説明

信号処理装置およびレーザ計測装置

【課題】受光信号から所望の信号成分を高い精度で検出することができる信号処理装置およびレーザ計測装置を提供することにある。
【解決手段】透過周波数を含む透過周波数帯域の出力を通過させ、透過周波数帯域以外の出力を減衰する水晶フィルタと、透過周波数と指定周波数との差分の周波数を発振する発振器と、発振器から発振された信号と水晶フィルタを通過した信号とを混合し、水晶フィルタを通過した信号の透過周波数の出力を、指定周波数の出力に変換する下流側周波数変換器と、を有し、指定周波数以外の周波数の出力を低減するフィルタ処理部と、フィルタ処理部で処理された信号にスペクトル信号抽出処理(例えば、ロックイン処理)を行い、スペクトル信号を抽出するスペクトル信号抽出器(例えば、ロックイン検出器)と、を含む信号処理部を有することで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ吸収分光法により測定対象のガスの物理量を算出するレーザ計測に用いる信号処理装置およびレーザ計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
管路内を流れるガス(気体)を分析する方法として、レーザ光を測定光として用いる方法がある。例えば、特許文献1には、一定電流に重畳された第1の交流成分を有する電流で変調され、温度に応じて波長が変化するレーザ光を発振するレーザと、検知雰囲気通過後のレーザ光の強度を電圧に変換する光強度電圧変換器と、該光強度電圧変換器の出力電圧を位相敏感検波する2つの位相敏感検波器と、一方の位相敏感検波器から得られる1次の位相敏感検波信号と他方の位相敏感検波器から得られる2次の位相敏感検波信号とに基づいて検知雰囲気の濃度を検知するガス検知装置が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、レーザ光を出射するレーザ素子と、レーザ光を基本波で周波数変調する周波数変調部と、周波数変調されたレーザ光を検出する光検出部と、光検出部にて検出されたレーザ光から基本波成分を検出する基本波成分検出部と、光検出部にて検出されたレーザ光から2倍波成分を検出する2倍波成分検出部と、光検出部にて検出された基本波成分と2倍波成分との振幅比に基づいて測定対象ガスの濃度を算出するガス濃度算出部と、を有するガス濃度測定装置が記載されている。また、当該ガス濃度測定装置は、レーザ光から検出された基本波成分と2倍波成分との振幅比を算出する振幅比算出部と、基本波成分と2倍波成分との振幅比に基づいてレーザ素子の温度を設定する温度設定部と、吸収ピーク波長からシフトされた波長を基準とする波長変調を行った時の基本波成分と2倍波成分との振幅比に基づいてレーザ素子の駆動電流を制御する駆動電流制御部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2796649号明細書
【特許文献2】特開2008−147557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2に記載されているように、測定光として波長変調を行いつつ出力したレーザ光を用い、当該レーザ光の吸収を計測することで、測定対象物質の濃度等の物理量を計測することができる。レーザ光を用いてガス濃度を計測することで高い応答性でガス濃度を計測することができる。
【0006】
受光部がレーザ光を受光して生成する受光信号には、種々のノイズが含まれる。そのため、受光信号からノイズを除去し、必要な成分(例えば波長変調を行う変調周波数に対応する信号成分)を抽出するために各種信号処理を行う。この信号処理としては、ロックインアンプで、ロックイン処理およびローパス処理を行い特定のスペクトル信号を抽出する方法がある。しかしながら、検出対象の信号はノイズに対して出力が小さいため、高精度な検出を行う場合は、ロックインアンプによる処理前にFIRフィルタや、バンドパスフィルタ等を設け、ロックインアンプの処理対象の周波数成分を抽出する、つまりロックインアンプの処理対象の周波数以外の周波数成分を低減させる処理を行う。
【0007】
ここで、FIRフィルタやバンドパスフィルタを用いた処理では、ノイズを十分に低減できない場合があったり、ノイズを十分に低減するために多くの計算を実行する必要があったりする。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、受光信号から所望の信号成分を高い精度で検出することができるレーザ計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、流体が流れる計測セルと、測定対象のガスに固有な吸収波長を含む波長域のレーザ光を変調周波数で波長を変調しつつ出力し、前記計測セルに入射させる発光部と、前記入射部から入射され、前記計測セルを通過し、前記出射部から出射された前記レーザ光を受光し、受光した光量を受光信号として出力する受光部と、を有し、前記受光信号に基づいて前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量を算出するレーザ計測装置に適用され、前記受光部が受光した受光信号を処理し、前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量の算出に用いるスペクトル信号を出力する信号処理装置であって、前記指定周波数以外の周波数の出力を低減するフィルタ処理部と、前記フィルタ処理部で処理された信号にスペクトル信号抽出処理を行い、前記スペクトル信号を抽出するスペクトル信号抽出器と、を含み、前記フィルタ処理部は、透過周波数を含む透過周波数帯域の出力を通過させ、前記透過周波数帯域以外の出力を減衰する水晶フィルタと、前記透過周波数と前記指定周波数との差分の周波数を発振する発振器と、前記発振器から発振された信号と前記水晶フィルタを通過した信号とを混合し、前記水晶フィルタを通過した信号の透過周波数の出力を、前記指定周波数の出力に変換する下流側周波数変換器と、を有することを特徴とする。
【0010】
ここで、信号処理装置は、前記受光信号に含まれる指定周波数の成分を前記透過周波数に含まれる周波数の成分に変換する上流側周波数変換部をさらに有することが好ましい。
【0011】
また、前記上流側周波数変換部は、前記発振部から発振された信号と前記受光信号とを混合し、前記受光信号に含まれる指定周波数の成分を前記透過周波数に含まれる周波数の成分に変換することが好ましい。
【0012】
また、前記発振器は、出力する信号の周波数を変更可能なことが好ましい。
【0013】
また、前記指定周波数は、前記変調周波数を2倍以上で整数倍した周波数であることが好ましい。
【0014】
また、前記受光信号は、前記透過周波数の出力が前記スペクトル信号の前記指定周波数の出力であることが好ましい。
【0015】
また、前記透過周波数は、前記変調周波数を2倍以上で整数倍した周波数であることが好ましい。
【0016】
また、前記下流周波数変換器と前記スペクトル信号抽出器との間に配置され、前記下流側周波数変換器を通過した信号から前記指定周波数以上の周波数の出力を低減するローパスフィルタをさらに有することが好ましい。
【0017】
また、前記ローパスフィルタと前記スペクトル信号抽出器との間に配置され、前記下流側周波数変換器を通過した信号を増幅する増幅器と、前記ローパスフィルタと前記増幅器との間に配置されたコイルカップリングと、をさらに有することが好ましい。
【0018】
また、前記水晶フィルタと前記下流側周波数変換器との間に配置され、前記水晶フィルタを通過した信号を増幅する増幅器と、前記水晶フィルタと前記増幅器との間に配置されたコイルカップリングと、をさらに有することが好ましい。
【0019】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明はレーザ計測装置であって、上記のいずれかに記載の信号処理装置と、流体を流す流路と連結可能な主管、前記主管に連結し、光が通過可能な窓部が形成された入射部、前記主管に連結し光が通過可能な窓部が形成された出射部と、を含む計測セルと、測定対象のガスに固有な吸収波長を含む波長域のレーザ光を変調周波数で波長を変調しつつ出力し、前記入射部に入射させる発光部と、前記入射部から入射され、前記計測セルを通過し、前記出射部から出射された前記レーザ光を受光し、受光した光量を受光信号として出力する受光部と、前記スペクトル信号に基づいて、前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量を算出する物理量算出部と、各部の動作を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【0020】
ここで、前記物理量算出部が算出する物理量は、前記測定対象のガスの濃度であることが好ましい。
【0021】
また、前記物理量算出部は、前記発光部から出力したレーザ光の強度と、前記受光部で受光したレーザ光の強度とに基づいて、前記測定対象のガスの濃度を算出することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかる信号処理装置およびレーザ計測装置は、受光信号から所望の信号成分を高い精度で検出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の信号処理装置を有するレーザ計測装置の一実施形態の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示すレーザ計測装置の信号処理部の概略構成を示すブロック図である。
【図3A】図3Aは、信号処理部の処理を説明するための説明図である。
【図3B】図3Bは、信号処理部の処理を説明するための説明図である。
【図3C】図3Cは、信号処理部の処理を説明するための説明図である。
【図3D】図3Dは、信号処理部の処理を説明するための説明図である。
【図3E】図3Eは、信号処理部の処理を説明するための説明図である。
【図4】図4は、水晶フィルタの特性を示すグラフである。
【図5A】図5Aは、信号処理部の経路で検出されるスペクトルの一例を示すグラフである。
【図5B】図5Bは、信号処理部の経路で検出されるスペクトルの一例を示すグラフである。
【図5C】図5Cは、信号処理部の経路で検出されるスペクトルの一例を示すグラフである。
【図5D】図5Dは、信号処理部の経路で検出されるスペクトルの一例を示すグラフである。
【図5E】図5Eは、信号処理部の経路で検出されるスペクトルの一例を示すグラフである。
【図6】図6は、レーザ計測装置の他の実施形態の概略構成を示す模式図である。
【図7】図7は、レーザ計測装置の他の実施形態の概略構成を示す模式図である。
【図8】図8は、レーザ計測装置の他の実施形態の概略構成を示す模式図である。
【図9】図9は、信号処理部の処理を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明にかかる信号処理装置およびレーザ計測装置の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。なお、レーザ計測装置は、流路を流れる種々の気体(ガス)、液体等の流体に含まれる測定対象の物質(ガス、特定の成分)の物理量(濃度、量)を計測することができる。レーザ計測装置は、例えば、ディーゼルエンジンに取付、ディーゼルエンジンから排出される排ガスに含まれる窒素酸化物、硫化酸化物、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニア等の濃度等を計測してもよい。なお、測定対象のガスを排出(供給)する装置は、これに限定されず、ガソリンエンジンや、ガスタービン等種々の内燃機関に用いることができる。また、内燃機関を有する装置としては、車両、船舶、発電機等種々の装置が例示される。さらに、レーザ計測装置は、ゴミ焼却炉、ボイラ等の燃焼機器から排出される排ガスに含まれる測定対象物質の濃度等を計測することもできる。なお、以下の実施形態では、配管を流れる排ガスに含まれる測定物質の濃度を計測する場合として説明する。
【0025】
図1は、本発明の信号処理装置を有するレーザ計測装置の一実施形態の概略構成を示す模式図である。図1に示すようにレーザ計測装置10は、計測セル12と、計測手段14と、を有する。ここで、レーザ計測装置10は、排ガスAが流れる配管6と配管8との間に設けられている。また、排ガスAは、配管6の上流側から供給され、配管6、レーザ計測装置10、配管8を通過し、配管8よりも下流に排出される。なお、配管6の上流側には、排ガスの発生装置(供給装置)が配置されている。
【0026】
計測セル12は、基本的に主管20と、入射管22と、出射管24とを有する。また、入射管22には、窓26が設けられており、出射管24には、窓28が設けられている。主管20は、筒状の管状部材であり、一方の端部が配管6と連結され、他方の端部が配管8と連結されている。つまり、主管20は、排ガスAが流れる流路の一部となる位置に配置されている。これにより、排ガスAは、配管6、主管20、配管8の順に流れる。また、配管6を流れる排ガスAは、基本的に全て主管20を流れる。
【0027】
入射管22は、管状部材であり、一方の端部が主管20に連結されている。また、主管20は、入射管22との連結部が、入射管22の開口(端部の開口)と略同一形状の開口となっている。つまり、入射管22は、主管20と、空気の流通が可能な状態で連結されている。また、入射管22の他方の端部には、窓26が設けられており、窓26により封止されている。なお、窓26は、光を透過する部材、例えば、透明なガラス、樹脂等で構成されている。これにより、入射管22は、窓26が設けられている端部が、空気が流通しない状態で、かつ、光が透過できる状態となる。
【0028】
入射管22は、図1に示すように、窓26側の端部の開口(つまり、窓26により塞がれている開口)の面積と、主管20側の端部(つまり、主管20と連結している部分の開口)の面積とが実質的に同一の円筒形状である。なお、入射管22の形状は円筒形状に限定されず、空気および光を通過させる筒型の形状であればよく、種々の形状とすることができる。例えば、断面が四角、多角形、楕円、非対称曲面となる形状としてもよい。また筒形状の断面の形状、径が位置によって変化する形状でもよい。
【0029】
出射管24は、入射管22と略同一形状の管状部材であり、一方の端部が主管20に連結され、出射管24の他方の端部には、窓28が設けられている。出射管24も、主管20と空気が流通可能な状態で、窓28が設けられている端部が、空気が流通しない状態で、かつ、光が透過できる状態となる。また、出射管24は、中心軸が入射管22の中心軸と略同一となる位置に配置されている。つまり、入射管22と出射管24とは、主管20の対向する位置に配置されている。
【0030】
また、出射管24も、窓28側の端部の開口(つまり、窓28により塞がれている開口)の面積と、主管20側の端部(つまり、主管20と連結している部分の開口)の面積とが実質的に同一の円筒形状である。なお、出射管24も形状は円筒形状に限定されず、空気および光を通過させる筒型の形状であればよく、種々の形状とすることができる。例えば、断面が四角、多角形、楕円、非対称曲面となる形状としてもよい。また筒形状の断面の形状、径が位置によって変化する形状でもよい。なお、出射管24も、後述するパージガスが安定して流れる形状とすることが好ましい。
【0031】
次に、計測手段14は、発光部40と、光ファイバ42と、受光部44と、光源ドライバ46と、信号処理部(信号処理装置)47と、物理量算出部48と、制御部50と、を有する。なお、本実施形態では、信号処理部47と、物理量算出部48と、を別々に設けたが一体で(1つの処理部として)設けてもよい。また、光源ドライバ46と、信号処理部47と、物理量算出部48と、制御部50と、を一体で(1つの処理部として)設けてもよい。
【0032】
発光部40は、所定波長のレーザ光を出力(発光)させる発光素子を有する。なお、発光部40の発光素子は、出力するレーザ光の出力波長(周波数)を所定の波長幅(周波数幅)で変化させることができる発光素子である。発光素子としては、波長可変の半導体レーザ素子(LD:Laser Diode)を用いることができる。発光部40は、測定対象の物質が吸収する近赤外波長域を含む波長域のレーザ光を出力する。例えば、計測対象が一酸化窒素の場合、発光部40は、一酸化窒素を吸収する近赤外波長域を含む波長域のレーザ光を出力する。また、計測対象が二酸化窒素の場合、発光部40は、二酸化窒素を吸収する近赤外波長域の波長域を含むレーザ光を出力する。また、計測対象が亜酸化窒素の場合、発光部40は、亜酸化窒素を吸収する近赤外波長域の波長域を含むレーザ光を出力する。なお、測定対象が複数の物質である場合、発光部40は、夫々の物質が吸収する波長域の光を発光する発光素子を複数備え、それぞれの波長域の光を出力するようにしてもよい。光ファイバ42は、発光部40から出力されたレーザ光を案内し、窓26から計測セル12内に入射させる。
【0033】
受光部44は、計測セル12の主管20の内部を通過し、出射管24の窓28から出力されたレーザ光を受光する受光部である。なお、受光部44は、例えば、フォトダイオード(PD、Photodiode)等の光検出器を備え、光検出器によってレーザ光を受光し、その光の強度を検出する。受光部44は、受光したレーザ光の強度(光量)を受光信号として、信号処理部47に送る。
【0034】
光源ドライバ46は、発光部40を駆動する機能を有し、発光部40に供給する電流、電圧を調整することで、発光部40から出力されるレーザ光の波長、強度を調整する。光源ドライバ46は、発振器であり、電流、電圧を所定の波形で発光部40に供給することで時間により波長が変化するレーザ光を出力させる。本実施形態の光源ドライバ46は、設定された変調周波数(例えば、100kHz、125kHz)でレーザ光の波長を振動させる。光源ドライバ46は、制御部50を介して物理量算出部48に、発光部40から出力しているレーザ光の強度の情報を出力する。
【0035】
信号処理部47は、受光部44がレーザ光を受光することで生成した信号(受光信号)を処理する。具体的には、信号処理部47は、受光信号に含まれるノイズ成分を除去し、発光部40から出力され受光部44に到達したレーザ光の成分を抽出する。なお、抽出して生成される信号を以下スペクトル信号という。また、信号処理部47の処理については後述する。
【0036】
物理量算出部48は、信号処理部47から出力されたスペクトル信号に基づいて、計測セル12を流れる排ガスの濃度を算出する。物理量算出部48は、信号処理部47から出力されたスペクトル信号と、制御部50により光源ドライバ46を駆動させている条件とに基づいて、計測対象の物質の濃度を算出する。具体的には、物理量算出部48は、制御部50により光源ドライバ46を駆動させている条件に基づいて発光部40から出力されるレーザ光の強度を算出し、信号処理部47で生成されたスペクトル信号に基づいて受光したレーザ光の強度を算出する。物理量算出部48は、この発光したレーザ光の強度と受光したレーザ光の強度と比較し、排ガスAに含まれる測定対象の物質の濃度を算出する。
【0037】
具体的には、発光部40から出力された近赤外の波長域のレーザ光Lは、光ファイバ42から計測セル12の所定経路、具体的には、窓26、入射管22、主管20、出射管24、窓28を通過した後、受光部44に到達する。このとき、計測セル12内の排ガスA中に測定対象の物質が含まれていると、計測セル12を通過するレーザ光が吸収される。そのため、レーザ光Lは、排ガスA中の測定対象の物質の濃度によって、受光部44に到達するレーザ光の出力が変化する。受光部44は、受光したレーザ光を受光信号に変換する。受光部44で生成された受光信号は、信号処理部47で処理されスペクトル信号として物理量算出部48に入力される。また、制御部50および光源ドライバ46は、発光部40から出力したレーザ光Lの強度を物理量算出部48に出力する。物理量算出部48は、発光部40から出力した光の強度と、スペクトル信号から算出される強度とを比較し、その減少割合から計測セル12内を流れる排ガスAの測定対象の物質の濃度を算出する。このように計測手段14は、いわゆるTDLAS方式(Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy:可変波長ダイオードレーザー分光法)を用いることで、出力したレーザ光の強度と、受光部44で検出した受光信号とに基づいて主管20内の所定位置、つまり、測定位置を通過する排ガスA中の測定対象の物質の濃度を、算出および/または計測することができる。また、計測手段14は、連続的に測定対象の物質の濃度を、算出および/または計測することができる。なお、レーザ計測装置10は、発光部40から出力されるレーザ光の強度を一定として、スペクトル信号のみ基づいて排ガスAに含まれる測定対象の物質の濃度を算出してもよい。
【0038】
制御部50は、各部の動作を制御する制御機能を有し、必要に応じて、各部の動作を制御する。なお、制御部50は、計測手段14の制御のみならず、レーザ計測装置10の全体の動作を制御する。つまり、制御部50は、レーザ計測装置10の動作を制御する制御部である。
【0039】
次に、図2から図4を用いて、レーザ計測装置10の信号処理部47の構成を説明し、信号処理部47による受光信号の処理について説明する。ここで、図2は、図1に示すレーザ計測装置の信号処理部の概略構成を示すブロック図である。また、図3Aから図3Eは、それぞれ信号処理部の処理を説明するための説明図である。図4は、水晶フィルタの特性を示すグラフである。なお、図3Aから図3Eは、信号の周波数と出力(強度)との関係を模式的に示すグラフ、つまり信号を周波数解析した場合に算出される周波数と出力の関係を示すグラフである。図3Aから図3Eは、縦軸を出力とし、横軸を周波数とした。また、図4は、水晶フィルタの周波数特性を示すグラフであり、縦軸を利得[dB]とし、横軸を周波数[MHz]とした。
【0040】
図2に示す信号処理部47は、受光部44から送られた受光信号を処理してスペクトル信号を生成し、生成したスペクトル信号を物理量算出部48に送る。信号処理部47は、指定周波数以外の周波数の出力を低減するフィルタ処理部62と、フィルタ処理部62で処理された信号にスペクトル信号抽出処理(例えば、ロックイン処理)を行い、スペクトル信号を抽出するスペクトル信号抽出器(例えば、ロックイン検出器)64と、を有する。ここで、指定周波数とは、スペクトル信号抽出器64でスペクトル信号抽出する対象の周波数であり、検出対象である吸収スペクトルの成分を含む周波数である。本実施形態では、指定周波数として、変調周波数を2倍以上で整数倍した周波数を用いる。
【0041】
なお、以下の説明では、125kHzを変調周波数としたレーザ光を出力し、指定周波数を250kHzとしてスペクトル信号を生成する場合として説明する。つまり、以下の説明の例では、受光部44がレーザ光を受光して生成する受光信号には、測定対象の物質がレーザ光を吸収することで生じる吸収スペクトルの成分が125kHzの偶数倍の周波数に含まれる。そこで、レーザ計測装置10の信号処理部47は、吸収スペクトルの成分が含まれる周波数のうち250kHzの周波数を解析対象(測定対象)の周波数、つまり指定周波数とし、指定周波数の成分を抽出する処理を行う。フィルタ処理部62に送られる受光信号は、指定周波数である250kHz成分にノイズ成分が重畳している。そのため、受光信号は、図3Aに示すように、各周波数成分に出力が分布している状態となる。信号処理部47が、図3Aに示すようなノイズが重畳された受光信号から解析対象の指定周波数の成分を抽出する処理を行う。
【0042】
フィルタ処理部62は、発振器70と、アップコンバータ(上流側周波数変換器)72と、水晶フィルタ74と、コイルカップリング76と、増幅器77と、ダウンコンバータ(下流側周波数変換器)78と、ローパスフィルタ80と、コイルカップリング82と、増幅器84と、を有する。
【0043】
発振器70は、設定した周波数の信号を生成し出力する信号生成器である。発振器70は、指定周波数と後述する水晶フィルタ74を通過する周波数(透過周波数)との差分の周波数(発振周波数)の信号を生成し、アップコンバー72とダウンコンバータ78とに送る。なお、本実施形態では、発振器70は、発振周波数が10.45MHzの信号を出力する。つまり、周波数が10.45MHzの成分で構成された信号を出力する。
【0044】
アップコンバータ(上流側周波数変換器)72は、受光信号と発振器70から送られた信号とをヘテロダインの定理により混合する混合器(周波数変換器、ミキサ)である。アップコンバータ72は、受信信号の各周波数の成分を発振周波数分増加させた成分と発振周波数分減少させた成分とした信号を生成する。つまり、アップコンバータ72は、発振周波数を基準として、正負の両方向に受信信号を展開した信号を生成する。つまり、発振周波数をfとし、受信信号の各周波数faとすると、周波数faの出力をf±faの周波数の出力とする。図3Aに示す受信信号は、アップコンバータ(上流側周波数変換器)72を通過することで、図3Bに示す信号となる。ここで、図3Bに示す信号は、受光振動の指定周波数(250kHz)の成分が、発振周波数10.45MHzに±0.25MHzした10.2MHzの成分と、10.7MHzの成分となる。アップコンバータ72は、処理した信号を水晶フィルタ74に送る。
【0045】
水晶フィルタ74は、所定の周波数である透過周波数の成分を選択的に通過させ、透過周波数以外の周波数成分を除去、低減するフィルタである。水晶フィルタ74は、水晶振動子を用いるフィルタであり、透過周波数(水晶振動子と共振する周波数成分)を中心周波数とする一定の周波数帯域の成分を選択的に通過させ、透過周波数を中心周波数とする一定の周波数帯域以外の周波数の成分(出力)を減少させる。ここで、本実施形態の水晶フィルタ74は、図4に示すように、透過周波数が10.7MHzのフィルタである。ここで、図4の縦軸の利得は、各周波数における透過率と同様であり、利得が0に近いほど出力を透過し、利得のマイナス成分が大きいほど(−90dBに近いほど)、出力を低減する。なお、水晶フィルタ74は、利得が−80dBの周波数成分は、ほとんど透過させない。水晶フィルタ74は、10.7MHzを中心として、10.69MHz以上10.71MHz未満の範囲の周波数成分の出力を一定程度透過し、それ以外の周波数成分の出力を低減させる。これにより、水晶フィルタ74を透過した信号は、図3Cに示すように、透過周波数の10.7MHzを中心とした一定周波数域の成分が支配的な信号となる。水晶フィルタ74は、アップコンバータ72から送られた信号に対して処理(フィルタ処理)を行い、処理を行った信号(水晶フィルタ74を通過した信号)をコイルカップリング76(増幅器77)に送る。
【0046】
コイルカップリング76は、水晶フィルタ74と、増幅器77との間に配置されている。コイルカップリング76は、増幅器77に使用しているオペアンプの入力部の回路定数を整合する機器であり、増幅器77の他の部品との整合部に配置されている。コイルカップリング76は、一対のコイルで構成されており、一方のコイルが水晶フィルタ74と接続し、他方のコイルが増幅器77と接続している。コイルカップリング76は、一対のコイルが対向して配置されており、水晶フィルタ74から送られてきた信号を一方のコイルから他方のコイルに伝達し、増幅器77に送る。コイルカップリング76は、一対のコイルを介して信号を伝達することで、増幅器77の整合部で発生する熱ノイズを抑制することができる。
【0047】
増幅器77は、水晶フィルタ74から送られ、コイルカップリング76を通過した信号(受光信号から透過周波数を中心とした周波数域以外の周波数の成分を除去、低減した信号)を増幅する。増幅器77は、増幅した信号をダウンコンバータ78に送る。
【0048】
ダウンコンバータ(下流側周波数変換器)78は、増幅器77から送られた信号と発振器70から送られた信号とをヘテロダインの定理により混合する混合器(周波数変換器、ミキサ)である。ダウンコンバータ78は、アップコンバータ72と同様の構成であり、増幅器77から送られた信号の各周波数の成分を発振周波数分増加させた成分と発振周波数分減少させた成分とした信号を生成する。つまり、ダウンコンバータ78は、発振周波数を基準として、正負の両方向に増幅器77から送られた信号を展開した信号を生成する。ダウンコンバータ78を通過した信号は、図3Dに示す信号となる。ここで、図3Dに示す信号は、透過周波数(10.7MHz)の成分が、発振周波数10.45MHzに±10.7MHzした250kHzの成分と、21.15MHzの成分となる。ダウンコンバータ78は、処理した信号をローパスフィルタ80に送る。
【0049】
ローパスフィルタ80は、ダウンコンバータ78とコイルカップリング82との間に配置されている。ローパスフィルタ80は、設定された閾値周波数以下の周波数の成分を透過させ、閾値周波数より大きい周波数の成分を低減するフィルタであり、ダウンコンバータ78から送られた信号のうち、指定周波数を中心とした周波数域の成分を透過させ、透過周波数に発振周波数を加算した周波数を中心とした周波数域の成分を低減する。なお、ローパスフィルタ80としては、1MHz以上の周波数の成分を低減する(1MHz未満の周波数の成分をそのまま透過する)フィルタを用いることが好ましい。本実施形態では、250kHzを中心とした周波数域の成分を透過させ、21.15MHzを中心とした周波数域の成分を低減する。
【0050】
コイルカップリング82は、ローパスフィルタ80と、増幅器84との間に配置されている。コイルカップリング82は、増幅器84に使用しているオペアンプの入力部の回路定数を整合する機器であり、増幅器84の他の部品との整合部に配置されている。コイルカップリング82は、一対のコイルで構成されており、一方のコイルがローパスフィルタ80と接続し、他方のコイルが増幅器84と接続している。コイルカップリング82は、一対のコイルが対向して配置されており、ローパスフィルタ80から送られてきた信号を一方のコイルから他方のコイルに伝達し、増幅器84に送る。コイルカップリング76は、一対のコイルを介して信号を伝達することで、増幅器84の整合部で発生する熱ノイズを抑制することができる。
【0051】
増幅器84は、ローパスフィルタ80から送られ、コイルカップリング82を通過した信号(受光信号から指定周波数以外の周波数の成分を除去、低減した信号)を増幅する。これにより、増幅器84を通過した信号は、図3Eに示す信号となる。図3Eに示す信号は、図3Dに示す信号がローパスフィルタ80を通過することで21.15MHzを中心とした周波数域の成分が低減され250kHzを中心とした周波数域の成分が支配的な信号とされ、さらに250kHzを中心とした周波数域の成分が増幅された信号である。増幅器84は、増幅した信号をスペクトル信号抽出器64に送る。
【0052】
次に、スペクトル信号抽出器64は、フィルタ処理部62で処理され、指定周波数以外の周波数の成分が低減された受光信号に対して、指定周波数を参照周波数としてスペクトル信号抽出処理を行う。これにより、指定周波数以外の周波数の成分が低減された受光信号から指定周波数のスペクトル信号を生成する。なお、スペクトル信号抽出器64としては、上記で例示したように、ロックイン処理を行うロックイン検出器を用いることができる。ロックイン検出器を用いることで、安価な構成で高精度にスペクトル信号を抽出することができる。なお、スペクトル信号抽出器64の種類はロックイン検出器に限定されない。スペクトル信号抽出器64は、検出したスペクトル信号を物理量算出部48に送る。信号処理部47は、以上のようにして受光信号からスペクトル信号を生成及び/または抽出する。
【0053】
次に、具体的な信号の計測結果の一例の図4及び図5Aから図5Eを用いて、信号処理部47の処理をより詳細に説明する。図5Aから図5Eは、それぞれ信号処理部の経路で検出されるスペクトルの一例を示すグラフである。図5Aから図5Eは、縦軸を電圧(出力)[dBV]とし、横軸を周波数[MHz]とした。なお、以下の説明では、100kHzを変調周波数としたレーザ光を出力し、指定周波数を200kHzとし、発振器の発振周波数を10.5MHzとしてスペクトル信号を生成する場合として説明する。
【0054】
まず、受光信号のスペクトル(信号処理部47に入力する入力スペクトル)は、図5Aに示すように、各周波数成分に出力が分布している状態となる。ここで、図5Aに示す受光信号は、変調周波数の100kHzの成分が−10.93dBVであり、指定周波数の200kHzの成分が−53.16dBVである。このように、受光信号では、解析対象の200kHzの成分とノイズの100kHzの成分との差が−42.23dBとなり、解析対象の成分が、ノイズ成分である100kHzの成分よりも小さい出力となっている。
【0055】
その後、アップコンバータ72により周波数変換(アップコンバート)した信号は、図5Bに示す出力分布となる。図5Bに示すように、アップコンバートした信号は、発振周波数である10.5MHzを中心として周波数軸に略対象な波形となる。またアップコンバートした信号は、変調周波数の100kHzを周波数変換した10.60MHzの成分が−17.74dBVであり、指定周波数の200kHzを周波数変換した10.7MHzの成分が−60.20dBVである。このように、アップコンバートした信号では、解析対象の10.7MHzの成分とノイズの10.6MHzの成分との差が−42.46dBとなる。なお、アップコンバータ72で処理することで、各周波数の成分は減少している。
【0056】
その後、水晶フィルタ74を通過(透過)した信号は、図5Cに示す出力分布となる。なお、図5Cに示すグラフは、周波数10MHzから11MHzの範囲のみを示している。図5Cに示すように、水晶フィルタ74を通過した信号は、透過周波数の10.7MHzを中心とした周波数域の成分を透過させ、その他の周波数域の成分を低減する。これにより、水晶フィルタ74を通過した信号は、周波数10.60MHzの成分が−101.25dBVであり、10.7MHzの成分が−60.72dBVである。このように、水晶フィルタ74を通過した信号は、解析対象の10.7MHzの成分は略そのまま通過させ、ノイズの10.6MHzの成分を低減させる。これにより、解析対象の10.7MHzの成分とノイズの10.6MHzの成分との差が37.53dBとなり、解析対象の成分がノイズ成分よりも大きくなる。
【0057】
その後、ダウンコンバータ78により周波数変換(ダウンコンバート)した信号は、図5Dに示す出力分布となる。なお、図5Dは、横軸の周波数軸を対数軸としている。図5Dに示すように、ダウンコンバートした信号は、発振周波数である10.5MHzを中心として周波数軸に略対象な波形となり、解析対象の10.7MHzの成分は、周波数200kHzの成分と周波数21.2MHzの成分となる。また、ノイズの10.6MHzの成分は、周波数100kHzの成分と周波数21.3MHzの成分となる。つまり、10.7MHz以下の成分は、アップコンバータ72の処理前の信号の周波数と同一の周波数の成分となる。ダウンコンバートした信号は、100kHzの成分が−89.59dBVであり、指定周波数の200kHzの成分が−59.80dBVである。このように、ダウンコンバートした信号では、解析対象の200kHzの成分とノイズの100kHzの成分との差が29.79dBとなる。
【0058】
その後、ローパスフィルタ80を通過した信号は、図5Eに示す出力分布となる。また、図5Eも図5Dと同様に横軸の周波数軸を対数軸としている。なお、本具体例で用いたローパスフィルタ80は、周波数1MHz以上の成分を低減するフィルタである。図5Eに示すように、ローパスフィルタ80を通過した信号は、周波数1MHz以上の成分が低減され、周波数21.2MHzの成分が低減される。また、周波数100kHzの成分と、周波数200kHzの成分とは、略そのまま透過する。ローパスフィルタ80を通過した信号は、100kHzの成分が−89.61dBVであり、指定周波数の200kHzの成分が−60.06dBVである。このように、ローパスフィルタ80を通過した信号では、解析対象の200kHzの成分とノイズの100kHzの成分との差が29.55dBとなる。ローパスフィルタ80を通過した信号は、その後、増幅器84で増幅された後、スペクトル信号抽出器64でスペクトル信号抽出処理されることで、指定周波数成分を抽出したスペクトル信号を生成する。
【0059】
このように、レーザ計測装置10の信号処理部47は、受光信号の指定周波数の成分を水晶フィルタ74の透過周波数の成分とした後、当該信号を水晶フィルタ74に透過(通過)させることで、受光信号から効率よくノイズを除去または低減することができる。つまり、透過周波数(透過周波数を中心とした一定周波数域)以外の周波数の成分を高い割合で低減できる水晶フィルタ74でフィルタ処理を行うことで、受光信号の指定周波数の成分以外の成分を効率よく除去、低減することができる。また、透過周波数を中心とした一定周波数域を他のフィルタに比して狭い周波数域とすることができる。これにより、指定周波数の成分を高精度に抽出することができる。例えば、本実施形態のように、200kHzが指定周波数であり、100kHzに大きなノイズ成分がある場合も、ノイズ成分を好適に低減することができる。
【0060】
本実施形態のように、アップコンバータ72及び発振器70で受光信号の指定周波数の成分を水晶フィルタ74の透過周波数の成分に変換することで、指定周波数の周波数によらず、水晶フィルタ74dで受光信号の指定周波数の成分を透過させ、その他の周波数の成分を除去低減することができる。
【0061】
また、水晶フィルタ74を透過した信号をダウンコンバータ78でタウンコンバートすることで、スペクトル信号抽出器64での処理をより簡単にすることができる。さらに、1つの発振器70がアップコンバータ72とダウンコンバータ78とに信号を供給することで、発振器の数を少なくすることができる。また信号処理部47に入力時と出力時とで、解析対象の成分が含まれる周波数を同一周波数とすることができる。
【0062】
また、受光信号から効率よくノイズを除去または低減し、指定周波数の成分の出力とノイズ成分の出力との差が小さくなることで、ノイズ除去後でスペクトル信号抽出処理前の信号をより大きく増幅することができ、スペクトル信号抽出処理前に指定周波数の成分の出力をより増幅することができる。ここで、増幅器84は、スペクトル信号抽出器64の計測レンジに適用可能な大きさまで増幅させる場合に信号の大きさを基準として増幅の比率を設定する。そのため、指定周波数の成分の出力とノイズ成分の出力との差が小さくなることで、ノイズ成分の出力が指定周波数の成分の出力よりも一定程度大きい場合よりも、指定周波数の成分の出力をより大きく増幅することができる。つまり、より大きく増幅しても、出力をスペクトル信号抽出器64の計測レンジに適用可能な大きさに抑えることができる。これにより、指定周波数の成分の出力をより高精度に検出することができる。また、フィルタとしては、水晶フィルタを設ければよいため、装置構成を簡単にすることができる。
【0063】
さらに、ノイズを好適に小さくできることで、スペクトル信号抽出器の計測レンジが小さい場合でも好適に指定周波数の出力を検出することができる。これにより、性能を維持しつつ、スペクトル信号抽出器を安価にすることができ、レーザ計測装置も安価にすることができる。
【0064】
次に、図6を用いて、レーザ計測装置の他の実施形態について説明する。図6は、レーザ計測装置の他の実施形態の概略構成を示す模式図である。なお、図6に示すレーザ計測装置の実施形態は、信号処理部の構成を除いて他の構成は、基本的に図1および図2に示すレーザ計測装置と同様である。また、図6に示す信号処理部147のうち、図2に示す信号処理部47と同様の構成には、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0065】
図6に示す信号処理部147は、フィルタ処理部162と、スペクトル信号検出器64と、を有する。フィルタ処理部162は、発振器70と、水晶フィルタ74と、コイルカップリング76と、増幅器77と、ダウンコンバータ(下流側周波数変換器)78と、ローパスフィルタ80と、コイルカップリング82と、増幅器84と、を有する。
【0066】
発振器70は、設定した周波数の信号を生成し出力する信号生成器である。発振器70は、指定周波数と透過周波数との差分の周波数(発振周波数)の信号を生成し、ダウンコンバータ78に送る。
【0067】
このように、信号処理部147は、アップコンバータを備えない点を除いて他の構成は、信号処理部47と同様である。本実施形態のレーザ計測装置の構成とした場合も、受光部44がレーザ光を受光し、生成する受光信号に含まれる解析対象の吸収スペクトルの成分が透過周波数の成分となるようにすることで、水晶フィルタ74が透過する周波数成分を測定対象の周波数の成分とすることができる。
【0068】
このように、受光部44が生成する受光信号に含まれる解析対象の吸収スペクトルの成分が透過周波数の成分とすることで、アップコンバータを設けることなく、受光信号から解析対象の吸収スペクトルの成分を抽出することができる。例えば、上記実施形態のように、透過周波数が10.7MHzの場合は、レーザ光の変調周波数を5.35MHzとすることで、解析対象を10.7MHzとすることができる。
【0069】
次に、図7を用いて、レーザ計測装置の他の実施形態について説明する。図7は、レーザ計測装置の他の実施形態の概略構成を示す模式図である。なお、図7に示すレーザ計測装置の実施形態は、信号処理部の構成を除いて他の構成は、基本的に図1および図2に示すレーザ計測装置と同様である。また、図7に示す信号処理部247のうち、図2に示す信号処理部47と同様の構成には、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0070】
図7に示す信号処理部247は、フィルタ処理部262と、スペクトル信号抽出器64と、を有する。フィルタ処理部262は、アップコンバータ20と、周波数可変発振器270と、発振器271と、水晶フィルタ74と、コイルカップリング76と、増幅器77と、ダウンコンバータ(下流側周波数変換器)78と、ローパスフィルタ80と、コイルカップリング82と、増幅器84と、を有する。
【0071】
周波数可変発振器270は、発振周波数を任意に可変可能な信号生成器である。周波数可変発振器270は、発振周波数を多段階で変更したり、時間によって発振周波数を変化させたりすることができる。なお、周波数可変発振器270は、発振周波数として、指定周波数と水晶フィルタ74を通過する周波数(透過周波数)との差分の周波数を基準とし、周波数を変更可能とする。周波数可変発振器270は、生成した信号をアップコンバータ72に送る。
【0072】
発振器271は、設定した周波数の信号を生成し出力する信号生成器である。発振器271は、指定周波数と透過周波数との差分の周波数(発振周波数)の信号を生成し、ダウンコンバータ78に送る。
【0073】
信号処理部247は、アップコンバータ72に信号を供給する発振器を周波数可変発振器270とすることで、受光信号に含まれる信号の解析対象の周波数を選択することができる。つまり、アップコンバータ72に入力する信号の発振周波数を変化させることで、水晶フィルタを通過する受光信号の周波数の成分を変更することができる。レーザ計測装置は、複数のレーザ光を別々の変調周波数で受光部44に入射させた場合も1つの受光部44でそれぞれの変調周波数に基づいた信号成分を抽出することができる。
【0074】
また、周波数可変発振器270から出力する信号の発振周波数を掃引(変調)することで、変調周波数が不安定な場合も、信号に含まれる吸収スペクトルに起因する成分が水晶フィルタ74を透過することができる。
【0075】
また、ダウンコンバータ78には、発振器271から信号を送ることで、水晶フィルタ74を通過し、スペクトル信号抽出器64に到達する信号のうち、水晶フィルタ74の通過時の透過周波数の成分のタウンコンバート後の周波数を一定にすることができる。これにより、指定周波数を変更することなく、水晶フィルタ74を透過した成分をスペクトル信号抽出処理で抽出することができる。
【0076】
次に、図8および図9を用いて、レーザ計測装置の他の実施形態について説明する。図8は、レーザ計測装置の他の実施形態の概略構成を示す模式図である。また、図9は、信号処理部の処理を説明するための説明図である。なお、図8に示すレーザ計測装置の実施形態は、信号処理部の構成を除いて他の構成は、基本的に図1および図2に示すレーザ計測装置と同様である。また、図8に示す信号処理部347のうち、図2に示す信号処理部46と同様の構成には、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。また、図8に示す信号処理部347は、信号処理装置47に自己診断機能、キャリブレーション機能を付加したものである。
【0077】
図8に示す信号処理部347は、フィルタ処理部362と、スペクトル信号抽出器64と、メモリ366と、内蔵信号発生器368と、信号合流部369と、を有する。フィルタ処理部362は、フィルタ処理部62と同様の構成であるので詳細な説明を省略する。メモリ366は、記憶装置であり、スペクトル信号抽出器64で生成された信号の情報を取得し、取得した自信号とその信号を生成した条件とを記憶する。信号内蔵発生器368は、信号を生成して出力する発振器であり、制御部50に入力された指示に基づいて信号を生成し出力する。信号合流部369は、受光部44とフィルタ処理部362との間に配置されており、受光部44から送られた信号をフィルタ処理部362に送る。信号合流部369は、さらに、内蔵信号発生器368と連結しており、内蔵信号発生器368から送られた信号をフィルタ処理部362に送る。
【0078】
信号処理部347は、上記のような構成である。信号処理部347は、制御部50の制御に基づいて、メモリ366に記憶された情報に基づいてフィルタ処理部362、スペクトル信号抽出器364の診断、キャリブレーションを実行する。なお、制御部50に替えて、信号処理部347が制御機能を備えてもよい。制御部50は、信号内蔵生成部368から信号を出力させ、信号合流部369からフィルタ処理部362を通過しスペクトル信号抽出器64に到達した信号を取得する。制御部50は、スペクトル信号抽出器64に到達した信号に基づいて、信号処理部347の経路内を伝達することで生じるホワイトノイズを検出し、その結果に基づいて信号処理部347の回路の診断やキャリブレーションを行う。例えば、図9に示すように、指定周波数250kHzの成分が波形380か、波形380よりも出力の大きい波形382か、波形380よりも出力の小さい波形384か、を検出し、信号処理部347の劣化状態を判定する。また、内蔵信号発生器368から強度の違う信号を順次出力し、その出力が、例えば、波形380、382、384のように、出力に比例しているか等を判定し、入力(受光信号)と出力(スペクトル信号)との関係を検出し、装置のキャリブレーションを行う。
【0079】
信号処理部347は、以上のように、受光信号に変わる信号を生成し、系内のホワイトノイズを検出し、その結果を蓄積することで、系内の自己診断や、キャリブレーションを実行することができる。また、自己診断が可能となることで、不具合を解消することも可能となる。なお、自己診断や、キャリブレーションの方法は種々の方法を用いることができる。また、不具合が発生したら、使用者に通知するようにしてもよい。
【0080】
また、上述したように、指定周波数は、変調周波数の整数倍の種々の値とすることができる。指定周波数として、変調周波数の4倍の周波数を用いても、変調周波数に含まれる吸収スペクトル(検出対象のスペクトル)の変化を検出することができる。なお、指定周波数として、変調周波数の4倍の周波数を用いて解析を行うとスペクトルの4次微分波形が検出される。このように変調周波数の2倍以外の周波数を用いることで、変調周波数の2倍の周波数にノイズ成分がある場合も吸収スペクトル(検出対象のスペクトル)の変化を検出することができる。
【0081】
また、レーザ計測装置の信号処理部は、上記実施形態のように増幅器と他の部材との連結部(増幅器等を構成するオペアンプの整合部)には、コイルカップリングを設けることが好ましい。整合部にコイルカップリングを用いることで、熱ノイズ等を抑制できる。なお、上記効果を得ることができるため、増幅器と他の部材との連結部には、コイルカップリングを用いることが好ましいがこれに限定されず、種々の連結部材を用いることができる。
【0082】
また、上記実施形態では、水晶フィルタ74を透過した信号をローパスフィルタによりフィルタ処理をしたがこれに限定されない。フィルタとしてはバンドパスフィルタも用いることができる。また、信号成分が十分に大きい場合は増幅器77、84を設けなくてもよい。
【0083】
また、レーザ計測装置は、発光部40から出力するレーザ光の波長を変調周波数よりも低い周波数である掃引周波数(例えば0.1kHz、1kHz)で掃引することが好ましい。レーザ光を掃引周波数掃引させることで、測定対象の物質の吸収波長がずれている場合や、レーザ光の出力波長が変動した場合でも補正することができ、測定対象の物質の物理量をより高い精度で計測できる。ここで、変調周波数に基づいたレーザ光の波長の振動の振動幅は、掃引周波数に基づいたレーザ光の波長の変化幅よりも小さくすることが好ましい。これにより、発光部40から出力されるレーザ光は、変調周波数で振動する振動の中心が、掃引周波数に基づいて変化するレーザ光となる。
【符号の説明】
【0084】
6、8 配管
10 レーザ計測装置
12 計測セル
14 計測手段
20 主管
22 入射管
24 出射管
26、28 窓
40 発光部
42 光ファイバ
44 受光部
46 光源ドライバ
47 信号処理部
48 物理量算出部
50 制御部
62 フィルタ処理部
64 スペクトル信号抽出器
70 発振器
72 アップコンバータ
74 水晶フィルタ
76、82 コイルカップリング
77、84 増幅器
78 ダウンコンバータ
80 ローパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる計測セルと、測定対象のガスに固有な吸収波長を含む波長域のレーザ光を変調周波数で波長を変調しつつ出力し、前記計測セルに入射させる発光部と、前記入射部から入射され、前記計測セルを通過し、前記出射部から出射された前記レーザ光を受光し、受光した光量を受光信号として出力する受光部と、を有し、前記受光信号に基づいて前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量を算出するレーザ計測装置に適用され、
前記受光部が受光した受光信号を処理し、前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量の算出に用いるスペクトル信号を出力する信号処理装置であって、
前記指定周波数以外の周波数の出力を低減するフィルタ処理部と、
前記フィルタ処理部で処理された信号にスペクトル信号抽出処理を行い、前記スペクトル信号を抽出するスペクトル信号抽出器と、を含み、
前記フィルタ処理部は、透過周波数を含む透過周波数帯域の出力を通過させ、前記透過周波数帯域以外の出力を減衰する水晶フィルタと、
前記透過周波数と前記指定周波数との差分の周波数を発振する発振器と、
前記発振器から発振された信号と前記水晶フィルタを通過した信号とを混合し、前記水晶フィルタを通過した信号の透過周波数の出力を、前記指定周波数の出力に変換する下流側周波数変換器と、を有することを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
前記受光信号に含まれる指定周波数の成分を前記透過周波数に含まれる周波数の成分に変換する上流側周波数変換部をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記上流側周波数変換部は、前記発振部から発振された信号と前記受光信号とを混合し、前記受光信号に含まれる指定周波数の成分を前記透過周波数に含まれる周波数の成分に変換することを特徴とする請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記発振器は、出力する信号の周波数を変更可能なこと特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記指定周波数は、前記変調周波数を2倍以上で整数倍した周波数であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記受光信号は、前記透過周波数の出力が前記スペクトル信号の前記指定周波数の出力であることを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記透過周波数は、前記変調周波数を2倍以上で整数倍した周波数であることを特徴とする請求項6に記載の信号処理装置。
【請求項8】
前記下流周波数変換器と前記スペクトル信号抽出器との間に配置され、前記下流側周波数変換器を通過した信号から前記指定周波数以上の周波数の出力を低減するローパスフィルタをさらに有することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項9】
前記ローパスフィルタと前記スペクトル信号抽出器との間に配置され、前記下流側周波数変換器を通過した信号を増幅する増幅器と、
前記ローパスフィルタと前記増幅器との間に配置されたコイルカップリングと、をさらに有することを特徴とする請求項8に記載の信号処理装置。
【請求項10】
前記水晶フィルタと前記下流側周波数変換器との間に配置され、前記水晶フィルタを通過した信号を増幅する増幅器と、
前記水晶フィルタと前記増幅器との間に配置されたコイルカップリングと、をさらに有することを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の信号処理装置と、
流体を流す流路と連結可能な主管、前記主管に連結し、光が通過可能な窓部が形成された入射部、前記主管に連結し光が通過可能な窓部が形成された出射部と、を含む計測セルと、
測定対象のガスに固有な吸収波長を含む波長域のレーザ光を変調周波数で波長を変調しつつ出力し、前記入射部に入射させる発光部と、
前記入射部から入射され、前記計測セルを通過し、前記出射部から出射された前記レーザ光を受光し、受光した光量を受光信号として出力する受光部と、
前記スペクトル信号に基づいて、前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量を算出する物理量算出部と、
各部の動作を制御する制御部と、を有することを特徴とするレーザ計測装置。
【請求項12】
前記物理量算出部が算出する物理量は、前記測定対象のガスの濃度であることを特徴とする請求項11に記載のレーザ計測装置。
【請求項13】
前記物理量算出部は、前記発光部から出力したレーザ光の強度と、前記受光部で受光したレーザ光の強度とに基づいて、前記測定対象の物質の濃度を算出することを特徴とする請求項12に記載のレーザ計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−173176(P2012−173176A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36326(P2011−36326)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】