説明

保護粘着フィルム

【課題】 高価なシリコーン系粘着剤を使用することなく、安価なアクリル系粘着剤を用いて、貼付時に気泡を巻き込み難く、濡れ性の良い保護粘着フィルムを提供する。
【解決手段】
粘着剤層の剥離速度−剥離曲線から得られる剥離力の上昇開始を規定する特性速度(V*)を3μm/s以上と高い値とすることで、粘着剤層中のアクリル共重合体分子鎖の運動速度が向上し、保護粘着フィルムが被着対象に貼り付く際に、粘着剤層中のアクリル共重合体分子鎖が保護粘着フィルムの貼り付け挙動に好適に追従できるため、手貼り等の貼り付けに際しても気泡の巻き込みを低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、デジタルカメラ、ゲーム機、カーナビゲーション、テレビなどのディスプレイ等の表面の傷や汚れ防止などに使用できる保護粘着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルカメラ、ゲーム機、カーナビゲーション、テレビなどのディスプレイ等の表面には、生産段階、輸送段階、使用段階において、表面の傷や汚れ等を防止するために、保護粘着フィルムが貼付されることがある。
【0003】
粘着フィルムの貼付方法として、一般に生産工場等においては、ロールを介した貼り付け機を用いて貼付する方法が用いられるが、貼り付け機を用いることが困難な微細箇所、湾曲面等には、人が手貼り貼付することが多い。また、小売店や一般消費者が貼付する場合も手貼りを行うことが多い。しかしながら、このような手貼りで貼付する場合は、気泡を巻き込むことが多く、貼付後の見栄えが低下することが多かった。
【0004】
手貼りにおいても、気泡を巻き込み難い保護用粘着フィルムとして、シリコーン系粘着剤を使用した粘着フィルムが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、シリコーン系粘着剤は高価であり、適用できる用途が限定される問題があり、安価で貼付時に気泡を巻き込むことのない保護粘着フィルムが求められていた。
【0005】
【特許文献1】2003−147296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高価なシリコーン系粘着剤を使用することなく、安価なアクリル系粘着剤を用いて、貼付時に気泡を巻き込み難く、濡れ性の良い保護粘着フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の保護粘着フィルムは、基材と粘着剤層とを有し、
粘着剤層がアクリル系共重合体を含有するアクリル系粘着剤組成物からなり、
粘着剤層表面に、厚さ25μmのPETフィルムを、2kgローラーを用いて5mm/sの圧着速さで圧着回数1往復にて圧着し、温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中に1時間静置した後、180°方向へ剥離した際の剥離力を剥離速度毎に測定し、下式(1)により剥離速度−剥離力曲線を相関させた際の特性速度(V*)が、3μm/s以上である。
【0008】
【数1】


[G:剥離仕事(J/m)、G;接着仕事(J/m)、F;剥離力(N)、l;引き剥がすPETフィルムの幅(m)、V;剥離速度(m/s)、α;剥離力の速度勾配を表す定数(0.6)]
【0009】
一般にアクリル系粘着剤は、シリコーン系粘着剤やウレタン系粘着剤に比べて濡れ性が悪いため、アクリル系粘着剤を使用した保護粘着フィルムを被着対象に貼り付ける際には粘着剤の濡れが貼り付けに好適に追従できず、気泡を巻き込み易くなる。
【0010】
本発明の保護粘着フィルムは、粘着剤層の剥離速度−剥離曲線から得られる剥離力の上昇開始を規定する特性速度(V*)を3μm/s以上と高い値とすることで、粘着剤層中のアクリル共重合体分子鎖の運動速度が向上し、保護粘着フィルムが被着対象に貼り付く際に、粘着剤層中のアクリル共重合体分子鎖が保護粘着フィルムの貼り付け挙動に好適に追従できるため、手貼り等の貼り付けに際しても気泡の巻き込みを低減できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の保護用粘着フィルムによれば、安価なアクリル系粘着剤を用いて、貼付時に気泡を巻き込むことなく、濡れ性に優れる保護粘着フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の保護粘着フィルムは、基材と粘着剤層とを有する保護粘着フィルムであって、粘着剤層がアクリル系共重合体を含有するアクリル系粘着剤組成物からなり、
粘着剤層表面に、厚さ25μmのPETフィルムを、2kgローラーを用いて5mm/sの圧着速さで圧着回数1往復にて圧着し、温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中に1時間静置した後、180°方向へ剥離した際の剥離力を剥離速度毎に測定し、下式(1)により剥離速度−剥離力曲線を相関させた際の特性速度(V*)が、3μm/s以上である。
【0013】
【数2】


[G:剥離仕事(J/m)、G;接着仕事(J/m)、F;剥離力(N)、l;引き剥がすPETフィルムの幅(m)、V;剥離速度(m/s)、α;剥離力の速度勾配を表す定数(0.6)]
【0014】
[基材]
本発明の保護粘着フィルムに用いる基材としては、特に限定されないが、ポリエステルフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、ポリオレフィンフィルム(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン)、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、ナイロンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、セルロースフィルム(例えば、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート)等が挙げられる。前記フィルムは、単層のフィルムでも良く、複数層積層したフィルムを使用しても良い。また、前記フィルムの樹脂成分は、単独でも良く、複数混合したものでも良い。
【0015】
基材には、印刷する目的でアンカーコート層をコーティングしても良い。また、傷付き防止の目的でハードコート層をコーティングしても良い。また、粘着剤層、印刷層、ハードコート層等との密着性を向上させる目的で、サンドブラスト法や溶剤処理法などによる表面の凹凸化処理、あるいはコロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などの表面の酸化処理などの表面処理、アンカーコート剤を用いたコーティング処理を施すこともできる。
【0016】
基材の厚みとしては、特に限定されないが、5〜200μmが好ましい。また、基材の片面または両面には、必要に応じて、コロナ処理やプラズマ処理、アンカーコート剤のコーティング等の各種処理を実施しても良い。
【0017】
本発明の保護フィルムは、貼付時の気泡の巻き込みが目立つ透明フィルムにおいて、本発明の特徴が効果的に発現されるため、透明のポリエステルフィルムやポリオレフィンフィルムが好適である。
【0018】
また、液晶表示装置や有機EL表示装置等の画像表示装置の画像表示部に貼り付けたまま使用する際には、透明基材を使用することが好ましい。基材を透明基材とする場合には、可視光の透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0019】
[粘着剤層]
本発明に使用する粘着剤層は、アクリル系共重合体を含有するアクリル系粘着剤組成物から形成される粘着剤層であり、式(1)における剥離速度−剥離力曲線の特性速度(V*)が、3μm/s以上の粘着剤層である。V*は5μm/s以上であることが好ましく、10μm/s以上であることがより好ましい。また、保護粘着フィルムを剥離した際に被着体に曇りや貼付け跡が生じにくく、優れた耐汚染性を実現できることから、V*を40以下とすることが好ましく、35以下とすることが特に好ましい。
【0020】
(剥離速度−剥離力曲線)
本発明においては、式(1)における剥離速度−剥離力曲線の特性速度(V*)を下記にて得ることができる。
【0021】
まず、平滑なステンレス板等に粘着剤層が表層となるように保護粘着フィルムを固定する。次いで、JIS−Z−0237(2000年版)の180度引き剥がし粘着力の測定方法に準拠し、25μmの表面処理が施されていないPETフィルムを、圧着速さ5mm/s、圧着回数1往復、2kgローラーを用いて圧着し、温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中に1時間放置した後、引張り速さ0.1mm/sから順次剥離速度を速めて、少なくとも剥離速度100mm/s以上までの剥離力を測定し、横軸に剥離速度、縦軸に剥離力をプロットする。得られた測定結果を式(1)にてフィッティングさせた剥離速度−剥離力曲線が得られ、当該フィッティングカーブから式(1)におけるV*が得られる。この時、測定結果とフィッティングカーブとの相関性の良さを表す決定係数R(=1−残差平方和/偏差平方和)は0.95以上となることが好ましい。
【0022】
式(1)中の剥離仕事G(J/m)及び剥離速度V(m/s)は、上記測定により得られた値を使用する。また、剥離力の速度勾配を表す定数であるα及び接着仕事G(J/m)は、α=0.6、G=0.1の値を用いることにより、粘着剤の濡れ性と相関性の高いV*を得ることができる。
剥離速度−剥離力曲線の作成においては、剥離速度は0.1mm/sから100mm/sの範囲において少なくとも15点取ることが好ましい。剥離速度を低速から高速まで幅広く測定することが好ましく、23℃を基準とし、より低温の環境下、もしくはより高温の環境下で、剥離速度を変化させた剥離力測定を行い、いわゆる時間−温度換算則を利用し23℃を基準温度とするマスターカーブを作成しても良い。
【0023】
マスターカーブを作成する際は、23℃及びその他の温度で測定された剥離速度−剥離力曲線を剥離速度軸の片対数プロットとし、剥離速度方向にのみ平行移動させて23℃の曲線に重ね合わせることにより作成する。この時、23℃より高温側で得られたデータは低速度方向にシフト、低温側のデータは高速度方向にシフトさせて重ね合わせを行うことで、23℃における広範囲な速度域での剥離速度−剥離力曲線を作成できる。
【0024】
上記にて得られる剥離速度−剥離力曲線の特性速度(V*)は、粘着剤層中のアクリル共重合体分子鎖の動き易さを表す指標として使用できる。粘着フィルムを剥離する際、剥離速度が高分子鎖の運動速度よりも遅い場合、剥離による変形に対して高分子鎖は緩和(追随)できるため、剥離力が上昇しない。一方、剥離速度が高分子鎖の運動速度よりも早い場合、剥離変形に対して高分子が追随できずエネルギーが蓄積し、剥離力が上昇する。これらの境界が特性速度(V*)であり、すなわちアクリル共重合体の分子運動の早さの目安となる。
【0025】
粘着剤層が被着対象へ貼り付く際に、アクリル共重合体の分子運動が早い(つまり特性速度(V*)が大きい)場合は、貼り付け挙動の変形に追随して、粘着剤層表層のアクリル共重合体分子鎖が順次被着対象に好適に接触することが可能となり、気泡の巻き込みを低減することができる。このように、保護粘着フィルムにおける剥離速度−剥離力曲線の変曲点となる特性速度(V*)を得ることにより、保護粘着フィルムの気泡の巻き込み難さを相対的に評価することができる。
【0026】
(粘着剤層の損失正接のピーク温度)
本発明の保護粘着フィルムを構成する粘着剤層の動的粘弾性は、損失正接(tanδ)のピーク温度は−30〜−70℃にあることが好ましい。動的粘弾性の測定は、粘弾性試験機(TA Instruments社製RSA−III)を用いて、周波数1Hzで−70℃から100℃までの損失正接(tanδ)を測定する。なお損失正接(tanδ)は、貯蔵弾性率(E’)及び損失弾性率(E'')を用いて、tanδ=E''/E’と表される。粘着剤層の損失正接が本範囲にある場合、前記V*を目的の範囲に制御し易くなる。
【0027】
(粘着剤層の厚み)
粘着剤層の厚みは特に限定されるものではないが、5〜50μmであることが好ましく、10〜35μmであることがより好ましく、10〜25μmであることが一層好ましい。
【0028】
(アクリル系共重合体)
粘着剤層に用いるアクリル系粘着剤組成物は、主成分としてアクリル系共重合体を含有する。アクリル系共重合体は、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、紫外線照射法、電子線照射法によって共重合させることができる。
【0029】
中でも、単量体成分として炭素数1〜14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含有するアクリル系共重合体が好ましい。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート等であり、単独或いは2種以上を併用して用いることができる。中でも、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、又はそれらを併用した単量体を主成分とすることが好ましく、その使用量は粘着剤組成中の80〜99質量%であることが好ましく、95〜99質量%であることがより好ましい。主モノマーとして、上記の種類、使用量とすることにより、前記V*を目的の範囲に制御し易くなる。
【0030】
アクリル系共重合体には、さらに単量体成分として、側鎖に水酸基、カルボキシル基、アミノ基などの極性基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体やその他のビニル系単量体を含有することが好ましい。
【0031】
水酸基を有する単量体としては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレートを使用でき、中でも2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートを共重合成分として使用するのが好ましい。
【0032】
カルボキシル基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸、(メタ)アクリル酸2量体、エチレンオキサイド変性コハク酸アクリレート等を使用でき、なかでもアクリル酸を共重合成分として使用するのが好ましい。
【0033】
窒素原子を有する単量体としては、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−(パーヒドロフタルイミド−N−イル)エチルアクリレート等のアミド基含有ビニルモノマーを使用でき、中でもN−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリンを共重合成分として使用するのが好ましい。
【0034】
その他の極性基を有するビニル系単量体として、酢酸ビニル、アクリロニトリル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
【0035】
極性基を有する単量体の含有量は、アクリル系共重合体を構成する単量体成分の0.1〜15質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。当該範囲で含有することにより、粘着剤の凝集力、接着性を好適な範囲に調整しやすい。
【0036】
(アクリル共重合体の平均分子量)
粘着剤層に使用するアクリル系共重合体の重量平均分子量Mwは30万〜140万であることが好ましい。当該アクリル系共重合体の重量平均分子量Mwが上記範囲内であると、好適な接着力を確保しやすい。
【0037】
なお、当該アクリル系共重合体の質量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定することができる。より具体的には、GPC測定装置として、東ソー株式会社製「SC8020」を用いて、ポリスチレン換算値により、次のGPC測定条件で測定して求めることができる。
(GPCの測定条件)
・サンプル濃度:0.5重量%(テトラヒドロフラン溶液)
・サンプル注入量:100μL
・溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
・流速:1.0mL/min
・カラム温度(測定温度):40℃
・カラム:東ソー株式会社製「TSKgel GMHHR−H」
・検出器:示差屈折
【0038】
(架橋)
さらに粘着剤層の凝集力をあげるために、前記アクリル系共重合体組成物に架橋剤を添加するのが好ましい。架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、キレート系架橋剤、アジリジン系架橋剤等が挙げられる。架橋剤の添加量としては、粘着剤層のゲル分率を80〜100%になるよう調整するのが好ましい。さらに好ましいゲル分率は、90〜100%である。ゲル分率を上記範囲に収めることで、前記V*を目的の範囲に制御し易くなることを発明者らは見出している。尚、ゲル分率は、養生後の粘着剤層をトルエン中に浸漬し、24時間放置後に残った不溶分の乾燥後の質量を測定し、元の質量に対する百分率で表す。
【0039】
(添加剤)
添加剤として、必要に応じて本発明の所望の効果を阻害しない範囲で、可塑剤、軟化剤、酸化防止剤、ガラスやプラスチック製の繊維・バルーン・ビーズ・金属粉末等の充填剤、顔料・染料等の着色剤、pH調整剤、皮膜形成補助剤、レベリング剤、増粘剤、撥水剤、消泡剤等の公知のものを粘着剤組成物に任意で添加することができる。
【0040】
(可塑剤)
前記V*をより高速側に制御するために、アクリル系共重合体組成物に可塑剤を添加することが好ましい。可塑剤の種類としては、前記V*が目的の範囲に入るものであれば、特に限定されないが、被着体に貼付した保護粘着フィルムを剥離した際に、いわゆる可塑剤のブリードアウトによる被着体の汚染を抑制するために、small式により計算されるSP値が8.5以下の可塑剤を使用することが好ましく、SP値が7.5〜8.5の可塑剤がより好ましい。
【0041】
また、可塑剤の種類としては、脂肪酸エステル、エポキシ化脂肪酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、エーテルエステル、マレイン酸エステル、安息香酸エステル等を使用できる。なかでも、濡れ性が良好で好適な気泡抜け性を実現しやすいことから、セバシン酸エステル、エポキシ化脂肪酸エステル、アジピン酸エステル、安息香酸エステルを好ましく使用でき、セバシン酸エステル、エポキシ化脂肪酸エステル及びアジピン酸モノエステルは耐汚染性が良好となるため特に好ましく使用できる。
【0042】
また、可塑剤の粘度としては、23℃で2500mPa・s以下であることが好ましい。
【0043】
可塑剤の配合量としては、アクリル系共重合体100重量部に対して、1〜20重量部であることが好ましい。1重量部以上とすることでV*が目的の範囲に入り易くなり、20重量部以下とすることで被着体表面の汚染現象を抑制し易くなる。
【0044】
[保護粘着フィルム]
本発明の保護粘着フィルムは、少なくとも上記基材と上記粘着剤層とが積層された保護粘着フィルムである。
【0045】
本発明の保護粘着フィルムの厚さは、特に制限されないが10〜250μmであることが好ましく、20〜200μmであることがより好ましい。また、LCD表示装置や有機EL等の画像表示装置の保護用として使用する場合には、その総厚さが60〜150μm程度の薄型の保護粘着フィルムであることが好ましく、80〜120μmであることが特に好ましい。
【0046】
(保護粘着フィルムの180度引き剥がし粘着力)
本発明の保護粘着フィルムの粘着力は、0.01〜3N/25mmであることが好ましく、0.01〜1N/25mmであることがより好ましい。該180度引き剥がし粘着力は、JIS−Z−0237(2000年版)に準拠した測定において、2kgローラーを用いて、圧着速さ5mm/s、圧着回数1往復で、ヘアライン状に研磨したステンレス板に貼付した保護粘着フィルムを、温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中に1時間放置した後、引張り速さ300mm/minの条件下で測定される値である。
【0047】
(基材と粘着剤層の積層工程)
基材と粘着剤層を積層するには、粘着剤溶液をロールコーターやダイコーター等で直接基材に塗布する方法や、セパレーター上にいったん粘着剤層を形成後、基材に転写する方法を用いる。基材と粘着剤との積層後は、必要に応じて加温環境下で熟成することもできる。
【0048】
(粘着剤層の調整)
溶液重合法や乳化重合法等によって重合されるアクリル系共重合体の場合は、溶媒を含有するアクリル系粘着剤組成物を乾燥させることによって、粘着剤層を形成させる。一方、紫外線照射法や電子線照射法ではアクリル系粘着剤組成物を紫外線や電子線によって共重合されることによって、粘着剤層を形成させる。
【実施例】
【0049】
次に、本発明を実施例および比較例により詳細に説明する。
[実施例1]
(アクリル系共重合体Aの合成)
冷却管、攪拌機、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に2−エチルヘキシルアクリレート96.9部、アクリル酸0.1部、4−ヒドロキシブチルアクリレート3.0部と、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチルニトリル0.2部とを酢酸エチル150部に溶解し、窒素置換後、80℃で8時間重合して固形分40%のアクリル系共重合体Aを得た。
【0050】
(アクリル系粘着剤組成物Aの調整)
前記アクリル系共重合体Aの固形分100重量部に対して、セバシン酸エステル系可塑剤W−280(DIC(株)社製、SP値8.4)を10重量部配合し、アクリル系粘着剤組成物Aを得た。
【0051】
(保護粘着フィルムの作製)
アクリル系粘着剤組成物Aにイソシアネート系架橋剤コロネートHX(日本ポリウレタン工業社製)を1.5部、およびキレート系架橋剤M−5A(綜研化学社製)を1.0部添加し、15分間撹拌した後、離型処理した厚さ75μmのポリエステルフィルム上に、乾燥後の厚さが20μmとなるよう塗工して、80℃で90秒間乾燥して粘着剤層を得た。これを50μmのPETフィルムに貼付し、40℃で7日間熟成して、保護粘着フィルムを得た。
【0052】
[実施例2]
可塑剤として、エポキシ化脂肪酸エステル系可塑剤W−121(DIC(株)社製、SP値8.1)を1.5部添加したこと以外は、実施例1と同様にして、保護粘着フィルムを得た。
【0053】
[実施例3]
可塑剤として、エポキシ化脂肪酸エステル系可塑剤W−121(DIC(株)社製、SP値8.1)を2.2部添加したこと以外は、実施例1と同様にして、保護粘着フィルムを得た。
【0054】
[実施例4]
(アクリル系共重合体Bの合成)
冷却管、攪拌機、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器にn−ブチルアクリレート96.9部、アクリル酸0.1部、4−ヒドロキシブチルアクリレート3.0部と、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチルニトリル0.2部とを酢酸エチル150部に溶解し、窒素置換後、80℃で8時間重合して固形分40%のアクリル系共重合体Bを得た。
【0055】
(アクリル系粘着剤組成物Bの調整)
前記アクリル系共重合体Bの固形分100重量部に対して、エポキシ化脂肪酸エステル系可塑剤W−121(DIC(株)社製)を7.0重量部配合し、アクリル系粘着剤組成物Bを得た。
【0056】
(保護粘着フィルムの作製)
アクリル系粘着剤組成物Bにイソシアネート系架橋剤コロネートHX(日本ポリウレタン工業社製)を1.5部、およびキレート系架橋剤M−5A(綜研化学社製)を1.0部添加し、15分間撹拌した後、離型処理した厚さ75μmのポリエステルフィルム上に、乾燥後の厚さが20μmとなるよう塗工して、80℃で90秒間乾燥して粘着剤層を得た。これを50μmのPETフィルムに貼付し、40℃で7日間熟成して、保護粘着フィルムを得た。
【0057】
[実施例5]
可塑剤として、エポキシ化脂肪酸エステル系可塑剤W−128−S(DIC(株)社製、8.0〜8.1)を10.0部添加したこと以外は、実施例1と同様にして、保護粘着フィルムを得た。
【0058】
[実施例6]
可塑剤として、エポキシ化脂肪酸エステル系可塑剤W−128−S(DIC(株)社製、8.0〜8.1)を20.0部添加したこと以外は、実施例1と同様にして、保護粘着フィルムを得た。
【0059】
[実施例7]
可塑剤として、エポキシ化脂肪酸エステル系可塑剤W−128−S(DIC(株)社製、8.0〜8.1)を25.0部添加したこと以外は、実施例1と同様にして、保護粘着フィルムを得た。
【0060】
[実施例8]
可塑剤として、アジピン酸モノエステル系可塑剤W−242(DIC(株)社製、8.5)を10.0部添加したこと以外は、実施例1と同様にして、保護粘着フィルムを得た。
【0061】
[実施例9]
可塑剤として、アジピン酸ポリエステル系可塑剤W−230−H(DIC(株)社製、SP値9.2)を10.0部添加したこと以外は、実施例1と同様にして、保護粘着フィルムを得た。
【0062】
[実施例10]
可塑剤として、安息香酸モノエステル系可塑剤PB−3A(DIC(株)社製、SP値9.9)を10.0部添加したこと以外は、実施例1と同様にして、保護粘着フィルムを得た。
【0063】
[比較例1]
前記アクリル系共重合体Aに可塑剤を配合しないこと以外は、実施例1と同様にして保護粘着フィルムを得た。
【0064】
[比較例2]
前記アクリル系共重合体Aに、可塑剤としてエポキシ化脂肪酸エステル系可塑剤W−121(DIC(株)社製、SP値8.1)を1.0部添加したこと以外は、実施例1と同様にして、保護粘着フィルムを得た。
【0065】
<V*の測定>
2cm幅、7cm長に切断した保護粘着フィルムの非粘着面を、両面テープを用いて平滑なガラス板に固定した。次いで、JIS−Z−0237(2000年版)の180度引き剥がし粘着力の測定方法に準拠し、2cm幅、25μm厚の表面処理が施されていないPETフィルムを、圧着速さ5mm/s、圧着回数1往復、2kgローラーを用いて圧着し、温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中に1時間放置した。小型引っ張り試験機(Stable Micro Systems社製 TA.XTplus Texture Analyser)の基盤上に、当該試料をL型ブラケットにより垂直に固定し、所定の温度(23℃、50℃、75℃)に到達した後剥離試験を開始した。各温度でPETフィルムの剥離速度を変化させることによって剥離速度−剥離力曲線を作成し、さらに時間−温度換算則により23℃を基準温度とするマスターカーブを作成した。最後に、(1)式を用いてフィッティングを行い、V*を決定した。
【0066】
<被着体への濡れ性の評価>
5cm幅、10cm長に切断した保護粘着フィルムサンプルを用意した。温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中にて、粘着面を表にして10cm長の両末端を重ね合わせて手で摘み、湾曲した粘着面の頂点を平滑なガラス板に接触させ、瞬時に手を離し、粘着剤層がガラス板に濡れていく速度、ならびに気泡の巻き込みを目視観察した。評価基準は以下の通りとした。
◎:濡れていく速度が速く、気泡の巻き込みがなかった。
○:気泡の巻き込みはほとんどなく実用上問題無いものであった。
×:濡れていく速度が遅く、多くの気泡の巻き込みが見られた。
【0067】
<接着力評価>
幅25mm、長さ80mmの試験片を準備する。ヘアライン状に研磨したステンレス板に対して、温度23±2℃、相対湿度50±5%の環境でJIS−Z−0237(2000年版)に規定された貼付方法で貼付した。貼付から1時間後に300mm/minの引張速度で180°方向に引き剥がし、剥離強さ(単位:N/25mm)を測定した。測定機器として、エー・アンド・ディ社製テンシロン万能試験機「RTA−100」を使用した。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
<耐汚染性評価>
上記実施例1〜10の保護粘着フィルムをポリメチルメタクリレート(PMMA)板、ポリカーボネート(PC)板へ故意に気泡を入れた状態で貼付け、高温高湿環境下(温度60±2℃、相対湿度90±5%RH)に2週間放置した。取り出してから温度23±2℃、相対湿度50±5%RH環境下にて1時間放冷後、保護粘着フィルムを剥がし、PMMA板、PC板の表面を目視観察したところ、実施例1〜6及び実施例8の保護粘着フィルムは被着体表面に曇りや貼付跡が見られず耐汚染性に優れるものであった。一方、実施例7、実施例9〜10の保護粘着フィルムは被着体表面に若干の曇りや貼付跡が見られた。
【0071】
上記表1より明らかなように、V*が3μm/s以上である実施例1の本発明の保護粘着フィルムは気泡を巻き込みにくく、貼り付け後の視認性が良好であった。一方、V*が3μm/s未満の比較例1の保護粘着フィルムは、気泡を多く巻き込んでしまい、気泡により視認性の悪いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と粘着剤層とを有する保護粘着フィルムであって、
前記粘着剤層がアクリル系共重合体を含有するアクリル系粘着剤組成物からなり、
前記粘着剤層表面に、厚さ25μmのPETフィルムを、2kgローラーを用いて5mm/sの圧着速さで圧着回数1往復にて圧着し、温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中に1時間静置した後、180°方向へ剥離した際の剥離力を剥離速度毎に測定して、下式(1)により剥離速度−剥離力曲線を相関させた際の特性速度(V*)が、3μm/s以上であることを特徴とする保護粘着フィルム。


[G:剥離仕事(J/m)、G;(J/m)、F;剥離力(N)、l;引き剥がすPETフィルムの幅(m)、V;剥離速度(m/s)、α;剥離力の速度勾配を表す定数(0.6)]
【請求項2】
前記アクリル系粘着剤組成物が可塑剤を含有する請求項1に記載の保護粘着フィルム。
【請求項3】
前記可塑剤が脂肪酸エステルからなる可塑剤である請求項1又は2に記載の保護粘着フィルム。
【請求項4】
前記アクリル系共重合体が、2−エチルヘキシルアクリレート及びn−ブチルアクリレートの少なくとも一種を単量体成分として80〜99質量%含有する請求項1〜3のいずれかに記載の保護粘着フィルム。
【請求項5】
前記可塑剤の粘度が、2500mPa・s以下である請求項1〜4のいずれかに記載の保護粘着フィルム。
【請求項6】
粘着剤層を有する粘着フィルムを被着対象に貼り付ける際の気泡の巻き込み難さの評価方法であって、
前記粘着剤層表面に、厚さ25μmのPETフィルムを、2kgローラーを用いて5mm/sの圧着速さで圧着回数1往復にて圧着し、温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中に1時間静置した後、180°方向へ剥離した際の剥離力を剥離速度毎に測定して剥離速度−剥離力曲線を作成し、下式(1)により剥離速度−剥離力曲線を相関させた際の特性速度(V*)により気泡の巻き込み難さを評価する方法。


[G:剥離仕事(J/m)、G;接着仕事(J/m)、F;剥離力(N)、l;引き剥がすPETフィルムの幅(m)、V;剥離速度(m/s)、α;剥離力の速度勾配を表す定数(0.6)]

【公開番号】特開2010−209324(P2010−209324A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28806(P2010−28806)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】