説明

偏光子保護用光学フィルム、偏光板、及び画像表示装置

【課題】メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンの光学特性や防湿性を保持しながら、量産適性に優れ、所望の用途別特性を付与することができる偏光子保護用光学フィルムを提供する。また、これを用いた高性能の偏光板及び画像表示装置を提供する。
【解決手段】本発明の偏光子保護用光学フィルムは、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンと、グラフト変性ポリプロピレンとの混合樹脂からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置で使用される光学部材に関し、より詳しくは、量産適性に優れ、かつ所望の用途別特性を付与することができる偏光子保護用光学フィルムに関する。また、本発明は、偏光子の少なくとも片面に前記光学フィルムが形成された偏光板、及び前記偏光板が使用された画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、特定の振動方向をもつ光のみを透過させ、その他の光を遮蔽する機能を有する光学部材であり、例えば、液晶セルを含む液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス表示装置、あるいはタッチパネル等の画像表示装置に広く使用されている。このような偏光板としては、偏光子の片面又は両面に偏光子保護用の光学フィルムが形成された構成をもつものが一般に使用されている。このうち偏光子は、特定の振動方向をもつ光のみを透過させる機能を有するものであり、ヨウ素や二色性染料などで染色した一軸延伸型のポリビニルアルコール(以下「PVA」という)系フィルムが多く使用され、最近では塗布型のフィルムも使用されているが、一般に薄く強度面で弱いという問題がある。
【0003】
偏光子に形成された偏光子保護用光学フィルムは、偏光子を支持して偏光板全体に実用的な強度を付与し、また、偏光子の表面を物理的に保護するなどの機能を担うものであり、実用的な物理的強度を有することや、透明性が良好で、複屈折(面内位相差)が小さいなどの光学的な均一性に優れていることなどが求められる。このような偏光子保護用光学フィルムとしては一般に、セルロース系フィルムであるトリアセチルセルロースフィルムが多く使用されている。もっとも、セルロース系フィルムは、防湿性が不十分であり、吸水によってフィルムの寸法が変化したり、透過した水分によって偏光子の性能が低下するなどの課題がある。
【0004】
そこで、本発明者らは、先に、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンを用いた偏光子保護用光学フィルムが、良好な光学特性と防湿性を兼ね備えていることを見出した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2008−146023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
もっとも、偏光子保護用光学フィルムとして実用するためには、光学特性や防湿性という基本的特性の要求事項に加えて、偏光子保護用光学フィルムが量産適性を備えていることが必要である。また、偏光子保護用光学フィルムに画像表示装置や偏光板の用途に応じた特性を付与することが要求される。
例えば、偏光子保護用光学フィルムを広幅であるいは高速で安定的に生産するためには、偏光子保護用光学フィルムに用いられる樹脂の引張強度が高くなければならない。また、薄型フレキシブル画像表示装置の偏光板に使用する偏光子保護用光学フィルムでは、薄膜厚で成形加工できて、屈曲に耐えられるように、十分な可とう性を要する。あるいは、寒冷地でも使用される車載用途の画像表示装置については、偏光子保護用光学フィルムには、寒冷に対する耐久性(耐寒衝撃強度)が要求される。当然ながら、このような要求事項は、偏光子保護用光学フィルムの基本的特性を保持しながら、充足しなければならない。
【0007】
上記のような量産適性や用途特性付与の要求に対して、一般に、各種の添加剤を添加したり、グラフト共重合による樹脂改質の技術が知られている。
しかしながら、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンにおいて、添加剤として、例えば、直鎖状低密度ポリエチレンや高密度ポリエチレンなどの各種ポリエチレン、あるいはアイオノマー樹脂などの金属架橋変性オレフィンを添加した場合、樹脂同士の相溶性が悪く、熱成形時に分離してしまうので、複屈折や透明性が著しく損なわれてしまう。それを防ぐために、添加量を減らすと、十分な特性が得られないことになる。また、例えば、ジベンジリデンソルビトール系添加物などは、得られる改質効果が限定的である。
【0008】
一方で、一般にポリプロピレンに、例えばアクリル化合物をグラフト共重合させることで樹脂改質を試みた場合、そのグラフト変性ポリプロピレンのみで薄肉フィルムを成形加工しようとしても、樹脂成分が均一で外観が良好なフィルム成形は困難であることが知られている。その原因としては、グラフト変性ポリプロピレン中のグラフト変性アクリル成分とポリプロピレン成分とでは、熱特性に著しい差があり、両樹脂の適性な樹脂溶融温度が異なるためと推定される。
【0009】
本発明は、かかる事情によりなされたものであり、本発明の課題は、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンの光学特性や防湿性を保持しながら、量産適性に優れ、所望の用途別特性を付与することができる偏光子保護用光学フィルムを提供することにある。また、これを用いた高性能の偏光板及び画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンと、グラフト変性ポリプロピレンとの混合樹脂を用いることにより、その課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
第一の発明は、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンと、グラフト変性ポリプロピレンとの混合樹脂を含むことを特徴とする偏光子保護用光学フィルムである。
第二の発明は、第一の発明において、前記グラフト変性ポリプロピレンが、アクリル化合物をグラフト共重合してなる変性ポリプロピレンであることを特徴とする偏光子保護用光学フィルムである。
第三の発明は、第一の発明において、前記グラフト変性ポリプロピレンが、ビニル化合物をグラフト共重合してなる変性ポリプロピレンであることを特徴とする偏光子保護用光学フィルムである。
第四の発明は、第一の発明において、前記グラフト変性ポリプロピレンが、スチレン又はその誘導体をグラフト共重合してなる変性ポリプロピレンであることを特徴とする偏光子保護用光学フィルムである。
第五の発明は、第二の発明において、前記アクリル化合物が、アクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの誘導体であることを特徴とする偏光子保護用光学フィルムである。
第六の発明は、第五の発明において、混合樹脂中のアクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの誘導体に起因する構成成分の質量比率が、5〜30質量%であることを特徴とする偏光子保護用光学フィルムである。
第七の発明は、第五の発明において、第偏光子保護用光学フィルムの縦方向及び横方向の引張強度が各々30MPa以上であることを特徴とする偏光子保護用光学フィルムである。
第八の発明は、偏光子の少なくとも片面に、第一から第七の発明のいずれか1つに係る偏光子保護用光学フィルムが形成されていることを特徴とする偏光板である。
第九の発明は、第八の発明に係る偏光板が使用されていることを特徴とする画像表示装置である。
第十の発明は、下記工程(1)〜工程(4)を有する偏光子保護用光学フィルムの製造方法である。
工程(1)メタロセン触媒を用いてポリプロピレンを重合する工程
工程(2)ポリプロピレンを幹重合体とし、枝重合体をグラフト共重合させてグラフト変性ポリプロピレンを得る工程
工程(3)メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレン及びグラフト変性ポリプロピレンを混合し加熱溶融して混合樹脂を得る工程
工程(4)該混合樹脂を成形加工する工程
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンの光学特性や防湿
性を保持しながら、量産適性に優れ、所望の用途別特性を付与することができる実用的な
偏光子保護用光学フィルムを得ることができる。また、用途に応じた特性が付与された高
性能の偏光板及び画像表示装置を得ることができる。
【0012】
本発明において、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンの優れた光学特性や防湿性を保持できる理由、及び熱成形加工時に分離や不良が発生しない理由としては、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンと、グラフト変性ポリプロピレンとはともにポリプロピレン成分を有するので、樹脂同士の相溶性があり、均一的な混合樹脂を得ることができるためと推定される。また、グラフト変性ポリプロピレン中のグラフト変性成分は、グラフト変性ポリプロピレン中のポリプロピレン成分とメタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンとで形成される溶相中に分散されるため、熱成形加工時も均一性を保つことができるためと推定される。
【0013】
グラフト変性ポリプロピレンとして、アクリル化合物がグラフト共重合された変性ポリプロピレンを用いた場合は、偏光子保護用光学フィルムに用いられる樹脂の引張強度を向上させることができる。これにより、例えば、偏光子保護用光学フィルムを広幅や高速で安定的に生産させることができる。また、フィルム強度が上がるので、偏光子保護性能を向上させることができる。一般に、ポリプロピレンは引張強度が小さいので、引張強度の改善は重要である。
【0014】
グラフト変性ポリプロピレンとして、ビニル化合物がグラフト共重合された変性ポリプロピレンを用いた場合は、偏光子保護用光学フィルムに用いられる樹脂に可とう性を付与することができる。これにより、例えば、偏光子保護用光学フィルムを薄膜厚で成形加工することができ、得られた偏光子保護用光学フィルムは、屈曲に耐えられるので、薄型フレキシブル画像表示装置の偏光板に好適に用いることができる。
【0015】
グラフト変性ポリプロピレンとして、スチレン又はそれの誘導体がグラフト共重合された変性ポリプロピレンを用いた場合は、偏光子保護用光学フィルムに用いられる樹脂に耐寒衝撃強度を付与することができる。これにより、例えば、車載用途の画像表示装置の偏光板に用いた場合に、寒冷地での使用に耐えられるようになる。
【0016】
アクリル化合物がアクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの誘導体である場合は、透明性や複屈折(面内位相差)に与える影響を小さくすることができる。
また、混合樹脂中のアクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの誘導体に起因する構成成分の質量比率を5〜30質量%とした場合、広幅や高速で成形加工する際に問題となるフィルム端部のシワの発生を防止することができる。また、上記範囲内で得られた偏光子保護用光学フィルムは、透明性や複屈折(面内位相差)が特に良好なものである。
また、偏光子保護用光学フィルムの縦方向及び横方向の引張強度を各々30MPa以上とした場合は、フィルム端部のシワの発生を防止することに加えて、突発的なフィルム切れが発生する現象も防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の偏光板の構成例を示す図である。
【図2】本発明の液晶セルを含む液晶ディスプレイの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[偏光子保護用光学フィルム]
本発明の偏光子保護用光学フィルムは、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンとグラフト変性ポリプロピレンとの混合樹脂とからなるものである。
本発明の偏光子保護用光学フィルムは、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンと、グラフト変性ポリプロピレンとを混合し、加熱溶融させた後、例えば未延伸Tダイ押出し成形法などの各種成形法で成形加工して、製造される。
なお、本発明において、グラフト変性ポリプロピレンとは、グラフト共重合反応による特性付与をおこなったポリプロピレンであることを意味する。一方で、無変性のポリプロピレンとは、グラフト共重合反応による特性付与をおこなっていないポリプロピレンであることを意味し、ポリプロピレン単独重合体、又はプロピレンとα−オレフィンなどのランダム共重合体、交互共重合体、若しくはブロック共重合体を挙げることができる。
以下に、偏光子保護用光学フィルムとその製造方法について、詳細に説明する。
【0019】
《メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレン》
メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンとは、後述するメタロセン触媒を用いて重合反応により合成されたプロピレン重合体である。メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンは、汎用されているチーグラー系触媒を用いて重合されたポリプロピレンと比べて、一般に分子量と結晶性が均一で、低分子量・低結晶性成分が少ないという特長を有するので、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンが用いられた偏光子保護用光学フィルムは、チーグラー系触媒を用いて重合されたポリプロピレンのみが用いられた偏光子保護用光学フィルムよりも、透明性が高く、複屈折が小さいものになる。そのため、本発明においては、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンが、本発明の偏光子保護用光学フィルムを構成する混合樹脂の必須成分の1つとして用いられる。
【0020】
メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンは、プロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体であることが好ましい。α−オレフィンとしては、エチレン、炭素数4〜18の1−オレフィンが用いられ、具体的には、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘプテン、4−メチル−ペンテン−1、4−メチル−ヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1等を挙げることができる。共重合体中のプロピレン単位の割合は、好ましくは80モル%以上であり、コモノマーは20モル%以下である。コモノマーとして、上記のα−オレフィンは1種類に限られず、2種類以上を用いることができ、共重合体をターポリマーのような多元系共重合体とすることもできる。
【0021】
(メタロセン触媒)
メタロセン触媒としては、公知のものを適宜用いることができる。一般的には、Zr、Ti、Hf等の4〜6族遷移金属化合物、特に4族遷移金属化合物と、シクロペンタジエニル基あるいはシクロペンタジエニル誘導体の基を有する有機遷移金属化合物を使用することができる。
【0022】
シクロペンタジエニル誘導体の基としては、ペンタメチルシクロペンタジエニル等のアルキル置換体基、あるいは2以上の置換基が結合して飽和もしくは不飽和の環状置換基を構成した基を使用することができ、代表的にはインデニル基、フルオレニル基、アズレニル基、あるいはこれらの部分水素添加物を挙げることができる。また、複数のシクロペンタジエニル基がアルキレン基、シリレン基、ゲルミレン基等で結合されたものも好適に挙げることができる。
【0023】
(助触媒)
助触媒としては、アルミニウムオキシ化合物、メタロセン化合物と反応してメタロセン化合物成分をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物もしくはルイス酸、固体酸、あるいは、層状ケイ酸塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を用いることができる。また、必要に応じてこれらの化合物と共に有機アルミニウム化合物を添加することができる。
【0024】
上述の層状ケイ酸塩とは、イオン結合等によって、構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとるケイ酸塩化合物をいう。本発明では、層状ケイ酸塩は、イオン交換性であることが好ましい。ここでイオン交換性とは、層状ケイ酸塩の層間陽イオンが交換可能なことを意味する。大部分の層状ケイ酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出するが、これら層状ケイ酸塩は特に天然産のものに限らず、人工合成物であってもよい。
【0025】
層状ケイ酸塩の具体例としては、公知の層状ケイ酸塩であれば特に制限はなく、例えば、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト、メタハロイサイト、ハロイサイト等のカオリン族;クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族;モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、テニオライト、ヘクトライト、スチーブンサイト等のスメクタイト族;バーミキュライト等のバーミキュライト族;雲母、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母族;アタパルジャイト;セピオライト;パリゴルスカイト;ベントナイト;パイロフィライト;タルク;緑泥石群が挙げられる。これらは混合層を形成していてもよい。
これらの中では、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ベントナイト、テニオライト等のスメクタイト族、バーミキュライト族、雲母族が好ましい。
【0026】
これらの層状ケイ酸塩は化学処理を施すことができる。ここで化学処理とは、表面に付着している不純物を除去する表面処理と層状ケイ酸塩の結晶構造、化学組成に影響を与える処理のいずれをも用いることができる。具体的には、酸処理、アルカリ処理、塩類処理、有機物処理等が挙げられる。これらの処理には、表面の不純物を取り除く、層間の陽イオンを交換する、結晶構造中のAl、Fe、Mg等の陽イオンを溶出させるなどの作用があり、その結果、イオン複合体、分子複合体、有機誘導体等を形成し、表面積や層間距離、固体酸性度等を変えることができる。これらの処理は単独で行ってもよいし、2つ以上の処理を組み合わせてもよい。
【0027】
(メタロセン触媒を用いたポリプロピレンの重合方法)
上記メタロセン触媒を用いてポリプロピレンを合成する方法(重合方法)としては、これらの触媒の存在下、不活性溶媒を用いたスラリー法、実質的に溶媒を用いない気相法、溶液法、あるいは重合モノマーを溶媒とするバルク重合法等が挙げられる。
【0028】
このようにしてメタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンは、融点(Tm)が130℃以上であることが好ましい。
【0029】
(メタロセン触媒を用いたポリプロピレンの判別方法)
メタロセン触媒を用いて合成されたポリプロピレンには、該ポリプロピレン中にメタロセン触媒に起因する4〜6族遷移金属化合物の残渣が主に存在する。一方、チーグラー系触媒を用いて合成されたポリプロピレンには、該ポリプロピレン中にチーグラー系触媒に起因する1〜3族金属水素化物や有機金属化合物の残渣が主に存在する。すなわち、メタロセン触媒を用いて合成されたポリプロピレンとチーグラー系触媒を用いて合成されたポリプロピレンとは、ポリプロピレン中の使用触媒に起因する残渣金属化合物を分析することで明確に区別することができる。
分析方法としては、ポリプロピレン中の金属化合物の残渣量によるが、蛍光X線分析装置による分析、灰化による前処理などにより金属化合物の残渣濃度を高めてから、電子線マイクロアナライザー(EPMA)などを用いた定性分析などが挙げられる。
【0030】
《グラフト変性ポリプロピレン》
グラフト変性ポリプロピレンとは、ポリプロピレンを幹重合体として、各種の枝重合体をグラフト共重合させたポリプロピレン系重合体である。幹重合体としてポリプロピレン成分を有するので、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンとの相溶性が得られる。また、枝重合体をグラフト共重合させることで、偏光子保護用光学フィルムの加工適性や使用用途に応じた樹脂改質をおこなうことができる。そのため、本発明においては、グラフト変性ポリプロピレンが、本発明の偏光子保護用光学フィルムを構成する混合樹脂の必須成分の1つとして用いられる。
【0031】
幹重合体としてのポリプロピレンとしては、プロピレン単独重合体、又はプロピレンとα−オレフィンとの1種または2種以上のブロック共重合体、ランダム共重合体若しくは共重合体ゴムなどを用いることができる。α−オレフィンとしては、エチレン、炭素数4〜18の1−オレフィンが用いられ、具体的には、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘプテン、4−メチル−ペンテン−1、4−メチル−ヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1などを挙げることができる。共重合体中のプロピレン単位の割合は、好ましくは80モル%以上であり、コモノマーは20モル%以下である。コモノマーとして、上記のα−オレフィンは1種類に限られず、2種類以上を用いることができ、共重合体をターポリマーのような多元系共重合体とすることもできる。幹重合体を合成する重合反応においては、チーグラー触媒を用いてもメタロセン触媒を用いてもよい。
【0032】
幹重合体としてのポリプロピレンとしては、プロピレン単独重合体またはプロピレンとエチレンのランダム共重合体が好ましい。メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンとの相溶性がよいからである。
【0033】
各種の枝重合体としては、幹重合体としてのポリプロピレンとグラフト共重合できるものであれば、要求特性に応じて適宜選択して用いることができる。例えば、アクリル系化合物、ビニル化合物、オレフィン、ジエン類、あるいはスチレンまたはその誘導体などが好ましく挙げられる。
【0034】
アクリル系化合物は、偏光子保護用光学フィルムの引張強度の向上のために好適に使用される。アクリル化合物の具体例としては、アクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの誘導体、α−シアノアクリル酸又はそれの誘導体、又はアクリロニトリルなどが好ましく挙げられる。なお、アクリル酸若しくはメタクリル酸の誘導体としては、アクリル酸若しくはメタクリル酸のアルキルエステル(例えばメチルエステル、エチルエステル、2−ヒドロキシエチルエステル、ジエチルアミノエチルエステルなど)、グリシジルエステル、塩(例えばアルカリ金属塩、例えばナトリウム塩など)、ハロゲン化物(例えばクロリドなど)、又はアミドなどが好ましく挙げられる。
【0035】
アクリル化合物の中では、アクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの誘導体が好ましい。アクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの誘導体は、高い透明性と引張強度を付与することができ、また、幹重合体であるポリプロピレンとのグラフト共重合体も得やすいからである。
【0036】
混合樹脂中のアクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの誘導体に起因する構成成分の質量比率は、5〜30質量%であることが好ましい。この範囲内とすることで、広幅や高速で成形加工する際に発生し易いフィルム端部のシワを防ぐことができるからである。また、透明性や複屈折(面内位相差)が特に良好なものにすることができるからである。
【0037】
ビニル化合物は、偏光子保護用光学フィルムの可とう性を向上させるために好適に用いることができる。ビニル化合物の具体例としては、酢酸ビニル、塩化ビニル、若しくはビニルエーテル(例えばメチルビニルエーテルなど)などのビニル化合物、塩化ビニリデン、四フッ化エチレン、又はビニルピリジン類などが好ましく挙げられる。
【0038】
スチレン又はそれの誘導体は、偏光子保護用光学フィルムの耐寒衝撃強度を向上させるために好適に用いることができる。スチレン又はその誘導体の具体例としては、スチレン又はメトキシスチレンなどが好ましく挙げられる。また、オレフィン(例えばエチレン、ブチレン、イソブチレンなど)やジエン類(例えばブタジエンなど)なども、耐寒衝撃強度の向上に有用であり、好ましく用いることができる。
【0039】
上記した化合物を単独で、または2種以上組合せて、枝重合体として使用できる。枝重合体の数平均分子量は5,000〜1,000,000の範囲が好ましく、グラフト変性ポリプロピレン中のグラフト成分の質量比率は、30〜60質量%が好ましい。
【0040】
《その他の成分》
本発明において、所望に応じて各種の添加剤や添加樹脂を、偏光子保護用光学フィルムを構成する混合樹脂の任意成分として添加することができる。
【0041】
例えば、ジベンジリデンソルビトール系添加剤は、位相差への影響を微小としながら、引張強度と透明性を向上させることができるため、好適に用いることができる。ジベンジリデンソルビトール系添加剤としては、1,3−2,4−ジベンジリデンソルビトール、1,3−2,4−ジパラメチルジベンジリデンソルビトール等のジ−置換ジベンジリデンソルビトール、及びジ−置換ベンジリデンソルビトールとジグリセリンモノ脂肪酸エステルとを配合したもの等が好適に使用できる。
【0042】
上記ジベンジリデンソルビトール系添加剤の中でも、ブリードの少なく安定したジグリセリンモノ脂肪酸エステル添加ジベンジリデンソルビトール系核剤が望ましい。ジグリセリンモノ脂肪酸エステルとしては、ジグリセリンモノラウリン酸エステル、ジグリセリンモノミリスチン酸エステル、ジグリセリンモノステアリン酸エステル等が好ましく、単独で又はこれらを混合して使用される。
【0043】
上記添加剤の含有量は、混合樹脂100質量部に対して、0.03〜0.5質量部の範囲であることが好ましい。0.03質量部以上であると、透明性の向上及び十分な強度の向上が図れる。一方、0.5質量部を超えて加えても、それ以上の透明性向上や強度向上にはつながらず、コスト的に不利となる。
また、特に、ジグリセリンモノ脂肪酸エステルを添加したジ−置換ベンジリデンソルビトールを用いる場合には、混合樹脂100質量部に対して、ジ−置換ベンジリデンソルビトールが0.01〜0.3質量部、混合するジグリセリンモノ脂肪酸エステルが0.01〜0.2質量部とすることが好ましい。
【0044】
また、得られるフィルムの所望物性に応じて、必要な複屈折や透明性を損なわない範囲で、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンやグラフト変性ポリプロピレン以外の各種オレフィン樹脂を添加樹脂として配合することもできる。
【0045】
さらに所望物性に応じて、必要な複屈折や透明性に影響しない範囲で、例えば耐候性改善剤、耐摩耗性向上剤、重合禁止剤、架橋剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、接着性向上剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、溶剤などを添加することができる。
【0046】
耐候性改善剤としては、紫外線吸収剤や光安定剤を用いることができる。
紫外線吸収剤は、無機系、有機系のいずれでもよく、無機系紫外線吸収剤としては、平均粒径が5〜120nm程度の二酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛などを好ましく用いることができる。また、有機系紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系、具体的には、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、ポリエチレングリコールの3−[3−(ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオン酸エステルなどが挙げられる。
光安定剤としては、例えばヒンダードアミン系、具体的には2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2’−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートなどが挙げられる。
また、紫外線吸収剤や光安定剤として、分子内に(メタ)アクリロイル基などの重合性基を有する反応性の紫外線吸収剤や光安定剤を用いることもできる。
【0047】
耐摩耗性向上剤としては、例えば無機物ではα−アルミナ、シリカ、カオリナイト、酸化鉄、ダイヤモンド、炭化ケイ素等の球状粒子が挙げられる。粒子形状は、球、楕円体、多面体、鱗片形等が挙げられ、特に制限はないが、球状が好ましい。有機物では架橋アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の合成樹脂ビーズが挙げられる。粒径は通常、偏光子保護用光学フィルムの膜厚の30〜200%程度とする。これらの中でも球状のα−アルミナは、硬度が高く、耐摩耗性の向上に対する効果が大きいこと、また、球状の粒子を比較的得やすい点で特に好ましいものである。
【0048】
重合禁止剤としては、例えばハイドロキノン、p−ベンゾキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロガロール、t−ブチルカテコールなどが、架橋剤としては、例えばポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、金属キレート化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物などが用いられる。
【0049】
充填剤としては、例えば硫酸バリウム、タルク、クレー、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウムなどが用いられる。
赤外線吸収剤としては、例えば、ジチオール系金属錯体、フタロシアニン系化合物、ジインモニウム化合物等が用いられる。
【0050】
《偏光子保護用光学フィルム》
偏光子保護用光学フィルムの厚さは、10〜200μmの範囲が好ましく、30〜150μmがより好ましい。前記厚さが10μm以上であると、偏光子保護用光学フィルムの保護強度が十分に確保され、200μm以下であると十分な可とう性が得られ、また軽量であることからハンドリングが容易であり、かつコスト的にも有利である。
【0051】
偏光子保護用光学フィルムは、例えば、ポリプロピレン本来の特性(結晶化度、平均分子量等)で選択する方法、樹脂に無機質あるいは有機質の充填剤から選ばれた充填剤を添加する方法、架橋剤などを添加する方法、弾性率の異なる2種類以上の樹脂を混合する方法、硬化性樹脂の可塑剤組成分を選択する方法などを用いて、あるいはこれらの方法を適宜複数組み合わせて用いて、所望の曲げ弾性率に調整することができる。
【0052】
偏光子保護用光学フィルムの曲げ弾性率は、700MPa以上であることが好ましい。曲げ弾性率が上記範囲内であると、フィルム状態で取り扱う際の十分な剛性が得られ、後加工を容易に行うことができ、偏光板の保護シートとして機能させるために十分な耐擦過性が得られるからである。さらには、偏光子保護用光学フィルムの曲げ弾性率は、900MPa以上であることがより好ましい。900MPa以上とすれば、Tダイ押出し成形で製造した場合に、面内位相差を安定させることができるからである。
なお、本発明において、曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠して測定されるものとする。
【0053】
偏光子保護用光学フィルムは、引張強度が20MPa以上であることが好ましい。20MPa以上であると、偏光子光子保護用フィルムの成形加工に際して、偏光子保護用光学フィルムを接着剤層を介して偏光子にロール・ツウ・ロールの方法で貼り合わせる場合に、配向がかからず、光学フィルムに位相差が発生しないため、偏光板の性能を維持できる。
【0054】
また、アクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの誘導体がグラフト共重合された変性ポリプロピレンを混合する場合、偏光子保護用光学フィルムの縦方向の引張強度は、30MPa以上であることがより好ましい。成形加工に際して、フィルムの裂けやシワの発生を防ぐことができるからである。また、偏光子保護用光学フィルムの横方向の引張強度は、30MPa以上であることがより好ましい。アクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの誘導体がグラフト共重合された変性ポリプロピレンを用いた場合、成形加工に際して突発的なフィルム切れが発生することがあり、それを防止することができるからである。さらに、縦方向及び横方向の引張強度がともに30MPa以上であると、成形加工の安定性が高く、特に好ましいものである。
なお、本発明において、引張強度は、ASTM D638(Type4条件)に準拠して測定されるものとする。また、縦方向とは、混合樹脂からフィルム形状に成形加工する際に、フィルムの流れ方向を意味し、横方向とは、フィルム面内で縦方向に直交する方向を意味する。
【0055】
偏光子保護用光学フィルムには、偏光子と接する面に接着性向上のために易接着処理を施すことができる。易接着処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、低圧UV処理、ケン化処理等の表面処理やアンカー層を形成する方法が挙げられ、これらを併用することもできる。これらの中でも、コロナ処理、アンカー層を形成する方法、およびこれらを併用する方法が好ましい。
【0056】
また、偏光子保護用光学フィルムと偏光子との密着性を上げるために接着剤層を形成する場合は、偏光子保護用光学フィルムか偏光子かのいずれかの側または両側に接着剤を塗布することにより行う。
易接着処理を行った面もしくは接着剤層を形成した面を介して、偏光子保護用光学フィルムと偏光子とを貼り合せた後に、乾燥工程を施し、塗布乾燥層からなる接着剤層を形成する。接着剤層を形成した後にこれを貼り合わせることもできる。偏光子と偏光子保護用光学フィルムの貼り合わせは、ロールラミネーター等により行うことができる。加熱乾燥温度、乾燥時間は接着剤の種類に応じて適宜決定される。
接着剤層の厚みは、乾燥後の厚みで厚くなりすぎると偏光子保護用光学フィルムの接着性の点で好ましくないことから、好ましくは0.01〜10μm、さらに好ましくは0.03〜5μmである。
【0057】
また、偏光子保護用光学フィルムの表面には、機能層を積層して、各種の機能、例えば、高硬度で耐擦傷性を有する、いわゆるハードコート機能、防曇コート機能、防汚コート機能、防眩コート機能、反射防止コート機能、紫外線遮蔽コート機能、赤外線遮蔽コート機能などを付与することもできる。
【0058】
《偏光子保護用光学フィルムの製造方法》
偏光子保護用光学フィルムは、好ましくは上記したメタロセン触媒を用いてポリプロピレンを重合する工程(1)、上記したポリプロピレンを幹重合体とし、枝重合体をグラフト共重合させてグラフト変性ポリプロピレンを得る工程(2)、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレン及びグラフト変性ポリプロピレンを混合し加熱溶融して混合樹脂を得る工程(3)、及び該混合樹脂を成形加工する工程(4)を有する製造方法により、製造することができる。
【0059】
工程(3)では、より具体的には、工程(1)で得られたメタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンと、工程(2)で得られたグラフト変性ポリプロピレンと、所望に応じて各種の添加剤や添加樹脂とを混合し、加熱溶融させて、混合樹脂を得る。
得られた混合樹脂は、工程(4)の成形加工を経て、本発明の偏光子保護用光学フィルムとなる。成形加工は、押出しコーティング成形法、キャスト法、Tダイ押出し成形法、インフレーション法、射出成形法等の各種成形法により行うことができる。本発明では、偏光子上に作製される偏光子保護用光学フィルムが配向しないことが望まれるため、延伸のかからない未延伸のTダイ押出し成形が望ましい。
【0060】
[偏光板]
本発明の偏光板は、上記の偏光子保護用光学フィルムが、偏光子の少なくとも片面に形成されたものである。形成の方法としては、偏光子の上に偏光子保護用光学フィルムを直接成形してもよいし、偏光子保護用光学フィルムを先に作製しておき、その後、接着剤層を介して偏光子に貼り合わせてもよい。
図1に、本発明の偏光板の例を示す。図1において、2は偏光子であり、その片面に接着剤層3を介して、偏光子保護用光学フィルム1が形成され、全体として偏光板4を構成している。
本発明の偏光板は、上記の偏光子保護用光学フィルムにより、用途に応じた特性が付与された高性能の偏光板である。
【0061】
《偏光子》
偏光板で用いる偏光子としては、特定の振動方向をもつ光のみを透過する機能を有する偏光子であれば如何なるものでもよく、例えばPVA系フィルム等を延伸し、ヨウ素や二色性染料などで染色したPVA系偏光子;PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系偏光子;コレステリック液晶を用いた反射型偏光子;薄膜結晶フィルム系偏光子等が挙げられ、その中でもPVA系偏光子が好ましく用いられる。
PVA系偏光子としては、例えばPVA系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したものが挙げられる。これらのなかでもPVA系フィルムとヨウ素などの二色性物質からなる偏光子が好適に用いられる。これら偏光子の厚さは特に制限されず、一般的に、1〜100μm程度である。
【0062】
偏光子を構成する樹脂として好適に用いられるPVA系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニル及びこれと共重合可能な他の単量体の共重合などが例示される。酢酸ビニルに共重合される他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。
PVA系樹脂のケン化度は、通常85〜100モル%、好ましくは98〜100モル%の範囲である。このPVA系樹脂は、さらに変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなども使用し得る。PVA系樹脂の重合度は、通常1,000〜10,000、好ましくは1,500〜10,000の範囲である。
【0063】
《偏光板の製造方法》
偏光板は、例えば、上述のようなPVA系フィルムを一軸延伸する工程(I)、PVA系樹脂フィルムを二色性色素で染色して、その二色性色素を吸着させる工程(II)、二色性色素が吸着されたPVA系フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程(III)、ホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程(IV)、及びこれらの工程が施されて二色性色素が吸着配向された一軸延伸PVA系フィルムに偏光子保護用光学フィルムを貼り付ける工程(V)を経て、製造される。
【0064】
(工程(I))
一軸延伸は、二色性色素による染色の前に行ってもよいし、二色性色素による染色と同時に行ってもよいし、また、二色性色素による染色の後に行ってもよい。一軸延伸を二色性色素による染色後に行う場合には、この一軸延伸は、ホウ酸処理の前に行ってもよいし、ホウ酸処理中に行ってもよい。また、これらの複数の段階で一軸延伸を行うことも可能である。一軸延伸するには、周速の異なるロール間で一軸に延伸してもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸してもよい。また、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、溶剤により膨潤した状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常4〜8倍程度である。
【0065】
(工程(II))
PVA系フィルムを二色性色素で染色するには、例えば、PVA系フィルムを、二色性色素を含有する水溶液に浸漬すればよい。二色性色素として、具体的にはヨウ素又は二色性染料が用いられる。
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は通常、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含有する水溶液に、PVA系フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は通常、水100質量部あたり0.01〜0.5質量部程度であり、ヨウ化カリウムの含有量は通常、水100質量部あたり0.5〜10質量部程度である。この水溶液の温度は、通常20〜40℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間は、通常30〜300秒程度である。
【0066】
一方、二色性色素として二色性染料を用いる場合は通常、水溶性二色性染料を含む水溶液に、PVA系フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性染料の含有量は通常、水100質量部あたり1×10-3〜1×10-2質量部程度である。この水溶液は、硫酸ナトリウムなどの無機塩を含有していてもよい。この水溶液の温度は、通常20〜80℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間は、通常30〜300秒程度である。
【0067】
(工程(III))
二色性色素による染色後のホウ酸処理は、染色されたPVA系フィルムをホウ酸水溶液に浸漬することにより行われる。ホウ酸水溶液におけるホウ酸の含有量は通常、水100質量部あたり2〜15質量部程度、好ましくは5〜12質量部程度である。
二色性色素としてヨウ素を用いる場合には、このホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有するのが好ましい。ホウ酸水溶液におけるヨウ化カリウムの含有量は通常、水100質量部あたり2〜20質量部程度、好ましくは5〜15質量部である。ホウ酸水溶液への浸漬時間は、通常100〜1,200秒程度、好ましくは150〜600秒程度、さらに好ましくは200〜400秒程度である。ホウ酸水溶液の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50〜85℃である。
【0068】
(工程(IV))
ホウ酸処理後のPVA系フィルムは、通常、水洗処理される。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたPVA系フィルムを水に浸漬することにより行われる。水洗後は乾燥処理が施されて、偏光子が得られる。水洗処理における水の温度は、通常5〜40℃程度であり、浸漬時間は、通常2〜120秒程度である。その後に行われる乾燥処理は通常、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行われる。乾燥温度は、通常40〜100℃である。乾燥処理における処理時間は、通常120〜600秒程度である。
こうして、ヨウ素又は二色性染料が吸着配向されたPVA系フィルムからなる偏光子が得られる。
【0069】
(工程(V))
偏光子と偏光子保護用光学フィルムとの貼り合せの方法としては、接着剤層を介して行うことができる。接着剤層を形成する接着剤としては、PVA系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフトさせたポリオレフィンもしくは前記グラフトさせたポリオレフィンをブレンドしたポリオレフィン系接着剤などが挙げられる。その他、透明性を有する接着剤、例えば、ポリビニルエーテル系、ゴム系等の接着剤を使用することができる。なかでも、PVA系接着剤が好ましい。
【0070】
PVA系接着剤は、PVA系樹脂と架橋剤を含有するものであり、PVA系樹脂としては、例えばポリ酢酸ビニルをケン化して得られたPVA及びその誘導体、酢酸ビニルと共重合性を有する単量体との共重合体のケン化物、PVAをアセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化又はリン酸エステル化等した変性PVAなどが挙げられる。これらPVA系樹脂は一種を単独でまたは二種以上を併用することができる。酢酸ビニルと共重合性を有する単量体としては、(無水)マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸及びそのエステル類、エチレンやプロピレン等のα−オレフィン、(メタ)アリルスルホン酸(ソーダ)、スルホン酸ソーダ(モノアルキルマレート)、ジスルホン酸ソーダアルキルマレート、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミドアルキルスルホン酸アルカリ塩、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロリドン誘導体等が挙げられる。
PVA系樹脂の重合度等は特に限定されないが、接着性などが良好になることから、平均重合度100〜3000程度、好ましくは500〜3000、平均ケン化度85〜100モル%程度、好ましくは90〜100モル%程度のものを用いることが好ましい。
【0071】
エポキシ系接着剤としては、水素化エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂などがある。エポキシ樹脂には、さらにオキタセン類やポリオール類など、カチオン重合を促進する化合物を含有してもよい。
【0072】
アクリル系接着剤としては、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステルと、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、メタクリル酸、クロトン酸等のα−モノオレフィンカルボン酸との共重合物(アクリルニトリル、酢酸ビニル、スチロールの如きビニル単量体を添加したものも含む)を主体とするものが、偏光子の偏光特性を阻害することがないので特に好ましい。
【0073】
また、不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフトさせたポリオレフィンもしくは前記グラフトさせたポリオレフィンをブレンドしたポリオレフィンを接着剤として使用することもできる。グラフトに用いられるポリオレフィンとしては、たとえば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、チーグラー系触媒又はメタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、これらの混合物などである。ポリオレフィンのグラフトに用いる不飽和カルボン酸またはその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸などを挙げることができる。こうして得た変性ポリオレフィンはそのまま用いてもよいが、ポリオレフィンに配合して用いることもできる。
【0074】
本発明において、上記偏光子や上記接着剤層には、例えばサリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物やシアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で処理する方式などにより紫外線吸収能を付与してもよい。
【0075】
上記接着剤層は、偏光子保護用光学フィルム又は偏光子のいずれかの側または両側に、接着剤を塗布することにより形成する。接着剤層の厚みは、好ましくは0.01〜10μm、さらに好ましくは0.03〜5μmである。
【0076】
また、偏光子保護用光学フィルムを偏光子と接着させるに際し、偏光子保護用光学フィルムの偏光子と接する面に接着性向上のために易接着処理を施すことができる。易接着処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、低圧UV処理、ケン化処理等の表面処理やアンカー層を形成する方法が挙げられ、これらを併用することもできる。これらの中でも、コロナ処理、アンカー層を形成する方法、およびこれらを併用する方法が好ましい。
【0077】
次いで、上記のようにして易接着処理を行った面に接着剤層を形成し、前記接着剤層を介して、偏光子と偏光子保護用光学フィルムとを貼り合せる。
偏光子と偏光子保護用光学フィルムとの貼り合わせは、ロールラミネーター等により行うことができる。なお、加熱乾燥温度、乾燥時間は接着剤の種類に応じて適宜決定される。
【0078】
(その他)
本発明の偏光子保護用光学フィルムが偏光子の一方の面に形成された偏光板には、必要に応じて偏光子の他方の面に、本発明の偏光子保護用光学フィルムを形成することもできるし、その他の樹脂からなるフィルムを形成することもできる。その他の樹脂からなるフィルムとしては、例えばフマル酸ジエステル系樹脂、トリアセチルセルロースフィルム、ポリエーテルサルフォンフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリナフタレンテレフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、環状ポリオレフィンフィルム、マレイミド系樹脂フィルム、フッ素系樹脂フィルム等が挙げられる。上記その他の樹脂からなるフィルムは特定の位相差を持つ位相差フィルムであっても良い。
【0079】
偏光板は、表面性、耐傷付き性を向上させる為に、少なくとも一層以上のハードコート層を有する積層体とすることが好ましい。前記ハードコート層としては、例えばシリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、紫外線硬化型樹脂、ウレタン系ハードコート剤等よりなるハードコート層が挙げられ、その中でも透明性、耐傷付き性、耐薬品性の点から、紫外線硬化型樹脂よりなるハードコート層が好ましい。これらのハードコート層は、一種類以上で用いることができる。
紫外線硬化型樹脂としては、例えば紫外線硬化型アクリルウレタン、紫外線硬化型エポキシアクリレート、紫外線硬化型(ポリ)エステルアクリレート、紫外線硬化型オキセタン等から選ばれる一種類以上の紫外線硬化樹脂が挙げられる。
ハードコート層の厚みは、0.1〜100μmが好ましく、特に好ましくは1〜50μm、さらに好ましくは2〜20μmである。また、ハードコート層の間にプライマー処理をすることもできる。
【0080】
また、偏光板は、必要に応じて、反射防止や低反射処理などの公知の防眩処理を行うことができる。
【0081】
[画像表示装置]
本発明の偏光板は、画像表示用の各種装置に好ましく使用することができる。
画像表示装置としては、液晶セルを含む液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(以下「有機EL」という)表示装置、タッチパネル等が挙げられ、偏光板を使用するものであれば、画像表示装置の種類の限定はない。また、液晶ディスプレイの場合、画像表示装置は、一般に、液晶セル、光学フィルム、及び必要に応じての照明システム等の構成部品を適宜に組立てて駆動回路を組込むことなどにより形成されるが、本発明においては、上記した偏光板を用いる点を除いて、画像表示装置の構成には特に限定はない。例えば、液晶セルの片側又は両側に偏光板を配置した画像表示装置や、照明システムとしてバックライト又は反射板を用いたものなどの適宜な画像表示装置が例示される。また、液晶セルについても、例えばTN型やSTN型、π型などの任意なタイプのものを用いうる。なお、画像表示装置を構成するに際しては、例えば、拡散板、アンチグレア層、反射防止膜、保護板、プリズムアレイ、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。
【0082】
《液晶セルを含む液晶ディスプレイ》
本発明の偏光板は、例えば液晶セルなどに積層して好適に使用される。
本発明の画像表示装置の例として、図2に、液晶セルを含む液晶ディスプレイの構成例を示す。図2において、6は液晶セルを示す。この液晶セル6は、例えば、薄膜トランジスタ型に代表されるアクティブマトリクス駆動型等や、ツイストネマチック型、スーパーツイストネマチック型に代表される単純マトリクス駆動型などのものが例示される。この液晶セル6の上に、粘着剤層(図示せず)を介して、位相差板(複屈折板)5が積層され、この上に、粘着剤層(図示せず)を介して、偏光板4が積層されたものである。偏光板4は、中心に偏光子2を有し、その両側の表面に、接着剤層3を介して、偏光子保護用光学フィルム1が積層されている。偏光板4と位相差板5、位相差板5と液晶セル6の積層に際しては、予め偏光板4、位相差板5及び液晶セル6に粘着剤層を設けておくこともできる。
【0083】
偏光板と液晶セルとを積層する粘着剤としては特に限定されず、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。なかでも、アクリル系粘着剤が、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性などに優れているので好ましい。
前記粘着剤には、光学的透明性、適度な濡れ性、凝集性、接着性などの粘着特性、耐候性、耐熱性などに優れることが求められる。さらに吸湿による発泡現象や剥がれ現象の防止、熱膨張差等による光学特性の低下や液晶セルの反り防止、ひいては高品質で耐久性に優れる画像表示装置の形成性などの点より、吸湿率が低くて耐熱性に優れる粘着剤層が求められる。
【0084】
粘着剤には、例えば天然物や合成物の樹脂類、特に、粘着性付与樹脂や、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉、その他の無機粉末等からなる充填剤や顔料、着色剤、酸化防止剤などの添加剤を含有していてもよい。また微粒子を含有して光拡散性を示す粘着剤層であってもよい。粘着剤層には、例えばサリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物やシアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で処理する方式などにより紫外線吸収能を付与してもよい。
【0085】
偏光板への上記粘着剤の塗工は、特に限定されず、適宜な方法で行うことができる。例えば、トルエンや酢酸エチル等の適宜な溶剤の単独物又は混合物からなる溶媒に、ベースポリマー又はその組成物を溶解又は分散させた10〜40質量%程度の粘着剤溶液を調製し、それを流延方式や塗工方式等の適宜な展開方式で偏光板上に直接塗工する方法、或いはこの方法に準じ離型性ベースフィルム上に粘着剤層を形成してそれを偏光板に移着する方法などが挙げられる。
塗工方法は、グラビアコート、バーコート、ロールコート、リバースロールコート、コンマコート等、各種方法が可能であるが、グラビアコートが最も一般的である。
【0086】
粘着剤層は、異なる組成又は種類等のものの重畳層として偏光板の片面又は両面に設けることもできる。また、両面に設ける場合、偏光板の表裏において、粘着剤が同一組成である必要はなく、また同一の厚さである必要もない。異なる組成、異なる厚さの粘着剤層とすることもできる。
また、粘着剤層の厚さは、使用目的や接着力などに応じて適宜に決定でき、一般には1μm〜500μmであり、5μm〜200μmが好ましく、特に10μm〜100μmが好ましい。
【0087】
粘着剤層の露出面に対しては、実用に供するまでの間、その汚染防止等を目的に離型性フィルムが仮着されてカバーされることが好ましい。これにより、通例の取扱状態で粘着剤層に接触することを防止できる。離型性フィルムとしては、例えばプラスチックフィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体等の適宜な薄葉体を、必要に応じシリコーン系や長鎖アルキル系、フッ素系や硫化モリブデン等の適宜な剥離剤でコート処理したものなどの、従来公知なものを用いることができる。
【0088】
(有機EL表示装置)
本発明の偏光板は、有機EL表示装置にも好適に使用し得る。
一般に、有機EL表示装置は、透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。ここで、有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、あるいはこのような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体や、これらの正孔注入層、発光層、および電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
【0089】
有機EL表示装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、有機発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物資を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中の再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
有機EL表示装置においては、有機発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明でなくてはならず、通常、酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いている。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg−Ag、Al−Liなどの金属電極を用いている。
【0090】
このような構成の有機EL表示装置において、有機発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、有機発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
【0091】
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに、有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において、透明電極の表面側に偏光板を設け且つ前記透明電極と偏光板との間に複屈折層(位相差板)を設けることができる。
【0092】
偏光板は、外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため、その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に、複屈折層をλ/4板で構成し、かつ偏光板と前記複屈折層との偏光方向のなす角をπ/4に調整すれば、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
すなわち、この有機EL表示装置に入射する外部光は、偏光板により直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は、一般には複屈折層によって楕円偏光となるが、複屈折層がλ/4板でしかも偏光板との偏光方向のなす角がπ/4のときには円偏光となる。この円偏光は、透明基板、透明電極、有機薄膜を透過し、金属電極で反射して、再び有機薄膜、透明電極、透明基板を透過して、複屈折層で再び直線偏光となる。そして、この直線偏光は、偏光板の偏光方向と直交しているので、偏光板を透過できない。その結果、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【0093】
(タッチパネル)
本発明の偏光板は、タッチパネルにも好適に使用し得る。
一般に、タッチパネルは、操作者が表示画面の上部に設けられた透明な面をペン、または指でタッチすることで、装置、システムの操作を行うものである。画面上を直接タッチすることは、カーソルを方向キーで押して位置を確定することに比べれば、より直接的であり、また直感的でもあることから、近年、非常に多用されるようになっている。また、近年、携帯電話、およびPDA(Personal Digital Assistants;個人用の携帯情報端末)等の携帯端末市場の成長は著しく、太陽光のもとでの視認性、および薄型軽量が強く要求されるようになった。タッチパネルには種々の方式があり、その得失により使い分けられている。タッチパネルには、抵抗膜方式、光学式、静電容量結合方式(アナログ容量結合方式とも呼ばれる)、赤外線方式、超音波式、および電磁誘導式等の方式がある。ここでは、抵抗膜方式のタッチパネルの例で説明する。
【0094】
抵抗膜方式のタッチパネルには、ガラス/ガラスタイプとガラス/フィルムタイプがある。ガラス/ガラスタイプは透明導電層付ガラス基板と透明導電層付ガラス基板が空間を介して保持されたものであり、これがディスプレイ表面に装着される。また、ガラス/フィルムタイプは、車載用あるいは携帯用のタッチパネルにおいて、より軽量化・薄型化したものが望まれるため、上部の透明導電層付ガラス基板を光学フィルムで置き換えたタイプのタッチパネルである。
【0095】
直線偏光板、あるいは偏光板にλ/4板を組み合わせて積層した円偏光板をタッチパネルの最表面に使用すれば、タッチパネルとして十分な強度を得ることができ、かつ、反射防止の効果により視認性が向上する。これらタッチパネルの偏光板に本発明の偏光子保護用光学フィルムが好適に使用できる。
本発明の偏光子保護用光学フィルムと偏光子からなる偏光板とλ/4板を、λ/4板の面内の遅相軸と偏光板の偏光軸との角度が実質的に45°になるように積層すると円偏光板が得られる。実質的に45°とは、40〜50°であることを意味する。λ/4板の面内の遅相軸と偏光膜の偏光軸との角度は、41〜49°であることが好ましく、42〜48°であることがより好ましく、43〜47°であることがさらに好ましく、44〜46°であることが最も好ましい。
【0096】
本発明の偏光子保護用光学フィルムは偏光板の保護膜上・下・下外(ITOを設ける軽量化用フィルム)のいずれにも使用できる。また、タッチパネルの反射防止には、直線偏光タイプと円偏光タイプがあるが(直線偏光は円偏光に比べて反射率が高い)、本発明の偏光子保護用光学フィルムは円偏光板にも直線偏光タイプの偏光板にも使用できる。
本発明の偏光子保護用光学フィルムを使用した円偏光板、又は直線偏光板は、透過型・反射型どちらのタッチパネルにも使用できる。
【実施例】
【0097】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
[偏光子保護用光学フィルム]
(評価方法)
(1)引張強度:ASTM D638(Type4条件)に基づき測定した。縦方向とは、混合樹脂からフィルム形状に成形加工する際に、フィルムの流れ方向をいい、横方向とは、フィルム面内で縦方向に直交する方向をいう。
(2)ヘーズ値:JIS K7136に基づき測定した。
(3)面内位相差:位相差測定機(王子計測機器(株)製「KOBRA−21ADH」)を用いて、波長R589.5nm、入射角0度で測定した。
(4)シワの発生状況
成形加工されたフィルムの巻取ロールの外観を目視確認して、以下の基準で評価した。
○:シワの発生は見られなかった(又は稀にしか見られなかった)
△:シワの発生は若干みられたが、実用上問題ない
×:シワの発生が見られた
(5)フィルム切れの発生状況
成形加工の進行中におけるフィルムの状態を以下の基準で評価した。
○:突発的なフィルム切れの発生は見られなかった(又は稀にしか見られなかった)
△:突発的なフィルム切れの発生が若干見られたが、実用上問題ない
×:突発的なフィルム切れの発生が著しく見られた
【0098】
(実施例1)
メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製、ウィンテック(商品名)、無変性重合体、融点135℃、曲げ弾性率1,200MPa)と、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)をランダム共重合ポリプロピレンにグラフト共重合させて得た変性ポリプロピレン(日油(株)製、変性ポリプロピレン100質量部に対してPMMA成分が50質量部)とを、混合樹脂中におけるPMMA成分が5質量%となる割合で混合し、加熱溶融させた。加工温度200℃・引取りロール温度30℃の条件で、フィルム幅1000mm、フィルム厚み100μmでTダイ単層押し出し成形することにより、偏光子保護用光学フィルムを得た。
【0099】
(実施例2)
混合樹脂中におけるPMMA成分が15質量%となる割合で混合した以外は、実施例1と同様にして、偏光子保護用光学フィルムを得た。
【0100】
(実施例3)
混合樹脂中におけるPMMA成分が30質量%となる割合で混合した以外は、実施例1と同様にして、偏光子保護用光学フィルムを得た。
【0101】
(実施例4)
混合樹脂中におけるPMMA成分が3質量%となる割合で混合した以外は、実施例1と同様にして、偏光子保護用光学フィルムを得た。
【0102】
(実施例5)
混合樹脂中におけるPMMA成分が35質量%となる割合で混合した以外は、実施例1と同様にして、偏光子保護用光学フィルムを得た。
【0103】
(比較例1)
メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製、ウィンテック(商品名)、融点135℃、曲げ弾性率1,200MPa)のみを用いて、グラフト変性ポリプロピレンを混合しなかった以外は、実施例1と同様にして、偏光子保護用光学フィルムを得た。
【0104】
(比較例2)
変性ポリプロピレンに代えて、高密度ポリエチレン(日本ポリプロ(株)製、ノバテックHB530(商品名)、融点136℃、曲げ弾性率1,600MPa)を用いて、混合樹脂中における高密度ポリエチレン成分が混合樹脂中において5質量%となる割合で混合した以外は、偏光子保護用光学フィルムを得た。
【0105】
(比較例3)
実施例1のメタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンに代えて、チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合されたポリプロピレン((株)プライムポリマー製、Y2045GPP(商品名))を用いた以外は、実施例1と同様にして、偏光子保護用光学フィルムを得た。
【0106】
第1表に、実施例1〜5及び比較例1〜3で得られた偏光子保護用光学フィルムの評価結果を示した。実施例1〜5にて、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンに、PMMAグラフト変性ポリプロピレンを混合することにより、PMMAグラフト変性ポリプロピレンを混合しなかった比較例1と比べて、引張強度が向上した。比較例1では、特にフィルム端部において裂けやシワが発生する傾向があった。比較例2で、高密度ポリエチレンを添加した場合は、引張強度は低下し、フィルム全体にシワが発生した。また、チーグラー系触媒を用いて重合して得られたポリプロピレンを用いた比較例3では、十分な光学特性が得られなかった。
【0107】
実施例4のPMMA成分比を3質量%とした場合は、フィルム端部において裂けやシワの発生が若干ではあるが時々見られた。また、実施例5のPMMA成分比を35質量%とした場合は、横方向の引張強度が低下し、突発的なフィルム切れの発生が若干ではあるが見られた。そのため、混合樹脂中のPMMA成分比は、5〜30質量%の範囲とすることが好ましいことが分かる。また、PMMA成分が増加すると徐々にヘーズ値や位相差が大きくなるので、その影響を抑える観点からも、PMMA成分比は、5〜30質量%とすることが好ましいことが分かる。
【0108】
また、実施例1〜3、5にて、縦方向の引張強度が30MPa以上の場合は、シワの発生は見られず(又は稀にしか見られず)に、巻取状態の評価が良好であった。さらに、実施例1〜2にて、縦方向及び横方向の引張強度がともに30MPa以上の場合は、突発的なフィルム切れの発生も見られず、安定的に成形加工をおこなうことができた。
【0109】
【表1】

*1,混合樹脂中における高密度ポリエチレン成分の質量比率:5質量%
【0110】
[偏光板]
(評価方法)
(6)耐熱性試験
サンプルを温度90℃・湿度無制御のオーブンに1,000時間放置した後、そのサンプルの変形や着色の有無を目視で評価した。評価の基準は、以下の通りである。
○:変形及び着色は見られない
×:変形又は/及び着色が見られた
(7)耐湿熱性試験
サンプルを温度90℃・湿度95%HRのオーブンに1,000時間放置した後、そのサンプルの変形や着色の有無を目視で評価した。評価の基準は、以下の通りである。
○:変形及び黄変は見られない、
×:変形又は/及び黄変が見られた
【0111】
(実施例6)
実施例2で得られた偏光子保護用光学フィルム(幅150mm×長150mm)を、ヨウ素が吸着配向されたポリビニルアルコール系フィルムからなる偏光子の両面に、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られたPVAを用いて接着することにより、偏光板を得た。
【0112】
(比較例4)
トリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム(株)製、フジタック(商品名))(幅150mm×長150mm)を、ヨウ素が吸着配向されたポリビニルアルコール系フィルムからなる偏光子の両面に、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られたPVAを用いて接着することにより、偏光板を得た。
【0113】
第2表に、実施例6及び比較例4で得られた偏光板の評価結果を示した。実施例6の偏光板は、耐熱性試験及び耐熱湿性試験において変形及び黄変は見られなかった。一方、比較例3の偏光板は、耐熱性試験において黄変が発生し、耐熱湿性試験において変形によって周辺部から2mm程度の部分に接着剥離が発生した。
【0114】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の偏光子保護用光学フィルムは、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンの光学特性や防湿性を保持しながら、量産適性に優れ、所望の用途別特性を付与することができるので、偏光子と組み合わせた偏光板の製造に好適に用いられる。また、得られた偏光板は、液晶セルを含む液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(以下「有機EL」という)表示装置、タッチパネルといった画像表示装置に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0116】
1:偏光子保護用光学フィルム
2:偏光子
3:接着剤層
4:偏光板
5:位相差板(複屈折板)
6:液晶セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンと、グラフト変性ポリプロピレンとの混合樹脂を含むことを特徴とする偏光子保護用光学フィルム。
【請求項2】
前記グラフト変性ポリプロピレンが、アクリル化合物をグラフト共重合してなる変性ポリプロピレンであることを特徴とする請求項1に記載の偏光子保護用光学フィルム。
【請求項3】
前記グラフト変性ポリプロピレンが、ビニル化合物をグラフト共重合してなる変性ポリプロピレンであることを特徴とする請求項1に記載の偏光子保護用光学フィルム。
【請求項4】
前記グラフト変性ポリプロピレンが、スチレン又はその誘導体をグラフト共重合してなる変性ポリプロピレンであることを特徴とする請求項1に記載の偏光子保護用光学フィルム。
【請求項5】
前記アクリル化合物が、アクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの誘導体であることを特徴とする請求項2に記載の偏光子保護用光学フィルム。
【請求項6】
混合樹脂中のアクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの誘導体に起因する構成成分の質量比率が、5〜30質量%であることを特徴とする請求項5に記載の偏光子保護用光学フィルム。
【請求項7】
偏光子保護用光学フィルムの縦方向及び横方向の引張強度が各々30MPa以上であることを特徴とする請求項5に記載の偏光子保護用光学フィルム。
【請求項8】
偏光子の少なくとも片面に、請求項1〜7のいずれか1つに記載された偏光子保護用光学フィルムが形成されていることを特徴とする偏光板。
【請求項9】
請求項8に記載された偏光板が使用されていることを特徴とする画像表示装置。
【請求項10】
下記工程(1)〜工程(4)を有する偏光子保護用光学フィルムの製造方法。
工程(1)メタロセン触媒を用いてポリプロピレンを合成する工程
工程(2)ポリプロピレンを幹重合体とし、枝重合体をグラフト共重合させてグラフト変性ポリプロピレンを合成する工程
工程(3)メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンとグラフト変性ポリプロピレンとを混合し加熱溶融して混合樹脂を得る工程
工程(4)該混合樹脂を成形加工する工程

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−107969(P2010−107969A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222784(P2009−222784)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】