偽造防止媒体
【課題】偽造防止媒体として、目視あるいはフィルターを使用して目視することで容易に真偽判定が可能で偽造が困難な回折格子の構成を提供することを目的とする。
【解決手段】回折格子の方向の異なる第一領域12a及び第二領域12bを有する偽造防止媒体10であって、第一領域12a及び第二領域12bは、空間周波数が2000本/mmから4000本/mmの範囲の回折格子から構成されており、かつ前記第二領域12bは前記第一領域12aで囲まれ、前記第二領域12bは前記第一領域12aに対して凸部又は凹部となっていることを特徴とする偽造防止媒体である。
【解決手段】回折格子の方向の異なる第一領域12a及び第二領域12bを有する偽造防止媒体10であって、第一領域12a及び第二領域12bは、空間周波数が2000本/mmから4000本/mmの範囲の回折格子から構成されており、かつ前記第二領域12bは前記第一領域12aで囲まれ、前記第二領域12bは前記第一領域12aに対して凸部又は凹部となっていることを特徴とする偽造防止媒体である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セキュリティ用途に使用する偽造防止媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回折格子やホログラムによって構成されるパターンは、通常の印刷技術では表現することのできない指向性のある光沢を有することから、装飾用途や偽造防止を目的としたセキュリティ商品に広く用いられている。
特定波長の光を発光又は吸収するインキなどを使用する偽造防止技術に比べ、回折格子技術の利点は、
(1)判別用の機器類を使わずに真偽判定が容易にできる機能を有する目視判別(いわゆるオバート機能)。
(2)製造には、高価で高度な技術(EB描画装置やナノインプリント技術等)が必要。
(3)媒体の総厚が薄い。
(4)回折光による独特の輝きがあり、意匠性に優れる。
といったところが挙げられる。
【0003】
しかし、最近、各国の紙幣を偽造しようとする偽造団においては、本物とそっくりで識別が難しい回折格子を製造できるようになってきた。
【0004】
そこで最近では、高精細化した回折格子が特許文献1により提案され、ここでは2次元の回折格子であって通常の回折格子の2倍以上の細かさを有するものが開示されている。この高精細な回折格子は通常のホログラム製造よりもはるかに製造が難しく、ナノインプリントの技法を取り入れなければ達成できないものである。この高精細な回折格子の視認上の特徴は、従来の回折格子とは全く異なり、正面方向(大部分の視域)では黒色を呈し、対象物の水平方向に近い角度(法線方向に対し深い角度)で回折光が射出するものである。しかし、この高精細回折格子は、非常に特異な視覚効果を示すのであるが、回折光の射出角度が深く、検証に不便を感じることも多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−107470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、偽造防止媒体として、目視あるいはフィルターを使用して目視することで容易に真偽判定が可能であって、且つ偽造が困難な回折格子の構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る発明は、回折格子の方向の異なる第一領域及び第二領域を有する偽造防止媒体であって、第一領域及び第二領域は、空間周波数が2000本/mmから4000本/mmの範囲の回折格子から構成されており、かつ前記第二領域は前記第一領域で囲まれ、前記第二領域は前記第一領域に対して凸部又は凹部となっていることを特徴とする偽造防止媒体としたものである。
【0008】
本発明の請求項2に係る発明は、前記第一領域の回折格子と前記第二領域の回折格子との成す角度は、概ね90度であることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止媒体としたも
のである。
【0009】
本発明の請求項3に係る発明は、前記第一領域の回折格子及び前記第二領域の回折格子のアスペクト比(高さ/ピッチ)は、0.5以上2以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の偽造防止媒体としたものである。
【0010】
本発明の請求項4に係る発明は、回折格子の断面形状が三角形状又はサイン状であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の偽造防止媒体としたものである。
【0011】
本発明の請求項5に係る発明は、前記第一領域の回折格子及び前記第二領域の回折格子の凹凸構造は、無機誘電体層及び反射性金属層で覆われていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の偽造防止媒体としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、偽造防止効果が極めて高く、目視で偽造かどうかを容易に判別可能な偽造防止媒体を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明になる偽造防止媒体の回折格子の構成を概略的に示す平面図である。
【図2】図1に示す偽造防止媒体のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図1に示す偽造防止媒体のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】入射光が、偽造防止媒体に入射した場合、射出する正反射光(0次光)のTE偏光特性を示すための説明図である。
【図5】図1及び図2に示す偽造防止媒体の第1界面部12a、第2界面部12bに採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図である。
【図6】図1及び図2に示す偽造防止媒体の第1界面部12a、第2界面部12bに採用可能な構造の別の一例を拡大して示す斜視図である。
【図7】本発明に係る偽造防止用又は識別用ラベルの一例を説明する断面視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は、本発明の一態様に係る偽造防止媒体の回折格子の構成を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す偽造防止媒体10のII−II線に沿った断面図であり、図3は、図1に示す偽造防止媒体10のIII−III線に沿った断面図である。
【0016】
この偽造防止媒体10は、図2、図3に示すように透明保護層1、無機誘電体層2、金属反射層3、凹凸形成層4、基材5、粘着層6の積層体である。この偽造防止媒体10は、第1領域DP1と第2領域DP2に別れており、その対応する凹凸形成層4と金属反射層3との界面には、第1領域DP1には第1界面部12aが形成されており、一方、第2領域DP2には第2界面部12bが形成されている。第1界面部12a及び第2界面部12bは、図5及び図6のような構造であり、また、第1界面部12aと第2界面部12bとでは回折構造として方向の異なる凹凸構造が設けられている。
【0017】
透明保護層1の材料としては、無機誘電体層2との密着を保つことが可能でかつ透明性を有する樹脂系が良く、例えば、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エポキシウレタン樹脂、ポリカーボネートウレタン樹脂、ブチラール樹脂、塩素化プロピレン樹脂などが好適である。また、滑り性や防汚性、耐傷性向上のため、ワックス類やシリコーン添加剤などを添加してもよい。
【0018】
基本的には、凹凸形成層4由来の偏光特性を阻害しないような保護層であることが望ましいのであるが、更なる偽造防止効果を高めるため、複屈折性材料を使用して位相差層として機能させても良い。例えば、1/4波長の位相差層とすることで凹凸形成層4由来の直線偏光を円偏光へと変換することが可能である。
【0019】
無機誘電体層2としては、例えば、Sb2O3(3.0)、Fe2O3(2.7)、TiO2(2.6)、CdS(2.6)、CeO2(2.3)、ZnS(2.3)、PbCl2(2.3)、CdO(2.2)、Sb2O3(2.0)、WO3(2.0)、SiO(2.0)、Si2O3(2.5)、In2O3(2.0)、PbO(2.6)、Ta2O3(2.4)、ZnO(2.1)、ZrO2(2.0)、MgO(1.6)、SiO2(1.5)、MgF2(1.4)、CeF3(1.6)、CaF2(1.3〜1.4)、AlF3(1.6)、Al2O3(1.6)、GaO(1.7)等を採用することができる。
ここで、カッコ内の数値はそれぞれの屈折率nを示す。これらの無機誘電体の中でも高屈折率材料の方が、回折効率が高くなり易く、また、アスペクト比が低い構造であっても光閉じ込め効果が強くなることから、偏光特性が出やすい。そして、真空製膜法を利用してこの無機誘電体薄膜を形成することができる。真空製膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法等が適用でき、厚みは、1〜100nm程度に制御できればよい。その他の形成手段として、ゾルゲル法も採用可能である。
【0020】
金属反射層3としては、例えば、アルミニウム、銀、錫、クロム、ニッケル、銅、金及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。そして、真空製膜法を利用してこの金属薄膜を形成することができる。真空製膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法等が適用でき、厚みは、1〜100nm程度に制御できればよい。
【0021】
凹凸形成層4 の材料としては、例えば、光透過性を有する樹脂を使用することができる。光透過性を有する樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、ニトロセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリルスチレン共重合体、塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチルなどの熱可塑性樹脂やポリイミド、ポリアミド、ポリエステルウレタン、アクリルウレタン、エポキシウレタン、シリコーン、エポキシ、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂、及び紫外線又は電子線硬化樹脂として、各種アクリルモノマー、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレートなどのオリゴマー、アクリル基やメタクリル基等を有するアクリルやエポキシ及びセルロース系樹脂などの反応性ポリマーが使用可能である。また、例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、原版を用いた転写により、一方の主面に凹凸構造が設けられた凹凸形成層4を容易に形成することができる。
【0022】
基材5の材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、トリアセチルセルロース、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、アクリルスチレン共重合体、塩化ビニル等の樹脂シート及びフィルムがあげられる。
粘着層6としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコン系粘着剤、ウレタン系粘着剤などがあげられる。
【0023】
図5、図6は、図1及び図2に示す偽造防止媒体の第1界面部12a、第2界面部12bに採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図である。
第1界面部12a、第2界面部12bには、複数の溝14aを配置してなるレリーフ型回折格子が設けられている。溝14aの空間周波数は、2000本/mmから4000本/mmの範囲内にあり、より最適な範囲としては2500本/mmから3500本/mmの範囲内にある。
【0024】
なお、用語「回折格子」は、自然光などの照明光を照射することにより回折光を生じる構造を意味し、複数の溝14aを平行且つ等間隔に配置する通常の回折格子に加え、ホログラムに記録された干渉縞も包含することとする。また、溝14a又は溝14aに挟まれた部分を「格子線」と呼ぶこととする。
【0025】
第1界面部12a及び第2界面部12bには前記の範囲内の空間周波数である回折格子が配置され、第1界面部12aと第2界面部12bの格子線の方向は、図1に示すように異なって配置される。最適な格子線のなす角度は概ね90度である。
【0026】
また、この偽造防止媒体10は、極めて特殊な視覚効果(偽造防止効果)を2つ有している。まず、1つ目は、回折光及び反射光の特殊性である。一般的に使用される回折格子と異なり、本発明に使用する回折格子は、入射光の方向と近い方向に+1次回折光がもどる特徴があり、かつ回折光は、偏光特性を有する。また、この回折格子に入射し、反射した光も、偏光特性を有するため、偏光フィルターを通して偽造防止媒体10を観察すると、第1領域12aと第2領域12bではネガとポジの関係にあたり、偽造防止媒体10若しくは偏光フィルターを90度回転して再度確認するとネガポジが反転が確認できる。
【0027】
また、液晶などの位相差を用いた偽造防止手段と異なり、入射光が偏向光である必要がないため、偏光フィルターを接しない遠隔真贋も可能であり、フィルター検証を使用するセキュリティデバイスの中でも優位性が高い。2つ目は、第2領域12bが周辺よりも窪んだり、盛り上がった構造になっているということである。これは、目視でも立体的なことが確認でき、また、指先を接触させることでも確認可能である。
【0028】
従来、このような高精細な回折格子に高精度に位置合わせされた窪みも設けることは製造上難しく、例えば、微細な回折格子を形成後、高熱圧エンボスをかけて窪みを作ろうとして、例え窪みができても回折格子構造が潰れてしまい、かつ位置合わせの見当精度も本発明の構造による窪み形成に比べ悪いと思われる。一方、本発明のような構造の原版(金型)を作る場合、現状、高精細回折格子はEB描画装置を使用するため平坦な基板上でなければ作製できず、窪み上に回折格子を作製することはきわめて困難である。
つまり、この偽造防止媒体10の構造物は作製することが困難なため、偽造防止に利用することができる。
【0029】
この偽造防止媒体10の視覚効果について、さらに詳細に説明する。
まず、第1界面部12a及び第2界面部12bの凹凸構造に起因した視覚効果について説明する。
【0030】
回折格子を照明すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に強い回折光を射出する。
最も代表的な回折光は、1次回折光である。1次回折光の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記等式(1)から算出することができる。
d=λ/(sinα−sinβ) …(1)
この等式(1)において、dは回折格子の格子定数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光,すなわち、透過光又は正反射光,の射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は、照明光の入射角と等しく、入射角とはZ軸に対して対称な関係である(反射型回折格子の場合)。なお、α、βは、Z軸から時計回りの方向を正方向とする。
等式(1)から明らかなように、1次回折光の射出角βは、波長λに応じて変化する。すなわち、回折格子は、分光器としての機能を有している。したがって、照明光が白色光である場合、回折格子の格子線に垂直な面内で観察角度を変化させると、観察者が知覚する色が変化する。
【0031】
また、或る観察条件のもとで観察者が知覚する色は、格子定数dに応じて変化する。 一例として、回折格子は、その法線方向に1次回折光を射出するとする。すなわち、1次回折光の射出角βは、0°であるとする。そして、観察者は、この1次回折光を知覚するとする。このときの0次回折光の射出角をαNとすると、等式(1)は、下記等式(2)へと簡略化することができる。
d=λ/sinαN …(2)
等式(2)から明らかなように、観察者に特定の色を知覚させるには、その色に対応した
波長λと照明光の入射角|αN|と格子定数dとを、それらが等式(2)に示す関係を満足するように設定すればよい。例えば、波長が400nmから700nmの範囲内にある全ての光成分を含んだ白色光を照明光として使用し、照明光の入射角|αN|を45°とする。そして、空間周波数(格子定数の逆数)が1000本/mmから1800本/mmの範囲内で分布している回折格子を使用するとする。この場合、回折格子をその法線方向から観察すると、空間周波数が約1600本/mmの部分は青く見え、空間周波数が約1100本/mmの部分は赤く見える。
【0032】
なお、回折格子は、空間周波数が小さいほうが製造が容易である。そのため、通常の偽造防止媒体では、回折格子の大多数は、空間周波数が500本/mmから1600本/mmの回折格子である。
このように、或る観察条件のもとで観察者が知覚する色は、回折格子の格子定数d(又は空間周波数)で制御することができる。そして、先の観察条件から観察角度を変化させると、観察者が知覚する色は変化する。
【0033】
上記の説明では、光が格子線に垂直な面内で進行することを仮定している。この状態から回折格子をその法線の周りで回転させると、一定の観察方向に対して、この回転角度に応じて格子定数dの実効値が変化する。その結果、観察者が知覚する色が変化する。逆に言えば、格子線の方位のみが異なる複数の回折格子を配置した場合、それら回折格子に異なる色を表示させることができる。また、回転角度が90度に近くなると一定の観察方向からは回折光が認識できなくなり、回折格子が無い場合と同様に見える。
【0034】
一方、本発明の場合、空間周波数が2000本/mmから4000本/mmの回折格子であり、特異的な性質があるので、図4に説明図を示した。
入射光7が、偽造防止媒体18に入射した場合、射出する正反射光(0次光)13は、TE偏光特性を示す。これは、回折格子の周期が光の波長と同じかより小さい領域であるため、偏光特性を示す。回折格子の周期が光の波長より小さい方がより効果的に現れ、また、アスペクト比が0.5以上のときにより効果的である。
【0035】
また、構成する回折格子の断面形状は、図5に示すようなサイン形状、さらに好ましくは、図6に示すような三角形状が最適である。これは、反射しにくいTM偏光の光を凹凸構造16の中に閉じ込める働きをするためであると推測している。断面形状が三角形状若しくはアスペクト比が大きくなるにしたがい、アルミニウム光沢が徐々に薄れて、黒色になっているのが実験で確認できている。偽造防止媒体が黒色になるにしたがい、正反射光の偏光特性は、強くなる。
【0036】
一方、入射光の一部は、回折光11となり、回折光11は、ややTM偏光特性を示す。しかし、アスペクト比が大きくなるにしたがい、回折効率は極端に落ち込んでいくので好ましくは2以下がよい。
【0037】
また、図2、図3からわかるように第2領域12bは、大きな窪みを有している。これは、空間周波数が2000本/mm以上で、かつ回折格子の格子線の角度が凡そ90度異なる回折格子に囲まれている場合のみ、無機誘電体や金属膜を施したときに発生する現象であることを見出した。推測範囲であるが、無機誘電体や金属膜を施したときに発生する応力や伸縮の方向が、回折格子の溝によって一定方向に抑制されるためにおこるのではないかと考えている。なぜなら、第1領域と第2領域では方向が異なるだけで、他の構造要素がまったく同じであっても、格子に囲まれた第2領域のみ、窪みが生じるためである。この窪みは、大きいものでは高低差が60μm程度になる。なお、この窪みは裏面から観察すると盛り上がりとして観察できる。
【0038】
次に、表1には、空間周波数又はアスペクト比又は蒸着層の違いによって、窪みや回折光強度や偏光特性がどのように変化するかを示した。回折格子のアスペクト比が0.3程度では窪みは勿論、偏光特性が弱い。また、窪みは回折格子のアスペクト比が0.5以上でかつアルミニウム及び硫化亜鉛蒸着の際に発現する。
【0039】
【表1】
【0040】
上述した偽造防止媒体10は、例えば、偽造防止媒体としてシールラベル、スレッド、ストライプ転写箔、スポット転写箔などに使用することができる。偽造防止媒体10は、構造が非常に細かく、偽造又は模造が困難であるため、この偽造防止媒体10を物品に支持させた場合、偽造又は模造も困難である。また、この偽造防止媒体10は上述した視覚効果を有しているため、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。
【0041】
図7は、本発明の偽造防止用又は識別用ラベルの一例の断面図を示している。
この偽造防止媒体19は、透明基材20及び凹凸形成層21、無機誘電体層22、金属反射層23、固定化層24、粘着層25の積層体を含んでいる。凹凸形成層21と金属反射層23との界面は、第3領域DP3及び第4領域DP4には、凹凸構造が設けられて、互いに格子線の方向が凡そ90度異なり、空間周波数が3000本/mmである偽造防止ラベルである。
【0042】
ここで、固定化層24は、第4領域DP4の盛り上がり部を補強するための層であり、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、ニトロセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリルスチレン共重合体、塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチルなどの熱可塑性樹脂やポリイミド、ポリアミド、ポリエステルウレタン、アクリルウレタン、エポキシウレタン、シリコーン、エポキシ、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂、及び紫外線又は電子線硬化樹脂として、各種アクリルモノマー、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレートなどのオリゴマー、アクリル基やメタクリル基等を有するアクリルやエポキシ及びセルロース系樹脂などの反応性ポリマーが使用可能である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。
【0044】
<実施例1>
厚み25μmの二軸延伸ポリエステルフィルム(東レ(株)製 25T60)上に、大成ファインケミカル製アクリルウレタン樹脂8UA347に富士シリシア製シリカであるサイロホービック#100を固形重量比5%、東洋インキ製造製イソシアネートUR100B、固形重量比5%をグラビア法にて、ドライ1μm厚のアンカー層を形成した。
【0045】
続いて、新中村化学(株)製アクリル系反応性ポリマーTP100をグラビア法で微細凹凸形成層をドライ3μm厚で形成した。
【0046】
続いて、空間周波数3000本/mmの回折格子構造を偽造防止媒体10のように2箇所以上有し、図1のTの部分の太さはアスペクト比(深さ/ピッチ)が1である光制御パターンが形成されているニッケル製スタンパーが装着されたシリンダーロールで熱圧エンボスすると同時に紫外線照射し硬化し、スタンパーから剥離して光制御フィルムを連続して得た。
【0047】
次いで、前記光制御パターン形成面へ真空蒸着法によって光反射層として厚さ500Åのアルミニウム蒸着層を形成後、前記光制御パターン形成面を観察したが、盛り上がりは確認できなかった。次に硫化亜鉛の透明蒸着層を厚さ600Å積層した後、前記ポリエステルフィルム側から観察したところ、前記光制御パターン形成面が盛り上がっていることが確認できた。一方、アルミ蒸着形成面側から観察したところ、前記光制御パターン形成面は窪んでいた。盛り上がり高さをキーエンスの光学顕微鏡で測定したところ、45μmであった。
【0048】
次いで、透明蒸着層上に大成ファインケミカル製アクリルウレタン樹脂8UA347にビックケミー製ワックスBYK950を固形重量比5%、東洋インキ製造製イソシアネートUR100B、固形重量比5%をグラビア法にて、ドライ1μm厚の表面透明層を形成した。
【0049】
次いで、東洋モートン製感熱接着剤をグラビアコーターにて、厚さ約3μmで塗布した。このようにして得られた光制御転写箔フィルムをOCR用紙に重ね合わせ、ホットスタンプ装置の所定柄の抜き型で、指定寸法により断裁して、セキュリティラベルとして使用した。
【符号の説明】
【0050】
1・・・透明保護層
2・・・無機誘電層
3・・・金属反射層
4・・・凹凸形成層
5・・・基材
6・・・粘着層
7・・・入射光
8・・・TM偏光
9・・・TE偏光
10・・・偽造防止媒体
11・・・回折光
12a・・・第1領域のパターン
12b・・・第2領域のパターン
14a、14b・・・12a、12bの構造形状
15・・・アルミ蒸着膜
16・・・凹凸構造体
17・・・法線
18・・・偽造防止媒体
19・・・偽造防止媒体
20・・・透明基材
21・・・凹凸形成層
22・・・無機誘電層
23・・・アルミ蒸着膜
24・・・固定化層
25・・・粘着層
【技術分野】
【0001】
本発明は、セキュリティ用途に使用する偽造防止媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回折格子やホログラムによって構成されるパターンは、通常の印刷技術では表現することのできない指向性のある光沢を有することから、装飾用途や偽造防止を目的としたセキュリティ商品に広く用いられている。
特定波長の光を発光又は吸収するインキなどを使用する偽造防止技術に比べ、回折格子技術の利点は、
(1)判別用の機器類を使わずに真偽判定が容易にできる機能を有する目視判別(いわゆるオバート機能)。
(2)製造には、高価で高度な技術(EB描画装置やナノインプリント技術等)が必要。
(3)媒体の総厚が薄い。
(4)回折光による独特の輝きがあり、意匠性に優れる。
といったところが挙げられる。
【0003】
しかし、最近、各国の紙幣を偽造しようとする偽造団においては、本物とそっくりで識別が難しい回折格子を製造できるようになってきた。
【0004】
そこで最近では、高精細化した回折格子が特許文献1により提案され、ここでは2次元の回折格子であって通常の回折格子の2倍以上の細かさを有するものが開示されている。この高精細な回折格子は通常のホログラム製造よりもはるかに製造が難しく、ナノインプリントの技法を取り入れなければ達成できないものである。この高精細な回折格子の視認上の特徴は、従来の回折格子とは全く異なり、正面方向(大部分の視域)では黒色を呈し、対象物の水平方向に近い角度(法線方向に対し深い角度)で回折光が射出するものである。しかし、この高精細回折格子は、非常に特異な視覚効果を示すのであるが、回折光の射出角度が深く、検証に不便を感じることも多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−107470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、偽造防止媒体として、目視あるいはフィルターを使用して目視することで容易に真偽判定が可能であって、且つ偽造が困難な回折格子の構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る発明は、回折格子の方向の異なる第一領域及び第二領域を有する偽造防止媒体であって、第一領域及び第二領域は、空間周波数が2000本/mmから4000本/mmの範囲の回折格子から構成されており、かつ前記第二領域は前記第一領域で囲まれ、前記第二領域は前記第一領域に対して凸部又は凹部となっていることを特徴とする偽造防止媒体としたものである。
【0008】
本発明の請求項2に係る発明は、前記第一領域の回折格子と前記第二領域の回折格子との成す角度は、概ね90度であることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止媒体としたも
のである。
【0009】
本発明の請求項3に係る発明は、前記第一領域の回折格子及び前記第二領域の回折格子のアスペクト比(高さ/ピッチ)は、0.5以上2以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の偽造防止媒体としたものである。
【0010】
本発明の請求項4に係る発明は、回折格子の断面形状が三角形状又はサイン状であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の偽造防止媒体としたものである。
【0011】
本発明の請求項5に係る発明は、前記第一領域の回折格子及び前記第二領域の回折格子の凹凸構造は、無機誘電体層及び反射性金属層で覆われていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の偽造防止媒体としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、偽造防止効果が極めて高く、目視で偽造かどうかを容易に判別可能な偽造防止媒体を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明になる偽造防止媒体の回折格子の構成を概略的に示す平面図である。
【図2】図1に示す偽造防止媒体のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図1に示す偽造防止媒体のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】入射光が、偽造防止媒体に入射した場合、射出する正反射光(0次光)のTE偏光特性を示すための説明図である。
【図5】図1及び図2に示す偽造防止媒体の第1界面部12a、第2界面部12bに採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図である。
【図6】図1及び図2に示す偽造防止媒体の第1界面部12a、第2界面部12bに採用可能な構造の別の一例を拡大して示す斜視図である。
【図7】本発明に係る偽造防止用又は識別用ラベルの一例を説明する断面視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は、本発明の一態様に係る偽造防止媒体の回折格子の構成を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す偽造防止媒体10のII−II線に沿った断面図であり、図3は、図1に示す偽造防止媒体10のIII−III線に沿った断面図である。
【0016】
この偽造防止媒体10は、図2、図3に示すように透明保護層1、無機誘電体層2、金属反射層3、凹凸形成層4、基材5、粘着層6の積層体である。この偽造防止媒体10は、第1領域DP1と第2領域DP2に別れており、その対応する凹凸形成層4と金属反射層3との界面には、第1領域DP1には第1界面部12aが形成されており、一方、第2領域DP2には第2界面部12bが形成されている。第1界面部12a及び第2界面部12bは、図5及び図6のような構造であり、また、第1界面部12aと第2界面部12bとでは回折構造として方向の異なる凹凸構造が設けられている。
【0017】
透明保護層1の材料としては、無機誘電体層2との密着を保つことが可能でかつ透明性を有する樹脂系が良く、例えば、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エポキシウレタン樹脂、ポリカーボネートウレタン樹脂、ブチラール樹脂、塩素化プロピレン樹脂などが好適である。また、滑り性や防汚性、耐傷性向上のため、ワックス類やシリコーン添加剤などを添加してもよい。
【0018】
基本的には、凹凸形成層4由来の偏光特性を阻害しないような保護層であることが望ましいのであるが、更なる偽造防止効果を高めるため、複屈折性材料を使用して位相差層として機能させても良い。例えば、1/4波長の位相差層とすることで凹凸形成層4由来の直線偏光を円偏光へと変換することが可能である。
【0019】
無機誘電体層2としては、例えば、Sb2O3(3.0)、Fe2O3(2.7)、TiO2(2.6)、CdS(2.6)、CeO2(2.3)、ZnS(2.3)、PbCl2(2.3)、CdO(2.2)、Sb2O3(2.0)、WO3(2.0)、SiO(2.0)、Si2O3(2.5)、In2O3(2.0)、PbO(2.6)、Ta2O3(2.4)、ZnO(2.1)、ZrO2(2.0)、MgO(1.6)、SiO2(1.5)、MgF2(1.4)、CeF3(1.6)、CaF2(1.3〜1.4)、AlF3(1.6)、Al2O3(1.6)、GaO(1.7)等を採用することができる。
ここで、カッコ内の数値はそれぞれの屈折率nを示す。これらの無機誘電体の中でも高屈折率材料の方が、回折効率が高くなり易く、また、アスペクト比が低い構造であっても光閉じ込め効果が強くなることから、偏光特性が出やすい。そして、真空製膜法を利用してこの無機誘電体薄膜を形成することができる。真空製膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法等が適用でき、厚みは、1〜100nm程度に制御できればよい。その他の形成手段として、ゾルゲル法も採用可能である。
【0020】
金属反射層3としては、例えば、アルミニウム、銀、錫、クロム、ニッケル、銅、金及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。そして、真空製膜法を利用してこの金属薄膜を形成することができる。真空製膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法等が適用でき、厚みは、1〜100nm程度に制御できればよい。
【0021】
凹凸形成層4 の材料としては、例えば、光透過性を有する樹脂を使用することができる。光透過性を有する樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、ニトロセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリルスチレン共重合体、塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチルなどの熱可塑性樹脂やポリイミド、ポリアミド、ポリエステルウレタン、アクリルウレタン、エポキシウレタン、シリコーン、エポキシ、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂、及び紫外線又は電子線硬化樹脂として、各種アクリルモノマー、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレートなどのオリゴマー、アクリル基やメタクリル基等を有するアクリルやエポキシ及びセルロース系樹脂などの反応性ポリマーが使用可能である。また、例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、原版を用いた転写により、一方の主面に凹凸構造が設けられた凹凸形成層4を容易に形成することができる。
【0022】
基材5の材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、トリアセチルセルロース、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、アクリルスチレン共重合体、塩化ビニル等の樹脂シート及びフィルムがあげられる。
粘着層6としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコン系粘着剤、ウレタン系粘着剤などがあげられる。
【0023】
図5、図6は、図1及び図2に示す偽造防止媒体の第1界面部12a、第2界面部12bに採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図である。
第1界面部12a、第2界面部12bには、複数の溝14aを配置してなるレリーフ型回折格子が設けられている。溝14aの空間周波数は、2000本/mmから4000本/mmの範囲内にあり、より最適な範囲としては2500本/mmから3500本/mmの範囲内にある。
【0024】
なお、用語「回折格子」は、自然光などの照明光を照射することにより回折光を生じる構造を意味し、複数の溝14aを平行且つ等間隔に配置する通常の回折格子に加え、ホログラムに記録された干渉縞も包含することとする。また、溝14a又は溝14aに挟まれた部分を「格子線」と呼ぶこととする。
【0025】
第1界面部12a及び第2界面部12bには前記の範囲内の空間周波数である回折格子が配置され、第1界面部12aと第2界面部12bの格子線の方向は、図1に示すように異なって配置される。最適な格子線のなす角度は概ね90度である。
【0026】
また、この偽造防止媒体10は、極めて特殊な視覚効果(偽造防止効果)を2つ有している。まず、1つ目は、回折光及び反射光の特殊性である。一般的に使用される回折格子と異なり、本発明に使用する回折格子は、入射光の方向と近い方向に+1次回折光がもどる特徴があり、かつ回折光は、偏光特性を有する。また、この回折格子に入射し、反射した光も、偏光特性を有するため、偏光フィルターを通して偽造防止媒体10を観察すると、第1領域12aと第2領域12bではネガとポジの関係にあたり、偽造防止媒体10若しくは偏光フィルターを90度回転して再度確認するとネガポジが反転が確認できる。
【0027】
また、液晶などの位相差を用いた偽造防止手段と異なり、入射光が偏向光である必要がないため、偏光フィルターを接しない遠隔真贋も可能であり、フィルター検証を使用するセキュリティデバイスの中でも優位性が高い。2つ目は、第2領域12bが周辺よりも窪んだり、盛り上がった構造になっているということである。これは、目視でも立体的なことが確認でき、また、指先を接触させることでも確認可能である。
【0028】
従来、このような高精細な回折格子に高精度に位置合わせされた窪みも設けることは製造上難しく、例えば、微細な回折格子を形成後、高熱圧エンボスをかけて窪みを作ろうとして、例え窪みができても回折格子構造が潰れてしまい、かつ位置合わせの見当精度も本発明の構造による窪み形成に比べ悪いと思われる。一方、本発明のような構造の原版(金型)を作る場合、現状、高精細回折格子はEB描画装置を使用するため平坦な基板上でなければ作製できず、窪み上に回折格子を作製することはきわめて困難である。
つまり、この偽造防止媒体10の構造物は作製することが困難なため、偽造防止に利用することができる。
【0029】
この偽造防止媒体10の視覚効果について、さらに詳細に説明する。
まず、第1界面部12a及び第2界面部12bの凹凸構造に起因した視覚効果について説明する。
【0030】
回折格子を照明すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に強い回折光を射出する。
最も代表的な回折光は、1次回折光である。1次回折光の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記等式(1)から算出することができる。
d=λ/(sinα−sinβ) …(1)
この等式(1)において、dは回折格子の格子定数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光,すなわち、透過光又は正反射光,の射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は、照明光の入射角と等しく、入射角とはZ軸に対して対称な関係である(反射型回折格子の場合)。なお、α、βは、Z軸から時計回りの方向を正方向とする。
等式(1)から明らかなように、1次回折光の射出角βは、波長λに応じて変化する。すなわち、回折格子は、分光器としての機能を有している。したがって、照明光が白色光である場合、回折格子の格子線に垂直な面内で観察角度を変化させると、観察者が知覚する色が変化する。
【0031】
また、或る観察条件のもとで観察者が知覚する色は、格子定数dに応じて変化する。 一例として、回折格子は、その法線方向に1次回折光を射出するとする。すなわち、1次回折光の射出角βは、0°であるとする。そして、観察者は、この1次回折光を知覚するとする。このときの0次回折光の射出角をαNとすると、等式(1)は、下記等式(2)へと簡略化することができる。
d=λ/sinαN …(2)
等式(2)から明らかなように、観察者に特定の色を知覚させるには、その色に対応した
波長λと照明光の入射角|αN|と格子定数dとを、それらが等式(2)に示す関係を満足するように設定すればよい。例えば、波長が400nmから700nmの範囲内にある全ての光成分を含んだ白色光を照明光として使用し、照明光の入射角|αN|を45°とする。そして、空間周波数(格子定数の逆数)が1000本/mmから1800本/mmの範囲内で分布している回折格子を使用するとする。この場合、回折格子をその法線方向から観察すると、空間周波数が約1600本/mmの部分は青く見え、空間周波数が約1100本/mmの部分は赤く見える。
【0032】
なお、回折格子は、空間周波数が小さいほうが製造が容易である。そのため、通常の偽造防止媒体では、回折格子の大多数は、空間周波数が500本/mmから1600本/mmの回折格子である。
このように、或る観察条件のもとで観察者が知覚する色は、回折格子の格子定数d(又は空間周波数)で制御することができる。そして、先の観察条件から観察角度を変化させると、観察者が知覚する色は変化する。
【0033】
上記の説明では、光が格子線に垂直な面内で進行することを仮定している。この状態から回折格子をその法線の周りで回転させると、一定の観察方向に対して、この回転角度に応じて格子定数dの実効値が変化する。その結果、観察者が知覚する色が変化する。逆に言えば、格子線の方位のみが異なる複数の回折格子を配置した場合、それら回折格子に異なる色を表示させることができる。また、回転角度が90度に近くなると一定の観察方向からは回折光が認識できなくなり、回折格子が無い場合と同様に見える。
【0034】
一方、本発明の場合、空間周波数が2000本/mmから4000本/mmの回折格子であり、特異的な性質があるので、図4に説明図を示した。
入射光7が、偽造防止媒体18に入射した場合、射出する正反射光(0次光)13は、TE偏光特性を示す。これは、回折格子の周期が光の波長と同じかより小さい領域であるため、偏光特性を示す。回折格子の周期が光の波長より小さい方がより効果的に現れ、また、アスペクト比が0.5以上のときにより効果的である。
【0035】
また、構成する回折格子の断面形状は、図5に示すようなサイン形状、さらに好ましくは、図6に示すような三角形状が最適である。これは、反射しにくいTM偏光の光を凹凸構造16の中に閉じ込める働きをするためであると推測している。断面形状が三角形状若しくはアスペクト比が大きくなるにしたがい、アルミニウム光沢が徐々に薄れて、黒色になっているのが実験で確認できている。偽造防止媒体が黒色になるにしたがい、正反射光の偏光特性は、強くなる。
【0036】
一方、入射光の一部は、回折光11となり、回折光11は、ややTM偏光特性を示す。しかし、アスペクト比が大きくなるにしたがい、回折効率は極端に落ち込んでいくので好ましくは2以下がよい。
【0037】
また、図2、図3からわかるように第2領域12bは、大きな窪みを有している。これは、空間周波数が2000本/mm以上で、かつ回折格子の格子線の角度が凡そ90度異なる回折格子に囲まれている場合のみ、無機誘電体や金属膜を施したときに発生する現象であることを見出した。推測範囲であるが、無機誘電体や金属膜を施したときに発生する応力や伸縮の方向が、回折格子の溝によって一定方向に抑制されるためにおこるのではないかと考えている。なぜなら、第1領域と第2領域では方向が異なるだけで、他の構造要素がまったく同じであっても、格子に囲まれた第2領域のみ、窪みが生じるためである。この窪みは、大きいものでは高低差が60μm程度になる。なお、この窪みは裏面から観察すると盛り上がりとして観察できる。
【0038】
次に、表1には、空間周波数又はアスペクト比又は蒸着層の違いによって、窪みや回折光強度や偏光特性がどのように変化するかを示した。回折格子のアスペクト比が0.3程度では窪みは勿論、偏光特性が弱い。また、窪みは回折格子のアスペクト比が0.5以上でかつアルミニウム及び硫化亜鉛蒸着の際に発現する。
【0039】
【表1】
【0040】
上述した偽造防止媒体10は、例えば、偽造防止媒体としてシールラベル、スレッド、ストライプ転写箔、スポット転写箔などに使用することができる。偽造防止媒体10は、構造が非常に細かく、偽造又は模造が困難であるため、この偽造防止媒体10を物品に支持させた場合、偽造又は模造も困難である。また、この偽造防止媒体10は上述した視覚効果を有しているため、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。
【0041】
図7は、本発明の偽造防止用又は識別用ラベルの一例の断面図を示している。
この偽造防止媒体19は、透明基材20及び凹凸形成層21、無機誘電体層22、金属反射層23、固定化層24、粘着層25の積層体を含んでいる。凹凸形成層21と金属反射層23との界面は、第3領域DP3及び第4領域DP4には、凹凸構造が設けられて、互いに格子線の方向が凡そ90度異なり、空間周波数が3000本/mmである偽造防止ラベルである。
【0042】
ここで、固定化層24は、第4領域DP4の盛り上がり部を補強するための層であり、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、ニトロセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリルスチレン共重合体、塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチルなどの熱可塑性樹脂やポリイミド、ポリアミド、ポリエステルウレタン、アクリルウレタン、エポキシウレタン、シリコーン、エポキシ、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂、及び紫外線又は電子線硬化樹脂として、各種アクリルモノマー、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレートなどのオリゴマー、アクリル基やメタクリル基等を有するアクリルやエポキシ及びセルロース系樹脂などの反応性ポリマーが使用可能である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。
【0044】
<実施例1>
厚み25μmの二軸延伸ポリエステルフィルム(東レ(株)製 25T60)上に、大成ファインケミカル製アクリルウレタン樹脂8UA347に富士シリシア製シリカであるサイロホービック#100を固形重量比5%、東洋インキ製造製イソシアネートUR100B、固形重量比5%をグラビア法にて、ドライ1μm厚のアンカー層を形成した。
【0045】
続いて、新中村化学(株)製アクリル系反応性ポリマーTP100をグラビア法で微細凹凸形成層をドライ3μm厚で形成した。
【0046】
続いて、空間周波数3000本/mmの回折格子構造を偽造防止媒体10のように2箇所以上有し、図1のTの部分の太さはアスペクト比(深さ/ピッチ)が1である光制御パターンが形成されているニッケル製スタンパーが装着されたシリンダーロールで熱圧エンボスすると同時に紫外線照射し硬化し、スタンパーから剥離して光制御フィルムを連続して得た。
【0047】
次いで、前記光制御パターン形成面へ真空蒸着法によって光反射層として厚さ500Åのアルミニウム蒸着層を形成後、前記光制御パターン形成面を観察したが、盛り上がりは確認できなかった。次に硫化亜鉛の透明蒸着層を厚さ600Å積層した後、前記ポリエステルフィルム側から観察したところ、前記光制御パターン形成面が盛り上がっていることが確認できた。一方、アルミ蒸着形成面側から観察したところ、前記光制御パターン形成面は窪んでいた。盛り上がり高さをキーエンスの光学顕微鏡で測定したところ、45μmであった。
【0048】
次いで、透明蒸着層上に大成ファインケミカル製アクリルウレタン樹脂8UA347にビックケミー製ワックスBYK950を固形重量比5%、東洋インキ製造製イソシアネートUR100B、固形重量比5%をグラビア法にて、ドライ1μm厚の表面透明層を形成した。
【0049】
次いで、東洋モートン製感熱接着剤をグラビアコーターにて、厚さ約3μmで塗布した。このようにして得られた光制御転写箔フィルムをOCR用紙に重ね合わせ、ホットスタンプ装置の所定柄の抜き型で、指定寸法により断裁して、セキュリティラベルとして使用した。
【符号の説明】
【0050】
1・・・透明保護層
2・・・無機誘電層
3・・・金属反射層
4・・・凹凸形成層
5・・・基材
6・・・粘着層
7・・・入射光
8・・・TM偏光
9・・・TE偏光
10・・・偽造防止媒体
11・・・回折光
12a・・・第1領域のパターン
12b・・・第2領域のパターン
14a、14b・・・12a、12bの構造形状
15・・・アルミ蒸着膜
16・・・凹凸構造体
17・・・法線
18・・・偽造防止媒体
19・・・偽造防止媒体
20・・・透明基材
21・・・凹凸形成層
22・・・無機誘電層
23・・・アルミ蒸着膜
24・・・固定化層
25・・・粘着層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折格子の方向の異なる第一領域及び第二領域を有する偽造防止媒体であって、第一領域及び第二領域は、空間周波数が2000本/mmから4000本/mmの範囲の回折格子から構成されており、かつ前記第二領域は前記第一領域で囲まれ、前記第二領域は前記第一領域に対して凸部又は凹部となっていることを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項2】
前記第一領域の回折格子と前記第二領域の回折格子との成す角度は、概ね90度であることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止媒体。
【請求項3】
前記第一領域の回折格子及び前記第二領域の回折格子のアスペクト比(高さ/ピッチ)は、0.5以上2以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の偽造防止媒体。
【請求項4】
回折格子の断面形状が三角形状又はサイン状であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の偽造防止媒体。
【請求項5】
前記第一領域の回折格子及び前記第二領域の回折格子の凹凸構造は、無機誘電体層及び反射性金属層で覆われていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の偽造防止媒体。
【請求項1】
回折格子の方向の異なる第一領域及び第二領域を有する偽造防止媒体であって、第一領域及び第二領域は、空間周波数が2000本/mmから4000本/mmの範囲の回折格子から構成されており、かつ前記第二領域は前記第一領域で囲まれ、前記第二領域は前記第一領域に対して凸部又は凹部となっていることを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項2】
前記第一領域の回折格子と前記第二領域の回折格子との成す角度は、概ね90度であることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止媒体。
【請求項3】
前記第一領域の回折格子及び前記第二領域の回折格子のアスペクト比(高さ/ピッチ)は、0.5以上2以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の偽造防止媒体。
【請求項4】
回折格子の断面形状が三角形状又はサイン状であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の偽造防止媒体。
【請求項5】
前記第一領域の回折格子及び前記第二領域の回折格子の凹凸構造は、無機誘電体層及び反射性金属層で覆われていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の偽造防止媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2011−221330(P2011−221330A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91217(P2010−91217)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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