説明

作物の栽培方法

【課題】初期不良果の発生を防止し、根群の深層化による生育の促進、安定化を図ることができる作物の栽培方法を提供すること。
【解決手段】崩壊性樹脂シートを袋状に形成し、内部に有機質培養土2を充填して植物育成袋を形成し、該植物育成袋1を畑土に埋め込み、該植物育成袋1の内部に栽培作物を植生して作物を栽培する作物の栽培方法、好ましくは、植物育成袋の上部のみを地上部に露出させることを特徴とする作物の栽培方法、あるいは、植物育成袋の上部から0〜50cmの範囲までを地上部に露出させることを特徴とする作物の栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物の栽培方法に関し、詳しくはトマトなどの栽培において初期不良果の発生を抑制し、根群の深層化による生育の促進、安定化を図ることができる作物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作物を栽培する際に、栽培土壌と隔離するために、育成袋や栽培ポットを用いる手法が知られている(特許文献1、2)。
【0003】
特許文献1に記載の栽培手法は、不透水性の不織布製の袋内に培養土を充填した育成袋を用意し、その育成袋を畑の畦などに埋め込んでおいて栽培するものである。
【0004】
この手法は、作物の根域を袋内に限定できるので、外部の有害土壌病害虫が根を介して進入することを軽減できる効果がある。
【0005】
しかし、この手法では不透水性の不織布製を用い、栽培の初期から最後まで水分補給し低部に水を溜めて栽培しているため、作物の根は容易に水を確保できるので、初期花房の生育がおお勢になりすぎ、変形果等の不良果の発生率が高まるという問題がある。
【0006】
また特許文献2に記載の生分解樹脂を用いた栽培ポットを用いる手法は、この栽培ポットは上部が開放しているために、露地栽培を行うために、土壌中に埋め込んだときに上部から雨が進入し、雨の量が多い時には、栽培ポット内に雨が進入し、根腐れを起こしたりする問題があり、また変形果等の不良果の発生を抑制できない問題がある。
【特許文献1】特開平07−312986号公報
【特許文献2】特開平07−203776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、初期不良果の発生を防止し、根群の深層化による生育の促進、安定化を図ることができる作物の栽培方法を提供することを課題とする。
【0008】
更に、本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0010】
(請求項1)崩壊性樹脂シートを袋状に形成し、内部に有機質培養土を充填して植物育成袋を形成し、該植物育成袋を畑土に埋め込み、該植物育成袋の内部に栽培作物を植生して作物を栽培する作物の栽培方法。
【0011】
(請求項2)植物育成袋の上部のみを地上部に露出させることを特徴とする請求項1記載の作物の栽培方法。
【0012】
(請求項3)植物育成袋の上部から0〜50cmの範囲までを地上部に露出させることを特徴とする請求項2記載の作物の栽培方法。
【0013】
(請求項4)有機質培養土が、無機質成分と有機質素材からなることを特徴とする請求項1、2又は3記載の作物の栽培方法。
【0014】
(請求項5)有機質培養土の量を1株当り0.01〜1000Lとし、この範囲で、当該培養土の量を調整することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の作物の栽培方法。
【0015】
(請求項6)有機質培養土の水分を50〜80%に調整することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の作物の栽培方法。
【0016】
(請求項7)植物育成袋の外側に施用することを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の作物の栽培方法。
【0017】
(請求項8)植物育成袋の地表部、側面及び底部の少なくとも一部の崩壊時期に変化を持たせることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の作物の栽培方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、初期不良果の発生を防止し、根群の深層化による生育の促進、安定化を図ることができる作物の栽培方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】

以下、本発明の最良の実施形態について図面を用いて説明する。
【0020】
図1は本発明に用いる植物育成袋の一例を示す概略断面図であり、図1において、1は崩壊性樹脂シートを用いて袋状に形成した植物育成袋である。
【0021】
袋状に形成する手段は特に限定されない。植物育成袋1の形態は図1に示すように袋状であってもよいし、図2に示すように長尺状に形成されてもよい。
【0022】
2は内部に充填される有機質培養土であり、有機質培養土2は、無機質成分と有機質素材からなることが好ましい。無機質成分と有機質素材の配合比は2〜4:6〜8の範囲程度が好ましい。
【0023】
有機質培養土の量は1株当り0.01〜1000Lとし、生育調節、移動の程度などの違いにより当該培養土の量を上記の範囲内で調整することが好ましい。
【0024】
本発明の態様によれば、根を袋状に包み込むことにより、生育を調節し、更に根を保護し、培養土の散乱を防ぎながら、植物体(栽培作物)の移動が容易になるだけでなく、崩壊性樹脂シートの使用により袋状のまま定植できる。野菜、花などの苗の移動、定植に有効なだけでなく、植木など樹木などのような比較的重量物の移動、植付け作業の軽減、更には環境保護にも寄与する。
【0025】
本発明では有機質培養土2の初期水分は、少ない方が好ましいので有機質培養土の50〜80%に調整することが好ましく、より好ましくは50〜60%の範囲である。かかる水分調整によりトマトの栽培における変形果等の不良果を抑制できる。
【0026】
無機質成分は、養分を安定供給できる幹質成分であれば特に限定されない。また有機質素材は物理性改良効果を発揮する有機質素材であれば特に限定されない。
【0027】
植物育成袋2を土壌中に埋め込む場合、図3(A)に示すように、植物育成袋2の上部のみを地上部に露出させるようにしてもよいし、また図3(B)に示すように植物育成袋2の上部から距離Lまでを地上部に露出させるようにしてもよい。距離Lは0〜50cmの範囲が好ましい。
【0028】
図3(B)に示すように植物育成袋2の上部にある高さまで露出させる場合、地上に曝される部位は、光劣化等による崩壊が生じ、土壌中の部位は土壌中の微生物により分解される。
【0029】
図1において、3は栽培作物である。
【0030】
本発明においては、図4(A)に示すように、植物育成袋2耕した土に埋め込む場合には耕土全体に慣行に従い施用することができるが、穴を掘った土に埋め込む場合には、植物育成袋2の底部の外側に置肥4を行うことが好ましい。かかる置肥4は簡便に肥料成分を供給でき、植物育成袋2が崩壊して根が袋から外部に伸長した場合に深部から肥料成分を吸収し、根の成長が促進される。また置肥4は多孔性の樹脂袋や崩壊性の樹脂袋により形成することもできる。置肥・施用に用いられる肥料は当該作物の目標収量に合わせた施用量が望ましい。
【0031】
火山培土地帯10a当り収量10tを目指す場合、吸収量はおよそ窒素30kg、リン酸10kg、カリウム50kgなので、施肥量はおよそ窒素45kg、リン酸50kg、カリウム70kgとなる。
【0032】
かかる施用を行うことにより、生育が安定し、良品多収という効果を発揮する。
【0033】
植物育成袋2を形成する際に用いられる崩壊性樹脂シートは、微生物、光、水分、熱、化学変化等により崩壊する樹脂によって形成された樹脂シートである。
【0034】
土壌中の微生物によって分解される崩壊性樹脂は大きく分けて微生物産出系、天然物利用系或いは化学合成系があるが、現在実用化され始めている崩壊性樹脂としては脂肪族ポリエステル系、変性ポリビニルアルコール、或いはでんぷん変性体などに大別される。脂肪族ポリエステルとしてはポリブチレンサクシネートやポリヒドロキシブチレートなどがあり、半合成系重合体としてポリ乳酸がある。
【0035】
本発明において、前記植物育成袋2の崩壊速度は、栽培用床土に接触するとその中に存在する微生物によって経時的に生分解されて土壌に同化するものであり、かつ崩壊性樹脂組成物が前記栽培用床土中において30日間に30〜60%の重量減少を生じるよう制御することが好ましい。
【0036】
崩壊性樹脂は、これらの樹脂の1種または2種以上を混合して使用できる。また、前記樹脂の他に、必要に応じて崩壊速度を調整するための充填剤、成形性を向上させるための可塑剤、pH調整剤等を添加してもよく、これらの添加剤は土壌に同化するものであれば特に限定されない。例えば、前記充填剤としては鉱物質のタルクやカオリン、炭酸カルシウム、マイカ等の無機充填剤、または澱粉、小麦粉、もみ殻、セルロース、グルテン等の有機充填剤、可塑剤としてはグリセリン、エチレングリコール等を使用できる。
【0037】
なお、pHは使用する前記充填剤の種類および量によって調整することができる。これらの添加剤は、前記崩壊性樹脂組成物に所定速度の崩壊性を発現させるとともに、シートの保管性等を良くするために、前記樹脂100重量部に対してそれぞれ次の範囲内で配合することが好ましい。無機充填剤は0〜50重量部が好ましく、特に0〜20重量部が好ましい。有機充填剤は0〜70重量部が好ましく、特に0〜40重量部が好ましい。可塑剤は0〜100重量部が好ましく、特に0〜50重量部が好ましい。
【0038】
以下に、本発明の作物栽培方法の一例を図4に基づいて説明する。まず図4の(A)に示すように、植物育成袋2を栽培土壌中に埋め込む。埋め込み方は前述した。植物育成袋2の周囲には例えば置肥4を行う。
【0039】
次いで、水分補給をしない状態で図4(B)のように根が袋内で充分に張り巡らす。根は水分指向性があるので、水分が少ないと水分を求めて縦横無尽に伸長していく。同図にはその結果が現れている。
【0040】
このように根群の深層化が実現すると、袋が存在しなくなって土壌中の病害虫菌に根が接触しても、病害虫菌の影響は受けにくくなり、生育の促進、安定化が図れる。
【0041】
次いで、図4(C)のように、袋2の表面に横線5の崩壊現象が現れる。この現象はトマトの栽培の場合、若芽では60日内外、大苗では30日内外に現れるのが望ましい。
【0042】
次いで、図4(D)に示すように袋全体が崩壊し、根は置肥4を有効に吸収し、生長する。この崩壊時期は栽培開始後30日〜60日であるので、置肥4が存在すると、丁度果実の糖度を増す時期に当り、良質な果実を誕生させる。
【0043】
このように果実の生長や熟成の時期に合わせて根圏制御を行うことができるので、高品質化生産を可能にする。
【0044】
次に、本発明の他の実施態様としては、植物育成袋の地表部、側面及び底部の少なくとも一部の崩壊時期に変化を持たせることが好ましい。崩壊時期に変化を持たせる手段は、特に限定されないが、地表部、側面及び底部の各部の素材を崩壊時期の異なる樹脂で形成する手法でもよいし、あるいは同種樹脂で厚みを変化させる手法などでもよい。
【0045】
太根の深層への発根を促し、生育を強化すると共に病害虫菌等の侵入を軽減できる。崩壊の過程において、底部が最も早く崩壊し、次いで側面、地上部の順に崩壊が進むのが望ましい。なお、植物育成袋の作用は培養土量の多少による植物の生育調整に加えて、根群の保護、伸長調節にも役立つほか、地表部分は、マルチング効果(主として病害虫防除、遮光、水分調整など)も期待される。また開口部の直径は0〜15cmの範囲が好ましい。
【0046】
図5には、本発明の他の好ましい実施態様を示す図であり、同図において、Aは地上部であり、植物育成袋が地面より露出している部位である。この部分はマルチ効果が期待できる。地下部に埋め込み部があり、風水等により地表よりはがれにくくするのが望ましい。Bは側面であり、袋の埋め込み部分の側部に位置する。Cは底面部であり、袋の底部で、一部側面部を含んでもよい。
【0047】
本発明に用いられるシートは、単層は勿論、多層フィルム(白層と黒層からなる2層フィルムなど)でも構わない。
【0048】
本発明の作物の栽培方法は、トマト・ナス・ピーマン等の果菜類、ほうれん草・レタスなどの葉菜類、ダイコン・ニンジンなどの根菜類、蚕豆・インゲンなどの豆類等からなる野菜類、みかん・なし・サクランボなどの果実類、草花やラン等の花卉類、さらには松、杉等の樹木類にも適用可能である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明の効果を例証する。
【0050】
生分解フィルムを袋状に加工し、その中に有機質培養土を約15リットル充填し、植物育成袋を作成した。
【0051】
有機質培養土は、みかど育種農場社製「パワー培土」とエスカサービス社製「エスカ有機」を用いた。配合比はパワー培土:エスカ有機=7:3混合とした。
【0052】
次いで、上記の植物育成袋を地上部に20cm露出するようにして、慣行の畑地に埋め込んだ。
【0053】
植物育成袋の上部に植生穴をあけ、その植生穴に以下のトマト苗を定植した。
【0054】
なお、生長後半に根が植物育成袋を破って植物育成袋から外に伸長することを想定して、植物育成袋底部の外側にも前述のエスカ有機を作型施用基準に合わせて施用した。
【0055】
耕種概要は以下の通りである。
【0056】
品種;みそら(自根株)
定植日;5月10日
仕立て方;2本立て
潅水;定植初期と30日後に株当り約1.5Lの水を注入、潅水した
(評価)
(1)根圏と地上部の成長具合と、果実の着果肥大に対する影響を観察した。
(2)崩壊性フィルムの耐候性と分解スピードについて調べた。
【0057】
(観察結果)
(ア)根圏と地上部の成長具合と、果実の着果肥大に対する影響
定植後の活着は順調に進み、側枝の発生も慣行の普通栽培と何等変わりなかった。
【0058】
第3花房開花初期まで潅水を控えるように努め、茎葉を硬めに作るように管理した結果、果実は水切り栽培トマトのように第一花房ではひとまわり小果となったが、その後は普通栽培と同様に肥大した。また、着果性には特に問題がなかった。
【0059】
7月1日まで更に潅水をしないで栽培してきたため、上段まで節間がつまり、茎の太さも1.2cm径内外とほぼ一定の太さに推移していた。
【0060】
雌花数と着果性についても特に異常は見られなかった。
【0061】
(イ)崩壊性フィルムの耐候性と分解スピード
5月〜6月(2ヶ月間)のハウス内気候条件で、フィルムに細かい穴状の亀裂が入り出し、それが僅かにスリット状に分解し出すまで約30日間を要した。
【0062】
しかし、60日後でも袋全体が破れるような状態に至っておらず、フィルム強度も僅かに残っていた。
【0063】
袋内の根群は根量も多く、巻き上がることなく地中に向かって広く、正常に伸張した。根群の一部は、0.5〜2mm径程度の太さの根が深部で数本フィルムを突き破っていた。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に用いる植物育成袋の一例を示す概略断面図
【図2】本発明に用いる植物育成袋の他の例を示す概略斜視図
【図3】本発明に用いる植物育成袋の埋め込み例を示す図
【図4】本発明の作物栽培例を示す図
【図5】本発明の他の態様を示す図
【符号の説明】
【0065】
1:植物育成袋
2:有機質培養土
3:栽培作物
4:置肥
5:横線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
崩壊性樹脂シートを袋状に形成し、内部に有機質培養土を充填して植物育成袋を形成し、該植物育成袋を畑土に埋め込み、該植物育成袋の内部に栽培作物を植生して作物を栽培する作物の栽培方法。
【請求項2】
植物育成袋の上部のみを地上部に露出させることを特徴とする請求項1記載の作物の栽培方法。
【請求項3】
植物育成袋の上部から0〜50cmの範囲までを地上部に露出させることを特徴とする請求項2記載の作物の栽培方法。
【請求項4】
有機質培養土が、無機質成分と有機質素材からなることを特徴とする請求項1、2又は3記載の作物の栽培方法。
【請求項5】
有機質培養土の量を1株当り0.01〜1000Lとし、この範囲で、当該培養土の量を調整することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の作物の栽培方法。
【請求項6】
有機質培養土の水分を50〜80%に調整することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の作物の栽培方法。
【請求項7】
植物育成袋の外側に施用することを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の作物の栽培方法。
【請求項8】
植物育成袋の地表部、側面及び底部の少なくとも一部の崩壊時期に変化を持たせることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の作物の栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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