説明

偏光子、コーティング液、及び偏光子の製造方法

【課題】 本発明は、視感度の高い波長域において最大吸収波長を有する偏光子を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明の偏光子は、下記一般式(I)で表されるアゾ化合物を含んでいる。ただし、一般式(I)中、Qは、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Qは、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Mは、対イオンを表し、lは、1〜6の整数を表し、mは、0〜5の整数を表す(l+m≦6)。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アゾ化合物を含む偏光子、及びアゾ化合物を含むコーティング液、及び前記コーティング液を用いた偏光子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光子は、偏光または自然光から特定の直線偏光を透過させる機能を有する光学フィルムである。偏光子は、例えば、液晶表示装置の構成部材や、偏光サングラスのレンズなどに使用されている。
液晶表示装置に使用される偏光子のうち、汎用的な偏光子は、ヨウ素で染色したポリビニルアルコールフィルムを延伸することにより得られる。
また、リオトロピック液晶性のアゾ化合物を含む溶液を基材上に塗布し乾燥する、湿式製膜法により得られる偏光子も知られている(特許文献1)。このアゾ化合物を含む溶液から形成される偏光子は、上記ヨウ素で染色したポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子に比して、その厚みを格段に薄く形成できる。このため、アゾ化合物を含む溶液から形成される偏光子は、薄型軽量化が求められている液晶表示装置用偏光子として好適である。
【特許文献1】特開2007−241269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、液晶表示装置などに用いられる偏光子は、視感度の高い波長域(人間の目が最も強く光を感じる波長域)において最大吸収波長を有することが好ましい。視感度の高い波長域に最大吸収波長を有する偏光子は、視感的な偏光特性に優れている。なお、視感度の高い波長域は、通常、波長520nm〜580nmの範囲内である。
しかしながら、上記従来のアゾ化合物を含む偏光子は、視感度の高い波長域の範囲外ににおいて最大吸収波長を有するものが多い。
【0004】
本発明の目的は、視感度の高い波長域において最大吸収波長を有する偏光子、及びコーティング液を提供することである。
また、本発明の他の目的は、視感度の高い波長域において最大吸収波長を有する偏光子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、視感度の高い波長域において最大吸収波長を有する偏光子を得るために、従来のアゾ化合物について鋭意研究した。
従来のアゾ化合物は、例えば、特許文献1の式(1)〜(29)に開示されているように、アゾ基(−N=N−)に結合するナフタレン環のアゾ結合部に対するオルト位に、ヒドロキシル基(−OH)が結合している。かかるアゾ化合物は、アゾ基の一方の窒素とヒドロキシル基の水素が結合してヒドラゾン構造を形成し得る。このため、該オルト位にヒドロキシル基が結合しているアゾ化合物は、視感度の高い波長域において最大吸収波長を有しないと考えられる。かかる知見の下、本発明者らは、本発明を完成させた。
【0006】
本発明の偏光子は、下記一般式(I)で表されるアゾ化合物を含むことを特徴とする。
【0007】
【化1】

【0008】
一般式(I)中、Qは、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Qは、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Mは、対イオンを表し、lは、1〜6の整数を表し、mは、0〜5の整数を表す。ただし、l+m≦6である。
【0009】
上記本発明のアゾ化合物を含む偏光子は、視感度の高い波長域(好ましくは、波長520nm〜580nmの範囲内)において最大吸収波長を有する。
ここで、最大吸収波長(λmax)とは、吸光度が最も高くなる波長をいう。
最大吸収波長が視感度の高い波長域に存在する偏光子が得られる要因は、次のように推定される。すなわち、一般式(I)で表されるアゾ化合物は、アゾ基に結合するナフタレン環の該アゾ結合部に対するオルト位に、アミノ基(−NH)が結合している。このため、かかるアゾ化合物は、アゾ基がヒドラゾン構造を形成せず、よって、視感度の高い波長域において最大吸収波長を有すると推定される。
【0010】
また、本発明のコーティング液は、上記一般式(I)で表されるアゾ化合物と、溶媒と、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明のコーティング液は、例えば、上記偏光子を形成するために使用できる。
【0012】
本発明の偏光子の製造方法は、上記コーティング液を基材上に塗布し、乾燥することにより偏光子を形成することを特徴とする。
【0013】
かかる製造方法によれば、視感度の高い波長域において最大吸収波長を有する偏光子であって、比較的薄い偏光子を形成できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の偏光子は、最大吸収波長が視感度の高い波長域に存在する。かかる偏光子は、視感的な偏光特性に優れているため、例えば、液晶表示装置などの画像表示装置に好適に使用することができる。
また、本発明のコーティング液は、最大吸収波長が視感度の高い波長域に存在するリオトロピック液晶性のアゾ化合物を含んでいる。このため、該コーティング液を基材上に塗布することにより、本発明の偏光子を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(本発明の偏光子に含まれるアゾ化合物)
本発明の偏光子は、下記一般式(I)で表されるアゾ化合物を含む。該アゾ化合物を含む偏光子は、視感度の高い波長域において最大吸収波長を有する。
なお、本発明において、視感度の高い波長域は、好ましくは波長520nm〜580nmの範囲内であり、より好ましくは波長530nm〜570nmの範囲内である。
【0016】
【化2】

【0017】
一般式(I)中、Qは、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Qは、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Mは、対イオンを表し、lは、1〜6の整数を表し、mは、0〜5の整数を表す。ただし、l+m≦6である。
【0018】
上記一般式(I)中、Q及びQは、吸収波長の幅を調整するために、適宜、適切な基が採用され得る。
一般式(I)のアゾ化合物は、Q又はQで表されるアリール基又はアリーレン基が、置換基を有していても、或いは、置換基を有していなくてもよい。Q又はQで表されるアリール基又はアリーレン基が、置換又は無置換のいずれの場合でも、一般式(I)のアゾ化合物は、視感度の高い波長域において最大吸収波長を有する。アリール基又はアリーレン基が置換基を有する場合、その置換基としては、例えば、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基、−OM、−COOM、−SOM(Mは、対イオンを表す)、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基などが挙げられる。
【0019】
上記アリール基としては、フェニル基の他、ナフチル基などのようなベンゼン環が縮合した縮合環基が挙げられる。
上記アリーレン基としては、フェニレン基の他、ナフチレン基などのようなベンゼン環が縮合した縮合環基が挙げられる。
一般式(I)のQは、好ましくは置換基を有していてもよいフェニル基であり、より好ましくは置換基を有していてもよい1,4−フェニル基である。また、一般式(I)のQは、好ましくは置換基を有していてもよいナフチレン基であり、より好ましくは置換基を有していてもよい1,4−ナフチレン基である。
【0020】
本発明のアゾ化合物は、アゾ基に結合するナフタレン環のアゾ結合部(アゾ基に結合した部位)に対するオルト位に、アミノ基が結合していることを特徴とする。かかるオルト位にアミノ基が結合されている本発明のアゾ化合物は、視感度の高い波長域(好ましくは、波長520nm〜580nmの範囲内)において最大吸収波長を有する。さらに、本発明のアゾ化合物は、ナフタレン環に−SOM基が結合しているので、水に溶解可能である。このため、該アゾ化合物は、水溶液中において安定な液晶相を示す。
【0021】
好ましくは、本発明のアゾ化合物は、下記一般式(II)で表される化合物である。
【0022】
【化3】

【0023】
一般式(II)中、X及びYは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、−SOMで表されるスルホン酸基、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、Mは、対イオンを表し、lは、1〜6の整数を表し、mは、0〜5の整数を表す。ただし、l+m≦6である。
上記炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基が、置換基を有する場合、その置換基としては、例えば、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基、−OM、−COOM、−SOM(Mは対イオンを表す)などが挙げられる。
【0024】
上記一般式(I)及び一般式(II)のlは、好ましくは、1〜3の整数であり、より好ましくは1又は2の整数である。上記一般式(I)及び一般式(II)のmは、好ましくは、0〜2の整数であり、より好ましくは0又は1の整数である。
上記一般式(I)及び一般式(II)並びに置換基のMは、好ましくは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、金属イオン、又は置換若しくは無置換のアンモニウムイオンである。金属イオンとしては、例えば、Ni2+、Fe3+、Cu2+、Ag、Zn2+、Al3+、Pd2+、Cd2+、Sn2+、Co2+、Mn2+、Ce3+等が挙げられる。上記Mが、多価イオンである場合は、複数のアゾ化合物が1つの多価イオン(対イオン)を共有する。
【0025】
上記一般式(I)又は一般式(II)で表されるアゾ化合物は、アゾ基を2個有するジスアゾ化合物である。
上記一般式(I)又は一般式(II)で表されるアゾ化合物は、適当な溶媒に溶解させることにより液晶相を示し得る、リオトロピック液晶性化合物である。このアゾ化合物は、溶液状態において、安定な液晶相を示し得る。このため、該アゾ化合物を含む溶液(コーティング液)を用いることにより、偏光特性に優れた偏光子を形成できる。
なお、リオトロピック液晶性化合物とは、溶媒に溶解させた溶液状態で、溶液の温度や濃度などを変化させることにより、等方相−液晶相の相転移を起こす性質(リオトロピック液晶性)を有する化合物を意味する。
【0026】
上記一般式(I)で表されるアゾ化合物は、細田豊著「理論製造 染料化学(5版)」(昭和43年7月15日技報堂発行、135頁〜152頁)に従って合成できる。例えば、上記アゾ化合物は、アミノ基を有する2種類の化合物を、ジアゾ化及びカップリング反応させて得ることができる。
【0027】
また、上記一般式(II)で表されるアゾ化合物は、例えば、次の方法で合成できる。アニリン誘導体と8−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸とを、ジアゾ化及びカップリング反応させ、モノアゾ化合物を得る。このモノアゾ化合物をジアゾ化した後、更に、6−アミノ−ヒドロキシナフタレンスルホン酸誘導体とカップリング反応させる。このようにして一般式(II)で表されるアゾ化合物を得ることができる。
【0028】
(本発明の偏光子)
本発明の偏光子は、上記一般式(I)で表されるアゾ化合物又は/及び一般式(II)で表されるアゾ化合物を含むフィルムである。
本発明の偏光子は、最大吸収波長が視感度の高い波長域に存在する。かかる偏光子は、視感度の高い波長域において大きな吸収二色性を示す。
具体的には、偏光子の二色比は、波長545nmにおいて、好ましくは3.0以上であり、より好ましくは3.5以上である。
このような特性は、偏光子中に含まれる上記アゾ化合物が配向していることに起因する。
なお、最大吸収波長及び二色比は、測定温度23℃で、分光光度計(日本分光(株)製、製品名「V−7100」)を用いて、偏光透過スペクトルk1、及びk2を測定することにより求めることができる。この偏光透過スペクトルk1は、偏光子の透過軸方向と平行な電界ベクトルを有する偏光を入射した場合の透過スペクトルを表す。偏光透過スペクトルk2は、偏光子の透過軸方向と垂直な電界ベクトルを有する偏光(つまり、偏光子の吸収軸方向と平行な電界ベクトルを有する偏光)を入射した場合の透過スペクトルを表す。最大吸収波長は、偏光透過スペクトルk2が最大値を示すときの波長である。偏光子の二色比は、式;log(1/k2)/log(1/k1)により算出できる。
【0029】
上記偏光子の厚みは、特に限定されない。本発明の偏光子は、後述するように、コーティング液の塗布によって形成できるので、より薄く形成できる。具体的には、偏光子の厚みは、好ましくは0.1μm〜3μmである。
【0030】
(本発明のコーティング液)
本発明のコーティング液は、上記一般式(I)又は/及び一般式(II)で表されるアゾ化合物と、該アゾ化合物を溶解させる溶媒と、を含む。このようなコーティング液は、視感度の高い波長域(好ましくは波長520nm〜580nmの範囲内)において最大吸収波長を有する。
上記コーティング液は、アゾ化合物が液中で超分子会合体を形成し、その結果、液晶相を示す。液晶相は、特に限定されず、ネマチック液晶相、スメクチック液晶相、コレステリック液晶相等が挙げられる。液晶相は、偏光顕微鏡で観察される光学模様によって、確認、識別できる。
【0031】
上記溶媒は、特に限定されず、従来公知の溶媒を用いることができる。好ましくは、水系溶媒が用いられる。水系溶媒には、水、親水性溶媒、及び水と親水性溶媒の混合溶媒が含まれる。親水性溶媒は、水と均一に溶解させることができる溶媒である。親水性溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどの低級アルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;などが挙げられる。好ましくは、上記溶媒は、水、又は、水と親水性溶媒の混合溶媒である。もっとも、溶媒として、疎水性溶媒を用いることもできる。
【0032】
上記コーティング液は、液温やアゾ化合物の濃度などを変化させることにより、液晶相を示す。
コーティング液中のアゾ化合物の濃度は、液晶相を示す濃度に調製することが好ましい。コーティング液中のアゾ化合物の濃度は、好ましくは0.5質量%〜50質量%である。コーティング液は、アゾ化合物の濃度が0.5質量%〜30質量%の範囲の一部で液晶相を示すことが好ましい。
また、コーティング液のpHは、好ましくはpH4〜10程度、より好ましくはpH6〜8程度に調整される。
【0033】
さらに、上記コーティング液には、添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、帯電防止剤、相溶化剤、架橋剤、増粘剤などが挙げられる。コーティング液における添加剤の濃度は、好ましくは0を超え10質量%以下である。また、コーティング液には、界面活性剤が添加されていてもよい。界面活性剤は、コーティング液の基材表面へのぬれ性や塗布性を向上させるために添加される。前記界面活性剤は、非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。コーティング液における界面活性剤の濃度は、好ましくは0を超え5質量%以下である。
【0034】
コーティング液の調製方法は、特に限定されず、例えば、溶媒を入れた容器にアゾ化合物を加えてもよいし、或いは、アゾ化合物を入れた容器に溶媒を加えてもよい。
【0035】
(本発明の偏光子の製造方法)
上記コーティング液は、例えば、偏光子の形成材料として用いることができる。
本発明の偏光子は、コーティング液を適当な基材に薄膜状に塗布し、乾燥することによって得られる。
【0036】
本発明の偏光子は、好ましくは下記工程A〜工程Cを経て製造できる。
工程A:上記コーティング液を、基材上に塗布し、塗膜を形成する工程。
工程B:前記塗膜を乾燥する工程。
工程C:工程Bで乾燥させた塗膜の表面に、アルミニウム塩、バリウム塩、鉛塩、クロム塩、ストロンチウム塩、及び分子内に2個以上のアミノ基を有する化合物塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物塩を含む溶液を接触させる工程。
上記基材は、コーティング液を塗布する側に配向処理が施されていてもよい。
【0037】
<工程A>
基材は、コーティング液を均一に展開するために用いられる。この目的に適していれば基材の種類は特に限定されず、例えば、合成樹脂フィルム(フィルムとは、一般にシートと言われるものを含む意味である)、ガラス板などを用いることができる。好ましい実施形態においては、基材は、単独のポリマーフィルムであり、好ましい他の実施形態においては、ポリマーフィルムを含む積層体である。このポリマーフィルムを含む積層体は、好ましくはポリマーフィルムに配向層をさらに含む。
【0038】
上記ポリマーフィルムとしては、特に限定されないが、透明性に優れているフィルム(例えば、ヘイズ値5%以下)が好ましい。
上記ポリマーフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系;ポリカーボネート系;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系;ポリエチレン、ポリプロピレン、環状又はノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系;塩化ビニル系;ナイロン、芳香族ポリアミド等のアミド系;ポリイミドなどのイミド系;ポリエーテルスルホン系;ポリエーテルエーテルケトン系;ポリフェニレンスルフィド系;ビニルアルコール系;塩化ビニリデン系;ビニルブチラール系;アクリレート系;ポリオキシメチレン系;エポキシ系などのポリマーフィルムや、これらの2種以上の混合物を含むポリマーフィルム等が挙げられる。また、上記基材は、2以上のポリマーフィルムの積層体を用いることもできる。
これらポリマーフィルムは、好ましくは延伸フィルムが用いられる。
【0039】
上記基材の厚みは、強度等に応じて適宜に設計しうるが、薄型軽量化の観点から、好ましくは300μm以下、より好ましくは5〜200μm、特に好ましくは10〜100μmである。
【0040】
上記基材が配向層を含む場合、その配向層は、基材に配向処理を施すことで形成できる。上記配向処理としては、ラビング処理などの機械的配向処理、光配向処理などの化学的配向処理等が挙げられる。
機械的配向処理は、基材の一面(または基材の一面に形成された適宜な塗工膜の一面)に、布などで一方向にラビングすることにより実施できる。また、配向処理は、基材(例えば、ポリマーフィルム)を延伸することにより実施できる。これらの機械的配向処理により、基材の一面に配向層を形成できる。
【0041】
化学的配向処理は、基材の一面に、配向剤を含む光配向膜を形成し、該光配向膜に光を照射することにより実施できる。これにより、基材の一面に配向層を形成できる。配向剤としては、例えば、光異性化反応、光開閉環反応、光二量化反応、光分解反応、光フリース転移反応などの光化学反応を生じる光反応性官能基を有するポリマーなどが挙げられる。アゾ化合物の配向効率の点から、好ましくはイミド系ポリマーである。光配向膜は、配向剤を適用な溶媒に溶解させて溶液状にし、これを基材に塗布することによって形成できる。
【0042】
上記基材上(好ましくは基材の配向層上)に、コーティング液を塗布する。該コーティング液は、粘度0.1mPa・s〜30mPa・sに調製することが好ましく、更に、粘度0.5mPa・s〜3mPa・sがより好ましい。ただし、粘度は、レオメーター(Haake社製、製品名:レオストレス600、測定条件:ダブルコーンセンサー shear rate 1000(1/s))で測定した値である。
【0043】
本発明のコーティング液は、固形分濃度が比較的低いため、流動性に優れ、更に、塗布機(例えばコータ等)の最適塗布粘度範囲に調製することも簡易に行え得る。従って、上記コーティング液を用いれば、薄膜状で且つ均一な塗膜を基材上に形成することができる。
【0044】
コーティング液を基材の一面に塗布する方法としては、例えば、適切なコータを用いた塗布方法が採用され得る。該コータとしては、例えば、バーコータ、リバースロールコータ、正回転ロールコータ、グラビアコータ、ロッドコータ、スロットダイコータ、スロットオリフィスコータ、カーテンコータ、ファウンテンコータなどが挙げられる。
【0045】
液晶相を示す状態のコーティング液を塗布すると、コーティング液の流動過程でアゾ化合物に剪断応力が加わり、アゾ化合物が所定方向に配向した塗膜を形成できる。
具体的には、液晶相を示すコーティング液中のアゾ化合物は、超分子会合体を形成している。該アゾ化合物を含むコーティング液を所定方向に流延すると、超分子会合体に剪断応力が加わる。その結果、アゾ化合物からなる超分子会合体の長軸が、例えば流延方向に配向した塗膜を形成することができる。
なお、上記アゾ化合物は、コーティング液の流延時に加わる剪断応力によって配向するが、これに代えて又はこれに併用して、他の手段によってアゾ化合物を配向させることもできる。
上記他の手段としては、例えば、配向処理が施された基材上にコーティング液を塗布する手段や、基材上にコーティング液を塗布して塗膜を形成した後、磁場又は電場を印加する手段などが挙げられる。これらの他の手段を単独で行っても、アゾ化合物が所定方向に配向した塗膜を形成できる。
【0046】
<工程B>
基材上に、コーティング液を塗布して塗膜を形成した後、これを乾燥する。
乾燥は、自然乾燥、強制的な乾燥の何れでもよい。
強制的な乾燥には、例えば、熱風又は冷風が循環する空気循環式恒温オーブン、マイクロ波もしくは遠赤外線などを利用したヒーター、温度調節用に加熱されたロール、加熱されたヒートパイプロール、加熱された金属ベルトなどの乾燥手段を用いることができる。
乾燥温度は、コーティング液の等方相転移温度以下であり、低温から高温へ徐々に昇温させることが好ましい。上記乾燥温度は、好ましくは10℃〜80℃であり、さらに好ましくは20℃〜60℃である。かかる温度範囲であれば厚みバラツキの小さい乾燥塗膜を得ることができる。
乾燥時間は、乾燥温度や溶媒の種類によって、適宜、選択され得る。厚みバラツキの小さい乾燥塗膜を得るためには、乾燥時間は、例えば1分〜30分であり、好ましくは1分〜10分である。
【0047】
上記塗膜は、乾燥する過程で濃度が高くなり、配向したアゾ化合物が固定される。塗膜中のアゾ化合物の配向が固定されることによって、偏光子の特性である、吸収二色性を生じる。得られた乾燥塗膜は、偏光子として使用できる。
得られた乾燥塗膜の厚みは、好ましくは0.1μm〜3μmである。乾燥塗膜の残存溶媒量は、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0048】
<工程C>
上記乾燥塗膜の表面(基材の接合面と反対面)に、耐水性を付与してもよい。
具体的には、上記工程Bで形成された乾燥塗膜の表面に、アルミニウム塩、バリウム塩、鉛塩、クロム塩、ストロンチウム塩、及び分子内に2個以上のアミノ基を有する化合物塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物塩を含む溶液を接触させる。
【0049】
上記化合物塩としては、例えば、塩化アルミニウム、塩化バリウム、塩化鉛、塩化クロム、塩化ストロンチウム、4,4’−テトラメチルジアミノジフェニルメタン塩酸塩、2,2’−ジピリジル塩酸塩、4,4’−ジピリジル塩酸塩、メラミン塩酸塩、テトラアミノピリミジン塩酸塩などが挙げられる。このような化合物塩の層を形成することにより、乾燥塗膜の表面を水に対して不溶化又は難溶化させることができる。よって、乾燥塗膜に、耐水性を付与できる。
【0050】
上記化合物塩を含む溶液に於いて、その化合物塩の濃度は、好ましくは3質量%〜40質量%であり、より好ましくは5質量%〜30質量%である。
乾燥塗膜の表面に、上記化合物塩を含む溶液を接触させる方法としては、例えば、乾燥塗膜の表面に上記化合物塩を含む溶液を塗布する方法、乾燥塗膜を上記化合物塩を含む溶液に浸漬する方法など、任意の方法が採用され得る。これらの方法を採用する場合、乾燥塗膜の表面は、水又は任意の溶剤で洗浄し乾燥しておくことが好ましい。
【0051】
(偏光子の用途)
本発明の偏光子は、通常、上記基材上に積層された状態で使用される。もっとも、本発明の偏光子は、上記基材から剥離して使用することもできる。
本発明の偏光子は、単独で用いてもよいし、他の光学フィルムを積層してもよい。他の光学フィルムとしては、保護フィルム、位相差フィルムなどが挙げられる。本発明の偏光子に、保護フィルム及び/又は位相差フィルムを積層することにより、偏光板を構成できる。
偏光子に、他の光学フィルムを積層する場合、実用的には、これらの間には任意の適切な接着層が設けられる。接着層を形成する材料としては、例えば、接着剤、粘着剤、アンカーコート剤等が挙げられる。
【0052】
本発明の偏光子の用途は、特に限定されないが、本発明の偏光子は、画像表示装置の構成部材として使用することが好ましい。
前記画像表示装置は、例えば、液晶表示装置、有機ELディスプレイ、及びプラズマディスプレイ等が挙げられ、好ましくは液晶表示装置である。前記画像表示装置の好ましい用途は、テレビ(特に、画面サイズ40インチ以上の大型テレビ)である。画像表示装置が液晶表示装置の場合、その好ましい用途は、テレビ、パソコンモニター、ノートパソコン、コピー機などのOA機器;携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機などの携帯機器;ビデオカメラ、電子レンジなどの家庭用電気機器;バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオなどの車載用機器;商業店舗用インフオメーション用モニターなどの展示機器;監視用モニターなどの警備機器;介護用モニター、医療用モニターなどの介護・医療機器等である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および比較例を示して本発明を更に説明する。なお、本発明は、下記実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例で用いた各分析方法は、以下の通りである。
(1)液晶相の確認:
2枚のスライドガラスの間にコーティング液を少量挟み込み、偏光顕微鏡(オリンパス(株)製、製品名「OPTIPHOT−POL」)を用いて、室温(23℃)で観察した。
(2)コーティング液のpHの測定方法:
pHメーター(DENVER INSTRUMENT社製、製品名「Ultra BASIC」)を用いて測定した。
(3)厚みの測定:
ノルボルネン系ポリマーフィルム上に形成された偏光子の一部を剥離し、三次元非接触表面形状計測システム((株)菱化システム製、製品名「Micromap MM5200」)を用い、前記フィルムと偏光子の段差を測定した。
(4)偏光子の最大吸収波長の測定:
分光光度計(日本分光(株)製、製品名「V−7100」)を用いて、偏光子の透過軸方向と垂直な電界ベクトルを有する偏光(つまり、偏光子の吸収軸方向と平行な電界ベクトルを有する偏光)を偏光子に入射し、透過スペクトルを測定した。測定温度は、23℃で、入射光は、波長380nm〜780nmの範囲とした。前記透過スペクトルが最大となる光の波長が、最大吸収波長である。
【0054】
[実施例]
4−フルオロアニリンと8−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸とを、下記文献に記載の方法に従って、ジアゾ化及びカップリング反応させて、モノアゾ化合物を得た。このモノアゾ化合物を、同文献に記載の方法に従って、ジアゾ化した後、さらに、6−アミノ−4−ヒドロキシ−2−ナフタレンスルホン酸とカップリング反応させた。このようにして下記構造式(III)で表されるアゾ化合物を含む粗生成物を得、さらに、この粗生成物を塩化ナトリウムで塩析することにより、構造式(III)で表されるアゾ化合物を得た。
文献:細田豊著「理論製造 染料化学(5版)」(昭和43年7月15日技報堂発行の135頁〜152頁)。
【0055】
【化4】

【0056】
構造式(III)で表されるアゾ化合物をイオン交換水に溶解させることにより、アゾ化合物濃度1.8質量%のコーティング液を調製した。このコーティング液のpHは、6.7であった。
次に、このコーティング液をポリスポイトで採取し、2枚のスライドガラスの間に挟み込んで、室温(23℃)にて、偏光顕微鏡で観察したところ、該コーティング液はネマチック液晶相を示していた。
【0057】
上記コーティング液を、ラビング処理及びコロナ処理が施されたノルボルネン系ポリマーフィルム(日本ゼオン社製、商品名「ゼオノア」)の前記処理面上に、バーコータ(BUSHMAN社製、製品名「Mayer rot HS9」)を用いて塗布し、23℃の恒温室内で自然乾燥させた。乾燥後の塗膜が、偏光子である。
得られた偏光子の厚みは、0.2μmであった。また、この偏光子の透過スペクトルの最大吸収波長は、545nmであった。
【0058】
[比較例]
p−アニシジンと8−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸とを、実施例と同様に文献記載の方法に従って、ジアゾ化及びカップリング反応させて、モノアゾ化合物を得た。このモノアゾ化合物を、同文献に記載の方法に従って、ジアゾ化した後、さらに、7−アミノ−1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸リチウム塩とカップリング反応させた。このようにして下記構造式(IV)で表されるアゾ化合物を含む粗生成物を得、さらに、この粗生成物を塩化リチウムで塩析することにより、構造式(IV)で表されるアゾ化合物を得た。
【0059】
【化5】

【0060】
構造式(IV)で表されるアゾ化合物をイオン交換水に溶解させることにより、アゾ化合物濃度17.9質量%のコーティング液を調製した。このコーティング液のpHは、6.0であった。
次に、このコーティング液をポリスポイトで採取し、2枚のスライドガラスの間に挟み込んで、室温(23℃)にて、偏光顕微鏡で観察したところ、該コーティング液はネマチック液晶相を示していた。
【0061】
このコーティング液を、実施例と同様の方法で、ノルボルネン系ポリマーフィルムに塗布し、これを乾燥し、比較例に係る偏光子を作製した。
得られた偏光子の厚みは、0.2μmであった。また、この偏光子の透過スペクトルの最大吸収波長は、615nmであった。
【0062】
比較例のアゾ化合物を含む偏光子は、視感度の高い波長域よりも長波長側(波長615nm)において最大吸収波長を有する。
この理由は、下記に示すように、構造式(IV)で表されるアゾ化合物が、構造式(V)で表されるヒドラゾン構造を有するアゾ化合物に経時的に変化するためと考えられる。
具体的には、構造式(IV)で表されるアゾ化合物は、アゾ基(−N=N−)に結合するナフタレン環の該アゾ結合部に対するオルト位に、ヒドロキシル基(−OH)が結合している。このヒドロキシル基の反応性が高いため、構造式(IV)で表されるアゾ化合物は、ヒドロキシル基の水素とアゾ基の一方の窒素が結合してヒドラゾン構造を形成し、分子構造が変化するためと考えられる。
【0063】
【化6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるアゾ化合物を含む偏光子。
【化1】

一般式(I)中、Qは、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Qは、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Mは、対イオンを表し、lは、1〜6の整数を表し、mは、0〜5の整数を表す。ただし、l+m≦6である。
【請求項2】
前記アゾ化合物が、下記一般式(II)で表される化合物である請求項1に記載の偏光子。
【化2】

一般式(II)中、X及びYは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、−SOMで表されるスルホン酸基、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、Mは、対イオンを表し、lは、1〜6の整数を表し、mは、0〜5の整数を表す。ただし、l+m≦6である。
【請求項3】
波長520nm〜580nmの範囲内において最大吸収波長を有する請求項1または2に記載の偏光子。
【請求項4】
下記一般式(I)で表されるアゾ化合物と、溶媒と、を含むコーティング液。
【化3】

一般式(I)中、Qは、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Qは、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Mは、対イオンを表し、lは、1〜6の整数を表し、mは、0〜5の整数を表す。ただし、l+m≦6である。
【請求項5】
請求項4に記載のコーティング液を基材上に塗布し、乾燥することにより偏光子を形成する偏光子の製造方法。

【公開番号】特開2009−169341(P2009−169341A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10221(P2008−10221)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】