説明

保持治具及び導電性ペースト塗着装置

【課題】チップコンデンサ等の小型部品を例えば電極ペーストに浸漬した後に電極ペーストから小型部品を引き上げる際に向上した歩留まりをもって小型部品を製造することのできる保持治具を提供する。
【解決手段】JIS L 1094に準じて測定される帯電量の半減期が5秒以下であり、粘着力が7〜50g/mmであり、導電性付与剤の含有量が0.2〜5質量%である弾性体と、その弾性体を支持する基材とを有することを特徴とする保持治具、及び被粘着物を粘着保持可能な弾性体を基板に設けて成る保持治具と、前記保持治具を導電性ペースト浴に対して接近離反可能にこの保持治具を移動させて、保持治具の弾性体に粘着保持された被粘着物に導電性ペーストの塗着を可能にする保持治具移送装置とを有して成ることを特徴とする導電性ペースト塗着装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、保持治具及び導電性ペースト塗着装置に関し、更に詳しくは、例えば、電気特性の良好な小型電子部品を、歩留まりよく製造することのできる保持治具及び導電性ペースト塗着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に電子部品の保持治具に関する発明が記載されている。
一般に、保持治具は、「少なくとも表面部が粘着性を有するゴム弾性材を用い、その表面に小型電子部品を密着保持するようにしたものである。」(特許文献1の段落番号0006参照)。ゴム材料の一般的な特性として、「体積抵抗率が極めて高く、絶縁性を示すため、電子部品またはその構成部品の着脱、搬送および製造工程において静電気が発生し易く、静電気が帯電し易いという性質がある。」(特許文献1の段落番号0009参照)。そのため、このような保持治具には以下のような問題点があった。
【0003】
(1)静電耐圧が低い電子部品にそのまま適用すると、製造中に電子部品が静電破壊されるおそれがある(特許文献1の段落番号0010参照)。
(2)小型、薄型、軽量の電子部品またはその構成部品を扱う場合に、上記静電気によって吸着力または反発力が生じると、保持不良が生じやすく、電子部品の破損や紛失および保持治具の破損を招くおそれがある(特許文献1の段落番号0011参照)。
(3)上記(1)または(2)に該当しない電子部品に適用する場合でも、保持治具の使用前または使用中に静電気を除去しなければ、電子部品に静電気によるダメージを与えるおそれがある。そのため静電気除去のための専用設備を設ける必要が生じる(特許文献1の段落番号0012参照)。
【0004】
特許文献1に記載の「電子部品の保持治具」は前記問題点を解決するために、「少なくとも表面部が粘着性と導電性を有する弾性材を備え、該弾性材表面の粘着力により電子部品または電子部品の構成部品を保持する保持治具」(特許文献1の請求項1参照)という構成を採用した。
【0005】
特許文献1における保持治具においては、「弾性材2は、主材料であるシリコン系樹脂にカーボン粉体などの導電性粒子を添加し、分散させることによって、全体に導電性をもたせ」ている(特許文献1の段落番号0020参照)。つまり、特許文献1における弾性材2は導電性の弾性材である。弾性材2としてシリコーンゴムのような弾性率の低いゴム材料を用いると、そのゴム材料は反発弾性が低くなると同時に粘性を備え、「この粘性によって、弾性材表面に基板3を粘着させる。例えば軟質シリコーンゴムの場合、1〜10g/mm程度の粘着力を示す。この粘着力は上記導電性粒子の粒径および分散濃度によって変化するので、粘着力と導電率がそれぞれ所定範囲内に入るように弾性材の製造条件を定める。」(特許文献1の段落番号0021参照)
特許文献1の記載によると、前記請求項1に記載の構成を採用することにより、以下の作用効果が奏されると、している。
【0006】
「弾性材による静電気の発生を防止し、他からの静電気を速やかに放出するので、電子部品またはその構成部品に対する高電圧の印加または放電時の通電が生じない」(特許文献1の段落番号0014参照)
「このように弾性材に導電性を持たせたことにより、弾性材の表面に保持されている電子部品やその構成部品が静電破壊されることがなく、静電気による吸着または反発が生じることもなく、静電気を除去するための工程や設備が不要となる。」(特許文献1の段落0022参照)
【特許文献1】特許第3508649号公報
【0007】
特許文献1における上述した開示内容によると、保持部材におけるゴム弾性材に粘着保持された電子部品は、ゴム材料の特性により、静電破壊されるおそれがあり、また、ゴム弾性材の吸着力又は反発力が生じて電子部品の保持不良を生じることがある。
【0008】
電子部品の静電破壊は、静電気が帯電しているゴム弾性材に小型部品が接触するときに、激しい静電気放電が発生することによる。したがって、このような静電気放電の発生を未然に防止することができるようにするためにはゴム弾性材は静電気拡散性を有するほどの表面抵抗率の範囲でなければならない。特許文献1に記載の保持治具は、「導電性を有する弾性材を備える」ことにより、静電破壊を防止している。静電破壊防止に必要な導電性は、特許文献1に具体的な数値が記載されていないが、10Ω/□以下の表面抵抗率が必要であると考えられている。
【0009】
ところで、小型部品であるチップコンデンサは軸線方向に直交する断面が円形、四角形又は長方形であるチップコンデンサ本体の軸線方向における両端に電極が形成されている。チップコンデンサ本体の二箇所に電極を形成するには、ゴム弾性材に粘着保持されたチップコンデンサ本体の一部を電極ペーストに浸漬してそのチップコンデンサ本体の一端に電極を形成した後に、そのチップコンデンサ本体を前記ゴム弾性材よりも粘着性の大きな他のゴム弾性材に転写し、次いで、一端に電極を形成したチップコンデンサ本体の他端を電極ペースト浴に浸漬させる。この場合、一方のゴム弾性材に粘着保持された全てのチップコンデンサ本体を、粘着力の大きなゴム弾性材に、完全に移し替えることが、チップコンデンサ製造の歩留まり向上のために、必要である。
【0010】
しかしながら、現実には、保持治具における弱粘着性のゴム弾性材に粘着保持されたチップコンデンサ本体を他の保持治具における強粘着性のゴム弾性材に移し替えるときに、チップコンデンサ本体が完全に移し変えられず、取り残しのチップコンデンサ本体があることによりチップコンデンサ製造の歩留まりの向上が阻害されていた。
【0011】
また、保持治具における弱粘着性のゴム弾性材から他の保持治具における強粘着性のゴム弾性材へとチップコンデンサ本体を移し替えることができたとしても、製造されたチップコンデンサの中には、その一端又は両端に形成された電極層の剥離、膨れ、又はかけ等が発生している不良品もあった。
【0012】
さらに、本願発明者においては、導電性付与剤としてカーボンブラックを選択してこれをシリコーン系樹脂に添加し、分散させてなる導電性保持治具における弾性体は、工場出荷段階から使用段階までの時間が経過するうちに、カーボンブラックが弾性体の表面にブリードアウトしてしまうことを観察している。粘着保持機能を持たせるべき弾性体の表面に、カーボンブラック等の異物が付着していると、被粘着物例えば小型電子部品を粘着保持する性能が低下することは明らかであり、しかもカーボンブラックがブリードアウトした弾性体に被粘着物を付着させると被粘着物の表面にカーボンブラックが転写されてしまい、これがために、被粘着物が例えば小型電子部品であればその小型電子部品の表面に電極ペーストを付着させても所期の電気特性を有する小型電子部品を製造することのできないことは、明らかである。したがって、特許文献1に記載された保持治具は、導電性付与剤としてカーボンブラックを配合してなる導電性の弾性材を有している限り、必ずしも満足のいく粘着性を発揮することができず、したがって、被粘着物例えば小型電子部品を確実に保持することができず、また、電気的特性に優れた小型電子部品を歩留まりよく製造することができないと、考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明は、小型電子部品に塵埃を付着させることなく、しかも粘着保持力を低下させることなく被粘着物例えば小型電子部品を粘着保持することのできる弾性体を有する保持治具を提供することを、課題とする。
【0014】
この発明は、被粘着物としてチップコンデンサ等の小型電子部品を例えば導電性ペーストに浸漬した後に導電性ペーストから小型電子部品を引き上げる際に導電性ペーストに小型電子部品を取り残すことなく、確実に保持治具に小型電子部品を粘着保持することができ、しかも不良な小型電子部品を発生させることなく、向上した歩留まりをもって小型電子部品を製造することのできる保持治具を提供することを、他の課題とする。
【0015】
この発明の更に別の課題は、導電性ペーストを塗布して成る小型電子部品を歩留まり良く製造することのできる導電性ペースト塗着装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、JIS L 1094に準じて測定される帯電量の半減期が5秒以下であり、粘着力が7〜50g/mmであり、導電性付与剤の含有量が0.2〜5質量%である弾性体と、その弾性体を支持する基材とを有することを特徴とする保持治具であり、
請求項2は、JIS K 6249に準じて測定される体積抵抗率が1010以上1015Ω・cm未満である前記請求項1に記載の保持治具であり、
請求項3は、前記弾性体がシリコーンゴムからなり、前記導電性付与剤がカーボンブラックである請求項1又は2に記載された保持治具であり、
請求項4は、前記弾性体は、前記基材に接着固定されてなる前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の保持治具であり、
請求項5は、被粘着物を粘着保持可能な弾性体を基板に設けて成る保持治具と、前記保持治具を導電性ペースト浴に対して接近離反可能にこの保持治具を移動させて、保持治具の弾性体に粘着保持された被粘着物に導電性ペーストの塗着を可能にする保持治具移送装置とを有して成り、前記保持治具が前記請求項1〜4のいずれか1項に記載された保持治具であることを特徴とする導電性ペースト塗着装置であり、
請求項6は、前記導電性ペースト塗着装置は一対の保持治具を備え、前記一対の保持治具が、弾性体を有する弱粘着性保持治具と前記弱粘着性の弾性体よりも大きな粘着性を有する弾性体を有する強粘着性保持治具とからなり、弱粘着性保持治具の弾性体に粘着保持された被粘着物を強粘着性の弾性体に粘着させることにより、被粘着物を弱粘着性保持治具から強粘着性保持治具へと移し換え可能とする前記請求項5に記載の導電性ペースト塗着装置であり、
請求項7は、前記被粘着物が小型電子部品である前記請求項5又は6に記載の導電性ペースト塗着装置である。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、導電性付与剤とは言いながらその含有量を特に選択すると、その導電性付与剤を含む弾性体は導電性を示さず、帯電防止性が弾性体に付与される一方、弾性体の粘着保持力が阻害されないという現象を基礎にする。すなわち、この発明によると、小型電子部品等を粘着保持することができると共に、微細な塵埃が容易に付着することのない弾性体を備えた保持治具を提供することが、できる。
【0018】
この発明によると、被粘着物例えばチップコンデンサ等の小型電子部品を例えば導電性ペーストに浸漬した後に導電性ペーストから小型電子部品を引き上げる際に導電性ペーストに小型電子部品を取り残すことなく、確実に小型電子部品が粘着保持されることができ、弾性体に塵埃が付着しにくいので弾性体に付着した塵埃が粘着保持される小型電子部品に転写されることがなく、したがって不良な小型電子部品を発生させることなく、向上した歩留まりをもって小型電子部品を製造することのできる保持治具を提供することができる。
【0019】
この発明によると、この発明に係る保持治具を備えることにより、歩留まりよく被粘着物例えば小型電子部品に導電性ペーストを塗着することのできる導電性ペースト塗着装置を提供することが、できる。
【0020】
この発明の保持治具によると歩留まり良く小型電子部品を製造することのできる理由は以下のように考えられる。すなわち、この保持治具における弾性体は、特定の含有量で導電性付与剤を含有しているので、弾性体に導電性が付与されずに帯電防止性が発揮されるとともに、導電性付与剤の含有にもかかわらずに粘着力の低下がなく、導電性付与剤の含有量が特定範囲である為、弾性体の表面にブリードアウトする導電性付与剤の量を低減する事ができる。また、小型電子部品を粘着させる弾性体の表面への微細な塵埃の付着が少なくなり、そうすると、塵埃の転写により塵埃の付着した小型電子部品の表面に導電性ペースト等を塗布することにより生じる小型電子部品の電気的特性不良を防止することができる。また、弾性体の粘着力が前記範囲内にあると、一端を導電性ペーストに浸漬している小型電子部品を導電性ペーストから引き上げる際に、導電性ペーストに小型電子部品を取り残すことなく、確実に小型電子部品を弾性体に粘着保持した状態で、小型電子部品を導電性ペーストから引き上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1に、この発明の一例である保持治具を示す。この保持治具1は、基板2の表面に弾性体3を設けて成り、その弾性体3の表面に被粘着物を粘着力で保持することができる。
【0022】
ここで、この発明における被粘着物はこの発明に係る保持治具に粘着保持される必要性のある器具又は物品であればよく、例えば小型部品、小型器具、小型機械要素、小型電子部品等を挙げることができる。これらの中でも、この発明に係る保持治具が粘着保持するのに好適な被粘着物として小型電子部品等を挙げることができる。この小型電子部品は、例えばコンデンサチップ(これはチップコンデンサとも称されることがある。)、インダクタチップ、抵抗体チップ等の完成品又は未完成品を含み、その寸法は、例えば長さが1.5mm以下、幅が1.0mm以下、及び厚さが0.5mm以下の範囲内にある。この発明に係る保持治具は例えばこのような小型電子部品用として好適である。特に、この発明に係る保持治具は、少なくとも2箇所に導電性ペーストを塗布する必要のある小型電子部品の粘着保持用として、さらに好適である。小型電子部品の少なくとも2箇所に導電性ペーストを塗着させる場合に、保持治具に粘着保持された小型電子部品本体の一部を導電性ペーストに浸漬した後に、その小型電子部品本体を他の保持治具で保持し直すときに、従来の保持治具では小型電子部品本体を他の保持治具で確実に保持することができないことが多々あったところ、この発明の保持治具では小型電子部品を脱落させることなく確実に小型電子部品を保持することができると共に、微小の塵埃の弾性体に付着する量が微少であるから小型電子部品に微小の塵埃が付着した表面に導電性ペーストを付着させるといった事態を回避することができる。
【0023】
なお、この発明においては、例えば、小型電子部品本体の少なくとも一箇所に導電性ペーストを塗着して成る完成品としての小型電子部品、導電性ペーストを塗着していない小型電子部品本体、小型電子部品本体における複数の塗着部位のうちいくつかの部位に導電性ペーストが塗着されている半完成品等を、小型電子部品と総称することにする。小型電子部品と称してそれが完成品、半完成品及び小型電子部品本体のいずれであるかは、その文脈から明らかに理解可能である。
【0024】
前記基材を形成することのできる材質として、例えば、ステンレス、およびアルミニウム等の金属製プレート、アルミニウム箔及び銅箔等の金属箔、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリ塩化ビニル等の樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂板、並びに和紙、合成紙、及びポリエチレンラミネート紙等の紙、並びに布、ガラス繊維及びガラス板等のセラミックス、並びにガラスエポキシ樹脂板等の複合材料等を挙げることができる。更にこの基材として、シート状物を複数積層してなる積層体を採用することもできる。前記基材としては、金属、樹脂、又はセラミックスからなる硬質部材で形成される基材が好適である。
【0025】
この基材の、被粘着物例えば小型電子部品を粘着保持する粘着保持部である弾性体を形成する面に、前記弾性体との密着性を向上させるために、プライマー処理、コロナ処理、エッチング処理、プラズマ処理等を施しておくことが好ましい。このような処理をしておくことにより、基材と弾性体との接着固定が向上する。
【0026】
前記弾性体は被粘着物例えば小型電子部品を粘着保持することのできる粘着力を備えていることを要し、この発明においてはこの弾性体の粘着力は、7〜50g/mmであり、好ましくは10〜40g/mmである。この弾性体の粘着力が7g/mmを下回ると被粘着物例えば小型電子部品を粘着保持することができなくなる。また、この弾性体の粘着力が50g/mmを上回ると、弾性体に粘着した被粘着物例えば小型電子部品を分離するのが困難になる。また、この発明に係る保持治具はその弾性体の粘着力を7〜23g/mmとすることにより弱粘着性保持治具とし、またこの発明に係る保持治具はその弾性体の粘着力を23〜50g/mmとすることにより強粘着性保持治具とし、これら弱粘着性保持治具と強粘着性保持治具とを組み合わせることにより、弱粘着性保持治具に保持された被粘着物例えば小型電子部品を強粘着性保持治具に移し替えることのできる一対の転移用保持治具とすることができる。
【0027】
ここで、粘着力は、以下のようにして求めることができる。以下の粘着力の測定方法は、出願人において案出されたので、信越ポリマー法と称する。
【0028】
まず、弾性体を水平に固定する吸着固定装置(例えば、商品名:電磁チャック、KET−1530B、カネテック(株)製、及び真空吸引チャックプレート等)と、測定部先端に、直径10mmの円柱をなしたステンレス鋼(SUS304)製の接触子を取り付けたデジタルフォースゲージ(商品名:ZP−50N、(株)イマダ製)とを備えた荷重測定装置を用意する。
【0029】
次いで、この荷重測定装置における吸着固定装置又は真空吸引チャックプレート上に弾性体を固定し、測定環境を21±1℃、湿度50±5%に設定する。次いで、20mm/minの速度で弾性部材の被測定部位に接触するまで前記荷重測定装置に取り付けられた前記接触子を下降させ、次いで、この接触子を被測定部位に所定の荷重で被測定部に対して垂直に3秒間押圧する。ここで、前記所定の荷重を、25g/mmに設定する。次いで、180mm/minの速度で前記接触子を被測定部位から引き離し、このときに前記デジタルフォースゲージにより測定される引き離し荷重を読み取る。この操作を、被測定部位の複数箇所で行い、得られる複数の引き離し荷重を算術平均し、得られる平均値を前記ステンレス鋼の測定部先端の面積で除した値を弾性体の粘着力とする。
【0030】
なお、この測定方法は、手動で行ってもよいが、例えば、テストスタンド(例えば、商品名:VERTICAl MODEL MOTORIZED STAND シリーズ、(株)イマダ製)等の機器を用いて、自動で行ってもよい。
【0031】
前記弾性体は、被粘着物が小型電子部品であるときには小型電子部品を保持するその表面の中心線平均粗さRa(JIS B 0601−1982)が0.8μm以下であるのが好ましい。弾性体における小型電子部品を保持する表面の平滑度が前記範囲外であると、弾性体の表面に載置する小型電子部品が実質的垂直に立設することができないことがあり、弾性体の表面に小型電子部品を当初は垂直に立設したとしても振動及びその他の原因により小型電子部品が倒れたり、配置位置のずれを起こしたりしてしまうことがある。
【0032】
この発明に係る保持治具における弾性体は、JIS L 1094に準じて測定される帯電量の半減期が5秒以下、好ましくは1秒以下である。弾性体の帯電量の半減期が5秒を越えると、弾性体表面に塵埃が付着する傾向が大きくなり、弾性体に被粘着物を確実に粘着保持することができなくなるばかりか、弾性体の表面に付着した塵埃が弾性体に粘着させる被粘着物に転写されてしまって、この発明の目的を達成することができない。ここで一般的なことをいうと、帯電量の半減期は、試料が有する試料表面の帯電電圧値の、時間に対する減衰曲線において、帯電電圧が初期値の半分になるまでの時間をいう。この発明においては、前記弾性体の帯電量の半減期は、例えば試料(40mm×40mm)をターンテーブルに固定してこれを回転させながら電圧を印加し、検出器により試料表面の帯電電圧値を(単位:kV)を測定し、時間に対する帯電圧の減衰曲線を得、帯電量が初期値の半分に達するまでの時間を帯電量の半減期と称することにする。帯電量の半減期は、例えばシシド静電気(株)製の「オネストメータ」(型式:H−0110)により測定することができる。
【0033】
また、この発明における前記弾性体の体積抵抗率は、1010以上1015Ω・cm未満であり、好ましくは1013〜1014Ω・cmである。弾性体の体積抵抗率が1015Ω・cm以上であると弾性体が絶縁性となり静電気放電を起こし易くなり、この弾性体に粘着保持される被粘着物例えば小型電子部品を静電気放電により損傷してしまうことがある。1010Ω・cm未満にする為に導電性付与剤の配合量を調整すると、前記弾性体の表面に導電性付与剤がブリードアウトする可能性が高く、この弾性体に粘着保持される被粘着物例えば小型電子部品に導電性付与剤が付着してしまうことがある。
【0034】
この発明における前記弾性体の粘着面における硬度としては、通常の場合、ゴム硬度(JIS K6253[デュロメータE])で5〜60程度が好ましい。弾性体のゴム硬度が、5未満であると粘着力が強く、被粘着物を容易に取り外せなくなることがあり、一方、60を越えると、粘着力が弱く、被粘着物を十分な粘着力で保持することができなくなることがある。
【0035】
この発明における弾性体は、ゴム弾性部材と導電性付与剤とから形成することができる。
【0036】
前記ゴム弾性部材としては、弾性体に前記粘着力を付与することのできる物質であれば特に制限がなく、フッ素樹脂、フッ素樹脂を含有するフッ素樹脂組成物、シリコーン樹脂、シリコーン樹脂を含有するシリコーン樹脂組成物、ウレタン系エラストマー、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合エラストマー等の各種エラストマー等を挙げることができ、中でも好適なゴム弾性部材としては、例えば式(1)で示されるポリオルガノシロキサン((a)成分と称することがある。)と、前記式(1)で示されるポリオルガノシロキサンと架橋反応可能であり、Si原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するSiH結合含有ポリオルガノシロキサン((b)成分と称することがある。)と、粘着力向上剤((c)成分と称することがある。)と、前記ポリオルガノシロキサン((a)成分)と前記SiH結合含有ポリオルガノシロキサン((b)成分)との架橋反応を促進する触媒である白金化合物((d)成分と称することがある。)と、(e)成分としてのシリカ系充填材とを含有する粘着性組成物を硬化してなる硬化物を挙げることができる。
【0037】
【化1】

【0038】
ただし、式(1)において、Rは不飽和結合を有することのない1価の炭化水素基であり、式(1)における複数のRは互いに同一であっても相違していても良い。Xはアルケニル基を含有する有機基であり、式(1)における複数のXは互いに同一であっても相違していても良い。aは0〜3の整数、bは0〜3の整数、mは0以上の整数、nは100以上の整数である。a、b、及びmは同時に0となることがない。
【0039】
前記Rとしては、炭素数1〜10の飽和炭化水素基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基等を挙げることができ、中でもメチル基等の炭素数が1〜3の低級アルキル基及びフェニル基等のアリール基が好ましい。
【0040】
前記Xとしては、炭素数2〜10のアルケニル基含有有機基が好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基等の炭素二重結合含有炭化水素基、アクリロイルプロピル基、アクリロイルメチル基、メタクリロイルプロピル基、メタクリロイルメチル基等の(メタ)クリロイルアルキル基、シクロヘキセニルメチル基、シクロヘキセニルエチル基、シクロヘキセニルプロピル基等のシクロアルケニルアルキル基等を挙げることができる。
【0041】
この(a)成分は、オイル状、粘土状等の性状を有していても良く、その粘度が25℃において少なくとも50mPa・sであるのが好ましく、特に少なくとも100mPa・sであるのが好ましい。
【0042】
この(a)成分は一種単独で用いることができ、また二種以上を併用することもできる。
【0043】
前記(b)成分は、前記(a)成分と架橋することのできる成分であり、例えば、1分子中にSi原子に結合した水素原子を少なくとも2個、好ましくは少なくとも3個有するSiH結合含有ポリオルガノシロキサン(以下において、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと称することがある。)を好適例として挙げることができる。
【0044】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、式(2)又は式(3)で示す化合物を挙げることができる。
【0045】
【化2】

【0046】
【化3】

【0047】
ただし、式(2)及び(3)において、Rは前記と同様の意味を有し、複数のRは同一であっても相違していても良い。(c)及び(d)は、0〜3の整数であり、x、y及びsは0以上の整数である。(c)、(d)、及びxは同時に0となることがなく、xとyとはx+y≧0の関係を満たす。rとsとは、r+s≧3、好ましくは8≧x+y≧3の関係を満たす。
【0048】
好適なオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、オイル状を呈し、25℃における粘度が1〜5000mPa・sである。
【0049】
この(b)成分はその一種単独で使用することもでき、また二種以上を併用することもできる。
【0050】
この(b)成分の配合割合はこの発明の目的を阻害しないように適宜に決定することができる。この(b)成分がオルガノハイドロジェンポリシロキサンである場合には、SiH結合の(b)成分中のモル比が0.5〜20であるのが好ましく、特に1〜15であるのが好ましい。このモル比が0.5を下回ると、後述する硬化後の架橋密度が低下し、基材に対する弾性体の形状を保持することが困難になることがあり、前記モル比が20を上回ると、弾性体の粘着力が低下してその表面に小型電子部品を粘着保持することができなくなることがある。
【0051】
前記(c)成分は、粘着力を向上させる機能乃至粘着力を調整する機能を備える限り各種の物質を採用することができ、例えばポリオルガノシロキサンが、特にRSiO1/2単位(但し、Rは、脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基を示す。)で示されるポリオルガノシロキサンが例示される。
【0052】
ここでRとしては、炭素数1〜10の飽和炭化水素基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基等を挙げることができる。
【0053】
この(c)成分は、ゴム弾性部材の粘着力を向上させる機能乃至粘着力を調整する機能を有する成分であるから、前記(a)成分及び(b)成分と共に架橋反応を起こさず、又は起こすのが困難である物質であるのが、好ましい。
【0054】
このような(c)成分としてポリオルガノシロキサンを採用する場合、(RSiO1/2単位)/SiO単位のモル比が0.6〜1.7と成るポリオルガノシロキサンが好適である。このモル比が0.6より小さいと、ゴム弾性部材の粘着性が高くなり過ぎることがある。また、このモル比が1.7よりも大きくなると、ゴム弾性部材の粘着力が低下することがある。
【0055】
この(c)成分は、Si原子に結合するOH基を含有していても良く、その場合には、OH基含有量が多くとも4モル%にするのが良い。
【0056】
Si原子にOH基を結合するポリオルガノシロキサンを(c)成分として使用する場合には、式(4)に示されるポリオルガノシロキサンと(b)成分とが一部縮合してなる縮合反応物を(a)成分として使用することができる。
【0057】
【化4】

【0058】
ただし、Rは前記と同様の意味を有し、複数のRは同一であっても相違していても良い。YはR又はアルケニル基を含有する有機基である。pは1以上の整数、qは100以上の整数である。
【0059】
前記式(4)で示されるポリオルガノシロキサンと前記(c)成分との縮合反応物は、トルエン等の芳香族有機溶媒に前記式(4)で示されるポリオルガノシロキサンと前記(c)成分との混合物を、アルカリ性触媒の存在下で、室温乃至還流下で反応させることにより、得ることができる。なお、この縮合反応に供される(c)成分は一種であっても二種であっても良い。
【0060】
前記式(4)で示されるポリオルガノシロキサン((a’)成分と称することがある。)と反応させる前記(c)成分は、(a’)成分/(c)成分の質量比として20/80
〜80/20の範囲内で、使用されるのが、好ましい。この範囲外である場合に、前記(c)成分が少ないと粘着力が不足することがあり、一方、多いとゴム弾性部材が硬くなると共に弾性力が強くてゴム弾性部材が変形し難くなり、小型電子部品等の被粘着物を粘着保持させるのが困難になることがある。
【0061】
前記(d)成分は前記(a)成分と前記(b)成分との架橋反応を促進する触媒であり、白金化合物からなる。この(d)成分である白金化合物として、ハイドロサレーションの触媒に使用される化合物を挙げることができる。
【0062】
この(d)成分として、例えば塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物などを挙げることができる。
【0063】
この(d)成分の配合割合は、前記(a)成分と前記(c)成分との合計量に対して、白金分として1〜5000ppmとするのが好ましく、特に2〜2000ppmとするのが好ましい。
【0064】
この(d)成分の配合割合が前記範囲よりも少ないとゴム弾性部材の硬化性が低下して架橋密度が低くなって粘着力が低下することがある。一方、前記範囲よりも多いと硬化が早まり成形可能時間が短くなるため、成形性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0065】
この発明における(e)成分は、シリカ系充填材であり、シリカ、石英粉、珪藻土等が挙げられるが、好ましくはシリカであり、ゴム弾性部材の機械的強度を向上乃至調整することができ、粘着性を付与する(c)成分をゴム弾性部材中に保持して脱離し難くする。
【0066】
好適なシリカとしては、BET法により測定されるその比表面積が50m/g以上、好ましくは100〜400m/gのシリカを挙げることができる。このような比表面積を有するシリカが(e)成分として粘着性組成物に含まれていると、ゴム弾性部材の引っ張り強度等の機械的強度を向上させることができるとともに粘着性を付与する成分が脱離し難くなり、微細な削りカスやのり残りが生じ難くなる。なお、比表面積が400m/gを超えるとゴム弾性部材の製造に時間がかかるとともにコストが増大してしまう。
【0067】
前記(e)成分として、例えばヒュームドシリカ、焼成シリカ等の乾式法により合成されたシリカ、沈降シリカ及びシリカゲル等の湿式法により合成されたシリカ等を挙げることができる。前記比表面積を有するシリカを得やすいという理由で、ヒュームドシリカ、沈降シリカが好ましい。
【0068】
この(e)成分としてのシリカはその一種を単独で使用することもできるし、また二種以上を併用することもできる。
【0069】
また、必要に応じてシリカの表面を、例えばオルガノポリシロキサン、オルガノポリシラザン、クロロシラン、アルコキシシラン等の表面処理剤で処理しておくのも好ましい。
【0070】
この(e)成分の配合割合は、前記(a)成分と(c)成分との合計量100質量部に対して1〜30質量部、特に5〜20質量部とするのが好ましい。この(e)成分の配合割合が1質量部よりも少ないとゴム弾性部材の粘着強度が低下して充分な粘着力が得られないことがあり、また使用時に粘着力残渣が生じ易くなることがあり、前記配合割合が30質量部を超えると、粘着力が低下することがある。
【0071】
この発明における前記粘着性組成物は、前記(a)成分から(e)成分までの他に、この発明の目的を阻害しない範囲で適宜に任意成分を含有していても良い。
【0072】
この任意成分として、前記(a)成分から(e)成分までの各成分を混合する際に架橋反応を抑制することを目的とする反応制御剤を挙げることができる。この反応制御剤としては、例えば、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−へキシン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサノール、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ブチン、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ペンチン、3,5−ジメチル−3−トリメチルシロキシ−1−へキシン、1−エチニル−1−トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2−ジメチル−3−ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン等を挙げることができる。
【0073】
このような反応制御剤を使用する場合、その配合割合は、前記(a)成分と(c)成分との合計量100質量部に対して0〜5質量部、特に0.05〜2質量部の範囲とするのが好ましい。この反応制御剤の配合割合が5質量部を超えると粘着性組成物の硬化時に硬化が困難になることがある。
【0074】
また前記反応制御剤以外の任意成分としては、ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルジフェニルシロキサン等の非反応性のポリオルガノシロキサン、塗工の際の粘度を下げるための溶剤として、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、ヘキサン、オクタン、イソパラフィン等の脂肪族系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶剤、又はこれらの混合溶剤が挙げられ、更には染料、並びに顔料等を挙げることができる。
【0075】
この発明における粘着性組成物は、以上の各成分を混合することにより得ることができる。
【0076】
一般的な意味での導電性付与剤は、前記対象物に導電性を付与する物質乃至組成物である。このように対象となるものに導電性を付与することのできる限りこの発明においては種々の導電性付与剤を使用することができる。具体的には、前記導電性付与剤としては、カーボン系導電性フィラー、並びにアルミニウム、銅、錫、及びステンレス鋼等の各種導電性金属及びそれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化チタン、及び酸化錫−酸化アンチモン固溶体等の各種金属酸化物等を挙げることができる。これらの中でもカーボン系導電性フィラーが好ましく、更にはカーボンブラックが好ましく、特には10〜10−2Ω・cmの抵抗値を有するカーボンブラックが好ましい。このようなカーボンブラックとしては導電性オイルファーネスブラック、アセチレンブラック、及びサーマルブラック等を挙げることができる。カーボンブラックは耐熱性を有するので、前記(a)成分〜(e)成分を含有する粘着性組成物を用いて加熱硬化する際に好都合である。
【0077】
この発明においては、前記導電性付与剤を使用することにより弾性体に導電性を付与せずに、弾性体の粘着力を低減させずに帯電防止効果を付与するために前記導電性付与剤が弾性体に含有されることは、特筆される。
【0078】
また、この発明において特筆するべきことは、この発明に係る保持治具における弾性体に帯電防止性を付与するために、例えばプラスチック製品及びゴム製品等に帯電防止性を付与する場合に通常に使用される界面活性剤等の帯電防止剤を耐熱性の面でこの弾性体に含有させることができないという問題点を、導電性を付与する導電性付与剤を特定割合で含有させることにより、導電性の付与ではなく帯電防止性を付与して解決することができたこと、である。
【0079】
導電性付与剤を弾性体に含有させて前述のように粘着力を低下させずに帯電防止効果を弾性体に付与するという特殊な効果を発現させるには、この導電性付与剤の弾性体中の含有量が重要である。
【0080】
かくして、前記弾性体中に含まれる導電性付与剤例えばカーボンブラックの含有量は、0.2〜5質量%であり、好ましくは0.5〜1.5質量%である。導電性付与剤の含有量が5質量%を越えると弾性体の粘着力が低下し、及び/又は弾性体の硬度が低下して保持治具としての機能が達成できなくなることがあり、また、導電性付与剤の含有量が0.2質量%を下回ると、弾性体に帯電防止性が付与できなくなる。
【0081】
弾性体に含有される導電性付与剤例えばカーボンブラックは、その平均粒径が1〜200nmレベルである。尚、平均粒径については、弾性体中に均一に分散させる事が可能なレベルであれば特に限定はしない。
【0082】
この発明における弾性体は、ゴム弾性部材と導電性付与剤とを含有するとともに前記帯電量の半減期及び粘着性を有することができる限り、種々の手法により製造されることができる。一つの好適な製造方法としては、前記粘着性組成物を形成する各成分と前記導電性付与剤例えばカーボンブラックとを配合し、場合により混練し、これによって得られる導電性付与剤含有粘着性組成物を硬化する方法を挙げることができる。
【0083】
通常の場合、前記弾性体は、次のようにして、基材の表面にシート状に形成される。すなわち、基材の一方の表面に前記導電性物質含有粘着性組成物を積層して金型等にてプレス成形し、又は金型内に基材をインサートして前記導電性付与剤含有粘着性組成物を金型内に注入してシート状に成形される。シート状に形成された前記導電性付与剤含有粘着性組成物の厚みは、通常、0.2〜10mmである。基材表面に設けられた前記導電性付与剤含有粘着性組成物の硬化は、例えば80〜130℃で3〜40分加熱することにより達成される。もっとも、前記導電性付与剤含有粘着性組成物の組成等に応じて、硬化条件としての上記温度及び時間が変更されることがある。前記硬化により弾性体が基材の表面に接着固定される。基材の表面にシート状の弾性体を接着固定する方法は、上記以外に、前記導電性付与剤含有粘着性組成物を基材と分離した状態でシート状に形成し、硬化することにより得られたシート状硬化物と基材の表面とを、接着剤により固定する方法、前記シート状硬化物と基材の表面とを適宜の枠等で固定する方法等を採用することもできる。
【0084】
この発明に係る保持治具は、例えば、二箇所に、例えば軸線方向の両端に電極を有する小型電子部品を製造する導電性ペースト塗着装置における保持治具として、好適に使用されることができる。
【0085】
この導電性ペースト塗着装置によると、以下に説明するように、小型電子部品本体の二箇所に、膨れ、ボイド、剥離等の欠陥が極めて少なくて電気的特性にばらつきなく多数の小型電子部品を生産することができる。
【0086】
図2に示されるように、この発明の一例である導電性ペースト塗着装置10は、導電性ペースト浴槽11と、一対の転移保持治具12a,12bと、この一対の転移保持治具12a,12bを移動させ、またその姿勢を変更するようにこの一対の転移保持治具12a12bを駆動する保持治具移送装置13とを備えてなる。
【0087】
前記導電性ペースト浴槽11は、導電性ペースト11aを収容し、上方から移動してくる転移保持治具12a又は12bを受け入れる開口部を備える。導電性ペースト浴槽11は、導電性ペースト11aを収容することのできる容器、槽、タンク等の収容設備であれば、種々の形態を取り得る。
【0088】
導電性ペーストは、電極及び回路パターン等の形成に使用される導電性のペースト状物であり、通常の場合、金、銀、及びカーボン等の導電性微粒子例えばナノオーダーの粒子を有機バインダー樹脂に分散して成るペースト等を挙げることができる。
【0089】
一対の転移保持治具12a、12bそれぞれは、この発明の保持治具であることは当然ながら、基板14の表面に弾性体15を接着固定してなり、その構成については既に詳述してあるが、図2においては、転移保持治具12aが弱粘着性保持治具であり転移保持治具12bが強粘着性保持治具である。
【0090】
強粘着性保持治具12bは、その弾性体15の粘着力が弱粘着性保持治具12aの弾性体14の粘着力よりも強く設定される。
【0091】
前記保持治具移送装置は、以下の動作を行うことができるように、形成される。
【0092】
この保持治具移送装置10は、例えば、図2に示されるように、
(1)前記弱粘着性保持治具12aを複数の、多くの場合には多数の小型電子部品を弾性体に立設配置させる位置(A)に移送し、
(2)所定の位置(B)例えば前記位置(A)の上方にある所定の位置(B)にて、弾性体14の上面に多数の小型電子部品16を立設した状態から小型電子部品16を弾性体14の下面に垂下保持する状態へとこの弱粘着性保持治具12aを裏返し、
(3)前記位置(B)から前記導電性ペースト浴槽11の上方にある所定の位置(C)へと弱粘着性保持治具12aを移動し、次いで、小型電子部品16を下面に垂下保持する弾性体15を基板14の下側面に有する弱粘着性保持治具12aを導電性ペースト浴11aに向けて下降させ、小型電子部品16の下端部の所定部位を導電性ペースト浴11aに浸漬したところで弱粘着性保持治具12aの下降運動を停止させ、
(4)弱粘着性保持治具12aを上昇させ、もとの所定の位置(C)、又はその所定の位置(C)から更に小型電子部品16を水平移動させて位置(B)に移送する。このとき、弱粘着性保持治具12aは、図3に示されるように、下端面及び下端周側面に導電性ペーストを付着して成る電極部17を有する小型電子部品16を垂下保持した状態となっている。
【0093】
この保持治具移送装置10は、前記所定の位置(C)又は所定の位置(B)にて、
(5)弱粘着性保持治具を裏返すことにより、図4に示されるように、小型電子部品における電極部17が上に向くようにし、
(6)次いで、弱粘着性保持治具12aにおける小型電子部品16に向けて、弾性体が下側に位置する強粘着性保持治具12bを、弱粘着性保持治具12aにおける弾性体15の表面と強粘着性保持治具12bにおける弾性体15の表面との平行を維持しつつ、下降させ、又は、弱粘着性保持治具12aと強粘着性保持治具12bとを互いに接近させ、次いで強粘着性保持治具12bにおける弾性体15の下面を、弱粘着性保持治具12aに粘着保持されている小型電子部品16の電極部17に、接触するところで停止させ、
(7)図4に示されるように、強粘着性保持治具12bの弾性体15の下側面に電極部17を粘着することにより、強粘着性保持治具12bの弾性体15の下側面に小型電子部品16を垂下保持したまま、弱粘着性保持治具12aから強粘着性保持治具12bが離れていくように上昇させ、所定の位置(D)で前記強粘着性保持治具を停止させる。このとき、図5に示されるように、強粘着性保持治具12bは、小型電子部品16の電極部17を弾性体15に接するようにしてこの小型電子部品16を垂下保持している。
【0094】
この保持治具移送装置10は、
(8)図2に示されるように、前記所定の位置(C)から導電性ペースト浴までの下降経路に弱粘着性保持治具12aが位置しないようにこの弱粘着性保持治具12を退避させてから、強粘着性保持治具12bを、前記所定の位置(D)から、導電性ペースト浴槽11の上方となる所定の位置(E)にまで、移送し、
(9)次いで、この強粘着性保持治具12bを導電性ペースト浴11aに向って下降させて、強粘着性保持治具12bに垂下保持されている小型電子部品16の下端部を導電性ペースト浴11aに浸漬させ、小型電子部品16の下端の所定部位を導電性ペースト浴11aに浸漬した状態が維持されるようにその位置で強粘着性保持治具の下降を停止させ、
(10)図6に示されるように、下端部に導電性ペーストを塗着することにより電極部17が形成された小型電子部品16を垂下保持した強粘着性保持治具12bを、導電性ペースト浴11aから離れるように上方に移送し、所定の位置(E)で上方移送を停止し、更に水平方向に前記強粘着性保持治具12bを移動させて、小型電子部品16を収集する部位にまでこの強粘着性保持治具12bを移送する。
【0095】
この保持治具移送装置10は、
(11) 図2に示されるように、強粘着性保持治具12bを収集容器18の上方にある位置(F)に移動させた後に、図2又は図6に示されるように、強粘着性保持治具12bの弾性体15の表面を掻き取り手段19例えば薄い刃を有するスクレーパ等で擦ることにより、弾性体15の表面に粘着保持された小型電子部品16を収集容器18に収容する。
【0096】
この保持治具移送装置10は、具体的な前記動作の外に、要するに、弱粘着性保持治具に小型電子部品を粘着保持し、粘着保持した小型電子部品の一部に導電性ペーストを付着させて電極を形成し、次いで電極を形成した小型電子部品を弱粘着性保持治具から強粘着性保持治具に移し替え、強粘着性保持治具に保持された小型電子部品の他の部位に導電性ペーストを付着させて第2の電極を形成することができるように、これら各動作を可能にするように各種の機械要素を用いて形成される。これらの機械要素としては、チャック等の治具把持手段、前記治具把持手段を移動させるレール及び搬送ベルト等の治具移送手段、治具移送手段を駆動する例えばモータ等の駆動手段等を挙げることができる。
【実施例】
【0097】
<保持治具の作製>
<実施例1>
厚さ0.8mmのステンレス鋼板を、一辺の長さが120mmである正方形の試験片を切り出した。この試験片における一方の表面をアセトン等の有機溶媒で脱脂処理した後、シリコーンゴム接着用プライマー(商品名X−33−156−20、信越化学工業株式会社製)を適量塗布して、基板を製造した。
【0098】
これらの保持治具は、粘着性組成物として粘着性シリコーンゴム(商品名「X−34−632 A/B」、信越化学工業株式会社製)、粘着力調整組成物として液状シリコーンゴム(商品名「KE−1950/30 A/B」、信越化学工業株式会社製)、導電性付与剤としてカーボンブラック(商品名「デンカブラックHS−100」、電気化学工業株式会社製)とを配合した厚さ1.8mmの弾性体(粘着性シリコーンゴム:液状シリコーンゴム:カーボンブラック=30:70:0.2)を前記基板上に布置して、プレス成形し、保持治具Aとした。
【0099】
<実施例2>
前記カーボンブラックの配合比を「0.2」から「0.5」に変更した以外は、実施例1と同様にして保持治具Bを製造した。
【0100】
<実施例3>
前記カーボンブラックの配合比を「0.2」から「1.5」に変更した以外は、実施例1と同様にして保持治具Cを製造した。
【0101】
<実施例4>
前記カーボンブラックの配合比を「0.2」から「5」に変更した以外は、実施例1と同様にして保持治具Dを製造した。
【0102】
<実施例5>
実施例1における弾性体の配合比を「粘着性シリコーンゴム:液状シリコーンゴム:カーボンブラック=30:70:0.2」から「粘着性シリコーンゴム:液状シリコーンゴム:カーボンブラック=60:40:0.2」に変更した以外は、実施例1と同様にして保持治具Eを製造した。
【0103】
<実施例6>
前記カーボンブラックの配合比を「0.5」に変更した以外は、実施例5と同様にして保持治具Fを製造した。
<実施例7>
前記カーボンブラックの配合比を「0.2」から「1.5」に変更した以外は、実施例5と同様にして保持治具Gを製造した。
【0104】
<実施例8>
前記カーボンブラックの配合比を「0.2」から「5」に変更した以外は、実施例5と同様にして保持治具Hを製造した。
【0105】
<実施例9>
実施例1における弾性体の配合比を「粘着性シリコーンゴム:液状シリコーンゴム:カーボンブラック=30:70:0.2」から「粘着性シリコーンゴム:液状シリコーンゴム:カーボンブラック=90:10:0.2)に変更した以外は、実施例1と同様にして保持治具Iを製造した。
【0106】
<実施例10>
前記カーボンブラックの配合比を「0.2」から「0.5」に変更した以外は、実施例9と同様にして保持治具Jを製造した。
【0107】
<実施例11>
前記カーボンブラックの配合比を「0.2」から「1.5」に変更した以外は、実施例9と同様にして保持治具Kを製造した。
【0108】
<実施例12>
前記カーボンブラックの配合比を「0.2」から「5」に変更した以外は、実施例9と同様にして保持治具Lを製造した。
【0109】
<実施例13>
実施例1における弾性体の配合比を「粘着性シリコーンゴム:液状シリコーンゴム:カーボンブラック=30:70:0.2」から「粘着性シリコーンゴム:液状シリコーンゴム:カーボンブラック=97:3:0.2)に変更した以外は、実施例1と同様にして保持治具Mを製造した。
【0110】
<実施例14>
前記カーボンブラックの配合比を「0.2」から「0.5」に変更した以外は、実施例13と同様にして保持治具Nを製造した。
【0111】
<実施例15>
前記カーボンブラックの配合比を「0.2」から「1.5」に変更した以外は、実施例13と同様にして保持治具Oを製造した。
【0112】
<実施例16>
前記カーボンブラックの配合比を「0.2」から「5」に変更した以外は、実施例13と同様にして保持治具Pを製造した。
【0113】
<比較例1〜4>
前記カーボンブラックが配合されていないことに変更した以外は、実施例1,5,9,13と同様にして保持治具Q,R,S,Tを製造した。
【0114】
<比較例5>
前記カーボンブラックの配合比を「0.2」から「7」に変更した以外は、実施例1と同様にして保持治具Uを製造した。
【0115】
<比較例6>
前記カーボンブラックの配合比を「0.2」から「7」に変更した以外は、実施例5と同様にして保持治具Vを製造した。
【0116】
<比較例7>
前記カーボンブラックの配合比を「0.2」から「7」に変更した以外は、実施例9と同様にして保持治具Wを製造した。
【0117】
<比較例8>
前記カーボンブラックの配合比を「0.2」から「7」に変更した以外は、実施例13と同様にして保持治具Xを製造した。
【0118】
<粘着力、半減期、体積抵抗率の測定>
保持治具A〜Xにおける弾性体の粘着力を前記信越ポリマー法、半減期をJIS L 1094、体積抵抗率をJIS K 6429にて測定した。その結果を表1に示す。
【0119】
<チップコンデンサの異物又は塵埃の付着量及び転写性評価>
図7に示されるように、前記保持治具A〜Xの表面に、立設配置板20を載置した。この立設配置板20の、弾性体15が接する面とは反対側の表面に、チップコンデンサ本体16Aをばら撒き、この保持治具A〜Xに振動を加えることにより、立設配置板20に開設されている貫通孔21内にチップコンデンサ本体16Aを落とし込んだ。次いで、前記立設配置板20を静かに上方に持ち上げて弾性体15の表面(粘着保持面とも称される。)から前記立設配置板20を取り除いた。この立設配置板20を除去した後において、チップコンデンサ本体16Aの表面に付着した異物または塵埃数(平均面積:0.05mm)を顕微鏡で確認した。
【0120】
次いで、前記保持治具A〜Xの弾性体の粘着力より弱い粘着力を有する弾性体を布置した保持治具(以下、保持治具Zと称する)にチップコンデンサ本体16Aを前記保持治具A〜Xにおけるのと同様にして立設し、前記保持治具A〜Xを上方に位置させて静かに下降させ、多数のチップコンデンサ本体の上端部に25g/mmの圧力で接触させた。次いで、接触後3秒が経過してから、保持治具A〜Xを3mm/secの速度で上方に持ち上げて保持治具Zから引き離した。引き離された保持治具A〜Xにおけるチップコンデンサ本体の保持状態を観察し、保持治具Zに立設するチップコンデンサ本体の数に対する保持治具A〜Xにおけるチップコンデンサ本体の数の割合をチップコンデンサの転写率とした。その結果を表1に示す。
【0121】
【表1】

【0122】
※1
◎:異物付着が認められなかった。
【0123】
○:2個以下の異物付着を認めた。
【0124】
△:3〜5個の異物付着を認めた。
【0125】
×:6個以上の異物付着を認めた。
※2
◎:転写率99%以上。
【0126】
○:転写率95%以上99%未満。
【0127】
△:転写率90%以上95%未満。
【0128】
×:転写率90%未満。
【0129】
表1の結果から、実施例に係る保持治具にあっては、カーボンブラックを特定の少量割合で含有し、半減期及び粘着力が特定の範囲にある弾性体を備えているので、弾性体自体に異物または塵埃が付着しにくく、したがって弾性体に粘着させるチップコンデンサ等の被粘着物に異物または塵埃を付着させることもなく、また、一方の保持治具から他方の保持治具に被粘着物を移し換えるときにも弾性体の粘着力の低下がないことが、分かる。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】図1は、この発明に係る保持治具の一例を示す斜視図である。
【図2】図2は、この発明に係る導電性ペースト塗着装置の一例を示す説明図である。
【図3】図3は、この発明の保持治具の一例である弱粘着性保持治具で小型電子部品を懸垂保持した状態を示す説明図である。
【図4】図4は、この発明に係る保持治具の一例である弱粘着性保持治具に保持された小型電子部品を、この発明に係る保持治具の一例である強粘着性保持治具に移し替える状態を示す説明図である。
【図5】図5は、この発明に係る保持治具の一例である強粘着性保持治具に小型電子部品を懸垂保持した状態を示す説明図である。
【図6】図6は、この発明に係る保持治具の一例である強粘着性保持治具から小型電子部品を除去する状態を示す説明図である。
【図7】図7は、粘着性保持治具の弾性体表面に立設配置板を重ね、立設配置板が有する貫通孔にチップコンデンサ本体を挿入した状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0131】
1 保持治具
2 基板
3 弾性体
10 導電性ペースト塗着装置
11 導電性ペースト浴槽
11a 導電性ペースト浴
12a、12b 転移保持治具
13 保持治具移送装置
14 基材
15 弾性体
16 小型電子部品
16A チップコンデンサ本体
17 電極
18 収集容器
19 掻き取り手段
20 立設配置板
21 貫通孔






【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS L 1094に準じて測定される帯電量の半減期が5秒以下であり、粘着力が7〜50g/mmであり、導電性付与剤の含有量が0.2〜5質量%である弾性体と、その弾性体を支持する基材とを有することを特徴とする保持治具。
【請求項2】
JIS K 6249に準じて測定される体積抵抗率が1010以上1015Ω・cm未満である前記請求項1に記載の保持治具。
【請求項3】
前記弾性体がシリコーンゴムからなり、前記導電性付与剤がカーボンブラックである請求項1又は2に記載された保持治具。
【請求項4】
前記弾性体は、前記基材に接着固定されてなる前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の保持治具。
【請求項5】
被粘着物を粘着保持可能な弾性体を基板に設けて成る保持治具と、前記保持治具を導電性ペースト浴に対して接近離反可能にこの保持治具を移動させて、保持治具の弾性体に粘着保持された被粘着物に導電性ペーストの塗着を可能にする保持治具移送装置とを有して成り、前記保持治具が前記請求項1〜4のいずれか1項に記載された保持治具であることを特徴とする導電性ペースト塗着装置。
【請求項6】
前記導電性ペースト塗着装置は一対の保持治具を備え、前記一対の保持治具が、弾性体を有する弱粘着性保持治具と前記弱粘着性の弾性体よりも大きな粘着性を有する弾性体を有する強粘着性保持治具とからなり、弱粘着性保持治具の弾性体に粘着保持された被粘着物を強粘着性の弾性体に粘着させることにより、被粘着物を弱粘着性保持治具から強粘着性保持治具へと移し換え可能とする前記請求項5に記載の導電性ペースト塗着装置。
【請求項7】
前記被粘着物が小型電子部品である前記請求項5又は6に記載の導電性ペースト塗着装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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