説明

作業用走行車

【課題】 旋回内側の走行装置を減速させつつ、旋回外側の走行装置を増速させるにあたり、オペレータに作用する遠心力を抑制して、操縦安定性を高める。
【解決手段】 ステアリングハンドル9の操作に応じて左右の走行部1を増減速させるリンク機構Lが設けられたトラクタTにおいて、リンク機構Lは、ステアリングハンドル9の旋回操作に応じて、旋回内側の走行部1を比例減速させる減速リンク系L1と、旋回外側の走行部1を増速させる増速リンク系L2とを備えて構成され、更に、リンク機構Lは、走行変速レバー8に連繋されると共に、該走行変速レバー8が高速域のとき、旋回外側走行部1の増速量を制限する増速制限機構43を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローラトラクタなどの作業用走行車に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングハンドルの操作に応じて、左右の走行装置を増減速させるリンク機構が知られている。例えば、特許文献1に示されるリンク機構は、左右の走行装置を独立的に駆動させる左右のHST(油圧式無段変速装置)に連繋され、ステアリングハンドルの旋回操作に応じて、旋回内側の走行装置を減速させることにより、機体の旋回を行うが、片側減速による機体旋回は、機体動作が極端に遅くなり、旋回フィーリングを損なう惧れがある。
【0003】
そこで、特許文献2に示されるように、旋回内側の走行装置を減速させつつ、旋回外側の走行装置を増速させることが提案される。このような構成によれば、走行機体が機敏に旋回し、良好な旋回フィーリングが得られる。
【特許文献1】特開2000−128013号公報
【特許文献2】特公昭49−24616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に記載のものでは、旋回外側走行装置の増速量を、ステアリングハンドルの旋回操作量に比例させているため、ステアリングハンドルを大きく切ると、オペレータに作用する遠心力が増大し、操縦安定性が低下するという問題があり、これは走行速度が高速であるほど顕著になる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、ステアリングハンドルの操作に応じて左右の走行装置を増減速させるリンク機構が設けられた作業用走行車において、前記リンク機構は、ステアリングハンドルの旋回操作に応じて、旋回内側の走行装置を比例減速させる減速リンク系と、旋回外側の走行装置を増速させる増速リンク系とを備えて構成され、更に、前記リンク機構は、走行変速レバーに連繋されると共に、該走行変速レバーが高速域のとき、旋回外側走行装置の増速量を制限することを特徴とする。このように構成すれば、旋回内側の走行装置を減速させつつ、旋回外側の走行装置を増速させることができるので、走行機体を機敏に旋回させて、旋回フィーリングを向上させることができる。しかも、旋回外側の走行装置は、走行変速レバーの高速域において増速量が制限されるので、オペレータに作用する遠心力を確実に抑制し、操縦安定性を高めることができる。
また、前記リンク機構は、走行変速レバーの変速域に応じて、旋回外側走行装置の増速制限割合を変化させることを特徴とする。このように構成すれば、旋回外側走行装置の増速量を、走行速度に対して最適化することができる。例えば、低速走行時には、旋回外側走行装置の増速量を大きくして、機体を機敏に旋回させ、また、高速走行時には、旋回外側走行装置の増速量を小さくして、急激な旋回を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1及び図2において、1はトラクタTに装備された左右一対のクローラ式走行部であって、これらの走行部1は、それぞれHST(油圧無段変速装置)で独立的に走行動作される。各HSTは、可変容量油圧ポンプからなるHSTポンプ2と、固定容量油圧ポンプからなる走行モータ3との間に、油圧ホース4を介して閉回路を構成し、HSTポンプ2におけるトラニオンレバー5の回動操作に応じて、走行モータ3の出力回転を変速させる。各トラニオンレバー5には、それぞれ操作ワイヤ6の基端側が接続されており、更に、操作ワイヤ6の先端側は、基板7に配設したリンク機構Lを介して走行変速レバー8及び丸形のステアリングハンドル9に連動連結されている。
【0007】
図3〜図6に示すように、リンク機構Lは、走行変速レバー8の操作に連動して上下動する連動杆10と、連動杆10の上端に連結される上下回動自在な作動アーム11とを備えている。作動アーム11は、前端側が基板7を前後から挟むように二叉状になっており、その先端部で支持した作動軸12が、基板7に形成した上下方向のガイド溝13にスライドローラ14を介して上下動自在に支持されている。尚、15は作動アーム11の回動軸である。
【0008】
作動軸12の前後両端には、表裏一対の連動アーム16が連結されている。各連動アーム16は、作動軸12から側方上方に向けて傾斜状に延出すると共に、揺動体17の基端部に支点軸18を介して回動自在に連結されており、作動軸12の上下動に応じて揺動体17を揺動させるようになっている。尚、19は揺動体17の回動軸である。
【0009】
揺動体17には、その長手方向に円弧状のガイド溝20が形成されており、該ガイド溝20に操作ロッド21の基端部がローラ22を介して係合されている。操作ロッド21の先端には、ベルクランク23の一端が回動軸24を介して連結され、ベルクランク23の他端には、前記HSTの操作ワイヤ6が連結されている。すなわち、走行変速レバー8を操作すると、連動杆10、作動アーム11、作動軸12、連動アーム16、揺動体17、操作ロッド21及びベルクランク23を介して、左右の操作ワイヤ6を同方向に押し引きし、左右の走行部1を同時に変速する走行変速リンク系25が構成されている。尚、26はベルクランク23の回転軸である。
【0010】
次に、ステアリングハンドル9の旋回操作に応じて、旋回内側の走行モータ3を比例減速させる減速リンク系L1について説明する。前記ステアリングハンドル9は、ユニバーサルジョイント(図示せず)やベベルギヤ29を介して小ギヤ30に連結されている。基板7には、小ギヤ30に噛合して左右に揺動するセクタギヤ31が枢支されており、その後方はホルダ32で覆われている。基板7の表裏面には、上下回動自在な旋回リンク33が設けられており、その中途部に設けたローラ軸34がそれぞれセクタギヤ31の右上縁と左上縁に支承されている。尚、35はローラ軸34を基板7の表裏に貫通させる円弧状の挿通孔、36は旋回リンク33の回動支点である。
【0011】
旋回リンク33の先端部と、操作ロッド21の基端部、すなわち揺動体17に係合するローラ22の位置とが、連結プレート37を介して連動連結されており、ステアリングハンドル9が中立位置のときは、旋回リンク33の先端部が、揺動体17の回動軸19の軸心と合致するようになっている。そして、ステアリングハンドル9を操舵すると、これに連動して揺動するセクタギヤ31が一方のローラ軸34を押上げ、上動する旋回リンク33が操作ロッド21を引上げて回動させ、揺動体17のガイド溝20に係合した操作ロッド21の係合位置をガイド溝20に沿って変更するようになっている。
【0012】
走行変速レバー8を中立位置として、作動軸12をガイド溝13の中央に位置させたときは、揺動体17のガイド溝20が操作ロッド21の回動軸24を中心とする曲率半径Rの円弧状となっており、この曲率半径Rが操作ロッド21の回動軸24からローラ22までの長さと等しくなっている。このため走行変速レバー8が中立位置のときは、ステアリングハンドル9の操作により、一方の操作ロッド21の係合位置をガイド溝20に沿って変更させても、操作ロッド21は回動軸24を中心として回動するのみである。一方、走行変速レバー8の変速操作により揺動体17が回動しているときには、ガイド溝20の曲率中心位置が変わるので、ステアリングハンドル9の操作によって係合位置を変更した操作ロッド21は、回動軸24を中心として回動することなく、長手方向に移動してベルクランク23を回動させる。これにより、操作ワイヤ6を介して旋回内側の走行モータ3(トラニオンレバー5)が減速操作され、減速ターンが行われる。また、ステアリングハンドル9の操舵量が所定量を超えると、旋回内側の走行モータ3が中立位置を経て逆転し、スピンターンが行われる。尚、38は旋回リンク33を付勢するスプリング機構、39はセクタギヤ31の揺動範囲を規制するストッパーである。
【0013】
次に、ステアリングハンドル9の旋回操作に応じて、旋回外側の走行モータ3を所定の増速量を限度として増速させる増速リンク系L2について説明する。図7及び図8に示すように、増速リンク系L2は、基板7の前面側に構成されており、駆動ギヤ40、従動ギヤ41及び増速カム42を備えている。駆動ギヤ40は、セクタギヤ31の支軸31aに設けられ、セクタギヤ31と一体に回動される。従動ギヤ41は、駆動ギヤ40の下側に設けられ、駆動ギヤ40に噛み合わされている。増速カム42は、従動ギヤ41の内側に一体的に設けられ、従動ギヤ41と共に回動される。つまり、ステアリングハンドル9の旋回操作に応じて、セクタギヤ31が回動すると、その背反方向に増速カム42が回動する構成となっている。
【0014】
ステアリングハンドル9を操舵すると、これに連動して揺動するセクタギヤ31が、一方のローラ軸34を上昇させ、他方のローラ軸34を下降させる。ローラ軸34が下降すると、前述した減速リンク系L1と反対の作用に基づき、操作ワイヤ6を介して旋回外側の走行モータ3(トラニオンレバー5)が増速操作される。このとき、増速カム42は、他方のローラ軸34に下方から接当して、当該ローラ軸34の下降量(旋回外側の増速量)を制限すると共に、ステアリングハンドル9の操作量(旋回内側の減速量)に応じて、ローラ軸34の下降量を変化させる。これにより、旋回内側の走行部1を比例減速させつつ、旋回外側の走行部1を所定の増速量を限度として増速させることができると共に、旋回外側の増速量を旋回内側の減速量に応じて変化させることが可能になる。
【0015】
図9は、走行変速レバー8が中立位置の場合における増速リンク系L2の作用説明図、図10は、走行変速レバー8が前進位置の場合における増速リンク系L2の作用説明図である。これらの図に示すように、走行変速レバー8が前進位置で、かつ、ステアリングハンドル9が中立位置のときは、ベルクランク23が増速側に所定角度αだけ回動しており、この状態でステアリングハンドル9を旋回操作すると、旋回外側のベルクランク23が増速側に回動される。旋回操作に伴うベルクランク23の回動量(β−α)は、増速カム42のカム形状に基づいて任意に設定することができ、これにより、所望の増速パターンを現出させることが可能になる。例えば、図11に示すように、減速旋回領域(旋回内側減速領域)では、旋回外側の走行部1を増速させて旋回性を高めつつ、ピボット旋回領域(旋回内側停止領域)では、旋回外側の増速を止めてピボット旋回のフィーリングを損なわないようにすることができる。また、図12に示すように、スピン旋回領域(旋回内側逆転領域)において、旋回外側の走行部1を減速させるようにすれば、急激なスピン旋回を防止できるという利点がある。
【0016】
次に、走行変速レバー8が高速域のとき、旋回外側走行部1の増速量を制限する増速制限機構43について説明する。増速制限機構43は、増速カム42の内側に回動自在に設けられる規制カム44と、該規制カム44と作動アーム11との間に介設される連結リンク45とを備えて構成されており、走行変速レバー8の変速操作に伴う作動アーム11の回動に応じて、規制カム44を回動させる。図13に示す規制カム44は、走行変速レバー8が低速域のとき、ステアリングハンドル9を旋回操作してもローラ軸34に干渉しないが、走行変速レバー8が高速域のときは、下降するローラ軸34に干渉し、旋回外側走行部1の増速量を制限するようにカム形状が設定されている。ちなみに、図13に示す規制カム44は、二等辺三角形状に形成され、走行変速レバー8が高速域のとき、二つの頂部でローラ軸34の下降規制を行うようになっている。
【0017】
規制カム44の形状に特に制限はなく、任意に旋回外側走行部1の増速量を制限することができる。例えば、図14に示すように、走行変速レバー8の変速域に応じて、旋回外側走行部1の増速制限割合が変化するように規制カム44の形状を設定してもよい。このようにすると、走行速度が増えるほど、旋回外側走行部1の増速量が減るため、変速域に応じた最適な増速量を実現することが可能になる。
【0018】
叙述の如く構成された本実施形態のトラクタTには、ステアリングハンドル9の操作に応じて左右の走行部1を増減速させるリンク機構Lが設けられるが、リンク機構Lは、ステアリングハンドル9の旋回操作に応じて、旋回内側の走行部1を比例減速させる減速リンク系L1と、旋回外側の走行部1を所定の増速量を限度として増速させる増速リンク系L2とを備えるため、旋回内側の走行部1を減速させつつ、旋回外側の走行部1を増速させることができる。しかも、旋回外側の走行部1は、所定の増速量を限度として増速されるため、オペレータに作用する遠心力を抑制し、操縦安定性を高めることができる。
【0019】
また、リンク機構Lは、旋回外側走行部1の増速量を、旋回内側走行部1の減速量に応じて変化させるため、旋回外側走行部1の増速量を、旋回内側走行部1の減速量に対して最適化することができる。例えば、旋回内側走行部1の減速量が小さいときは、旋回外側走行部1の増速量を比例させることにより、機体を機敏に旋回させ、また、旋回内側走行部1の減速量が大きいときは、旋回外側走行部1の増速量を抑え、或いは、旋回外側走行部を減速させることにより、急激な旋回を防止することができる。
【0020】
また、リンク機構Lは、走行変速レバー8に連繋されると共に、該走行変速レバー8が高速域のとき、旋回外側走行部1の増速量を制限するため、オペレータに作用する遠心力を確実に抑制し、操縦安定性を一層高めることができる。
【0021】
また、リンク機構Lは、走行変速レバー8の変速域に応じて、旋回外側走行部1の増速制限割合を変化させるため、旋回外側走行部1の増速量を、走行速度に対して最適化することができる。例えば、低速走行時には、旋回外側走行部1の増速量を大きくして、機体を機敏に旋回させ、また、高速走行時には、旋回外側走行部1の増速量を小さくして、急激な旋回を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】トラクタの側面図である。
【図2】トラクタの走行操作系を示す概略斜視図である。
【図3】リンク機構の正面図(後面図)である。
【図4】リンク機構の背面図(前面図)である。
【図5】リンク機構の側面図である。
【図6】リンク機構の要部側面図である。
【図7】増速リンク系を示す要部正面図である。
【図8】増速リンク系を示す要部展開断面図である。
【図9】走行変速レバー中立時における増速リンク系の作用説明図である。
【図10】走行変速レバー前進時における増速リンク系の作用説明図である。
【図11】増速リンク系による増速パターンの例を示すグラフ図である。
【図12】増速リンク系による増速パターンの他例を示すグラフ図である。
【図13】増速制限機構の作用説明図である。
【図14】増速制限機構による増速制限パターンの例を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0023】
1 走行部
2 HSTポンプ
3 走行モータ
6 操作ワイヤ
7 基板
8 走行変速レバー
9 ステアリングハンドル
11 作動アーム
16 連動アーム
17 揺動体
21 操作ロッド
23 ベルクランク
25 走行変速リンク系
31 セクタギヤ
33 旋回リンク
34 ローラ軸
40 駆動ギヤ
41 従動ギヤ
42 増速カム
43 増速制限機構
44 規制カム
45 連結リンク
L リンク機構
L1 減速リンク系
L2 増速リンク系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングハンドルの操作に応じて左右の走行装置を増減速させるリンク機構が設けられた作業用走行車において、
前記リンク機構は、ステアリングハンドルの旋回操作に応じて、旋回内側の走行装置を比例減速させる減速リンク系と、旋回外側の走行装置を増速させる増速リンク系とを備えて構成され、更に、前記リンク機構は、走行変速レバーに連繋されると共に、該走行変速レバーが高速域のとき、旋回外側走行装置の増速量を制限することを特徴とする作業用走行車。
【請求項2】
前記リンク機構は、走行変速レバーの変速域に応じて、旋回外側走行装置の増速制限割合を変化させることを特徴とする請求項1記載の作業用走行車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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