説明

信号伝送ケーブル用コネクタ

【課題】信号伝送ケーブルに引張・圧縮、捻れ力が加わっても、コネクタ内の信号線束に外力が発生しない機械的信頼性の高い信号伝送ケーブル用コネクタを提供する。
【解決手段】金属コルゲート33の内側に金属コルゲート33とは異なる線膨張係数の信号線31を内蔵した信号伝送ケーブル30のケーブル端末を加工してなる信号伝送ケーブル用コネクタ10であって、段剥きされた金属コルゲート33と信号線31に亘って樹脂Aを塗布することにより、段剥きされた信号線31を段剥きされた金属コルゲート33に対して接着固定したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属コルゲートの内側に金属コルゲートとは異なる線膨張係数の信号線を内蔵した信号伝送ケーブルのケーブル端末を加工してなる信号伝送ケーブル用コネクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
機器間を電気的に接続するケーブルとして、アルミニウムや銅など金属製の管状遮蔽層(金属コルゲート、或いは金属管遮蔽層)の内側に信号線を内蔵した信号伝送ケーブルがある。
【0003】
この信号伝送ケーブルの構造の一例を図3に示す。
【0004】
図3に示すように、信号伝送ケーブル30は、中心部に40対、即ち合計80本の信号線31を内蔵している。信号線31は、断面積が1.25mm2の撚り線導体にポリエチレンを被覆した外径3.0mmのものである。ペアとなる2本の信号線31は予め撚り合わされてペア線とされ、更にペア線40対が撚り合わせ集合されて押さえ巻きテープ32で一体化されている。
【0005】
押さえ巻きテープ32の外側には、第1の外部遮蔽層であるアルミニウム製の金属コルゲート33が位置する。金属コルゲート33は、その最外径が51mm、肉厚が0.9mmであり、屈曲性を改善するために波付き加工されている。
【0006】
更に金属コルゲート33の外側には、ポリエチレンからなる内部シース34が設けられ、その内部シース34の外側には、電磁遮蔽性を高めるために第2の外部遮蔽層である2本の鋼帯(幅40mm、厚さ0.6mm)35が螺旋状に巻き付けられている。そして最外層には、ポリエチレンからなる外部被覆36が施され、その外径はφ63mmである。
【0007】
このように信号伝送ケーブル30は、多くの部材から構成されているが、大まかな分類として、中心部の「信号線束37」とその外側の「シース38」部の2つに分けられる。つまり、金属コルゲート33とポリエチレン層が一体となったシース38の中で、同じく一体化された信号線束37が挿入された構造であり、シース38内で信号線束37は移動可能な状況にある。
【0008】
信号伝送ケーブル同士の接続作業は、信号伝送ケーブルを切断して信号線を取り出し、取り出した信号線から露出させた撚り線導体を1本ずつはんだや機械式の圧着により接続した後、その接続部のケーブル両端を跨ぐように樹脂モールドするのが一般的であった。そのため、ケーブル端末にコネクタを装着する例はほとんど見られなかった。
【0009】
しかしながら、この従来の接続工法では接続作業に長時間を要するため、ケーブルを使用する事業者やケーブル接続施工業者からの改善要求が出ていた。
【0010】
そこで、ケーブル製造業者が工場内で予めケーブル端末にコネクタを装着すれば、現地での接続作業時間が飛躍的に短縮できるため、金属コルゲートを有する信号伝送ケーブルのケーブル端末のコネクタ化が考案された。
【0011】
このように、信号伝送ケーブルのケーブル端末を加工してなる信号伝送ケーブル用コネクタは新しい技術であるので、コネクタ内部の信号線の固定方法についても確立された従来技術は現状では存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭61−171079号公報
【特許文献2】特開平4−23083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、前述した構造の信号伝送ケーブルでは、引っ張りや曲げといった外力に対しては金属コルゲートが支持体として機能している。これは、金属コルゲートが金属製の一体物であり、他の構成部材に比べて曲げ剛性や抗張力が大きいためである。
【0014】
ここで、信号線束とシースの2つの構成部材は線膨張係数がそれぞれ異なる。つまり、シースはアルミニウム主体で24×10-6(/℃)、信号線束は銅主体で17×10-6(/℃)である。
【0015】
そのため、ケーブル出来上がりで、両部材の長さが同一の場合、信号伝送ケーブルの温度が上昇すると線膨張係数差により信号線束は相対的に短くなるので信号線束は引張力を受けることになる。よって、ケーブル端末にコネクタを装着した場合、コネクタ内で信号線束が引張力を受けることになり、最悪の場合、引張力を受けた信号線束の信号線はコネクタ内で断線してしまう。
【0016】
一方、低温側では信号線束が相対的に長くなり、コネクタ内で余長が発生することになる。この場合、信号線束はコネクタ内で座屈して、やはり信号線の断線等を引き起こす虞がある。なお、シースを銅主体で、信号線束をアルミニウム主体でそれぞれ形成した場合は、信号伝送ケーブルの温度が上昇すると座屈が発生し、低温側では引張力を受けることになる。
【0017】
また、コネクタ内の信号線に発生する外力の原因はケーブル長手方向の膨張・収縮によるものだけではない。信号線束とシースはケーブル長手方向に関して互いに可動であるが、回転方向に関しても同様に可動である。
【0018】
例えば、コネクタ或いはケーブル端末付近を把持して回転方向に捻回を加えた場合、コネクタ筐体とシースは一体であるので、シース内で信号線束が捻れ変形を受けることになる。コネクタ内での信号線束の捻れはコネクタの端面板に芽設した信号線用接続端子(コネクタピン)との接続部に加わり、最悪の場合ここで信号線の断線が発生する。
【0019】
以上のように、金属コルゲートを有する信号伝送ケーブルのケーブル端末を加工してなる信号伝送ケーブル用コネクタにおいて、ケーブル端末付近の信号線束を然るべき方法で固定しない場合、信号伝送ケーブルの引張・圧縮、捻れにより信号線束に発生する外力によりコネクタ内で信号線が断線することがある。
【0020】
そこで、本発明の目的は、前述した課題を解決し、信号伝送ケーブルに引張・圧縮、捻れ力が加わっても、コネクタ内の信号線束に外力が発生しない機械的信頼性の高い信号伝送ケーブル用コネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的を達成するために創案された本発明は、金属コルゲートの内側に前記金属コルゲートとは異なる線膨張係数の信号線を内蔵した信号伝送ケーブルのケーブル端末を加工してなる信号伝送ケーブル用コネクタであって、段剥きされた金属コルゲートと信号線に亘って樹脂を塗布することにより、前記段剥きされた信号線を前記段剥きされた金属コルゲートに対して接着固定したことを特徴とする信号伝送ケーブル用コネクタである。
【0022】
また、本発明は、金属コルゲートと、該金属コルゲートに内蔵され当該金属コルゲートとは異なる線膨張係数の信号線と、を少なくとも有する信号伝送ケーブルと、コネクタハウジングと、該コネクタハウジングの一端側に設けられ前記信号線と電気的に接続される信号線用接続端子と、前記コネクタハウジングの他端側に設けられ前記金属コルゲートを固定するためのコネクタクランプ部と、を少なくとも有するコネクタ筐体と、を備えてなる信号伝送ケーブル用コネクタであって、段剥きされた金属コルゲートと信号線に亘って樹脂を塗布することにより、前記段剥きされた信号線を前記段剥きされた金属コルゲートに対して接着固定したことを特徴とする信号伝送ケーブル用コネクタである。
【0023】
前記段剥きされた金属コルゲートと信号線の両方に亘って、石英クロステープに前記樹脂を塗布・浸透させて形成した繊維強化プラスチックで覆って、前記樹脂により前記段剥きされた信号線を前記段剥きされた金属コルゲートに対して接着固定すると良い。
【0024】
前記樹脂の硬化前の室温下での粘度が30Pa・s以上であり、硬化後の室温下での弾性率が200MPa以上2000MPa以下であると良い。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、信号伝送ケーブルに引張・圧縮、捻れ力が加わっても、コネクタ内の信号線束に外力が発生しない機械的信頼性の高い信号伝送ケーブル用コネクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)〜(c)は本発明に係る信号伝送ケーブル用コネクタにおける信号線束の固定方法を説明する図である。
【図2】弾性率2000MPa品と弾性率2500MPa品の引張試験荷重曲線を示す図である。
【図3】信号伝送ケーブルの構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0028】
図1(a)〜(c)は、本発明の好適な実施の形態に係る信号伝送ケーブル用コネクタにおける信号線束の固定方法を説明する図である。なお、信号伝送ケーブルは従来技術であるので、図3で説明したものと同一の符号を付し、説明を省略する。
【0029】
図1(c)に示すように、本実施の形態に係る信号伝送ケーブル用コネクタ10は、金属コルゲート33の内側に金属コルゲート33とは異なる線膨張係数の信号線31を内蔵した信号伝送ケーブル30のケーブル端末を加工してなる。
【0030】
図1(c)に示すような信号伝送ケーブル用コネクタ10を作製するには、先ず、図1(a)に示すように、信号伝送ケーブル30のケーブル端末の被覆をたけのこ状に段剥きし、信号線31、押さえ巻きテープ32、金属コルゲート33、内部シース34、鋼帯35を順次露出させる。このとき、金属コルゲート33の端部を内部シース34の端部から約30mm露出させる。
【0031】
その後、段剥きした金属コルゲート33に銅からなる撚り線導体をポリエチレンで被覆してなる第1導線39を電気的に接続すると共に、金属コルゲート33と信号線31に亘って樹脂Aを塗布することにより、段剥きされた信号線31を段剥きされた金属コルゲート33に対して接着固定する。樹脂Aとしては、硬化前の室温下での粘度が30Pa・s以上であり、硬化後の室温下での弾性率が200MPa以上2000MPa以下である接着剤を用いると良く、例えば、ナガセケムテック社製の室温硬化型エポキシ接着剤AW106/HV953Uを塗布する。本接着剤の硬化前の粘度は33Pa・sであり、硬化後の弾性率は約1.2GPaである。
【0032】
この工程においては、接着剤を信号線31間の隙間にも充填させるために、端部付近の信号線31の束をほぐしながら、各信号線31の外表面に塗布する。その後、図1(b)に示すように、段剥きした金属コルゲート33と信号線31の両方に亘って、即ち金属コルゲート33の露出部及び約30mmの信号線31の露出部を跨ぐように、石英繊維を編み込んだ幅20mmの石英クロステープ11を巻き付ける。更に石英クロステープ11に樹脂Aを塗布・浸透させて繊維強化プラスチック(FRP;Fiber Reinforced Plastics)化する。
【0033】
なお、本接着剤の粘度は前述したように33Pa・sであるが、この粘度では信号伝送ケーブル30を水平に保持して接着補強作業を行っても、接着剤が垂れて作業性を損ねることはない。本接着剤は室温でも約10hで硬化するが、ここでは40℃で約3h加熱して硬化させる。
【0034】
このFRP化により、接着剤単体のみで接着固定するよりも機械的な強度を高めることができる。なお、石英クロステープ11を巻き付けてから、樹脂Aを塗布・浸透させてFRP化しても良い。
【0035】
その後、信号伝送ケーブル30をコネクタ筐体1に取付けを行う。まず、図1(c)に示すように、各信号線31の被覆を剥ぎ取り露出した撚り線導体の先端に金属製のコネクタピンからなる信号線用接続端子12を加締めにより電気的に接続して、ゴム製の端面板13に圧入し装着する。
【0036】
第1導線39の被覆を剥ぎ取り露出した撚り線導体の先端に金属製のコネクタピンからなる第1導線用接続端子16を加締めにより電気的に接続して、ゴム製の端面板13に圧入し装着する。
【0037】
銅からなる撚り線導体をポリエチレンで被覆してなる第2導線40の両端それぞれにおいて被覆を剥ぎ取って撚り線導体を露出させ、露出された導体の一端を段剥きした鋼帯35に電気的に接続し、他端の先端に金属製のコネクタピンからなる第2導線用接続端子17を加締めにより電気的に接続して、第2導線用接続端子17をゴム製の端面板13に圧入し装着する。
【0038】
全信号線31の信号線用接続端子12、第1導線用接続端子16及び第2導線用接続端子17を端面板13に装着後、ピン先端を下向きにして、信号線用接続端子12の全長及び信号線31の被覆剥ぎ際、第1導線用接続端子16の全長及び第1導線39の被覆剥ぎ際、第2導線用接続端子17の全長及び第2導線40の被覆剥ぎ際を覆うように樹脂Bからなる接着剤を満たした。端面板13付近の接着の目的は、信号線用接続端子12、第1導線用接続端子16及び第2導線用接続端子17の防錆と、信号線31間、信号線31と第1導線39との間、信号線31と第2導線40との間及び第1導線39と第2導線40との間の絶縁である。
【0039】
樹脂Bとしては、硬化前の室温下での粘度が20Pa・s以下の接着剤、例えば、ナガセケムテック社製の室温硬化型エポキシ接着剤AW136N/HY994を用いる。本接着剤の硬化前の室温下での粘度は10Pa・sであり、硬化後の弾性率は約4GPaである。本接着剤は粘度が10Pa・s程度であるため、端面板13に注げば各信号線31間に気泡を抱き込むことなく注入が可能である。
【0040】
注入深さは接続端子(信号線用接続端子12、第1導線用接続端子16、第2導線用接続端子17)の長さによるが、加締め部を含む接続端子の全長と電線(信号線31、第1導線39、第2導線40)の被覆剥ぎ際を覆うまで注入する必要がある。本接着剤は室温でも約24hで硬化するが、ここでは60℃で約1h加熱して硬化させる。
【0041】
2箇所の接着固定が終了した後、加工したケーブル端末をコネクタハウジング14に挿入固定して、コネクタの組立が完了する。この際、コネクタクランプ部15でポリエチレンからなる外部被覆36の端部を強固に把持する。これにより、この部分で信号伝送ケーブル30がケーブル長手方向や回転方向に関し滑って移動することはない。
【0042】
本実施の形態に係る信号伝送ケーブル用コネクタ10では、信号伝送ケーブル30のケーブル端末を段剥きし、段剥きした金属コルゲート33と信号線31に亘って樹脂Aにより接着固定しているので、環境温度が上昇して信号伝送ケーブル30が伸び、構成部材の線膨張係数差により信号線束37が引張力を受けた場合でも、引張力が信号線用接続端子12まで及ばない。そのため、信号線用接続端子12の抜けや、信号線用接続端子12との接続部での信号線31の断線を防止することができる。
【0043】
加えて、信号伝送ケーブル用コネクタ10又はその近傍の信号伝送ケーブル30に捻回が加わった場合でも、信号伝送ケーブル用コネクタ10内で信号線31に捻回力が加わることがなく、信号線用接続端子12と信号線31との接続部に外力が発生しない。
【0044】
また、本実施の形態に係る信号伝送ケーブル用コネクタ10では、接続端子(信号線用接続端子12、第1導線用接続端子16、第2導線用接続端子17)の全長及び電線(信号線31、第1導線39、第2導線40)の被覆剥ぎ際を覆うように樹脂Bで接着固定しているので、全接続端子の防錆と、異物付着による電線間(信号線31間、信号線31と第1導線39との間、信号線31と第2導線40との間及び第1導線39と第2導線40との間)の耐電圧及び絶縁抵抗の低下を防止することができる。
【0045】
更に、信号線31に引張力が加わった場合でも、信号線用接続端子12の抜けや、信号線用接続端子12との接続部での信号線31の断線を防止することができる。
【0046】
以上要するに、本発明によれば、信号伝送ケーブル30に引張・圧縮、捻れ力が加わっても、コネクタ内の信号線束に外力が発生しない機械的信頼性の高い信号伝送ケーブル用コネクタ10を提供することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の数値的根拠を説明する。
【0048】
(1)信号線31を固定する樹脂Aの硬化前の室温下での粘度が30Pa・s以上であることの根拠
数値限定の根拠は、信号線31や金属コルゲート33の表面に樹脂Aを塗布する際、或いは硬化までの保持時間中に樹脂Aが樹脂ダレするか否かである。以下、具体的に述べる。
【0049】
粘度の異なる樹脂で、前述したように信号伝送ケーブル30を平行に保持しての塗布実験を行った。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から分かるように、30Pa・s以上の粘度では樹脂ダレは発生せず、作業性が良好であった。また、粘度10Pa・s以下の樹脂では毛細管現象により、信号伝送ケーブル30の内部数10cmに亘り硬化前の樹脂が浸透するという問題が発生した。樹脂が浸透すると、信号線束37がこの浸透した樹脂により固着一体化されてしまうため、可撓性が悪くなる等の不具合が起こってしまう。
【0052】
以上の実験結果から、本発明においては樹脂Aの硬化前の室温下での粘度の最適範囲を30Pa・s以上に限定した。
【0053】
(2)信号線31を固定する樹脂Aの硬化後の室温下での弾性率が200MPa以上2000MPa以下であることの根拠
数値限定の根拠は、接着部の引張強度である。以下、具体的に述べる。
【0054】
硬化後の弾性率が異なる種々の樹脂で、前述したように石英クロステープ11を用いてペア線40対の接着部の引張強度を評価した。その結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
ここで、アルミニウム製の金属コルゲート33と銅製の信号線31の線膨張係数差により高温になると信号線31は金属コルゲート33内で引張力を受ける。ただし、信号線31は単線ではなく7本の外径0.45mmの心線を撚り合わせてからポリエチレンで被覆した構造であるため、実質的な弾性率は銅のそれよりも小さく、バルク銅の約1/5であった。また、想定される温度差を50℃としたところ、80本の信号線31に発生する引張力は750Nであり、これを目標値とした。
【0057】
一般的に樹脂の弾性率が大きくなると引張強度が増していくが、今回の実験で新たな知見が得られた。即ち、図2に示すように、弾性率2000MPaまでは弾性率増加に伴い引張強度も増加したが、2500MPa以上では波形がジグザグ形状に乱れ引張強度も伸びなかった。
【0058】
この理由は、樹脂の弾性率増加に伴い伸びが低下し、信号線31の表面で樹脂の剥離が多発したためであった。この結果、今回のような信号伝送ケーブル30内での信号線31の固定に際しては樹脂の弾性率は高ければよいということではなく、下限と共に上限も存在することが実験により明らかになった。
【0059】
以上の実験結果から、本発明においては樹脂Aの硬化後の室温下での弾性率の最適範囲を200MPa以上2000MPa以下に限定した。
【0060】
上述の表1及び表2に関する実験は、段剥きされて露出した信号線31、押さえ巻きテープ32、金属コルゲート33を石英クロステープ11で覆って樹脂AによりFRP化されて接着された条件で行った。しかし、この押さえ巻きテープ32を除去して、段剥きされて露出した信号線31、金属コルゲート33を石英クロステープ11で覆って樹脂AによりFRP化され接着された条件で実験を行っても所望の引張強度が得られ、この条件においても樹脂Aの最適な粘度は硬化前の室温下で30Pa・s以上であり、最適な弾性率は硬化後の室温下で200MPa以上2000MPa以下であった。
【0061】
(3)端面板13に電線(信号線31、第1導線39、第2導線40)を接着固定する樹脂Bの粘度が20Pa・s以下であることの根拠
全電線の接続端子(信号線用接続端子12、第1導線用接続端子16、第2導線用接続端子17)を端面板13に圧入後、ピン先端を下向きにして、接続端子の根元部、即ち電線との加締め部付近を樹脂で充填接着する際、電線の本数が多い場合は樹脂の粘度を限定する必要がある。
【0062】
通常、端面板13には既に数mmの間隔で多数の接続端子が芽設されているため、粘度が高すぎると隅部まで樹脂が行き渡らず、気泡が残留してしまう。気泡が残留すると、気泡部においてコネクタ内部に浸水したときに水分が接続端子に接触し、錆の原因になる。
【0063】
これらの事情を鑑み、粘度の異なる樹脂で、接続端子と電線との加締め部付近を樹脂で充填接着した場合の気泡の残留の有無を評価した。その結果を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
表3から分かるように、20Pa・s以下の粘度では気泡の残留は見られなかった。
【0066】
以上の実験結果から、前述の実施の形態においては樹脂Bの硬化前の室温下での粘度の最適範囲を20Pa・s以下とした。
【0067】
なお、前述の実施の形態においては、金属コルゲート33に信号線31より大きな線膨張係数を有する金属を用いて説明を行ったが、金属コルゲート33に信号線31よりも小さな線膨張係数を有する金属を用いても良い。この場合においても信号伝送ケーブルの環境温度変化に伴う引張・圧縮が作用しても金属コルゲート33と信号線31とが樹脂Aにより固定されているため、コネクタ内の信号線束に外力が発生しない機械的信頼性が高い信号伝送ケーブル用コネクタが得られる。
【符号の説明】
【0068】
1 コネクタ筐体
10 信号伝送ケーブル用コネクタ
12 信号線用接続端子
14 コネクタハウジング
15 コネクタクランプ部
30 信号伝送ケーブル
31 信号線
33 金属コルゲート
A 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属コルゲートの内側に前記金属コルゲートとは異なる線膨張係数の信号線を内蔵した信号伝送ケーブルのケーブル端末を加工してなる信号伝送ケーブル用コネクタであって、 段剥きされた金属コルゲートと信号線に亘って樹脂を塗布することにより、前記段剥きされた信号線を前記段剥きされた金属コルゲートに対して接着固定したことを特徴とする信号伝送ケーブル用コネクタ。
【請求項2】
金属コルゲートと、該金属コルゲートに内蔵され当該金属コルゲートとは異なる線膨張係数の信号線と、を少なくとも有する信号伝送ケーブルと、
コネクタハウジングと、該コネクタハウジングの一端側に設けられ前記信号線と電気的に接続される信号線用接続端子と、前記コネクタハウジングの他端側に設けられ前記金属コルゲートを固定するためのコネクタクランプ部と、を少なくとも有するコネクタ筐体と、
を備えてなる信号伝送ケーブル用コネクタであって、
段剥きされた金属コルゲートと信号線に亘って樹脂を塗布することにより、前記段剥きされた信号線を前記段剥きされた金属コルゲートに対して接着固定したことを特徴とする信号伝送ケーブル用コネクタ。
【請求項3】
前記段剥きされた金属コルゲートと信号線の両方に亘って、石英クロステープに前記樹脂を塗布・浸透させて形成した繊維強化プラスチックで覆って、前記樹脂により前記段剥きされた信号線を前記段剥きされた金属コルゲートに対して接着固定した請求項1又は2に記載の信号伝送ケーブル用コネクタ。
【請求項4】
前記樹脂の硬化前の室温下での粘度が30Pa・s以上であり、硬化後の室温下での弾性率が200MPa以上2000MPa以下である請求項3に記載の信号伝送ケーブル用コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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