説明

保持治具、鋳造装置、及び、鋳造方法

【課題】中子を切断することなく、製品と押し湯部とを切断により分離することができる中子の保持治具、鋳造装置、及び、鋳造方法を提供する。
【解決手段】金属製の中子20の保持治具40であって、先端部41が金属製の中子20と同径であり、先端部41から後方に向けて広がるテーパー部42を備え、先端部41には金属製の中子20を着脱自在に保持する保持手段43を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空の鋳抜き孔を有する製品の中空部を形成する金属製中子の保持治具と、中空の鋳抜き孔を有する製品を鋳造する鋳造装置、及び、鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属パイプを中子として用いて、金属パイプ中の金属芯材を鋳型に差し込んで固定し、中空部を持つ製品を鋳造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。中子による鋳抜きの中空部を持つ鋳鉄部品を製造する際、中空部は、製品と押し湯部分にまたがって形成される。QC(Quick Casting)製法、すなわち、熱伝導率の高い銅金型によって溶湯の表層に殻状の凝固層を形成し、内部が未凝固の段階で型開きして取り出す製法では、製品と押し湯部とを砥石にて切断して分離するが、切断用の砥石寿命延長のため、製品が高温のうちに離型後すぐ切断する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−102926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、金属製の置き中子を用いた場合には、製品と押し湯部とを切断するさいに、中子も同時に切断されてしまうため、中子の再利用ができなくなってしまう。中子を再利用するためには、製品と押し湯部とを切断する前に、中子を鋳造品から引き抜くことも考えられるが、引き抜き荷重が高く困難であるだけではなく、中子を引き抜く間に鋳造品の温度が低下してしまうため、切断用の砥石寿命が低減するといった問題がある。
本発明は、上述した従来の技術が有する課題を解消し、中子を切断することなく、製品と押し湯部とを切断により分離することができるとともに、切断用の刃具の寿命延長を図ることができる中子の保持治具、鋳造装置、及び、鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、金属製の中子の保持治具であって、先端部が前記金属製の中子と同径であり、該先端部から後方に向けて広がるテーパー部を備え、前記先端部には前記金属製の中子を着脱自在に保持する保持手段を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、テーパー部が抜き勾配となるため、先端部を中子と同径に形成しても、製品を切断する前に、保持治具を鋳造品から引き抜くことができる。また、保持手段は金属製の中子を着脱自在に保持するため、保持治具を中子から短時間で取り外すことができ、保持治具を中子から取り外している間に製品が冷えてしまうのを防ぐことができる。これによって、保持治具を鋳造品から引き抜いた後に、保持治具によって形成された部位で製品を切断することで、製品が高温のうちに、中子を切断することなく製品と押し湯部とを切断により分離することができるようになり、切断用の刃具の寿命延長を図ることができる。
【0006】
また、本発明は、鋳型内に保持治具で保持した金属製の中子を配置し、前記保持治具の先端部が前記金属製の中子と同径であり、該先端部から後方に向けて広がるテーパー部を備え、前記先端部には前記金属製の中子を着脱自在に保持する保持手段を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、テーパー部が抜き勾配となるため、先端部を中子と同径に形成しても、製品を切断する前に、保持治具を鋳造品から引き抜くことができる。また、保持手段は金属製の中子を着脱自在に保持するため、保持治具を中子から短時間で取り外すことができ、保持治具を中子から取り外している間に製品が冷えてしまうのを防ぐことができる。これによって、保持治具を鋳造品から引き抜いた後に、保持治具によって形成された部位で製品を切断することで、製品が高温のうちに、中子を切断することなく製品と押し湯部とを切断により分離することができるようになり、切断用の刃具の寿命延長を図ることができる。
【0007】
また、本発明は、鋳型内に保持治具で保持した金属製の中子を配置し、前記保持治具の先端部が前記金属製の中子と同径であり、該先端部から後方に向けて広がるテーパー部を備え、前記先端部には前記金属製の中子を着脱自在に保持する保持手段を備える鋳造装置の鋳造方法において、鋳型内に溶湯を注湯し、該鋳型から保持治具を離脱させて型開きを行った後に、前記先端部の部位に相当する位置で製品を切断し、製品冷却後に置き中子を引き抜いて中空の鋳抜き穴を有する製品を鋳造することを特徴とする。
この構成によれば、テーパー部が抜き勾配となるため、製品と押し湯部とを切断する前に、保持治具を鋳造品から引き抜くことができる。また、保持治具を引き抜いた後に、中子と同径に形成された保持治具の先端部の部位に相当する位置で製品を切断することによって、中子を切断することなく製品を切断することができるため、中子の再利用が可能になる。また、保持治具は、中子を着脱自在に保持するため、製品が高温のうちに保持治具を中子から取り外して製品を切断することができ、切断用の砥石、或いは、刃具の長寿命化、及び、切断時間の短縮を図ることができる。また、中子と同径に形成された先端部の部位に相当する位置で製品を切断するため、製品の後加工で、切断部位の勾配を削る仕上げをする必要がない。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属製の中子の保持治具であって、先端部が前記金属製の中子と同径であり、該先端部から後方に向けて広がるテーパー部を備え、前記先端部には前記金属製の中子を着脱自在に保持する保持手段を備えたため、先端部を中子と同径に形成しても、製品を切断する前に、保持治具を鋳造品から引き抜くことができる。また、保持手段は金属製の中子を着脱自在に保持するため、保持治具を中子から短時間で取り外すことができ、保持治具を中子から取り外している間に製品が冷えてしまうのを防ぐことができる。
また、本発明によれば、鋳型内に溶湯を注湯し、該鋳型から保持治具を離脱させて型開きを行った後に、前記先端部の部位に相当する位置で製品を切断し、製品冷却後に置き中子を引き抜いて中空の鋳抜き穴を有する製品を鋳造するため、保持治具を離脱させた後に先端部に相当する位置で製品を切断することによって、中子を切断することなく製品と押し湯部とを切断して分離することができる。また、製品の切断は、製品が高温のうちに行われるため、切断用の砥石、或いは、刃具の長寿命化、及び、切断時間の短縮を図ることができる。また、中子と同径に形成された先端部の部位に相当する位置で製品を切断するため、製品の後加工で、切断部位の勾配を削る仕上げをする必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態の鋳造装置の構造を示す断面図である。
【図2】カムシャフトの構造を示す断面図である。
【図3】中子を鋳型内に配置した状態を示す鋳造装置の部分断面図である。
【図4】中子材質の特性を示した図である。
【図5】鋳型内に溶湯を注湯した状態を示す断面図である。
【図6】型開きを行った状態を示す断面図である。
【図7】製品を切断する前の状態を示す断面図である。
【図8】中子を製品から引き抜いている状態を示す断面図である。
【図9】保持治具の保持手段を示す部分拡大図である。
【図10】保持治具を中子から取り外している状態を示す部分拡大図である。
【図11】第二実施形態の保持手段を示す部分拡大図である。
【図12】第三実施形態の保持手段を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第一実施形態>
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明を適用した実施形態に係る鋳造装置1の構造を示す断面図である。鋳造装置1は、鋳型10と、中子20と、中子20の保持治具40と、から構成される。鋳型10は、熱伝導率の高い銅合金等から形成され、鋳造製の製品を成形するための製品キャビティ11を備える。鋳型10は、また、溶湯を受ける受口12と、この受口12から下方に伸びる湯口13と、湯口13から、製品キャビティ11の入り口である製品ゲート15につながる湯道14と、製品キャビティ11の上部に設けられた湯だまり16と、を備える。鋳型10には、一度に複数の製品を鋳造するために、複数の製品キャビティ11が形成されている。
【0011】
製品キャビティ11は、本実施形態においては、鋳鉄中空の回転体の製品、例えばカムシャフト30を作製するための鋳造空間である。製品キャビティ11の上部に設けられた湯だまり16には、製品の凝固による収縮分を補うために鋳型10内に余分に注入された溶湯が溜まるように構成されている。
カムシャフト30は、図2に示すように、中空部(鋳抜き孔)31、コマ32、シャフト表面33を備える。中空部31は、カムシャフト30の軽量化、及び、カムシャフト30の慣性質量の低減のために設けられる。
【0012】
カムシャフト30は、中空部31を備えるため、中空部31とシャフト表面33の間の肉厚が薄い薄肉の製品となる。中空部31は、図1に示すように、製品キャビティ11内に配置された中子20によって鋳抜かれて、カムシャフト30の中空の鋳抜き穴として1本の真っ直ぐな深穴形状に形成される。中子20は、略真円の円柱状に形成され、中子20の中心がカムシャフト30の回転軸中心と同心になるように配置される。
【0013】
鋳造装置1による鋳造方法の一実施形態を説明すると、製品キャビティ11内に保持治具40で保持した金属製の中子20を配置して鋳型10を閉じた後、不図示の鋳鉄炉にて溶解されたFCD700材等の鋳鉄溶湯Mを、図1に示すように、取鍋Lを用いて例えば溶湯温度1380度で、受口12から温度制御された鋳型10内に注湯する。中子20は保持治具40とともに、製品キャビティ11内に注湯された鋳鉄溶湯Mによって鋳包まれる。次に、所定時間のキュアタイムの後に鋳型10を割り、製品キャビティ11からカムシャフト30を離型する。中子20は、カムシャフト30の離型時にはカムシャフト30内に、保持治具40とともに挿入されたままとなる置き中子である。中子20は、カムシャフト30を常温まで冷却した後に、引き抜かれ、中空部31が形成される。
【0014】
中子20を保持する保持治具40は、図3に示されるように、先端部41と、テーパー部42と、保持手段43とを備える。先端部41は、中子20と同径に形成される。テーパー部42は、先端部41から後方に向かって径が広がるように円錐状に形成される。テーパー部42の先端部41に対する勾配αは、略5度に形成される。保持手段43は、先端部41に設けられ、詳細については後述するが、中子20を着脱自在に保持するように構成されている。
【0015】
中子20は、主成分がクロムとニッケルとからなるオーステナイト系ステンレス材、例えばSUS304、から形成される。中子20は、型開き時には、製品であるカムシャフト30内に挿入されたままとなる置き中子であり、カムシャフト30を常温まで冷却した後に引き抜かれる。中子20には、抜き勾配は形成されていない。また、中子20には、表面コーティングは施されていない。さらに、中子20は、鋳型10内に配置する前に冷却等をせず、常温におかれていた中子20を保持治具40で保持し、保持治具40とともに、鋳型10内に配置される。
【0016】
図4は、中子20と、保持治具40との接続部分を示し、図4(A)は、中子20の接続部分を示す部分拡大図であり、図4(B)は、保持治具40の接続部分を示す部分拡大図である。
図4(A)に示すように、中子20の端部には、接続部21が設けられ、接続部21は、中子20の円周の一部を端部側から垂直に切り取って、略半円形状に形成されている。接続部21の、略垂直な接続面22aには、引っ掛け溝23が形成されている。中子20の先端には、また、引っ掛け溝23の上に、略半円形状の凹部24が形成されている。
【0017】
図4(B)に示すように、保持治具40の先端部41には、接続部21を形成するにあたって中子20から切り取られた部分と略同形状に形成された延出部44、及び、凸部51が設けられている。つまり、中子20に保持治具40を接続した際には、接続部21と延出部44とを接続面22aで対向させて接続することで、接続部分が、中子20と略同径となるように構成されている。また、中子20の凹部24には、凸部51が嵌合され、保持治具40を用いて中子20を保持したときの安定性が向上する。
また、中子20は、保持治具40と、接続面22a及び面22b,22cの3面で接触し、注湯時には、溶湯が流入する勢いで中子20が保持治具40に対して押し付けられた状態となるため、中子20と保持治具40との間に隙間が開くことはなく、中子20と保持治具40との間に溶湯が入り込むことはない。
【0018】
保持治具40は、延出部44と接続部21が接する面から略垂直に延在する穴45を備える中空の治具である。穴45は、断面が略半円形状の穴であり、穴の直径は、引っ掛け溝23の幅Wと略同じ寸法に形成されている。穴45は、延出部44に延在し、延出部44の接続面22aに対向する面には、穴45に連通する開口46が形成される。開口46は、中子20と保持治具40を接続した際に、引っ掛け溝23と対向する位置に設けられる。
【0019】
穴45の内部には、中子20を着脱自在に保持する保持手段43が設けられている。保持手段43は、引っ掛けピン47、板バネ48、及びケーブル49(図5参照)とから構成される。引っ掛けピン47は、引っ掛け部50を備え、中子20と保持治具40とを接続する際には、引っ掛け部50が、開口46を介して引っ掛け溝23側に突出するように、板バネ48で付勢されている。引っ掛けピン47の回転軸Xが設けられた角には、面取りが施されている。中子20は、引っ掛け溝23が引っ掛け部50に引っかかり、引っ掛け部50にぶら下がるような状態で保持治具40に接続される。引っ掛け部50は、引っ掛けピン47が板バネ48で付勢されているため、中子20がぶら下がっても、中子20の重さで、穴45内に押し退けられることがない。
【0020】
保持治具40を、中子20から取り外す際には、図5に示すように、穴45を介して引っ掛けピン47に接続されたケーブル49を、保持治具40の上部から図中矢印方向に引っ張る。ケーブル49が引っ張られると、引っ掛けピン47が回転軸Xを中心に回転し、引っ掛け部50が引っ掛け溝23から穴45内に退避する。このようにして、中子20と保持治具40との接続を失わせ、保持治具40を鋳造品34から引き抜くことで、保持治具40が鋳型10から離脱される。
【0021】
この構成によれば、保持手段43の引っ掛け部50を、中子20の引っ掛け溝23に引っ掛けて中子20と保持治具40とを接続することができ、ケーブル49を保持治具40の上部から引っ張ることで、保持手段43を中子20から簡単に取り外すことができる。
【0022】
図6は、鋳鉄溶湯に対しての融点、及び、コスト等の条件に基づいて選択した、中子20として利用可能な金属である、オーステナイト系ステンレス材、フェライト系ステンレス材、フェライト系スチール材、フェライト系スチール材の表面にメッキを施した材質、及び、純銅の特性を示す図である。SUS304は、オーステナイト系ステンレス材である。SUS430は、フェライト系ステンレス材である。S45Cは、フェライト系スチール材である。S45C+Snメッキは、フェライト系スチール材の表面に錫メッキを施した材質である。S45C+Niメッキは、フェライト系スチール材の表面にニッケルメッキを施した材質である。純Cuは、純銅である。
【0023】
図6に示すように、SUS304の熱膨張係数は、純Cuと同じ高さであり、他の材質の膨張係数よりも著しく高い。熱膨張係数が高いということは、つまり、熱間と冷間との寸法差が大きいという事である。製品であるカムシャフト30は、冷却(凝固)によって収縮するため、中子20を熱膨張係数が低い材質で形成した場合には、カムシャフト30が凝固するさいに、中子20が、カムシャフト30によって抱き込まれるように拘束されてしまう。SUS304、或いは、純Cuを中子20の材質に用いた場合には、熱膨張係数が高いため、熱間と冷間との寸法差が大きく、カムシャフト30が凝固時に収縮しても、中子20がカムシャフト30によって拘束されることがない。よって、中子20に抜き勾配を形成しなくても、中子20をカムシャフト30の冷却後に引き抜いて、容易に取り出すことができる。
また、SUS304の抗張力は、他の材質と比べて高い。SUS304は、抗張力が490MPa以上の高張力鋼であり、強度の高い材質である。強度の高いSUS304を中子20の材質として用いることで、中子20を繰り返し再利用することが容易となる。
【0024】
さらに、SUS304、及び、SUS430の表面安定性は、S45Cの表面にメッキを施した材質と略同じか、或いは、それ以上である。これは、ステンレス材においては、ステンレス材に含まれるクロムと空気中の酸素とが結びつくことによって、ステンレス材の表層に不動態膜が生成されるためである。中子20の表層は、溶湯に触れるため、表面安定性が悪いと、溶湯と化学的に反応し、ガス欠陥が発生して、カムシャフト30中に空孔等が形成される場合がある。純Cuは、熱膨張係数は高いが、表面安定性が悪いため、中子20の材質としては適していない。
また、表面安定性が高い材質で中子20を形成することで、カムシャフト30の製品表面の荒れを防ぐことができるため、カムシャフト30の重さのバランスを安定させることができ、カムシャフト30の回転バランスの向上を図ることができる。
【0025】
上述した、熱膨張係数の高さ、抗張力の高さ、及び、表面安定性の良さから、SUS304は、鋳鉄溶湯に対しての融点、及び、コスト等の条件に基づいて選択した金属材質の中で最も金属性の置き中子の材質として適していると判明した。
さらに、図示は省略したが、SUS304は、熱間強度が高いため、SUS304から形成された中子20は、溶湯の熱で熱せられても、強度が高温によって下がることがなく、溶湯の流れで中子20が曲がってしまうことがない。よって、溶湯の熱による中子20の曲がりを防止して、狙った形状の中空部31を形成することができる。
【0026】
SUS304と比べて、フェライト系ステンレス材であるSUS430は、表面安定性は良いものの、熱膨張係数が高くないため、SUS430で形成した中子20を用いた場合には、カムシャフト30を常温まで冷却したさいに、中子20が製品によって抱き込まれるように拘束されてしまう可能性があり、SUS430は、中子20の材質としては適していない。
また、フェライト系スチール材であるS45Cは、熱膨張係数が低く、表面安定性も悪いため、中子20の材質としては適していない。
【0027】
S45Cの表面に錫(Sn)メッキ、或いは、ニッケル(Ni)メッキを施した中子20を使用した場合には、中子20の表面安定性が向上し、また、メッキが溶湯中で熔解するため、中子20の抜け性も向上されるが、1ショット毎に、中子20を製品キャビティ11内に配置する前に、中子20の表面にメッキを施す前処理を行う必要があり、繰り返して中子20を再利用という点では、工程が増し、不十分である。
中子20の材質として純Cuを用いた場合には、熱膨張係数は高いものの、表面安定性が良くないため、カムシャフト30の中空部31の表面が荒れ、また、熱間強度が低いので曲がる。そのため、カムシャフト30の重さのバランスが不安定になることが考えられるため、純銅は中子20の材質としては適していない。
【0028】
図7に示すように、中子20は、保持治具40と共に、製品キャビティ11、及び、湯だまり16内に注湯された鋳鉄によって鋳包まれる。所定時間のキュアタイム(例えば6秒間)の後に、図8に示すように、保持治具40は、前述した保持手段43を用いて中子20から取り外される。保持治具40は、中子20から取り外された後に、鋳造品34から引き抜かれる。保持治具40を鋳造品34から引き抜くと同時に、或いは、保持治具40を鋳造品34から引き抜いた後に、鋳型10の型開きを行い製品キャビティ11から鋳造品34を離型する。離型時、鋳造品34は、カムシャフト30となる製品部30Aと、湯だまり16に溜まった溶湯が凝固した押し湯部35とが一体に形成されたものであり、鋳造品34の内部には置き中子20が置かれたままの状態である。
【0029】
保持治具40のテーパー部42は、鋳造品34に対する抜き勾配となるため、保持治具40は、中子20から取り外した後に、鋳造品34から引き抜くことができる。また、中子20と同径に形成された、保持治具40の先端部41の長さは、1〜10mmに形成されていることが望ましい。先端部41の長さを1〜10mmに形成することで、先端部41に抜き勾配が設けられていなくても、保持治具40を鋳造品34から引き抜きが可能であることが実験により検証されている。
【0030】
図9は、鋳型10から取り出されたときの鋳造品34と、鋳造品34の内部に置かれた中子20を示す。鋳造品34の中子20の上方には、保持治具40の先端部41によって中子20と同径に形成された部位36が形成されている。つまり、部位36は、中空部31に延在し、部位36の内径は、中空部31と同径に形成される。この構成において、部位36は、製品であるカムシャフト30の一部を形成している構成であっても良い。
【0031】
保持治具40を鋳造品34から引き抜き、鋳型10の型開きを行い、鋳造品34を鋳型10から離型した後すぐに、図7中に破線で示した保持治具40の先端部41に相当する位置、つまり部位36で鋳造品34を砥石等によって切断し、製品部30Aと、押し湯部35とに分離する。保持治具40の先端部41の長さは、上述のように1〜10mmに形成されている。つまり、中子20と保持治具40の接続部は、製品部30Aと押し湯部35の境(切断部)から、製品部30A側に1〜10mm入った側である。これによって、鋳造品34の切断時に、鋳造品34の内部におかれた中子20を切断用の砥石で切断する、或いは、損傷することがない。
【0032】
中子20は、製品部30Aと押し湯部35とが分離された後、製品部30Aが常温まで冷却されるのを待って、図10に示すように、製品部30Aから引き抜かれる。これによって、製品部30Aには、中空の鋳抜き穴である中空部31が形成される。中子20を引き抜く際には、前述した保持治具40の保持手段43(図4参照)と同じ構造に形成された引き抜き手段43Aを用いて、中子20を引き抜く構成であっても良い。
これらの構成によれば、保持治具40の先端部41に相当する位置、つまり部位36で鋳造品34を切断するため、切断用の砥石等で中子20を切断、或いは、傷つけることなく鋳造品34を切断することができる。また、中子20は、製品部30Aの冷却後に引き抜いて、繰り返し再利用することができる。
【0033】
以上説明したように、本実施形態によれば、金属製の中子20の保持治具40において、金属製の中子20と同径の先端部41と、先端部41から後方に向けて広がるテーパー部42とを備え、先端部41に中子を着脱自在に保持する保持手段43を設けたため、製品を切断する前に保持治具40を中子20から取り外すことがきるとともに、テーパー部42が抜き勾配となり、保持治具40を鋳造品34から引き抜くことができる。また、保持治具40を取り外した部分で鋳造品34を切断することで、中子20を切断することなく、製品部30Aと押し湯部35とを切り離すことができる。
【0034】
また、本実施形態によれば、金属製の中子20を着脱自在に保持する保持手段43を備えた鋳造装置1において、鋳型10内に保持治具40で保持した金属製の中子20を配置し、保持治具40の先端部41が前記金属製の中子20と同径であり、先端部41から後方に向けて広がるテーパー部42を備えため、テーパー部42が、抜き勾配となり、鋳造品34が高温のうちに保持治具40を鋳造品34から引き抜くことができる。また、保持治具40を鋳造品34から引き抜いた後で、中子20と同径に形成された先端部41に相当する位置で鋳造品34を切断することで、中子20を切断することなく、押し湯部35を製品部30Aから切り離すことができる。
【0035】
また、本実施形態によれば、中空の鋳抜き穴(中空部)31を有する製品(カムシャフト)30を鋳造する鋳造方法において、鋳型10内に保持治具40で保持した金属製の中子20を配置し、保持治具40の先端部41が金属製の中子20と同径であり、先端部41から後方に向けて広がるテーパー部42を備え、先端部41には金属製の中子20を着脱自在に保持する保持手段43を備え、鋳型10内に溶湯を注湯し、鋳型10から保持治具40を離脱させて型開きを行った後に、先端部41に相当する位置である部位36で製品を切断し、製品冷却後に置き中子を引き抜いて中空の鋳抜き穴を形成するため、中子20を切断することなく、鋳造品34が高温のうちに製品を切断して、製品から押し湯部35を切り離すことができる。これによって、中子20を繰り返し再利用することができるようになり、さらに、押し湯部35を製品部30Aから切り離すための砥石、或いは、刃具の寿命延長と、切断時間の短縮を図ることができる。また、切断される部位36の内径は、中子20によって形成される中空部31と同じ内径になるため、製品の後加工で、切断される部位36の内径を中子20によって形成された部位とそろえる仕上げをする必要がない。
【0036】
<第二実施形態>
第一実施形態では、中子20を着脱自在に保持する保持手段43を、保持治具40の先端部41で、穴45の内部に設ける構成とした。保持手段43は、引っ掛けピン47と、板バネ48と、ケーブル49とから成る構成としたが、この第二実施形態では、更に簡単な構成で中子20を着脱自在に保持することができる保持手段53を提供する。
なお、以下の説明について、上述した第一実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0037】
図11は、製品キャビティ11内に中子20と保持治具40とを接続して配置し、鋳型10を閉じ、鋳型10に溶湯を注湯し、所定時間のキュアタイムの後に、保持治具40を中子20から取り外し、保持治具40を鋳造品34から引き抜くまでの鋳造工程の一実施例を示す図である。図11に示すように、この第二実施形態においては、保持手段53は、螺子56と、螺子56が貫通する貫通孔55とから構成される。また、中子20には、螺子56が締め込まれる螺子穴21Aが形成されている。中子20と保持治具40とは、この螺子56によって螺合されて接続される。
【0038】
図11(A)に示すように、保持治具40は、穴54を備える中空形状に形成されている。保持治具40の先端部41には、この穴54に連通する貫通孔55が設けられている。中子20の、貫通孔55と対応する位置には、螺子穴21Aが設けられ、螺子穴21A、貫通孔55は、それぞれ中子20、及び、中子20と同径に形成された先端部41の略中心に設けられている。螺子56は、図11(B)に示すように、貫通孔55を介して螺子穴21Aに締め込まれ、中子20と保持治具40とを接続する。
保持治具40は、製品キャビティ11内に中子20を配置して鋳型10を閉じた後に中子20に接続される構成であっても良い。或いは、中子20と保持治具40とを接続した後に、接続した中子20と保持治具40とを製品キャビティ11内に配置して鋳型10を閉じる構成であっても良い。また、保持治具40は、図示は省略したが、螺子56を担持する構造を保持治具40の内部に備える構成であっても良い。
【0039】
螺子56で接続された中子20と保持治具40とが配置された製品キャビティ11内に図11(C)に示すように、溶湯を注湯する。所定時間のキュアタイムの後に、螺子56を緩めて、螺子56を螺子穴21Aから取り外す。これによって、中子20と、保持治具40との接続が失われる。中子20から取り外された保持治具40は、図11(D)に示すように、鋳造品34から引き抜かれる。
この構成によれば、螺子56と、螺子56を挿入する貫通孔55、及び、螺子穴21Aを設けることで、中子20と保持治具40とを接続することができるため、中子20と保持治具40との接続部分の構造を簡単に形成することができる。また、螺子56で中子20と保持治具40とを接続するため、中子20と保持治具40とが確実に接続され、中子20と保持治具40との接続部分に溶湯が入り込むのを防ぐことができる。
【0040】
<第三実施形態>
第一実施形態、及び、第二実施形態では、中子20はオーステナイト系ステンレス材であるSUS304から形成される構成とした。この第三実施形態においては、例えばフェライト系ステンレス材等のような磁性を有する金属材質から形成した中子60を用いた場合について、中子60磁性を利用した、保持治具40の保持手段63を提供する。
なお、以下の説明について、上述した第一実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0041】
図12は、製品キャビティ11内に中子60と保持治具40とを接続して配置し、鋳型10を閉じ、鋳型10に溶湯を注湯し、所定時間のキュアタイムの後に、保持治具40を鋳造品34から引き抜くまでの鋳造工程の一実施形態を示す図である。
図12(A)に示すように、保持治具40の先端部41には、保持手段63が設けられる。保持手段63は、先端部41から中子60側に突出した突出部64と、突出部64に設けられた凹部64Aに嵌合された磁石65とから構成される。中子60と、保持治具40とは、製品キャビティ11内に配置される。
【0042】
中子60には、突出部64と対応する位置に溝61が形成され、溝61は、突出部64と略同じ形状に形成されている。中子60は、強磁性を有する鉄系中子、例えば、フェライト系ステンレス材で形成された中子、或いは、強磁性を有する金属で表面がコーティングされた金属製の中子であり、図12(B)に示すように、磁石65の吸引力によって保持手段63に引きつけられる。中子60と、保持治具40とは、中子60と磁石65との間に発生する吸引力によって接続される。
【0043】
中子60と保持治具40とを接続した後、製品キャビティ11に溶湯を注湯する。中子60は、溶湯によって高温となり、磁性が失われる。中子60の磁性が失われることによって、中子60と磁石65との間の吸引力は無くなるが、中子60は、溶湯が流入する勢いで、保持治具40に対して押し付けられる。よって、中子60の磁性が失われても、中子60が自重で保持治具40から離れてしまうことがなく、中子60と保持治具40の間に溶湯が入り込むのが防止される。
【0044】
製品キャビティ11に溶湯を注湯した後、所定時間のキュアタイムを経て、保持治具40を鋳造品34から引き抜く際には、中子60と保持治具40との接続は既に失われている。これによって、保持治具40を中子60から取り外す工程が不要となり、鋳造品34が高温のうちに保持治具40を鋳型10から離脱させることが可能となり、鋳造品34が高温のうちに鋳造品34切断し、製品部30Aと押し湯部35とを切り離すことができ、切断用の砥石、或いは、刃具の寿命延長、及び、切断時間の短縮を図ることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 鋳造装置
10 鋳型
20,60 中子
30A 製品部
31 中空部(鋳抜き孔)
34 鋳造品
35 押し湯部
40 保持治具
41 先端部
42 テーパー部
43、53、63 保持手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の中子の保持治具であって、
先端部が前記金属製の中子と同径であり、該先端部から後方に向けて広がるテーパー部を備え、前記先端部には前記金属製の中子を着脱自在に保持する保持手段を備えたことを特徴とする保持治具。
【請求項2】
鋳型内に保持治具で保持した金属製の中子を配置し、
前記保持治具の先端部が前記金属製の中子と同径であり、該先端部から後方に向けて広がるテーパー部を備え、前記先端部には前記金属製の中子を着脱自在に保持する保持手段を備えたことを特徴とする鋳造装置。
【請求項3】
鋳型内に保持治具で保持した金属製の中子を配置し、
前記保持治具の先端部が前記金属製の中子と同径であり、該先端部から後方に向けて広がるテーパー部を備え、前記先端部には前記金属製の中子を着脱自在に保持する保持手段を備える鋳造装置の鋳造方法において、
鋳型内に溶湯を注湯し、該鋳型から保持治具を離脱させて型開きを行った後に、前記先端部の部位に相当する位置で製品を切断し、製品冷却後に置き中子を引き抜いて中空の鋳抜き穴を有する製品を鋳造することを特徴とする鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−161801(P2012−161801A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21681(P2011−21681)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】