説明

保持容器、保持容器の製造方法および太陽電池用シリコンの製造方法。

【課題】保持容器から不純物が混入することを防止することができる保持容器、および保持容器の製造方法を提供する。
【解決手段】金属元素、シリコン元素およびゲルマニウム元素から選択された選択元素を主成分とする溶融物を保持する保持容器であって、溶融液と接触する内面が一体的に形成された保持容器本体4を備え、保持容器本体4は、選択元素を主成分として含み、保持容器本体の選択元素の含有率(質量%)は、溶融物の選択元素の含有率(質量%)以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保持容器、保持容器の製造方法および太陽電池用シリコンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンを基板とした太陽電池は一般に、溶融シリコンを凝固して単結晶または多結晶シリコンのインゴットとし、これをスライスしたシリコンウェハから製造されるが、シリコンインゴット製造の際には、溶融シリコンを保持・冷却し、冷却後に後工程へと送るための容器が必要となる。
【0003】
太陽電池用シリコン(以下、SOG−Siと表記)製造する一例を説明する。SOG−Si(solar grade silicon)を製造するには、まず、金属級シリコン(以下、MG−Siと表記)などの原料シリコンを溶融し、ボロン除去を行う。ボロン除去方法としては、たとえば、特開2005−247623号公報(特許文献1)に記載されているように、シリコン溶融液にスラグを投入する方法が挙げられる。
【0004】
さらに、ボロン除去を行ったシリコンに対し、引き続きリン除去処理が行われる。
リン除去方法としては特許2905353号公報(特許文献2)に開示されているような、非酸化性の坩堝に入れたシリコンを溶融状態で減圧する方法が考えられる。
【0005】
ここで、スラグによるボロン除去工程は大気開放下で行われることが多い。スラグによるボロン除去過程においては二酸化炭素などのガス発生を伴う反応が起こるため、減圧下で行うと極めて激しい反応となるからである。
【0006】
これに対し、リン除去工程は減圧下で行う必要があるため、ボロン除去後のシリコン溶融液をボロン除去用の装置から取り出し、坩堝などのシリコン溶液を保持する保持容器に投入する。実験レベルの少量生産を行う装置ならば大気開放下でボロン除去後、この系を閉鎖し減圧してリン除去を行うことも考えられるが、工業的な(連続)生産を考えた場合には、ボロン除去後のシリコン溶融液はただちに出湯し、引き続き新たなMG−Si(metallurgical-grade silicon)の溶融、ボロン除去を行ったほうが高い生産効率が得られる。そして、リンおよびボロン除去を行ったシリコンは、坩堝に乗せられ次の精製工程に送られる。
【0007】
従来からシリコン溶融液を搬送するための容器が各種提案されている。たとえば、特開2005−47782号公報には、シリコン溶融液を収容し冷却するシリコン製造用冷却容器が記載されている。このシリコン製造用冷却容器は、シリコン溶融液の受面が、タングステンによって構成されている。また、特開2006−36549号公報には、インゴットから切り出した複数のシリコン板を組み合わせて構成されたシリコン保持容器が記載されている。
【0008】
なお、不純物を含有する金属材料から各種の不純物を取り除き、高純度の金属材料を製造する場合においても、金属材料を溶融して、不純物を除去する工程を繰り返す。そして、特定の不純物を除去した後、さらに、他の不純物を除去する装置に金属材料を搬送するときには、溶融状態の金属を容器などに収容した状態で搬送する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−247623号公報
【特許文献2】特許2905353号公報
【特許文献3】特開2005−47782号公報
【特許文献4】特開2006−36549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特開2005−247623号公報に記載されたシリコン製造用冷却容器においては、容器を構成するタングステンが収容しているシリコン中に混入するという問題が生じる。特許文献3には、タングステンがシリコン中に極少量混入しても、シリコン中におけるタングステンの偏析係数は非常に小さいため、シリコンを再溶融することにより、混入したタングステンの大部分を容易に分離することができると述べられてはいるものの、シリコン溶融液への不純物の混入は可能な限り避けるべきであることはいうまでも無い。なお、金属の精錬工程において使用される容器においても、当然のことながら、容器から容器内に収容された溶融金属に不純物が溶け出すことを防止する必要がある。
【0011】
特許文献4に示された容器においては、容器を構成するシリコン板は、シリコンインゴットからの切り出し部材を使用しており、容器の大型化(例えば縦、横、高さいずれかが1mを超えるような)に適さない。その一方で、高純度のシリコンや高純度の金属を工業的に製造する際には、多量の溶融液を搬送する必要があるため、容器の大型化が求められている。
【0012】
シリコンの精錬工程および金属材料の精錬工程において、容器内で凝固したシリコン材料や金属材料を容器から取り出し、凝固したシリコン材料や金属材料に精錬処理を行う場合がある。凝固したシリコン材料と容器とを剥離させるときや、凝固した金属材料を容器から剥離させるときに大きな衝撃力が生じると、容器が損傷するおそれがある。
【0013】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、その第1の目的は、金属元素含有物またはシリコン元素含有物の溶融物を保持する保持容器において、保持容器から不純物が混入することを防止することができ、さらに、容器の大型化を図ることができる保持容器を提供することである。
【0014】
第2の目的は、金属元素含有物またはシリコン元素含有物の溶融物を保持する保持容器であって、保持容器から不純物が混入することを防止することができ、さらに、容器内で上記溶融物が凝固したとしても、凝固物を簡単に容器から取り外すことができる容器を提供することである。
【0015】
第3の目的は、金属元素含有物またはシリコン元素含有物の溶融物を保持する保持容器であって、容器の強度が確保された保持容器の製造方法を提供することである。
【0016】
第4の目的は、高純度の太陽電池用シリコンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る保持容器は、金属元素、シリコン元素およびゲルマニウム元素から選択された選択元素を主成分とする溶融物を保持する保持容器である。保持容器は、上記溶融液と接触する内面が一体的に形成された保持容器本体を備え、保持容器本体は、選択元素を主成分として含み、保持容器本体の選択元素の含有率(質量%)は、溶融物の選択元素の含有率(質量%)以上である。
【0018】
上記保持容器は、上記保持容器本体の外表面を覆うように保持容器本体の外表面に設けられ、保持容器本体を支持する外殻体をさらに備える。好ましくは、保持容器は、上記保持容器本体の内表面を覆うように敷きつめられた複数の被覆ピースをさらに備え、被覆ピースは、選択元素を主成分として含み、被覆ピースの選択元素の含有率(質量%)は、溶融物における選択元素の含有率(質量%)以上である。
【0019】
本発明に係る保持容器は、他の局面では、金属元素、シリコン元素およびゲルマニウム元素から選択された選択元素を主成分とする溶融物を保持する保持容器である。保持容器は、上記溶融物を受け止める保持容器本体と、保持容器本体の外表面を覆うように保持容器本体の外表面に設けられ、保持容器本体を支持する外殻体とを備える。保持容器本体は、外殻体の内表面上に敷きつめられた複数の被覆ピースを含み、被覆ピースは、選択元素を主成分として含み、被覆ピースの選択元素の含有率(質量%)は、溶融物における選択元素の含有率(質量%)以上である。好ましくは、上記溶融物が凝固点まで冷えるのに発する熱量よりも、複数の被覆ピースが溶融するために要するの融解熱のほうが大きい。
【0020】
好ましくは、上記保持容器本体は、底面と底面に連設された内周面とを含み、底面から離れるにつれて、水平断面の開口部が大きくなる。好ましくは、上記外殻体の融点は、溶融物の融点よりも高い。好ましくは、上記選択元素は、シリコン元素である。
【0021】
本発明に係る保持容器の製造方法は、金属元素、シリコン元素およびゲルマニウム元素から選択された選択元素を主成分とする溶融物を保持する保持容器の製造方法である。保持容器の製造方法は、上記中空状の外殻体を準備する工程と、外殻体の内表面に、溶融物を受け止める保持容器本体を形成する工程とを備える。上記保持容器本体を形成する材料は、選択元素を主成分として含み、保持容器本体を形成する材料の選択元素の含有率(質量%)は、溶融物の選択元素の含有率(質量%)以上である。
【0022】
好ましくは、上記外殻体の内表面に保持容器本体を形成する工程は、保持容器本体を形成する材料を溶融する工程と、溶融状態の材料を外殻体の内表面に形成する工程とを含む。
【0023】
好ましくは、上記外殻体の内表面に保持容器本体を形成する工程は、複数の被覆ピースを外殻体の内表面に敷きつめる工程を含み、被覆ピースは、選択元素を主成分として含み、被覆ピースの選択元素の含有率(質量%)は、溶融物における選択元素の含有率(質量%)以上である。
【0024】
本発明に係る太陽電池用シリコンの製造方法は、主成分としてのシリコン元素と、第1不純物元素および第2不純物元素とを含むシリコン含有材料を溶かす工程と、溶融状態のシリコン含有材料から第1不純物元素を除去して、溶融状態の第1精錬シリコン含有材料を形成する工程とを備える。さらに、太陽電池用シリコンの製造方法は、第1精錬シリコン含有材料の溶融物を保持容器に入れる工程と、保持容器内に保持された第1精錬シリコン含有材料を冷却し、第1精錬シリコン含有材料の凝固物を形成する工程と、第1精錬シリコン含有材料の凝固物を保持容器から取り出す工程と、取り出された第1精錬シリコン含有材料の凝固物から第2不純物元素を除去して、第2精錬シリコン含有材料を形成する工程とを備える。上記保持容器は、溶融物と接触する内面が一体的に形成された保持容器本体を備え、保持容器本体は、シリコン元素を主成分として含み、保持容器本体のシリコン元素の含有率(質量%)は、第1精錬シリコン含有材料の溶融物のシリコン元素の含有率(質量%)以上である。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る保持容器および保持容器の製造方法によれば、保持容器から不純物が混入することを防止することができる。本発明に係る太陽電池用シリコンの製造方法によれば、高純度のシリコンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施の形態1に係る保持容器100の断面図である。
【図2】保持容器100の製造工程の第1工程を示す断面図である。
【図3】保持容器100の製造工程の第2工程を示す断面図である。
【図4】保持容器100の変形例を示す断面図である。
【図5】SOG−Siの製造法を説明するフロー図である。
【図6】結晶シリコンを製造する工程を示す断面図である。
【図7】保持容器100の他の変形例を示す断面図である。
【図8】保持容器100の他の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1から図8を用いて、本実施の形態1に係る保持容器について説明する。図1は、本実施の形態1に係る保持容器100の断面図である。
【0028】
保持容器100は、保持容器本体4と、保持容器本体4の外周面を覆うように保持容器本体4の外周面上に形成された容器外郭(外殻体)1とを含む。この図1に示す保持容器100は、保持容器本体4などの構成材料を適宜変更することで、太陽電池用シリコンの製造工程中にシリコン含有物の溶融物を保持する保持容器、高純度金属材料の製造工程中に金属材料の溶融物を保持する保持容器、およびゲルマニウムの単結晶体の製造工程中に用いられる溶融物を保持する保持容器などに適用することができる。そこで、まず、太陽電池用シリコンの製造工程において、シリコン含有物の溶融物を保持する保持容器に適用した例について説明する。
【0029】
シリコン含有物の溶融物を保持する保持容器に適用する場合には、保持容器本体4は、シリコン含有物の溶融物と接触する受面(接触面)を構成し、シリコン元素を主成分とする材料から形成されている。保持容器本体4を形成する材料のシリコン含有率(質量%)は、保持しようとするシリコン含有物の溶融物のシリコン含有率(質量%)以上である。
【0030】
容器外郭1は、シリコン保持容器は1400℃以上の融点を持つ材料からなり、好ましくはシリコンの融点(1414℃〜1420℃)以上の材料が採用される。具体的には石英、黒鉛、あるいはアルミナ、マグネシア、ジルコニアなどの耐火セラミックや、ステンレス鋼などの金属材料が容器外郭1の構成材料として採用される。その容器外郭1の内面に保持容器本体4が設けられる。なお、SOG−Siの製造工程については、後述するが、保持容器本体4を構成する材料としては、たとえば、SOG−Siの製造過程で製造され、ボロンを除去した後のシリコン材料や、また、別途準備した高純度シリコン材料(例えばSOG−Si)を採用しても良い。
【0031】
図2から図4を用いて、図1に示す保持容器100の製造方法について説明する。
図2は、保持容器100の製造工程の第1工程を示す断面図である。この図2に示すように、容器外郭1を準備する。容器外郭1は、金属性外郭2および耐火セラミック製外郭3からなり、例えば市販の金属容器に対し、アルミナ製耐火物からなる内張りを施したものである。
【0032】
次に、図3に示すように、容器外郭1を、保持しようとするシリコン溶融物と同じか、またはそれより高純度のシリコン溶融液7を注湯する。なお、注湯位置は容器外郭1の内側面である。
【0033】
これにより容器外郭1の内面に保持しようとするシリコン溶融液と同じか、またはそれよりもシリコン元素の含有率が高い高純度の保持容器本体4を含む保持容器100を得ることができる。
【0034】
保持容器本体4の形成方法は任意である。例えば、図3に示すように、容器外郭を鋳型(生型)と見なし、内子8のような別途作成した鋳型と、容器外郭1との間にシリコン溶融液を流し込み、内子8を取り外す方法などを挙げることができる。この方法のように、シリコン溶融液を用い、容器外郭へ直接注湯して保持容器本体4を形成する際に、保持しようとするシリコン含有物を溶融する装置等をほぼそのまま利用でき、太陽電池用シリコン製造装置全体の簡略化が可能となる。さらに、容器外郭1および内子8の大きさを適宜変更することで、容易に大型の保持容器100を製作することができる。保持容器本体4を形成する方法としては、他に、板やブロック状に形成した結晶シリコンを容器外郭の内表面にブロックや石垣のように配置する方法や、容器外郭中にシリコン溶融液を入れ、凝固後に切削して保持容器本体4を形成する方法が挙げられる。
【0035】
保持容器本体4は必ずしも容器外郭1の内面全体に形成する必要はなく、図1に示すように、保持しようとするシリコン溶融液が接触しうる位置に配置されていれば良い。
【0036】
ここで、シリコン保持容器の形状として、図4のように底面よりも上面の方が面積が広いことが望ましい。この図4に示す例においては、保持容器本体4は、底面と、この底面に連設された内周面とを含む。そして、底面から離れるにつれて、水平断面の開口部が大きくなるように形成されている。このように、保持容器100の上面の開口面積を広くすることで、保持するシリコン溶融液を凝固させる際に大気中へ逃げる熱量を大きくすることが出来る。従って、太陽電池用シリコン作製タクトの減少につながる。
【0037】
次に、図5を用いて、SOG−Siの製造法を説明する。まず、MG−Siを原料シリコンとし(STEP1)、これを坩堝中で溶解して公知の方法(例えば特許文献1参照)によりスラグ処理を施してボロン除去を行う(STEP2)。このボロン除去工程を第一の精製工程とする。図3に示すように、金属性外郭2および耐火セラミック製外郭3からなる容器外郭1を準備する。上記第一の精製工程を経たシリコン溶融液(第1精錬シリコン含有材料の溶融物)の一部を注湯し、シリコン含有物の溶融物を保持する受面を含む保持容器本体4を容器外郭1に形成する。これにより、容器外郭1および保持容器本体4を備えた保持容器100が形成される。
【0038】
保持容器本体4を十分に冷却・凝固(25℃以上800℃以下、好ましくは50℃以上500℃以下)した後、坩堝からシリコン溶融液を出湯して、図6に示すように、保持容器100に対してシリコン溶融液の残りを注湯する。この残りのシリコン溶融液が凝固したものを結晶シリコン41(第1精錬シリコン含有材料の凝固物)とする。
【0039】
この結晶シリコン41は電動タガネなどの工具、あるいはバールやハンマー等を用いた人力によって、容易に保持容器本体4から剥離できる。そして、シリコン溶融液を保持する保持容器100はシリコン溶融液を次のリン除去処理を行う処理装置に向けて搬送する(STEP3)。
【0040】
また、図7のように、保持容器本体を容器外郭1の内表面を覆うように敷き詰められた複数の被覆ピース5で構成した保持容器を採用し、この保持容器にシリコン溶融液を注湯してもよい。被覆ピース5はシリコン元素を主成分とする材料から形成され、被覆ピース5のシリコン元素の含有率は、保持しようとするシリコン溶融液のシリコン元素の含有率以上である。この被覆ピース5は、塊状および/または粒状に形成されている。この図7に示す保持容器100を用いた場合には、保持容器100と結晶シリコン41との界面での剥離がより容易になることも分かった。結晶シリコン41と接触する被覆ピース5は、結晶シリコン41に内包された形で他の被覆ピース5から剥離する。
【0041】
ここで、塊状および/または粒状の被覆ピース5の量として、後述する実施例1に示すように、注湯される融液シリコン重量の1/28以上が望ましい。なお、図7に示す保持容器100は、たとえば、容器外郭1を準備し、この容器外郭1の内表面に被覆ピース5を敷き詰めることで製造される。
【0042】
さらに、図8のように保持容器本体4上に、塊状および/または粒状の被覆ピース5を敷き、保持容器本体4の内表面を複数の被覆ピース5で覆うようにしてもよい。この図8を用いた場合には保持容器本体4に収容される溶融シリコンが耐火セラミック製外郭3と直接接触することが抑制され、より不純物混入を低減できる。
【0043】
さらに、保持容器本体4上に複数の被覆ピース5を敷くことで、凝固した結晶シリコン41を簡単に、保持容器100から取り出すことができる。なお、この図8に示す保持容器100を製造するには、まず、容器外郭1を準備し、この容器外郭1の内表面に保持容器本体4を形成する。その後、保持容器本体4の内表面上に複数の被覆ピース5を敷き詰めることで製作することができる。
【0044】
図5において、保持容器100から取り出した結晶シリコン41は、最大径10mm〜300mm程度に分割し、フッ酸などを用いた酸洗浄を行った後、黒鉛製坩堝に入れて真空(5Pa程度)条件下で加熱、溶融することで主にリンの除去を行う(STEP4)。このリン除去工程を第二の精製工程とする。
【0045】
第二の精製工程を経た溶融状態のシリコンは、黒鉛製坩堝から出湯され、保持容器に注がれる。溶融状態のシリコンは、保持容器100内において冷却されながら、次の処理装置に搬送される(STEP5)。この第二の精錬工程後の溶融シリコン(第2精錬シリコン)の溶融物を保持する保持容器も、図1に示すように、保持容器本体4と、保持容器本体4の外表面を覆うように設けられ、保持容器本体4を保持する容器外郭1とを含む。なお、容器外郭1は、金属性外郭2および耐火セラミック製外郭3を含む。保持容器本体4は、シリコン元素を主成分とする材料から構成されており、保持容器本体4のシリコン元素の含有率は、上記第二の精錬工程後のシリコン溶融液のシリコン元素の含有率以上となっている。図5に示すように、保持容器によって搬送された第二の精錬工程後のシリコンは、さらに、精錬処理が施される(STEP6)。具体的には、一方向凝固による粗精製、酸化性ガス(酸素や水蒸気などを所定濃度含む不活性ガス)雰囲気下でのプラズマ溶解、一方向凝固による仕上げ精製などが施される。このような各種精錬工程を経ることでSOG−Siとすることができる。
【0046】
今回開示した材料はシリコンであったが、溶解できる金属および半導体材料であれば、上記方法により溶融金属もしくは半導体の不純物混入を抑えることが出来る。例えば、金属であれば、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)などが挙げられる。また、半導体材料としてはゲルマニウム(Ge)が挙げられる。
【0047】
たとえば、鉄鉱石から鉄を主成分とする鋼を製造する製鋼工程に用いられる保持容器100について説明する。一般に、鉄鋼石から鋼を製造するときには、まず、高炉を用いて、鉄鉱石から銑鉄を取り出す。高炉から取り出された銑鉄は、溶融状態であり、保持容器に収容される。その後、銑鉄には、溶銑予備処理が施されて、銑鉄内の不純物を酸化する。その後、銑鉄は転炉に搬送され、転炉において不純物が除去され、鉄鋼が形成される。
【0048】
その後、鉄鋼には、二次精錬が施され、成分の微調整が行われる。二次精錬後には、上連続鋳造が施され、半製品が製作される。さらに、圧延処理などを施すことで、製品が製作される。
【0049】
このような製鋼工程中に用いられる保持容器100は、図1において、溶融状態の銑鉄と直接接触する接触面を形成する保持容器本体4と、保持容器本体4を支持する容器外郭1とを含む。保持容器本体4の鉄元素の含有率は、収容する銑鉄の鉄元素の含有率以上である。
【0050】
このような保持容器100を用いて、高炉から取り出された溶融状態の銑鉄を搬送したとしても、搬送する銑鉄における鉄の含有率が低下することを抑制することができる。
【0051】
好ましくは、保持容器本体4を二次精錬が施された鉄鋼から形成する。このように、高純度の鉄鋼で保持容器本体4を構成することで、溶融状態の銑鉄や鉄鋼を搬送する搬送容器として用いることができる。なお、容器外郭1は、搬送する銑鉄や鉄鋼よりも融点の高い材料を採用する。なお、保持容器100が製鋼工程中に用いられる場合においても、図7に示すように保持容器本体4を複数の被覆ピース5から構成してもよい。また、図8に示すように、保持容器本体4の内表面上に複数の被覆ピース5から構成してもよい。なお、製鋼工程において、銑鉄の溶融物を搬送するときには、被覆ピース5の鉄元素の含有率は、銑鉄の鉄の含有率以上とされ、鉄鋼の溶融物を搬送するときには、被覆ピース5の鉄元素の含有率は、鉄鋼の鉄元素の含有率以上とされる。
【0052】
次に、ゲルマニウム(Ge)の単結晶体を製造する製造工程に適用することができる保持容器100について説明する。ゲルマニウム(Ge)の単結晶体を製造する場合には、まず、ゲルマニウムの単結晶体を生成しうる物質を溶融する。そして、この溶融物を保持容器に収容し、結晶成長装置に搬送する。溶融物は、保持容器から結晶成長装置の黒鉛製坩堝に移しかえられる。
【0053】
そして、加熱炉内で不活性ガス雰囲気下で上記単結晶体を生成しうる物質を溶融温度以上に加熱し、完全に溶融させる。完全に溶融したら、黒鉛製坩堝の冷却用ガス導入口から冷却ガスを流しつつ、炉の温度を徐々に低下させて徐冷していく。核となる最初の結晶は最も温度の低い黒鉛製坩堝の底部中央に発生し、そこから成長する。
【0054】
冷却用ガスは結晶化に伴う凝固熱を奪い取る作用をする。冷却用ガスとしては単結晶体を生成しうる物質と反応しないガスで、ゲルマニウムの場合は窒素、水素、アルゴンまたはこれらの混合ガス、シリコンの場合はアルゴン等が用いられる。冷却用ガスの流量は冷却速度や結晶の成長速度等にあわせて適宜定めればよい。このようにして、ゲルマニウムの単結晶体が黒鉛製坩堝内に形成される。
【0055】
そして、ゲルマニウムの単結晶体を生成しうる物質の溶融物を搬送する保持容器は、図1に示すように、保持容器本体4と、保持容器本体4を支持する容器外郭1とを含む。
【0056】
保持容器本体4は、ゲルマニウムの単結晶体を生成しうる物質の溶融物と直接接触する接触面を形成している。保持容器本体4に含まれるゲルマニウムの含有率は、保持する上記溶融物に含まれるゲルマニウムの含有率以上である。
【0057】
このような保持容器100を用いて、ゲルマニウムの単結晶体を生成しうる物質の溶融物を結晶成長装置に搬送することで、搬送する物質のゲルマニウムの含有率が低下することを抑制することができる。
【0058】
なお、容器外郭1は、ゲルマニウムの単結晶体を生成しうる物質の溶融温度よりも溶融温度が高い材料によって構成されている。なお、ゲルマニウムの単結晶体を生成しうる物質を保持および搬送する保持容器100においても、保持容器本体4を複数の被覆ピースで構成してもよい。また、保持容器本体4の内周面上に複数の被覆ピースを敷き詰めてもよい。この被覆ピースに含まれるゲルマニウム元素の含有率は、ゲルマニウムの単結晶体を生成しうる物質に含まれるゲルマニウム元素の含有率以上である。
【0059】
今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【実施例1】
【0060】
シリコン溶融液温度を1500℃とする。その時のシリコン溶融液1kgが融点温度まで冷える間に発する熱量は、(1500−1410)×0.7=63(KJ)となる。また、シリコン固体1kgが凝固するまでに必要な熱量は、50.55×1000/28=1805(KJ)となる。ここで、シリコンの融解熱は50.55(KJ/mol)、融点1410(℃)、比熱0.7(KJ/kg・K)、原子量28(amu)を用いた。従って、シリコン溶融液の出湯量に対し、容器に敷く粒状シリコンの重量が1/28(≒63/1805)以上あれば、出湯したシリコンは耐火セラミックもしくは容器と一体化したシリコンと接着することなく、容易に回収することが出来る。図7に示す構成で、溶融シリコンを凝固させて、結晶シリコン41を形成したところ、粒状のシリコンから構成された被覆ピース5の重量が結晶シリコン41の重量よりも、1/28(≒63/1805)以上あれば、結晶シリコン41が保持容器本体4と接着せず、容易に剥離できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、保持容器、保持容器の製造方法および太陽電池用シリコンの製造方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 容器外郭、2 金属性外郭、3 耐火セラミック製外郭、4 容器本体、5 被覆ピース、7 シリコン溶融液、8 内子、41 結晶シリコン、100 保持容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素、シリコン元素およびゲルマニウム元素から選択された選択元素を主成分とする溶融物を保持する保持容器であって、
前記溶融物と接触する内面が一体的に形成された保持容器本体と、
前記保持容器本体の外表面を覆うように前記保持容器本体の外表面に設けられ、前記保持容器本体を支持する外殻体と、
を備え、
前記保持容器本体は、前記選択元素を主成分として含み、前記保持容器本体の前記選択元素の含有率(質量%)は、前記溶融物の前記選択元素の含有率(質量%)以上である、保持容器。
【請求項2】
前記保持容器本体の内表面を覆うように敷きつめられた複数の被覆ピースをさらに備え、
前記被覆ピースは、前記選択元素を主成分として含み、前記被覆ピースの前記選択元素の含有率(質量%)は、前記溶融物における前記選択元素の含有率(質量%)以上である、請求項1に記載の保持容器。
【請求項3】
金属元素、シリコン元素およびゲルマニウム元素から選択された選択元素を主成分とする溶融物を保持する保持容器であって、
前記溶融物を受け止める保持容器本体と、
前記保持容器本体の外表面を覆うように前記保持容器本体の外表面に設けられ、前記保持容器本体を支持する外殻体と、
を備え、
前記保持容器本体は、前記外殻体の内表面上に敷きつめられた複数の被覆ピースを含み、
前記被覆ピースは、前記選択元素を主成分として含み、前記被覆ピースの前記選択元素の含有率(質量%)は、前記溶融物における前記選択元素の含有率(質量%)以上である、保持容器。
【請求項4】
前記溶融物が凝固点まで冷えるのに発する熱量よりも、前記複数の被覆ピースが溶融するために要するの融解熱のほうが大きい、請求項2または請求項3に記載の保持容器。
【請求項5】
前記保持容器本体は、底面と前記底面に連設された内周面とを含み、
前記底面から離れるにつれて、水平断面の開口部が大きくなる、請求項1から請求項4のいずれかに記載の保持容器。
【請求項6】
前記外殻体の融点は、前記溶融物の融点よりも高い、請求項1または請求項3に記載の保持容器。
【請求項7】
前記選択元素は、シリコン元素である、請求項1から請求項6のいずれかに記載の保持容器。
【請求項8】
金属元素、シリコン元素およびゲルマニウム元素から選択された選択元素を主成分とする溶融物を保持する保持容器の製造方法であって、
中空状の外殻体を準備する工程と、
前記外殻体の内表面に、前記溶融物を受け止める保持容器本体を形成する工程と、
を備え、
前記保持容器本体を形成する材料は、前記選択元素を主成分として含み、前記保持容器本体を形成する材料の前記選択元素の含有率(質量%)は、前記溶融物の前記選択元素の含有率(質量%)以上である、保持容器の製造方法。
【請求項9】
前記外殻体の内表面に前記保持容器本体を形成する工程は、前記保持容器本体を形成する材料を溶融する工程と、溶融状態の前記材料を前記外殻体の内表面に形成する工程とを含む、請求項8に記載の保持容器の製造方法。
【請求項10】
前記外殻体の内表面に前記保持容器本体を形成する工程は、複数の被覆ピースを前記外殻体の内表面に敷きつめる工程を含み、
前記被覆ピースは、前記選択元素を主成分として含み、前記被覆ピースの前記選択元素の含有率(質量%)は、前記溶融物における前記選択元素の含有率(質量%)以上である、請求項9に記載の保持容器の製造方法。
【請求項11】
主成分としてのシリコン元素と、第1不純物元素および第2不純物元素とを含むシリコン含有材料を溶かす工程と、
溶融状態の前記シリコン含有材料から前記第1不純物元素を除去して、溶融状態の第1精錬シリコン含有材料を形成する工程と、
前記第1精錬シリコン含有材料の溶融物を保持容器に入れる工程と、
前記保持容器内に保持された前記第1精錬シリコン含有材料を冷却し、前記第1精錬シリコン含有材料の凝固物を形成する工程と、
前記第1精錬シリコン含有材料の凝固物を前記保持容器から取り出す工程と、
取り出された前記第1精錬シリコン含有材料の凝固物から前記第2不純物元素を除去して、第2精錬シリコン含有材料を形成する工程と、
を備え、
前記保持容器は、前記溶融物と接触する内面が一体的に形成された保持容器本体を備え、前記保持容器本体は、前記シリコン元素を主成分として含み、前記保持容器本体のシリコン元素の含有率(質量%)は、前記第1精錬シリコン含有材料の溶融物の前記シリコン元素の含有率(質量%)以上である、太陽電池用シリコンの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate