説明

作用領域内の磁性材料を検出且つ/或いは位置特定する装置及び方法

磁性粒子撮像(MPI)において、再構成は所謂システム関数の知識を必要とする。この関数は、空間位置と周波数応答との間の関係を記述するものであり、現行では、或るスキャナ設定とトレーサ材料とについて一度測定されている。妥当な分解能及び視野のためには、システム関数は非常に大きいものになり、妥当な信号対雑音比を得るのに多大な収集時間をもたらす。しかしながら、システム関数は、信号対雑音比を改善することに使用可能な数多くの特性を有している。本発明によれば、この目的のために、空間的な対称性、及び/又は相異なる周波数で同一の応答が使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作用領域内の磁気材料を検出且つ/或いは位置特定する装置に関する。本発明はまた、そのような装置で使用されるプロセッサに関する。本発明は更に、対応する方法、及び該装置の制御用のコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置は特許文献1から知られている。この文献に記載された装置においては、先ず、比較的低い磁場強度を有する第1のサブゾーン(部分領域)と比較的高い磁場強度を有する第2のサブゾーンとが検査領域内に形成されるように、或る空間分布をした磁場強度を有する磁場が生成される。そして、検査領域内の粒子の磁化が局所的に変化するように、検査領域内のこれらサブゾーンの空間内での位置がシフトされる。これらサブゾーンの空間内での位置シフトに影響された検査領域内の磁化に依存する信号が記録され、これらの信号から、検査領域内の磁性粒子の空間分布に関する情報が抽出され、それにより、検査領域の画像が形成され得る。このような装置は、例えば人体といった任意の検査対象について、その表面付近及びその表面から遠隔の双方において、非破壊的に、如何なる損傷をも生じさせることなく、且つ高い空間解像度で、検査対象を検査するために使用することができるという利点を有する。
【0003】
同様の装置及び方法が非特許文献1から知られている。この文献に記載された磁性粒子撮像(magnetic particle imaging;MPI)用の装置及び方法は、小さい磁性粒子の非線形な磁化曲線を利用するものである。
【0004】
MPIは、磁性ナノ粒子の分布を撮像する方法であり、高い感度を高速な動的撮像の能力と組み合わせ、当該方法を医療撮像用途に有望な候補にするものである。MPIは、局在化された励起プロセスを動的に移動させることに基づく新たな信号エンコーディング方法を適用し、高速なボリューム(容積)撮像を可能にする。しかしながら、MRI及びCTのような確立された撮像モダリティとは対照的に、収集データから画像を再構成するための単純な数学的変換が未だ特定されていない。故に、MPI画像再構成は、粒子の所与の空間分布に対するシステム応答を記述する、すなわち、粒子位置を周波数応答にマッピングする“システム関数”についての知識を必要とする。この再構成の問題を解くには、システム関数を反転させなければならず、通常、何らかの正則化手法を必要とする。
【0005】
システム関数は、画像の画素(ピクセル)又はボクセルの数に対応する多数の空間位置で点状サンプルの磁化応答を測定することによって、実験的に決定されることができる。この校正手順は、非常に長い収集時間を必要とするとともに、ノイズによって品質を損なわれたシステム関数をもたらしてしまう。システム関数行列のサイズが大きいことに起因して、逆(反転)再構成問題を解くことも、極めて時間を消費し、且つ多量の計算機メモリを必要とする。また、妥当な信号対雑音比(SNR)を得るためには、多大なる収集時間が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第10151778号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Gleich,B、Weizenecker,J、「Tomographic imaging using the nonlinear response of magnetic particles」、nature、第435巻、2005年6月30日、pp.1214-1217
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、SNRを高めることが可能な、作用領域内の磁性材料を検出且つ/或いは位置特定する装置及び方法を提供することを1つの目的とする。好ましくは、提案する装置及び方法はまた、システム関数のシステム関数データの収集及び/又は画像再構成のために、より短い時間のみを必要とし、且つ/或いはシステム関数のシステム関数データを格納するために、より少ない記憶空間のみを必要とし得る。さらに、対応するプロセッサ及び処理方法、並びに該装置の制御用のコンピュータプログラムが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様において、請求項1に規定される装置が提供され、当該装置は:
− 低磁場強度を有する第1の部分領域(サブゾーン)と、より高い磁場強度を有する第2の部分領域(サブゾーン)とが前記作用領域内に形成されるよう、磁場強度の空間パターンを有する選択磁場を生成する選択手段と、
− 前記磁性材料の磁化が局所的に変化するよう、駆動磁場によって、前記作用領域内の2つの前記部分領域の空間位置を変化させる駆動手段と、
− 検出信号を収集する受信手段であり、前記検出信号は、前記第1及び第2の部分領域の空間位置の変化によって影響される前記磁化に依存する、受信手段と、
− 当該装置のシステム関数の、測定されたシステム関数データのうち、少なくともサブセットを格納する記憶手段であり、前記システム関数は、前記磁性材料の空間位置と当該装置のシステム応答との間の関係と、前記システム関数データの収集のために前記第1の部分領域が移動される軌道と、を記述するシステム関数データセットを有する、記憶手段と、
− 前記システム関数の構造に関する更なる知識を用いて前記測定されたシステム関数データを処理することによって、前記測定されたシステム関数データより高いSNRを有する処理されたシステム関数データを生成する処理手段と、
− 前記検出信号及び前記処理されたシステム関数データから、前記作用領域内の前記磁性材料の空間分布を再構成する再構成手段と、
を有する。
【0010】
本発明の第2の態様において、請求項1に記載の作用領域内の磁性材料を検出且つ/或いは位置特定する装置にて使用される請求項7に記載のプロセッサが提供され、当該プロセッサは、測定されたシステム関数データより高いSNRを有する処理されたシステム関数データを、前記システム関数の構造に関する更なる知識を用いて前記測定されたシステム関数データを処理することによって生成するように適応される。
【0011】
本発明の更なる一態様において、請求項8及び9に規定される対応する方法が提供される。
【0012】
本発明の更なる他の一態様において、プログラムコード手段を有するコンピュータプログラムが提供され、前記プログラムコード手段は、当該コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるときに、請求項8又は9に記載の方法のステップを実行するように前記コンピュータに請求項1に記載の装置を制御させる。
【0013】
本発明の好適な実施形態が従属請求項にて規定される。理解されるように、請求項に記載の方法及びコンピュータプログラムは、従属請求項に規定される特許請求に係る装置と同様且つ/或いは等しい好適実施形態を有する。
【0014】
信号エンコーディング処理の理論的な理解から、システム関数の収集を高速化するため、且つ/或いはシステム関数の一部又は全てを更にシミュレートするために使用されることが可能な、システム関数の構造に関する知見が得られている。行列構造に関する情報も、システム関数の一層コンパクトな表現を見出し、メモリ要求を低減すること及び再構成を高速化することの更なる助けとなるように使用されることができる。さらに、データから画像へと通じる数学的変換の特定は、再構成処理を高速化するために使用され得る。また、システム関数の特性に関する知識が、SNRを高めるために使用されている。
【0015】
本発明の第1の態様によれば、この一般概念がSNRを高めるために活用される。具体的には、システム関数の構造に関する知識が再構成にて使用される。この知識は、好適実施形態に規定されるように、システム関数の周波数成分内に生じる単純な空間的な対称性、又は空間成分内のスペクトル的な冗長性に関する情報を有し得る。この知識は、装置すなわちスキャナ設定と、低磁場強度を有する第1のサブゾーン(“無磁場点(FFP)”としても参照される)の運動の軌道と、磁性材料との所与の組み合わせに関する、MPIエンコーディング手法の解析的分析、又はエンコーディング処理のシミュレーションから得ることができる。
【0016】
好適な一実施形態によれば、処理手段は、完全なシステム関数の周波数成分内に存在する、空間的な対称性、特に空間的な鏡面対称性により同じ情報を共有する相異なる空間位置で収集された信号を結合、特に平均化するように適応される。このような空間的な対称性は、実測定によって得られるだけでなく、軌道(及びその対称性)の知識、粒子の磁化曲線、及び装置(特に、その選択手段、駆動手段及び受信手段)の設定(及びその対称性)の知識を用いた理論的な考察からも得られる。例えば、ランジュバン粒子を有するリサジュー軌道の場合、明確な周波数依存パリティを有する空間的な鏡面対称性が観測される。対称性に起因して、完全なシステム関数内には相異なる空間位置に同一の情報が存在しており、それが、システム関数のSNRを高めるために、結合、例えば、平均化される。
【0017】
他の一実施形態によれば、処理手段は、同様の空間情報を有する完全なシステム関数データの周波数成分を足し合わせるように適応される。無磁場点の運動には複数の駆動磁場周波数が関与するので、非線形な粒子応答によって生成される信号は、それらの周波数の和及び差分を含んでいる。それぞれの周波数成分は、同じ空間パターンを共有しており、故に、情報の喪失なく結合されることが可能である。これは、システム関数行列内の行の数の削減をもたらす。
【0018】
好ましくは、受信手段は、磁性材料のプローブが後に作用領域内の複数の異なる位置に配置されるときに信号を検出することによって、装置のシステム関数の完全なシステム関数データを収集するように適応され、記憶手段は、完全なシステム関数データを格納するように適応される。このタイプの収集は、本発明によれば作用領域をカバーする格子(グリッド)の全ての位置に(静止している検査対象とは対照的に)プローブが移動されることは別として、特に作用領域中でのFFPの運動に関して、すなわち、使用される軌道に関して、例えば患者といった(実際の)検査対象からの信号の収集と、さほど異ならない。
【0019】
更なる実施形態によれば、既に利用可能な完全なシステム関数データを有すること(又は、それを完全に収集して、より高いSNRを有する処理されたシステム関数データを生成すること)は必須でなく、完全なシステム関数データのうちの利用可能なサブセット(部分集合)から開始することも可能である。システム関数データのサブセットのみを収集するために、プローブは、作用領域をカバーするグリッドの全ての位置に移動されるのではなく、そのうちの削減された点の組にのみ移動される。
【0020】
このような実施形態のうちの1つによれば、処理手段は、完全なシステム関数データのうちの利用可能なサブセットの周波数成分内に存在する、空間的な対称性、特に空間的な鏡面対称性のために同じ情報を共有する相異なる空間位置で収集された信号を結合、特に平均化し、且つ空間的な対称性の使用により、結合された信号から完全なシステム関数を再構成するように適応される。例えば、システム関数データの半分が収集され、このサブセットを用いて、例えば2つの隣接し合う象限又は八分円(オクタント)といった、2つの領域からの利用可能なシステム関数データの平均化のステップが実行され得る。これらの平均化されたシステム関数データから、システム関数の構造に関する更なる知識を使用することにより、完全なシステム関数データセットが決定され得る。
【0021】
他の一実施形態によれば、処理手段は、同様の空間情報を有する完全なシステム関数データのうちの利用可能なサブセットの周波数成分を足し合わせ、且つ該周波数成分内に存在する該空間情報の使用により、足し合わされた周波数成分から完全なシステム関数を再構成するように適応される。
【0022】
システム関数データのサブセットの収集のためにプローブが配置される位置については、数多くの異なる選択肢が存在する。有利な実施形態によれば、複数の位置が、作用領域の1つの象限又はオクタント内に位置付けられ、あるいは作用領域全体にインターリーブ的に分布される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本発明の上述及びその他の態様は、以下にて説明される実施形態を参照することで明らかになる。
【図1】本発明に従った装置を示す図である。
【図2】本発明に従った装置によって作り出される磁力線の一例を示す図である。
【図3】作用領域内に存在する磁性粒子を示す拡大図である。
【図4a】粒子の磁化特性を示す図である。
【図4b】粒子の磁化特性を示す図である。
【図5】本発明に従った装置を示すブロック図である。
【図6a】時間依存検出信号s(t)を示す図である。
【図6b】時間依存検出信号のスペクトルSnを示す図である。
【図7】異なる駆動磁場及び粒子磁化曲線について、粒子の磁化応答M(t)、収集される時間信号s(t)、及び大きさスペクトル成分Snを示す図である。
【図8】理想粒子応答と選択磁場オフセットとの間の関係を例示する図である。
【図9】一定勾配の選択磁場と組み合わされた高調波駆動磁場について、スペクトル信号成分の空間依存性を例示する図である。
【図10】Hz磁場成分に対する理想粒子磁化の導関数を例示する図である。
【図11】z方向の中心線に沿った1D FFP動作について、異なる高調波での理想粒子システム関数を例示する図である。
【図12】x/z周波数比を24/25とした2DリサジューFFP動作について、理想粒子システム関数の連続した周波数成分を例示する図である。
【図13】2Dチェビシェフ関数を画像的に表すテーブルを示す図である。
【図14】最初の256個の基本セット成分の直交プロットを示す図である。
【図15】64×64のサンプル画像と、チェビシェフ関数成分及びシステム関数成分への展開からの再構成物とを示す図である。
【図16】既知の方法に従った再構成における、システム関数行列又はその部分の使用を例示する図である。
【図17】本発明の実施形態に従った再構成における、システム関数行列又はその部分の使用を例示する図である。
【図18】本発明の実施形態に従った再構成における、システム関数行列又はその部分の使用を例示する図である。
【図19】本発明の実施形態に従った再構成における、システム関数行列又はその部分の使用を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明に従った装置10によって検査される任意の対象物を示している。図1の参照符号350は、このケースではヒト又は動物の患者である対象物を表しており、該対象物は、頂面のみが図示された患者テーブル上に配置されている。本発明に従った方法の適用に先立ち、本発明に係る装置10の作用領域300内に磁性粒子100(図1には図示せず)が配置される。特に、例えば腫瘍の治療処置及び/又は診断処置に先立ち、例えば、患者350の体内に注入される磁性粒子100を有する液体(図示せず)によって、作用領域300内に磁性粒子100が位置付けられる。
【0025】
本発明の一実施形態の一例として、図2には、選択手段210を形成する複数のコイルを有する装置10が示されている。選択手段210の対象範囲が、処置領域300とも呼ぶ作用領域300を定める。例えば、選択手段210は、患者350の上方及び下方、又はテーブル頂面の上方及び下方に配置される。例えば、選択手段210は、患者350の上下で同軸に配置され且つ、特に反対方向に、等しい電流によって横切られる2つの相等しく構築された巻線210’及び210”からなる第1の対のコイル210’、210”を有する。以下では、第1のコイル対210’、210”を総称して選択手段210と呼ぶ。好ましくは、このケースでは直流電流が使用される。選択手段210は、図2において磁力線によって表される傾斜磁場であることが一般的な選択磁場211を生成する。この磁場は、選択手段210のコイル対の軸(例えば、鉛直軸)の方向に実質的に一定の勾配を有し、この軸上の点で値ゼロに至る。この無磁場点(図2には個別に示さない)から始めて、選択磁場211の磁場強度は、3つの空間方向の全てにおいて、該無磁場点からの距離が増大するに連れて増大する。無磁場点の周りの破線によって示す第1のサブゾーン301又は部分領域301においては磁場強度が小さいため、該第1のサブゾーン301内に存在する粒子100の磁化は飽和しないが、第2のサブゾーン内(領域301の外側)に存在する粒子100の磁化は飽和状態にある。無磁場点又は作用領域300の第1のサブゾーン301は、好ましくは空間的にコヒーレントな領域であり、また、点状領域又は直線状あるいはフラットな領域であり得る。第2のサブゾーン302(すなわち、第1のサブゾーン301の外側の、作用領域300の残り部分)においては、磁場強度は粒子100を飽和状態に維持するのに十分な強さである。作用領域300内で2つのサブゾーン301、302の位置を変化させることにより、作用領域300内の(全体的な)磁化が変化する。作用領域300内の磁化又は該磁化によって影響される物理パラメータを測定することにより、作用領域内の磁性粒子の空間分布に関する情報を得ることができる。作用領域300内の2つのサブゾーン301、302の相対的な空間位置を変化させるため、更なる磁場である所謂“駆動磁場”221が、作用領域300内又は作用領域300の少なくとも一部内で選択磁場211に重畳される。
【0026】
図3は、本発明に係る装置10とともに使用される種類の磁性粒子100の一例を示している。磁性粒子100は例えば、軟磁性層102を備えた、例えばガラスの、球状基板101を有し、軟磁性層102は、例えば5nmの厚さを有し、例えば鉄ニッケル合金(例えば、パーマロイ)からなる。この層は、例えば、酸などの化学的且つ/或いは物理的に攻撃的な環境から粒子100を保護する被覆層103によって覆われていてもよい。このような粒子100の磁化の飽和に必要な選択磁場211の磁場強度は、例えば粒子100の直径、磁性層102に使用される磁性材料及びその他のパラメータなどの、様々なパラメータに依存する。
【0027】
例えば10μmの直径の場合、およそ800A/m(近似的に1mTの磁束密度に相当する)の磁場が必要とされるが、100μmの直径の場合には、80A/mの磁場で十分である。より低い飽和磁化を有する材料の被覆102が選択されるとき、又は層102の厚さが低減されるとき、更に低い値が得られる。
【0028】
好適な磁性粒子100の更なる詳細については、先述の特許文献1の対応部分、特に、特許文献1の優先権を主張する欧州特許出願公開第1304542号明細書の段落16−20及び段落57−61をここに援用する。
【0029】
第1のサブゾーン301の大きさは、選択磁場211の勾配の強さと、飽和に必要な磁場強度とに依存する。80A/mの磁場強度と、160×10A/mに達する選択磁場211の(所与の空間方向での)磁場強度勾配とでの、磁性粒子100の十分な飽和のため、粒子100の磁化が飽和されない第1のサブゾーン301は(所与の空間方向において)約1mmの寸法を有する。
【0030】
駆動磁場と呼ぶ更なる磁場が、作用領域300内の選択磁場211(又は傾斜磁場211)に重畳されるとき、第1のサブゾーン301は、この駆動磁場221の方向に、第2のサブゾーン302に対してずらされる(シフトされる)。このシフトの程度は、駆動磁場221の強度が増すに連れて増大する。重畳される駆動磁場221が時間変動するとき、第1のサブゾーン301の位置はそれに従って時間的且つ空間的に変化する。第1のサブゾーン301内に位置する磁性粒子100からの信号を、駆動磁場221の変動の周波数帯域で受信あるいは検出することより、(より高い周波数にシフトされた)別の周波数帯域で受信あるいは検出することが有利である。これが可能であるのは、磁化特性の非線形性の結果としての作用領域300内の磁性粒子100の磁化の変化により、駆動磁場221の周波数の高調波の周波数成分が発生するためである。
【0031】
任意の所与の空間方向でこれらの駆動磁場221を生成するため、3つの更なるコイル、すなわち、第2のコイル対220’、第3のコイル対220”及び第4のコイル対220’’’が設けられる。以下では、これらを総称して駆動手段220と呼ぶ。例えば、第2のコイル対220’は、第1のコイル対210’、210”すなわち選択手段210のコイル軸の方向、すなわち例えば鉛直方向、に延在する駆動磁場221の成分を生成する。この目的のため、第2のコイル対220’の巻線は、同一方向の相等しい電流で横切られる。第2のコイル対220’によって達成されることが可能な効果は、原理的に、第1のコイル対210’、210”内の反対方向の相等しい電流に、一方のコイルで電流が減少し且つ他方のコイルで電流が増加するように、同一方向の電流を重畳することによっても達成されることができる。しかしながら、そして特に、より高い信号対雑音比での信号解釈の目的では、時間的に一定の(あるいは、擬似的に一定の)選択磁場211(傾斜磁場とも呼ばれる)と時間変動する鉛直方向の駆動磁場とが、選択手段210のコイル対と駆動手段220のコイル対という別々のコイル対によって生成されることが有利となり得る。
【0032】
2つの更なるコイル対220”、220’’’は、例えば作用領域300(又は、患者350)の長手方向に水平な方向といった異なる1つの空間方向と、それに垂直な方向とに延在する駆動磁場221の成分を生成するために設けられる。仮に、この目的のために(選択手段210及び駆動手段220のコイル対のような)ヘルムホルツ型の第3及び第4のコイル対220”、220’’’が用いられる場合、これらのコイル対は、それぞれ、処置領域の左右又は該領域の前後に配置されなければならないことになる。そうすることは、作用領域300又は処置領域300へのアクセスのしやすさに影響を及ぼすことになる。故に、第3及び/又は第4の磁気コイル対すなわちコイル220”、220’’’も作用領域300の上下に配置され、それ故に、巻線構成は第2のコイル対220’のそれとは異なるものにされなければならない。この種のコイルは、無線周波数(RF)コイル対が処置領域の上下に置かれ、該RFコイル対によって水平方向の時間変動する磁場を生成することが可能な、オープン磁石を有する磁気共鳴装置(オープンMRI)の分野で知られている。従って、これらのコイルの構成はここで更に詳述する必要のないものである。
【0033】
本発明に従った装置10は更に、図1では単に模式的に示した受信手段230を有する。受信手段230は通常、作用領域300内の磁性粒子100の磁化パターンによって誘起された信号を検出することが可能なコイルを有する。この種のコイルは、例えば、可能な限り高い信号対雑音比を有するように無線周波数(RF)コイル対が作用領域300の周りに置かれる磁気共鳴装置の分野で知られている。従って、これらのコイルの構成はここで更に詳述する必要のないものである。
【0034】
図1に示した選択手段210の代替的な一実施形態においては、傾斜選択磁場211を生成するために永久磁石(図示せず)を用いることができる。そのような(対向する)永久磁石(図示せず)の対向する極が同じ極性を有するとき、永久磁石の2つの極の間の空間内に、図2の磁場と同様の磁場が形成される。本発明に従った装置の代替的な一実施形態においては、選択手段210は、少なくとも1つの永久磁石と、図2に示したような少なくとも1つのコイル210’、210”との双方を有する。
【0035】
選択手段210、駆動手段220及び受信手段230の相異なる成分のために、あるいは該相異なる成分にて、通常使用される周波数範囲は概して以下のようにされる。選択手段210によって生成される磁場は、時間的に全く変化しない、あるいは、その変化はかなり低速であり、好ましくはおよそ1Hzとおよそ100Hzとの間である。駆動手段220によって生成される磁場は、好ましくはおよそ25kHzとおよそ100kHzとの間で変化する。受信手段が感度を有することが想定される磁場変化は、好ましくはおよそ50kHzからおよそ10MHzまでの周波数範囲内にある。
【0036】
図4a及び4bは、粒子100(図4a及び4bには図示せず)を有する分散系における、粒子100の磁化特性すなわち磁化Mの変化を、粒子100の位置での磁場強度Hの関数として示している。磁化Mは+Hを超える磁場強度及び−H未満の磁場強度ではもはや変化しないように見える。これは、磁化飽和に達したことを意味する。磁化Mは+Hと−Hとの間の値では飽和していない。
【0037】
図4aは、結果としての(すなわち、“粒子100によって見られる”)正弦波磁場H(t)の絶対値が、粒子100を磁気的に飽和させるのに必要な磁場強度より低い場合の、すなわち、更なる磁場がアクティブでない場合の、粒子100の位置での正弦波磁場H(t)の効果を例示している。この条件での粒子100又は粒子群100の磁化は、その2つの飽和値の間で磁場H(t)の周波数のリズムで往復する。結果として得られる磁化の時間変動は、図4aの右側のM(t)によって示されている。磁化も周期的に変化し、このような粒子の磁化は周期的に反転されることが示されている。
【0038】
曲線の中心にある破線部は、磁化M(t)の近似的な平均変化を、正弦波磁場H(t)の磁場強度の関数として表している。この中心線からの逸脱として、磁化は、磁場Hが−Hから+Hに増加するときに僅かに右に広がり、磁場Hが+Hから−Hに減少するときに僅かに左に広がる。この既知の効果は、熱の生成のメカニズムの根底にあるヒステリシス効果と呼ばれている。曲線の2つの経路間に形成されるヒステリシス表面並びにその形状及び大きさは、材料に依存するものであり、磁化の変化を受けての熱生成の指標である。
【0039】
図4bは、静磁場Hが重畳された正弦波磁場H(t)の効果を示している。磁化は飽和状態にあるため、正弦波磁場H(t)による影響を実効的に受けない。この領域において、磁化M(t)は時間的に一定のままである。従って、磁場H(t)は磁化の状態変化を引き起こさない。
【0040】
図5は、図1に示した装置10のブロック図を示している。コイル対210’、210”は、図5において概略的に示されており、明瞭化のために参照符号210を付されている。コイル対(第1の磁気手段)210は、制御ユニット76によって制御される制御可能な電流源32からDC電流を供給される。制御ユニット76はコンピュータ12に接続されており、コンピュータ12は、検査領域内の磁性粒子の分布を表示するモニタ13と、例えばキーボード14といった入力装置14とに結合されている。
【0041】
コイル対(第2の磁気手段)220’、220”、220’’’は、電流増幅器41、51、61に接続され、それらから自身の電流を受け取る。そして、電流増幅器41、51、61は、それぞれ、増幅されるべき電流Ix、Iy、Izの時間的進行を定めるAC電流源42、52、62に接続されている。AC電流源42、52、62は制御ユニット76によって制御される。
【0042】
図5には、受信コイル(受信手段)230も概略的に示されている。受信コイル230に誘起される信号はフィルタユニット71に送られ、それによって該信号はフィルタリングされる。このフィルタリングの目的は、2つの部分領域(301、302)の位置変化による影響を受ける検査領域内の磁化によって発生される測定信号を、干渉するその他の信号から分離することである。この目的のため、フィルタユニット71は、例えば、コイル対220’、220”、220’’’が動作される時間周波数より低い、あるいはこれらの時間周波数の2倍より低い時間周波数を有する信号がフィルタユニット71を通過しないように設計され得る。信号は、その後、増幅器ユニット72を介してアナログ/デジタル変換器(ADC)73へと伝送される。アナログ/デジタル変換器73によって作り出されたデジタル化された信号は、画像処理ユニット(再構成手段とも呼ぶ)74に送られ、画像処理ユニット74が、これらの信号と、検査領域内の第1の磁場の第1の部分領域301がそれぞれの信号の受信中に推測し且つ画像処理ユニット74が制御ユニットから取得したそれぞれの位置とから、磁性粒子の空間分布を再構成する。再構成された磁性粒子の空間分布は、制御ユニット76を介して最終的にコンピュータ12に伝送され、コンピュータ12が該空間分布をモニタ13上で表示する。
【0043】
この装置はまた、収集された検出信号及び装置10のシステム関数データを格納するために画像処理ユニット74に結合された、例えばハードディスク又は半導体メモリといった記憶手段75を有している。
【0044】
本発明によれば、装置のシステム関数は、磁性材料の空間位置と装置のシステム応答との間の関係と、システム関数データの収集のために第1のサブゾーン(FFP)が移動される際に沿う軌道と、を記述するシステム関数データセットを有し、記憶手段75は、測定された装置のシステム関数のシステム関数データの少なくともサブセット(部分集合)を格納するように適応される。処理手段74(ハードウェア、ソフトウェア、又はこれらの混合として実装され得る)は、測定されたシステム関数データを、システム関数の構造に関する更なる知識を用いて処理することによって、測定されたシステム関数データより高いSNRを有するような、処理されたシステム関数データを生成するように適応される。再構成手段は、検出信号及び上記処理されたシステム関数データから、作用領域内の磁性材料の空間分布を再構成するように構成される。再構成手段は、この実施形態においては処理ユニットと同一のユニット74によって実装されているが、別個のユニットとして実装されることも可能である。
【0045】
上述のように、MPIは、局在化された励起プロセスを動的に移動させることに基づく新たな信号エンコーディング方法を適用し、高速なボリューム撮像を可能にする。しかしながら、MRI及びCTのような確立された撮像モダリティとは対照的に、収集データから画像を再構成するための単純な数学的変換が未だ特定されていない。故に、MPI画像再構成は、粒子の所与の空間分布に対するシステム応答を記述する、すなわち、粒子位置を周波数応答にマッピングする“システム関数”についての知識を必要とする。この再構成の問題を解くには、システム関数を反転させなければならず、通常、何らかの正則化手法を必要とする。
【0046】
これまで、システム関数は、画像のピクセル又はボクセルの数に対応する多数の空間位置で点状サンプルの磁化応答を測定することによって、実験的に決定されてきた。この校正手順は、非常に長い収集時間を必要とするとともに、ノイズによって品質を損なわれたシステム関数をもたらしてしまう。システム関数行列のサイズが大きいことに起因して、逆(反転)再構成問題を解くことも、極めて時間を消費し、且つ多量の計算機メモリを要求する。
【0047】
信号エンコーディング処理の理論的な理解から、システム関数の構造に関する知見を得ることが期待される。この知識は、システム関数の収集を高速化するため、あるいはシステム関数の一部又は全てを更にシミュレートするために使用されることができる。行列構造に関する情報は、システム関数の一層コンパクトな表現を見出し、メモリ要求を低減すること及び再構成を高速化することの更なる助けとなり得る。最後に、データから画像へと通じる数学的変換の特定は、再構成処理を大いに単純化することになる。
【0048】
次に、信号生成について説明する。MPIにおける信号生成の基本原理は、印加磁場Hに対する強磁性粒子の非線形磁化応答M(H)に頼るものである。十分な振幅の振動駆動磁場H(t)は、駆動磁場とは異なる高調波スペクトルを有する粒子の磁化応答M(t)をもたらす。例えば、高調波駆動磁場が用いられる場合、駆動磁場スペクトルは基本周波数を含むのみであるが、粒子応答は基本周波数の倍数をも含むものとなる。これらの高調波に含まれる情報がMPIに使用される。実験的に、粒子の磁化における時間依存変化は、受信コイルにおける誘起電圧を介して測定される。感度S(r)を有する単一の受信コイルを仮定すると、変化する磁化はファラデーの法則に従って電圧:
【0049】
【数1】

を誘起する。μは真空の透磁率である。受信コイル感度S(r)=H(r)/Iは、単位電流Iで駆動される場合に該コイルが作り出す磁場H(r)から得られる。以下では、関心領域全体で受信コイルの感度は均一である、すなわち、S(r)は一定であると近似する。x方向で受信コイルによって捕捉される磁化成分をM(r,t)とすると、検出される信号は、
【0050】
【数2】

と記述され得る。
【0051】
ここで、点状に分布した粒子群によって生成される信号s(r,t)を考える。体積積分は排除されることができ、粒子磁化M(r,t)は局所磁場H(r,t)によって決定される。差し当たり、磁場は、受信コイル方向を指す唯一の空間成分H(r,t)を有すると仮定する。そのとき、信号(図6aに示す)は、
【0052】
【数3】

と記述され得る。
【0053】
この等式は、磁場が収集磁化成分の方向に揃えられる場合に全ての方向に当てはまるので、添字xは省略されている。等式(3)は、急勾配の磁化曲線と急峻な磁場変化との組み合わせから高い信号が得られることを示している。均一の駆動磁場H(r,t)=H(t)を印加することによって生成される周期信号s(t)のフーリエ展開により、図6bに示すような信号スペクトルSが得られる。このスペクトルにおける高調波の強度及び重みは、磁化曲線M(H)に形状と、駆動磁場H(t)の波形及び振幅とに関係している。スペクトルへの影響を説明するため、図7に、多数の代表的なケースを示す。
【0054】
ステップ関数は即時の粒子応答に関係し、高周波に富んだスペクトルを作り出す。複数のスペクトル成分が駆動周波数の奇数倍の位置で一定の大きさを有する。偶数倍の高調波は、時間信号s(t)の正弦波状パターンのために存在しない。ステップ関数は理想的な粒子応答に対応し、達成可能な高調波重みの限られたケースを表す。この磁化曲線の場合、三角波及び正弦波の駆動磁場は同じ結果を生じさせる。
【0055】
磁化曲線に線形(リニア)領域を導入することによって駆動磁場に対する粒子応答が低速化される場合、より高次の高調波の相対的な重みが低減される。それにより、高調波駆動磁場は、上記線形領域を一層高速にスイープするので、三角波状の励起より良好に機能する。
【0056】
図7の最下段は、ランジュバン関数:
【0057】
【数4】

によって与えられる、より現実的な粒子磁化を示している。ここで、ξは、外部磁場H内で磁気モーメントmを有する粒子の磁気エネルギーと熱エネルギーとの間の比:
【0058】
【数5】

である。
【0059】
より高い磁気モーメントは、より急勾配な磁化曲線をもたらし、所与の駆動磁場振幅で、より多くの、より高次の高調波を作り出す。代替的に、例えば一層高い駆動磁場振幅によって誘起される、より高速な磁場変化を用いて、より浅い曲線から高調波を生成することも可能である。なお、MPIは、十分に急勾配の磁化曲線を得るために強磁性粒子群を使用する。しかしながら、低い濃度では、それら相互間の相互作用は無視されることができ、強磁性粒子群は、極めて大きい磁気モーメントを有する常磁性粒子のガスのように取り扱われ得る。この現象は“超常磁性”としても知られている。
【0060】
次に、1D空間エンコーディングを説明する。空間的な情報を信号内にエンコードするため、選択磁場とも呼ぶ静止傾斜磁場H(r)が導入される。1Dエンコーディングでは、選択磁場はx方向においてのみ非ゼロの勾配G=dH/dxを有する。この勾配がFOV全体にわたってゼロでない場合、選択磁場は“無磁場点(field-free point;FFP)”と呼ぶ単一の点でのみゼロであることができる。FFPから遠く離れた領域では、粒子の磁化は選択磁場によって飽和するように駆動される。
【0061】
選択磁場H(r)に加えて、空間的に均一で時間的に周期的な駆動磁場H(t)を印加することは、勾配方向に沿ってFFPを周期的に変位させることに相当する。粒子は局所磁場:
【0062】
【数6】

を経験する。マイナス記号は、後の計算を簡便にするために選択されたものである。FFPが各空間位置xを異なる時点に通過するので、各位置をその特徴的なスペクトル応答によって特定することができる。
【0063】
続いて、高調波駆動磁場及び理想粒子の詳細を説明する。図8は、一定の勾配強度Gの選択磁場Hと、周波数ω及び振幅Aの高調波駆動磁場Hとに晒された理想粒子によって生成される3つの異なる空間位置におけるスペクトルを示している。フーリエ級数展開のn番目の成分に対応する第n高調波において、粒子位置xに対する以下の依存性:
【0064】
【数7】

が見出される。ここで、U(x)は第2種のチェビシェフ多項式を表す。この関数は、−A/G<x<A/Gの値域で定義される。より単純な表現に到達するよう、正弦(サイン)駆動磁場に代えて余弦(コサイン)駆動磁場を用いる。図9の左側の部分は第1高調波の空間依存性をプロットしている。周波数成分nの増大に伴って振動数が増大することを見て取れる。これは、チェビシェフ多項式が完全なる直交基本セットを形成することに関係しており、その結果、如何なる粒子分布C(x)もこれらの関数に展開することができる。連続した周波数成分は、FOVの中心に対して交番する空間パリティ(偶/奇)を有する。
【0065】
(x)は、各周波数成分nの空間的な感度分布を記述する感度マップとして見ることができる。MPIの実験において、粒子分布C(x)はスペクトル信号成分群:
【0066】
【数8】

を生成する。故に、S(x)はシステム関数を表している。このシステム関数は、空間的な信号依存性を記述するだけでなく、粒子の磁化曲線及びシステムパラメータ(例えば、駆動磁場の振幅A及び周波数ω=2π/T、選択磁場の勾配G)に関する情報を含んでいる。
【0067】
等式(7)を用いて、理想粒子のスペクトル信号成分群(等式(8))は、
【0068】
【数9】

と記述され得る。この表記において、Vはチェビシェフ級数の係数に相当する。従って、測定されたVのチェビシェフ変換を行うことによって、すなわち、チェビシェフ級数:
【0069】
【数10】

を評価することによって、粒子濃度を再構成することができるということになる。故に、高調波駆動磁場及び一定の選択磁場勾配の影響下の理想的(ideal)な粒子の場合、空間的な粒子分布の再構成は、単に、第2種のチェビシェフ多項式で重み付けられた測定高調波V全体にわたる和を計算することに相当する。このシステム関数Sideal(x)に関しては、粒子濃度を、
【0070】
【数11】

と記述することができる。
【0071】
次に、高調波駆動磁場及びランジュバン粒子の詳細を説明する。より現実的な粒子の場合、システム関数は、磁化曲線の導関数M’(H)とチェビシェフ成分との間の空間的な畳み込み(コンボリューション):
【0072】
【数12】

によって与えられる。M(H)の急峻性に依存して、S(x)は、Sideal(x)をぼやかしたようなものになり、FFPの動きによってカバーされ且つSideal(x)が拘束される区間を僅かに超えて広がることになる。故に、FFPに到達される範囲の僅かに外側に位置する粒子も信号を生成する。図9の右側部分は、一定の選択磁場勾配内のランジュバンの磁化曲線に従う粒子について、システム関数の成分群を示している。
【0073】
等式(8)に従った測定プロセスにおいて、FOVはこの場合、S(x)がゼロでない領域を意味する。十分に急勾配な磁化曲線は、FFPによって及ばれる領域、すなわち、−A/G<x<A/Gの領域よりあまり大きくない領域への閉じ込めを提供することができる。
【0074】
システム関数の成分群はコンボリューションカーネルより急になることができないため、ランジュバン粒子を用いたMPI実験は、M’(x)の幅と相関を有する分解能限界に遭遇することになる。しかしながら、磁化曲線が分かっている場合、画像からのカーネルM’(x)のデコンボリューションを用いて、完全な分解能を取り戻すことができる。磁化曲線の導関数はシステム関数M’(x)=M’(−x)であるため、等式(12)を用いて、
【0075】
【数13】

を示すことができる。ここで、
【0076】
【数14】

は式(13)の大括弧内の式に相当する。等式(14)は等式(9)に相当するので、高調波駆動磁場の再構成は等式(11)、すなわち、
【0077】
【数15】

によって与えられる。これは、理想粒子のシステム関数Sideal(x)が定められる区間、すなわち、−A/G<x<A/Gにおいて、
【0078】
【数16】

を直接的に再構成し得ることを意味する。粒子濃度C(x)がFOVに拘束されない場合には、
【0079】
【数17】

は単にC(x)とM’(x)とのコンボリューション:
【0080】
【数18】

である。故に、
【0081】
【数19】

からカーネルM’(x)をデコンボリューションすることによって、正確な濃度分布C(x)を得ることができる。しかしながら、上述のように、等式(15)を用いる再構成は、FFPの動きによってカバーされる−A/G<x<A/Gなる区間上でのみ
【0082】
【数20】

を生じさせる。粒子濃度がこの範囲を超える場合、デコンボリューションは、FFP範囲の境界外側の濃度についての更なる知識を必要とする。
【0083】
なお、デコンボリューションは必須のものではない。粒子の磁化曲線M(H)が十分に急勾配である場合、変更された濃度分布:
【0084】
【数21】

が既に、数多くの用途の分解能要求を満足していることがある。
【0085】
次に、三角駆動磁場の詳細を説明する。例示のケースは、高調波磁場に代えて三角波の駆動磁場を用いるものである。この場合、理想粒子のシステム関数は、範囲0<x<2A/Gに及ぶFFPの動きに関して、
【0086】
【数22】

なる形態を有する。この場合、チェビシェフ級数に代えてフーリエ級数を用いて、粒子濃度:
【0087】
【数23】

を再構成することができる。測定される周波数成分Vは、フーリエ変換による空間分布C(x)に関係するk空間の成分:
【0088】
【数24】

に比例する。システム関数に関して、等式(18)は、
【0089】
【数25】

になる。現実的な粒子の場合、このシステム関数はM’(H)と畳み込まれなければならない。高調波駆動磁場励起に関して得られた等式(12)−等式(14)は三角システム関数にも同様に当てはまるので、0<x<2A/Gの範囲内で変更/コンボリューションされた濃度:
【0090】
【数26】

を再構成することができる。
【0091】
次に、行列公式について説明する。MPI画像再構成では、粒子の連続的な空間分布が、各格子位置が小さい空間領域を表す格子(グリッド)にマッピングされることになる。また、有限数nの周波数成分のみが記録される。インデックスmを用いて空間的な位置を索引付けすると、分布成分(distcomp)は、
【0092】
【数27】

又は、ベクトル/行列式で、
v=Sc (21)
になる。このとき、濃度ベクトルの計算は、基本的に、行列Sの反転:
c=S−1v (22)
に相当する。この表記は、複数の空間インデックスを単一のインデックスmに折り畳むことを必要とするが、2D又は3Dの撮像でも同様に使用される。故に、濃度は常に、空間次元に依存しないベクトルである。
【0093】
1Dのケースの高調波駆動磁場に話を戻すと、スカラー:
【0094】
【数28】

及び対角行列:
【0095】
【数29】

の導入は、等式(22)を等式(11)と比較することによって、以下の恒等式:
−1=αβS (25)
の導出を可能にする。故に、理想粒子の1D撮像のケースでは、転置行列をスカラー及び対角行列と乗算することによって、簡単に反転行列を得ることができる。
【0096】
限られた数の周波数成分のみを使用することは、切り取られた(トランケートされた)チェビシェフ級数を用いて処理することに相当する。チェビシェフトランケーションの定理が述べることには、実際の濃度分布を近似する際の誤差は、無視された係数群の絶対値の和に制限される。より重要なことには、適度に滑らかな分布の場合、誤差は留保された最後のチェビシェフ係数程度である。
【0097】
次に、2D及び3Dの空間エンコーディングについて説明する。
【0098】
先ず、1D駆動磁場が記述される。2D及び3D撮像を記述するための最初のステップは、1D駆動磁場H(t)と組み合わされた3D選択磁場H(r)内の粒子の3Dシステム関数を調べることである。高調波駆動磁場を使用し且つマクスウェルコイル設定を選択して選択磁場を作り出すと、トータルの磁場は、
【0099】
【数30】

で近似され得る。システム関数は、選択磁場のz成分上でのコンボリューションとして、
【0100】
【数31】

と記述され得る。このベクトルにおいて、各成分はそれぞれのx/y/z磁化成分によって誘起される信号を意味する。これらの成分の検出は、3つの直交する受信コイル(受信コイルセット)を必要とする。
【0101】
理想粒子の場合、顕在的な空間依存性は、
【0102】
【数32】

になる。ここで、アスタリスクはz成分上でのコンボリューション、すなわち、駆動磁場により得られるFFPの移動方向でのコンボリューションを表す。故に、それぞれの磁化成分の3D空間依存性を記述する式が、駆動磁場方向で、1Dチェビシェフ関数の組と畳み込まれる。
【0103】
コンボリューションカーネルの形状は、駆動磁場の変化に対して磁化がどのように応答するかを記述する∂M/∂Hによって決定される。理想粒子の場合、それは原点において特異的である。図10は、それぞれx方向、z方向で検出された信号成分Sn,x(r)、Sn,z(r)に関する3Dカーネルのxz平面を示している。駆動磁場方向の中心線に沿って、M磁化のカーネルは1Dの状況と同様にデルタ分布に相当する。中心線からの距離が増すに連れて、カーネルは広がり、その振幅が急速に小さくなる。Mの場合、Mでもそうであるが、対称性により、カーネルは対称軸上でゼロである。カーネルは原点にある特異点の近くで大きい振幅を有する。
【0104】
3Dの理想粒子システム関数を形成するため、3Dカーネルは、駆動磁場方向に沿って、1Dチェビシェフ多項式1ddrive3dsysfuncと畳み込まれる。
【0105】
図11は、上述のz方向の1D駆動磁場動作のケースについて、選択された高調波から抽出された中心2D断層(スライス)を示している。FFP軌道によってカバーされry直線の直上で、システム関数は、チェビシェフ多項式によって与えられ、故に、1Dの状況に関して上述したように、任意の粒子分布をエンコードすることができる。中心線からの距離が増すに連れて、コンボリューションカーネルは増大したぼやけ(ブラーリング)効果を有し、その結果、より高次のチェビシェフ多項式の一層微細な構造がゼロに平均化される。従って、より高次のシステム関数成分の信号は、ブラーリング効果が小さい箇所であるFFP軌道の直線へと凝集する(図11の高調波12及び25を参照)。これは、磁場変化が、FFPの近傍でのみ、高周波成分を生成する粒子応答を促すのに十分な急峻さであることによって説明され得る。
【0106】
MPI実験においては、システム関数の対称性を利用してシステム関数を部分的に合成し、それによりその収集を高速化し且つメモリ要求を低減することが有用となり得る。1DのFFP動作に対する3D応答から、iε{x,y,z}で索引付けられる空間方向におけるシステム関数のパリティについて、2つの基本的なルールを得ることができる。
【0107】
1. “ベース”パリティが、図10に示したコンボリューションカーネルのパリティによって与えられる。受信方向jε{x,y,z}が駆動方向kε{x,y,z}に揃えられる場合、それは偶数である。これは、j=kの場合の磁化の微分成分∂M/∂Hに対応する。それ以外の場合、カーネルパリティは奇数:
【0108】
【数33】

である。
【0109】
2. 関心ある空間方向が駆動磁場方向、すなわち、i=kである場合、パリティは、駆動磁場成分の連続した高調波hの間で交互になる(交番する):
【0110】
【数34】

その理由は、1Dシステム関数におけるチェビシェフ多項式の交番するパリティにある。
【0111】
このとき、空間方向iで高調波hに関して観測されるパリティは、pi,j,k,h=pChebである。
【0112】
ここで、2D及び3Dの駆動磁場について説明する。図11から明らかなように、FOVの完全な広がり範囲にわたる空間エンコーディングは、1DのFFP動作を用いて達成することはできない。故に、2D又は3Dの空間エンコーディングでは、エンコードされるべき各空間方向に対して駆動磁場が付加されなければならない。単純な一実現例において、相異なる空間方向で僅かな周波数差を有する高調波駆動磁場を選択し、FFP動作を2D又は3Dのリサジュー(Lissajous)パターンに従わせることができる。図11は更に、FFP軌道の直線の近傍でのみ高分解能が得られることを示していた。故に、リサジューパターンは、均一な分解能を達成するように十分に密であるべきである。
【0113】
図12は、周波数比ω/ω=24/25の2つの直交する高調波駆動磁場:
【0114】
【数35】

の重畳により生成された2Dリサジューパターンを示している。1D駆動に従った3D選択磁場を用いると、z方向の倍にされた選択磁場勾配は、FFP動作で二次のFOVをカバーするためにA=2Aを必要とする。図12は、2Dリサジュー駆動磁場と3D選択磁場との重畳に晒された理想粒子について、シミュレーションされた2Dシステム関数の第1の成分群を示している。各受信方向は、‘受信x’及び‘受信z’と表記したそれ自身のシステム関数セットを有する。それぞれの駆動周波数の一層高次の高調波に対応する成分は、二重線で囲んだフレームによって指し示されている。xチャネル上で、それらは24成分の間隔を有する。x方向において、それらは1Dチェビシェフ級数とよく似ているが、z方向においては、それらは空間変化を示していない。zチャネル上で、駆動周波数の高調波は、基本的にx成分に対して90°だけ回転された空間パターンを有する25成分の間隔を示している。
【0115】
駆動磁場周波数の高調波に対応する成分は、それぞれの駆動磁場方向における1Dエンコーディングを可能にするのみであるが、双方の駆動周波数の混合から生じる成分が、双方の方向で同時に空間変化を提供する。例えば、xチャネル上で第1x駆動磁場高調波(成分24)から左に移動することは、増加した整数n及びm=1を有する混合周波数mω+n(ω−ω)に対応する。より大きいmでは、より高次の高調波mで開始される。右に移動することは、負のnに対応する。故に、純粋な駆動磁場高調波及びそれらの近傍は低い混合程度に関係し、距離を増大させることが一層大きいn及び一層高い混合程度を伴う。
【0116】
なお、mω+n(ω−ω)に関して観測されるシステム関数成分は、周波数mω+n(ω+ω)でもう一度現れる。故に、周波数混合に対応する成分は全て2度現れる。例を挙げれば、xチャネル上の成分23及び73(m=1、n=1、太線フレーム)、47及び97(m=2、n=1、点線フレーム)、26及び74(m=1、n=−2、破線フレーム)である。
【0117】
図12はまた、生成されたシステム関数成分の最大強度(重み)をプロットしている。最も高い強度は駆動周波数の高次の高調波に見られるが、より高い周波数に向かって減少する。混合周波数に対応する成分は、純粋な高調波より遙かに低い強度を有する。
【0118】
システム関数の次数が高いほど、その空間構造は微細になる。この挙動及び一般的な空間パターンは、各方向の1D多項式のテンソル積:
【0119】
【数36】

として記述することができる2Dチェビシェフ多項式によく似ている。図13は、これらの関数の第1の成分群をプロットしている。2Dチェビシェフ関数は直交関係を満たす。第1の256成分に関するこの関係の図形表示が、図14の左側部分に示されている。直交する関数間の内積はゼロになるので、各関数のそれ自身との積のみが非ゼロであり、図14の対角線がもたらされる。右側部分には、理想粒子の2Dリサジューシステム関数についての対応するプロットが示されている。対角線上にない明るい点及び線は、一部のシステム関数成分は互いに直交しないことを指し示している。しかしながら、黒い領域が圧倒的であり、大抵の成分は直交し合っていると推測することができる。故に、このシステム関数には小さい冗長性のみが存在する。
【0120】
これを例証するため、ファントム画像(図15の左端)を、等しい数の2Dチェビシェフシステム関数成分及びリサジューシステム関数成分のそれぞれに展開した。成分の数は、画像の画素数(64x64)に等しくなるように選定した。チェビシェフ変換から得られた画像は、原画像(オリジナル)と比較して低減された解像度を示している。その理由は、チェビシェフ関数はFOVの端部で比較的高い分解能を提供するが、中心部では低減された分解能を提供するからである。画像の中心でも高い解像度を維持するためには、より高次のチェビシェフ成分を展開に含めなければならない。システム関数成分から得られた画像は、ノイズを抑制するために最小限の正則化を用いてシステム関数行列を反転させることによって再構成されている。半分のシステム関数成分は受信xシステム関数から取り、他の半分は(図12に示した)z関数から取った。画像の解像度は、チェビシェフ展開で観測されたものより良好であるが、画像はそれをあまり均一でないように見せる小さいアーチファクトを有している。一部のシステム関数成分が直交しておらず、故に冗長であることに鑑みるに、画質は極めて良好である。x成分のみ又はz成分のみからの再構成結果は、有意に劣悪な画質を示しており、これらのサブセットでは画像情報を均一に表すには不十分であることが指し示されている。
【0121】
MPI信号エンコーディングは、高度に分解された画像情報を表すことが可能な良好に作用する基本セットを形成するシステム関数を提供することができる。
【0122】
理想粒子の1D高調波励起の場合、システム関数は第2種の一連のチェビシェフ多項式に相当する。故に、チェビシェフ変換によって高速且つ正確な再構成が提供される。
【0123】
現実的な粒子の特性は、高分解能成分のブラーリングを生じさせるコンボリューション型の演算によってシステム関数に導入される。これは、粒子の磁化曲線の急峻性によって決定される分解能限界をもたらす。原理的には、デコンボリューションによって一層高い解像度の画像を再び得ることができるが、デコンボリューションなしで現実的な粒子によって提供される解像度で、既に、数多くの実用途に十分な高さである。
【0124】
2D撮像のシステム関数は、FFPが辿る軌道と、信号に寄与するFFPの周囲領域を表すカーネルとによって決定される。このFFPカーネルの形状は、選択磁場のトポロジーによって決定される。全ての空間方向で一定の選択磁場勾配を有する単純なケースを例証した。理想粒子の場合、カーネルは、高い空間分解能を提供する鋭い特異点を有する。しかしながら、これらの鋭いピークの周りの領域も信号に寄与する。恐らく、このことが、2Dリサジューパターンを用いる2Dエンコーディングにおいてシステム関数が2Dチェビシェフ関数によって正確に表されないことが観測される理由である。故に、再構成は、1Dにおいてのようにチェビシェフ変換を用いること、によっては行われることができず、システム関数行列の反転を必要とする。しかしながら、2Dリサジューシステム関数と2Dチェビシェフ多項式との間の密接な関係は明らかである。これが、より低いメモリ要求及びより高速な再構成をもたらすチェビシェフ又はコサイン型の変換を用いてシステム関数を、より疎な表現へと変換することに使用され得る。
【0125】
2Dリサジューシステム関数は、冗長な成分を含むため、完全なる直交セットを形成しない。そうは言うものの、2Dリサジューシステム関数は、図10に示したような高度に分解された画像情報をエンコードすることができる。収集されたデータの情報コンテンツと所望の画素分解能との間に起こり得る不整合は、再構成において正則化手法を用いることによって修正され得る。
【0126】
システム関数の面倒な実験収集を高速化するために、2Dシステム関数に関して得られるパリティルールを用いることが可能である。理論的に、これらルールは、リサジュー図の1つの象限の長方形のみを測定することから、完全なシステム関数を構築することを可能にする。3Dリサジュー図の場合、1つの八分円(オクタント)で十分であり、システム関数の収集が8倍加速される。実験的には、コイルの不完全なアライメントによって対称性が乱され得る。そうは言っても、根底にある理論関数及びそのパリティの知識が、少ない測定サンプルのみからシステム関数をモデル化することの助けとなり得る。
【0127】
実際のMPI実験では、通常、画像の所望の画素数より多い周波数成分を収集する。故に、更に良好な直交性をもたらす一層コンパクトな基本セットを構成するためにシステム関数成分の選択を行う自由度を有する。例えば、二重のシステム関数成分は、画像再構成を高速化するために一層小さいシステム関数行列に到達するよう、収集後に除去されることができる。また、高調波の重みに従った高調波の選択は、行列のサイズを小さくすることの助けとなり得る。画像の解像度及びSNRに影響を及ぼすように特定の成分の重みを変更することも考えられる。
【0128】
現実粒子の2D撮像についてはこの取り組みにおいてシミュレーションされていないが、1Dの派生から、粒子の磁化曲線の急峻性に依存したFFPカーネルのブラーリングが発生すると推察することができる。これは、1Dのケースで議論したように、カーネルの特異点を除去するが、もたらす分解能の損失は僅かである。
【0129】
3D撮像は示していないが、3DのFFP軌道を可能にする更なる直交駆動磁場を導入することによって、2Dの結果を3Dに直接的に外挿することができる。3Dリサジュー軌道の場合、チェビシェフ多項式の三次の積に対するシステム関数の密接な類似性が予期され得る。
【0130】
この取り組みで用いた選択磁場のトポロジー及びFFP軌道は、単に、それらの実験による実現可能性のために選定されている。しかしながら、数多くの代替的な磁場の構成も考えられる。FFP軌道に関し、放射状若しくは螺旋状のパターン、又は撮像すべき生体構造に対して調整されたパターンでさえも同様に使用することができる。画像上に変化する解像度を与えるように、軌道を適応してもよい。選択磁場に関し、FFPに代えて無磁界線を作り出すトポロジーは、より効率的なスキャンを提供することが期待される。
【0131】
以上は、高調波駆動磁場を一定の選択磁場勾配と併用するMPI信号エンコーディングにより、かなりコンパクトな形態の高分解能の画像情報を表すことが可能なシステム関数が提供されること示している。第2種のチェビシェフ多項式に対する密接な関係が、システム関数の収集を、それを部分的にモデル化することによって高速化するため、あるいは、より速い再構成時間をもたらす調整された疎変換を適用することによってメモリ要求を低減するために用いられ得る。
【0132】
ここで検討したシステム関数は、特定の磁場構成及びスキャン軌道に関係している。数多くのその他の構成も実現可能であり、速度、分解能及び感度に関する特定の実験ニーズを満たすようにシステム関数を調整する柔軟性が提供される。
【0133】
続いて、本発明に従って提案した方法の幾つかの主な実施形態を、既知の方法と比較して、システム関数(又はその部分)の使用を例示する単純なブロック図によって説明する。
【0134】
既知の再構成方法は、基本的に、以下のステップを必要とする(システム関数の何れの部分が要求/使用されるかを示す図16参照)。
1.造影剤、スキャナ幾何学構成及び軌道の所与の組み合わせに対して、一度、完全な“システム関数”を測定する:
a.全ての空間位置(ピクセル/ボクセル)で時間応答を測定する;
b.各位置の周波数スペクトルを得るために時間信号のFFT;
c.周波数成分(行)vs.空間位置(列)を有する行列:“システム関数行列”G(f,x)として結果を格納する。
2.関心対象を測定する:
a.時間応答を収集する;
b.フーリエ変換された応答:“測定ベクトル”v(f)を格納する。
3.反転問題G(f,x)c(x)=v(f)又は関連する正則化された問題を解いて、濃度分布:“画像ベクトル”c(x)を取得する。
【0135】
空間的な対称性を利用する本発明に従った第1実施形態(図17、18参照)は、基本的に、再構成のために以下のステップを必要とする。
1.明らかな鏡面対称を使用する(図17参照):
a.選択された位置(例えば、1つの象限/オクタント、又はインターリーブされた位置)で縮小されたシステム関数を測定する;
b.鏡像処理により完全なシステム関数を生成する;
c.完全な行列を用いて標準的な再構成を実行する。
2.空間方向に沿って疎変換を使用する(図18参照):
a.選択された位置でシステム関数を測定し、空間分布を展開するために使用される関数セットの係数(例えば、チェビシェフ係数)を取得する;
b.この空間分布は、変換空間kにおいて一層少ない係数によって近似することができるので、システム関数は疎行列によって表される。真の解像度がボクセルの解像度より低い場合、ベクトルの空間寸法は現実空間xにおいてより小さい;
c.変換空間内で疎反転問題を解いてc(k)を取得する。
【0136】
d.逆変換を用いて画像c(x)を取得する。
【0137】
冗長な周波数成分を利用する本発明に従った第2実施形態(図19参照)は、基本的に、再構成のために以下のステップを必要とする。
1.完全なシステム関数行列、又は空間的に縮小されたシステム関数行列を取り込む。
2.相等しい空間パターンを有する周波数成分(行)を(例えば、理論的考察により)特定する。
3.システム関数行列内のこれら成分及び測定ベクトルを足し合わせる。
4.縮小された問題を反転して画像c(x)を取得する。
【0138】
図面及び以上の記載にて本発明を詳細に図示して説明したが、これらの図示及び説明は、限定的なものではなく、例示的あるいは典型的なものと見なされるべきである。本発明は、開示した実施形態に限定されるものではない。図面、明細書及び特許請求の範囲を調べて請求項に係る発明を実施する当業者によって、開示した実施形態へのその他の変形が理解されて実現され得る。
【0139】
特許請求の範囲において、用語“有する”はその他の要素又はステップを排除するものではなく、不定冠詞“a”又は“an”は複数であることを排除するものではない。単一の要素又はその他の装置が、請求項中に列挙された複数の項目の機能を果たしてもよい。特定の複数の手段が相互に異なる従属項にて列挙されているという単なる事実は、それらの手段の組み合わせが有利に使用され得ないということを指し示すものではない。
【0140】
コンピュータプログラムは、その他のハードウェア又はその部分とともに提供される例えば光記憶媒体又は固体媒体などの好適な媒体上で格納/配信され得るが、例えばインターネット又はその他の有線若しくは無線の遠隔通信システムを介してなど、その他の形態で配信されてもよい。
【0141】
請求項中の如何なる参照符号も、範囲を限定するものとして解されるべきでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用領域内の磁性材料を検出且つ/或いは位置特定する装置であって:
低磁場強度を有する第1の部分領域と、より高い磁場強度を有する第2の部分領域とが前記作用領域内に形成されるよう、磁場強度の空間パターンを有する選択磁場を生成する選択手段と、
前記磁性材料の磁化が局所的に変化するよう、駆動磁場によって、前記作用領域内の2つの前記部分領域の空間位置を変化させる駆動手段と、
検出信号を収集する受信手段であり、前記検出信号は、前記第1及び第2の部分領域の空間位置の変化によって影響される前記磁化に依存する、受信手段と、
当該装置のシステム関数の、測定されたシステム関数データのうち、少なくともサブセットを格納する記憶手段であり、前記システム関数は、前記磁性材料の空間位置と当該装置のシステム応答との間の関係と、前記システム関数データの収集のために前記第1の部分領域が移動される軌道と、を記述するシステム関数データセットを有する、記憶手段と、
前記システム関数の構造に関する更なる知識を用いて前記測定されたシステム関数データを処理することによって、前記測定されたシステム関数データより高いSNRを有する処理されたシステム関数データを生成する処理手段と、
前記検出信号及び前記処理されたシステム関数データから、前記作用領域内の前記磁性材料の空間分布を再構成する再構成手段と、
を有する装置。
【請求項2】
前記処理手段は、完全なシステム関数の周波数成分内に存在する、空間的な対称性、特に空間的な鏡面対称性により同じ情報を共有する相異なる空間位置で収集された信号を結合、特に平均化するように適応されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記処理手段は、同様の空間情報を有する完全なシステム関数データの周波数成分を足し合わせるように適応されている、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記受信手段は、前記磁性材料のプローブが後に前記作用領域内の複数の異なる位置に配置されるときに信号を検出することによって、当該装置のシステム関数の完全なシステム関数データを収集するように適応され、且つ
前記記憶手段は、前記完全なシステム関数データを格納するように適応されている、
請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記処理手段は、完全なシステム関数データのうちの利用可能なサブセットの周波数成分内に存在する、空間的な対称性、特に空間的な鏡面対称性のために同じ情報を共有する相異なる空間位置で収集された信号を結合、特に平均化し、且つ前記空間的な対称性の使用により、前記結合された信号から前記完全なシステム関数を再構成するように適応されている、請求項2に記載の装置。
【請求項6】
前記処理手段は、同様の空間情報を有する完全なシステム関数データのうちの利用可能なサブセットの周波数成分を足し合わせ、且つ該周波数成分内に存在する該空間情報の使用により、前記足し合わされた周波数成分から完全なシステム関数を再構成するように適応されている、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
請求項1に記載の作用領域内の磁性材料を検出且つ/或いは位置特定する装置にて使用されるプロセッサであって、当該プロセッサは、測定されたシステム関数データより高いSNRを有する処理されたシステム関数データを、前記システム関数の構造に関する更なる知識を用いて前記測定されたシステム関数データを処理することによって生成するように適応されている、プロセッサ。
【請求項8】
作用領域内の磁性材料を検出且つ/或いは位置特定する方法であって:
低磁場強度を有する第1の部分領域と、より高い磁場強度を有する第2の部分領域とが前記作用領域内に形成されるよう、磁場強度の空間パターンを有する選択磁場を生成するステップと、
前記磁性材料の磁化が局所的に変化するよう、駆動磁場によって、前記作用領域内の2つの前記部分領域の空間位置を変化させるステップと、
検出信号を収集するステップであり、前記検出信号は、前記第1及び第2の部分領域の空間位置の変化によって影響される前記磁化に依存する、収集するステップと、
装置のシステム関数の、測定されたシステム関数データのうち、少なくともサブセットを格納するステップであり、前記システム関数は、前記磁性材料の空間位置と前記装置のシステム応答との間の関係と、前記システム関数データの収集のために前記第1の部分領域が移動される軌道と、を記述するシステム関数データセットを有する、格納するステップと、
前記システム関数の構造に関する更なる知識を用いて前記測定されたシステム関数データを処理することによって、前記測定されたシステム関数データより高いSNRを有する処理されたシステム関数データを生成するステップと、
前記検出信号及び前記処理されたシステム関数データから、前記作用領域内の前記磁性材料の空間分布を再構成するステップと、
を有する方法。
【請求項9】
請求項8に記載の作用領域内の磁性材料を検出且つ/或いは位置特定する方法にて使用される処理方法であって、当該方法は、測定されたシステム関数データより高いSNRを有する処理されたシステム関数データを、前記システム関数の構造に関する更なる知識を用いて前記測定されたシステム関数データを処理することによって生成するステップを有する、方法。
【請求項10】
プログラムコード手段を有するコンピュータプログラムであって、前記プログラムコード手段は、当該コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるときに、請求項8又は9に記載の方法のステップを実行するように前記コンピュータに請求項1に記載の装置を制御させる、コンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2012−510847(P2012−510847A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539155(P2011−539155)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【国際出願番号】PCT/IB2009/055455
【国際公開番号】WO2010/067264
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】