説明

保湿組成物

本発明は、水中油型または油中水型エマルションの形態の、グリセロール、ワセリンおよび液体パラフィンの組合せを有効成分として含んでなる、局所的使用用保湿組成物に関する。本発明はまた、アトピー性皮膚炎、魚鱗癬症状および乾癬などのある種の皮膚病に伴う乾燥性の皮膚症状を処置するための薬剤の製造のためのその使用;小型の表在性熱傷を処置するための薬剤の製造のためのその使用;およびアトピー性皮膚炎に罹患している患者に見られる湿疹発作を予防および/または治療する、および/またはその頻度および強度を軽減するための薬剤の製造のためのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は罹患した皮膚のバリア機能に関連する病態および症状の処置の分野に関する。
【0002】
表皮は、恒久的に更新される、外胚葉起源の層状上皮である。
【0003】
それは脱水、機械的応力およびある種の病原体の攻撃から身体を保護する。
【0004】
それは90%を超えるケラチノサイト、また、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞およびメラノサイト、のいくつかの細胞種からなる。
【0005】
内層から外層へ向かって、そのケラチノサイトが、表皮の自己再生を保証する極めて高い増殖能を有する細胞層である基底層、次に、基底上層(顆粒層、有棘層)、最後に角質層(SC)の、形態学的性質と細胞組成が異なるいくつかの層が区別可能である。
【0006】
皮膚の基本的機能の1つは、一方で環境からの真菌、細菌およびアレルゲンの表皮透過、他方で水分の喪失に対抗することにより、身体と外界の媒体の間のバリアを保証することである。
【0007】
バリア機能の質は、ヒトにおいては、不感性水分喪失と水和速度の測定によって、マウスにおいては、脱水による胎児致死、皮膚の色素透過性または体重の低下によって、in vivoで評価される。
【0008】
細胞外脂質セメントならびに角質層のあらゆる細胞要素、およびケラチノサイトの増殖と分化の間の平衡の健全性は、機能的な表皮バリア機能の維持に必須である。
【0009】
pH勾配は種々の酵素の活性を調節し、従って、バリアの平衡に寄与する。
【0010】
顆粒層のラメラ体の分泌を調節することにより、カルシウムイオン濃度は角質層の細胞外セメントの組成、従って、表皮バリアの平衡に影響を及ぼす(Lee et al., Calcium and potassium are important regulators of barrier homeostasis in murine epidermis, J. Clin Invest, 89, 530-538, 1992)。
【0011】
表皮の目に見える層の70%から、SC下層の30%、そして表皮の最も外側の細胞層の15%までにわたる水勾配の存在(Warner et al., Electron probe analysis of human skin: determination of the water concentration profile, J. Invest Dermatol, 90, 218-224, 1988)は、顆粒層と角質層の間の接合部にいくらかの水が保持されていることを示唆する。
【0012】
角質層における水の機能の1つは、皮膚の柔軟性と正常な落屑に必要な酵素的加水分解反応を可能とすることである。SC内に存在する水分量が限界閾値を下回れば、酵素反応が乱れ、角質細胞の接着および皮膚表面における細胞の蓄積が起こる。これが乾燥の外観と皮膚のかゆみ産み出し、剥離し、剥がれ落ちる。
【0013】
循環血液からの経皮流による水の供給と皮膚のバリア機能を働かせる表皮水の保持、の2つの減少に基づく。しかしながら、水分喪失に関するバリアは絶対的なものではない。角質層の外部媒体と内部媒体の間の水交換の正常な動きは、TEWL(transepidermal water loss)(経表皮水分喪失量)と呼ばれ、不感性水分損失の一部を構成する。
【0014】
皮膚のバリア機能は、集団中に最も広がっているほとんどの皮膚病において影響を受けており、炎症成分が伴っていることが多い(乾癬、アトピー性皮膚炎、魚鱗癬(ichtyoses)、皮膚乾燥症など)。皮膚のバリア機能はまた、時間(皮膚の老化)や環境の作用(紫外線、湿度レベル、公害、火傷)に応答した多くの病状でも影響を受ける。
【0015】
慢性的または急性的なバリア機能の乱れは、身体を外界からの攻撃または脱水に対してより敏感にする。それは落屑の乱れや過剰増殖に結びつけることができる(Jackson et al., Pathobiology of the stratum corneum, West J. Med, 158, 279-285, 1993)。
【0016】
特許出願FR2847467は、皮膚バリアの適切な機能に影響を及ぼす皮膚および/または粘膜の予防および/または治療を目的とした化粧用組成物を製造するための、オキシステロール7α−ヒドロキラーゼの活性の少なくとも1つのモジュレーターの使用に関するものである。
【0017】
特許出願FR2831443は、皮膚のバリア機能の改善を目的とした組成物を製造するための、イチョウ(Gingko biloba)またはオリーブ(Olea europaea)の少なくとも1つの抽出物の使用に関するものである。
【0018】
特許出願FR2905857は、皮膚乾燥を水和する、かつ/または皮膚乾燥から保護するためのイナゴマメ(carob pulp)の抽出物を含んでなる組成物の使用に関連する。
【0019】
影響を受けた皮膚のバリア機能に関連する病態および症状の処置の必要がある。
【発明の開示】
【0020】
驚くべき、予期されない方法において、本発明者らは、水中油型または油中水型エマルションの形態の、グリセロール、ワセリンおよび液体パラフィンの組合せが乾燥性の皮膚症状を処置し得ることに着目した。
【0021】
発明者らは、この組合せが皮膚バリアを保護的機能的状態に回復させることを実証した。本発明者らは、誘導性皮膚脱水のex vivo皮膚モデルを用いることにより、この組合せの水和活性およびその後の皮膚バリア機能の改善を評価した。さらに、本発明者らは、定量的PCRおよび免疫組織化学により、表皮バリア機能の恒常性に関与する可能性のある分子表皮マーカーの発現を調べた。
【0022】
本発明者らはまた、in situザイモグラフィーによりセリンプロテアーゼ活性を、また、蛍光プローブを用いて皮膚バリアの機能性を追跡した。これらの結果は、水中油型または油中水型エマルションの形態の、グリセロール、ワセリンおよび液体パラフィンの組合せがセリンプロテアーゼ活性を回復させ、ストレス誘導性の炎症を抑制することを示す。
【0023】
本発明者らはまた、この組合せにおいて特定のワセリンを選択することが上の結果を達成するのに有利であることを実証した。密封剤(occlusive agent)および保湿剤としてのワセリンは、この組成物に特に重要なものである。ワセリンは、実際に皮膚上に保護フィルムを形成することにより、影響を受けたバリア機能の欠陥を埋め合わせる助けをする。皮膚上に形成されるフィルムの量は、製造において用いるワセリンの流体学的特性に極めて強く依存する。
【0024】
よって、本発明は、水中油型または油中水型エマルションの形態の、グリセロール、ワセリンおよび液体パラフィンの組合せを有効成分として含んでなる局所用組成物を目的とする。
【0025】
本発明において「有効な組合せ」とは、水中油型または油中水型エマルションの形態の、グリセロール、ワセリンおよび液体パラフィンの組合せを意味する。
【0026】
有利には、このグリセロール、ワセリンおよび液体パラフィンは「欧州薬局方」第6版により記載され、管理された基準を有する。
【0027】
有利には、この有効な組合せのワセリンは、35〜70℃、好ましくは51〜57℃、特に好ましい様式では約54℃の滴点を有する。滴点は、「欧州薬局方」第6版に記載されている2.2.17法に従って測定される。
【0028】
有利には、この有効な組合せのワセリンは、175 1/10mm〜195 1/10mm、好ましくは約185 1/10mmの稠度(25℃におけるコーン貫入)を有する。
【0029】
有利には、この有効な組合せのワセリンは、100℃において4cSt〜5cSt、好ましくは、100℃において約4.8cStの粘度を有する。
【0030】
有利には、この有効な組合せのワセリンは、1%テトラメチルシラン(TMS)対照に対するその面積が4〜8である、24.55ppmのピークを含んでなる、炭素−13(13C)の500MHz NMR分光スペクトルを有する。
【0031】
本発明の組成物では、この有効な組合せは、組成物の総重量に対して10〜50重量%、優先的には20〜30重量%の割合で存在し;グリセロール濃度は組成物の総重量に対して5〜30重量%、優先的には10〜20重量%、特に好ましい様式では約15重量%であり、ワセリン濃度は組成物の総重量に対して3〜20重量%、優先的には5〜10重量%であり、特に好ましい様式では約8重量%であり、液体パラフィン濃度は組成物の総重量に対して0.5〜5重量%、優先的には1〜3重量%、特に好ましい様式では約2重量%である。
【0032】
水相において、水は組成物の総重量に対して30〜80重量%である。
【0033】
有利には、本発明の組成物は、組成物の総重量に対して約15重量%のグリセロール、約8重量%のワセリンおよび約2重量%の液体パラフィンからなる。
【0034】
本発明による皮膚科組成物は典型的な皮膚科適合性形剤をさらに含んでなる。
【0035】
本発明による皮膚科組成物は、油中水型(W/O)または水中油型(O/W)エマルションとして、例えば水中水中油型(W/O/W)エマルションもしくは油中水中油型(O/W/O)などのエマルション多相エマルションの形態で、または水分散液もしくは脂肪分散液、ゲルもしくはエアゾールの形態で製造することができる。
【0036】
皮膚科的に適合する賦形剤は、クリーム、ローション、ゲル、ポマード、エマルション、マイクロエマルジョン、スプレーなどの形態で局所適用用の組成物を得るのに当業者に公知のもののうちいずれの賦形剤であってもよい。
【0037】
本発明の組成物は特に、乳化剤、増粘剤、ゲル化剤、水固定剤(water fixing agents)、展着剤、安定剤、色素、香料および保存剤などの添加剤および製剤補助剤を含み得る。
【0038】
好適な乳化剤としては、ステアリン酸、トロラミンおよびステアリン酸PEG−40が挙げられる。
【0039】
好ましくは、本発明の組成物は、組成物の総重量に対して約5重量%の乳化剤を含む。
【0040】
有利には、本発明の組成物は、組成物の総重量に対して1〜5重量%の、好ましくは約3重量%のステアリン酸を含む。
【0041】
有利には、本発明の組成物は、組成物の総重量に対して0〜2重量%の、好ましくは約0.5重量%のトロラミンを含む。
【0042】
有利には、本発明の組成物は、組成物の総重量に対して0〜2重量%の、好ましくは約0.5重量%のステアリン酸PEG−40を含む。
【0043】
好適な増粘剤としては、モノステアリン酸グリセロールおよびPEG600が挙げられる。
【0044】
好ましくは、本発明の組成物は、組成物の総重量に対して約5重量%の増粘剤を含む。
【0045】
有利には、本発明の組成物は、組成物の総重量に対して2〜10重量%の、好ましくは約5重量%のモノステアリン酸グリセロールを含む。
【0046】
有利には、本発明の組成物は、組成物の総重量に対して2〜10重量%の、好ましくは約5重量%のPEG600を含む。
【0047】
好適な保存剤としては、パラヒドロキシ安息香酸プロピル、クロロクレゾールが挙げられる。
【0048】
好ましくは、本発明の組成物は、組成物の総重量に対して約0.1%の保存剤の含む。
【0049】
有利には、本発明の組成物は、組成物の総重量に対して0.05〜1重量%の、好ましくは約0.1%のパラヒドロキシ安息香酸プロピルを含む。
【0050】
好適な展着剤としては、ジメチコンおよびポリジメチルシクロシロキサンが挙げられる。
【0051】
好ましくは、本発明の組成物は、組成物の総重量に対して約2重量%の展着剤を含む。
【0052】
有利には、本発明の組成物は、組成物の総重量に対して0.2〜2重量%の、好ましくは約0.5重量%のジメチコンを含む。
【0053】
有利には、本発明の組成物は、組成物の総重量に対して1〜3重量%の、好ましくは約2.5重量%のポリジメチルシクロシロキサンを含む。
【0054】
好適な水固定剤としては、ポリエチレングリコール、好ましくはポリエチレングリコール600が挙げられる。
【0055】
好ましくは、本発明の組成物は、組成物の総重量に対して約8重量%の水固定剤を含む。
【0056】
有利には、本発明の組成物は、組成物の総重量に対して2〜10重量%の、好ましくは約5重量%のポリエチレングリコールを含む。
【0057】
本エマルションの水相に用いられる水は、蒸留水または皮膚化粧特性を有する湯であり得る。
【0058】
有利には、本発明による組成物は、
約15%のグリセロール、
約8%のワセリン、
約2%の液体パラフィン、および賦形剤として
約1〜5%のステアリン酸、
約2〜10%のモノステアリン酸グリセロール、
約1〜3%のポリジメチルシクロシロキサン、
約0.2%〜2%のジメチコン、
約2〜10%のポリエチレングリコール600、
約0〜2%のトロラミン、
約0.05〜1%のパラヒドロキシ安息香酸プロピル、
100%までの水
からなる。
【0059】
本発明はまた、アトピー性皮膚炎、魚鱗癬症状および乾癬などのある種の皮膚病に伴う乾燥性の皮膚症状を処置するための薬剤の製造のための、本発明による組成物の使用を目的とする。
【0060】
本発明はまた、小型の表在性熱傷を処置するための薬剤の製造のための、本発明による組成物の使用を目的とする。
【0061】
本発明はまた、アトピー性皮膚炎に罹患している患者に見られる湿疹発作を予防および/または治療する、および/またはその頻度および強度を軽減するための薬剤の製造のための、本発明による組成物の使用を目的とする。
【0062】
以下の実施例により本発明を説明する。
【実施例】
【0063】
実施例1:調剤
組成物A
15gのグリセロール、
8gのワセリン、
2gの液体パラフィン、
0.5gのトロラミン、
および賦形剤として、ステアリン酸、モノステアリン酸グリセロール、ポリジメチルシクロシロキサン、ジメチコン、ポリエチレングリコール(PEG)600、パラヒドロキシ安息香酸プロピル、
100gまでの水。
【0064】
組成物A’
15gのグリセロール、
8gのワセリン、
2gの液体パラフィン、
1.5gのステアリン酸、
5gのモノステアリン酸グリセロール、
1.5gのポリジメチルシクロシロキサン(polydimethylycyclosiloxane)、
0.5gのジメチコン、
5gのポリエチレングリコール600、
0.15gのトロラミン、
0.1gのパラヒドロキシル安息香酸プロピル
100gまでの水。
【0065】
組成物B
15gのグリセロール、
8gのワセリン、
2gの液体パラフィン、
0.5gのステアリン酸PEG−40、
および賦形剤として、ステアリン酸、モノステアリン酸グリセロール、ポリジメチルシクロシロキサン(polydimethylycyclosiloxane)、ジメチコン、ポリエチレングリコール(PEG)600、クロロクレゾール、
100gまでの水。
【0066】
組成物B’
15gのグリセロール、
8gのワセリン、
2gの液体パラフィン、
3gのステアリン酸、
5gのモノステアリン酸グリセロール、
2gのポリジメチルシクロシロキサン、
0.5gのジメチコン、
0.1gのトロラミン、
3gのポリエチレングリコール600、
0.5gのステアリン酸PEG−40
0.075gのクロロクレゾール、
100gまでの水。
【0067】
実施例2:誘発性皮膚脱水の調節の分析
本発明者らは、ここで、誘導性皮膚脱水のex vivo皮膚モデルを使用することにより、組成物Aの水和活性と、その後の皮膚のバリア機能の改善を評価する。
【0068】
本発明者らは、定量的PCRおよび免疫組織化学により、示差的分子表皮マーカーの発現を観察する。
【0069】
本発明者らはまた、in situザイモグラフィーによりセリンプロテアーゼ酵素の活性を、また、ウエスタンブロット法により角質デスモソームタンパク質の分解を追跡する。
【0070】
皮膚バリアの機能性を、蛍光プローブを使用することにより分析する。
【0071】
材料および方法
I.組織モデル
1.皮膚外植片の処理
実験室は、形成手術(乳房縮小術)の処置廃棄物から皮膚サンプルを回収する。これらのサンプルの使用は、フランス文部省に対して出された「ピエール・ファーブルグループの研究プログラムの要件を満たすヒト身体要素の保存および処理のための活動に関する声明」の範囲内にある。
【0072】
これらのサンプルをPBS浴で10回洗浄した後、パンチで2cm系のディスクに切り取る。これらの皮膚外植片をペトリ皿のグリッドに拡げ、処置領域の範囲を定めるためにその皮膚に1cm径のリングを埋める。
【0073】
2.モデルの速度論
この誘導性脱水モデルでは、皮膚は、細胞培養フード下、蓋のない皿の中で2時間乾燥させた後、有効な組合せ有り、または無しの局所処置のためにインキュベーター内に2時間置く。脱水ストレスの陰性対照は、蓋をしたペトリ皿にて同じ速度で行う。
【0074】
3.分析用サンプル
処置後、RNAの発現を分析するために6mm径の生検を2つ採取し、組織学のために4mm径の生検を1つ、Tissue Tek(登録商標)(Sakura Finetek)に封入する。タンパク質分析のため、真皮から表皮を分離するために、皮膚を60℃の湯浴中で5分間、次いで4℃浴で2時間熱ショックに曝す。
【0075】
これらの生検および表皮を液体窒素中で凍結させ、−80℃で分析まで保存する。
【0076】
II.定量的PCRによるトランスクリプトーム分析
皮膚生検を、予め液体窒素で予冷した乳鉢で摩砕し、供給者の奨励に従い、RNeasy(登録商標)(QIAGEN)の手段により、RNAを抽出する。次に、このRNAをRNA 6000 Nano LabChip(登録商標)にてBioanalyzer 2100(登録商標)(Agilent Technologies)で分析する。cDNAは1μgのRNAから、オリゴdTプライマーとともにAccess RT−PCR Core Reagent(登録商標)キット(Promega)を用いて行った逆転写酵素反応によって得る。遺伝子発現レベルは、95℃での変性(15秒)および60℃での伸長(1mm)を含んでなる40サイクルのプロトコールに従い、PCR iQ(商標)SYBR(登録商標)Super Green Mixキット(Biorad)を用いるIClycler iQ(登録商標)(Biorad)蛍光サーモサイクラーでの定量的PCRによって分析する。蛍光発光(インターカレーションするSYBR(登録商標)Green)と比例するPCR産物の蓄積をiCyclerソフトウエアを用いて、サイクルが終わるたびに可視化する。
【0077】
iClyclerバージョン3.1分析ソフトウエアにより、C(サイクル閾値)、すなわち、cDNA増幅を始めるサイクルの生値が得られる。数種の参照遺伝子の発現を、あるサンプルから他のものまで、最も安定な参照遺伝子の選択を可能とするGenormプログラムバージョン3.4を用いて、並行して分析する。次に、この遺伝子を参照として用い、ΔC=(着目するC遺伝子)−(C参照遺伝子)を算出することによって結果をノーマライズする。
【0078】
次に、誘導倍率(IF)を、処置ごとに、対応する対照条件に対して算出する。IF=2−ΔΔCT(ここで、ΔΔCT=(処置ΔCT)−(対照ΔCT))。mRNA発現は5人の異なる個体からの5回の実験で2回ずつ評価する。対照に対する誘導倍率が2より大きい場合には、その遺伝子の発現が誘導されているとみなされ、0.5より小さい場合には、その発現は抑制されているとみなされる。このモデルで引き起こされたストレスに対する応答に対する有効成分の効果は、下式:
ストレス応答阻害率%=100×(((ストレス有りのIF)−(ストレス無しの対照IF))−((処置有りのIF)−(ストレス無しの対照IF)))/((ストレス有りのIF)−(ストレス無しのIF))
を用いて算出された阻害率%によって評価する。
【0079】
本試験モデルと比較した際、「ストレス無しの対照」条件は、乾燥していない対照に相当し、「ストレス有り」の条件は、2時間乾燥させ、対照条件下(すなわち、局所処置無し)でさらに2時間経過した皮膚生検に相当し、最後に「処置有り」の条件は、2時間の乾燥を施した後に保湿剤で2時間局所処置を施した皮膚である。
【0080】
III.ウエスタンブロット法によるタンパク質発現分析
処置済みの表皮を、液体窒素で冷却した乳鉢で摩砕し、ROPA溶解バッファー(50mM Tris−HCl pH8;150mM NaCl;1% Triton X100;1% Na+デスオキシコレート;0.1%SDS;5mM EDTA;100mM DTT;プロテアーゼ阻害剤カクテル(P8340、SIGMA)にてタンパク質を抽出する。
【0081】
次に、これらのタンパク質をDC−DCタンパク質アッセイ(Biorad)法によってアッセイし、ウエスタンブロット法によって分析する。各条件につき、25〜40μgの全タンパク質を、7.5%ポリアクリルアミドTris−グリシンゲルにのせる。このタンパク質混合物を、Mini Protean IIシステム(Biorad)を用いた電気泳動によって分離し、タンパク質をPVDF膜(Hybond−P、Amersham)に転写する。着目するタンパク質を、特異的抗体およびECL+キット(Amersham)によって現像する。タンパク量および分解型の割合を、β−アクチン(参照タンパク質)に対してノーマライズした後にImage Master TotalLabバージョン1.11ソフトウエア(Amersham)を用いて算出する。
【0082】
IV.組織学的技術
皮膚生検をCryotome(Leica CM 3050s)で厚さ5μmの切片とし、観察用スライド(Starfrost(登録商標))にのせる。
【0083】
1.免疫組織化学
凍結切片を20℃のアセトン中で10分固定した後、PBSで再水和させ、その後、免疫化学標識により分析する。固定および再水和の後、皮膚切片を3%BSA溶液で飽和させ、着目するタンパク質に対する一次抗体とともに1時間インキュベートする。次に、それらを、Alexa−488またはAlexa−555蛍光色素と結合させた二次抗体とともに1時間インキュベートし、最後に、核を染色するためのDAPIを含有するMowiol中に包埋する。
【0084】
2.in situザイモグラフィー
−20℃のアセトン中で10分固定した後、切片を洗浄溶液(水中1%のTween 20)中ですすぎ、蛍光団(二次)と結合させた、着目する酵素の特異的基質を含有する溶液とともに37℃で2時間インキュベートする。酵素が活性化されると蛍光団が切断され、蛍光シグナルを発し、これを顕微鏡で観察することができる。その後、標識されたスライドを、エピ蛍光を備えた顕微鏡(Nikon Eclipse 50i)またはZeiss Axiovert 100倒立共焦顕微鏡下で観察する。
【0085】
3.蛍光プローブ
脱水処置の後、皮膚外植片をさらに1時間、37℃のインキュベーターにて、HBSSバッファー中1mMのルシファー・イエローカルボキシヒドラジドリチウム塩蛍光プローブ(Invitrogen)とともにインキュベートする。次に、皮膚をHBSS浴中で1分間すすいだ後、4mm径の生検を採取し、Tissue TekR(登録商標)樹脂(Sakura Finetek)(Matsuki et al., 1998)に包埋する。その後、皮膚を切片にし、核をDAPIで染色し、それらのスライドを上記のように、蛍光顕微鏡下、450nmの波長で観察する。
【0086】
結果
I.誘導性の乾燥によるバリア機能破壊モデル
1.蛍光プローブによる皮膚の透過性の測定
最初の分析は、皮膚バリア機能の基本的機能パラメーター、すなわち、表皮の上層の透過性を調べることからなった。乾燥実験の後に皮膚を蛍光プローブ(ルシファー・イエロー)とともにインキュベートすると、皮膚透過性の調節の同定が可能であった。対照条件においては、標識は極めて弱く、表面的なものであり、プローブは角質層をあまり透過せず、すすぎの間に除去される。2時間乾燥させた後、標識は角質層のより深層に見られる。乾燥は皮膚の透過性を増し、そのバリア機能を低下させる。2時間乾燥させた後に組成物Aで局所処置すると、プローブに対するSCの不透性が回復し、対照条件下と同様に、標識はこの場合も弱く、表面的なものとなる。従って、水和処置は、乾燥した皮膚に、また、この組織モデルで観察可能な皮膚のバリア機能に修復効果を持つと結論付けることができる。
【0087】
2.トランスクリプトームおよびプロテオームの調節に対する効果
表皮バリア機能の恒常性に関与する可能性ある種々の遺伝子の発現を、乾燥モデルの種々のストレスまたは処置条件下、定量的PCRにより測定した。免疫組織化学による分析により、例えば密接に結合しているなど、位置に関する特定のタンパク質の発現の再編成が示された。角質デスモソームタンパク質の分解をウエスタンブロット法により分析した。
【0088】
これらの種々のアプローチを用いて調べた標的をそれらの生理学的役割によって分類した(表1参照)。この研究の目標は、観察可能なストレスに対する応答の観察および組成物Aの局所適用によるストレス作用の矯正である。
【0089】
実施された研究によれば、特定の標的の種々の調節レベルも示した。従って、本発明者らは、落屑酵素は転写レベルでは、より詳しくはそれらの活性レベルでは調節されなかったと言える(結果3参照)。
【0090】
【表1】

【0091】
3.落屑に関連する酵素活性の測定
セリンプロテアーゼ活性を脱水モデルにてin situザイモグラフィーにより評価し、乾燥2時間後の対照条件下と、乾燥2時間の後に組成物Aとともに2時間インキュベートした後に共焦顕微鏡下で観察した。標識は対照条件下でより強く、正常な強い活性に相当する。乾燥2時間後、この標識は低下し、角質層に沿っては無視できるほどになるが、組成物Aとともに2時間インキュベートした後には、その強度は増し、活性の局在が認められる。乾燥の作用は酵素活性を低下させ、乱すことである。これらの結果は、乾燥で本発明者らが観察した角質デスモソームタンパク質の分解の低下と一致し、開発されたモデルで見られた落屑の減少に対する乾燥の影響が確認される。組成物Aは脱水した皮膚の酵素活性を回復させることができ、落屑の恒常性の回復に対する本組成物の効果が確認される。
【0092】
これらの結果は、分子標的の発現レベルの回復を可能とし、その発現が誘発される皮膚脱水のストレスにより増すことを示している。組成物Aはセリンプロテアーゼ活性を回復させる。さらに、組成物Aの局所適用により、ストレスにより誘発される炎症の抑制が少なくなる。
【0093】
これらの結果は全体として、組成物Aの局所適用が皮膚のバリア機能を回復させ、???を限定することを示唆する。
【0094】
実施例3:Syntadex AワセリンのNMRによる特性決定
炭素−13の500MHz NMRによる測定のために5gのサンプルを変性クロロホルムに溶解させる。
【0095】
Syntadex Aワセリン(Syntheal)は、特に、1%テトラメチルシラン(TMS)対照に対するその面積が4〜8である、24.55ppmのピークを含んでなる、特徴的な炭素−13の500MHz NMR分光スペクトルを示す。
【0096】
この同じピークが組成物Aに見られた。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】Syntadex Aワセリン(Syntheal)および組成物Aの5gサンプルの、炭素−13の500MHz NMRスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、グリセロール、ワセリンおよび液体パラフィンの組合せを水中油型または油中水型エマルションの形態で含んでなる、局所用組成物。
【請求項2】
ワセリンが、1%テトラメチルシラン(TMS)対照に対するその面積が4〜8である、24.55ppmのピークを含んでなる、炭素−13の500MHz NMR分光スペクトルを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ワセリンが、51〜57℃、特に54℃の滴点を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ワセリンが175 1/10mm〜195 1/10mmの稠度(25℃におけるコーン貫入)を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ワセリンが約185 1/10mmの稠度(25℃におけるコーン貫入)を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
ワセリンが、100℃において4cSt〜5cStの粘度を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
ワセリンが、100℃において約4.8cStの粘度を有する、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
約15%のグリセロール、約8%のワセリンおよび約2%の液体パラフィンを含んでなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
ステアリン酸、モノステアリン酸グリセロール、ポリジメチルシクロシロキサン、ジメチコン、ポリエチレングリコール600、トロラミン、パラヒドロキシ安息香酸プロピル、クロロクレゾール、ステアリン酸PEG−40、および蒸留水からなる群から選択される1種以上の賦形剤を含んでなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
アトピー性皮膚炎、魚鱗癬症状および乾癬などの特定の皮膚病の皮膚乾燥症状を処置するための薬剤を製造するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項11】
小型の表在性熱傷を処置するための薬剤の製造のための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項12】
アトピー性皮膚炎に罹患している患者に見られる湿疹発作を予防または治療する、および/またはその頻度および強度を軽減するための薬剤の製造のための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項13】
有効成分としてグリセロール、ワセリンおよび液体パラフィンの組合せを水中油型または油中水型エマルションの形態で含んでなる局所用組成物を製造するための、51℃〜57℃の滴点を有するワセリンの使用。
【請求項14】
有効成分としてグリセロール、ワセリンおよび液体パラフィンの組合せを水中油型または油中水型エマルションの形態で含んでなる局所用組成物を製造するための、1%テトラメチルシラン(TMS)対照に対するその面積が4〜8である、24.55ppmのピークを含んでなる、炭素−13の500MHz NMR分光スペクトルを有するワセリンの使用。

【図1】
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【公表番号】特表2011−520850(P2011−520850A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508948(P2011−508948)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056021
【国際公開番号】WO2009/138517
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(500166231)ピエール、ファブレ、デルモ‐コスメティーク (30)
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE DERMO−COSMETIQUE
【Fターム(参考)】