偏波多重光伝送システム、偏波多重光送信器及び偏波多重光受信器
【課題】2台の受信器が同一偏波状態を受信する状態に収束するのを防止し、受信器の立ち上げの高速化、動作の高信頼化を図る。
【解決手段】偏波多重送信器200において、送信すべきX偏波およびY偏波のデジタル情報信号205−1、205−2にそれぞれ、予め周波数+Δf及び−Δfの周波数シフトを施してから光電界変調器102−1、102−2で変調・偏波多重する。これによりX偏波とY偏波成分に2Δfの周波数差を付与する。本信号を偏波ダイバーシティデジタルコヒーレント受信器215で受信し、信号処理回路214内の周波数推定部で両偏波成分の周波数差信号を検出し、本信号を用いて信号処理回路214内部の偏波分離部を制御する。
【解決手段】偏波多重送信器200において、送信すべきX偏波およびY偏波のデジタル情報信号205−1、205−2にそれぞれ、予め周波数+Δf及び−Δfの周波数シフトを施してから光電界変調器102−1、102−2で変調・偏波多重する。これによりX偏波とY偏波成分に2Δfの周波数差を付与する。本信号を偏波ダイバーシティデジタルコヒーレント受信器215で受信し、信号処理回路214内の周波数推定部で両偏波成分の周波数差信号を検出し、本信号を用いて信号処理回路214内部の偏波分離部を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏波多重光伝送システム、偏波多重光送信器及び偏波多重光受信器に係り、光ファイバを用いた光情報伝送、更に詳しくは、情報信号で変調された光信号を偏波多重する光送信器、ならびに本信号を受信して分離する機能を持つ光受信器、および両者を組み合わせた光伝送システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
超高速光ファイバ伝送においては、信号伝送に利用可能な波長範囲(ないしは周波数帯域)を有効に利用するため複数の波長の異なる光信号を束ねて送信し、光ファイバを伝送後に受信端で元の波長ごとに分離したのちに個々の光受信器で受信する波長多重伝送が広く用いられている。また周波数帯域をさらに有効に利用する手法として、偏波多重伝送の利用も検討されている。
偏波多重とは、光の偏波状態の違いを利用した多重化方式である。送信側で独立な情報信号で変調した2組の光信号を互いに直交する偏波状態に変換して多重化したのちに光ファイバ伝送を行う。光信号の偏波状態はポアンカレ球面上のある一点として表すことが可能である。光ファイバ伝送路中で光信号の偏波状態はポアンカレ球上でランダムな変換を受けるが、偏波状態の直交性は維持される。このため、受信側で偏波状態の変換処理と偏波分離を行うことで多重化した元の2つの光信号を分離することができ、同じ波長幅を用いて2倍の情報伝送が可能となる。
このような偏波多重伝送、具体的には送信器における偏波多重と受信器における偏波分離にはいくつかの実現法が知られている。
ここでは偏波多重光受信器の従来技術の一つであるコヒーレント偏波多重伝送方式について説明する。このような方式の例としては、P.J.Winzer、“Spectrally Efficient Long−Haul Optical Networking Using 112−Gb/s Polarization−Multiplexed 16−QAM”、 JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY、 VOL.28、 NO.4、 FEBRUARY 15、 2010、 pp.547−556(非特許文献1)が挙げられる。図1は偏波多重光送信器と偏波ダイバーシティ型コヒーレント光受信器を用いた、従来のデジタルコヒーレント偏波多重伝送システムの説明図である。
【0003】
偏波多重光送信器100では、レーザ光源101から出力される無変調のレーザ光を光分岐器108で2つに分岐し、2つの直交光電界変調器102−1と102−2に入力する。直交型光変調器(もしくはIQ変調器とも呼ばれる)は、それぞれリチウムニオベイトなどの基板上に並列に配置された2組のMZ型変調器から構成され、各MZ変調器の変調信号入力端子に高速変調された電圧信号を印加することによって、光電界の同相成分(I成分、ないしは実部)と直交成分(Q成分ないしは、虚部)を独立に変調することが可能である。本例では、2つの直交型光変調器の同相成分変調信号の入力端子103−1、103−2、直交成分変調信号の入力端子104−1、104−2にはそれぞれ独立の多値情報信号が入力されている。この結果、各MZ変調器の出力光は、それぞれ二次元複素平面上で変調された独立な多値変調光となる。これらはそれぞれ互いに偏波状態が直交となるように変換され、X偏波の光変調信号105、Y偏波の光変調信号106として偏波多重器107に入力され、偏波多重された送信光信号120として出力される。
図2は上記の光多値信号の表示方法と、光多値変調の信号点配置、および偏波多重伝送の説明図である。
(A)は、複素平面(IQ平面)上の信号点の説明図であり、各多値信号の変調状態は、変調波形の中央時刻(識別時刻)における光電界(厳密にはその等化低域表示)を、信号点は複素直交座標(IQ座標)を用いて、もしくは振幅r(n)と位相φ(n)を用いる極座標で表示することができる。
(B)は、位相角φ(n)として4つの値(π/4、3π/4、−3π/4、−π/4)を用いて1シンボルで2ビットの情報(00、01、11、10)を伝送する4値位相変調(QPSK)である。本信号は、例えば直交型光電界変調器102−1の2つの入力端子、すなわち同相成分変調信号の入力端子103−1、直交成分変調信号の入力端子104−1にそれぞれ2値電気信号を入力し、同相成分(I)と直交成分(Q)をそれぞれ正負2値に変調することで生成することができる。偏波多重100Gビット伝送は、各偏波の光信号に4値位相変調を採用している。変調に用いられる電気2値信号の速度はおよそ28Gbit/sであり、これを用いて生成した4値位相変調信号は1シンボルで2ビットの情報を伝送できるので、伝送速度は56Gbit/sとなる。
【0004】
(C)は、さらに情報伝送効率の高い16値直交振幅変調(16QAM)を示す。16QAMでは、信号点が格子状に配置され、1シンボルで4ビットの情報伝送が可能となる。図示した例では、Q軸の座標で上位2ビット(10xx、11xx、01xx、00xx)の値、I軸の座標で下位2ビット(xx10、xx11、xx01、xx00)の値が表現されている。このような多値信号は、図1の同相成分変調信号の入力端子103−1、直交成分変調信号の入力端子104−1にそれぞれ多値電気信号(本例では4値)を入力し、同相成分と直交成分の電界座標(i(t)、q(t))を指定して生成することができる。このとき、出力されるX偏波の光変調信号105の光電界は(i(t)+jq(t))exp(jωt)と書き表される。ここでωはレーザ光源101の光角周波数、jは虚数単位である。なお複雑な光電界信号を生成する際には、複素電界信号の実部i(t)、及び虚部q(t)の電圧信号を超高速のDA変換器を用いて生成し、これを同相成分変調信号の入力端子103−1、直交成分変調信号の入力端子104−1に印加する場合もある。
(D)は、偏波多重の概念図である。光波は電磁波の一種であり、進行方向に対する電界の振動方向によって、2つの独立な直交偏波状態(例えば水平偏波と垂直偏波)が存在する。このため2つの光電界成分(図ではX偏波成分、Y偏波成分)を別々の情報信号で変調して多重化して伝送することが可能である。前述の100Gビット伝送においては、X偏波とY偏波にそれぞれ独立な56Gbit/sの4値位相変調信号を多重して伝送するため、総伝送速度は112Gbit/sとなる。なお伝送速度が100Gbit/sを越えているのは符号化や誤り訂正情報の付加によるものであり、方式によってはさらに異なる値をとる場合もある。
【0005】
図1において上記のように偏波多重された送信光信号120は、光ファイバ伝送路121を数10〜数1000km長距離伝送され、同時に光ファイバの波長分散などで伝送劣化を受けたのちに、従来の偏波ダイバーシティコヒーレント光受信器110で受信される。コヒーレント受信とは、光信号の電界成分の検出基準として、受信器内部に配置された局発光源116の出力光を用いる方式である。偏波多重された受信光信号122は、偏波分離・光90度ハイブリッド回路113によって、S偏波成分123を4つ、P偏波成分124を4つの計8本に分離され、4台のバランス型光受信器111−1、111−2、111−3、111−4で受光される。
【0006】
受信器内に配置された局発レーザ光源116の光周波数は受信光信号122と略同一に設定され、その出力光は偏波分離・光90度ハイブリッド回路113のもうひとつの入力ポートに接続され、信号光同様にバランス型光受信器111−1、111−2、111−3、111−4に分配される。各バランス型光受信器では、入力された信号光と局発光が干渉して電気信号に変換され、出力された高速電気信号はAD変換器112−1、112−2、112−3、112−4でサンプリングされ、デジタル信号に変換される。デジタル信号処理回路114は入力デジタル信号に偏波成分の分離や復調の処理を行い、復調された元のX偏波成分125およびY偏波成分126を出力する。多値信号判定回路115はこれらの信号の復号処理を行い情報信号127を出力する。なお、一般には受信器(トランスポンダ)の後ろには、フレーマ・誤り訂正回路128が配置される。フレーマ・誤り訂正回路128では、受信信号を解析してデータフレームの先頭を発見し、あらかじめ送信前に付与した誤り訂正情報を利用した誤り訂正処理、ヘッダ中の情報を読み出してチャネルや監視情報の処理などを行う。本構成では、フレーマ・誤り訂正回路128は偏波分離処理の正否も観測しており、偏波分離動作に失敗したと判断した場合にはデジタル信号処理回路114に再実行を指示するリセット信号129を送出する構成となっている。
図3(A)は従来のデジタルコヒーレント偏波多重伝送方式におけるデジタル信号処理回路114の説明図であり、その内部の信号処理の様子を説明している。本回路に入力される電気デジタル信号は、S偏波の同相成分(SI)、S偏波の直交成分(SQ)、P偏波の同相成分(PI)、P偏波の直交成分(PQ)の4組ある。各信号は、それぞれ変調信号のシンボル速度の1〜2倍程度でサンプリングされた5〜8ビット程度の分解能のデジタル信号列である。100Gコヒーレント受信器ではサンプリング速度が最大56Gサンプリング/秒にも達するため、入力デジタル信号列や内部の演算処理はLSIの動作速度に合わせて数〜数100の規模で並列化されて処理される。以下、SIを実部、SQを虚部とする複素信号S、PIを実部、PQを虚部とする複素信号Pを考える。入力信号S、Pはそれぞれ波長分散補償回路130−1、130−2で伝送路の波長分散の影響を補償され、ついでリタイミング回路131−1、131−2によって波形の中央時刻が奇偶いずれかのサンプリング時刻に合致するようにタイミング補正やリサンプリング処理が行われる。バタフライ型FIRフィルタ132は、波形の適応補正を行うデジタル等化フィルタである。その機能には、符号間干渉の除去、残留波長分散の補償、および本発明でも取り扱う偏波分離などがある。バタフライ型FIRフィルタ132はs、p2組の偏波の複素信号を入力とし、送信側で多重化された元の偏波成分x、y2組の複素信号を出力とする2入力2出力フィルタであり、図のように4つの複素FIRフィルタ、FIRフィルタ(HXX)133、FIRフィルタ(HYY)134、FIRフィルタ(HXY)135、FIRフィルタ(HYX)136より構成される。これらの出力信号は加算回路137−1、137−2で合成され、2組の出力信号x、yが得られる。
【0007】
図3(B)は上記複素FIRフィルタの内部構成の例を示す図である。図3(B)において、入力複素信号列144は1シンボルに1個ないしは2個程度のサンプリング点を持つ複素デジタル信号である。FIRフィルタ内部では、サンプリング点の時間間隔に等しい遅延時間(Z^−1)を持つ遅延回路146、複素タップ乗算回路147、複素加算回路148を用いてはしご型デジタルフィルタが構成されており、各サンプル時刻ごとに、各時刻のサンプル値に複素タップ重みwiを乗じて加算し、出力複素信号列145が逐次計算されて出力される。各複素タップの重みは、出力複素信号列145の歪みが最小となるように補償データ設定信号149によって設定される。
図3(A)において、バタフライ型FIRフィルタ132は、2つの出力信号の一部をCMA演算回路140−1、140−2に入力してエラー信号(Ex、CMA、EY、CMA)を算出し、タップ最適化回路143−1、143−2はこれらのエラー信号がゼロとなるように、各FIRフィルタのタップ係数を逐次更新する適応等化を行っている。CMAとは信号処理で用いられる定包落線アルゴリズム(Constant Modulous Algorithm)の略であり、CMA回路は出力信号の振幅誤差(例えば所定値1.0からのずれ)を計算しエラー信号として出力する回路である。前述の100G信号のように偏波多重されたQPSK信号を受信する場合、一方の偏波成分が完全に分離されて波形の歪みが補正された場合に、エラー信号がゼロになることがわかっている。このため本回路が正しく動作すれば、バタフライ型フィルタから波形歪みが補償されかつ偏波分離が行われた出力信号が得られる。
【0008】
その後、周波数・位相補正回路141で、局発光源と送信光源の周波数差(周波数オフセット)の補正、出力信号の位相ずれ(複素平面上での回転方向のずれ)が補正され、復調された信号列X、Yが出力される。なお非特許文献1では、16値変調などの振幅変調を含む高次の多値信号はそもそも振幅一定でないため、上記のCMA演算が完全には動作しないことが報告されている。このため、CMA演算はバタフライ型フィルタ132のタップ係数の初期収束にのみ利用し、ある程度収束して多値復調が可能となった後は判定誤差算出回路142−1および142−2で、出力信号の信号点配置の誤差を検出してタップ最適化回路143−1、143−2に入力し、誤差が最小となるようにタップ最適化を行う判定指向法も併用される。またタップ最適化回路143−1、143−2にはリセット信号入力端子139−1、139−2が設けられ、必要に応じて外部から再収束の開始が指示できる。
また図4は、従来の別の偏波多重伝送方式の説明図であり、受信側に自動光偏波コントローラを配置して偏波分離を行う方式を示している。従来の偏波多重光送信器150では、光信号の変調に2つのMZ型光変調器151−1、151−2が利用されており、それぞれの変調信号の入力端子152−1、152−2にはそれぞれ高速の2値ないしは多値のアナログ電気信号が印加されている。一方、MZ型光変調器151−2においては、バイアス信号の入力端子154に変調バイアス電圧の最適化用に、低速正弦波発振器153から出力される周波数fの小振幅の正弦波信号を加えている。図では、バイアス印加用の直流電圧源や、MZ型変調器151−1側は表示を省略している。このようなバイアス電圧の最適化は、例えばMZ変調器151−2の直後で出力光波形の強度変化を低速の光検出器で検出し、そのうち周波数fの成分が最大となるようにバイアス信号の直流電圧成分を調整するように実施される。
【0009】
一般にこのような小振幅変調の重畳は伝送信号の品質劣化を引き起こすことが知られおり、またバイアス変調端子154の変調帯域幅も限られている。このため前記の正弦波信号としては、一般には品質劣化への影響の比較的少ない低い周波数(f=数kHz〜数10kHz程度)とし、また変調度1〜5%程度に設定される。
2つのMZ型光変調器151−1、151−2の出力光は、それぞれ互いに直交する偏波状態X、Yに変換され偏波多重回路107で偏波多重されて出力される。このような偏波多重回路としては、偏波合成器や偏波ビームスプリッタ、ないしは偏波依存性の無い光カプラなどが用いられる。その後光ファイバ伝送路121を伝送された光信号は、従来の偏波分離光受信器160で受信される。入力部には、自動光偏波コントローラ158と偏波分離回路159が配置され、受信信号を2つの偏波成分X、Yに分離している。
上記の構成における自動光偏波コントローラ158の制御法はいくつか考案されているが、本例は例えば送信側で印加した低速のバイアス変調成分を利用する例を想定したものである。Y成分の受信ポートには低速光検出器155が配置され、受信光の一部を分岐して、上記の周波数fに合致した成分がバンドパスフィルタなどで抽出される。最大化制御回路157は、この周波数fの成分が最大となるように自動光偏波コントローラ158を制御することで、常に受信側のY成分受信ポートに送信側のY偏波成分が出力されるように自動制御を行う。なおこれは、送信側のバイアス変調によって、送信されるY偏波の成分中に周波数fの強度変調成分が生じている場合であり、光信号の変調方式(例えば2値位相変調)によっては代わりに周波数2fの成分を最大化する必要がある場合もある。上記のように偏波制御によって光ファイバ伝送路121の偏波主軸状態に変動が生じても、常に光受信器162−2にはY偏波成分が最大となるような最良な受信状態を維持することが可能となる。
他の偏波分離方式としては、上記のようなバイアス成分の検出の変わりに、受信器内部で受信品質を観測し、これを受信品質信号161として外部に出力し、この値が最大となるように自動偏波コントローラ158を制御する方式も考案されている。受信品質信号としては、信号品質を高感度に反映する量であれば利用可能であり、例えば受信信号のアイ開口、信号点のばらつきを表すEVM(Error Vector Magnitude)の符号反転値、符号誤り率の負の対数値、Q値などが利用可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】P.J.Winzer、“Spectrally Efficient Long−Haul Optical Networking Using 112−Gb/s Polarization−Multiplexed 16−QAM”、 JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY、 VOL.28、 NO.4、 FEBRUARY 15、 2010、 pp.547−556
【非特許文献2】Ling Liu、“Initial Tap Setup of Constant Modulus Algorithm for Polarization De−multiplexing in Optical Coherent Receivers”、 Optical Fiber Conference (OFC) 2009、 paper OMT2、 Mar、 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の構成において解決すべき課題を下記に示す。
第一の従来例においては、偏波ダイバーシティコヒーレント光受信器において、偏波分離に用いるバタフライ型FIRフィルタ132の最適化において単一性問題(Singularity Problem)と呼ばれる、解の不定性の問題が生じてしまう点が挙げられる。単一性問題とは、入力されたs/p2つの偏波信号からx/yの2つの偏波成分を抽出する収束過程において、x/yが同一、すなわち2つの出力ポートから両方ともxないしは両方ともy成分が抽出されるようにバタフライ型フィルタが収束してしまう問題である。光ファイバ伝送路にはわずかな偏波依存損失があり、これより偏波直交性もわずかに破れているため、単一性問題を完全に防ぐのは難しい。また別の問題としては、2つのポートに送信側のX/Yどちらの偏波成分が抽出されるかは不定であり、1/2の確率で偏波成分が入れ替わってしまうことが挙げられる。
【0012】
上記の単一性や偏波の交換のような問題はデータの復調・復号過程での検出は困難であり、受信器の後ろに配置されるフレーマ・誤り訂正回路128において検出・解決するのが一般的とされる。本発明の対象となるメトロ・コア網の光送受信器では、送信されるデータはOTN(optical transport network)ないしはSTN、SDH等などの規格に基づいた一定長のフレームを構成しており、その先頭部(プリアンブル)などには特殊なビットパターンが配置されて、フレーム検出に用いられている。単一性の問題が生じ両偏波の受信パターンが同一となってしまった場合には、所定の先頭パターンやフレームヘッダなどが検出できなくなる。このような異常が生じた際には、フレーマから送受信器内部のバタフライ型フィルタの再収束を指示するフィルタリセット信号(図1の129)を送出し、偏波分離用バタフライ型フィルタの再収束を実行する。なお、2つの偏波のデータの入れ替わりに対しては、フレーマ内部にx/y偏波のデータ入替回路を用意し、先頭パターンの位相に応じて両者の入れ替え有無を切り替えることで対処することも可能である。
【0013】
しかしながら、上記の構成では以下の問題がある。
まず単一性問題が生じ再収束が必要になった場合に、受信器の立ち上げに余分な時間がかかってしまう。第一の理由は、フレーマなどの光受信器外部の回路において単一性の判定を行うため、受信器が立ち上がり有効なデータが出力されてフレーム構造が検出可能となるまで判定が開始できないためである。
典型的なコヒーレント100G受信器の場合、バタフライ型フィルタの収束ひとつ取っても、数千〜数万シンボル(1シンボル時間が35ピコ秒であり)が必要で、これらを100程度に並列展開して処理するため、通常数10〜数100マイクロ秒の時間を要すると考えられる。またフレーム先頭の検出には最低でも数個のフレーム(フレーム長は数マイクロ秒)を観測する必要があり、これも並列化して処理を行うため数100マイクロ秒程度の時間を要する。さらに再収束を行っても、同一状態への収束を100%避ける方法はなく数回の試行を行う可能性もあり、結局リンク確立までに数ミリ〜数10ミリ秒の時間を要する可能性がある。
特に問題となるのが送受信器の動作中に、誤って同一偏波状態への収束が生じた場合である。光ファイバ伝送路の偏波状態は時々刻々変化を続けるため、図3のタップ更新回路143−1、143−2は受信器の動作中、常に偏波状態の変化を追跡し収束状態を維持し続ける必要がある。しかしながら、偏波モード分散や光ファイバ非線形効果などによる瞬時的な信号品質の劣化、高速な偏波回転の発生、バグやノイズによるタップ係数のミスなどにより、動作中にはバタフライ型FIRフィルタの収束状態がはずれ、出力偏波が同一になったり反転してしまう常に可能性がある。特に高次多値信号に用いられる判定指向法においては、より高精度なタップの最適化が可能であるものの、その分外乱に弱く、誤動作が生じ多値信号の判定が困難になった場合には再びCMAによる粗収束から再開する必要がある。
【0014】
このような際には、可能な限り早く収束状態を復旧する必要があるが、上記のように外部のフレーマ部などを用いて誤収束を検出する構成では、誤収束の検出から再収束の完了までにさらに長い時間を要してしまい、数〜数100フレーム以上、ないしは数10マイクロ秒から数10ミリ秒以上の信号断を生じる可能性がある。このような際には、各送受信器は信号断を示すアラームを発生し、上位のネットワーク装置に回線故障を知らせ、ネットワーク復旧の措置を開始する必要がある。例えば、ネットワーク上に迂回経路を設定する場合、さらに別の優先度の低い回線を遮断したり予備帯域を確保するなど、ネットワーク運用上に大きな負荷をかけ、伝送帯域幅などの大量のリソースを消費してしまう。このように、従来手法では偏波分離用のバタフライ型FIRフィルタの誤収束の復旧に時間を要し、これが無用に長時間の信号断や予備回線の確保など大きなネットワークリソースの消費につながり、ネットワーク全体の信頼性や効率的運用を損ねるという課題があった。
従来、このような単一性の問題を回避する手法としては例えば、Ling Liu、“Initial Tap Setup of Constant Modulus Algorithm for Polarization De−multiplexing in Optical Coherent Receivers”、 Optical Fiber Conference (OFC) 2009、 paper OMT2、 Mar、 2009(非特許文献2)が提案されている。本手法は、バタフライ型FIRフィルタ132のうちあらかじめ片側の出力(例えばX)のみ、すなわちFIRフィルタ(HXX)133とFIRフィルタ(HYX)136のみの最適化を開始し、これらが収束したのちに、残るFIRフィルタ(HXY)135とFIRフィルタ(HYY)134の初期状態が概ね上記のFIRフィルタ(HXX)133とFIRフィルタ(HYX)136と直交するように設定した後に収束を開始する手法である。本手法では、最初から目標とする直交状態に近い初期状態が設定できるため、単一性の問題を回避できる可能性が高くなる。しかしながら、非特許文献2の手法も、理論上100%完全に単一性問題を回避できるものではなく、2回に分けて収束動作を行うため、従来手法より長時間の信号断を引き起こす可能性がある。また動作中にバタフライ型フィルタが誤動作して同一の偏波状態に収束してしまうリスクは従来の手法と同様であり、また2つの偏波のデータが入れ替わってしまう問題も解決されない。
【0015】
次に図4に示す従来の自動光偏波コントローラを用いた偏波多重光送信器の課題を示す。図4の例では、偏波分離部に一個の自動偏波コントローラと偏波分離回路159を用いて、直交した偏波成分を強制的に分離して2つの受信器に供給するため、原理的には上記の例のような単一性の問題は回避できる。これは2つの受信器に、同じ偏波の信号が入力されることは無いためである。
しかしながらこのような構成では、変調成分を最大化するY側の偏波成分については伝送品質が最良となるが、X側については大きな劣化が生じている可能性がある。これは例えば、伝送路の偏波依存損失などよっては伝送後の偏波状態の直交性が保たれなくなった場合などが挙げられる。このような場合には、X偏波の出力光にはX/Y両成分が混入することになり、伝送品質が大きく劣化してしまう。このような信号劣化を防ぐにはX成分についても伝送品質を検出し、またX成分を最大化する自動偏波コントローラと偏波分離回路をもう一組設け、X/Y偏波成分の品質をそれぞれ独立に最適化する手法が考えられる。しかしながらこのような方式では、おのおのの受信器で受信した信号がX/Yどちらの偏波成分かを判定することはできず、同様に単一性の問題が生じてしまう。
単一性の問題を避けるためには、両偏波成分(図ではY)に異なる周波数の小振幅のバイアス変調信号を印加し、これを利用して受信偏波を識別する手も考えられる。しかしながら、このようなバイアス変調を行うと受信信号の一部が情報伝送に利用できなくなり、受信感度などの伝送性能の劣化を引き起こす(例えば10%程度の強度変調があると、1dB程度の受信感度劣化を生じてしまう)。
そこで本発明の第一の目的は、光偏波多重・分離伝送における単一性の問題を解決し、高速かつ高信頼な偏波多重・分離方式、ないしは受信偏波の誤収束判定方法を提供することである。
次に本発明の第二の目的は、信号品質の劣化を防止した新たな偏波成分の識別法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述の課題は、2つの光変調器に入力される入力光を互いに異なる二値以上の一次元ないしは二次元の多値情報信号で変調した光多値信号を生成し、前記光多値信号を前記の偏波合成器で互いに直交する偏波に多重化して送出する偏波多重光送信器において、両偏波成分の中心周波数に所定の周波数差を付与することによって解決できる。所定の周波数差としては両偏波成分の識別可能であればよく、光信号の占める全帯域幅(具体的には20dBダウン点で測定した全幅)の20%以下とすれば十分である。
上記の周波数差を付与する手段としては、一個の送信光源の出力光を2分岐して各光変調器の入力光とし、前記の光変調器ないしはその前後に光周波数シフト機能を備え、両偏波の変調に用いる光変調器の入力光の中心周波数を互いに所定量だけ異なるように周波数シフトして出力する形態が考えられる。
また所定の周波数だけ発振周波数の異なる2つの光源の出力光を用意し、これらを異なる情報信号で変調し偏波多重して出力したり、所定の周波数だけ異なる2つ以上の波長を同時に出力可能なレーザ光源を利用し、その出力光を波長ごとに分波し、情報信号で変調後に偏波多重することでも実現できる。
【0017】
特に、光変調器として、複数の変調電極に加えられた二次元電圧信号に応じた任意の二次元光電界を出力する光電界変調器を用いる場合、多値変調と本発明の光周波数シフトをひとつの光変調器で同時に実施することが可能である。この場合、前記の2つの光変調器は、それぞれ前記の二次元多値変調信号に互いに前記所定の周波数だけ異なる中心周波数シフトを施した、二次元回転光多値変調信号を直接生成して出力すればよい。
これは、前記の光変調器のそれぞれの変調電極に接続された高速のDA変換器を用いて、前記の二次元回転光多値変調信号に対応した二次元回転多値変調電圧信号を生成することで実現できる。二次元回転多値変調電圧信号は、例えばデジタル信号処理やテーブル読み出しで生成する手法、もしくは低周波複素アナログ正弦波信号を複素多値変調信号に複素乗算ないしは加算する手法などで実現できる。
本発明では、受信側における信号の偏波分離の際に、上記のように付与した偏波間の所定の差周波数情報を検出し、本情報に基づいて多重された元の直交偏波成分を識別ないしは分離を行う。具体的には、2つの偏波成分間から検出した前記所定の周波数差成分の強度が一定値以下であった場合、ないしは2つの偏波成分間の周波数差が一定値以下であった場合、ないしは一方の受信器で受信される光信号の中心光周波数と他方の受信器で受信される光信号の中心光周波数との差が一定値を下回った場合に、適応偏波分離部の動作をリセットすることで、同一の偏波状態への収束を回避できる。
またさらに高度な制御方法としては、前記2つの偏波成分間から検出した前記所定の周波数差成分、ないしは2つの受信器がそれぞれ受信する光信号の中心周波数の差に対応した周波数情報を抽出し、前記中心周波数差が最大ないしは最小となるように、もしくは前記所定の周波数差成分の強度が最大となるように、もしくは前記の中心周波数情報の所定の一方が他方より大となるように、前記の適応偏波分離部を適応的に調整することによって、単一性の問題を解決しより高速・高信頼な偏波分離を実現できる。
【0018】
本技術の適用に当たっては、送信側で2つの直交偏波成分間に付与する前記所定の周波数差を外部から指定する入力端子、ないしは前記所定の周波数差を指定する機能を備え、また受信側においては前記2つの受信器の受信信号の中心周波数の差情報、ないしは2つの受信器のそれぞれの中心周波数に対応した周波数情報、ないしは前記所定の周波数差の成分の強度を外部に出力する機能を備えることによって、チャネル識別や隣接チャネルからのクロストークの抑圧をはかりさらに信頼性を増すなど、本発明の活用範囲を広げることが可能となる。
なお本発明は、前記の偏波多重光受信器が、受信信号を偏波ダイバーシティコヒーレント受信し、前記の偏波分離部をデジタル信号処理で実現する、デジタルコヒーレント偏波多重光受信器である場合や、前記の偏波分離部が、自動偏波コントローラと偏光依存素子で構成された偏波多重光伝送システムである場合に特に有効である。
【0019】
本発明の第1の解決手段によると、
2つの光変調器と偏波合成器を有し、前記2つの光変調器に入力される入力光を互いに異なる二値以上の一次元又は二次元の多値情報信号で変調した光多値信号を生成し、前記光多値信号を前記偏波合成器で互いに直交する偏波に多重化して送出する偏波多重光送信器であって前記互いに直交する偏波の光多値信号の中心周波数に所定の周波数差を付与する偏波多重光送信器と
偏波多重された信号の2つの直交偏波成分を適応的に分離する適応偏波分離部と、分離された2つの偏波成分を復調する2組の復調部を有する偏波多重光受信器と
を備え、
前記偏波多重光受信器が、受信した2つの偏波成分の周波数差成分を検出し、検出された周波数成分に基づいて、多重された元の直交偏波成分を識別又は分離することを特徴とする偏波多重光伝送システムが提供される。
【0020】
本発明の第2の解決手段によると、
2つの光変調器と偏波合成器を備え、前記2つの光変調器に入力される入力光を互いに異なる二値以上の一次元又は二次元の多値情報信号で変調した光多値信号を生成し、前記光多値信号を前記偏波合成器で互いに直交する偏波に多重化して送出する偏波多重光送信器において、
前記互いに直交する偏波の光多値信号の中心周波数に所定の周波数差を付与することを特徴とする偏波多重光送信器が提供される。
【0021】
本発明の第3の解決手段によると、
2つの光変調器と偏波合成器を有し、前記2つの光変調器に入力される入力光を互いに異なる二値以上の一次元又は二次元の多値情報信号で変調した光多値信号を生成し、前記光多値信号を前記偏波合成器で互いに直交する偏波に多重化して送出する偏波多重光送信器であって前記互いに直交する偏波の光多値信号の中心周波数に所定の周波数差を付与する偏波多重光送信器と、偏波多重光受信器とを備えた偏波多重光伝送システムにおける前記偏波多重光受信器であって、
偏波多重された信号の2つの直交偏波成分を適応的に分離する適応偏波分離部と、
分離された2つの偏波成分を復調する2組の復調部と
を備え、
受信した2つの偏波成分の周波数差成分を検出し、検出された周波数成分に基づいて、多重された元の直交偏波成分を識別又は分離することを特徴とする前記偏波多重光受信器が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、光偏波多重・分離伝送における単一性の問題を解決し、高速かつ高信頼な偏波多重・分離方式、ないしは受信偏波の誤収束判定方法を提供することができる。また、本発明によると、信号品質の劣化を防止した新たな偏波成分の識別法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来のデジタルコヒーレント偏波多重伝送システムの説明図である。
【図2】光多値信号の表示方法と、光多値変調方式の信号点、および偏波多重伝送の説明図である。
【図3】従来のデジタルコヒーレント偏波多重伝送方式におけるデジタル信号処理回路114、およびFIRフィルタの構成図である。
【図4】従来の自動光偏波コントローラを用いた偏波多重伝送方式の説明図である。
【図5】本発明の第1の実施例におけるデジタルコヒーレント偏波多重伝送システムの構成図である。
【図6】本発明の第1の実施例における光信号スペクトルおよび信号点配置の説明図である。
【図7】本発明の第1の実施例におけるデジタル信号処理回路214の構成図である。
【図8】本発明の第1の実施例におけるデジタル信号処理回路214の動作を示す説明図である。
【図9】本発明の第2の実施例における偏波多重光送信器の構成図である。
【図10】本発明の第2の実施例における多値符号化テーブルの構成例である。
【図11】本発明の第3の実施例における極座標変調型偏波多重光送信器の構成図である。
【図12】本発明の第3の実施例における鋸歯状波発生回路245の説明図である。
【図13】本発明の第4の実施例における偏波多重光送信器200の説明図である。
【図14】本発明の第5の実施例におけるデジタル信号処理回路214の構成図である。
【図15】本発明の第5の実施例における偏波判定タップ最適化回路256の動作を示すフローチャートである。
【図16】本発明の第6の実施例における偏波多重伝送システムの構成図である。
【図17】本発明の第7の実施例における偏波多重伝送光送信器の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の幾つかの実施例を図面を参照して説明する。
図5は、実施例1におけるデジタルコヒーレント偏波多重伝送システムの構成図である。本図は、本実施例の偏波多重光送信器200から出力される本実施例の偏波多重された送信光信号212が、光ファイバ伝送路121を伝送された後に、本実施例の偏波多重された受信光信号213として、本実施例の偏波ダイバーシティコヒーレント光受信器215で受信される様子を示している。以下の各図では、デジタル信号の経路を白抜きの矢印、高速アナログ電気信号の経路を細線、光信号の経路は太線、低速の制御信号を点線で示す。なお、従来と同様の構成を用いることができるものについては、同じ符号を付し説明を適宜省略する。
本実施例の偏波多重光送信器200は、単一の送信光源101から得られた変調光を光分岐器108で2つに分岐し、それぞれないしは一方の偏波成分の光信号の周波数をわずかにシフトして出力する。本例のX偏波成分の変調においては、多値符号器201から得られた複素デジタル多値信号202−1を複素デジタル乗算回路204−1に入力する。一方、複素デジタル発振器203−1は、周波数+Δfの複素正弦波(exp(+j2πΔft))をデジタル的に発生する発振回路であり、その出力信号が上記の複素デジタル乗算回路204−1に入力される。本回路は、多値信号のサンプリング周期に応じて、上記の複素正弦波をリアルタイムで演算する方式や、あらかじめ容易されたテーブルから複素数を順次読み出す方式で簡単に実現できる。
複素デジタル乗算回路204−1は、入力された複素デジタル多値信号202−1に上記の複素正弦波を乗算し、演算結果としてΔfだけ正側に周波数シフトされた複素デジタル多値信号205−1を出力する。その実部と虚部は、それぞれDA変換器206−1、206−2によってアナログ信号に変換された後に、直交光電界変調器102−1の同相・直交変調端子に印加されて光電界信号に変換される。
上記のように複素多値信号にexp(+j2πΔft)を乗算する操作は、ベースバンド多値信号に周波数+Δfのキャリア成分を重畳して中間周波数帯の信号に変換する操作であり、この結果生成されるX偏波の光変調信号210は+Δfだけ正の周波数(短波長側)に周波数シフトされる。
【0025】
本例では、Y偏波成分の変調においても同様に、多値符号器201から得られた複素デジタル多値信号202−2を複素デジタル乗算回路204−2に入力し、複素デジタル発振器203−2から得られた、周波数−Δfの複素正弦波(exp(−j2πΔft))を重畳し、周波数シフトされた複素デジタル多値信号205−2を生成する。これを元に生成されるY偏波の光変調信号211をΔfだけ負の周波数(長波長側)に周波数シフトしている。この結果、X偏波とY偏波の光変調信号210と211には2Δfの周波数差が生じることになる。
図6(A)と(B)は光信号のスペクトルの説明図であり、(A)は周波数シフトを行わない場合、(B)は上記の周波数シフトを行った場合の光信号スペクトルである。上段がX偏波成分の光信号210、下段がY偏波の光信号211の光スペクトルを示しており、信号光は情報信号によって変調されているためそのスペクトル幅は多値信号のシンボルレート程度(例えば28Gシンボル/秒であれば半値全幅で20GHz程度、20dBダウン全幅で38GHz程度)に広がっている。(A)では両偏波成分の中心周波数は互いにfsigに一致しているが、(B)ではX偏波成分が+Δf、Y偏波成分が−Δfだけ互いに周波数がずれていることがわかる。
【0026】
なお図中の太い縦線は、受信器215内部に配置された無変調の局発光源116(光周波数flo)のスペクトル配置を示している。デジタルコヒーレント受信器では、局発光と信号光の中心周波数差ΔF(オフセット周波数)は信号スペクトル幅よりも小に設定されており、およそシンボルレートの数分の1程度(28Gシンボル/秒の場合、例えば0〜±5GHz)の範囲である。本実施例におけるX偏波とY偏波の周波数シフト量は、原則として任意に設定することが可能であるが、本例ではコヒーレント受信器の復調処理に影響を及ぼさないようにΔfがΔFより十分小となるように設定しする。Δfをあまり小とした場合には、後述する受信器での検出速度や精度が劣化する。よってΔfは10MHz〜1GHz程度、例えば100MHz程度に設定すればよい。
また所定の差周波数2Δfをあまり大とすると、本実施例の偏波多重された送信光信号211の占有スペクトル幅も増大し、スペクトル利用効率が低下したり、伝送路中に配置されたROADMやWSSなどの部品による光フィルタリングによって光スペクトルが削られて伝送特性が劣化する可能性がある。また送受信器内部では、AD/DA変換器のナイキスト帯域を逸脱してしまいエリアジングが発生し信号品質の劣化が生じる。
例えば100G信号の伝送に割当てられる光帯域幅(チャネル間隔)は50GHzであり、そのうち前述の100G信号の帯域幅(20dB全幅)は38GHz程度である。チャネル間に10%(=5GHz)のガードバンドを取ると、差周波数2Δfに割り当て可能なのは最大でも7GHzであり、およそ光信号帯域の19%(〜7/38)となる。
また100G信号のサンプリング周波数は標準的にはシンボルレート(28Gシンボル/秒)の2倍の56Gサンプル/秒であり、ナイキスト周波数は28GHzとなる。前述の全幅38GHzの光信号をホモダイン受信する場合、局発光との周波数差ΔF=±5GHzを許容するものとすると、受信電気信号の所要帯域幅は38/2+5=24GHzとなる。よって所定の差周波数2Δfの上限は、(28−24)*2=8GHzであり、これは光信号帯域の22%となる(〜8/36)。よって、一例として、本実施例では偏波間に付与する所定の差周波数の上限を光信号の占める全帯域幅(20dB全幅)の20%とした。なお前述のΔf=100MHzであれば光周波数帯域の増大はおよそ1%であり、伝送劣化の発生をほぼ完全に避けることが可能である。
【0027】
また図6(C)(D)は本実施例の変調信号の信号点配置を示す図である。図6(C)はX偏波成分の変調に用いる+Δfだけ周波数シフトされた複素デジタル多値信号205−1を、図6(D)はY偏波成分の変調に用いる−Δfだけ周波数シフトされた複素デジタル多値信号205−2を図示しており、どちらも変調信号が4値の位相変調である場合を例示している。本来のバンド変調された4値位相変調信号の信号点配置は、図2(B)に示すように時間的に固定した信号点配置となるが、周波数シフトを施すことによってわずかに中心周波数がずれ、両者は二次元複素平面上で時間的に信号点配置が回転する二次元回転光多値変調信号となる。これは光電界ないしは、これを等価低域表現した複素デジタル信号どちらの場合でも共通である。
デジタル多値信号のシンボル速度を例えば28Gシンボル/秒、周波数シフト量Δf=56MHzとすると、1シンボルあたりの回転量は円周の1/500、すなわち0.72度となる。X偏波成分は+Δfだけ周波数シフトを持つとすると、シンボル時刻n−1、n、n+1ごとに信号点配置は0.72度ずつ反時計周りに回転し、実際には4点の白丸のいずれか一点(黒丸)を用いて情報伝送を行うものとなる。一方、Y偏波成分の周波数シフト量を−Δfとすると、これは逆の時計周りで同じ速度で回転する信号点配置となる。
このように本実施例は上記のように、X偏波とY偏波が異なる速度で時間的にゆっくりと回転する信号点配置を利用して情報伝送を行うものと解釈することができる。上記はデジタル信号のサンプリング速度と多値信号のシンボル速度が同一の例であるが、両者が異なる場合には上記を適宜時間補完したデジタルサンプル列を生成すれば問題ない。
本実施例の偏波ダイバーシティコヒーレント光受信器215は、上記の光信号を受信し、これを本実施例のデジタル信号処理回路214で復調する。図7は、本実施例のデジタル信号処理回路214の構成図である。本例の周波数・位相補正回路220−1、220−2は推定したオフセット周波数の出力端子をもち、それぞれX偏波のオフセット周波数fX、Y偏波のオフセット周波数fYを推定し、これをオフセット周波数推定信号221−1、221−2として出力する。本例では、両信号は周波数比較回路222に入力され、周波数比較回路222は両周波数を比較し両者の差が一定値を下回る場合には、リセット信号223を出力する。リセット信号は、例えば、2つの偏波成分から検出した周波数差成分の強度が予め定められた値以下であった場合、又は、2つの偏波成分間の周波数差が予め定められた値以下であった場合、又は、復調部の一方で受信される光信号の中心光周波数と復調部の他方で受信される光信号の中心光周波数との差が予め定められた値を下回った場合などに出力してもよい。
【0028】
図8(A)〜(F)はデジタル信号処理回路214の動作を示す説明図であり、各位置における両偏波成分の信号点分布を示している。図8(A)(B)はそれぞれ入力信号VsとVpであり、偏波分離や波形歪みの除去が行われていないため、光電界信号の複素電界はほぼランダムに分布している。(C)(D)は、バタフライ型FIRフィルタ132の出力後の複素信号UX、UYである。波長分散補償回路130やバタフライ型FIRフィルタ132で正常に波形補正と偏波分離動作が行われた場合、(C)(D)のように時間的に徐々に回転する信号点配置が得られる。両信号点配置の回転周波数fxとfyは、それぞれの偏波成分の中心周波数と局発光の発振周波数の差(図6参照)であり、本例ではおよそfx=ΔF+Δf、fy=ΔF−Δfとなる。これらの信号は、それぞれ周波数・位相補正回路220−1、220−2に入力され、ここから信号点配置の比較的ゆっくりとした回転成分(回転周波数fxとfy)が推定され、回転成分が除去される。図8(E)(F)は、周波数・位相補正回路220−1、220−2の出力複素信号Vx、VYであり、これらの信号が後続の多値判定に用いられる。周波数・位相補正回路220−1、220−2からは推定された回転周波数fx、fYがオフセット周波数推定信号221−1、221−2として数値情報などの形態で出力され、本実施例ではこれらの差分ないしは大小関係から受信した2つの偏波成分の弁別を行う。
図7におけるタップ最適化回路143−1、143−2の動作は以下の通りである。受信動作の開始に伴い、まずCMA演算回路140−1、140−2から得られるエラー信号Ex、CMAとEY、CMAが最小となるように収束動作を開始する。一定回数の演算後、リセット信号223が出力されている、すなわち両偏波成分の周波数差が例えばゼロである場合、タップ最適化回路143−1、143−2は共に同一偏波成分を抽出しているため、タップ最適化回路143−1(ないしは143−1、143−2の双方でも構わない)をリセットし再収束を開始する。この際、各FIRフィルタは適宜新しいの初期偏波状態に変更してから再収束を開始するのが望ましい。リセット信号が出力されていなければ、従来どおりにそのまま収束動作を継続すればよい。
【0029】
本手法では、バタフライ型FIRフィルタ132の直後に配置された周波数・位相補正回路220−1、220−2の出力信号を用いて偏波分離の正誤を判定することが可能である。また推定周波数はフィルタが完全に収束する前に得ることができるため、従来に比べはるかに高速に再収束を開始することが可能である。また、偏波成分間の周波数差の符号も考慮する、例えば送信側でX偏波成分の変調周波数Y偏波成分より大に設定し、受信側でも周波数が正となる方向を正常収束と判定することによって、受信器における偏波成分の入れ替わりを防ぐこともできる。例えば、2つの偏波成分から検出した周波数差成分、又は、2組の復調部がそれぞれ復調する光信号の中心周波数に対応した周波数情報をそれぞれ抽出し、中心周波数の差が最大又は最小となるように、又は、周波数差成分の強度が最大となるように、又は、中心周波数に対応した周波数情報の一方が他方より大となるように、デジタル信号処理回路214(適応偏波分離部)を適応的に調整してもよい。
なお図7においては偏波間差周波数算出回路224を設け、周波数・位相補正回路220−1、220−2から得られたオフセット周波数推定信号221−1と221−2の差分を計算し、偏波間差周波数出力端子225から外部に出力するものとした。本端子は図5における、デジタル信号処理回路214の偏波間差周波数出力端子225と同一である。出力端子225は、例えば、2組の復調部の受信信号の中心周波数の差情報、又は、2組の復調部の受信信号のそれぞれの中心周波数に対応した周波数情報、又は、所定の周波数差の成分の強度などを外部に出力する。本信号は、信号処理回路214中のバタフライFIRフィルタの偏波分離動作の状況、ないしは送信側で付与した偏波間周波数差を反映するものである。例えば周波数差が所定の値(図4の例でΔf=100MHzの場合には、2倍の200MHz)である場合は、偏波分離が正常に動作していることを示すため、受信器の偏波分離状態の正常・異常を示す監視信号として利用することが可能である。これには、本信号を本実施例の外部に配置した上位の監視装置で収集し、アラーム発生やログ管理を行えばよい。また、送信側で波長の異なる送信器ごとにわずかに異なる周波数(例えば、50MHzから100MHzまで0.1MHz刻みなど)を割り当て偏波間に周波数差を付与し、この情報を受信側で波長チャネル識別などに利用することも可能である。また、隣接チャネルごとに異なる周波数を割当てることによって、隣接チャネルから漏れこむ偏波間周波数差情報を除去し、より信頼性の高い偏波制御が可能となる。コヒーレント受信器では、局発光源の波長をチューンして受信チャネルを選択するため、本機構により受信器が正しい波長の光信号を受信したことを簡易に確認することも可能である。
【0030】
上記第一の実施例では、光信号の変調に直交型光電界変調器102を用いる例を示している。このような直交型光電界変調器は、2個のマッハツェンダ型光変調器をさらにマッハツェンダ干渉計型に構成し光IQ変調器(デュアルパラレル変調器、もしくは光SSB変調器とも呼称される)が利用可能である。本変調器は2つのIQ端子に加えられた電圧信号をそのまま、出力光電界のIQ信号に変換する機能を持つため、本実施例の実現に適している。IQ変調器としては、リチウムナイオベイト結晶を用いた変調器、半導体を利用した変調器や、これらを別の導波路と組み合わせて集積化した例が知られているが、同等の機能を持てばどの構成を用いても構わない。またこれらの変調器では、印加電圧が半波長電圧Vπに近づくと電界変調の線形性が失われることが知られているが、これは印加電圧の範囲が十分に線形領域に収まるように印加電圧を下げる方法、もしくは非線形性を補償するよう逆特性を持った印加電圧テーブルや、外部の補正回路を用いて線形化する方法などと併用しても構わない。
また後述の実施例のように光IQ変調器に限らず、複数の変調器、例えば振幅変調器と位相変調器をタンデムに並べたような構成であっても同等の効果を得ることが可能である。この場合には、各変調器に与える電圧信号はあらかじめ適当な座標変換(本例の場合には極座標への変換)を施しておく必要がある。
また本実施例全体にわたり、光多値変調信号としては複素平面上で表示される二次元多値信号、特に4値位相変調を例に取り上げているが、本実施例の適用範囲はこれに限るものではなく、光偏波多重が可能な変調信号であれば、2値変調や他の様々な高次多値変調などにも広く適用可能である。例えば、従来より広く用いられる2値強度変調や2値位相変調、ないしは8QAM、16QAM、64QAMなどの高次直交振幅変調、8APSK、16APSKなどの高次振幅・位相変調信号にも適用可能である。またX・Y偏波の変調に用いる光信号が互いに異なる多値信号で変調されていたり、多値変調信号が時間的に可変なものであっても、本実施例の適用に本質的な影響は無い。
上記本実施例の光周波数シフトは、合成するX偏波/Y偏波のいずれか、ないしはどちらか一方に施してもよい。また変調周波数自体を時間的に変化させても構わないが、X/Y偏波成分のいずれの周波数が大かをあらかじめ決めておくことによって受信側での偏波成分の弁別が容易に行えるようになる。
【0031】
また上記の実施形態では、両方の偏波成分に周波数シフトを印加する構成を示したが、一方の偏波成分のみを変調する構成でもよい。この場合には、信号処理や変調回路の構成が簡素化できる利点がある。一方、両偏波成分を周波数シフトする構成の場合には、X偏波/Y偏波の変調信号の経路が同一になるため、両偏波の変調電気信号の相対遅延(スキュー)調整が容易になるなどの構成上の利点が得られる。受信側で偏波成分の弁別に利用されるのは、両偏波の差周波数(本実施例では2Δf)であるため、周波数変調量はX偏波/Y偏波間で自由に配分しても構わない。なお、本実施例のように、X/Y偏波を共に逆符号に変調する場合、各DA変換器で施す周波数シフトを最小にすることができ、DA変換器で生じるエリアジング(周波数シフト後の変調信号のナイキスト帯域逸脱)による劣化を最小にとどめることができる。
図9は、本発明の第2の実施例における偏波多重光送信器の構成図であり、本例は周波数シフト信号の異なる生成法を示したものである。前述の図6(C)(D)の説明で示したように、本実施例ではX偏波とY偏波成分の変調に互いに異なる速度で時間的にゆっくりと回転する信号点配置利用すればよい。図9はこれを乗算などを用いず直接生成する例であり、X偏波の変調信号の生成に回転多値符号化テーブル232を用いている。
本実施例の多値符号化回路230中で、符号化論理回路231は、入力情報信号に対応したX偏波成分の中間符号235−1を出力する。これは説明に利用する便宜的な符号であり実装においては利用する必要は無いが、以下では4値変調を想定し例えばd=0〜3の4値とした。一方、クロック回路233は、デジタルデータのサンプリングタイミング毎に、周波数Δfの周期のインデックス番号(clk=0〜N−1)を出力する回路である。本実施例の回転多値符号化テーブル232は、この中間符号dとインデックス番号clkから内部の表を読み出し、これを周波数シフトされた複素デジタル多値信号205−1として出力する。
【0032】
図10(A)は、回転多値符号化テーブル232の構成例である。本例では、中間符号d(列)とインデックス番号clk(行)を組み合わせて交点にある座標を読み出すことで実現できる。表の各行には、図6(C)のように時間すなわちインデックス番号の増加にしたがって周波数Δfで回転する信号点配置が予め記載されている。表の行数はインデックス番号の最大値で決まるが、前述のように周波数Δfがシンボルレートの1/1000の場合には1000行程度である。なお、各行に出現する数値は2種程度で符号や同相・直交成分の組み合わせのみを変えたものとなる(例えばclk=4の場合、0.93と1.07のみが出現する)。符号化表は全体や一部を論理回路で構成してもよく、上記のような規則性を用いれば十分に小さな回路規模で実現することができる。なお、本例は簡単のため、上記同様にシンボル速度とサンプリング速度が同一の場合を示しているが、さらに高速のデータサンプリング速度が必要な場合には本テーブルの出力部以降に補間回路を配置しサンプル点を補間して出力すればよい。
一方、図10(B)は従来通りの固定符号化テーブル234の例である。図9に示す本発明の第2の実施例においてはY偏波成分には周波数シフトを付与しないものとし仮定しており、その場合には本図のように時間変化しない固定の多値符号化テーブル(ないしは論理回路)を用いればよい。なお、Y偏波成分にも周波数シフトを付与してもよい。
図11は本発明の第3の実施例における、極座標偏重型偏波多重光送信器の構成図であり、光位相変調器242、光振幅変調器243を組み合わせ、光信号の位相と振幅を指定して所望の多値光電界を生成する例である。本例ではX偏波の変調構成のみを示しているが、Y偏波の変調回路244については従来どおりの構成であっても本発明のいずれかに示す変調方式であっても構わない。極座標型多値符号化テーブル241は、入力された情報信号に対応した極座標表現の多値符号を生成して出力する。デジタル鋸歯状波発生回路245は、周波数Δfで徐々に位相が増加する(又は減少する)繰り返しデジタル鋸歯状波(階段波)を発生する回路(ないしはテーブル)である。図12は、本回路の発生するデジタル鋸歯状波の例を示している。その値域は0〜2πであり、周波数Δfの逆数の時間でちょうど2πの位相回転を生じるものとなっている。位相加算回路246は、上記の鋸歯状波型の位相変化を極座標型多値符号化テーブル241の出力する位相成分と加算し、複素デジタル多値情報信号205−1を生成する。上記の位相加算の結果、出力信号の信号点配置は図6(C)のように周波数Δfで一定の速度で回転し、所望の周波数シフト効果が得られる。なお同様の効果は、位相加算を利用せず、第2の実施例のようにあらかじめ回転多値符号化テーブルを利用して実現しても構わない。
【0033】
また本例では示していないが、著名な極座標型光変調器の一種に2電極型マッハツェンダ(MZ)型光変調器が挙げられる。2電極型MZ型変調器は2つの変調電極(印加電圧をそれぞれVa、Vbとする)を備え、その光出力電界の振幅は2つの電極印加する差電圧(Va−Vb)、また位相回転量は(Va+Vb)に比例する極座標変調特性を持つことが知られている。よって、MZ変調器を極座標変調器として利用し、両変調電極の和電圧が図12に示すように鋸歯状波となるように逐次変調電圧を印加しても、上記と同様に周波数Δfで回転する多値信号を得ることができる。他の変調構造を持つ、光電界変調器においても同様に時間的に回転する多値信号を生成することで、本実施例に適用可能となる。
図13は本発明の第4の実施例における、偏波多重光送信器200の説明図であり、本例はデジタル演算や高速DA変換器を利用せず、アナログ演算によって前述の回転する多値信号点を生成する例である。本構成は図5の各要素をそのままアナログ演算に置換した構成であり、送信器に入力された複素アナログ多値信号251に周波数可変正弦波発振器(低周波アナログ発信器)250から得られる周波数Δfの正弦波を複素アナログ乗算器252で複素乗算して周波数シフトを発生させている。具体的には、周波数可変正弦波発振器250の出力信号を余弦波cos(2πΔft)とし、これを90度位相シフタ254によって正弦波sin(2πΔft)に変換し、両者をそれぞれを実部・虚部とする複素正弦波信号exp(j2πΔft)=cos(2πΔft)+jsin(2πΔft)を合成し、これを複素アナログ乗算器の一方の入力とし、複素アナログ多値信号251に乗算することで所望の周波数シフト効果が得られる。複素アナログ多値信号251としても様々な多値変調が利用可能である。例えば4値位相変調信号の場合には、複素アナログ多値信号251は実部と虚部をそれぞれアナログ2値電気信号とすればよい。また、複雑な多値変調信号を用いる場合には、複素アナログ多値信号251自体を高速のDA変換器で生成しても構わない。なお、複素アナログ乗算器の代わりに複素アナログ加算110−112を備え、複素加算するようにしてもよい。
【0034】
図14は、本発明の第5の実施例における、デジタル信号処理回路214の構成図である。本例は、偏波分離に用いるバタフライ型FIRフィルタ132において高速かつ高信頼な偏波収束実現する例であり、周波数・位相補正回路220−1、220−2から出力されるオフセット周波数推定信号221−1と221−2をそれぞれ偏波判定タップ最適化回路256−1、256−2に入力している。偏波判定タップ最適化回路256−1は受信信号中のX偏波成分を弁別し、本成分が最大となるようにバタフライ型FIRフィルタ132のタップ係数を制御することによって、目標の偏波状態への高速収束を可能としている。以下、第一の実施例のように送信側でX偏波成分の光周波数をY偏波成分より一定値(2Δf)だけ高く設定した場合を仮定すると、偏波判定タップ最適化回路256−1はオフセット周波数推定信号221−1の値が上昇する方向にタップを変化させることによって、所望のX偏波成分を抽出する状態へと速やかに移行することが可能となる。他方、偏波判定タップ最適化回路256−2はオフセット周波数推定信号221−2の値が減少する方向にタップを変化させることによって、所望のY偏波成分を抽出する状態へ移行する。これによって出力信号UXとUYが一致することを避け、上記の単一性の問題を解決し、付随する再収束を不要とし高速・高信頼化することが可能となる。
なお上記のような制御はCMAや判定指向などの制御信号と常に併用しても構わないが、図15に示すフローチャートのように段階的に切り替えて利用しても構わない。図15は偏波判定タップ最適化回路256の動作を示すフローチャートである。例えばX偏波の抽出においては、まずオフセット周波数推定信号221(fx)が最大となるようにバタフライ型FIRフィルタ132のタップを更新する。タップが収束し偏波分離が完了した後は、従来どおりにCMAや判定指向アルゴリズムに順次切り替えて高精度な多値信号の等化を行えばよい。なお、本例でも図7と同様に偏波間差周波数を出力する偏波間差周波数出力端子225を設けている。制御動作中に異常が発生し偏波分離状態が異常となった場合には、偏波間差周波数fx−fy中所定の一定値(c)を下回ることで判定可能である。このような場合はすみやかにオフセット周波数推定信号221(fx)が最大となるようにバタフライ型FIRフィルタを制御しなおすことで、目標の偏波状態を即座に復旧することが可能となる。
【0035】
なお本実施例で用いるバタフライ型フィルタの制御方法は上記に限るものではなく多彩な制御が可能である。例えば、上記の差周波数と、その目標値2Δfとの残差を算出し、これがゼロとなる方向にタップ係数を制御しても構わない。また実際には、偏波分離部の構成もこれまでの実施例で取り上げたようなバタフライ型フィルタに限らず、個別のデジタル演算回路を設ける例も考えられるが、いずれの場合にも受信器内部で抽出した各偏波成分のオフセット周波数ないしは周波数差を用いて最適制御を行うことで、本実施例の効果を得ることができる。
図16は、本発明の第6の実施例における偏波分離光受信器262の構成図であり、上記の偏波分離部を自動偏波コントローラと偏光依存素子(偏光依存透過素子)である検光子を用いて構成した例である。本例ではX偏波とY偏波ともに高い分離度を得るために、それぞれ個別に自動偏波コントローラを配置して最適制御した例である。偏波多重された受信光信号122は2つに分岐され、それぞれ自動偏波コントローラ158−1、158−2を経由して偏波分離器159−1、159−2に入力されている。前者は受信信号のうちX偏波成分受信用の光受信器162−1、後者はY偏波成分受信用の光受信器162−2に接続されており、共に受信光信号の一部を分岐した後に両者を合波し、低速光検出器155に導いている。X偏波およびY偏波の受信光は、低速光検出器155で互いに干渉するように設定されている。この結果、正しくX偏波成分が受信器162−1に、またY偏波成分が受信器162−2に入力されている場合には、両者の所定の周波数差のビート成分が発生する(前述の例では周波数2Δf)。本実施例の差周波数成分抽出フィルタ261は、この周波数差成分を抽出して差周波数成分最大化回路260に入力する。差周波数成分最大化回路260は、検出した差周波成分(図では2Δf)が最大となるように自動偏波コントローラ158−1と158−2を制御することによって、すみやかに偏波分離状態が得られる。
なお本図に示す偏波分離や検出系の構成は一例に過ぎない。例えば、偏波制御回路の配置位置や偏波成分の差周波数の検出法などは必要に応じて変更を行っても構わない。例えば等化特性に急峻な光周波数依存性を持つ光フィルタを光周波数弁別器として利用し、受信器162−1と162−2に入力される光信号の中心周波数を直接測定し、その差が大となるように自動偏波コントローラ158−1、158−2の制御を行っても構わない。
【0036】
図17は、本発明の第7の実施例における偏波多重伝送光送信器の構成図である。本例では、発振周波数が所定量だけ異なる2つの光源101−1、101−2を用い、これをそれぞれ光変調器102−1、102−2で多値変調し、互いに直交する偏波で多重化することによって、本発明の効果を得ている。光源として用いられる半導体レーザの発振周波数は温度や圧力などの周囲環境や経時劣化などによって数GHz以上も大きく変化するため、本例では2つの光源の周波数差が常に所定値となるように周波数安定化を行っている。具体的には、両光源の出力光の一部を分岐した後、低速光検出器155にて干渉させそのビート成分を検出する。この際、両光の偏波状態が互いに並行となるように偏波状態の変換を行えば、ビート成分の検出効率を向上することも可能である。前記ビート成分の周波数は両光の周波数差に等しくなるため、これを周波数安定化回路263に入力し、差周波数が常に一定となるように、レーザ光源101−2の発振周波数を微調することで、所望の効果が実現できる。
なお、送信光として所定の周波数だけ異なる複数の光を出力する多波長光源の出力光を分波して用いてもよい。
本発明では、偏波多重光送信器の送出する互いに直交する偏波成分に所定の周波数差を付与して伝送することによって、受信側での偏波分離の精度や速度、信頼性を高める効果がある。この際、周波数差を大とすると光信号の伝送や受信信号の処理に余分な光帯域・電気帯域が必要となるので、所定の周波数差を帯域幅の20%程度に制限すると、帯域の増加を最小限とし、かつ伝送信号の劣化を抑える効果がある。このように、光源の周波数差を利用して偏波成分の分離を行うので原理的に伝送特性の劣化をゼロとすることができ、偏波成分に小信号の強度変調や位相変調を加えるような従来の手法に比べて格段に有利となる。
偏波成分間に所定の周波数差を付与するには、前記2つの光変調器において、入力光の中心周波数を互いに異なる量だけ周波数シフトして出力する構成とすることで送信器の構成を簡素化できるようになる。また周波数差をデジタル的にないしは電気発振器の周波数として、電気領域で精密に指定できるようになるという効果もある。特に、これらの変調器が光電界変調器である場合には、中心周波数をわずかにシフトした光信号電界を直接生成する、すなわち光多値変調信号に互いに異なる中心周波数シフトを施した二次元回転多値光電界を生成することで、光多値変調部と周波数シフト部を共用し、送信器の構成を簡素化することができる。
【0037】
このような電界信号の生成は、光変調器の各変調電極に高速のDA変換器を備えてデジタル信号処理によって実現するのが簡易であり、通常の多値送信器に比べてもハードウェアの増加がほとんど無いという利点がある。また多値情報信号に上記のアナログ発振器から出力された正弦波信号をアナログ複素乗算ないしは加算する構成としても構わない。この場合でも、わずかな部品の増加で本発明を実現できるという効果がある。
なお、本発明の偏波多重送信器は、一個の送信光源の出力光を2分岐して各光変調器の入力光とし、上記の光変調器ないしはその前後に光周波数シフト機能を備え、2つの出力光の中心周波数が前記所定量だけ異なるように周波数シフトして出力する構成としても、十分簡易に実現することができる。
本発明の偏波多重光多値信号の受信側においては、受信した偏波成分間から前記所定の周波数差成分を検出し、本情報に基づいて多重された元の直交偏波成分を識別ないしは分離することによって、偏波状態の収束における単一性の問題を回避し、光伝送システムの立ち上け時間を大幅に短縮することが可能となる。
本発明を単一性問題の発生の判定に用いる際には、2つの偏波成分間から抽出した所定の周波数差が一定値以上であること、ないしは2つの偏波成分間の差周波信号中の所定の周波数成分の強度が一定値以上であること、ないしは一方の受信器で受信される光信号の中心光周波数と他方の受信器で受信される光信号の中心光周波数との差が一定値以上であるかどうかを判定する形態が有効である。すなわち、本条件を満たせない場合には、受信側の偏波分離回路が誤動作し同一の偏波成分を抽出していることが即座に判定できるので、受信器外部のフレーマICなどが出力するフレーム正誤情報を待たずに、受信器内部ですみやかに偏波分離部をリセットし短時間で再収束を開始することができる。
さらには上記の2つの偏波成分間の差周波数が拡大する方向に、もしくは差周波数成分中の所定の周波数成分の強度が大となるように、もしくは2つの偏波成分の光周波数差が拡大する方向に偏波分離部の自動制御を行うことで、最初から2つの異なる偏波成分を分離するように偏波分離部を動作させることができ、単一性問題を原理的に回避し、よりすみやかに目標となる偏波成分を抽出することが可能となる。例えば送信側でX偏波成分の変調周波数Y偏波成分より大に設定し、受信側でも周波数が正となる方向を正常収束と判定することによって、受信器における偏波成分の入れ替わりを防ぐこともできる。
また上記直交偏波成分間に付与する所定の周波数差を外部から指定する入力端子や指定機能を設けることによって、波長ごとやチャネルごとに任意の周波数差を設定できる。受信側でも指定した差周波数成分を検出することができるようにすることでチャネル識別やチャネル間の偏波クロストークを抑圧することが可能となる。また受信側で検出した差周波数情報を外部に出力することで、偏波分離の動作状況などをモニタしより高信頼なネットワークを構築することが可能となる。
また本信号の受信に偏波ダイバーシティデジタルコヒーレント受信器を用いた場合には、偏波分離部の直後にオフセット周波数推定回路を備えているため、ほとんどハードウェアの規模の増加を伴うことなく上記の差周波数成分を抽出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、光通信分野における光偏波多重伝送と光偏波分離の実現を容易にする技術であり、特にデジタルコヒーレント受信器を用いた偏波多重光伝送システムの信頼性と立ち上げの高速化を実現するものであり、例えば10〜100Gビット/秒以上の高速光ファイバ通信で広く利用することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
100:従来の偏波多重光送信器、101:レーザ光源、
102:直交光電界変調器、103:同相成分変調信号の入力端子、
104:直交成分変調信号の入力端子、105:X偏波の光変調信号、106:Y偏波の光変調信号、
107:偏波多重器、108:光分岐器、
110:従来の偏波ダイバーシティコヒーレント光受信器、
111:バランス型光検出器、112:AD変換器、
113:偏波分離・光90度ハイブリッド回路、
114:デジタル信号処理回路、115:多値信号判定回路、
116:局発レーザ光源、
120:偏波多重された送信光信号、121:光ファイバ伝送路、
122:偏波多重された受信光信号、123:受信光信号と局発光のS偏波成分、
124:受信光信号と局発光のP偏波成分、
125:復調されたX偏波成分、126:復調されたY偏波成分、
127:情報信号、128:フレーマ・誤り訂正回路、129:リセット信号、
130:波長分散補償回路、131:リタイミング回路、
132:バタフライ型FIRフィルタ、133:FIRフィルタ(HXX)、
134:FIRフィルタ(HYY)、135:FIRフィルタ(HXY)、
136:FIRフィルタ(HYX)、137:加算回路、
139:リセット信号入力端子、
140:CMA演算回路、141:周波数・位相補正回路、
142:判定誤差算出回路、143:タップ最適化回路、
144:入力複素信号列、145:出力複素信号列、146:遅延回路、
147:複素タップ乗算回路、148:複素加算回路、
149:タップ更新信号、
150:従来の偏波多重光送信器、151:MZ型光変調器、
152:変調信号の入力端子、153:低速正弦波発振器(周波数f)、
154:バイアス信号の入力端子、155:低速光検出器、
156:バンドパスフィルタ(中心周波数f)、157:最大化制御回路、
158:自動光偏波コントローラ、159:偏波分離回路、
160:従来の偏波分離光受信器、161:受信品質情報、162:光受信器、
200:本発明の偏波多重光送信器、201:多値符号器、
202:複素デジタル多値信号、203:複素デジタル発振器、
204:複素デジタル乗算器、205:周波数シフトされた複素デジタル多値信号、
206:DA変換器、207:ドライバ回路、
210:周波数シフトされたX偏波の光変調信号、
211:周波数シフトされたY偏波の光変調信号、
212:本発明の偏波多重された送信光信号、
213:本発明の偏波多重された受信光信号、
214:本発明のデジタル信号処理回路、
215:本発明の偏波ダイバーシティコヒーレント光受信器、
220:本発明の周波数・位相補正回路、221:オフセット周波数推定信号、
222:本発明の周波数比較回路、223:リセット信号、
224:本発明の偏波間差周波数算出回路、225:偏波間差周波数出力端子、
230:本発明の多値符号化回路、231:符号化論理回路、
232:本発明の回転多値符号化テーブル、233:クロック回路、
234:固定多値符号化テーブル、235:中間符号、
240:本発明の極座標変調型偏波多重光送信器、
241:極座標型多値符号化テーブル、
242:光位相変調器、243:光振幅変調器、244:Y偏波の変調回路、
245:デジタル鋸歯状波発生回路、246:位相加算回路、
250:周波数可変正弦波発振器、251:複素アナログ多値信号、
252:複素アナログ乗算器、253:周波数シフトされた複素アナログ多値信号、
254:90度位相シフタ、255:発信周波数指定信号、
256:本発明の偏波判定タップ最適化回路
260:本発明の差周波数成分最大化回路、261:本発明の差周波数成分抽出フィルタ、
262:本発明の偏波分離光受信器、263:周波数安定化回路、
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏波多重光伝送システム、偏波多重光送信器及び偏波多重光受信器に係り、光ファイバを用いた光情報伝送、更に詳しくは、情報信号で変調された光信号を偏波多重する光送信器、ならびに本信号を受信して分離する機能を持つ光受信器、および両者を組み合わせた光伝送システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
超高速光ファイバ伝送においては、信号伝送に利用可能な波長範囲(ないしは周波数帯域)を有効に利用するため複数の波長の異なる光信号を束ねて送信し、光ファイバを伝送後に受信端で元の波長ごとに分離したのちに個々の光受信器で受信する波長多重伝送が広く用いられている。また周波数帯域をさらに有効に利用する手法として、偏波多重伝送の利用も検討されている。
偏波多重とは、光の偏波状態の違いを利用した多重化方式である。送信側で独立な情報信号で変調した2組の光信号を互いに直交する偏波状態に変換して多重化したのちに光ファイバ伝送を行う。光信号の偏波状態はポアンカレ球面上のある一点として表すことが可能である。光ファイバ伝送路中で光信号の偏波状態はポアンカレ球上でランダムな変換を受けるが、偏波状態の直交性は維持される。このため、受信側で偏波状態の変換処理と偏波分離を行うことで多重化した元の2つの光信号を分離することができ、同じ波長幅を用いて2倍の情報伝送が可能となる。
このような偏波多重伝送、具体的には送信器における偏波多重と受信器における偏波分離にはいくつかの実現法が知られている。
ここでは偏波多重光受信器の従来技術の一つであるコヒーレント偏波多重伝送方式について説明する。このような方式の例としては、P.J.Winzer、“Spectrally Efficient Long−Haul Optical Networking Using 112−Gb/s Polarization−Multiplexed 16−QAM”、 JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY、 VOL.28、 NO.4、 FEBRUARY 15、 2010、 pp.547−556(非特許文献1)が挙げられる。図1は偏波多重光送信器と偏波ダイバーシティ型コヒーレント光受信器を用いた、従来のデジタルコヒーレント偏波多重伝送システムの説明図である。
【0003】
偏波多重光送信器100では、レーザ光源101から出力される無変調のレーザ光を光分岐器108で2つに分岐し、2つの直交光電界変調器102−1と102−2に入力する。直交型光変調器(もしくはIQ変調器とも呼ばれる)は、それぞれリチウムニオベイトなどの基板上に並列に配置された2組のMZ型変調器から構成され、各MZ変調器の変調信号入力端子に高速変調された電圧信号を印加することによって、光電界の同相成分(I成分、ないしは実部)と直交成分(Q成分ないしは、虚部)を独立に変調することが可能である。本例では、2つの直交型光変調器の同相成分変調信号の入力端子103−1、103−2、直交成分変調信号の入力端子104−1、104−2にはそれぞれ独立の多値情報信号が入力されている。この結果、各MZ変調器の出力光は、それぞれ二次元複素平面上で変調された独立な多値変調光となる。これらはそれぞれ互いに偏波状態が直交となるように変換され、X偏波の光変調信号105、Y偏波の光変調信号106として偏波多重器107に入力され、偏波多重された送信光信号120として出力される。
図2は上記の光多値信号の表示方法と、光多値変調の信号点配置、および偏波多重伝送の説明図である。
(A)は、複素平面(IQ平面)上の信号点の説明図であり、各多値信号の変調状態は、変調波形の中央時刻(識別時刻)における光電界(厳密にはその等化低域表示)を、信号点は複素直交座標(IQ座標)を用いて、もしくは振幅r(n)と位相φ(n)を用いる極座標で表示することができる。
(B)は、位相角φ(n)として4つの値(π/4、3π/4、−3π/4、−π/4)を用いて1シンボルで2ビットの情報(00、01、11、10)を伝送する4値位相変調(QPSK)である。本信号は、例えば直交型光電界変調器102−1の2つの入力端子、すなわち同相成分変調信号の入力端子103−1、直交成分変調信号の入力端子104−1にそれぞれ2値電気信号を入力し、同相成分(I)と直交成分(Q)をそれぞれ正負2値に変調することで生成することができる。偏波多重100Gビット伝送は、各偏波の光信号に4値位相変調を採用している。変調に用いられる電気2値信号の速度はおよそ28Gbit/sであり、これを用いて生成した4値位相変調信号は1シンボルで2ビットの情報を伝送できるので、伝送速度は56Gbit/sとなる。
【0004】
(C)は、さらに情報伝送効率の高い16値直交振幅変調(16QAM)を示す。16QAMでは、信号点が格子状に配置され、1シンボルで4ビットの情報伝送が可能となる。図示した例では、Q軸の座標で上位2ビット(10xx、11xx、01xx、00xx)の値、I軸の座標で下位2ビット(xx10、xx11、xx01、xx00)の値が表現されている。このような多値信号は、図1の同相成分変調信号の入力端子103−1、直交成分変調信号の入力端子104−1にそれぞれ多値電気信号(本例では4値)を入力し、同相成分と直交成分の電界座標(i(t)、q(t))を指定して生成することができる。このとき、出力されるX偏波の光変調信号105の光電界は(i(t)+jq(t))exp(jωt)と書き表される。ここでωはレーザ光源101の光角周波数、jは虚数単位である。なお複雑な光電界信号を生成する際には、複素電界信号の実部i(t)、及び虚部q(t)の電圧信号を超高速のDA変換器を用いて生成し、これを同相成分変調信号の入力端子103−1、直交成分変調信号の入力端子104−1に印加する場合もある。
(D)は、偏波多重の概念図である。光波は電磁波の一種であり、進行方向に対する電界の振動方向によって、2つの独立な直交偏波状態(例えば水平偏波と垂直偏波)が存在する。このため2つの光電界成分(図ではX偏波成分、Y偏波成分)を別々の情報信号で変調して多重化して伝送することが可能である。前述の100Gビット伝送においては、X偏波とY偏波にそれぞれ独立な56Gbit/sの4値位相変調信号を多重して伝送するため、総伝送速度は112Gbit/sとなる。なお伝送速度が100Gbit/sを越えているのは符号化や誤り訂正情報の付加によるものであり、方式によってはさらに異なる値をとる場合もある。
【0005】
図1において上記のように偏波多重された送信光信号120は、光ファイバ伝送路121を数10〜数1000km長距離伝送され、同時に光ファイバの波長分散などで伝送劣化を受けたのちに、従来の偏波ダイバーシティコヒーレント光受信器110で受信される。コヒーレント受信とは、光信号の電界成分の検出基準として、受信器内部に配置された局発光源116の出力光を用いる方式である。偏波多重された受信光信号122は、偏波分離・光90度ハイブリッド回路113によって、S偏波成分123を4つ、P偏波成分124を4つの計8本に分離され、4台のバランス型光受信器111−1、111−2、111−3、111−4で受光される。
【0006】
受信器内に配置された局発レーザ光源116の光周波数は受信光信号122と略同一に設定され、その出力光は偏波分離・光90度ハイブリッド回路113のもうひとつの入力ポートに接続され、信号光同様にバランス型光受信器111−1、111−2、111−3、111−4に分配される。各バランス型光受信器では、入力された信号光と局発光が干渉して電気信号に変換され、出力された高速電気信号はAD変換器112−1、112−2、112−3、112−4でサンプリングされ、デジタル信号に変換される。デジタル信号処理回路114は入力デジタル信号に偏波成分の分離や復調の処理を行い、復調された元のX偏波成分125およびY偏波成分126を出力する。多値信号判定回路115はこれらの信号の復号処理を行い情報信号127を出力する。なお、一般には受信器(トランスポンダ)の後ろには、フレーマ・誤り訂正回路128が配置される。フレーマ・誤り訂正回路128では、受信信号を解析してデータフレームの先頭を発見し、あらかじめ送信前に付与した誤り訂正情報を利用した誤り訂正処理、ヘッダ中の情報を読み出してチャネルや監視情報の処理などを行う。本構成では、フレーマ・誤り訂正回路128は偏波分離処理の正否も観測しており、偏波分離動作に失敗したと判断した場合にはデジタル信号処理回路114に再実行を指示するリセット信号129を送出する構成となっている。
図3(A)は従来のデジタルコヒーレント偏波多重伝送方式におけるデジタル信号処理回路114の説明図であり、その内部の信号処理の様子を説明している。本回路に入力される電気デジタル信号は、S偏波の同相成分(SI)、S偏波の直交成分(SQ)、P偏波の同相成分(PI)、P偏波の直交成分(PQ)の4組ある。各信号は、それぞれ変調信号のシンボル速度の1〜2倍程度でサンプリングされた5〜8ビット程度の分解能のデジタル信号列である。100Gコヒーレント受信器ではサンプリング速度が最大56Gサンプリング/秒にも達するため、入力デジタル信号列や内部の演算処理はLSIの動作速度に合わせて数〜数100の規模で並列化されて処理される。以下、SIを実部、SQを虚部とする複素信号S、PIを実部、PQを虚部とする複素信号Pを考える。入力信号S、Pはそれぞれ波長分散補償回路130−1、130−2で伝送路の波長分散の影響を補償され、ついでリタイミング回路131−1、131−2によって波形の中央時刻が奇偶いずれかのサンプリング時刻に合致するようにタイミング補正やリサンプリング処理が行われる。バタフライ型FIRフィルタ132は、波形の適応補正を行うデジタル等化フィルタである。その機能には、符号間干渉の除去、残留波長分散の補償、および本発明でも取り扱う偏波分離などがある。バタフライ型FIRフィルタ132はs、p2組の偏波の複素信号を入力とし、送信側で多重化された元の偏波成分x、y2組の複素信号を出力とする2入力2出力フィルタであり、図のように4つの複素FIRフィルタ、FIRフィルタ(HXX)133、FIRフィルタ(HYY)134、FIRフィルタ(HXY)135、FIRフィルタ(HYX)136より構成される。これらの出力信号は加算回路137−1、137−2で合成され、2組の出力信号x、yが得られる。
【0007】
図3(B)は上記複素FIRフィルタの内部構成の例を示す図である。図3(B)において、入力複素信号列144は1シンボルに1個ないしは2個程度のサンプリング点を持つ複素デジタル信号である。FIRフィルタ内部では、サンプリング点の時間間隔に等しい遅延時間(Z^−1)を持つ遅延回路146、複素タップ乗算回路147、複素加算回路148を用いてはしご型デジタルフィルタが構成されており、各サンプル時刻ごとに、各時刻のサンプル値に複素タップ重みwiを乗じて加算し、出力複素信号列145が逐次計算されて出力される。各複素タップの重みは、出力複素信号列145の歪みが最小となるように補償データ設定信号149によって設定される。
図3(A)において、バタフライ型FIRフィルタ132は、2つの出力信号の一部をCMA演算回路140−1、140−2に入力してエラー信号(Ex、CMA、EY、CMA)を算出し、タップ最適化回路143−1、143−2はこれらのエラー信号がゼロとなるように、各FIRフィルタのタップ係数を逐次更新する適応等化を行っている。CMAとは信号処理で用いられる定包落線アルゴリズム(Constant Modulous Algorithm)の略であり、CMA回路は出力信号の振幅誤差(例えば所定値1.0からのずれ)を計算しエラー信号として出力する回路である。前述の100G信号のように偏波多重されたQPSK信号を受信する場合、一方の偏波成分が完全に分離されて波形の歪みが補正された場合に、エラー信号がゼロになることがわかっている。このため本回路が正しく動作すれば、バタフライ型フィルタから波形歪みが補償されかつ偏波分離が行われた出力信号が得られる。
【0008】
その後、周波数・位相補正回路141で、局発光源と送信光源の周波数差(周波数オフセット)の補正、出力信号の位相ずれ(複素平面上での回転方向のずれ)が補正され、復調された信号列X、Yが出力される。なお非特許文献1では、16値変調などの振幅変調を含む高次の多値信号はそもそも振幅一定でないため、上記のCMA演算が完全には動作しないことが報告されている。このため、CMA演算はバタフライ型フィルタ132のタップ係数の初期収束にのみ利用し、ある程度収束して多値復調が可能となった後は判定誤差算出回路142−1および142−2で、出力信号の信号点配置の誤差を検出してタップ最適化回路143−1、143−2に入力し、誤差が最小となるようにタップ最適化を行う判定指向法も併用される。またタップ最適化回路143−1、143−2にはリセット信号入力端子139−1、139−2が設けられ、必要に応じて外部から再収束の開始が指示できる。
また図4は、従来の別の偏波多重伝送方式の説明図であり、受信側に自動光偏波コントローラを配置して偏波分離を行う方式を示している。従来の偏波多重光送信器150では、光信号の変調に2つのMZ型光変調器151−1、151−2が利用されており、それぞれの変調信号の入力端子152−1、152−2にはそれぞれ高速の2値ないしは多値のアナログ電気信号が印加されている。一方、MZ型光変調器151−2においては、バイアス信号の入力端子154に変調バイアス電圧の最適化用に、低速正弦波発振器153から出力される周波数fの小振幅の正弦波信号を加えている。図では、バイアス印加用の直流電圧源や、MZ型変調器151−1側は表示を省略している。このようなバイアス電圧の最適化は、例えばMZ変調器151−2の直後で出力光波形の強度変化を低速の光検出器で検出し、そのうち周波数fの成分が最大となるようにバイアス信号の直流電圧成分を調整するように実施される。
【0009】
一般にこのような小振幅変調の重畳は伝送信号の品質劣化を引き起こすことが知られおり、またバイアス変調端子154の変調帯域幅も限られている。このため前記の正弦波信号としては、一般には品質劣化への影響の比較的少ない低い周波数(f=数kHz〜数10kHz程度)とし、また変調度1〜5%程度に設定される。
2つのMZ型光変調器151−1、151−2の出力光は、それぞれ互いに直交する偏波状態X、Yに変換され偏波多重回路107で偏波多重されて出力される。このような偏波多重回路としては、偏波合成器や偏波ビームスプリッタ、ないしは偏波依存性の無い光カプラなどが用いられる。その後光ファイバ伝送路121を伝送された光信号は、従来の偏波分離光受信器160で受信される。入力部には、自動光偏波コントローラ158と偏波分離回路159が配置され、受信信号を2つの偏波成分X、Yに分離している。
上記の構成における自動光偏波コントローラ158の制御法はいくつか考案されているが、本例は例えば送信側で印加した低速のバイアス変調成分を利用する例を想定したものである。Y成分の受信ポートには低速光検出器155が配置され、受信光の一部を分岐して、上記の周波数fに合致した成分がバンドパスフィルタなどで抽出される。最大化制御回路157は、この周波数fの成分が最大となるように自動光偏波コントローラ158を制御することで、常に受信側のY成分受信ポートに送信側のY偏波成分が出力されるように自動制御を行う。なおこれは、送信側のバイアス変調によって、送信されるY偏波の成分中に周波数fの強度変調成分が生じている場合であり、光信号の変調方式(例えば2値位相変調)によっては代わりに周波数2fの成分を最大化する必要がある場合もある。上記のように偏波制御によって光ファイバ伝送路121の偏波主軸状態に変動が生じても、常に光受信器162−2にはY偏波成分が最大となるような最良な受信状態を維持することが可能となる。
他の偏波分離方式としては、上記のようなバイアス成分の検出の変わりに、受信器内部で受信品質を観測し、これを受信品質信号161として外部に出力し、この値が最大となるように自動偏波コントローラ158を制御する方式も考案されている。受信品質信号としては、信号品質を高感度に反映する量であれば利用可能であり、例えば受信信号のアイ開口、信号点のばらつきを表すEVM(Error Vector Magnitude)の符号反転値、符号誤り率の負の対数値、Q値などが利用可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】P.J.Winzer、“Spectrally Efficient Long−Haul Optical Networking Using 112−Gb/s Polarization−Multiplexed 16−QAM”、 JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY、 VOL.28、 NO.4、 FEBRUARY 15、 2010、 pp.547−556
【非特許文献2】Ling Liu、“Initial Tap Setup of Constant Modulus Algorithm for Polarization De−multiplexing in Optical Coherent Receivers”、 Optical Fiber Conference (OFC) 2009、 paper OMT2、 Mar、 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の構成において解決すべき課題を下記に示す。
第一の従来例においては、偏波ダイバーシティコヒーレント光受信器において、偏波分離に用いるバタフライ型FIRフィルタ132の最適化において単一性問題(Singularity Problem)と呼ばれる、解の不定性の問題が生じてしまう点が挙げられる。単一性問題とは、入力されたs/p2つの偏波信号からx/yの2つの偏波成分を抽出する収束過程において、x/yが同一、すなわち2つの出力ポートから両方ともxないしは両方ともy成分が抽出されるようにバタフライ型フィルタが収束してしまう問題である。光ファイバ伝送路にはわずかな偏波依存損失があり、これより偏波直交性もわずかに破れているため、単一性問題を完全に防ぐのは難しい。また別の問題としては、2つのポートに送信側のX/Yどちらの偏波成分が抽出されるかは不定であり、1/2の確率で偏波成分が入れ替わってしまうことが挙げられる。
【0012】
上記の単一性や偏波の交換のような問題はデータの復調・復号過程での検出は困難であり、受信器の後ろに配置されるフレーマ・誤り訂正回路128において検出・解決するのが一般的とされる。本発明の対象となるメトロ・コア網の光送受信器では、送信されるデータはOTN(optical transport network)ないしはSTN、SDH等などの規格に基づいた一定長のフレームを構成しており、その先頭部(プリアンブル)などには特殊なビットパターンが配置されて、フレーム検出に用いられている。単一性の問題が生じ両偏波の受信パターンが同一となってしまった場合には、所定の先頭パターンやフレームヘッダなどが検出できなくなる。このような異常が生じた際には、フレーマから送受信器内部のバタフライ型フィルタの再収束を指示するフィルタリセット信号(図1の129)を送出し、偏波分離用バタフライ型フィルタの再収束を実行する。なお、2つの偏波のデータの入れ替わりに対しては、フレーマ内部にx/y偏波のデータ入替回路を用意し、先頭パターンの位相に応じて両者の入れ替え有無を切り替えることで対処することも可能である。
【0013】
しかしながら、上記の構成では以下の問題がある。
まず単一性問題が生じ再収束が必要になった場合に、受信器の立ち上げに余分な時間がかかってしまう。第一の理由は、フレーマなどの光受信器外部の回路において単一性の判定を行うため、受信器が立ち上がり有効なデータが出力されてフレーム構造が検出可能となるまで判定が開始できないためである。
典型的なコヒーレント100G受信器の場合、バタフライ型フィルタの収束ひとつ取っても、数千〜数万シンボル(1シンボル時間が35ピコ秒であり)が必要で、これらを100程度に並列展開して処理するため、通常数10〜数100マイクロ秒の時間を要すると考えられる。またフレーム先頭の検出には最低でも数個のフレーム(フレーム長は数マイクロ秒)を観測する必要があり、これも並列化して処理を行うため数100マイクロ秒程度の時間を要する。さらに再収束を行っても、同一状態への収束を100%避ける方法はなく数回の試行を行う可能性もあり、結局リンク確立までに数ミリ〜数10ミリ秒の時間を要する可能性がある。
特に問題となるのが送受信器の動作中に、誤って同一偏波状態への収束が生じた場合である。光ファイバ伝送路の偏波状態は時々刻々変化を続けるため、図3のタップ更新回路143−1、143−2は受信器の動作中、常に偏波状態の変化を追跡し収束状態を維持し続ける必要がある。しかしながら、偏波モード分散や光ファイバ非線形効果などによる瞬時的な信号品質の劣化、高速な偏波回転の発生、バグやノイズによるタップ係数のミスなどにより、動作中にはバタフライ型FIRフィルタの収束状態がはずれ、出力偏波が同一になったり反転してしまう常に可能性がある。特に高次多値信号に用いられる判定指向法においては、より高精度なタップの最適化が可能であるものの、その分外乱に弱く、誤動作が生じ多値信号の判定が困難になった場合には再びCMAによる粗収束から再開する必要がある。
【0014】
このような際には、可能な限り早く収束状態を復旧する必要があるが、上記のように外部のフレーマ部などを用いて誤収束を検出する構成では、誤収束の検出から再収束の完了までにさらに長い時間を要してしまい、数〜数100フレーム以上、ないしは数10マイクロ秒から数10ミリ秒以上の信号断を生じる可能性がある。このような際には、各送受信器は信号断を示すアラームを発生し、上位のネットワーク装置に回線故障を知らせ、ネットワーク復旧の措置を開始する必要がある。例えば、ネットワーク上に迂回経路を設定する場合、さらに別の優先度の低い回線を遮断したり予備帯域を確保するなど、ネットワーク運用上に大きな負荷をかけ、伝送帯域幅などの大量のリソースを消費してしまう。このように、従来手法では偏波分離用のバタフライ型FIRフィルタの誤収束の復旧に時間を要し、これが無用に長時間の信号断や予備回線の確保など大きなネットワークリソースの消費につながり、ネットワーク全体の信頼性や効率的運用を損ねるという課題があった。
従来、このような単一性の問題を回避する手法としては例えば、Ling Liu、“Initial Tap Setup of Constant Modulus Algorithm for Polarization De−multiplexing in Optical Coherent Receivers”、 Optical Fiber Conference (OFC) 2009、 paper OMT2、 Mar、 2009(非特許文献2)が提案されている。本手法は、バタフライ型FIRフィルタ132のうちあらかじめ片側の出力(例えばX)のみ、すなわちFIRフィルタ(HXX)133とFIRフィルタ(HYX)136のみの最適化を開始し、これらが収束したのちに、残るFIRフィルタ(HXY)135とFIRフィルタ(HYY)134の初期状態が概ね上記のFIRフィルタ(HXX)133とFIRフィルタ(HYX)136と直交するように設定した後に収束を開始する手法である。本手法では、最初から目標とする直交状態に近い初期状態が設定できるため、単一性の問題を回避できる可能性が高くなる。しかしながら、非特許文献2の手法も、理論上100%完全に単一性問題を回避できるものではなく、2回に分けて収束動作を行うため、従来手法より長時間の信号断を引き起こす可能性がある。また動作中にバタフライ型フィルタが誤動作して同一の偏波状態に収束してしまうリスクは従来の手法と同様であり、また2つの偏波のデータが入れ替わってしまう問題も解決されない。
【0015】
次に図4に示す従来の自動光偏波コントローラを用いた偏波多重光送信器の課題を示す。図4の例では、偏波分離部に一個の自動偏波コントローラと偏波分離回路159を用いて、直交した偏波成分を強制的に分離して2つの受信器に供給するため、原理的には上記の例のような単一性の問題は回避できる。これは2つの受信器に、同じ偏波の信号が入力されることは無いためである。
しかしながらこのような構成では、変調成分を最大化するY側の偏波成分については伝送品質が最良となるが、X側については大きな劣化が生じている可能性がある。これは例えば、伝送路の偏波依存損失などよっては伝送後の偏波状態の直交性が保たれなくなった場合などが挙げられる。このような場合には、X偏波の出力光にはX/Y両成分が混入することになり、伝送品質が大きく劣化してしまう。このような信号劣化を防ぐにはX成分についても伝送品質を検出し、またX成分を最大化する自動偏波コントローラと偏波分離回路をもう一組設け、X/Y偏波成分の品質をそれぞれ独立に最適化する手法が考えられる。しかしながらこのような方式では、おのおのの受信器で受信した信号がX/Yどちらの偏波成分かを判定することはできず、同様に単一性の問題が生じてしまう。
単一性の問題を避けるためには、両偏波成分(図ではY)に異なる周波数の小振幅のバイアス変調信号を印加し、これを利用して受信偏波を識別する手も考えられる。しかしながら、このようなバイアス変調を行うと受信信号の一部が情報伝送に利用できなくなり、受信感度などの伝送性能の劣化を引き起こす(例えば10%程度の強度変調があると、1dB程度の受信感度劣化を生じてしまう)。
そこで本発明の第一の目的は、光偏波多重・分離伝送における単一性の問題を解決し、高速かつ高信頼な偏波多重・分離方式、ないしは受信偏波の誤収束判定方法を提供することである。
次に本発明の第二の目的は、信号品質の劣化を防止した新たな偏波成分の識別法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述の課題は、2つの光変調器に入力される入力光を互いに異なる二値以上の一次元ないしは二次元の多値情報信号で変調した光多値信号を生成し、前記光多値信号を前記の偏波合成器で互いに直交する偏波に多重化して送出する偏波多重光送信器において、両偏波成分の中心周波数に所定の周波数差を付与することによって解決できる。所定の周波数差としては両偏波成分の識別可能であればよく、光信号の占める全帯域幅(具体的には20dBダウン点で測定した全幅)の20%以下とすれば十分である。
上記の周波数差を付与する手段としては、一個の送信光源の出力光を2分岐して各光変調器の入力光とし、前記の光変調器ないしはその前後に光周波数シフト機能を備え、両偏波の変調に用いる光変調器の入力光の中心周波数を互いに所定量だけ異なるように周波数シフトして出力する形態が考えられる。
また所定の周波数だけ発振周波数の異なる2つの光源の出力光を用意し、これらを異なる情報信号で変調し偏波多重して出力したり、所定の周波数だけ異なる2つ以上の波長を同時に出力可能なレーザ光源を利用し、その出力光を波長ごとに分波し、情報信号で変調後に偏波多重することでも実現できる。
【0017】
特に、光変調器として、複数の変調電極に加えられた二次元電圧信号に応じた任意の二次元光電界を出力する光電界変調器を用いる場合、多値変調と本発明の光周波数シフトをひとつの光変調器で同時に実施することが可能である。この場合、前記の2つの光変調器は、それぞれ前記の二次元多値変調信号に互いに前記所定の周波数だけ異なる中心周波数シフトを施した、二次元回転光多値変調信号を直接生成して出力すればよい。
これは、前記の光変調器のそれぞれの変調電極に接続された高速のDA変換器を用いて、前記の二次元回転光多値変調信号に対応した二次元回転多値変調電圧信号を生成することで実現できる。二次元回転多値変調電圧信号は、例えばデジタル信号処理やテーブル読み出しで生成する手法、もしくは低周波複素アナログ正弦波信号を複素多値変調信号に複素乗算ないしは加算する手法などで実現できる。
本発明では、受信側における信号の偏波分離の際に、上記のように付与した偏波間の所定の差周波数情報を検出し、本情報に基づいて多重された元の直交偏波成分を識別ないしは分離を行う。具体的には、2つの偏波成分間から検出した前記所定の周波数差成分の強度が一定値以下であった場合、ないしは2つの偏波成分間の周波数差が一定値以下であった場合、ないしは一方の受信器で受信される光信号の中心光周波数と他方の受信器で受信される光信号の中心光周波数との差が一定値を下回った場合に、適応偏波分離部の動作をリセットすることで、同一の偏波状態への収束を回避できる。
またさらに高度な制御方法としては、前記2つの偏波成分間から検出した前記所定の周波数差成分、ないしは2つの受信器がそれぞれ受信する光信号の中心周波数の差に対応した周波数情報を抽出し、前記中心周波数差が最大ないしは最小となるように、もしくは前記所定の周波数差成分の強度が最大となるように、もしくは前記の中心周波数情報の所定の一方が他方より大となるように、前記の適応偏波分離部を適応的に調整することによって、単一性の問題を解決しより高速・高信頼な偏波分離を実現できる。
【0018】
本技術の適用に当たっては、送信側で2つの直交偏波成分間に付与する前記所定の周波数差を外部から指定する入力端子、ないしは前記所定の周波数差を指定する機能を備え、また受信側においては前記2つの受信器の受信信号の中心周波数の差情報、ないしは2つの受信器のそれぞれの中心周波数に対応した周波数情報、ないしは前記所定の周波数差の成分の強度を外部に出力する機能を備えることによって、チャネル識別や隣接チャネルからのクロストークの抑圧をはかりさらに信頼性を増すなど、本発明の活用範囲を広げることが可能となる。
なお本発明は、前記の偏波多重光受信器が、受信信号を偏波ダイバーシティコヒーレント受信し、前記の偏波分離部をデジタル信号処理で実現する、デジタルコヒーレント偏波多重光受信器である場合や、前記の偏波分離部が、自動偏波コントローラと偏光依存素子で構成された偏波多重光伝送システムである場合に特に有効である。
【0019】
本発明の第1の解決手段によると、
2つの光変調器と偏波合成器を有し、前記2つの光変調器に入力される入力光を互いに異なる二値以上の一次元又は二次元の多値情報信号で変調した光多値信号を生成し、前記光多値信号を前記偏波合成器で互いに直交する偏波に多重化して送出する偏波多重光送信器であって前記互いに直交する偏波の光多値信号の中心周波数に所定の周波数差を付与する偏波多重光送信器と
偏波多重された信号の2つの直交偏波成分を適応的に分離する適応偏波分離部と、分離された2つの偏波成分を復調する2組の復調部を有する偏波多重光受信器と
を備え、
前記偏波多重光受信器が、受信した2つの偏波成分の周波数差成分を検出し、検出された周波数成分に基づいて、多重された元の直交偏波成分を識別又は分離することを特徴とする偏波多重光伝送システムが提供される。
【0020】
本発明の第2の解決手段によると、
2つの光変調器と偏波合成器を備え、前記2つの光変調器に入力される入力光を互いに異なる二値以上の一次元又は二次元の多値情報信号で変調した光多値信号を生成し、前記光多値信号を前記偏波合成器で互いに直交する偏波に多重化して送出する偏波多重光送信器において、
前記互いに直交する偏波の光多値信号の中心周波数に所定の周波数差を付与することを特徴とする偏波多重光送信器が提供される。
【0021】
本発明の第3の解決手段によると、
2つの光変調器と偏波合成器を有し、前記2つの光変調器に入力される入力光を互いに異なる二値以上の一次元又は二次元の多値情報信号で変調した光多値信号を生成し、前記光多値信号を前記偏波合成器で互いに直交する偏波に多重化して送出する偏波多重光送信器であって前記互いに直交する偏波の光多値信号の中心周波数に所定の周波数差を付与する偏波多重光送信器と、偏波多重光受信器とを備えた偏波多重光伝送システムにおける前記偏波多重光受信器であって、
偏波多重された信号の2つの直交偏波成分を適応的に分離する適応偏波分離部と、
分離された2つの偏波成分を復調する2組の復調部と
を備え、
受信した2つの偏波成分の周波数差成分を検出し、検出された周波数成分に基づいて、多重された元の直交偏波成分を識別又は分離することを特徴とする前記偏波多重光受信器が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、光偏波多重・分離伝送における単一性の問題を解決し、高速かつ高信頼な偏波多重・分離方式、ないしは受信偏波の誤収束判定方法を提供することができる。また、本発明によると、信号品質の劣化を防止した新たな偏波成分の識別法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来のデジタルコヒーレント偏波多重伝送システムの説明図である。
【図2】光多値信号の表示方法と、光多値変調方式の信号点、および偏波多重伝送の説明図である。
【図3】従来のデジタルコヒーレント偏波多重伝送方式におけるデジタル信号処理回路114、およびFIRフィルタの構成図である。
【図4】従来の自動光偏波コントローラを用いた偏波多重伝送方式の説明図である。
【図5】本発明の第1の実施例におけるデジタルコヒーレント偏波多重伝送システムの構成図である。
【図6】本発明の第1の実施例における光信号スペクトルおよび信号点配置の説明図である。
【図7】本発明の第1の実施例におけるデジタル信号処理回路214の構成図である。
【図8】本発明の第1の実施例におけるデジタル信号処理回路214の動作を示す説明図である。
【図9】本発明の第2の実施例における偏波多重光送信器の構成図である。
【図10】本発明の第2の実施例における多値符号化テーブルの構成例である。
【図11】本発明の第3の実施例における極座標変調型偏波多重光送信器の構成図である。
【図12】本発明の第3の実施例における鋸歯状波発生回路245の説明図である。
【図13】本発明の第4の実施例における偏波多重光送信器200の説明図である。
【図14】本発明の第5の実施例におけるデジタル信号処理回路214の構成図である。
【図15】本発明の第5の実施例における偏波判定タップ最適化回路256の動作を示すフローチャートである。
【図16】本発明の第6の実施例における偏波多重伝送システムの構成図である。
【図17】本発明の第7の実施例における偏波多重伝送光送信器の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の幾つかの実施例を図面を参照して説明する。
図5は、実施例1におけるデジタルコヒーレント偏波多重伝送システムの構成図である。本図は、本実施例の偏波多重光送信器200から出力される本実施例の偏波多重された送信光信号212が、光ファイバ伝送路121を伝送された後に、本実施例の偏波多重された受信光信号213として、本実施例の偏波ダイバーシティコヒーレント光受信器215で受信される様子を示している。以下の各図では、デジタル信号の経路を白抜きの矢印、高速アナログ電気信号の経路を細線、光信号の経路は太線、低速の制御信号を点線で示す。なお、従来と同様の構成を用いることができるものについては、同じ符号を付し説明を適宜省略する。
本実施例の偏波多重光送信器200は、単一の送信光源101から得られた変調光を光分岐器108で2つに分岐し、それぞれないしは一方の偏波成分の光信号の周波数をわずかにシフトして出力する。本例のX偏波成分の変調においては、多値符号器201から得られた複素デジタル多値信号202−1を複素デジタル乗算回路204−1に入力する。一方、複素デジタル発振器203−1は、周波数+Δfの複素正弦波(exp(+j2πΔft))をデジタル的に発生する発振回路であり、その出力信号が上記の複素デジタル乗算回路204−1に入力される。本回路は、多値信号のサンプリング周期に応じて、上記の複素正弦波をリアルタイムで演算する方式や、あらかじめ容易されたテーブルから複素数を順次読み出す方式で簡単に実現できる。
複素デジタル乗算回路204−1は、入力された複素デジタル多値信号202−1に上記の複素正弦波を乗算し、演算結果としてΔfだけ正側に周波数シフトされた複素デジタル多値信号205−1を出力する。その実部と虚部は、それぞれDA変換器206−1、206−2によってアナログ信号に変換された後に、直交光電界変調器102−1の同相・直交変調端子に印加されて光電界信号に変換される。
上記のように複素多値信号にexp(+j2πΔft)を乗算する操作は、ベースバンド多値信号に周波数+Δfのキャリア成分を重畳して中間周波数帯の信号に変換する操作であり、この結果生成されるX偏波の光変調信号210は+Δfだけ正の周波数(短波長側)に周波数シフトされる。
【0025】
本例では、Y偏波成分の変調においても同様に、多値符号器201から得られた複素デジタル多値信号202−2を複素デジタル乗算回路204−2に入力し、複素デジタル発振器203−2から得られた、周波数−Δfの複素正弦波(exp(−j2πΔft))を重畳し、周波数シフトされた複素デジタル多値信号205−2を生成する。これを元に生成されるY偏波の光変調信号211をΔfだけ負の周波数(長波長側)に周波数シフトしている。この結果、X偏波とY偏波の光変調信号210と211には2Δfの周波数差が生じることになる。
図6(A)と(B)は光信号のスペクトルの説明図であり、(A)は周波数シフトを行わない場合、(B)は上記の周波数シフトを行った場合の光信号スペクトルである。上段がX偏波成分の光信号210、下段がY偏波の光信号211の光スペクトルを示しており、信号光は情報信号によって変調されているためそのスペクトル幅は多値信号のシンボルレート程度(例えば28Gシンボル/秒であれば半値全幅で20GHz程度、20dBダウン全幅で38GHz程度)に広がっている。(A)では両偏波成分の中心周波数は互いにfsigに一致しているが、(B)ではX偏波成分が+Δf、Y偏波成分が−Δfだけ互いに周波数がずれていることがわかる。
【0026】
なお図中の太い縦線は、受信器215内部に配置された無変調の局発光源116(光周波数flo)のスペクトル配置を示している。デジタルコヒーレント受信器では、局発光と信号光の中心周波数差ΔF(オフセット周波数)は信号スペクトル幅よりも小に設定されており、およそシンボルレートの数分の1程度(28Gシンボル/秒の場合、例えば0〜±5GHz)の範囲である。本実施例におけるX偏波とY偏波の周波数シフト量は、原則として任意に設定することが可能であるが、本例ではコヒーレント受信器の復調処理に影響を及ぼさないようにΔfがΔFより十分小となるように設定しする。Δfをあまり小とした場合には、後述する受信器での検出速度や精度が劣化する。よってΔfは10MHz〜1GHz程度、例えば100MHz程度に設定すればよい。
また所定の差周波数2Δfをあまり大とすると、本実施例の偏波多重された送信光信号211の占有スペクトル幅も増大し、スペクトル利用効率が低下したり、伝送路中に配置されたROADMやWSSなどの部品による光フィルタリングによって光スペクトルが削られて伝送特性が劣化する可能性がある。また送受信器内部では、AD/DA変換器のナイキスト帯域を逸脱してしまいエリアジングが発生し信号品質の劣化が生じる。
例えば100G信号の伝送に割当てられる光帯域幅(チャネル間隔)は50GHzであり、そのうち前述の100G信号の帯域幅(20dB全幅)は38GHz程度である。チャネル間に10%(=5GHz)のガードバンドを取ると、差周波数2Δfに割り当て可能なのは最大でも7GHzであり、およそ光信号帯域の19%(〜7/38)となる。
また100G信号のサンプリング周波数は標準的にはシンボルレート(28Gシンボル/秒)の2倍の56Gサンプル/秒であり、ナイキスト周波数は28GHzとなる。前述の全幅38GHzの光信号をホモダイン受信する場合、局発光との周波数差ΔF=±5GHzを許容するものとすると、受信電気信号の所要帯域幅は38/2+5=24GHzとなる。よって所定の差周波数2Δfの上限は、(28−24)*2=8GHzであり、これは光信号帯域の22%となる(〜8/36)。よって、一例として、本実施例では偏波間に付与する所定の差周波数の上限を光信号の占める全帯域幅(20dB全幅)の20%とした。なお前述のΔf=100MHzであれば光周波数帯域の増大はおよそ1%であり、伝送劣化の発生をほぼ完全に避けることが可能である。
【0027】
また図6(C)(D)は本実施例の変調信号の信号点配置を示す図である。図6(C)はX偏波成分の変調に用いる+Δfだけ周波数シフトされた複素デジタル多値信号205−1を、図6(D)はY偏波成分の変調に用いる−Δfだけ周波数シフトされた複素デジタル多値信号205−2を図示しており、どちらも変調信号が4値の位相変調である場合を例示している。本来のバンド変調された4値位相変調信号の信号点配置は、図2(B)に示すように時間的に固定した信号点配置となるが、周波数シフトを施すことによってわずかに中心周波数がずれ、両者は二次元複素平面上で時間的に信号点配置が回転する二次元回転光多値変調信号となる。これは光電界ないしは、これを等価低域表現した複素デジタル信号どちらの場合でも共通である。
デジタル多値信号のシンボル速度を例えば28Gシンボル/秒、周波数シフト量Δf=56MHzとすると、1シンボルあたりの回転量は円周の1/500、すなわち0.72度となる。X偏波成分は+Δfだけ周波数シフトを持つとすると、シンボル時刻n−1、n、n+1ごとに信号点配置は0.72度ずつ反時計周りに回転し、実際には4点の白丸のいずれか一点(黒丸)を用いて情報伝送を行うものとなる。一方、Y偏波成分の周波数シフト量を−Δfとすると、これは逆の時計周りで同じ速度で回転する信号点配置となる。
このように本実施例は上記のように、X偏波とY偏波が異なる速度で時間的にゆっくりと回転する信号点配置を利用して情報伝送を行うものと解釈することができる。上記はデジタル信号のサンプリング速度と多値信号のシンボル速度が同一の例であるが、両者が異なる場合には上記を適宜時間補完したデジタルサンプル列を生成すれば問題ない。
本実施例の偏波ダイバーシティコヒーレント光受信器215は、上記の光信号を受信し、これを本実施例のデジタル信号処理回路214で復調する。図7は、本実施例のデジタル信号処理回路214の構成図である。本例の周波数・位相補正回路220−1、220−2は推定したオフセット周波数の出力端子をもち、それぞれX偏波のオフセット周波数fX、Y偏波のオフセット周波数fYを推定し、これをオフセット周波数推定信号221−1、221−2として出力する。本例では、両信号は周波数比較回路222に入力され、周波数比較回路222は両周波数を比較し両者の差が一定値を下回る場合には、リセット信号223を出力する。リセット信号は、例えば、2つの偏波成分から検出した周波数差成分の強度が予め定められた値以下であった場合、又は、2つの偏波成分間の周波数差が予め定められた値以下であった場合、又は、復調部の一方で受信される光信号の中心光周波数と復調部の他方で受信される光信号の中心光周波数との差が予め定められた値を下回った場合などに出力してもよい。
【0028】
図8(A)〜(F)はデジタル信号処理回路214の動作を示す説明図であり、各位置における両偏波成分の信号点分布を示している。図8(A)(B)はそれぞれ入力信号VsとVpであり、偏波分離や波形歪みの除去が行われていないため、光電界信号の複素電界はほぼランダムに分布している。(C)(D)は、バタフライ型FIRフィルタ132の出力後の複素信号UX、UYである。波長分散補償回路130やバタフライ型FIRフィルタ132で正常に波形補正と偏波分離動作が行われた場合、(C)(D)のように時間的に徐々に回転する信号点配置が得られる。両信号点配置の回転周波数fxとfyは、それぞれの偏波成分の中心周波数と局発光の発振周波数の差(図6参照)であり、本例ではおよそfx=ΔF+Δf、fy=ΔF−Δfとなる。これらの信号は、それぞれ周波数・位相補正回路220−1、220−2に入力され、ここから信号点配置の比較的ゆっくりとした回転成分(回転周波数fxとfy)が推定され、回転成分が除去される。図8(E)(F)は、周波数・位相補正回路220−1、220−2の出力複素信号Vx、VYであり、これらの信号が後続の多値判定に用いられる。周波数・位相補正回路220−1、220−2からは推定された回転周波数fx、fYがオフセット周波数推定信号221−1、221−2として数値情報などの形態で出力され、本実施例ではこれらの差分ないしは大小関係から受信した2つの偏波成分の弁別を行う。
図7におけるタップ最適化回路143−1、143−2の動作は以下の通りである。受信動作の開始に伴い、まずCMA演算回路140−1、140−2から得られるエラー信号Ex、CMAとEY、CMAが最小となるように収束動作を開始する。一定回数の演算後、リセット信号223が出力されている、すなわち両偏波成分の周波数差が例えばゼロである場合、タップ最適化回路143−1、143−2は共に同一偏波成分を抽出しているため、タップ最適化回路143−1(ないしは143−1、143−2の双方でも構わない)をリセットし再収束を開始する。この際、各FIRフィルタは適宜新しいの初期偏波状態に変更してから再収束を開始するのが望ましい。リセット信号が出力されていなければ、従来どおりにそのまま収束動作を継続すればよい。
【0029】
本手法では、バタフライ型FIRフィルタ132の直後に配置された周波数・位相補正回路220−1、220−2の出力信号を用いて偏波分離の正誤を判定することが可能である。また推定周波数はフィルタが完全に収束する前に得ることができるため、従来に比べはるかに高速に再収束を開始することが可能である。また、偏波成分間の周波数差の符号も考慮する、例えば送信側でX偏波成分の変調周波数Y偏波成分より大に設定し、受信側でも周波数が正となる方向を正常収束と判定することによって、受信器における偏波成分の入れ替わりを防ぐこともできる。例えば、2つの偏波成分から検出した周波数差成分、又は、2組の復調部がそれぞれ復調する光信号の中心周波数に対応した周波数情報をそれぞれ抽出し、中心周波数の差が最大又は最小となるように、又は、周波数差成分の強度が最大となるように、又は、中心周波数に対応した周波数情報の一方が他方より大となるように、デジタル信号処理回路214(適応偏波分離部)を適応的に調整してもよい。
なお図7においては偏波間差周波数算出回路224を設け、周波数・位相補正回路220−1、220−2から得られたオフセット周波数推定信号221−1と221−2の差分を計算し、偏波間差周波数出力端子225から外部に出力するものとした。本端子は図5における、デジタル信号処理回路214の偏波間差周波数出力端子225と同一である。出力端子225は、例えば、2組の復調部の受信信号の中心周波数の差情報、又は、2組の復調部の受信信号のそれぞれの中心周波数に対応した周波数情報、又は、所定の周波数差の成分の強度などを外部に出力する。本信号は、信号処理回路214中のバタフライFIRフィルタの偏波分離動作の状況、ないしは送信側で付与した偏波間周波数差を反映するものである。例えば周波数差が所定の値(図4の例でΔf=100MHzの場合には、2倍の200MHz)である場合は、偏波分離が正常に動作していることを示すため、受信器の偏波分離状態の正常・異常を示す監視信号として利用することが可能である。これには、本信号を本実施例の外部に配置した上位の監視装置で収集し、アラーム発生やログ管理を行えばよい。また、送信側で波長の異なる送信器ごとにわずかに異なる周波数(例えば、50MHzから100MHzまで0.1MHz刻みなど)を割り当て偏波間に周波数差を付与し、この情報を受信側で波長チャネル識別などに利用することも可能である。また、隣接チャネルごとに異なる周波数を割当てることによって、隣接チャネルから漏れこむ偏波間周波数差情報を除去し、より信頼性の高い偏波制御が可能となる。コヒーレント受信器では、局発光源の波長をチューンして受信チャネルを選択するため、本機構により受信器が正しい波長の光信号を受信したことを簡易に確認することも可能である。
【0030】
上記第一の実施例では、光信号の変調に直交型光電界変調器102を用いる例を示している。このような直交型光電界変調器は、2個のマッハツェンダ型光変調器をさらにマッハツェンダ干渉計型に構成し光IQ変調器(デュアルパラレル変調器、もしくは光SSB変調器とも呼称される)が利用可能である。本変調器は2つのIQ端子に加えられた電圧信号をそのまま、出力光電界のIQ信号に変換する機能を持つため、本実施例の実現に適している。IQ変調器としては、リチウムナイオベイト結晶を用いた変調器、半導体を利用した変調器や、これらを別の導波路と組み合わせて集積化した例が知られているが、同等の機能を持てばどの構成を用いても構わない。またこれらの変調器では、印加電圧が半波長電圧Vπに近づくと電界変調の線形性が失われることが知られているが、これは印加電圧の範囲が十分に線形領域に収まるように印加電圧を下げる方法、もしくは非線形性を補償するよう逆特性を持った印加電圧テーブルや、外部の補正回路を用いて線形化する方法などと併用しても構わない。
また後述の実施例のように光IQ変調器に限らず、複数の変調器、例えば振幅変調器と位相変調器をタンデムに並べたような構成であっても同等の効果を得ることが可能である。この場合には、各変調器に与える電圧信号はあらかじめ適当な座標変換(本例の場合には極座標への変換)を施しておく必要がある。
また本実施例全体にわたり、光多値変調信号としては複素平面上で表示される二次元多値信号、特に4値位相変調を例に取り上げているが、本実施例の適用範囲はこれに限るものではなく、光偏波多重が可能な変調信号であれば、2値変調や他の様々な高次多値変調などにも広く適用可能である。例えば、従来より広く用いられる2値強度変調や2値位相変調、ないしは8QAM、16QAM、64QAMなどの高次直交振幅変調、8APSK、16APSKなどの高次振幅・位相変調信号にも適用可能である。またX・Y偏波の変調に用いる光信号が互いに異なる多値信号で変調されていたり、多値変調信号が時間的に可変なものであっても、本実施例の適用に本質的な影響は無い。
上記本実施例の光周波数シフトは、合成するX偏波/Y偏波のいずれか、ないしはどちらか一方に施してもよい。また変調周波数自体を時間的に変化させても構わないが、X/Y偏波成分のいずれの周波数が大かをあらかじめ決めておくことによって受信側での偏波成分の弁別が容易に行えるようになる。
【0031】
また上記の実施形態では、両方の偏波成分に周波数シフトを印加する構成を示したが、一方の偏波成分のみを変調する構成でもよい。この場合には、信号処理や変調回路の構成が簡素化できる利点がある。一方、両偏波成分を周波数シフトする構成の場合には、X偏波/Y偏波の変調信号の経路が同一になるため、両偏波の変調電気信号の相対遅延(スキュー)調整が容易になるなどの構成上の利点が得られる。受信側で偏波成分の弁別に利用されるのは、両偏波の差周波数(本実施例では2Δf)であるため、周波数変調量はX偏波/Y偏波間で自由に配分しても構わない。なお、本実施例のように、X/Y偏波を共に逆符号に変調する場合、各DA変換器で施す周波数シフトを最小にすることができ、DA変換器で生じるエリアジング(周波数シフト後の変調信号のナイキスト帯域逸脱)による劣化を最小にとどめることができる。
図9は、本発明の第2の実施例における偏波多重光送信器の構成図であり、本例は周波数シフト信号の異なる生成法を示したものである。前述の図6(C)(D)の説明で示したように、本実施例ではX偏波とY偏波成分の変調に互いに異なる速度で時間的にゆっくりと回転する信号点配置利用すればよい。図9はこれを乗算などを用いず直接生成する例であり、X偏波の変調信号の生成に回転多値符号化テーブル232を用いている。
本実施例の多値符号化回路230中で、符号化論理回路231は、入力情報信号に対応したX偏波成分の中間符号235−1を出力する。これは説明に利用する便宜的な符号であり実装においては利用する必要は無いが、以下では4値変調を想定し例えばd=0〜3の4値とした。一方、クロック回路233は、デジタルデータのサンプリングタイミング毎に、周波数Δfの周期のインデックス番号(clk=0〜N−1)を出力する回路である。本実施例の回転多値符号化テーブル232は、この中間符号dとインデックス番号clkから内部の表を読み出し、これを周波数シフトされた複素デジタル多値信号205−1として出力する。
【0032】
図10(A)は、回転多値符号化テーブル232の構成例である。本例では、中間符号d(列)とインデックス番号clk(行)を組み合わせて交点にある座標を読み出すことで実現できる。表の各行には、図6(C)のように時間すなわちインデックス番号の増加にしたがって周波数Δfで回転する信号点配置が予め記載されている。表の行数はインデックス番号の最大値で決まるが、前述のように周波数Δfがシンボルレートの1/1000の場合には1000行程度である。なお、各行に出現する数値は2種程度で符号や同相・直交成分の組み合わせのみを変えたものとなる(例えばclk=4の場合、0.93と1.07のみが出現する)。符号化表は全体や一部を論理回路で構成してもよく、上記のような規則性を用いれば十分に小さな回路規模で実現することができる。なお、本例は簡単のため、上記同様にシンボル速度とサンプリング速度が同一の場合を示しているが、さらに高速のデータサンプリング速度が必要な場合には本テーブルの出力部以降に補間回路を配置しサンプル点を補間して出力すればよい。
一方、図10(B)は従来通りの固定符号化テーブル234の例である。図9に示す本発明の第2の実施例においてはY偏波成分には周波数シフトを付与しないものとし仮定しており、その場合には本図のように時間変化しない固定の多値符号化テーブル(ないしは論理回路)を用いればよい。なお、Y偏波成分にも周波数シフトを付与してもよい。
図11は本発明の第3の実施例における、極座標偏重型偏波多重光送信器の構成図であり、光位相変調器242、光振幅変調器243を組み合わせ、光信号の位相と振幅を指定して所望の多値光電界を生成する例である。本例ではX偏波の変調構成のみを示しているが、Y偏波の変調回路244については従来どおりの構成であっても本発明のいずれかに示す変調方式であっても構わない。極座標型多値符号化テーブル241は、入力された情報信号に対応した極座標表現の多値符号を生成して出力する。デジタル鋸歯状波発生回路245は、周波数Δfで徐々に位相が増加する(又は減少する)繰り返しデジタル鋸歯状波(階段波)を発生する回路(ないしはテーブル)である。図12は、本回路の発生するデジタル鋸歯状波の例を示している。その値域は0〜2πであり、周波数Δfの逆数の時間でちょうど2πの位相回転を生じるものとなっている。位相加算回路246は、上記の鋸歯状波型の位相変化を極座標型多値符号化テーブル241の出力する位相成分と加算し、複素デジタル多値情報信号205−1を生成する。上記の位相加算の結果、出力信号の信号点配置は図6(C)のように周波数Δfで一定の速度で回転し、所望の周波数シフト効果が得られる。なお同様の効果は、位相加算を利用せず、第2の実施例のようにあらかじめ回転多値符号化テーブルを利用して実現しても構わない。
【0033】
また本例では示していないが、著名な極座標型光変調器の一種に2電極型マッハツェンダ(MZ)型光変調器が挙げられる。2電極型MZ型変調器は2つの変調電極(印加電圧をそれぞれVa、Vbとする)を備え、その光出力電界の振幅は2つの電極印加する差電圧(Va−Vb)、また位相回転量は(Va+Vb)に比例する極座標変調特性を持つことが知られている。よって、MZ変調器を極座標変調器として利用し、両変調電極の和電圧が図12に示すように鋸歯状波となるように逐次変調電圧を印加しても、上記と同様に周波数Δfで回転する多値信号を得ることができる。他の変調構造を持つ、光電界変調器においても同様に時間的に回転する多値信号を生成することで、本実施例に適用可能となる。
図13は本発明の第4の実施例における、偏波多重光送信器200の説明図であり、本例はデジタル演算や高速DA変換器を利用せず、アナログ演算によって前述の回転する多値信号点を生成する例である。本構成は図5の各要素をそのままアナログ演算に置換した構成であり、送信器に入力された複素アナログ多値信号251に周波数可変正弦波発振器(低周波アナログ発信器)250から得られる周波数Δfの正弦波を複素アナログ乗算器252で複素乗算して周波数シフトを発生させている。具体的には、周波数可変正弦波発振器250の出力信号を余弦波cos(2πΔft)とし、これを90度位相シフタ254によって正弦波sin(2πΔft)に変換し、両者をそれぞれを実部・虚部とする複素正弦波信号exp(j2πΔft)=cos(2πΔft)+jsin(2πΔft)を合成し、これを複素アナログ乗算器の一方の入力とし、複素アナログ多値信号251に乗算することで所望の周波数シフト効果が得られる。複素アナログ多値信号251としても様々な多値変調が利用可能である。例えば4値位相変調信号の場合には、複素アナログ多値信号251は実部と虚部をそれぞれアナログ2値電気信号とすればよい。また、複雑な多値変調信号を用いる場合には、複素アナログ多値信号251自体を高速のDA変換器で生成しても構わない。なお、複素アナログ乗算器の代わりに複素アナログ加算110−112を備え、複素加算するようにしてもよい。
【0034】
図14は、本発明の第5の実施例における、デジタル信号処理回路214の構成図である。本例は、偏波分離に用いるバタフライ型FIRフィルタ132において高速かつ高信頼な偏波収束実現する例であり、周波数・位相補正回路220−1、220−2から出力されるオフセット周波数推定信号221−1と221−2をそれぞれ偏波判定タップ最適化回路256−1、256−2に入力している。偏波判定タップ最適化回路256−1は受信信号中のX偏波成分を弁別し、本成分が最大となるようにバタフライ型FIRフィルタ132のタップ係数を制御することによって、目標の偏波状態への高速収束を可能としている。以下、第一の実施例のように送信側でX偏波成分の光周波数をY偏波成分より一定値(2Δf)だけ高く設定した場合を仮定すると、偏波判定タップ最適化回路256−1はオフセット周波数推定信号221−1の値が上昇する方向にタップを変化させることによって、所望のX偏波成分を抽出する状態へと速やかに移行することが可能となる。他方、偏波判定タップ最適化回路256−2はオフセット周波数推定信号221−2の値が減少する方向にタップを変化させることによって、所望のY偏波成分を抽出する状態へ移行する。これによって出力信号UXとUYが一致することを避け、上記の単一性の問題を解決し、付随する再収束を不要とし高速・高信頼化することが可能となる。
なお上記のような制御はCMAや判定指向などの制御信号と常に併用しても構わないが、図15に示すフローチャートのように段階的に切り替えて利用しても構わない。図15は偏波判定タップ最適化回路256の動作を示すフローチャートである。例えばX偏波の抽出においては、まずオフセット周波数推定信号221(fx)が最大となるようにバタフライ型FIRフィルタ132のタップを更新する。タップが収束し偏波分離が完了した後は、従来どおりにCMAや判定指向アルゴリズムに順次切り替えて高精度な多値信号の等化を行えばよい。なお、本例でも図7と同様に偏波間差周波数を出力する偏波間差周波数出力端子225を設けている。制御動作中に異常が発生し偏波分離状態が異常となった場合には、偏波間差周波数fx−fy中所定の一定値(c)を下回ることで判定可能である。このような場合はすみやかにオフセット周波数推定信号221(fx)が最大となるようにバタフライ型FIRフィルタを制御しなおすことで、目標の偏波状態を即座に復旧することが可能となる。
【0035】
なお本実施例で用いるバタフライ型フィルタの制御方法は上記に限るものではなく多彩な制御が可能である。例えば、上記の差周波数と、その目標値2Δfとの残差を算出し、これがゼロとなる方向にタップ係数を制御しても構わない。また実際には、偏波分離部の構成もこれまでの実施例で取り上げたようなバタフライ型フィルタに限らず、個別のデジタル演算回路を設ける例も考えられるが、いずれの場合にも受信器内部で抽出した各偏波成分のオフセット周波数ないしは周波数差を用いて最適制御を行うことで、本実施例の効果を得ることができる。
図16は、本発明の第6の実施例における偏波分離光受信器262の構成図であり、上記の偏波分離部を自動偏波コントローラと偏光依存素子(偏光依存透過素子)である検光子を用いて構成した例である。本例ではX偏波とY偏波ともに高い分離度を得るために、それぞれ個別に自動偏波コントローラを配置して最適制御した例である。偏波多重された受信光信号122は2つに分岐され、それぞれ自動偏波コントローラ158−1、158−2を経由して偏波分離器159−1、159−2に入力されている。前者は受信信号のうちX偏波成分受信用の光受信器162−1、後者はY偏波成分受信用の光受信器162−2に接続されており、共に受信光信号の一部を分岐した後に両者を合波し、低速光検出器155に導いている。X偏波およびY偏波の受信光は、低速光検出器155で互いに干渉するように設定されている。この結果、正しくX偏波成分が受信器162−1に、またY偏波成分が受信器162−2に入力されている場合には、両者の所定の周波数差のビート成分が発生する(前述の例では周波数2Δf)。本実施例の差周波数成分抽出フィルタ261は、この周波数差成分を抽出して差周波数成分最大化回路260に入力する。差周波数成分最大化回路260は、検出した差周波成分(図では2Δf)が最大となるように自動偏波コントローラ158−1と158−2を制御することによって、すみやかに偏波分離状態が得られる。
なお本図に示す偏波分離や検出系の構成は一例に過ぎない。例えば、偏波制御回路の配置位置や偏波成分の差周波数の検出法などは必要に応じて変更を行っても構わない。例えば等化特性に急峻な光周波数依存性を持つ光フィルタを光周波数弁別器として利用し、受信器162−1と162−2に入力される光信号の中心周波数を直接測定し、その差が大となるように自動偏波コントローラ158−1、158−2の制御を行っても構わない。
【0036】
図17は、本発明の第7の実施例における偏波多重伝送光送信器の構成図である。本例では、発振周波数が所定量だけ異なる2つの光源101−1、101−2を用い、これをそれぞれ光変調器102−1、102−2で多値変調し、互いに直交する偏波で多重化することによって、本発明の効果を得ている。光源として用いられる半導体レーザの発振周波数は温度や圧力などの周囲環境や経時劣化などによって数GHz以上も大きく変化するため、本例では2つの光源の周波数差が常に所定値となるように周波数安定化を行っている。具体的には、両光源の出力光の一部を分岐した後、低速光検出器155にて干渉させそのビート成分を検出する。この際、両光の偏波状態が互いに並行となるように偏波状態の変換を行えば、ビート成分の検出効率を向上することも可能である。前記ビート成分の周波数は両光の周波数差に等しくなるため、これを周波数安定化回路263に入力し、差周波数が常に一定となるように、レーザ光源101−2の発振周波数を微調することで、所望の効果が実現できる。
なお、送信光として所定の周波数だけ異なる複数の光を出力する多波長光源の出力光を分波して用いてもよい。
本発明では、偏波多重光送信器の送出する互いに直交する偏波成分に所定の周波数差を付与して伝送することによって、受信側での偏波分離の精度や速度、信頼性を高める効果がある。この際、周波数差を大とすると光信号の伝送や受信信号の処理に余分な光帯域・電気帯域が必要となるので、所定の周波数差を帯域幅の20%程度に制限すると、帯域の増加を最小限とし、かつ伝送信号の劣化を抑える効果がある。このように、光源の周波数差を利用して偏波成分の分離を行うので原理的に伝送特性の劣化をゼロとすることができ、偏波成分に小信号の強度変調や位相変調を加えるような従来の手法に比べて格段に有利となる。
偏波成分間に所定の周波数差を付与するには、前記2つの光変調器において、入力光の中心周波数を互いに異なる量だけ周波数シフトして出力する構成とすることで送信器の構成を簡素化できるようになる。また周波数差をデジタル的にないしは電気発振器の周波数として、電気領域で精密に指定できるようになるという効果もある。特に、これらの変調器が光電界変調器である場合には、中心周波数をわずかにシフトした光信号電界を直接生成する、すなわち光多値変調信号に互いに異なる中心周波数シフトを施した二次元回転多値光電界を生成することで、光多値変調部と周波数シフト部を共用し、送信器の構成を簡素化することができる。
【0037】
このような電界信号の生成は、光変調器の各変調電極に高速のDA変換器を備えてデジタル信号処理によって実現するのが簡易であり、通常の多値送信器に比べてもハードウェアの増加がほとんど無いという利点がある。また多値情報信号に上記のアナログ発振器から出力された正弦波信号をアナログ複素乗算ないしは加算する構成としても構わない。この場合でも、わずかな部品の増加で本発明を実現できるという効果がある。
なお、本発明の偏波多重送信器は、一個の送信光源の出力光を2分岐して各光変調器の入力光とし、上記の光変調器ないしはその前後に光周波数シフト機能を備え、2つの出力光の中心周波数が前記所定量だけ異なるように周波数シフトして出力する構成としても、十分簡易に実現することができる。
本発明の偏波多重光多値信号の受信側においては、受信した偏波成分間から前記所定の周波数差成分を検出し、本情報に基づいて多重された元の直交偏波成分を識別ないしは分離することによって、偏波状態の収束における単一性の問題を回避し、光伝送システムの立ち上け時間を大幅に短縮することが可能となる。
本発明を単一性問題の発生の判定に用いる際には、2つの偏波成分間から抽出した所定の周波数差が一定値以上であること、ないしは2つの偏波成分間の差周波信号中の所定の周波数成分の強度が一定値以上であること、ないしは一方の受信器で受信される光信号の中心光周波数と他方の受信器で受信される光信号の中心光周波数との差が一定値以上であるかどうかを判定する形態が有効である。すなわち、本条件を満たせない場合には、受信側の偏波分離回路が誤動作し同一の偏波成分を抽出していることが即座に判定できるので、受信器外部のフレーマICなどが出力するフレーム正誤情報を待たずに、受信器内部ですみやかに偏波分離部をリセットし短時間で再収束を開始することができる。
さらには上記の2つの偏波成分間の差周波数が拡大する方向に、もしくは差周波数成分中の所定の周波数成分の強度が大となるように、もしくは2つの偏波成分の光周波数差が拡大する方向に偏波分離部の自動制御を行うことで、最初から2つの異なる偏波成分を分離するように偏波分離部を動作させることができ、単一性問題を原理的に回避し、よりすみやかに目標となる偏波成分を抽出することが可能となる。例えば送信側でX偏波成分の変調周波数Y偏波成分より大に設定し、受信側でも周波数が正となる方向を正常収束と判定することによって、受信器における偏波成分の入れ替わりを防ぐこともできる。
また上記直交偏波成分間に付与する所定の周波数差を外部から指定する入力端子や指定機能を設けることによって、波長ごとやチャネルごとに任意の周波数差を設定できる。受信側でも指定した差周波数成分を検出することができるようにすることでチャネル識別やチャネル間の偏波クロストークを抑圧することが可能となる。また受信側で検出した差周波数情報を外部に出力することで、偏波分離の動作状況などをモニタしより高信頼なネットワークを構築することが可能となる。
また本信号の受信に偏波ダイバーシティデジタルコヒーレント受信器を用いた場合には、偏波分離部の直後にオフセット周波数推定回路を備えているため、ほとんどハードウェアの規模の増加を伴うことなく上記の差周波数成分を抽出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、光通信分野における光偏波多重伝送と光偏波分離の実現を容易にする技術であり、特にデジタルコヒーレント受信器を用いた偏波多重光伝送システムの信頼性と立ち上げの高速化を実現するものであり、例えば10〜100Gビット/秒以上の高速光ファイバ通信で広く利用することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
100:従来の偏波多重光送信器、101:レーザ光源、
102:直交光電界変調器、103:同相成分変調信号の入力端子、
104:直交成分変調信号の入力端子、105:X偏波の光変調信号、106:Y偏波の光変調信号、
107:偏波多重器、108:光分岐器、
110:従来の偏波ダイバーシティコヒーレント光受信器、
111:バランス型光検出器、112:AD変換器、
113:偏波分離・光90度ハイブリッド回路、
114:デジタル信号処理回路、115:多値信号判定回路、
116:局発レーザ光源、
120:偏波多重された送信光信号、121:光ファイバ伝送路、
122:偏波多重された受信光信号、123:受信光信号と局発光のS偏波成分、
124:受信光信号と局発光のP偏波成分、
125:復調されたX偏波成分、126:復調されたY偏波成分、
127:情報信号、128:フレーマ・誤り訂正回路、129:リセット信号、
130:波長分散補償回路、131:リタイミング回路、
132:バタフライ型FIRフィルタ、133:FIRフィルタ(HXX)、
134:FIRフィルタ(HYY)、135:FIRフィルタ(HXY)、
136:FIRフィルタ(HYX)、137:加算回路、
139:リセット信号入力端子、
140:CMA演算回路、141:周波数・位相補正回路、
142:判定誤差算出回路、143:タップ最適化回路、
144:入力複素信号列、145:出力複素信号列、146:遅延回路、
147:複素タップ乗算回路、148:複素加算回路、
149:タップ更新信号、
150:従来の偏波多重光送信器、151:MZ型光変調器、
152:変調信号の入力端子、153:低速正弦波発振器(周波数f)、
154:バイアス信号の入力端子、155:低速光検出器、
156:バンドパスフィルタ(中心周波数f)、157:最大化制御回路、
158:自動光偏波コントローラ、159:偏波分離回路、
160:従来の偏波分離光受信器、161:受信品質情報、162:光受信器、
200:本発明の偏波多重光送信器、201:多値符号器、
202:複素デジタル多値信号、203:複素デジタル発振器、
204:複素デジタル乗算器、205:周波数シフトされた複素デジタル多値信号、
206:DA変換器、207:ドライバ回路、
210:周波数シフトされたX偏波の光変調信号、
211:周波数シフトされたY偏波の光変調信号、
212:本発明の偏波多重された送信光信号、
213:本発明の偏波多重された受信光信号、
214:本発明のデジタル信号処理回路、
215:本発明の偏波ダイバーシティコヒーレント光受信器、
220:本発明の周波数・位相補正回路、221:オフセット周波数推定信号、
222:本発明の周波数比較回路、223:リセット信号、
224:本発明の偏波間差周波数算出回路、225:偏波間差周波数出力端子、
230:本発明の多値符号化回路、231:符号化論理回路、
232:本発明の回転多値符号化テーブル、233:クロック回路、
234:固定多値符号化テーブル、235:中間符号、
240:本発明の極座標変調型偏波多重光送信器、
241:極座標型多値符号化テーブル、
242:光位相変調器、243:光振幅変調器、244:Y偏波の変調回路、
245:デジタル鋸歯状波発生回路、246:位相加算回路、
250:周波数可変正弦波発振器、251:複素アナログ多値信号、
252:複素アナログ乗算器、253:周波数シフトされた複素アナログ多値信号、
254:90度位相シフタ、255:発信周波数指定信号、
256:本発明の偏波判定タップ最適化回路
260:本発明の差周波数成分最大化回路、261:本発明の差周波数成分抽出フィルタ、
262:本発明の偏波分離光受信器、263:周波数安定化回路、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの光変調器と偏波合成器を有し、前記2つの光変調器に入力される入力光を互いに異なる二値以上の一次元又は二次元の多値情報信号で変調した光多値信号を生成し、前記光多値信号を前記偏波合成器で互いに直交する偏波に多重化して送出する偏波多重光送信器であって前記互いに直交する偏波の光多値信号の中心周波数に所定の周波数差を付与する偏波多重光送信器と
偏波多重された信号の2つの直交偏波成分を適応的に分離する適応偏波分離部と、分離された2つの偏波成分を復調する2組の復調部を有する偏波多重光受信器と
を備え、
前記偏波多重光受信器が、受信した2つの偏波成分の周波数差成分を検出し、検出された周波数成分に基づいて、多重された元の直交偏波成分を識別又は分離することを特徴とする偏波多重光伝送システム。
【請求項2】
請求項1に記載の偏波多重光伝送システムにおいて、
前記偏波多重光受信器は、
2つの偏波成分から検出した周波数差成分の強度が予め定められた値以下であった場合、又は、2つの偏波成分間の周波数差が予め定められた値以下であった場合、又は、前記復調部の一方で復調される光信号の中心光周波数と前記復調部の他方で復調される光信号の中心光周波数との差が予め定められた値を下回った場合に、前記適応偏波分離部の動作をリセットすることを特徴とする偏波多重光伝送システム。
【請求項3】
請求項1に記載の偏波多重光伝送システムにおいて、
前記偏波多重光受信器は、
前記2つの偏波成分から検出した周波数差成分、又は、2組の前記復調部がそれぞれ受信する光信号の中心周波数に対応した周波数情報をそれぞれ抽出し、
前記中心周波数の差が最大又は最小となるように、又は、周波数差成分の強度が最大となるように、又は、前記中心周波数に対応した周波数情報の一方が他方より大となるように、前記適応偏波分離部を適応的に調整することを特徴とする偏波多重光伝送システム。
【請求項4】
請求項1に記載の偏波多重光伝送システムにおいて、
前記偏波多重光送信器は、2つの直交偏波成分間に付与する前記所定の周波数差を外部から指定する入力端子を有し、前記所定の周波数差を指定する機能を有し、
前記偏波多重光受信器は、検出する所定の周波数差を外部から指定する入力端子を有し、前記所定の周波数差を指定する機能を有する偏波多重光伝送システム。
【請求項5】
請求項1に記載の偏波多重光伝送システムにおいて、
前記偏波多重光受信器は、
前記2組の復調部の受信信号の中心周波数の差情報、又は、前記2組の復調部の受信信号のそれぞれの中心周波数に対応した周波数情報、又は、前記所定の周波数差の成分の強度を外部に出力する機能を備えることを特徴とする偏波多重光伝送システム。
【請求項6】
請求項1に記載の偏波多重光伝送システムにおいて、
前記偏波多重光受信器が、受信信号を偏波ダイバーシティコヒーレント受信し、前記適応偏波分離部をデジタル信号処理で実現する、デジタルコヒーレント偏波多重光受信器であることを特徴とする偏波多重光伝送システム。
【請求項7】
請求項1に記載の偏波多重光伝送システムにおいて、
前記適応偏波分離部が、自動偏波コントローラと偏光依存透過素子で構成されたことを特徴とする偏波多重光伝送システム。
【請求項8】
2つの光変調器と偏波合成器を備え、前記2つの光変調器に入力される入力光を互いに異なる二値以上の一次元又は二次元の多値情報信号で変調した光多値信号を生成し、前記光多値信号を前記偏波合成器で互いに直交する偏波に多重化して送出する偏波多重光送信器において、
前記互いに直交する偏波の光多値信号の中心周波数に所定の周波数差を付与することを特徴とする偏波多重光送信器。
【請求項9】
請求項8に記載の偏波多重光送信器において、
前記所定の周波数差が、送出される光信号の占める全帯域幅の20%以下であることを特徴とする偏波多重光送信器。
【請求項10】
請求項8に記載の偏波多重光送信器において、
一個の送信光源を備え、その出力光を2分岐して各光変調器の入力光とし、前記光変調器に又はその前後に、2つの出力光の中心周波数が前記所定の周波数差に相当する量だけ異なるように周波数シフトして出力する光周波数シフト機能部を備えたことを特徴とする偏波多重光送信器。
【請求項11】
請求項8に記載の偏波多重光送信器において、
前記2つの光変調器への入力光として、所定の周波数だけ発振周波数の異なる2つの光源の出力光を用いること、又は、所定の周波数だけ異なる複数の光を出力する多波長光源の出力光を分波して用いることを特徴とする偏波多重光送信器。
【請求項12】
請求項8に記載の偏波多重光送信器において、
前記光変調器が複数の変調電極に加えられた二次元電圧信号に応じた任意の二次元光電界を出力する光電界変調器であり、
前記2つの光変調器が、それぞれ二次元の多値変調信号に互いに前記所定の周波数だけ異なる中心周波数シフトを施した、二次元回転光多値変調信号を生成することを特徴とする偏波多重光送信器。
【請求項13】
請求項12に記載の偏波多重光送信器において、
前記光変調器のそれぞれの変調電極に接続されたDA変換器を備え、前記二次元回転光多値変調信号に対応する、二次元回転多値変調電圧信号を生成し、前記光変調器の変調電極に印加することを特徴とする偏波多重光送信器。
【請求項14】
請求項12に記載の偏波多重光送信器において、
低周波アナログ発信器をさらに備え、かつ前記光変調器のそれぞれの変調電極に接続されるアナログ乗算器又はアナログ加算器を備え、それぞれ前記多値情報信号に前記低周波アナログ発信器から出力された正弦波信号を複素乗算又は加算することによって、二次元回転光多値変調信号を生成することを特徴とする偏波多重光送信器。
【請求項15】
2つの光変調器と偏波合成器を有し、前記2つの光変調器に入力される入力光を互いに異なる二値以上の一次元又は二次元の多値情報信号で変調した光多値信号を生成し、前記光多値信号を前記偏波合成器で互いに直交する偏波に多重化して送出する偏波多重光送信器であって前記互いに直交する偏波の光多値信号の中心周波数に所定の周波数差を付与する偏波多重光送信器と、偏波多重光受信器とを備えた偏波多重光伝送システムにおける前記偏波多重光受信器であって、
偏波多重された信号の2つの直交偏波成分を適応的に分離する適応偏波分離部と、
分離された2つの偏波成分を復調する2組の復調部と
を備え、
受信した2つの偏波成分の周波数差成分を検出し、検出された周波数成分に基づいて、多重された元の直交偏波成分を識別又は分離することを特徴とする前記偏波多重光受信器。
【請求項16】
請求項15に記載の偏波多重光受信器において、
2つの偏波成分から検出した周波数差成分の強度が予め定められた値以下であった場合、又は、2つの偏波成分間の周波数差が予め定められた値以下であった場合、又は、前記復調部の一方で受信される光信号の中心光周波数と前記復調部の他方で復調される光信号の中心光周波数との差が予め定められた値を下回った場合に、前記適応偏波分離部の動作をリセットすることを特徴とする偏波多重光受信器。
【請求項17】
請求項15に記載の偏波多重光受信器において、
前記2つの偏波成分から検出した周波数差成分、又は、2組の前記復調部がそれぞれ復調する光信号の中心周波数に対応した周波数情報をそれぞれ抽出し、
前記中心周波数の差が最大又は最小となるように、又は、周波数差成分の強度が最大となるように、又は、前記中心周波数に対応した周波数情報の一方が他方より大となるように、前記適応偏波分離部を適応的に調整することを特徴とする偏波多重光受信器。
【請求項18】
請求項15に記載の偏波多重光受信器において、
検出する所定の周波数差を外部から指定する入力端子を有し、前記所定の周波数差を指定する機能を有する偏波多重光受信器。
【請求項19】
請求項15に記載の偏波多重光受信器において、
前記2組の復調部の受信信号の中心周波数の差情報、又は、前記2組の復調部の受信信号のそれぞれの中心周波数に対応した周波数情報、又は、前記所定の周波数差の成分の強度を外部に出力する機能を備えることを特徴とする偏波多重光受信器。
【請求項20】
請求項15に記載の偏波多重光受信器において、
前記偏波多重光受信器が、受信信号を偏波ダイバーシティコヒーレント受信し、前記適応偏波分離部をデジタル信号処理で実現する、デジタルコヒーレント偏波多重光受信器であることを特徴とする偏波多重光受信器。
【請求項1】
2つの光変調器と偏波合成器を有し、前記2つの光変調器に入力される入力光を互いに異なる二値以上の一次元又は二次元の多値情報信号で変調した光多値信号を生成し、前記光多値信号を前記偏波合成器で互いに直交する偏波に多重化して送出する偏波多重光送信器であって前記互いに直交する偏波の光多値信号の中心周波数に所定の周波数差を付与する偏波多重光送信器と
偏波多重された信号の2つの直交偏波成分を適応的に分離する適応偏波分離部と、分離された2つの偏波成分を復調する2組の復調部を有する偏波多重光受信器と
を備え、
前記偏波多重光受信器が、受信した2つの偏波成分の周波数差成分を検出し、検出された周波数成分に基づいて、多重された元の直交偏波成分を識別又は分離することを特徴とする偏波多重光伝送システム。
【請求項2】
請求項1に記載の偏波多重光伝送システムにおいて、
前記偏波多重光受信器は、
2つの偏波成分から検出した周波数差成分の強度が予め定められた値以下であった場合、又は、2つの偏波成分間の周波数差が予め定められた値以下であった場合、又は、前記復調部の一方で復調される光信号の中心光周波数と前記復調部の他方で復調される光信号の中心光周波数との差が予め定められた値を下回った場合に、前記適応偏波分離部の動作をリセットすることを特徴とする偏波多重光伝送システム。
【請求項3】
請求項1に記載の偏波多重光伝送システムにおいて、
前記偏波多重光受信器は、
前記2つの偏波成分から検出した周波数差成分、又は、2組の前記復調部がそれぞれ受信する光信号の中心周波数に対応した周波数情報をそれぞれ抽出し、
前記中心周波数の差が最大又は最小となるように、又は、周波数差成分の強度が最大となるように、又は、前記中心周波数に対応した周波数情報の一方が他方より大となるように、前記適応偏波分離部を適応的に調整することを特徴とする偏波多重光伝送システム。
【請求項4】
請求項1に記載の偏波多重光伝送システムにおいて、
前記偏波多重光送信器は、2つの直交偏波成分間に付与する前記所定の周波数差を外部から指定する入力端子を有し、前記所定の周波数差を指定する機能を有し、
前記偏波多重光受信器は、検出する所定の周波数差を外部から指定する入力端子を有し、前記所定の周波数差を指定する機能を有する偏波多重光伝送システム。
【請求項5】
請求項1に記載の偏波多重光伝送システムにおいて、
前記偏波多重光受信器は、
前記2組の復調部の受信信号の中心周波数の差情報、又は、前記2組の復調部の受信信号のそれぞれの中心周波数に対応した周波数情報、又は、前記所定の周波数差の成分の強度を外部に出力する機能を備えることを特徴とする偏波多重光伝送システム。
【請求項6】
請求項1に記載の偏波多重光伝送システムにおいて、
前記偏波多重光受信器が、受信信号を偏波ダイバーシティコヒーレント受信し、前記適応偏波分離部をデジタル信号処理で実現する、デジタルコヒーレント偏波多重光受信器であることを特徴とする偏波多重光伝送システム。
【請求項7】
請求項1に記載の偏波多重光伝送システムにおいて、
前記適応偏波分離部が、自動偏波コントローラと偏光依存透過素子で構成されたことを特徴とする偏波多重光伝送システム。
【請求項8】
2つの光変調器と偏波合成器を備え、前記2つの光変調器に入力される入力光を互いに異なる二値以上の一次元又は二次元の多値情報信号で変調した光多値信号を生成し、前記光多値信号を前記偏波合成器で互いに直交する偏波に多重化して送出する偏波多重光送信器において、
前記互いに直交する偏波の光多値信号の中心周波数に所定の周波数差を付与することを特徴とする偏波多重光送信器。
【請求項9】
請求項8に記載の偏波多重光送信器において、
前記所定の周波数差が、送出される光信号の占める全帯域幅の20%以下であることを特徴とする偏波多重光送信器。
【請求項10】
請求項8に記載の偏波多重光送信器において、
一個の送信光源を備え、その出力光を2分岐して各光変調器の入力光とし、前記光変調器に又はその前後に、2つの出力光の中心周波数が前記所定の周波数差に相当する量だけ異なるように周波数シフトして出力する光周波数シフト機能部を備えたことを特徴とする偏波多重光送信器。
【請求項11】
請求項8に記載の偏波多重光送信器において、
前記2つの光変調器への入力光として、所定の周波数だけ発振周波数の異なる2つの光源の出力光を用いること、又は、所定の周波数だけ異なる複数の光を出力する多波長光源の出力光を分波して用いることを特徴とする偏波多重光送信器。
【請求項12】
請求項8に記載の偏波多重光送信器において、
前記光変調器が複数の変調電極に加えられた二次元電圧信号に応じた任意の二次元光電界を出力する光電界変調器であり、
前記2つの光変調器が、それぞれ二次元の多値変調信号に互いに前記所定の周波数だけ異なる中心周波数シフトを施した、二次元回転光多値変調信号を生成することを特徴とする偏波多重光送信器。
【請求項13】
請求項12に記載の偏波多重光送信器において、
前記光変調器のそれぞれの変調電極に接続されたDA変換器を備え、前記二次元回転光多値変調信号に対応する、二次元回転多値変調電圧信号を生成し、前記光変調器の変調電極に印加することを特徴とする偏波多重光送信器。
【請求項14】
請求項12に記載の偏波多重光送信器において、
低周波アナログ発信器をさらに備え、かつ前記光変調器のそれぞれの変調電極に接続されるアナログ乗算器又はアナログ加算器を備え、それぞれ前記多値情報信号に前記低周波アナログ発信器から出力された正弦波信号を複素乗算又は加算することによって、二次元回転光多値変調信号を生成することを特徴とする偏波多重光送信器。
【請求項15】
2つの光変調器と偏波合成器を有し、前記2つの光変調器に入力される入力光を互いに異なる二値以上の一次元又は二次元の多値情報信号で変調した光多値信号を生成し、前記光多値信号を前記偏波合成器で互いに直交する偏波に多重化して送出する偏波多重光送信器であって前記互いに直交する偏波の光多値信号の中心周波数に所定の周波数差を付与する偏波多重光送信器と、偏波多重光受信器とを備えた偏波多重光伝送システムにおける前記偏波多重光受信器であって、
偏波多重された信号の2つの直交偏波成分を適応的に分離する適応偏波分離部と、
分離された2つの偏波成分を復調する2組の復調部と
を備え、
受信した2つの偏波成分の周波数差成分を検出し、検出された周波数成分に基づいて、多重された元の直交偏波成分を識別又は分離することを特徴とする前記偏波多重光受信器。
【請求項16】
請求項15に記載の偏波多重光受信器において、
2つの偏波成分から検出した周波数差成分の強度が予め定められた値以下であった場合、又は、2つの偏波成分間の周波数差が予め定められた値以下であった場合、又は、前記復調部の一方で受信される光信号の中心光周波数と前記復調部の他方で復調される光信号の中心光周波数との差が予め定められた値を下回った場合に、前記適応偏波分離部の動作をリセットすることを特徴とする偏波多重光受信器。
【請求項17】
請求項15に記載の偏波多重光受信器において、
前記2つの偏波成分から検出した周波数差成分、又は、2組の前記復調部がそれぞれ復調する光信号の中心周波数に対応した周波数情報をそれぞれ抽出し、
前記中心周波数の差が最大又は最小となるように、又は、周波数差成分の強度が最大となるように、又は、前記中心周波数に対応した周波数情報の一方が他方より大となるように、前記適応偏波分離部を適応的に調整することを特徴とする偏波多重光受信器。
【請求項18】
請求項15に記載の偏波多重光受信器において、
検出する所定の周波数差を外部から指定する入力端子を有し、前記所定の周波数差を指定する機能を有する偏波多重光受信器。
【請求項19】
請求項15に記載の偏波多重光受信器において、
前記2組の復調部の受信信号の中心周波数の差情報、又は、前記2組の復調部の受信信号のそれぞれの中心周波数に対応した周波数情報、又は、前記所定の周波数差の成分の強度を外部に出力する機能を備えることを特徴とする偏波多重光受信器。
【請求項20】
請求項15に記載の偏波多重光受信器において、
前記偏波多重光受信器が、受信信号を偏波ダイバーシティコヒーレント受信し、前記適応偏波分離部をデジタル信号処理で実現する、デジタルコヒーレント偏波多重光受信器であることを特徴とする偏波多重光受信器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−119759(P2012−119759A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265203(P2010−265203)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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