説明

偏心揺動型の減速機

【課題】減速機内部にグリースを容易に行き渡らせる。
【解決手段】偏心揺動する外歯歯車116、118、120と、外歯歯車116、118、120の外歯と僅少の歯数差の内歯を有しており、外歯歯車116、118、120が内接噛合する内歯歯車130と、外歯歯車116、118、120の軸方向側部に配置されているフランジ134と、を備えた偏心揺動型の減速機100において、フランジ134に、給脂口144と、排脂口146の少なくとも一方が形成され、且つ、外歯歯車116、118、120に、減速機100の構成部材が挿通されない貫通孔152A、154A、154B、154Cが、外歯歯車116、118、120を軸方向に貫通して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型の減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、図10に示すような偏心揺動型の減速機1が開示されている。
【0003】
偏心揺動型の減速機1は、偏心揺動する外歯歯車2と、該外歯歯車2と内接噛合している内歯歯車3と、を備えている。内歯歯車3の内歯3Aは、外歯歯車2の外歯2Aと僅少の歯数差を有している。また、外歯歯車2の軸方向側部に、フランジ4が配置されており、該フランジ4には、グリースを減速機1内部に供給するための給脂口5が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−204156号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
減速機1内部に新規に新しいグリースを封入したり、又は減速機1内部に封入されている古いグリースを新しいグリースに入れ替えたりする場合、新しいグリースは、給脂口5から減速機1内部に供給される。
【0006】
給脂口5から減速機1内部に供給される新しいグリースが、減速機1内部の隅々まで行き渡るためには、主に、外歯歯車2と内歯歯車3の隙間、内ピン6と内ピン孔7の隙間、あるいは偏心体8ところ9の隙間等の僅かな隙間を通過する必要があった。
【0007】
しかしながら、これらの隙間は大変狭くなっているため、グリースが、この隙間を通過することは困難であった。この結果、例えば、新しいグリースを新規に減速機1内部に封入する場合、グリースは、減速機1内部の隅々まで行き渡りにくいという問題があった。また、減速機1内部に封入されている古いグリースを新しいグリースに交換する場合、全ての古いグリースを減速機1内部から排出するのが困難であり、結果として、新しいグリースとの交換が十分に行われないというおそれがあった。
【0008】
本発明では、上記の問題を解決するために、減速機内部にグリースを容易に行き渡らせることができることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、偏心揺動する外歯歯車と、該外歯歯車の外歯と僅少の歯数差の内歯を有しており、前記外歯歯車が内接噛合する内歯歯車と、前記外歯歯車の軸方向側部に配置されているフランジと、を備えた偏心揺動型の減速機において、前記フランジに、前記減速機内部に封入するグリースを供給するための給脂口と、該グリースを排出するための排脂口の少なくとも一方が形成され、且つ、前記外歯歯車に、前記減速機の構成部材が挿通されない貫通孔が、該外歯歯車を軸方向に貫通して形成された構成により上記課題を解決した。
【0010】
本発明は、給脂口または排脂口の少なくとも一方が、フランジに形成されるとともに、減速機の構成部材が挿通されない貫通孔が、外歯歯車を軸方向に貫通して形成されている。このため、給脂口から供給されるグリースは、小さな封入圧力が与えられるだけで、部材が挿通されていない貫通孔を通過して、外歯歯車の軸方向に円滑に移動することができる。この結果、このグリースは、減速機内部の全体に容易に行き渡ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、減速機内部にグリースを容易に行き渡らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態にかかる偏心揺動型減速機の縦断面図
【図2】図1に示す偏心揺動型の減速機における給、排脂口の位置を示す正面図
【図3】図1に示す偏心揺動型の減速機に備えられている第1フランジ体の内歯歯車側から見た背面図と矢示IIIB−IIIB線に沿う断面図
【図4】図1に示す偏心揺動型の減速機の矢示IV−IV線に沿う断面図
【図5】本発明の第2の実施形態にかかる偏心揺動型減速機の正面図
【図6】本発明の第3の実施形態にかかる偏心揺動型減速機の正面図と縦断面図
【図7】本発明の第4、第5の実施形態にかかる偏心揺動型減速機の縦断面図
【図8】本発明の第6の実施形態にかかる偏心揺動型減速機の正面図、背面図、及び縦断面図
【図9】本発明の第7の実施形態にかかる偏心揺動型減速機の正面図と縦断面図
【図10】従来の一例を示す偏心揺動型の減速機の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例にかかる偏心揺動型の減速機100を詳細に説明する。
【0014】
図1は、偏心揺動型の減速機100の縦断面図である。また、図2は、図1に示す減速機100における給、排脂口144、146の位置を示す正面図である。図3は図1に示す減速機100に備えられている第1フランジ体134を第1外歯歯車116側から見た背面図(図3(A))と、図3(A)に示す第1フランジ体134の矢示IIIB−IIIB線に沿う断面図(図3(B))である。図4は、図1に示す減速機100の矢示IV−IV線に沿う断面図である。
【0015】
まず、偏心揺動型の減速機100の全体的な構成について説明する。
【0016】
偏心揺動型の減速機100は、第1〜第3外歯歯車116、118、120と、内歯歯車130と、第1、第2フランジ体134、136と、を備えている。
【0017】
減速機100の入力軸(ホローシャフト)102の外周に第1〜第3偏心体104、106、108が一体的に形成されており、該第1〜第3偏心体104、106、108の外周には、第1〜第3ころ110、112、114を介して、偏心揺動する第1〜第3外歯歯車116、118、120が組み込まれている。第1〜第3外歯歯車116、118、120は、いずれも構成は同じであるため、第1外歯歯車116についてのみ説明する(図4参照)。本実施形態において、6個の第1〜第6内ピン孔122A、123A、124A、125A、126A、127Aは、同一の円周上において、円周方向の位相差が60°間隔で複数形成されている。該第1〜第6内ピン孔122A〜127Aのそれぞれには、後述する6個の内ピン170、171、172、173、174、175が遊嵌している。該第1〜第3外歯歯車116、118、120の具体的な構成については、後に詳述する。各偏心体104、106、108の偏心位相は、それぞれ120°ずれており、第1〜第3外歯歯車116、118、120の偏心位相差は、120°である。
【0018】
内歯歯車130は、ケーシング132の内周に一体化されている。ケーシング132は、図示せぬ外部部材に固定されている。内歯歯車130の内歯は、複数の円柱状の外ピン131によって構成されている。該内歯歯車130は、第1〜第3外歯歯車116、118、120の外歯と僅少の歯数差の内歯を有しており、前記第1〜第3外歯歯車116、118、120が内接噛合する。具体的には、第1〜第3外歯歯車116、118、120の外歯の歯数は「119」である。これに対し、内歯歯車130の本体側(ケーシング132の内周に一体化されている部位)には歯数が120に相当する位置の「1つ置き」の位置に、歯数が120に相当する大きさの外ピン131が、計60本組込まれている。このような構成では、内歯歯車130の実質的な内歯の数は、外ピン131の数×2=120となる。即ち、内歯歯車130の内歯の歯数は、この例では「120」であり、内歯歯車130の歯数は、第1〜第3外歯歯車116、118、120の歯数より「1」だけ(僅少の歯数差分だけ)多く設定されている。
【0019】
第1フランジ体134は、第1外歯歯車116の軸方向側部に配置されている。第2フランジ体136は、第3外歯歯車120の軸方向側部に配置されている。本実施形態において、第1フランジ体134が、本発明の「フランジ」に該当する。第1フランジ体134には、6個の内ピン170〜175が一体的に形成されている。内ピン170〜175は、第1〜第3外歯歯車116、118、120の内ピン孔122A〜127A、122B、122C(第2、第3外歯歯車118、120のその他の内ピン孔については図示略)を軸方向に貫通し、ボルト140により第2フランジ体136と連結・固定されている。第1、第2フランジ体134、136は、第1〜第3外歯歯車116、118、120の自転成分と同期している。
【0020】
ここで、「第1、第2フランジ体134、136は、第1〜第3外歯歯車116、118、120の自転成分と同期している」とは、第1、第2フランジ体134、136は、第1〜第3外歯歯車116、118、120と一緒に回転するか、又は停止する構成とされていることを意味している。具体的には、この実施形態のように、内歯歯車130(ケーシング132)が固定されている場合には、第1、第2フランジ体134、136は、第1〜第3外歯歯車116、118、120の自転成分と同期して、該第1〜第3外歯歯車116、118、120と共に回転し相手機械に回転を伝達する。一方、第1〜第3外歯歯車116、118、120の自転が拘束され(揺動のみを行い)、内歯歯車130(ケーシング132)が回転して相手機械に回転を伝達する場合には、第1、第2フランジ体134、136は、このときの第1〜第3外歯歯車116、118、120の自転成分と同期して(自転が拘束されて)停止した状態を維持している(外部部材に固定されている)。
【0021】
内ピン170〜175の外周には、内ピン170〜175と第1〜第3外歯歯車116、118、120の内ピン孔122A〜127A、122B、122Cとの間の摺動抵抗を軽減するための内ローラ180〜185が、取り付けられている。第1、第2フランジ体134、136は、入力軸102、ケーシング132に対して相対的に回転可能である。該第1、第2フランジ体134、136の具体的な構成については、後に詳述する。
【0022】
この減速機100内部には、減速機100の構成部品(例えば、第1〜第3ころ110、112、114と第1〜第3偏心体104、106、108の間)の摺動抵抗を低減させるためのグリースが封入されている。本実施形態において、減速機100に封入されているグリースは、ちょう度番号1番以上の硬いグリースである。
【0023】
以下で、第1フランジ体134、第1〜第3外歯歯車116、118、120の詳細な構成について説明する。
【0024】
まず、第1フランジ体134について詳述する。
【0025】
第1フランジ体134に、減速機100内部に封入するグリースを供給するための給脂口144と、グリースを排出するための排脂口146の双方が、第1フランジ体134を軸方向に貫通して形成されている。本実施形態において、給、排脂口144、146の(減速機100の軸方向における)軸方向垂直断面は、共に円形状である。給脂口144と排脂口146の中心同士の円周方向の位相差Xは、第1フランジ体134の軸心を中心として、180°である。
【0026】
給、排脂口144、146の双方には、外部空間150へグリースが流出することを防止するための栓(図示略)がされている。作業者は、グリースの初期封入時、交換時に、給、排脂口144、146の双方からこの栓を抜き取り、新しいグリースを供給する。
【0027】
次に、第1〜第3外歯歯車116、118、120について詳述する。
【0028】
第1外歯歯車116には、貫通孔が複数形成されている。本実施形態では、第1外歯歯車116の軸方向側面に2個の第1、第2貫通孔152A、154Aが形成されている。第1、第2貫通孔152A、154Aは、減速機100の構成部材(例えば、上述した内ピン170〜175等)が挿通されない孔である。
【0029】
第1貫通孔152Aの開口面積S1は、給脂口144の開口面積A1より大きくなっている。また、第2貫通孔154Aの開口面積S2も、排脂口146の開口面積A2より大きくなっている。本実施形態において、第1、第2貫通孔152A、154Aの(減速機100の軸方向における)軸直角断面が、同一の直径の円形状である。また、第1、第2貫通孔152A、154Aは、第1〜第6内ピン孔122A〜127Aと同一の円周上に形成されている。具体的には、第1貫通孔152Aは、第1内ピン孔122Aと第2内ピン孔123Aの間に形成されている。第2貫通孔154Aは、第4内ピン孔125Aと第5内ピン孔126Aの間に形成されている。
【0030】
第1貫通孔152Aは、軸方向視で第1フランジ体134に形成された給脂口144と重なる位置に形成されている。第2貫通孔154Aは、軸方向視で第1フランジ体134に形成された排脂口146と重なる位置に形成されている。即ち、第1、第2貫通孔152A、154Aの中心同士の円周方向の位相差Yも、(給脂口144と排脂口146の中心同士の円周方向の位相差Xと同様に、)第1フランジ体134の軸心を中心として、180°である。
【0031】
第2、第3外歯歯車118、120も第1外歯歯車116と同様の構造となっている。第2外歯歯車118に第3貫通孔(図示略)、第4貫通孔154Bが形成されており、第3外歯歯車120に第5貫通孔(図示略)、第6貫通孔154Cが形成されている。第1〜第3外歯歯車116、118、120に形成されている第1貫通孔152A、及び第3、第5貫通孔は、給脂口144の開口面積A1より大きな孔である。このため、第1〜第3外歯歯車116、118、120がそれぞれ偏心量分ずれて回転したとしても、第1貫通孔152A、及び第3、第5貫通孔が軸方向視で重なっているとともに、第2、第4、第6貫通孔154A、154B、154Cが軸方向視で重なっている。即ち、第1貫通孔152A、及び第3、第5貫通孔は、軸方向視で給脂口144と重なる位置に形成されている。また、第2、第4、第6貫通孔154A、154B、154Cは、軸方向視で排脂口146と重なる位置に形成されている。これにより、供給される新しいグリースは、直線的に第1〜第3外歯歯車116、118、120の第1貫通孔152A、及び第3、第5貫通孔を軸方向に通過することが可能である。
【0032】
次に、偏心揺動型の減速機100の作用について説明する。
【0033】
まず、減速機100の動力伝達作用について説明する。
【0034】
図示せぬモータの回転が入力軸102に伝達され、入力軸102が回転すると、第1〜第3外歯歯車116、118、120が揺動し、第1〜第3外歯歯車116、118、120と内歯歯車130との噛合位置が歯数差に依存して順次ずれる。本実施形態では、減速機100の内歯歯車130が、ケーシング132に固定されているため、第1〜第3外歯歯車116、118、120は、該内歯歯車130に対して相対回転する(入力軸102の回転と逆方向に自転する)。この内歯歯車130に対する第1〜第3外歯歯車116、118、120の相対回転(自転)が内ピン170〜175を介して第1フランジ体134に伝達され、該第1フランジ体134から出力される。
【0035】
次に、グリースの初期封入時や交換時における第1フランジ体134や第1〜第3外歯歯車116、118、120を中心とした作用について説明する。
【0036】
本実施形態に係る減速機100は、偏心揺動型の減速機であるため、第1〜第3外歯歯車116、118、120と内歯歯車130の歯数差は僅少に設定されており、第1〜第3外歯歯車116、118、120と内歯歯車130との間の隙間が大変に狭い。また、産業用ロボットや工作機械等の精密制御用に使用される場合には、バックラッシは小さく設定されており、機能上、内ローラ180〜185と第1〜第6内ピン孔122A〜127Aとの間の隙間も偏心量に相当する分しかなく極めて狭いものとなっている。このため、グリースは、減速機100内部を軸方向に移動し難い構造になっている。特に、減速機100に封入されているグリースとして、ちょう度番号の大きい(硬い)グリース(例えば、ちょう度番号1番以上)を採用した場合には、グリース自身の形状を柔軟に変形させながら減速機100内部を移動させることは一層難しくなる。一方、ちょう度番号の小さい(柔らかい)グリース(例えば、ちょう度番号0番、00番等)を採用した場合には、より柔軟に減速機100内を移動できるものの、それだけ減速機100から外部空間へ漏れ易くなってしまうという傾向がある。
【0037】
しかしながら、本実施形態によれば、給脂口144が、第1フランジ体134を軸方向に貫通して形成されているとともに、第1貫通孔152A、及び第3、第5貫通孔が、それぞれ第1〜第3外歯歯車116、118、120を軸方向に貫通して形成されている。また、第1貫通孔152A、及び第3、第5貫通孔は、軸方向視で給脂口144と重なる位置に形成されているとともに、給脂口144の開口面積A1よりも大きくなっている。これにより、グリースの初期封入作業、交換作業において、グリースがちょう度番号の大きい(硬い)もの(ちょう度番号1以上)であっても、グリースは、小さな封入圧力を与えるだけで、第1貫通孔152A、及び第3、第5貫通孔を軸方向に直線的に通過して、減速機100の軸方向に円滑に移動することができる。これにより、グリースは、第2フランジ体136と第3外歯歯車120の間の空間に容易に到達できる。グリースがここまで封入されると、その後は、グリースの進路は半径軸方向へ変更されるが、抵抗の大小の関係から、傾向として奥側(第3外歯歯車120の反給脂口側)から充填されてゆくことになる。こうして反給脂口側から順に、第2外歯歯車118と第1外歯歯車116の間の空間、第1フランジ体134と第1外歯歯車116の間の空間に封入される。なお、グリースの交換作業の場合ならば、古いグリースは、第3〜第1外歯歯車120、118、116の第6、第4、第2貫通孔154C、154B、154Aを通過し、第1フランジ体134の排脂口146へ向かって移動する。やがて封入した新しいグリースの一部が排脂口146から排出されてくると、このときが新規グリースの封入完了(あるいは新旧グリースの交換完了)の目安となる。
【0038】
第1〜第3外歯歯車116、118、120のそれぞれには、複数の貫通孔が、形成されているため(例えば、第1外歯歯車116には、第1、第2貫通孔152A、154A)、供給する側と排出する側のグリースは、それぞれ異なった貫通孔を通過し、グリースが円滑に移動しやすくなるため、短時間でグリースの封入、交換作業を行うことができる。
【0039】
給脂口144と排脂口146の形成位置は、円周方向において最も遠い位置(給脂口144と排脂口146の中心同士の円周方向の位相差:180°)であるため、グリースの減速機100内部の移動距離が長くなっている。このため、給脂口144から供給されたグリースが、排脂口146へ到達するまでに減速機100内部を満遍なく移動し、該減速機100内部を隅々まで行き渡る。
【0040】
また、第1外歯歯車116には、同一の円周上に、第1、第2貫通孔152A、154Aと第1〜第6内ピン孔122A〜127Aが、軸方向に貫通して形成されているため、第1外歯歯車116は、製造工程を簡略化し、容易に製造することができる。第2、第3外歯歯車118、120も(第1外歯歯車116と同様の構成を有するため、)同様の効果を得ることができる。
【0041】
次に、第2の実施形態について説明する。
【0042】
図5は、本発明の第2の実施形態にかかる偏心揺動型減速機200の正面図を示す。
【0043】
本実施形態においても、給、排脂口244、246が、第1フランジ体234を軸方向に貫通して形成されているとともに、第1、第2貫通孔252A、254Aが、第1外歯歯車216を軸方向に貫通して形成されている。第2、第3外歯歯車218、220にも上記実施形態と同様に、それぞれ第3、第4貫通孔254B、第5、第6貫通孔254Cが形成されている。
【0044】
本実施形態では、給脂口244と排脂口246の中心同士の円周方向の位相差Zは、第1フランジ体234の軸心を中心として、約120°程度である(Z≒120°)。これに対し、第1、第2貫通孔252A、254Aの中心同士の円周方向の位相差は、(上記実施形態と同様に、)第1外歯歯車216の軸心を中心として、180°である(K=180°)。第1貫通孔252Aは、軸方向視で給脂口244と重ならない位置に形成されている(円周方向の位相差(ずれ量):I°)。一方、第2貫通孔254Aは、軸方向視で排脂口246と重なる位置に形成されている(円周方向の位相差(ずれ量):0°)。即ち、給脂口244と第1貫通孔252Aの中心同士のずれ量は、排脂口246と第2貫通孔254Aの中心同士のずれ量より大きくなっている。
【0045】
一般に、外歯歯車の貫通孔と、(該外歯歯車の軸方向側方部に配置されているフランジに形成された)給、排脂口とのずれ量(円周方向の位相差)が大きくなるほど、グリースは、軸方向に移動しにくくなる。外歯歯車が、グリースが軸方向に移動することに対して付与する抵抗が大きくなる(グリースの移動を妨げる)ためである。一方、貫通孔と給、排脂口とのずれ量が大きくなるほど、グリースの半径軸方向への移動量は上昇する。グリースは、外歯歯車の軸方向壁面にぶつかり、減速機の半径方向へ移動するためである。即ち、減速機は、給、排脂口と貫通孔のずれ量によって、グリースの移動方向及びそれぞれの移動方向へのグリースの通過量を制御可能である。
【0046】
本実施形態では、第1外歯歯車216が、グリースが軸方向に移動することに対して適度に抵抗を付与するため(グリースの軸方向の移動をより妨げるため、)、グリースの移動経路が、減速機200の半径方向と軸方向に分岐させられ、グリースが、適度な割合で半径方向にも移動できる。この結果、減速機200内部の隅々にまで満遍なくグリースを行き渡らせることができる。
【0047】
なお、貫通孔と排脂口の円周方向の位相差(ずれ量)は、I°より小さければ、0°でなくてもよい。
【0048】
その他の構成については、図1に示す偏心揺動型減速機100の構造と基本的に同一であるため、偏心揺動型減速機100と対応する部分(機能的に同様の部分)に、下2桁が同一の符号を付すに止め、重複説明を省略する。
【0049】
以下の実施形態にかかる偏心揺動型減速機100についても同様に、図1に示す偏心揺動型減速機100の構造と対応する部分に、下2桁が同一の符号を付すに止め、重複説明を省略する。
【0050】
次に、第3の実施形態について説明する。
【0051】
図6は、本発明の第3の実施形態にかかる偏心揺動型減速機300の(A)正面図と(B)縦断面図を示す。
【0052】
本実施形態では、第1外歯歯車316に形成されている第1貫通孔352Aは、軸方向視で第1フランジ体334に形成されている給脂口344と重なる位置に形成されている(円周方向の位相差(ずれ量):0°)。一方、第1外歯歯車316に形成されている第2貫通孔354Aは、軸方向視で第1フランジ体334に形成されている排脂口346と重ならない位置に形成されている(円周方向の位相差(ずれ量):P°)。即ち、排脂口346と第2貫通孔354Aの中心同士のずれ量は、給脂口344と第1貫通孔352Aの中心同士のずれ量より大きくなっている。このため、本実施形態では、(上述した給、排脂口と貫通孔のずれ量の関係に基づき、)前記実施形態における減速機(200)の場合のように、排脂口246と第2貫通孔254Aとのずれ量よりも、給脂口244と第1貫通孔252Aとのずれ量の方が大きいような構成と比較して、封入されたグリースは減速機300の軸方向へより移動し易くなり、減速機300の内部空間に封入され易くなり、且つ、排脂口346から排出される前に、より半径方向に移動し易くなっている。
【0053】
以上のことから、減速機300は、減速機(200)よりも更に効率よくグリースを減速機300内部に封入することができる。
【0054】
なお、貫通孔と給脂口の円周方向の位相差(ずれ量)は、P°より小さければ、0°でなくてもよい。
【0055】
次に、第4、第5の実施形態について説明する。
【0056】
図7(A)は、本発明の第4の実施形態の偏心揺動型減速機400の縦断面図を示す。
【0057】
図7(A)に示されるように、第1外歯歯車416には、3個の第1〜第3貫通孔452A、454A、456Aが、同一の円周上に等間隔に形成されており、上記実施形態よりも貫通孔の数が多くなっている。このため、グリースの移動経路は、等間隔に形成された第1〜第3貫通孔452A、454A、456Aに分散され、グリースは、バランスよく減速機400の半径方向及び軸方向に移動する。即ち、減速機400は、グリースの移動経路の自由度を高めるため、グリースが、より柔軟な移動をできるようになり、減速機400内部にグリースを満遍なく行き渡らせることができる。
【0058】
次に、第5の実施形態について説明する。
【0059】
図7(B)は、本発明の第5の実施形態の偏心揺動型減速機500の縦断面図を示す。
【0060】
図7(B)に示されるように、偏心揺動型減速機500の第1外歯歯車516の軸方向側面には、6個の第1〜第6貫通孔552A、554A、556A、558A、560A、562Aが、同一の円周上に等間隔に形成されている。この場合には、貫通孔の数が上記実施形態よりも更に多くなるため、減速機500内部におけるグリースの移動を更に良好にすることができる。この結果、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
なお、第4、第5実施形態において、外歯歯車に形成されている貫通孔は、軸方向視でフランジに形成されている給、排脂口と重なる位置に形成してもよいし、重ならない位置に形成してもよい。
【0062】
次に、第6の実施形態について説明する。
【0063】
図8は、本発明の第6の実施形態にかかる偏心揺動型減速機600の(A)正面図、(B)背面図、及び(C)縦断面図を示す。
【0064】
本実施形態において、給脂口644は、第1フランジ体634を軸方向に貫通して形成されている。排脂口646は、第2フランジ体636を軸方向に貫通して形成されている。また、第1貫通孔(図示略)、第2貫通孔654Aが、第1外歯歯車616を軸方向に貫通して形成されている。給脂口644から供給されるグリースは、第1フランジ体634側から第1〜第3外歯歯車616、618、620の第1、第3、第5貫通孔(図示略)及び第2、第4、第6貫通孔654A、654B、654Cを任意に通過しながら、減速機600内部の隅々まで行き渡り、古いグリースは、第2フランジ体636の排脂口646へ向かって移動し、排脂口646から排出される。結果として、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0065】
なお、第1、第2フランジ体に対する給、排脂口の形成位置の関係を逆転してもよい。
【0066】
次に、第7の実施形態について説明する。
【0067】
図9は、本発明の第7の実施形態にかかる偏心揺動型減速機700の(A)正面図と(B)縦断面図を示す。
【0068】
減速機700において、第1フランジ体734に一体的に形成されている内ピン770は、第2フランジ体736と連結されておらず、第1フランジ体734のみが、第1〜第3外歯歯車716、718、720の自転成分と同期している。本実施形態においても、給、排脂口744、746が、第1フランジ体734を軸方向に貫通して形成されている。また、第1貫通孔(図示略)、第2貫通孔754Aが、第1外歯歯車716を軸方向に貫通して形成されている。第2、第3外歯歯車718、720にも上記実施形態と同様に、それぞれ第3、第4貫通孔754B、第5、第6貫通孔754Cが形成されている。これにより、グリースは、第1〜第3外歯歯車716、718、720の第1〜第6貫通孔752A、754A、754B、754Cを通過し、結果として、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0069】
なお、上記実施形態において、数個程度の貫通孔が、外歯歯車を軸方向に貫通して形成されているが、これに限らず、例えば、貫通孔として、数十、(または数百の)極小の貫通孔(上記実施形態に示す貫通孔の直径よりはるかに小さい貫通孔)を外歯歯車に形成するようにしてもよい。貫通孔を複数形成する場合、それらの貫通孔は異なる円周上に形成されるようにしてもよい。また、一部の特定の貫通孔のみの開口面積を大きくし、貫通孔同士の開口面積を異なるようにしてもよい。
【0070】
なお、上記実施形態において、給、排脂口は、第1、第2フランジ体に形成されているが、これに限らず、給、排脂口のいずれか一方を例えば、ケーシングに形成するようにしてもよい。例えば、給脂口がケーシングの半径方向、排脂口がフランジの軸方向側面に設置されている場合、給脂口から供給されたグリースは、外歯歯車の軸方向側面に沿って半径方向中央部に移動し、その後外歯歯車の貫通孔を通過して減速機内部を軸方向にも移動し、排脂口から排出される。この結果、グリースは、減速機の内部空間全体に供給される。
【0071】
なお、上記実施形態において、偏心揺動型の減速機は、1本の偏心体軸を減速機の軸心に配置した偏心揺動型の減速機であるが、これに限らず、3本の偏心体軸が減速機の軸心からオフセットして配置された、いわゆる振り分け型の偏心揺動型の減速機にも適用することができる。また、上記実施形態において、減速機は、1段の減速機構を備えた減速機であるが、本発明を適用可能な減速機は、これに限らず、2段以上の減速機構を備えた減速機でもよい。この場合、いずれかの減速機構は、偏心揺動型の減速機構に限らず、直交歯車や平行軸歯車の減速機構でもよい。
【0072】
また、上記実施形態においては、減速機として、外歯歯車の自転成分と該外歯歯車の軸方向側部に配置されているフランジが同期している減速機であって、フランジ側(外歯歯車側)が回転する減速機が採用されていたが、ケーシング側(内歯歯車側)が回転する減速機であってもよい。更には、これに限らず、例えば、前記特許文献1(図10参照)のように、フランジが外歯歯車の自転成分と同期せずに回転したり、外部部材に固定されたりするような減速機にも本発明は適用できる。
【0073】
なお、本発明は、硬いグリースを減速機内部に封入する場合に効果的であるが、これに限らず、柔らかいグリースを減速機内部に封入する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
100…減速機
116、118、120…外歯歯車
130…内歯歯車
134…フランジ
144…給脂口
146…排脂口
152A、154A、154B、154C…貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心揺動する外歯歯車と、該外歯歯車の外歯と僅少の歯数差の内歯を有しており、前記外歯歯車が内接噛合する内歯歯車と、前記外歯歯車の軸方向側部に配置されているフランジと、を備えた偏心揺動型の減速機において、
前記フランジに、前記減速機内部に封入するグリースを供給するための給脂口と、該グリースを排出するための排脂口の少なくとも一方が形成され、且つ、
前記外歯歯車に、前記減速機の構成部材が挿通されない貫通孔が、該外歯歯車を軸方向に貫通して形成された
ことを特徴とする偏心揺動型の減速機。
【請求項2】
請求項1において、
前記外歯歯車には、前記貫通孔が複数形成されている
ことを特徴とする偏心揺動型の減速機。
【請求項3】
請求項2において、
前記複数の貫通孔は、同一の円周上に等間隔に形成されている
ことを特徴とする偏心揺動型の減速機。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記給脂口が、前記フランジに形成されており、
前記外歯歯車に形成されている前記貫通孔の開口面積が、該フランジに形成された給脂口の開口面積より大きい
ことを特徴とする偏心揺動型の減速機。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記フランジが、前記外歯歯車の自転成分と同期しているとともに、前記給脂口が、該フランジに形成されており、
前記外歯歯車に形成されている前記貫通孔は、軸方向視で該フランジに形成された給脂口と重なる位置に形成されている
ことを特徴とする偏心揺動型の減速機。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記フランジが、前記外歯歯車の自転成分と同期しているとともに、前記排脂口が、該フランジに形成されており、
前記外歯歯車に形成されている前記貫通孔は、軸方向視で該フランジに形成された排脂口と重ならない位置に形成されている
ことを特徴とする偏心揺動型の減速機。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記フランジが、前記外歯歯車の自転成分と同期しているとともに、前記給脂口と排脂口の双方が、該フランジに形成されており、
該フランジの軸心を中心とした前記給脂口と排脂口の中心同士の円周方向の位相差が、180°である
ことを特徴とする偏心揺動型の減速機。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて、
前記フランジが、前記外歯歯車の自転成分と同期しているとともに、該給脂口と排脂口の双方が、該フランジに形成され、
少なくとも前記排脂口と貫通孔の中心同士がずれており、且つ、
該排脂口と貫通孔の中心同士のずれ量が、前記給脂口と貫通孔の中心同士のずれ量より大きい
ことを特徴とする偏心揺動型の減速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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