説明

側鎖上に不斉炭素を有する複素環式化合物及びその製造方法

【課題】側鎖上に不斉炭素を有する複素環式化合物(アンチSN2’化合物)を提供する。
【解決手段】下記式(I):


{式中、R1及びR2は、独立して、C1-8アルキル基;ハロC1-8アルキル基;置換されてもよいフェニル基、5〜6員複素環式基;保護基−O−(CH2m−基(ここで、保護基は、TBS、PMB等であり、mは、1〜6の整数である)からなる群から選択され;及びR3は、置換されてもよいフェニル基、5〜6員複素環式基又はフェニル−(CH2n−基(ここで、nは、1〜6の整数である)からなる群から選択される}で表されるアンチSN2’化合物、並びに該化合物を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖上に不斉炭素を有する新規な複素環式化合物(アンチSN2’化合物)、及びそれらを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
n−アルキル側鎖を有する複素環式化合物(又はヘテロ環式化合物)とは異なり、側鎖上に不斉炭素を有する化合物を材料、医薬品、イオン液体の創製に使用する研究は遅れている。これまで、側鎖上に不斉炭素を有する化合物を効率よく製造する方法は知られていない。
【0003】
第1級アルコールのスルホナート(水酸基(HO−)を脱離基(RSO3−)に置換した化合物)と複素環式化合物由来のアニオンとの反応は効率的に反応し、n−アルキル側鎖を有する複素環式化合物を与える。しかしながら、第2級アルコールのスルホナートと複素環式化合物由来のアニオンとの反応は、非常に遅いか又はほとんど進行しない。この場合、反応条件をさらに厳しくすると、脱離反応が進行してしまう。一方、アリル化反応を用いて、第2級アリルアルコール誘導体(多くの場合、エステル)に複素環式化合物由来のアニオンを反応させた例はない。
【0004】
例えば、銅によって促進される第2級アリルアルコール誘導体のアリル置換は、不斉C−C結合を構築するための有用な方法である。しかしながら、アリル部分のα位及びγ位は反応性が高いため、位置(α位対γ位)選択及び立体選択を制御することは困難である。さらに、脱離基を得るために試薬の化学量論的な使用及び低コストが望まれる。これまで、良好ないし極めて優れたレベルでのこのような選択性は、例えば、R2Zn/CuCN・2LiClと共にC65CO2−、2,6−F263CO2−、及びo−(Ph)2P(=O)C64CO2−(o−DPPBオキシド基);R2Zn/CuCN・2LiClと共に(RO)2P(O)O−;R2Cu(CN)Li2・BF3又はRCu(CN)Li・BF3と共にγ−メシルオキシ−α,β−不飽和エステルのMsO;RMgX/CuBr・Me2Sと共にo−(Ph)2PC64CO2−(o−DPPB基)(非特許文献1)のような脱離基/試薬系を用いて達成されている。これらの脱離基の中で、o−DPPB基は、試薬の化学両論に関する要件を満たし、したがって、デオキシ型およびトコフェロールの立体選択的合成を簡潔に達成している。しかしながら、o−DPPB基は非常に高価であり、他の脱離基は、概して、非常に多量の試薬を必要とするという欠点がある。
【0005】
従来の反応系は、アルキル試薬(sp3−C試薬)用に開発されてきた。また、アリール及びアルケニル試薬(sp2−C試薬)に対する系の応用は、ある種のタイプの反応性のある又は立体的に偏った基質を除いては、成功していない。sp2−C試薬は、反応性が低い求核種であり、上手くいかない。最近、ラセミ体のアリルo−DPPBエステルと、PhMgBr及びCH2=C(Me)MgBr由来の試薬との反応において、位置選択性は改善されたものの、改善された条件によって及ぼされる範囲及び不斉転写率は全く特定されていない。
【0006】
【非特許文献1】Demel,P.,et al.,Chem.Eur.J.2006,12,6669−6683
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、側鎖上に不斉炭素を有する新規な複素環式化合物(アンチSN2’化合物)、及びそれらを効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明者らは、まず、グリニャール(Grignard)試薬(本明細書中、単に「RMgX」と表示する場合がある。)及びCuBr・Me2Sから調製した銅試薬と、光学活性な第2級アリルピコレートのアンチSN2’選択的アリル反応を開発した(Kiyotsuka,Y.,et al.,Org.Lett.2008,10,1719−1722を参照されたい)。さらに、本発明者らは、複素環式化合物の直接的なリチオ化又はハロゲン・リチウム交換によって容易に調製できる複素環式化合物のアニオンに着目し、これらのアニオン及びCuBr・Me2Sから調製した錯体と、第2級アリルピコレートとのアリル化反応を検討した。PhLi及びCuBr・Me2Sから調製した試薬を用いて実験を行った結果、目的物とピコリン酸基が外れたアルコールとの混合物を生じたが、この反応系にMgBr2をさらに添加することによって反応が首尾よく進行し、アンチSN2’化合物を効率的(立体選択的、位置選択的、及び妥当な収率)に与えることができ、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記に関する。
[1]下記式(I):
【化1】

〔式中、
1及びR2は、同一であるか又は異なっていてもよく、独立して、C1-8アルキル基;ハロC1-8アルキル基;C1-8アルキルオキシ基;ハロC1-8アルキルオキシ基;C1-8アルキレン基;ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1-6アルキル基、C3-7アシクロアルキル基、ハロC1-6アルキル基、窒素原子に1個以上のC1-6アルキル基を有していてもよいカルバモイル基、C1-6アルコキシ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C1-6アシル基、C6-10アリール基及び5〜10員複素環式基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基、5〜6員複素環式基又はフェニル−(CH2n−基(ここで、nは、1〜6の整数である);及び保護基−O−(CH2m−基{ここで、保護基は、TBS(tert−ブチルジメチルシリル基)、PMB(4−メトキシベンジル基)、TMS(トリメチルシリル基)、TES(トリエチルシリル基)、及びTBDPS(tert−ブチルジフェニルシリル基)からなる群から選択され、mは、1〜6の整数である}からなる群から選択され;及び
3は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1-6アルキル基、C3-7アシクロアルキル基、ハロC1-6アルキル基、窒素原子に1個以上のC1-6アルキル基を有していてもよいカルバモイル基、C1-6アルコキシ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C1-6アシル基、C6-10アリール基及び5〜10員複素環式基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基、5〜6員複素環式基又はフェニル−(CH2n−基(ここで、nは、1〜6の整数である)からなる群から選択される〕
で表されるアンチSN2’化合物。
【0010】
[2]R1及びR2が、同一であるか又は異なっていてもよく、独立して、C1-8アルキル基;ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、及びC1-6アルキル基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基又はフェニル−(CH2n−基(ここで、nは、1〜6の整数である);及び保護基−O−(CH2m−基(ここで、保護基は、TBS又はPMBであり、mは、1〜3の整数である)からなる群から選択され;及び
3が、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1-6アルキル基及びC6-10アリール基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基又は5〜6員複素環式基からなる群から選択される、前記[1]に記載の化合物。
【0011】
[3]前記化合物が、
(R,E)−2−(1−ベンジル−1H−イミダゾール−2−イル)−1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−6−フェニル−3−ヘキセン;
(R,E)−1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−2−(1−メチル−1H−イミダゾール−2−イル)−6−フェニル−3−ヘキセン;
(S,E)−4−(1−ベンジル−1H−イミダゾール−2−イル)−5−[(4−メトキシベンジル)オキシ]−2−ヘキセン;
(S,E)−5−[(4−メトキシベンジル)オキシ]−4−(1−メチル−1H−イミダゾール−2−イル)−2−ヘキセン;
(S,E)−1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−2−(フラン−2−イル)−6−フェニル−3−ヘキセン;
(S,E)−1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−6−フェニル−2−(チオフェン−2−イル)−3−ヘキセン;
(R,E)−1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−6−フェニル−2−(ピリジン−2−イル)−3−ヘキセン;又は
(R,E)−1,3−ビベンジル−2−(1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−6−フェニルヘキサ−3−エン−2−イル)−1H−イミダゾール−3−イウム・ブロミド
である、前記[1]又は[2]に記載の化合物。
【0012】
[4]下記式(II):
【化2】

〔式中、
1及びR2は、同一であるか又は異なっていてもよく、独立して、C1-8アルキル基;ハロC1-8アルキル基;C1-8アルキルオキシ基;ハロC1-8アルキルオキシ基;C1-8アルキレン基;ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1-6アルキル基、C3-7アシクロアルキル基、ハロC1-6アルキル基、窒素原子に1個以上のC1-6アルキル基を有していてもよいカルバモイル基、C1-6アルコキシ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C1-6アシル基、C6-10アリール基及び5〜10員複素環式基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基、5〜6員複素環式基又はフェニル−(CH2n−基(ここで、nは、1〜6の整数である);及び保護基−O−(CH2m−基(ここで、保護基は、TBS、PMB、TMS、TES、及びTBDPSからなる群から選択され、mは、1〜6の整数である)からなる群から選択される〕
で表される第2級アリルピコリネートを、
3M (III)
{式中、
3は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1-6アルキル基、C3-7アシクロアルキル基、ハロC1-6アルキル基、窒素原子に1個以上のC1-6アルキル基を有していてもよいカルバモイル基、C1-6アルコキシ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C1-6アシル基、C6-10アリール基及び5〜10員複素環式基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基、5〜6員複素環式基又はフェニル−(CH2n−基(ここで、nは、1〜6の整数である)からなる群から選択され;及び
Mは、Li、MgCl、MgBr、又はMgIである}
及び一価の金属塩から調製される錯体と反応させて、
下記式(I):
【化3】

(式中、R1、R2、及びR3は、上記で定義される通りである)
で表されるアンチSN2’化合物を製造する方法。
【0013】
[5]R1及びR2が、同一であるか又は異なっていてもよく、独立して、C1-8アルキル基;ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、及びC1-6アルキル基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基又はフェニル−(CH2n−基(ここで、nは、1〜6の整数である);及び保護基−O−(CH2m−基(ここで、保護基は、TBS又はPMBであり、mは、1〜3の整数である)からなる群から選択される、前記[4]に記載の方法。
【0014】
[6]R3が、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1-6アルキル基及びC6-10アリール基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基又は5〜6員複素環式基からなる群から選択される、前記[4]又は[5]に記載の方法。
【0015】
[7]Mが、Li又はMgBrである、前記[4]〜[6]のいずれか1つに記載の方法。
【0016】
[8]MがLiである場合、反応中にMgBr2をさらに添加することを特徴とする、前記[7]に記載の方法。
【0017】
[9]一価の金属塩の金属が、銅である、前記[4]〜[8]のいずれか1つに記載の方法。
【0018】
[10]一価の金属塩が、CuBr・Me2S、CuCl、CuBr、CuI、CuCN、及びCuOAcからなる群から選択される、前記[9]に記載の方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の上記一般式(I)で表される側鎖上に不斉炭素を有する複素環式化合物(アンチS2’化合物)は、これまでn−アルキル側鎖を有する複素環式化合物を使用してきた材料、医薬品、イオン液体などの有用物質の物性・性質をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の用語の定義は以下の通りである。
本明細書中で使用するとき、「ハロゲン原子」とは、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、フッ素原子を意味する。好ましくは、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子である。
【0021】
本明細書中で使用するとき、「C1-8アルキル基」とは、炭素数1〜8個の直鎖状又は分枝状のアルキル基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基が挙げられる。好ましくは、メチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基である。
【0022】
本明細書中で使用するとき、「C1-8アルキルオキシ基」とは、炭素数1〜8個の直鎖状又は分枝状のアルキルオキシ基を意味し、例えば、メチルオキシ基、エチルオキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、s−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、2−メチルブチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、1−エチルプロピルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、4−メチルペンチルオキシ基、3−メチルペンチルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、1−メチルペンチルオキシ基、3,3−ジメチルブチルオキシ基、1,3−ジメチルブチルオキシ基、2−エチルブチルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基が挙げられる。
【0023】
本明細書中で使用するとき、「ハロC1-8アルキル基」とは、同一であるか又は異なっていてもよい1〜5個のハロゲン原子が前記C1-8アルキル基に結合した基を意味し、例えば、トリフルオロメチル基、2−フルオロエチル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、3−ブロモプロピル基、3−クロロプロピル基、4−フルオロブチル基、4−クロロブチル基が挙げられる。
【0024】
本明細書中で使用するとき、「ハロC1-8アルキルオキシ基」とは、同一であるか又は異なっていてもよい1〜5個のハロゲン原子が前記C1-8アルキルオキシ基に結合した基を意味し、例えば、トリフルオロメチルオキシ基、2−フルオロエチルオキシ基、2−クロロエチルオキシ基、2−ブロモエチルオキシ基、3−ブロモプロピルオキシ基、3−クロロプロピルオキシ基、4−フルオロブチルオキシ基、4−クロロブチルオキシ基が挙げられる。
【0025】
本明細書で使用するとき、「C1-8アルキレン基」とは、炭素数1〜8個の直鎖状又は分枝状のアルキレン基を意味し、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基、n−ブチレン基、1−メチルプロピレン基、3−メチルプロピレン基、1,1−ジメチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、1−エチルエチレン基、2−エチルエチレン基、n−ペンチル基、1−メチルブチレン基、2−メチルブチレン基、3−メチルブチレン基、1,1−ジメチルプロピレン基、2,2−ジメチルプロピレン基、3,3−ジメチルプロピレン基、1,2−ジメチルプロピレン基、1,3−ジメチルプロピレン基、2,3−ジメチルプロピレン基、1−エチルプロピレン基、2−エチルプロピレン基、1,1−ジメチルブチレン基、2,4−ジメチルブチレン基、2−エチル−2−メチルプロピレン基、3−エチル−2−メチルプロピレン基、1,1−ジエチルエチレン基、2,2−ジエチルエチレン基が挙げられる。
【0026】
本明細書中で使用するとき、「C6-10アリール基」とは、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を意味する。好ましくは、フェニル基、ナフチル基又はアズレニル基である。
【0027】
本明細書中で使用するとき、「複素環式基」とは、環を構成する原子として炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子及び少なくとも1個以上の窒素原子から選ばれる1〜4個の複素原子を含む、場合により適切な置換基で置換されてもよい5〜7員の芳香族複素環、飽和複素環、不飽和複素環又はこれらの複素環とベンゼン環が縮合した縮合複素環を意味する。複素環式基の例には、限定されないが、ピロ−ル−1−イル基、ピリジン−2−イル基、ピペリジン−1−イル基、ピペラジン−1−イル基、1,2−ジヒドロピラジン−1−イル基、1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、フラン−2−イル基、チオフェン−2−イル基、ヘキサヒドロピリミジン−1−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロキノキサリン−1−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロフタラジン−2−イル基、1,4−ジヒドロシンノリン−1−イル基、2,3−ジヒドロシンノリン−2−イル基、インドール−1−イル基、ジヒドロイソインドール−2−イル基、イソインドール−2−イル基、イミダゾール−1−イル基、1−アルキル−1H−イミダゾール−2−イル基、オキソピラゾール−1−イル基、チアゾール−3−イル基、オキサゾール−3−イル基、イソオキサゾール−3−イル基、ピロリジン−1−イル基、ベンゾイミダゾール−1−イル基、ベンゾチアゾール−3−イル基、ベンゾオキサゾール−3−イル基、1,2−ジヒドロキノリン−1−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−1−イル基、1,2−ジヒドロイソキノリン−1−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−2−イル基、チアジアゾール−3−イル基、チアジアゾール−5−イル基、モルホリン−4−イル基、1,2,3−トリアゾール−1−イル基、1,2,4−トリアゾール−1−イル基、テトラゾール−1−イル基、テトラゾール−2−イル基が挙げられる。好ましくは、1−アルキル−1H−イミダゾール−2−イル基、フラン−2−イル基、チオフェン−2−イル基、ピリジン−2−イル基である。なお、上記「適切な置換基」には、限定されないが、C1-8アルキル基;ハロC1-8アルキル基;C1-8アルキルオキシ基;ハロC1-8アルキルオキシ基;C1-8アルキレン基;ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1-6アルキル基、C3-7アシクロアルキル基、ハロC1-6アルキル基、窒素原子に1個以上のC1-6アルキル基を有していてもよいカルバモイル基、C1-6アルコキシ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C1-6アシル基、C6-10アリール基及び5〜10員複素環式基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基、5〜6員複素環式基又はフェニル−(CH2n−基(ここで、nは、1〜6の整数である);及び保護基−O−(CH2m−基(ここで、保護基は、TBS、PMB、TMS、TES、及びTBDPSからなる群から選択され、mは、1〜6の整数である)が含まれる。
【0028】
本明細書中で使用するとき、「保護基」とは 、官能基の特性又は化合物の特性を全体として遮蔽又は変質する化合物の部分を意味する。保護/脱保護のための化学保護基および戦略は、当該技術分野において周知である。例えば、「Protective Groups in Organic Chemistry」、Theodora W.Greene(John Wiley & Sons,Inc.,New York,1991)を参照されたい。本発明において使用することができる保護には、限定されないが、tert−ブチルジメチルシリル基(TBS)、4−メトキシベンジル基(PMB)、トリエチルシリル基(TES)、tert−ブチルジフェニルシリル基(TBDPS)、トリイソプロピルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基等の三置換シリル基、メトキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、1−(エトキシ)エチル基が含まれる。好ましくは、tert−ブチルジメチルシリル基(TBS)、4−メトキシベンジル基(PMB)である。
【0029】
本明細書中で使用するとき、「一価の金属塩」とは、金属の酸化状態が+1である有機金属塩又は無機金属塩をいう。典型的な一価の金属塩には、限定されないが、臭化第一銅(CuBr)、塩化第一銅(CuCl)、ヨウ化第一銅(CuI)、シアン化第一銅(CuCN)、酢酸第一銅(CuOAc)などが含まれる。好ましくは、臭化第一銅、塩化第一銅、ヨウ化第一銅である。本発明の一態様では、一価の金属塩は、上記の金属塩にジメチルスルフィド(Me2S)、R4SR5(ここで、R4及びRは、アルキル基又はアリール基である)などが配位した錯体の形態であってもよい。このような錯体としては、CuBr・Me2Sが好ましい。
その他、ここに定義のない基及び用語については、通常の定義に従う。
【0030】
本発明の一般式(I)で表される側鎖上に不斉炭素を有する複素環式化合物(アンチSN2’化合物)は、一般式(II)の第2級アリルピコリネートと、一般式(III)のR3M及び一価の金属塩から調製される錯体とを反応させることによって、側鎖上に不斉炭素を有する複素環式化合物を製造することができる。
【0031】
本発明の製造方法を容易に理解するために、下記の反応スキームを用いて説明する。この反応スキームにおいては、一価の金属塩としてCuX(Xはハロゲンである)を典型例として用いた場合の反応機構を示したものであり、本発明の製造方法を限定するものではない。
【0032】
【化4】

【0033】
溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、エーテル、ジオキサン、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル性溶媒)中のR3M(III)(R3及びMは、上記で定義した通りであり、典型的には、R3は、5〜6員の複素環式基、Mは、Li又はMgBrであるが、これらに限定されない)に、一価の金属塩、例えば、臭化銅(CuBr)(又は臭化銅ジメチルスルフィド錯体)を添加して錯体を調製する。この錯体を調製する工程で、溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、エーテル、ジオキサン、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル性溶媒)中の臭化マグネシウムを添加してもよい。なお、前記錯体の調製では、特に限定されないが、−60〜0℃で溶液を撹拌しながら反応させることが好ましい。全体の調製時間は、約10〜60分である。
【0034】
次に、上記錯体溶液に、溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、エーテル、ジオキサン、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル性溶媒)中の第2級アリルピコリネートをゆっくり滴下し、好ましくは氷冷下で反応混合物を10分〜12時間撹拌させる。その後、飽和塩化アンモニウム水溶液を添加して反応を停止させ、反応生成物を酢酸エチルなどの有機溶媒で抽出することができる。さらに、必要に応じて、再結晶法、カラムクロマトグラフィー等の当業者に周知である一般的な精製手法を用いて反応生成物を精製することができる。
【0035】
上記製造方法に加えて、必要に応じて官能基変換を行うこともできる。このような変更を行うための一般に用いられる方法は、当業者であれば、例えば、Comprehensive Organic Transformations Second Edition,John Wiley & Sons,Inc.を参考にして行うことができる。
【0036】
また、一般式(I)で表されるアンチSN2’化合物は、塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸、及びマレイン酸塩等の有機酸塩に代表される任意の塩を形成することができ、これらの塩も本発明に含まれる。また、一般式(I)で表されるアンチSN2’化合物は、水和物に代表される任意の溶媒和物を形成することができ、これらの溶媒和物も本発明に含まれる。
【0037】
さらに、一般式(I)で表されるアンチSN2’化合物が、複素環(R3基)近くの不斉炭素以外に不斉炭素を有する場合において、光学異性体や幾何異性体が存在する場合は、これらすべての異性体は本発明に含まれる。
【0038】
本発明によれば、上述した通り、アンチSN2’化合物を選択的に製造することができる。本発明の製造方法を用いて製造されるアンチSN2’化合物は、キラルHPLCによって得られる生成物と基質の各々の光学異性体過剰率(%ee)の比、即ち、下記の式:
【0039】
【化5】

【0040】
によって計算される不斉転写率(Chirality Transfer:C/T(%))を用いて特徴付けることができる。本発明の製造方法によって製造されるアンチSN2’化合物は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、なおさらに好ましくは99%の不斉転写率を有する。
【実施例】
【0041】
次に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
アンチSN2’反応用試薬として、下記のアンチSN2’化合物を製造するために共通に用いられる臭化銅ジメチルスルフィド錯体及び臭化マグネシウムのテトラヒドロフラン溶液を下記のように予め製造した。
【0043】
(1)臭化銅ジメチルスルフィド錯体
臭化銅(I)(和光純薬工業株式会社)(3.00g,20.6mmol)にメチルスルフィド(東京化成工業株式会社)(30mL)をゆっくり加えた。反応混合物を1時間加熱還流し、室温に冷却した後ヘキサン(30mL)を加えた。生じた結晶を濾取し、ヘキサンで数回洗浄した。結晶を減圧乾燥し、臭化銅ジメチルスルフィド錯体(3.74g,18.2mmol)を白色結晶として得た。
【0044】
(2)臭化マグネシウムのテトラヒドロフラン溶液
マグネシウム(削状)(ナカライテスク株式会社)(80.7mg,3.32mmol)のテトラヒドロフラン懸濁液(5mL)にエチレンブロミド(東京化成工業株式会社)(0.320mL,3.71mmol)を数回に分けて滴下した。得られた混合物が透明溶液になるまで加熱還流した後、テトラヒドロフラン(11.3mL)を加え、0.20M臭化マグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(16.6mL)を得た。
【0045】
実施例1
(R,E)−2−(1−ベンジル−1H−イミダゾール−2−イル)−1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−6−フェニル−3−ヘキセン(3)の製造
【0046】
【化6】

【0047】
氷冷下、1−ベンジルイミダゾール(SIGMA−ALDRICH)(31.6mg,0.200mmol)のテトラヒドロフラン溶液(1.5mL)にn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(SIGMA−ALDRICH)(1.6M,0.110mL,0.176mmol)を加え、30分間撹拌するとアニオン2の赤色溶液が得られた。この溶液に、臭化マグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(0.20M,1.40mL,0.280mmol)及び臭化銅ジメチルスルフィド錯体(18.7mg,0.0910mmol)を加えた。生じた黄色溶液を30分撹拌した後、アリルピコリネート1(37.4mg,0.0909mmol)のテトラヒドロフラン溶液(1mL)をゆっくり滴下した。反応混合物を氷冷下1時間撹拌し、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製し、生成物3(36.1mg,0.0808mmol)を収率89%で得た。
【0048】
IR(neat)1256,1101,837cm-11H NMR(300MHz,CDCl3)δ−0.06(s,3H),−0.02(s,3H),0.83(s,9H),2.27(dt,J=7,8Hz,2H),2.60(t,J=8Hz,2H),3.52(ddd,J=8,8,8Hz,1H),3.85(dd,J=10,8Hz,1H),3.95(dd,J=10,8Hz,1H),5.00(d,J=16Hz,1H),5.12(d,J=16Hz,1H),5.36(dt,J=16,7Hz,1H),5.62(dd,J=16,8Hz,1H),6.79(d,J=1Hz,1H),6.99−7.06(m,3H),7.09−7.20(m,3H),7.22−7.34(m,5H);13CNMR(75MHz,CDCl3)δ−5.4(−),18.3(+),25.9(−),34.3(+),35.6(+),43.8(−),49.2(+),66.5(+),119.7(−),125.8(−),126.7(−),127.7(−),127.8(−),128.3(−),128.4(−),128.5(−),128.9(−),132.5(−),136.9(+),141.9(+),148.3(+);HRMS(FAB) C28382OSiNa[(M+Na)+]についての計算値469.2651,実測値469.2649.鏡像異性体の情報(94%ee,>99%C/T)は、対応するアルコールのキラルHPLC分析によって測定した:Chiralcel OJ−H;ヘキサン/i−PrOH=97/3,0.5mL/分,40°Cオーブン;tR/分=85.3(R),100.8(S).
【0049】
実施例2
(R,E)−1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−2−(1−メチル−1H−イミダゾール−2−イル)−6−フェニル−3−ヘキセン(5)の製造
【0050】
【化7】

【0051】
氷冷下、N−メチルイミダゾール(東京化成工業株式会社)(0.017mL,0.213mmol)のテトラヒドロフラン溶液(1.5mL)にn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M,0.130mL,0.208mmol)を加え、30分間撹拌するとアニオン4の黄色溶液が得られた。この溶液に、臭化マグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(0.20M,1.50mL,0.300mmol)及び臭化銅ジメチルスルフィド錯体(20.6mg,0.100mmol)を加えた。生じた黄色溶液を30分撹拌した後、アリルピコリネート1(41.2mg,0.100mmol)のテトラヒドロフラン溶液(1mL)をゆっくり滴下した。反応混合物を氷冷下1時間撹拌し、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で精製し、生成物5(30.1mg,0.0812mmol)を収率81%で得た。
【0052】
IR(neat)1492,1471,1255,1102cm-11HNMR(300MHz,CDCl3)δ−0.05(s,3H),−0.01(s,3H),0.84(s,9H),2.35(dt,J=7,8Hz,2H),2.68(t,J=8Hz,2H),3.53(s,3H),3.58(ddd,J=8,8,7Hz,1H),3.87(dd,J=10,7Hz,1H),3.93(dd,J=10,8Hz,1H),5.51(dt,J=15,7Hz,1H),5.68(dd,J=15,8Hz,1H),6.75(d,J=1Hz,1H),6.96(d,J=1Hz,1H),7.12−7.21(m,3H),7.22−7.31(m,2H);13CNMR(75MHz,CDCl3)δ−5.36(−),18.3(+),25.9(−),32.6(−),34.4(+),35.7(+),43.5(−),66.7(+),120.3(−),125.9(−),127.3(−),128.3(−),128.4(−),128.5(−),132.4(−),141.9(+),148.2(+);HRMS(FAB) C22352OSi(M+)についての計算値370.2519,実測値371.2516.鏡像異性体の情報は(95%ee,98%C/T)、キラルHPLC分析によって測定した:Chiralcel OD−H;ヘキサン/i−PrOH=98/2,0.5mL/分,室温のオーブン;tR/分=28.1(R),49.5(S).
【0053】
実施例3
(S,E)−4−(1−ベンジル−1H−イミダゾール−2−イル)−5−[(4−メトキシベンジル)オキシ]−2−ヘキセン(7)の製造
【0054】
【化8】

【0055】
氷冷下、1−ベンジルイミダゾール(30.4mg,0.192mmol)のテトラヒドロフラン溶液(1.7mL)にn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M,0.110mL,0.176mmol)を加え、30分間撹拌するとアニオン2の赤色溶液が得られた。この溶液に、臭化マグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(0.20M,1.30mL,0.260mmol)及び臭化銅ジメチルスルフィド錯体(17.9mg,0.0871mmol)を加えた。生じた黄色溶液を30分撹拌した後、アリルピコリネート6(28.4mg,0.0873mmol)のテトラヒドロフラン溶液(1mL)をゆっくり滴下した。反応混合物を氷冷下1時間撹拌し、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:3)で精製し、生成物7(24.7mg,0.0680mmol)を収率78%で得た。
【0056】
IR(neat)1513,1248,1096,730cm-11HNMR(500MHz,CDCl3)δ1.68(brs,3H),3.40−4.14(m,3H),3.79(s,3H),4.45(brs,2H),5.12(brs,2H),5.30−5.54(brs,1H),5.58−6.00(m,1H),6.74−6.90(m,2H),6.92−7.08(m,2H),7.09−7.42(m,7H);13CNMR(75MHz,CDCl3)δ17.7(−),55.2(−),72.7(+),113.6(−),126.9(−),127.8(−),128.4(−),128.7(−),129.2(−),130.5(+),136.3(+),159.0(+).鏡像異性体の情報(94%ee,96%C/T)は、キラルHPLC分析によって測定した:Chiralcel AS−H;ヘキサン/i−PrOH=97/3,0.3mL/分,40°Cのオーブン;tR/分=38.0(R),40.4(S).
【0057】
実施例4
(S,E)−5−[(4−メトキシベンジル)オキシ]−4−(1−メチル−1H−イミダゾール−2−イル)−2−ヘキセン(8)の製造
【0058】
【化9】

【0059】
氷冷下、N−メチルイミダゾール(0.018mL,0.226mmol)のテトラヒドロフラン溶液(1.5mL)にn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M,0.130mL,0.208mmol)を加え、30分間撹拌するとアニオン4の黄色溶液が得られた。この溶液に、臭化マグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(0.20M,1.50mL,0.300mmol)及び臭化銅ジメチルスルフィド錯体(20.7mg,0.101mmol)を加えた。生じた黄色溶液を30分撹拌した後、アリルピコリネート6(32.8mg,0.101mmol)のテトラヒドロフラン溶液(1mL)をゆっくり滴下した。反応混合物を氷冷下1時間撹拌し、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル)で精製し、生成物5(24.8mg,0.0866mmol)を収率86%で得た。
【0060】
IR(neat)1512,1248,1097,1035cm-11HNMR(300MHz,CDCl3)δ1.68(d,J=6Hz,3H),3.54(s,3H),3.68(ddd,J=8,7,7Hz,1H),3.73−3.90(m,2H),3.79(s,3H),4.40(s,2H),5.46(dq,J=15,6Hz,1H),5.63(dd,J=15,8Hz,1H),6.77(brs,1H),6.85(d,J=9Hz,2H),6.97(brs,1H),7.19(d,J=9Hz,2H);13CNMR(75MHz,CDCl3)δ18.0(−),32.6(−),41.3(−),55.3(−),72.7(+),73.0(+),109.1(+),113.8(−),120.5(−),127.2(−),127.9(−),128.7(−),129.3(−),130.5(+),159.2(+).鏡像異性体の情報(93%ee,95%C/T)は、キラルHPLC分析によって測定した:Chiralcel OD−H;ヘキサン/i−PrOH=90/10,0.5mL/分,室温でのオーブン;tR/分=22.9(R),26.9(S).
【0061】
実施例5
(S,E)−1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−2−(フラン−2−イル)−6−フェニル−3−ヘキセン(10)
【0062】
【化10】

【0063】
氷冷下、フラン(東京化成工業株式会社)(0.015mL,0.206mmol)のテトラヒドロフラン溶液(1.6mL)にn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M,0.120mL,0.192mmol)を加え、30分間撹拌するとアニオン9の透明溶液が得られた。この溶液に、臭化マグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(0.20M,1.40mL,0.280mmol)及び臭化銅ジメチルスルフィド錯体(19.2mg,0.0934mmol)を加えた。生じた黄色溶液を30分撹拌した後、アリルピコリネート1(38.4mg,0.0933mmol)のテトラヒドロフラン溶液(1mL)をゆっくり滴下した。反応混合物を氷冷下1時間撹拌し、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、ヘキサンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=50:1)で精製し、生成物10(28.5mg,0.0800mmol)を収率86%で得た。
【0064】
IR(neat)1471,1255,1105,837cm-11HNMR(300MHz,CDCl3)δ0.01(s,6H),0.88(s,9H),2.32−2.44(m,2H),2.70(t,J=8Hz,2H),3.44(ddd,J=7,7,7Hz,1H),3.75(dd,J=10,7Hz,1H),3.86(dd,J=10,7Hz,1H),5.53−5.68(m,2H),6.03(dd,J=3,1Hz,1H),6.31(dd,J=3,2Hz,1H),7.17−7.23(m,3H),7.26−7.33(m,2H),7.34(dd,J=2,1Hz,1H);13CNMR(75MHz,CDCl3)δ−5.39(−),−5.36(−),18.4(+),25.9(−),34.6(+),35.8(+),45.5(−),65.5(+),105.8(−),110.1(−),125.8(−),128.3(−),128.4(−),128.5(−),132.3(−),141.1(−),142.0(+),155.7(+);HRMS(FAB) C22322SiNa[(M+Na)+]についての計算値379.2069,実測値379.2071.鏡像異性体の情報(94%ee,99%C/T)は、対応するアルコールのキラルHPLC分析によって測定した:Chiralcel OB−H;ヘキサン/i−PrOH=98/2,0.2mL/分,40°Cでのオーブン;tR/分=93.5(S),110.0(R).
【0065】
実施例6
(S,E)−1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−6−フェニル−2−(チオフェン−2−イル)−3−ヘキセン(12)の製造
【0066】
【化11】

【0067】
氷冷下、チオフェン(東京化成工業株式会社)(0.016mL,0.200mmol)のテトラヒドロフラン溶液(1.6mL)にn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M,0.120mL,0.192mmol)を加え、30分間撹拌するとアニオン11の透明溶液が得られた。この溶液に、臭化マグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(0.20M,1.40mL,0.280mmol)及び臭化銅ジメチルスルフィド錯体(18.9mg,0.0919mmol)を加えた。生じた黄色溶液を30分撹拌した後、アリルピコリネート1(37.8mg,0.0918mmol)のテトラヒドロフラン溶液(1mL)をゆっくり滴下した。反応混合物を氷冷下1時間撹拌し、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、ヘキサンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=50:1)で精製し、生成物12(28.5mg,0.0766mmol)を収率83%で得た。
【0068】
IR(neat)1255,1107,837cm-11HNMR(300MHz,CDCl3)δ0.06(s,6H),0.93(s,9H),2.37−2.48(m,2H),2.75(dd,J=9,7Hz,2H),3.70−3.86(m,3H),5.60−5.74(m,2H),6.85(dt,J=4,1Hz,1H),6.99(dd,J=5,4Hz,1H),7.21(dd,J=5,1Hz,1H),7.22−7.27(m,3H),7.29−7.37(m,2H);13CNMR(75MHz,CDCl3)δ−5.3(−),18.4(+),26.0(−),34.5(+),35.9(+),46.8(−),67.8(+),123.5(−),124.1(−),125.9(−),126.4(−),128.4(−),128.6(−),130.8(−),131.9(−),142.0(+),145.7(+);HRMS(FAB) C2232OSSiNa[(M+Na)+]についての計算値395.1841,実測値395.1842.鏡像異性体の情報(96%ee,98%C/T)は、対応するアルコールのキラルHPLC分析によって測定した:Chiralcel OB−H;ヘキサン/i−PrOH=97/3,0.3mL/分,室温でのオーブン;tR/分=62.1(R),64.9(S).
【0069】
実施例7
(R,E)−1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−6−フェニル−2−(ピリジン−2−イル)−3−ヘキセン(15)の製造
【0070】
【化12】

【0071】
−78℃に冷却した2−ブロモピリジン(和光純薬工業株式会社)(0.016mL,0.200mmol)のジエチルエーテル溶液(1mL)にt−ブチルリチウムのペンタン溶液(関東化学株式会社)(1.57M,0.240mL,0.378mmol)を加え、30分間撹拌するとアニオン14の赤色溶液が得られた。この溶液に、臭化マグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(0.20M,2.40mL,0.480mmol)及び臭化銅ジメチルスルフィド錯体(19.5mg,0.0949mmol)を加えた。生じた橙色溶液を氷冷下30分撹拌した後、アリルピコリネート1(39.0mg,0.0947mmol)のテトラヒドロフラン溶液(1mL)をゆっくり滴下した。反応混合物を氷冷下1時間撹拌し、飽和アンモニア水溶液を加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で精製し、生成物15(29.8mg,0.0811mmol)を収率86%で得た。
【0072】
IR(neat)1590,1255,1097,837cm-11HNMR(300MHz,CDCl3)δ−0.11(s,3H),−0.08(s,3H),0.79(s,9H),2.35(dt,J=7,8Hz,2H),2.68(t,J=8Hz,2H),3.60(ddd,J=8,8,7Hz,1H),3.84(dd,J=10,7Hz,1H),3.95(dd,J=10,8Hz,1H),5.61(dt,J=16,7Hz,1H),5.75(dd,J=16,8Hz,1H),7.06−7.30(m,7H),7.57(ddd,J=8,8,2Hz,1H),8.55(d,J=2Hz,1H);13CNMR(75MHz,CDCl3)δ−5.45(−),−5.40(−),18.3(+),25.9(−),34.7(+),35.9(+),53.9(−),66.9(+),121.4(−),123.7(−),125.8(−),128.3(−),128.5(−),130.0(−),132.1(−),136.1(−),142.1(+),149.3(−),162.2(+);HRMS(FAB) C2333NOSiNa[(M+Na)+]についての計算値390.2229,実測値390.2231.鏡像異性体の情報(98%ee,>99%C/T)は、キラルHPLC分析によって測定した:Chiralcel AD−H;ヘキサン/i−PrOH=99/1,0.1mL/分,室温でのオーブン;tR/分=52.1(R),60.9(S).
【0073】
実施例8
(R,E)−1,3−ビベンジル−2−(1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−6−フェニルヘキサ−3−エン−2−イル)−1H−イミダゾール−3−イウム・ブロミド(13)の製造
【0074】
【化13】

【0075】
イミダゾール3(6.4mg,0.0143mmol)の塩化メチレン溶液(0.5mL)にベンジルブロミド(東京化成工業株式会社)(0.004mL,0.034mmol)を加え、40℃で24時間撹拌した後濃縮した。残渣をエーテルで洗浄し、乾燥させ、生成物13(4.5mg,0.00728mmol)を収率51%で得た。
【0076】
1HNMR(300MHz,CDCl3)δ−0.07(s,3H),−0.04(s,3H),0.81(s,9H),2.26(dt,J=8,7Hz,2H),2.55(t,J=7Hz,2H),3.76(d,J=7Hz,2H),4.40(dt,J=6,7Hz,1H),5.35−5.47(m,1H),5.45−5.60(m,1H),5.48(d,J=16Hz,1H),5.58(d,J=16Hz,1H),7.05(d,J=7Hz,2H),7.12−7.29(m,7H),7.34−7.44(m,6H),7.70(s,2H).
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、複素環近くに不斉炭素のある側鎖を有する複素環式化合物を材料、医薬品、イオン液体などの有用物質の創製に応用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

〔式中、
1及びR2は、同一であるか又は異なっていてもよく、独立して、C1-8アルキル基;ハロC1-8アルキル基;C1-8アルキルオキシ基;ハロC1-8アルキルオキシ基;C1-8アルキレン基;ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1-6アルキル基、C3-7アシクロアルキル基、ハロC1-6アルキル基、窒素原子に1個以上のC1-6アルキル基を有していてもよいカルバモイル基、C1-6アルコキシ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C1-6アシル基、C6-10アリール基及び5〜10員複素環式基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基、5〜6員複素環式基又はフェニル−(CH2n−基(ここで、nは、1〜6の整数である);及び保護基−O−(CH2m−基{ここで、保護基は、TBS(tert−ブチルジメチルシリル基)、PMB(4−メトキシベンジル基)、TMS(トリメチルシリル基)、TES(トリエチルシリル基)、及びTBDPS(tert−ブチルジフェニルシリル基)からなる群から選択され、mは、1〜6の整数である}からなる群から選択され;及び
3は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1-6アルキル基、C3-7アシクロアルキル基、ハロC1-6アルキル基、窒素原子に1個以上のC1-6アルキル基を有していてもよいカルバモイル基、C1-6アルコキシ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C1-6アシル基、C6-10アリール基及び5〜10員複素環式基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基、5〜6員複素環式基又はフェニル−(CH2n−基(ここで、nは、1〜6の整数である)からなる群から選択される〕
で表されるアンチSN2’化合物。
【請求項2】
1及びR2が、同一であるか又は異なっていてもよく、独立して、C1-8アルキル基;ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、及びC1-6アルキル基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基又はフェニル−(CH2n−基(ここで、nは、1〜6の整数である);及び保護基−O−(CH2m−基(ここで、保護基は、TBS又はPMBであり、mは、1〜3の整数である)からなる群から選択され;及び
3が、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1-6アルキル基及びC6-10アリール基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基又は5〜6員複素環式基からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記化合物が、
(R,E)−2−(1−ベンジル−1H−イミダゾール−2−イル)−1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−6−フェニル−3−ヘキセン;
(R,E)−1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−2−(1−メチル−1H−イミダゾール−2−イル)−6−フェニル−3−ヘキセン;
(S,E)−4−(1−ベンジル−1H−イミダゾール−2−イル)−5−[(4−メトキシベンジル)オキシ]−2−ヘキセン;
(S,E)−5−[(4−メトキシベンジル)オキシ]−4−(1−メチル−1H−イミダゾール−2−イル)−2−ヘキセン;
(S,E)−1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−2−(フラン−2−イル)−6−フェニル−3−ヘキセン;
(S,E)−1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−6−フェニル−2−(チオフェン−2−イル)−3−ヘキセン;
(R,E)−1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−6−フェニル−2−(ピリジン−2−イル)−3−ヘキセン;又は
(R,E)−1,3−ビベンジル−2−(1−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ]−6−フェニルヘキサ−3−エン−2−イル)−1H−イミダゾール−3−イウム・ブロミド
である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
下記式(II):
【化2】

〔式中、
1及びR2は、同一であるか又は異なっていてもよく、独立して、C1-8アルキル基;ハロC1-8アルキル基;C1-8アルキルオキシ基;ハロC1-8アルキルオキシ基;C1-8アルキレン基;ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1-6アルキル基、C3-7アシクロアルキル基、ハロC1-6アルキル基、窒素原子に1個以上のC1-6アルキル基を有していてもよいカルバモイル基、C1-6アルコキシ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C1-6アシル基、C6-10アリール基及び5〜10員複素環式基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基、5〜6員複素環式基又はフェニル−(CH2n−基(ここで、nは、1〜6の整数である);及び保護基−O−(CH2m−基(ここで、保護基は、TBS、PMB、TMS、TES、及びTBDPSからなる群から選択され、mは、1〜6の整数である)からなる群から選択される〕
で表される第2級アリルピコリネートを、
3M (III)
{式中、
3は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1-6アルキル基、C3-7アシクロアルキル基、ハロC1-6アルキル基、窒素原子に1個以上のC1-6アルキル基を有していてもよいカルバモイル基、C1-6アルコキシ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C1-6アシル基、C6-10アリール基及び5〜10員複素環式基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基、5〜6員複素環式基又はフェニル−(CH2n−基(ここで、nは、1〜6の整数である)からなる群から選択され;及び
Mは、Li、MgCl、MgBr、又はMgIである}
及び一価の金属塩から調製される錯体と反応させて、
下記式(I):
【化3】

(式中、R1、R2、及びR3は、上記で定義される通りである)
で表されるアンチSN2’化合物を製造する方法。
【請求項5】
1及びR2が、同一であるか又は異なっていてもよく、独立して、C1-8アルキル基;ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、及びC1-6アルキル基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基又はフェニル−(CH2n−基(ここで、nは、1〜6の整数である);及び保護基−O−(CH2m−基(ここで、保護基は、TBS又はPMBであり、mは、1〜3の整数である)からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
3が、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1-6アルキル基及びC6-10アリール基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されてもよいフェニル基又は5〜6員複素環式基からなる群から選択される、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
Mが、Li又はMgBrである、請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
MがLiである場合、反応中にMgBr2をさらに添加することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
一価の金属塩の金属が、銅である、請求項4〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
一価の金属塩が、CuBr・Me2S、CuCl、CuBr、CuI、CuCN、及びCuOAcからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。

【公開番号】特開2010−13394(P2010−13394A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174710(P2008−174710)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本化学会第88春季年会2008年 講演予稿集I (発行所:社団法人日本化学会 発行日:平成20年3月12日)〔刊行物等〕 http://pubs.acs.org/cgibin/abstract.cgi/orlef7/2008/10/i09/abs/ol800300x.html(掲載日:2008年4月9日)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】