説明

作業車両

【課題】変速指令に基づき主変速装置と副変速装置の油圧クラッチを切換えて走行変速を行う作業車両において、変速ショックを低減させつつ、変速に要する時間を少なくすることができる作業車両を提供する。
【解決手段】主変速装置と副変速装置の油圧クラッチ24A,24B,24C,24D,46,47を切換えて走行変速を行う作業車両において、副変速装置の油圧クラッチを切換える3位置からなる電磁方向切換弁59とを設け、電磁方向切換弁の排油路61に絞り62を介在させて、副変速装置の油圧クラッチを切換える場合には、電磁方向切換弁を暫時中立位置に保持して、現に接続される油圧クラッチから排出される圧油を次に接続する油圧クラッチの圧油充填のために作用させた状態で、副変速装置の回転同期処理を行った後、油圧クラッチが完全に接続されるように電磁方向切換弁を切換える制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
変速指令に基づき主変速装置と副変速装置の油圧クラッチを切換えて走行変速を行う作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
変速指令に基づき主変速装置と副変速装置の油圧クラッチを切換えて走行変速を行うにあたり、主変速装置の油圧クラッチを切換える電磁弁と、副変速装置の油圧クラッチを切換える電磁弁とを設けた特許文献1に示す作業車両が公知になっている。
【特許文献1】特開2000−62500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記文献の作業車両は、副変速装置の油圧クラッチによる変速切換時、速度比の違い等によって変速ショックが発生することがある。この変速ショックを低減させる1つの手段として、副変速装置をニュートラル状態(中立状態)で所定時間保持して回転同期処理を行うことが考えられるが、上記処理を行うと、変速に時間が掛かって動力伝達の途切れが長くなり、円滑な変速を行うことができないことがあるという課題がある。
本発明は、上記課題を解決し、変速指令に基づき主変速装置と副変速装置の油圧クラッチを切換えて走行変速を行う作業車両において、変速ショックを低減させつつ、変速に要する時間を極力の少なくすることによって動力伝達の途切れを短くし円滑に変速を行うことができる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため本発明の作業車両は、変速指令に基づき主変速装置13と副変速装置17の油圧クラッチ24A,24B,24C,24D,46,47を切換えて走行変速を行う作業車両において、前記主変速装置13の油圧クラッチ24A,24B,24C,24Dを切換える電磁比例弁56A,56B,56C,56Dと、副変速装置17の油圧クラッチ46,47を切換える3位置からなる電磁方向切換弁59とを設け、前記電磁方向切換弁59の排油路61に絞り62を介在させて、変速指令によって副変速装置17の油圧クラッチ46,47を切換える必要がある場合には、前記電磁方向切換弁59を暫時中立位置に保持して、現に接続される油圧クラッチ46,47から排出される圧油を次に接続する油圧クラッチ46,47の圧油充填のために作用させた状態で、副変速装置17の回転同期処理を行った後、該油圧クラッチ46,47が完全に接続されるように電磁方向切換弁59を切換える制御を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
以上のように構成される本発明の作業車両によれば、変速ショックを低減させる目的で、副変速装置の変速切換時に電磁方向切換弁を暫時中立位置に保持して回転同期処理を行うにあたり、現に接続される油圧クラッチから排出される圧油を次に接続する油圧クラッチの圧油充填のために作用させるので、この油圧クラッチを完全に接続させるべく電磁切換弁を切換えた際、油圧クラッチ内に迅速に圧油が充填されて副変速装置が直ちに変速切換えされるため、変速ショックを低減させつつ、変速に要する時間を極力の少なくすることによって動力伝達の途切れを短くして円滑に変速を行うことができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下図示する例に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の作業車両を適用したトラクタの全体側面図である。本トラクタは、左右一対の前輪1,1及び後輪2,2を有する走行機体3と、走行機体3後方に配置されて昇降リンク(リンク機構)4によって走行機体3に昇降駆動可能に連結可能なロータリ耕耘装置等の作業機(図示しない)とを備えている。
【0007】
走行機体3の前半部にはエンジン6(図3参照)を収容するエンジンルーム(図示しない)の上方を開閉自在にカバーするボンネット7が設置され、走行機体3におけるボンネット7後方には操縦部8が設けられている。この操縦部8に乗り込んだオペレータの操作によって、本トラクタは、圃場を走行しながら作業機によって耕耘作業等の作業を行う。
【0008】
図2は、本トラクタの動力伝動構造を示すミッションケースの側断面図である。エンジン6の動力は、ミッションケース9内のトランスミッション(変速装置,変速機構)11によって変速された後、前後輪1,2及び作業機に伝動される。
【0009】
トランスミッション11は、入切によって動力を断続させる主クラッチ12と、複数段(図示する例では4段)の変速切換を行う主変速装置(主変速部,主変速機構)13と、操縦部8に設けられた切換レバー(前後進切換操作具)の前後進切換操作(切換指令,変速指令)によって本トラクタの前後進切換を行う前後進切換装置(前後進切換部,前後進切換機構)14と、操縦部8に設けられた変速レバー(変速操作具)の変速切換操作(変速指令)によって複数段(図示する例では低速、中速、高速の3段)の変速切換を行う速度切換装置(速度切換部,速度切換機構)16と、高速と低速の変速切換を行う副変速装置(副変速部,副変速機構)17と、前輪1への動力の断続及び変速を行う前輪駆動切換装置(前輪駆動切換部,前輪駆動切換機構)18と、作業機側に動力を出力するPTO軸(出力軸)S1への動力を入切作動によって断続させる油圧クラッチである作業機クラッチ19とを備えている。
【0010】
エンジン6の動力は、主変速装置13→前後進切換装置14→速度切換装置16→副変速装置17の順に伝動される。副変速装置17に入力された動力は変速されて走行駆動軸S2に伝動される。この走行駆動軸S2の動力は、常時後輪2に伝動される他、前輪駆動切換装置18を介して前輪1に伝動される。すなわち、主変速装置13と前後進切換装置14と速度切換装置16と副変速装置17と前輪駆動切換装置18とは、エンジン6から前後進1,2への動力伝動経路で、直列的に配置されて4×3×2で計24段の走行変速切換を行う走行変速装置(走行変速機構)を構成している。以上により、主変速装置13と副変速装置17とは、一方側(図示する例では主変速装置13)の変速後の動力が、前後進切換装置14及び速度切換装置16を介して、他方側(図示する例では副変速装置17)に入力されるように直列的に配置されている。
【0011】
上記主クラッチ12は、エンジン6から、エンジン6動力によって軸回りに回転駆動されて作業機クラッチ18側に動力を伝動する伝動軸S3の外周を覆う筒状に成形されて伝動軸S3の同心軸上に回転自在な状態で軸支された走行伝動軸S4への動力伝動を入切作動によって断続するように構成されている。オペレータは、操縦部8の床面側に設置されたクラッチペダル21(図1参照)の踏込み操作によって主クラッチ12を切作動させ、クラッチペダル21の踏込み解除によって主クラッチ12を入作動させる。
【0012】
上記主変速装置13は、走行伝動軸S4に一体的に取付固定されて走行伝動軸S4と一体回転する主変速装置13の変速段と同数の変速入力ギヤ(1速入力ギヤ,2速入力ギヤ,3速入力ギヤ,4速入力ギヤ)22A,22B,22C,22Dと、対応する変速入力ギヤ22A,22B,22C,22Dと常時噛合う主変速装置13の変速段と同数の変速出力ギヤ(1速出力ギヤ,2速出力ギヤ,3速出力ギヤ,4速出力ギヤ)23A,23B,23C,23Dと、1速出力ギヤ22A及び4速出力ギヤ22Dを回転自在に(遊転状態で)支持する第1変速軸(変速軸)S5と、2速出力ギヤ22B(図示しない)及び3速出力ギヤ22C(図示しない)を回転自在に(遊転状態で)支持する第2変速軸(変速軸)S6(図示しない)と、入切作動によって1速出力ギヤ23Aの動力を第1変速軸S5に断続伝動する油圧クラッチである1速クラッチ(変速クラッチ)24Aと、入切作動によって2速出力ギヤ23Bの動力を第2変速軸S6に断続伝動する油圧クラッチである2速クラッチ(変速クラッチ)24B(図3参照)と、入切作動によって3速出力ギヤ23Cの動力を第2変速軸S6に断続伝動する油圧クラッチである3速クラッチ(変速クラッチ)24C(図3参照)と、入切作動によって4速出力ギヤ23Dの動力を第1変速軸S5に断続伝動する油圧クラッチである4速クラッチ(変速クラッチ)24Dとを備えている。
【0013】
ちなみに、第1変速軸S5と第2変速軸S6とは左右に並列配置されており、図2には、第2変速軸S6、2速出力ギヤ23B、3速出力ギヤ23C、2速クラッチ24B及び3速クラッチ24Cは示されていない。
【0014】
本トラクタは、上記4つの変速クラッチ24A,24B,24C,24D内の何れか1つを入作動させて他の3つを切作動させることにより主変速装置13を1速から4速の何れかの変速段に切換える一方で、上記4つの変速クラッチ24A,24B,24C,24D全てを切作動させることによりエンジン6から主変速装置13下流側への動力伝動を遮断するように構成されている。
【0015】
上記前後進切換装置14は、第1変速軸S5と一体回転する1速4速側前進入力ギヤ(前進入力ギヤ)26及び後進入力ギヤ27と、第2変速軸S6と一体回転する図示しない2速3速側前進入力ギヤ(前進入力ギヤ)と、前後進切換軸S7と、前後進切換軸S7に回転自在に(遊転状態で)支持されて上記2つの前進入力ギヤ26と常時噛合う前進出力ギヤ28と、前後進切換軸S7に回転自在に(遊転状態で)支持された後進出力ギヤ29と、後進入力ギヤ27及び後進出力ギヤ29と常時噛合い後進入力ギヤ27から後進出力ギヤ29に動力を伝動する反転ギヤ(図示しない)と、入切作動によって前進出力ギヤ28の動力を前後進切換軸S7に断続伝動する油圧クラッチである前進クラッチ31と、入切作動によって後進出力ギヤ29の動力を前後進切換軸S7に断続伝動する油圧クラッチである後進クラッチ32とを備えている。
【0016】
本トラクタは、前進クラッチ31を入作動させるとともに後進クラッチ32を切作動させることにより前後進切換装置14(走行機体3)の前進走行状態への切換を行う一方で、前進クラッチ31を切作動させるとともに後進クラッチ32を入作動させることにより前後進切換装置14(走行機体3)の後進走行状態への切換を行う他、前進クラッチ31と後進クラッチ32を共に切作動させることによりエンジン6から前後進切換装置14下流側への動力伝動を遮断するように構成されている。
【0017】
すなわち、上記構成から、本トラクタは、上記主変速装置13によって前進走行時には1速と2速と3速と4速の計4段の変速切換を行う一方で、後進走行時には1速と4速の計2段の変速切換を行う。
【0018】
上記速度切換装置16は、前後進切換軸S7に回転自在に(遊転状態で)支持されて自身の動力を常時、速度切換軸S8に伝動する変速ギヤ34と、前後進切換軸S7からの動力が常時伝動されて速度切換軸S8に回転自在に(遊転状態で)支持される一対の変速ギヤ36,37と、入切作動によって前後進切換軸S7から変速ギヤ34への動力を断続する同期噛合い式(シンクロメッシュ式)の変速クラッチ38と、速度切換軸S8に支持された変速クラッチ39とを備えている。
【0019】
この変速クラッチ39は、速度切換軸S8上での軸方向の往復微動によって、変速ギヤ36の動力を速度切換軸S8に伝動するとともに変速ギヤ37から速度切換軸S8への動力伝動を遮断する状態と、変速ギヤ37の動力を速度切換軸S8に伝動するとともに変速ギヤ36から速度切換軸S8への動力伝動を遮断する状態と、該一対の変速ギヤ36,37の何れの動力も速度切換軸S8に伝動させない状態とを切換える同期噛合い式クラッチである。
【0020】
本トラクタは、上記変速レバーの前後及び左右揺動操作(変速切換操作)により2つの変速クラッチ38,39を作動させ、3つの変速ギヤ34,36,37の何れか1つの動力を走行切換軸S8に、低速と中速と高速との3段階で、伝動するように構成されている。
【0021】
上記副変速装置17は、速度切換軸S8と一体回転する高速入力ギヤ41及び低速入力ギヤ42と、副変速軸となる走行駆動軸S2に回転自在に(遊転状態で)支持されて高速入力ギヤ41と常時噛合う高速出力ギヤ43と、副変速軸となる走行駆動軸S2に回転自在に(遊転状態で)支持されて低速入力ギヤ42と常時噛合う低速出力ギヤ44と、入切作動によって高速出力ギヤ43ら走行駆動軸S2に動力を断続伝動させる油圧クラッチである高速クラッチ(変速クラッチ)46と、入切作動によって低速出力ギヤ44から走行駆動軸S2に動力を断続伝動させる油圧クラッチである低速クラッチ(変速クラッチ)47とを備えている。
【0022】
本トラクタは、高速クラッチ46を入作動させるとともに低速クラッチ47を切作動させることにより副変速装置17(走行機体3)の高速への変速切換を行う一方で、高速クラッチ46を切作動させるとともに低速クラッチ47を入作動させることにより副変速装置17(走行機体3)の低速への変速切換を行う他、高速クラッチ46と低速クラッチ47を共に切作動させることによりエンジン6から副変速装置17下流側への動力伝動を遮断するように構成されている。
【0023】
図3は、油圧クラッチ等の油圧機器に対して圧油の供給・排出を行う油圧装置の油圧回路図である。本トラクタは、前述した油圧クラッチ24A,24B,24C,24D,31,32,47,46等の油圧機器に対して圧油の供給・排出を行う油圧装置48を搭載している。この油圧装置48は、エンジン6によって駆動され油圧タンク49内の圧油を圧送する油圧ポンプ51を備えている。
【0024】
油圧ポンプ51からの圧油は、まず、分流弁52によって、操縦部8内に設けられたステアリングハンドル53(図1参照)の操作に基づいて作動する油圧式操向装置であるステアリングユニット54への圧油と、上記油圧クラッチ24A,24B,24C,24D,31,32,46,47側への圧油とに分流される。そして、油圧クラッチ24A,24B,24C,24D,31,32,46,47側に送られた圧油は、1速クラッチ24A、2速クラッチ24B、3速クラッチ24C及び4速クラッチ24D側と、前進クラッチ31及び後進クラッチ32側と、高速クラッチ46及び低速クラッチ47側とにそれぞれ供給される。
【0025】
このようにして1速クラッチ24A、2速クラッチ24B、3速クラッチ24C及び4速クラッチ24D側に送られた圧油は、開閉作動によって1速クラッチ24Aを入切作動させる開度調整可能な1速バルブ(電磁比例弁,電磁弁,変速バルブ)56Aと、開閉作動によって2速クラッチ24Bを入切作動させる開度調整可能な2速バルブ(電磁比例弁,電磁弁,変速バルブ)56Bと、開閉作動によって3速クラッチ24Cを入切作動させる開度調整可能な3速バルブ(電磁比例弁,電磁弁,変速バルブ)56Cと、開閉作動によって4速クラッチ24Dを入切作動させる開度調整可能な4速バルブ(電磁比例弁,電磁弁,変速バルブ)56Dとに供給される。
【0026】
上記各電磁比例弁56A,56B,56C,56Dは、対応する油圧クラッチ24A,24B,24C,24Dを入作動させて対応する変速出力ギヤ23A,23B,23C,23Dの動力を対応する変速軸S5、S6に伝動するように該対応する油圧クラッチ24A,24B,24C,24Dに圧油を供給する流路を形成する入位置と、対応する油圧クラッチ24A,24B,24C,24Dを切作動させて対応する変速出力ギヤ23A,23B,23C,23Dから対応する変速軸S5、S6への動力を遮断するように該対応する油圧クラッチ24A,24B,24C,24Dから圧油を排出する流路を形成する切位置とを有している。そして、マイコン等により構成される制御部から出力される電気的な制御信号に基づいてソレノイドを作動させることにより、各電磁比例弁56A,56B,56C,56Dの入位置と切位置の切換を行う。
【0027】
この各電磁比例弁56A,56B,56C,56Dは、上記制御信号のデューティ比等に基づいて開度調整可能なように構成されているため、対応する油圧クラッチ24A,24B,24C,24Dに徐々に圧油を供給して内部の圧力を次第に上昇させていく昇圧制御を行うことができる。
【0028】
本トラクタでは、変速切換を行うにあたり、主変速装置13における現在に接続されている油圧クラッチ24A,24B,24C,24Dを入切制御する電磁比例弁56A,56B,56C,56Dを切位置に切換えた後に、これから接続する油圧クラッチ24A,24B,24C,24Dを入切制御する電磁比例弁56A,56B,56C,56Dを入位置に切換える際、上記昇圧制御を行うことによって、上記油圧クラッチ24A,24B,24C,24Dを徐々に接続状態にして、変速切換時の変速ショックを低減させている。
【0029】
具体的には、例えば、主変速装置の2速から3速への変速切換を行うにあたり、2速バルブ56Bの入位置から切位置への切換を行って2速出力ギヤ23Bから第2変速軸S6への動力伝動を遮断した後に3速バルブ56Cの切位置から入位置への切換を行う際、上記昇圧制御を行うことによって、3速クラッチ24を介して、3速出力ギヤ23Cと第2変速軸S6とを動力伝動的に徐々に接続状態にすることにより、変速ショックを低減させる。
【0030】
なお、各電磁比例弁56A,56B,56C,56Dから対応する各油圧クラッチ24A,24B,24C,24Dへの圧油流路には、油圧クラッチ24A,24B,24C,24D入作動側への圧油の流れのみに作用する一方向絞り弁57が設置されており、該4つの一方向絞り弁57によっても、上記各油圧クラッチ24A,24B,24C,24Dが瞬時に入作動することが防止される。
【0031】
上述した前進クラッチ31及び後進クラッチ32側に送られた圧油は、手動式の油圧バルブである前後進切換弁(変速バルブ)58に供給される。この前後進切換弁58は、内部への圧油供給により前進クラッチ31を入作動させて前進出力ギヤ28の動力を前後進切換軸S7に伝動するとともに油圧タンク49への圧油排出により後進クラッチ32を切作動させて後進出力ギヤ29から前後進切換軸S7への動力伝動を遮断するように圧油流路を形成する前進位置と、油圧タンク49への圧油排出により前進クラッチ31を切作動させて前進出力ギヤ28から前後進切換軸S7への動力伝動を遮断するとともに内部への圧油供給により後進クラッチ32を入作動させて後進出力ギヤ29の動力を前後進切換軸S7に伝動するように圧油流路を形成する後進位置と、油圧タンク49への圧油排出により前進クラッチ31及び後進クラッチ31を切作動させて前進出力ギヤ28から前後進切換軸S7及び後進出力ギヤ29から前後進切換軸S7への動力伝動を遮断するように圧油流路を形成する中立位置(ニュートラル位置)とを有している。
【0032】
上記3位置からなる前後進切換弁58は、上記切換レバーと機械的に連結され、この切換レバーの前後揺動操作(前後進切換操作)によって、前進位置と中立位置と後進位置との切換が行われる。くわえて、前後進切換弁58は、前進位置から後進位置への切換及び後進位置から前進位置への切換を行うにあたり、必ず一旦、中立位置に切換えられるように構成されている。
【0033】
上述した高速クラッチ46及び低速クラッチ47側に送られた圧油は、電磁方向切換弁である走行変速切換弁(電磁弁,変速バルブ)59に供給される。この走行変速切換弁59は、内部への圧油供給により高速クラッチ46を入作動させて高速出力ギヤ43の動力を走行駆動軸S2に伝動するとともに油圧タンク49への圧油排出により低速クラッチ47を切作動させて低速出力ギヤ44から走行駆動軸S2への動力伝動を遮断するように圧油流路を形成する高速位置と、油圧タンク49への圧油排出により高速クラッチ46を切作動させて高速出力ギヤ43から走行駆動軸S2への動力伝動を遮断するとともに内部への圧油供給により低速クラッチ47を入作動させて低速出力ギヤ44の動力を走行駆動軸S2に伝動するように圧油流路を形成する低速位置と、高速クラッチ46からの圧油の流路と低速クラッチ47からの圧油の流路とを合流させるとともに合流させた圧油を油圧タンク49に排出する流路を形成して高速クラッチ46及び低速クラッチ47を切作動させて低速出力ギヤ44から走行駆動軸S2及び高速出力ギヤ43から走行駆動軸S2への動力伝動を遮断させる中立位置(ニュートラル位置)とを有している。
【0034】
上記3位置からなる走行変速切換弁59は、上記制御部から出力される電気的な制御信号による作動するソレノイドによって前進位置と中立位置と後進位置との切換が行われる。ちなみに、走行変速切換弁59は、高速位置から低速位置に切換えられる際及び低速位置から高速位置に切換えられる際には、必ず一旦、中立位置に切換えられるように構成されている。
【0035】
そして、走行変速切換弁59を高速位置から低速位置又は低速位置から高速位置に切換えるにあたり、中立位置で走行変速切換弁59を所定時間(暫時,制御部の処理スピードに対して暫時)保持させることにより、同期処理(回転同期処理)を行い、副変速装置17下流側の慣性動力を抑制し、副変速装置17による変速切換時の変速ショックを低減させている。
【0036】
なお、この同期処理を行うために走行変速切換弁59を所定時間中立位置に保持させるので、走行変速切換時間が長くなるが、この走行変速切換時間をできるだけ短くするため、走行変速切換弁59から油圧タンク49への流路(排油路)61に絞り弁(絞り)62を設ける。
【0037】
上記構成により、高速位置から低速位置又は低速位置から高速位置に切換える際、走行変速切換弁59を中立位置に保持すると、高速クラッチ46及び低速クラッチ47の内、切換前に現に接続されていた油圧クラッチ46,47側の圧油の一部が、この絞り弁62の抵抗によって油圧タンク49に排油されずに、切換後に接続させる油圧クラッチ46,47側に流動供給される。続いて、走行変速切換弁59を低速位置又は高速位置に切換えると、切換後に接続させる油圧クラッチ46,47内に圧油が充填供給されてその油圧クラッチ46,47が完全に接続状態になるが、この際、該油圧クラッチ46,47には上記絞り弁62の作用によって前述したように既に所定量の圧油が供給されているため、該油圧クラッチ46,47の入作動時間(圧油充填時間)が短縮される。
【0038】
すなわち、変速切換前に現に接続状態にある油圧クラッチ46,47側からの排油を変速切換後に接続状態にさせる油圧クラッチ46,47側の圧油充填のために作用させた状態で、走行変速切換弁59を所定時間保持することにより前述した同期処理を行うため、副変速装置17の変速切換時における変速ショックを低減させつつ、変速切換によって動力が遮断させる時間を極力短くし、円滑な変速切換を行うことが可能になる。
【0039】
図4は、主変速装置及び副変速装置の走行変速段の一覧表である。本トラクタでは、上記変速レバーのグリップに設けられたシフトアップスイッチ(増速操作具,変速スイッチ)及びシフトダウンスイッチ(減速操作具,変速スイッチ)を押操作すると電気的な操作信号に変換されて制御部に入力される。上記制御部は、入力された操作信号に基づいて、上記4つの電磁比例弁56A,56B,56C,56D及び電磁方向切換弁59に電気的な制御信号(変速指令)を出力し、主変速装置13及び副変速装置17によって、4×2で計8段の走行変速切換を行う。
【0040】
具体的には、同図の一覧表に示すように、副変速装置17を低速状態で保持して主変速装置13を1速→2速→3速→4速と増速させていくことにより、主変速装置13及び副変速装置17の走行変速段を1速→2速→3速→4速と増速させるとともに、副変速装置17を高速状態で保持して主変速装置13を1速→2速→3速→4速と増速させていくことにより、主変速装置13及び副変速装置17の走行変速段を5速→6速→7速→8速と増速させる他、副変速装置17を低速から高速に切換え且つ主変速装置13を4速から1速に切換えることにより主変速装置13及び副変速装置17における走行変速段の4速から5速への切換を行う。一方、上記処理と逆の処理を行うことにより、主変速装置13及び副変速装置17の走行変速段を8速→7速→6速→5速→4速→3速→2速→1速へと減速させていく。
【0041】
なお、前述した走行変速装置は、速度切換装置16の低速時には、主変速装置13及び副変速装置17によって、1速乃至8速の間の何れかの変速段数への変速切換を行い、速度切換装置16の中速時には、主変速装置13及び副変速装置17によって、9速乃至16速の間の何れかの変速段数への変速切換を行い、速度切換装置16の高速時には、主変速装置13及び副変速装置17によって、17速乃至24速の間の何れかの変速段数への変速切換を行う。
【0042】
本トラクタでは、主変速装置13における1速(最低速段)から2速への速度比(本例では1.194)及び2速から3速(最高速段よりも1段低い変速段)への速度比(本例では1.208)のそれぞれと比較して、主変速装置13における3速から4速(最高速段)の速度比(本例では1.409)が大きくなるように、主変速装置13の各変速入力ギヤ22A,22B,22C,22D及び各変速出力ギヤ23A,23B,23C,23Dの歯数が設定させている。ちなみに、上記速度比は、変速切換後の速度が変速切換前の速度に対して何倍になったかを示す値であり、例えば、速度比が2.000であれば、エンジン6の回転数が同一の場合、変速後の速度は変速前の速度の2倍になることを意味する。
【0043】
また、主変速装置13を1速から4速(最高速段)に一気に変速切換した場合の速度比(本例では、2.034)と比べて、副変速装置を低速から高速に変速切換した場合の速度比(2.118)が僅かに大きくなるように、主変速装置13の各変速入力ギヤ22A,22B,22C,22D及び各変速出力ギヤ23A,23B,23C,23Dの歯数と、副変速装置17の高速入力ギヤ41、低速入力ギヤ42、高速出力ギヤ43及び低速出力ギヤ44の歯数とが設定されている。
【0044】
ちなみに、主変速装置13を1速から4速に一気に変速切換した場合の速度比は、2よりは大きく、2.05以下であることが好ましい。くわえて、副変速装置17の低速から高速への変速切換時の速度比を、主変速装置13を1速から4速に一気に変速切換した際の速度比で除算した値(主変速装置及び副変速装置の走行変速段を4速から5速に変速した際の速度比)は、主変速装置13を1速から4速に増速させた場合における一段増速毎の各速度比の平均(本例では、1.270)又は主変速装置13を1速から3速に増速させた場合における一段増速毎の各速度比の平均(本例では、1.201)よりも小さい1に近い値になるように設定されており、本例では1.041になる。
【0045】
図5は、変速切換時の主変速装置及び副変速装置の作動を示すタイミングチャート図である。速度切換装置16が低速又は中速に切換えられているとともに主変速装置13が最高速段である4速に切換えられ且つ副変速装置17が低速に切換えられている際、シフトアップスイッチの押操作を制御部が検出すると、直ちに、制御部が制御信号を出力して、4速バルブを全開で切位置に切換えるとともに走行変速切換弁59を中立位置に切換え、走行変速切換弁59を暫時(制御部の処理スピードに対して暫時,所定時間)中立位置で保持して前述の同期処理を行う。
【0046】
続いて、制御部は、副変速装置17の動力断続状態を検出可能な圧力スイッチ(入切検出手段)によって、副変速装置17の動力遮断状態が検出されるのを待ち、該状態が検出されると、走行変速切換弁59を高速位置に切換え、圧力スイッチ(検出手段)によって、副変速装置17の動力接続状態が検出されるのを待つ。そして、該状態が検出されると、制御部は、4速バルブ56Dを、切位置から入位置に切換えた後、直ぐに入位置から切位置に切換える。そして、その後、制御部は、4速バルブ56Dを介して4速クラッチ24Dの昇圧制御を行い、主変速装置17を徐々に接続状態にする。
【0047】
図6は、副変速装置の変速切換時における油圧クラッチの圧力特性を示し、(A)が絞り弁を設けない場合の本トラクタの圧力特性グラフであり、(B)が絞り弁を設けた場合の本トラクタの圧力特性グラフである。本トラクタにおいて、仮に、絞り弁62が設けられていない場合、制御部によって上記処理が行なわれると、走行変速切換弁59が中立位置に保持されている間に低速クラッチ47内の圧油が油圧タンク62に完全に排出され、副変速装置17が完全に動力遮断状態となるため、走行変速切換弁59が高速位置に切換えられ高速クラッチ46に圧油が充填させて副変速装置17が完全に動力接続状態となるまでの時間が長くなる。一方、絞り弁62が設けられている場合、制御部によって上記処理が行なわれると、走行変速切換弁59が中立位置に保持されている間に低速クラッチ47内の圧油の一部が絞り弁62の抵抗によって油圧タンク62に排出されずに高速クラッチ46内に供給されるため、走行変速切換弁59が高速位置に切換えられ高速クラッチ46に圧油が充填させて副変速装置17が完全に動力接続状態となるまでの時間が絞り弁を設けていないものに比べて短縮され、変速切換時のタイムラグも短くなる。
【0048】
次に、図1及び図7に基づき、走行機体の前半部の構成を詳述する。
図7(A),(B)は、遮音効果を有するとともに供給タンク等を載置可能なサイドカバーの平面図及び側面図である。前述のボンネット7は、後端部を支点に上下回動自在に取付支持されており、上記エンジンルームの前壁はフロントグリル63によって構成され、左側壁(側壁)64の一部は着脱自在に取付固定されたサイドカバー66によって構成されている。くわえて、左側壁64には開口部64aが穿設され、この開口部64aにマフラー67の排出口側端部(先端部)が臨んでいる。そして、この開放部64aを介してマフラー67先端部からエンジン6の排気ガスが排出される。
【0049】
このサイドカバー66下端縁の中途部から後端に至る範囲には、外側方(図示する例では左側方)に向けて一体的に板状のプレート(プレート部)68が延設されている他、サイドカバー66の前後には外気をエンジンルーム内に導入する通気部69が一対で設けられている。
【0050】
上記プレート68は、プレート68前端部を構成して側面視で上記開口部64aの真上に位置する水平な上段部68aと、プレート68後半部を構成して開口部64aの後方且つ開口部64aと略一高さに位置する水平な下段部68bと、上段部68aと下段部68bを連接する連接部68cとからなり、マフラー67先端側から発生する排気音が操縦部8側に伝わることを防止する遮音板として機能している。
【0051】
くわえて、エンジンルーム等、ある程度高い位置に燃料タンクを設けた場合、プレート68の下端部68bは、供給タンク(燃料供給タンク)から燃料タンクへの燃料の補充供給時における供給タンク用載置台として機能させることも可能であり、このように載置台として機能させた際には燃料タンクへの燃料供給時の作業負担が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の作業車両を適用したトラクタの全体側面図である。
【図2】本トラクタの動力伝動構造を示すミッションケースの側断面図である。
【図3】油圧クラッチ等の油圧機器に対して圧油の供給・排出を行う油圧装置の油圧回路図である。
【図4】主変速装置及び副変速装置の走行変速段の一覧表である。
【図5】変速操作に対する主変速装置及び副変速装置の作動を示すタイミングチャート図である。
【図6】副変速装置の変速切換時における油圧クラッチの圧力特性を示し、(A)が絞り弁を設けない場合の本トラクタの圧力特性グラフであり、(B)が絞り弁を設けた場合の本トラクタの圧力特性グラフである。
【図7】(A),(B)は、遮音効果を有するとともに供給タンク等を載置可能な左サイドカバーの平面図及び側面図である。
【符号の説明】
【0053】
13 主変速装置
17 副変速装置
24A 1速クラッチ(油圧クラッチ,変速クラッチ)
24B 2速クラッチ(油圧クラッチ,変速クラッチ)
24C 3速クラッチ(油圧クラッチ,変速クラッチ)
24D 4速クラッチ(油圧クラッチ,変速クラッチ)
46 高速クラッチ(油圧クラッチ,変速クラッチ)
47 低速クラッチ(油圧クラッチ,変速クラッチ)
56A 1速バルブ(電磁比例弁,電磁弁,変速バルブ)
56B 2速バルブ(電磁比例弁,電磁弁,変速バルブ)
56C 3速バルブ(電磁比例弁,電磁弁,変速バルブ)
56D 4速バルブ(電磁比例弁,電磁弁,変速バルブ)
59 走行変速切換弁(電磁方向切換弁,電磁弁,変速バルブ)
61 流路(排油路)
62 絞り弁(絞り)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速指令に基づき主変速装置(13)と副変速装置(17)の油圧クラッチ(24A),(24B),(24C),(24D),(46),(47)を切換えて走行変速を行う作業車両において、前記主変速装置(13)の油圧クラッチ(24A),(24B),(24C),(24D)を切換える電磁比例弁(56A),(56B),(56C),(56D)と、副変速装置(17)の油圧クラッチ(46),(47)を切換える3位置からなる電磁方向切換弁(59)とを設け、前記電磁方向切換弁(59)の排油路(61)に絞り(62)を介在させて、変速指令によって副変速装置(17)の油圧クラッチ(46),(47)を切換える必要がある場合には、前記電磁方向切換弁(59)を暫時中立位置に保持して、現に接続される油圧クラッチ(46),(47)から排出される圧油を次に接続する油圧クラッチ(46),(47)の圧油充填のために作用させた状態で、副変速装置(17)の回転同期処理を行った後、該油圧クラッチ(46),(47)が完全に接続されるように電磁方向切換弁(59)を切換える制御を行う作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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