説明

偏波保持光導波路およびその製造方法

【課題】クラッドに穴を明け、応力付与部材を挿入して製造される偏波保持光ファイバは、穴明けのため生産性が悪いという欠点があった。
本発明は、簡便な製造方法により偏波保持構造を有する偏波保持光ファイバあるいは平板形偏波保持光導波路を製造し、提供することを、課題とする。
【解決手段】クラッド内部の応力付与部が高電場強度を有するレーザー光の照射によって、コアを中心に対称に形成されてなる、光ファイバあるいは平板形の偏光保持光導波路である。また、本発明の偏波保持光導波路の製造方法は、応力付与部の形状と応力値を、レーザー光の集光に用いる対物レンズのNA、レーザー光の照射パワー、レーザー光の繰り返し周波数、レーザー光の電場方向の制御等によって決定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏波保持光導波路を製造する方法および偏波保持光導波路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から使用されているシングルモード及びマルチモードの光ファイバでは、直行する2つの偏波モードが存在し、また、コア径のばらつき、振動や温度変化などの外乱要因によって、入射光の偏波状態が保持されず、出射光の偏波状態はランダムに変動する。
【0003】
このような現象のため、偏波を利用するファイバジャイロなどの各種ファイバセンサやコヒーレント光通信に従来の光ファイバを用いることは困難である。
【0004】
このような問題を解決するために、偏波保持光ファイバが用いられている。例えば、特許文献1には、コアとコアの両側に設けられた2つの応力付与部材とを備えた石英ガラス系の偏波保持光ファイバが開示されている。この偏波保持光ファイバは、図10のような形状であり、ファイバ母材31の軸方向に対し、垂直に平坦な面を形成して、コア32を対称に、この平坦面に穴明けを行い、応力付与部材33を挿入することによって作製される。
【特許文献1】特開2005−55795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているような、クラッドに穴を明け、応力付与部材を挿入して製造される偏波保持光ファイバは、穴明けのため生産性が悪いという欠点があった。
【0006】
本発明は、簡便な製造方法により偏波保持構造を有する偏波保持光ファイバあるいは平板形の偏波保持光導波路を製造し、提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の偏波保持光導波路は、応力付与部を有するクラッドと応力付与部によって応力を付与されてなるコアとを有する偏光保持光導波路において、クラッド内部の応力付与部が高電場強度を有するレーザー光の照射によって形成されて成ることを特徴とする偏光保持光導波路である。
【0008】
また、本発明の偏波保持光導波路、前記偏波保持光導波路において、光導波路のコアが高電場強度を有するレーザー光の照射によって形成されたクラッドの高密度部であることを特徴とする請求項1に記載の偏波保持光導波路である。
【0009】
また、本発明の偏波保持光導波路、前記偏波保持光導波路において、応力付与部がコアを中心に対称に形成されていることを特徴とする偏波保持光導波路である。
【0010】
また、本発明の偏波保持光導波路、前記偏波保持光導波路において、偏波保持光導波路が光ファイバ、あるいは、平板形光導波路であることを特徴とする偏波保持光導波路である。
【0011】
また、本発明の偏波保持光導波路の製造方法は、レーザー光の集光に種々のNA(開口数)を有する対物レンズを用いることにより、応力付与部の形状と応力値を決定することを特徴とする前記偏波保持光導波路の製造方法である。
【0012】
また、本発明の偏波保持光導波路の製造方法は、前記偏波保持光導波路の製造方法において、レーザー光の照射パワーを変えることによって応力付与部の応力値を変化させることを特徴とする偏波保持光導波路の製造方法である。
【0013】
また、本発明の偏波保持光導波路の製造方法は、前記偏波保持光導波路の製造方法において、高電場強度を有するレーザー光の繰り返し周波数が1kHzから1MHzのフェムト秒レーザーを用いることを特徴とする偏波保持光導波路の製造方法である。
【0014】
また、本発明の偏波保持光導波路の製造方法は、前記偏波保持光導波路の製造方法において、高電場強度を有するレーザー光の電場方向を制御することを特徴とする偏波保持光導波路の製造方法である。
【0015】
また、本発明の偏波保持光導波路の製造方法は、前記偏波保持光導波路の製造方法において、レーザー光を繰り返し重ね照射することを特徴とする偏波保持光導波路の製造方法である。
【0016】
また、本発明の偏波保持光導波路の製造方法は、前記偏波保持光導波路の製造方法において、レーザー光の波長がクラッドに吸収のない波長であることを特徴とする偏波保持光導波路の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の偏波保持光導波路は、ファイバ形状及び平板形状の偏波保持光導波路を簡便な方法によって作製を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
フェムト秒レーザーのような超短パルスレーザーを用いて、レーザー光を材料内部に集光照射して、ガラスの内部に局所的な高密度部を形成する。この局所的な高密度部分は、ガラス内部に局所的に強い応力状態を発生させ、本発明は、この形成される局所的な高密度部を、応力付与部として利用するものである。
【0019】
前記高密度部の形成は、光の高電磁場によりガラスの分子構造が変化すること以外に、レーザ光の集光による熱や光化学反応や物質の酸化還元、非線形効果などの種々の光効果により、結晶生成や高密度化、気泡生成など、いわゆる光誘起による改質される部分を広く含む。
【0020】
ガラスには、図1に示すような、中央のコア11とコア周囲のクラッド12から成る、円筒状の光ファイバ10や、図2に示すような、クラッド22の中に少なくとも1本以上の線状に形成されたコア21を有する、基板23に形成された平板形の光導波路20を、好適に用いることができる。
【0021】
図1に示す光ファイバ10の場合は、図3のようにして、レーザー光16を光ファイバのクラッド12中に集光照射する。図2に示す平板形光導波路20の場合は、図4のようにして、レーザー光26をクラッド22中に集光照射する。レーザー光16、26を集光して照射する位置は、コア11、21に対して対称となる位置とする。
【0022】
レーザー光16、26を集光照射して、高密度部分すなわち応力付与部14,24を形成した光ファイバあるいは平板形光導波路は、偏波保持光ファイバ13あるいは平板形偏波保持光導波路27として用いることができる。
【0023】
応力付与部の断面形状は、図3、図4、図5に示すような円形の他に、図6に示すような楕円形であってもよい。また、コア11、21に対して、対称となる位置に、2ヶ所形成しているが、図7、図8のように4ヶ所以上の偶数2n(n≧2)個形成してもよい。
【0024】
また、コア部分を有しない、光学的・力学的に均質なガラスファイバやガラス板を用いて、偏波保持光ファイバや偏波保持光導波路を作製することもできる。
【0025】
例えば、図5に示すように、ガラスファイバの中央と中央に対して対称な位置にレーザー光を照射して、中央部の高密度部を光の導波路すなわちコア11とし、中央に対称に形成される高密度部を応力付与部14とすることで、偏波保持光ファイバが作製される。
【0026】
レーザー光には、超短パルスレーザーによる高電場強度のレーザー光が好適である。また、高電場強度を有するレーザー光の繰り返し周波数が、1kHzから1MHzであるフェムト秒レーザーを用いることが望ましい。
【0027】
レーザー光の集光には、対物レンズ15を用いることが望ましい。対物レンズ15のNA(開口数)を変えることによって、応力付与部14、24の形状や、応力付与部14、24によって生じる応力の大きさを調整することが可能である。
【0028】
光ファイバ10や平板形光導波路20に形成される応力付与部14、24は、該応力付与部14、24の大きさと応力値とを、レーザー光16、26の照射パワーを変えることによって、光ファイバ10や平板形光導波路20、あるいはコア11、21の寸法に対して、適切な値にすることができる。
【0029】
例えば、クラッド12、22が合成石英の場合、フェムト秒レーザーの照射パワーは150mW以上が好ましく、望ましくは500mw以上であるが、シリカガラスの製造方法やシリカガラスに添加されている添加物によって、適切なパワーとすることが好ましい。
【0030】
また、該応力付与部14、24の大きさと応力値とを、レーザー光16、26の電場の方向を変えることによっても、光ファイバ10や平板形光導波路20、あるいはコア11、21の寸法に対して、適切な値にすることができる。
【0031】
さらに、レーザー光16をクラッド12、22の同じ場所に繰り返し重ね照射してもよい。重ね照射することにより、パワーの小さいレーザー光でも大きな応力付与部の形成が可能になり、また、小さい応力付与部でありながら、大きな応力値を発生させることができる。
【0032】
応力付与部14、24の形成は、レーザー光16の集光部位を固定して、光ファイバ10あるいは平板形光導波路20を直線的あるいは曲線的に移動させて形成することが望ましい。あるいは、光ファイバ10あるいは平板形光導波路20を固定して、レーザー光16の集光位置を走査して、応力付与部14、24を形成してもよい。
【0033】
応力付与部14、24の形状は、コア11、21に対して平行な、断面が円形の線状をしたもの、あるいは、球形または楕円形をしたものを線状に点在させたものとして、形成することが好ましい。
【0034】
超短パルスレーザとして、チタンサファイアレーザ、YAGレーザ、Ndドープ、Ybドープ若しくはErドープのファイバレーザ等を用いることができる。
【0035】
クラッドに使用されるガラスとしては、波長0.1〜11μmのレーザビームに対して十分な透過率を有するものが好ましい。例えば、酸化物ガラス(石英ガラス、シリケート系ガラス、ボロシリケート系ガラス、リン酸塩系ガラス、アルミニウムシリケート系ガラス等)、ハロゲン化物ガラス、硫化物ガラスまたはカルコゲナイドガラスが挙げられ、これらのガラスに対して、吸収の小さい波長のレーザー光を選択することが好ましい。
【実施例1】
【0036】
実施例1
図1に示す形状の、クラッド径125μm、コア径9μmで、クラッドはシリカガラス、コアはGe添加シリカガラスでなる、光ファイバ10を用いて、偏波保持光ファイバ13を作製した。
【0037】
レーザー光16には、500mWのパワーのフェムト秒レーザー光を用い、波長板を用いて電場方向を直線状にした直線偏光とした。
【0038】
対物レンズ15を用いて、光ファイバのクラッド12の内部にレーザー光16を集光した。対物レンズには、NA(開口数)がO.55の対物レンズを用いた。
【0039】
光ファイバ10を図示しないステージに固定し、ファイバの長さ方向に光ファイバを固定したステージを移動速度5mm/secで移動しながら、クラッド12の内部にレーザー光16を集光照射することで、クラッド12にファイバの長手方向(図3の断面に垂直な方向)に連続的な応力付与部を形成した。
【0040】
応力付与部の中心とコアの中心との距離を25μmとして、コアに対して対称に、2ヶ所形成した。図9に示すように、複屈折顕微鏡により、コア11およびコア11の周りに複屈折の異方性が観察され、偏波保持構造の光ファイバであることが確認された。
【0041】
実施例2
実施例1と同様の方法で、コア11を中心に応力付与部を形成した。本実施例では、応力付与部を、図7に示すような複数ヶ所に形成した。
【0042】
実施例1と同様にして、偏波保持光ファイバの形成されていることを確認した。
【0043】
実施例3
厚み2mmのソーダライムシリケートガラス(SiO2・Na20・CaO)の板22に、波長800nm、照射パルスエネルギ1μJ/パルスのレーザー光を、NA(開口数)O.3の対物レンズを用いて集光照射して、図4に示す形状の、光を通信するためのコア21と応力付与部24を形成した。レーザー光26は直線偏光とし、その照射パワーは、500mWに調整した。
【0044】
ガラス板22を図示しないステージ上に固定し、レーザー光26の集光位置を固定して、ガラス板を5mm/secの速度でステージを移動し、レーザー照射の間隔が50μmとなるようにして、応力付与部24を形成した。
【0045】
コア部21は、応力付与部24の形成と同じフェムト秒レーザー光26を、NA(開口数)が0.95の対物レンズを用いてガラス板22の内部に集光照射して形成した。照射パルスエネルギは1μJ/パルスで、ガラス板22を0.1mm/secの速度でステージを移動させて形成した。
【0046】
実施例1と同様に、コア21付近の復屈折性を複屈折顕微鏡により観察され、偏波保持の平板形光導波路であることが確認された。
【0047】
実施例4
図8に示すように、コア11を中心対称として、クラッド部12に10箇所の応力付与部を、コア11の両側に左右に5ヶ所ずつ形成した。また、レーザー照射方向は、コア11に向う方向で照射を行った。その他は、実施例1と同様にした。
【0048】
本実施例においても、コア11の近傍に復屈折性が観察され、偏波保持光ファイバであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】コアとクラッドからなる光ファイバの断面図である。
【図2】コアとクラッドからなる、平板形状の光導波路の断面を示す図である。
【図3】コアとクラッドからなる光ファイバのクラッド部にレーザー光を集光して照射し、応力付与部材を形成することを概念的に示す図。
【図4】平板形光導波路にレーザー光を集光して照射し、応力付与部材を形成することを概念的に示す図。
【図5】クラッドで形成されているファイバにレーザー光を集光して照射し、コア部と応力付与部材を形成することを概念的に示す図。
【図6】断面が楕円形の応力付与部を形成した偏波保持光ファイバの断面を示す概念図。
【図7】コアの周りに4ヶ所の応力付与部が形成された偏波保持光ファイバの断面を示す概念図。
【図8】コアの左右に5ヶ所の応力付与部が形成された偏波保持光ファイバの断面を示す概念図。
【図9】応力付与部の間のコア部に観察される復屈折性を示す図。
【図10】従来技術による偏波保持光ファイバを示す概念図。
【符号の説明】
【0050】
10 光ファイバ
11 コア
12 クラッド
13 偏波保持光ファイバ
14 応力付与部
15 対物レンズ
16 レーザー光
20 平板形光導波路
21 コア
22 クラッド
23 基板
24 応力付与部
25 対物レンズ
26 レーザー光
27 平板形偏波保持光導波路
31 ファイバ母材
32 コア
33 応力付与部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
応力付与部を有するクラッドと応力付与部によって応力を付与されてなるコアとを有する偏光保持光導波路において、クラッド内部の応力付与部が高電場強度を有するレーザー光の照射によって形成されて成ることを特徴とする偏光保持光導波路。
【請求項2】
光導波路のコアが高電場強度を有するレーザー光の照射によって形成されたクラッドの高密度部であることを特徴とする請求項1に記載の偏波保持光導波路。
【請求項3】
応力付与部がコアを中心に対称形に形成されていることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載偏波保持光導波路。
【請求項4】
偏波保持光導波路が光ファイバであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の偏波保持光導波路。
【請求項5】
偏波保持光導波路が平板形光導波路であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の偏波保持光導波路。
【請求項6】
レーザー光の集光に種々のNA(開口数)を有する対物レンズを用いることにより、応力付与部の形状と応力付与部によって発生する応力の値を決定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の偏波保持光導波路の製造方法。
【請求項7】
レーザー光の照射パワーを変えることによって応力付与部の応力値を変化させることを特徴とする請求項6に記載の偏波保持光導波路の製造方法。
【請求項8】
高電場強度を有するレーザー光の繰り返し周波数が1kHzから1MHzのフェムト秒レーザーを用いることを特徴とする請求項6または7のいずれかに記載の偏波保持光導波路の製造方法。
【請求項9】
高電場強度を有するレーザー光の電場方向を制御することを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の偏波保持光導波路の製造方法。
【請求項10】
レーザー光を繰り返し重ね照射することを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の偏波保持光導波路の製造方法。
【請求項11】
レーザー光の波長がクラッドに吸収のない波長であることを特徴とする請求項6乃至10のいずれかに記載の偏波保持光導波路の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−108261(P2007−108261A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297139(P2005−297139)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構ナノガラス技術プロジェクト委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】