説明

使用済触媒あるいは再生用触媒からのモリブデン、ニッケル、コバルト、又はそれら混合物の回収方法

本発明は、液状鋳鉄から成り、かつ液状スラグに取り囲まれたヒールを備える電気アーク炉中において使用済み触媒あるいは再生用触媒からモリブデン、ニッケル、コバルトあるいはそれら混合物を回収する方法であって、
a)使用済みあるいは再生用触媒を電気アーク炉中に備えられたヒール中へ添加する工程と、
b)所定量の石灰を加えてCaO/Al比が0.7〜1.3の範囲内となるスラグを得る工程と、
c)ガスを注入してヒールを混合することによりクラストの形成を防止する工程と、
d)電気アーク炉中において使用済みあるいは再生用触媒を溶融して液状のフェロアロイを得る工程から構成される前記回収方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は使用済触媒あるいは再生用触媒からの有価金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
使用済触媒あるいは再生用触媒は、一般的には石油化学工業において用いられるようなモリブデンの金属コーティング、また場合によってはニッケル及び又はコバルトの金属コーティングが施された多孔質アルミナをベースとした粒状物である。また、他に考えられる使用済みあるいは再生用触媒として、ラネーニッケル触媒がある。
【0003】
使用済触媒の場合、金属は必ず硫化物となっており、硫黄及び炭素の含量はそれぞれ20質量%以下である。
【0004】
焼成による硫黄及び炭酸塩の除去処理済みの再生用触媒の場合、金属は必ず酸化物となっている。この場合の硫黄及び炭素の含量は3%未満であり、しばしば1%未満であることもある。
【0005】
使用済み及び再生用触媒の一般的分析値は下記表に示す通りである。
【表1】

【0006】
従来、使用済みあるいは再生用触媒からのモリブデン、及びしばしばニッケル及び又はコバルトの回収は湿式冶金連続工程を経て分離・精製により為されてきた。しかしながら、この回収方法の工程は長く、また以下に述べる主要な欠点があった。すなわち、
・処理開始時におけるニッケル及び又はモリブデンの残渣量が少ない場合、処理コストが極めて高くなる欠点、及び
・このような湿式冶金処理工程において得られた残渣から特に浸出反応に対して不活性であるアルミナ・ベースの副生物が生じ、そのために該副生物の貯蔵あるいは再処理のためにさらなるコストが必要とされる欠点である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は使用済触媒あるいは再生用触媒からのモリブデン、ニッケル、コバルト、あるいはそれら混合物のより改善された回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、使用済触媒あるいは再生用触媒からモリブデン、ニッケル、コバルト、あるいはそれら混合物を、数本の電極が備えられ、底部が設けられ、さらに液状溶融鋳鉄から成るヒール(heel)が含まれる電気アーク炉中において回収する触媒回収方法によって達成される。本方法は以下の工程から構成される。すなわち、
a)モリブデン、ニッケル、コバルト、あるいはそれら混合物のうちの少なくとも金属1種を含む使用済みあるいは再生用触媒を電気アーク炉中に含まれるヒール中へ移動させる工程、
b)適量の石灰を添加して、CaO/Al比が0.7〜1.3の範囲内となるスラグを得ると共に維持する工程、
c)ガスを注入してヒールを混合することによりクラストの生成を防止する工程、及び
d)使用済みあるいは再生用触媒を電気アーク炉中で溶融して液状のフェロアロイを得る工程から構成される。
【0009】
本発明に係る回収方法は、電気によらないアーク炉を用いる場合には、アルミナ及び又は銅を含む廃棄粒子を詰め込み、液状スラグ層が上に載せられた鋳鉄ヒール上で処理する工程から成る特定の方式で行われる。
【0010】
ヒールを強く混合することにより、該ヒールの温度及びスラグの温度を均等化させてヒールに接触するスラグ層を永続的に更新させることができ、それによって使用済触媒あるいは再生用触媒は、ヒールを固化させることなく、また通過不能なクラストを生じることなく、過熱され、高度に液状化され、かつ吸収能のある状態に維持される。実際、スラグに対する触媒の作用力次第では、スラグは炉の媒体によって直接蒸解され、及び動的混合によって極めて急速に溶融される。
【0011】
ヒールの混合は、電気アーク炉の底部を通して中性ガス(窒素、アルゴン)を好ましくは10リットル/分・トン(1分及び金属液浴重量1トン当たりのリットル)〜150リットル/分・トンの範囲内のガス流速で注入することによって実施可能である。より好ましくは、前記ガス流速は15〜50リットル/分・トンの範囲内である。当然であるが、前記流速はヒールの高さ、また注入箇所の個数及び位置によって調節されなければならない。上述したような高い混合ガス流速は電気アーク炉において現状用いられている実用値とは無関係である。実際、電気アーク炉中におけるスチール製造の従来工程における混合ガス流速は0.1〜5リットル/分・トンの範囲内であり、かつこれはヒールの均質化、及び冶金結果及び温度の調整を目的とすることに限られている。
【0012】
前記混合の最適効率を保証するために、金属ヒールには一定の最小高さ、好ましくは少なくとも0.3mの高さを与えなければならない。炉の底部を通した混合ガスの注入によって金属浴を貫通する動かない単純な「ホール」が生じないようしなければならない。勿論、前記最小高さは電気アーク炉の形状により、また好ましくは多孔質煉瓦あるいはノズルで構成されるガス注入手段の位置によって変更可能である。
【0013】
触媒及び石灰の電気アーク炉中への投入は好ましくは電極間を通して行われる。別法として、触媒及び石灰の投入を電気アーク炉の天井中のオリフィスから実施してもよい。このレールが設けられたオリフィスをレールが傾いた状態で電極の輪の周辺上へ配置することにより、材料が落下する際に材料はヒール中の電極と電極の間へと入り込む。
【0014】
触媒及び石灰の電気アーク炉中への投入は好ましくは同時的に、あるいは交互的に実施される。
【0015】
操作開始に際しては、ヒール上にはスラグは殆どないか、あっても極めて僅かな状態であるが、触媒及び石灰が中に入ってくるにつれ液状スラグが徐々に生成される。
【0016】
上記工程において生成されたスラグは、実質的にはアルミナと、おそらくシリカ及び石灰との混合物から成るものである。CaO/Al比は、0.7〜1.3、好ましくは0.8〜1.2、さらに好ましくは0.9〜1.1の範囲内、そして特に1に近接した比を維持できるように常に調整される。このスラグの主たる利点はそれが流体であることである。実際、このスラグの流動性は鉱物油の流動性に匹敵する。また、好ましくはスラグは非発泡性である。
【0017】
別の好ましい実施態様においては、スラグ生成のために工程a)あるいは工程b)においてさらに追加の要素が加えられる。このようなスラグ生成要素としては、好ましくはキャスティン(石灰石の一種)、マグネシア、あるいはそれら混合物のうちのいずれかが選択される。
【0018】
このスラグのさらに別の利点として、これが1500℃以上の温度において有効な脱硫黄剤となる点がある。その結果として、最終生成物たるフェロアロイ中の硫黄含量を0.1%以下まで減ずることができ、硫化物含量の高い触媒(Sとして12%以下)であっても前記程度まで減少可能である。生成されるスラグ量は原料組成や、所望の期間に亘ってAl/CaO比を維持するために投入される石灰量に対して重大な影響を与えるため、所定間隔で電気アーク炉からスラグ(全量あるいは一部)を取り除くことによって鋳鉄からの脱スラグが行われなければならない。この方法には所定間隔でスラグが更新される利点と、硫黄含量の高い触媒を添加したことによる硫黄をより容易に抽出できる利点がある。
【0019】
本発明方法のさらに別の利点として、比較的高含量の燐(最大で2.5%)を含む触媒であっても回収可能なことを挙げることができる。燐は、硫黄と同様、生成されたフェロアロイを原料として再利用できる生成物の中でも汚染物質として考えられている。高含量の燐は特にクロム鋼の製造においては有害物である。本発明によって得られる合金に関わる重要な利益は、燐及び硫黄含量が低いことを前提としてステンレススチールの製造が行えることである。
【0020】
実際、原料を溶融し、例えばモリブデンを25%以下の含量で、また硫黄を最大0.1%の含量で含む鋳鉄を得た後にその硫黄含量を減ずることが可能である。この脱燐化は液状金属中へ酸化性元素を添加すること、例えば液状金属中へ酸素を注入することにより、あるいは鉱石として好ましくは鉄酸化物を添加することによって達成される。この脱燐化後における前記液状金属中の燐含量は0.1%よりかなり低い。
【0021】
このようにして得られたフェロアロイには、モリブデン10〜25%、Niが0〜10%、Coが0〜8%含まれる他、さらに極めて僅かな燐及び硫黄が含まれる。さらに、これらの燐及び硫黄含量は、フェロアロイの潜在的用途によって課される制約に容易に適合させることが可能である。
【0022】
得られたフェロアロイは次いで鋳造される。
従って、この硫黄含量及び燐含量の低いフェロアロイは、使用できなくなった触媒に新たな用途を開くものである。
【0023】
この使用済触媒あるいは再生用触媒の回収方法を用いることにより、鉄、モリブデン、場合によってはニッケルあるいはコバルトを含む、硫黄含量及び燐含量の低いフェロアロイを僅か2工程で、かつ単一リアクター(電気炉)を用いて製造することが可能である。さらに、この回収方法を用いる場合において、特定の操作条件下において使用される標準的装置(電気炉、積載装置、浴混合装置)を組み合わせて回収を実施することも可能である。
【発明を実施するための手段】
【0024】
本発明の他の詳細及び特徴については、以下の記載において説明する有利な実施態様においてさらに明らかにする。
【実施例】
【0025】
実施例1
数本の電極を備えて成る電気を用いないアーク炉中において、硫黄含量及び燐含量の低い、鉄・モリブデン・ニッケル合金あるいは鉄・モリブデン・コバルト合金の製造を行った。鉄・モリブデン・ニッケル合金あるいは鉄・モリブデン・コバルト合金の製造方法は同様であるため(ニッケルとコバルトの性質が類似しているため)、これら合金の製造方法について合わせて説明する。
【0026】
前記製造は温度1550℃で鋳鉄ヒール上において開始した。本製造の第一段階において触媒の連続充填を行い、同時あるいは交互に所定量の石灰を添加してCaO/Al比が1のオーダーとなるスラグを得た。
【0027】
実施例1において処理した触媒はモリブデン及びニッケルコーティングされたアルミナを基材とする再生済み石油化学用触媒である。
【0028】
下記表に使用した触媒の化学組成を示す。
【表2】

【0029】
溶融試験は電気3MVAを用いないアーク炉中において実施した。このアーク炉の定格容量は6メートルトンである。アーク炉の入口における充填物(触媒+石灰)の流速は毎時約2トンである。
【0030】
ヒールは溶融鋳鉄4トンから生成した。浴温度は1550〜1650℃の範囲内に保持した。前記炉の充填口における充填物(触媒+石灰)の平均流速は毎時2トンであり、ピークの流速は毎時3トンであった。反応浴は窒素ガスを用いて流速15〜20リットル/分で混合した。
【0031】
最初のスラグ量は無視できる程度である。スラグは、充填物が浴中へ入ってくるにつれて徐々に生成される。触媒の溶融は非常に早く、溶融した触媒は反応系に急速に取り込まれる。試験中、充填速度を速くし過ぎた場合において、スラグ上に極僅かな未溶融充填物が観察された。浴中の炭素含量を2〜4%のオーダーに保持するため、鋳鉄浴中への炭素の注入を選択的に実施した。
【0032】
脱硫黄状態は電気炉中における溶融と同時に起こる。実際、スラグの実際の組成物によってスラグに脱硫黄性粉末が供給され、その結果として硫黄含量を少なくとも0.1%まで低下させることが可能である。
【0033】
脱燐化状態は、目的とするモリブデン含量に到達した時で、かつ硫黄含量が許容される場合に触媒の連続溶融段階の終期に起こる。硫黄含量が高過ぎる場合は、CaO・Alスラグを用いて脱硫黄処理が再度追加で実施され、次いで脱スラグ処理(スラグへの硫黄の充填)が行われる。燐の排除は浴中への酸素注入あるいは石灰添加によって達成される。
【0034】
下記表にフェロアロイ組成及び、4トンの鋳鉄上へ約5.3メートルトンの触媒を導入した後のスラグ組成を示す。
【0035】
【表3】

【0036】
本試験の目的は、本発明によって、比較的短期間でモリブデン含量が10〜25%及び燐含量が0.1%未満である市場性の高い合金の製造が可能となることを示すことである。本試験より、硫黄及び燐含量の低い鉄・モリブデン・ニッケルフェロアロイを製造しようとする目的が電気を用いないアーク炉において触媒によって達成されることが示される。さらに、本試験により、モリブデン及びニッケルの回収が95%オーダーの収率で達成可能であることも示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数本の電極を有し、底部を備え、かつ液状スラグ上へ置かれた液状鋳鉄ヒールを含んで構成される電気アーク炉中において、使用済みあるいは再生用触媒からモリブデン、ニッケル、コバルト、あるいはそれら混合物を回収する方法であって、
a)モリブデン、ニッケル、コバルト、及びそれら混合物のうちの少なくとも1種の金属を含む使用済みあるいは再生用触媒を電気アーク炉中に備えられたヒール中へ添加する工程と、
b)所定量の石灰を加えてCaO/Al比が0.7〜1.3の範囲内となるスラグを得る工程と、
c)ガスを注入してヒールを混合することによりクラストの形成を防止する工程と、
d)電気アーク炉中において使用済みあるいは再生用触媒を溶融して液状のフェロアロイを得る工程から構成されることを特徴とする前記回収方法。
【請求項2】
前記使用済みあるいは再生用触媒及び又は石灰の添加が重力を用いて行われることを特徴とする請求項1項記載の方法。
【請求項3】
前記使用済みあるいは再生用触媒及び又は石灰の添加が電気アーク炉の電極間において行われることを特徴とする請求項1項又は2項記載の方法。
【請求項4】
キャスティン及びマグネシア、及びそれら混合物から選択されるスラグ生成剤が工程a)又は工程b)中に添加されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ヒールの混合が、電気アーク炉の底部を通して天然ガスを流速10〜150リットル/分、好ましくは流速10〜50リットル/分で注入することによって達成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
e)得られた合金からスラグを取り除く脱スラグ工程と、
f)酸化性元素を添加して燐含量を0.1%以下まで減ずる工程と、
g)上記処理によって得られたフェロアロイを鋳造する工程がさらに含まれることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記工程f)における酸化性元素の添加が酸素を含むガスの注入及び又は鉄酸化物の添加によって行われることを特徴とする請求項6項記載の方法。
【請求項8】
合金の鋳造前にスラグの除去が行われ、それによってスラグの全部あるいは一部が除去されることを特徴とする請求項6項又は7項記載の方法。
【請求項9】
前記ヒールのC含量が2〜4%(w/w)となるように調整されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2010−523299(P2010−523299A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500245(P2010−500245)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/053481
【国際公開番号】WO2008/119695
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(500173376)ポール ヴルス エス.エイ. (44)
【氏名又は名称原語表記】PAUL WURTH S.A.
【Fターム(参考)】