説明

信号処理装置

【課題】シグマデルタA/D変換器を用いた場合におけるインパルス状ノイズの耐性を高めることができるとともに、回路の消費電流も低減できる信号処理装置を提供すること。
【解決手段】温度測定信号をシグマデルタA/D変換器でデジタル信号に変換するように構成された信号処理装置において、前記シグマデルタA/D変換器で高速サンプリングすることにより得られる前記温度測定信号の複数の測定データの中央値を検出する手段を設けたことを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置に関し、詳しくは、温度測定信号をシグマデルタA/D変換器でデジタル信号に変換するように構成された信号処理装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デルタシグマA/D変換器は、高速度のA/D変換は行えないものの、比較的低価格で高分解能が得られ、半導体集積化にも適していることから、測定信号の変化が比較的緩やかな各種の測定信号をデジタル信号に変換する手段として、広く用いられている。
【0003】
図3は、従来の温度測定装置の一例を示すブロック図である。図1において、端子台1には、温度センサとして用いる熱電対2を接続するための端子11が設けられている。熱電対2の起電力を温度に換算するためには、端子台1の温度を基準接点温度として別途計測する必要がある。そのため、端子台1の内部または端子11の直近に、熱電対以外のたとえば白金測温抵抗体などの基準接点温度センサ3が設けられている。
【0004】
これら熱電対2および基準接点温度センサ3の出力信号は、マルチプレクサ4を介して共通のシグマデルタA/D変換器5に入力されている。
【0005】
シグマデルタA/D変換器5でデジタル信号に変換された熱電対2および基準接点温度センサ3の出力信号は、温度演算部6に入力されている。
【0006】
温度演算部6は、シグマデルタA/D変換器5から変換入力される基準接点温度センサ3の出力信号に基づき、シグマデルタA/D変換器5から変換入力される熱電対2の起電力を測定対象の温度値を演算する。
【0007】
クロック発生部7は、シグマデルタA/D変換器5を駆動するための所定のクロックを出力する。
【0008】
制御部8は、マルチプレクサ4と温度演算部6およびクロック発生部7に接続されていて、これら各部を総括的に制御する。
【0009】
図4は、図3の動作を説明するタイミングチャートであり、縦軸は回路の消費電流を示している。マルチプレクサ4は、はじめに熱電対2の出力信号を選択してシグマデルタA/D変換器5に出力し、その後に基準接点温度センサ3の出力信号を選択してシグマデルタA/D変換器5に出力する。
【0010】
シグマデルタA/D変換器5は、たとえば毎秒20サンプル(20sps)の周期で駆動され、1回の温度測定で4回のA/D変換を行う。すなわち、第1および第2のクロックで熱電対の出力信号のA/D変換を行うが、第1のクロックでA/D変換されたデータはA/D変換器5のセトリングの影響があるため測定データとしては採用せず、第2のクロックでA/D変換されたデータを測定データとして採用する。同様に、第3、第4のクロックで基準接点温度センサー3の出力信号をA/D変換し、第4のクロックでA/D変換されたデータを測定データとして採用する。
【0011】
電圧測定回路にシグマデルタA/D変換器を用いると、原理的にデジタルフィルタの出力が出てくるまでに複数回のサンプリングを要することになる。これをセトリングと呼んでいるが、それらを考慮すると、図3のように2種類の電圧を測定するためには、最低でも図4に示すように200ms以上の時間を要することになる。
【0012】
一般に、熱電対で温度を計測するのにあたっては、熱電対に混入する商用電源ノイズ(50Hzまたは60Hz)を除去するためにある程度の平均化演算処理が必要であり、少なくとも商用周波数1周期分以上の平均化処理を行うためには動作時間として20ms以上が必要になる。温度計測用途向けのADコンバータなどでは、商用電源ノイズを除去するために、50ms〜60msのデジタルフィルタリングを行っている場合が多い。
【0013】
温度測定装置の回路を電池駆動にしたり、エナジーハーベスト技術で収穫できる電力で供給したりする場合には、回路の消費電流は極力抑えなければならない。そのため、回路の動作としては、上記の200msなど必要な動作時間を除いてスリープ状態になるようにすることで、回路の平均の消費電流を抑えるように設計される。動作時間を短くしてスリープ時間を長くすることで、回路の平均消費電流を抑えることができる。
【0014】
なお、基準接点温度センサ3が機器内部に設けられていることにより商用電源ノイズの影響を受けない場合には、商用電源ノイズを除去するための平均化処理を不要にできる。すなわち、基準接点温度センサ3の出力信号を測定する場合のみシグマデルタA/D変換器のサンプリング時間を高速にすることで、動作時間を短縮することができる。
【0015】
特許文献1には、熱電対の基準接点温度を、シグマデルタA/D変換器でデジタル信号に変換する構成が記載されている。
【0016】
【特許文献1】特開平6−301882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、基準接点温度センサ3の出力を高速で測定して動作時間を短縮した場合、商用電源ノイズの影響は受けなくても、静電気やサージなどのインパルスノイズは影響することがある。
【0018】
また、シグマデルタA/D変換器のサンプリング時間が短くなると、これらのインパルス状ノイズの混入に基づく測定誤差は大きくなる。
【0019】
本発明は、このような問題を解決するものであり、その目的は、シグマデルタA/D変換器を用いた場合におけるインパルス状ノイズの耐性を高めることができるとともに、回路の消費電流も低減できる信号処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
温度測定信号をシグマデルタA/D変換器でデジタル信号に変換するように構成された信号処理装置において、
前記シグマデルタA/D変換器で高速サンプリングすることにより得られる前記温度測定信号の複数の測定データの中央値を検出する手段を設けたことを特徴とする。
【0021】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の信号処理装置において、
前記温度測定信号は、熱電対が接続される端子台の温度を基準接点温度として計測する基準接点温度センサの出力信号であることを特徴とする。
【0022】
請求項3記載の発明は、請求項2に記載の信号処理装置において、
前記基準接点温度センサは、白金測温抵抗体であることを特徴とする。
【0023】
請求項4記載の発明は、請求項2または請求項3に記載の信号処理装置において、
前記端子台には複数の熱電対が接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
このような構成の信号処理装置によれば、シグマデルタA/D変換器を用いた場合におけるインパルス状ノイズの耐性を高めつつ、消費電流の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例を示すブロック図である。
【図2】図1の動作を説明するタイミングチャートである。
【図3】従来の温度測定装置の一例を示すブロック図である。
【図4】図3の動作を説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の一実施例を示すブロック図であり、図3と共通する部分には同一の符号を付けている。図1と図3の相違点は、図1では、シグマデルタA/D変換器5のサンプリング速度が熱電対の出力信号測定と基準接点温度センサ3の出力信号測定とで切り換えられることと、シグマデルタA/D変換器5と温度演算部6の間に、シグマデルタA/D変換器5の高速サンプリング出力信号の中央値を検出する中央値検出部9が設けられていることである。
【0027】
図1において、商用電源ノイズは、基準接点温度センサ3による端子台1の温度測定には影響しないものとする。そこで、基準接点温度センサ3による端子台1の温度測定時におけるシグマデルタA/D変換器5のサンプリング周波数を高速にし、短時間で端子台の温度を測定することで回路の平均消費電流を少なくする。
【0028】
ところが、シグマデルタA/D変換器のサンプリング周波数が高速になってサンプリング時間が短くなると、前述のように、インパルス状ノイズが混入した場合の誤差が大きくなる。
【0029】
このようなインパルス状ノイズが混入した場合の誤差を小さくするために、図1の構成では、基準接点温度センサ3による端子台1の温度測定にあたり、シグマデルタA/D変換器5のサンプリング周波数を高速にして複数回測定を行い、中央値検出部9によりこれら複数回測定した温度値の中央値を求めている。具体的には、たとえば複数回測定した温度値を大きさ順に並べてそれらの中央値を検出する「メディアンフィルタ処理」を実行する。
【0030】
図2は、図1の動作を説明するタイミングチャートであり、縦軸は回路の消費電流を示している。マルチプレクサ4は、図4と同様に、はじめに熱電対2の出力信号を選択してシグマデルタA/D変換器5に出力し、その後に基準接点温度センサ3の出力信号を選択してシグマデルタA/D変換器5に出力する。
【0031】
シグマデルタA/D変換器5は、熱電対2の出力信号を変換する場合には図4と同様にたとえば毎秒20サンプル(20sps)の周期で駆動され、基準接点温度センサ3の出力信号を変換する場合にはサンプリング周波数を高速にしてたとえば毎秒640サンプル(640sps)の周期で高速サンプリングを行う。
【0032】
熱電対2の出力信号を変換する場合の第1のクロックではセトリングタイム用のA/D変換を行い、第2のクロックでは測定データとして取り込むためのA/D変換を行う。
【0033】
基準接点温度センサ3の出力信号を変換する場合の高速サンプリングでは、連続的にたとえば10回のA/D変換を行う。すなわち、第1のクロックで基準接点温度センサ3の出力信号についてセトリングタイム用のA/D変換を行う。そして、第2のクロックから第10までのクロックで基準接点温度センサ3の出力信号について測定データとして取り込むためのA/D変換を行い、これら9個の変換データを中央値検出部9に入力する。
【0034】
中央値検出部9は、検出した変換データの中央値を基準接点温度センサ3の測定データとして温度演算部6に出力する。
【0035】
温度演算部6は、この中央値検出部9から基準接点温度センサ3の測定データとして検出出力される基準接点温度センサ3の出力信号に基づき、シグマデルタA/D変換器5から変換入力される熱電対2の起電力を測定対象の温度値を演算する。
【0036】
シグマデルタA/D変換器5に固有の正しいデータが出力されるまでのセトリングタイムは、サンプリング周波数を高速にすることで短縮できる。すなわち、シグマデルタA/D変換器5から正しいデータが出力されるまでに必要な捨てデータの数はサンプリング数で決まるため、サンプリング周波数を高くして高速サンプリングにすることにより捨てデータの収集時間を短くできる。
【0037】
そして、基準接点温度センサ3の出力信号に対するインパルス状ノイズの影響は、複数回のサンプリングとたとえばメディアンフィルタ処理による中央値の検出により完全に除去することができ、高精度の温度測定が行える。
【0038】
なお、中央値検出部9での中央値検出処理に必要なシグマデルタA/D変換器5のサンプリング回数は、インパルス状ノイズの影響の実測データにより決めることができる。
【0039】
また、端子台に接続される熱電対は1個に限るものではなく、複数個でもよい。
【0040】
また、上記実施例では、温度測定信号をシグマデルタA/D変換器でデジタル信号に変換するように構成された信号処理装置として、熱電対を用いた温度測定装置の例について説明したが、これに限るものではなく、機器の周囲温度を測定して自分自身の温度補正を行うように構成される高精度電圧計、電流計、電力計などにも好適である。
【0041】
以上説明したように、本発明によれば、シグマデルタA/D変換器を用いた場合におけるインパルス状ノイズの耐性を高めることができるとともに、回路の消費電流も低減できる信号処理装置が実現できる。
【符号の説明】
【0042】
1 端子台
11 端子
2 熱電対
3 基準接点温度センサ
4 マルチプレクサ
5 デルタシグマA/D変換器
6 温度演算部
7 クロック発生部
8 制御部
9 中央値検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度測定信号をシグマデルタA/D変換器でデジタル信号に変換するように構成された信号処理装置において、
前記シグマデルタA/D変換器で高速サンプリングすることにより得られる前記温度測定信号の複数の測定データの中央値を検出する手段を設けたことを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
前記温度測定信号は、熱電対が接続される端子台の温度を基準接点温度として計測する基準接点温度センサの出力信号であることを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記基準接点温度センサは、白金測温抵抗体であることを特徴とする請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記端子台には複数の熱電対が接続されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の信号処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−37494(P2012−37494A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180670(P2010−180670)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】