説明

保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法および保温性ポリ乳酸繊維構造体および繊維製品

【課題】優れた保温性を有するだけでなく、繊維構造体に含まれるポリ乳酸繊維が優れた強度を有する保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法、および該製造方法により得られた保温性ポリ乳酸繊維構造体、および該保温性ポリ乳酸繊維構造体を用いてなる繊維製品を提供すること。
【解決手段】(i)ポリL−乳酸(A成分)、(ii)ポリD―乳酸(B成分)および(iii)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の特定の燐酸エステル金属塩(C成分)を含有するポリ乳酸組成物からなるポリ乳酸繊維を含むポリ乳酸繊維構造体に赤外線吸収剤を付着させることにより、保温性ポリ乳酸繊維構造体を得た後、必要に応じて繊維製品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた保温性を有するだけでなく、繊維構造体に含まれるポリ乳酸繊維が優れた強度を有する保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法、および保温性ポリ乳酸繊維構造体、および繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の目的から、自然環境下で分解される生分解性ポリマーが注目され、世界中で研究されている。生分解性ポリマーとしては、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸などが知られている。なかでもポリ乳酸は、ポリ乳酸の原料である乳酸またはラクチドが天然物から製造できるので、単なる生分解性ポリマーとしてではなく、地球環境に配慮した汎用性ポリマーとして利用も検討されている。ポリ乳酸のような生分解性ポリマーは透明性が高く強靭であるが、水の存在下では容易に加水分解され、廃棄後には環境を汚染することなく分解するので、環境負荷の少ない汎用ポリマーとして期待されている。そして、かかるポリ乳酸からなるポリ乳酸繊維は衣料やインテリア製品などとして巾広く使用されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
また、赤外線吸収剤を用いてポリ乳酸繊維構造体に保温性を付加することも知られている(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、かかるポリ乳酸繊維構造体において繊維構造体に含まれるポリ乳酸繊維の繊維強度が低いという問題があった。
なお、繊維構造体において、赤外線吸収剤を部分的に付着させることにより保温性を高めることは特許文献4などにより知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−105629号公報
【特許文献2】特許第3731432号公報
【特許文献3】特開2004−100101号公報
【特許文献4】特許第3853175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、優れた保温性を有するだけでなく、繊維構造体に含まれるポリ乳酸繊維が優れた強度を有する保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法、および該製造方法により得られた保温性ポリ乳酸繊維構造体、および該保温性ポリ乳酸繊維構造体を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリL−乳酸(A成分)とポリD−成分(B成分)とを特定の燐酸エステル金属塩(C成分)の存在下で紡糸、延伸して得られたポリ乳酸繊維を用いて繊維構造体を得て、該繊維構造体に赤外線吸収剤を付着させることにより、所望の保温性ポリ乳酸繊維構造体が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「ポリ乳酸繊維を含むポリ乳酸繊維構造体に赤外線吸収剤を付着させる保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法であって、前記ポリ乳酸繊維が、(i)ポリL−乳酸(A成分)、(ii)ポリD―乳酸(B成分)および(iii)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の下記式(1)または(2)で表される燐酸エステル金属塩(C成分)を含有するポリ乳酸組成物からなることを特徴とする保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法。」が提供される。
【0008】
【化1】

式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【0009】
【化2】

式中、R、RおよびRは、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【0010】
その際、前記ポリ乳酸組成物が、ポリL−乳酸成分(A成分)とポリD−乳酸成分(B成分)との合計100重量部当たり0.1〜5重量部のカルボキシル末端封止剤を含有していることが好ましい。また、前記ポリ乳酸繊維構造体に他の繊維としてポリエステル繊維が含まれることが好ましい。また、前記ポリ乳酸繊維構造体が織物または編物であることが好ましい。また、前記赤外線吸収剤としては、アンチモンドープ酸化錫またはスズドープ酸化インジュームからなる赤外線吸収剤であることが好ましい。また、前記赤外線吸収剤の付着量が繊維構造体に対し0.02〜50gr/mの範囲内であることが好ましい。
【0011】
本発明の保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法において、前記赤外線吸収剤を、ポリ乳酸繊維構造体の少なくとも一面に、塗布部と非塗布部とを有しかつ塗布部が非塗布部を取り囲んで連続するパターンで付着させることが好ましい。その際、かかるパターンが格子状パターンであることが好ましい。また、ポリ乳酸繊維構造体の1面にのみ、赤外線吸収剤を付着させることが好ましい。
【0012】
また、本発明によれば、前記の製造方法により製造された保温性ポリ乳酸繊維構造体が提供される。
その際、前記ポリ乳酸繊維構造体に含まれる前記ポリ乳酸繊維繊維の繊維強度が2.3cN/dtex以上であることが好ましい。
【0013】
また、本発明によれば、前記の保温性ポリ乳酸繊維構造体を用いてなる、スポーツ衣料、インナー衣料、紳士衣料、婦人衣料からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた保温性を有するだけでなく、繊維構造体に含まれるポリ乳酸繊維が優れた強度を有する保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法、および該製造方法により得られた保温性ポリ乳酸繊維構造体、および該保温性ポリ乳酸繊維構造体を用いてなる繊維製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるポリL−乳酸(A成分)は、主としてL−乳酸単位からなる。L−乳酸単位はL−乳酸由来の繰り返し単位である。ポリL−乳酸(A成分)は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のL−乳酸単位を含有する。他の繰り返し単位としてD−乳酸単位、乳酸以外の単位がある。D−乳酸単位および乳酸以外の単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0016】
乳酸以外の単位としては、グリコール酸、カプロラクトン、ブチロラクトン、プロピオラクトンなどのヒドロキシカルボン酸類、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−プロパンジオール、1,5−プロパンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、炭素数が2〜30の脂肪族ジオール類、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、炭素数2〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキノンなど芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸などから選ばれる1種以上のモノマー由来の単位が挙げられる。
【0017】
ポリL−乳酸(A成分)は、好ましくは結晶性を有する。融点は、好ましくは150〜190℃、より好ましくは160〜190℃である。これらの条件を満足すると、高融点のステレオコンプレックス結晶を形成させることができ、かつ、結晶化度を上げることができるからである。
ポリL−乳酸(A成分)において、重量平均分子量が5万〜30万(より好ましくは10万〜25万)であることが好ましい。
【0018】
一方、本発明で用いるポリD−乳酸(B成分)は、主としてD−乳酸単位からなる。D−乳酸単位はD−乳酸由来の繰り返し単位である。ポリD−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のD−乳酸単位を含有する。他の繰り返し単位としてL−乳酸単位、乳酸以外の単位がある。L−乳酸単位および乳酸以外の単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0019】
乳酸以外の単位としては、グリコール酸、カプロラクトン、ブチロラクトン、プロピオラクトンなどのヒドロキシカルボン酸類、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−プロパンジオール、1,5−プロパンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、炭素数が2〜30の脂肪族ジオール類、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、炭素数2〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキノンなど芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸などから選ばれる1種以上のモノマー由来の単位が挙げられる。
【0020】
ポリD−乳酸(B成分)は、好ましくは結晶性を有する。融点は、好ましくは150〜190℃、より好ましくは160〜190℃である。これらの条件を満足すると、高融点のステレオコンプレックス結晶を形成させることができ、かつ、結晶化度を上げることができるからである。
ポリD−乳酸(B成分)において、重量平均分子量が5万〜30万(より好ましくは10万〜25万)であることが好ましい。
【0021】
ポリL−乳酸(A成分)またはポリD−乳酸(B成分)は、L−乳酸またはD−乳酸を直接脱水縮合する方法で製造したり、L−乳酸またはD−乳酸を一度脱水環化してラクチドとした後に開環重合したりする方法で製造することができる。これらの方法に用いる触媒として、オクチル酸スズ、塩化スズ、スズのアルコキシドなどの2価のスズ化合物、酸化スズ、酸化ブチルスズ、酸化エチルスズなど4価のスズ化合物、金属スズ、亜鉛化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、ランタニド化合物などを例示することができる。
【0022】
ポリL−乳酸(A成分)およびポリD−乳酸(B成分)は、重合時使用された重合触媒を溶媒で洗浄除去するか、触媒活性を不活性化しておくのが好ましい。触媒活性を不活性化するには、触媒失活剤を用いることができる。
【0023】
触媒失活剤として、イミノ基を有し且つ金属重合触媒に配位し得るキレート配位子の群からなる有機リガンド、リンオキソ酸、リンオキソ酸エステルおよび式(3)で表される有機リンオキソ酸化合物群から選択される少なくとも1種が挙げられる。触媒失活剤は、重合終了の時点において触媒中の金属元素1当量あたり、好ましくは0.3〜20当量、より好ましくは0.4〜15当量、さらに好ましくは0.5〜10当量配合する。
−P(=O)(OH)(OX2−n (3)
式中、mは0または1、nは1または2、XおよびXは各々独立に炭素数1〜20の置換基を有していても良い炭化水素基を表す。炭化水素基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。
【0024】
ポリL−乳酸(A成分)およびポリD−乳酸(B成分)中の金属イオン含有量は20ppm以下であることが繊維の耐熱性、耐加水分解性の点から好ましい。金属イオン含有量は、アルカリ土類金属、希土類、第三周期の遷移金属類、アルミニウム、ゲルマニウム、スズおよびアンチモンから選ばれる金属の各々の含有量が20ppm以下であることが好ましい。
【0025】
次に、本発明で用いる燐酸エステル金属塩(C成分)は、下記式(1)または(2)で表される化合物である。燐酸エステル金属塩は1種類を用いても複数種類を併用してもよい。
【0026】
【化3】

【0027】
式(1)において、Rは、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rで表される炭素数1〜4のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基などが例示される。
【0028】
、Rは、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表す。炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、アミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tert−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tert−ドデシル基などが挙げられる。
【0029】
は、Na、K、Liなどのアルカリ金属原子またはMg、Ca等のアルカリ土類金属原子を表す。pは1または2を表す。
式(1)で表される燐酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えばRが水素原子、R、Rがともにtert−ブチル基のものが挙げられる。
【0030】
【化4】

【0031】
式(2)においてR、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基を表す。炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、アミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tert−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tert−ドデシル基などが挙げられる。
は、Na、K、Liなどのアルカリ金属原子またはMg、Ca等のアルカリ土類金属原子を表す。pは1または2を表す。
【0032】
式(2)で表される燐酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えば、R、Rがメチル基、Rがtert−ブチル基のものが挙げられる。燐酸エステル金属塩として、(株)ADEKA製の商品名、NA−11が挙げられる。燐酸エステル金属塩は公知の方法により合成することができる。
【0033】
特開2003−192884号公報に記載のように、式(1)または(2)で表される化合物はポリ乳酸の結晶核剤として知られた化合物である。しかし、本発明において、式(1)、式(2)中のMおよびMは、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子であることを特徴とする。式(1)、式(2)中のMおよびMが、アルミニウムなどの他の金属である場合、化合物自体の耐熱性が低く、紡糸時に昇華物が発生し、紡糸することが困難な場合がある。
【0034】
燐酸エステル金属塩(C成分)は、平均一次粒径が好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.05〜7μmである。粒径を0.01μmより小さくすることは工業的に困難であり、それほど小さくする必要もない。また10μmより大きいと、紡糸、延伸時、断糸の頻度が高まる。
【0035】
燐酸エステル金属塩(C成分)の含有量は、ポリL−乳酸(A成分)とポリD−乳酸(B成分)との合計100重量部当たり、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.05〜4重量部、特に好ましくは0.1〜3重量部である。0.01重量部より少量であると所望の効果がほとんど認められない。また5重量部より多量に使用すると繊維形成時、熱分解を起こしたり、断糸が起きたりする場合があり好ましくない。
【0036】
ポリL−乳酸(A成分)とポリD−乳酸(B成分)との比は、A成分/B成分(重量)で、好ましくは40/60〜60/40、より好ましくは45/55〜55/45、さらに好ましくは50/50である。
【0037】
A成分、B成分およびC成分の混合は、従来公知の各種方法を使用することができる。例えば、A成分、B成分およびC成分を、タンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウタミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、1軸または2軸の押出機等で混合することができる。
【0038】
こうして得られるポリ乳酸組成物は、溶融混合され、そのまま、または計量ポンプなどを経由して紡糸装置に移送することもできる。溶融混合する温度は、得られるステレオコンプレックスポリ乳酸の融点より高い温度であることが好ましく、220℃よりも高いことが好ましい。また、一旦ペレット状にしてから紡糸装置に供給することもできる。ペレット長は1〜7mm、長径3〜5mm、短径1〜4mmのものが好ましい。ペレットの形状は、ばらつきのないものが好ましい。ペレット化された組成物は、プレッシャーメルター型や1軸あるいは2軸エクストルーダー型などの通常の溶融押出し機を使用して紡糸装置に移送することもできる。ステレオコンプレックス結晶の形成にあたっては、A成分およびB成分を十分に混合することが重要であり、とりわけ剪断応力下、混合することが好ましい。
【0039】
前記のポリ乳酸組成物には、耐湿熱性改善剤として、特定官能基を有するカルボキシル基末端封止剤が好適に適用できる。かかるカルボキシル末端封止剤としては、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、イソシアネート化合物から選択される少なくとも1種の化合物を使用することが好ましい。末端カルボキシル基末端封止剤を含有することで、耐湿熱性改善の作用を向上させることができるのみならず、紡糸性、力学特性、耐熱性、耐久性に優れた繊維を得ることができる。
【0040】
ここで、エポキシ化合物として、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリジジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、グリシジルアミド化合物、脂環式エポキシ化合物を好ましく使用することができる。
【0041】
また、カルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブイチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、オクチルデシルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジベンジルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−トリルカルボジイミド、ジ−o−トルイルカルボジイミド、ジ−p−トルイルカルボジイミド、ビス(p−ニトロフェニル)カルボジイミド、ビス(p−アミノフェニル)カルボジイミド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)カルボジイミド、ビス(p−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−エチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−エチルフェニル)カルボジイミドビス(o−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(o−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,5−ジクロロフェニル)カルボジイミド、p−フェニレンビス(o−トルイルカルボジイミド)、p−フェニレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレンンビス(p−クロロフェニルカルボジイミド)、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、エチレンビス(フェニルカルボジイミド)、エチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、ビス(2,6−ジメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−エチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−ブチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリブチルフェニル)カルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボシイミド、N−トリル−N’−シクロヘキシルカルボシイミド、N−トリル−N’−フェニルカルボシイミド等のモノまたはジカルボジイミド化合物が例示される。
【0042】
なかでも反応性、安定性の観点からビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カーボジイミド、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドが好ましい。またこれらのうち工業的に入手可能なジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミドの使用も好適である。
【0043】
また、ポリ(1,6−シクロヘキサンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(p−トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチルジソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミド等が挙げられる。
【0044】
市販のポリカルボジイミド化合物としては例えば日清紡績株式会社より市販されている「カルボジライト」を用いることができ、具体的にはポリ乳酸樹脂改質剤として販売されている「カルボジライト」LA−1、あるいはポリエステル樹脂改質剤として販売されている「カルボジライト」HMV−8CA等を例示することができる。
【0045】
カルボジイミド化合物は、従来公知の方法により製造することもできる。例えば触媒として有機リン化合物または有機金属化合物を使用して、有機イソシアネートを70℃以上の温度で無溶媒あるいは不活性溶媒中で脱炭酸縮合反応に附することにより製造することができる。またポリカルボジイミド化合物は、従来公知のポリカルボジイミド化合物の製造法、例えば米国特許2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.Org.Chem.28, 2069−2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81 No.4、p619−621等により製造することができる。
【0046】
カルボキシル基末端封止剤の含有量は、ポリ乳酸組成物100重量部当たり、好ましくは0.1〜5.0重量部、さらに好ましくは0.5〜2.0重量部である。かかる範囲のカルボキシル基末端封止剤を含有するポリ乳酸繊維は、100℃の沸水中30分間の処理後の分子量保持率が95%以上となり、さらに好ましい繊維を得ることができる。
【0047】
本発明において、ポリ乳酸繊維は前記のポリ乳酸組成物からなる繊維であり、広角X線回折法(XRD)測定によるステレオ化率が90%以上であることが好ましい。また、繊維強度としては、引張強度で2.3cN/dtex以上であることが好ましい。また、示差走査熱量計(DSC)測定において単一の融解ピークを有し、該融解ピーク温度が195℃以上であることが好ましい。
【0048】
このようなポリ乳酸繊維は例えば以下の方法により製造することができる。すなわち、前記ポリ乳酸組成物をエクストルーダー型やプレッシャーメルター型の溶融押出し機で溶融した後、ギヤポンプにより計量し、パック内で濾過した後、口金に設けられたノズルからモノフィラメンント、マルチフィラメント等として吐出され紡糸する。その際、吐出孔数は特に制限されるものではない。吐出された糸は直ちに冷却・固化された後集束され、油剤を付加されて巻き取られる。紡糸速度は特に限定されるものではないがステレオコンプレックス結晶が形成され易くなることより300〜5000m/分の範囲が好ましい。特に延伸性の観点から未延伸糸のステレオ化率が0%となる紡糸速度が好ましい。巻き取られた未延伸糸はその後延伸工程に供されるが、紡糸工程と延伸工程は必ずしも分離する必要はなく、紡糸後いったん巻き取ることなく引続き延伸を行う直接紡糸延伸法を採用してもよい。かかる未延伸糸は、広角X線回折法の測定では実質的に非晶性である。また、示差走査熱量計(DSC)測定を行った際に、低温結晶融解相(A)と高温結晶融解相(B)の少なくとも2つの吸熱ピークを示すことはなく、実質的にステレオコンプレックス結晶の単一融解ピークを示す。かかる融解ピーク温度は195℃以上である。すなわち、未延伸糸は非晶性のステレオコンプレックスを形成しているが、低温結晶相を形成可能なポリL−乳酸相およびまたはポリD−乳酸相を含有してないものと推定する。これらの特徴は、繊維が燐酸エステル金属塩(C成分)を含有していることに起因し、従来まったく予想されなかった有用な特性である。
【0049】
未延伸糸の段階でポリL−乳酸またはポリD−乳酸の結晶相を有しないことは、その後の延伸工程以降に高いステレオ化率を得るのに有効である。
延伸は、1段でも、2段以上の多段延伸でも良く、高強度の繊維を製造する観点から、延伸倍率は、好ましくは3倍以上、より好ましくは4倍以上、さらに好ましくは3〜10倍である。しかし、延伸倍率が高すぎると繊維が失透し白化するため、繊維の強度が低下する。延伸の予熱は、ロールの昇温のほか、平板状あるいはピン状の接触式加熱ヒータ、非接触式ヒータ、熱媒浴などにより行うことができる。延伸温度は、好ましくは70〜140℃、より好ましくは80〜130℃である。延伸糸においても、低温結晶融解相(A)は実質的に全く観察されず、高温結晶融解相(B)の単一融解ピークのみが見られる。また、延伸糸の高温結晶融解相(B)の融解開始温度は190℃以上、好ましくは200℃以上である。加えて、延伸糸の広角X線回折測定によるステレオコンプレックス結晶回折ピークの積分強度よりもとめたステレオ化率(Sc率)は90%以上と高い水準にある。
【0050】
さらに、かかる延伸糸を熱処理することが好ましい。熱処理は170〜220℃(好ましくは180〜200℃)で行う。熱処理はテンション下で行うことが好ましい。熱処理は、ホットローラー、接触式加熱ヒータ、非接触式熱板などで行うことができる。熱処理することにより、高いステレオ化率を有し、耐熱性や耐アイロン性に優れ、繊維強度が大きい繊維を得ることができる。
【0051】
本発明の製造方法に用いるポリ乳酸繊維構造体は、前記のポリ乳酸繊維を含むポリ乳酸繊維構造体(本願において、単に繊維構造体と称することもある。)である。ここで、前記のポリ乳酸繊維の形態としては、単糸繊度が0.01〜20dtex(より好ましくは0.1〜7dtex)、総繊度が30〜500dtex、フィラメント数が20〜200本の範囲内のマルチフィラメント(長繊維)であることが好ましい。また、該糸条に撚糸や空気加工、仮撚捲縮加工など施してもよい。また、前記糸条(ポリ乳酸繊維)のみを用いて布帛を構成することが好ましいが、布帛重量に対して60重量%以下であれば、ポリエステル繊維など他の繊維が含まれていてもさしつかえない。その際、かかるポリエステル繊維としては通常のポリエチレンテレフタレート繊維が好適である。また、前記ポリ乳酸繊維および/または前記ポリエステル繊維の単繊維横断面形状は特に限定されず、通常の丸断面、丸中空断面、三角断面、四角断面、扁平断面、くびれ付扁平断面いずれでもよいが、丸断面以外の異型であると吸水性が向上し好ましい。また、前記ポリ乳酸繊維および/または前記ポリエステル繊維の単繊維表面にボイドおよび/またはクラックを有すると吸水性が向上し好ましい。
【0052】
また、前記の繊維構造体において、その構造は特に限定されず糸条の形態でもよいが、通常の織機または編機により製編織された織物または編物であることが好ましい。もちろん、不織布や、マトリックス繊維と熱接着性繊維とからなる繊維構造体でもよい。例えば、織物の織組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。編物の種類は、丸編物(よこ編物)であってもよいしたて編物であってもよい。丸編物(よこ編物)の組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。さらには、カットパイルおよび/またはループパイルからなる立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛であってもよい。
【0053】
本発明の製造方法において、前記の繊維構造体に赤外線吸収剤を付着させる。ここで、繊維構造体が織物や編物などの布帛である場合、布帛の少なくとも一面に、赤外線吸収剤を付着させる。その際、通常は、バインダー樹脂により赤外線吸収剤を布帛に付着させる。赤外線吸収剤とバインダー樹脂とは布帛の両面に付着させてもよいが、一面だけに付着させることが好ましい。一面だけに付着させ、該面を裏面、すなわち、かかる布帛を衣料に使用した際に人体の肌側となる面となすことにより、前記赤外線吸収剤やバインダー樹脂が着色されていた場合においても、これらの剤や樹脂が布帛の表面に現れることがないため、外観上の問題が発生する恐れがない。さらに、赤外線吸収剤が裏面にのみ付着されることにより、熱が布帛の裏面から表面に伝わりにくいため、効果的な保温が可能となる。さらには、本発明のように繊維構造体にポリ乳酸繊維が含まれていると、ポリ乳酸繊維はポリエチレンテレフタレート繊維などの通常のポリエステル繊維に比べて光の透過性に優れるため、赤外線吸収剤が赤外線を吸収しやすく優れた保温性が得られる。
【0054】
上記赤外線吸収剤としては、波長700〜2000nmの赤外線領域で10%以上の吸収率を有する物質であれば特に限定されず、金属酸化物系微粒子、カーボンブラック、有機化合物の赤外線吸収色素などが例示される。かかる赤外線吸収剤の中でも、熱伝導率が10W/m・K(27℃)以上(より好ましくは20W/m・K以上)であるものが好ましい。かかる熱伝導率を有することにより、赤外線吸収剤が太陽光等の赤外線により暖められた際、極めて迅速に布帛が暖められ、優れた保温性が得られ易い。具体的には、アンチモンドープ酸化錫(ATO)やスズドープ酸化インジューム(ITO)などの平均粒子径が100nm以下の金属酸化物系微粒子が好ましく例示される。かかる金属酸化物系微粒子は可視光線を透過する透明な材料でもあり、布帛本体の色相に変化を与えない点でも好ましい。この種の金属酸化物系微粒子は、水系の分散品やトルエンなどの溶剤系分散品として入手することができる。また、布帛の色相が黒、ネービーブルー、エンジ色などの濃色品である場合には、カーボンブラックも好適に使用することができ、かかるカーボンブラックの粒子径は、数μm程度の粒子径であればよい。なお、淡色の布帛にカーボンブラックを適用すると、布帛表面がグレー化してしまう傾向にある。
【0055】
赤外線吸収剤を布帛に固着させる量は、布帛に対して0.02〜50g/m(より好ましくは0.5〜20g/m)の範囲内であることが好ましい。赤外線吸収剤の付着量が該範囲よりも少ないと、布帛に太陽光等の赤外線があたっても、布帛が十分には暖められない恐れがある。逆に赤外線吸収剤の付着量が該範囲よりも多いと保温効果は十分であるものの経済的でない。
【0056】
本発明で用いることのできるバインダー樹脂としては、特に限定されるものではなく、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂などが例示される。バインダー樹脂の付着量は、樹脂固形分基準で、布帛に対して0.01〜40g/m(より好ましくは5〜30g/m)の範囲内であることが好ましい。
【0057】
通常、前記赤外線吸収剤とバインダー樹脂は、両者の配合組成物として繊維構造体に付与される。その際、かかる配合組成物は水系、溶剤系のいずれで構成してもよいが、加工工程の作業環境上水系の方が好ましい。溶剤としては、トルエン、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、酢酸エチルなどが例示される。この配合組成物には、エポキシ系などの架橋剤を併用してもよい。さらに、繊維構造体本体に対する付着性を向上させる等の目的で適当な添加剤をさらに配合してもよい。
【0058】
前記赤外線吸収剤とバインダー樹脂(樹脂固形分基準)との配合比率として1:0.5〜1:50(好ましくは1:5〜1:40)の範囲内であることが好ましい。バインダー樹脂の配合比率が該範囲よりも少ないと、繊維構造体を製品となした後、洗濯時に赤外線吸収剤が脱落しやすいため、保温性の洗濯耐久性が低下する恐れがある。逆に、バインダー樹脂の配合比率を該範囲よりも多くしても、洗濯耐久性の効果はあまり変わらず経済的でない。
【0059】
次に、本発明において、前記赤外線吸収剤を塗布部と非塗布部とを有しかつ塗布部が非塗布部を取り囲んで連続するパターンで繊維構造体(布帛)に付着させることが好ましい。特に、パターンの全領域が格子状パターンであることが好ましく、かかる格子状パターンを採用することにより、赤外線吸収剤が太陽光線等の赤外線により加熱された際、熱が格子状パターンに沿って、迅速に伝わり、繊維構造体が速やかに暖められる。また、パターン内における塗布部面積比率が10〜85%(より好ましくは25〜70%)であることが好ましい。なお、塗布部面積比率は下記式で示されるものである。
塗布部面積比率=(塗布部面積)/(塗布部面積+非塗布部面積)×100(%)
【0060】
該塗布部面積比率が10%よりも小さいと、繊維構造体(布帛)に赤外線があたっても、布帛が十分には暖められない恐れがある。逆に、塗布部面積比率が85%よりも大きい場合は、繊維構造体(布帛)の風合いが低下する恐れがある。また、上記格子状パターンにおいて、格子間の間隔は2〜30mm程度が適当である。
【0061】
繊維構造体への、赤外線吸収剤とバインダー樹脂の付与手段として、まず両者を前述のような配合組成物となした後、該配合組成物を、グラビヤコーテイング法、スクリーンプリント法などの、公知の付与手段を用いることができる。
【0062】
また、赤外線吸収剤の付与加工の前および/または後の工程において、常法染色加工、アルカリ減量加工、撥水加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0063】
かくして得られた保温性ポリ乳酸繊維構造体において、繊維構造体には、赤外線吸収剤を透過しやすいポリ乳酸繊維が含まれているので、太陽光線は繊維構造体を透過しやすく、かかる赤外線により赤外線吸収剤が加熱されると、優れた保温性が得られる。また同時に、繊維構造体に含まれるポリ乳酸繊維は前記のようなポリ乳酸繊維なので、優れた繊維強度を有する。かかる繊維強度としては、2.3cN/dtex以上(より好ましくは3〜10cN/dtex)であることが好ましい。ただし、本発明における繊維強度は、オリエンティック社製「テンシロン」(商品名)を用い、測定対象の繊維構造体から無作為に10本の対象単糸(フィラメント)を抜き取り、糸試料長50mm(チャック間長さ)、伸長速度500mm/分の条件で歪−応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力と伸びから強度(cN/本)を求めた後、この強度を繊度で割って繊維強度(cN/dtex)とする。
【0064】
次に、本発明の繊維製品は前記の保温性ポリ乳酸繊維構造体を用いてなる、スポーツ衣料、インナー衣料、紳士衣料、婦人衣料からなる群より選択されるいずれかの繊維製品である。かかる繊維製品には前記の保温性ポリ乳酸繊維構造体が含まれるので、優れた保温性を呈し、また同時に繊維製品に含まれるポリ乳繊維の繊維強度が大きい。
【0065】
なお、前記の保温性ポリ乳酸繊維構造体は前記の繊維製品以外の、カーシート表皮材、床材、天井材などの車両内装材、カップ、パッド等の衣料資材、カーテン、カーペット、マット、家具等のインテリア用品、ベルト、ネット、ロープ、重布、袋類、フェルト、フィルター等の産業資材、アクセサリー、形態ストラップ、めがね拭き、食器拭き、マウスパッド、ぬいぐるみ、おもちゃ張り、帽子、手袋、ホワイトボードクリーナー、ノートの表紙等の小物類としても好適に使用される。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を、実施例を用いて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものでははない。なお、実施例中の物性は下記の方法により測定した。
【0067】
(1)重量平均分子量(Mw)
ポリマーの重量平均分子量はGPC(カラム温度40℃、クロロホルム)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。
【0068】
(2)ステレオ化率(Sc化率)
理化学電気社製ROTA FLEX RU200B型X線回折装置用いて透過法により、以下の条件でX線回折図形をイメージングプレートに記録した。得られたX線回折図形において赤道方向の回折強度プロファイルを求め、ここで2θ=12.0°、20.7°、24.0°付近に現れるステレオコンプレックス結晶に由来する各回折ピークの積分強度の総和ΣISCiと、2θ=16.5°付近に現れるホモ結晶に由来する回折ピークの積分強度IHMから下式に従いステレオ化率(Sc化率)を求めた。尚、ΣISCiならびにIHMは図1に示すように、赤道方向の回折強度プロファイルにおいてバックグランドや非晶による散漫散乱を差し引くことによって見積もった。
X線源: Cu−Kα線(コンフォーカル ミラー)
出力: 45kV×70mA
スリット: 1mmΦ〜0.8mmΦ
カメラ長: 120mm
積算時間: 10分
サンプル: 長さ3cm、35mg
Sc化率=ΣISCi/(ΣISCi+IHM)×100
ここで、ΣISCi=ISC1+ISC2+ISC3
SCi(i=1〜3)はそれぞれ2θ=12.0°、20.7°、
24.0°付近の各回折ピークの積分強度
【0069】
(3)融点、結晶融解ピーク、結晶融解開始温度、結晶融解エンタルピー測定:
TAインストルメンツ製 TA−2920示差走査熱量測定計DSCを用いた。
測定は、試料10mgを窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から260℃まで昇温した。第一スキャンで、ホモ結晶融解ピーク、ホモ結晶融解(開始)温度、ホモ結晶融解エンタルピーおよびステレオコンプレックス結晶融解ピーク、ステレオコンプレックス結晶融解(開始)温度およびステレオコンプレックス結晶融解エンタルピーを求めた。
【0070】
(4)繊維強度(cN/dtex)
オリエンティック社製「テンシロン」(商品名)を用い、測定対象の繊維構造体から無作為に10本の対象単糸(フィラメント)を抜き取り、糸試料長50mm(チャック間長さ)、伸長速度500mm/分の条件で歪−応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力と伸びから強度(cN/本)を求めた後、この強度を繊度で割って繊維強度(cN/dtex)とした。
【0071】
(5)保温性
保温効果を確認するために20℃、60%RHの恒温恒湿環境下で、エネルギー源として200Wレフランプ光源を用い、高さ50cmから照射し、30秒後の布帛の表面温度をサーモビュアー(赤外線センサー:日本電子株式会社製)にて測定するとともに布帛の裏面の温度を熱電対で測定した。
【0072】
(6)風合い評価
試験者3名により、ソフト感について官能評価を行い4段階評価した。「極めて優れている」は◎、「優れている」は○、「普通」は△、「劣っている」は×で示した。
【0073】
[製造例1](ポリL−乳酸の製造)
Lラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量の燐酸を添加しその後、13.3kPaで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリL−乳酸を得た。
得られたL−乳酸の重量平均分子量は15万、ガラス転移点(Tg)63℃、融点は180℃であった。
【0074】
[製造例2](ポリD−乳酸の製造)
Dラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量の燐酸を添加しその後、13.3kPaで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリD−乳酸を得た 得られたポリD−乳酸の重量平均分子量は15万、ガラス転移点(Tg)63℃、融点は180℃であった。
【0075】
[製造例3](ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂の製造)
製造例1で得られたポリL−乳酸ならびに製造例2のポリD−乳酸を各50重量部と、リン酸エステル金属塩(株式会社ADEKA(旧:旭電化工業株式会社)製アデカスタブNA−11)0.5重量部を230℃で溶融混練し、ポリL−乳酸ならびにポリD‐乳酸の合計100重量部あたりカルボジイミドとして日清紡(株)製カルボジライトLA−1を0.7重量部、第一供給口より供給しシリンダー温度230℃で混練押出して、水槽中にストランドを取り、チップカッターにてチップ化してステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を得た。得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂のMwは13.5万、融点(Tm)は224℃、ステレオ化率は100%であった。
【0076】
[実施例1]
前記、製造例3で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を110℃で2時間、150℃で5時間乾燥し樹脂の水分率を80ppmとしたあと0.27φmmの吐出孔36ホールを有する紡糸口金を用いて、紡糸温度255℃で8.35g/分の吐出量で紡糸した後に500m/分の速度で未延伸糸を巻き取った。巻き取られた未延伸糸を延伸機にて予熱80℃で4.9倍に延伸し延伸糸を巻き取った後、180℃で熱処理を行った。得られた糸条は繊度56dTex/20filのマルチフィラメント(単繊維横断面形状は丸断面)であり、DSC測定において、単一の融解ピークを有し、該融解ピーク温度(融点)が224℃であり、ステレオ化率100%であった。
【0077】
また、製造例3で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を同様にして、繊度84dTex/36filのマルチフィラメント(単繊維横断面形状は丸断面)を得た。該マルチフィラメントは、DSC測定において、単一の融解ピークを有し、該融解ピーク温度(融点)が224℃であり、ステレオ化率100%であった。
【0078】
次いで、経糸として前記総繊度56dtex/20filのマルチフィラメント、緯糸として前記総繊度84dtex/36filのマルチフィラメントを用い、経糸密度76本/2.54cm、緯糸密度90本/2.54cmのタフタ織物を得た。
かかるタフタ織物を、常法の精錬、リラックス、染色した後、乾燥、セットして基布とした。
【0079】
また、保温性付与のために、下記の配合組成物を用意した。
[配合組成物の組成]
・アクリル系バインダー 60.0%
(固形分40%)
・ATO水分散液 5.0%
(固形分15%、ATOの熱伝導率50W/m・K、ATOの微粒子径50nm以下)
・水 35.0%
【0080】
次いで、105メッシュのグラビアロールを使用してタフタ織物の片面に上記配合組成物を付与した(ATO分0.8g/m、バインダー樹脂固形分24.2g/m)後、160℃で乾燥し、保温性布帛(保温性ポリ乳酸繊維構造体)を得た。グラビアロールの転写パターンは、全面が図2に示す縦横格子状パターン(塗布部面積比率50%、格子間の間隔10mm)で形成されるものを採用した。得られた保温性布帛において、保温性は布帛表面の温度で38.1℃、布帛裏面の温度で39.6℃、ソフト感○、経糸の繊維強度3.6cN/dTex、緯糸の繊維強度3.7cN/dTexとポリ乳酸繊維の繊維強度に優れており、また、保温性にも優れていた。
【0081】
[実施例2]
実施例1において、グラビアロールの転写パターンを、図3に示すような、塗布部面積比率が100%の全面パターンにした以外は実施例1と同じにした(ATO分1.6g/m、バインダー樹脂固形分48.4g/m)。得られた保温性布帛において、保温性は布帛表面の温度で38.5℃、布帛裏面の温度で39.8℃、ソフト感×と保温性にも優れていたがソフト感の点で不十分であった。
【0082】
[比較例1]
実施例1において、使用する繊維すべてを通常のポリエチレンテレフタレートに変更すること以外は実施例1と同様にした。得られた保温性布帛において、保温性は布帛表面の温度で38.2℃、布帛裏面の温度で39.2℃、ソフト感○、経糸の繊維強度3.6cN/dTex、緯糸の繊維強度3.7cN/dTexと、保温性の点で実施例1よりも劣るものであった。
【0083】
[比較例2]
燐酸エステル金属塩として、アルミニウムビス(2,2’―メチレンビス(4,6−ジ第3ブチルフェニル)ホスフェート)ハイドロオキサイド(株式会社ADEKA(旧:旭電化工業株式会社)製アデカスタブNA−21)を0.5重量部用いる以外は実施例1と同じ操作を行ったところ、紡糸の際に昇華物が激しく発生し、紡糸することが困難であった。
【0084】
[比較例3]
実施例1において、リン酸エステル金属塩の含有量を0重量部に変更すること以外は実施例1と同様にした。得られた織物において、織物に含まれるポリ乳酸繊維の繊維強度強度は経糸1.8cN/dTex、緯糸1.8cN/dTexであった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、優れた保温性を有するだけでなく、繊維構造体に含まれるポリ乳酸繊維が優れた強度を有する保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法、および該製造方法により得られた保温性ポリ乳酸繊維構造体、および該保温性ポリ乳酸繊維構造体を用いてなる繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】実施例において、ステレオ化率(Sc率)を求めるための赤道方向の回折強度プロファイルの一例を示す。
【図2】実施例1で用いた縦横格子状パターンの模式図である。なお、黒色部が塗布部を示す。
【図3】実施例2で用いた全面に塗布されたパターンの模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸繊維を含むポリ乳酸繊維構造体に赤外線吸収剤を付着させる保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法であって、前記ポリ乳酸繊維が、(i)ポリL−乳酸(A成分)、(ii)ポリD―乳酸(B成分)および(iii)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の下記式(1)または(2)で表される燐酸エステル金属塩(C成分)を含有するポリ乳酸組成物からなることを特徴とする保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法。
【化1】

式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【化2】

式中、R、RおよびRは、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【請求項2】
前記ポリ乳酸組成物が、ポリL−乳酸成分(A成分)とポリD−乳酸成分(B成分)との合計100重量部当たり0.1〜5重量部のカルボキシル末端封止剤を含有してなる、請求項1に記載の保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリ乳酸繊維構造体に他の繊維としてポリエステル繊維が含まれる、請求項1または請求項2に記載の保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法。
【請求項4】
前記ポリ乳酸繊維構造体が織物または編物である、請求項1〜3のいずれかに記載の保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法。
【請求項5】
前記赤外線吸収剤がアンチモンドープ酸化錫またはスズドープ酸化インジュームからなる赤外線吸収剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法。
【請求項6】
前記赤外線吸収剤の付着量が繊維構造体に対し0.02〜50gr/mの範囲内である、請求項4に記載の保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法。
【請求項7】
前記赤外線吸収剤を、ポリ乳酸繊維構造体の少なくとも一面に、塗布部と非塗布部とを有しかつ塗布部が非塗布部を取り囲んで連続するパターンで付着させる、請求項4に記載の保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法。
【請求項8】
前記のパターンが格子状パターンである、請求項7に記載の保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法。
【請求項9】
ポリ乳酸繊維構造体の1面にのみ、赤外線吸収剤を付着させる、請求項4に記載の保温性ポリ乳酸繊維構造体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載された製造方法により製造された保温性ポリ乳酸繊維構造体。
【請求項11】
前記ポリ乳酸繊維構造体に含まれる前記ポリ乳酸繊維繊維の繊維強度が2.3cN/dtex以上である、請求項10に記載の保温性ポリ乳酸繊維構造体。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の保温性ポリ乳酸繊維構造体を用いてなる、スポーツ衣料、インナー衣料、紳士衣料、婦人衣料からなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−215685(P2009−215685A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63511(P2008−63511)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】