnt経路モジュレーターの原料として含む。特定の実施形態においては、Wnt経路モジュレーターは小分子である。特定の実施形態においては、組成物は体細胞を含む。特定の実施形態においては、体細胞は転写因子Oct4、Nanog、Sox2、Klf4、およびLin28の少なくとも1つを発現するように操作される。
【0115】
体細胞および再プログラミングされた体細胞
本発明で有用な体細胞は初代細胞(非不朽化細胞)、例えば動物から新たに単離されたものであってよく、あるいは、培養物中での長期増殖(例えば3ヶ月超)または無期限の増殖(不朽化細胞)が可能である細胞系統から誘導してよい。成体の体細胞は個体、例えばヒト対象から得てよく、そして当業者が使用できる標準的な細胞培養プロトコルに従って培養してよい。細胞は対象からのその単離の後に細胞培養物中に維持してよい。特定の実施形態においては、細胞は、個体からそれらを単離した後、1回以上(例えば2〜5、5〜10、10〜20、20〜50、50〜100回、またはそれ以上)継代した後に本発明の方法においてそれらを使用する。それらは凍結し、その後、解凍した後に使用してよい。一部の実施形態においては、細胞は、個体からそれらを単離した後、1、2、5、10、20、または50回以下継代されているものとなり、その後、本発明の方法においてそれらを使用する。
【0116】
本発明において有用な体細胞は哺乳類細胞、例えばヒト細胞、非ヒト霊長類細胞、またはマウス細胞を包含する。それらはよく知られた方法により、種々の臓器、例えば皮膚、肺、膵臓、肝臓、胃、腸、心臓、生殖器、膀胱、腎臓、尿道および他の泌尿器等から、一般的には生存体細胞を含有する何れかの臓器からも得てよい。本発明の種々の実施形態において有用な哺乳類体細胞は例えば、線維芽細胞、成体幹細胞、セルトーリ細胞、顆粒膜細胞、ニューロン、膵臓島細胞、表皮細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、毛包細胞、ケラチノサイト、造血細胞、メラノサイト、軟骨細胞、リンパ球(BおよびTリンパ球)、赤血球、マクロファージ、単球、単核細胞、心筋細胞、骨格筋細胞等、一般的には何れかの生存体細胞を包含する。
【0117】
体細胞は1つ以上の再プログラミング因子、多能性因子、および/または多能性誘導因子を、処理を行わない場合よりも高値のレベルでそれらが発現するか含有するように、処理してよい。例えば、体細胞はそのような1つ以上の因子をコードする1つ以上の遺伝子を発現するように遺伝子操作されてよく、および/または、そのような因子をコードする1つ以上の内因性遺伝子の発現を増大する、および/またはそのような因子を安定化させる薬剤で処理してよい。薬剤は例えば小分子、核酸、ポリペプチド等である場合がある。一部の実施形態においては、多能性因子のような因子は、例えばマイクロインジェクションによるか、または因子が細胞に取り込まれるような条件下で因子に細胞を接触させることにより、体細胞内に導入する。一部の実施形態においては、因子はタンパク質伝達ドメインを取り込むように改変される。一部の実施形態においては、細胞は透過性化されるか、別様にそれらの因子取り込みが増大するように処理される。例示される因子は後述において考察する。
【0118】
転写因子Oct4(Pou5fl、Oct−3、Oct3/4とも呼ばれる)は多能性因子の例である。Oct4はES細胞の未分化の表現型を樹立および維持するために必要であることがわかっており、そして胚の成長および細胞の分化における早期の事象を決定する場合に主要な役割を果たしている(Nicholsら、1998,Cell 95:379−391;Niwaら、2000,Nature Genet. 24:372−376)。Oct4の発現は幹細胞がより特化された細胞に分化するに従ってダウンレギュレートされる。Nanogは多能性因子の別の例である。Nanogは内細胞塊の多能性細胞の維持およびこれらからのES細胞の誘導において必須の機能を有しているホメオボックス含有転写因子である。さらにまた、Nanogの過剰発現は、通常では分化誘導培養条件である場合にもESCの多能性および自己更新特性を維持することができる。(Chambersら、2003、Cell 113:643−655;Mitsuiら、Cell.2003,113(5):631−42参照)。別の多能性因子であるSox2は正常な多能性細胞の発達および維持のために必須であることがわかっているHMGドメイン含有転写因子である(Avilion,A.ら、Genes Dev.17,126−140,2003)。Klf4は腸において発現されるKlfファミリーメンバーとして最初に発見されたKruppel型の亜鉛フィンガー転写因子である(Shields,J.M.ら、J.Biol.Chem. 271:20009−20017,1996)。マウスES細胞中のKlf4の過剰発現は懸濁培養において形成される胚様体における分化を防止することがわかっており、Klf4がESの自己更新に寄与していることを示唆している(Li,Y.ら、Blood 105:635−637,2005)。Sox2はSOX(性決定領域Yボックス)転写因子のファミリーのメンバーであり、そしてES細胞を自己更新性に維持するために重要である。c−Mycは正常な発達および生理学的状態において無数の役割を果たしている転写因子であると同時に、自身の脱調節された発現または突然変異が種々の型の癌に関与するとされている癌遺伝子である(Pelengaris S,Khan M.,Arch Biochem Biophys.416(2):129−36,2003;Cole MD,Nikiforov MA,Curr Top Microbiol Immunol.,302:33−50,2006において考察)。一部の実施形態においては、そのような因子はOct4、Sox2、Klf4、およびこれらの組み合わせから選択される。一部の実施形態においては、異なる機能的にオーバーラップするKlfファミリーメンバー、例えばKlf2をKlf4の代替とする。一部の実施形態においては、因子は少なくともOct4を包含する。一部の実施形態においては、因子は少なくともOct4およびKlfファミリーメンバー、例えばKlf2を包含する。Lin28は成長調節RNA結合タンパク質である。一部の実施形態においては、体細胞はそれらがOct4、Sox2、Klf4、Nanog、Lin28、およびこれらの組み合わせから選択される1つ以上の再プログラミング因子を発現するか含有するように処理される。CCAAT/エンハンサー結合タンパク質アルファ(C/EBPアルファ)は少なくとも特定の細胞型、例えばB系列の細胞のようなリンパ様細胞において再プログラミングを促進し、そのような細胞型に対する再プログラミング因子と考えられ、そして本発明の特定の実施形態において、例えば本明細書に記載する1つ以上の多能性遺伝子および/またはWnt経路モジュレーターと組み合わせて使用される別のタンパク質である。
【0119】
目的の他の遺伝子はクロマチンのリモデリングに関与しており、および/または、ES細胞の多能性を維持するために重要であることがわかっている。場合により、遺伝子は、細胞が分化するに従ってダウンレギュレートされる、および/または成体の体細胞中では発現されないものである。目的の他の遺伝子は多分化能または多能性に関連している、および/または多分化能または多能性細胞において天然に発現されるミクロRNA前駆体をコードする。目的の他の遺伝子は多分化能または多能性細胞において天然に発現される内因性のミクロRNAの標的である遺伝子を阻害するRNAi剤をコードする。
【0120】
1つの実施形態において、外因性に導入された遺伝子は自身の機能が多能性に関連している内因性の遺伝子の染色体遺伝子座以外の染色体遺伝子座から発現されてよい。そのような染色体遺伝子座は開放クロマチンの構造を有する遺伝子座であり、そして自身の発現が体細胞中で必要とされない遺伝子を含有してよく、例えば染色体遺伝子座は自身の途絶が細胞の死滅を誘発しない遺伝子を含有する。例示される染色体遺伝子座は例えば、マウスROSA26遺伝子座およびII型コラーゲン(Col2al)遺伝子座を包含する(Zambrowiczら、1997参照)。
【0121】
細胞において遺伝子を発現するための方法は当該分野で公知である。一般的に、ポリペプチドまたは機能的RNA、例えばRNAi剤をコードする配列は適切な調節配列に作動可能に連結している。調節配列という用語はプロモーター、エンハンサーおよび他の発現制御エレメントを包含する。例示される調節配列はGoeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology,Academic Press,San Diego,CA(1990)に記載されている。例えばDNA配列の発現を、それに作動可能に連結した場合に制御する発現制御配列の広範な種類の何れかを、cDNAを発現するためのこれらのベクターにおいて使用してよい。
【0122】
外因性に導入された遺伝子は自身の発現が調節されるように誘導可能または抑制可能な調節配列から発現させてよい。「誘導可能な調節配列」という用語は本明細書においては、インデューサー(例えば化学的および/または生物学的な薬剤)またはインデューサーの組み合わせの非存在下においては、cDNAのような作動可能に連結した核酸配列の発現を指向しないか、または低レベルの発現を指向し、そしてインデューサーに応答して発現を指向するその能力が増強される調節配列を指す。例示される誘導プロモーターは例えば、重金属(CRC Boca Raton,Fla.(1991),167−220;Brinsterら、Nature(1982),296,39−42)に、熱ショックに、ホルモンに(Leeら、P.N.A.S.USA(1988),85,1204−1208;(1981),294,228−232;Klockら、Nature(1987),329,734−736;Israel and Kaufman,Nucleic Acids Res.(1989),17,2589−2604)応答するプロモーター、化学物質、例えばグルコース、ラクトース、ガラクトースまたは抗生物質に応答するプロモーターを包含する。「抑制可能な調節配列」とは、発現を阻害する特定の薬剤または薬剤の組み合わせの非存在下で作動可能に連結した核酸配列の発現を指向するものである。
【0123】
テトラサイクリン誘導プロモーターは抗生物質に応答する誘導プロモーターの例である。Gossen,M.and Bujard H.,Annu Rev Genet.Vol.36:153−173,2002およびその参考文献を参照できる。テトラサイクリン誘導プロモーターは1つ以上のテトラサイクリンオペレーターに作動可能に連結した最小プロモーターを含む。テトラサイクリンまたはその類縁体の1つの存在は転写活性化物質のテトラサイクリンオペレーター配列への結合をもたらし、それが最小プロモーターを、そして結果として関連cDNAの転写を活性化する。テトラサイクリン類縁体はテトラサイクリンと構造の同様性を示し、そしてテトラサイクリン誘導プロモーターを活性化できる何れかの化合物を包含する。例示されるテトラサイクリン類縁体は例えば、ドキシサイクリン、クロロテトラサイクリンおよびアンヒドロテトラサイクリンを包含する。
【0124】
本発明の一部の実施形態においては、導入された遺伝子、例えば再プログラミング因子またはRNAi剤をコードする遺伝子の発現は一過性である。一過性の発現は一過性のトランスフェクションによるか、または調節プロモーターからの発現により達成できる。一部の実施形態においては、発現は部位特異的リコンビナーゼの発現により調節されるか、それに依存させることができる。リコンビナーゼ系はとりわけCre−LoxおよびFlp−Frt系を包含する(Gossen,M.およびBujard,H.、2002)。一部の実施形態においては、発現制御配列からコーディング配列を別様に分離するストッパー配列を除去することにより発現をターンオンするためにリコンビナーゼを使用する。一部の実施形態においては、リコンビナーゼは多能性が誘導された後に遺伝子の少なくとも一部分を切開するために使用する。一部の実施形態においては、リコンビナーゼは一過性に発現され、例えばそれは約1〜2日、2〜7日、1〜2週間後等には検出不可能となる。一部の実施形態においては、リコンビナーゼは外部の原料から導入される。場合により、これらの実施形態におけるリコンビナーゼはタンパク質伝達ドメインである。
【0125】
再プログラミングされた体細胞は1つ以上の多能性の特性に関して評価してよい。多能性の特性の存在は体細胞が多能性状態に再プログラミングされていることを示す。「多能性の特性」という用語は本明細書においては、多能性に関連するかそれを示す特性、例えば3つ全ての胚性胚葉全型から誘導される細胞に分化する能力および多能性細胞に特有の遺伝子発現パターン、例えば多能性因子の発現および他のES細胞マーカーの発現を指す。
【0126】
多能性の特性に関して潜在的に再プログラミングされた体細胞を評価するためには、特定の成長特性およびES細胞様形態に関してそのような細胞を分析してよい。細胞を免疫無防備状態のSCIDマウスに皮下注射することによりそれらが奇形を誘導するか調べてよい(ES細胞に関する標準的試験)。ES様細胞は胚葉体に分化できる(別のES特異的な特徴)。さらにまた、ES様細胞は特定の細胞型への分化を駆動することがわかっている特定の成長因子を添加することによりインビトロで分化させることができる。テロメラーゼ活性の誘導によりマークされる自己更新能力はモニタリングできる別の多能性の特性である。再プログラミングされた体細胞の機能の試験は、それを胚盤胞に導入し、そして細胞が全ての細胞型を生じさせることができるかどうかを調べることにより実施してよい。Hoganら、2003を参照できる。再プログラミングされた細胞が身体の数種の細胞型を形成できれば、それらは多分化能であり;再プログラミングされた細胞が生殖細胞を包含する身体の全ての細胞型を形成することができれば、それらは多能性である。
【0127】
またさらに、再プログラミングされた体細胞における個々の多能性因子の発現を調べることによりそれらの多能性の特性を評価してよい。追加的または代替的に他のES細胞マーカーの発現を評価してよい。期特異的な胚性15抗原−1、−3、および−4(SSEA−1、SSEA−3、SSEA−4)は早期の胚成長において特異的に発現される糖タンパク質であり、そしてES細胞に関するマーカーである(Solter and Knowles,1978,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75:5565−5569;Kannagiら、1983、EMBO J 2:2355−2361)。酵素アルカリホスファターゼ(AP)の発現上昇は未分化の胚性幹細胞に関連する別のマーカーである(Wobusら、1984、Exp.Cell152:212−219;Peaseら、1990、Dev.Biol.141:322−352)。別のES細胞マーカーはGinis,I.ら、Dev.Biol.,269:369−380,2004およびThe International Stem Cell Initiative,Adewumi O.ら、Nat Biotechnol.,25(7):803−16,2007およびそれらの参考文献に記載されている。例えば、TRA−1−60、TRA−1−81、GCTM2およびGCT343、およびタンパク質抗原CD9、Thy1(CD90としても知られている)、クラス1 HLA、NANOG、TDGF1、DNMT3B、GABRB3およびGDF3、REX−1、TERT、UTF−1、TRF−1、TRF−2、コネキシン43、コネキシン45、Foxd3、FGFR−4、ABCG−2、およびGlut−1が有用である。
【0128】
再プログラミングされた体細胞の発現プロファイリングをそれらの多能性の特性を評価するために行ってよい。多能性細胞、例えば胚性幹細胞、および多分化能細胞、例えば成体幹細胞は全般的遺伝子発現の区別可能なパターンを有することがわかっている。例えば、Ramalho−Santosら、Science 298:597−600,2002;Ivanovaら、Science 298:601−604,2002;Boyer,LA.ら、Nature 441,349,2006およびBernstein,BE.ら、Cell 125(2),315,2006を参照できる。DNAメチル化、遺伝子発現、および/または細胞DNAの後成的状態、および/または細胞の成長能力を、例えばWernig,M.ら、Nature448:318−24,2007に記載の通り評価してよい。SCIDマウスに注射した場合に内胚葉、中胚葉、および外胚葉の特性を有する細胞を含有する奇形を形成することができる、および/または(ネズミ胚盤胞に注射した後に)分娩まで生存するキメラの形成に関与する能力を保有する細胞は多能性であると考えられる。多能性を評価するために使用する他の方法は細胞がサイレントなX染色体を再活性化させたかどうかを調べることである。
【0129】
体細胞は多能性の特性の何れかの完全なセットを獲得するように再プログラミングしてよい。あるいは、体細胞は多能性の特性のサブセットのみを獲得するように再プログラミングしてよい。
【0130】
本発明の特定の方法は多分化能または多能性の細胞により発現されるマーカーを発現する細胞を選択する工程を包含する。マーカーはそのような細胞において特異的に発現されてよい。標準的な細胞分離方法、例えばフローサイトメトリー、アフィニティー分離等を使用してよい。代替的または追加的に、潜在的に再プログラミングされた細胞の誘導元であり、そして従来の方法で形成されたES細胞中では発現されない体細胞に特徴的なマーカーを発現しない細胞を選択する。細胞を分離する他の方法は多能性細胞と体細胞の間に存在する場合がある平均の細胞サイズまたは密度における相違を利用してよい。例えば、特定の細胞のみを通過させる細孔を有する物質を通して細胞を濾過してよい。
【0131】
一部の実施形態においては、体細胞は選択または検出可能なマーカー(例えばGFPまたはneo)に作動可能に連結した多能性因子をコードする遺伝子の調節配列を含む核酸を含有する。マーカーをコードする核酸配列は多能性因子(例えばOct4)をコードする遺伝子の内因性の遺伝子座において組み込んでよく、あるいは構築物はマーカーに作動可能に連結した調節配列を含んでよい。マーカーの発現は再プログラミングされた細胞を選択、同定、および/または定量するために使用してよい。
【0132】
再プログラミング体細胞を形成することに関する本発明の方法の何れも、細胞療法を要する個体から体細胞を得るか、または体細胞の集団を得る工程を包含してよい。再プログラミングされた体細胞は得られた細胞、または得られた細胞の子孫細胞に属するものから形成、選択、または同定される。場合により、細胞を培養物中で増殖させた後にドナーに遺伝子的にマッチする再プログラミングされた体細胞を形成、選択、または同定する。
【0133】
一部の実施形態においては、ES様細胞が濃縮されている細胞集団を得るために一回以上コロニーをサブクローニングおよび/または継代する。濃縮された集団は少なくとも95%、96%、97%、98%、99%以上、例えば100%のES様細胞を含有してよい。本発明はES様細胞に安定に、そして継承可能に再プログラミングされている体細胞の細胞系統を提供する。
【0134】
一部の実施形態においては、方法は再プログラミングされた細胞を同定または選択する目的のために遺伝子操作されない体細胞を用いて実施される。結果として生じる再プログラミングされた体細胞は、例えば再プログラミングされた細胞を同定または選択する目的のために人為的に該細胞(または該細胞の先祖)内に導入されていた外因性の遺伝子物質を含有しない。一部の実施形態においては、体細胞およびそれから誘導された再プログラミングされた体細胞はそれらのゲノム内に外因性遺伝子物質を含有するが、そのような遺伝子物質はそのような細胞における遺伝子欠損を是正するという、またはそのような細胞が治療目的のための所望のタンパク質を合成できるようにするという目的のために導入され、そして再プログラミングされた細胞を同定または選択するためには使用されない。
【0135】
一部の実施形態においては、方法は再プログラミングされない体細胞の集団から再プログラミングされた体細胞を同定するために形態学的基準を使用する。一部の実施形態においては、方法は再プログラミングされない、または部分的にのみES様状態に再プログラミングされる細胞集団からES様状態に再プログラミングされている体細胞を同定するために形態学的基準を使用する。「形態学的基準」とは細胞またはコロニーの何れかの目視により検出可能な特徴または特性を指すために広範な意味において使用する。形態学的特徴は例えば非再プログラミング細胞と相対比較した場合のコロニーの形状、コロニー境界の先鋭さ、密度、小型性、および丸型の形状等を包含する。図1はES様状態に再プログラミングされている細胞を示す形態学的基準を呈している細胞のコロニーを示す。小型の丸い細胞および先鋭なコロニー境界を有する緻密なコロニーが観察される。本発明はこのような1つ以上の特性をコロニーが呈するような、コロニーを同定すること、および場合によりそれを(またはコロニーから細胞を)単離することを包含する。再プログラミングされた体細胞は第1の細胞培養皿(この用語は生存細胞をインビトロで維持することができる何れかの容器、プレート、皿、貯留器、コンテナ等を指す)中に生育しているコロニーおよび第2の細胞培養皿中に転移されたコロニーまたはその一部として同定してよく、これにより再プログラミングされた体細胞を単離できる。次に細胞をさらに増殖させてよい。
【0136】
体細胞を再プログラミングする、または再プログラミングに寄与する薬剤を得るためのスクリーニング法
本発明はまた、単独で、または1つ以上の他剤と組み合わせて、体細胞を低分化状態に再プログラミングする薬剤を同定するための方法を提供する。本発明はさらに方法により同定される薬剤を提供する。1つの実施形態において、方法は体細胞をWnt経路活性化物質および候補薬剤に接触させること、および、候補薬剤の存在が、細胞を候補薬剤に接触させていない場合に生じると考えられるものに対して、増強された再プログラミング(例えば再プログラミング速度の増大および/または効率)をもたらすかどうかを調べることを含む。一部の実施形態においては、Wnt活性化物質および候補薬剤は細胞培養培地中に共に存在し、他の実施形態においてはWnt活性化物質および候補薬剤は共に存在しない(例えば細胞は逐次的に薬剤に曝露される)。細胞は例えば少なくとも3日間、少なくとも5日間、10日間まで、15日間まで、30日間まで等、培養物中に維持してよく、その間、期間の全体または部分において、それらをWnt活性化物質および候補薬剤と接触させる。一部の実施形態においては、薬剤は、細胞がその薬剤と接触していなかった場合よりも該期間の後に再プログラミングされた細胞または主に再プログラミングされた細胞よりなるコロニーの数が少なくとも2倍、5倍、または10倍存在していれば、細胞を再プログラミングする薬剤として認識される。
【0137】
候補薬剤は、細胞を再プログラミングする能力に関して試験するべき、何れかの分子または超分子複合体、例えばポリペプチド、ペプチド(60アミノ酸以下を含有するポリペプチドを指すために本明細書においては使用される)、小型の有機または無機の分子(すなわち1500Da、1000Da、または500Da未満の分子量を有する分子)、多糖類、ポリヌクレオチド等であることができる。一部の実施形態においては、候補薬剤は、タンパク質との構造的相互作用、例えば水素結合を媒介する官能基を含み、そして典型的には少なくともアミン、カルボニル、ヒドロキシルまたはカルボキシル基、そして一部の実施形態においては、少なくとも2つの化学官能基を包含する、有機の分子、特に小型の有機分子である。候補薬剤は1つ以上の化学官能基および/またはヘテロ原子で置換された、環状の炭素または複素環構造および/または芳香族またはポリ芳香族構造を含んでよい。
【0138】
候補薬剤は当業者の知る通り広範な種類の原料、例えば合成または天然の化合物のライブラリから得られる。一部の実施形態においては、候補薬剤は合成化合物である。多くの手法が広範な種類の有機化合物および生物学的分子のランダムおよび指向された合成のために使用される。一部の実施形態においては、候補モジュレーターは、入手可能か容易に製造される、細菌、真菌、植物および動物の抽出物、発酵ブロス、馴化された培地等の形態の天然の化合物の混合物として提供される。
【0139】
一部の実施形態においては、化合物のライブラリをスクリーニングする。ライブラリは典型的には化合物がスクリーニング試験において同定できるように提示または表示できる化合物の収集物である。一部の実施形態においては、ライブラリ中の化合物は個々のウェル(例えばマイクロタイタープレートの)、容器、管等に収容されることにより、細胞を接触、無細胞試験を実施する等のための個々のウェルまたは容器への好都合な転移が容易になる。ライブラリは主要な構造に結合した基の数または種類において異なる共通の構造的特徴を有する分子を含んでよく、あるいは完全にランダムであってよい。ライブラリは限定しないが例えばファージディスプレイライブラリ、ペプチドライブラリ、ポリソームライブラリ、アプタマーライブラリ、合成小分子ライブラリ、天然化合物ライブラリ、および化学物質ライブラリを包含する。分子のライブラリを製造するための方法は当該分野で周知であり、そして多くのライブラリが商業的または非商業的な入手元から入手できる。目的のライブラリは合成有機コンビナトリアルライブラリを包含する。ライブラリ、例えば合成小分子ライブラリおよび化学物質ライブラリは化学分子の構造的に多様な収集物を含むことができる。小分子は頻繁には多数の炭素−炭素結合を有する有機分子を包含する。ライブラリは1つ以上の官能基で置換された環状の炭素または複素環構造および/または芳香族またはポリ芳香族構造を含んでよい。一部の実施形態においては、小分子は5〜50炭素原子、例えば7〜30炭素原子を有する。一部の実施形態においては、化合物はマクロ環状である。目的のライブラリはまた、ペプチドライブラリ、ランダム化オリゴヌクレオチドライブラリ等を包含する。ライブラリはペプトイドおよび非ペプチドの合成部分から合成できる。そのようなライブラリはさらに、自身の天然に存在する相応物と比較して酵素分解に付されにくい非ペプチド合成部分を含有するように合成することができる。小分子コンビナトリアルライブラリもまた形成してよい。小型の有機化合物のコンビナトリアルライブラリは多様性の1つ以上の点において相互に異なり、そして多工程のプロセスを用いて有機手法により合成される緊密に関連した類縁体の収集物を含んでよい。コンビナトリアルライブラリは多数の小型有機化合物を包含できる。「化合物アレイ」とは、本明細書においては、デカルト座標中のそれらの空間的位置により定義可能であり、そして各化合物が共通の分子コア部および1つ以上の可変な構造的多様性エレメントを有するように配置された化合物の収集物である。そのような化合物アレイにおける化合物は別個の反応容器中でパラレルに製造され、各化合物がその空間的位置により同定および追跡される。パラレル合成混合物およびパラレル合成方法の例は米国特許5,712,171に記載されている。一部の実施形態においては、2つ以上の化合物、抽出物または天然原料から得られた他の調製品(これは数十種以上の化合物を含む場合がある)および/または無機化合物等を含有する混合物をスクリーニングする。
【0140】
1つの実施形態において、本発明の方法は「認可された薬剤」をスクリーニングするために使用される。「認可された薬剤」とは何れかの目的のためにFDAまたは他国の同様の政府当局によりヒトにおける使用に関して認可されている何れかの化合物(この用語はタンパク質および核酸のような生物学的分子を包含する)である。これは、安全であると考えられ、そして少なくともFDA認可薬剤の場合は少なくとも1つの目的のための治療薬である化合物のセットをそれが示していることから、特に有用なクラスの化合物である場合がある。すなわち、これらの薬剤が少なくとも他の目的のために少なくとも安全であることになる可能性は高い。
【0141】
スクリーニングできるライブラリの代表例はChemBridge Corporation,16981 Via Tazon,San Diego,Calif.92127より入手可能なDIVERSet(商標)を包含する。DIVERSetは10,000〜50,000の薬剤様の手作業により合成された小分子を含有する。化合物は最少数の化合物を有する最大の薬物団多様性を網羅し、そして高値のスループットまたはより低いスループットのスクリーニングの何れかに適している「ユニバーサル」ライブラリを形成するために予備選択される。追加的なライブラリの説明については例えばTanら、Am.Chem.Soc.120,8565−8566,1998;Floyd CD,Leblanc C,Whittaker M,Prog Med Chem 36:91−168,1999を参照できる。多くのライブラリが例えばAnalytiCon USA Inc.,P.O.Box 5926,Kingwood,Tex.77325;3−Dimensional Pharmaceuticals,Inc.,665Stockton Drive,Suite 104,Exton,Pa.19341−1151;Tripos,Inc.,1699 Hanley Rd.,St.Louis,Mo.,63144−2913等から市販されている。例えばキニン酸およびシキミ酸に基づいたライブラリ、ヒドロキシプロリン、サントニン、ジアンヒドロ−D−グルシトール、ヒドロキシピペコリン酸、アンドログラホリド、ピペラジン−2−カルボン酸系のライブラリ、シトシン等が市販されている。
【0142】
一部の実施形態においては、候補薬剤は細胞、例えば多能性細胞から調製したcDNA発現ライブラリに由来するcDNAである。そのような細胞は胚性幹細胞、卵母細胞、分割球、奇形癌、胚性生殖細胞、内細胞塊細胞等であってよい。
【0143】
当然ながら、試験される候補再プログラミング剤は典型的には標準的な培養培地中には存在しないか、存在するとしても本発明において使用される場合よりも低値の量で存在する。
【0144】
やはり当然ながら、有用な再プログラミング剤または他の型の再プログラミング処理は全ての型の体細胞を再プログラミングできる必要は無く、そしてある細胞型の全ての体細胞を再プログラミングできる必要は無い。限定しないが、2、5、10、50、100以上の因子で再プログラミング細胞が濃縮されている集団(すなわち、集団における再プログラミング細胞の割合が、同じ方法で処理されるが候補薬剤と接触させない細胞の初期集団において存在するものより2、5、10、50、または100倍高値であるもの)をもたらす候補薬剤が有用である。
【0145】
本発明の一部の実施形態においては、本発明のスクリーニング法を用いることによりES様状態に細胞を再プログラミングする場合にKlf4を代替する薬剤または薬剤の組み合わせを発見する。方法はSox2およびOct4を発現するように操作され、そしてWnt経路活性化物質と接触させた体細胞を用いて実施してよい。一部の実施形態においては、方法はES様状態に細胞を再プログラミングする場合にSox2の代替となる薬剤を発見するために使用される。方法はKlf4およびOct4を発現するように操作され、そしてWnt経路活性化物質と接触させた体細胞を用いて実施してよい。一部の実施形態においては、方法はES様状態に細胞を再プログラミングする場合にOct4の代替となる薬剤を発見するために使用される。方法はSox2およびKlf4を発現するように操作され、そしてWnt経路活性化物質と接触させた体細胞を用いて実施してよい。Klf4、Sox2、Oct4、およびc−Mycの操作された発現はゲノムの改変が関与しない小分子および/またはポリペプチドまたは他の薬剤の組み合わせで体細胞を処理することにより置き換えられる。一部の実施形態においては、方法はヒト細胞を用いて実施される。一部の実施形態においては、方法はマウス細胞を用いて実施される。一部の実施形態においては、方法は非ヒト霊長類細胞を用いて実施される。
【0146】
本発明は、例えば試験する他の化合物に対して、再プログラミングを増強する場合に効果的である、および/または多能性となるように体細胞を再プログラミングすることを増強する優れた能力を有するものを同定するために、Wnt経路モジュレーター、例えばWnt経路をモジュレートすることがわかっているかそれが疑われる小分子のライブラリを試験することを包含する。一部の実施形態においては、少なくとも一部がWnt経路活性化物質をモジュレートすることがわかっている、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも50、少なくとも100、または少なくとも1000の小分子、例えば構造的に関連した分子を試験する。一部の実施形態においては、再プログラミングを増強し、そしてWnt経路活性化物質をモジュレートすることによりそれを行うことが疑われる化合物は、実際にWnt経路を介して作用することを確認するためにWnt阻害剤を使用する。例えば、Wnt経路阻害剤が再プログラミングに対する被験化合物の作用をブロックする場合、被験化合物がWnt経路を介して作用すると結論付けてよい。
【0147】
Wnt経路のモジュレーションに関する本発明の方法および組成物は、体細胞再プログラミングのため、および/または体細胞再プログラミングにおいて使用するための再プログラミング剤を発見するために有用な種々の他の方法および組成物に適用するか、それと組み合わせて使用してよい。そのような複合的な方法および組成物は本発明の特徴である。例えば、本発明の一部の実施形態は、1つ以上の再プログラミング因子を、その因子が多くの他の細胞型において発現されるよりも高値のレベルで天然に発現する細胞型(例えば神経幹細胞または子孫細胞)を使用する(例えばEminliら、Reprogramming of Neural Progenitor Cells into iPS Cells in the Absence of Exogenous Sox2 Expression,Stem Cells.2008Jul17、印刷前に電子書籍)。
【0148】
方法および組成物は参照により本明細書に組み込まれるPCT/US2008/004516に開示されている方法および組成物と共に使用してよい。
【0149】
ドキシサイクリン(dox)誘導導入遺伝子として定義される再プログラミング因子を担持する遺伝子的に均質な「二次」体細胞が誘導されている(Wernigら、A novel drug−inducible transgenic system for direct reprogramming of multiple somatic cell types. Nature Biotechnology,2008年7月1日オンライン出版、doi:10.1038/nbt1483)。これらの細胞はdox誘導レンチウィルスに線維芽細胞を感染させ、dox添加により再プログラミングし、誘導された多能性幹細胞を選択し、そしてキメラマウスを作成することにより作成されている。これらのキメラから誘導された細胞は直接の感染および多能性マーカー再活性化に関する選択を用いて観察されるものより25〜50倍高値の効率でウィルス感染を必要とすることなくdox曝露時に再プログラミングする。本発明の一部の実施形態においては、そのような二次体細胞を本発明の実施形態において使用し、および/または、二次体細胞は本明細書に記載する通りWnt経路刺激を用いることによりc−Mycウィルスを使用することなく形成する。本発明は二次体細胞に関する組成物および方法においてWnt経路モジュレーションを使用することを意図する。
【0150】
本発明の一部の実施形態においては、体細胞は例えばOct4またはNanogのような内因性多能性遺伝子のプロモーターに作動可能に連結した選択マーカーをコードする核酸配列を含有する。マーカーをコードする配列は内因性の遺伝子座においてゲノム内に組み込まれてよい。選択マーカーは例えば容易に検出されるタンパク質、例えば蛍光タンパク質、例えばGFPまたはその誘導体であってよい。マーカーの発現は再プログラミングを示すものであり、そしてそのため、再プログラミングされた細胞を同定または選択するため、再プログラミング効率を定量するため、および/または、再プログラミングを増強する、および/または再プログラミングを増強する自身の能力に関して試験される薬剤を同定、特性化、または使用するために、使用することができる。
【0151】
再プログラミングされた体細胞およびその使用
本発明は本発明の方法により製造された誘導多能性幹細胞(iPS細胞)を包含する再プログラミングされた体細胞(RSC)を提供する。これらの細胞は、医学、農業、および他の目的の分野において多数の用途を有し、その一部は本明細書に記載する通りである。
【0152】
本発明は哺乳類における状態を治療または防止するための方法を提供する。1つの実施形態において、方法は、個体から体細胞を得ること、そのようにして得られた体細胞を本発明の方法により再プログラミングしてRSC、例えばiPS細胞を得ることを包含する。次にRSCを所望の細胞型の細胞へのそれらの成長のために適する条件下で培養する。所望の細胞型の成長した細胞を個体内に導入することにより状態を治療する。代替の実施形態においては、個体から体細胞を得る事から方法を開始し、そのようにして得られた体細胞を本発明の方法により再プログラミングする。次にRPCを所望の臓器への発達に適する条件下に培養し、これを採取し、個体内に導入することにより状態を治療する。状態は細胞または臓器の機能が異常である、および/または正常レベルより低下している何れかの状態であってよい。すなわち、本発明は細胞療法を要する個体から体細胞を得ること、Wnt経路を活性化することを含むプロセスにより細胞を再プログラミングすること、および/またはWnt馴化培地中で細胞を培養すること、次に場合により再プログラミングされた体細胞を分化させて1つ以上の所望の細胞型を形成すること、および細胞を個体内に導入することを包含する。細胞療法を必要とする個体は何れかの状態に罹患していてよく、その場合、状態または1つ以上の状態の症状は、ドナーに細胞を投与することにより軽減することができ、および/または、その際、状態の進行は個体に細胞を投与することにより緩徐化することができるものである。方法は再プログラミングされた体細胞を同定または選択し、そしてそれらを再プログラミングされない細胞から分離する工程を包含してよい。
【0153】
本発明の特定の実施形態におけるRSCはES様細胞であり、これはiPS細胞とも称され、そしてこのため、ES細胞を分化させる公知の方法に従って所望の細胞を得るために分化するように誘導してよい。例えば、iPS細胞は、分化培地中、そして細胞の分化をもたらす条件下に、そのような細胞を培養することにより、造血幹細胞、筋肉細胞、心筋細胞、肝細胞、膵臓細胞、軟骨細胞、上皮細胞、尿管細胞、神経系の細胞(例えばニューロン)等に分化するように誘導してよい。伝統的な方法を用いて得られた胚性幹細胞の分化をもたらす培地および方法は、適当な培養条件として当該分野で公知である。そのような方法および培養条件は本発明に従って得られたiPS細胞に適用してよい。例えば一部の例に関して参照により本明細書に組み込まれるTrounson,A., The production and directed differentiation of human embryonic stem cells, Endocr Rev.27(2):208−19,2006およびその参考文献を参照できる。さらにまた、参照により本明細書に組み込まれるYao,S.ら、Long−term self−renewal and directed differentiation of human embryonic stem cells in chemically defined conditions, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103(18):6907−6912,2006およびその参考文献を参照できる。
【0154】
すなわち、公知の方法および培養培地を用いて、当業者は再プログラミングされた多能性細胞を培養することにより所望の分化した細胞型、例えば神経細胞、筋肉細胞、造血細胞等を得てよい。対象となる細胞は何れかの所望の分化した細胞型を得るために使用してよい。そのような分化したヒトの細胞は多数の治療機会を与える。例えば本発明に従って再プログラミングされた細胞から誘導されたヒト造血幹細胞は骨髄移植を必要とする医学的治療において使用してよい。そのような操作法は多くの疾患、例えば後期の癌および悪性疾患、例えば白血病を治療するために使用される。そのような細胞はまた、貧血、免疫系を無防備化する疾患、例えばエイズ等を治療するためにも有用である。本発明の方法はまた、神経疾患、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、またはALS、リソソーム貯留疾患、多発性硬化症、または脊髄傷害を治療、防止、または安定化させるためにも使用できる。例えば、体細胞は治療を要する個体から得てよく、そして多能性を有するように再プログラミングし、そして罹患した、または損傷を有する組織の正常な機能を置き換えるか、支援するために使用してよい神経外胚葉細胞を誘導するように培養してよい。
【0155】
成長因子またはホルモン、例えばインスリン等を産生する再プログラミングされた細胞は内分泌障害の治療または防止のために哺乳類に投与してよい。再プログラミングされた上皮細胞は肺、腸、外分泌腺、または泌尿器管のような体腔または臓器の内張層の損傷を修復するために投与してよい。再プログラミングされた細胞は膀胱、脳、食道、ファローピウス管、心臓、腸、胆嚢、腎臓、肝臓、肺、卵巣、膵臓、前立腺、脊髄、脾臓、胃、精巣、胸腺、甲状腺、気管、尿管、尿道、または子宮のような臓器における細胞の損傷または不全を治療するために哺乳類に投与してよい。
【0156】
本発明は移植に適する遺伝子的にマッチした細胞の本質的に無制限の供給を可能にする。そのような供給は現在の移植方法に関連する著明な問題点、すなわち対移植片性宿主病または対宿主性移植片病のために生じる場合がある移植された組織の拒絶を対象としている。RSCはまた、レシピエントの哺乳類における組織または臓器を修復または置き換えるために使用してよいインビトロまたはインビボの組織または臓器を形成するためのマトリックスと組み合わせてよい。例えば、RSCをマトリックスの存在下にインビトロで培養することにより、泌尿器、心臓血管、または骨格筋系の組織または臓器を作成してよい。あるいは、細胞とマトリックスの混合物をインビボで所望の組織の形成のために哺乳類に投与してよい。本発明に従って作成されたRSCは例えば所望の遺伝子を導入するか、または本発明に従って作成されたRSCの内因性の遺伝子の全てまたは部分を除去し、そしてそのような細胞を所望の細胞型に分化させることにより、遺伝子操作された、またはトランスジェニックの分化した細胞を作成するために使用してよい。そのような改変を達成するための1つの方法は相同組み換えであり、この手法はゲノムの特定の部位において遺伝子を挿入、欠失または改変するために使用できる。
【0157】
この方法は欠陥のある遺伝子を置き換えるため、または成長因子、ホルモン、リンホカイン、サイトカイン、酵素等のような治療上有益なタンパク質の発現をもたらす遺伝子を導入するために使用できる。例えば脳誘導成長因子をコードする遺伝子をヒトの胚性の、または幹様の細胞に導入し、細胞を神経細胞に分化させ、そして細胞をパーキンソン病患者に移植することにより、そのような疾患の間の神経細胞の損失を緩徐化させてよい。所望の遺伝子/突然変異をES細胞に導入するための公知の方法を用いて、RSCを遺伝子操作し、そして得られた操作された細胞を所望の細胞型、例えば造血細胞、神経細胞、膵臓細胞、軟骨細胞等に分化させてよい。RSCに導入してよい遺伝子は、例えば表皮成長因子、塩基性線維芽細胞成長因子、神経膠誘導好中球成長因子、インスリン様成長因子(IおよびII)、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン−4/5、線毛神経栄養因子、AFT−1、サイトカイン遺伝子(インターロイキン、インターフェロン、コロニー刺激因子、腫瘍壊死因子(アルファおよびベータ)等)、治療用酵素、コラーゲン、ヒト血清アルブミン等をコードする遺伝子を包含する。
【0158】
当該分野で公知である負の選択系を用いて所望により患者から治療用細胞を排除することができる。例えば、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子でトランスフェクトされた細胞はTK遺伝子を含有する胚性(例えばES様)細胞の産生をもたらすことになる。それらの細胞の分化はTK遺伝子をやはり発現する目的の治療用細胞の単離を可能にすることになる。そのような細胞はガンシクロビル投与により患者から何れかの時点で選択的に排除してよい。そのような負の選択系は米国特許5,698,446号に記載されている。他の実施形態において、細胞は自身の発現が誘導プロモーターの制御下にある毒産生物をコードする遺伝子を含有するように操作される。インデューサーの投与は毒産生物の産生を誘発し、細胞死をもたらす。すなわち、本発明の体細胞の何れかはゲノム内に組み込んでよい発現カセットに場合により含有された自殺遺伝子を含んでよい。自殺遺伝子は自身の発現が細胞にとって致命的であるものである。例としてはジフテリア毒素、コレラ毒素、リシン等をコードする遺伝子が包含される。自殺遺伝子は特定の誘導剤または刺激物質の非存在下では通常の状況下で発現を指向しない発現制御エレメントの制御下にあってよい。しかしながら、発現は適切な状況下、例えば(i)細胞または生物への適切な誘導剤の投与により、または(ii)特定の遺伝子(例えば癌遺伝子、細胞分裂周期に関与する遺伝子、または分化または分化の消失を示す遺伝子)が細胞内で発現される場合に、または(iii)細胞周期制御遺伝子または分化を示す遺伝子のような遺伝子の発現が消失している場合に、誘導されることができる。例えば米国特許6,761,884号を参照できる。一部の実施形態においては、遺伝子は部位特異的リコンビナーゼにより媒介される組み換え事象の後に発現されるのみとなる。そのような事象はコーディング配列をプロモーターのような発現制御エレメントに作動可能に会合させる場合がある。自殺遺伝子の発現は、対象に細胞(またはその先祖)が投与された後に対象の身体から細胞(またはその子孫)を排除することが望まれる場合に誘導してよい。例えば、再プログラミングされた体細胞が腫瘍を生じさせる場合、腫瘍は、自殺遺伝子の発現を誘導することにより排除できる。一部の実施形態においては、細胞が分化または適切な細胞周期制御の消失により自動的に排除されるため、腫瘍の形成が阻害される。
【0159】
治療または防止してよい疾患、障害または状態の例は、神経学的、内分泌、構造、骨格筋、血管、尿路、消化器、外皮、血液、免疫、自己免疫、炎症、内分泌、腎臓、膀胱、心臓血管、癌、循環器、消火器、造血、および筋肉の疾患、障害または状態を包含する。さらにまた、再プログラミングされた細胞は組織または臓器を修復または置き換えることのような、再建用途のために使用してよい。一部の実施形態においては、成長因子および血管形成を促進するタンパク質または他の薬剤を包含することが好都合である場合がある。あるいは、組織の形成は適切な培養培地および条件、成長因子、および生体分解性の重合体マトリックスを用いてインビトロで全部を実施できる。
【0160】
本発明の治療方法に関しては、RSCの哺乳類への投与は特定の様式の投与、用量、または投薬頻度に限定されず;本発明は全ての様式の投与、例えば筋肉内、静脈内、動脈内、患部内、皮下、または疾患を防止または治療するために十分な用量を与えるために十分な何れかの他の経路を意図している。RSCは単回投薬または多数回投薬において哺乳類に投与してよい。多数回投薬する場合、投薬は相互に例えば1週間、1ヶ月、1年、または10年分離させてよい。1つ以上の成長因子、ホルモン、インターロイキン、サイトカイン、または他の細胞もまた、特定の細胞型に対してそれらをさらに偏向させるために、細胞の投与の前、最中、または後に投与してよい。
【0161】
本発明のRSCは特に早期の発達の調節に関与する遺伝子の研究のための、分化のインビトロのモデルとして使用してよい。再プログラミングされた細胞を用いて作成された分化した細胞組織および臓器は、薬剤の作用を研究する、および/または、潜在的に有用な医薬品物質を発見するために使用してよい。
【0162】
体細胞再プログラミング方法および再プログラミングされた細胞のその他の用途
本明細書に開示した再プログラミング方法は種々の動物種のためのRSC、例えばiPS細胞を形成するために使用してよい。形成されたRSCは所望の動物を作成するために有用である場合がある。動物は例えば、鳥類および哺乳類、ならびに絶滅危惧種である何れかの動物を包含する。例示される鳥類は家禽類を包含する(例えばウズラ、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ、およびホロホロチョウ)を包含する。例示される哺乳類はネズミ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコおよび非ヒト霊長類を包含する。これらのうち、好ましいメンバーは家畜動物、例えばウシ、ブタ、ウマ、乳牛、ウサギ、モルモット、ヒツジ、およびヤギを包含する。
【0163】
遺伝子同定の方法
本発明は自身の発現が再プログラミングされた細胞の形成を阻害する遺伝子を同定するための方法を提供する。1つの方法は(i)体細胞におけるWnt経路を活性化すること;(ii)RNAiにより候補遺伝子の発現を低減すること;(iii)候補遺伝子の発現を低減することが再プログラミングの上昇した効率をもたらすかどうか調べること、そしてそうであれば、自身の発現が体細胞の再プログラミングを阻害するものとして候補遺伝子を同定すること、を含む。1つの方法は(i)Wnt馴化培地中で体細胞を培養すること;(ii)RNAiにより候補遺伝子の発現を低減すること;(iii)候補遺伝子の発現を低減することが再プログラミングの上昇した効率をもたらすかどうか調べること、そしてそうであれば、自身の発現が体細胞の再プログラミングを阻害するものとして候補遺伝子を同定すること、を含む。場合により、体細胞はOct4、Sox2、Nanog、Lin28、およびKlf4から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現するように操作する。場合により細胞はWnt経路モジュレーターと接触させる。方法において有用なshRNAおよびsiRNAのライブラリは市販されている。同定された遺伝子は細胞再プログラミングを増強するための阻害の標的となる。遺伝子を阻害する薬剤(RNAi剤または他の薬剤、例えば小分子の何れか)は例えばWnt活性化物質と組み合わせて体細胞を再プログラミングするために使用できる。
【実施例】
【0164】
本発明を以上の通り一般的に説明し、これは以下の実施例を参照すればさらに理解しやすくなるが、それは本発明の特定の態様および実施形態を説明する目的のためのみに記載しており、本発明を限定する意図はない。
【0165】
実施例1に関する材料および方法
細胞培養、ウィルス感染、遺伝子発現の誘導。細胞を15%FBS、DMEM−KO、Penn/Step、グルタミン、非必須アミノ酸、β−ME、およびLIF中で培養した。内因性Oct4遺伝子座に挿入されたOct4−IRES−eGFP構築物を有するマウス胚線維芽細胞(MEF)(Meissner,A.ら、Nature Biotechnology、Direct reprogramming of genetically unmodified fibroblasts into pluripotent stem cells. オンライン出版、2007年8月27日、doi:10.1038/nbt1335)を、Oct4、Sox2、Klf4およびc−Mycまたは単独のOct4、Sox2、およびKlf4のドキシサイクリン誘導発現を駆動するレンチウィルスベクターで感染させた。ベクターはtet誘導プロモーターを包含するように改変されたFUGWレンチウィルスベクター骨格に基づくものとした(Lois C.ら、Science 2002;295:868−872)。感染2日後、細胞を分割し、Wnt3a馴化培地(2xLIFを含有する通常のES培地で1:1希釈して使用)の存在下または非存在下にドキシサイクリンで誘導した。細胞は第13日および再度第20日にフローサイトメトリーによりGFP発現に関してモニタリングした。平行して、コラーゲン遺伝子座から発現させたドキシサイクリン誘導Oct4および内因性Oct4遺伝子座内に挿入されたOct4−IRES−(neo耐性)を有するMEFをSox2、Klf4およびc−MycまたはSox2およびKlf4の何れかの過剰発現を駆動するレンチウィルスで感染させた。再度、感染後2日に、細胞を分割し、Wnt3a馴化培地の存在下または非存在下にドキシサイクリンで誘導した。これらの細胞の別個のプレートをそれぞれ第7日および第13日にG418で選択した。G418選択の少なくとも1種間の後、耐性コロニーを検査して計数した。
【0166】
馴化培地。Wnt3a馴化培地(CM)はWnt3a cDNAでトランスフェクトしてあるマウスL細胞から収集した(Shibamotoら、1998)。これらの細胞は対照馴化培地に関して使用するための未トランスフェクトの親細胞系統(CRL−2648)と共にATCC(CRL−2647)を介して入手される。Wnt3aトランスフェクト細胞はWntを分泌し、その成育培地中Wnt3aタンパク質の400ng/mLまでのレベルに達する。基礎培地の組成はDMEM、15%FBS、Penn/Strep、グルタミンおよび非必須アミノ酸年、Singlaらのプロトコルに従って調製した(Singlaら、Biochem Biophys Res Commun,345(2):789−95,2006)。分泌線維芽細胞から収集した培地を濾過し、通常のES細胞培地(15%FBS、DMEM−KO、Penn/Step、グルタミン、非必須アミノ酸、β−ME、およびLIF)で1:1希釈した。次にこの培地を使用してES細胞を処理した。Wnt3a馴化培地は、β−カテニンホスホリル化を調べるイムノブロットにより明らかにされる通り、Wntシグナリング経路を活性化することが出願人およびその他により示されている。
【0167】
実施例1:Wnt3a馴化培地を用いたES様細胞の形成
本発明者らは可溶性因子を使用したWnt経路の刺激が体細胞において多能性を誘導する効率をモジュレートできるという仮説を立てた。本実施例は再プログラミングに対するWnt経路刺激の作用を調べるために実施した初期の実験を説明するものである。Oct4−IRES−eGFPまたはOct4−IRES−neo構築物を含有する細胞を上記した通り何れかの3つまたは4つの因子をコードするレンチウィルスベクターで感染させた。多能性因子の発現は第2日に誘導した。一部の実験においては、細胞は、第2〜13日には図4A(上)に示す通りWnt3a馴化培地または非馴化培地中で培養した。GFP発現は第13および20日にFACSにより分析した。他の実験においては、細胞は第2〜13または2〜20日には図4A(下)に示す通りWnt3a馴化培地または非馴化培地中で培養した。G418選択は第7および13日に実施した。生存コロニーは第20日に計数した。
【0168】
結果によれば、4つの再プログラミング転写因子で形質導入した線維芽細胞におけるiPS形成の速度をWnt3a馴化培地が増大させることがわかる。図4Bに示される通り、Wnt3aはOct4、Sox2、Klf4およびc−Mycを過剰発現する細胞中のiPS細胞形成を促進する。Oct4、Sox2、Klf4およびc−Mycを過剰発現する選択可能な細胞はWnt3a馴化培地の存在下において、この培地の非存在下よりも早期に、頑健なG418耐性コロニーを形成した。第7日に選択した場合、Wntの非存在下には僅か少数のコロニーのみ形成しており、そのうち何れも培養物中で増殖できなかった。この時点においてWnt馴化培地の存在下に形成されたコロニーはより大きく、そしてクローンとして継代できた。第13日に選択を開始した時点では、Wnt3a馴化培地の非存在下にコロニーが観察され、それは増殖できなかった。Wnt馴化培地非存在下よりもWnt馴化培地の存在下においてこの時点でコロニーは少数であったものの、形成されていたコロニーは大きく、相対的に均質な外観を有しており、そしてここでも培養物中に維持できた。この結果はWnt3a馴化培地が再プログラミングの速度を上昇させるのみならず、再プログラミングされた細胞のコロニーに対して選択性を示したことを示唆している。
【0169】
Wnt3a馴化培地はまた癌遺伝子転写因子c−Mycを添加することなくiPS細胞の形成を可能にする。本発明者らの初期の実験では線維芽細胞をOct4、Sox2およびKlf4で形質導入した場合にiPS細胞が形成されなかったが、Wnt3a馴化培地中で細胞を成育させた場合にはこれらの3つの因子でiPSコロニーは観察している。これらのコロニーは、形態および多能性細胞に通常は限定される事象である内因性Oct4遺伝子座の活性化に基づけば、真のiPS細胞であると考えられる。図4Cに示す通り、Wnt3a馴化培地の存在下では、第7日および第13日の両方において選択されたOct4、Sox2、Klf4過剰発現細胞において、頑健なneo耐性コロニーが観察された。Wnt馴化培地の非存在下では、c−Mycウィルスを感染させなかった細胞は何れの時点においてもneo耐性ではなかった。選択しない場合、Sox2およびKlf4レンチウィルスで感染させたOct4−IRES−eGFP細胞はWnt馴化培地の存在下においてのみ第20日までにGFPを発現することがわかった(内因性Oct4遺伝子座の活性化を示す)。
【0170】
考察
上記した所見は少なくとも2つの主要な理由に関して有意である。第1に癌遺伝子c−Myc転写因子のウィルス組み込みを有さないiPS細胞を形成することには多大な利益が存在する。Mycを用いて作成したiPS細胞を有するキメラマウスはc−Mycウィルスの体性再活性化に関連する癌を高い比率で示す。インビトロであっても、本発明者らは、c−Mycウィルスで形成したiPS細胞系統は、一部の細胞が形態学的には遥かにES細胞に似た外観を有し、他の細胞は形質転換された癌性の細胞に類似した生育を示す混合型の集団を含有していることを観察している。これまでに得られた本発明者らの結果は、Wnt3a馴化培地中でc−Mycを伴うことなく作成されたiPS系統はそれらの形態においてより均質にES様の外観を呈することを示している。第2に、Wnt3a馴化培地は大型の均質なコロニーの形成に好都合な選択作用を発揮すると考えられる。すなわち、Wnt3a馴化培地またはWnt3a経路活性化物質の使用は、初期の体細胞の遺伝子的組み換えを必要とする選択工程を余儀なくするよりはむしろ代替の選択プロセスとして使用できる。すなわち再プログラミングの間のWnt3a馴化培地またはWnt3a経路活性化物質の使用は現在当該分野で公知である、または将来開発される体細胞を再プログラミングする何れかの方法に価値ある進歩をもたらすと考えられる。
【0171】
実施例2〜8の材料および方法
細胞培養
V6.5(C57BL/6−129)ネズミES細胞およびiPS細胞を照射されたマウス胚性線維芽細胞(MEF)に対する典型的なES条件下に生育させた。DOX誘導レンチウィルスによる感染において使用したトランスジェニックMEF(T.Brambrink,R.Foreman, Cell Stem Cell 2,151−159(2008))を13.5dpcで採取し、そしてOct4−IRES−GFPneo/Oct4誘導ES細胞の胚盤胞注入後の胚から2ug/mlピューロマイシン上で選択(M.Wernig,A.Meissner,Nature448,318−324(2007))するか、または、R26−M2rtTAマウス(C.Beard,K.Hochedlinger,Genesis44,23−28(2006))およびOct4−GFPマウス(A.Meissner,M.Wernig,Nat.Biotechnol25,1177−1181(2007))との間のF1交配動物から採取した。ウインドウ馴化培地および対照の馴化培地を標準的なプロトコル(ATCC)(K.Willert,J.D.Brown,Nature 423,448−452(2003),上記)に従って作成し、そして標準的なES細胞培地と1:1の比で使用した。Wnt阻害剤ICG−001を0.1Mの保存溶液濃度にまでDMSO中に溶解した。Wnt阻害剤の最終ワーキング濃度は4uMとした。
【0172】
ウィルス導入
Oct4、Klf4、Sox2およびc−Mycに関するcDNAを発現するテトラサイクリン誘導レンチウィルス構築物を以前に報告されている通り使用した(Brambrink,上出)。ウィルスはウィルスプラスミドとウィルスパッケージング機能およびVSV−Gタンパク質を発現するパッケージング構築物の混合物(Fugene,Roche)でHEK293T細胞をトランスフェクトすることにより作成した。培地はトランスフェクション後24時間に交換し、そしてウィルス上澄みを48時間および72時間に収集した。濾過後、上澄みを合わせ、そして2.5x10MEFを24時間1:1の比のウィルス上澄みおよび新鮮培地と共にインキュベートした。次に感染細胞をゼラチンコーティング10cm皿上に1:5〜1:12の比で分割した。分割の1日後、ES培地に2ug/mlのDOX、そして該当する皿には馴化培地および/または阻害化学物質を補給した。
【0173】
免疫染色および抗体。細胞は以前に報告されている通り染色した(Wernig、上出)。Nanogに対する抗体(Bethyl)およびSSEA1(R&D Systems,Minneapolis,MN)を供給元が推奨する通り使用した。
【0174】
奇形腫の形成
奇形腫の形成は以前に報告されている通り試験した。慨すれば、細胞をトリプシン処理し、そして5x10個の細胞をSCIDマウスに皮下注射した。14〜21日の後、
奇形腫を切除し、10%リン酸塩緩衝ホルマリン中に一夜固定し、その後Tissue−TekVIP包埋装置(Miles Scientific,Naperville,IL)およびThermo Shandon Histocenter2(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)を用いてパラフィンワックス中に包埋した。切片はLeicaRM2065(Leica,Wetzlar,Germany)を用いて2μmの厚みに切り出し、そしてヘマトキシリン・エオシン染色した(K.Hochedlinger,Y.Yamada,Cell 121,465−477(2005))。
【0175】
胚盤胞注入。Balb/c宿主胚盤胞中へのiPS細胞の注入は以前に報告されている通り実施した(Beard,上出)。
【0176】
実施例2:Wnt3a馴化培地を用いたES様細胞の形成に関わる別の実験
再プログラミングに対するWnt3aの作用をさらに明確化するために、本発明者らはドキソルビシン(DOX)誘導Oct4 cDNA(Hochedlinger,2005)を保有するMEFをSox2、Klf4、およびc−MycをコードするDOX誘導レンチウィルスベクター(Brambrinkら、2008)に感染させた。これらの細胞はiPS細胞の薬剤選択を可能にする内因性Oct4遺伝子座におけるG418耐性カセットも含有していた(Meissnerら、2007)。
【0177】
4因子の発現はWnt3a馴化培地(Wnt3a−CM)の存在下または非存在下に培養した細胞中のDOXの添加により誘導し、G418選択は5日後に開始し、そして薬剤耐性コロニーの数は誘導後24日に測定した(図1a)。図1bは薬剤耐性コロニーの総数は細胞をWnt3a−CM中で培養した場合に7倍超増大したことを示している。本発明者らはまた、薬剤耐性コロニーは、ES細胞培地中よりもWnt3a−CM中で培養した場合により大型となり、そしてよりES細胞様の形態となったことを観察した(図1c)。さらにまた、第5日に開始したG418選択を伴うWnt3a−CM中に生じたコロニーはさらに増殖させることができ、これは標準的なES細胞培地中で誘導した小型のコロニーとは対照的であった。
【0178】
Wnt3a−CMが4種の転写因子と共同して再プログラミングに対して正の作用を有すると仮定し、本発明者らは次にWnt3a−CMが核因子の何れかを代替できるかどうか調べた。平行実験において、線維芽細胞を転写因子のサブセットで形質導入し、そしてWnt3a−CMの存在下および非存在下において観察した(図1dおよび1e)。Oct4またはKlf4感染の非存在下では耐性コロニーは形成されなかった。Sox2レトロウィルスの非存在下において1コロニーが観察されたが、このコロニーはES細胞培養条件ではそれ以上増殖させることはできなかった。これとは対照的に、Wnt3a−CMの存在下において、多数の頑健なG418耐性コロニーがOct4、Sox2およびKlf4を過剰発現する細胞においてc−Mycの非存在下に形成された(図1dおよび1e)。4種全ての因子で形質導入されたMEFに由来するコロニーと同様、これらのiPS系統はさらに選択することなく標準的ES細胞培地中で増殖することができ、そしてES細胞の形態を保持していた。重複実験において、G418耐性コロニーが頻繁にはc−Myc形質導入を伴うことなくWnt3a−CMの非存在下で形成された。しかしながら、発表されている報告(8,9)と合致して、これらのコロニーは希少であった。以下においては、3つのみの因子を用い、そしてc−Mycを使用しないで形成したiPS細胞をMyc[−]iPS細胞と表記する。
【0179】
再プログラミングプロセスに対するWnt3a−CM処理の作用をさらに緊密に調べるために、Oct4/Sox2/Klf4およびOct4/Sox2/Klf4/c−Myc過剰発現MEFをWnt3a−CMの存在下および非存在下に培養し、そしてDOX添加後種々の時間においてG418選択を開始した。図1fによれば、3種の因子を過剰発現する細胞をWnt3a−CM培地中で培養した場合には、ES細胞培地中の培養と比較して、誘導後第5日にG418を添加した場合には約3倍高値のMyc[−]iPSコロニーが、そして第10日にG418を添加した場合には約20倍高値のコロニーが生じた(図1f、左パネル)。Wnt3a−CM培地はまた、3因子誘導細胞の場合よりも倍増度の顕著さは低値であったものの、4因子全てによる誘導後の薬剤耐性コロニーの数も増大させた(図1f、右パネル)。これらの結果によれば、Wnt3a−CMは3因子および4因子誘導細胞の両方で薬剤耐性コロニー数を増大させ、そしてより後の時点で選択を適用した3因子過剰発現細胞に対して最も顕著な作用が観察された。
【0180】
実施例3:遺伝子選択を行わない場合のMyc[−]iPSクローンの形成
近年、iPS細胞はc−Mycレトロウィルスを用いることなく(Myc[−])形成されているが、内因性c−Mycの非存在下においては再プログラミングの効率および動態は顕著に低減する(Nakagawaら、2008;Wernigら、2008)。本発明者らはWnt3a−CMがOct4再活性化に関する選択の非存在下においてiPS細胞の形成にやはり寄与するかどうか試験した。このために、内因性Oct4プロモーターにより駆動されるGFPを有する細胞を利用した(Meissnerら、2008)。Wnt3a−CM処理を伴うおよび伴わないOct4/Sox2/Klf4感染細胞をDOX誘導語第10日、15日および20日にフローサイトメトリーによりGFP発現に関して分析した。GFP陽性細胞は第10日および第15日ともにWnt3a−CM処理の有無に関わらず存在していなかった。第20日までには、GFP発現細胞の小集団がWnt3a−CM中培養の細胞では検出されたが、標準的なES細胞培地では検出されなかった(図1g)。Wnt3a−CM曝露培養物はESまたはiPS細胞に典型的な形態を有するGFP発現コロニーを形成していた(図1h)。しかしながら、選択を行うことなく増殖させた場合に高度に不均質な細胞集団を通常は形成する4因子による形質導入細胞とは異なり、Oct4/Sox2/Klf4/Wnt3a−CMコロニーは以前に報告されたMyc[−]iPSクローン(Nakagawaら、2008)と同様に均質にES様の外観を呈していた。
【0181】
実施例4:Wnt3a−CMを用いて誘導されたMyc[−]iPS細胞の成長潜在能力
Wnt3a−CM処理により誘導されたMyc[−]iPS細胞の成長潜在能力を特性化するために数種の試験を実施した。免疫細胞化学的試験によれば、多能性のマーカー、例えば、核因子Nanog(図2aおよび2b)および表面糖タンパク質SSEA1(図2cおよび2d)の発現が確認された。機能試験によれば、ES細胞と同様にこれらのiPS細胞が多能性であることが確認された。SCIDマウスに皮下注射した場合に、Myc[−]iPS細胞は3つの胚葉全てに分化する細胞の組織学的証拠を有する奇形腫を生じさせた(図2e、2fおよび2g)。より重要な点は、Wnt3a−CM処理で誘導したMyc[−]iPS細胞はキメラマウスにおける分化した組織の形成に寄与していた(図2h)。これらの結果はWnt3a−CM処理Myc[−]クローンがES細胞とは形態学的および機能的に区別不可能な多能性細胞であることを示している。
【0182】
実施例5:Wnt3a−CM存在下におけるiPS Myc[−]およびiPS細胞の形成に対する小分子Wnt経路阻害剤の作用
Wnt3a−CMの作用を定量するために、Oct4/Sox2/Klf4誘導、G418選択のMEFに対して3連の実験を実施した(図3a)。G418は感染後第15日に培養物に添加し、Oct4遺伝子座を再活性化している細胞に関して選択した。感染後第28日において採点した場合、僅かなMyc[−]G418耐性コロニー(各10cmプレート上に0〜3コロニーが形成)のみが標準的なES細胞培養条件では検出された。これとは対照的に、Wnt3a−CM処理細胞に対してG418選択を開始した場合には約20倍高値の薬剤耐性コロニーが形成され、Wnt経路の活性化が再プログラミングを増強するという結論と合致していた。当然ながらWnt3aの過剰発現を欠いている対照線維芽細胞に由来する馴化培地もまた標準的なES培地に対してG418耐性コロニーの数の中等度の増大を誘発しており、正常な線維芽細胞が再プログラミングを誘発するおそらくはWnt3aを包含する因子を分泌する場合があることを示唆している。
【0183】
再プログラミングに対するWnt3aの作用を独立して評価するために、本発明者らはWnt/β−カテニン経路の阻害剤であるICG−001(Teoら、2005;McMillan and Kahn、2005;図5参照)の存在下に細胞を培養した。図3a(右側)はMyc[−]iPS形成に対するWnt3a−CMの作用を4μMのICG−001が強力に阻害したことを示している。Wnt3a−CMおよびICG−001の作用はさらに、c−Mycを包含する4つの再プログラミング因子全てを過剰発現しているMEFにおいても調べた(図3b)。G418耐性コロニーの多数が4因子再プログラミング細胞では標準的なES細胞培地およびWnt3a−CMの両方において観察され、Wnt3a−CMのほうがコロニー数は僅かにのみ高値であった。Myc[−]細胞に対するICG−001の劇的な作用とは対照的に、同じ用量において、化合物はc−Myc形質導入細胞においてはG418コロニーの数に対して僅かな作用しか有しておらず、そして比較的多数の耐性コロニーがこれらの条件下で観察された。ICG−001のより高用量においては、iPSコロニー数はさらに低減したが、25μMにおいてさえも、多数のOct4/Sox2/Klf4/c−Myc iPSコロニーが観察された(データ示さず)。これらの結果はWnt3aが再プログラミングにおけるc−Mycの役割を少なくとも部分的に代替できるという考えと合致している。
【0184】
Wntシグナリング経路はES細胞のコア転写調節回路に直接連結していることがわかっており、この経路がc−Myc伝達の非存在下の多能性の誘導を直接促進する機序を示唆している(図3c)。Wntシグナリング経路はES細胞のコア転写調節回路に直接連結していることがわかっており、この経路がc−Myc伝達の非存在下の多能性の誘導を直接促進する機序を示唆している(図2c)。ES細胞においては、Tcf3はOct4、Sox2およびNanogのプロモーターを占有し、そして調節している(Coleら、2008;Tamら、2008;Yiら、2008)。MEFにおいては、これらの内因性多能性転写因子はサイレントである。再プログラミングの間、外因性のOct4、Sox2、およびKlf4は内因性多能性因子の再活性化に寄与する(Jaenisch and Young,2008)ため、Wntシグナリングは、それがES細胞において行う場合と同様、これらの転写因子の作用を直接強化している場合がある(Coleら、2008)。追加的または代替的に、Wntは内因性のc−Mycを直接活性化する作用を有し、これにより外因性c−Mycを代替する場合がある。実際、c−Mycは結腸直腸癌細胞におけるWnt経路の十分確立された標的である(Heら、1998)。ES細胞においては、Tcf3はc−Mycプロモーターを占有し、そしてWnt3aは遺伝子の発現に正の寄与を行っている(Coleら、2008)。c−Mycの強制的な過剰発現は再プログラミングのプロセスに対するWnt阻害剤ICG−001の負の作用と対抗するという事実は、Wntの刺激が内因性Mycの上流で作用している可能性を示唆している。c−Mycまたは他の内因性増殖因子により媒介される細胞増殖に対するWnt誘導作用は、Myc[−]iPSコロニーの形成をもたらす一連の事象を加速することを支援すると考えられる。
【0185】
現在の研究の主要な目標は体細胞を再プログラミングすることができる一過性のキューを発見することにより、レトロウィルスの必要性を排除することである。本明細書に記載した研究は、核因子Oct4、Sox2およびKlf4と組み合わせて再プログラミングの効率を増強するためにWnt刺激が使用できることを明確化している。c−Mycレトロウィルスの非存在下の再プログラミングの効率を増強することにより、可溶性WntまたはWntシグナリング経路をモジュレートする小分子が、残余のレトロウィルスを置き換えることができる他の一過性のキューと組み合わせた場合に有用であることが明らかになるはずである。
【0186】
実施例6:追加的な再プログラミング剤の同定
再プログラミングを増強または阻害する自身の能力に関して試験すべき候補再プログラミング剤をWnt3a−CMに加えてさらに培地が含有するように実施例3を変更する。一部の実施形態においては、細胞はそれらが以下の3つの再プログラミング因子、Oct4、Klf4、およびSox2のうち2つのみを発現するように感染させる。再プログラミングされた細胞の形成を増強する(例えば再プログラミングの速度または効率を上昇させる)薬剤を同定する。プロセスを反復することにより体細胞の再プログラミングにおいてOct4、Klf4、および/またはSox2の操作された発現を置換できる薬剤を同定する。
【0187】
実施例7:追加的な再プログラミング剤の同定
Wnt3a−CM培地がさらに候補再プログラミング剤を含有するように実施例3を変更する。一部の実施形態においては、細胞はそれらが以下の再プログラミング因子、Oct4、Lin28、Sox2、およびNanogのうち1つまたは2つのみ(例えばOct4のみ、Oct−4とSox2)を発現するように感染させる。再プログラミングされた細胞の形成を増強する薬剤を同定する。プロセスを反復することにより体細胞の再プログラミングにおいてOct4、Lin28、Sox2、および/またはNanogの操作された発現を置換できる薬剤を同定する。
【0188】
実施例8:再プログラミングにおける小分子Wnt経路モジュレーターの使用
Wnt3a−CMを使用する代わりに、小分子Wnt経路活性化物質を含有するES細胞培地を使用する以外は、実施例3を反復する。
【0189】
参考文献
【0190】
【化1】

【0191】
【化2】

【0192】
【化3】

本発明の実施は特段の記載が無い限り当該分野で公知のマウス遺伝子学、発生生物学、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組み換えDNA、および免疫学の従来の手法を使用することになる。そのような手法は文献に記載されている。例えばCurrent Protocols in Cell Biology,Bonifacino, Dasso,Lippincott−Schwartz,Harford, and Yamada編, John Wiley and Sons,Inc.,New York,1999;Manipulating the Mouse Embryos,A Laboratory Manual,第3版、Hoganら編、Cold Spring Contain Laboratory Press,Cold Spring Contain,New York,2003;Gene Targeting:A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press,Oxford,1993;およびGene Targeting Protocols,Human Press,Totowa,New Jersey,2000を参照できる。本明細書において引用した全ての特許、特許出願および参考文献は参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0193】
当業者の知る通り、本発明は目的を実行するため、そして記載した目標および利点、ならびにそれに固有のものを得るために十分適合させてある。方法、システムおよびキットは特定の実施形態の代表例であり、そして例示であり、そして本発明の範囲を限定する意図はない。その変更および他の用途は当業者の知る通りである。そのような変更は本発明の範囲に包含され、そして請求項の範囲により明確化される。当業者の知る通り、種々の置換や変更が本発明の精神から逸脱することなく実施される。
【0194】
明細書および請求項における「a」および「an」の表記は相反する特段の記載が無い限り複数表記を包含する。1つ以上の群間に「または」という記載を含んでいる請求項または説明は、相反する特段の記載が無い限り、あるいは文脈から別様に明示されない限り、群のメンバーの1つ、1つより多く、または全てが所定の産物またはプロセス中に存在するか、それに使用されるか、または別様に関連すれば満足されるものとする。本発明は群の厳密に1つのメンバーが所定の産物またはプロセス中に存在するか、それに使用されるか、または別様に関連する実施形態を包含する。本発明はまた、群のメンバーの1つより多く、または全てが所定の産物またはプロセス中に存在するか、それに使用されるか、または別様に関連する実施形態を包含する。さらにまた、本発明は、特段の記載が無い限り、または矛盾や不一致が生じることが当業者に明らかでない限り、列挙した請求項の1つ以上から生じる1つ以上の限定、要素、節、説明用語等が同じ基礎請求項(または適宜何れかの他の請求項)に依存する別の請求項内に導入される全ての変形、組み合わせ、および順列を包含する。要素が列挙物として、例えばMarkush群または同様のフォーマットにおいて示されている場合、それは要素の各下位群も同様に開示されており、そして何れの要素も群から除去できることと理解しなければならない。一般的に、本発明または本発明の態様が特定の要素、特徴等を含むものとして記載されている場合は、特定の本発明の実施形態または本発明の態様はそのような要素、特徴等よりなるか、または本質的にこれよりなると理解しなければならない。簡素化の目的のために、これらの実施形態は本明細書においては場合毎に特記することはしていない。さらにまた、本発明の何れの実施形態も、特定の除外を明細書中に表記するか否かに関わらず、請求項から明示的に除外できる。例えば、Wntモジュレーター、例えば何れかのWnt経路活性化剤、何れかの体細胞型、何れかの再プログラミング剤等を除外してよい。
【0195】
本明細書において範囲が示されている場合、本発明は終点が包含される実施形態、両方の終点が除外される実施形態、および1つの終点が包含されもう1つの終点が除外される実施形態を包含する。特段の記載が無い限り両方の終点が包含されるものとする。さらにまた、特段の記載が無い限り、または文脈および当業者の理解から別様に明示されない限り、範囲として表示されている値は、文脈により別様に明示されない限り、範囲の加減の単位の小数第1位まで、本発明の異なる実施形態における何れかの特定の値または記載された範囲内の下位の範囲を想定することができるものと理解しなければならない。さらにまた、一連の数値が本明細書に記載されている場合、本発明は何れかの介在している数値またはその一連の数値中の何れか2つにより定義される範囲に類似的に関連する実施形態を包含すること、そして、最低の値は最小値とみなし、そして最大の値は最高値とみなすことと理解しなければならない。本明細書で使用する数値は割合として表示されている値を包含する。数値に「約」または「概ね」の前置きが付いている本発明の何れかの実施形態に関しては、本発明は厳密な値が記載されている実施形態を包含する。数値に「約」または「概ね」の前置きが付いていない本発明の何れかの実施形態に関しては、本発明は数値に「約」または「概ね」の前置きが付いている実施形態を包含する。「概ね」または「約」とは、特段の記載が無い限り、または文脈より別様に明示されない限り、数字の±10%の範囲内、一部の実施形態においては数字の±5%内、一部の実施形態においては数字の±1%内、一部の実施形態においては数字の±0.5%内、一部の実施形態においては数字の±0.1%内に属する数字を包含する(そのような数字が可能な値の100%を容認不可能に超越する場合を除く)ことを意図している。
【0196】
特定の請求項は簡便のために従属型で記載しているが、出願人は何れの従属請求項も、独立請求項およびそのような請求項が依存している何れかの請求項の限定を包含すべく、独立型に書き換える権利を保有しており、そしてそのような書き換えた請求項は、独立フォーマットに書き換えられる前にそれがどのような形態(補正または未補正の何れか)であったかに関わらず従属請求項に全ての点において等価であるとみなさなければならない。さらにまた、相反する特段の記載が無い限り、1つより多い作用を包含する請求項に記載した何れかの方法においては、方法の作用の順序は方法の作用が記載されている順序に必ずしも限定されないが、本発明は順序がそのように限定されている実施形態を包含するものと理解しなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類体細胞を、該細胞が再プログラミングされるように、Wnt経路をモジュレートする薬剤に接触させることを含む、哺乳類体細胞を再プログラミングする方法。
【請求項2】
前記細胞を再プログラミングすることが、該細胞を多能性状態に再プログラミングすることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
接触させることが、前記薬剤を含有する培養培地中で前記細胞を培養することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
接触させることが、少なくとも10日間前記薬剤を含有する培養培地中で前記細胞を培養することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記Wnt経路をモジュレートする薬剤に前記体細胞を接触させることが、少なくとも5倍ES様細胞コロニーの数を増強する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記Wnt経路をモジュレートする薬剤に前記体細胞を接触させることが、少なくとも10倍ES様細胞コロニーの数を増強する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、Wnt馴化培地中で前記細胞を培養することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、Wnt3a馴化培地中で前記細胞を培養することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記細胞がヒト細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記細胞が終末分化した細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が線維芽細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記体細胞が、その型の体細胞において通常存在するよりも高レベルで少なくとも1つの再プログラミング因子を発現するか含有するように改変される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記体細胞が遺伝的に改変されない、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記体細胞が、その細胞型の体細胞において通常存在するよりも高レベルでc−Mycを発現するように遺伝的に改変されない、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記細胞をさらにWnt経路をモジュレートする第2の薬剤と接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項16】
外因性の可溶性で生物学的に活性なWntタンパク質を含有する培地中で前記細胞を培養する、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記Wntタンパク質がWnt3aである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記再プログラミングされた細胞が多能性であることを確認することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記方法が細胞の集団に対して実施され、そして該方法が形態学的基準によりES様細胞を同定することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記方法が細胞の集団に対して実施され、そして該方法が再プログラミングされた細胞を選択するための化学的選択を実施することを含まない、請求項1記載の方法。
【請求項21】
前記方法が細胞の集団に対して実施され、そして該方法が多能性状態に再プログラミングされる細胞を多能性状態に再プログラミングされない細胞から分離することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項22】
前記再プログラミングされた細胞を対象に投与することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項23】
前記細胞を再プログラミングした後に該細胞を所望の細胞型にインビトロで分化させることをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項24】
前記分化した細胞を対象に投与することをさらに含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
下記工程:
(a)個体から体細胞を得ること;
(b)請求項1記載の方法に従って該体細胞の少なくとも一部分を再プログラミングすること;および、
(c)場合により該細胞を1つ以上の所望の細胞型に分化させた後に、該個体に該再プログラミングされた細胞の少なくとも一部分を投与すること;
を含む、治療を要する個体を治療する方法。
【請求項26】
前記個体がヒトである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記方法が細胞の集団に対して実施され、そして該方法が多能性状態に再プログラミングされる細胞を多能性状態に再プログラミングされない細胞から分離することをさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項28】
前記細胞をインビトロで分化させること、および、場合により、細胞療法が有用である状態に対する治療を要する個体に該分化した細胞を投与することをさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項29】
(i)改変または処理を行わない場合よりも高いレベルで少なくとも1つの再プログラミング因子を発現または含有するように改変または処理を受けている哺乳類体細胞;および、(ii)Wnt経路の活性を増大させ、そして該体細胞を多能性細胞に再プログラミングすることに寄与する薬剤を含む、組成物。
【請求項30】
前記体細胞が、その型の体細胞に通常存在するよりも高レベルで少なくとも1つの再プログラミング因子を発現または含有するように改変される、請求項29記載の組成物。
【請求項31】
前記薬剤がWnt3aタンパク質である、請求項29記載の組成物。
【請求項32】
前記体細胞が遺伝的に改変されない、請求項29記載の組成物。
【請求項33】
前記体細胞が、その型の体細胞において通常存在するよりも高レベルでc−Mycを発現するように遺伝的に改変されない、請求項29記載の組成物。
【請求項34】
前記体細胞が、その型の体細胞において通常存在するよりも高レベルで少なくとも1つの再プログラミング因子を発現するか含有するように改変される、請求項29記載の組成物。
【請求項35】
下記工程:
(a)Wnt経路の活性をモジュレートする薬剤および候補薬剤を含有する培地中で哺乳類体細胞の集団を培養すること;
(b)適当な時間の後、適当な時間に亘って培養物中に該細胞およびその子孫を維持した後にES細胞の1つ以上の特徴を有する細胞が存在するかどうかを決定すること;
を含む、哺乳類体細胞の再プログラミングをモジュレートするために有用である薬剤を同定する方法であって、該培地が該候補薬剤を含有していない場合に予測されるものとは異なるレベルでES細胞の1つ以上の特徴を有する細胞が存在するとき、ES様状態への哺乳類体細胞の再プログラミングをモジュレートするために有用であるものとして該候補薬剤を同定する、方法。
【請求項36】
前記特徴がコロニー形態、ES細胞により選択的に発現される内在性遺伝子の発現、ES細胞により選択的に発現される遺伝子の発現制御配列に作動可能に連結した検出可能なマーカーの発現、免疫無防備状態のマウスに注射した場合に内胚葉、中胚葉および外胚葉の特徴を有する細胞に分化する能力、および分娩まで生存するキメラの形成に関与する能力から選択される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記細胞が少なくとも1つの再プログラミング因子を発現するように改変されている、請求項35記載の方法。
【請求項38】
前記培地がWnt馴化培地である、請求項35記載の方法。
【請求項39】
前記培地がWnt3a馴化培地である、請求項35記載の方法。
【請求項40】
前記Wnt経路の活性をモジュレートする薬剤がWnt3aタンパク質である、請求項35記載の方法。
【請求項41】
前記候補薬剤が小分子である、請求項35記載の方法。
【請求項42】
前記方法が、哺乳類体細胞の再プログラミングを増強するために有用である薬剤を同定することを含み、前記培地が前記候補薬剤を含有していない場合に予測されるものより高値のレベルでES細胞の1つ以上の特徴を有する細胞が存在するとき、ES様状態への哺乳類体細胞の再プログラミングを増強するために有用であるものとして該候補薬剤を同定する、請求項35記載の方法。
【請求項43】
工程(b)が適当な時間に亘って培養物中に前記細胞およびその子孫を維持した後にES細胞コロニーの1つ以上の特徴を有する細胞コロニーが存在するかどうかを決定することを含み、前記培地が前記候補薬剤を含有していない場合に予測されるものとは異なるレベルでES細胞コロニーの1つ以上の特徴を有する細胞コロニーが存在するとき、ES様状態への哺乳類体細胞の再プログラミングをモジュレートするために有用であるものとして該候補薬剤を同定する、請求項35記載の方法。
【請求項44】
前記細胞が少なくとも1つの再プログラミング因子を発現する、請求項35記載の方法。
【請求項45】
下記工程:
(a)Wnt経路の活性を増大させる薬剤および候補薬剤に哺乳類体細胞の集団を接触させること;
(b)適当な時間に亘り細胞培養系中に該細胞を維持すること;および、
(c)ES細胞の1つ以上の特徴を有する細胞が該培養系中に存在するかどうかを決定することを含む、ES様状態に哺乳類体細胞を再プログラミングするために有用な薬剤を同定する方法であって、該細胞を該候補薬剤に接触させていなかった場合に予測されるものよりも高値のレベルでES細胞の1つ以上の特徴を有する細胞が存在するとき、ES様状態に哺乳類体細胞を再プログラミングするために有用であるものとして該薬剤を同定する、方法。
【請求項46】
前記特徴が、コロニー形態、ES細胞により選択的に発現される内在性遺伝子の発現、ES細胞により選択的に発現される遺伝子の発現制御配列に作動可能に連結した検出可能なマーカーの発現、免疫無防備状態のマウスに注射した場合に内胚葉、中胚葉および外胚葉の特徴を有する細胞に分化する能力、および分娩まで生存するキメラの形成に関与する能力から選択される、請求項45記載の方法。
【請求項47】
前記Wnt経路の活性を増大させる薬剤がWnt3aタンパク質である、請求項45記載の方法。
【請求項48】
前記候補薬剤が小分子である、請求項45記載の方法。
【請求項49】
前記細胞が少なくとも1つの再プログラミング因子を発現する、請求項45記載の方法。
【請求項50】
工程(b)が適当な時間に亘って培養物中に前記細胞およびその子孫を維持した後にES細胞コロニーの1つ以上の特徴を有する細胞コロニーが存在することを決定することを含み、前記培地が前記候補薬剤を含有していない場合に予測されるものとは異なるレベルでES細胞コロニーの1つ以上の特徴を有する細胞コロニーが存在するとき、ES様状態への哺乳類体細胞の再プログラミングをモジュレートするために有用であるものとして該候補薬剤を同定する、請求項45記載の方法。
【請求項51】
細胞が再プログラミングされるように細胞外シグナリング分子の存在下に該細胞を培養することを含む、哺乳類体細胞の再プログラミング方法。
【請求項52】
前記細胞外シグナリング分子が、細胞受容体の細胞外ドメインへのその分子の結合が細胞内のシグナル伝達経路を開始または改変する分子である、請求項51記載の方法。
【請求項53】
前記シグナル伝達経路がWnt経路である、請求項52記載の方法。
【請求項54】
下記工程:
(a)Wnt経路モジュレーターを含有する培地中で哺乳類体細胞の集団を培養すること;
(b)適当な時間の後、適当な時間に亘って培養物中に該細胞およびその子孫を維持した後にES細胞の1つ以上の特徴を有する細胞が存在するかどうかを決定すること;
を含む、多能性状態への哺乳類体細胞の再プログラミングをモジュレートするために有用なWnt経路モジュレーターを同定するための方法であって、該培地が該Wnt経路モジュレーターを含有していない場合に予測されるものとは異なるレベルでES細胞の1つ以上の特徴を有する細胞が存在するとき、ES様状態への哺乳類体細胞の再プログラミングをモジュレートするために有用であるものとして該Wnt経路モジュレーターを同定する、方法。
【請求項55】
前記方法が、(i)少なくとも10のWnt経路モジュレーターを試験すること;および(ii)該Wnt経路モジュレーターのうちの1つ以上を、他の試験したWnt経路モジュレーターの少なくとも50%よりも再プログラミングの速度または効率に対して有意に高い作用を有するものとして同定することを含む、請求項54記載の方法。
【請求項56】
前記方法が、少なくとも20のWnt経路モジュレーターを試験することを含む、請求項54記載の方法。
【請求項57】
前記方法が、前記Wnt経路モジュレーターのうちの1つ以上を、他の試験したWnt経路モジュレーターの少なくとも75%よりも再プログラミングの速度または効率に対して有意に高い作用を有するものとして同定することを含む、請求項54記載の方法。
【請求項58】
前記Wnt経路モジュレーターが小分子である、請求項54記載の方法。
【請求項59】
適当な時間の後、前記培地が前記Wnt経路モジュレーターを含有していない場合に予測されるものよりも多い数でES細胞の1つ以上の特徴を有する細胞が存在するとき、ES様状態へ細胞を再プログラミングする速度または効率を上昇させるために有用であるものとして該Wnt経路モジュレーターを同定する、請求項54記載の方法。
【請求項60】
下記成分:
(a)Wnt経路モジュレーターを含有する細胞培養培地;および、
(b)複数の哺乳類体細胞であって、ここで(i)該細胞が1つ以上の再プログラミング因子を発現するように遺伝的に改変されているか、もしくは一過性にトランスフェクトされているか;(ii)該細胞が、内因性の多能性遺伝子のためのプロモーターに作動可能に連結した選択マーカーをコードする核酸配列を含有するように遺伝的に改変されているか;または(iii)該細胞培養培地が、c−Myc以外の再プログラミング因子を代替する1つ以上の小分子、核酸、またはポリペプチドを含有する、哺乳類体細胞;
を含有する、組成物。
【請求項61】
前記細胞培養培地がWnt−3aCMを含む、請求項60記載の組成物。
【請求項62】
前記1つ以上の再プログラミング因子がOct4、Nanog、Sox2、Lin28、およびKlf4から選択される、請求項60記載の組成物。
【請求項63】
iPS細胞およびWnt経路を活性化する薬剤を含む、組成物。
【請求項64】
前記Wnt経路を活性化する薬剤がWnt3aタンパク質である、請求項63記載の組成物。
【請求項65】
哺乳類体細胞を再プログラミングするための医薬の製造におけるWnt経路をモジュレートする薬剤の使用。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−537634(P2010−537634A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522965(P2010−522965)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/010249
【国際公開番号】WO2009/032194
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(506189009)ホワイトヘッド インスティテュート フォー バイオメディカル リサーチ (2)
【氏名又は名称原語表記】Whitehead Institute for Biomedical Research
【住所又は居所原語表記】Five Cambridge Center,Cambridge,MA 02142,United States of America
【Fターム(参考)】