説明

偏心ロッドの固定構造および振動発生装置

【課題】低い回転数のみならず、高い回転数で駆動させた場合であっても、振動により発生する音の大きさを小さくすることのできる偏心ロッドの固定構造および振動発生装置を提供する。
【解決手段】振動発生装置としての電動歯ブラシは、ケース10、モータ20、偏心ロッド30A、ステム40、口腔衛生部材とを備えている。偏心ロッド30Aは、偏心分銅部33と、モータ20の駆動シャフト21に接続されるロッド部34とを有する。偏心分銅部33の第1中心軸33tと、ロッド部34の第2中心軸34tを偏心分銅部33側に延長することにより規定される延長線34sとの間の角度θは、偏心ロッド30Aの一端31が軸受部44に挿入されていない状態において、0°より大きく約10°以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏心ロッドの固定構造および振動発生装置に関し、特に、偏心ロッドの回転により振動を発生させる偏心ロッドの固定構造および振動発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8および図9を参照して、振動発生装置の一例として、電動歯ブラシ1について説明する。電動歯ブラシ1は、一般的な偏心ロッドの固定構造を採用している。なお、電動歯ブラシ1と同様な構成が、特開2009−240155号公報(特許文献1)に開示されている。
【0003】
主として図9を参照して、一般的な電動歯ブラシ1は、ケース10、モータ20、偏心ロッド30、ステム40、および口腔衛生部材50を備えている。ケース10は、筒状に形成されている。ケース10は、電動歯ブラシ1の使用者により把持される。ケース10の表面には、操作部13が設けられている。
【0004】
モータ20は、ケース10の一端11寄りに内蔵されている。モータ20は、駆動シャフト21を有している。モータ20は、駆動シャフト21を回転させるために、ケース10に内蔵された所定の電源(不図示)に接続されている。偏心ロッド30は、略棒状に形成されている。偏心ロッド30は、錘部33bを有している。錘部33bの重心位置は、偏心ロッド30の中心軸30tから外側(図9紙面下方側)にずれている。換言すると、錘部33bは、偏心ロッド30の中心軸30tに対して偏心している。偏心ロッド30の他端32側は、駆動シャフト21に接続されている。
【0005】
ステム40は、キャップ状に形成されている。ステム40の一端41側の内側には、軸受部44が設けられている。軸受部44には、偏心ロッド30の一端31が挿入される。ステム40は、偏心ロッド30を覆うようにしてケース10側に装着される。口腔衛生部材50は、筒状部51と刷掃部52とを有している。口腔衛生部材50の筒状部51が、ステム40の外側に取り付けられる。
【0006】
上記のように構成される電動歯ブラシ1の作用について説明する。使用者が操作部13を操作して、モータ20を駆動させる。モータ20は、駆動シャフト21を回転させる。偏心ロッド30は、駆動シャフト21から伝達される動力により、駆動シャフト21と一体となって回転する。
【0007】
錘部33bが中心軸30t回りに回転することにより、中心軸30t周りに遠心力が発生する。当該遠心力は、ステム40を振動させる。ステム40の振動は、口腔衛生部材50の筒状部51を通じて刷掃部52に伝達される。こうして、刷掃部52が振動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−240155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図10を参照して、電動歯ブラシ1のような偏心ロッドの固定構造および振動発生装置においては、ステム40が偏心ロッド30を挟んでケース10側に取り付けられる。ステム40がケース10側に取り付けられることにより、ステム40の軸受部44と、モータ20の駆動シャフト21とを結ぶ基準軸40tが規定される。
【0010】
一方、電動歯ブラシ1のような偏心ロッドの固定構造および振動発生装置においては、偏心ロッド30の全体としての中心軸30tは、直線状に形成されている。ステム40が偏心ロッド30を挟んでケース10に取り付けられることにより、偏心ロッド30の中心軸30tと、基準軸40tとは略同一直線上に配置される(図10下側参照)。
【0011】
低い回転数で電動歯ブラシ1(モータ20)を駆動させた場合、電動歯ブラシ1が振動することにより発生する音の大きさは小さい。しかしながら、比較的高い回転数(たとえば30000spm(Strokes per minute)以上)で電動歯ブラシ1を駆動させた場合、電動歯ブラシ1が振動することにより発生する音の大きさは大きくなる。
【0012】
本発明は、低い回転数のみならず、高い回転数で駆動させた場合であっても、振動により発生する音の大きさを小さくすることのできる偏心ロッドの固定構造および振動発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る偏心ロッドの固定構造は、振動発生装置に用いられる偏心ロッドの固定構造であって、駆動シャフトを有する回転駆動手段と、一端側に偏心分銅部と、他端側に上記駆動シャフトに接続されるロッド部とを有し、上記回転駆動手段から上記駆動シャフトを通して伝達される動力により回転する略棒状の偏心ロッドと、一端側の内側に軸受部を有し、上記偏心ロッドの上記一端が上記軸受部に挿入されるとともに、上記偏心ロッドを覆うように配設される振動部と、を備え、上記偏心分銅部は、上記偏心分銅部の長手方向に沿って延びる第1中心軸を有し、上記ロッド部は、上記ロッド部の長手方向に沿って延びる第2中心軸を有し、上記第2中心軸を上記偏心分銅部側に延長することにより延長線が規定され、上記偏心ロッドの上記一端が上記軸受部に挿入されていない状態において、上記偏心分銅部の上記第1中心軸と、上記延長線との間の角度は、0°より大きく約10°以下であり、上記偏心ロッドは、上記偏心ロッドの上記一端が上記軸受部に挿入されることにより、上記偏心ロッドの上記一端が上記軸受部の内周面に対して常に付勢するように固定される。
【0014】
上記発明に係る偏心ロッドの固定構造の他の形態においては、上記偏心ロッドの上記一端が上記軸受部に挿入されていない状態において、上記偏心分銅部の上記第1中心軸と、上記延長線との間の角度は、約2.0°以上約5.0°以下である。
【0015】
上記発明に係る偏心ロッドの固定構造の他の形態においては、上記ロッド部は、上記偏心分銅部を一端側に固定する略円柱状のロッドコネクタと、上記ロッドコネクタの他端側に取り付けられ、上記駆動シャフトに接続されるシャフト接続部とから一体的に構成され、上記ロッドコネクタの上記一端と上記ロッドコネクタの上記他端との間には、他の部分より相対的に直径の小さい略円柱状の括れ部が形成されている。
【0016】
上記発明に係る偏心ロッドの固定構造の他の形態においては、上記ロッドコネクタの材料はポリアセタールである。
【0017】
上記発明に係る偏心ロッドの固定構造の他の形態においては、上記偏心分銅部と上記ロッド部とは、一体成形されている。
【0018】
本発明に係る振動発生装置においては、上記いずれかに記載の偏心ロッドの固定構造を備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低い回転数のみならず、高い回転数で駆動させた場合であっても、振動により発生する音の大きさを小さくすることのできる偏心ロッドの固定構造および振動発生装置を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態1の電動歯ブラシの全体構成を示す断面図(一部側面図)である。
【図2】実施の形態1の電動歯ブラシに係る偏心ロッドを示す斜視図である。
【図3】実施の形態1の電動歯ブラシに係る、ケース、モータ、偏心ロッド、およびステムを示す断面図(組立図)である。
【図4】実施の形態2の電動歯ブラシに係る偏心ロッドを示す斜視図である。
【図5】実施の形態2の電動歯ブラシに係る、ケース、モータ、偏心ロッド、およびステムを示す断面図(組立図)である。
【図6】実施の形態2の電動歯ブラシに係る実験結果を概略的に示す第1図である。
【図7】実施の形態2の電動歯ブラシに係る実験結果を概略的に示す第2図である。
【図8】一般的な電動歯ブラシの全体構成を示す斜視図(組立図)である。
【図9】一般的な電動歯ブラシの全体構成を示す断面図(一部側面図)である。
【図10】一般的な電動歯ブラシに係る、ケース、モータ、偏心ロッド、およびステムを示す断面図(組立図)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に基づいた各実施の形態について、以下、図面を参照しながら説明する。以下の各実施の形態においては、偏心ロッドの固定構造および振動発生装置の一例として、モータの回転により振動を発生させる電動歯ブラシに基づいて説明する。以下の各実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。以下に説明する各実施の形態において、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0022】
[実施の形態1]
図1〜図3を参照して、本実施の形態における電動歯ブラシ1Aについて説明する。
【0023】
(構成)
図1を参照して、電動歯ブラシ1Aは、ケース10、モータ20(回転駆動手段)、偏心ロッド30A、ステム40(振動部)、および口腔衛生部材50とを備えている。ケース10、モータ20、ステム40、および口腔衛生部材50は、上記の電動歯ブラシ1と同様に構成される。ステム40の一端41側の内側に設けられている軸受部44は、ステム40と一体的に構成されていてもよく、ステム40とは別部品として構成されていてもよい。
【0024】
ケース10の材料は、たとえばABS樹脂(Acrylonitrile−Butadiene−Styrene共重合合成樹脂)である。ステム40の材料は、たとえばポリカーボネートである。ステム40の他端42側に環状に設けられる固定部材43の材料は、エラストマーにするとよい。口腔衛生部材50の筒状部51の材料は、たとえばポリプロピレンである。口腔衛生部材50の刷掃部52の材料は、たとえばナイロン(毛状)である。本実施の形態における口腔衛生部材50はブラシ状の部材である。口腔衛生部材50はマッサージ用のシリコン片群などであってもよい。
【0025】
図2を参照して、偏心ロッド30Aは、略棒状に形成されている。偏心ロッド30Aは、一端31側に偏心分銅部33と、他端32側にロッド部34とを有している。
【0026】
図3を参照して、偏心分銅部33は、円柱状の挿入部33aと、断面略C字形状の錘部33bと、接続部33cとにより一体的に構成されている。偏心分銅部33の材料は、たとえばりん青銅である。ステム40が偏心ロッド30Aを挟んでケース10側に取り付けられることにより、ステム40の軸受部44に、挿入部33aが挿入される(図3下側参照)。ケース10の中に収納され、基板やモータ等を内蔵するインナーケースにステム40を取り付けるようにしてもよい。
【0027】
偏心分銅部33の長手方向において、挿入部33aの中心軸および接続部33cの中心軸は、略同一直線上に位置している。挿入部33aの中心軸および接続部33cの中心軸は、偏心分銅部33の長手方向に沿って延びる第1中心軸33tを規定している。錘部33bの重心位置は、第1中心軸33tから外側(図3紙面上方側)にずれている。換言すると、錘部33bは、第1中心軸33tに対して偏心している。
【0028】
ロッド部34は、略円柱状の上部ロッドコネクタ34aと、略円柱状(断面略H形状)の下部ロッドコネクタ34bと、シャフト接続部34cとから構成されている。上部ロッドコネクタ34a(一端34aa側の部分を除く)と、下部ロッドコネクタ34bと、シャフト接続部34cとは、第2中心軸34t(詳細は後述する)を中心に、軸対称に形成されている。ここで言う軸対称とは、第2中心軸34tに直交する断面形状が、第2中心軸34tを中心に点対称であることを意味する。
【0029】
上部ロッドコネクタ34aおよびシャフト接続部34cの材料は、たとえばポリプロピレンである。下部ロッドコネクタ34bの材料は、たとえばエラストマーまたは他の弾力性を有する部材を採用することができる。
【0030】
上部ロッドコネクタ34aの一端34aa側には、凹部35が形成されている。偏心分銅部33の接続部33cは、凹部35に嵌挿している。下部ロッドコネクタ34bの一端34ba側には凹部36が形成されている。上部ロッドコネクタ34aの他端34abは、凹部36に嵌挿している。下部ロッドコネクタ34bの他端34bb側には凹部38が形成されている。シャフト接続部34cの一端34caは、凹部38に嵌挿している。上部ロッドコネクタ34aとシャフト接続部34cとを先に準備し、下部ロッドコネクタ34bを成形するときに、上部ロッドコネクタ34aとシャフト接続部34cと下部ロッドコネクタ34bとを一体化するとよい。
【0031】
下部ロッドコネクタ34bの長手方向における略中央部には、括れ部37が形成されている。括れ部37は、全体として略円柱上に形成されている。括れ部37の直径は、上部ロッドコネクタ34aの直径より小さくなっている。シャフト接続部34cの他端34cb側には、凹部39が形成されている。モータ20の駆動シャフト21が凹部39に嵌挿することにより、偏心ロッド30Aは駆動シャフト21に接続される。
【0032】
上部ロッドコネクタ34aの中心軸と、下部ロッドコネクタ34bの中心軸と、シャフト接続部34cの中心軸とは、略同一直線上に位置している。上部ロッドコネクタ34aの中心軸と、下部ロッドコネクタ34bの中心軸と、シャフト接続部34cの中心軸とは、ロッド部34の長手方向に沿って延びる第2中心軸34tを規定している。
【0033】
第2中心軸34tを偏心分銅部33側に延長することにより、延長線34sが規定される。偏心ロッド30Aの一端31が軸受部44に挿入されていない状態(偏心ロッド30Aの図3紙面上方側に示す状態)において、偏心分銅部33の第1中心軸33tと、上記の延長線34sとの間には、約2.0°以上約5.0°以下の角度θが形成されている。
【0034】
換言すると、偏心分銅部33は、偏心分銅部33の第1中心軸33tと、ロッド部34の第2中心軸34tとの間の角度が、約175°以上約178°以下となるように、ロッド部34に固定されている。
【0035】
(作用・効果)
ステム40は、偏心ロッド30Aを挟んでケース10側に取り付けられる。軸受部44に挿入部33aが挿入されるとき、偏心ロッド30Aの一端31側は、矢印AR1(図3紙面上方側参照)に示す方向に起立する。
【0036】
図1(または図3紙面下方側)を参照して、ステム40がケース10側に取り付けられる。偏心ロッド30Aの一端31側には、矢印AR2に示す方向に変位しようとする復元力が発生する。当該復元力により、挿入部33aの外周面は、軸受部44の内周面に対して常に付勢している。換言すると、挿入部33aの外周面は、軸受部44の内周面に常に押し当てられている。
【0037】
使用者が操作部13を操作して、モータ20を駆動させる。モータ20は、駆動シャフト21を回転させる。偏心ロッド30Aは、駆動シャフト21から伝達される動力により、駆動シャフト21と一体となって回転する。偏心ロッド30Aが回転するとき、挿入部33aの外周面は、軸受部44の内周面に対して摺動する。
【0038】
電動歯ブラシ1Aによれば、上記復元力が偏心ロッド30Aの一端31側に作用している。偏心ロッド30Aは、挿入部33aの外周面と、軸受部44の内周面との接触状態を確実に保った状態で回転することができる。モータ20が駆動シャフト21を高速で回転させた場合であっても、(冒頭に説明した電動歯ブラシ1に比べて、)挿入部33aの外周面と、軸受部44の内周面との接触状態をより良好に保つことができる。換言すると、電動歯ブラシ1Aによれば、挿入部33aの外周面と、軸受部44の内周面とが接触する機会をより多く得ることができる。
【0039】
挿入部33aの外周面と軸受部44の内周面とが接触していると、偏心ロッド30Aの両端(一端31および他端32)がいわゆる固定端となる。偏心ロッド30Aは、安定して回転することが可能となる。
【0040】
冒頭で説明した電動歯ブラシ1(図10参照)においては、偏心ロッド30の全体としての中心軸30tが、直線状に形成されている。ステム40が偏心ロッド30を挟んでケース10側に取り付けられたとしても、挿入部33aの外周面は、軸受部44の内周面に対して付勢していない(挿入部33aの外周面は、軸受部44の内周面に押し当てられていない)。電動歯ブラシ1によると、モータ20が駆動シャフト21を高速で回転させた場合、挿入部33aの外周面と軸受部44の内周面との接触状態を保つことができない。挿入部33aの外周面が、軸受部44の内周面を叩くようなばたつき音が発生する。偏心ロッド30は、安定して回転することができなくなる。結果として、偏心ロッド30が振動することにより発生する音の大きさは、大きくなる。
【0041】
本実施の形態における電動歯ブラシ1Aにおいては、ステム40が偏心ロッド30Aを挟んでケース10に取り付けられたとき、挿入部33aの外周面は、軸受部44の内周面に常に押し当てられているため、偏心ロッド30Aは安定して回転することが可能となる。挿入部33aの外周面が、軸受部44の内周面を叩くようなばたつき音が発生することを抑制することができる。結果として、偏心ロッド30Aが振動することにより発生する音の大きさを小さくすることが可能となる。
【0042】
電動歯ブラシ1Aにおいては、下部ロッドコネクタ34bに、全体として略円柱上の括れ部37が形成されている。括れ部37の直径は、上部ロッドコネクタ34aの直径より小さくなっている。括れ部37において、偏心ロッド30Aは曲がり易くなっている。
【0043】
偏心ロッド30Aが回転することにより、過度な負荷が偏心ロッド30Aに作用した場合であっても、括れ部37が曲がることによって上記負荷を軽減することができる。結果として、偏心ロッド30Aの耐用時間を長くすることが可能となる。上部ロッドコネクタ34aおよびシャフト接続部34cの材料をポリプロピレンにし、且つ下部ロッドコネクタ34bの材料をエラストマー(ポリプロピレンより柔らかい)にすることで、偏心ロッド30Aの耐用時間をより長くすることが可能となる。
【0044】
[実施の形態2]
図4および図5を参照して、本実施の形態における電動歯ブラシについて説明する。本実施の形態における電動歯ブラシと、上述の実施の形態1における電動歯ブラシ1Aとは、偏心ロッド30Bにおいて相違し、その他については同様に構成される。
【0045】
図4を参照して、偏心ロッド30Bは、略棒状に形成されている。偏心ロッド30Bは、一端31側に偏心分銅部33と、他端32側にロッド部34とを有している。
【0046】
図5を参照して、偏心分銅部33は、円柱状の挿入部33aと、断面略C字形状の錘部33bと、接続部33cとにより一体的に構成されている。偏心分銅部33の材料は、たとえばりん青銅である。ステム40が偏心ロッド30Bを挟んでケース10に取り付けられることにより、ステム40の軸受部44は、挿入部33aに挿入される(図5下側参照)。
【0047】
偏心分銅部33の長手方向において、挿入部33aの中心軸および接続部33cの中心軸は、同一直線上に位置している。挿入部33aの中心軸および接続部33cの中心軸は、偏心分銅部33の長手方向に沿って延びる第1中心軸33tを規定している。錘部33bの重心位置は、第1中心軸33tから外側(図5紙面上方側)にずれている。換言すると、錘部33bは、第1中心軸33tに対して偏心している。
【0048】
ロッド部34は、略円柱状のロッドコネクタ34dと、シャフト接続部34cとから構成されている。ロッドコネクタ34d(一端31側の部分を除く)と、シャフト接続部34cとは、第2中心軸34t(詳細は後述する)を中心に軸対称に形成されている。ロッドコネクタ34dは、図5紙面右側に位置する括れ部37(詳細は後述する)に至るまで、徐々にその直径が小さくなるように構成されているとよい。当該構成により、ロッドコネクタ34dは、括れ部37に至るまで、その直径が段階的に(階段状に)小さくなる場合に比べて、弾力性と耐久性とを向上させることが可能となる。
【0049】
ロッドコネクタ34dおよびシャフト接続部34cの材料は、ポリアセタールであるとよい。ロッドコネクタ34dとシャフト接続部34cとは、一体成形されている。ロッドコネクタ34dとシャフト接続部34cとは、別部品として構成されていてもよい。
【0050】
ロッドコネクタ34dの一端34da側には、凹部35が形成されている。偏心分銅部33の接続部33cは、凹部35に嵌挿している。ロッドコネクタ34dとシャフト接続部34cとを別部品として構成する(一体成形しない)場合、ロッドコネクタ34dの他端側と、シャフト接続部34cの一端側とが接合される。偏心分銅部33とロッドコネクタ34dとは、樹脂成形により、一体的に成形されているとよい。
【0051】
ロッドコネクタ34dの長手方向において、ロッドコネクタ34dの略中央部の他端寄り(シャフト接続部34c寄り)の部分には、括れ部37が形成されている。括れ部37は、全体として略円柱上に形成されている。括れ部37の直径は、ロッドコネクタ34dの他の部分の直径より小さくなっている。シャフト接続部34cの他端34cb側には、凹部39が形成されている。モータ20の駆動シャフト21が凹部39に嵌挿することにより、偏心ロッド30Bは駆動シャフト21に接続される。
【0052】
ロッドコネクタ34dの中心軸と、シャフト接続部34cの中心軸とは、略同一直線上に位置している。ロッドコネクタ34dの中心軸と、シャフト接続部34cの中心軸とは、ロッド部34の長手方向に沿って延びる第2中心軸34tを規定している。
【0053】
第2中心軸34tを偏心分銅部33側に延長することにより、延長線34sが規定される。偏心ロッド30Bの一端31が軸受部44に挿入されていない状態(偏心ロッド30Bの図5紙面上方側に示す状態)において、偏心分銅部33の第1中心軸33tと、上記の延長線34sとの間には、約2.0°以上約5.0°以下の角度θが形成されている。
【0054】
換言すると、偏心分銅部33は、偏心分銅部33の第1中心軸33tと、ロッド部34の第2中心軸34tとの間の角度が、約175°以上約178°以下となるように、ロッド部34に固定されている。
【0055】
(作用・効果)
ステム40は、偏心ロッド30Bを挟んでケース10側に取り付けられる。軸受部44に挿入部33aが挿入されるとき、偏心ロッド30Bの一端31側は、矢印AR1(図5紙面上方側参照)に示す方向に起立する。
【0056】
図5紙面下方側を参照して、ステム40がケース10に取り付けられる。偏心ロッド30Bの一端31側には、矢印AR2に示す方向に変位しようとする復元力が発生する。当該復元力により、挿入部33aの外周面は、軸受部44の内周面に対して常に付勢している。換言すると、挿入部33aの外周面は、軸受部44の内周面に対して常に押し当てられている。
【0057】
本実施の形態における電動歯ブラシにおいては、上述の実施の形態1における電動歯ブラシ1Aと同様に、偏心ロッド30Bは安定して回転することが可能となる。結果として、偏心ロッド30Bが振動することにより発生する音の大きさを小さくすることが可能となる。
【0058】
本実施の形態における電動歯ブラシにおいては、ロッドコネクタ34dに、全体として略円柱上の括れ部37が形成されている。括れ部37の直径は、ロッドコネクタ34dの他の部分の直径より小さくなっている。括れ部37において、偏心ロッド30Bは曲がり易くなっている。
【0059】
偏心ロッド30Bが回転することにより、過度な負荷が偏心ロッド30Bに作用した場合であっても、括れ部37が曲がることによって上記負荷を軽減することができる。結果として、偏心ロッド30Bの耐用時間を長くすることが可能となる。ロッドコネクタ34dの材料をポリアセタールにすることで、偏心ロッド30Bの耐用時間をより長くすることが可能となる。
【0060】
本実施の形態における偏心ロッド30Bのロッド部34は、1つの部品として、ロッドコネクタ34dおよびシャフト接続部34cから構成されている(2つの部品として、ロッドコネクタ34dおよびシャフト接続部34cから構成されていてもよい)。一方、実施の形態1における偏心ロッド30Aのロッド部34は、3つの部品(上部ロッドコネクタ34a、下部ロッドコネクタ34bおよびシャフト接続部34c)から構成されている。本実施の形態における電動歯ブラシによれば、部品点数および製造費用を削減することが可能となる。
【0061】
ロッドコネクタ34dと偏心分銅部33とを一体的に成形する場合、偏心分銅部33を所定の金型に載置し、樹脂成形によりロッドコネクタ34dと一体化するとよい。この場合、偏心分銅部33は同軸形状であればよいため、製造費を抑えることができ、製造すること自体も容易である。一方、ロッドコネクタ34dと偏心分銅部33とが一体成形でない場合、偏心分銅部33をロッドコネクタ34dに嵌挿する必要がある。この場合、ロッドコネクタ34d側に穴を設けるのはやや困難であり、偏心分銅部33を非同軸形状に構成する必要がある。
【0062】
[実施の形態2に係る実験結果]
図6および図7を参照して、実施の形態2に係る実験結果について説明する。実施の形態2の構成において、偏心分銅部33の第1中心軸33t(図5参照)と、延長線34sとの間の角度θを変化させたときの、電動歯ブラシから発生する振動音の異音レベルNの変化(図6参照)、および電動歯ブラシの消費電流IC(A)の変化を測定した。ここで言う異音レベルとは、振動音の周波数および音圧などに基づいて算出される所定の値を意味する。
【0063】
当該実験に使用した電動歯ブラシにおいて、偏心分銅部33の全長は、約23mmである。ロッド部34の全長は、約45mmである。偏心分銅部33の材質は、りん青銅である。ロッド部34の直径は、約3mmである。ロッド部34における括れ部37の直径は、約1.57mmである。ロッド部34の材質は、ポリアセタールである。偏心分銅部33の挿入部33aの直径は、約1.98mmである。ステム40の軸受部44の内周面の直径は、約2.00mmである。モータ20の回転速度は、約33000spmである。
【0064】
図6を参照して、角度θが0°のとき、異音レベルNは大きい。角度θを0°より大きくするにつれて、異音レベルNは急峻に減少していることが読み取れる。角度θが約2.0°以上になると、異音レベルNはほとんど減少しなくなった。角度θが約10°より大きくすると、異音レベルNは減少したままの状態を維持するが、偏心ロッドとステム(軸受部)とを組み込むことが困難となった。
【0065】
図7を参照して、角度θが0°以上約5°以下のとき、消費電流ICに変化はほとんど見られなかった。角度θが約5°より大きくなるにつれて、消費電流ICは増加した。
【0066】
以上のことから、角度θは、約2.0°以上約5.0°以下であるとよいことがわかる。より好適には、角度θは約3.0°以上約3.5°以下であるとよいことがわかっている。
【0067】
なお、実施の形態1の構成においても同様の実験を行なったが、角度θは、約2.0°以上約5.0°以下であるとよいことがわかった。より好適には、角度θは、約3.0°以上約3.5°以下であるとよいことがわかっている。
【0068】
以上、本発明に基づいた各実施の形態として、偏心ロッドの固定構造および振動発生装置について電動歯ブラシを一例に説明したが、今回開示された形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。たとえば、上記各実施の形態の電動歯ブラシにおいては、略直線状に形成される略円筒状のケースに基づいて説明したが、本発明はこれに限られない。上記ケースは、使用者がより把持しやすいように途中で一部屈折するように構成されていてもよい。
【0069】
また、上記の各実施の形態においては、いわゆるブラシ交換型の電動歯ブラシの構成として、ステム40を覆う口腔衛生部材50の全体が交換可能な態様に基づいて説明したが、本発明はこれに限られない。本発明においては、口腔衛生部材50が筒状部51を有していない構成(筒状部51とステム40とが一体化された構成)であって、刷掃部52および刷掃部52が植え込まれている台座部分付近のみが交換可能な態様にも適用されることが可能である。本発明においては、口腔衛生部材50が筒状部51を有していない構成であって、刷掃部52が直接ステム40に設けられている態様(刷掃部は交換不可能)にも適用されることが可能である。
【0070】
また、本発明に基づく偏心ロッドの固定構造および振動発生装置は、電動歯ブラシに限らず、たとえば、バイブレータ機能付きの頭皮用ブラシ、歯科用電動施術器具、または電動工具などにも適用されることが可能である。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
1,1A 電動歯ブラシ、10 ケース、11,31,34aa,34ba,34ca,34da,41 一端、13 操作部、20 モータ、21 駆動シャフト、30,30A,30B 偏心ロッド、30t 中心軸、32,34ab,34bb,34cb,42 他端、33 偏心分銅部、33a 挿入部、33b 錘部、33c 接続部、33t 第1中心軸、34 ロッド部、34a 上部ロッドコネクタ、34b 下部ロッドコネクタ、34c シャフト接続部、34d ロッドコネクタ、34s 延長線、34t 第2中心軸、35,36,38,39 凹部、37 括れ部、40 ステム、40t 基準軸、43 固定部材、44 軸受部、50 口腔衛生部材、51 筒状部、52 刷掃部、AR1,AR2 矢印、IC 消費電流、N 異音レベル、θ 角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生装置に用いられる偏心ロッドの固定構造であって、
駆動シャフトを有する回転駆動手段と、
一端側に偏心分銅部と、他端側に前記駆動シャフトに接続されるロッド部とを有し、前記回転駆動手段から前記駆動シャフトを通して伝達される動力により回転する略棒状の偏心ロッドと、
一端側の内側に軸受部を有し、前記偏心ロッドの前記一端が前記軸受部に挿入されるとともに、前記偏心ロッドを覆うように配設される振動部と、
を備え、
前記偏心分銅部は、前記偏心分銅部の長手方向に沿って延びる第1中心軸を有し、
前記ロッド部は、前記ロッド部の長手方向に沿って延びる第2中心軸を有し、
前記第2中心軸を前記偏心分銅部側に延長することにより延長線が規定され、
前記偏心ロッドの前記一端が前記軸受部に挿入されていない状態において、前記偏心分銅部の前記第1中心軸と、前記延長線との間の角度は、0°より大きく約10°以下であり、
前記偏心ロッドは、前記偏心ロッドの前記一端が前記軸受部に挿入されることにより、前記偏心ロッドの前記一端が前記軸受部の内周面に対して常に付勢するように固定される、
偏心ロッドの固定構造。
【請求項2】
前記偏心ロッドの前記一端が前記軸受部に挿入されていない状態において、前記偏心分銅部の前記第1中心軸と、前記延長線との間の角度は、約2.0°以上約5.0°以下である、
請求項1に記載の偏心ロッドの固定構造。
【請求項3】
前記ロッド部は、前記偏心分銅部を一端側に固定する略円柱状のロッドコネクタと、前記ロッドコネクタの他端側に取り付けられ、前記駆動シャフトに接続されるシャフト接続部とから一体的に構成され、
前記ロッドコネクタの前記一端と前記ロッドコネクタの前記他端との間には、他の部分より相対的に直径の小さい略円柱状の括れ部が形成されている、
請求項1または2に記載の偏心ロッドの固定構造。
【請求項4】
前記ロッドコネクタの材料はポリアセタールである、
請求項3に記載の偏心ロッドの固定構造。
【請求項5】
前記偏心分銅部と前記ロッド部とは、一体成形されている、
請求項1〜4のいずれかに記載の偏心ロッドの固定構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の偏心ロッドの固定構造を備えた振動発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−177277(P2011−177277A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43068(P2010−43068)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】