説明

信号処理装置、信号処理方法、プログラム、記憶媒体および超音波診断装置

【課題】 反射信号における位相性雑音を除去し、忠実度とS/N比を高める。
【解決手段】 雑音低減フィルタ(600)においてQ信号およびI信号の両者が位相計算部(610)に入力される。位相計算部(610)には位相フィルタ部(630)が接続され、位相フィルタ部(630)は位相(Φ)の移動平均(Φaverage)を演算する。
このように、位相(Φ)に対して直接フィルタ処理を施すことにより、位相性雑音を効果的に除去し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波を利用して生体内部組織の断層像や運動反射体の運動速度を表示する超音波診断装置等に好適な信号処理装置および信号処理方法に係り、特に雑音低減フィルタを備えた信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図19に示すように、従来の超音波診断装置は、超音波を送受信する探触子1と、探触子1を駆動して超音波を発生させる送信手段2と、探触子1で受信した反射信号を所定レベルに増幅する受信手段3とを有する。受信手段3には帯域フィルタ4、直交検波器5、フィルタ手段6が順次接続され、帯域フィルタによって信号帯域以外の雑音を除去した信号を、直交検波器5によってQ/I信号(複素信号)に分離する。
【0003】
図20に示すように、フィルタ手段6は複素信号におけるQ信号が入力されるフィルタ部10とI信号が入力されるフィルタ部11とを有し、フィルタ部10、11によってQ/I信号それぞれについて雑音を除去する。
【0004】
フィルタ手段6で雑音除去されたQ信号Qf、I信号Ifは出力部20に入力される。出力部20は信号処理手段7、表示処理手段8および表示手段9を含み、信号処理手段7では、例えばドプラ音の生成処理が行なわれる。その後、信号処理手段7の出力信号について表示処理手段8によってドプラ音が駆動され、表示手段9から出力される。
【0005】
そしてフィルタ部10、11としてはハイパスフィルタやローパスフィルタが使用されている。
【0006】
なお、従来の雑音低減フィルタを備えた超音波診断装置として、例えば特許文献1記載の装置が知られている。
【0007】
【特許文献1】特開平11−009595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
超音波診断装置における雑音は、組織、臓器からの超音波多重反射波等に起因するものであるが、従来の雑音低減フィルタは、主に加法性雑音に着目したものであり、位相性雑音には有効でなく、またQ/I信号の直交性が損なわれることがある。このため従来は、反射信号の忠実度およびS/N比を充分高めることができなかった。
【0009】
本発明はこのような従来の問題点を解消すべく創案されたもので、受信信号における位相性雑音を除去し、忠実度およびS/N比を高めることを目的とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、超音波反射信号等の受信信号から位相性雑音を除去でき、忠実度およびS/N比を高め得る。また超音波診断装置においては、鮮明な診断画像等を生成し得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る信号処理装置は、受信信号から所定帯域の信号を抽出する帯域フィルタと、前記帯域フィルタの出力から複素信号のQ信号およびI信号を抽出する直交検波器と、前記直交検波器から出力された前記Q信号およびI信号から振幅信号を生成する振幅計算部と、前記直交検波器から出力された前記Q信号およびI信号から位相信号を生成する位相計算部と、前記位相計算部の出力から位相性雑音を除去する位相フィルタ部とを備える。これによって反射信号における位相性雑音を除去し、忠実度およびS/N比を高めることができる。
【0012】
本発明に係る信号処理装置は、前記振幅計算部の出力から加法性雑音を除去する振幅フィルタ部をさらに備えたものであってもよい。これによって加法性雑音をも有効に除去し得る。
【0013】
本発明に係る信号処理装置において、前記振幅フィルタ部は、例えば振幅信号の移動平均を算出する。
【0014】
本発明に係る信号処理装置において、前記位相フィルタ部は、例えば、位相信号の移動平均を算出し、あるいは、位相信号の平滑化微分を算出する。前者は穏やかに正弦的に変位する反射体、例えば拡張、収縮を繰り返す心臓壁等に有効である。また後者は、運動速度が略一定の反射体、例えば鞭状の運動をする心臓弁等に有効である。
【0015】
本発明に係る信号処理装置において、前記受信信号は、例えば超音波診断装置等の超音波反射信号である。
【0016】
本発明に係る信号処理方法は、受信信号から複素信号のQ信号およびI信号を抽出する直交検波ステップと、前記直交検波ステップで抽出された前記Q信号およびI信号から振幅信号を生成する振幅計算ステップと、前記直交検波ステップで抽出された前記Q信号およびI信号から位相信号を生成する位相計算ステップと、前記位相計算ステップで生成された位相信号から位相性雑音を除去する位相フィルタステップとを備える。これによって反射信号における位相性雑音を除去し、忠実度およびS/N比を高めることができる。
【0017】
本発明に係るコンピュータ実行可能なプログラムは、受信信号から複素信号のQ信号およびI信号を抽出する直交検波ステップと、前記直交検波ステップで抽出された前記Q信号およびI信号から振幅信号を生成する振幅計算ステップと、前記直交検波ステップで抽出された前記Q信号およびI信号から位相信号を生成する位相計算ステップと、前記位相計算ステップで生成された位相信号から位相性雑音を除去する位相フィルタステップとをコンピュータに実行させるプログラムコードを含む。これによって、汎用コンピュータによって、反射信号における位相性雑音を除去し、忠実度およびS/N比を高めることができる。
【0018】
さらにこのようなプログラムをコンピュータ読取可能な記憶媒体に記憶すれば、記憶媒体から汎用コンピュータにプログラムを読み込んで、汎用コンピュータによって、反射信号における位相性雑音を除去し、忠実度およびS/N比を高めることができる。
【0019】
本発明は、検査部位に対して超音波を発信し、前記検査部位からの超音波反射信号を受信する探触子と、前記探触子を駆動して超音波を発生する送信手段と、前記探触子で受信した超音波反射信号を増幅する受信手段と、前記受信手段の出力から所定帯域の信号を抽出する帯域フィルタと、前記帯域フィルタの出力から複素信号のQ信号およびI信号を抽出する直交検波器と、前記直交検波器から出力された前記Q信号およびI信号から雑音を除去する雑音低減フィルタ手段と、前記雑音低減フィルタ手段から出力される信号によって検査部位の診断に必要な情報を出力する出力手段とを備えた超音波診断装置であって、前記雑音低減フィルタ手段は、前記直交検波器から出力された前記Q信号およびI信号から振幅信号を生成する振幅計算部と、前記直交検波器から出力された前記Q信号およびI信号から位相信号を生成する位相計算部と、前記位相計算部の出力から位相性雑音を除去する位相フィルタ部と、前記振幅計算部の出力から加法性雑音を除去する振幅フィルタ部と、前記位相フィルタ部および振幅フィルタ部から出力される信号からQ信号を再生するQ信号再生部と、前記位相フィルタ部および振幅フィルタ部から出力される信号からI信号を再生するI信号再生部とを備える。超音波反射信号の加法性雑音および位相性雑音の両者を有効に除去し、忠実度およびS/N比を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に本発明に係る超音波診断装置の好適な実施例を図面に基いて説明する。
【実施例1】
【0021】
[全体装置]
図1は、本発明に係る超音波診断装置の実施例1を示すブロック図、図2は、図1における雑音低減フィルタ部を示すブロック図、図3は、図2の雑音低減フィルタ部における各構成要素の詳細を示すブロック図である。
【0022】
図1において、超音波診断装置は、超音波を送受信する探触子100と、探触子100を駆動して超音波を発生させる送信手段200と、探触子1で受信した反射信号を所定レベルに増幅する受信手段300とを有する。受信手段300には帯域フィルタ400、直交検波器500が順次接続され、帯域フィルタ400によって信号帯域以外の雑音を除去した信号を、直交検波器500によってQ/I信号(複素信号)に分離する。帯域フィルタ400および直交検波器500は公知のデジタルフィルタ、アナログフィルタあるいはソフトウエアによって実現可能であり、受信手段300は公知のアナログ回路によって実現可能である。
【0023】
直交検波器500から出力されるQ信号、I信号は雑音低減フィルタ600に入力され、雑音低減処理の後に出力部(出力手段)950に入力される。出力部950は、信号処理手段700、表示処理手段800および表示手段900を含む。信号処理手段700は、入力されたQ信号、I信号から例えばドプラ信号を発生させる演算処理を実行する。
【0024】
信号処理手段700の出力は表示処理手段800に入力され、表示処理手段800においてドプラ音が駆動され、表示手段900から出力される。なお、表示処理手段800においてQ信号、I信号に基いて1フレームごとの画像信号を生成し、表示手段9において画像信号に基いて画像を表示する構成も採用し得る。
【0025】
出力部950は例えば図21のように構成され、信号処理手段700としては帯域制限部720、表示処理手段800として信号レベル検出部820および音響用パワーアンプ840、表示手段としてスピーカ920が採用される。
【0026】
帯域制限部720は、ドプラ周波数中の必要な信号帯域のみを抽出するフィルタを含み、例えば2.5MHzの超音波を使用して胎児心臓のドプラ音を抽出する場合、200Hz〜1.5kHzの周波数帯域の信号を抽出する。
【0027】
表示処理手段800の信号レベル検知部820は、探触子100を生体に擦り付けた際の定格を超えるような過大信号がスピーカに入ることを防ぐために、帯域制限部720出力の信号レベルを監視する。信号レベルが所定値を超えたときは音響用パワーアンプ840が信号を出力しないように制御(ミュート)する。また音響用パワーアンプ840は、スピーカ920を駆動する。
【0028】
スピーカ920はドプラ音を出力するためのものであり、心臓のドプラ音等の出力のためには低音域が鮮明なものが使用される。
[雑音低減フィルタ]
図2および図3において、雑音低減フィルタ600は位相計算部610と振幅計算部620を有し、Q信号およびI信号の両者が位相計算部610および振幅計算部620に入力される。
【0029】
位相計算部610は式(1)の演算によって位相Φを算出し、振幅計算部620は式(2)の演算によって振幅Aを算出する。
【0030】
【数1】

位相計算部610、振幅計算部620には、位相フィルタ部630および振幅フィルタ部640がそれぞれ接続されている。位相フィルタ部630および振幅フィルタ部640はローパスフィルタであり、位相フィルタ部630は位相Φの移動平均Φaverageを演算し、振幅フィルタ部640は振幅Aの移動平均Aaverageを演算する。ローパスフィルタは公知のデジタルフィルタ、アナログフィルタあるいはソフトウエアによって実現可能である。
【0031】
図4はデジタルフィルタによって実現ざれたローパスフィルタの一例を示すブロック図である。
【0032】
図4において、ローパスフィルタは入力信号S(t)が入力される加算部2000と、加算部2000の出力が入力される乗算部2010およびホールド回路2020と、ホールド回路2020の出力が入力される乗算部2030とを備え、乗算部2030の出力は加算部2000にフィードバックされている。
【0033】
加算部2000の加算結果は、ホールド回路2020で保持された後に加算部2000において入力信号に足し込まれ、入力信号が順次積算される。積算結果は乗算部2010において入力信号数で除算され、入力信号S(t)の移動平均が乗算部2010から出力される。乗算部2010、2030の乗数はそれぞれC41、C42である。
【0034】
なお、積分フィルタは図4のローパスフィルタと同様の回路で実現でき、さらに図1の帯域フィルタは、微分フィルタを高域フィルタとして使用し、この高域フィルタとローパスフィルタを組み合わせる(直列接続等)ことにより実現し得る。
【0035】
位相フィルタ部630および振幅フィルタ部640の両者にはQ信号再生部650およびI信号再生部660が接続され、Q信号再生部650は位相移動平均Φaverageおよび振幅移動平均Aaverageに基いてQ信号を再生し、I信号再生部660は位相移動平均Φaverageおよび振幅移動平均Aaverageに基いてI信号を再生する。
【0036】
このように、位相Φに対して直接フィルタ処理を施すことにより、位相性雑音を効果的に除去し得る。位相Φは反射体の変位量に比例し、あるいは略比例する等、反射体の変位量を代表する。そして、位相Φは、穏やかに正弦的に変位する反射体、例えば拡張、収縮を繰り返す心臓壁等の反射波において、瞬時の変動を雑音として除去することにより、忠実度、S/N比を著しく高めることができる。
【0037】
Q信号再生部650、I信号再生部660によって再生されるQ信号、I信号は雑音低減フィルタ600によって雑音低減された信号であるので、それぞれQfilter、Ifilterと表記する。Q信号再生部650、I信号再生部660は、式(3)、(4)の演算によってQ信号Qfilter、I信号Ifilterをそれぞれ演算する。
【0038】
【数2】

Q信号QfilterおよびI信号Ifilterは信号処理手段700に入力される。
【0039】
以上のとおり、実施例1では位相フィルタ部630を設けたことによって位相Φの雑音を除去でき、同時に振幅フィルタ部640によって加法性雑音をも除去し得る。
【0040】
なお加法性雑音が比較的少ない受信信号につては、振幅フィルタ部640を省略することも可能である。
[処理例]
図5は、実施例1によって処理されたQ信号、I信号の例を示すグラフである。
【0041】
図5において、(A)は雑音低減フィルタ600に入力されるI信号、(B)は雑音低減フィルタ600に入力されるQ信号、(C)は振幅計算部620の出力A、(D)は位相計算部610の出力Φ、(E)は振幅フィルタ部640の出力Aaverage、(F)は位相フィルタ部630の出力Φaverage、(G)はI信号再生部660の出力Ifilter、(H)はQ信号再生部650の出力Qfilterを示す。
【0042】
図5の(D)と(F)を比較すると、Φaverageでは、位相Φの全体に含まれていた、雑音に基く変位変動成分が除去され、位相性雑音が除去されていることが分かる。
【0043】
また図5の(C)と(E)から明らかなように、Aaverageでは、振幅Aの全体に含まれていた微小な振動成分が除去され、加法性雑音が除去されていることが分かる。
【0044】
図6は、実施例1によって処理されたQ信号、I信号の他の例を示すグラフである。図5と同様、図6における(A)は入力I信号、(B)は入力Q信号、(C)は振幅A、(D)は位相Φ、(E)は出力Aaverage、(F)は出力Φaverage、(G)は出力Ifilter、(H)は出力Qfilterを示す。
【0045】
図6の(D)と(F)を比較すると、Φaverageでは、特に、位相ΦのD51、D52、D53で示す部分に含まれていた微小な振動成分が除去され、位相性雑音が除去されていることが分かる。
【0046】
また図6の(C)と(E)から明らかなように、Aaverageでは、振幅Aの全体に含まれていた微小な振動成分が除去され、加法性雑音が除去されていることが分かる。
【0047】
さらに図7は、同一のQ信号Q、I信号Iを従来例によって処理した結果と実施例1によって処理した結果を比較するグラフである。
【0048】
図7において、(A)はフィルタ手段6および雑音低減フィルタ600に入力されるI信号、(B)はフィルタ手段6および雑音低減フィルタ600に入力されるQ信号、(C)はフィルタ手段6から出力されるI信号If、(D)はフィルタ手段6から出力されるQ信号Qf、(E)は雑音低減フィルタ600の出力Ifilter、(F)は雑音低減フィルタ600の出力Qfilterを示す。
【0049】
図7(A)、(B)のQ、Iに含まれる微小な振動成分(雑音に基く変位変動成分)はQf、If、Qfilter、Ifilterのいずれにおいても除去されているが、(A)のA61で示すIの有効な信号成分において、(C)のC61に示すようにIfでは振動成分が減衰して(なまって)いる。一方、(E)のE61に示すように、Ifilterでは振動成分(A61)が保存されている。また(B)のB61で示すQの有効な信号成分において、(D)のD61に示すようにQfでは振動成分が減衰して(なまって)いる。一方、(E)のE61に示すように、Ifilterでは振動成分(A61)が保存されている。すなわち良好な忠実度が得られている。
【0050】
図8は、図5のIfilterおよびQfilterの信号を図21の出力部で処理したドプラ音の信号、I信号IsoundおよびQ信号Qsoundをそれぞれ示す。超音波診断装置では一方の信号を使用して、いわゆるドプラ音を出力する。
【0051】
以上のとおり、実施例1は、従来例に比較して忠実度およびS/N比を改善し得る。
【実施例2】
【0052】
[雑音低減フィルタ]
図9は、本発明に係る超音波診断装置の実施例2の雑音低減フィルタ部を示すブロック図である。図中、実施例1と同一若しくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。
【0053】
実施例2は、雑音低減フィルタ600における位相フィルタ部を、実施例1のローパスフィルタに替えて微分フィルタとしており、他の構成は実施例1と同様である。
【0054】
図9において、位相計算部610で演算された位相Φは位相フィルタ部635に入力され、位相フィルタ部635は式(5)に示す演算によって、位相Φの時間微分ΔΦを算出し、さらに微分ΔΦの移動平均(平滑化微分)ΔΦaverageを算出する。
【0055】
時間微分ΔΦは反射体の運動速度を代表しており、微分ΔΦの移動平均(平滑化微分)ΔΦaverageを算出することにより、運動速度が略一定の反射体、例えば鞭状の運動をする心臓弁等の反射波を、良好な忠実度、高S/N比で検出し得る。
【0056】
式(5)において、Q−1、I−1はQ、Iよりも所定タイミング前のQ、I信号を意味する。
【0057】
Q信号生成部650、I信号生成部660には実施例1の位相Φに替えて、式(6)によって算出したΔΦaverageが入力され、式(7)、(8)によってQfilter、Ifilterが算出される。
【0058】
【数3】

微分フィルタ、積分フィルタは公知のデジタルフィルタ、アナログフィルタあるいはソフトウエアによって実現可能である。
【0059】
図10はデジタルフィルタによって実現ざれた微分フィルタ、積分フィルタの一例を示すブロック図である。
【0060】
図10において、微分フィルタは入力信号S(t)が入力される乗算部2040およびホールド回路2070と、乗算部2040の出力が入力される加算部2050と、ホールド回路2070の出力が入力される乗算部2060とを備え、乗算部2060の出力は加算部2050に減算要素として入力される。
【0061】
これによって加算部2050から入力信号S(t)の時間差分が出力される。なお、乗算部2040、2070の乗数はそれぞれC101、C102である。
[処理例]
図11は、図9の超音波診断装置における各部信号を示すグラフである。
【0062】
図11において、(A)は雑音低減フィルタ600に入力されるI信号、(B)は雑音低減フィルタ600に入力されるQ信号、(C)は振幅計算部620の出力A、(D)は位相フィルタ部610の演算過程で算出されるΔΦ、(E)は振幅フィルタ部640の出力Aaverage、(F)はΔΦの移動平均ΔΦaverage、(G)はI信号再生部660の出力Ifilter、(H)はQ信号再生部650の出力Qfilterを示す。
【0063】
図11の(D)においては、位相Φの変化が抽出されるとともに、急激な変化が強調されており、(F)においては、(D)で抽出された位相Φにおける、雑音に基く運動速度変動成分が除去されている。
【0064】
これによって、鞭状の運動をする心臓弁等、運動速度が略一定の部位における反射信号を忠実に抽出することができる。
【0065】
図12は、図9の超音波診断装置における他の各部信号を示すグラフである。図12において、図11と同様、(A)は入力I信号、(B)は入力Q信号、(C)は振幅A、(D)は微分位相ΔΦ、(E)は振幅出力Aaverage、(F)は平滑化微分ΔΦaverage、(G)は出力Ifilter、(H)は出力Qfilterを示す。
【0066】
図12から明らかなように、検査部位は運動速度が略一定であり、(D)では運動速度の微小変化(雑音)が生じているが、(F)の平滑化微分では雑音成分が除去されている。これによって検査部位の略一定速度の運動が明瞭に表現される。
【0067】
図5〜7、10、11では信号処理の内容が明らかになるように比較的単純なQ信号、I信号を例示したが、図13は、実際の実施例1、2で処理される信号の例を示す。
【実施例3】
【0068】
[超音波診断装置]
図14は、本発明に係る超音波診断装置の実施例3を示す外観図、図15は、図14の超音波診断装置の構成を示すブロック図、図16は、図14の超音波診断装置の処理を示すフローチャートである。
【0069】
図14に示すように、超音波診断装置は、モニタ1010を備えた汎用コンピュータ1000に探触子100を接続して構成されており、図15に示すように、探触子100は、汎用コンピュータ1000に装着された信号処理ボード1100に接続されている。
【0070】
信号処理ボード1100には、実施例1の受信手段300に対応する受信手段1200、帯域フィルタ400に対応する帯域フィルタ1300と、帯域フィルタ1300の出力をA/D変換するA/D変換部1400が設けられている。A/D変換部1400の出力は、汎用コンピュータ1000のバス1500に接続され、汎用コンピュータ1000のCPU1600はA/D変換部1400の出力を所定のタイミングでフレームメモリ1800に書き込む。
[信号処理ステップ]
フレームメモリ1800には所定期間、例えば1フレーム分の受信信号(反射信号)が書き込まれ、CPU1600はフレームメモリ1800内の受信信号について、以下の処理を実行する。
【0071】
ステップS1601:フレームメモリ1800内の受信信号について直交検波の処理を実行し、Q信号およびI信号を抽出する。
【0072】
ステップS1602:ステップS1601で抽出されたQ信号およびI信号に基いて、振幅Aを算出する。
【0073】
ステップS1603:ステップS1601で抽出されたQ信号およびI信号に基いて、位相Φを算出する。
【0074】
ステップS1604:ステップS1602で算出された振幅Aの移動平均Aaverageを算出する振幅フィルタ処理を実行する。
【0075】
ステップS1605:ステップS1603で算出された位相Φの移動平均Φaverage位相フィルタ処理を実行する。なお、実施例2同様、移動平均に替えて平滑化微分ΔΦaverageを算出してもよい。
【0076】
ステップS1606:ステップS1604およびS1605でフィルタ処理された振幅Aおよび位相Φに基いて、Q信号を再生する。
【0077】
ステップS1607:ステップS1604およびS1605でフィルタ処理された振幅Aおよび位相Φに基いて、I信号を再生する。
【0078】
ステップS1608:ステップS1606およびS1607で再生されたQ信号、I信号に基いて超音波画像その他診断に必要な情報を生成して、システムメモリ1700に書き込み、モニタ1010に表示する。
【実施例4】
【0079】
[超音波診断装置]
図17は、本発明に係る超音波診断装置の実施例4の雑音低減フィルタ部を示すブロック図である。実施例4は雑音低減フィルタのためにプログラムしたDSP(Digital Signal Processor)を用いている。
【0080】
図17において、雑音低減フィルタ部はDSP3000を有し、DSP3000の入力側には、アナログ入力信号をデジタル化するA/D変換部3010が接続されている。
【0081】
DSP3000内部には、直交検波器500に対応する直行検波部3012、位相計算部610に対応する位相計算部3014、振幅計算部620に対応する振幅計算部3016、フィルタ部630、640にそれぞれ対応するフィルタ部3018、3020、再生部650、660にそれぞれ対応する再生部3022、3024の回路、あるいはこれら回路の構成要素が構成され、図16と同様のプログラムによって、Q信号、I信号の雑音を低減し得る。
【0082】
近年高速(システムクロック1.0GHz以上)の汎用DSPが市販されており、比較的容易に図17の構成を実現し得る。
【実施例5】
【0083】
[超音波診断装置]
図18は、本発明に係る超音波診断装置の実施例4の雑音低減フィルタ部を示すブロック図である。実施例5は、アナログ回路を多く用いている。
【0084】
図18において、雑音低減フィルタ部は、アナログタイプの直交検波処理回路4000と、DSP4010と、アナログタイプのフィルタ4020、4030、アナログタイプの再生部4040、4050を有する。
【0085】
直交検波処理回路4000はアナログ集積回路として市販されているものがあり、内部にA/D変換部を含みデジタル出力が有られる。
【0086】
DSP4010は位相計算および振幅計算を実行し、計算結果をアナログ出力する。
【0087】
フィルタ4020、4030は、位相アナログ出力、振幅アナログ出力のそれぞれを、フィルタ部630、640と同様に雑音低減処理する。
【0088】
再生部4040、4050は雑音低減された位相アナログ信号、振幅アナログ信号から、アナログQ信号、アナログI信号を生成する。
【0089】
以上のとおり、位相計算、振幅計算以外の雑音低減処理をアナログ回路によって実現することも可能である。
【0090】
なお、以上の実施例では超音波診断装置について説明したが、本発明は複素信号を受信する任意の信号処理装置に適用でき、良好な雑音除去性能を発揮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の実施例1を示すブロック図である。(実施例1)
【図2】図1における雑音低減フィルタ部を示すブロック図である。(実施例1)
【図3】図2の雑音低減フィルタ部における各構成要素の詳細を示すブロック図である。(実施例1)
【図4】図3のローパスフィルタの例を示すブロック図である。(実施例1)
【図5】図1の超音波診断装置における各部信号を示すグラフである。(実施例1)
【図6】図1の超音波診断装置における他の各部信号を示すグラフである。(実施例1)
【図7】従来例と実施例1の出力信号を比較するグラフである。(実施例1)
【図8】図1の超音波診断装置におけるさらに他の各部信号を示すグラフである。(実施例1)
【図9】本発明に係る超音波診断装置の実施例2の雑音低減フィルタ部を示すブロック図である。(実施例2)
【図10】図9の微分フィルタの例を示すブロック図である。(実施例2)
【図11】図7の超音波診断装置における各部信号を示すグラフである。(実施例2)
【図12】図7の超音波診断装置における他の各部信号を示すグラフである。(実施例2)
【図13】実施例1または2によって処理される超音波信号の例を示すグラフである。(実施例1、2)
【図14】本発明に係る超音波診断装置の実施例3を示す外観図である。(実施例3)
【図15】図14の超音波診断装置の構成を示すブロック図である。(実施例3)
【図16】図14の超音波診断装置の処理を示すフローチャートである。(実施例3)
【図17】本発明に係る超音波診断装置の実施例4の雑音低減フィルタ部を示すブロック図である。(実施例4)
【図18】本発明に係る超音波診断装置の実施例5の雑音低減フィルタ部を示すブロック図である。(実施例5)
【図19】従来の超音波診断装置を示すブロック図である。(従来例)
【図20】図19におけるフィルタ手段を示すブロック図である。(従来例)
【図21】図1の出力部の例を示すブロック図である。(実施例1)
【符号の説明】
【0092】
100 探触子
200 送信手段
300 受信手段
400 帯域フィルタ
500 直交検波器
600 雑音低減フィルタ
610 位相計算部
620 振幅計算部
630、635 位相フィルタ部
640 振幅フィルタ部
650 Q信号再生部
660 I信号再生部
700 信号処理手段
800 表示処理手段
900 表示手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号から所定帯域の信号を抽出する帯域フィルタと、
前記帯域フィルタの出力から複素信号のQ信号およびI信号を抽出する直交検波器と、
前記直交検波器から出力された前記Q信号およびI信号から振幅信号を生成する振幅計算部と、
前記直交検波器から出力された前記Q信号およびI信号から位相信号を生成する位相計算部と、
前記位相計算部の出力から位相性雑音を除去する位相フィルタ部と、
を備えた信号処理装置。
【請求項2】
前記振幅計算部の出力から加法性雑音を除去する振幅フィルタ部をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記振幅フィルタ部は振幅信号の移動平均を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記位相フィルタ部は位相信号の移動平均を算出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記位相フィルタ部は位相信号の平滑化微分を算出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記受信信号は超音波反射信号であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の信号処理装置。
【請求項7】
受信信号から複素信号のQ信号およびI信号を抽出する直交検波ステップと、
前記直交検波ステップで抽出された前記Q信号およびI信号から振幅信号を生成する振幅計算ステップと、
前記直交検波ステップで抽出された前記Q号およびI信号から位相信号を生成する位相計算ステップと、
前記位相計算ステップで生成された位相信号から位相性雑音を除去する位相フィルタステップと、
を備えた信号処理方法。
【請求項8】
受信信号から複素信号のQ信号およびI信号を抽出する直交検波ステップと、
前記直交検波ステップで抽出された前記Q信号およびI信号から振幅信号を生成する振幅計算ステップと、
前記直交検波ステップで抽出された前記Q信号およびI信号から位相信号を生成する位相計算ステップと、
前記位相計算ステップで生成された位相信号から位相性雑音を除去する位相フィルタステップと、
をコンピュータに実行させるプログラムコードを含む、コンピュータ実行可能なプログラム。
【請求項9】
請求項8記載のプログラムが記憶されたコンピュータ読取可能な記憶媒体。
【請求項10】
検査部位に対して超音波を発信し、前記検査部位からの超音波反射信号を受信する探触子と、
前記探触子を駆動して超音波を発生する送信手段と、
前記探触子で受信した超音波反射信号を増幅する受信手段と、
前記受信手段の出力から所定帯域の信号を抽出する帯域フィルタと、
前記帯域フィルタの出力から複素信号のQ信号およびI信号を抽出する直交検波器と、
前記直交検波器から出力された前記Q信号およびI信号から雑音を除去する雑音低減フィルタ手段と、
前記雑音低減フィルタ手段から出力される信号によって検査部位の診断に必要な情報を出力する出力手段と、
を備えた超音波診断装置であって、
前記雑音低減フィルタ手段は、
前記直交検波器から出力された前記Q信号およびI信号から振幅信号を生成する振幅計算部と、
前記直交検波器から出力された前記Q信号およびI信号から位相信号を生成する位相計算部と、
前記位相計算部の出力から位相性雑音を除去する位相フィルタ部と、
前記振幅計算部の出力から加法性雑音を除去する振幅フィルタ部と、
前記位相フィルタ部および振幅フィルタ部から出力される信号からQ信号を再生するQ信号再生部と、
前記位相フィルタ部および振幅フィルタ部から出力される信号からI信号を再生するI信号再生部と、
を備えた超音波診断装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−87757(P2006−87757A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−278662(P2004−278662)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(391029048)トーイツ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】