説明

保持器およびこれを備えた転がり軸受

【課題】安価でありながら、適度な耐熱性を有し、劣化の原因となる酸素などのガスや薬品等に対する耐性にも優れた合成樹脂製保持器を提供する。
【解決手段】保持器4を、ガラス繊維で強化された66ナイロンを用いて射出成形した後、得られた成形体の表面に、特定のエポキシ樹脂硬化被膜を形成することで得る。エポキシ樹脂硬化被膜は、「メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂」と、「メタキシリレンジアミンまたはパラキシリレンジアミンと、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸の誘導体、またはメタクリル酸の誘導体と、の反応生成物からなるアミン系硬化剤」とからなる2液型エポキシ樹脂を用いて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、保持器に特徴を有する転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、転がり軸受の合成樹脂製保持器としては、ガラス繊維または炭素繊維で強化されたポリアミド樹脂(66ナイロン、46ナイロン)、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂からなるものが使用され、使用温度や使用環境によって使い分けられている。
このうち、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、耐熱性および耐薬品性に優れるが高価である。これに対して、ガラス繊維で強化された66ナイロン製の保持器は、耐熱性、強度、コストのバランスが良いことから、最も多く使用されている。ただし、66ナイロンは、分子構造に含まれるアミド結合に起因して、薬品や酸素ガス等で劣化し易い。
【0003】
そのため、耐熱性の点では66ナイロン製の保持器で問題がない使用環境であっても、耐薬品性などの点で問題がある場合には、高価なポリフェニレンサルファイド樹脂やポリエーテルエーテルケトン樹脂製の保持器を使用する必要があり、コストが高くなる。
なお、下記の特許文献1および2には、エポキシ樹脂とアミン系硬化剤を含む樹脂組成物であって、エポキシ樹脂が有する優れた性能に加え、高いガスバリア性を有する樹脂組成物が記載されている。その用途としては、防食、美粧を目的とする塗料や、高いガスバリア性が要求される食品や医薬品などの包装材料などが挙げられている。
【0004】
この樹脂組成物は、エポキシ樹脂とアミン系硬化剤を塗料形成成分とし、アミン系硬化剤が下記の(A) と(B) の反応生成物、または(A) 、(B) および(C) の反応生成物であり、エポキシ樹脂が、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するものであることを特徴とする。
(A) メタキシリレンジアミンまたはパラキシリレンジアミン。(B) ポリアミンとの反応によりアミド基部位を形成し、且つオリゴマーを形成し得る、少なくとも1つのアシル基を有する多官能性化合物。(C) 炭素数1〜8の一価カルボン酸および/またはその誘導体。
【0005】
特許文献2には、さらに、前記樹脂組成物に層状珪酸塩を含有するガスバリア性樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−256208号公報
【特許文献2】特開2004−26880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の課題は、安価でありながら、適度な耐熱性を有し、劣化の原因となる酸素などのガスや薬品等に対する耐性にも優れた合成樹脂製保持器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は、転がり軸受の保持器であって、ガラス繊維または炭素繊維で強化されたポリアミド樹脂からなり、表面に、ガスバリア性を有するエポキシ樹脂硬化被膜を有することを特徴とする。
前記エポキシ樹脂被膜は、特許文献1および2に記載された樹脂組成物を硬化させて得ることができる。また、前記エポキシ樹脂被膜は、下記の(1) を満たすエポキシ樹脂を下記の(2) を満たすアミン系硬化剤で硬化させて得られたものであることが好ましい。
(1) メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂。
(2) メタキシリレンジアミンまたはパラキシリレンジアミンと、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸の誘導体、またはメタクリル酸の誘導体と、の反応生成物からなるアミン系硬化剤。
【0009】
前記(2) のアミン系硬化剤は、特許文献1および2の樹脂組成物を構成するアミン系硬化剤であって、前記(A)と(B)との反応生成物に相当する。
前記(A)と(B)との反応により生じるアミド基同士が高い凝集力を有し、このアミド基が前記(2) のアミン系硬化剤中に高い割合で存在することにより、前記エポキシ樹脂硬化被膜は、高いガスバリア性を有するとともに、同様の分子構造を有するポリアミド樹脂に対する接着強度が高い。
【0010】
よって、この保持器は、ガラス繊維または炭素繊維で強化されたポリアミド樹脂からなるため、安価でありながら、適度な耐熱性を有するとともに、前記エポキシ樹脂硬化被膜を有することで、ガスバリア性や耐薬品性が良好となるため、酸素などのガスや薬品等に対する耐性に優れたものである。
保持器を形成するポリアミド樹脂としては、66ナイロン、46ナイロン、変性ポリアミド6T、ポリアミド9Tなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、安価でありながら、適度な耐熱性を有し、劣化の原因となる酸素などのガスや薬品等に対する耐性にも優れた合成樹脂製保持器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の一実施形態に相当する転がり軸受を示す断面図である。
【図2】図1の転がり軸受の保持器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施形態について説明する。
この実施形態の転がり軸受は、図1に示すように、内輪1、外輪2、玉(転動体)3、保持器4、およびシール5で構成された深溝玉軸受である。保持器4は、図2に示すように、円環の軸方向一端にポケット41が形成された冠形保持器である。
この保持器4として、呼び番号6203の深溝玉軸受用の保持器を、ガラス繊維で強化された66ナイロンおよび46ナイロン(ポリアミド樹脂)をそれぞれ用いて射出成形した後、得られた成形体の表面にエポキシ樹脂硬化被膜を形成することで得た。
【0014】
ガラス繊維で強化された66ナイロンとしては、BASF社の「ウルトラミッドA3HG5」(ガラス繊維含有率25質量%、アミン系酸化防止剤添加グレード)を使用した。ガラス繊維で強化された46ナイロンとしては、Royal DSM社の「スタニール(登録商標)TW241F6」(ガラス繊維含有率30質量%、銅系熱安定剤添加グレード)を使用した。
【0015】
エポキシ樹脂硬化被膜の形成は、三菱ガス化学(株)の2液型エポキシ樹脂「マクシーブ」と溶剤を用いて以下の方法で行った。「マクシーブ」は主剤「M−100」と硬化剤「C−93」とからなる。主剤「M−100」は前記(1) を満たすエポキシ樹脂であり、硬化剤「C−93」は前記(2) を満たすアミン系硬化剤である。
溶剤としては、質量比で、メトキシプロパノール:メタノール:酢酸エチル=20:2:3となるように混合したものを用意した。
【0016】
これらを質量比で「M−100」:「C−93」:溶剤=5:16:25となるように混合したものを、エアスプレー法で保持器の表面に塗布して、風乾(そのまま30分間放置した)後、80℃で30分間熱処理を行うことで被膜を完全に硬化させた。
また、比較例として、同じ方法で作製して被膜を形成しない保持器も用意した。このようにして得られた、エポキシ樹脂硬化被膜を設けた保持器と被膜を何も設けなかった保持器を用いて、高温空気環境下での保持器の性能を調べる試験を行った。
【0017】
具体的には、各保持器について、試験開始前と終了後に保持器4の円環部(図2の符号「42」の部分)の引張強度(円環部内に一対の治具を入れて互いに反対側に引っ張り、円環部が破壊するまでに要する力)を測定し、試験開始前の強度を100とした時の試験終了後の強度の相対値を算出した。試験条件は、ガラス繊維で強化された66ナイロン製の保持器の場合は、150℃で2000時間とし、ガラス繊維で強化された46ナイロン製の保持器の場合は、180℃で1000時間とした。
【0018】
その結果、ガラス繊維で強化された66ナイロン製の保持器では、エポキシ樹脂硬化被膜を設けた場合の強度(相対値)は95であり、被膜無しの場合の強度(相対値)は73であった。ガラス繊維で強化された46ナイロン製の保持器では、エポキシ樹脂硬化被膜を設けた場合の強度(相対値)は90であり、被膜無しの場合の強度(相対値)は68であった。
【0019】
この結果から明らかなように、特定の2液型エポキシ樹脂を硬化させて形成された被膜を有し、材質がガラス繊維で強化された66ナイロンである保持器、および前記被膜を有し、材質がガラス繊維で強化された46ナイロンである保持器は、安価でありながら、適度な耐熱性を有し、高温時の耐空気劣化性にも優れたものであることが分かる。
【符号の説明】
【0020】
1 内輪
2 外輪
3 玉(転動体)
4 保持器
41 ポケット
42 円環部
5 シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の保持器であって、
ガラス繊維または炭素繊維で強化されたポリアミド樹脂からなり、表面に、ガスバリア性を有するエポキシ樹脂硬化被膜を有することを特徴とする保持器。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂被膜は、下記の(1) を満たすエポキシ樹脂を下記の(2) を満たすアミン系硬化剤で硬化させて得られたものである請求項1記載の保持器。
(1) メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂。
(2) メタキシリレンジアミンまたはパラキシリレンジアミンと、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸の誘導体、またはメタクリル酸の誘導体と、の反応生成物からなるアミン系硬化剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の保持器を有する転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−43226(P2011−43226A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192870(P2009−192870)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】