説明

保護コーティングを有する自己巻き付き織物スリーブおよびその構築方法

細長い部材を経路付けし、摩耗、熱および他の環境条件に晒されることから細長い部材を保護するための自己巻き付き織物スリーブ、およびその構築方法である。スリーブは、隣接する糸と糸との間に隙間を有する織り合わせた糸から構築された細長い壁を有する。糸のうちの少なくとも1本は、スリーブの長手方向軸の周りでカールする自己巻き付き壁として壁を形成するように、ある温度で熱形成される。壁は、細長い部材を受ける概して管状の空隙を提供する内面を有する。壁は、硬化した層をその上に備える外面も有する。硬化した層は、糸が自己巻き付き構成に熱形成される上記ある温度で硬化され、硬化した層は補助糸と補助糸との間の隙間を充填して、不浸透性の層を壁上に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本願は、2008年9月5日に出願された米国仮出願連続番号61/094,557の利益を主張し、米国仮出願連続番号61/094,557は、全文が引用によって本明細書に援用される。
【0002】
発明の背景
1.技術分野
この発明は、一般に、細長い部材を保護するためのスリーブに関し、より特定的には、自己巻き付き織物スリーブに関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術
摩耗、流体および熱の影響からワイヤを保護するために、自動車、航空機または航空宇宙機などにおいてワイヤおよびワイヤハーネスを保護スリーブで包むことは公知である。所望の保護を達成するために、保護スリーブは複数の層を有していてもよく、それらの層のうちのいくつかは特に、異なるタイプの保護のために設けられている。たとえば、耐水性を目的として、たとえばプラスチック材のシートである1つの層が設けられていてもよく、耐摩耗性を目的として別の層が設けられていてもよく、熱条件からの保護を目的として、たとえば不織層であるさらに別の層が設けられていてもよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
残念ながら、上述の多層スリーブは、さまざまな環境条件から好適に保護し得るが、一般的に言って嵩張り、それによって、比較的重く、限られた柔軟性を示す。これは、いくつかの用途、特に密な巻線エリアを通る経路付け(routing)を必要とする用途、ならびに、たとえば航空機および航空宇宙の用途などの重量制限を有する用途では、厄介であることがわかる。また、多層スリーブは一般的に言ってコストが増大する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
この発明の一局面は、細長い部材を経路付けし、流体に晒されることなどの、摩耗、熱および他の環境条件に晒されることから細長い部材を保護するための自己巻き付き織物スリーブを提供する。スリーブは、隣接する糸と糸との間に隙間を有する織り合わせた糸から構築された細長い壁を有する。糸のうちの少なくとも1本は、スリーブの長手方向軸の周りでカールする自己巻き付き壁として壁を形成するように、ある温度で熱形成される。壁は、細長い部材を受ける概して管状の空隙を提供する内面を有する。壁は、硬化した層をその上に備える外面も有する。硬化した層は、糸が自己巻き付き構成に熱形成される上記ある温度で硬化され、硬化した層は、補助糸と補助糸との間の隙間を充填して、液体不浸透性の層を壁上に形成する。
【0006】
この発明の別の局面に従って、細長い部材を経路付けしかつ保護するための自己巻き付き織物スリーブを構築する方法を提供する。この方法は、複数の糸を織り合わせて、対向する外面および内面を有する壁を形成するステップを含む。次いで、液体コーティングを外面に施す。さらに、内面が管状の空隙を提供する状態で自己巻き付き構成をある温度で取るように壁を熱形成する。さらに、熱形成ステップ中に上記ある温度で液体コーティングを硬化させて、流体不浸透性の層を壁の外面上に提供する。
【0007】
これらのおよび他の局面、特徴および利点は、以下の現状の好ましい実施例および最良の形態の詳細な説明、添付の特許請求の範囲および添付の図面に鑑みて、当業者に容易に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】中の細長い部材を担持しかつ保護する、この発明の一局面に従って構築された織物自己巻き付きスリーブの概略的な部分斜視図である。
【図1B】中の細長い部材を担持しかつ保護する、この発明の別の局面に従って構築された織物自己巻き付きスリーブの概略的な部分斜視図である。
【図1C】中の細長い部材を担持しかつ保護する、この発明のさらに別の局面に従って構築された織物自己巻き付きスリーブの概略的な部分斜視図である。
【図2】図1のスリーブの概略的な拡大部分断面図である。
【図2A】この発明の別の局面に従って構築されたスリーブの、図2と類似の図である。
【図3】この発明のさらに別の局面に係る、織物自己巻き付きスリーブを構築する方法を示すプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
好ましい実施例の詳細な説明
より詳細に図面を参照して、図1は、この発明の一局面に従って構築された、以下でスリーブ10と称される織物自己巻き付きスリーブの概略図である。スリーブ10は、ワイヤまたはワイヤハーネス14などの細長い部材を経路付けし、たとえば流体に晒されることなどの、摩耗、熱および他の環境条件に晒されることから細長い部材を保護するための細長い自己巻き付き壁12を有する。細長い壁12は、外面15と内面17とを有し、壁12は、少なくとも1本、好ましくは複数本の織り合わせた糸16から構築される。糸16のうちの少なくとも1本は、壁12にバイアスをかけて管状の自己巻き付き構成にするようにヒートセットされ、壁12が緩和した状態にあり、その自己巻き付き構成から壁12の巻きを戻すように外力が作用しているときには、内面17は、長手方向軸18の周りで自らカールして、取囲まれた管状の内部空隙20を提供する。空隙20は、細長い部材14を径方向に空隙20の中に容易に配置できるように、逆に言えば、点検中などには細長い部材14を空隙20から取外すことができるように、スリーブ10の長手方向軸18に沿って容易にアクセス可能である。スリーブ内の細長い部材14をさらに保護するために、図2によりよく示されるように、以下で層22と称される保護フィルムが外面15上に硬化される。層22は、耐摩耗性であり、たとえば水などの流体に対して不浸透性のバリアを提供する。また、層22は、約200度までの外部放射熱から細長い部材14を保護する。層22が提供する保護により、織り合わせた壁12の厚みを最小化でき、その結果、ワイヤ14に対する保護を強化しながら糸16のデニールおよび/または直径を減少させることができる。たとえば、糸16のデニールは、800デニール以下であり得る。したがって、スリーブ10は、摩耗、熱および流体からの保護を高め、同時に、製造の際に経済的であり、重量が減少する。
【0010】
長さ、直径および壁の厚みを含む任意の好適な大きさを有する壁12を構築できる。壁12は、両端で終端する、軸18に概して平行に延びる両側面24,26を有し、一端28が示されている。壁12が、一般に外部から加わる力がない、管状の自己巻き付き構成状態にあるときには、側面24,26は空隙20を周方向に完全に取囲むように少なくともわずかに互いに重なり合うことができ、そのため、壁12は、壁12の全周で、空隙20に入っているワイヤ14に対する保護を高める。側面24,26は、少なくとも部分的に空隙20を開放して露出させるように、外部から加わる力の下で互いに離れるように容易に伸縮可能である。したがって、ワイヤ14は、組立中は空隙20の中に容易に配置でき、点検中は空隙20から取外すことができる。外部から加わる力を解放すると、側面24,26は、与えられるバイアス下で、ヒートセットされた状態から、緩和した、重なり合っている自己巻き付きの位置に自動的に戻る。
【0011】
壁12は、マルチフィラメントおよび/またはモノフィラメント糸から構築されることができ、糸のうちの少なくとも1本以上はヒートセット可能である。たとえば、糸16のうちの1本以上は、約200度〜225度の温度でヒートセット可能な、たとえばポリフェニレンサルファイド(PPS)などのヒートセット可能なポリマー材料として提供されることができる。壁12は、所望の如く糸16から織ることができ(図1A)、編むことができ(図1B)、または撚り合わせることができる(図1C)。したがって、隙間32とも称される間隙が、隣接する糸16と糸16との間に元来形成される。隙間32は、壁12の厚みを通って延びており、そのため、外面15から内面17を通って空隙20に至る開放した通路を提供する。
【0012】
図3に示されるように、織り合わせた糸16で織物壁12を形成する際、撚り合わせ装置を用いようと、編み装置を用いようと、製織装置を用いようと、層22が壁12の外面15上に形成される。層22は、最初は、たとえば吹付け、はけ塗り、ディッピングまたはロールコーティングなどによって液体コーティングとして壁12の外面15上に施される。図2Aに示されるように、特にディッピングプロセスを用いて液体コーティングを織り合わせた糸16に施す場合には、内面17を覆うように層22′を形成することも可能である。液体コーティングは、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)などのフルオロカーボンポリマーとして提供され、ペンシルバニア州エルバーソンのウィットフォード・コーポレイション(Whitford Corporation)製のEterniTex67−002/D8436という名前で購入できる。液体コーティングは、フッ素の含有量が約65重量%であり、高分子固体の含有量が約18重量%〜22重量%である。液体コーティングを外面15に施す際に、液体コーティングは熱を加えることによって硬化される。与えられる熱は、液体コーティング中のポリマー粒子を溶解および合体させるのに十分であり、それによって、連続的な薄膜または層22を外面15上に形成するように液体コーティングを変換する。好ましくは、コーティングは、壁におけるPPS糸16を自己カール構成にヒートセットするために用いられる加熱プロセス中に硬化される。したがって、液体コーティングは、自己カール基板の中に壁12を形成するために用いられるのと同じ加熱プロセスにおいておよび同じ温度で、液体不浸透性のバリアとして層22を外面15上に形成するように硬化される。したがって、自己カールスリーブ10を形成するために用いられる製造プロセスは、経済的である。液体コーティングを硬化すると、不浸透性のバリアを形成する層22は、隙間32を完全に充填し、外面15から径方向に外向きに延びて、それによって、液体の浸入から空隙20を保護する能力を壁12に与える。また、層22が織り合わせた糸16から径方向に外向きに延びている状態で、層22は、完全に周方向に壁12の糸16を摩耗から保護する。層22は、隙間32を完全に充填するが、内面17に達する手前で止まるように形成されることができ、そのため、内面17は、層22なしでまたは実質的に層22なしで形成されることができる。その他の場合は、図2Aに示されるように、層22は、必要であれば、内面17と同一平面上に延びるようにまたは内面17を通り越して延びるように形成することも可能であり、それによって、内面17を覆い、織り合わせた糸16を完全に封入する。
【0013】
明らかに、上記の教示に鑑みて、本発明の多くの変形および変更が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲内で、この発明は具体的に説明したものとは異なる態様で実施してもよいことが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長い部材を経路付けしかつ保護するための自己巻き付き織物スリーブであって、
隣接する糸と糸との間に隙間を有する織り合わせた糸から構築された細長い壁を備え、前記糸のうちの少なくとも1本は、前記スリーブの長手方向軸の周りで前記壁にバイアスをかけて自己巻き付き壁にするように、ある温度で熱形成され、前記壁は、細長い部材を受ける概して管状の空隙を提供する内面と、外面とを有し、前記自己巻き付き織物スリーブはさらに、
前記壁の前記外面上に硬化した液体コーティングの層を備え、前記液体コーティングは、前記ある温度で硬化され、前記隙間を充填して、液体不浸透性の前記壁を提供する、自己巻き付き織物スリーブ。
【請求項2】
前記層は、前記外面から径方向に外向きに延びている、請求項1に記載の自己巻き付き織物スリーブ。
【請求項3】
前記内面は、前記層が実質的にない、請求項2に記載の自己巻き付き織物スリーブ。
【請求項4】
前記層は、前記内面から径方向に内向きに延びている、請求項2に記載の自己巻き付き織物スリーブ。
【請求項5】
前記糸のうちの前記少なくとも1本は、約200度〜225度の温度でヒートセット可能である、請求項1に記載の自己巻き付き織物スリーブ。
【請求項6】
前記液体コーティングは、約200度〜225度の温度で硬化可能である、請求項5に記載の自己巻き付き織物スリーブ。
【請求項7】
前記液体コーティングはフルオロカーボン重合体である、請求項6に記載の自己巻き付き織物スリーブ。
【請求項8】
前記壁は織られている、請求項1に記載の自己巻き付き織物スリーブ。
【請求項9】
前記壁は撚り合わされている、請求項1に記載の自己巻き付き織物スリーブ。
【請求項10】
前記壁は編まれている、請求項1に記載の自己巻き付き織物スリーブ。
【請求項11】
細長い部材を経路付けしかつ保護するための自己巻き付き織物スリーブを構築する方法であって、
対向する外面と内面との間に延びる、隙間を有する織り合わせた織物壁を形成するステップと、
液体コーティングを外面に施すステップと、
内面が管状の空隙を提供する状態で、ある温度で壁を自己巻き付き構成に熱形成するステップと、
熱形成ステップ中に、該ある温度で液体コーティングを硬化させるステップとを備える、方法。
【請求項12】
硬化ステップ中に不浸透性の層を外面上に形成するように液体コーティングを変換するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
隙間を不浸透性の層で充填し、不浸透性の層を内面上に形成するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
内面を前記不浸透性の層が実質的にないままにしておくステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
液体コーティングをフルオロカーボン重合体として提供するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
壁を織るステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
壁を撚り合わせるステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
壁を編むステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図2A】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−502196(P2012−502196A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526214(P2011−526214)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【国際出願番号】PCT/US2009/055969
【国際公開番号】WO2010/028201
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(503170721)フェデラル−モーグル パワートレイン インコーポレイテッド (32)
【氏名又は名称原語表記】Federal−Mogul Powertrain, Inc.
【住所又は居所原語表記】26555 Northwestern Highway, Southfield, Michigan 48034, U.S.A.
【Fターム(参考)】