説明

修飾擬ポリロタキサンおよび修飾ポリロタキサン、ならびにそれらの製造方法

【課題】製造効率が良好で収率も高い修飾擬ポリロタキサンおよび修飾ポリロタキサンの製造方法、ならびに新規な修飾擬ポリロタキサンおよび修飾ポリロタキサンを提供する。
【解決手段】修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子を貫通させ包接錯体を形成させる反応により修飾擬ポリロタキサンを製造する方法において、軸分子の数平均分子量を1500以上とすることにより、軸分子に対する修飾シクロデキストリンの被覆率が80%以下である修飾擬ポリロタキサンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾シクロデキストリンを輪成分とする修飾擬ポリロタキサンおよび修飾ポリロタキサン、ならびにそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
修飾シクロデキストリンを輪成分とし、軸分子に高分子量のポリマーを用いた修飾ポリロタキサンは、ゾル−ゲル転移や、下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature: LCST)等、興味深い物性を示すことが知られている(非特許文献1,2)。
【0003】
修飾シクロデキストリンを輪成分とする修飾ポリロタキサンを合成するには、従前は、シクロデキストリンを出発物質としてポリロタキサンを合成した後に、シクロデキストリンの水酸基を修飾する方法(特許文献1)、あるいは、修飾シクロデキストリンを出発物質として固相でポリロタキサンを合成する方法(特許文献2,3)が知られているだけであった。
【0004】
これに対し、近年、修飾シクロデキストリンを出発物質として、溶媒中でポリロタキサンを合成する方法が提案された(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−63412号公報
【特許文献2】特開2005−75979号公報
【特許文献3】特開2007−70553号公報
【特許文献4】特開2008−19371号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ケミカル・コミュニケーション(Chem. Commun.),2006年,第4102頁
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー・ビー(J. Phys. Chem. B),2006年,110巻,第24377頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のポリロタキサン合成後にシクロデキストリンの水酸基を修飾する方法では、修飾ポリロタキサンを得るために複雑な操作と多くの時間を費やしてしまい、効率的でない。さらにこの方法では、修飾率の高いポリロタキサンを得ることは困難である。また、固相でのポリロタキサンの合成は、収率が低く、製造効率が悪い。一方、特許文献4には、軸分子が高分子量のものについては記載がない。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、製造効率が良好で収率も高い修飾擬ポリロタキサンおよび修飾ポリロタキサンの製造方法、ならびに新規な修飾擬ポリロタキサンおよび修飾ポリロタキサンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子を貫通させ包接錯体を形成させる反応により修飾擬ポリロタキサンを製造する方法において、前記軸分子の数平均分子量を1500以上とすることを特徴とする、前記軸分子に対する前記修飾シクロデキストリンの被覆率が80%以下である修飾擬ポリロタキサンの製造方法を提供する(発明1)。
【0010】
上記発明(発明1)によれば、効率良く修飾擬ポリロタキサンを製造することができ、得られる修飾擬ポリロタキサンの収率も高い。
【0011】
上記発明(発明1)においては、前記修飾シクロデキストリンが、(部分)メチル化シクロデキストリンであってもよい(発明2)。
【0012】
上記発明(発明2)においては、前記(部分)メチル化シクロデキストリンが、パーメチル化シクロデキストリンであってもよい(発明3)。
【0013】
第2に本発明は、修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子を貫通させ包接錯体を形成させる反応により修飾擬ポリロタキサンを製造し、次いで得られた修飾擬ポリロタキサンの軸分子とキャッピング剤とを反応させて、前記軸分子の両末端にブロック基を付加する修飾ポリロタキサンの製造方法において、前記軸分子の数平均分子量を1500以上とすることを特徴とする、前記軸分子に対する前記修飾シクロデキストリンの被覆率が80%以下である修飾ポリロタキサンの製造方法を提供する(発明4)。
【0014】
上記発明(発明4)によれば、効率良く修飾ポリロタキサンを製造することができ、得られる修飾ポリロタキサンの収率も高い。
【0015】
上記発明(発明4)においては、前記修飾シクロデキストリンが、(部分)メチル化シクロデキストリンであってもよい(発明5)。
【0016】
上記発明(発明5)においては、前記(部分)メチル化シクロデキストリンが、パーメチル化シクロデキストリンであってもよい(発明6)。
【0017】
上記発明(発明4〜6)においては、前記軸分子と前記キャッピング剤とを、イソシアネート基とアミノ基との組み合わせで反応させることが好ましい(発明7)。
【0018】
第3に本発明は、修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子が貫通してなる修飾擬ポリロタキサンであって、前記軸分子の数平均分子量が1500以上であり、前記修飾シクロデキストリンの前記軸分子に対する被覆率が80%以下であり、前記修飾シクロデキストリンが、パーメチル化シクロデキストリンであることを特徴とする修飾擬ポリロタキサンを提供する(発明8)。
【0019】
上記発明(発明8)に係る修飾擬ポリロタキサンは、新規な修飾擬ポリロタキサンである。
【0020】
第4に本発明は、修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子が貫通し、前記軸分子の両末端にブロック基を有する修飾ポリロタキサンであって、前記軸分子の数平均分子量が1500以上であり、前記修飾シクロデキストリンの前記軸分子に対する被覆率が80%以下であり、前記修飾シクロデキストリンが、パーメチル化シクロデキストリンであることを特徴とする修飾ポリロタキサンを提供する(発明9)。
【0021】
上記発明(発明9)に係る修飾ポリロタキサンは、新規な修飾ポリロタキサンである。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る修飾擬ポリロタキサンの製造方法または修飾ポリロタキサンの製造方法によれば、製造効率が良好で収率も著しく高い。また、本発明によれば、新規な修飾擬ポリロタキサンまたは修飾ポリロタキサンが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1で合成したポリロタキサンのH−NMRチャートである。
【図2】実施例2で合成したポリロタキサンのH−NMRチャートである。
【図3】実施例3で合成したポリロタキサンのH−NMRチャートである。
【図4】実施例4で合成したポリロタキサンのH−NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態では、擬ポリロタキサンを製造し、次いで、得られた擬ポリロタキサンからポリロタキサンを製造する。
【0025】
本実施形態で製造する擬ポリロタキサンは、輪成分である修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に、末端に官能基を有する直鎖状分子(軸分子)が貫通してなるものである。本実施形態では、最初に、末端に官能基を有する直鎖状分子と、修飾シクロデキストリンとを用意する。末端に官能基を有する直鎖状分子は、市販のものを使用することもできるし、以下のようにして製造することもできる。
【0026】
直鎖状分子は、反応溶媒に溶解する分子であることが好ましい。かかる分子としては、例えば、ポリエーテル類、ポリエステル類、ポリオルガノシロキサン類などが挙げられ、具体的には、ポリテトラヒドロフラン、ポリカプロラクトン、ポリアクリル酸エステル、ポリエチレングリコール、ポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。これらの中でも、修飾シクロデキストリンとの錯形成性に優れる点で、特にポリテトラヒドロフランを使用することが好ましい。
【0027】
なお、本明細書において、「直鎖状分子」の「直鎖」は、実質的に「直鎖」であることを意味する。すなわち、直鎖状分子上で環状分子が移動可能であれば、直鎖状分子は分岐鎖を有していてもよい。
【0028】
直鎖状分子の数平均分子量は、1500以上であることを必要とし、好ましくは3000〜1000000、特に好ましくは5000〜100000である。
【0029】
修飾シクロデキストリンを出発物質とした(擬)ポリロタキサンの製造において、数平均分子量が1500以上である軸分子を使用すると、数平均分子量が1500未満である軸分子を使用した場合と比較して、収率が飛躍的に上昇する。通常、無修飾のシクロデキストリンを出発物質としたポリロタキサンの製造では、軸分子の分子量が大きくなるほど、収率が低くなると考えられており、しかも錯形成能力の低い修飾シクロデキストリンを出発物質とした合成であることから、上記の結果は完全に当業者の予想に反するものである。なお、直鎖状分子の数平均分子量が1,000,000を超えると、溶解性が低下し、輪成分の貫通数の制御が困難となるおそれがある。
【0030】
上記直鎖状分子の末端官能基としては、後述するブロック基と反応して直鎖状分子の末端を封鎖できるものであれば特に限定されないが、好ましくは、アミノ基、ヒドロキシル基、イソシアネート基、カルボキシル基、ビニル基およびエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用し、特に好ましくは、アミノ基を使用する。なお、末端官能基は両末端で同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0031】
直鎖状分子が末端に上記官能基を有する場合には、当該官能基を使用すればよいが、直鎖状分子が末端に上記官能基を有しない場合、または有する場合であっても必要に応じて、直鎖状分子の末端に上記官能基を付加する。直鎖状分子の末端に対する上記官能基の付加は、従来公知の方法、例えば、Nature, 356, 325-327 (1992)に記載の方法などによって行うことができる。
【0032】
例えば、直鎖状分子がポリテトラヒドロフランの場合には、末端にヒドロキシル基を有するため、当該ヒドロキシル基をそのまま使用することもできるし、また、当該ヒドロキシル基をアミノ基等に置換して使用することもできる。
【0033】
一方、本実施形態では、輪成分として修飾シクロデキストリンを使用する。シクロデキストリンは複数のヒドロキシル基を有しており(例えばα−シクロデキストリンは18個のヒドロキシル基を有している)、それらのヒドロキシル基の一部または全部が他の官能基に置換されることにより、修飾シクロデキストリンが得られる。他の官能基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、アセチル基等のアシル基、トリチル基、ニトロ基、トリメチルシリル基、ヒドロキシプロピル基等のヒドロキシアルキル基などが挙げられる。それらの中でも、メトキシ基は官能基として小さく、隣接するヒドロキシル基の修飾を阻害しないため、メトキシ基が特に好ましい。
【0034】
例えば、全てのヒドロキシル基がメトキシ基に置換されたシクロデキストリンは、パーメチル化シクロデキストリンであり、1個または複数個のヒドロキシル基を残して他のヒドロキシル基がメトキシ基に置換されたシクロデキストリンは、部分メチル化シクロデキストリンである。本明細書では、両者をまとめて「(部分)メチル化シクロデキストリン」という。
【0035】
ここで、上記部分メチル化シクロデキストリンは、分子量の大きい軸分子を使用することにより収率の向上を図るという効果をより発揮するためには、軸分子との親和性を向上させる観点からシクロデキストリンの全てのヒドロキシル基のうち通常10%以上がメトキシ基に置換されていることが好ましく、20%以上がメトキシ基に置換されていることがさらに好ましく、30%以上がメトキシ基に置換されていることが特に好ましい。
【0036】
本実施形態では、修飾シクロデキストリンが(部分)メチル化シクロデキストリン、特にパーメチル化シクロデキストリンの場合に有効であり、さらにシクロデキストリンがα−シクロデキストリンの場合に有効である。なお、修飾シクロデキストリンは、常法によって製造することができる。
【0037】
上記のように軸分子として末端に官能基を有する直鎖状分子、輪成分として修飾シクロデキストリンを用意したら、修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子を貫通させ包接錯体を形成させることにより、擬ポリロタキサンを得る。
【0038】
修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子を貫通させ包接錯体を形成させる反応の溶媒としては、水、有機溶媒、または水−有機混合溶媒を用いることができ、中でも有機溶媒を使用することが好ましい。一般的に、溶媒として有機溶媒を使用した場合、輪成分が包接能力を発揮できないと考えられており、しかも錯形成能力が低い修飾シクロデキストリンを輪成分として使用するにもかかわらず、この方法では高収率で(擬)ポリロタキサンが得られる。
【0039】
有機溶媒としては、脂肪族炭化水素、アルコール、アミド、スルホキシド、エーテル、ニトリルおよびそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、中でも脂肪族炭化水素がより好ましく、特に、炭素数5〜12のアルカンであることが好ましい。有機溶媒は、親水性溶媒であってもよいし、疎水性溶媒であってもよい。
【0040】
有機溶媒の具体例としては、疎水性溶媒として、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、イソオクタン等のアルカン;2,2−ジメチルブタン、2−メチルペンタン等のアルカン誘導体などが好ましく挙げられる。一方、親水性溶媒として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール等のアルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオール;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル等のエーテル;アセトニトリル、プロパンニトリル等のニトリルなどが挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0041】
擬ポリロタキサンの製造は、末端に官能基を有する直鎖状分子および修飾シクロデキストリンを溶媒に溶解させ、その溶液を撹拌することによって行うことができる。
【0042】
撹拌方法については特に制限はなく、常温または適当に制御された温度で、機械的撹拌処理、超音波処理などの方法で撹拌することができる。特に、短時間で修飾擬ポリロタキサンを得るには、超音波処理で撹拌することが効率的であり好ましい。撹拌時間は、数分〜1時間の条件で行うことが好ましい。超音波の照射条件については特に制限はないが、周波数20〜40kHzで行うことが好ましい。
【0043】
以上のようにして修飾擬ポリロタキサンを製造したら、修飾擬ポリロタキサンとキャッピング剤とを混合することによって、修飾擬ポリロタキサンの軸分子とキャッピング剤とを反応させ、軸分子の両末端にキャッピング剤のブロック基を付加(キャッピング)して、修飾ポリロタキサンを得る。
【0044】
ブロック基としては、輪成分である修飾シクロデキストリンが直鎖状分子により串刺し状になった形態を保持し得る基であれば特に限定されないが、好ましくは、ジアルキルフェニル基類、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、アントラセン類等が適宜選択される。
【0045】
軸分子とキャッピング剤とは、互いに反応する官能基を有するもの同士を反応させればよいが、特に、イソシアネート基とアミノ基との組み合わせで反応させることが好ましい。すなわち、キャッピング剤としては、軸分子として末端官能基がアミノ基のものを選択した場合には、イソシアネート基を有するキャッピング剤、軸分子として末端官能基がイソシアネートのものを選択した場合には、アミノ基を有するキャッピング剤を使用することが好ましい。これにより、触媒等の他の試薬を使用しなくても、また加熱しなくても、反応は効率良く短時間で進行し、そして、得られる修飾ポリロタキサンの収率も高い。
【0046】
イソシアネート基を有するキャッピング剤としては、例えば、3,5−ジメチルフェニルイソシアネート、4−トリチルフェニルイソシアネート等のモノイソシアネート類などが挙げられる。また、アミノ基を有するキャッピング剤としては、例えば、3,5−ジメチルアニリン、4−トリチルアニリン等が挙げられる。
【0047】
キャッピング剤の使用量は、軸分子の末端官能基に対して、モル基準で等量〜30倍量であることが好ましく、特に2倍〜10倍量であることが好ましい。
【0048】
擬ポリロタキサンとキャッピング剤とを反応させるには、当該擬ポリロタキサンとキャッピング剤との混合物を撹拌するだけでよく、溶媒中で攪拌して行ってもよいし、固相で攪拌して行ってもよい。なお、溶媒中での攪拌は、撹拌子、撹拌翼等を用いた機械的撹拌処理で十分足りる。また、固相での撹拌には、乳鉢、ボールミル、ミキサー等を用いるとよい。
【0049】
溶媒としては、水、有機溶媒、または水−有機混合溶媒を用いることができ、中でも有機溶媒を使用することが好ましい。有機溶媒としては、前述した有機溶媒の他、テトラヒドロフラン、クロロホルム、アセトン等の各種有機溶媒を使用することができる。例えば、キャッピング剤等に用いられるイソシアネート基は、水とは反応し易いが有機溶媒とは反応しないため、溶媒として有機溶媒を使用すれば、キャッピング剤の選択肢が大幅に広がることとなる。
【0050】
また、溶媒としては、擬ポリロタキサンの製造で使用した溶媒をそのまま使用することが特に好ましい。これにより、擬ポリロタキサンの合成およびポリロタキサンの合成をワンポットで行うことができ、したがって、ポリロタキサンを極めて効率良く製造することができる。
【0051】
修飾シクロデキストリンはキャッピング剤との反応性が低いため、溶媒の温度は特に限定されず、常温または適当に制御された温度とすればよい。反応時間は、0.1〜5時間程度、特に0.5〜3時間であることが好ましい。このように、本方法によれば、短時間で、しかも高収率でポリロタキサンを製造することができる。なお、精製は常法によって行えばよい。
【0052】
ここで、本実施形態における修飾シクロデキストリンの軸分子に対する被覆率は80%以下とし、好ましくは10〜70%とし、特に好ましくは30〜60%とする。被覆率が80%以下であると、インターロック構造となっている修飾シクロデキストリンが軸分子上を自由に動けることから、例えば、得られるポリロタキサンで架橋したものは、極めて優れた柔軟性を示し得る。なお、本明細書でいうところの被覆率とは、擬ポリロタキサンまたはポリロタキサンを構成する軸分子の鎖全体のうちシクロデキストリンで覆われている鎖部分の割合を表わすものである。
【0053】
修飾シクロデキストリンの軸分子に対する被覆率は、例えば、擬ポリロタキサン調整時の反応温度、修飾シクロデキストリンと軸ポリマーの仕込み比、濃度等を変えることによって調整することができる。なお、被覆率の算出方法は、後述する実施例に示す。
【0054】
以上の通り、本実施形態に係る方法によれば、製造効率が良好で、著しく高い収率で擬ポリロタキサンおよびポリロタキサンを製造することができる。具体的な収率としては、従来の製造方法では20%未満であったが、本実施形態に係る方法によれば、60〜70%程度まで飛躍的に向上する。
【0055】
以上の方法によって得られる修飾擬ポリロタキサンまたは修飾ポリロタキサンの中でも、特に、修飾シクロデキストリンがパーメチル化シクロデキストリンであるものは、新規な修飾擬ポリロタキサンまたは修飾ポリロタキサンである。すなわち、修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子が貫通してなる修飾擬ポリロタキサンであって、軸分子の数平均分子量が1500以上であり、修飾シクロデキストリンの軸分子に対する被覆率が80%以下であり、修飾シクロデキストリンが、パーメチル化シクロデキストリンである修飾擬ポリロタキサンは、新規な修飾擬ポリロタキサンであり、修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子が貫通し、軸分子の両末端にブロック基を有する修飾ポリロタキサンであって、軸分子の数平均分子量が1500以上であり、修飾シクロデキストリンの軸分子に対する被覆率が80%以下であり、修飾シクロデキストリンが、パーメチル化シクロデキストリンである修飾ポリロタキサンは、新規な修飾ポリロタキサンである。
【実施例】
【0056】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0057】
〔実施例1〕
(1)直鎖状分子の調製
末端にヒドロキシル基を有するポリテトラヒドロフラン(Aldrich社製,数平均分子量Mn:2100)をクロロホルムに溶解させ、トシルクロライドを添加し、触媒にピリジンを用いて一晩撹拌を行った。その後、希塩酸による分液洗浄、そして減圧乾燥を行い、得られた液体をジエチルエーテルに注ぎ、沈澱させた。析出した固体を回収し乾燥させ、トシル化ポリテトラヒドロフランを得た。
【0058】
次に、得られたトシル化ポリテトラヒドロフランをジメチルホルムアミドに溶解させ、フタルイミドカリウムを添加し、5時間沸点還流を行った。反応溶液を濾過した濾液をジエチルエーテルに注ぎ沈澱させ、析出した固体を回収し乾燥させることでフタルイミド化ポリテトラヒドロフランを得た。
【0059】
得られたフタルイミド化ポリテトラヒドロフランをエタノールに溶解させ、ヒドラジンを添加し、20時間沸点還流を行った。反応溶液を濾過した濾液をジエチルエーテルに注ぎ沈澱させ、析出した固体を回収し、末端アミノ基のポリテトラヒドロフランを得た。得られた末端アミノ基のポリテトラヒドロフランについてH−NMR測定を行った結果、その数平均分子量Mnは4100であった。
【0060】
(2)修飾シクロデキストリンの合成
α−シクロデキストリン(ナカライテスク社製)を、ジメチルホルムアミド中、水素化ナトリウムおよびヨウ化メチルと反応させることにより、パーメチル化α−シクロデキストリンを得た。
【0061】
(3)擬ポリロタキサンの合成
上記で得られた輪成分としてのパーメチル化α−シクロデキストリン0.8gを水2mlに溶解させた溶液に、軸分子として上記で得られた末端アミノ基のポリテトラヒドロフラン(数平均分子量Mn:4100)47mgを加え、超音波(周波数:35kHz)を20分間照射し、室温で一晩静置した。
【0062】
(4)ポリロタキサンの合成
その後、上記溶液中に、キャッピング剤として3,5−ジメチルフェニルイソシアネート(Aldrich社製)58μlを添加し、室温で1時間撹拌し反応させた。得られた反応溶液をジエチルエーテルに注ぎ沈澱させ、沈殿物を回収した。次いで、分取ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(展開溶媒:CHCl)により高分子量体を回収し、乾燥させて修飾ポリロタキサンを得た。収量(mg)を表1に示す。また、得られた修飾ポリロタキサンのH−NMRチャートを図1に示す。
【0063】
〔実施例2〕
実施例1におけるポリテトラヒドロフラン(Aldrich社製,数平均分子量Mn:2100)の替わりに、Aldrich社製、数平均分子量Mn:2900のポリテトラヒドロフランを使用する以外、実施例1と同様にして直鎖状分子を調製した。得られた末端アミノ基のポリテトラヒドロフランについてH−NMR測定を行った結果、その数平均分子量Mnは7700であった。
【0064】
軸分子として、上記で得られた末端アミノ基のポリテトラヒドロフラン(数平均分子量Mn:7700)を使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)を表1に示す。また、得られた修飾ポリロタキサンのH−NMRチャートを図2に示す。
【0065】
〔実施例3〕
アルゴン雰囲気下で、無水テトラヒドロフラン25mlに重合開始剤としてのトリフルオロメタンスルホン酸無水物0.05mlを添加して、15分攪拌した。その後、反応溶液を水中に注ぎ、沈澱させて固体を回収し、乾燥させて、白色固体であるポリテトラヒドロフラン2.1gを得た。得られたポリテトラヒドロフランについてH−NMR測定を行った結果、その数平均分子量Mnは11000であった。
【0066】
実施例1におけるポリテトラヒドロフラン(Aldrich社製,数平均分子量Mn:2100)の替わりに、上記で得られた数平均分子量Mn:11000のポリテトラヒドロフランを使用する以外、実施例1と同様にして直鎖状分子を調製した。得られた末端アミノ基のポリテトラヒドロフランについてH−NMR測定を行った結果、その数平均分子量Mnは12000であった。
【0067】
軸分子として、上記で得られた末端アミノ基のポリテトラヒドロフラン(数平均分子量Mn:12000)を使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)を表1に示す。また、得られた修飾ポリロタキサンのH−NMRチャートを図3に示す。
【0068】
〔実施例4〕
溶媒として水の替わりにイソオクタンを使用する以外、実施例2と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)を表1に示す。また、得られた修飾ポリロタキサンのH−NMRチャートを図4に示す。
【0069】
〔比較例1〕
軸分子として、末端アミノ基のポリテトラヒドロフラン(Aldrich社製,Polytetrahydrofuran bis (3-aminopropyl) terminated,数平均分子量Mn:1100)を使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)を表1に示す。
【0070】
〔試験例1〕
実施例および比較例で得られた修飾ポリロタキサンについてH−NMR測定を行った結果(H−NMRチャート)から、5ppmのシグナルA(シクロデキストリンのグルコース環の一位の炭素に付いたプロトン由来)および1.55ppmのシグナルB(ポリテトラヒドロフランのアルキル鎖由来)の積分値を求め、さらにCPKモデルにより算出したメチル化シクロデキストリンの長さ約12Åが、ポリテトラヒドロフランのモノマーユニット2つ分に相当することから、以下の式により被覆率θ(%)を算出した。結果を表1に示す。
被覆率θ(%)=2/{(B/4)/(A/6)}×100
A:シグナルAの積分値
B:シグナルBの積分値
【0071】
〔試験例2〕
H−NMRのシクロデキストリンに由来するシグナルと軸分子に由来するシグナルとの積分比から修飾ポリロタキサンの収量(mg)中の軸分子の重量を算出し、仕込みの軸分子の量との比から軸分子ベースの収率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1から明らかなように、軸分子の数平均分子量を1500以上とした実施例の修飾ポリロタキサンは、収率が極めて高かった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、効率良く高い収率で擬ポリロタキサンまたはポリロタキサンを製造するのに有用である。また、本発明で得られるポリロタキサンは、架橋させることにより、優れた柔軟性を示す高分子ゲルとして利用することができる。また、ポリロタキサンの隣り合う輪成分を架橋させた上でポリロタキサンの芯物質を除去することにより、分子チューブとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子を貫通させ包接錯体を形成させる反応により修飾擬ポリロタキサンを製造する方法において、
前記軸分子の数平均分子量を1500以上とすることを特徴とする、
前記軸分子に対する前記修飾シクロデキストリンの被覆率が80%以下である修飾擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項2】
前記修飾シクロデキストリンが、(部分)メチル化シクロデキストリンであることを特徴とする請求項1に記載の修飾擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項3】
前記(部分)メチル化シクロデキストリンが、パーメチル化シクロデキストリンであることを特徴とする請求項2に記載の修飾擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項4】
修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子を貫通させ包接錯体を形成させる反応により修飾擬ポリロタキサンを製造し、次いで得られた修飾擬ポリロタキサンの軸分子とキャッピング剤とを反応させて、前記軸分子の両末端にブロック基を付加する修飾ポリロタキサンの製造方法において、
前記軸分子の数平均分子量を1500以上とすることを特徴とする、
前記軸分子に対する前記修飾シクロデキストリンの被覆率が80%以下である修飾ポリロタキサンの製造方法。
【請求項5】
前記修飾シクロデキストリンが、(部分)メチル化シクロデキストリンであることを特徴とする請求項4に記載の修飾ポリロタキサンの製造方法。
【請求項6】
前記(部分)メチル化シクロデキストリンが、パーメチル化シクロデキストリンであることを特徴とする請求項5に記載の修飾ポリロタキサンの製造方法。
【請求項7】
前記軸分子と前記キャッピング剤とを、イソシアネート基とアミノ基との組み合わせで反応させることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の修飾ポリロタキサンの製造方法。
【請求項8】
修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子が貫通してなる修飾擬ポリロタキサンであって、
前記軸分子の数平均分子量が1500以上であり、
前記修飾シクロデキストリンの前記軸分子に対する被覆率が80%以下であり、
前記修飾シクロデキストリンが、パーメチル化シクロデキストリンである
ことを特徴とする修飾擬ポリロタキサン。
【請求項9】
修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子が貫通し、前記軸分子の両末端にブロック基を有する修飾ポリロタキサンであって、
前記軸分子の数平均分子量が1500以上であり、
前記修飾シクロデキストリンの前記軸分子に対する被覆率が80%以下であり、
前記修飾シクロデキストリンが、パーメチル化シクロデキストリンである
ことを特徴とする修飾ポリロタキサン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−159313(P2010−159313A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−561(P2009−561)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】