説明

保温具、保温具の製造方法及び使用方法

【課題】 安全性の高い保温具を提供する。
【解決手段】 蓄熱材に蓄積した熱の放散により、保温対象を温める保温具であって、主成分が無極性分子から成る蓄熱材と、その蓄熱材を真空包装する内袋と、その内袋を包容し、開閉可能な開口部を有する外袋と、主成分が極性分子からなる液体を保持可能な液体保持部材と、を備え、内袋と外袋の間に液体保持部材を配置する保温具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱材に蓄積した熱の放散により保温対象を温める保温具、その保温具の製造方法及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子レンジを用いて、内部に含む蓄熱材を誘電加熱することにより温めて使用する保温具は広く知られている。誘電加熱は短時間で蓄熱材を加熱する有効な方法であるが、蓄熱材自体が過度に加熱されることにより、蓄熱材を含む容器が破裂し、蓄熱材が飛散する場合があり、安全上問題となっていた。これらの問題を解決するために、以下の先行技術が挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1では、万一過加熱した場合であっても内部の蓄熱物質の飛散を防止することを目的として、樹脂フィルムからなる表シートと裏シートの4辺の縁部を互いに接着し、縁部にシール部を有する外袋を製袋し、外袋の内部に、ゲル状の蓄熱物質が液密に封入された内袋を封入し、外袋のシール部の一部に、非接着部を設けて外袋の内部と外部を連通する通気部を形成する保温具が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、マイクロ波加熱を行う際に、蓄熱材を構成する結晶水が容器外に蒸散を防ぐための厚い容器を不要とすることを目的として、加熱により融解する蓄熱材を内蔵した第一の容器と、この第一の容器を覆う第二の容器とからなり、第二の容器に水を封入した蓄熱装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献3では、蓄熱材が内蔵された可撓性を有する蓄熱パックを短時間で均一に誘電加熱するための安全な加熱容器及びその加熱方法を提供することを目的として、蓄熱パック及び水分保持材を収納密閉でき、誘電加熱可能な耐熱性材料で形成されてなることを特徴とする蓄熱パック用加熱容器と、上記の蓄熱パック用加熱容器に、蓄熱パック及び水を入れ、これを密閉後、蓄熱パックを誘電加熱することを特徴とする蓄熱パックの加熱方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−113032号公報
【特許文献2】特開昭63−290346号公報
【特許文献3】特開平10−292991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の先行技術においては、電子レンジによるマイクロ波が、保温具に含まれる蓄熱材自体を加熱する構成となっている。そうすると、上記のような様々な工夫を行ったとしても、マイクロ波の出力や加熱時間の誤設定などにより、蓄熱材が過度に加熱されることは避けられない。その結果、保温具の使用者は、保温具の取り扱いに注意を要したり、最悪の場合、蓄熱材の気化等による内圧の上昇により容器が破裂したり、容器から蓄熱材が漏出あるいは飛散することになる。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、安全性の高い保温具を提供することである。すなわち、電子レンジの設定に関係なく、過度のマイクロ波を照射しても蓄熱材が過剰に加熱されることのない保温具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、蓄熱材に蓄積した熱の放散により、保温対象を温める保温具であって、主成分が無極性分子から成る前記蓄熱材と、その蓄熱材を真空包装する内袋と、その内袋を包容し、開閉可能な開口部を有する外袋と、主成分が極性分子からなる液体を保持可能な液体保持部材と、を備え、その内袋とその外袋の間にその液体保持部材を配置する保温具が提供される。
これによれば、蓄熱材自体を直接誘電加熱せず、液体保持部材が保持する液体を加熱することにより蓄熱材を間接的に加熱するので、蓄熱材自体が過剰に加熱されることがなく、安全性の高い保温具を提供することができる。すなわち、電子レンジの設定に関係なく、過度のマイクロ波を照射しても蓄熱材が過剰に加熱されることのない保温具を提供することができる。また、真空包装することで、そもそもエア溜りを内袋から除去しているので、内袋に気体が存在せず、加熱時に大きな膨張を生ずることがなく、蓄熱材を収容する内袋の破裂を防止することができる。その結果、蓄熱材を硬く強固なブロー容器に収容する必要がなくなり、保温具に適した柔軟な袋に収容することができる。さらに、内袋に空気が存在しないので、酸化による蓄熱材の劣化を防止することができる。また、製造上の観点からは、内袋を真空にする工程を経ることにより、内袋の不良品を容易に判別することができる。
【0010】
さらに、蓄熱材の融点又は凝固点が、常温より高くかつ前記液体の沸点より低いことを特徴としてもよい。
これによれば、蓄熱材自体は、液体保持部材が保持する液体の沸点以上に加熱されることが無く、安全性の高い保温具を提供することができる。また、蓄熱材の潜熱により、一定の温度、即ち、凝固点付近での温度が長続きするので、保温具として優れた性能を有することができる。また、製造時に蓄熱材が液体である場合は、内袋のシール部にその液体が付着しシール不良となることがあるが、製造時は常温なので固体の蓄熱材を取り扱うこととなり、シール不良を防止でき、内袋に定量収納するにも、液体のような注意がいらず、吹きこぼれの心配がなく、作業場が清潔維持できるので、製造上の取り扱いが容易となる。また、製造時に常温固体の蓄熱材は、直方体の形をしているので、容易に真空包装が可能である。さらに、出荷前に、一旦保温具を加熱し蓄熱材を液体とし、再び常温に戻すことにより、蓄熱材が内袋の形状を有する固体となるので、薄くてコンパクトな保温具を提供することができる。
【0011】
さらに、外袋は、内袋を収容する本体部と、その本体部と連通した開口部とを有し、その外袋の開口部の内径は、その内袋の外径より小さく、その外袋の開口部の外径は、その本体部の外径より小さいことを特徴としてもよい。
これによれば、液体保持部材が保持する余分な液体を外袋から排出するために、外袋の開口部を下にしても、その開口部から内袋が落ちることがない。また、保温具を肌触りの良い包袋に収容して使用する場合でも、開口部のシール部を密封する際に外袋の開口部の外径と包袋の間に人の指が入るので手により閉め易くなり、確実に密封できるようになり、使用時の保温具からの液体(水)漏れを防止することができる。
【0012】
さらに、開口部の外径を形成する外縁は、本体部の外径を形成する外縁より、その本体部の中心側にあることを特徴としてもよい。
これによれば、包袋に収容して使用する場合でも、開口部のシール部を密封する際に外袋の開口部の外径と包袋の間に人の指が入るので手により閉め易くなり、より確実に密封できるようになるので、使用時の保温具からの液体(水)漏れを防止することができる。
【0013】
別の観点によれば、上記課題を解決するために、蓄熱材に蓄積した熱の放散により、保温対象を温める保温具の製造方法であって、常温で固体である蓄熱材を、樹脂製の内袋に収納した後、真空包装することによりその内袋を密閉し、その内袋を液体保持部材で覆い又は前記内袋を液体保持部材で挟み、開口部で開閉可能な外袋にその内袋とその液体保持部材を収納してなる保温具の製造方法が提供される。
これによれば、常温で液体の蓄熱材や、常温で固体でも加熱により液体となった蓄熱材の袋体への充填に比べ、製造時の安全性確保が容易となり、また、手袋が不要となりシールのし易さも向上する等製造効率が向上する。また、製造時に蓄熱材が液体である場合は、内袋のシール部にその液体が付着しシール不良となることがあるが、製造時は常温なので固体の蓄熱材を取り扱うこととなり、シール不良を防止でき、内袋に定量収納するにも、液体のような注意がいらず、吹きこぼれの心配がなく、作業場が清潔維持できるので、製造上の取り扱いが容易となる。また、製造時に常温固体の蓄熱材は、直方体の形をしているので、容易に真空包装が可能である。
【0014】
さらに、内袋と液体保持部材を収納した外袋を加熱し、蓄熱材を溶融し、再び冷却し常温に戻すことを特徴としてもよい。
これによれば、出荷前に、一旦保温具を加熱し蓄熱材を液体とし、再び常温に戻すことにより、蓄熱材が内袋の形状を有する固体となるので、異形硬化を防ぎ見栄えが良く、薄くてコンパクトな保温具を提供することができる製造方法を提供できる。
【0015】
別の観点によれば、上記課題を解決するために、外袋に液体を注入し、液体保持部材に液体を保持させた後、その外袋の開口部を開口した状態で電子レンジに入れ、マイクロ波を照射することにより、その液体保持部材が保持する液体を加熱し、液体の熱により蓄熱材を溶融し潜熱を蓄熱した後、電子レンジより取り出し、その外袋の開口部を閉じ、保温具として使用する保温具の使用方法が提供される。
これによれば、蓄熱材は、間接的に加熱されるので過剰に加熱されることがなく、また、誘電加熱される液体を内に含む外袋の開口部は開口状態で加熱されるので、液体が気化したことにより生じた気体は、その開口部から外袋外へ放出されるので内圧が高くなることが無く、安全性の高い保温具を使用する方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、安全性の高い保温具を提供することができる。すなわち、電子レンジの設定に関係なく、過度のマイクロ波を照射しても蓄熱材が過剰に加熱されることのない保温具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る第一実施例を平面視した保温具を示す図。
【図2】本発明に係る第一実施例の保温具の中心断面簡略図。
【図3】本発明の保温具を加熱した後の温度変化を示す図。
【図4】本発明に係る第二実施例の外袋の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明について詳細に説明する。本発明は、蓄熱材に蓄積した熱の放散により、保温対象を温める保温具である。この保温具は、一般的に、一旦蓄熱材に顕熱や潜熱により蓄熱し、その蓄熱した顕熱や潜熱を伝導熱や放射熱の形で放散することにより、人や物等の保温対象を温めるものである。但し、本発明に係る保温具は、容器にお湯を注入したり、湯煎により加熱して使用する湯たんぽの類ではなく、電子レンジ等が発生させるマイクロ波等の電磁波を使用して蓄熱材に熱を蓄積させる保温具の一種である。
【0019】
本発明に係る保温具は、主成分が無極性分子から成る蓄熱材と、その蓄熱材を真空包装する内袋と、その内袋を包容し、開閉可能な開口部を有する外袋と、主成分が極性分子からなる液体を保持可能な液体保持部材とを備え、内袋と外袋の間に液体保持部材を配置する保温具である。
【0020】
本保温具における蓄熱材は主成分が無極性分子からなり、一方液体保持部材に保持される液体は主成分が極性分子からなる。無極性分子とは、分子内の結合に電気的な偏りがなく電気双極子をもたない分子のことであり、極性分子はその逆を意味する分子のことである。即ち、極性分子では、プラス・マイナスの極を持っていて、マイクロ波等の電磁波がこの分子を振動させることにより、摩擦熱が生じ、極性分子が構成する素材自体が発熱する(これを、誘電加熱と言う)。また、プラス・マイナスの電荷を帯びていない無極性分子は、電磁波の影響が少なく、加熱されにくい。
【0021】
なお、本願における主成分とは、構成成分の内およそ9割以上を占める成分をいう。但し、蓄熱材に多くの極性分子が含まれると昇温するので、なるべく多く(例えば99%以上)を無極性分子で構成されることが好ましく、100%が無極性分子で構成されること、即ち、蓄熱材は無極性分子からなることがより好ましい。また、同様に、液体に多くの無極性分子が含まれると昇温しにくいので、なるべく多くの(例えば99%以上)を極性分子で構成されることが好ましく、100%が極性分子で構成されること、即ち、液体は極性分子からなることがより好ましい。
【0022】
従って、本発明に係る保温具における蓄熱材は、誘電加熱により加熱され難く、液体は加熱され易い。蓄熱材は、電子レンジ等が発生させるマイクロ波の照射により、自己発熱せずまた自己発熱したとしてもその発熱量は極めてわずかなので、ほとんど昇温しない。逆に、液体保持部材が保持する液体は、電子レンジ等が発生させるマイクロ波の照射により、自己発熱し、液体を保持する液体保持部材もそれに伴い昇温する。本発明に係る保温具は、この対比を巧みに利用するものである。
【0023】
蓄熱材は、例えば、無極性分子から成る脂肪族炭化水素化合物やシリコン等が挙げられる。脂肪族炭化水素化合物の中でも、パラフィンは、化学的安定性が高くまた熱容量及び比熱が大きくて一旦加熱されると冷め難い性質を有しているので、好適である。また、パラフィンは、分子量によって融点又は凝固点を簡単に制御することができるので、保温対象により設定される保温具の使用温度範囲に合わせて蓄熱材の相転移のタイミングを設定し易い。なお、蓄熱材は、単一の材料で構成しても、複数の材料を組み合わせて構成してもよい。例えば、蓄熱材としてパラフィンを用いる場合、分子量の異なる複数のパラフィンを組み合わせて構成してもよい。
【0024】
内袋は、脂肪族炭化水素化合物やシリコン等の材料から構成される薄肉の袋状物である。この材料は、脂肪族炭化水素化合物の中でもポリエチレン(誘電率2.2〜2.4)やポリプロピレン(誘電率:2.0〜2.3)等のオレフィン系合成樹脂のフィルムが好適である。
【0025】
また、この材料の融点又はガラス転移点は、蓄熱材の融点及び液体の沸点より高く、誘電加熱による液体の沸点までの昇温によって溶融、変形しない耐熱性を有する必要がある。例えば、蓄熱材に融点が55°Cのパラフィン、液体に水を用いた場合、内袋の材料の融点又はガラス転移点は、100°Cより大きいものが選択され、より好ましくは耐熱性能を120°C以上にするとよい。
【0026】
内袋は、蓄熱材を真空包装するので、気密性・水密性を可能とする強度を備えた、超音波溶着可能な素材であり、例えばポリエチレンを素材とする場合は、少なくとも約0.7mm以上の肉厚を有する。また、内袋は、柔軟性を有しており、蓄熱材が液体である場合に曲げたり捻じったり等、ある程度の変形が可能であることが好ましい。
【0027】
外袋は、開閉可能な開口部を有すると共に、上記内袋を包容即ち収納し、内袋の材料と同様、脂肪族炭化水素化合物やシリコン等の材料から構成される薄肉の袋状物である。この材料は、脂肪族炭化水素化合物の中でもポリエチレン(誘電率2.2〜2.4)やポリプロピレン(誘電率:2.0〜2.3)等のオレフィン系合成樹脂のフィルムが好適である。
【0028】
また、この材料の融点又はガラス転移点は、蓄熱材の融点及び液体の沸点より高く、誘電加熱による液体の沸点までの昇温によって溶融、変形しない耐熱性を有する必要がある。例えば、蓄熱材に融点が55°Cのパラフィン、液体に水を用いた場合、内袋の材料の融点又はガラス転移点は、100°Cより大きいものが選択され、より好ましくは耐熱性能を120°C以上にするとよい。
【0029】
さらに、収容する液体保持部材が含む液体に対してマイクロ波等の電磁波が到達するように、構成材は、電磁波特にマイクロ波を反射せず、透過するものが好ましい。また、外袋は、柔軟性を有しており、蓄熱材が液体である場合に曲げたり捻じったり等、ある程度の変形が可能であることが好ましい。
【0030】
外袋は、誘電加熱前に液体を液体保持部材に供給するため、また、誘電加熱中液体保持部材から液体が気化した蒸気が放散するために開放し、保温具の使用時には閉鎖する、開閉可能な開口部を備える。開口部は、密封性があり、使用者が便利なように適宜構成される。具体的には、樹脂性ファスナーや、旭化成製ジップロック(登録商標)もしくは、スライド式ジッパーが付いているイージージッパー(登録商標)等が使用できる。
【0031】
液体保持部材は、主成分が極性分子からなる液体の表面張力により繊維の間に液体を吸収して保持することができ、また、誘電加熱により気化した液体を繊維の間から放散することができる。液体保持部材は、柔軟性、可撓性を有する素材からなり、例えば、スポンジ、フォームラバー、発泡体等の多孔質材料や、不織布、織布、紙等の繊維材料である。液体保持部材は、液体の保持量を調節し易いので、不織布が好ましい。不織布は、繊維の種類、繊維の径や目付量を調節することにより、保持する液体の量を簡単に調節できる。
【0032】
開口部から供給され液体保持部材に保持される液体は、主成分が極性分子からなる誘電率の高いものであり、マイクロ波の照射によって効率良く誘電加熱可能な常温で液状にあるものである。液体の誘電率は、ポリエチレングリコールと同等以上(誘電率:35)の誘電率を有しているものが好ましく、保温具の使用者の便宜を考慮すると、入手及び取り扱いが容易な水(誘電率:80)がより好ましい。なお、本願における「常温」とは、日常生活において、熱したり冷やしたりしない自然な温度のことである。
【0033】
なお、液体の誘電加熱により間接的に加熱されることを鑑みると、蓄熱材は、液体より誘電率が低い材料であればよいが、蓄熱材の誘電率は、液体が水(誘電率:80)やポリエチレングリコール(誘電率:35)である場合、それらに比べて少なくとも桁1つ小さい範囲が好ましいので、好ましくは3.5以下、より好ましくは2.5以下である。この程度であれば、誘電加熱によりほとんど昇温しない。
【0034】
本保温具は、主成分が無極性分子から成る蓄熱材を真空の状態で包装する内袋と、その内袋を収容する外袋と、主成分が極性分子からなる液体を吸収し保持することができる液体保持部材とを備える共に、液体保持部材は内袋と外袋の間に配置される保温具である。即ち、蓄熱材を含む内袋と液体保持部材とは少なくとも一部が接するように構成され、誘電加熱により昇温する液体を保持する液体保持部材から内袋内の蓄熱材へ熱が伝導される。好ましくは、蓄熱材が存在する部分にすべて液体保持部材が接触し、より好ましくは、液体保持部材が内袋全体を包むようにすると、蓄熱材への熱の伝導効率がよい。
【0035】
本保温具は、全体として、柔軟性、可撓性を有し、蓄熱材が液体保持部材に含まれる液体により加熱され液状となった場合には、保温対象に合わせて変形可能な形状追従性を有することが好ましい。
【0036】
本発明に係る保温具の使用の仕方を説明する。使用者は、上記保温具を使用する際、まず、外袋の開口部を開け、そこから液体(典型的には水)を注入し、液体保持部材に液体を吸収させて、保持させる。必要に応じて、注入しすぎた余分な液体を開口部から排出する。その後、外袋の開口部を開いた状態で電子レンジに入れ、マイクロ波を照射することにより、液体保持部材が保持する液体を加熱し、昇温させる。
【0037】
昇温した液体を含む液体保持部材は、内袋に接しているので、内袋を介して、液体の熱により蓄熱材を加熱し始める。加熱が進み、液体の温度が、蓄熱材の融点を超えた場合には、蓄熱材は融解し始め、さらに加熱を続けると、蓄熱材に潜熱を蓄積させる。仮に、蓄熱材が完全に溶融し、融点の温度を超えて加熱し続けた場合であっても、液体の沸点より高くなることはない。
【0038】
従って、蓄熱材自体を直接誘電加熱せず、液体保持部材が保持する液体を加熱することにより蓄熱材を間接的に加熱するので、蓄熱材自体が過剰に加熱されることがなく、また、誘電加熱される液体を内に含む外袋の開口部は開口状態で加熱されるので、液体が気化したことにより生じた気体は、その開口部から外袋外へ放出されるので内圧が高くなることが無く、安全性の高い保温具を提供することができる。すなわち、電子レンジの設定に関係なく、過度のマイクロ波を照射しても蓄熱材が過剰に加熱されることのない保温具を提供することができる。
なお、通常、電子レンジは、その使用に際して、マイクロ波の出力に応じた強弱と、出力時間を設定するが、本発明においては、従来の電子レンジで加熱する保温具に比べ、出力の強弱や出力時間の設定範囲が比較的広く、過度のマイクロ波を照射しても液体保持部材の液体が加熱されるにとどまり、蓄熱材が過剰に加熱されることはない。
【0039】
また、真空包装することで、そもそもエア溜りを内袋から除去しているので、内袋内に気体が存在せず、加熱時に大きな膨張を生ずることがなく、蓄熱材を収容する内袋の破裂を防止することができる。その結果、蓄熱材を硬く強固なブロー容器に収容する必要がなくなり、保温具に適した柔軟な袋に収容することができる。さらに、内袋に空気が存在しないので、酸化による蓄熱材の劣化を防止することができる。
【0040】
使用者は、その後、電子レンジでの加熱を終了し、電子レンジから保温具を取り出し、外袋の開口部を閉じ、保温具として使用する。好ましくは、さらに保温具(外袋)を覆い、出し入れ可能で、柔軟性、可撓性を有する素材等で作成された袋状の包袋に保温具を入れると、使用感が良くなる。さらに、外袋は加熱される液体保持部材が接しているので比較的高温になり易いが、包袋は、使用者が電子レンジから取り出す際に直接外袋を触らなくてもよくなる点でも、より安全性を高めることができるので好ましい。
【0041】
また、本保温具は、蓄熱材の融点又は凝固点が、常温より高くかつ液体の沸点より低いことが好ましい。
蓄熱材の実際の融点又は凝固点は、保温具の使用温度範囲に基づいて選択される。例えば、保温具の保温対象が人である場合、使用温度範囲は体温近傍の大体30°Cから60°Cの範囲である。そうすると、融点又は凝固点が大体30°Cから60°Cの範囲にある蓄熱材が選択されることとなる。この場合、保温継続性ややけど防止の観点から、蓄熱材の融点又は凝固点は55°C近傍が好ましい。
【0042】
また、保温具の保温対象が酒等の飲料である場合、使用温度範囲は60°Cから80°Cの範囲である。そうすると、融点又は凝固点が大体60°Cから80°Cの範囲にある蓄熱材が選択されることとなる。保温対象は様々なものが考えられ、特に限定されない。例えば、上述のように人を始め、飲料、食料、衣服、介護用品等である。
また、蓄熱材の沸点は、液体の沸点より大きいことが好ましい。例えば、液体に水を用いる場合は、蓄熱材の沸点は100°Cより大きいことが好ましい。
【0043】
蓄熱材の融点又は凝固点が常温より高いと、蓄熱材は常温において固体である。製造時に蓄熱材が液体である場合は、内袋のシール部にその液体が付着しシール不良となることがあるが、製造時は常温なので固体の蓄熱材を取り扱うこととなり、シール不良を防止でき、内袋に定量収納するにも、液体のような注意がいらず、吹きこぼれの心配がなく、作業場が清潔維持でき、製造上取り扱いが容易になる。また、製造時に常温固体の蓄熱材は、直方体の形をしているので、容易に真空包装が可能である。
【0044】
さらに、蓄熱材の融点又は凝固点が液体の沸点より低いと、保温具を誘電加熱により加熱すると蓄熱材が一旦溶融し、使用時には蓄熱材の潜熱により、一定の温度、即ち、凝固点付近での温度が長続きするので、保温具として優れた性能を有することができる。また、保温具を誘電加熱により加熱し続けても、蓄熱材自体は、液体保持部材が保持する液体の沸点以上に加熱されることが無く、安全性の高い保温具を提供することができる。さらに、出荷前に、一旦保温具を加熱し蓄熱材を液体とし、再び常温に戻すことにより、蓄熱材が内袋の形状を有する固体となるので、薄くてコンパクトな保温具を提供することができる。
【0045】
蓄熱材の融点又は凝固点が常温より高い場合、本発明に係る保温具は、固体である蓄熱材を、樹脂製の内袋に収納した後、真空包装するために内袋を超音波溶着により密閉し、内袋を液体保持部材で覆い又は内袋を液体保持部材で挟み、開口部で開閉可能な外袋に内袋と液体保持部材を収納することにより製造することができる。
【0046】
これによれば、常温で液体の蓄熱材や、常温で固体でも加熱により液体となった蓄熱材の袋体への充填に比べ、製造時の安全性確保が容易となり、また、手袋が不要となりシールのし易さも向上する等製造効率も向上する。また、製造時に蓄熱材が液体である場合は、内袋のシール部にその液体が付着しシール不良となることがあるが、製造時は常温なので固体の蓄熱材を取り扱うこととなり、シール不良を防止でき、内袋に定量収納するにも、液体のような注意がいらず、吹きこぼれの心配がなく、作業場が清潔維持でき、製造上取り扱いが容易になる。また、製造時に常温固体の蓄熱材は、直方体の形をしているので、容易に真空包装が可能である。また、製造上の観点からは、内袋を真空にする工程を経ることにより、内袋の不良品を容易に判別することができる。
【0047】
さらに、本発明に係る保温具は、内袋と液体保持部材を収納した外袋を加熱し、蓄熱材を溶融し、再び冷却し常温に戻すことにより製造することができる。
【0048】
これによれば、出荷前に、一旦保温具を加熱し蓄熱材を液体とし、再び常温に戻すことにより、蓄熱材が内袋の形状を有する固体となるので、異形硬化を防ぎ見栄えが良く、薄くてコンパクトな保温具を提供することができる製造方法を提供できる。
【0049】
<第一実施例>
以下では、図面を参照しながら、本発明に係る実施例について説明する。図1は、本発明に係る第一実施例における保温具10を示す。図中の(A)は保温具10の平面図、(B)は保温具10の正面図(開口部5の反対側から見た図)、(C)は真空包装する前の固形の蓄熱材1の平面図、(D)は固形の蓄熱材1の正面図、(E)は内袋2の平面図である。また、図2は、本発明に係る第一実施例における保温具10の中心断面簡略図である。蓄熱材の形状を変形し、蓄熱材と内袋と間に間隔を設けて表現した。
【0050】
保温具10は、常温で固体である蓄熱材1としての無極性分子からなるパラフィンと、パラフィンを真空包装する内袋2と、極性分子からなる水を保持することが可能であり、内袋2の表面と裏面全体及び開口部5と反対側の面に接触するように配置される液体保持部材3である不織布と、不織布を二つ折りにして両側を挟んだ内袋2を包容し、ジップロック(登録商標)により開閉可能な開口部5を有する外袋4とを備える。結果として、液体保持部材3の不織布は、内袋2と外袋4の間に配置される。
【0051】
蓄熱材1のパラフィンは、日本精蝋製の商品名がWAX−125であり、融点が55°C、誘電率が1.2〜2.5、大きさが5cm×7cmであり、重量が50グラムである。図1(C)及び図1(D)が示すように、平面視ほぼ正方形であり、正面視がわずかに台形状になっている。正面視台形状となっているのは、パラフィンを金型に注型、固化した後、脱型を容易とするためである。
【0052】
内袋2は、ポリエチレン製袋であり、大きさが9.0cm×13.0cmであり、厚さ0.2mm、誘電率が2.2〜2.4である。内袋2は、図1(E)が示すように、平面視長方形であり、一辺を除きシールされている。その一辺は、蓄熱材1のパラフィンを内袋2に入れるために開かれているが、蓄熱材1のパラフィンを入れ、中の空気を抜き真空状態とした後、超音波溶着によりその一辺もシールする。このシールは、その辺の縁に近い部分で行われ、蓄熱材1のパラフィンの1辺より長い部分は折り曲げられて、収容される。これにより、仮に内袋2の中に気体が残存したとしても、この折り曲げられた部分で膨張する気体を収容できる余裕ができ、さらなる安全な保温具を提供できる。
【0053】
液体保持部材3の不織布は、目付量200g/m2のポリプロピレン製であり、大きさが8cm×15cmであり、厚さ5mm、誘電率2.0〜2.3である。この不織布は、約10mlの水を吸収し保持することが可能である。
【0054】
外袋4は、ポリエチレン製袋であり、大きさが10.5cm×13cmであり、厚さ0.2mm、誘電率が2.2〜2.4である。外袋4は、(A)が示すように、内袋2と液体保持部材3の不織布を収容する本体部6と、本体部6と連通した開口部5とを有する。なお、上記開口部5は、人の手で開閉可能な、いわゆるジップロック(登録商標)となっており、加熱後、密封して放熱を防ぐ。
【0055】
より具体的には、外袋4の開口部5の内径は、内袋2の外径より小さく、外袋4の開口部5の外径は、本体部6の外径より小さい。さらに、開口部5の外径を形成する外縁は、本体部6の外径を形成する外縁より、本体部6の中心側にある。即ち、外袋4の開口部5の内径は、内袋2の辺の長さより短い。また、外袋4の開口部5の外径は、本体部6の平面視横幅より短く、開口部5の外径を形成する外縁は、本体部6の平面視両側縁を形成する外縁より本体部6の中心軸Cに寄った側にあり、開口部5の外径を形成する外縁と本体部6の平面視両側縁を形成する外縁とは、ずれている。なお、外袋4の開口部5の内径は、水道の蛇口の径より大きく、16〜20mm程度が好ましい。
【0056】
こうすることにより、液体保持部材3が保持する余分な水を外袋4から排出するために、外袋4の開口部5を下に向けても、開口部5から内袋2が落ちることがない。また、保温具10を肌触りの良い包袋に収容して使用する場合でも、開口部5のシール部を密封する際に外袋4の開口部5の外径と包袋の間に人の指が入るので手により閉め易くなり、確実に密封できるようになり、使用時に開口部が傾き保温具10から水が漏れるのを防止することができる。
【0057】
また、外袋4の中に蓄熱材1や液体保持部材3を入れることにより、外袋4の中に液体である水の熱や水が気化した水蒸気の熱が籠り、加熱時間の短縮化が可能となる。保温具10の場合、電子レンジ(出力:600W)の加熱時間は、2分30秒程度で十分である。
【0058】
このようにして加熱された保温具10は、潜熱が放出される45〜55°Cの範囲で温度が下がりにくく、環境温度28.5°Cのものとでは、2時間以上その温度範囲が継続することが認められた(図3参照)。また、保温具10は、液体保持部材に水を含ませて誘電加熱することにより、100°Cを超えて昇温しないことも確認された。これにより、蓄熱材自体を直接誘電加熱せず、液体保持部材が保持する水を加熱することにより蓄熱材を間接的に加熱するので、蓄熱材自体が過剰に加熱されることがなく、安全性の高い保温具を提供することができることが確認された。すなわち、電子レンジの設定に関係なく、過度のマイクロ波を照射しても蓄熱材が過剰に加熱されることのない保温具を提供することができることが確認された。
【0059】
さらに、実際の使用時には、本発明の保温具を不織布からなる断熱袋に挿入したうえ、いわゆる従来の懐炉を入れていたような布製の意匠袋に挿入し、ポケットや腹巻等の中に入れて携帯する。上記布製の意匠袋は、起毛したフリース素材が、保温性、概観上から好ましい。
【0060】
<第二実施例>
図4は、本発明に係る第二実施例の外袋の平面図を示す。第二実施例の外袋4Aは、図4に示すように、開口部5Aにスライド式のジッパー51を採用するとともに、開口部にくびれ52を設けた以外は第一実施例と同様な構造とした。なお、開口部5Aの内径は第一実施例と同様の大きさとした。開口部をスライド式ジッパー51とすることで、開口部の開閉が、より確実となる。さらに、開口部5Aにくびれ52を設けたことで、使用時に開口部が傾き保温具から水が漏れるのを防止することができる。
【0061】
第一実施例と同様に、保温具を加熱し、潜熱が放出される45〜55°Cの範囲で温度が下がりにくく、環境温度28.5°Cのものとで、2時間以上その温度範囲が継続することを確認した(図3参照)。また、保温具は、液体保持部材に水を含ませて誘電加熱することにより、100°Cを超えて昇温しないことも確認された。これにより、蓄熱材自体を直接誘電加熱せず、液体保持部材が保持する水を加熱することにより蓄熱材を間接的に加熱するので、蓄熱材自体が過剰に加熱されることがなく、安全性の高い保温具を提供することができることが確認された。すなわち、電子レンジの設定に関係なく、過度のマイクロ波を照射しても蓄熱材が過剰に加熱されることのない保温具を提供することができることが確認された。
【0062】
なお、本発明は、例示した実施例に限定するものではなく、特許請求の範囲の各項に記載された内容から逸脱しない範囲の構成による実施が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 蓄熱材(パラフィン)
2 内袋
3 液体保持部材(不織布)
4 外袋
5 開口部
10 保温具
C 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄熱材に蓄積した熱の放散により、保温対象を温める保温具であって、
主成分が無極性分子から成る前記蓄熱材と、
前記蓄熱材を真空包装する内袋と、
前記内袋を包容し、開閉可能な開口部を有する外袋と、
主成分が極性分子からなる液体を保持可能な液体保持部材と、
を備え、
前記内袋と前記外袋の間に前記液体保持部材を配置する保温具。
【請求項2】
前記蓄熱材の融点又は凝固点が、常温より高くかつ前記液体の沸点より低いことを特徴とする請求項1に記載の保温具。
【請求項3】
前記外袋は、前記内袋を収容する本体部と、前記本体部と連通した前記開口部とを有し、
前記外袋の前記開口部の内径は、前記内袋の外径より小さく、
前記外袋の前記開口部の外径は、前記本体部の外径より小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の保温具。
【請求項4】
前記開口部の外径を形成する外縁は、前記本体部の外径を形成する外縁より、前記本体部の中心側にあることを特徴とする請求項3に記載の保温具。
【請求項5】
蓄熱材に蓄積した熱の放散により、保温対象を温める保温具の製造方法であって、
常温で固体である蓄熱材を、樹脂製の内袋に収納した後、真空包装することにより前記内袋を密閉し、
前記内袋を液体保持部材で覆い又は前記内袋を液体保持部材で挟み、
開口部で開閉可能な外袋に前記内袋と前記液体保持部材を収納してなる保温具の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記内袋と前記液体保持部材を収納した前記外袋を加熱し、前記蓄熱材を溶融し、
再び冷却し常温に戻すことを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
外袋に液体を注入し、液体保持部材に液体を保持させた後、前記外袋の開口部を開口した状態で電子レンジに入れ、マイクロ波を照射することにより、前記液体保持部材が保持する前記液体を加熱し、前記液体の熱により蓄熱材を溶融し潜熱を蓄熱した後、前記電子レンジより取り出し、前記外袋の前記開口部を閉じ、保温具として使用する請求項1の保温具の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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