説明

保水性セメント成形体

【構成】 保水性セメント成形体10は、多孔質体14を含み、内部に吸収して保持した水を表面12から蒸発させることによって、表面温度の上昇を抑制する。保水性セメント成形体10の内部には、pF2.7〜4.2のpF域で水を保持する第1毛管部が無数に形成される。この第1毛管部は、第1−第3空隙20,22,24が適宜連続して形成される。第1毛管部に保持された水は、表面12に拡がり易く、かつ表面12に素早く供給されるので、保水性セメント成形体10では、表面12全体に水が薄膜状に拡がる状態が維持される。
【効果】 pF2.7〜4.2のpF域で水を保持する第1毛管部を備えるので、内部に保持した水を表面に適切に供給でき、優れた表面温度上昇抑制効果を発揮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は保水性セメント成形体に関し、特にたとえば、供給された水を内部に吸収して保持し、表面から蒸発させる、保水性セメント成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒートアイランド現象などによる市街地の温度上昇が問題となっている。この現象を緩和するための対策の一例として、建物の外装材や道路の舗装材などに、表面温度の上昇を抑制する効果を有する保水性成形体を用いる対策が実施されている。このような保水性成形体は、内部に吸収して保持した水を表面から蒸発させることによって、表面温度の上昇を抑制している。
【0003】
特許文献1には、従来の保水性成形体の一例が開示される。特許文献1の技術は、保水性コンクリート固化体であって、軽量骨材の微細連続空隙が表面に連通していることを特徴とするものである。特許文献1の技術では、製造時に、軽量骨材の空隙の内部に炭酸ガスを多量に含む水溶液を含ませておき、炭酸ガスの放出によってセメントペースト(セメントゲル)に通孔を開けることにより、軽量骨材の微細連続空隙を表面に連通させている。
【特許文献1】特開2001−158676号公報 [C04B 38/08]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、炭酸ガスの放出によってセメントペーストに通孔を開けているので、表面に連通する通孔の径が大きくなってしまう。通孔の径が大きいと、通孔内の水が受ける重力の影響が大きくなるため、表面への水の供給が遅くなる上、表面に水が膜状に広がり難くなる。このため、特許文献1の技術では、表面からの水の蒸発量が少なくなってしまい、表面温度上昇抑制効果を適切に発揮できない。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、保水性セメント成形体を提供することである。
【0006】
この発明の他の目的は、表面温度上昇抑制効果に優れる、保水性セメント成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明などは、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、この発明を何ら限定するものではない。
【0008】
第1の発明は、多孔質体を含む保水性セメント成形体であって、表面と内部とを連通し、pF2.7〜4.2のpF域で水を保持する第1毛管部を備える、保水性セメント成形体である。
【0009】
第1の発明では、保水性セメント成形体(10)は、多孔質体(14)を含み、内部に吸収して保持した水を表面(12)から蒸発させることによって、表面温度の上昇を抑制する。保水性セメント成形体内には、表面で開口し、pF2.7〜4.2のpF域で水を保持する第1毛管部が形成される。pF2.7〜4.2のpF域で毛管に保持される水、つまり第1毛管部に保持される水は、適度な力で保持されるので、表面で拡がり易く、かつ表面への供給も素早く行われる。
【0010】
第1の発明によれば、pF2.7〜4.2のpF域で水を保持する第1毛管部を備えるので、内部に保持した水を表面に適切に供給でき、優れた表面温度上昇抑制効果を発揮できる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明に従属し、第1毛管部は、体積含水率で15%以上の水を保持可能である。
【0012】
第2の発明では、保水性セメント成形体(10)の第1毛管部は、体積含水率で15%以上の水を保持可能である。pF2.7〜4.2のpF域で多くの水を保持することにより、表面温度上昇抑制効果を長時間に亘って発揮できる。
【0013】
第3の発明は、第1または第2の発明に従属し、多孔質体は、pF2.7〜4.2のpF域で水を保持する空隙を有する。
【0014】
第3の発明では、pF2.7〜4.2のpF域で水を保持する空隙(20)を有する多孔質体(14)を用いる。これにより、保水性セメント成形体(10)内に、より多くの第1毛管部を形成できる。
【0015】
第4の発明は、第1ないし第3の発明のいずれかに従属し、多孔質体は、ケイ酸カルシウム保温材の廃材を含む。
【0016】
第4の発明では、多孔質体(14)として、ケイ酸カルシウム保温材の廃材を用いる。
【0017】
第4の発明によれば、従来埋め立て処分等されていたケイ酸カルシウム保温材の廃材を有効利用でき、処分費用や処分場の確保などの埋め立て処分に伴う問題を解決できる。
【0018】
第5の発明は、第1ないし第4の発明のいずれかに従属し、表面と内部とを連通し、pF4.2〜5.5のpF域で水を保持する第2毛管部をさらに備える。
【0019】
第5の発明では、保水性セメント成形体(10)の内部には、表面(12)で開口し、pF4.2〜5.5のpF域で水を保持する第2毛管部が形成される。pF4.2より高いpF域で毛管に保持される水は、摩擦力などにより毛管内を移動し難いが、多くの第2毛管部を保水性セメント成形体内に形成することによって、保水性セメント成形体は、表面温度上昇抑制効果を発揮できる。
【0020】
第5の発明によれば、第1毛管部内に保持した水が無くなった後も、表面から水分を蒸発させることができるので、長時間に亘って表面温度上昇抑制効果を発揮できる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、pF2.7〜4.2のpF域で水を保持する第1毛管部を備えるので、内部に保持した水を表面に適切に供給でき、優れた表面温度上昇抑制効果を発揮できる。
【0022】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1を参照して、この発明の一実施例である保水性セメント成形体10(以下、単に「成形体10」という。)は、建物の外壁材、屋根材、外装材および被覆材、ならびに道路や公園などの舗装材として用いられ、内部に吸収して保持した水を表面12から蒸発させることによって、表面温度の上昇を抑制する。成形体10は、特に、従来のタイルやレンガの代替物として好適に利用され、たとえば建物の外壁に取り付けられることによって、建物を直接的に冷却する。
【0024】
詳細は後述するように、成形体10は、セメント、多孔質体14および水を混合し、セメントを硬化させることによって、使用用途に応じた所定の形状および寸法(たとえば、縦30cm、横30cm、厚み3cmの板状体)に製造される。成形体10は、セメントを硬化させたセメントゲル16の内部および表面に多孔質体14が分散配置される構造を有し、成形体10の内部には、表面12に連通して開口する無数の毛管が形成される。この無数の毛管は、多孔質体14の内部、隣接する多孔質体14の間、多孔質体14とセメントゲル16との間、およびセメントゲル16の内部などに形成される空隙、或いはこれらが互いに連続して形成される空隙であり、pF2.7〜4.2のpF域で水分を保持する第1毛管部と、pF4.2〜5.5のpF域で水分を保持する第2毛管部とを含む。
【0025】
ここで、pF値とは、毛管が水を吸着保持している力の強さ(水分ポテンシャル)を水柱圧(水柱高さ)で表し、その絶対値を常用対数で表したものをいう。pF値は、土壌の含水状態を表す指標値として知られるが、この実施例では、成形体10に保持される水が、表面蒸発に有効に利用されるものであるかどうかを示すための指標値として用いている。
【0026】
なお、図1は、成形体10の断面構造を分かりやすく示すための模式図であり、多孔質体14および毛管の数、大きさ、形状および配置などを厳密に示すものではない。
【0027】
成形体10に用いるセメントには、各種セメントを利用でき、無機質セメントを利用してもよいし、合成樹脂などの有機質セメントを利用してもよい。無機質セメントとしては、たとえば、普通ポルトランドセメント或いはアルミナセメントを好適に用いることができる。普通ポルトランドセメントは、広く普及しているため入手し易く、安価であるため経済性に優れる上、これを用いて形成した成形体10は、白色または淡色になるため光の表面反射率が高く、日射による表面温度上昇が発生しにくい。また、アルミナセメントを用いて成形体10を形成すれば、緻密な組成を作ることができるので、細い毛管を形成し易い上、耐食性、耐寒性および耐熱性などに優れる。また、無機質セメントを硬化させたセメントゲル16は、親水性を有するため、水の付着力が大きい。このため、毛管内を水が移動し易く、成形体10の表面12上に水が拡がり易いので、無機質セメントは、成形体10の形成に適している。
【0028】
なお、成形体10には、単独のセメントを用いることもできるし、複数のセメントを混合して用いることもできる。また、セメントに添加剤を配合することもでき、たとえば無機質セメントに骨材を配合して、コンクリート或いはモルタルとすることもできる。さらに、無機質セメントを焼成などして、セラミックとすることもできる。
【0029】
多孔質体14は、その内部に多数の微細な空隙(第1空隙20)を有する粒状体である。多孔質体14の粒径は特に限定されないが、0.5mm〜2.0mmが好ましく、なかでも1.0mm程度に粒径を揃えたものが好ましい。粒径が大きすぎると、成形体10の強度が低下するからである。また、粒径を揃えないと、粒径の小さな多孔質体14が近接する多孔質体14同士の間隙を埋めてしまったり、多孔質体14の配置の偏りが大きくなってしまったりして、後述する第2空隙22が適切に形成されない恐れがあるからである。
【0030】
また、多孔質体14の第1空隙20の径(断面積)の大きさは、第2空隙22の径と同程度の大きさであることが好ましく、第1空隙20は、pF2.7〜4.2のpF域で水分を保持する毛管であることが好ましい。
【0031】
具体的には、多孔質体14として、ケイ酸カルシウム保温材、ロックウール保温材、珪藻土焼成粒、ゼオライト、泥炭、木炭、バーミキュライト、ベントナイト、パーライト、および活性炭類などを利用できる。また、有機系或いは無機系の繊維を略球形状に丸めたものを利用することもできる。
【0032】
以下には、成形体10の製造方法について説明する。先ず、所定量の多孔質体14とセメントとを乾燥状態のまま空練りして混合し、その後、水を加えて練り上げる。次に、この混練した混合物を型枠に投入して表面(上面)を鏝で均した後、混練時に混入した空気を抜くために振動を与え、表面に浮き上がる気泡を取り除く。続いて、高湿度に保った室内で24時間湿潤養生した後型枠を外し、さらに室内で28日間気中養生することによって、成形体10が得られる。
【0033】
このような成形体10の製造において、セメントと多孔質体14との混合物に加えた水の一部は、セメントの硬化に利用され、他の一部は、多孔質体14の第1空隙20に吸収されて保持される。そして、養生中、つまりセメントが硬化して硬化物を形成する際には、多孔質体14の第1空隙20内の水が流れ出て、多孔質体14の周囲を伝って、或いはセメントゲル16の内部を通って硬化物の表面(上面)から外部に排出される。多孔質体14の周囲を伝って水が排出されることにより、多孔質体14とセメントゲル16との間、或いは隣接する多孔質体14同士の間には第2空隙22が形成される。この第2空隙22は、隣接する多孔質体14の第1空隙20や他の第2空隙22と適宜合流し、表面12に連通する。一方、セメントゲル16の内部を通って水が排出されることによって、セメントゲル16の内部には、多孔質体14から表面12に向かって延びる無数の第3空隙24が形成される。この第3空隙24も、他の各空隙20,22,24と適宜合流し、表面12に連通する。なお、第2空隙22は、多孔質体14の周囲に沿って形成され、他の第2空隙22と合流し易いので、幅広の断面を有するようになる。このため、第2空隙22の径(断面積)の大きさは、第3空隙24の径より大きくなる。
【0034】
これらの第1空隙20、第2空隙22および第3空隙24は、成形体10の内部と表面12とを連通する無数の毛管を形成する。この中でも、第1空隙20と第2空隙22とによって形成される毛管は、主に第1毛管部として機能する。具体的には、多孔質体14の一部が表面12に露出することによって第1空隙20或いは第2空隙22が直接表面12に連通(開口)する毛管、およびその毛管に他の第1空隙20や第2空隙22が連続して形成される毛管などは、第1毛管部となる。また、第3空隙24を介して表面12に連通する毛管は、主に第2毛管部として機能する。具体的には、表面12に連通する第3空隙24に第1空隙20や第2空隙22が連続して形成される毛管などは、第2毛管部となる。
【0035】
ただし、第1空隙20および第2空隙22の中でも、その径が小さい空隙、たとえば第1空隙20の内部にセメントゲル16が入り込んでその断面積が小さくなった空隙は、第2毛管部を形成する場合もある。また、第3空隙24の中でも、その径が大きい空隙、たとえば第3空隙24同士が合流してその断面積が大きくなった空隙は、第1毛管部を形成する場合もある。
【0036】
なお、セメントと多孔質体14とを混合する割合は、セメントおよび多孔質体14の種類や、成形体10の使用用途および要求性能などに基づいて適宜決定されるが、体積比(セメント:多孔質体14)で、2:8〜6:4の範囲内であることが望ましい。これは、セメントの割合が少なすぎると、一定の形にならないため成形体10を製造できず、セメントの割合が多すぎると、成形体10の特徴の1つである高保水性を適切に発揮できない場合があるからである。
【0037】
また、上述したように、成形体10の製造時に加える水は、セメントの硬化に利用されると共に、多孔質体14の内部(第1空隙20)に一旦保持されて、第2空隙22および第3空隙24の形成に利用される。したがって、製造時に加える水の量は、通常のコンクリートやモルタル等を作成するときに加える水の量よりも多く、成形体10を製造する際の水/セメント比は高くなる。
【0038】
このような成形体10では、表面12に水が供給されると、供給された水は、毛細管現象および重力などにより、表面12に形成される開口から成形体10内の各空隙20,22,24に吸収される。成形体10内に吸収された水は、毛細管現象および重力などにより、各空隙20,22,24内を順次移動して成形体10全体に浸透し、各空隙20,22,24内で保持される。
【0039】
そして、水を保持した成形体10の表面12からは、周囲の環境状況に応じて水が適宜蒸発する。特に、日射を受ける等してその温度が上昇すると、表面12に存在する水は活発に蒸発する。このとき、各間隙20,22,24の各開口付近にある水が蒸発すると、蒸発した水の近傍に存在する各間隙20,22,24に保持された水は、分子間力や毛細管現象により吸い上げられて、各開口から表面12に出て拡がる。また、表面12近傍に保持された水が表面12へ移動するに伴い、成形体10のさらに内部に保持された水は、毛細管現象により順次吸い上げられて、各間隙20,22,24を適宜通って各開口から表面12に出る。つまり、表面12における水の蒸発に伴い、成形体10内の水は、各間隙20,22,24を通って表面12に順次供給され、表面12から順次蒸発する。
【0040】
ここで、毛管(空隙)の径が大きい場合、つまり低pF域で水を保持する毛管の場合には、毛管に保持された水は、重力による下向きに働く力の影響を強く受けるため、表面への水の移動が遅くなると共に、表面で水が拡がり難い。一方、毛管の径が小さい場合、つまり高pF域で水を保持する毛管の場合には、毛管に保持された水は、摩擦力などの影響を強く受けるため、水が移動し難く、表面で水が拡がり難い。つまり、水を保持するpF域が高すぎても低すぎても、1つの毛管の開口から表面に出て拡がる水の面積は狭くなるため、表面全体に薄膜状に拡がる水の層を適切に形成できず、また、表面で水が蒸発したときに表面に対して水を素早く補給できない。
【0041】
そこで、この発明者らは、表面全体に薄膜状に拡がる水の層を形成することができ、かつ表面から水が蒸発すると表面に水が素早く供給される成形体10の構造を鋭意検討した結果、pF2.7〜4.2のpF域で水を保持する毛管(第1毛管部)を成形体10に形成するとよいことに想到した。
【0042】
pF2.7〜4.2のpF域で水を保持する第1毛管部は、上述のように、成形体10を製造するときに、セメントの硬化に必要な量よりも多くの水を加え、多孔質体14に保持させた水の作用で空隙を形成することにより、形成できる。また、pF2.7〜4.2のpF域で水分を保持する無数の空隙を有する多孔質体14を選択して用いることによって、より多くの第1毛管部を成形体10に形成することができる。
【0043】
上述のように、pF2.7〜4.2のpF域で水を保持する第1毛管部は、適度な力で水を保持するので、その開口付近では水が薄膜状に拡がって水の蒸発面積が広くなり、かつ表面12から水が蒸発すると素早く表面12に水が供給される。つまり、内部に保持した水を表面12に適切に供給できる。これにより、成形体10では、表面12全体に水が薄膜状に拡がっている状態が維持されるので、表面12からの水の蒸発量は多くなり、水の蒸発速度は速くなる。したがって、成形体10は、優れた表面温度上昇抑制効果を発揮できる。また、第1毛管部は、適度な力で水を保持するので、供給された水を吸収する際にも、素早く水を吸収でき、成形体10は吸水性に優れる。
【0044】
以下には、成形体10の評価実験の結果を示す。この評価実験の成形体10については、セメントには、普通ポルトランドセメント(麻生ラファージュセメント株式会社製)を用い、多孔質体14には、ケイ酸カルシウム保温材の廃材を、切断機(日立工機株式会社製クロスカットソー,C7RSH)を用いて粒径1.0mm程度に粉砕した粒状物を用いた。また、多孔質体14の配合比率を変えた4種の成形体10、つまり実施例1−4を用意し、実施例1−4のそれぞれについて評価実験を行った。各実施例の多孔質体:セメントの比率は、体積比で、実施例1が65:35であり、実施例2が70:30であり、実施例3が75:25であり、実施例4が80:20である。
【0045】
なお、ケイ酸カルシウム保温材は、火力発電所の配管設備などに使用される保温材であり、配管設備の定期点検時などには、大量の廃材が発生する。従来、ケイ酸カルシウム保温材の廃材は、産業廃棄物として埋め立て処分されているが、このように成形体10の多孔質体14として有効利用すれば、埋め立て処分に伴う問題(たとえば処分費用や処分場の確保)を解決できる。図2には、ケイ酸カルシウム保温材のpF値と体積含水率との関係(pF-水分曲線)を示す。各pF値における体積含水率の測定は、後述する成形体10についての測定と同様に行った。図2から分かるように、ケイ酸カルシウム保温材は、pF2.7〜4.2のpF域で水を保持する多くの空隙を有しており、特に、pF3.0〜4.0のpF域には、体積含水率で約50%の水を保持できる。
【0046】
図3には、実施例1−4のpF-水分曲線を示す。各pF値における体積含水率の測定は、「土壌標準分析・測定法(土壌標準分析法・測定委員会編集,日本土壌肥料学会監修,1986年度版)」を参照して行った。具体的には、pF0は減圧飽和法によって、pF1.5は砂柱法によって、pF1.8〜3.0は加圧板法によって、pF3.8〜4.2は遠心法によって、pF7は加熱減量法によってそれぞれ測定した。なお、各pF値の体積含水率を測定する際には、各実施例の表面12が下側になるように分析装置に配置した。これは、成形体10が表面12から水を蒸発させるものであるため、表面12からの水の排出の様子を知る必要があるからである。
【0047】
図3に示すように、各実施例1−4において、pF1.8における体積含水率は65〜80%となっている。一般的に、pF1.8より低いpF域の水は、重力水として成形体から自然と流れ落ち、pF1.8以上のpF域の水は、毛管水として成形体内に保持されることが知られているので、各実施例1−4の成形体10はいずれも、非常に優れた保水性を有するといえる。
【0048】
また、実施例1−4のいずれにおいても、pF2.7までは体積含水率があまり変化せず、pF2.7より高いpF域で体積含水率が急激に減少する。このことから、各実施例1−4では、pF2.7以上のpF域で多くの水を保持していることがわかる。また、pF2.7〜4.2のpF域での含水量は、多孔質体14の配合比率が増すに従い大きくなる傾向にあり、体積含水率で、実施例1は17.8%、実施例2は19.9%、実施例3は24.4%、実施例4は29.8%もの水を、pF2.7〜4.2のpF域で保持している。また、実施例1−4のいずれにおいても、pF4.2以上の高pF域に、45〜50%もの水を保持している。
【0049】
さらに、pF3.0とpF3.8との間で、体積含水率と多孔質体14の配合比率との関係性が変化している。つまり、pF3.0までのpF域では、多孔質体14の配合比率が増すに従って体積含水率は大きくなるが、pF3.8より高いpF域では、多孔質体14の配合比率が増すに従って体積含水率は小さくなる。これは、高pF域になるに従い、セメントゲル16由来の毛管が水分保持に大きく関与するようになることを示唆している。
【0050】
図4−8には、実施例1−4の表面温度上昇抑制効果を調べた試験結果を示す。この試験(水分蒸発能力試験)は、インターロッキング・ブロック協会の規定した試験方法に準じて行い、空調機によって25℃の恒温状態に保った室内で行った。供試体としては、縦30cm、横30cm、厚さ3cmの板状体に形成した実施例1−4の成形体10を用いた。また、比較例として、実施例1−4と同様の形状に作成した通常コンクリート成形体(比較例1)、および市販品であるセキスイエクステリア株式会社製のエコテリアセラミックタイル(比較例2)を用いた。
【0051】
具体的な水分蒸発能力試験の試験方法を以下に示す。先ず、供試体を25℃の水に2時間30分浸漬し、供試体に水を十分に保持させた。次に、表面(上面)は大気に開放し、側面および底面は厚さ30mmの発泡プラスチック断熱材で覆った状態で、500Wハロゲン電球を用い、照射強度650W/m2の光を表面に照射した。そして、温湿度ロガー(日置電気株式会社製)を用いてこのときの表面温度および裏面温度の経時変化を計測し、計量器を用いて水の蒸発に伴う重量変化を測定した。
【0052】
図4は、実施例1−4および比較例1,2の表面温度の経時変化を示すグラフである。図4に示すように、比較例1では、試験開始直後に表面温度が急激に上昇し、約56℃でほぼ一定となった。また、比較例2では、比較例1と比較して表面温度の上昇は抑制されるものの、比較例1と同様に試験開始直後に表面温度が上昇し、約48℃でほぼ一定となった。一方、実施例1−4ではいずれも、試験開始から1000分以上の間、約30℃の表面温度を維持した後、徐々に表面温度は上昇し、約40℃でほぼ一定となった。つまり、実施例1−4では、比較例1と比較して約25℃低い温度を維持する「低温維持域」と、この低温維持域に比べると高い温度ではあるが、温度上昇が緩和されて比較例1と比較して約15℃低い温度となる「温度上昇緩和域」と、低温維持域から温度上昇緩和域に移行する「移行域」とが確認される。この結果、実施例1−4はいずれも、非常に優れた表面温度上昇抑制効果を長時間に亘って発揮できることがわかる。
【0053】
図5−8は、実施例1−4のそれぞれについて、表面温度、裏面温度および重量の経時変化を示すグラフである。上述のように、実施例1−4の表面温度のそれぞれは、低温維持域から移行域を経て温度上昇緩和域に至る。ここで、実施例1−4の重量変化をみてみると、試験開始から一定時間は比較的直線的に重量は減少するが、その後変曲点が訪れ、重量変化の傾きが緩やかになる(つまり水分の蒸発速度が遅くなる)。この変曲点は、移行域の開始点と概ね一致する。
【0054】
また、実施例1−4の低温維持域においては、試験開始直後に表面温度が急激に上昇し、その後すぐに変化点を迎えて徐々に温度が低下するといった経過をたどる。図3に示したpF-水分曲線を用いて、この変化点における実施例1−4の体積含水率から対応するpF値を求めると、この変化点における実施例1−4のpF値は、いずれもpF2.8程度であった。これは、上述したように、pF2.7までのpF域で毛管に保持される水は、重力による下向きに働く力の影響を強く受けるため、表面12への移動が遅くなり、蒸発により失われる水の表面12への補給にロスが生じるからであると思われる。また、実施例1−4の低温維持域の終了点、つまり移行域の開始点のpF値を同様に求めると、いずれもpF4.2程度であった。これらから、低温維持域では、pF2.7〜4.2のpF域で保持される水、つまり第1毛管部内に保持された水が利用されていることがわかる。
【0055】
また、低温維持域は、保温材の配合比率が高くなるに従い、つまりpF2.7〜4.2のpF域で保持される水分量が多くなるに従い(図3参照)、その維持時間が長くなる。つまり、pF2.7〜4.2のpF域で保持される水分量がより多い成形体10を製造すれば、低温維持域の維持時間をより長くすることができる。
【0056】
また、実施例1−4の成形体10は、温度上昇緩和域を有している。図3に示したpF-水分曲線を用いて、温度上昇緩和域で利用される水のpF域を求めると、おおよそpF4.2〜5.5のpF域で保持される水、つまり第2毛管部に保持された水が利用されていることがわかった。上述したように、pF4.2より高いpF域で保持される水は、摩擦力などの影響を強く受けるため、表面12へ移動し難い。しかしながら、実施例1−4の成形体10では、非常に多くの第2毛管部が形成されるため、1つの第2毛管部から表面12に供給される水分量は小さいながらも、温度上昇緩和域における優れた表面温度上昇抑制効果を発揮する。このような第2毛管部を備えることにより、成形体10は、第1毛管部に保持した水が無くなった後も、長時間に亘って優れた表面温度上昇抑制効果を発揮できる。なお、図示は省略するが、実施例2の成形体10についてさらに長時間の水分蒸発能力試験を行ったところ、試験開始後60時間以上経過した後も、温度上昇緩和域が維持されることが確認された。
【0057】
さらに、図5−8に示すように、実施例1−4では、表面温度と裏面温度とに差が生じている。このことから、実施例1−4の成形体10は、優れた断熱性を有することがわかる。また、時間が経過して内部に保持する水分が減少するに伴い、また、多孔質体14の配合比率が高くなるに従い、成形体10の断熱性が上昇している。これは、多孔質体14として用いたケイ酸カルシウム保温材自体が高い断熱性を示すことに起因すると思われる。なお、気乾状態での実施例1−4の熱伝導率(kcal/m・h・℃)は、実施例1が0.276、実施例2が0.213、実施例3が0.199、実施例4が0.175であり、通常コンクリートの2.30と比較して、非常に低い熱伝導率を有するといえる。
【0058】
なお、上述の実施例では、養生前に表面12を鏝で均した後、表面12をそのままの状態にして製造したものを成形体10とした。しかし、他の実施例として、成形体10には、その表面12を切削することにより、表面12全体に亘る多数の微細な凹凸を形成することもできる。この凹凸は、一方向に線状に延び、その直交方向に傾斜する平坦面が繰り返される溝形や波形などに形成するとよく、凹凸の深さおよびピッチは、たとえば1〜2mmに設定するとよい。このような凹凸を表面12に形成することにより、表面12の面積が増加すると共に、表面12に対する水滴のみかけの接触角が小さくなり、水が表面12に広くかつ薄く拡がり易くなる。
【0059】
また、成形体10を製造する際には、表面12に対して圧力を加えるようにしてもよい。この圧力は、圧力を加えた面に近いほど大きく作用するため、表面12に近い第2および第3空隙22,24ほど圧縮され、成形体10の裏面から表面12に向かうほど、第2および第3空隙22,24の径(太さ)は徐々に細くなる。毛管内に保持した水を毛細管現象により吸い上げる力は、毛管が細くなるほど大きくなるので、毛管内に保持された水分は、毛管の細い方に向かって移動する。つまり、成形体10の裏面から表面12に向かうに従い毛管の太さを徐々に細くしておけば、毛管内の水分は、成形体10の表面12向かって移動し易くなり、表面12からの水分の蒸発が促進される。
【0060】
なお、成形体10を製造するときに圧力を加えると、流動性の高いセメントが上方へ移動し、硬化物の表面近傍に占めるセメントゲル16の割合は高くなるが、上述のように硬化物の表面近傍を切削するようにすれば、多数の毛管の開口を、成形体10の表面12に確実に形成できる。また、混合物に加える圧力を適宜調節し、圧縮脱水時に移動する水の流れ方向および流量を制御することによって、毛管の口径および本数を制御できる。
【0061】
また、上述の実施例では、成形体10を製造するときに、セメントと多孔質体14と空練りした後に水を加えるようにしたが、予め多孔質体14に水を吸収させておき、水を含む多孔質体14とセメントと水とを混練するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】この発明の一実施例の保水性セメント成形体の断面構造を示す模式図である。
【図2】保水性セメント成形体に用いる多孔質体(ケイ酸カルシウム保温材)のpF-水分曲線を示すグラフである。
【図3】保水性セメント成形体の実施例1−4のpF-水分曲線を示すグラフである。
【図4】保水性セメント成形体の実施例1−4および比較例1,2の水分蒸発能力試験の結果を示すグラフである。
【図5】保水性セメント成形体の実施例1の水分蒸発能力試験の結果を示すグラフである。
【図6】保水性セメント成形体の実施例2の水分蒸発能力試験の結果を示すグラフである。
【図7】保水性セメント成形体の実施例3の水分蒸発能力試験の結果を示すグラフである。
【図8】保水性セメント成形体の実施例4の水分蒸発能力試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
10 …保水性セメント成形体
12 …表面
14 …多孔質体
16 …セメントゲル
20 …第1空隙
22 …第2空隙
24 …第3空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体を含む保水性セメント成形体であって、
表面と内部とを連通し、pF2.7〜4.2のpF域で水を保持する第1毛管部を備える、保水性セメント成形体。
【請求項2】
前記第1毛管部は、体積含水率で15%以上の水を保持可能である、請求項1記載の保水性セメント成形体。
【請求項3】
前記多孔質体は、pF2.7〜4.2のpF域で水を保持する空隙を有する、請求項1または2記載の保水性セメント成形体。
【請求項4】
前記多孔質体は、ケイ酸カルシウム保温材の廃材を含む、請求項1ないし3のいずれかに記載の保水性セメント成形体。請求書
【請求項5】
表面と内部とを連通し、pF4.2〜5.5のpF域で水を保持する第2毛管部をさらに備える、請求項1ないし4のいずれかに記載の保水性セメント成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−30793(P2010−30793A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191706(P2008−191706)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(505407575)株式会社森生テクノ (4)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】