作業車両の原動機制御装置
【課題】逆走状態におけるエンストを防止する。
【解決手段】車両の前後進を指令する前後進指令手段9と、原動機1の回転をトルコン2を介して車輪6に伝達し、アクセルペダル7aの操作量に応じて、前後進指令手段9により指令された方向の走行駆動力を発生する走行駆動手段1〜8と、前後進指令手段9により指令された方向とは逆方向の車両の走行である逆走状態か否かを判定する判定手段8,9,10cと、アクセルペダル7aの操作量に応じて原動機1の目標回転速度Naを設定するとともに、判定手段8により逆走状態と判定されると、非逆走状態と判定されたときよりも目標回転速度Naを高く設定する設定手段8と、設定手段8により設定された目標回転速度Naに原動機1の回転速度を制御する回転速度制御手段1a,8とを備える。
【解決手段】車両の前後進を指令する前後進指令手段9と、原動機1の回転をトルコン2を介して車輪6に伝達し、アクセルペダル7aの操作量に応じて、前後進指令手段9により指令された方向の走行駆動力を発生する走行駆動手段1〜8と、前後進指令手段9により指令された方向とは逆方向の車両の走行である逆走状態か否かを判定する判定手段8,9,10cと、アクセルペダル7aの操作量に応じて原動機1の目標回転速度Naを設定するとともに、判定手段8により逆走状態と判定されると、非逆走状態と判定されたときよりも目標回転速度Naを高く設定する設定手段8と、設定手段8により設定された目標回転速度Naに原動機1の回転速度を制御する回転速度制御手段1a,8とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルコン駆動のホイールローダ等の作業車両の原動機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの出力トルクをトルクコンバータ(以下、トルコン)を介してトランスミッションに伝達し、走行駆動力を発生するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の装置では、前後進切換スイッチにより車両の前後進を選択し、この選択に応じてトランスミッションを切り換えて、車両を前進走行または後進走行させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−138700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような作業車両では、前後進切換スイッチにより前進走行を選択して登坂走行している際に、アクセルペダルを戻し操作すると、走行駆動力が減少して車両が自重により逆走することがある。逆走時においては、前進方向の駆動力がブレーキ力として作用するため、アクセルペダルの踏み込み量を調整することで、ブレーキペダルを操作しなくてもブレーキ力を調整できる。このとき、自重による負荷がタイヤ、トランスミッションおよびトルコンを介してエンジンに作用する。
【0005】
このような逆走時において、アクセルペダルを戻し操作するとエンジンの出力トルクが低下し、逆走時にエンジンに作用する負荷がエンジン出力トルクを上回ると、エンストするおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による作業車両の原動機制御装置は、車両の前後進を指令する前後進指令手段と、原動機の回転をトルクコンバータ(トルコン)を介して車輪に伝達し、アクセルペダルの操作量に応じて前後進指令手段により指令された方向の走行駆動力を発生する走行駆動手段と、前後進指令手段により指令された方向とは逆方向の車両の走行である逆走状態か否かを判定する判定手段と、アクセルペダルの操作量に応じて原動機の目標回転速度を設定するとともに、判定手段により逆走状態と判定されると、非逆走状態と判定されたときよりも目標回転速度を高く設定する設定手段と、設定手段により設定された目標回転速度に原動機の回転速度を制御する回転速度制御手段とを備えることを特徴とする。
また、本発明による作業車両の原動機制御装置は、車両の前後進を指令する前後進指令手段と、原動機の回転をトルクコンバータ(トルコン)を介して車輪に伝達し、アクセルペダルの操作量に応じて前後進指令手段により指令された方向の走行駆動力を発生する走行駆動手段と、前後進指令手段により指令された方向とは逆方向の車両の走行である逆走状態にあり、かつ、エンストしやすい状況にあるか否かを判定する判定手段と、判定手段により逆走状態でかつエンストしやすい状況にあると判定されると、警報を発生する警報手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、逆走状態のときは非逆走状態のときよりも原動機の回転速度を高くするようにしたので、逆走状態におけるエンストを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態に係るホイールローダの側面図。
【図2】本発明の実施の形態に係る原動機制御装置の概略構成を示す図。
【図3】トルコン速度比とトルク比の関係を示す図。
【図4】かき上げ作業を示す図。
【図5】逆走時のエンストを説明するための図。
【図6】非逆走時のペダル操作量と目標エンジン回転速度の関係を示す図。
【図7】逆走時のペダル操作量と目標エンジン回転速度の関係を示す図。
【図8】エンジン出力トルク特性を示す図。
【図9】第1の実施の形態に係るコントローラでの処理の一例を示すフローチャート。
【図10】図7の変形例を示す図。
【図11】トルコン速度比と回転速度増分の関係を示す図。
【図12】第2の実施の形態に係るコントローラでの処理の一例を示すフローチャート。
【図13】車速と回転速度増分の関係を示す図。
【図14】第3の実施の形態に係るコントローラでの処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
−第1の実施の形態−
以下、図1〜図10を参照して本発明の第1の実施の形態について説明する。
図1は、第1の実施の形態に係る原動機制御装置が適用される作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。ホイールローダ100は、アーム111,バケット112,タイヤ113等を有する前部車体110と、運転室121,エンジン室122,タイヤ123等を有する後部車体120とで構成される。アーム111はアームシリンダ114の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット112はバケットシリンダ115の駆動により上下方向に回動(ダンプまたはクラウド)する。前部車体110と後部車体120はセンタピン101により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ(不図示)の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折する。
【0010】
図2は、第1の実施の形態に係る原動機制御装置の概略構成を示す図である。エンジン1の出力軸にはトルクコンバータ2(以下、トルコン)の入力軸が連結され、トルコン2の出力軸は1速〜4速に変速可能なトランスミッション3に連結されている。トルコン2は周知のインペラ,タービン,ステータからなる流体クラッチであり、エンジン1の回転はトルコン2を介してトランスミッション3に伝達される。トランスミッション3は、その速度段を変速する液圧クラッチを有し、トルコン2の出力軸の回転はトランスミッション3で変速される。変速後の回転は、プロペラシャフト4,アクスル5を介してタイヤ6(図1の113,123)に伝達され、車両が走行する。
【0011】
なお、図示は省略するが、ホイールローダにはエンジン1よって駆動される作業用油圧ポンプが設けられ、油圧ポンプからの圧油がアームシリンダ114やバケットシリンダ115等のアクチュエータに供給されて、作業が行われる。
【0012】
コントローラ8は、CPU,ROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。コントローラ8には、アクセルペダル7aの操作量を検出するアクセル操作量検出器7と、車両の前後進を指令する前後進切換スイッチ9と、トルコン2の入力軸の回転速度Niを検出する回転速度検出器10aと、トルコン2の出力軸の回転速度Ntを検出する回転速度検出器10bと、トランスミッション3の出力軸の回転速度、つまり車速vを検出する回転速度検出器10cと、警報装置11とが接続されている。
【0013】
回転速度検出器10cは、回転速度だけでなく回転方向(車両進行方向)も検出可能である。なお、回転速度検出器10bにより回転方向を検出するようにしてもよい。警報装置11は、ランプやブザー、スピーカ等により構成できる。コントローラ8は、アクセルペダル7aの操作量に応じて後述するように目標エンジン回転速度Naを設定し、エンジン制御部1aに制御信号を出力してエンジン1の回転速度を目標エンジン回転速度Naに制御する。
【0014】
トルコン2は入力トルクTinに対し出力トルクToutを増大させる機能、つまりトルク比Tr(=Tout/Tin)を1以上とする機能を有する。トルク比Trは、トルコン2の入力軸と出力軸の回転速度の比であるトルコン速度比e(出力回転速度Nt/入力回転速度Ni)に応じて変化する。トルコン速度比eは、トルコン2の入力軸と出力軸の回転方向が同一の場合には正の値となり、入力軸と出力軸の回転方向が異なる場合、つまり逆走状態では負の値となる。
【0015】
図3は、トルコン速度比eとトルク比Trの関係を示す図である。図中、トルコン速度比eが正の領域では、速度比eの増加に伴いトルク比Trが小さくなり、速度比eが1のとき、トルク比Trは0となる。一方、トルコン速度比eが負の領域では、速度比eが0からeaの範囲で速度比eの減少に伴いトルク比Trが増加し、速度比eがeaより小さい範囲では速度比eの減少に伴いトルク比Trが減少する。
【0016】
トルコン速度比eがe<0の逆走状態は、図4に示すような登板走行時に発生し、逆走状態においてトルク比Trが減少すると、エンストを生じやすい。以下、この点について説明する。図5に示すように車両の重量をW、坂道の勾配をθ、自重により坂道勾配を下り落ちようとする力(タイヤ6を回す力)をFとする。さらに、タイヤ6の転がり半径をR、タイヤ6の転がり抵抗をμ、トランスミッション3〜アクスル5間のトータルギア比をGi、タイヤ6〜トランスミッション3間の機械効率をηとする。
【0017】
このとき、自重による力Fおよびトルコン2の出力トルクToutはそれぞれ次式(I),(II)のようになる。
F=W×(sinθ−μ×cosθ) (I)
Tout=F×R×η/Gi (II)
上式(I),(II)よりトルコン2の入力トルクTinは、次式(III)のようになる。
Tin=Tout/Tr=F×R×η/(Gi×Tr)
=W×(sinθ−μ×cosθ)×R×η/(Gi×Tr) (III)
これより車両の自重Wが重いほど、勾配角度θが大きいほど、トルク比Trが小さいほど、入力トルクTinが増大する。入力トルクTinがエンジン出力Teを上回ると(Te<Tin)、エンストを生じる。
【0018】
本実施の形態では、このような逆走状態におけるエンストを防止するため、以下のようにエンジン回転速度を制御する。図6は、速度比e≧0の通常走行時におけるアクセルペダル7aの操作量と目標エンジン回転速度Naの関係を示す図である。図6に示すように通常走行時においては、ペダル非操作時の目標エンジン回転速度Na(ローアイドル)は最小値N1minに設定され、ペダル操作量の増加に伴い目標エンジン回転速度Naは増加する。ペダル最大踏み込み時の目標エンジン回転速度Naは最大値Nmaxとなる。
【0019】
図7は、速度比e<0の逆走時におけるアクセルペダル7aの操作量と目標エンジン回転速度Naの関係を示す図である。図中、点線は通常走行時における図6の特性である。図7に示すように逆走時における特性は、図6の特性を所定量ΔNだけ全体的に上方にシフトした特性となり、目標エンジン回転速度の最小値はN2min(>N1min)となる。なお、目標回転速度の最大値Nmaxは図6のNmaxに等しい。
【0020】
図8は、エンジン出力トルクの特性を示す図である。通常走行時には、エンジン出力トルクTeの特性は図の実線に示すようになる。一方、逆走時には目標エンジン回転速度Naが所定量ΔNだけ増大するため、エンジン出力トルクTeの特性は図の点線に示すように右側にシフトする。これによりエンジン出力トルクがT1からT2へと増大し、エンストを防止できる。
【0021】
図9は、第1の実施の形態に係るコントローラ8のCPUで実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えばエンジンキースイッチのオンにより開始される。ステップS1では、図2の各種センサ7,10a〜10cおよびスイッチ9からの信号を読み込む。ステップS2では、予め記憶された図6の特性に基づき、アクセル操作量検出器7により検出されたペダル操作量に対する目標エンジン回転速度Naを演算する。
【0022】
ステップS3では、前後進切換スイッチ9と回転速度検出器10cからの信号に基づき逆走状態か否か、つまり前後進切換スイッチ9により指令された車両進行方向と回転速度検出器10cにより検出された車両進行方向が異なっているか否かを判定する。ステップS3が肯定されるとステップS4に進み、否定されるとステップS5に進む。
【0023】
ステップS4では、ステップS2で演算した目標エンジン回転速度Naに予め記憶された回転速度増分ΔNを加算し、これを新たな目標エンジン回転速度Naとして設定する。この場合、目標エンジン回転速度Naの最大値はNmaxに制限する。ステップS5では、エンジン制御部1aに制御信号を出力し、エンジン回転速度を目標エンジン回転速度Naに制御する。
【0024】
第1の実施の形態の動作をまとめると次のようになる。例えば図4に示すようにホイールローダでバケット内の土砂等を山状に積み上げる、いわゆるかき上げ作業を行う場合、オペレータは前後進切換スイッチ9を前進位置に切り換え、アクセルペダル7aをハーフ〜フルに踏み込む。これによりペダル操作量に応じた走行駆動力が発生し、車両が前進走行して急勾配を上る。その後、バケット内の荷を放出すると、オペレータはアクセルペダル7aを戻し操作し、前進の走行駆動力が減少する。このとき、車両には自重Wによる下り方向(後進方向)への力Fが作用しており、この力Fが前進の走行駆動力を上回ると、車両が逆走し、坂道を下る。
【0025】
車両が逆走すると、エンジン回転速度が通常走行時(非逆走時)のペダル操作量に応じた速度よりもΔNだけ増大する(ステップS4→ステップS5)。これにより図8に示すようにエンジン出力トルクTが増大し、ペダル踏み込み量が少ない場合(例えばペダル非操作時)でも、エンジン出力トルクTがトルコン2の入力トルクNinよりも大きくなり、エンストを防止できる。
【0026】
第1の実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)前後進切換スイッチ9と回転速度検出器10cからの信号により車両の逆走状態を判定し、逆走状態と判定されたときは非逆走状態と判定されたときよりも、目標エンジン回転速度NaをΔNだけ増加するようにした。これによりエンジン出力トルクが増大し、エンストを防止できる。
(2)逆走状態においては、最大値Nmaxを上限として目標エンジン回転速度Naをペダル操作量の全域にわたりΔNだけ増加するようにしたので(図7)、エンジン回転速度が上昇しやすく、エンストしにくい。
【0027】
なお、エンストを起こしやすいのはエンジン回転速度が低い領域であるので、ペダル操作量の全域にわたって目標エンジン回転速度Naを増加するのではなく、図10に示すように目標エンジン回転速度Naの最小値Nmin(目標最低回転速度)だけをΔNだけ増大するようにしてもよい。これによりエンストを防止しつつ、エンジン回転速度が必要以上に増大することを抑えることができる。
【0028】
−第2の実施の形態−
図11、12を参照して本発明の第2の実施の形態について説明する。
第1の実施の形態では、逆走状態で目標エンジン回転速度Naを所定量ΔNだけ増大するようにしたが、第2の実施の実施の形態では、トルコン速度比eに応じて回転速度の増分ΔNを変更する。なお、以下では第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0029】
図11は、トルコン速度比eと回転速度増分ΔNとの関係を示す図である。図中のe1,e2は、図3に示すようにトルコン速度比eが負の領域でトルク比Trが減少する範囲に設定された値であり、例えば(e1,e2)=(−0.5,−1.5)に設定される。図11に示すように逆走状態における負のトルコン速度比eがe1より大きいと、ΔNは0である。速度比eがe2以上かつe1以下の範囲では、速度比eの減少に伴いΔNは0から上限値ΔNmaxにかけて徐々に大きくなる。速度比eがe2より小さいと、ΔNは上限値ΔNmaxとなる。
【0030】
図12は、第2の実施の形態に係るコントローラ8のCPUで実行される処理の一例を示すフローチャートである。なお、図9と同一の部分には同一の符号を付し、主に相違点を説明する。図12に示すようにステップS3で逆走状態と判定されるとステップS11に進み、回転速度検出器10a,10bからの信号によりトルコン速度比eを演算する。次いで、ステップS12で、予め定めた図11の特性に基づき、トルコン速度比eに応じた回転速度増分ΔNを演算する。ステップS4では、ステップS2で演算した目標エンジン回転速度NaにステップS12で求めたΔNを加算し、これを新たな目標エンジン回転速度Naとして設定する。
【0031】
このように第2の実施の形態では、逆走時の負のトルコン速度比eが小さいほど回転速度増分ΔNを大きくした。すなわちトルコン速度比eが小さいほどトルク比Trが小さくなり(図3)、入力トルクTinが大きくなってエンストしやすくなるため、ΔNを大きくした。これにより効率的にエンストを防止できる。トルコン速度比eがe1より大きいときは回転速度増分ΔNを0としたので、トルク比Trが大きくエンストが発生しにくい状況で、必要以上にエンジン回転速度を増加させることを防止できる。トルコン速度比eがe2より小さいときは回転速度増分ΔNをΔNmaxとしたので、エンジン回転速度増分ΔNが制限され、逆走終了後にすぐにエンジン回転速度を元の目標エンジン回転速度Naまで下げることができる。
【0032】
−第3の実施の形態−
図13、14を参照して本発明の第3の実施の形態について説明する。
第2の実施の形態では、トルコン速度比eに応じて回転速度増分ΔNを変更するようにしたが、第3の実施の実施の形態では、車速vに応じて回転速度増分ΔNを変更する。なお、以下では第2の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0033】
図13は、車速vと回転速度増分ΔNとの関係を示す図である。図中のv1,v2は、図11のe1,e2に相当する車速であり、例えば(v1,v2)=(−12km/h,−2km/h)に設定される。なお、逆走状態では負の車速となる。図13に示すように逆走状態における負の車速vがv1より大きいと、ΔNは0である。車速vがv2以上かつv1以下の範囲では、車速vの減少に伴いΔNは0から上限値ΔNmaxにかけて徐々に大きくなる。車速vがv2より小さいと、ΔNは上限値ΔNmaxとなる。
【0034】
図14は、第3の実施の形態に係るコントローラ8のCPUで実行される処理の一例を示すフローチャートである。なお、図9と同一の部分には同一の符号を付し、主に相違点を説明する。図14に示すようにステップS3で逆走状態と判定されるとステップS21に進み、予め定めた図13の特性に基づき、車速vに応じた回転速度増分ΔNを演算する。ステップS4では、ステップS2で演算した目標エンジン回転速度NaにステップS21で求めたΔNを加算し、これを新たな目標エンジン回転速度Naとして設定する。
【0035】
このように第3の実施の形態では、逆走時の負の車速vが小さいほど回転速度増分ΔNを大きくしたので、エンストしやすい状況でエンジン回転速度が大きく増大し、エンストを確実に防止できる。車速がv1より大きいときはΔNを0とし、車速がv2より小さいときはΔNをΔNmaxとしたので、エンジン回転速度の増加を必要最小限に抑えることができ、効率的である。
【0036】
なお、上記実施の形態では、逆走状態でエンジン回転速度をΔNだけ増大するようにしたが、これに加えもしくはこれに代えて警報装置11から警報を発生させるようにしてもよい。例えば図11のトルコン速度比がe1以下の範囲、または図13の車速がv1以下の範囲で、警報を発生させるようにしてもよい。すなわち逆走状態で、かつ、エンストが発生しやすい状況にあるときに、警報を発生させるようにしてもよい。これによりオペレータにエンスト発生のおそれがあることを報知して、オペレータにアクセルペダル7aを戻し過ぎないように、または図示しないブレーキ装置を作動するように促すことができ、エンストを未然に防ぐことができる。エンジン回転速度の増加よりも警報発生のタイミングを遅らせるようにしてもよい。逆走状態でかつエンストしやすい状況にあるときに警報を発生するのであれば、警報手段としての警報装置11の構成はいかなるものでもよい。
【0037】
上記実施の形態では、トルコン速度比eが小さいほどあるいは車速vが低いほどΔNを大きくしたが、エンストしやすい他の条件を見てΔNを決定してもよい。例えば自重Wが重いほど、勾配角度θが大きいほど、ΔNを大きくしてもよい。前後進切換スイッチ9により車両の前後進を指令したが、前後進指令手段の構成はこれに限らない。前後進切換スイッチ9により前進が指令された際に、エンジン1の回転をトルコン2を介してタイヤ6に伝達し、アクセルペダル1aの操作量に応じた前進方向の走行駆動力を発生するのであれば、走行駆動手段はいかなるものでもよい。
【0038】
前後進切換スイッチ9と回転速度検出器10cからの信号によりコントローラ8で車両の逆走状態を判定するようにしたが、判定手段はこれに限らない。コントローラ8での処理によりペダル操作量に応じて目標エンジン回転速度Naを設定するとともに、逆走状態のときは非逆走状態のときよりも目標エンジン回転速度Naを高く設定するのであれば、設定手段の構成はいかなるものでもよく、目標エンジン回転速度Naの特性は図7や図10のものに限らない。コントローラ8からエンジン制御部1aに制御信号を出力してエンジン回転速度を目標エンジン回転速度Naに制御するようにしたが、回転速度制御手段はこれに限らない。
【0039】
以上では、本発明をホイールローダに適用する例について説明したが、トルコン駆動の他の作業車両にも本発明は同様に適用可能である。すなわち、本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態の作業車両の原動機制御装置に限定されない。
【符号の説明】
【0040】
1 エンジン
1a エンジン制御部
2 トルクコンバータ
7 アクセル操作量検出器
8 コントローラ
9 前後進切換スイッチ
10a〜10c 回転速度検出器
11 警報装置
Nmax 上限回転速度
Ns 制限回転速度
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルコン駆動のホイールローダ等の作業車両の原動機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの出力トルクをトルクコンバータ(以下、トルコン)を介してトランスミッションに伝達し、走行駆動力を発生するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の装置では、前後進切換スイッチにより車両の前後進を選択し、この選択に応じてトランスミッションを切り換えて、車両を前進走行または後進走行させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−138700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような作業車両では、前後進切換スイッチにより前進走行を選択して登坂走行している際に、アクセルペダルを戻し操作すると、走行駆動力が減少して車両が自重により逆走することがある。逆走時においては、前進方向の駆動力がブレーキ力として作用するため、アクセルペダルの踏み込み量を調整することで、ブレーキペダルを操作しなくてもブレーキ力を調整できる。このとき、自重による負荷がタイヤ、トランスミッションおよびトルコンを介してエンジンに作用する。
【0005】
このような逆走時において、アクセルペダルを戻し操作するとエンジンの出力トルクが低下し、逆走時にエンジンに作用する負荷がエンジン出力トルクを上回ると、エンストするおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による作業車両の原動機制御装置は、車両の前後進を指令する前後進指令手段と、原動機の回転をトルクコンバータ(トルコン)を介して車輪に伝達し、アクセルペダルの操作量に応じて前後進指令手段により指令された方向の走行駆動力を発生する走行駆動手段と、前後進指令手段により指令された方向とは逆方向の車両の走行である逆走状態か否かを判定する判定手段と、アクセルペダルの操作量に応じて原動機の目標回転速度を設定するとともに、判定手段により逆走状態と判定されると、非逆走状態と判定されたときよりも目標回転速度を高く設定する設定手段と、設定手段により設定された目標回転速度に原動機の回転速度を制御する回転速度制御手段とを備えることを特徴とする。
また、本発明による作業車両の原動機制御装置は、車両の前後進を指令する前後進指令手段と、原動機の回転をトルクコンバータ(トルコン)を介して車輪に伝達し、アクセルペダルの操作量に応じて前後進指令手段により指令された方向の走行駆動力を発生する走行駆動手段と、前後進指令手段により指令された方向とは逆方向の車両の走行である逆走状態にあり、かつ、エンストしやすい状況にあるか否かを判定する判定手段と、判定手段により逆走状態でかつエンストしやすい状況にあると判定されると、警報を発生する警報手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、逆走状態のときは非逆走状態のときよりも原動機の回転速度を高くするようにしたので、逆走状態におけるエンストを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態に係るホイールローダの側面図。
【図2】本発明の実施の形態に係る原動機制御装置の概略構成を示す図。
【図3】トルコン速度比とトルク比の関係を示す図。
【図4】かき上げ作業を示す図。
【図5】逆走時のエンストを説明するための図。
【図6】非逆走時のペダル操作量と目標エンジン回転速度の関係を示す図。
【図7】逆走時のペダル操作量と目標エンジン回転速度の関係を示す図。
【図8】エンジン出力トルク特性を示す図。
【図9】第1の実施の形態に係るコントローラでの処理の一例を示すフローチャート。
【図10】図7の変形例を示す図。
【図11】トルコン速度比と回転速度増分の関係を示す図。
【図12】第2の実施の形態に係るコントローラでの処理の一例を示すフローチャート。
【図13】車速と回転速度増分の関係を示す図。
【図14】第3の実施の形態に係るコントローラでの処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
−第1の実施の形態−
以下、図1〜図10を参照して本発明の第1の実施の形態について説明する。
図1は、第1の実施の形態に係る原動機制御装置が適用される作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。ホイールローダ100は、アーム111,バケット112,タイヤ113等を有する前部車体110と、運転室121,エンジン室122,タイヤ123等を有する後部車体120とで構成される。アーム111はアームシリンダ114の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット112はバケットシリンダ115の駆動により上下方向に回動(ダンプまたはクラウド)する。前部車体110と後部車体120はセンタピン101により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ(不図示)の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折する。
【0010】
図2は、第1の実施の形態に係る原動機制御装置の概略構成を示す図である。エンジン1の出力軸にはトルクコンバータ2(以下、トルコン)の入力軸が連結され、トルコン2の出力軸は1速〜4速に変速可能なトランスミッション3に連結されている。トルコン2は周知のインペラ,タービン,ステータからなる流体クラッチであり、エンジン1の回転はトルコン2を介してトランスミッション3に伝達される。トランスミッション3は、その速度段を変速する液圧クラッチを有し、トルコン2の出力軸の回転はトランスミッション3で変速される。変速後の回転は、プロペラシャフト4,アクスル5を介してタイヤ6(図1の113,123)に伝達され、車両が走行する。
【0011】
なお、図示は省略するが、ホイールローダにはエンジン1よって駆動される作業用油圧ポンプが設けられ、油圧ポンプからの圧油がアームシリンダ114やバケットシリンダ115等のアクチュエータに供給されて、作業が行われる。
【0012】
コントローラ8は、CPU,ROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。コントローラ8には、アクセルペダル7aの操作量を検出するアクセル操作量検出器7と、車両の前後進を指令する前後進切換スイッチ9と、トルコン2の入力軸の回転速度Niを検出する回転速度検出器10aと、トルコン2の出力軸の回転速度Ntを検出する回転速度検出器10bと、トランスミッション3の出力軸の回転速度、つまり車速vを検出する回転速度検出器10cと、警報装置11とが接続されている。
【0013】
回転速度検出器10cは、回転速度だけでなく回転方向(車両進行方向)も検出可能である。なお、回転速度検出器10bにより回転方向を検出するようにしてもよい。警報装置11は、ランプやブザー、スピーカ等により構成できる。コントローラ8は、アクセルペダル7aの操作量に応じて後述するように目標エンジン回転速度Naを設定し、エンジン制御部1aに制御信号を出力してエンジン1の回転速度を目標エンジン回転速度Naに制御する。
【0014】
トルコン2は入力トルクTinに対し出力トルクToutを増大させる機能、つまりトルク比Tr(=Tout/Tin)を1以上とする機能を有する。トルク比Trは、トルコン2の入力軸と出力軸の回転速度の比であるトルコン速度比e(出力回転速度Nt/入力回転速度Ni)に応じて変化する。トルコン速度比eは、トルコン2の入力軸と出力軸の回転方向が同一の場合には正の値となり、入力軸と出力軸の回転方向が異なる場合、つまり逆走状態では負の値となる。
【0015】
図3は、トルコン速度比eとトルク比Trの関係を示す図である。図中、トルコン速度比eが正の領域では、速度比eの増加に伴いトルク比Trが小さくなり、速度比eが1のとき、トルク比Trは0となる。一方、トルコン速度比eが負の領域では、速度比eが0からeaの範囲で速度比eの減少に伴いトルク比Trが増加し、速度比eがeaより小さい範囲では速度比eの減少に伴いトルク比Trが減少する。
【0016】
トルコン速度比eがe<0の逆走状態は、図4に示すような登板走行時に発生し、逆走状態においてトルク比Trが減少すると、エンストを生じやすい。以下、この点について説明する。図5に示すように車両の重量をW、坂道の勾配をθ、自重により坂道勾配を下り落ちようとする力(タイヤ6を回す力)をFとする。さらに、タイヤ6の転がり半径をR、タイヤ6の転がり抵抗をμ、トランスミッション3〜アクスル5間のトータルギア比をGi、タイヤ6〜トランスミッション3間の機械効率をηとする。
【0017】
このとき、自重による力Fおよびトルコン2の出力トルクToutはそれぞれ次式(I),(II)のようになる。
F=W×(sinθ−μ×cosθ) (I)
Tout=F×R×η/Gi (II)
上式(I),(II)よりトルコン2の入力トルクTinは、次式(III)のようになる。
Tin=Tout/Tr=F×R×η/(Gi×Tr)
=W×(sinθ−μ×cosθ)×R×η/(Gi×Tr) (III)
これより車両の自重Wが重いほど、勾配角度θが大きいほど、トルク比Trが小さいほど、入力トルクTinが増大する。入力トルクTinがエンジン出力Teを上回ると(Te<Tin)、エンストを生じる。
【0018】
本実施の形態では、このような逆走状態におけるエンストを防止するため、以下のようにエンジン回転速度を制御する。図6は、速度比e≧0の通常走行時におけるアクセルペダル7aの操作量と目標エンジン回転速度Naの関係を示す図である。図6に示すように通常走行時においては、ペダル非操作時の目標エンジン回転速度Na(ローアイドル)は最小値N1minに設定され、ペダル操作量の増加に伴い目標エンジン回転速度Naは増加する。ペダル最大踏み込み時の目標エンジン回転速度Naは最大値Nmaxとなる。
【0019】
図7は、速度比e<0の逆走時におけるアクセルペダル7aの操作量と目標エンジン回転速度Naの関係を示す図である。図中、点線は通常走行時における図6の特性である。図7に示すように逆走時における特性は、図6の特性を所定量ΔNだけ全体的に上方にシフトした特性となり、目標エンジン回転速度の最小値はN2min(>N1min)となる。なお、目標回転速度の最大値Nmaxは図6のNmaxに等しい。
【0020】
図8は、エンジン出力トルクの特性を示す図である。通常走行時には、エンジン出力トルクTeの特性は図の実線に示すようになる。一方、逆走時には目標エンジン回転速度Naが所定量ΔNだけ増大するため、エンジン出力トルクTeの特性は図の点線に示すように右側にシフトする。これによりエンジン出力トルクがT1からT2へと増大し、エンストを防止できる。
【0021】
図9は、第1の実施の形態に係るコントローラ8のCPUで実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えばエンジンキースイッチのオンにより開始される。ステップS1では、図2の各種センサ7,10a〜10cおよびスイッチ9からの信号を読み込む。ステップS2では、予め記憶された図6の特性に基づき、アクセル操作量検出器7により検出されたペダル操作量に対する目標エンジン回転速度Naを演算する。
【0022】
ステップS3では、前後進切換スイッチ9と回転速度検出器10cからの信号に基づき逆走状態か否か、つまり前後進切換スイッチ9により指令された車両進行方向と回転速度検出器10cにより検出された車両進行方向が異なっているか否かを判定する。ステップS3が肯定されるとステップS4に進み、否定されるとステップS5に進む。
【0023】
ステップS4では、ステップS2で演算した目標エンジン回転速度Naに予め記憶された回転速度増分ΔNを加算し、これを新たな目標エンジン回転速度Naとして設定する。この場合、目標エンジン回転速度Naの最大値はNmaxに制限する。ステップS5では、エンジン制御部1aに制御信号を出力し、エンジン回転速度を目標エンジン回転速度Naに制御する。
【0024】
第1の実施の形態の動作をまとめると次のようになる。例えば図4に示すようにホイールローダでバケット内の土砂等を山状に積み上げる、いわゆるかき上げ作業を行う場合、オペレータは前後進切換スイッチ9を前進位置に切り換え、アクセルペダル7aをハーフ〜フルに踏み込む。これによりペダル操作量に応じた走行駆動力が発生し、車両が前進走行して急勾配を上る。その後、バケット内の荷を放出すると、オペレータはアクセルペダル7aを戻し操作し、前進の走行駆動力が減少する。このとき、車両には自重Wによる下り方向(後進方向)への力Fが作用しており、この力Fが前進の走行駆動力を上回ると、車両が逆走し、坂道を下る。
【0025】
車両が逆走すると、エンジン回転速度が通常走行時(非逆走時)のペダル操作量に応じた速度よりもΔNだけ増大する(ステップS4→ステップS5)。これにより図8に示すようにエンジン出力トルクTが増大し、ペダル踏み込み量が少ない場合(例えばペダル非操作時)でも、エンジン出力トルクTがトルコン2の入力トルクNinよりも大きくなり、エンストを防止できる。
【0026】
第1の実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)前後進切換スイッチ9と回転速度検出器10cからの信号により車両の逆走状態を判定し、逆走状態と判定されたときは非逆走状態と判定されたときよりも、目標エンジン回転速度NaをΔNだけ増加するようにした。これによりエンジン出力トルクが増大し、エンストを防止できる。
(2)逆走状態においては、最大値Nmaxを上限として目標エンジン回転速度Naをペダル操作量の全域にわたりΔNだけ増加するようにしたので(図7)、エンジン回転速度が上昇しやすく、エンストしにくい。
【0027】
なお、エンストを起こしやすいのはエンジン回転速度が低い領域であるので、ペダル操作量の全域にわたって目標エンジン回転速度Naを増加するのではなく、図10に示すように目標エンジン回転速度Naの最小値Nmin(目標最低回転速度)だけをΔNだけ増大するようにしてもよい。これによりエンストを防止しつつ、エンジン回転速度が必要以上に増大することを抑えることができる。
【0028】
−第2の実施の形態−
図11、12を参照して本発明の第2の実施の形態について説明する。
第1の実施の形態では、逆走状態で目標エンジン回転速度Naを所定量ΔNだけ増大するようにしたが、第2の実施の実施の形態では、トルコン速度比eに応じて回転速度の増分ΔNを変更する。なお、以下では第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0029】
図11は、トルコン速度比eと回転速度増分ΔNとの関係を示す図である。図中のe1,e2は、図3に示すようにトルコン速度比eが負の領域でトルク比Trが減少する範囲に設定された値であり、例えば(e1,e2)=(−0.5,−1.5)に設定される。図11に示すように逆走状態における負のトルコン速度比eがe1より大きいと、ΔNは0である。速度比eがe2以上かつe1以下の範囲では、速度比eの減少に伴いΔNは0から上限値ΔNmaxにかけて徐々に大きくなる。速度比eがe2より小さいと、ΔNは上限値ΔNmaxとなる。
【0030】
図12は、第2の実施の形態に係るコントローラ8のCPUで実行される処理の一例を示すフローチャートである。なお、図9と同一の部分には同一の符号を付し、主に相違点を説明する。図12に示すようにステップS3で逆走状態と判定されるとステップS11に進み、回転速度検出器10a,10bからの信号によりトルコン速度比eを演算する。次いで、ステップS12で、予め定めた図11の特性に基づき、トルコン速度比eに応じた回転速度増分ΔNを演算する。ステップS4では、ステップS2で演算した目標エンジン回転速度NaにステップS12で求めたΔNを加算し、これを新たな目標エンジン回転速度Naとして設定する。
【0031】
このように第2の実施の形態では、逆走時の負のトルコン速度比eが小さいほど回転速度増分ΔNを大きくした。すなわちトルコン速度比eが小さいほどトルク比Trが小さくなり(図3)、入力トルクTinが大きくなってエンストしやすくなるため、ΔNを大きくした。これにより効率的にエンストを防止できる。トルコン速度比eがe1より大きいときは回転速度増分ΔNを0としたので、トルク比Trが大きくエンストが発生しにくい状況で、必要以上にエンジン回転速度を増加させることを防止できる。トルコン速度比eがe2より小さいときは回転速度増分ΔNをΔNmaxとしたので、エンジン回転速度増分ΔNが制限され、逆走終了後にすぐにエンジン回転速度を元の目標エンジン回転速度Naまで下げることができる。
【0032】
−第3の実施の形態−
図13、14を参照して本発明の第3の実施の形態について説明する。
第2の実施の形態では、トルコン速度比eに応じて回転速度増分ΔNを変更するようにしたが、第3の実施の実施の形態では、車速vに応じて回転速度増分ΔNを変更する。なお、以下では第2の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0033】
図13は、車速vと回転速度増分ΔNとの関係を示す図である。図中のv1,v2は、図11のe1,e2に相当する車速であり、例えば(v1,v2)=(−12km/h,−2km/h)に設定される。なお、逆走状態では負の車速となる。図13に示すように逆走状態における負の車速vがv1より大きいと、ΔNは0である。車速vがv2以上かつv1以下の範囲では、車速vの減少に伴いΔNは0から上限値ΔNmaxにかけて徐々に大きくなる。車速vがv2より小さいと、ΔNは上限値ΔNmaxとなる。
【0034】
図14は、第3の実施の形態に係るコントローラ8のCPUで実行される処理の一例を示すフローチャートである。なお、図9と同一の部分には同一の符号を付し、主に相違点を説明する。図14に示すようにステップS3で逆走状態と判定されるとステップS21に進み、予め定めた図13の特性に基づき、車速vに応じた回転速度増分ΔNを演算する。ステップS4では、ステップS2で演算した目標エンジン回転速度NaにステップS21で求めたΔNを加算し、これを新たな目標エンジン回転速度Naとして設定する。
【0035】
このように第3の実施の形態では、逆走時の負の車速vが小さいほど回転速度増分ΔNを大きくしたので、エンストしやすい状況でエンジン回転速度が大きく増大し、エンストを確実に防止できる。車速がv1より大きいときはΔNを0とし、車速がv2より小さいときはΔNをΔNmaxとしたので、エンジン回転速度の増加を必要最小限に抑えることができ、効率的である。
【0036】
なお、上記実施の形態では、逆走状態でエンジン回転速度をΔNだけ増大するようにしたが、これに加えもしくはこれに代えて警報装置11から警報を発生させるようにしてもよい。例えば図11のトルコン速度比がe1以下の範囲、または図13の車速がv1以下の範囲で、警報を発生させるようにしてもよい。すなわち逆走状態で、かつ、エンストが発生しやすい状況にあるときに、警報を発生させるようにしてもよい。これによりオペレータにエンスト発生のおそれがあることを報知して、オペレータにアクセルペダル7aを戻し過ぎないように、または図示しないブレーキ装置を作動するように促すことができ、エンストを未然に防ぐことができる。エンジン回転速度の増加よりも警報発生のタイミングを遅らせるようにしてもよい。逆走状態でかつエンストしやすい状況にあるときに警報を発生するのであれば、警報手段としての警報装置11の構成はいかなるものでもよい。
【0037】
上記実施の形態では、トルコン速度比eが小さいほどあるいは車速vが低いほどΔNを大きくしたが、エンストしやすい他の条件を見てΔNを決定してもよい。例えば自重Wが重いほど、勾配角度θが大きいほど、ΔNを大きくしてもよい。前後進切換スイッチ9により車両の前後進を指令したが、前後進指令手段の構成はこれに限らない。前後進切換スイッチ9により前進が指令された際に、エンジン1の回転をトルコン2を介してタイヤ6に伝達し、アクセルペダル1aの操作量に応じた前進方向の走行駆動力を発生するのであれば、走行駆動手段はいかなるものでもよい。
【0038】
前後進切換スイッチ9と回転速度検出器10cからの信号によりコントローラ8で車両の逆走状態を判定するようにしたが、判定手段はこれに限らない。コントローラ8での処理によりペダル操作量に応じて目標エンジン回転速度Naを設定するとともに、逆走状態のときは非逆走状態のときよりも目標エンジン回転速度Naを高く設定するのであれば、設定手段の構成はいかなるものでもよく、目標エンジン回転速度Naの特性は図7や図10のものに限らない。コントローラ8からエンジン制御部1aに制御信号を出力してエンジン回転速度を目標エンジン回転速度Naに制御するようにしたが、回転速度制御手段はこれに限らない。
【0039】
以上では、本発明をホイールローダに適用する例について説明したが、トルコン駆動の他の作業車両にも本発明は同様に適用可能である。すなわち、本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態の作業車両の原動機制御装置に限定されない。
【符号の説明】
【0040】
1 エンジン
1a エンジン制御部
2 トルクコンバータ
7 アクセル操作量検出器
8 コントローラ
9 前後進切換スイッチ
10a〜10c 回転速度検出器
11 警報装置
Nmax 上限回転速度
Ns 制限回転速度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後進を指令する前後進指令手段と、
原動機の回転をトルクコンバータ(トルコン)を介して車輪に伝達し、アクセルペダルの操作量に応じて前記前後進指令手段により指令された方向の走行駆動力を発生する走行駆動手段と、
前記前後進指令手段により指令された方向とは逆方向の車両の走行である逆走状態か否かを判定する判定手段と、
アクセルペダルの操作量に応じて原動機の目標回転速度を設定するとともに、前記判定手段により逆走状態と判定されると、非逆走状態と判定されたときよりも目標回転速度を高く設定する設定手段と、
前記設定手段により設定された目標回転速度に前記原動機の回転速度を制御する回転速度制御手段とを備えることを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両の原動機制御装置において、
前記設定手段は、前記判定手段により逆走状態と判定されると、非逆走状態と判定されたときよりも、目標最低回転速度を高く設定することを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の作業車両の原動機制御装置において、
前記トルクコンバータの入力軸と出力軸の速度比を検出する速度比検出手段を有し、
前記設定手段は、前記速度比検出手段により検出された逆走状態における負の速度比が小さくなるにしたがい目標回転速度の増分を大きくすることを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の作業車両の原動機制御装置において、
前記設定手段は、前記速度比検出手段により検出された逆走状態における負の速度比が第1の速度比以上かつ第2の速度比以下のときに、速度比の減少に伴い目標回転速度の増分を0から上限値にかけて徐々に大きくし、速度比が前記第2の速度比より大きいときは、目標回転速度の増分を0にし、速度比が前記第1の速度比より小さいときは、目標回転速度の増分を前記上限値とすることを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の作業車両の原動機制御装置において、
車速を検出する車速検出手段を有し、
前記設定手段は、前記車速検出手段により検出された逆走状態における負の車速が小さくなるにしたがい目標回転速度の増分を大きくすることを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の作業車両の原動機制御装置において、
前記設定手段は、前記車速検出手段により検出された逆走状態における負の車速が第1の車速以上かつ第2の車速以下のときに、車速の減少に伴い目標回転速度の増分を0から上限値にかけて徐々に大きくし、車速が前記第2の車速より大きいときは、目標回転速度の増分を0にし、車速が前記第1の車速より小さいときは、目標回転速度の増分を前記上限値とすることを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項7】
車両の前後進を指令する前後進指令手段と、
原動機の回転をトルクコンバータ(トルコン)を介して車輪に伝達し、アクセルペダルの操作量に応じて前記前後進指令手段により指令された方向の走行駆動力を発生する走行駆動手段と、
前記前後進指令手段により指令された方向とは逆方向の車両の走行である逆走状態にあり、かつ、エンストしやすい状況にあるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により逆走状態でかつエンストしやすい状況にあると判定されると、警報を発生する警報手段とを備えることを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項1】
車両の前後進を指令する前後進指令手段と、
原動機の回転をトルクコンバータ(トルコン)を介して車輪に伝達し、アクセルペダルの操作量に応じて前記前後進指令手段により指令された方向の走行駆動力を発生する走行駆動手段と、
前記前後進指令手段により指令された方向とは逆方向の車両の走行である逆走状態か否かを判定する判定手段と、
アクセルペダルの操作量に応じて原動機の目標回転速度を設定するとともに、前記判定手段により逆走状態と判定されると、非逆走状態と判定されたときよりも目標回転速度を高く設定する設定手段と、
前記設定手段により設定された目標回転速度に前記原動機の回転速度を制御する回転速度制御手段とを備えることを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両の原動機制御装置において、
前記設定手段は、前記判定手段により逆走状態と判定されると、非逆走状態と判定されたときよりも、目標最低回転速度を高く設定することを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の作業車両の原動機制御装置において、
前記トルクコンバータの入力軸と出力軸の速度比を検出する速度比検出手段を有し、
前記設定手段は、前記速度比検出手段により検出された逆走状態における負の速度比が小さくなるにしたがい目標回転速度の増分を大きくすることを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の作業車両の原動機制御装置において、
前記設定手段は、前記速度比検出手段により検出された逆走状態における負の速度比が第1の速度比以上かつ第2の速度比以下のときに、速度比の減少に伴い目標回転速度の増分を0から上限値にかけて徐々に大きくし、速度比が前記第2の速度比より大きいときは、目標回転速度の増分を0にし、速度比が前記第1の速度比より小さいときは、目標回転速度の増分を前記上限値とすることを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の作業車両の原動機制御装置において、
車速を検出する車速検出手段を有し、
前記設定手段は、前記車速検出手段により検出された逆走状態における負の車速が小さくなるにしたがい目標回転速度の増分を大きくすることを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の作業車両の原動機制御装置において、
前記設定手段は、前記車速検出手段により検出された逆走状態における負の車速が第1の車速以上かつ第2の車速以下のときに、車速の減少に伴い目標回転速度の増分を0から上限値にかけて徐々に大きくし、車速が前記第2の車速より大きいときは、目標回転速度の増分を0にし、車速が前記第1の車速より小さいときは、目標回転速度の増分を前記上限値とすることを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項7】
車両の前後進を指令する前後進指令手段と、
原動機の回転をトルクコンバータ(トルコン)を介して車輪に伝達し、アクセルペダルの操作量に応じて前記前後進指令手段により指令された方向の走行駆動力を発生する走行駆動手段と、
前記前後進指令手段により指令された方向とは逆方向の車両の走行である逆走状態にあり、かつ、エンストしやすい状況にあるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により逆走状態でかつエンストしやすい状況にあると判定されると、警報を発生する警報手段とを備えることを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−180850(P2010−180850A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27277(P2009−27277)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000003241)TCM株式会社 (319)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000003241)TCM株式会社 (319)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
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