説明

倉庫保管米の水分変動推定方法及び水分変動推定システム

【課題】倉庫保管米の長期間にわたる水分変動を推定し、更には予測することができる倉庫保管米の水分変動推定方法を提供する。
【解決手段】温湿度計2を内蔵した倉庫1内を温湿度の変化挙動がほぼ同じと見做せる適当な複数の管理区画A1〜Axに分けて、各管理区画A1〜Axに入庫時の水分moが測定された管理対象試料R1〜Rxである特定荷姿の倉庫保管米を保管し、管理区画に初期質量Woと、初期水分Moが測定され網カゴ4に入れた指標試料3を設置し、入庫から24時間以降の任意の測定時点tにおける指標試料3の平衡水分meを求め、指標試料3の水分拡散の割合を示す拡散係数κxを予め求めておき、各測定時点t1,t2,・・・txでの管理対象試料の各水分mt1,mt2,・・・mtxを逐次推定演算することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、より少ない労力で倉庫保管米の長期間にわたる水分変動を推定し、更には予測することができる倉庫保管米の水分変動推定方法及び水分変動推定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、米の倉庫保管では、保管米の品質維持のために米の水分変化の管理が重要視されている。保管中に乾燥が進めば「過乾燥」の懸念となり、湿気に曝されれば「水分過多」の心配がある。
【0003】
上記「過乾燥」になると、玄米は圧砕・挫折剛度が高まり、結果として硬化し、とう精加工で「歩留まり」を低下させ、炊飯加工では水浸割れ粒の増加原因となり、ご飯の食味品質を低下させてしまうことがある。
【0004】
上記「水分過多」が甚だしくなると、カビが発生することがあり、このような場合にはもはや食用には適せず、著しく「商品価値」を損なうことになってしまう。
【0005】
米の倉庫保管業務で入庫米の「商品としての品質(保管性、加工歩留まり、食味など)」を保管中に高めるということは現在の一般的技術では望めない。
【0006】
このように、米の保管の目的は、単に保管中に入庫米の「商品としての品質」を如何に維持するかということに専心することにある。
【0007】
倉庫米の保管のための必要技術としては、
(1)倉庫内の温湿度管理、
(2)庫内空気の撹拌・循環、
(3)庫内での保管米の配置換え、
(4)滞荷を防止するための搬入搬出のスケジュール化、
(5)入出庫時の品質検査(汚染米の入出庫防止)、
(6)漏水防止と事故発生時の緊急対応、
(7)保管環境の監視と保管米の水分変化のモニター監視、
等を挙げることができる。
【0008】
上述したこれらの技術は、いずれも、保管米の水分を管理することに帰着している。
低温倉庫であれば、空調機で管理している春から夏の時期には温湿度管理ができるものの、冬季には空調機を止めている。
【0009】
同一倉庫内でも、荷積のありようによっては、保管区画ごとに温度湿度が微妙にばらつき、低温倉庫や氷室、又はドライデポ等でなければ、温湿度管理すること自体が困難である。
【0010】
保管米の水分は、水分計や乾燥法によってバッチ方式で測定することはできる。しかしながら、保管米が多量であればあるほど、庫内の温度湿度のバラツキがあればある程、測定労力は増加してしまう。
【0011】
また、保管米の水分変動は同一庫内環境であっても紙袋や樹脂袋、フレキシブルコンテナなどの荷姿、更にはそのはい付け(積み上げ方)などにより、保管区画によって変化過程が異なる。
【0012】
保管米の直截的な水分測定方法は、赤外線方式による水分計や高周波抵抗式或いは抵抗式などの水分計を利用すれば、その瞬間の保管米の水分測定は可能である。
【0013】
しかし、この方法だけでは、測定対象の測定時の水分を知るだけで、変動する或いは保管区画ごとに異なる環境の温湿度条件に対して、保管米の水分がどのように変化するかを推定することはできない。
【0014】
つまり、単に水分測定するだけでは庫内環境の温湿度変化或いは「安定水分に漸近しつつあるような(=このときの到達水分を「平衡水分」と呼ぶ)」水分変動に対して、任意時間ごとの水分変化を推定することは困難である。
【0015】
幾つかの「平衡水分」を求めるモデル式は発表されているが、それぞれ値が異なり、かつ、荷姿による水分の変化速度を勘案したものではない。
そのため、荷姿が変わるとか、保管環境の温湿度が短期間に変化した場合などでは具体的作業指針を得ることが難しい。
【0016】
もし、庫内の温湿度が均一で十分な空気の対流があれば、温湿度を正確に測定することによって、十分に長い時間が経過した後の『平衡水分』を先のモデル式から近似的に予測することは可能である。
【0017】
しかしながら、一般的な倉庫では庫内がすべて均一な温湿度に制御できるような管理は困難であり、通常は、庫内温湿度が「平衡水分」に誘うほど長期安定を保つよりも、短期的に変動しがちである。つまり、従来技術の下では保管米の水分の変動過程を予測すること自体が困難であった。
【0018】
そのため、保管米の水分管理は、入出庫時の抽出検査で、その平均水分を測定することと、保管中の決められた区画の試料を対象として水分を定期的にバッチ測定し、その時点での平均水分を捕捉するのが一般的であった。
【0019】
米の倉庫保管に関する技術として、例えば特許文献1には、農産物を貯蔵すべき倉庫内に冷却空気を供給しながら低温貯蔵する農産物貯蔵倉庫において、庫内を除湿する除湿手段と当該庫内を加湿する加湿手段とを備え、貯蔵農産物の重量変動速度に基づいて目標庫内湿度と庫内湿度との差を予測し、当該差を解消すべく加湿手段又は除湿手段に動作指令する庫内制御手段を設け、また、加湿手段や除湿手段で調湿される空気の温度を予め設定する庫内温度に調節して供給するものとし、庫内に設けた重量測定手段で重量変動速度を監視することにより、水分変動速度が予測され、ひいては目標とする理想的な湿度と現在湿度との差を予測しながら、この差を解消すべく、加湿手段や除湿手段を作動させるように構成した農産物貯蔵倉庫の調湿制御装置が提案されている。
【0020】
しかし、特許文献1の場合には、農産物の過乾燥や水分過多の防止を主体とするものであり、倉庫内の保管米の長期間にわたる水分変動を推定又は予測する技術までは包含していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開平11−146724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明が解決しようとする問題点は、より少ない労力で倉庫保管米の長期間にわたる水分変動を推定又は予測することができるような倉庫保管米の水分変動推定方法が存在しない点である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に係る倉庫保管米の水分変動推定方法は、温湿度計を内蔵した倉庫内を温湿度の変化挙動がほぼ同じと見做せる適当な複数の管理区画に分けて、各管理区画に入庫時の水分(mo)が測定された管理対象試料である特定荷姿の倉庫保管米を保管し、温湿度計を備えた管理区画に初期質量(Wo)と、初期水分(Mo)が測定され網カゴに入れた(安定雰囲気下で24時間以内にほぼ平衡水分に達するような)指標試料を適当な場所に設置して、管理区画ごとの温湿度を測定するとともに、指標試料について入庫後24時間以降、時間間隔が24時間よりも長い任意の各測定時点t1,t2,・・・txで質量を測定して、その値Wt1,Wt2,・・・,Wtxを保管履歴情報として記憶し、指標試料の初期質量(Wo)と、初期水分(Mo)と、入庫から24時間以降の特定の測定時点で秤量する質量(Wtk:k=1,2,・・・,x)とを基に、前記初期質量(Wo)と特定の測定時点(tk)での質量(Wtk)との比からその測定時点での水分(Mtk)を求めて、その水分を平衡水分(metk)と見做し、管理対象試料の入庫時の水分(mo)と、指標試料の平衡水分(metk)と、予め予備実験で求めておいた管理対象試料の荷姿に応じた拡散係数(κx)とを基に、各測定時点t1,t2,・・・txにおける対象試料の水分予測値mt1,mt2,・・・mtxを逐次的に推定演算することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載の発明によれば、倉庫内を温湿度の変化挙動がほぼ同じと見做せる適当な複数の管理区画に分けて、各管理区画に入庫時の水分(mo)が測定された管理対象試料である特定荷姿の倉庫保管米を保管し、管理区画に初期質量(Wo)と、初期水分(Mo)が測定され網カゴに入れた指標試料を設置した状態の下に、入庫後24時間以降、時間間隔が24時間よりも長い任意の各測定時点での指標試料の水分測定、及び入庫から24時間以降の特定の測定時点での指標試料の質量測定というより少ない労力の提供によって、平衡水分の演算、拡散係数の演算を経て各測定時点での管理対象試料の各水分を推定演算が実行され、これにより、倉庫保管米の長期間にわたる水分変動を推定又は予測することができる倉庫保管米の水分変動推定方法を実現し提供することができる。
【0025】
請求項2記載の発明によれば、倉庫内を温湿度の変化挙動がほぼ同じと見做せる適当な複数の管理区画に分けて、各管理区画に入庫時の水分(mo)が測定された管理対象試料である特定荷姿の倉庫保管米を保管し、管理区画に初期質量(Wo)と、初期水分(Mo)が測定され網カゴに入れた指標試料を設置した状態の下に、入庫後24時間以降、時間間隔が24時間よりも長い任意の各測定時点での指標試料の水分測定、及び入庫から24時間以降の特定の測定時点での指標試料の質量測定というより少ない労力の提供によって、数1、数2、数3による逐次演算が実行され、これにより、倉庫保管米の長期間にわたる水分変動を推定又は予測することができる倉庫保管米の水分変動推定方法を実現し提供することができる。
【0026】
請求項3記載の発明によれば、請求項1又は2記載の発明と同様な効果を奏することに加えて、前記指標試料を、水分を吸放湿しない袋に入れて開封され、防塵機能をつけたステンレス製の網カゴに収納した状態で前記管理区画に設置するものであるから、指標試料の入庫後の測定時点での水分、質量の測定データの正確性を高めることができる倉庫保管米の水分変動推定方法を実現し提供することができる。
【0027】
請求項4記載の発明によれば、倉庫内を温湿度の変化挙動がほぼ同じと見做せる適当な複数の管理区画に分けて、各管理区画に入庫時の水分(mo)が測定された管理対象試料である特定荷姿の倉庫保管米を保管し、管理区画に初期質量(Wo)と、初期水分(Mo)が測定され網カゴに入れた指標試料を設置した状態の下に、入庫後24時間以降、時間間隔が24時間よりも長い任意の各測定時点での指標試料の水分測定、及び入庫から24時間以降の特定の測定時点での指標試料の質量測定というより少ない労力の提供によって、水分変動推定用コンピュータによる平衡水分の演算、拡散係数の演算を経て各測定時点での管理対象試料の各水分を推定演算が実行され、これにより、倉庫保管米の長期間にわたる水分変動を推定又は予測することができる倉庫保管米の水分変動推定システムを実現し提供することができる。
【0028】
請求項5記載の発明によれば、請求項4記載の発明と同様なシステム構成の基に、水分変動推定用コンピュータによる数1、数2、数3による逐次演算が実行され、これにより、倉庫保管米の長期間にわたる水分変動を推定又は予測することができる倉庫保管米の水分変動推定システムを実現し提供することができる。
【0029】
請求項6記載の発明によれば、請求項4又は5記載の発明と同様な効果を奏することに加えて、前記指標試料を、水分を吸放湿しない袋に入れて開封され、防塵機能をつけたステンレス製の網カゴに収納した状態で前記管理区画に設置するものであるから、指標試料の入庫後の測定時点での水分、質量の測定データの正確性を高めることができる倉庫保管米の水分変動推定システムを実現し提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は本発明の実施例に係る倉庫保管米の水分変動システムの倉庫内における保管米の保管状態を示す概略図である。
【図2】図2は本実施例に係る水分変動システムにおける倉庫の外気温上昇期における空気の流れの一例を概略的に示す図である。
【図3】図3は本実施例に係る水分変動システムにおける網カゴの概略斜視図である。
【図4】図4は本実施例に係る水分変動システムにおける水分変動推定用コンピュータの概略構成を示すブロック図である。
【図5】図5は本実施例に係る水分変動システムにおける3つの態様の指標試料に関する(仮称)ベルクマン指数と乾燥曲線の変曲点との関係を示す図である。
【図6】図6は本実施例に係る水分変動システムにおける4態様の指標試料についてステンレスザルに一並び採った場合の水分の変化過程を示す図である。
【図7】図7は本実施例に係る水分変動システムにおける玄米試料、精白米をステンレスザルに一並び採った状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、より少ない労力で倉庫保管米の長期間にわたる水分変動を推定し、更には予測することができる倉庫保管米の水分変動推定方法を実現し提供するという目的を、温湿度計を内蔵した倉庫内を温湿度の変化挙動がほぼ同じと見做せる適当な複数の管理区画に分けて、各管理区画に入庫時の水分moが測定された管理対象試料である特定荷姿の倉庫保管米を保管し、温湿度計を備えた管理区画に初期質量Woと、初期水分Moが測定され網カゴに入れた指標試料を設置して、指標試料の温湿度を測定するとともに、指標試料について入庫後24時間以降、時間間隔が24時間よりも長い任意の各測定時点t1,t2,・・・txで水分を測定して、その水分me1,me2,・・・mexを保管履歴情報として記憶し、指標試料の初期質量Woと、初期水分Moと、入庫から24時間以降の特定の測定時点で秤量する質量Wtとを基に、数1の演算により指標試料のその測定時点での水分Mtを求めて、その水分を平衡水分meと見做し、
【数1】

管理対象試料の入庫時の水分moと、指標試料の平衡水分meと、入庫から24時間以降の任意の測定時点tの時間データと、指標試料のその測定時点tにおける水分mtとを基に、数2の演算により拡散係数κxを求め、
【数2】

管理対象試料の入庫時の水分moと、保管履歴情報として記録されている入庫後における指標試料の各測定時点t1,t2,・・・txの時間データ及びその時の各水分me1,me2,・・・mexと、拡散係数κxとを基に、数3による演算を実行して、各測定時点t1,t2,・・・txでの管理対象試料の各水分mt1,mt2,・・・mtxを逐次推定演算する構成により実現した。
【数3】

【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例に係る倉庫保管米の水分変動推定方法及び水分変動推定システムについて詳細に説明する。
【0033】
最初に、本発明の実施例に係る倉庫保管米の水分変動推定システムのシステム構成について図1乃至図6を参照して説明する。
【0034】
本発明の実施例に係る倉庫保管米の水分変動推定システムは、図1に示すように、温湿度計2を内蔵した倉庫1を有し、この倉庫1内を、温湿度の変化挙動がほぼ同じと見做せる適当な管理区画A1,A2,・・・・Axに分けて、各管理区画A1,A2,・・・・Axに入庫時の水分moを測定済みの管理対象試料である特定荷姿(例えば、紙袋入玄米30kgなど)の倉庫保管米R1,R2,・・・・Rxを個別に設置して保管するようになっている。
【0035】
前記温湿度計2は、各管理区画A1,A2,・・・・Axに各々配置される。
なお、前記倉庫1内には、当該倉庫1内を除湿する除湿手段、当該倉庫1内を加湿する加湿手段を設けているが、図示省略する。
【0036】
図2は、前記倉庫1内の外気温上昇期における空気の流れの一例を概略的に示すものである。
【0037】
図2に示すように、前記倉庫1内の各管理区画A1,A2,・・・・Axにおいては低部側が低湿となる。
【0038】
また、各管理区画A1,A2,・・・・Axにおける各倉庫保管米R1,R2,・・・・Rxの領域では、点線で示すように、サイロ内と同様に極めて緩やかに気流が対流する。
一方、前記倉庫1内における各管理区画A1,A2,・・・・Axの外側領域では、実線で示すように、気流が上昇、下降するように対流し、上部側に暖気が溜まり、底部側は冷湿となる。
【0039】
本実施例に係る倉庫保管米の水分変動推定システムは、更に、図3に示すように、指標試料3(例えば玄米試料3a又は精白米試料3b)の初期水分が既知で初期質量を測定したものを収納したステンレス製の網カゴ4を具備し、指標試料3を網カゴ4に収納したままこれを前記倉庫1内の各管理区画A1,A2,・・・・Axのうちのいずれかに設置する。
【0040】
また、前記指標試料3は、初期質量Wo(>100g以上)と、初期水分Mo(>13%以上)が入庫前に測定されているものとする。
【0041】
なお、前記指標試料3としては、変質を防ぐファスナー付アルミ蒸着の袋に密封されていたものを開封してステンレス製の網カゴ4に収納した米粉試料を用いる。
【0042】
この場合、本実施例においては、網カゴ4には防塵機能をつけ、米粉を入れる袋は水分を吸放湿しないガラスフィルターなどで作成したものを用いる。
【0043】
米粉は、管理対象試料と同一の平衡水分(詳細は後述する)を持ち、かつ、平衡水分への漸近速度が速く、実質的には1日ほどでほぼ平衡と見做すことができ、2〜3日で厳密な平衡に達することが知られている。
【0044】
この他、本実施例に係る倉庫保管米の水分変動推定システムは、予め管理対象試料に固有な拡散係数κxを求めておく必要がある。このため例えば、(株)島津製作所製のBL-2200H型の電子秤、プラスチック製の計量容器、加熱乾燥法用ロータリー乾燥機、温湿度計を内蔵した(株)エスペック社製の
PL-2KP型の環境試験機を用いる。
【0045】
図4は、本実施例に係る倉庫保管米の水分変動推定システムにおける水分変動推定用コンピュータ11を示すブロック図を示すものである。
【0046】
この水分変動推定用コンピュータ11は、後述する数1乃至数3の数式データを含む動作プログラムを格納したプログラムメモリ12と、動作プログラムに基づき各要素を制御する制御部13と、管理対象試料用データファイル14と、指標試料用データファイル15と、後述する数1乃至数3に基づく各演算を実行する演算部16と、演算結果を記憶する演算結果データ記憶部17と、液晶ディスプレイのような表示部18と、キーボードのような入力部19と、各種データをプリント出力するプリンタ20とを具備している。
【0047】
次に、図5を参照して、本実施例に係る倉庫保管米の水分変動推定システムにおける管理対象試料である倉庫保管米R1,R2,・・・・Rxの荷姿に対応させた指標試料3に関する(仮称、以下同様)ベルクマン指数と乾燥曲線の変曲点との関係について説明する。
【0048】
図5の横軸は、ベルクマン指数を、縦軸は変曲点を示すものであり、本実施例において、ベルクマン指数とは、試料集合体(塊)を球体と見做したときの、表面積を体積で割った指数と定義する。
【0049】
このベルクマン指数は、生物進化の学者、カール・ベルクマン(Carl Bergmann)が1847年に発表したベルクマンの法則に因んだものであり、「恒温動物においては、同じ種でも寒冷な地域に生息するものほど体重が大きく、近縁な種間では大型の種ほど寒冷な地域に生息する」という理論に基づくものである。これは、動物の体温維持に関わって、体重と体表面積の関係から生じるものである。
【0050】
また、前記変曲点は、水分変化曲線の曲率が目視で判別できる程度に急変したポイントまでの経過時間を示し、その曲線の距離が長いほど、平衡水分に達するまでの時間がかかることが知られている。
【0051】
図5には、(a)図7に示す試験用のステンレスザル5に対して粉体一並び、(b)図7に示すステンレスザル5に対して粒体一並び、(c)粉体網カゴ入り、の3態様の各指標試料3について測定した変曲点を示す。
【0052】
ここで、(a)の指標試料3は、穀粒を粉砕して60メッシュ網を通した粉体をステンレスザル5に載せたもの、(b)の指標試料3は、(a)の場合と同様ステレスザル5の上に穀粒を互いに重ならないように並べたもの、(c)は球形の網カゴの中に穀粒をギュウギュウに詰め込んだものであり、(a)→(b)→(c)の順番で空間の配置密度は大きくなっている。
【0053】
なお、図7においては、試験用の2個のステンレスザル5に対して、粒体一並びの玄米試料、粒体一並びの精白米試料を各々載せた状態を示している。
【0054】
図6は、4態様の指標試料3についてステンレスザル5に一並び採った場合の水分の変化過程の一例を示すものである。
【0055】
図6においては、Aは玄米の「ヒノヒカリ」を粉砕したものの水分を18.9%まで加湿したもの、Bは玄米「ひとめぼれ」を粉砕し、22.3%まで加湿したもの、Cは玄米「ヒノヒカリ」を粉砕し、7.9%まで乾燥させたもの、Dは玄米「ひとめぼれ」を粉砕し、7.8%まで乾燥させたものの各変化曲線を各々表している。
【0056】
図6から、各指標試料3とも、変曲点がおよそ入庫後50時間ほどのところにあり、それ以降の変化率は小さいことが理解される。
【0057】
次に、本実施例に係る上述したような倉庫保管米の水分変動推定システムの各システム要素を使用した水分変動推定方法について説明する。
【0058】
(前提)
(1)保管中、倉庫内温度と管理対象保管試料は15℃に一定に保たれているものとする。
(2)保管環境の湿度は温湿度計2で必要な時間間隔で正確に測定できるものとする。
(3)粉体の「指標試料」は、保管中に内容物が散逸しない工夫をしたもので、しかも初期水分(Mo>13%以上)と初期重量(Wo>100g以上)を予め測定し、前記指標試料用データファイル15に記録してあるものとする。
(4)指標試料を倉庫1内の適当な場所に、質量を測定してあるステンレス製の網カゴに設置してあるものとする。このステンレス製の網カゴは保管中に防塵などの工夫により質量変化をしないものとする。
(5)管理対象試料についての保管環境履歴は、入庫後24時間以降の時間(t1,t2,・・・,tx)ごとの湿度変化記録(h1,h2,・・・,hx)があり、いずれの時間間隔も24時間より長く、また、それぞれの時間(t1,t2,・・・,tx)での「指標試料の水分」のデータ(me1,me2,・・・,mex)があり、これを時間(t1,t2,・・・,tx)のデータとともに前記指標試料用データファイル15に記録してあるものとする。
(6)管理対象試料の母体が同一とみなせる1ロットの入庫時の水分moと、そのときの風袋込みの質量woを予め測定し、前記管理対象試料用データファイル14に記録してあるものとする。
【0059】
(水分変動推定過程)
(7)最初に、指標試料の風袋込みの質量を前記電子秤を使用して精秤し、予め調べておいた風袋質量を除いて試料質量(Wt)を求め、前記指標試料用データファイル15に記録する。
【0060】
(8)次に、指標試料の初期質量Woと、初期水分Moと、入庫から24時間以降の特定の測定時点での質量Wtとを基に、前記演算部16による下記数1の演算により指標試料のその測定時点での水分Mtを求めて、その水分を平衡水分meと見做し、前記指標試料用データファイル15に記録する。
【0061】
指標試料は、通風が十分であれば、通常の温湿度が一定の環境下で24時間放置されるとほぼ「平衡水分」に達することが分かっている。そのために、24時間以降の水分Mtの値をMe(=「平衡水分」)と見做すものである。
【0062】
【数1】

【0063】
(9)次に、予備試験の第1段として、前記環境試験器を用い、指定された温湿度環境下の通風条件下で初期水分と初期風袋質量を測定してある「特定荷姿(例えば紙袋入玄米30kgなど)」の100時間から200時間後の水分変化を抑え、管理対象試料の入庫時の水分moと、指標試料の平衡水分meと、指標試料の入庫から24時間以降の任意の測定時点tにおける水分値mtと、その測定時点tの時間データとを基に、前記演算部16による下記数2Aの指数関数の演算により近似モデル式の拡散係数κを求める。
【0064】
【数2A】

【0065】
(10)次に、予備試験の第2段として、無通風もしくは微風環境下で上記(9)と同様の試験を行い、前記演算部16による下記数2の演算を実行して、拡散係数κxを求める。
【0066】
【数2】

【0067】
(11)次に、管理対象試料の入庫時の水分moと、保管履歴情報として記録されている入庫後における指標試料の各測定時点t1,t2,・・・txの時間データ及びその時の各水分me1,me2,・・・mexと、拡散係数κxとを基に、前記演算部16による下記数3による演算を実行して、各測定時間t1,t2,・・・txでの管理対象試料の各水分mt1,mt2,・・・mtxを逐次推定する。
【0068】
【数3】

【0069】
上記数3で求められるmt1,mt2,・・・,mtxの値が、t1時点、t2時点、・・・tx時点の管理対象試料の逐次推定される水分値である。
【0070】
以上説明した本実施例に係る倉庫保管米の水分変動推定システム及び水分変動推定方法によれば、以下のような効果を奏する。
【0071】
すなわち、各管理区画A1,A2,・・・・Axに入庫時の水分moを測定済みの管理対象試料である特定荷姿(例えば、紙袋入玄米30kgなど)の倉庫保管米R1,R2,・・・・Rxを保管し、管理区画A1,A2,・・・・Axに初期質量Woと、初期水分Moが測定され網カゴ4に入れた指標試料3を設置した状態の下に、入庫後24時間以降、時間間隔が24時間よりも長い任意の各測定時点での指標試料3の水分測定、及び入庫から24時間以降の特定の測定時点での指標試料3の質量測定というより少ない労力の提供によって、水分変動推定用コンピュータ11による前記数1、数2、数3による演算が実行され、これにより、倉庫保管米の長期間にわたる水分変動を逐次推定又は予測することができる水分変動推定方法及び水分変動推定システムを実現し提供することができる。
【0072】
また、本実施例に係る倉庫保管米の水分変動推定システム及び水分変動推定方法によれば、上述した構成、処理過程によって、前記管理区画A1,A2,・・・・Axごとの倉庫保管米の水分変動過程を予測し、必要に応じて温湿度管理目標値を設定したり、管理対象試料である特定荷姿の倉庫保管米の荷積位置や荷姿ごとの水分変動予測を実現することができる。
【0073】
更に、本実施例に係る倉庫保管米の水分変動推定システム及び水分変動推定方法によれば、倉庫保管米を管理目標水分となるように維持したり、水分変動を予測したりできることから、倉庫保管米の品質劣化を防止し、長期にわたって倉庫保管米の品質を維持することが可能となる。
【0074】
上述した本実施例に係る倉庫保管米の水分変動推定システム及び水分変動推定方法によれば、従来のバッチ測定による保管米の管理に比べて作業者に係る人件費を軽減させ、管理範囲を広げ、自動制御への道も拓き、保管米を目標管理水分となるように制御することができ、品質維持に大きく寄与することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、上述した倉庫米用の水分変動推定システムとして適用する他、麦類や豆類など米以外の各種穀物用の倉庫保管時の水分変動推定システムとして広範に適用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 倉庫
2 温湿計
3 指標試料
4 網カゴ
5 ステンレスザル
11 水分変動推定用コンピュータ
12 プログラムメモリ
13 制御部
14 管理対象試料用データファイル
15 指標試料用データファイル
16 演算部
17 演算結果データ記憶部
18 表示部
19 入力部
20 プリンタ
A1 管理区画
A2 管理区画
Ax 管理区画
R1 倉庫保管米
R2 倉庫保管米
Rx 倉庫保管米

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温湿度計を内蔵した倉庫内を温湿度の変化挙動がほぼ同じと見做せる適当な複数の管理区画に分けて、各管理区画に入庫時の水分moが測定された管理対象試料である特定荷姿の倉庫保管米を保管し、
温湿度計を備えた管理区画に初期質量Woと、初期水分Moが測定され網カゴに入れた指標試料を設置して、指標試料の温湿度を測定するとともに、指標試料について入庫後24時間以降、時間間隔が24時間よりも長い任意の各測定時点t1,t2,・・・txで質量を測定して、その値から水分me1,me2,・・・mexを計算し、保管履歴情報として記憶し、
指標試料の初期質量Woと、初期水分Moと、入庫から24時間以降の特定の測定時点で秤量する質量Wtとを基に、前記初期質量Wo、特定の測定時点での質量Wtとの比に応じたその測定時点での水分Mtを求めて、その水分を平衡水分meと見做し、
管理対象試料の入庫時の水分moと、指標試料の平衡水分meと、入庫から24時間以降の任意の測定時点tの時間データと、指標試料のその測定時点tにおける水分mtと予め求めておいた指標試料の水分拡散の割合を示す拡散係数κxを基に、
管理対象試料の入庫時の水分moと、入庫後における指標試料の各測定時点t1,t2,・・・txの時間データ及びその時の各水分me1,me2,・・・mexと、前記拡散係数κxとを基に、各水分me1,me2,・・・mexに対して、前記各管理対象試料の各測定時点t1,t2,・・・txにおける指標試料に対する水分格差と各測定時点のデータt1,t2,・・・tx及び拡散係数κxを含めた補正項を各々加算することにより、
各測定時点t1,t2,・・・txでの管理対象試料の各水分mt1,mt2,・・・mtxを逐次推定演算することを特徴とする倉庫保管米の水分変動推定方法。
【請求項2】
温湿度計を内蔵した倉庫内を温湿度の変化挙動がほぼ同じと見做せる適当な複数の管理区画に分けて、各管理区画に入庫時の水分moが測定された管理対象試料である特定荷姿の倉庫保管米を保管し、
温湿度計を備えた管理区画に初期質量Woと、初期水分Moが測定され網カゴに入れた指標試料を設置して、指標試料の温湿度を測定するとともに、指標試料について入庫後24時間以降、時間間隔が24時間よりも長い任意の各測定時点t1,t2,・・・txで水分を測定して、その水分me1,me2,・・・mexを保管履歴情報として記憶し、
指標試料の初期質量Woと、初期水分Moと、入庫から24時間以降の特定の測定時点で秤量する質量Wtとを基に、数1の演算により指標試料のその測定時点での水分Mtを求めて、その水分を平衡水分meと見做し、
【数1】

予め予備試験として、管理対象試料の入庫時の水分moと、指標試料の平衡水分meと、入庫から24時間以降の任意の測定時点tの時間データと、指標試料のその測定時点tにおける水分mtとを基に、数2の演算により拡散係数κxを求め、
【数2】

管理対象試料の入庫時の水分moと、保管履歴情報として記録されている入庫後における指標試料の各測定時点t1,t2,・・・txの時間データ及びその時の各水分me1,me2,・・・mexと、拡散係数κxとを基に、数3による演算を実行して、
【数3】

各測定時点t1,t2,・・・txでの管理対象試料の各水分mt1,mt2,・・・mtxを逐次推定演算することを特徴とする倉庫保管米の水分変動推定方法。
【請求項3】
前記指標試料は、水分を吸放湿しない袋に入れられて開封され、防塵機能をつけたステンレス製の網カゴに収納したものであることを特徴とする請求項1又は2記載の倉庫保管米の水分変動推定方法。
【請求項4】
温湿度の変化挙動がほぼ同じと見做せる適当な複数の管理区画に分けられるとともに温湿度計を内蔵した倉庫と、
前記倉庫内の複数の管理区画に保管した入庫時の水分moが測定された管理対象試料である特定荷姿の倉庫保管米と、
前記温湿度計を備えた管理区画に設置した初期質量Woと、初期水分Moが測定され網カゴに入れた指標試料と、
前記指標試料を秤量する秤量手段と、
前記管理対象試料入庫時の水分moと、前記指標試料の入庫から24時間以降の特定の測定時点で秤量する質量Wtと、前記指標試料の入庫後24時間以降、時間間隔が24時間よりも長い任意の各測定時点t1,t2,・・・txの時間データ及びその各時点での水分me1,me2,・・・mexのデータからなる保管履歴情報と、を記憶するとともに、
指標試料の初期質量Woと、初期水分Moと、入庫から24時間以降の特定の測定時点で秤量する質量Wtとを基に、前記初期質量Wo、特定の測定時点での質量Wtとの比に応じたその測定時点での平衡水分meと見做せる水分Mtを求める演算、
管理対象試料の入庫時の水分moと、指標試料の平衡水分meと、入庫から24時間以降の任意の測定時点tの時間データと、指標試料のその測定時点tにおける水分mtとを基に、指標試料の水分拡散の割合を示す拡散係数κxを求める演算、
管理対象試料の入庫時の水分moと、入庫後における指標試料の各測定時点t1,t2,・・・txの時間データ及びその時の各水分me1,me2,・・・mexと、前記拡散係数κxとを基に、各水分me1,me2,・・・mexに対して、前記各管理対象試料の各測定時点t1,t2,・・・txにおける指標試料に対する水分格差と各測定時点のデータt1,t2,・・・tx及び拡散係数κxを含めた補正項を各々加算することにより、各測定時点t1,t2,・・・txでの管理対象試料の各水分mt1,mt2,・・・mtxを推定演算、
を実行する水分変動推定用コンピュータと、
を有することを特徴とする倉庫保管米の水分変動推定システム。
【請求項5】
温湿度の変化挙動がほぼ同じと見做せる適当な複数の管理区画に分けられるとともに温湿度計を内蔵した倉庫と、
前記倉庫内の複数の管理区画に保管した入庫時の水分moが測定された管理対象試料である特定荷姿の倉庫保管米と、
前記温湿度計を備えた管理区画に設置した初期質量Woと、初期水分Moが測定され網カゴに入れた指標試料と、
前記指標試料を秤量する秤量手段と、
前記管理対象試料入庫時の水分moと、前記指標試料の入庫から24時間以降の特定の測定時点で秤量する質量Wtと、前記指標試料の入庫後24時間以降、時間間隔が24時間よりも長い任意の各測定時点t1,t2,・・・txの時間データ及びその各時点での水分me1,me2,・・・mexのデータからなる保管履歴情報と、を記憶するとともに、
指標試料の前記初期質量Woと、初期水分Moと、前記質量Wtとを基に、数1により指標試料のその測定時点での平衡水分meと見做される水分Mtを求める演算、
【数1】

前記管理対象試料の入庫時の水分moと、指標試料の平衡水分meと、入庫から24時間以降の任意の測定時点tの時間データと、指標試料のその測定時点tにおける水分mtとを基に、数2により拡散係数κxを求める演算、
【数2】

前記管理対象試料の入庫時の水分moと、前記指標試料の各測定時点t1,t2,・・・txの時間データ及びその時の各水分me1,me2,・・・mexと、拡散係数κxとを基に、数3により、各測定時点t1,t2,・・・txでの管理対象試料の各水分mt1,mt2,・・・mtxを求める推定演算、
【数3】

を実行する水分変動推定用コンピュータと、
を有することを特徴とする倉庫保管米の水分変動推定システム。
【請求項6】
前記指標試料は、水分を吸放湿しない袋に入れられて開封され、防塵機能をつけたステンレス製の網カゴに収納したものであることを特徴とする請求項4又は5記載の倉庫保管米の水分変動推定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−117908(P2011−117908A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277863(P2009−277863)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【特許番号】特許第4575990号(P4575990)
【特許公報発行日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000129884)株式会社ケット科学研究所 (13)
【出願人】(501215060)社団法人 全国食糧保管協会 (1)
【Fターム(参考)】