説明

作業車両の走行制御装置および作業車両

【課題】走行への悪影響を防止できる作業車両の走行制御装置および作業車両を提供する。
【解決手段】レギュレータ14が制御不能状態となったと判断されると、電源ラインを主電源ライン26から副電源ライン27へ切り替えるとともに、レギュレータ14との制御信号を送受信する信号ラインを主信号ライン14a,14bから副信号ライン24a,24bへ切り替え、モータ押しのけ容積の最小値をqminよりも大きな値であるqαへと変更するように構成した。これにより、レギュレータ14への制御電流の供給を継続できるので、レギュレータ14が制御不能となるこことを回避できる。また、最高車速がVαmaxに制限されることで、オペレータに不具合が発生していることを認識させつつも、走行に際して極端に走行速度が低下しないようにすることで、走行への悪影響を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールローダなどの作業車両の走行制御装置および作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホイールローダのようにHST走行用回路を備えた作業車両において、走行負荷圧に応じて走行用モータの押しのけ容積を変更するとともに、電子制御により走行用モータの最小押しのけ容積を設定して、車両の最高車速を制限するようにした装置が知られている(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−144254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1記載の装置では、ソレノイドに加える電流値を調節することで走行用モータの傾転角を変更して走行用モータの押しのけ容積を変更するように構成されている。そのため、断線や短絡等により異常な電流がソレノイドに加えられると、押しのけ容積が設定値とは異なる容積に変更されてしまうおそれがある。その結果、走行速度が急上昇したり走行不能となったりするおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1) 請求項1の発明による作業車両の走行制御装置は、エンジンにより駆動される可変容量形の油圧ポンプと、油圧ポンプに接続され、可変容量形の走行用油圧モータと、油圧モータの容量変更を指示する制御信号を出力する容量制御信号出力手段と、制御信号により油圧モータの容量を変更する容量変更手段と、容量制御信号出力手段から出力される制御信号を容量変更手段に伝達する第1および第2の電気回路と、容量変更手段による油圧モータの容量変更動作が不能となったか否かを検出する状態検出手段と、油圧モータの容量変更動作が不能であることが状態検出手段で検出されると、異常状態であると判断して、制御信号を伝達する電気回路を第1の電気回路から第2の電気回路へ切り替えるとともに、油圧モータの最小容量を正常状態であるときの最小容量よりも大きな容量に設定するように容量制御信号出力手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
(2) 請求項2の発明は、請求項1に記載の作業車両の走行制御装置において、制御手段は、所定時間以上継続して油圧モータの容量変更動作が不能であることが状態検出手段で検出されると、異常状態であると判断することを特徴とする。
(3) 請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の作業車両の走行制御装置において、制御手段は、一旦異常状態であると判断すると、エンジンの運転状態が解除されるまで、制御信号を伝達する電気回路を第2の電気回路へ切り替えて保持するとともに、油圧モータの最小容量を正常状態であるときの最小容量よりも大きな容量に設定して保持するように容量制御信号出力手段を制御することを特徴とする。
(4) 請求項4の発明による作業車両は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の作業車両の走行制御装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、走行への悪影響を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施の形態に係る走行制御装置が適用される作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。
【図2】本実施の形態に係る走行制御装置の概略構成を示す図である。
【図3】走行負荷圧Ptとモータ押しのけ容積qmとの関係を示す図である。
【図4】エンジン回転速度が定格回転速度NHiの場合の車速Vと牽引力(走行駆動力)との関係を示す走行性能線図である。
【図5】レギュレータ14が制御不能状態となったと判断された後の走行負荷圧Ptとモータ押しのけ容積qmとの関係を示す図である。
【図6】レギュレータ14が制御不能状態となったと判断された後の走行性能線図である。
【図7】(a)はエンジン回転速度と絞り7の前後差圧ΔPとの関係を示す図であり、(b)はエンジン回転速度とポンプ押しのけ容積qpとの関係を示す図であり、(c)はエンジン回転速度とポンプ吐出量Qとの関係を示す図である。
【図8】本実施の形態におけるレギュレータ14の制御処理の動作を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1〜8を参照して、本発明による作業車両の走行制御装置、およびこの走行制御装置を搭載した作業車両の一実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る走行制御装置が適用される作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。ホイールローダ100は、アーム111,バケット112,タイヤ113等を有する前部車体110と、運転室121,エンジン室122,タイヤ123等を有する後部車体120とで構成される。アーム111はアームシリンダ114の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット112はバケットシリンダ115の駆動により上下方向に回動(ダンプまたはクラウド)する。前部車体110と後部車体120はセンタピン101により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ(不図示)の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折する。
【0009】
図2は、本実施の形態に係る走行制御装置の概略構成を示す図である。エンジン1によって駆動される可変容量形油圧ポンプ2と、可変容量形油圧モータ3とは、一対の主管路LA,LBによって閉回路接続され、いわゆるHST回路が形成されている。
【0010】
エンジン1により駆動されるチャージポンプ5からの圧油は、前後進切換弁6を介して傾転シリンダ8に導かれる。前後進切換弁6は操作レバー6aにより操作され、図示のように前後進切換弁6が中立位置のときは、チャージポンプ5からの圧油は絞り7および前後進切換弁6を介し、傾転シリンダ8の油室8a,8bにそれぞれ作用する。この状態では油室8a,8bに作用する圧力は互いに等しく、ピストン8cは中立位置にある。このため、油圧ポンプ2の押しのけ容積qpは0となり、ポンプ吐出量Qは0である。
【0011】
前後進切換弁6がA側に切り換えられると、油室8a,8bにはそれぞれ絞り7の上流側圧力と下流側圧力が作用するため、シリンダ8の油室8a,8bに圧力差が生じ、ピストン8cが図示右方向に変位する。これにより油圧ポンプ2のポンプ押しのけ容積qp(ポンプ傾転量)が増加し、油圧ポンプ2からの圧油は主管路LAを介して油圧モータ3に導かれ、油圧モータ3が正転し、車両が前進する。前後進切換弁6がB側に切り換えられると、傾転シリンダ8のピストン8cが図示左方向に変位し、油圧ポンプ2からの圧油は主管路LBを介して油圧モータ3に導かれ、油圧モータ3が逆転する。
【0012】
なお、ポンプ押しのけ容積qpは、絞り7の前後差圧ΔPが所定値ΔP0(図7)以上になると増加し始め、前後差圧ΔPが大きいほどポンプ押しのけ容積qpは大きくなる。図7(a)はエンジン回転速度と絞り7の前後差圧ΔPとの関係を示す図であり、図7(b)はエンジン回転速度とポンプ押しのけ容積qpとの関係を示す図であり、図7(c)はエンジン回転速度とポンプ吐出量Qとの関係を示す図である。なお、図中のNLoは、ポンプ押しのけ容積qpが増加し始めるときのエンジン回転速度に相当し、NHiは定格回転速度である。
【0013】
アクセルペダル9には、アクセルペダル9の操作量を検出する操作量検出器9aが設けられ、操作量検出器9aからの信号はコントローラ10に入力される。コントローラ10はエンジン制御部1aに回転速度制御信号を出力し、エンジン回転速度は操作量検出器9aからの信号に応じて制御される。なお、エンジン回転速度は、回転センサ4で検出され、コントローラ10で監視される。チャージポンプ5の吐出量はエンジン回転速度に比例し、図7(a)に示すように、絞り7の前後差圧はエンジン回転速度に比例する。このため、図7(b)に示すように、ポンプ押しのけ容積qpもエンジン回転速度に比例する。チャージポンプ5からの圧油は絞り7およびチェック弁11A,11Bを通過して主管路LA,LBに導かれ、HST回路に補充される。絞り7の下流側圧力はチャージリリーフ弁12により制限され、主管路LA,LBの最高圧力はオーバーロードリリーフ弁13により制限される。
【0014】
油圧モータ3の押しのけ容積qm(モータ傾転角)はレギュレータ14により制御される。レギュレータ14は電磁切換弁や電磁比例弁等を含む電気式レギュレータであり、主信号ライン14a,14bを介して出力されるコントローラ10からの制御電流によりレギュレータ14を駆動することで、傾転制御レバー140を駆動し、押しのけ容積qmを変更する。副信号ライン24a,24bは、主信号ライン14a,14bのバックアップ用の信号ライン(電気配線)である。
【0015】
コントローラ10は、CPU,ROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。コントローラ10には、高圧選択弁16で選択された主管路LA,LBの圧力(走行負荷圧Pt)を検出する圧力検出器21からの信号が入力される。コントローラ10には、電源(バッテリ)25からの電力が主電源ライン26を介して供給される。コントローラ10には、電源ライン26のバックアップ用の電気配線である副電源ライン27と、警報器28が接続されている。警報器28は、運転室121内に設けられている。
【0016】
コントローラ10は、圧力検出器21で検出される走行負荷圧Ptに応じてモータ押しのけ容積qmを制御する。図3は、走行負荷圧Ptとモータ押しのけ容積qmとの関係を示す図である。図3に示すように、通常の走行時には、走行負荷圧Ptが所定値Pt1未満のとき、モータ押しのけ容積は最小値qminであり、走行負荷圧Ptが所定値Pt1に達するとモータ押しのけ容積は最小値qminから最大値qmaxまで徐々に増加し、走行負荷圧Ptが所定値Pt1よりも大きいとモータ押しのけ容積は最大値qmaxとなる。
【0017】
なお、厳密には、モータ押しのけ容積qmは、走行負荷圧Ptが所定値Pt1から所定量ΔPtだけ増加する範囲で、つまりPt1≦Pt≦Pt1+ΔPtの範囲で走行負荷圧Ptの増加に伴い比例的に増加するが、便宜上、ΔPt=0として説明した。図3の走行負荷圧Ptとモータ押しのけ容積qmとの積は、油圧モータ3の出力トルクに相当する。
【0018】
油圧モータ3の回転速度は、ポンプの吐出量Q×モータ容積効率/モータ押しのけ容積qmで表され、モータ回転速度に車速が比例する。したがって、走行負荷Ptが大きくモータ押しのけ容積qmが大きいと、車両は低速高トルクで走行することができ、走行負荷Ptが小さくモータ押しのけ容積qmが小さいと、車両は高速低トルクで走行することができる。
【0019】
このように、通常の走行時には、モータ押しのけ容積qmはコントローラ10によって最小値qminから最大値qmaxまでの間で制御される。一方、何らかの不具合によってエンジン1が始動できず、ホイールローダ100を牽引して移動させる必要がある場合などには、油圧モータ3が油圧ポンプとして作用して牽引の抵抗力を発生させてしまうことを防止するため、油圧モータ3のモータ押しのけ容積qmを略ゼロとすることがある。油圧モータ3のモータ押しのけ容積qmを略ゼロとするには、たとえば、レギュレータ14への制御電流を断つために主信号ライン14a,14bを強制的に断線状態とすればよく、主信号ライン14a,14bの不図示の接続コネクタを外せばよい。
【0020】
図4は、アクセルペダル9をフルに踏み込み操作したとき、つまりエンジン回転速度が定格回転速度NHiの場合の車速Vと牽引力(走行駆動力)との関係を示す走行性能線図である。図4に示す走行性能曲線によれば、車速Vの増加に伴い牽引力は減少する。走行時には最小押しのけ容積がqmin1に制限されるため、最高車速はVmaxとなる。
【0021】
このような走行制御装置において、たとえばレギュレータ14を制御する主信号ライン14a(図2)が断線したり、グラウンドへ短絡したりすると、レギュレータ14に制御電流を供給できなくなり、レギュレータ14が制御不能(油圧モータ3の容量変更動作が不能)となる。その結果、モータ押しのけ容積qmは、走行負荷圧Ptの大きさにかかわらず略ゼロとなってしまい、たとえば次のような不具合が生じる。
(1) 下り坂を走行している場合には、モータ押しのけ容積qmが略ゼロになると、油圧モータ3が油圧ポンプとしてほとんど作用しなくなるため、エンジンブレーキが効かなくなる。そのため、ホイールローダ100の車速が上がり過ぎたり、油圧モータ3の回転数(回転速度)が上がり過ぎて油圧モータ3が故障したりする恐れがある。
【0022】
(2) 傾斜がほとんどないような道路や上り坂を走行している場合には、モータ押しのけ容積qmが略ゼロになると、油圧モータ3が発生させる駆動トルク(走行駆動力)が略ゼロとなるため、走行不能となる。
【0023】
そこで、本実施の形態では、レギュレータ14が制御不能状態(以下、単に制御不能状態とも呼ぶ)となったと判断されると、次のようにして上記不具合を回避するようにしている。なお、制御不能状態の具体的な判断内容については後述する。
(a) コントローラ10は、オペレータに対して警報を発するように、警報機28に制御信号を出力する。これにより、警報機28からたとえばレギュレータ14が制御不能となった旨の音声が発せられるので、オペレータは、レギュレータ14が制御不能状態となったことを認識でき、速やかに減速したり停止したりすることができる。
【0024】
(b) コントローラ10は、電源ラインを主電源ライン26から副電源ライン27へ切り替えるとともに、レギュレータ14との制御信号を送受信する信号ラインを主信号ライン14a,14bから副信号ライン24a,24bへ切り替える。これにより、主信号ライン14a,14bや主電源ライン26に断線や短絡等の不具合が生じても、レギュレータ14への制御電流の供給を継続できるので、レギュレータ14が制御不能となるこことを回避できる。
【0025】
(c) コントローラ10は、モータ押しのけ容積の最小値をqminよりも大きな値であるqαへと変更する。qαは、たとえば、qminに対してたとえば120〜140%程度の値とすることが望ましい。qminと比べてqαがあまり大きな値でない場合には、最高車速があまり変化せず、後述するようにオペレータに不具合が発生していることを認識させることができず、qminと比べてqαを大きくし過ぎると、最高車速が極端に低下して走行に支障をきたすからである。本実施の形態ではqαを、たとえばqminに対して130%の値としている。これにより、図5に示すように、モータ押しのけ容積が最小値qαから最大値qmaxまでの間で制御されるようになるため、ホイールローダ100の走行性能曲線は図6の走行性能線図における実線で示したものとなり、最高車速がVmaxから30%程減少したVαmaxとなる。なお、図6の破線で示した走行性能曲線は、レギュレータ14が制御不能状態となったことが検出される前の、ホイールローダ100の通常の走行性能曲線(すなわち図4に示す走行性能曲線)である。このように、最高車速がVαmaxに制限されることで、オペレータに不具合が発生していることを認識させつつも、走行に際して極端に走行速度が低下しないようにしている。
【0026】
上述した(a)〜(c)のような制御を行うことで、オペレータに不具合が発生していることを認識させるとともに、安全にホイールローダ100を走行させることができるようになる。したがって、オペレータは慌てることなく、余裕を持ってホイールローダ100を運転できる。
【0027】
なお、コントローラ10は、制御不能状態であるか否かを次のようにして判断する。
(1) コントローラ10は、主電源ライン26に印加される電源電圧を監視している。コントローラ10は、所定時間(たとえば0.5秒)以上継続して主電源ライン26に印加される電源電圧が所定の電圧(たとえば正常時の電源電圧の70%)を下回ったことを検出した場合、異常な状態であり、レギュレータ14が制御不能状態(より正確には、コントローラ10自体が各種制御演算をできなくなる恐れがある状態)であると判断する。なお、エンジン1の始動時には不図示のセルモータが駆動されることで電源電圧が一時的に低下するので、コントローラ10は、エンジン1の始動直後のたとえば10秒間は、上記判断を行わない。
【0028】
(2) コントローラ10は、主信号ライン14aを介してレギュレータ14へ出力する出力電流値(指示値)と、主信号ライン14bを介してレギュレータ14から入力される電流値(フィードバック電流値)とを比較することで、主信号ライン14a,14bの断線やグラウンドへの短絡を監視している。コントローラ10は、所定時間(たとえば0.5秒)以上継続して上記指示値とフィードバック電流値との差が所定の値以上となると、主信号ライン14a,14bが断線やグラウンドへ短絡していて、異常な状態であり、レギュレータ14が制御不能状態であると判断する。
【0029】
(3) コントローラ10は、上記指示値に基づいて、モータ押しのけ容積qmを略ゼロとする制御を行っているか否かを監視し、上記フィードバック電流値に基づいて、モータ押しのけ容積qmが略ゼロとなっているか否かを監視している。そして、コントローラ10は、モータ押しのけ容積qmを略ゼロとする制御を行っていないにもかかわらず、モータ押しのけ容積qmが略ゼロとなっている状態が所定時間(たとえば0.5秒)以上継続している場合には、異常な状態であり、レギュレータ14が制御不能状態であると判断する。
【0030】
なお、コントローラ10は、上記(1)〜(3)のいずれかで示すようにレギュレータ14が制御不能状態であると判断した場合には、その後、レギュレータ14が制御不能状態であると判断されなくなっても(正常な状態であると判断されても)、エンジン1の運転状態が解除されるまで(たとえばエンジン1の回転速度がたとえば500rpm以下になるまで)、上述した(a)〜(c)の制御を維持する。
【0031】
−−−フローチャート−−−
図8は、本実施の形態におけるレギュレータ14の制御処理の動作を示したフローチャートである。ホイールローダ100の不図示のイグニッションスイッチがオンされると、図8に示す処理を行うプログラムが起動され、コントローラ10で繰り返し実行される。ステップS1において、エンジン1が起動されてから所定時間(たとえば10秒)が経過しているか否かを判断する。ステップS1が肯定判断されるとステップS3へ進み、エンジン1が起動された後の前回の演算周期の時にすでにレギュレータ14が制御不能状態であったか否かを判断する。なお、エンジン1が起動された直後の初回の演算周期の時には、ステップS3は否定判断される。
【0032】
ステップS3が否定判断されるとステップS5へ進み、レギュレータ14が上述したような制御不能状態であるか否かを判断する。ステップS5が肯定判断されるとステップS7へ進み、オペレータに対して警報を発するように、警報機28に制御信号を出力してステップS9へ進む。ステップS9において、電源ラインを主電源ライン26から副電源ライン27へ切り替えるとともに、レギュレータ14との制御信号を送受信する信号ラインを主信号ライン14a,14bから副信号ライン24a,24bへ切り替えてステップS11へ進む。ステップS11において、モータ押しのけ容積の最小値をqminからqαへ変更してリターンする。
【0033】
ステップS3が否定判断されるとステップS13へ進み、レギュレータ14の制御不能状態が解消したか否かを判断する。ステップS13が肯定判断されるとステップS15へ進み、エンジン1の運転状態が解除されたか否かを判断する。ステップS15が肯定判断されるとステップS17へ進み、レギュレータ14が制御不能状態であると判断される前の状態に復帰させてリターンする。すなわち、ステップS17では、警報機28への制御信号の出力を中止し、電源ラインを副電源ライン27から主電源ライン26へ切り替え、信号ラインを副信号ライン24a,24bから主信号ライン14a,14bへ切り替え、モータ押しのけ容積の最小値をqαからqminへ変更してリターンする。
【0034】
ステップS1が否定判断されるか、ステップS5が否定判断されるか、ステップS13が否定判断されるか、ステップS15が否定判断されるとリターンする。
【0035】
本実施の形態のホイールローダ100では、次の作用効果を奏する。
(1) レギュレータ14が制御不能状態となったと判断されると、電源ラインを主電源ライン26から副電源ライン27へ切り替えるとともに、レギュレータ14との制御信号を送受信する信号ラインを主信号ライン14a,14bから副信号ライン24a,24bへ切り替えるように構成した。これにより、主信号ライン14a,14bや主電源ライン26に断線や短絡等の不具合が生じても、レギュレータ14への制御電流の供給を継続できるので、レギュレータ14が制御不能となるこことを回避できる。
【0036】
(2) レギュレータ14が制御不能状態となったと判断されると、モータ押しのけ容積の最小値をqminよりも大きな値であるqαへと変更するように構成した。これにより、最高車速がVαmaxに制限されることで、オペレータに不具合が発生していることを認識させつつも、走行に際して極端に走行速度が低下しないようにすることで、走行への悪影響を抑制している。
【0037】
(3) 所定時間以上継続してレギュレータ14へ出力する指示値とレギュレータ14から入力されるフィードバック電流値との差が所定の値以上となると、レギュレータ14が制御不能状態であると判断するようにするなど、何らかの不具合を示す状態が所定時間以上継続したときにレギュレータ14が制御不能状態であると判断するように構成した。これにより、主信号ライン14a,14bの断線やグラウンドへの短絡などではなく、ノイズや他の何らかの原因で一時的に指示値とフィードバック電流値との差が所定の値以上となるなどの不具合が検出されても、上述した(a)〜(c)のような制御を行わないので、制御不能状態の誤判断を抑制できる。
【0038】
(4) レギュレータ14が制御不能状態であると判断した場合には、その後、レギュレータ14が制御不能状態であると判断されなくなっても、エンジン1の運転状態が解除されるまで、上述した(a)〜(c)の制御を維持するように構成した。これにより、一時的にレギュレータ14の制御不能状態から回復しても、上述した(a)〜(c)の制御が維持されるので、安全サイドでレギュレータ14を制御できる。また、上述したように何らかの不具合を示す状態が所定時間以上継続したときにレギュレータ14が制御不能状態であると判断するように構成したことと併せて、上述した(a)〜(c)のような制御を行ったり行わなかったりを短時間の間に繰り返す、いわゆるハンチングを起こすような状態を回避できる。
【0039】
−−−変形例−−−
(1) 上述の説明では、主信号ライン14a,14bの断線等の際には最小押しのけ容積が略ゼロとなるように構成されたレギュレータ14の例で説明したが、本発明はこれに限定されない。主信号ライン14a,14bの断線等の際には最小押しのけ容積を最大とするように構成されたレギュレータ14であっても、本発明を適用できる。この場合には、レギュレータ14が制御不能状態であると判断されると、上述した(a)〜(c)の制御が行われるので、たとえば、最小押しのけ容積が突然最大となってホイールローダ100が急減速してしまうような不具合を回避できる。
【0040】
(2) 上述の説明では、閉回路のHSTについて説明したが、開回路のHSTであってもよい。
(3) 上述の説明では、作業車両の一例としてホイールローダ100を例に説明したが、本発明はこれに限定されず、たとえば、フォークリフト等、他の作業車両であってもよい。
【0041】
(4) 上述の説明では、レギュレータ14が制御不能状態となったと判断されると、警報機28からたとえばレギュレータ14が制御不能となった旨の音声が発せられるように構成しているが、本発明はこれに限定されない。レギュレータ14が制御不能となった旨の音声に代えて、たとえば単なる警報音を発するように構成してもよく、音声もしくは警報音の発生とともに、または、音声もしくは警報音の発生に代えて、運転室121内に設けられた表示装置にレギュレータ14が制御不能となった旨の表示を行うようにしてもよい。
【0042】
(5) 上述の説明では、レギュレータ14が制御不能状態となったと判断されると、その後、レギュレータ14が制御不能状態ではなくなったと判断され、かつ、エンジン1の運転状態が解除されるまでは、警報機28からレギュレータ14が制御不能となった旨の音声が発せられるように構成しているが、本発明はこれに限定されない。一定時間以上当該音声が発せられた後には、当該音声の発生を停止するようにしてもよく、オペレータが当該音声の発生の中断を指示できるようにしてもよい。
(6) 上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。
【0043】
なお、本発明は、上述した実施の形態のものに何ら限定されず、エンジンにより駆動される可変容量形の油圧ポンプと、油圧ポンプに接続され、可変容量形の走行用油圧モータと、油圧モータの容量変更を指示する制御信号を出力する容量制御信号出力手段と、制御信号により油圧モータの容量を変更する容量変更手段と、容量制御信号出力手段から出力される制御信号を容量変更手段に伝達する第1および第2の電気回路と、容量変更手段による油圧モータの容量変更動作が不能となったか否かを検出する状態検出手段と、油圧モータの容量変更動作が不能であることが状態検出手段で検出されると、異常状態であると判断して、制御信号を伝達する電気回路を第1の電気回路から第2の電気回路へ切り替えるとともに、油圧モータの最小容量を正常状態であるときの最小容量よりも大きな容量に設定するように容量制御信号出力手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする各種構造の作業車両の走行制御装置、およびこの作業車両の走行制御装置を備える各種構造の作業車両を含むものである。
【符号の説明】
【0044】
1 エンジン 2 油圧ポンプ
3 油圧モータ 10 コントローラ
14 レギュレータ 14a,14b 主信号ライン
24a,24b 副信号ライン 26 主電源ライン
27 副電源ライン 28 警報器
100 ホイールローダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される可変容量形の油圧ポンプと、
前記油圧ポンプに接続され、可変容量形の走行用油圧モータと、
前記油圧モータの容量変更を指示する制御信号を出力する容量制御信号出力手段と、
前記制御信号により前記油圧モータの容量を変更する容量変更手段と、
前記容量制御信号出力手段から出力される前記制御信号を前記容量変更手段に伝達する第1および第2の電気回路と、
前記容量変更手段による前記油圧モータの容量変更動作が不能となったか否かを検出する状態検出手段と、
前記油圧モータの容量変更動作が不能であることが前記状態検出手段で検出されると、異常状態であると判断して、前記制御信号を伝達する電気回路を前記第1の電気回路から前記第2の電気回路へ切り替えるとともに、前記油圧モータの最小容量を正常状態であるときの最小容量よりも大きな容量に設定するように前記容量制御信号出力手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記制御手段は、所定時間以上継続して前記油圧モータの容量変更動作が不能であることが前記状態検出手段で検出されると、異常状態であると判断することを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記制御手段は、一旦異常状態であると判断すると、前記エンジンの運転状態が解除されるまで、前記制御信号を伝達する電気回路を前記第2の電気回路へ切り替えて保持するとともに、前記油圧モータの最小容量を正常状態であるときの最小容量よりも大きな容量に設定して保持するように前記容量制御信号出力手段を制御することを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の作業車両の走行制御装置を備えることを特徴とする作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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