説明

信号伝送時間推定方法、同期方法、及び、ネットワーク通信システム

【課題】 通信装置間の動作タイミングの同期の精度を向上できる通信システムを提供する。
【解決手段】 親局装置10は、同期用信号の送信に先立って、連続する5個の下り計測用データの送信を、5回繰り返し試行する。親局装置10は、5個の下り計測用データのうちの3番目について、データ往復を計測する。子局装置20は、5回の試行のそれぞれについて、n個の下り計測用データの受信間隔の計測し、受信間隔の変動を算出する。親局装置10は、受信間隔の変動が最も小さい試行を選定する。親局装置10は、その選定された試行でのデータ往復時間に基づいて算出される遅延補正量で、同期情報を送信するタイミングを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワーク通信システムに関し、更に詳しくは、通信網を介して相互に接続される複数の通信装置を有するネットワーク通信システムに関する。また、本発明は、信号伝送時間推定方法及び同期方法、に関し、更に詳しくは、通信網を介して相互に接続された通信装置間を、データが伝送する時間を推定する信号伝送時間推定方法、及び、そのように推定された信号伝送時間を用いて通信装置間の動作タイミングを同期させる同期方法に関する。
【背景技術】
【0002】
親局装置と、複数の子局装置とが通信網を介して接続された通信システムがある。このような通信システムでは、時間経過に伴って、各子局装置の動作タイミングにズレが生じることがある。通信システムでは、そのような動作タイミングのズレを補正して、各子局装置の動作タイミングを同期させる必要がある。
【0003】
動作タイミングを同期させる手法としては、親局装置が管理する時刻を基準時刻として、各子局装置が管理する時刻を、基準時刻に合わせる手法がある。この手法では、親局装置は、各子局装置に向けて、動作タイミングを同期させるための同期情報を、ほぼ同時に送信する。各子局装置は、受信した同期情報に基づいて、自身の動作タイミングを補正する。しかし、この場合、親局装置が同期情報を送信してから、各子局装置が同期情報を受信するまでの間の時間は、子局装置によってまちまちであるため、各子局装置が同期情報を受信するタイミングにズレが生じ、各子局装置の動作タイミングを精度よく同期させることができない。
【0004】
各子局装置の動作タイミングを同期させる別の手法としては、各子局装置に、通信網のインタフェースとは別に、GPS時計等の正確な時刻機能を有する構成を持たせる手法がある。この手法では、各子局装置は、時刻機能が管理する正確な時刻に基づいて、自身の動作タイミングを規定することで、各子局装置の動作タイミングを極めて高精度に制御できる。しかし、動作タイミングの同期の精度には、それほど高い精度は要求されておらず、また、子局装置の構成が複雑となって、装置が高価になるという欠点がある。
【0005】
構成の複雑化を防ぎつつ、各子局装置の動作タイミングを精度よく同期させる技術としては、特許文献1に記載された技術がある。特許文献1では、同期情報の送信に先立って、親局装置と子局装置との間をデータが往復する時間を複数回計測する。そして、計測した複数の往復時間から、統計的手法(平均値、モード値)を用いて、親局装置から子局装置までの信号伝送時間(伝送遅延量)を推定し、その伝送遅延量を用いて、同期情報送信のタイミングを調整する。これにより、各子局装置に、同じタイミングで同期情報を送信でき、各子局装置の動作タイミングの同期の精度を向上できる。
【特許文献1】特開2000−324535号公報(図1、図2、段落0024〜0026)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、親局装置から子局装置間までの伝送遅延量は、トラフィック負荷状態により増加することがある。このため、特許文献1では、データ往復時間の計測時に、トラフィック負荷が上昇していたような場合には、統計的手法を用いて推定された伝送遅延量は、実際に同期情報を送信する際の伝送遅延量に対して誤差が大きくなり、推定された伝送遅延量の信頼性が低い。このように信頼性の低い伝送遅延量に基づいて同期情報の送信タイミングを調整する場合には、各子局装置によって同期情報が同時に受信されることを保証できず、各子局装置の動作タイミングを精度よく同期させることができない。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、推定された伝送遅延量の信頼性が高い伝送遅延量の推定方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、推定される伝送遅延量の信頼性が高く、通信装置の動作タイミングの同期の精度を向上できる通信システム、及び、通信装置の同期方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の信号伝送時間の推定方法は、通信網を介して相互に接続された第1及び第2の通信装置の間の信号伝送時間を推定する方法において、前記第1の通信装置から前記第2の通信装置に向けてn個(nは2以上の整数)の第1の計測用データを所定時間間隔で送信する第1ステップと、前記第1の計測用データの受信に応答して、前記第2の通信装置から前記第1の通信装置に向けて第2の計測用データを返送する第2ステップと、前記第1の計測用データが送信された時刻から、当該第1の計測用データに対応する第2の計測用データが前記第1の通信装置で受信されるまでのデータ往復時間を計測する第3ステップと、前記第2の通信装置で前記第1の計測用データが受信される受信時間間隔の変動、及び、前記第1の通信装置で前記第2の計測用データが受信される受信時間間隔の変動の少なくとも一方を計測する第4ステップと、前記第1〜第4ステップをm回(mは2以上の整数)繰り返して試行し、前記第4ステップで計測された受信時間間隔の変動に基づいて、前記m回の試行のうち安定な通信状態で信号伝送が行われた試行を選定する第5ステップと、前記第5ステップによって選定された試行に際して前記第3ステップで計測されたデータ往復時間に基づいて、信号伝送時間を推定する第6ステップとを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の信号伝送時間の推定方法では、複数回計測したデータ往復時間のうちで、通信網が安定状態にあるときのデータ往復時間に基づいて、信号伝送時間を推定する。このため、複数回計測したデータ往復時間を統計的手法で演算する場合に比して、推定された信号伝送時間の信頼性を高めることができる。
【0011】
本発明の信号伝送時間の推定方法では、前記第5ステップは、m回の試行のそれぞれについて、n個の計測用データの受信時間間隔のそれぞれと前記所定時間間隔との差の総和を演算し、m回の試行の内で総和が最も小さいときの試行を選定することが好ましい。この場合、通信網が最も安定な状態にあったときのデータ往復時間に基づいて、信号伝送時間を推定することができる。
【0012】
本発明の信号伝送時間の推定方法では、前記第3ステップは、n個の第1の計測用データのうちのi番目(1≦i≦n)の第1の計測用データに対して行う構成を採用できる。例えばi番目の第1の計測用データとしては、n個の第1の計測用データのうちの中心付近、つまり、n/2番目付近の第1の計測用データを採用できる。
【0013】
本発明の信号伝送時間の推定方法では、前記m回の試行のそれぞれについて、前記第1の通信装置から送信された前記i番目の第1の計測データを前記第2の通信装置で受信した時刻(Tr(1),Tr(2),...Tr(m))を取得するステップを更に備えており、前記m回の試行が特定の時間間隔(Ts)で行われ、前記第4ステップでは、前記第2の通信装置で前記第1の計測用データが受信される受信時間間隔の変動、及び、前記第1の通信装置で前記第2の計測用データが受信される受信時間間隔の変動の双方を計測し、前記第5ステップでは、前記第2の通信装置で計測された受信時間間隔の変動に基づいて前記第1の通信装置から前記第2の通信装置まで安定な信号伝送が行われた試行を選定し、前記第1の通信装置で計測された受信時間間隔の変動に基づいて前記第2の通信装置から前記第1の通信装置まで安定な信号伝送が行われた試行を選定し、信号伝送時間Rtsを下記式:
【数1】

で演算する(但し、Xは第1の通信装置から第2の通信装置まで安定な信号伝送が行われたとして選定された試行の試行番号、Yは第2の通信装置から第1の通信装置まで安定な信号伝送が行われたとして選定された試行の試行番号、Rt(Y)は試行番号Yの試行で計測されたデータ往復時間である)構成を採用できる。この場合、推定された信号遅延時間の信頼性を更に高めることができる。
【0014】
本発明の同期方法は、第1の通信装置から、通信網を介して複数の第2の通信装置に向けて同期用信号を送信し、第1及び第2の通信装置の間の動作タイミングを同期させる方法において、上記信号伝送時間の推定方法により、第2の通信装置のそれぞれについて信号伝送時間を取得する信号伝送時間取得ステップと、前記信号伝送時間取得ステップで取得された信号伝送時間のうち、最大の信号伝送時間を基準として、第2の通信装置のそれぞれについて遅延補正量を算出する遅延補正量算出ステップと、前記第1の通信装置から、前記第2の通信装置のそれぞれに、前記第2の通信装置ごとに算出された遅延補正量で補正した送信タイミングで同期用信号を送信する同期用信号送信ステップとを有することを特徴とする。
【0015】
本発明の同期方法では、信頼性の高い信号伝送時間に基づいて、同期用信号を送信する際の遅延補正量を算出するため、同期用信号が第2の通信装置のそれぞれに到達する時刻を精度よく制御できる。これにより、第2の通信装置間の動作タイミングのズレを小さくして、同期誤差を減少できる。
【0016】
本発明の同期方法は、前記遅延補正量算出ステップでは、各第2の通信装置の信号伝送時間をΔT12とし、前記第2の通信装置の信号伝送時間のうちで最大の信号伝送時間をΔT12maxとして、各第2の通信装置の遅延補正量を、ΔT12max−ΔT12に基づいて算出する構成を採用できる。例えば信号伝送時間が最大となる第2の通信装置の補正遅延量を0とするときには、他の第2の通信装置の遅延補正量は、遅延補正量=ΔT12max−ΔT12で算出できる。
【0017】
本発明の同期方法では、前記同期用信号送信ステップは、n個(nは2以上の整数)のうちの任意の1つに同期用信号を含む第3の計測用データを所定時間間隔で送信し、前記同期用信号送信ステップに後続して、第2の通信装置で、前記n個の第3の計測用データの任意の1つから同期用信号を抽出するステップと、前記第2の通信装置で前記第3の計測用データが受信される受信時間間隔の変動を計測するステップと、前記計測された受信時間間隔の変動に基づいて、同期用信号の送信が、通信網が安定状態にあるときに行われたか否かを判定するステップと、前記安定状態を判定するステップで、通信網が安定状態にあると判定されると、前記第2の通信装置が、前記抽出された同期用信号に基づいて、動作タイミングを補正するステップとを有することが好ましい。この場合、通信網が安定状態にあり、推定された信号伝送時間と、同期用信号送信の際の実際の信号伝送時間との間の差が小さいと思われるときに、同期用信号に基づいて、第2の通信装置の動作タイミングを補正することで、第2通信装置間の動作タイミングの同期誤差を減少できる。
【0018】
本発明の同期方法は、前記信号伝送時間取得ステップでは、前記第2の通信装置で前記第1の計測用データが受信される受信時間間隔の変動を計測し、前記通信網が安定状態にあるときに行われたか否かを判定するステップでは、前記第2の通信装置で前記第1の計測用データが受信される受信時間間隔の変動と、前記第2の通信装置で前記第3の計測用データが受信される受信時間間隔の変動とを比較して、前記同期情報の送信が前記通信網が安定状態にあるときに行われたか否かを判定することが好ましい。例えば、第2の通信装置で演算された、m回の試行のそれぞれについてのn個の第1の計測用データの受信時間間隔のそれぞれと前記所定時間間隔との差の総和の最小値と、n個の第1の計測用データの受信時間間隔のそれぞれと前記所定時間間隔との差の総和とを比較して、後者が前者と同等であるか、或いは、前者よりも小さいときに、同期情報の送信が通信網が安定状態にあるときに行われたと判定することができる。
【0019】
本発明のネットワーク通信システムは、第1の通信装置から、通信網を介して第2の通信装置に向けて同期用信号を送信するネットワーク通信システムにおいて、前記第1の通信装置から前記第2の通信装置に向けてn個の第1の計測用データを所定時間間隔で送信する処理をm回繰り返して試行する計測用データ送信手段と、前記第2の通信装置における第1の計測用データの受信に応答して、前記第2の通信装置から前記第1の通信装置に向けて第2の計測用データを返送する計測用データ返送手段と、前記第1の計測用データが送信された時刻から、当該第1の計測用データに対応する第2の計測用データが前記第1の通信装置で受信されるまでのデータ往復時間を計測する往復時間計測手段と、前記第2の通信装置で前記第1の計測用データが受信される受信時間間隔の変動、及び、前記第1の通信装置で前記第2の計測用データが受信される受信時間間隔の変動の少なくとも一方を計測する時間変動計測手段と、前記時間変動計測手段で計測された受信時間間隔の変動に基づいて、前記m回の試行の内で安定な通信状態で信号伝送が行われた試行を選定する選定手段と、前記選定手段によって選定された試行に際して、前記往復時間計測手段で計測されたデータ往復時間に基づいて、前記信号伝送時間を推定する信号伝送時間推定手段と、前記信号伝送時間推定手段で推定された信号伝送時間に基づいて遅延補正量を算出する遅延補正量算出手段と、前記遅延補正量算出手段で算出された遅延補正量だけ遅延させて同期用信号を送信する同期用信号送信手段と、前記同期用信号送信手段で送信された同期用信号に基づいて、第2の通信装置の動作タイミングを補正する動作タイミング補正手段とを備えることを特徴とする。
【0020】
本発明のネットワーク通信システムでは、遅延補正量算出手段が、複数回計測したデータ往復時間のうちで、通信網が安定状態にあるときのデータ往復時間に基づいて、同期情報を第2の通信装置に送信する際の遅延補正量を算出する。このため、複数回計測したデータ往復時間を統計的手法で演算する場合に比して、同期用信号が第2の通信装置のそれぞれに到達する時刻を精度よく制御できる。これにより、第2の通信装置間の動作タイミングのズレを小さくして、同期誤差を減少できる。
【0021】
本発明のネットワーク通信システムでは、前記時間変動計測手段は、m回の試行のそれぞれについて、n個の計測用データの受信時間間隔のそれぞれと前記所定時間間隔との差の総和を演算し、前記安定判定手段は、m回の試行の内で総和が最も小さいときの試行を安定状態の試行として選定することが好ましい。この場合、通信網が最も安定な状態にあったときのデータ往復時間に基づいて、遅延補正量を算出することができる。
【0022】
本発明のネットワーク通信システムでは、前記往復時間計測手段は、n個の計測用データの内でi番目(1≦i≦n)の計測用データに対して往復時間を計測する構成を採用できる。例えばi番目の第1の計測用データとしては、n個の第1の計測用データのうちの中心付近、つまり、n/2番目付近の第1の計測用データを採用できる。
【0023】
本発明のネットワーク通信システムは、前記m回の試行のそれぞれについて、前記第1の通信装置から送信された前記i番目の第1の計測データを前記第2の通信装置で受信した時刻(Tr(1),Tr(2),...Tr(m))を取得する信号検出手段を更に備えており、前記計測用データ送信手段は、前記m回の試行を所定時間間隔(Ts)で行い、前記時間変動計測手段は、前記第2の通信装置で前記第1の計測用データが受信される受信時間間隔の変動、及び、前記第1の通信装置で前記第2の計測用データが受信される受信時間間隔の変動の双方を計測し、前記安定判定手段は、前記第2の通信装置で計測された受信時間間隔の変動に基づいて前記第1の通信装置から前記第2の通信装置まで安定な信号伝送が行われた試行を選定し、前記第1の通信装置で計測された受信時間間隔の変動に基づいて前記第2の通信装置から前記第1の通信装置まで安定な信号伝送が行われた試行を選定し、信号伝送時間Rtsを下記式:
【数1】

で演算する(但し、Xは第1の通信装置から第2の通信装置まで安定な信号伝送が行われたとして選定された試行の試行番号、Yは第2の通信装置から第1の通信装置まで安定な信号伝送が行われたとして選定された試行の試行番号、Rt(Y)は試行番号Yの試行で計測されたデータ往復時間である)構成を採用できる。この場合、同期用信号が第2の通信装置のそれぞれに到達する時刻を、更に精度よく制御できる。
【0024】
本発明のネットワーク通信システムでは、前記同期用信号送信手段は、所定時間間隔で送信するn個の第3の計測用データを生成し、該n個の第3の計測用データのうちの任意の1つに同期用信号を含めて、同期用信号を送信する構成を採用できる。
【0025】
本発明のネットワーク通信システムでは、時間変動計測手段は、前記第2の通信装置で前記第3の計測用データが受信される受信時間間隔の変動を計測し、前記安定判定手段は、前記時間変動計測手段で計測された受信時間間隔の変動に基づいて、前記第3の計測用データの送信の際に通信網が安定状態にあったか否かを判定し、前記動作タイミング補正手段は、前記安定判定手段が前記第3の計測用データの送信の際に通信網が安定状態にあったと判定すると、同期用信号に基づいて、前記第2の通信装置の動作タイミングを補正することが好ましい。この場合、通信網が安定状態あり、推定された信号伝送時間と、同期用信号送信の際の実際の信号伝送時間との間の差が小さいと思われるときに、同期用信号に基づいて、第2の通信装置の動作タイミングを補正することで、第2通信装置間の動作タイミングの同期誤差を減少できる。
通信網が安定状態にあったか否かは、例えば、第2の通信装置で演算された、m回の試行のそれぞれについてのn個の第1の計測用データの受信時間間隔のそれぞれと前記所定時間間隔との差の総和の最小値と、n個の第1の計測用データの受信時間間隔のそれぞれと前記所定時間間隔との差の総和とを比較することで判定できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の信号伝送時間推定方法は、通信網が安定状態にあるときのデータ往復時間に基づいて、信号伝送時間を推定するため、推定された信号伝送時間の信頼性を高めることができる。また、本発明の同期方法は、同期用信号が第2の通信装置のそれぞれに到達する時刻を精度よく制御でき、第2の通信装置間の動作タイミングのズレを小さくできる。更に、本発明のネットワーク通信システムは、通信網が安定状態にあるときのデータ往復時間に基づいて、遅延補正量を算出するため、同期用信号が第2の通信装置のそれぞれに到達する時刻を精度よく制御でき、第2の通信装置間の動作タイミングのズレを小さくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態の通信システムの構成を示している。通信システム100は、親局装置10と、複数の子局装置20とを備える。親局装置10と、各子局装置20とは、インターネット等の通信網30を介して、相互に接続されている。
【0028】
親局装置10及び子局装置20は、それぞれ、装置内で時刻を管理しており、自身が管理する時刻に基づく動作タイミングで、例えば時分割通信を行っている。親局装置10は、各子局装置20が管理する時刻を、親局装置10が管理する時刻と同期させるために、各子局装置20に向けて、同期情報を定期的に送信する。同期情報には、合わせ込むべき時刻を示す情報が含まれており、各子局装置20は、自身が管理する時刻を、受信した同期情報で示された時刻に合わせ込む。
【0029】
親局装置10は、同期情報の送信に先立って、親局装置10から子局装置20までのデータ伝送遅延量を計算するために、n個(nは2以上の整数)の計測用データ(下り計測用データ)を、所定時間間隔で連続して子局装置20に送信する。子局装置20は、連続するn個の下り計測用データを受信すると、そのn個の下り計測用データの受信間隔を計測して、下り計測用データの送信の際の所定時間間隔と下り計測用データの受信間隔との差(受信間隔の変動)を演算する。
【0030】
子局装置20は、下り計測用データの受信に対する応答として、n個の計測用データ(上り計測用データ)を親局装置10に返送する。親局装置10は、n個の上り計測用データを受信すると、その上り計測用データの受信間隔を計測し、その受信間隔の変動を演算する。また、親局装置10は、親局装置10と子局装置20との間をデータが往復する時間を計測する。子局装置20は、n個の上り計測用データを送出した後に、n個の下り計測用データの受信間隔の変動の演算結果を、親局装置10に送信する。
【0031】
親局装置10は、各子局装置20に対して、n個の下り計測用データの送信を、m回(mは2以上の整数)だけ繰り返し試行する。これにより、下り計測用データの受信間隔の変動、上り計測用データの受信間隔の変動、及び、親局装置10と子局装置20との間のデータ往復時間が、m回の試行のそれぞれについて得られる。親局装置10は、このようにして得られた、m回の試行についての下り計測用データの受信間隔の変動、上り計測用データの受信間隔の変動、及び、親局装置10と子局装置20との間のデータ往復時間に基づいて、親局装置10から各子局装置20までの伝送遅延量をそれぞれ計算する。そして、子局装置20ごとに同期情報送信の遅延補正量を決定して、各子局装置20に送信する同期情報の送信タイミングを制御する。
【0032】
図2は、親局装置10の構成を示している。親局装置10は、基準発振器101、遅延制御部102、送信I/F103、送信データ生成部104、CPU105、カウンタ106、受信間隔計測部107、データ検出部108、及び、受信I/F109を備える。送信I/F103は、データを通信網30に送信するための物理インタフェースであり、例えばEthernet(登録商標)インタフェースとして構成される。受信I/F109は、通信網30からデータを受信するための物理インタフェースであり、送信I/F103と同様に、例えばEthernet(登録商標)インタフェースとして構成される。
【0033】
基準発振器101は、基準タイミングクロックを生成し、生成した基準タイミングクロックを、遅延制御部102、送信データ生成部104、CPU105、カウンタ106、及び、受信間隔計測部107に入力する。基準タイミングクロックは、データ送信間隔制御や、受信データ間隔計測、データ伝送遅延量計測などに用いられる。CPU105は、時刻を管理する機能と、各種の演算を行う機能と、遅延制御部102及び送信データ生成部104等の動作を制御する機能と、同期情報を生成する機能と、各子局装置20に同期情報を送信する際の遅延補正量を、子局装置20ごとに算出する機能とを有する。
【0034】
送信データ生成部104は、CPU105からの指令に基づいて、連続するn個の下り計測用データを生成する。送信データ生成部104は、計測用データを、データ伝送遅延量を計測するためのIPフレームデータとして生成する。送信データ生成部104は、生成したn個の下り計測用データを、基準タイミングクロックを用いて得られる所定の時間間隔で遅延制御部102に入力する。
【0035】
図3は、計測用データの構成を示している。計測用データは、IPヘッダ301、UDPヘッダ302、及び、固有情報303を有する。IPヘッダ301は、OSI参照モデルのインターネット層で付加させる情報であり、UDPヘッダ302は、トランスポート層で付加される情報である。固有情報303は、種別情報、順序番号情報、及び、同期情報の有無を示す情報を含む。
【0036】
種別情報は、計測用データが下り計測用データであるか、或いは、上り計測用データであるかを示す。送信データ生成部104は、種別情報として、下り計測用データを示す計測用データを生成する。順序番号情報は、計測試行回数と送信順序番号とを含む。計測試行回数は、m回の試行のうちの何回目であるかを示し、送信順序番号は、連続するn個の計測用データの何番目であるかを示す。
【0037】
親局装置10は、同期情報を、計測用データを用いて、各子局装置20に送信する。より詳細には、親局装置10は、n個の下り計測用データの任意の1つに同期情報を含ませて、同期情報を、各子局装置20に送信する。固有情報303中の同期情報の有無を示す情報は、連続するn個の計測用データの中の何れかに同期情報が含まれるか否かを示す。送信データ生成部104は、子局装置20までの伝送遅延量の計算の際には、同期情報の有無を示す情報を「同期情報無し」とする計測用データを生成する。送信データ生成部104は、同期情報の送信の際には、CPU105から同期情報を入力し、同期情報の有無を示す情報を「同期情報有り」として、n個の計測用データの何れかに同期情報を含ませた下り計測用データを生成する。
【0038】
遅延制御部102は、送信データ生成部104から入力した下り計測用データを、送信I/F103を介して、子局装置20に向けて送出する。遅延制御部102は、入力した下り計測用データの固有情報303を参照して同期情報の有無を判断する。遅延制御部102は、「同期情報無し」と判断したときには、下り計測用データの送出タイミングを補正せず、そのままのタイミングで送出する。遅延制御部102は、「同期情報有り」と判断したときには、下り計測用データの送出タイミングを、CPU105によって指定された子局装置20ごとの遅延補正量で補正する。
【0039】
データ検出部108は、親局装置10に向けて送信されたデータを、受信I/F109を介して入力する。データ検出部108は、受信データのIPヘッダ301、UDPヘッダ302、及び、固有情報303から、子局装置20から返送された上り計測用データを検出し、その検出タイミングを、受信間隔計測部107に通知する。また、子局装置20から下り計測用データの受信間隔の変動を示すデータ(下り受信間隔変動データ)を受信し、その受信した下り受信間隔変動データをCPU105に入力する。受信間隔計測部107は、上り計測用データの検出タイミングを入力して、子局装置20から送信されたn個の上り計測用データの受信間隔を計測する。受信間隔計測部107で計測された上り計測用データの受信間隔は、CPU105に入力され、CPU105によって、上り計測用データの受信間隔の変動が演算される。
【0040】
カウンタ106は、送信データ生成部104によって、連続するn個の下り計測用データのうちの任意の計測点データ(n個の下り計測用データのうちのi番目(1≦i≦n)のデータ)が遅延制御部102に入力されると、カウントが開始される。カウンタ106は、データ検出部108によって、計測点データに対応して返送された上り計測用データが検出されると、カウントがストップされる。カウンタ106のカウント値は、データが、親局装置10と子局装置20との間を往復した時間に対応する。このようにしてカウントされたカウンタ106のカウント値は、CPU105に入力される。
【0041】
図4は、子局装置20の構成を示している。子局装置20は、基準発振器201、受信間隔計測部202、CPU203、データ検出部204、受信I/F205、送信データ生成部206、及び、送信I/F207を備える。受信I/F205は、通信網30からデータを受信するための物理インタフェースであり、例えばEthernet(登録商標)インタフェースとして構成される。送信I/F207は、データを通信網30に送信するための物理インタフェースであり、受信I/F205と同様に、例えばEthernet(登録商標)インタフェースとして構成される。
【0042】
基準発振器201は、基準タイミングクロックを生成し、生成した基準タイミングクロックを、受信間隔計測部202へ入力する。基準タイミングクロックは、受信データ間隔計測等のために用いられる。CPU203は、時刻を管理する機能と、各種演算を行う機能とを有する。
【0043】
データ検出部204は、子局装置20に向けて送信されたデータを、受信I/F205を介して入力する。データ検出部204は、受信データのIPヘッダ301、UDPヘッダ302、及び、固有情報303から、親局装置10によって送信された下り計測用データを検出し、その検出タイミングを、受信間隔計測部202に通知する。また、検出した下り計測用データの固有情報303の同期情報の有無を示す情報が「同期情報有り」か、「同期情報無し」かを認識する。データ検出部204は、「同期情報有り」と認識すると、n個の下り計測用データの何れかに含まれる同期情報を抽出して、抽出した同期情報をCPU203に入力する。
【0044】
受信間隔計測部202は、データ検出部204から通知された下り計測用データの検出タイミングに基づいて、親局装置10によって送信された連続するn個の下り計測用データの受信間隔を計測する。受信間隔計測部202によって計測された下り計測用データの受信間隔は、CPU203に入力され、CPU203によって受信間隔の変動量が演算される。
【0045】
子局装置20は、データ検出部204によって検出された下り計測用データが「同期情報無し」であったときには、下り計測用データの受信に対する応答として、上り計測用データを返送する。送信データ生成部206は、下り計測用データの固有情報303の種別情報を上り計測用データを示す情報に書き換えて、親局装置10に返送する上り計測用データを生成する。一方、データ検出部204によって検出された下り計測用データが「同期情報有り」であったときには、送信データ生成部206は、上り計測用データを生成しない。
【0046】
送信データ生成部206が生成した上り計測用データは、送信I/F207を介して、親局装置10に向けて送出される。送信データ生成部206は、上り計測用データの返送後に、下り計測用データの受信間隔の変動についてのデータをCPU203から入力し、その受信間隔の変動についてのデータを、親局装置10に向けて送信する。
【0047】
図5は、親局装置10が、各子局装置20に同期情報を送信する際の動作を、フローチャートで示している。親局装置10は、子局装置20にn個の下り計測用データを送信して、子局装置20からn個の上り計測用データを受信することにより、データ間隔の変動と、データ往復時間とを取得する(ステップS1)。図6は、図5のステップS1の詳細な手順を示している。CPU105は、送信データ生成部104に、子局装置20との間の伝送遅延量の計測のための下り計測用データの生成を指示する(ステップS101)。送信データ生成部104は、CPU105からの指示に基づいて、下り計測用データを生成する(ステップS102)。
【0048】
ステップS102で、送信データ生成部104が生成する下り計測用データのIPヘッダ301には、送信元として親局装置10のIPアドレスが含まれ、送信先として子局装置20のIPアドレスが含まれる。また、UDPヘッダ302には、伝送遅延量の計測の通信であることを示す任意のポート番号が含まれる。ステップS102で、送信データ生成部104が生成する固有情報303には、種別情報「下り」、試行回数「1」、送信順序番号「1」、同期情報「無し」を示す情報が含まれる。
【0049】
送信データ生成部104は、生成した下り計測用データが、あらかじめ定めてある計測点データであるか否かを判断する(ステップS103)。ステップS103では、生成した下り計測用データが、連続するn個の下り計測用データのうちのi番目であるか否かによって、送信データ生成部104が計測点データを生成したか否かが判断される。下り計測用データの個数nは、例えば「5」に設定され、その場合、計測点データとして、連続する5個の中間であるi=3番目のデータが採用できる。送信データ生成部104は、ステップS103で、生成した下り計測用データが計測点データであると判断したときには、カウンタ106のカウントをスタートさせる(ステップS104)。
【0050】
送信データ生成部104は、下り計測用データが所定時間間隔で子局装置20に送信されるようなタイミングで、生成した下り計測用データを遅延制御部102に入力する。遅延制御部102は、入力した下り計測用データの固有情報303が「同期情報無し」を示していることを認識して、入力した下り計測用データを、遅延制御を行わずに、つまり、タイミング補正なしで、子局装置20に向けて出力する(ステップS105)。下り計測用データの送信間隔となる所定時間間隔は、基準発振器101から入力する基準クロックタイミングを用いて生成され、例えば200msに設定される。
【0051】
送信データ生成部104は、n個の下り計測用データをすべて子局装置20に向けて送出したか否かを判断する(ステップS106)。ステップS106で、まだ、n個の下り計測用データのすべてが送出されていないと判断されたときには、ステップS102に戻り、送信データ生成部104によって、次の下り計測用データが生成される。親局装置10は、ステップS102からステップS106を繰り返し実行し、n個の下り計測用データを子局装置20に向けて送信する。このとき、送信データ生成部104は、ステップS102を実行するたびに、固有情報303の送信順序番号をインクリメントする。以上の動作により、親局装置10は、固有情報303の送信順序番号が1〜nまでのn個の下り計測用データを、等間隔で子局装置20へ向けて送出する。
【0052】
子局装置20では、受信I/F205が、データを受信し(ステップS107)、受信したデータをデータ検出部204に入力する。データ検出部204は、親局装置10から送信された下り計測用データを検出すると(ステップS108)、その検出タイミングを受信間隔計測部202に通知する。このとき、データ検出部204は、検出した下り計測用データの固有情報303を参照して、「同期情報無し」であることを認識する。受信間隔計測部202は、データ検出部204から通知された1つ前の下り計測用データの検出タイミングから、次の下り計測用データの検出タイミングまでの間の時間差によって、下り計測用データの受信間隔を計測する(ステップS109)。
【0053】
送信データ生成部206は、データ検出部204から下り計測用データを入力して、上り計測用データを生成する(ステップS110)。ステップS110では、送信データ生成部206は、IPヘッダ301及びUDPヘッダ302の内容を親局装置10への送信に適合するように書き換え、かつ、固有情報303の送信種別を「上り」に書き換えた計測用データを生成する。送信データ生成部206は、生成した上り計測用データを、送信I/F207を介して、親局装置10に向けて、即時に送出する(ステップS111)。
【0054】
データ検出部204は、n個の下り計測用データをすべて受信したか否かを判断する(ステップS112)。データ検出部204は、まだ、n個の下り計測用データのすべてを受信していないと判断したときには、ステップS107に戻り、次の下り計測用データを受信する。子局装置20は、ステップS107からステップS112までを繰り返し実行し、n個の下り計測用データを受信して、下り計測用データの受信間隔を計測すると共に、n個の上り計測用データを折り返し返送する。子局装置20は、n個の上り計測用データの全てを送出すると、CPU203は、受信間隔計測部202が計測した下り計測用データの受信間隔に基づいて、受信間隔の変動量を演算する(ステップS113)。
【0055】
図7(a)及び(b)は、それぞれデータ受信の様子を模式的に示している。同図の例では、n=5の例を示している。親局装置10は、下り計測用データを所定時間間隔(T)で送信するため、通信網30の状態が理想的に安定である場合には、子局装置20は、同図(a)に示すように、5つの下り計測用データを、全て時間間隔Tで受信する。しかし、実際には、瞬時的な高負荷が発生する等の不安定要素から、子局装置20は、5つの下り計測用データを、同図(b)に示すように、受信時間間隔d1〜d4で受信する。ステップS113では、CPU203は、連続する2つの下り計測用データの受信間隔の変動の総和(受信間隔変動量α)を、下記式(1)に基づいて算出する。
【数2】

【0056】
図6に戻り、親局装置10では、受信I/F109が、データを受信し(ステップS114)、受信したデータをデータ検出部108に入力する。データ検出部108は、受信データの内容から、子局装置20から返送された上り計測用データを検出し(ステップS115)、その検出タイミングを受信間隔計測部107に通知する。受信間隔計測部107は、データ検出部108から通知された1つ前の上り計測用データの検出タイミングから、次の上り計測用データの検出タイミングまでの間の時間差によって、上り計測用データの受信間隔を計測する(ステップS116)。
【0057】
データ検出部108は、検出された上り計測用データが、あらかじめ計測点データとして定められた下り計測用データに対応して返送された計測用データあるか否かを判断する(ステップS116)。ステップS116では、検出した上り計測用データが、n個の上り計測用データのうちのi番目であるか否かによって、計測点データとして定められた下り計測用データに対応して返送されたデータであるか否かを判断する。ステップS116で、上り計測用データが計測点データに対応して返送された計測用データであると判断されたときには、データ検出部108は、カウンタ106のカウントをストップさせる(ステップS117)。
【0058】
図8は、親局装置10と子局装置20との間のデータの送受信を模式的に示している。カウンタ106は、計測点の下り計測用データが親局装置10から送信されてから、計測点の下り計測用データに対応して返送された上り計測用データが親局装置10に戻ってくるまでの間だけ、カウントされる。このとき、子局装置20が、下り計測用データを受信してから上り計測用データを送出するまでの間の時間が、データ往復時間の計測に対して無視できるほど小さいものであるとすると、カウンタ106のカウント値は、親局装置10と子局装置20との間を、計測点データが往復する時間Rtに相当する。
【0059】
データ検出部108は、n個の上り計測用データをすべて受信したか否かを判断する(ステップS119)。データ検出部108は、まだ、n個の上り計測用データのすべてを受信していないと判断したときには、ステップS114に戻り、次の上り計測用データを受信する。親局装置10は、ステップS114からステップS119までを繰り返し実行して、n個の上り計測用データを受信し、上り計測用データの受信間隔を計測する。親局装置10が、n個の上り計測用データの全てを受信すると、CPU105は、ステップS113と同様にして、上り計測用データの受信間隔変動量αを演算する(ステップS113)。その後、子局装置20は、親局装置10に向けて、ステップS113で演算した下り計測用データの受信間隔変動量αを送信する(ステップS121)。
【0060】
図5に戻り、親局装置10は、ステップS1を、規定回数(m回)試行したか否かを判断する(ステップS2)。親局装置10は、まだ、ステップS1をm回試行していないときには、ステップS1に戻り、計測対象の子局装置20について、データ間隔の変動量、及び、データ往復時間の取得を繰り返し実行する。親局装置10は、各試行のそれぞれについて、下り計測用データの受信間隔変動量α、上り計測用データの受信間隔変動量α、及び、データ往復時間Rtを記憶する。ステップS1をm回だけ繰り返し試行することにより、計測対象の子局装置20について、図9に示すような、下り計測用データの受信間隔の変動の計測結果が得られ、図10に示すような、上り計測用データの受信間隔の変動の計測結果が得られる。また、図11に示すような、親局装置10と、計測対象の子局装置20との間のデータの往復時間の計測結果が得られる。
【0061】
親局装置10は、m回のデータ往復時間の計測結果、及び、データ往復時間の計測結果に基づいて、親局装置10から計測対象の子局装置20までの伝送遅延量を推定する(ステップS3)。ステップS3では、まず、図12に示すように、各試行について、下り計測用データの受信間隔変動量αと、上り計測用データの受信間隔変動量αとの合計を求める。次いで、受信間隔変動量αの合計が最も小さい試行が、何回目の試行であったかを割り出す。図12の例では、受信間隔変動量の合計が最も小さな値となるのは4回目の試行であることが割り出される。
【0062】
m回の試行のうちで、受信間隔変動量αの合計が最も小さな値をとる試行で計測されたデータ往復時間は、通信網30が最も安定していたときに計測されたデータ往復時間であると推測できる。このため、上記のようにして割り出された試行回数のデータ往復時間の半分を、通信網30の安定状態における伝送遅延量であると推定する。図11の例では、4回目の試行のデータ往復時間「3426ms」が、5回のデータ往復時間の計測のうちで通信網30が最も安定状態にあったときのデータ往復時間であると推測され、その半分である「1713ms」が、通信網30が最も安定状態にあったときの伝送遅延量であると推定される。
【0063】
親局装置10は、通信網30に接続された全ての子局装置20に対して、ステップS1〜ステップS3までを実行したか否かを判断する(ステップS4)。ステップS4で、全ての子局装置20について、ステップS1〜ステップS3までを実行していないと判断したときには、親局装置10は、測定対象の子局装置20を変更して、ステップS1に戻り、その子局装置20に対して、データ間隔の変動量、及び、データ往復時間の取得をm回だけ繰り返し試行して、伝送遅延量の推定を行う。以上のような動作により、親局装置10は、全ての子局装置20との間の伝送遅延量を推定する。
【0064】
図13は、各試行での子局装置20のデータ往復時間の計測結果を示している。通信網30に接続された3つの子局装置20(1)〜(3)について、各試行につき、同図に示すようなデータ往復時間が得られたとする。また、図示は省略するが、受信間隔変動量αの合計は、子局装置20(1)については4回目の試行の値が最も小さく、子局装置20(2)については2回目の試行の値が最も小さく、子局装置20(3)については、3回目の試行の値がもっとも小さかったとする。この場合、各子局装置20についてステップS3を実行することにより、子局装置20(1)については伝送遅延量「1713ms」が得られ、子局装置20(2)については伝送遅延量が「902ms」が得られ、子局装置20(3)については伝送遅延量「1393ms」が得られる。
【0065】
親局装置10は、各子局装置20について伝送遅延量を推定すると、各子局装置20に同期情報が到達する時刻を同時刻とするために、子局装置20ごとに、同期情報を送信する際の遅延補正量を決定する(ステップS5)。ステップS5では、推定された各子局装置20の伝送遅延量の中で最長の伝送遅延量を基準として、その最長の伝送遅延量と、各子局装置20の伝送遅延量との差に基づいて、遅延補正量が決定される。例えば、図13に示すデータ往復時間の計測結果から、遅延補正量を決定する場合には、図14に示すように、最長の伝送遅延量「1713ms」を基準として、各子局装置20の遅延補正量Ktを、kt=(1713ms)−(子局装置20の伝送遅延量)として決定する。この演算により、子局装置20(1)の遅延補正量Ktは0msとなり、子局装置20(2)の遅延補正量Ktは811msとなり、子局装置20(3)の遅延補正量Ktは320msとなる。
【0066】
親局装置10は、各子局装置20に向けて、同期情報を送信する(ステップS6)。このとき、親局装置10は、ステップS5で決定された子局装置20ごとの遅延補正量で同期情報の送信タイミングを補正する。図15は、ステップS6の詳細な手順を示している。親局装置10は、同期情報の送信の際にも、伝送遅延量の計算の際と同様に、連続するn個の下り計測用データを各子局装置20に向けて送信する。親局装置10は、連続するn個の下り計測用データのi番目に、同期情報を含める。各子局装置20は、下り計測用データのi番目から同期情報を抽出して、自身が管理する時刻を更新する。
【0067】
CPU105は、送信データ生成部104に、同期情報の出力を指示する(ステップS601)。送信データ生成部104は、固有情報303の同期情報の有無を示す情報を「同期情報有り」として、各子局装置20に向けた下り計測用データを生成する(ステップS602)。送信データ生成部104は、生成する下り計測用データがn個のうちのi番目であるか否かを判断する(ステップS603)。
【0068】
ステップS603で、送信データ生成部104がi番目の下り計測用データであると判断すると、CPU105は、同期情報が各子局装置20に到達する時刻を予測し、その予測到達時刻を合わせ込むべき時刻を示す情報として含む同期情報を生成して、それを送信データ生成部104に入力する。CPU105は、例えば、合わせ込むべき時刻として、CPU105が管理する現在時刻よりも、子局装置20の伝送遅延量のうちで最も長い伝送遅延量分だけ進めた時刻を含む同期情報を生成する。送信データ生成部104は、ステップS603でi番目であると判断したときには、下り計測用データに、同期情報を含める(ステップS604)。
【0069】
送信データ生成部104は、ステップS602で生成した、各子局装置20に向けた下り計測用データを、無視できる程度の短い時間間隔で、つまり、ほぼ同時に、遅延制御部102に入力する。遅延制御部102は、入力された下り計測用データが「同期情報有り」であることを認識して、入力された下り計測用データを、ステップS5(図5)でCPU105により決定された子局装置20ごとの遅延補正量で補正した送信タイミングで、各子局装置20に向けて送信する(ステップS605)。親局装置10は、n個の下り計測用データを全て各子局装置20に送信したか否かを判断し(ステップS606)、まだ、n個の下り計測用データを送信していないときには、ステップSS602に戻る。親局装置10は、ステップS602〜S606までを繰り返し行い、n個の下り計測用データを、各子局装置20に送信する。
【0070】
例えば、子局装置20ごとの遅延補正量が図14に示すように決定されている場合には、ステップS605では,遅延制御部102は、子局装置20(1)に向けて出力すべき下り計測用データを、遅延補正量0msで、つまり、送信データ生成部104から入力したタイミングそのままで、子局装置20(1)に向けて送信する。また、遅延制御部102は、子局装置20(2)に向けて出力すべき下り計測用データを、入力タイミングから遅延補正量kt=811msだけ遅延したタイミングで、子局装置20(2)に向けて送信し、子局装置20(3)に向けて出力すべき下り計測用データを、入力タイミングから遅延補正量kt=320msだけ遅延したタイミングで、子局装置20(3)に向けて送信する。これにより、各子局装置20は、理想的には、下り計測用データの入力タイミングから1713ms後に、同時に下り計測用データを受信する。
【0071】
各子局装置20では、受信I/F205が、データを受信し(ステップS607)、受信したデータをデータ検出部204に入力する。データ検出部204は、親局装置10から送信された下り計測用データを検出し(ステップS608)、その検出タイミングを受信間隔計測部202に通知する。このとき、データ検出部204は、検出した下り計測用データの固有情報303を参照して、「同期情報有り」であることを認識する。データ検出部204は、ステップS608で検出した下り計測用データが、n個の下り計測用データのi番目であるか否かを判断し(ステップS609)、下り計測用データがi番目であると判断すると、下り計測用データに含められた同期情報を抽出して、それをCPU203に入力する(ステップS610)。
【0072】
受信間隔計測部202は、データ検出部204から通知された1つ前の下り計測用データの検出タイミングから、次の下り計測用データの検出タイミングまでの間の時間差によって、下り計測用データの受信間隔を計測する(ステップS611)。各子局装置20は、n個の下り計測用データを全て受信したか否かを判断する(ステップS612)。各子局装置20は、ステップS607〜S612までを繰り返し行い、n個の下り計測用データを全て受信する。
【0073】
n個の下り計測用データの全てを受信すると、CPU203は、ステップS113(図6)と同様に、下り計測用データの受信間隔変動量αを演算する(ステップS613)。CPU203は、ステップS613で演算した下り計測用データの受信間隔変動量αが、許容範囲内にあるか否かを判断する(ステップS614)。各子局装置20は、ステップS121で送信した下り計測用データの受信間隔変動量αの最小値を記憶しており、ステップS614では、CPU203は、ステップS613で演算した下り計測用データの受信間隔変動量αと、記憶されている下り計測用データの受信間隔変動量αの最小値とを比較する。比較の結果、ステップS613で演算した下り計測用データの受信間隔変動量αが、記憶されている下り計測用データの受信間隔変動量αの最小値と同程度か、或いは、それ以下であるときには、CPU203は、ステップS613で演算した下り計測用データの受信間隔変動量αは、許容範囲内にあると判断する。
【0074】
例えば、m回の試行により、子局装置20(1)について、図9に示すような下り計測用データの受信間隔変動量αの計測結果が得られていた場合、子局装置20(1)は、4回目の試行の受信間隔変動量α(80ms)を記憶している。ステップS614では、CPU203は、ステップS613で演算した「同期情報有り」の下り計測用データの受信間隔変動量αが、80ms以下であると、受信間隔変動量αが許容範囲内にあると判断する。CPU203は、ステップS614で、受信間隔変動量αが許容範囲内にあると判断すると、ステップS610で抽出された同期情報に基づいて、子局装置20が管理する時刻を補正する(ステップS615)。一方、ステップS614で、受信間隔変動量αが、許容範囲内にないと判断すると、CPU203は、時刻の補正を行わない。
【0075】
本実施形態では、n個の計測用データの受信時間間隔の変動を計測することにより、通信網30が安定状態にあるか否かを判断している。そして、親局装置10と子局装置20との間のデータの往復時間をm回計測し、そのうちで、通信網30の通信状態が安定状態にあったと判断されたときのデータ往復時間を選択して、その選択されたデータ往復時間に基づいて、子局装置20までの伝送遅延量を推定している。このため、通信網30のトラフィック負荷の変動による伝送遅延量の誤差を排除して、推定された伝送遅延量と、実際の伝送遅延量との間の誤差を小さくできる。本実施形態では、このように推定された信頼性の高い伝送遅延量に基づいて、同期情報の送信タイミングを補正するため、各子局装置20に同期情報が到達する時刻を、精度よく制御できる。
【0076】
従来は、伝送遅延量の推定に際して、通信網30が安定状態にあるか否かを判定していなかったため、推定された伝送遅延量は、信頼性が低いものであった。このため、各子局装置20に同期情報が到達する時刻を、精度よく制御できなかった。本実施形態では、上記のようにして推定された信頼性の高い伝送遅延量に基づいて、各子局装置20に同期情報が到達する時刻を制御するため、GPS等の高価な時刻タイミング機能を備えなくても、各子局装置20が管理する時刻を、精度よく同期させることができる。
【0077】
本実施形態では、子局装置20は、同期情報を受信した際に、通信網30が安定状態にないときには、受信した同期情報に基づいて、自身が管理する時刻の補正を行わない。通信網30のトラフィック負荷が一時的に増加し、通信網30が安定状態にないときには、同期情報は、親局装置10が予測した到達時刻からずれた時刻に、子局装置20に到達すると考えられる。このような場合に、子局装置20が、同期情報に基づいて自身が管理する時刻を補正すると、親局装置10が管理する時刻と、その子局装置20が管理する時刻との間に誤差が生じる。本実施形態では、子局装置20が、同期情報の受信時に、通信網30が安定状態にないときには、時刻の補正を行わないことため、親局装置10が管理する時刻と、その子局装置20が管理する時刻との間、或いは、各子局装置20が管理する時刻の間に誤差が生じる事態を回避することができる。
【0078】
図16は、本発明の第2実施形態の通信システムにおける子局装置の構成を示している。本実施形態の子局装置20aは、図4に示す構成を有する子局装置20に、カウンタ208が追加された構成を有する。カウンタ208は、基準発振器201が生成する基準タイミングクロックによりカウント動作する。CPU203は、ステップS208で計測点データが検出されると、カウンタ208のカウント値を取得する。
【0079】
図17は、親局装置10と子局装置20aとの間のデータの送受信を模式的に示している。この例では、m=5である。本実施形態では、親局装置10は、ステップS1(図5)を、所定時間間隔Tsで実行する。これにより、親局装置10は、計測点データ(i番目)の下り計測用データを、所定時間間隔Tsで送信する。子局装置20aは、各回の試行について、第1実施形態例と同様な動作により、下り計測用データの受信間隔の変動を計測する。親局装置10は、各回の試行について、第1実施形態と同様な動作により、上り計測用データの受信間隔の変動を計測し、計測点データのデータ往復時間Rtを計測する。
【0080】
子局装置20aは、ステップS208(図6)で、データ検出部204が、試行回数「1」の計測点データが検出すると、カウンタ208は、カウント動作をスタートする。図17の例では、カウンタ208は、1回目の試行の計測点データが検出されると、カウント値を初期値Tr1(=0)からカウントアップする。CPU203は、データ検出部204が、計測点データを検出するタイミングで、カウンタ208のカウント値を取得し、計m個のカウント値を取得する。図17の例では、CPU203は、Tr1〜Tr5の計5つのカウント値を取得する。CPU203が取得したm個のカウント値は、m回の試行の終了後、親局装置10に向けて送信される。
【0081】
第1実施形態では、各試行について、下り計測用データの受信間隔変動量αと、上り計測用データの受信間隔変動量αとの合計を求め、その受信間隔変動量αの合計が最も小さい試行が、何回目の試行であったかを割り出した、そのときのデータ往復時間の半分を、伝送遅延量とした。本実施形態では、下り計測用データの受信間隔変動量αと、上り計測用データの受信間隔変動量αとのそれぞれについて、受信間隔変動量αが最も小さい試行が、何回目の試行であったかを割り出す。そして、下り計測用データの受信間隔の変動量αが最も小さい回の試行における下り計測用データの伝送時間と、上り計測用データの受信間隔の変動量αが最も小さい回の試行における上り計測用データの伝送時間との和を、通信網30が安定状態にあるときのデータ往復時間として、その半分を、伝送遅延量とする。
【0082】
図18は、下り計測用データの受信間隔変動の計測結果を示し、図19は、上り計測用データの受信間隔変動の計測結果を示している。図18に示すように、各回の試行の下り計測用データの受信間隔変動αを相互に比較すると、2回目の試行における受信間隔変動αが最も値が小さい。また、図19に示すように、各回の試行の上り計測用データの受信間隔変動αを相互に比較すると、4回目の試行における受信間隔変動量αが最も値が小さい。このことから、通信網30は、下り計測用データに関しては、2回目の試行の際に安定状態であったと推測され、上り計測用データに関しては、4回目の試行の際に安定状態であったと推測される。
【0083】
上記の場合、通信網30の安定状態におけるデータ往復時間Rtsは、2回目の試行の下り計測用データの伝送時間と、4回目の試行の上り計測用データの伝送時間の和として表され、下記式:
【数3】

により、算出することができる。式(2)を一般化すると、下り計測用データの受信間隔変動量αがX番目の試行で最小値をとり、上り計測用データの受信間隔変動量αがY番目の試行で最小値を取る場合には、下記式で表すことができる。
【数4】

親局装置10は、このようにして求めたデータ往復時間Rtsの半分を、伝送遅延量として推定し、各子局装置20aに同期情報を送信する際の遅延補正量を決定する。
【0084】
本実施形態では、通信網30が安定状態にあるときの下り計測用データの伝送時間と、通信網30が安定状態にあるときの上り計測用データの上り計測用データの伝送時間との和を、通信網30の上り及び下りがそれぞれ安定状態のときのデータ往復時間として算出する。このようにすることで、第1実施形態例に比して、推定された伝送遅延量の信頼性を高めることができ、各子局装置20aが管理する時刻の同期の精度を向上できる。本実施形態では、第1実施形態の構成に、カウンタ208を1つ追加することで、子局装置間の同期の精度を向上できるため、精度の向上に際して、構成がさほど複雑化しない。
【0085】
なお、上記各実施形態では、固有情報303の送信順序番号が連続するn個の計測用データの何番目であるかを示す例について説明したが、これに代えて、各試行間で、送信順序番号を連番とし、試行回数が1つ増えるたびに、送信順序番号がnだけ増加するようにしてもよい。この場合、試行回数が「1」であれば、送信順序番号は1〜nの値をとり、試行回数が「2」であれば、送信順序番号はn+1〜2nの値ととる。また、第1実施形態では、通信網30の安定状態の判断に際して、下り計測用データの受信時間間隔変動αと、上り計測用データの受信時間間隔変動αとの合計を使用したが、何れか一方の受信時間間隔変動αを使用して、通信網30の安定状態を判断してもよい。受信間隔の変動に基づいて、通信網30が安定状態にあったか否かを判断する際には、計測された受信間隔の変動が、あらかじめ定められた基準値以下となるか否かによって判断してもよい。
【0086】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明の信号伝送時間推定方法、同期方法、及び、ネットワーク通信システムは、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、上記実施形態の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の第1実施形態の通信システムの構成を示すブロック図。
【図2】親局装置10の構成を示すブロック図。
【図3】計測用データの構成を示すブロック図。
【図4】子局装置20の構成を示すブロック図。
【図5】親局装置が、各子局装置に同期情報を送信する際の動作手順を示すフローチャート。
【図6】図5のステップS1の詳細な手順を示すフローチャート。
【図7】(a)及び(b)は、それぞれデータ受信の様子を示す模式図。
【図8】親局装置と子局装置との間のデータの送受信の様子を示す模式図。
【図9】下り計測用データの受信間隔の変動の計測結果を示す表。
【図10】上り計測用データの受信間隔の変動の計測結果を示す表。
【図11】データの往復時間の計測結果を示す表。
【図12】下り計測用データの受信間隔変動量αと、上り計測用データの受信間隔変動量αとの合計を示す表。
【図13】各試行での子局装置20のデータ往復時間の計測結果を示す表。
【図14】遅延補正量の演算結果を示す表。
【図15】ステップS6の詳細な手順を示すフローチャート。
【図16】本発明の第2実施形態の通信システムにおける子局装置の構成を示すブロック図。
【図17】親局装置と子局装置との間のデータの送受信の様子を示す模式図。
【図18】下り計測用データの受信間隔変動の計測結果を示す表。
【図19】上り計測用データの受信間隔変動の計測結果を示す表。
【符号の説明】
【0088】
10:親局装置
20:子局装置
30:通信網
101、201:基準発振器
102:遅延制御部
103、207:送信I/F
104、206:送信データ生成部
105、203:CPU
106、208:カウンタ
107、202:受信間隔計測部
108、204:データ検出部
109、205:受信I/F
301:IPヘッダ
302:UDPヘッダ
303:固有情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信網を介して相互に接続された第1及び第2の通信装置の間の信号伝送時間を推定する方法において、
前記第1の通信装置から前記第2の通信装置に向けてn個(nは2以上の整数)の第1の計測用データを所定時間間隔で送信する第1ステップと、
前記第1の計測用データの受信に応答して、前記第2の通信装置から前記第1の通信装置に向けて第2の計測用データを返送する第2ステップと、
前記第1の計測用データが送信された時刻から、当該第1の計測用データに対応する第2の計測用データが前記第1の通信装置で受信されるまでのデータ往復時間を計測する第3ステップと、
前記第2の通信装置で前記第1の計測用データが受信される受信時間間隔の変動、及び、前記第1の通信装置で前記第2の計測用データが受信される受信時間間隔の変動の少なくとも一方を計測する第4ステップと、
前記第1〜第4ステップをm回(mは2以上の整数)繰り返して試行し、前記第4ステップで計測された受信時間間隔の変動に基づいて、前記m回の試行のうち安定な通信状態で信号伝送が行われた試行を選定する第5ステップと、
前記第5ステップによって選定された試行に際して前記第3ステップで計測されたデータ往復時間に基づいて、信号伝送時間を推定する第6ステップとを備えることを特徴とする信号伝送時間推定方法。
【請求項2】
前記第5ステップは、m回の試行のそれぞれについて、n個の計測用データの受信時間間隔のそれぞれと前記所定時間間隔との差の総和を演算し、m回の試行の内で総和が最も小さいときの試行を選定することを特徴とする、請求項1に記載の信号伝送時間推定方法。
【請求項3】
前記第3ステップは、n個の第1の計測用データのうちのi番目(1≦i≦n)の第1の計測用データに対して行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の信号伝送時間推定方法。
【請求項4】
前記m回の試行のそれぞれについて、前記第1の通信装置から送信された前記i番目の第1の計測データを前記第2の通信装置で受信した時刻(Tr(1),Tr(2),...Tr(m))を取得するステップを更に備えており、前記m回の試行が特定の時間間隔(Ts)で行われ、前記第4ステップでは、前記第2の通信装置で前記第1の計測用データが受信される受信時間間隔の変動、及び、前記第1の通信装置で前記第2の計測用データが受信される受信時間間隔の変動の双方を計測し、前記第5ステップでは、前記第2の通信装置で計測された受信時間間隔の変動に基づいて前記第1の通信装置から前記第2の通信装置まで安定な信号伝送が行われた試行を選定し、前記第1の通信装置で計測された受信時間間隔の変動に基づいて前記第2の通信装置から前記第1の通信装置まで安定な信号伝送が行われた試行を選定し、信号伝送時間Rtsを下記式:
【数1】

で演算する(但し、Xは第1の通信装置から第2の通信装置まで安定な信号伝送が行われたとして選定された試行の試行番号、Yは第2の通信装置から第1の通信装置まで安定な信号伝送が行われたとして選定された試行の試行番号、Rt(Y)は試行番号Yの試行で計測されたデータ往復時間である)ことを特徴とする、請求項3に記載の信号伝送時間推定方法。
【請求項5】
第1の通信装置から、通信網を介して複数の第2の通信装置に向けて同期用信号を送信し、第1及び第2の通信装置の間の動作タイミングを同期させる方法において、
請求項1〜4の何れかに記載の信号伝送時間推定方法により、第2の通信装置のそれぞれについて信号伝送時間を取得する信号伝送時間取得ステップと、
前記信号伝送時間取得ステップで取得された信号伝送時間のうち、最大の信号伝送時間を基準として、第2の通信装置のそれぞれについて遅延補正量を算出する遅延補正量算出ステップと、
前記第1の通信装置から、前記第2の通信装置のそれぞれに、前記第2の通信装置ごとに算出された遅延補正量で補正した送信タイミングで同期用信号を送信する同期用信号送信ステップとを有することを特徴とする同期方法。
【請求項6】
前記遅延補正量算出ステップでは、各第2の通信装置の信号伝送時間をΔT12とし、前記第2の通信装置の信号伝送時間のうちで最大の信号伝送時間をΔT12maxとして、各第2の通信装置の遅延補正量を、ΔT12max−ΔT12に基づいて算出することを特徴とする、請求項5に記載の同期方法。
【請求項7】
前記同期用信号送信ステップは、n個(nは2以上の整数)のうちの任意の1つに同期用信号を含む第3の計測用データを所定時間間隔で送信し、
前記同期用信号送信ステップに後続して、
第2の通信装置で、前記n個の第3の計測用データの任意の1つから同期用信号を抽出するステップと、
前記第2の通信装置で前記第3の計測用データが受信される受信時間間隔の変動を計測するステップと、
前記計測された受信時間間隔の変動に基づいて、同期用信号の送信が、通信網が安定状態にあるときに行われたか否かを判定するステップと、
前記安定状態を判定するステップで、通信網が安定状態にあると判定されると、前記第2の通信装置が、前記抽出された同期用信号に基づいて、動作タイミングを補正するステップとを有することを特徴とする、請求項5又は6に記載の同期方法。
【請求項8】
前記信号伝送時間取得ステップでは、前記第2の通信装置で前記第1の計測用データが受信される受信時間間隔の変動を計測し、
前記通信網が安定状態にあるときに行われたか否かを判定するステップでは、前記第2の通信装置で前記第1の計測用データが受信される受信時間間隔の変動と、前記第2の通信装置で前記第3の計測用データが受信される受信時間間隔の変動とを比較して、前記同期情報の送信が前記通信網が安定状態にあるときに行われたか否かを判定することを特徴とする、請求項7に記載の同期方法。
【請求項9】
第1の通信装置から、通信網を介して第2の通信装置に向けて同期用信号を送信するネットワーク通信システムにおいて、
前記第1の通信装置から前記第2の通信装置に向けてn個の第1の計測用データを所定時間間隔で送信する処理をm回繰り返して試行する計測用データ送信手段と、
前記第2の通信装置における第1の計測用データの受信に応答して、前記第2の通信装置から前記第1の通信装置に向けて第2の計測用データを返送する計測用データ返送手段と、
前記第1の計測用データが送信された時刻から、当該第1の計測用データに対応する第2の計測用データが前記第1の通信装置で受信されるまでのデータ往復時間を計測する往復時間計測手段と、
前記第2の通信装置で前記第1の計測用データが受信される受信時間間隔の変動、及び、前記第1の通信装置で前記第2の計測用データが受信される受信時間間隔の変動の少なくとも一方を計測する時間変動計測手段と、
前記時間変動計測手段で計測された受信時間間隔の変動に基づいて、前記m回の試行の内で安定な通信状態で信号伝送が行われた試行を選定する選定手段と、
前記選定手段によって選定された試行に際して、前記往復時間計測手段で計測されたデータ往復時間に基づいて、前記信号伝送時間を推定する信号伝送時間推定手段と、
前記信号伝送時間推定手段で推定された信号伝送時間に基づいて遅延補正量を算出する遅延補正量算出手段と、
前記遅延補正量算出手段で算出された遅延補正量だけ遅延させて同期用信号を送信する同期用信号送信手段と
前記同期用信号送信手段で送信された同期用信号に基づいて、第2の通信装置の動作タイミングを補正する動作タイミング補正手段と
を備えることを特徴とするネットワーク通信システム。
【請求項10】
前記時間変動計測手段は、m回の試行のそれぞれについて、n個の計測用データの受信時間間隔のそれぞれと前記所定時間間隔との差の総和を演算し、前記安定判定手段は、m回の試行の内で総和が最も小さいときの試行を安定状態の試行として選定することを特徴とする、請求項9に記載のネットワーク通信システム。
【請求項11】
前記往復時間計測手段は、n個の計測用データの内でi番目(1≦i≦n)の計測用データに対して往復時間を計測することを特徴とする、請求項9又は10に記載のネットワーク通信システム。
【請求項12】
前記m回の試行のそれぞれについて、前記第1の通信装置から送信された前記i番目の第1の計測データを前記第2の通信装置で受信した時刻(Tr(1),Tr(2),...Tr(m))を取得する信号検出手段を更に備えており、
前記計測用データ送信手段は、前記m回の試行を所定時間間隔(Ts)で行い、前記時間変動計測手段は、前記第2の通信装置で前記第1の計測用データが受信される受信時間間隔の変動、及び、前記第1の通信装置で前記第2の計測用データが受信される受信時間間隔の変動の双方を計測し、前記安定判定手段は、前記第2の通信装置で計測された受信時間間隔の変動に基づいて前記第1の通信装置から前記第2の通信装置まで安定な信号伝送が行われた試行を選定し、前記第1の通信装置で計測された受信時間間隔の変動に基づいて前記第2の通信装置から前記第1の通信装置までの安定な信号が伝送が行われた試行を選定し、信号伝送時間Rtsを下記式:
【数1】

で演算する(但し、Xは第1の通信装置から第2の通信装置まで安定な信号伝送が行われたとして選定された試行の試行番号、Yは第2の通信装置から第1の通信装置まで安定な信号伝送が行われたとして選定された試行の試行番号、Rt(Y)は試行番号Yの試行で計測されたデータ往復時間である)ことを特徴とする、請求項11に記載のネットワーク通信システム。
【請求項13】
前記同期用信号送信手段は、所定時間間隔で送信するn個の第3の計測用データを生成し、該n個の第3の計測用データのうちの任意の1つに同期用信号を含めて、同期用信号を送信することを特徴とする、請求項9〜12の何れか一に記載のネットワーク通信システム。
【請求項14】
時間変動計測手段は、前記第2の通信装置で前記第3の計測用データが受信される受信時間間隔の変動を計測し、前記安定判定手段は、前記時間変動計測手段で計測された受信時間間隔の変動に基づいて、前記第3の計測用データの送信の際に通信網が安定状態にあったか否かを判定し、前記動作タイミング補正手段は、前記安定判定手段が前記第3の計測用データの送信の際に通信網が安定状態にあったと判定すると、同期用信号に基づいて、前記第2の通信装置の動作タイミングを補正することを特徴とする、請求項13に記載のネットワーク通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−41782(P2006−41782A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216960(P2004−216960)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(390010179)埼玉日本電気株式会社 (1,228)
【Fターム(参考)】