説明

側面異形繊維およびそれを用いた硬化体

【課題】効率的に製造可能な、側面に捩れ部を有する繊維を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を溶融し、樹脂の少なくとも一部が、重力が作用する方向に対して、角度を形成するように、紡糸ノズル内で樹脂を進行させて、紡糸ノズルの吐出口から、捩れ部を形成させながら、樹脂を吐出させることによって、繊維横断面が略楕円形であり、繊維横断面の平均長径Mave、最大長径Mmaxおよび最小長径Mminが、Mmax≦1.5×Mave、Mmin≧0.5×Maveを満たし、少なくとも1つの捩れ部を有する、側面異形繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側面が通常の繊維とは異なる形状である側面異形繊維および当該側面異形繊維を補強用繊維として用いて成る硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種硬化性材料、特にコンクリートおよびモルタルのような水硬性材料を強化するために、ポロプロピレンから成る、繊維長1mm〜20mm程度の短繊維が補強用繊維として汎用されている。補強用繊維は、その補強機能を発揮するためには、硬化体材料から容易に抜けないものであることを要する。そこで、例えば、ポリプロピレンに他の樹脂を混合して、硬化体材料との親和性を高めることが提案され、あるいは、繊維の断面形状を異形にして、セメントとの物理的な結合を向上させることが提案されてきた。
【0003】
断面形状を異形にした補強用繊維として、例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂から紡糸したフィラメントの複数本の並列糸であり、これら並列糸相互が糸長方向に適宜間隔で連結部を形成して一体化した長繊維体からなる異形繊維が記載されている。この異形繊維は、並列糸のまま短繊維化されて、セメント強化用繊維として使用される。特許文献2は、補強硬化体の製造方法を開示し、当該方法は、有機繊維から成る撚糸を圧潰して圧潰撚糸を得る圧潰工程を含む。特許文献3には、補強用繊維として使用するものではないが、単一のポリエステルポリマーで構成されたマルチフィラメント糸であって、各フィラメントの横断面形状が多葉形であり、かつ各葉状部分の扁平度が1.5〜8であるとともに、フィラメントの長手方向にシック部とシン部を有し、該シック部の少なくとも一部が旋回状態にある、旋回部を有するポリエステル多葉断面マルチフィラメント糸が記載されている。
【0004】
特許文献4は、偏平な断面を持ったポリアセタールモノフィラメントから成る短繊維であって、長さ50mm当り3回転乃至5回転の捩り形状に形成した、セメント材料補強繊維を開示している。この繊維は、ポリアセタール繊維に常温で捩り加工を施して得られる。
【特許文献1】特開2000−27026号公報
【特許文献2】特許第4105752号公報
【特許文献3】特開平8−41727号公報
【特許文献4】特開2001−261403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の繊維における連結部は、表面に凹凸が彫込まれたバーなどを押付け或いは挟付けによる加熱押圧で付形して、フィラメントの押潰付形により拡幅部分を熱接着させる方法、または接着剤などを塗布し乾燥させる方法で、形成する必要がある。同様に、特許文献2に記載の方法も、圧潰工程を含む方法により、補強繊維を形成することを含む。これらの文献に記載のように、繊維を形成した後で、繊維の形状を変化させることは、製造効率および製造コストを考慮すると必ずしも好ましい方法ではない。また、特許文献3に記載のフィラメント糸は、異形断面を有するフィラメントを得るために、紡糸孔形状を多様形状にした紡糸口金を必要とし、また、旋回部を形成させるために、熱処理、および沸水中でのリラックス処理を必要とする。そのため、より安価であることが求められる補強繊維に、特許文献3に記載の方法を適用することは、現実的ではない。特許文献4に記載の繊維もまた、繊維化した後に回転をかける捩り加工を施して得られるものであり、後で捩れがなくなる(まっすぐな繊維になる)ことが多く、実用的ではない。また、後加工で回転をかけて捩れを形成する場合には、捩れの数を多くできないという問題がある。
【0006】
本発明は、硬化材料との物理的な結合ないし係止に優れている形状を有する繊維であって、後工程で付形処理を施すことなく製造することが可能な、繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、
熱可塑性樹脂から成り、
繊維横断面が略楕円形であって、平均長径Mave、最大長径Mmaxおよび最小長径Mminが、Mmax≦1.5×Mave、Mmin≧0.5×Maveを満たし、
少なくとも1つの捩れ部を有する、
側面異形繊維を提供する。
【0008】
ここで、「略楕円形」とは、繊維横断面形状の外周部分の少なくとも一部、好ましくは外周部分の長さの50%以上が曲線で囲まれた形状であって、アスペクト比(長径/短径)が1よりも大きい長円形状を指す。従って、本発明でいう「略楕円形」には、図3に示す楕円形の他、一般的な楕円における短径が、一般的な楕円の長径の中点で交わらない図4のような形状、また、図3の楕円または図4の略楕円の一部が窪んでいる、図5に示すような形状も含まれる。本明細書において、長径は、最も長い差し渡しを指し、短径は長径に直交する差し渡しのうち、最も長い差し渡しを指す。「平均長径Mave」とは、10箇所で測定した長径の測定値の平均値であり、「最大長径Mmax」は、最も大きい長径の測定値であり、「最小長径Mmin」は、最も小さい長径の測定値である。Mmax≦1.5×MaveおよびMmin≧0.5×Maveを満たす繊維は、その繊維横断面形状および寸法の変動が、繊維全体にわたって比較的小さいことを意味する。
【0009】
「捩れ部」とは、繊維の横断面が180度回転して形成される部分である。捩れ部が存在することにより、繊維は、見かけ状凹凸を有し、また、ざらざらとして、節を有するような触感を与え、硬化材料と物理的に良好に結合または係止する。「側面異形」という用語は、本発明の繊維が、通常の捩れ部の無い繊維と比較したときに、側面の状態が異なるものであることを示すために使用している。本発明の側面異形繊維の「捩れ部」を示す電子顕微鏡写真を図1に示す。図1において、捩れ部は符号2で示される部分を指す。
【0010】
本発明の側面異形繊維は、紡糸工程において、紡糸ノズルの吐出口から吐出されるときに、捩れ部が形成されたものである。そのため、本発明の繊維は、例えば、50mmあたり、1〜10000個という、比較的多数の捩れ部を有するものとして、得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の側面異形繊維は、側面が見かけ上凹凸を有し、この凹凸は繊維が硬化性材料の補強繊維として使用されたときに、係止部として抜けを防止する役割をする。また、本発明の側面異形繊維は、溶融した熱可塑性樹脂を、紡糸ノズルの吐出口から吐出させるときに、捩れ部が形成される方法によって製造することができるので、捩れ部を形成するための後加工を必要とせず、効率的に製造することができる。また、この方法で製造した繊維においては、捩れ部が逆戻りして無くなることが生じにくい。したがって、本発明によれば、良好な補強効果を発揮する、硬化性材料の補強用繊維を、安価に提供することができる。
【0012】
本発明の側面異形繊維はまた、研磨材(例えば、研磨不織布)を構成する場合には、捩れ部が優れた研磨効果を発揮する。あるいは、本発明の繊維でワイパーを構成する場合には、捩れ部が優れた掻き取り効果を発揮する。さらに、本発明の繊維においては、捩れ部の存在により、通常の繊維よりも、単位長さ当たりの表面積が大きくなるため、本発明の繊維で、フィルターを構成する場合には、優れた濾過効果が得られる。また、捩れ部の存在により、濾過される液体または気体の乱流が生じ、フィルターと当該液体または気体との接触時間が長くなり、そのことによっても濾過効果が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の側面異形繊維は、熱可塑性樹脂から成り、繊維断面が略楕円形であって、繊維横断面の平均長径Mave、最大長径Mmaxおよび最小長径Mminが、Mmax≦1.5×Mave、Mmin≧0.5×Maveを満たし、少なくとも1つの捩れ部を有する。繊維の平均長径Mave、最大長径Mmaxおよび最小長径Mminが上記の関係を満たす繊維は、その繊維横断面形状および寸法の変動が、繊維全体にわたって比較的小さい。本発明の側面異形繊維において、平均長径Mave、最大長径Mmaxおよび最小長径Mminは、好ましくは、Mmax≦1.3×Mave、Mmin≧0.7×Maveを満たし、より好ましくは、Mmax≦1.15×Mave、Mmin≧0.85×Maveを満たす。MmaxおよびMminがMaveにより近い値となるほど、繊維の断面形状および寸法の変動は、繊維全体にわたってより小さくなり、繊維全体にわたって断面形状および寸法がより一定なものとなる。
【0014】
本発明の側面異形繊維において、繊維横断面の断面形状は、アスペクト比が1よりも大きい略楕円形である。アスペクト比は(長径/短径)、すなわち最も長い差し渡しの長さを長径とし、長径に直交する差し渡しのうち、最も長い差し渡しを短径としたときに、長径を短径で割った値に相当する。より具体的には、繊維横断面形状が図3に示す楕円形であれば、アスペクト比は、図3中の符号4で示される長径の長さを、符号5で示される短径の長さで割った値である。繊維横断面形状が図4に示す、本発明でいう略楕円形であって、長径と短径の交点が、長径の二等分点でない場合、アスペクト比は、図4中の符号6で示される長径の長さを、符号7で示される短径の長さで割った値となる。繊維横断面形状が図5に示す、本発明でいう略楕円形であって、繊維横断面において、凹部を有する形状のものである場合、アスペクト比は、図5中の符号8で示される長径の長さを、符号9で示される短径の長さで割った値となる。
【0015】
本発明の側面異形繊維において、繊維横断面の断面形状は、前記アスペクト比が1よりも大きい形状である。アスペクト比が1より大きい横断面の繊維を、繊維強化複合材料における補強繊維として使用した場合、アンカー効果が強化されると考えられる。また、アスペクト比が1よりも大きい側面異形繊維で繊維ウェブを形成し、当該ウェブで各種ワイパーまたは各種フィルターを構成する場合、異物を絡め取る効果、および流体中に含まれる異物を捕集する効果が高められる。また、アスペクト比が1よりも大きい側面異形繊維を束ねてブラシ状にした場合、拭き取り面に付着している異物を絡め取る効果が発揮される。本発明の側面異形繊維において、繊維横断面のアスペクト比は、1.01以上であることが好ましく、1.01以上であり、10.00以下であることがより好ましく、1.20以上、3.00以下であることがさらにより好ましい。アスペクト比が10.00より大きいと、繊維横断面が偏平になりすぎて、繊維強力の低下が大きくなる。一方、アスペクト比を10.00より大きくしても、上述の効果がそれほど強められるわけではない。
【0016】
本発明の側面異形繊維のアスペクト比は次のようにして求める。繊維を任意の10点で切断し、10個の切断面を電子顕微鏡で拡大して観察し、観察された繊維横断面の長径および短径の長さを測定し、アスペクト比を算出する。10個の切断面について求めた10個のアスペクト比の平均を、その繊維のアスペクト比とする。
【0017】
熱可塑性樹脂は、繊維の製造において通常用いられている熱可塑性樹脂から、任意に選択してよい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリメチルペンテン、エチレン−プロピレン共重合体等、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、およびエチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル樹脂;ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル樹脂;ナイロン6およびナイロン66等のポリアミド系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリオキシメチレン(ポリアセタール)樹脂;ポリケトン樹脂;ポリスチレン樹脂ならびにアクリル系樹脂から、1または複数の樹脂を選択して使用してよい。
【0018】
熱可塑性樹脂は、好ましくは、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、またはポリプロピレンとポリメチルペンテンの混合物である。これらの樹脂は、比較的硬い(即ち、MFR値が低い)種類のものが販売されているので、後述する方法で本発明の繊維を製造するのに好都合であることによる。例えば、ポリプロピレンは、そのMFR(230℃、荷重21.18N(2.16kg))が、1〜100g/10分程度であるものも販売され、ポリメチルペンテンは、そのMFR(260℃、荷重49N(5kg))が、10〜300g/10分程度であるものも販売されている。また、これらの樹脂は、耐薬品性に優れ、コンクリートおよびモルタル等を補強する繊維の材料、ならびにワイパーおよびフィルターの材料として、使用実績がある点からも、好ましく用いられる。
【0019】
本発明の側面異形繊維は、2以上の成分からなる複合繊維であってよい。具体的には、芯鞘型複合繊維、偏心芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維、分割型複合繊維および海島型複合繊維のいずれであってもよい。
【0020】
本発明の繊維は、略楕円形の繊維横断面を有し、繊維横断面の平均長径Mave、最大長径Mmaxおよび最小長径Mminが、Mmax≦1.5×Mave、Mmin≧0.5×Maveを満たす。略楕円形、Mave、MmaxおよびMminの意味は前述したとおりである。本発明の繊維は、横断面の輪郭を規定する外周部分の少なくとも一部、好ましくは外周部分の長さの50%以上が曲線で囲まれた形状を有する。繊維横断面において、断面の外周部分が曲線を有さず、直線のみで形成されていると、繊維強化複合材料における補強繊維として、本発明の繊維を使用した場合、アンカー効果が弱くなると考えられる。
【0021】
繊維横断面が、Mmax≦1.5×MaveおよびMmin≧0.5×Maveを満たすことは、繊維横断面の形状および寸法が、繊維全体にわたってほぼ一定であることを意味する。それにより、繊維全体が均一な特性を有するので、例えば、この繊維をさらに延伸処理に付すこともできる。また、本発明の繊維を、硬化性材料の補強用繊維として例えば50mm以下にカットしたときに、各繊維においてばらつきが生じにくい。本発明の繊維は、Mave、MmaxおよびMminが上記いずれの関係を満たす場合においても、例えば、Maveが0.1〜5000μmであるものとして得ることができる。本発明の繊維の平均長径Maveは前記の範囲に限定されず、前記範囲外のMaveを有する繊維を製造することは可能である。Maveは、溶融紡糸の際、単位時間当たりの溶融ポリマーの吐出量を調節することによりで所望の値とすることができる。よって、本発明の繊維は、その用途に応じた、好ましい平均長径Maveを選択して、製造することができる。
【0022】
本発明の繊維の横断面積の長径および短径は、その用途に応じて、適宜選択される。例えば、本発明の繊維を硬化性材料の補強用繊維として使用する場合、平均長径(Mave)は、1〜2000μmとすることが好ましく、10〜1000μmとすることがより好ましい。本発明の繊維で研磨材を構成する場合、研磨材の形態にもよるが、平均長径(Mave)は、0.1〜100μmとすることが好ましく、1〜50μmとすることがより好ましい。本発明の繊維でワイパーを構成する場合、ワイパーの形態にもよるが、例えば不織布の形態とする場合、平均長径(Mave)は、0.1〜1000μmとすることが好ましく、10〜100μmとすることがより好ましい。本発明の繊維で、長繊維から成り、長繊維が立体的に絡み合った立体網状体のごとき外観を呈するフィルターを構成する場合、平均長径(Mave)は、10〜5000μmとすることが好ましく、100〜3000μmとすることがより好ましい。本発明の繊維で不織布の形態のフィルターを構成する場合、平均長径(Mave)は、0.1〜1000μmとすることが好ましく、1〜100μmとすることがより好ましい。
【0023】
捩れ部は、前述のとおり、繊維の横断面が180°回転している部分をいう。捩れ部の外観の一例は、図1に示されるとおりである。捩れ部は本発明の繊維において、少なくとも1つ含まれる。本発明の繊維は、その平均長径Maveが1〜1000μmであるときには、好ましくは、捩れ部を、50mmあたり、1〜10000個有し、より好ましくは、5〜5000個、さらに好ましくは6〜1000個有する。一般に平均長径Maveが大きくなるほど、多くの捩れ部を形成することが困難となる。よって、例えば、平均長径Maveが250〜750μm程度であるときには、捩れ部の数は、50mmあたり6〜250個程度としてよい。その場合でも、所定の効果を得ることができる。
【0024】
本発明の繊維は、後述するように、紡糸ノズルの吐出口から、捩れ部を有するフィラメントを紡糸する方法で製造できるので、比較的数多くの捩れ部を有する形態にできる。また、本発明において、捩れ部はほぼ等間隔に形成される。捩れ部が形成された繊維においては、捩れ部が「節」のような外観を呈し、また、捩れに沿って、反射光の向きが変化する。よって、本発明の繊維は、独特の煌めきを放つ、意匠性の高い繊維となる。捩れ部を有する繊維はまた、2本の指で挟んで繊維長に沿って指をずらしていくと、ざらざらとした触感を与え、捩れ部が抵抗感をもたらす。
【0025】
本発明の異形側面繊維は、後述するような方法で、溶融紡糸法により、捩れ部を有するフィラメントとして得た後、繊度および繊維強力の調整を目的として、延伸処理に付すことができる。
【0026】
本発明の繊維を硬化性材料の補強用繊維として使用する場合、繊維は、2〜50mm、より好ましくは3mm〜30mm程度の繊維長を有するようにカットされる。その場合、捩れ部は、繊維長あたり2個またはそれよりも多い数で存在することが好ましい。1本の短繊維につき、複数個の捩れ部が存在すると、捩れ部を有しない通常の繊維と比較して、捩れ部による物理的な結合または係止が向上した、硬化体を得ることができる。
【0027】
本発明の繊維で研磨材を構成する場合、繊維は、例えば、5〜100mmの繊維長を有するようにカットされる。その場合、捩れ部は、0.01〜2mm間隔で設けられることが好ましい。本発明の繊維でワイパーを構成する場合、繊維は、例えば、20〜80mmの繊維長を有するようにカットされる。その場合、捩れ部は、0.001〜0.100mm間隔で設けられることが好ましい。本発明の繊維で不織布の形態からなるフィルターを構成する場合、フィルターはステープル繊維で構成されてよく、あるいはスパンボンド不織布等の長繊維(連続繊維)が集合してなる形態であってよい。フィルターは、好ましくは、長繊維(連続繊維)が集合してなる形態である。その場合、捩れ部は、長繊維において、0.001〜0.100mm間隔で設けられることが好ましい。また、本発明の繊維で、長繊維から成り、長繊維が立体的に絡み合った立体網状体のごとき外観を呈するフィルターを構成する場合、捩れ部は、0.01〜10mm間隔で設けられることが好ましく、0.1〜1mm間隔で設けられることがより好ましい。
【0028】
本発明の繊維は、繊維束として提供してよい。繊維束は、本発明の繊維を複数本含み、各繊維が、他の1又は複数の繊維と結合してなる。そのような繊維束もまた、硬化性材料の補強用繊維として好ましく用いられる。繊維束は好ましくは、硬化性材料と混合するまでは、繊維束の形態を有し、硬化性材料と混合中に結合がはずれて、1本ずつに分離するような結合強度で結合している。そのような繊維束を用いると、硬化性材料との混合中に繊維の凝集が生じず、かつ硬化体において1本1本の繊維が良好に補強機能を発揮する。繊維束は、後述する方法で本発明の繊維を製造するに際し、紡糸ノズルから吐出されたフィラメントの冷却を弱くすることによって、あるいは紡糸ノズルにおける吐出口の間隔を狭くすることによって、紡糸中のフィラメントを融着させる方法により、得ることができる。
【0029】
前述のとおり、本発明の繊維は、硬化性材料の補強用繊維として特に好ましく用いられる。捩れ部が、繊維表面において凹凸となって、硬化性材料に係止しやすくなり、繊維が硬化体から抜けにくくなるからである。繊維の抜けが防止されると、硬化体の強度が大きくなり、剥離等が有効に防止される。硬化性材料は、特に限定されず、コンクリート、モルタル、およびセメントペーストのような水和反応により硬化する水硬性硬化材料(または水硬性硬化配合物)であってよい。
【0030】
硬化体は、用途および硬化性材料の種類等に応じて、適宜、本発明の繊維の含有量を選択して、硬化性材料と混合した後、硬化性材料を硬化させ、さらに養生して、製造する。本発明の繊維は、硬化性材料(骨材等も含む)の質量を100質量部としたときに、1〜10質量部の量で混合することが好ましい。
【0031】
次に、本発明の繊維の製造方法を説明する。本発明の繊維の製造方法は、熱可塑性樹脂を溶融し、紡糸ノズルから一定流量で吐出させることを含む製造方法であって、樹脂の少なくとも一部が、重力が作用する方向に対して、角度を形成するように、紡糸ノズル内で樹脂を進行させて、紡糸ノズルの吐出口から、捩れ部を形成させながら、樹脂を吐出させることを含む。即ち、本発明の繊維の製造方法は、溶融させた熱可塑性樹脂を、一定の流量で(即ち、一定の吐出量で)ノズルから吐出させるときに、樹脂の少なくとも一部を、樹脂に重力が作用する方向に対して、角度を形成するように、紡糸ノズル内で進行させることを特徴とする。この特徴により、捩れ部を有するフィラメントを、紡糸ノズルから吐出させることが可能となり、紡糸後の別工程で捩れ部を形成することを要しない。
【0032】
熱可塑性樹脂の溶融は、合成繊維製造の分野で通常用いられている方法および装置を用いて行ってよい。また、樹脂の流量(吐出量)は、ギヤポンプ等を用いて調整する。紡糸ノズル内において、樹脂の少なくとも一部を、樹脂の重力が作用する方向に対して、角度を形成するように進行させることは、紡糸ノズルに形成されるノズル孔(オリフィスと呼ばれることもある)の形状を、円錐台形状または楕円錐台形状にすることにより達成される。ノズル孔の形状が円錐台形状または楕円錐台形状であると、ノズル孔の側面に沿って進行する樹脂は、重力が作用する方向と角度を形成することとなる。
【0033】
円錐台形状のノズル孔の一例を、縦断面図にて模式的に図2(a)に示す。このノズル3aを使用する場合において、MFR(230℃、荷重21.18N(2.16kg))が0.1〜100g/10分程度のポリプロピレン樹脂を使用すると、捩れ部を形成できる。これに対し、図2(b)に示すように、ノズル孔3bが、側面において、吐出口に対して鉛直な部分を有し、傾斜している部分が(a)と比較して少ない(例えば、ノズル孔全体の3/4以下である)と、相当高い粘度の樹脂を用いる必要があるところ、そのような樹脂の使用は、溶融紡糸機に過度の負担を与え、紡糸そのものを不可能にする。
【0034】
樹脂の少なくとも一部を、例えば前記の紡糸ノズルを使用して、重力が作用する方向に対して、角度を形成するようにノズル内で進行させることにより、捩れ部が生じる理由として、樹脂の粘度のバランスの小さなくずれが考えられる。樹脂の粘度に僅かなばらつきが生じると、吐出口における樹脂の流量にも同様のばらつきが生じ、そのことが捩れの形成につながると考えられる。捩れ部が形成されるように高粘度の樹脂を選択して紡糸すると、吐出口が円形であっても横断面形状が略楕円形の繊維が得られる。捩れ部は、ノズル孔形状が楕円錐台形である紡糸ノズルを使用すると、より形成されやすい。
【0035】
ノズル孔の直径(吐出口が楕円形の場合は長径)は、0.1〜10mm程度であってよい。尤も、ノズル孔の直径は、これに限定されず、最終的に得ようとする繊維の繊度に応じて、より大きく、又はより小さくしてよい。一般に、ノズル孔の直径が小さいほど、捩れ部がより狭い間隔で形成される。
【0036】
紡糸ノズルから吐出されたフィラメントは、通常のように冷却して、引き取られる。冷却は十分に行って、引き取りの際に捩れ部の捩れが崩れる、又は捩れが戻ってストレートな繊維となることを防止する必要がある。冷却されて、捩れ部が固定された繊維は、延伸処理に付して、細い繊維を得るようにしてよい。繊維は延伸されると、捩れ部と捩れ部との間隔が広くなる。
【実施例】
【0037】
(繊維1)
融解ピーク温度が165℃、MFRが1.9g/10分であるポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)製、商品名FY6H)を用意した。この樹脂を図2(a)に示すノズル孔形状(ノズル孔 直径0.3mmの円形、台形の高さ2.0mm、側面の傾斜角は重力方向と30°の角度αを形成)を198個有する紡糸ノズルを用い、吐出量を133g/分、紡糸温度を230℃、紡糸ヘッド温度を230℃として溶融押出し、紡糸ノズルから押し出されたフィラメントを、機械的に巻き取らず、自然落下させて引き取ることで、横断面形状が略楕円形であり、捩れ部を有する繊維を得た。
【0038】
得られた繊維の中から2本の繊維を選び出し、それぞれ繊維1−a、繊維1−bとした。この2本の繊維の平均長径Mave、最大長径Mmax、最小長径Mmin、アスペクト比、及び50mmあたりの捩れ部の個数を測定した。繊維1−aは、最大長径が662μm、最小長径が608μm、平均長径が636μm、アスペクト比は1.62、50mmあたりの捩れ部の個数は53個であった。繊維繊維1−bは、最大長径が618μm、最小長径が545μm、平均長径が580μm、アスペクト比は1.46、50mmあたりの捩れ部の個数は55個であった。上記の繊維1−a、繊維1−bの各数値を表1に示す。上記の方法で得られた繊維1を繊維長5mmの短繊維にカットして、他の繊維との比較に供した。
【0039】
【表1】

【0040】
(繊維2)
繊維1の製造に使用した樹脂と同じ樹脂を、図2(b)に示すノズル孔形状(ノズル孔 直径0.5mmの円形)を100個有する紡糸ノズルを用い、吐出量を80.9g/分、紡糸温度を230℃、紡糸ヘッド温度を230℃として溶融押出し、紡糸ノズルから押し出されたフィラメントを、機械的に巻き取らず、自然落下させて引き取ることで、横断面形状が円形である繊維を得た。この繊維は、平均繊維径が371μmであり、捩れ部は形成されなかった。この繊維を繊維長5mmの短繊維にカットした。
【0041】
上記において、樹脂の融解ピーク温度は、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ(株)製)を使用し、サンプル量を5.0mgとして、200℃で5分間保持した後、40℃まで10℃/minの降温スピードで冷却した後、10℃/minの昇温スピードで融解させて、融解熱量曲線を得、得られた融解熱量曲線より求めた。また、樹脂(本実施例ではポリプロピレン樹脂のみ)のMFRは、JIS−K−7210に準じて、温度230℃、荷重21.18N(2.16kg)で測定した。
【0042】
(試料1)
セメントと骨材を質量比で4:1の割合で配合したコンクリートに対し、繊維1を、3質量%混入させた。このコンクリートと水とを、質量比で9:1の割合で混合し、混練を行った後、型に流し込んで硬化させ、さらに自然養生した。得られた硬化体を、JIS A−1408に準じて、曲げ試験に付したところ、曲げ強度は66.5kg/cmであった。
【0043】
(試料2)
繊維1に代えて繊維2を使用したこと以外は、試料1の製造で採用した手順と同様の手順に従って、硬化体を作製した。得られた硬化体を、曲げ試験に付したところ、曲げ強度は57.9kg/cmであった。
【0044】
試料1および2は、明らかに曲げ強度において差を有していた。このことは、繊維に形成された捩れ部が、硬化体の補強に寄与していることを示している。また、この結果は、捩れ部が硬化体の製造の間も、元に戻ることなく保持されて、硬化体においても、繊維が捩れ部を有する形態で存在していることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の繊維は、紡糸の際に形成され、固定された、捩れ部を有し、側面が異形のものであるから、異形部分を利用して、硬化性材料の補強用繊維、研磨材を構成する繊維、ワイパーを構成する繊維およびフィルターを構成する繊維として使用するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の側面異形繊維の側面を示す拡大写真である。
【図2】(a)は本発明の側面異形繊維を製造するのに適した紡糸ノズルのノズル孔形状の縦断面図であり、(b)は側面が捩れ部を有しない繊維を製造するのに用いられる紡糸ノズルのノズル孔形状の縦断面図である。
【図3】本発明の側面異形繊維の一例の繊維横断面を示す拡大写真である。
【図4】本発明の側面異形繊維の別の例の繊維横断面を示す拡大写真である。
【図5】本発明の側面異形繊維のさらに別の例の繊維横断面の概略図である。
【符号の説明】
【0047】
1 側面異形繊維
2 捩れ部
3a、3b 紡糸ノズル孔
4 長径
5 短径
6 長径
7 短径
8 長径
9 短径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂から成り、
繊維横断面が略楕円形であって、平均長径Mave、最大長径Mmaxおよび最小長径Mminが、Mmax≦1.5×Mave、Mmin≧0.5×Maveを満たし、
少なくとも1つの捩れ部を有する、
側面異形繊維。
【請求項2】
捩れ部を、50mmあたり、1〜10000個有する、請求項1に記載の側面異形繊維。
【請求項3】
熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンまたはそれらの混合物である、請求項1または2に記載の繊維。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維を複数本含んで成り、各繊維が、他の1又は複数の繊維と結合している、繊維束。
【請求項5】
硬化性材料の補強用繊維である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維。
【請求項6】
硬化性材料と請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維とが混合され、かつ硬化性材料が硬化されている、硬化体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−126828(P2010−126828A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300933(P2008−300933)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】