説明

係止具

【課題】 結合対象としての口金に対して所定の相対位置に容易に配置することができる係止具(サークリップ)を提供する。
【解決手段】 貫通孔である取付孔19を有するブラケット14に、取付孔19に挿通可能な上部26および取付孔19に挿通不能なフランジ部25を有する口金12を係止するべく、上部26の取付孔19を通過した部分に結合する係止具10であって、基部41と、基部41にそれぞれ突設され、上部26を挟持可能に対向配置された一対の腕部42と、基部41に突設され、ブラケット14に当接することによって基部41の口金12への接近を規制する規制部43とを有し、基部41を口金12側に押圧することによって一対の腕部42間の係合位置に上部26を圧入させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、係止具に係り、詳しくはブレーキホースの口金を車体に設けられたブラケットに係止する係止具に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキホースの端部に結合された口金を、自動車の車体に設けられたブラケットに係止するために、略コ字状の係止具(サークリップ)が用いられることがある(例えば、特許文献1,2)。これらの特許文献では、図6に示すように、ブラケット110は、板状部材から形成されて貫通孔111を有し、ブレーキホースの口金112は、小径の第1部分113および大径の第2部分(図示しない)が同軸に連続した段付きの円管部材である。口金112の第1部分113は、貫通孔111に挿通可能である一方、第2部分は貫通孔111に挿通不能となっている。第1部分113の貫通孔111を通過する部分の外周面には、係止具100が係合可能な円周溝115が凹設されている。図6中に実線で示すように、係止具100は、一方向に長い板片状の基部101と、基部101の両端から基部の長手方向と直交する方向に突出した一対の腕部102とを有し、両腕部102の互いに対向する部分には口金112の円周溝115の底壁116に係合可能な係合部103が形成されている。両係合部103間で口金112を配置するために、口金112は係止具100の両腕部102間に圧入される。この圧入は、図中に示す黒色矢印の方向に、係止具100の基部101を口金112側にハンマー等で押圧する(打ち込む)ことによって行われる。係合部103と底壁116とが係合し、係止具100と口金112とが係合することによって、係止具100と口金112の第2部分とが貫通孔111の周縁部を挟み込み、口金112はブラケット110に係止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−248761号公報
【特許文献2】特開2003−117737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の係止具100では、図6に2点鎖線で示すように、適正な係合位置を越えて係止具100を口金112側に押圧しすぎる(打ち込みすぎる)と、両腕部102が口金112によって拡開される虞がある(図中に示す白色矢印)。このような状態になると、係止具100は塑性変形し、口金112との間に所期の係合力を生じさせることができなくなり、口金112から脱離しやすくなる。
【0005】
本発明は、以上の背景を鑑みてなされたものであって、係合対象としての口金に対して所定の係合位置に容易に配置することができる係止具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、貫通孔(19)を有する被取付部材(14)に、前記貫通孔に挿通可能な取付部材(12)を係止するべく、前記取付部材の前記貫通孔を通過した部分に係合する係止具(10)であって、操作荷重が入力される基部(41)と、前記基部にそれぞれ突設され、前記取付部材を挟持可能に対向配置された一対の腕部(42)と、前記基部に突設され、前記被取付部材に当接することによって前記基部の前記取付部材への接近を規制する規制部(43)とを有することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、ハンマー等によって係止具を取付部材側に押圧する際に、規制部が被取付部材に当接することによって、被取付部材に対して取り付けられた取付部材に基部が接近しすぎることが防止されるため、係止具を取付部材に対して所期の位置に容易に配置することができる。
【0008】
本発明の他の側面は、前記被取付部材は、前記貫通孔が形成された板状部(17)を有し、前記規制部は、前記板状部の端面(20)と対向するように延設され、前記基部を前記取付部材側に押圧する際の操作荷重は、前記規制部を介して前記基部に入力されることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、延設された規制部で操作力を受けることによって荷重が分散され、係止具に集中荷重が加わることが防止される。また、延設された規制部を被取付部材の端面に対して対向させるようにしたため、係止具の被取付部材に対する相対回転位置を規制することができる。
【0010】
本発明の他の側面は、前記腕部と前記取付部材とが係合した状態において、前記規制部が前記被取付部材との間に隙間(G1)を形成することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、隙間を確認することによって、係止具の係合位置が適正であるか否かを判定することができる。
【0012】
本発明の他の側面は、貫通孔(19)を有する被取付部材(14)に、前記貫通孔に挿通可能な取付部材(12)を係止するべく、前記取付部材の前記貫通孔を通過した部分に結合する係止具(60)であって、操作荷重が入力される基部(41)と、前記基部にそれぞれ突設され、前記取付部材を挟持可能に対向配置された一対の腕部(42)と、前記基部に突設され、前記取付部材に当接することによって前記基部の前記取付部材への接近を規制する規制部(62)とを有することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、ハンマー等によって係止具を取付部材側に押圧する際に、規制部が取付部材に当接することによって、基部が取付部材に接近しすぎることが防止されるため、係止具を取付部材に対して所期の位置に容易に配置することができる。
【0014】
本発明の他の側面は、前記腕部と前記取付部材とが係合した状態において、前記規制部が前記第1部分との間に隙間(G2)を形成することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、隙間を確認することによって、係止具の係合位置が適正であるか否かを判定することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上の構成によれば、その内部に取付部材が圧入されることによって、取付部材と結合する係止具において、取付部材と係止具との結合時の相対位置を、適正な位置に容易に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態に係る係止具を用いたブレーキホースのブラケットへの取付構造を示す分解斜視図
【図2】第1実施形態に係る係止具を用いたブレーキホースのブラケットへの取付構造を示す側面図
【図3】図2のIII−III断面図
【図4】第2実施形態に係る係止具を示す斜視図
【図5】第2実施形態に係る係止具を用いたブレーキホースのブラケットへの取付構造を示す断面図
【図6】従来技術に係る係止具を用いたブレーキホースのブラケットへの取付構造を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明を、自動車のブレーキホースの口金を車体に取り付けられたブラケットに係止する係止具(サークリップ)に適用した実施形態を詳細に説明する。以下の説明では、図1に示す座標軸のように各方向を定める。
【0019】
<第1実施形態>
図1〜3に示すように、係止具10は、ブレーキホース11の端部を構成する口金12を、車体パネル13に取り付けられたブラケット14に係止するために使用されるものである。
【0020】
ブラケット14は、ホイールハウス近傍の車体パネル13に結合される背部16と、背部16に対して後方へと突設され、面が上下方向を向く平板状の支持部17と、剛性を高めるべく背部16と支持部17とを連結するように設けられた左右一対の側壁部18とを有している。支持部17には、上下方向に貫通する円形状の取付孔19が形成されている。ブラケット14は、鋼板をプレス成形することによって形成され、背部16において車体パネル13に溶接またはボルト締結によって結合されている。なお、他の実施形態では、ブラケット14は、樹脂等の他の材料から形成されてもよい。
【0021】
ブレーキホース11は、可撓性を有する油圧ホース21と、油圧ホース21の両端部に設けられた口金12と有し、口金12の一方に連結されるブレーキパイプ23とともに、ブレーキラインを構成している。
【0022】
口金12は、両端が開口した金属製の円筒部材であって、軸線方向における中間部分に径方向外方へと延出する円板状のフランジ部25を備えている。口金12のフランジ部25よりも上側の部分を上部26、下側の部分を下部27とすると、口金12は、小径部としての上部26および下部27と、大径部としてのフランジ部25を有する段付き円筒部材である。口金12の上部26は、ブラケット14の取付孔19にがたつきなく挿通可能な大きさに形成されており、フランジ部25は取付孔19よりも径が大きく、挿通不能になっている。
【0023】
口金12の下部27には、油圧ホース21の一端が挿入され、下部27をかしめることによって油圧ホース21の抜け止めがなされている。口金12の上部26を取付孔19に下方から挿通した際に、上部26の取付孔19を通過する部分には、円周方向に連続する凹溝28が形成されている。凹溝28は、断面が矩形状に形成され、円周面である底壁29と、底壁29の上下に連続する上壁30および下壁31とによって画成されている。上部26の内周面には、雌ねじ32が形成されている。
【0024】
ブレーキパイプ23は、金属管であって、端部の外周面に口金12の雌ねじ32に螺合可能な雄ねじ34が形成されている。また、雄ねじ34に隣接してブレーキパイプ23の外周面には、六角形状の工具係合部35が形成されている。ブレーキパイプ23は、口金12の上部26が取付孔19に挿通された状態で、雄ねじ34および雌ねじ32が螺合することによって口金12に結合されている。
【0025】
係止具10は、左右方向に延在する基部41と、基部41の左右端のそれぞれから前方へと突出する一対の腕部42と、基部41の後縁に沿って延設された規制部43とを有している。基部41と、一対の腕部42と、規制部43とは連続した一枚の鋼板から形成されており、プレス成形等によって成形されている。なお、他の実施形態では、係止具10は、樹脂の成形品であってもよい。
【0026】
基部41は、左右方向に延びる板片状を呈し、主面が上下方向を向いている。一対の腕部42は、互いに対称形をなし、それぞれ主面が上下方向を向く板片状を呈し、基部41に連続する後端から前方へと互いに平行に延びている。一対の腕部42は、左右方向から見て上方に向けて凸となる弧状に湾曲されており、板ばねとしての機能を有している。また、両腕部42は、互いに対向する側縁部において、前側部分に後方に進むほど互いに近接するように傾斜したテーパ部51と、中間部分に互いに略平行となる平行部52と、後側部分に左右方向における幅を縮小するために切欠された縮幅部53とを有している。縮幅部53は、腕部42の剛性を低下させることによって、腕部42の左右方向における若干の弾性変形を可能にしている。両腕部42の平行部52間の距離は、口金12の底壁29の直径よりも小さくなっている。両腕部42の平行部52には、円弧状の凹部である係合部45がそれぞれ形成されている。両係合部45の円弧形状を含む仮想円の直径は、口金12の底壁29の直径と同じ大きさとなっており、両係合部45は底壁29に当接可能となっている。
【0027】
規制部43は、板部材をU字状に湾曲させることによって形成されており、基部41の後縁から上方へと延びた後、湾曲部48を経て下方へと延びている。規制部43は、その遊端47が基部41よりも下方へと延出し、湾曲部48から遊端47にかけて主面が前後方向を向く平板状の操作入力部49を構成している。図2に示すように、上下方向において操作入力部49の中間部分に基部41が配置されるように、操作入力部49の上下方向における位置が設定されている。
【0028】
図1に示すように、取付孔19に口金12の上部26が下方側から挿通された状態で、係止具10は、両腕部42で底壁29を挟み込むように、口金12の径方向(後方)から凹溝28内に挿入される。このとき、両腕部42のテーパ部51の後部間および平行部52間の距離が底壁29の直径よりも小さいため、両腕部42が底壁29に当接する。そのため、操作入力部49をハンマー等で前方側(基部41と底壁29とが近接する方向)へと打ち込み、底壁29を両係合部45間に圧入させる。このとき、両腕部42は、底壁29に押圧され、弾性変形して左右方向に拡開される。底壁29が両係合部45間に到達すると、両腕部42は復元力によって初期位置に復帰し、両係合部45が底壁29に係合する。底壁29の外周面が両係合部45の円弧形状を含む仮想円と一致するとき、両係合部45と底壁29とは適切な係合状態となる。このときの係止具10に対する口金12の位置を係合位置という。
【0029】
図2に示すように、規制部43の遊端47は、ブラケット14の支持部17の端面20に対向しているため、係止具10をハンマーで打ち込む際に、係止具10がブラケット14に対して前方に移動しすぎる(打ち込まれすぎる)ことが防止される。また、上部26が取付孔19にがたつきなく挿通され、口金12のブラケット14に対する前後左右位置が定まっているため、係止具10の基部41が口金12に対して接近しすぎることが防止される。また、遊端47の端面20と対向する部分は平面状に形成されているため、係止具10のブラケット14に対する相対回転が規制される。
【0030】
口金12が係止具10に対して係合位置にあるとき、規制部43の遊端47と支持部17の端面20との間には隙間G1が形成される。隙間G1は、口金12が係止具10に対して係合位置から隙間G1だけ偏倚していても、両腕部42の復元力によって係合部45が底壁29を押圧する力により、口金12が係止具10に対して係合位置へと自然に導かれる大きさに設定されている。すなわち、規制部43の遊端47がブラケット14の支持部17の端面20に当接するまで係止具10が口金12側に押し込まれても、両腕部42の復元力によって、口金12が係止具10に対して係合位置へと自然に相対移動するようになっている。
【0031】
係止具10が口金12に結合した状態では、両腕部42の前後方向における中間部が凹溝28の上壁30に当接し、かつ両腕部42の前端および基部41がブラケット14の支持部17の上面に当接し、口金12は両腕部42の付勢力によってブラケット14に対して上方へと付勢される。これにより、口金12のフランジ部25の上面が、支持部17の下面に当接する。以上のようにして、口金12は、がた付きがない態様で、係止具10によってブラケット14に結合される。なお、基部41と支持部17の上面との当接に代えて、両腕部42の後端部が支持部17の上面に当接してもよい。
【0032】
係止具10は、操作入力部49が比較的広い面積を有するため、ハンマー等で押圧しやすい。また、入力荷重を広い面積で受けることができるため、集中荷重が加わり難く、係止具10の変形が防止される。また、上下方向において、操作入力部49の中間部に基部41が配置されているため、係止具10は操作入力部49に加わる入力荷重を受けてこじれることなく前進する。
【0033】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る係止具60は、第1実施形態に係る係止具10と比較して規制部43の構造が異なる。係止具60について、係止具10と同様の構成は、係止具10と同一の符号を付し、説明を省略する。
【0034】
図4に示すように、基部41の後縁には、上方へと突出する板状の操作入力部61が後縁に沿って延設されている。また、基部41の前縁であって、一対の腕部42の間には、前方側へと突出する板片状の規制部62が設けられている。
【0035】
係止具60は、係止具10と同様に口金12に結合され、結合形成の際には操作入力部61がハンマー等で押圧される。図5に示すように、口金12が係止具60に対して係合位置にあるときには、規制部62は凹溝28内に進入し、隙間G2をおいて底壁29と対向している。隙間G2は、隙間G1と同様に、口金12が係止具60に対して係合位置から隙間G2だけ偏倚していても、両腕部42の復元力によって係合部45が底壁29を押圧する力により、口金12が係止具60に対して係合位置へと自然に導かれる大きさに設定されている。すなわち、規制部62が底壁29に当接するまで、係止具60が口金12側に押し込まれても、両腕部42の復元力によって、口金12は係止具60に対して係合位置へと自然に相対移動するようになっている。
【0036】
以上に説明した係止具10,60では、規制部43,62によって、基部41と底壁29との過度な接近が防止されるため、すなわち、底壁29が両腕部42間の基端側に進入することが防止されるため、両腕部42の拡開が防止される。これにより、係止具10,60と口金12との結合不良が抑制される。
【符号の説明】
【0037】
10,60…係止具、11…ブレーキホース、12…口金(取付部材)、13…車体パネル、14…ブラケット(被取付部材)、19…取付孔、21…油圧ホース部、23…ブレーキパイプ、25…フランジ部、26…上部、28…凹溝(溝部)、29…底壁部、30…上壁部、31…下壁部、41…基部、42…腕部、43,62…規制部、44…挟持部、45…係合部、47…遊端、49,61…操作入力部、G1,G2…隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する被取付部材に、前記貫通孔に挿通可能な取付部材を係止するべく、前記取付部材の前記貫通孔を通過した部分に係合する係止具であって、
操作荷重が入力される基部と、
前記基部にそれぞれ突設され、前記取付部材を挟持可能に対向配置された一対の腕部と、
前記基部に突設され、前記被取付部材に当接することによって前記基部の前記取付部材への接近を規制する規制部と
を有することを特徴とする係止具。
【請求項2】
前記被取付部材は、前記貫通孔が形成された板状部を有し、
前記規制部は、前記板状部の端面と対向するように延設され、
前記基部を前記取付部材側に押圧する際の操作荷重は、前記規制部を介して前記基部に入力されることを特徴とする、請求項1に記載の係止具。
【請求項3】
前記腕部と前記取付部材とが係合した状態において、前記規制部が前記被取付部材との間に隙間を形成することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の係止具。
【請求項4】
貫通孔を有する被取付部材に、前記貫通孔に挿通可能な取付部材を係止するべく、前記取付部材の前記貫通孔を通過した部分に結合する係止具であって、
操作荷重が入力される基部と、
前記基部にそれぞれ突設され、前記取付部材を挟持可能に対向配置された一対の腕部と、
前記基部に突設され、前記取付部材に当接することによって前記基部の前記取付部材への接近を規制する規制部と
を有することを特徴とする係止具。
【請求項5】
前記腕部と前記取付部材とが係合した状態において、前記規制部が前記取付部材との間に隙間を形成することを特徴とする、請求項4に記載の係止具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−36930(P2012−36930A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175294(P2010−175294)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】