説明

保存中の吸湿潮解性が改善された乾燥エキス

【課題】 エキス素材の配合を必要とする調味料や食品に関して、エキス素材の使用量を制限することなく吸湿に伴う製品の品質低下を抑制することを実現するために、吸湿によってもその物性変化に影響が少ない乾燥エキスを提供すること。
【解決手段】 温度24℃、相対湿度75%環境下での平衡状態において、水分値が20%以上であり、かつ、粉体流動性が安息角90°未満である食用高分子素材が、エキス素材と複合された状態で、固形分質量比率10〜90%の範囲で含有されていることを特徴とする乾燥エキスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存中の吸湿潮解性が改善された乾燥エキスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
調味料や加工食品の呈味上の高品質化を図る上では、畜産類、魚介類、野菜類や果実類等から抽出されるエキス素材を利用する方法が有効である。実際、近年の一般消費者の食に対する本格志向や健康志向の向上に伴って、調味料や加工食品に対するエキス素材の使用ニーズは年を追うごとに増加してきている。
【0003】
これらエキス素材は、適宜乾燥することによって、粉末状あるいは顆粒状の調味料や乾燥スープ等、幅広い食品分野への応用が可能となる。
しかしながら、乾燥エキスは大変吸湿しやすく、保存中に容易に固結、あるいは潮解してしまうという特徴を持ち合わせている。例えば、乾燥エキスが配合された粉末調味料は、保存中の吸湿によりベタつきを生じ、その後軟化、収縮、固結等の外観変化を起こすとともに、流動性、溶解性の低下等の物性変化、さらに褐変反応等の進行による色、味、風味の劣化を引き起こす。すなわち、乾燥エキスの吸湿固結や潮解は、それを配合している商品の価値に大きな影響をもたらす。調味料業界ならびに加工食品業界では、商品の物性や保存性確保の制約から、乾燥エキスの使用量に制限を設けざるを得ないこともあることから、乾燥エキスの耐吸湿潮解性を確保する技術の開発が待たれている。
【0004】
吸湿性物質の耐吸湿性付与についてこれまでに様々な検討が為されてきた。例えば、吸湿性物質に低水分の澱粉を混合する方法(特許文献1参照)、アルファ化澱粉を混合する方法(特許文献2参照)、水溶性食物繊維を混合する方法(特許文献3参照)等が知られている。
しかしながら、これらは、吸湿性物質と高分子多糖類素材を単に混合しているだけであることから、吸湿性物質が潮解、固結に至るまでの時間が遅くなるだけの効果であり、根本的に吸湿性物質の吸湿潮解性を改質させる手法ではなかった。
【0005】
また、吸湿性物質の乾燥時の粉末化基材として高分子素材を用いる方法が知られている。例えば、低DE値のデキストリンを用いる方法(特許文献4参照)、環状デキストリンを用いる方法(特許文献5参照)、高分岐環状デキストリンを用いる方法(特許文献6参照)、特定のデキストリンとゼラチンを併用する方法(特許文献7参照)、大豆タンパク質を用いる方法(特許文献8参照)、熱凝固性タンパク質を用いる方法(特許文献9参照)、コンニャク粉を用いる方法(特許文献10参照)、セルロースを用いる方法(特許文献11参照)、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を用いる方法(特許文献12参照)、澱粉分解酵素および酸化剤で処理された改質澱粉を用いる方法(特許文献13参照)、大部分の複屈折性を消失させた改質澱粉を用いる方法(特許文献14および15参照)が開示されている。
しかしながら、いずれも期待する効果を得るためには粉末化基材の配合比率を相対的に高くしなければならず、吸湿性物質本来の味、風味に著しい変化をきたしたり、溶解性を低下させるという問題があって、吸湿性物質の改質手段として効率的なものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平10−229832号公報
【特許文献2】特開昭63−313574号公報
【特許文献3】特開2000−279104号公報
【特許文献4】特開昭59−205958号公報
【特許文献5】特開昭55−21725号公報
【特許文献6】特開2003−047430号公報
【特許文献7】特開平8−252073号公報
【特許文献8】特開昭56−11771号公報
【特許文献9】特開平2−2313号公報
【特許文献10】特開昭62−74255号公報
【特許文献11】特開昭63−245649号公報
【特許文献12】特開平2−211833号公報
【特許文献13】特開2003−219813号公報
【特許文献14】特開平2−157041号公報
【特許文献15】特開平9−12426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、多量の粉末化基材を使用せずとも、保存中の吸湿潮解性が大幅に改善された乾燥エキスを提供するものである。
また、本発明は、エキス素材の配合を必要とする調味料や食品において、エキス素材の使用量を制限されることなく、吸湿に伴う製品の品質低下を抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、エキス素材と食用高分子素材を乾燥エキスとして複合せしめた時に、温度24℃、相対湿度75%の環境下における食用高分子素材の平衡水分値が高ければ高いほど、乾燥エキスとしての耐吸湿性が高くなる傾向にあることを明らかにした。
また、同条件下における平衡水分値が高くても、粉体流動性が安息角90°以上、すなわち粉体としての流動性を失っている場合には、この傾向は当てはまらないことを明らかにした。
さらに、本発明者らは、乾燥エキスに複合されている高分子素材について、温度24℃、相対湿度75%の環境下における平衡水分値が20%以上であることが、過剰な量の食用高分子素材を必要とすることなく、乾燥エキスの耐吸湿性を効率的に向上させている要因であることを突き止めた。
本発明者らは、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、請求項1に係る本発明は、温度24℃、相対湿度75%環境下での平衡状態において、水分値が20%以上であり、かつ、粉体流動性が安息角90°未満である食用高分子素材が、エキス素材と複合された状態で、固形分質量比率10〜90%の範囲で含有されていることを特徴とする乾燥エキスを提供するものである。
請求項2に係る本発明は、食用高分子素材が、寒天及び/又はカラギーナンである請求項1に記載の乾燥エキスを提供するものである。
請求項3に係る本発明は、請求項1又は2に記載の乾燥エキスを用いた、粉末状、顆粒状あるいは固形状の、調味料又は加工食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、過剰な量の粉末化基材を要することなく、また細かな条件コントロールを要することなく、保存中の吸湿潮解性が大幅に改善された乾燥エキスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
請求項1に係る本発明は、温度24℃、相対湿度75%環境下での平衡状態において、水分値が20%以上であり、かつ、粉体流動性が安息角90°未満である食用高分子素材が、エキス素材と複合された状態で、固形分質量比率10〜90%の範囲で含有されていることを特徴とする乾燥エキスを提供するものである。
【0012】
本発明における食用高分子素材とは、食用可能な高分子素材のことであり、例えば寒天、カラギーナン、ゼラチン、ペクチン、馬鈴薯澱粉、小麦粉、デキストリン等が挙げられる。これら食用高分子素材の形態は、粉末状、塊状、顆粒状など、何れであっても良い。なお、これら食用高分子素材は、2種類以上を併用することもできる。
また、本発明における食用高分子素材は、温度24℃、相対湿度75%環境下での平衡状態において、水分値が20%以上であり、かつ、粉体流動性が安息角90°未満であるという条件を満たすことが必要である。
【0013】
本発明における食用高分子素材の平衡水分値および粉体流動性の測定条件として、温度24℃、相対湿度75%という環境を指定したのは、乾燥エキスおよびこれを用いる調味料や加工食品の保管、流通が、一般に常温(24℃程度)下で行なわれていること、および、食塩(塩化ナトリウム)の臨界相対湿度(75%/潮解し始める相対湿度)環境下での乾燥エキスの耐吸湿潮解性の確保が本発明の目的であることによる。
【0014】
また、平衡状態とは、保管環境と食用高分子素材との間での水分移動が起こらなくなった状態のことを言う。
本発明において「水分値」とは、試料3gを、70℃、30mmHg以下の減圧条件下にて5時間乾燥させたときの質量減少率で定義している。なお、本発明において「平衡水分値」とは、温度24℃、相対湿度75%環境下での平衡状態における水分値を指す。
【0015】
安息角とは、粉体流動性の指標の一つであり、食用高分子素材の粉末を堆積させた時にできる傾斜線と、水平面とがなす角度のことである。安息角の値は、粉体の粒子表面の摩擦係数によって決まるため、粉体が吸湿して付着性を帯びてくると安息角の値も上昇する。粉体の安息角が90°以上である時は、その粉体が流動性を失っている状態として解釈できる。
なお、本発明においては、簡易的な安息角の測定手段として、所定の大きさ(直径53mm、高さ84mm)の円柱状の容器に、20gの試料を入れて蓋をし、これを横に倒して、30rpm程度の回転速度で円周方向に回転させた時に、安定して認められる限界傾斜角を測定する方法を採用している。
【0016】
本発明において「複合された状態」とは、エキス素材と食用高分子素材について複合操作が為された状態を意味する。
この「複合操作」とは、均一混合操作と、その後に行なわれる乾燥操作とを含むものである。
【0017】
上記の「均一混合操作」では、食用高分子素材を水和あるいは溶解させること、および、エキス素材と食用高分子素材とを均一に混合することが必須である。
この均一混合操作において、食用高分子素材の水和状態もしくは溶解状態が不十分である場合、具体的には、例えば、エキス素材と食用高分子素材とが単に混合されただけの場合や、乾燥前の静置状態において沈殿物を生じる場合などには、本発明の目的を達成することができない。
また、本発明の均一混合操作では、食用高分子素材の水和あるいは溶解を促進するために、適宜加水や加熱処理等を施すことが可能である。具体的な操作手段は、用いる食用高分子素材の種類に応じて適宜設定すれば良い。
【0018】
例えば、食用高分子素材として温水溶解性(即溶タイプ)の寒天を用いる場合は、80〜110℃に達温するまで加熱することにより、水和あるいは溶解させることができる。
また、例えば、食用高分子素材として非即溶タイプの一般的な寒天を用いる場合は、80〜110℃、好ましくは微沸騰状態(100℃程度)に達温するまで加熱し、その後10秒〜50分間、好ましくは3〜5分間保温することにより、水和あるいは溶解させることができる。
食用高分子素材としてカラギーナンを用いる場合は、例えば、50〜110℃、好ましくは70〜90℃に達温するまで加熱することにより、水和あるいは溶解させることができる。
【0019】
本発明の均一混合操作において、エキス素材と食用高分子素材とを均一に混合する操作は、食用高分子素材を水和あるいは溶解させる前に行なうこともできるし、水和あるいは溶解させた後に行なっても良い。つまり、エキス素材と食用高分子素材とを均一に混合した状態で、食用高分子素材を水和あるいは溶解させるための操作を行なっても良く、また、食用高分子素材を水和あるいは溶解させた状態で、これをエキス素材と均一に混合することも可能である。
ここで、エキス素材と食用高分子素材とを均一に混合するための操作方法は特に限定されず、例えば、ホモジナイザーやミキサー等で混合撹拌する方法が挙げられる。
なお、上記の均一混合操作で得られた混合物は、直ちに次の乾燥操作を施すこともできるし、常法により濃縮あるいは精製した後に乾燥操作を施すことも可能である。
【0020】
本発明における「乾燥操作」としては、上記の均一混合操作で得られた混合物の水分含量を20質量%以下、好ましくは1質量%以下とすることができれば、その手段や処理条件等は特に限定されない。例えば、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥、真空ドラム乾燥等を用いて定法により行えばよい。
上記の乾燥操作により得られた乾燥エキスはそのままでも使用できるが、粉砕等により粉末状、微粉状等としての使用も可能である。
【0021】
ところで、本発明における食用高分子素材の平衡水分値は、エキス素材と複合された状態にある食用高分子素材の平衡水分値として定義される必要がある。なぜなら、エキス素材と食用高分子素材とについて、上記の複合操作を行う過程、例えば食用高分子素材を水和・溶解させる操作や乾燥操作の過程で、食用高分子素材の平衡水分値が変動してしまうおそれがあるためである。
したがって、本発明において使用する食用高分子素材を選定するにあたっては、上記した乾燥エキスの製造工程をエキス素材抜きで行って得られた乾燥高分子素材について、その平衡水分値を測定するのが好ましい。
なお、食用高分子素材の粉体流動性(安息角)についても、平衡水分値と同様に上記の複合操作によって受ける影響が大きいことから、乾燥エキスの製造工程をエキス素材抜きで行って得られた乾燥高分子素材について、その安息角を測定するのが好ましい。
【0022】
このように、本発明における食用高分子素材は、たとえ複合される前における平衡水分値が20%未満であっても、複合された状態、すなわち上記の複合操作を経た後において、温度24℃、相対湿度75%環境下での平衡状態での水分値が20%以上、かつ、粉体流動性が安息角90℃未満であるという条件を満たすものであれば、使用することができる。
【0023】
本発明の乾燥エキス中における食用高分子素材の配合比率は、少なすぎれば吸湿潮解性改善効果が低く、多すぎればエキス素材本来の風味、食感に変化を起こす。また、食用高分子素材の配合比率が少なすぎたり、多すぎたりした場合には、食用高分子素材が水分値および安息角についての指定条件を満たす場合と満たさない場合とでの効果の違いがはっきりしなくなる。
そのため、食用高分子素材の配合比率は、乾燥エキスの固形分換算で10〜90%(w/w)の範囲である必要がある。さらに好ましい配合比率については、出来上がりの乾燥エキスに求める耐吸湿潮解性に応じて適宜設定できる。
【0024】
例えば、エキス素材としてビーフオニオンとオニオンエキスの等量ミックスを、食用高分子素材として寒天を使用する場合において、流動限界水分活性(Aw)を0.7以上確保したい場合には、寒天の配合比率(固形分換算)は30〜90%、好ましくは50〜70%(いずれもw/w)とすれば良い。
また、例えば、エキス素材としてビーフオニオンとオニオンエキスの等量ミックスを、食用高分子素材としてカラギーナンを使用する場合において、流動限界Awを0.7以上確保したい場合には、カラギーナンの配合比率(固形分換算)は40〜90%、好ましくは50〜70%(いずれもw/w)とすれば良い。
【0025】
本発明におけるエキス素材とは、スープ、ソース、或いはブイヨンなどの加工食品等に、好ましいコク味、濃厚感、風味および香りを付与するために配合されるエキスを指し、その抽出源や製法、形態(液状、ペースト状等)などは特に限定されない。
上記エキスの例としては、畜肉、魚肉、鶏ガラ、魚介類、野菜類及び果実類から抽出された少なくとも1種類以上のものが挙げられる。
ここで畜肉としては、例えば牛肉、豚肉、鶏肉などを挙げることができ、また、魚肉としては、例えば鰹、鮪、鰯などの肉を挙げることができる。鶏ガラとしては、例えば廃鶏ガラ、ブロイラーガラなどを挙げることができ、魚介類としては、例えばアワビ、ホタテ、アサリ、カキ、エビ、イカなどを挙げることができる。また、野菜類としては、例えばタマネギ、セロリ、ニンジン、トマト、キャベツなどを挙げることができ、果実類としてはリンゴ、バナナ、パイン等を挙げることができる。
【0026】
エキスの抽出に用いる畜肉、魚肉、鶏ガラおよび魚介類は、そのまま、或いは予めミンチにしても構わず、特に形状は問わない。また、生臭さ等を消すためにニンニクやショウガ等の香辛料類を加えることも可能である。
また、エキスの抽出に用いる野菜類および果実類は、そのままでも、或いは予め粉砕しても構わず、特に形状に制限はない。これら野菜類および果実類としては、予め加熱等の処理を行い、ペースト状にしたものを用いることもできる。さらに、エキスの味覚調整のため、砂糖、乳糖、ブドウ糖、果糖、異性化糖などの糖類を添加することも可能である。
【0027】
請求項2に係る本発明は、請求項1に係る本発明の乾燥エキスにおいて、食用高分子素材が寒天及び/又はカラギーナンであることを特徴とするものである。
【0028】
本発明における寒天としては、温度24℃、相対湿度75%の環境下における平衡水分が20%以上であり、かつ、その時の粉体流動性が安息角90°未満であれば特に限定されるものではなく、主原料の藻類の種類、抽出法、精製法、処理法等に関わらず、いずれも使用可能である。
寒天には、その原料、製法により種々の特性を持つものが知られているが、一般に、寒天のゼリー強度が高いほど、温度24℃、相対湿度75%の環境下における平衡水分値が高くなり、乾燥エキスの耐吸湿性改善効果も高くなる傾向にある。
なお、近年、加熱操作が必要なく、水や温水に溶解する即溶タイプの寒天素材が多々開発されているが、本発明においてこれらを活用することは、エキス素材との複合操作をより簡便化できる見地から非常に有効である。
【0029】
本発明におけるカラギーナンは、温度24℃、相対湿度75%の環境下における平衡水分値が20%以上であり、かつ、その時の粉体流動性が安息角90°未満であれば特に限定されるものではなく、主原料の藻類の種類、抽出法、精製法、処理法、塩の種類等に関わらず、いずれも使用可能である。
【0030】
また、本発明の乾燥エキスには、エキス素材および食用高分子素材の他にも、調味料や加工食品の製造に通常使用できる添加物も、必要に応じて使用することができる。これら添加物の添加時期は特に制限されないが、例えば、乾燥操作の前に添加することができる。
【0031】
このようにして得られた本発明の乾燥エキスは、そのままで調味料として加工食品の製造等に使用しても良く、種々の調味料の製造などに用いることもできる。
本発明の乾燥エキスは、通常の保管・流通環境下において、例えば流動限界Awが0.7以上を示すなど、粉体流動性を維持しており、吸湿潮解性が大幅に改善されているため、特に、保存中の吸湿等による品質の劣化が大きな課題となっている粉末状、顆粒状あるいは固形状の調味料や加工食品に使用すると効果的である。このような加工食品の具体例としては、スープ、ソース、ブイヨン、ルー等が挙げられる。
本発明の乾燥エキスを用いて調味料、加工食品等を製造する方法については、常法により行えばよい。例えば、本発明の乾燥エキスをその他の原料と一緒に混合、造粒、打錠等することにより、粉状、顆粒状、キューブ状の調味料あるいは加工食品を製造することができる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を以下の実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0033】
実施例1
固形分濃度50質量%のビーフエキス(BERTIN LTDA)1質量部ならびに固形分濃度50質量%のオニオンエキス(大洋エーアンドエフ)1質量部を混合し、固形分濃度50質量%のエキスミックスを得た。
また、表1に示す市販の各種食用高分子素材(寒天、カラギーナン、ゼラチン、ペクチン、馬鈴薯澱粉、小麦粉、デキストリン)を減圧乾燥し、水分1質量%以下の各種乾燥高分子素材を得た。なお、寒天(ウルトラ寒天UP37K/伊那食品工業)は、温水溶解性を持つ即溶性寒天である。
次に、エキスミックス2質量部、各種乾燥高分子素材1質量部および水17質量部を混合し、各種乾燥高分子素材を水和あるいは溶解させるための必要最低限の加熱処理(条件は表1に示す。)を施した。これを凍結乾燥に供し、水分1質量%以下の各種乾燥改質エキスを得た。さらに、これを粉砕操作に供し、目開き1.0mmのメッシュパスの各種乾燥改質エキスサンプルを得た。なお、各種サンプルにおけるエキスと食用高分子素材との固形分質量換算での配合比率は1:1である。
なお、上記のエキスミックスを単独で上記と同様の凍結乾燥操作ならびに粉砕操作に供して得られた粉末をコントロールサンプルとした。
【0034】
コントロールサンプルならびに各種乾燥改質エキスサンプルの耐吸湿潮解性評価は以下の手順に従って実施した。
所定の大きさ(直径53mm、高さ84mm)の円柱状の容器に、各々のサンプル20gを入れ、これを温度24℃、相対湿度60〜80%の範囲に設定した恒温恒湿槽(LH21-11P / ナガノサイエンス社)に保管した。経時的に容器を振って吸湿度合いの均質化を図りながら、各サンプルの安息角の挙動を追跡した。サンプルの安息角が90°を超えた時点で水分活性(Aw)測定装置(ノバシーナTH500 / 日本シイベルヘグナー)に供し、流動限界Awを測定した。
コントロールならびに各種乾燥改質エキスサンプルの流動限界Awについて、表1に示した。
【0035】
一方で、これとは別に、エキスミックスを添加しないこと以外は、上記の各種乾燥改質エキスサンプルの調製操作と同様の操作を行い、各種乾燥高分子素材サンプルを得た。得られた各種乾燥高分子素材サンプルについて、24℃、相対湿度(RH)75%環境下での平衡水分値と、その時の安息角を測定した結果についても表1に示した。
なお、平衡水分値は、試料3gを、70℃、30mmHg以下の減圧条件下にて5時間乾燥させたときの質量減少率(%)で表した。
また、安息角の測定は、直径53mm、高さ84mmの円柱状の容器に、20gの試料を入れて蓋をし、これを横に倒して30rpm程度の回転速度で円周方向に回転させた時に、安定して認められる限界傾斜角を測定して安息角(°)とした。
【0036】
【表1】

【0037】
表1の結果から、いずれの乾燥改質エキスサンプルについても、コントロールより高い流動限界Awを示すことが明らかとなった。流動限界Awが高いほど、高い湿度環境下においても粉体としての流動性を維持しうると考えられることから、耐吸湿潮解性が向上していると判断できる。
特に、各種の寒天やカラギーナンを使用した場合には、乾燥改質エキスサンプル中の食用高分子素材の配合比率が50質量%以下であった場合でも、流動限界Aw0.70以上という極めて高い耐吸湿性潮解性を確保できることが明らかとなった。
【0038】
また、表1から、乾燥高分子素材サンプルにおける24℃、相対湿度75%環境下における平衡水分値が高いものほど、その食用高分子素材を用いた乾燥改質エキスサンプルの耐吸湿潮解性が高くなる傾向にあることが明らかとなった。耐吸湿潮解性の向上に大きく寄与している各種の寒天や一部のカラギーナンは、24℃相対湿度75%環境下における平衡水分値が20%を超えているという点で一致している。
一方で、ゼラチンや各種澱粉など平衡水分値が20%以下の食用高分子素材や、一部のデキストリン等のように粉体としての流動性を失ってしまう(安息角90°以上である)食用高分子素材を用いた場合は、期待するほどの耐吸湿潮解性改善効果は得られないことが明らかとなった。
【0039】
実施例2
実施例1で調製したエキスミックス2質量部に対し、水分1質量%以下まで乾燥させた寒天(S6 / 伊那食品工業)1質量部ならびに水30質量部を加えて、撹拌しながらこれを加熱した。沸騰状態に達してから3分間保持した後、これを凍結乾燥して水分1質量%以下とし、さらに粉砕に供することにより、目開き1.0mmのメッシュパスの乾燥改質エキスサンプルA(本発明品/ 適正複合品)とした。
次に、実施例1で調製したエキスミックス2質量部に対し、水分1質量%以下まで乾燥させた寒天(S6 / 伊那食品工業)1質量部ならびに水30質量部を加えて混合・撹拌し、加熱処理により水和あるいは溶解させることなく、凍結乾燥して水分1質量%以下とし、さらに粉砕に供することにより、目開き1.0mmのメッシュパスの乾燥改質エキスサンプルB(複合不完全品 / 単純混合品)とした。
また、実施例1で調製したエキスミックス2質量部に対し、水分1質量%以下まで乾燥させた寒天(S6 / 伊那食品工業)1質量部ならびに水30質量部を加えて、撹拌しながらこれを加熱した。沸騰状態に達してから60分間保持した後、これを凍結乾燥して水分1質量%以下とし、さらに粉砕に供することにより、目開き1.0mmのメッシュパスの乾燥改質エキスサンプルC(寒天平衡水分値20%未達品)とした。
【0040】
上記のようにして得られた3種類のサンプルは、いずれもエキス固形分と寒天固形分とが等質量比率で存在している。これらの耐吸湿潮解性について、実施例1と同じ手順で評価した。その結果を表2に示した。
【0041】
一方で、これとは別に、エキスミックスを添加しないこと以外は、上記の乾燥改質エキスサンプルA、BおよびCの調製操作と同様の操作を行い、それぞれ乾燥寒天サンプルA、BおよびCを得た。得られた各種乾燥寒天サンプルについて、24℃、相対湿度75%環境下での平衡水分値と、その時の安息角を、実施例1と同様にして測定した結果についても表2に示した。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に示す通り、乾燥改質エキスサンプルA(本発明品)では流動限界Awが0.8を超えていることから、耐吸湿潮解性が大きく改善されていることが分かる。一方、乾燥改質エキスサンプルBおよびCでは、流動限界Awが0.7未満であり、耐吸湿潮解性の改善効果が不十分であった。
したがって、本発明品と同じ食用高分子素材を使用した場合でも、エキスミックスとの複合のさせ方が異なった場合、すなわち、ただ単純に混ぜ合わせただけの場合や、過度の加熱処理等によって本来発揮すべき高分子素材の機能を消失させてしまった場合には、耐吸湿潮解性向上の効果が得られない、もしくは著しく小さくなることが明らかとなった。
【0044】
以上のことから、本発明品にて期待される耐吸湿潮解性向上の効果を得るためには、食用高分子素材が、温度24℃、相対湿度75%の環境下における平衡水分値が20%以上で、かつ粉体流動性が安息角90°未満である状態で、エキス素材と複合されている必要があることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、過剰な量の粉末化基材を要することなく、また細かな条件コントロールを要することなく、保存中の耐吸湿潮解性が大きく向上した乾燥エキスを提供することができる。
従って、本発明は、調味料や加工食品の分野を含む食品産業界において有効に利用されることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度24℃、相対湿度75%環境下での平衡状態において、水分値が20%以上であり、かつ、粉体流動性が安息角90°未満である食用高分子素材が、エキス素材と複合された状態で、固形分質量比率10〜90%の範囲で含有されていることを特徴とする乾燥エキス。
【請求項2】
食用高分子素材が、寒天及び/又はカラギーナンである請求項1に記載の乾燥エキス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の乾燥エキスを用いた、粉末状、顆粒状あるいは固形状の、調味料又は加工食品。

【公開番号】特開2008−148617(P2008−148617A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339322(P2006−339322)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(591101504)クノール食品株式会社 (29)
【Fターム(参考)】