説明

作業車両

【課題】機体からシートに伝播される機体上下方向の振動を、確実に吸収させてシートの振動低減を行い得る、作業環境を向上させた作業車両を提供する。
【解決手段】機体の上部に、操縦のためのシートを備え、シート下部のシートパンと、このシートパン上のシートを支持するステーにシートパンと略平行に取付けたアームとの間に設けた弾性体と、ステーに取付けた質量体と、からなる動吸振器を備えるとともに、動吸振器の機体上下方向の固有振動数が、機体全体の機体上下方向の固有振動数に一致するように、動吸振器のパラメータを変更可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体の上部に、操縦のためのシートを備える作業車両に関するものであり、より詳細には、シート下部のシートパンと、このシートパン上のシートを支持するステーにシートパンと略平行に取付けたアームとの間に設けた弾性体と、ステーに取付けた質量体と、からなる動吸振器を備えるとともに、動吸振器の機体上下方向の固有振動数が、機体全体の機体上下方向の固有振動数に一致するように、動吸振器のパラメータを変更可能とすることに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の作業車両には、例えば、機体上部中央に配置されたキャビン内に有するシートが、前後左右に互いにハの字状となるような空気室を形成した空気バネにより、機体に防振支持されるもの(特許文献1)のほか、金属製のバネなどによって機体に防振支持されるものもあるが、これらバネによるシート支持のみでは、機体走行時に発生する人間の感じやすい機体上下方向の低周波振動を効果的に低減することが難かしく、そのためシートを構成する部材を極端に柔らかくして、シートを機体に支持させる方法もあるが、この場合、シートに着座してクラッチの踏み込みなどの操作をするオペレータに、不快感を与える問題があった。そこで、機体の固有振動数と同じ固有振動数を発生させて、機体からシートに伝播される振動を共振により吸収する動吸振器を、シート下部に備える(特許文献2)ものもある。
【0003】
【特許文献1】実開平7−4152号公報
【特許文献2】特開2003−226179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような動吸振器を備える作業車両のシートでは、例えば、トラクタなどに装着されるロータリなどのアタッチメントにより、機体全体の質量が変化したり、車両駆動部がホイール式の場合では、装着されるタイヤの種類によって機体全体のバネ定数が変化することから、機体全体である機体上下方向の振動の固有振動数が変化してしまうため、この機体全体の機体上下方向の振動の固有振動数が、シートに設置した動吸振器の予め設定された機体上下方向の振動の固有振動数と一致しなくなり、機体からシートに伝播される機体上下方向の振動を共振により吸収できない結果、シートの防振作用が著しく低下するという問題があった。
そこで、この発明の目的は、機体からシートに伝播される機体上下方向の振動を、確実に吸収させてシートの振動低減を行い得る、作業環境を向上させた作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、請求項1に記載の発明は、機体の上部に、操縦のためのシートを備える作業車両において、前記シート下部のシートパンと、該シートパン上の前記シートを支持するステーに前記シートパンと略平行に取付けたアームとの間に設けた弾性体と、前記ステーに取付けた質量体と、からなる動吸振器を備えるとともに、前記動吸振器の前記機体上下方向の固有振動数が、前記機体全体の前記機体上下方向の固有振動数に一致するように、前記動吸振器のパラメータを変更可能とすることを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の作業車両において、前記ステーと、前記弾性体と、前記質量体と、のいずれかもしくは全てを摺動自在に備えることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の作業車両において、前記動吸振器は、移送体を備えるとともに、該移送体により前記質量体および前記ステーのいずれかもしくは双方の設置位置を摺動させることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の作業車両において、前記移送体は、前記機体に取付けた該機体の加速度を検出する検出器の検出情報に基づいて、前記機体の前記固有振動数を分析する分析器に接続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、機体の上部に、操縦のためのシートを備える作業車両において、シート下部のシートパンと、このシートパン上のシートを支持するステーにシートパンと略平行に取付けたアームとの間に設けた弾性体と、ステーに取付けた質量体と、からなる動吸振器を備えるとともに、動吸振器の機体上下方向の固有振動数が、機体全体である機体上下方向の固有振動数に一致するように、動吸振器のパラメータを変更可能とするので、アタッチメントの装着などにより、機体全体の質量が変化したり、車両駆動部がホイール式である場合のタイヤの種類などによって、タイヤのバネ定数が変化しても、動吸振器を構成する質量体や弾性体などの交換や設置位置の調節など、パラメータを変更して、動吸振器の機体上下方向の固有振動数を、機体全体の機体上下方向の固有振動数に一致させ、機体からシートに伝播される機体上下方向の振動を共振により吸収することができる。従って、機体からシートに伝播される振動を低減し、作業環境を向上させた作業車両を提供することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、ステーと、弾性体と、質量体と、のいずれかもしくは全てを摺動自在に備えるので、アタッチメントの装着などにより、機体全体の質量が変化したり、車両駆動部がホイール式である場合のタイヤの種類などによって、タイヤのバネ定数が変化しても、動吸振器を構成する質量体や弾性体、ステーの設置位置のいずれかまたは全てを容易に調節することができる結果、動吸振器のパラメータを変更することにより、動吸振器の機体上下方向の固有振動数を、機体全体の機体上下方向の固有振動数に一致させ、機体からシートに伝播される機体上下方向の振動を共振により吸収することができる。従って、機体からシートに伝播される振動を低減し、作業環境を向上させた作業車両を提供することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、動吸振器は、移送体を備えるとともに、この移送体により質量体およびステーのいずれかもしくは双方の設置位置を摺動させるので、機体重量やバネ定数の変更に伴い、質量体やステーを予め設定された設置位置に移送体で自動的に摺動させることができる結果、動吸振器のパラメータを容易に変更することで、動吸振器の機体上下方向の固有振動数を、機体全体の機体上下方向の固有振動数に一致させ、機体からシートに伝播される機体上下方向の振動を共振により吸収することができる。従って、機体からシートに伝播される振動を低減し、作業環境を向上させた作業車両を提供することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、移送体は、機体に取付けた、この機体の加速度を検出する検出器の検出情報に基づいて、機体の固有振動数を分析する分析器に接続するので、質量体やステーを、検出された走行中の機体の加速度から算出した機体全体の機体上下方向の固有振動数に対応させた設置位置に、移送体で自動的に摺動させることができる結果、動吸振器のパラメータを容易に変更することで、動吸振器の機体上下方向の固有振動数を、機体全体の機体上下方向の固有振動数に一致させ、機体からシートに伝播される機体上下方向の振動を共振により吸収することができる。従って、機体からシートに伝播される振動を低減し、作業環境を向上させた作業車両を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。
図1は本発明の一実施例に係る作業車両としてのホイール式トラクタの左側面図、図2は同トラクタの平面図である。
【0014】
この例の作業車両であるトラクタ1は、機体フレーム2の前後に前輪3および後輪4を備え、前輪3の上方にボンネット5を形成し、その内側には原動機部としてのエンジン6およびエンジン6の後部にクラッチハウジング7が配置され、さらにこのクラッチハウジング7の後部にはミッションケース8が配設されており、エンジン6からの動力が前輪3および後輪4に伝達される。そして、ボンネット5の後部に連続して、機体フレーム2上には、キャビン9が設けられる。なお、トラクタ1の駆動部は、上述したようなホイール式に限定されず、クローラ式であってもよい。
【0015】
次いで、キャビン9内には、車両操作部として、ブレーキペダルやクラッチペダルなどの操作ペダル10、ステアリングハンドル11、そして後述する本願発明の要部であるシート12などが設けられる。また、シート12の両側方に有する左右フェンダ13には、例えば、主変速レバー、副変速レバー、PTO変速レバーなどの各種操作レバー14を突出させて備える。そして、キャビン9の外周はそれぞれフロントガラス15、リヤガラス16、ドア17、屋根18などを取付けてもよい。また、キャビン9の下方には、運転者がキャビン9に乗降するための昇降ステップ19が機体フレーム2に固設される。
【0016】
そして、エンジン6からの動力は、ミッションケース8後端から突出した不図示のPTO軸に伝達され、このPTO軸から、図示しないユニバーサルジョイントや三点リンク式などの作業機装着装置20を介して車両後端に装着された不図示の作業機が駆動される。
【0017】
次に、機体からシートに伝播される振動を低減させる防振シートについて、その具体的構成を説明する。図3は、内部に防振構造を備えるシートの外観斜視図、図4は内部の防振構造を示したシートの側面模式図、図5は各パラメータを示す動吸振器を拡大した側面模式図、図6は質量体の摺動を示す動吸振器付近の側面模式図、図7は弾性体の設置位置変更を示す動吸振器付近の側面模式図、図8はステーの摺動を示す動吸振器付近の側面模式図、図9は質量体に移送体を備える動吸振器付近の側面模式図、図10は質量体の摺動位置を自動制御する動吸振器付近の側面模式図である。
【0018】
図3に示すように、機体の操縦に用いられるシート12は、例えば、キャビン9底部のフロア21上に備えられる。このシート12は、図4に示すように、フロア21上にシート12の上下高さ位置を調節可能とするパンタグラフ22が設置され、このパンタグラフ22上に固設された載置台23上の前後に設けられたステー24,25を介してシートパン26が固設される。そして、このシートパン26上にシート12が取付けられる。
【0019】
次いで、機体全体の機体上下方向に発生する振動を吸収するための動吸振器28が、ステー24,25の間であって、シートパン26と、載置台23との間のスペースsに取付けられる。この動吸振器28は、シートパン26の下方であって、ステー25の中途部に一端を取付け、シートパン26と略平行に設けられた金属製などからなるアーム29と、このアーム29の他端部近傍に取付けられた鋼球などのおもりである質量体30と、さらに、シートパン26と、アーム29との間に取付けられた金属製などからなるバネなどの弾性体31とから構成される。なお、スペースsは、ステー24,25の両側部に設けられたカバー32で覆われる構成にすることができる。また、アーム29は、ステー24に取付けてもよい。
【0020】
そして、ステー25の中途部に取付けられたアーム29の一端が、動吸振器28の支点aとなる。なお、アーム29や質量体30の材質および形状は限定されない。
【0021】
ここで、図5に示すように、動吸振器28における質量体30の質量をm(kg)、弾性体31のバネ定数をk(N/m)、支点aからの弾性体31の距離をr(m)、支点aからの質量体30の距離をL(m)とし、機体上下方向である機体全体の振動の固有振動数をf(Hz)とした場合、この固有振動数fは次式Aで表される。
f=(1/2π)×(r/L)× ・・・(A)
【0022】
そこで、動吸振器28における質量体30の質量mや、弾性体31のバネ定数k、支点aからの弾性体31の距離r、支点aからの質量体30の距離Lなどの各パラメータを設定して、動吸振器28における上下方向の固有振動数fを、機体全体における上下方向の固有振動数fに一致させることで、機体全体の上下振動が動吸振器28の上下振動と共振することにより、機体全体の上下振動が動吸振器28に吸収され、シート12に伝播される当該機体全体の上下振動が低減されて、オペレータは振動の少ない快適な作業空間を得ることができる。
【0023】
しかし、機体後部への各種作業機の取付けや取替えなどによる機体の質量が変化した場合や、前輪3および後輪4のタイヤ交換などによりタイヤのバネ定数が変化した場合には、機体全体における上下方向の固有振動数fも変化してしまい、上述のように予め各パラメータを設定した動吸振器28における上下方向の固有振動数fと一致しなくなるため、機体全体の上下振動と動吸振器28とを共振させることができず、従って、機体全体の上下振動を動吸振器28に吸収させることができない。
【0024】
そこで、このような場合には、例えば、オペレータがカバー32を取り外し、質量体30を質量の異なる質量体30や、弾性体31をバネ定数の異なる弾性体31にいずれか、もしくは双方を取り替えて(このとき、支点aからの弾性体31の距離rや、支点aからの質量体30の距離Lの値は固定されている)上述のような変化した機体全体における上下方向の固有振動数fに、動吸振器28における上下方向の固有振動数fを容易に一致させることができる。
【0025】
また、質量体30や、弾性体31の交換以外にも、支点aからの弾性体31の距離rや、支点aからの質量体30の距離Lを変更して、機体全体における上下方向の固有振動数fに動吸振器28における上下方向の固有振動数fを一致させることもできる。
【0026】
この場合には、まず、例えば、図6に示すように、アーム29に貫設される質量体30を、アーム29に対して摺動自在に設けるとともに、アーム29上の質量体30前後には、質量体30に接触させてストッパ33が設けられる。
【0027】
このような構成により、上述のように作業機やタイヤなどの条件が変わり、変化した機体全体における上下方向の固有振動数fに、動吸振器28における上下方向の固有振動数fを一致させるときは、例えば、オペレータがカバー32を取り外し、ストッパ33の図示しないねじなどを緩め、アーム29に沿って質量体30を機体前後方向に摺動させ、支点aからの質量体30の距離Lを該当位置に調節(このとき、質量体30の質量mや、弾性体31のバネ定数k、支点aからの弾性体31の距離rの値は固定されている)した後、ストッパ33の前記ねじなどを締めて質量体30が固定される。なお、アーム29をネジで形成するとともに、ストッパ33をロックナットにすることで、アーム29のネジを回すことにより、アーム29に沿って質量体30を機体前後方向に摺動させる構成にしてもよい。
【0028】
なお、アーム29上における質量体30の摺動による設置位置は、オペレータの感覚により任意に設定してもよいが、作業機などによる機体の重量や、タイヤのバネ定数により予め算出された機体全体における上下方向の固有振動数fに基づいて、予め設定された支点aからの質量体30の距離Lにすることもできる。
【0029】
次に、支点aからの質量体30の距離Lや、質量体30の質量m、弾性体31のバネ定数kのそれぞれの値を固定して、支点aからの弾性体31の距離rの値のみを変更させて、上述のような変化した機体全体における上下方向の固有振動数fに、動吸振器28における上下方向の固有振動数fを一致させることもできる。この場合、図7に示すように、シートパン26の下端部と、アーム29上とのそれぞれ機体前後方向等間隔に、フック34が適宜複数個所で設けられる。
【0030】
このような構成により、上述のように作業機やタイヤなどの条件が変わり、変化した機体全体における上下方向の固有振動数fに、動吸振器28における上下方向の固有振動数fを一致させるときは、例えば、オペレータがカバー32を取り外し、弾性体31を機体前後方向の該当するフック34に掛け留めることにより、支点aからの弾性体31の距離rの値を調節し、機体全体における上下方向の固有振動数fに一致させた動吸振器28における上下方向の固有振動数fにすることができる。なお、フック34に掛け留めることによる弾性体31の設置位置は、上述同様に、オペレータの感覚により任意に設定してもよいが、作業機などによる機体の重量や、タイヤの種類によるタイヤのバネ定数により予め算出された機体全体における上下方向の固有振動数fに基づいて予め設定された支点aからの弾性体31の距離rになるフック34とすることができる。
【0031】
また、上述同様に支点aからの質量体30の距離Lや、質量体30の質量m、弾性体31のバネ定数kのそれぞれの値を固定し、ステー25を摺動させて、支点aからの弾性体31の距離rのみを変更することもできる。この場合、図8に示すように、シートパン26の左右両側部に、位置調節穴35が適宜複数個所設けられるとともに、シートパン26の左右両側部に内設するステー25の上部であって、左右両側部には、位置調節穴35と一致してボルトなどの締結具37により締結を可能とする締結穴36が設けられる。また、弾性体31の下端部は、アーム29上を摺動可能に設けられた筒状(形状や構造は限定されない)などの摺動部材38の図示しないフックなどに係止される。
【0032】
このような構成により、上述のように作業機やタイヤなどの条件が変わり、変化した機体全体における上下方向の固有振動数fに、動吸振器28における上下方向の固有振動数fを一致させるときは、例えば、オペレータがカバー32を取り外し、位置調節穴35および締結穴36を締結する締結具37を緩め、ステー25を機体前後方向に摺動させ、ステー25の締結穴36をシートパン26の該当する位置調節穴35に一致させる。このとき、弾性体31の下端部は、ステー25に伴うアーム29の摺動に対応して、摺動部材38により固定された弾性体31の上端部の鉛直下方の位置に摺動させることができる。そして、締結具37で両者を締結させることにより、支点aからの弾性体31の距離rの値を調節し、機体全体における上下方向の固有振動数fに一致させた動吸振器28における上下方向の固有振動数fにすることができる。
【0033】
なお、ステー25の摺動位置は、上述同様に、オペレータの感覚により任意に設定してもよいが、作業機などによる機体の重量や、タイヤの種類によるタイヤのバネ定数により予め算出された機体全体における上下方向の固有振動数fに基づいて予め設定された支点aからの弾性体31の距離rになる位置にすることができる。
【0034】
以上のような構成により、アタッチメントの装着などで、機体全体の質量が変化したり、車両駆動部がホイール式である場合のタイヤの種類などによって、タイヤのバネ定数が変化しても、動吸振器28を構成する質量体30や弾性体31などの交換や設置位置の調節など、各パラメータを変更して、動吸振器28の機体上下方向の固有振動数を、機体全体の機体上下方向の固有振動数に一致させ、機体からシート12に伝播される機体上下方向の振動を共振により吸収することができる。なお、上述した各パラメータの変更作業である質量体30や弾性体31の交換や、質量体30や弾性体31もしくはステー25の摺動は、それぞれ個別に行うほか、全てのパラメータの変更を同時に実施したり、あるいは組み合わせて変更してもよい。
【0035】
次に、上述したようなパラメータの変更を自動的に行わせて、動吸振器28の機体上下方向の固有振動数を、機体全体の機体上下方向の固有振動数に一致させ、機体からシート12に伝播される機体上下方向の振動を共振により吸収することもできる。図9は、アクチュエータを備える質量体の摺動を示す動吸振器付近の側面模式図、図10はアクチュエータを備える質量体の摺動を自動制御する動吸振器付近の側面模式図である。
【0036】
この場合、例えば、図9に示すように、質量体30同様で、アーム29に貫設された、パルスモータやピニオンスライド機構などから構成される、アーム29に沿って摺動可能なアクチュエータなどの移送体39が、質量体30に取付けられる。そして、この移送体39を摺動させる詳細不図示のスイッチ40が、詳細不図示のコントローラ41を介してシート12近傍(設置位置は限定されない)などに設けられる。なお、このとき、動吸振器28における質量体30の質量mは、質量体30の質量に、移送体39の質量を加算したものとしてもよい。
【0037】
このような構成にすることで、上述のように作業機やタイヤなどの条件が変わり、変化した機体全体における上下方向の固有振動数fに、動吸振器28における上下方向の固有振動数fを一致させるときは、オペレータは、例えば、シート12近傍などのスイッチ40を操作することにより、コントローラ41の指示で質量体30が移送体39とともに該当する位置に摺動される。その結果、動吸振器28の機体上下方向の固有振動数を、機体全体の機体上下方向の固有振動数に一致させ、機体からシート12に伝播される機体上下方向の振動を共振により吸収することができる。
【0038】
なお、質量体30および移送体39の摺動位置は、上述同様に、オペレータの感覚によりスイッチ40で任意に設定してもよいが、作業機などによる機体の重量や、タイヤの種類によるタイヤのバネ定数により予め算出された機体全体における上下方向の固有振動数に基づいて、コントローラ41で予め設定された支点aからの質量体30の距離Lにするように、スイッチ40を設定することができる。
【0039】
また、移送体39の設置は質量体30に限られず、例えば、前術したステー25(ステー24でもよい)などに取付けて、このステー25をスイッチ40の操作により自動的に摺動させたり、あるいはステー25および質量体30の双方に取付けて、これらステー25および質量体30を同時に摺動させてもよい。
【0040】
さらに、パラメータの変更を自動制御することもできる。この場合は図10に示すように、例えば、載置台23上(設置位置は限定されない)に、機体の加速度を検出する、加速度センサなどの検出器42が取付けられる。この検出器42は、接触型のほか、非接触型などを用いてもよく、また電気信号の変換方式による種類も、圧電型や、電荷型、電圧型など限定されない。
【0041】
そして、検出器42には、この検出器42の検出情報に基づいて演算を行い、機体全体に発生する機体上下方向の振動の固有振動数を算出する、機体の適宜位置に設置された分析器43が接続され、さらに分析器43は、コントローラ41を介して移送体39に接続される。また、移送体39は、前述したように、例えば質量体30に取付けられる。
【0042】
このような構成にすることで、上述のように作業機やタイヤなどの条件が変わり、変化した機体全体における上下方向の固有振動数fに、動吸振器28における上下方向の固有振動数fを一致させるときは、機体を走行させることで一定区間もしくは一定時間の走行により検出器42で検出された機体の加速度が、分析器43で機体全体に発生する機体上下方向(鉛直方向)の振動の固有振動数が算出される。そして、分析器43により固有振動数から算出された支点aからの質量体30の距離Lの値に基づき、コントローラ41が移送体39を摺動させて質量体30を当該位置に摺動し、動吸振器28の機体上下方向の固有振動数を、機体全体の機体上下方向の固有振動数に一致させ、機体からシート12に伝播される機体上下方向の振動を共振により吸収することができる。
【0043】
このときも、移送体39の設置は質量体30に限られず、例えば、前術したステー25(ステー24でもよい)などに取付けて、このステー25を検出器42および分析器43からの情報に基づき、コントローラ41により自動的に摺動させたり、あるいはステー25および質量体30の双方に取付けて、これらステー25および質量体30を同時に摺動させてもよい。
【0044】
以上のような構成により、アタッチメントの装着などで、機体全体の質量が変化したり、車両駆動部がホイール式である場合のタイヤの種類などによって、タイヤのバネ定数が変化しても、動吸振器28を構成する質量体30やステー25などの設置位置が自動摺動により容易に調節されるため、動吸振器28の機体上下方向の固有振動数を、機体全体の機体上下方向の固有振動数に一致させ、機体からシート12に伝播される機体上下方向の振動を共振により吸収することができる。なお、動吸振器28は、シート12の下方に設置することに限定されず、キャビン9を有する場合では、キャビン9の下端部に設置することで、機体からキャビン9に伝播される機体上下方向の振動を低減させるようにしてもよい。
【0045】
以上詳述したように、この例のトラクタ1は、機体の上部に、操縦のためのシート12を備え、シート12下部のシートパン26と、このシートパン26上のシート12を支持するステー25にシートパン26と略平行に取付けたアーム29との間に設けた弾性体31と、ステー25に取付けた質量体30と、からなる動吸振器28を備えるとともに、動吸振器28の機体上下方向の固有振動数fが、機体全体の機体上下方向の固有振動数fに一致するように、動吸振器28のパラメータを変更可能とするものである。加えて、ステー25と、弾性体31と、質量体30と、のいずれかもしくは全てを摺動自在に備えるとともに、動吸振器28は、移送体39を備えるとともに、この移送体39により質量体30およびステー25のいずれかもしくは双方の設置位置を摺動させ、かつ、移送体39は、機体に取付けた、この機体の加速度を検出する検出器42の検出情報に基づいて、機体の固有振動数fを分析する分析器43に接続する。
【0046】
また、上述の例では、作業車両の一例としてホイール式トラクタ(農作業機)について説明したが、この発明はこれに限定されるものではなく、クローラ式トラクタのほか、農作業機としてコンバインなど、また、建設作業機として、バックホー,ブルトーザなど、操縦のためのシートやキャビンを備えたあらゆる作業車両に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一例としての、ホイール式トラクタを示す左側面図である。
【図2】ホイール式トラクタの平面図である。
【図3】内部に防振構造を備えるシートの外観斜視図である。
【図4】内部の防振構造を示したシートの側面模式図である。
【図5】各パラメータを示す動吸振器を拡大した側面模式図である。
【図6】質量体の摺動を示す動吸振器付近の側面模式図である。
【図7】弾性体の設置位置変更を示す動吸振器付近の側面模式図である。
【図8】ステーの摺動を示す動吸振器付近の側面模式図である。
【図9】質量体に移送体を備える動吸振器付近の側面模式図である。
【図10】質量体の摺動位置を自動制御する動吸振器付近の側面模式図である。
【符号の説明】
【0048】
12 シート
21 フロア
22 パンタグラフ
23 載置台
24,25 ステー
26 シートパン
28 動吸振器
29 アーム
30 質量体
31 弾性体
32 カバー
33 ストッパ
34 フック
35 位置調節穴
36 締結穴
37 締結具
38 摺動部材
39 移送体
40 スイッチ
41 コントローラ
42 検出器
43 分析器
A 式
a 支点
s スペース
f 固有振動数
r 支点からの弾性体の距離
L 支点からの質量体の距離
k バネ定数
m 質量体の質量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体の上部に、操縦のためのシートを備える作業車両において、
前記シート下部のシートパンと、該シートパン上の前記シートを支持するステーに前記シートパンと略平行に取付けたアームとの間に設けた弾性体と、
前記ステーに取付けた質量体と、
からなる動吸振器を備えるとともに、
前記動吸振器の前記機体上下方向の固有振動数が、前記機体全体(以下全て修正しております)前記機体上下方向の固有振動数に一致するように、前記動吸振器のパラメータを変更可能とすることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記ステーと、前記弾性体と、前記質量体と、のいずれかもしくは全てを摺動自在に備えることを特徴とする、請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記動吸振器は、移送体を備えるとともに、該移送体により前記質量体および前記ステーのいずれかもしくは双方の設置位置を摺動させることを特徴とする、請求項1に記載の作業車両。
【請求項4】
前記移送体は、前記機体に取付けた該機体の加速度を検出する検出器の検出情報に基づいて、前記機体の前記固有振動数を分析する分析器に接続することを特徴とする、請求項3に記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−265379(P2008−265379A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107274(P2007−107274)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】