傾動式自動注湯方法および取鍋用傾動制御プログラムを記憶した記憶媒体
【課題】 取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ落下させる注湯方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ落下させるべく取鍋を傾動させるサーボモータ、取鍋を前後動させるサーボモータおよび取鍋を上下動させるサーボモータへ印加する入力電圧をコンピュータを用いて制御する方法であって、取鍋から流出する金属溶湯の落下軌跡の数理モデルを作成し、この作成した数理モデルの逆モデルを解き、かつ縮流の影響を考慮して注湯流速推定部および落下位置推定部により金属溶湯の落下位置を推定し、その落下位置データをコンピュータで処理し、これにより、前記取鍋を傾動させるサーボモータ、前記取鍋を前後動させるサーボモータおよび前記取鍋を上下動させるサーボモータへの入力電圧を獲得し、この獲得した入力電圧に基づき、前記3つのサーボモータを制御する。
【解決手段】 取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ落下させるべく取鍋を傾動させるサーボモータ、取鍋を前後動させるサーボモータおよび取鍋を上下動させるサーボモータへ印加する入力電圧をコンピュータを用いて制御する方法であって、取鍋から流出する金属溶湯の落下軌跡の数理モデルを作成し、この作成した数理モデルの逆モデルを解き、かつ縮流の影響を考慮して注湯流速推定部および落下位置推定部により金属溶湯の落下位置を推定し、その落下位置データをコンピュータで処理し、これにより、前記取鍋を傾動させるサーボモータ、前記取鍋を前後動させるサーボモータおよび前記取鍋を上下動させるサーボモータへの入力電圧を獲得し、この獲得した入力電圧に基づき、前記3つのサーボモータを制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には鋳造技術に関するものであり、特に、溶解された鉄、アルミニウムなどの金属溶湯を取鍋に所定量保持し、取鍋を傾動することにより鋳型へと注湯する傾動式自動注湯方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、傾動式自動注湯方法は、(1)注湯位置へと搬送する際に、金属溶湯の振動を抑制するもの(特許文献1参照)、(2)注湯終了時の後傾動作によって生じる金属溶湯の振動を抑制するもの(特許文献2参照)、(3)一定注湯流量を維持するように取鍋傾動速度を制御するもの(特許文献3参照)、(4)短時間で規定重量へ鋳込む注湯方法(特許文献4参照)、(5)所望の注湯流量パターンを実現するように取鍋傾動速度を制御するもの、(6)取鍋の金属溶湯の出湯口を昇降させ、鋳込時初期の取鍋から流出する金属溶湯の流量を増大させる注湯方法(非特許文献1参照)、(7)ファジィ制御を用いた傾動式自動注湯方法(非特許文献2参照)、(8)線形パラメータ変動モデルを用いた傾動式自動注湯方法(非特許文献3参照)などが知られている。
【0003】
従来、(1)と(2)では、取鍋搬送、傾動時に生じる溶湯面の振動抑制装置であり、注湯時に所望する流量を実現することに関しては触れていない。また、(3)と(5)は、単位時間当たりに注がれる金属溶湯重量を制御するものであり、(4)、(6)、(7)は、正確に規定重量へ鋳込むものである。(6)では、鋳込み時間を短縮するために、取鍋の出湯口を下降させて、取鍋からの金属溶湯の流出流量を増大させる注湯方法である。これらは注湯流量や鋳込み重量を高精度に制御する注湯方法であり、傾動式注湯方法における注湯される金属溶湯の落下位置は制御されておらず、鋳型内湯口から注湯される金属溶湯が外れることが問題となる。
これらの問題を解消するため、フィードフォワード制御で取鍋から流出する液体の落下位置を制御する方法(特許文献5参照)が知られている。特許文献5に記載の方法は有効な方法であるが、更に精度良く落下位置を制御することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−10924号公報
【特許文献2】特開平9−285860号公報
【特許文献3】特開平9−239525号公報
【特許文献4】特開平10−58120号公報
【特許文献5】特開2008−272802号公報
【非特許文献1】“自動注湯機の傾動軸2段昇降装置による初期流量増大化の試み”,鋳造工学,vol.71,No.7,445−448,1999
【非特許文献2】“自動注湯機の開発”,自動車技術,vol.46,No.11,79−86,1992
【非特許文献3】“Betterment Processによる円筒取鍋型自動注湯ロボットの注湯流量制御”,日本機械学会論文集C編,vol.70,No.694,206−213,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ落下させる注湯方法および取鍋用傾動制御プログラムを記憶した記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために本発明における傾動式自動注湯方法は、傾動、前後動及び上下動を可能とする3つのサーボモータを備えた傾動式自動注湯装置の金属溶湯を保持した取鍋を傾動することによって、鋳型へと注湯するに当たり、取鍋を傾動させるサーボモータ、取鍋を前後動させるサーボモータおよび取鍋を上下動させるサーボモータへ印加する入力電圧をコンピュータを用いて制御することで、取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ落下させる方法であって、取鍋から流出する金属溶湯の落下軌跡の数理モデルを作成し、この作成した数理モデルの逆モデルを解き、かつ縮流の影響を考慮して注湯流速推定部および落下位置推定部により金属溶湯の落下位置を推定し、その落下位置データをコンピュータで処理し、これにより、前記取鍋を傾動させるサーボモータ、前記取鍋を前後動させるサーボモータおよび前記取鍋を上下動させるサーボモータへの入力電圧を獲得し、この獲得した入力電圧に基づき、前記3つのサーボモータを制御して、金属溶湯の落下位置が鋳型内湯口に収まるように取鍋を移動させることによって、正確に湯口内へ落下する金属溶湯を注ぐことを特徴とする。
また、本発明における取鍋用傾動制御プログラムを記憶した記憶媒体は、傾動、前後動及び上下動を可能とする3つのサーボモータを備えた傾動式自動注湯装置の金属溶湯を保持した取鍋を傾動することによって、鋳型へと注湯するに当たり、取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ落下させるべく取鍋を傾動させるサーボモータ、取鍋を前後動させるサーボモータおよび取鍋を上下動させるサーボモータへ印加する入力電圧をコンピュータを用いて制御するための制御プログラムを記憶した記憶媒体であって、取鍋から流出する金属溶湯の落下軌跡の数理モデルを作成し、この作成した数理モデルの逆モデルを解き、かつ縮流の影響を考慮して注湯流速推定部および落下位置推定部により金属溶湯の落下位置を推定し、その落下位置データをコンピュータで処理し、これにより、前記取鍋を傾動させるサーボモータ、前記取鍋を前後動させるサーボモータおよび前記取鍋を上下動させるサーボモータへの入力電圧を獲得し、この獲得した入力電圧に基づき、前記3つのサーボモータを制御することを特徴とする。
【0007】
なお、本発明に利用する数理モデル法とは、プロセスの熱収支・物質収支・化学反応・制限条件などの式を解いて、利益・コストなどコンピュータ制御の目的とする関数をだし、その最大・最小を求めてそれが達成できるように制御を行う方法である。またなお、本発明において取鍋としては、円筒形のものや、縦断面形状が扇形のものを使用している。そして、取鍋は重心付近で支持してある。また、縮流とは、出湯口先端の流れ場において、重力の影響により、越流水深が減少することである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、取鍋を前後動させ、金属溶湯落下位置を制御することにより、取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ注ぐことができる。これにより、注湯中に鋳型内湯口から金属溶湯が外れることがなくなり、安全に無駄なく注湯できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に先立ち説明する先行例において使用した傾動式自動注湯装置の概要を示す図である。
【図2】図1の自動注湯装置における取鍋の縦断面図である。
【図3】図2における要部拡大詳細図である。
【図4】出湯口先端を示した図である。
【図5】先行例の落下位置制御システムのシステムを示したブロック線図である。
【図6】注湯流量フィードフォワード制御系のブロック図である。
【図7】先行例の注湯プロセスを示した図である。
【図8】注湯落下位置軌跡のシミュレーション結果を示した図である。
【図9】本発明に使用した傾動式自動注湯装置の概要を示す図である。
【図10】本発明の落下位置制御システムのシステムを示したブロック線図である。
【図11】出湯口ガイド部へ侵入する際の流速を示す断面図である。
【図12】本発明と先行例のシミュレーション及び実験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明するが、先ずそれに先立ち図1〜図8を用いてフィードフォワード制御を用いた先行例について説明し、その後に図9〜図11を用いて本発明を適用した傾動式自動注湯装置について説明する。
〔1.先行例の傾動式自動注湯装置について〕
図1に示す装置は先行例の傾動式自動注湯装置の概要図である。先行例の傾動式自動注湯装置1には取鍋2が設置され、該傾動式自動注湯装置1の各所に設置されたサーボモータ3,3によって、取鍋2は傾動、前後動、上下動を可能にする。また、該サーボモータ3,3にはロータリーエンコーダが取り付けられており、取鍋2の位置や傾斜角度を計測することができる。さらに、サーボモータ3,3には、コンピュータによって制御指令信号が与えられるようになっている。
なお、前記コンピュータとは、パソコン、マイコン、プログラマルロジックコントローラ(PLC)及びデジタルシグナルプロセッサ(DSP)などのモーションコントローラを言う。
【0011】
取鍋2の注湯時の縦断面図である図2において、取鍋2の傾動角度をθ[deg]、取鍋2の傾動中心である出湯口より下部の溶湯体積(濃い網掛け部)をVs(θ)[m3]、出湯口に対する水平面の面積(濃い網掛け部と薄い網掛け部の境界上の面積)をA(θ)[m3]、出湯口より上部の溶湯体積(薄い網掛け部)をVr[m3]、上部溶湯の高さをh[m]、取鍋2から流出する溶湯の流量をq[m3/s]とすると、注湯時における時刻t[s]からΔt[s]後の取鍋内溶湯の収支式は下記の式(1)のようになる。
Vr(t)+Vs(θ(t))
=Vr(t+Δt)+Vs(θ(t+Δt))+q(t)Δt ・・・(1)
【0012】
式(1)を溶湯体積Vr[m3]についてまとめ、Δt→0とすると下記の式(2)となる。
【0013】
【数1】
【0014】
また、取鍋2の傾動角速度ω[deg/s]を下記の式(3)とする。
ω(t)=dθ(t)/dt ・・・(3)
よって、式(3)を式(2)に代入すると、下記の式(4)が得られる。
【0015】
【数2】
【0016】
また、出湯口より上部の溶湯体積Vr[m3]は下記の式(5)で表すことができる。
【0017】
【数3】
ここで、面積As[m2]は、図3に示す出湯口水平面からの高さhs[m]における溶湯水平面積を示す。
【0018】
また、面積As[m2]を出湯口水平面の面積A[m2]と面積A[m2]に対する面積変化量ΔAs[m2]に分割すると、溶湯体積Vr[m3]は下記の式(6)となる。
【0019】
【数4】
【0020】
また、取鍋2を含む一般的な取鍋においては、面積変化量ΔAs[m2]は出湯口水平面の面積A[m2]に対して微小であるから、下記の式(7)が得られる。
【0021】
【数5】
したがって、式(6)は下記の式(8)と示すことができる。
Vr(t)≒A(θ(t))h(t) ・・・(8)
よって、式(8)より下記の式(9)が得られる。
h(t)≒Vr(t)/A(θ(t)) ・・・(9)
【0022】
また、ベルヌーイの定理を用いて、出湯口より上部の溶湯高さh[m]から溶湯流量q[m3/s]までを下記の式(10)で示す。
【0023】
【数6】
ここで、hb[m]は図4に示すように取鍋2の内溶湯の上面からの溶湯深さ、Lf[m
]は溶湯深さhb[m]における出湯口の幅、cは流量係数、gは重力加速度をそれぞれ示す。
【0024】
また、式(4)、式(9)および式(10)より注湯流量モデルの基礎式は下記の式(11)および式(12)となる。
【0025】
【数7】
【0026】
【数8】
【0027】
また、取鍋2の矩形出湯口の幅Lf[m]は取鍋1内の溶湯上面からの深さhb[m]に対して一定であるから、溶湯流量q[m3/s]は式(10)より下記の式(13)となる。
【0028】
【数9】
したがって、式(13)を注湯流量モデルの基礎式(11)および(12)にそれぞれ代入すると、取鍋2の注湯流量モデルは下記の式(14)および式(15)となる。
【0029】
【数10】
【0030】
【数11】
【0031】
図5に落下位置制御システムのブロック線図を示す。
qref[m3/s]は目標流量曲線、u[V]はモータへの入力電圧、Pm、Pfはモータ、および注湯プロセスの動特性を示す。
【0032】
Pf−1とPm−1は注湯流量逆モデルとモータ逆モデルをそれぞれ示す。目標流量パターンqrefに実際の注湯流量が、追従するようにこの注湯プロセスの逆モデルを用いたフィードフォワード注湯流量制御システムを適用する。
なお、フィードフォワード制御とは、制御対象に加える操作量を予め決められた値に調節することにより、出力が目標値になるようにする制御法であって、制御対象の入出力関係や外乱の影響などが明確な場合には性能の良い制御を行うことができる。
【0033】
図6は、所望の注湯流量パターンqref[m3/s]を実現するためサーボモータ3,3へ印加する制御入力u[V]を導出するシステムにおける制御系のブロック線図を示す。ここで、サーボモータ3,3の逆モデルPm−1は下記の式(16)により示される。
【0034】
【数12】
【0035】
式(11)および式(12)に示す注湯流量モデルの基礎式に対する逆モデルを導出する。ベルヌーイの定理である式(10)より出湯口上部の溶湯高さh[m]に対する注湯流量q[m3/s]を求めることができる。取鍋2の形状から考えられる出湯口上部の最大溶湯高さhmax[m]をn分割したときの分割幅をΔh[m]とし、各々の溶湯高さをhi=iΔh(i=0、…n)で示す。したがって、溶湯高さh=[h0h1…hn]Tに対する注湯流量q=[q0q1…qn]Tを下記の式(17)に示す。
q=f(h) ・・・(17)
ここで、関数f(h)は式(10)に示すベルヌーイの定理である。したがって、式(17)の逆関数は下記の式(18)となる。
h=f−1(q) ・・・(18)
【0036】
この式(18)は式(17)をルックアップテーブルで表現し、入出力関係を逆にすることで表すことができる。
ここで、分割間隔qi→qi+1 、hi→hi+1 は線形補間により近似する。分割幅が小さいほど、高精度に注湯流量q[m3/s]と出湯口上部の溶湯高さh[m]の関係を表現できる。実装可能な範囲で分割幅を小さくすることが望まれる。
【0037】
所望の注湯流量パターンqref[m3/s]を実現する出湯口上部の溶湯高さhref[m]は式(18)より下記の式(19)となる。
href(t)=f−1(qref(t)) ・・・(19)
【0038】
また、出湯口上部の溶湯高さhref[m]における出湯口上部の溶湯体積Vref[m3]は、式(9)を用い下記の式(20)で示す。
Vref(t)=A((θ(t))href(t) ・・・(20)
【0039】
次に、式(20)で得られた出湯口上部の溶湯体積Vref[m3]と所望の注湯流量パターンqref[m3/s]を、式(11)の注湯流量モデルの基礎式に代入して、下記の式(21)に示す所望の注湯流量パターンを実現する取鍋2の傾動角速度ωref[deg/s]を導出する。
【0040】
【数13】
【0041】
まず、式(17)から式(21)を順に解き、得られた取鍋2の傾動角速度ωref[deg/s]を式(16)に代入することにより、所望の注湯流量パターンqrefを実現すべくサーボモータ3,3へ印加する制御入力u[V]を得ることができる。
【0042】
また、所望の注湯流量パターンqref[m3/s]を実現する出湯口上部の溶湯体積Vref[m3]は、式(15)を用い下記の式(22)で示すことができる。
【0043】
【数14】
【0044】
式(22)より得られた出湯口上部の溶湯体積Vref[m3]と所望の注湯流量パターンqref[m3/s]を式(21)に代入すると、所望の注湯流量パターンを実現する取鍋2の傾動角速度ωref[deg/s]が得られる。そして、得られた取鍋2の傾動角速度ωref[deg/s]を、式(16)のサーボモータ3,3の逆モデルに代入すると、サーボモータ3,3へ印加する制御入力u[V]を得ることができる。
【0045】
図5において、P0は取鍋から流出する液体の流量から鋳型内湯口カップでの溶湯落下位置までの伝達特性を示す。また、図7に取鍋から液体が流出して、鋳型内へ流入する過程を示す。
【0046】
図7において、Sw[m]は取鍋出湯口4から鋳型湯口5までの高さを示し、Sv[m] は、取鍋出湯口4から鋳型湯口5上面での液体落下位置までの水平方向長さを示す。Ap[m2]は、取鍋出湯口4先端での液体断面積を示し、Ac[m2]は、鋳型湯口5上面での落下液体断面積を示す。出湯口先端における流出液体Rの平均流速νf[m/s]は式(23)となる。
【0047】
【数15】
【0048】
ここで、νf(h(t))[m/s]は出湯口上の液体高さh(t)[m]に依存する。そして、溶湯流出過程において、溶湯断面積は一定と仮定すると、断面積Ap[m2]とAc[m2]は、式(24)となる。
【0049】
【数16】
【0050】
ここで、Tf[s]は、落下液体が取鍋出湯口先端から湯口上面へ到達するまでの時間を示す。
液体の落下位置Sw[m]とSv[m]は、式(25)と式(26)で表現される。
【0051】
【数17】
【0052】
【数18】
【0053】
t0[s]は流出液体が取鍋出湯口先端を通過した時間を示す。
取鍋傾動用サーボモータが出湯口先端に取り付けられている場合は、取鍋傾動中に出湯口先端の位置は変化しない。しかし、取鍋傾動サーボモータが図1に示すような取鍋重心位置に取り付けられている場合は、取鍋を傾動することにより、出湯口先端の位置がサーボモータ回転軸を中心に円弧を描くことになる。そこで、取鍋傾動サーボモータと連動して、取鍋上下動用サーボモータおよび前後動用サーボモータを駆動させ、出湯口先端の位置が移動しないように制御システムを構築する。これにより、取鍋出湯口先端の高さが一定になる。それゆえ、式(26)により、取鍋出湯口先端から鋳型湯口上面までの溶湯落下時間は式(27)となる。
【0054】
【数19】
【0055】
ここで,Sw[m]は、取鍋上下動サーボモータと前後動サーボモータが取鍋傾動サーボモータに連動して、取鍋出湯口先端位置を取鍋傾動中も一定となるような制御システムを適用した際の出湯口先端から鋳型湯口上面までの高さを示す。また、t1[s]は落下液体が湯口ヘ到達する時間を示す。式(25)および式(27)より、鋳型内湯口上面における水平方向での流出液体落下位置は式(28)となる。
【0056】
【数20】
【0057】
注湯流速推定部Efにおいて、式(29)を用いて推定流速バーνf(t)[m/s]を求める。
【0058】
【数21】
【0059】
断面積Ap[m2]は、出湯口先端の形状と出湯口先端における液体高さh[m]から得られる。そこで、目標流量に対する推定液体高さバーh(t)[m]は、式(30)に示すベルヌーイの定理に対して、流量から液体高さが得られるように式(31)に示す逆問題で表現することで得ることができる。
【0060】
【数22】
【0061】
【数23】
【0062】
式(30)において,Lfは図4に示す出湯口先端上にある液体の深さhb[m]における出湯口の幅である。式(31)は、順問題である式(30)を用いて、入出力テーブルを作成し、その入出力を入れ替えることで構成することができる。また、断面積は、出湯口形状より式(32)を用いて得ることができる。
【0063】
【数24】
【0064】
したがって、式(29)、式(31)、式(32)を用いることで、流速推定が可能となる。
落下位置推定部Eoにおいて、推定落下位置バーSv(t)[m]は式(28)に式(29)で得られた推定流速を代入することで求められる。
位置制御部Gyは、推定落下位置と目標落下位置との偏差を0へ収束させるための取鍋前後動に対する位置制御システムを示す。推定落下位置を位置制御システムに与えることにより、正確に目標の鋳型内湯口位置へ液体を注ぐことができる。
【0065】
落下位置制御システムの有用性を示すために、シミュレーションを用いて落下位置軌跡を描いた結果を図8に示す。図8は、注湯システムを上面から投影した図である。(a)は落下位置制御を適用した結果であり、(b)は適用しない場合の結果である。細線は湯ロカップを示し、太線は湯口カップ中心から最も遠い流出範囲(流径)、破線は落下液体の中心と湯ロカップ中心の関係がもっとも遠距離にある場合を示す。これらの結果より、落下位置制御システムを適用した場合には、高速注湯を実施しても湯ロカップ内に液体が落下していることが確認された。
【0066】
以上では図1〜図8を用いて、取鍋から流出する金属溶湯の落下軌跡の数理モデルを作成し、この作成した数理モデルの逆モデルを解き、かつ注湯流速推定部および落下位置推定部により金属溶湯の落下位置を推定するという方法を用いて取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口に注ぐ先行例について説明した。次に、図9〜図11を用いて、さらに正確に、金属溶湯を鋳型内湯口へ落下させることを実現する本発明を適用した傾動式自動注湯装置及び方法について説明する。尚、図5及び図10に示すように先行例と本発明を適用した傾動式自動注湯装置及び方法には、重複部分があり、この重複部分については以下では必要な場合を除いて詳細な説明は省略するものとする。
尚、この本発明を適用した装置及び方法は、先行例のようなフィードフォワード制御による方法では解決できない「推定された落下位置に誤差が生じた場合に、精度良く落下位置を制御することができず、また、出湯口のガイドの影響や縮流の影響が考慮されていないため、落下位置に誤差が生じる」といった問題を解決するものである。以下で説明する本発明を適用した装置及び方法は、先行例の問題に鑑みたものであり、ビデオカメラにより取鍋から流出する液体の落下位置を計測し、推定落下位置に誤差が生じた場合においても、補償するように取鍋が移動し、高精度に注湯することができる。また、落下位置を推定する際に、注湯口のガイドの影響や縮流の影響も考慮されているため、精度良く落下位置を推定でき、高精度に目標位置へ落下位置を合致させることができる傾動式自動注湯方法である。換言すると、以下で詳細に説明するが、図10に示す本発明の方法においては、縮流の影響とガイド部の影響を考慮して流量等を決定しており、これにより落下位置の誤差自体を少なくすることを実現するとともに、誤差が発生した場合にもビデオカメラによる落下位置計測を用いたフィードバックにより、注湯位置を高精度に制御することを実現する。
〔2.本発明の傾動式自動注湯装置について〕
図9に示す装置は本発明を適用した傾動式自動注湯装置の概要図である。傾動式自動注湯装置11には取鍋12が設置され、該傾動式自動注湯装置11の各所に設置されたサーボモータ13,13によって、取鍋12は傾動、前後動、上下動を可能にする。ここで前後動は、図9中Y軸方向に搬送されることによりなされ、上下動は、図9中Z軸方向に搬送されることによりなされ、傾動は、図9中Θ軸を軸とした軸回り方向に回動されることによりなされる。Θ軸は、Y軸及びZ軸に略直交する。取鍋12は傾動、前後動、上下動することにより、出湯口14からの金属溶湯を鋳型湯口15に落下させる。また、該サーボモータにはロータリーエンコーダが取り付けられており、取鍋12の位置や傾斜角度を計測することができる。そして、自動注湯装置11の側方には、撮像装置としてのビデオカメラ16が設置され、取鍋12の出湯口14に設けられたガイド部から流出する液体の落下位置を計測することが可能である。さらに、サーボモータ13,13には、コンピュータによって制御指令信号が与えられるようになっている。
なお、前記コンピュータとは、パソコン、マイコン、プログラマルロジックコントローラ(PLC)及びデジタルシグナルプロセッサ(DSP)等のモーションコントローラをいう。
【0067】
図9に示す傾動式自動注湯装置に対して、図10に示す落下位置制御システムを構築する。図10において、Pmは、取鍋を傾動させるモータの動特性であり、次式で表現できる。
【0068】
【数25】
【0069】
ただし、ω[deg/s]は傾動角速度、u[V]は入力電圧、T[s]は時定数、K[deg/s/V]はゲイン定数である。θ[deg]は傾動角速度である。また、図10において、Pfは取鍋が傾動することで、取鍋から流出する液体の注湯プロセスであり、次式で表現される。
【0070】
【数26】
【0071】
ただし、Vr[m3]は出湯口より上部の液体体積であり、q[m3/s]は注湯流量、Vs[m3/s]は出湯口より下部の液体体積、h[m]は出湯口より上部の液体高さ、A[m2]は出湯口先端に対して水平面上での液体面積、hb[m]は取鍋内液体表面からの水深、Lf[m]は出湯口幅、g[m/s2]は重力加速度、cは流量係数である。そして、図10の液体流出プロセスP0は次式のように示される。
【0072】
【数27】
【0073】
ただし、vf0[m/s]は図11に示すように、取鍋内液体が出湯口14のガイド部14aへ侵入する際の流速であり、Ap[m2]は出湯口における液体断面積である。α0、α1は、取鍋から流出する液体が重力の影響により縮流となるその影響係数である。Lg[m]は出湯口ガイド長さであり、v[m/s]は出湯口ガイドを流れ出る際の流速、vf[m/s]は出湯口ガイドを流れ出る際の流速の水平成分、Tf[s]は出湯口から出た液体の落下時間であり、Sw[m]は、出湯口からの垂直距離、Sv[m]は出湯口からの水平距離を示す。鋳型内湯口上面から出湯口までの垂直距離をSw[m]とすることで、出湯口からの水平方向落下位置Sv[m]を求めることができる。
【0074】
図10における逆流量モデルは、(33)式〜(37)式を用いて求めることができる。(37)式より、目標注湯流量qref[m3/s]を実現する出湯口上部の高さhref[m]は次式より求めることができる。
href(t)=f−1(qref(t)) ・・・(43)
【0075】
そして、出湯口上部液体高さhref[m]を実現する出湯口上部液体体積Vrref[m3]は、(36)式より次式のように求めることができる。
Vrref(t)=A((θ(t))href(t) ・・・(44)
【0076】
(35)式より、目標注湯流量を実現する取鍋傾動角速度ωref[deg/s]は次式となる。
【0077】
【数28】
【0078】
モータの逆モデルは、(33)式より次式のように求めることができる。
【0079】
【数29】
【0080】
(43)〜(46)式の順に求めることにより、目標注湯流量を実現するモータへの入力電圧u[V]を得ることができる。
【0081】
(43)〜(46)式の逆流量モデルにより、目標注湯流量が実現されることから、目標流量を用いて、取鍋から流出する液体の落下位置を推定する。図10の出湯口から流出した液体の水平成分流速vf[m/s]を推定するブロックEfには、(38)〜(40)式が導入されており、目標注湯流量をブロックEfへ与えることにより、出湯口から流出した液体の水平成分流速vf[m/s]を推定することができる。また、出湯口からの水平方向落下位置を推定するブロックEoには、(41)式(42)式が導入されている。ブロックEoに推定された水平成分流速vf[m/s]を与えることで、落下位置の推定が可能となる。そして、推定された落下位置に応じて、取鍋を移動させることで、落下位置制御が可能となる。
【0082】
ここで、図10の相対落下位置とは、出湯口先端を基準とした水平方向落下位置を意味しており、取鍋を水平方向へ搬送すると、それに伴って出湯口先端基準とした座標も移動する。そして、絶対落下位置とは、カメラから計測された固定座標による水平方向落下位置を示す。カメラ座標内に目標位置を与え、目標位置と落下位置の位置偏差を求める。ここで、目標位置は、湯口中心などの操作者が与えるパラメータである。そして、位置偏差分を補正するように、フィードバック制御を行い、取鍋を移動させる。これにより、図10のブロックEfおよびEoの落下位置推定に誤差が生じた場合においてもカメラによる落下位置フィードバック制御により補償される。
【0083】
以上のように、本発明を適用した傾動式自動注湯装置及び方法は、傾動、前後動及び上下動を可能とする3つのサーボモータを備えた傾動式自動注湯装置の金属溶湯を保持した取鍋を傾動することによって、鋳型へと注湯するに当たり、取鍋の出湯口に設けられたガイド部から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ落下させるべく取鍋を傾動させるサーボモータ、取鍋を前後動させるサーボモータおよび取鍋を上下動させるサーボモータへ印加する入力電圧をコンピュータを用いて制御するものであり、取鍋から流出する金属溶湯の落下軌跡の数理モデルを作成し、この作成した数理モデルの逆モデルを解き、かつ出湯口のガイド部の影響および縮流の影響を考慮して注湯流速推定部および落下位置推定部により金属溶湯の落下位置を推定し、その落下位置データをコンピュータで処理し、これにより、前記取鍋を傾動させるサーボモータ、前記取鍋を前後動させるサーボモータおよび前記取鍋を上下動させるサーボモータへの入力電圧を獲得し、この獲得した入力電圧に基づき、前記3つのサーボモータを制御することを特徴とする。すなわち、(38)式や(39)式に記載のように、縮流の影響やガイドの影響を考慮することで、先行例より更に正確にフィードフォワード制御を行うことを実現できる。例えば縮流により出湯口断面が減少し平均流速が増加することとなるが、この縮流の影響を考慮しない場合には、この流速の増加分だけ推定落下位置に誤差が発生してしまうこととなるが、本発明ではこの誤差を小さく抑えることができる。ここで、このフィードフォワード制御に加えて、フィードバック制御により位置誤差を補償して更に落下位置を正確に制御してもよく、すなわち、前記取鍋の側方に設置される撮像装置により前記取鍋から流出する金属溶湯の落下位置を計測し、該計測された落下位置と、前記推定された落下位置とに誤差が生じた場合に、この誤差を抑制して、目標位置に正確に金属溶湯を落下させることにも特徴を有する。また、本発明は、以上のような制御をコンピュータによって実行可能とする注湯制御プログラムや、このプログラムをコンピュータによって読み取り可能に記憶した記憶媒体にも適用される。
このような構成を有する本発明は、湯口のガイド部の影響および/または縮流の影響を考慮することにより、より正確なフィードフォワード制御を可能とし、これに基づき取鍋を前後動させ、金属溶湯落下位置を制御することにより、取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ注ぐことができる。これにより、注湯中に鋳型内湯口から金属溶湯が外れることがなくなり、安全に無駄なく注湯できるという利点がある。
【0084】
また、本発明を適用した傾動式自動注湯装置には取鍋が設置され、該傾動式自動注湯装置の各所に設置されたサーボモータによって、取鍋は傾動、前後動、上下動を可能にする。また、該サーボモータにはロータリーエンコーダが取り付けられており、取鍋の位置や傾斜角度を計測することができる。そして、自動注湯装置の側方にビデオカメラが設置され、取鍋から流出する液体の落下位置を計測することが可能であることにも特徴を有している。この自動注湯装置に対して、取鍋から流出液体の落下位置を推定し、推定した落下位置が目標位置と合致するように、取鍋搬送指令信号を与えるモーションコントローラを備える。また、落下位置の推定値に誤差が生じた場合においてもカメラ画像から目標位置と落下位置との位置偏差を求め、その位置偏差を抑制(目標位置の誤差を抑制)するように、取鍋搬送指令信号が与えられることにも特徴を有する。
この傾動式自動注湯装置及び方法によれば、従来の落下位置制御に対して、高精度に落下位置が推定でき、かつ推定落下位置に誤差が生じた場合においても、カメラ画像から目標位置との位置誤差を計算し、位置誤差を抑制するように取鍋搬送制御がなされ、高精度に目標位置へ落下位置を合致させることができる。
【0085】
次に、本発明の落下位置制御システムの有用性を示すために、シミュレーション及び実験の結果を図12に示す。図12(a)及び図12(b)は、図1〜図8を用いて説明した先行例のシミュレーション及び実験結果であり、それぞれ単位幅流量qw=2.5×10−3[m2/s],3.5×10−3[m2/s]の場合である。図12(c)及び図12(d)は、図9〜図11を用いて説明した本発明の場合(縮流及びガイドの影響を考慮した場合)のシミュレーション及び実験結果であり、それぞれ単位幅流量qw=2.5×10−3[m2/s],3.5×10−3[m2/s]の場合である。これらの結果より、出湯口のガイド部の影響および縮流の影響を考慮した本発明では、正確な落下位置推定を行うことができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、鋳造産業の多くの注湯工程で用いられる傾動式自動注湯方法の高速・高精度化を実現するものであり、既存の傾動式自動注湯設備に導入することで高速・高精度化を実現する。また、本発明は、多様な取鍋形状に適用できる利点を有している。したがって、鋳造産業における利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0087】
11 傾動式自動注湯装置
12 取鍋
13 サーボモータ
14 出湯口
15 鋳型湯口
16 ビデオカメラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には鋳造技術に関するものであり、特に、溶解された鉄、アルミニウムなどの金属溶湯を取鍋に所定量保持し、取鍋を傾動することにより鋳型へと注湯する傾動式自動注湯方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、傾動式自動注湯方法は、(1)注湯位置へと搬送する際に、金属溶湯の振動を抑制するもの(特許文献1参照)、(2)注湯終了時の後傾動作によって生じる金属溶湯の振動を抑制するもの(特許文献2参照)、(3)一定注湯流量を維持するように取鍋傾動速度を制御するもの(特許文献3参照)、(4)短時間で規定重量へ鋳込む注湯方法(特許文献4参照)、(5)所望の注湯流量パターンを実現するように取鍋傾動速度を制御するもの、(6)取鍋の金属溶湯の出湯口を昇降させ、鋳込時初期の取鍋から流出する金属溶湯の流量を増大させる注湯方法(非特許文献1参照)、(7)ファジィ制御を用いた傾動式自動注湯方法(非特許文献2参照)、(8)線形パラメータ変動モデルを用いた傾動式自動注湯方法(非特許文献3参照)などが知られている。
【0003】
従来、(1)と(2)では、取鍋搬送、傾動時に生じる溶湯面の振動抑制装置であり、注湯時に所望する流量を実現することに関しては触れていない。また、(3)と(5)は、単位時間当たりに注がれる金属溶湯重量を制御するものであり、(4)、(6)、(7)は、正確に規定重量へ鋳込むものである。(6)では、鋳込み時間を短縮するために、取鍋の出湯口を下降させて、取鍋からの金属溶湯の流出流量を増大させる注湯方法である。これらは注湯流量や鋳込み重量を高精度に制御する注湯方法であり、傾動式注湯方法における注湯される金属溶湯の落下位置は制御されておらず、鋳型内湯口から注湯される金属溶湯が外れることが問題となる。
これらの問題を解消するため、フィードフォワード制御で取鍋から流出する液体の落下位置を制御する方法(特許文献5参照)が知られている。特許文献5に記載の方法は有効な方法であるが、更に精度良く落下位置を制御することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−10924号公報
【特許文献2】特開平9−285860号公報
【特許文献3】特開平9−239525号公報
【特許文献4】特開平10−58120号公報
【特許文献5】特開2008−272802号公報
【非特許文献1】“自動注湯機の傾動軸2段昇降装置による初期流量増大化の試み”,鋳造工学,vol.71,No.7,445−448,1999
【非特許文献2】“自動注湯機の開発”,自動車技術,vol.46,No.11,79−86,1992
【非特許文献3】“Betterment Processによる円筒取鍋型自動注湯ロボットの注湯流量制御”,日本機械学会論文集C編,vol.70,No.694,206−213,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ落下させる注湯方法および取鍋用傾動制御プログラムを記憶した記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために本発明における傾動式自動注湯方法は、傾動、前後動及び上下動を可能とする3つのサーボモータを備えた傾動式自動注湯装置の金属溶湯を保持した取鍋を傾動することによって、鋳型へと注湯するに当たり、取鍋を傾動させるサーボモータ、取鍋を前後動させるサーボモータおよび取鍋を上下動させるサーボモータへ印加する入力電圧をコンピュータを用いて制御することで、取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ落下させる方法であって、取鍋から流出する金属溶湯の落下軌跡の数理モデルを作成し、この作成した数理モデルの逆モデルを解き、かつ縮流の影響を考慮して注湯流速推定部および落下位置推定部により金属溶湯の落下位置を推定し、その落下位置データをコンピュータで処理し、これにより、前記取鍋を傾動させるサーボモータ、前記取鍋を前後動させるサーボモータおよび前記取鍋を上下動させるサーボモータへの入力電圧を獲得し、この獲得した入力電圧に基づき、前記3つのサーボモータを制御して、金属溶湯の落下位置が鋳型内湯口に収まるように取鍋を移動させることによって、正確に湯口内へ落下する金属溶湯を注ぐことを特徴とする。
また、本発明における取鍋用傾動制御プログラムを記憶した記憶媒体は、傾動、前後動及び上下動を可能とする3つのサーボモータを備えた傾動式自動注湯装置の金属溶湯を保持した取鍋を傾動することによって、鋳型へと注湯するに当たり、取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ落下させるべく取鍋を傾動させるサーボモータ、取鍋を前後動させるサーボモータおよび取鍋を上下動させるサーボモータへ印加する入力電圧をコンピュータを用いて制御するための制御プログラムを記憶した記憶媒体であって、取鍋から流出する金属溶湯の落下軌跡の数理モデルを作成し、この作成した数理モデルの逆モデルを解き、かつ縮流の影響を考慮して注湯流速推定部および落下位置推定部により金属溶湯の落下位置を推定し、その落下位置データをコンピュータで処理し、これにより、前記取鍋を傾動させるサーボモータ、前記取鍋を前後動させるサーボモータおよび前記取鍋を上下動させるサーボモータへの入力電圧を獲得し、この獲得した入力電圧に基づき、前記3つのサーボモータを制御することを特徴とする。
【0007】
なお、本発明に利用する数理モデル法とは、プロセスの熱収支・物質収支・化学反応・制限条件などの式を解いて、利益・コストなどコンピュータ制御の目的とする関数をだし、その最大・最小を求めてそれが達成できるように制御を行う方法である。またなお、本発明において取鍋としては、円筒形のものや、縦断面形状が扇形のものを使用している。そして、取鍋は重心付近で支持してある。また、縮流とは、出湯口先端の流れ場において、重力の影響により、越流水深が減少することである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、取鍋を前後動させ、金属溶湯落下位置を制御することにより、取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ注ぐことができる。これにより、注湯中に鋳型内湯口から金属溶湯が外れることがなくなり、安全に無駄なく注湯できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に先立ち説明する先行例において使用した傾動式自動注湯装置の概要を示す図である。
【図2】図1の自動注湯装置における取鍋の縦断面図である。
【図3】図2における要部拡大詳細図である。
【図4】出湯口先端を示した図である。
【図5】先行例の落下位置制御システムのシステムを示したブロック線図である。
【図6】注湯流量フィードフォワード制御系のブロック図である。
【図7】先行例の注湯プロセスを示した図である。
【図8】注湯落下位置軌跡のシミュレーション結果を示した図である。
【図9】本発明に使用した傾動式自動注湯装置の概要を示す図である。
【図10】本発明の落下位置制御システムのシステムを示したブロック線図である。
【図11】出湯口ガイド部へ侵入する際の流速を示す断面図である。
【図12】本発明と先行例のシミュレーション及び実験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明するが、先ずそれに先立ち図1〜図8を用いてフィードフォワード制御を用いた先行例について説明し、その後に図9〜図11を用いて本発明を適用した傾動式自動注湯装置について説明する。
〔1.先行例の傾動式自動注湯装置について〕
図1に示す装置は先行例の傾動式自動注湯装置の概要図である。先行例の傾動式自動注湯装置1には取鍋2が設置され、該傾動式自動注湯装置1の各所に設置されたサーボモータ3,3によって、取鍋2は傾動、前後動、上下動を可能にする。また、該サーボモータ3,3にはロータリーエンコーダが取り付けられており、取鍋2の位置や傾斜角度を計測することができる。さらに、サーボモータ3,3には、コンピュータによって制御指令信号が与えられるようになっている。
なお、前記コンピュータとは、パソコン、マイコン、プログラマルロジックコントローラ(PLC)及びデジタルシグナルプロセッサ(DSP)などのモーションコントローラを言う。
【0011】
取鍋2の注湯時の縦断面図である図2において、取鍋2の傾動角度をθ[deg]、取鍋2の傾動中心である出湯口より下部の溶湯体積(濃い網掛け部)をVs(θ)[m3]、出湯口に対する水平面の面積(濃い網掛け部と薄い網掛け部の境界上の面積)をA(θ)[m3]、出湯口より上部の溶湯体積(薄い網掛け部)をVr[m3]、上部溶湯の高さをh[m]、取鍋2から流出する溶湯の流量をq[m3/s]とすると、注湯時における時刻t[s]からΔt[s]後の取鍋内溶湯の収支式は下記の式(1)のようになる。
Vr(t)+Vs(θ(t))
=Vr(t+Δt)+Vs(θ(t+Δt))+q(t)Δt ・・・(1)
【0012】
式(1)を溶湯体積Vr[m3]についてまとめ、Δt→0とすると下記の式(2)となる。
【0013】
【数1】
【0014】
また、取鍋2の傾動角速度ω[deg/s]を下記の式(3)とする。
ω(t)=dθ(t)/dt ・・・(3)
よって、式(3)を式(2)に代入すると、下記の式(4)が得られる。
【0015】
【数2】
【0016】
また、出湯口より上部の溶湯体積Vr[m3]は下記の式(5)で表すことができる。
【0017】
【数3】
ここで、面積As[m2]は、図3に示す出湯口水平面からの高さhs[m]における溶湯水平面積を示す。
【0018】
また、面積As[m2]を出湯口水平面の面積A[m2]と面積A[m2]に対する面積変化量ΔAs[m2]に分割すると、溶湯体積Vr[m3]は下記の式(6)となる。
【0019】
【数4】
【0020】
また、取鍋2を含む一般的な取鍋においては、面積変化量ΔAs[m2]は出湯口水平面の面積A[m2]に対して微小であるから、下記の式(7)が得られる。
【0021】
【数5】
したがって、式(6)は下記の式(8)と示すことができる。
Vr(t)≒A(θ(t))h(t) ・・・(8)
よって、式(8)より下記の式(9)が得られる。
h(t)≒Vr(t)/A(θ(t)) ・・・(9)
【0022】
また、ベルヌーイの定理を用いて、出湯口より上部の溶湯高さh[m]から溶湯流量q[m3/s]までを下記の式(10)で示す。
【0023】
【数6】
ここで、hb[m]は図4に示すように取鍋2の内溶湯の上面からの溶湯深さ、Lf[m
]は溶湯深さhb[m]における出湯口の幅、cは流量係数、gは重力加速度をそれぞれ示す。
【0024】
また、式(4)、式(9)および式(10)より注湯流量モデルの基礎式は下記の式(11)および式(12)となる。
【0025】
【数7】
【0026】
【数8】
【0027】
また、取鍋2の矩形出湯口の幅Lf[m]は取鍋1内の溶湯上面からの深さhb[m]に対して一定であるから、溶湯流量q[m3/s]は式(10)より下記の式(13)となる。
【0028】
【数9】
したがって、式(13)を注湯流量モデルの基礎式(11)および(12)にそれぞれ代入すると、取鍋2の注湯流量モデルは下記の式(14)および式(15)となる。
【0029】
【数10】
【0030】
【数11】
【0031】
図5に落下位置制御システムのブロック線図を示す。
qref[m3/s]は目標流量曲線、u[V]はモータへの入力電圧、Pm、Pfはモータ、および注湯プロセスの動特性を示す。
【0032】
Pf−1とPm−1は注湯流量逆モデルとモータ逆モデルをそれぞれ示す。目標流量パターンqrefに実際の注湯流量が、追従するようにこの注湯プロセスの逆モデルを用いたフィードフォワード注湯流量制御システムを適用する。
なお、フィードフォワード制御とは、制御対象に加える操作量を予め決められた値に調節することにより、出力が目標値になるようにする制御法であって、制御対象の入出力関係や外乱の影響などが明確な場合には性能の良い制御を行うことができる。
【0033】
図6は、所望の注湯流量パターンqref[m3/s]を実現するためサーボモータ3,3へ印加する制御入力u[V]を導出するシステムにおける制御系のブロック線図を示す。ここで、サーボモータ3,3の逆モデルPm−1は下記の式(16)により示される。
【0034】
【数12】
【0035】
式(11)および式(12)に示す注湯流量モデルの基礎式に対する逆モデルを導出する。ベルヌーイの定理である式(10)より出湯口上部の溶湯高さh[m]に対する注湯流量q[m3/s]を求めることができる。取鍋2の形状から考えられる出湯口上部の最大溶湯高さhmax[m]をn分割したときの分割幅をΔh[m]とし、各々の溶湯高さをhi=iΔh(i=0、…n)で示す。したがって、溶湯高さh=[h0h1…hn]Tに対する注湯流量q=[q0q1…qn]Tを下記の式(17)に示す。
q=f(h) ・・・(17)
ここで、関数f(h)は式(10)に示すベルヌーイの定理である。したがって、式(17)の逆関数は下記の式(18)となる。
h=f−1(q) ・・・(18)
【0036】
この式(18)は式(17)をルックアップテーブルで表現し、入出力関係を逆にすることで表すことができる。
ここで、分割間隔qi→qi+1 、hi→hi+1 は線形補間により近似する。分割幅が小さいほど、高精度に注湯流量q[m3/s]と出湯口上部の溶湯高さh[m]の関係を表現できる。実装可能な範囲で分割幅を小さくすることが望まれる。
【0037】
所望の注湯流量パターンqref[m3/s]を実現する出湯口上部の溶湯高さhref[m]は式(18)より下記の式(19)となる。
href(t)=f−1(qref(t)) ・・・(19)
【0038】
また、出湯口上部の溶湯高さhref[m]における出湯口上部の溶湯体積Vref[m3]は、式(9)を用い下記の式(20)で示す。
Vref(t)=A((θ(t))href(t) ・・・(20)
【0039】
次に、式(20)で得られた出湯口上部の溶湯体積Vref[m3]と所望の注湯流量パターンqref[m3/s]を、式(11)の注湯流量モデルの基礎式に代入して、下記の式(21)に示す所望の注湯流量パターンを実現する取鍋2の傾動角速度ωref[deg/s]を導出する。
【0040】
【数13】
【0041】
まず、式(17)から式(21)を順に解き、得られた取鍋2の傾動角速度ωref[deg/s]を式(16)に代入することにより、所望の注湯流量パターンqrefを実現すべくサーボモータ3,3へ印加する制御入力u[V]を得ることができる。
【0042】
また、所望の注湯流量パターンqref[m3/s]を実現する出湯口上部の溶湯体積Vref[m3]は、式(15)を用い下記の式(22)で示すことができる。
【0043】
【数14】
【0044】
式(22)より得られた出湯口上部の溶湯体積Vref[m3]と所望の注湯流量パターンqref[m3/s]を式(21)に代入すると、所望の注湯流量パターンを実現する取鍋2の傾動角速度ωref[deg/s]が得られる。そして、得られた取鍋2の傾動角速度ωref[deg/s]を、式(16)のサーボモータ3,3の逆モデルに代入すると、サーボモータ3,3へ印加する制御入力u[V]を得ることができる。
【0045】
図5において、P0は取鍋から流出する液体の流量から鋳型内湯口カップでの溶湯落下位置までの伝達特性を示す。また、図7に取鍋から液体が流出して、鋳型内へ流入する過程を示す。
【0046】
図7において、Sw[m]は取鍋出湯口4から鋳型湯口5までの高さを示し、Sv[m] は、取鍋出湯口4から鋳型湯口5上面での液体落下位置までの水平方向長さを示す。Ap[m2]は、取鍋出湯口4先端での液体断面積を示し、Ac[m2]は、鋳型湯口5上面での落下液体断面積を示す。出湯口先端における流出液体Rの平均流速νf[m/s]は式(23)となる。
【0047】
【数15】
【0048】
ここで、νf(h(t))[m/s]は出湯口上の液体高さh(t)[m]に依存する。そして、溶湯流出過程において、溶湯断面積は一定と仮定すると、断面積Ap[m2]とAc[m2]は、式(24)となる。
【0049】
【数16】
【0050】
ここで、Tf[s]は、落下液体が取鍋出湯口先端から湯口上面へ到達するまでの時間を示す。
液体の落下位置Sw[m]とSv[m]は、式(25)と式(26)で表現される。
【0051】
【数17】
【0052】
【数18】
【0053】
t0[s]は流出液体が取鍋出湯口先端を通過した時間を示す。
取鍋傾動用サーボモータが出湯口先端に取り付けられている場合は、取鍋傾動中に出湯口先端の位置は変化しない。しかし、取鍋傾動サーボモータが図1に示すような取鍋重心位置に取り付けられている場合は、取鍋を傾動することにより、出湯口先端の位置がサーボモータ回転軸を中心に円弧を描くことになる。そこで、取鍋傾動サーボモータと連動して、取鍋上下動用サーボモータおよび前後動用サーボモータを駆動させ、出湯口先端の位置が移動しないように制御システムを構築する。これにより、取鍋出湯口先端の高さが一定になる。それゆえ、式(26)により、取鍋出湯口先端から鋳型湯口上面までの溶湯落下時間は式(27)となる。
【0054】
【数19】
【0055】
ここで,Sw[m]は、取鍋上下動サーボモータと前後動サーボモータが取鍋傾動サーボモータに連動して、取鍋出湯口先端位置を取鍋傾動中も一定となるような制御システムを適用した際の出湯口先端から鋳型湯口上面までの高さを示す。また、t1[s]は落下液体が湯口ヘ到達する時間を示す。式(25)および式(27)より、鋳型内湯口上面における水平方向での流出液体落下位置は式(28)となる。
【0056】
【数20】
【0057】
注湯流速推定部Efにおいて、式(29)を用いて推定流速バーνf(t)[m/s]を求める。
【0058】
【数21】
【0059】
断面積Ap[m2]は、出湯口先端の形状と出湯口先端における液体高さh[m]から得られる。そこで、目標流量に対する推定液体高さバーh(t)[m]は、式(30)に示すベルヌーイの定理に対して、流量から液体高さが得られるように式(31)に示す逆問題で表現することで得ることができる。
【0060】
【数22】
【0061】
【数23】
【0062】
式(30)において,Lfは図4に示す出湯口先端上にある液体の深さhb[m]における出湯口の幅である。式(31)は、順問題である式(30)を用いて、入出力テーブルを作成し、その入出力を入れ替えることで構成することができる。また、断面積は、出湯口形状より式(32)を用いて得ることができる。
【0063】
【数24】
【0064】
したがって、式(29)、式(31)、式(32)を用いることで、流速推定が可能となる。
落下位置推定部Eoにおいて、推定落下位置バーSv(t)[m]は式(28)に式(29)で得られた推定流速を代入することで求められる。
位置制御部Gyは、推定落下位置と目標落下位置との偏差を0へ収束させるための取鍋前後動に対する位置制御システムを示す。推定落下位置を位置制御システムに与えることにより、正確に目標の鋳型内湯口位置へ液体を注ぐことができる。
【0065】
落下位置制御システムの有用性を示すために、シミュレーションを用いて落下位置軌跡を描いた結果を図8に示す。図8は、注湯システムを上面から投影した図である。(a)は落下位置制御を適用した結果であり、(b)は適用しない場合の結果である。細線は湯ロカップを示し、太線は湯口カップ中心から最も遠い流出範囲(流径)、破線は落下液体の中心と湯ロカップ中心の関係がもっとも遠距離にある場合を示す。これらの結果より、落下位置制御システムを適用した場合には、高速注湯を実施しても湯ロカップ内に液体が落下していることが確認された。
【0066】
以上では図1〜図8を用いて、取鍋から流出する金属溶湯の落下軌跡の数理モデルを作成し、この作成した数理モデルの逆モデルを解き、かつ注湯流速推定部および落下位置推定部により金属溶湯の落下位置を推定するという方法を用いて取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口に注ぐ先行例について説明した。次に、図9〜図11を用いて、さらに正確に、金属溶湯を鋳型内湯口へ落下させることを実現する本発明を適用した傾動式自動注湯装置及び方法について説明する。尚、図5及び図10に示すように先行例と本発明を適用した傾動式自動注湯装置及び方法には、重複部分があり、この重複部分については以下では必要な場合を除いて詳細な説明は省略するものとする。
尚、この本発明を適用した装置及び方法は、先行例のようなフィードフォワード制御による方法では解決できない「推定された落下位置に誤差が生じた場合に、精度良く落下位置を制御することができず、また、出湯口のガイドの影響や縮流の影響が考慮されていないため、落下位置に誤差が生じる」といった問題を解決するものである。以下で説明する本発明を適用した装置及び方法は、先行例の問題に鑑みたものであり、ビデオカメラにより取鍋から流出する液体の落下位置を計測し、推定落下位置に誤差が生じた場合においても、補償するように取鍋が移動し、高精度に注湯することができる。また、落下位置を推定する際に、注湯口のガイドの影響や縮流の影響も考慮されているため、精度良く落下位置を推定でき、高精度に目標位置へ落下位置を合致させることができる傾動式自動注湯方法である。換言すると、以下で詳細に説明するが、図10に示す本発明の方法においては、縮流の影響とガイド部の影響を考慮して流量等を決定しており、これにより落下位置の誤差自体を少なくすることを実現するとともに、誤差が発生した場合にもビデオカメラによる落下位置計測を用いたフィードバックにより、注湯位置を高精度に制御することを実現する。
〔2.本発明の傾動式自動注湯装置について〕
図9に示す装置は本発明を適用した傾動式自動注湯装置の概要図である。傾動式自動注湯装置11には取鍋12が設置され、該傾動式自動注湯装置11の各所に設置されたサーボモータ13,13によって、取鍋12は傾動、前後動、上下動を可能にする。ここで前後動は、図9中Y軸方向に搬送されることによりなされ、上下動は、図9中Z軸方向に搬送されることによりなされ、傾動は、図9中Θ軸を軸とした軸回り方向に回動されることによりなされる。Θ軸は、Y軸及びZ軸に略直交する。取鍋12は傾動、前後動、上下動することにより、出湯口14からの金属溶湯を鋳型湯口15に落下させる。また、該サーボモータにはロータリーエンコーダが取り付けられており、取鍋12の位置や傾斜角度を計測することができる。そして、自動注湯装置11の側方には、撮像装置としてのビデオカメラ16が設置され、取鍋12の出湯口14に設けられたガイド部から流出する液体の落下位置を計測することが可能である。さらに、サーボモータ13,13には、コンピュータによって制御指令信号が与えられるようになっている。
なお、前記コンピュータとは、パソコン、マイコン、プログラマルロジックコントローラ(PLC)及びデジタルシグナルプロセッサ(DSP)等のモーションコントローラをいう。
【0067】
図9に示す傾動式自動注湯装置に対して、図10に示す落下位置制御システムを構築する。図10において、Pmは、取鍋を傾動させるモータの動特性であり、次式で表現できる。
【0068】
【数25】
【0069】
ただし、ω[deg/s]は傾動角速度、u[V]は入力電圧、T[s]は時定数、K[deg/s/V]はゲイン定数である。θ[deg]は傾動角速度である。また、図10において、Pfは取鍋が傾動することで、取鍋から流出する液体の注湯プロセスであり、次式で表現される。
【0070】
【数26】
【0071】
ただし、Vr[m3]は出湯口より上部の液体体積であり、q[m3/s]は注湯流量、Vs[m3/s]は出湯口より下部の液体体積、h[m]は出湯口より上部の液体高さ、A[m2]は出湯口先端に対して水平面上での液体面積、hb[m]は取鍋内液体表面からの水深、Lf[m]は出湯口幅、g[m/s2]は重力加速度、cは流量係数である。そして、図10の液体流出プロセスP0は次式のように示される。
【0072】
【数27】
【0073】
ただし、vf0[m/s]は図11に示すように、取鍋内液体が出湯口14のガイド部14aへ侵入する際の流速であり、Ap[m2]は出湯口における液体断面積である。α0、α1は、取鍋から流出する液体が重力の影響により縮流となるその影響係数である。Lg[m]は出湯口ガイド長さであり、v[m/s]は出湯口ガイドを流れ出る際の流速、vf[m/s]は出湯口ガイドを流れ出る際の流速の水平成分、Tf[s]は出湯口から出た液体の落下時間であり、Sw[m]は、出湯口からの垂直距離、Sv[m]は出湯口からの水平距離を示す。鋳型内湯口上面から出湯口までの垂直距離をSw[m]とすることで、出湯口からの水平方向落下位置Sv[m]を求めることができる。
【0074】
図10における逆流量モデルは、(33)式〜(37)式を用いて求めることができる。(37)式より、目標注湯流量qref[m3/s]を実現する出湯口上部の高さhref[m]は次式より求めることができる。
href(t)=f−1(qref(t)) ・・・(43)
【0075】
そして、出湯口上部液体高さhref[m]を実現する出湯口上部液体体積Vrref[m3]は、(36)式より次式のように求めることができる。
Vrref(t)=A((θ(t))href(t) ・・・(44)
【0076】
(35)式より、目標注湯流量を実現する取鍋傾動角速度ωref[deg/s]は次式となる。
【0077】
【数28】
【0078】
モータの逆モデルは、(33)式より次式のように求めることができる。
【0079】
【数29】
【0080】
(43)〜(46)式の順に求めることにより、目標注湯流量を実現するモータへの入力電圧u[V]を得ることができる。
【0081】
(43)〜(46)式の逆流量モデルにより、目標注湯流量が実現されることから、目標流量を用いて、取鍋から流出する液体の落下位置を推定する。図10の出湯口から流出した液体の水平成分流速vf[m/s]を推定するブロックEfには、(38)〜(40)式が導入されており、目標注湯流量をブロックEfへ与えることにより、出湯口から流出した液体の水平成分流速vf[m/s]を推定することができる。また、出湯口からの水平方向落下位置を推定するブロックEoには、(41)式(42)式が導入されている。ブロックEoに推定された水平成分流速vf[m/s]を与えることで、落下位置の推定が可能となる。そして、推定された落下位置に応じて、取鍋を移動させることで、落下位置制御が可能となる。
【0082】
ここで、図10の相対落下位置とは、出湯口先端を基準とした水平方向落下位置を意味しており、取鍋を水平方向へ搬送すると、それに伴って出湯口先端基準とした座標も移動する。そして、絶対落下位置とは、カメラから計測された固定座標による水平方向落下位置を示す。カメラ座標内に目標位置を与え、目標位置と落下位置の位置偏差を求める。ここで、目標位置は、湯口中心などの操作者が与えるパラメータである。そして、位置偏差分を補正するように、フィードバック制御を行い、取鍋を移動させる。これにより、図10のブロックEfおよびEoの落下位置推定に誤差が生じた場合においてもカメラによる落下位置フィードバック制御により補償される。
【0083】
以上のように、本発明を適用した傾動式自動注湯装置及び方法は、傾動、前後動及び上下動を可能とする3つのサーボモータを備えた傾動式自動注湯装置の金属溶湯を保持した取鍋を傾動することによって、鋳型へと注湯するに当たり、取鍋の出湯口に設けられたガイド部から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ落下させるべく取鍋を傾動させるサーボモータ、取鍋を前後動させるサーボモータおよび取鍋を上下動させるサーボモータへ印加する入力電圧をコンピュータを用いて制御するものであり、取鍋から流出する金属溶湯の落下軌跡の数理モデルを作成し、この作成した数理モデルの逆モデルを解き、かつ出湯口のガイド部の影響および縮流の影響を考慮して注湯流速推定部および落下位置推定部により金属溶湯の落下位置を推定し、その落下位置データをコンピュータで処理し、これにより、前記取鍋を傾動させるサーボモータ、前記取鍋を前後動させるサーボモータおよび前記取鍋を上下動させるサーボモータへの入力電圧を獲得し、この獲得した入力電圧に基づき、前記3つのサーボモータを制御することを特徴とする。すなわち、(38)式や(39)式に記載のように、縮流の影響やガイドの影響を考慮することで、先行例より更に正確にフィードフォワード制御を行うことを実現できる。例えば縮流により出湯口断面が減少し平均流速が増加することとなるが、この縮流の影響を考慮しない場合には、この流速の増加分だけ推定落下位置に誤差が発生してしまうこととなるが、本発明ではこの誤差を小さく抑えることができる。ここで、このフィードフォワード制御に加えて、フィードバック制御により位置誤差を補償して更に落下位置を正確に制御してもよく、すなわち、前記取鍋の側方に設置される撮像装置により前記取鍋から流出する金属溶湯の落下位置を計測し、該計測された落下位置と、前記推定された落下位置とに誤差が生じた場合に、この誤差を抑制して、目標位置に正確に金属溶湯を落下させることにも特徴を有する。また、本発明は、以上のような制御をコンピュータによって実行可能とする注湯制御プログラムや、このプログラムをコンピュータによって読み取り可能に記憶した記憶媒体にも適用される。
このような構成を有する本発明は、湯口のガイド部の影響および/または縮流の影響を考慮することにより、より正確なフィードフォワード制御を可能とし、これに基づき取鍋を前後動させ、金属溶湯落下位置を制御することにより、取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ注ぐことができる。これにより、注湯中に鋳型内湯口から金属溶湯が外れることがなくなり、安全に無駄なく注湯できるという利点がある。
【0084】
また、本発明を適用した傾動式自動注湯装置には取鍋が設置され、該傾動式自動注湯装置の各所に設置されたサーボモータによって、取鍋は傾動、前後動、上下動を可能にする。また、該サーボモータにはロータリーエンコーダが取り付けられており、取鍋の位置や傾斜角度を計測することができる。そして、自動注湯装置の側方にビデオカメラが設置され、取鍋から流出する液体の落下位置を計測することが可能であることにも特徴を有している。この自動注湯装置に対して、取鍋から流出液体の落下位置を推定し、推定した落下位置が目標位置と合致するように、取鍋搬送指令信号を与えるモーションコントローラを備える。また、落下位置の推定値に誤差が生じた場合においてもカメラ画像から目標位置と落下位置との位置偏差を求め、その位置偏差を抑制(目標位置の誤差を抑制)するように、取鍋搬送指令信号が与えられることにも特徴を有する。
この傾動式自動注湯装置及び方法によれば、従来の落下位置制御に対して、高精度に落下位置が推定でき、かつ推定落下位置に誤差が生じた場合においても、カメラ画像から目標位置との位置誤差を計算し、位置誤差を抑制するように取鍋搬送制御がなされ、高精度に目標位置へ落下位置を合致させることができる。
【0085】
次に、本発明の落下位置制御システムの有用性を示すために、シミュレーション及び実験の結果を図12に示す。図12(a)及び図12(b)は、図1〜図8を用いて説明した先行例のシミュレーション及び実験結果であり、それぞれ単位幅流量qw=2.5×10−3[m2/s],3.5×10−3[m2/s]の場合である。図12(c)及び図12(d)は、図9〜図11を用いて説明した本発明の場合(縮流及びガイドの影響を考慮した場合)のシミュレーション及び実験結果であり、それぞれ単位幅流量qw=2.5×10−3[m2/s],3.5×10−3[m2/s]の場合である。これらの結果より、出湯口のガイド部の影響および縮流の影響を考慮した本発明では、正確な落下位置推定を行うことができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、鋳造産業の多くの注湯工程で用いられる傾動式自動注湯方法の高速・高精度化を実現するものであり、既存の傾動式自動注湯設備に導入することで高速・高精度化を実現する。また、本発明は、多様な取鍋形状に適用できる利点を有している。したがって、鋳造産業における利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0087】
11 傾動式自動注湯装置
12 取鍋
13 サーボモータ
14 出湯口
15 鋳型湯口
16 ビデオカメラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾動、前後動及び上下動を可能とする3つのサーボモータを備えた傾動式自動注湯装置の金属溶湯を保持した取鍋を傾動することによって、鋳型へと注湯するに当たり、取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ落下させるべく取鍋を傾動させるサーボモータ、取鍋を前後動させるサーボモータおよび取鍋を上下動させるサーボモータへ印加する入力電圧をコンピュータを用いて制御する方法であって、
取鍋から流出する金属溶湯の落下軌跡の数理モデルを作成し、この作成した数理モデルの逆モデルを解き、かつ縮流の影響を考慮して注湯流速推定部および落下位置推定部により金属溶湯の落下位置を推定し、
その落下位置データをコンピュータで処理し、
これにより、前記取鍋を傾動させるサーボモータ、前記取鍋を前後動させるサーボモータおよび前記取鍋を上下動させるサーボモータへの入力電圧を獲得し、
この獲得した入力電圧に基づき、前記3つのサーボモータを制御することを特徴とする傾動式自動注湯方法。
【請求項2】
前記落下位置を推定する際に、縮流の影響に加えて前記取鍋の出湯口に設けられたガイド部の影響を考慮して推定することを特徴とする請求項1記載の傾動式自動注湯方法。
【請求項3】
前記取鍋の側方に設置される撮像装置により前記取鍋から流出する金属溶湯の落下位置を計測し、該計測された落下位置と、前記推定された落下位置とに誤差が生じた場合に、この誤差を抑制して、目標位置に正確に金属溶湯を落下させることを特徴とする請求項2記載の傾動式自動注湯方法。
【請求項4】
傾動、前後動及び上下動を可能とする3つのサーボモータを備えた傾動式自動注湯装置の金属溶湯を保持した取鍋を傾動することによって、鋳型へと注湯するに当たり、取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ落下させるべく取鍋を傾動させるサーボモータ、取鍋を前後動させるサーボモータおよび取鍋を上下動させるサーボモータへ印加する入力電圧をコンピュータを用いて制御するための制御プログラムを記憶した記憶媒体であって、
取鍋から流出する金属溶湯の落下軌跡の数理モデルを作成し、この作成した数理モデルの逆モデルを解き、かつ縮流の影響を考慮して注湯流速推定部および落下位置推定部により金属溶湯の落下位置を推定し、
その落下位置データをコンピュータで処理し、
これにより、前記取鍋を傾動させるサーボモータ、前記取鍋を前後動させるサーボモータおよび前記取鍋を上下動させるサーボモータへの入力電圧を獲得し、
この獲得した入力電圧に基づき、前記3つのサーボモータを制御することを特徴とする取鍋用傾動制御プログラムを記憶した記憶媒体。
【請求項5】
前記落下位置を推定する際に、縮流の影響に加えて前記取鍋の出湯口に設けられたガイド部の影響を考慮して推定することを特徴とする請求項4記載の取鍋用傾動制御プログラムを記憶した記憶媒体。
【請求項6】
前記取鍋の側方に設置される撮像装置により前記取鍋から流出する金属溶湯の落下位置を計測し、該計測された落下位置と、前記推定された落下位置とに誤差が生じた場合に、この誤差を抑制して、目標位置に正確に金属溶湯を落下させることを特徴とする請求項5記載の取鍋用傾動制御プログラムを記憶した記憶媒体。
【請求項1】
傾動、前後動及び上下動を可能とする3つのサーボモータを備えた傾動式自動注湯装置の金属溶湯を保持した取鍋を傾動することによって、鋳型へと注湯するに当たり、取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ落下させるべく取鍋を傾動させるサーボモータ、取鍋を前後動させるサーボモータおよび取鍋を上下動させるサーボモータへ印加する入力電圧をコンピュータを用いて制御する方法であって、
取鍋から流出する金属溶湯の落下軌跡の数理モデルを作成し、この作成した数理モデルの逆モデルを解き、かつ縮流の影響を考慮して注湯流速推定部および落下位置推定部により金属溶湯の落下位置を推定し、
その落下位置データをコンピュータで処理し、
これにより、前記取鍋を傾動させるサーボモータ、前記取鍋を前後動させるサーボモータおよび前記取鍋を上下動させるサーボモータへの入力電圧を獲得し、
この獲得した入力電圧に基づき、前記3つのサーボモータを制御することを特徴とする傾動式自動注湯方法。
【請求項2】
前記落下位置を推定する際に、縮流の影響に加えて前記取鍋の出湯口に設けられたガイド部の影響を考慮して推定することを特徴とする請求項1記載の傾動式自動注湯方法。
【請求項3】
前記取鍋の側方に設置される撮像装置により前記取鍋から流出する金属溶湯の落下位置を計測し、該計測された落下位置と、前記推定された落下位置とに誤差が生じた場合に、この誤差を抑制して、目標位置に正確に金属溶湯を落下させることを特徴とする請求項2記載の傾動式自動注湯方法。
【請求項4】
傾動、前後動及び上下動を可能とする3つのサーボモータを備えた傾動式自動注湯装置の金属溶湯を保持した取鍋を傾動することによって、鋳型へと注湯するに当たり、取鍋から流出する金属溶湯を正確に鋳型内湯口へ落下させるべく取鍋を傾動させるサーボモータ、取鍋を前後動させるサーボモータおよび取鍋を上下動させるサーボモータへ印加する入力電圧をコンピュータを用いて制御するための制御プログラムを記憶した記憶媒体であって、
取鍋から流出する金属溶湯の落下軌跡の数理モデルを作成し、この作成した数理モデルの逆モデルを解き、かつ縮流の影響を考慮して注湯流速推定部および落下位置推定部により金属溶湯の落下位置を推定し、
その落下位置データをコンピュータで処理し、
これにより、前記取鍋を傾動させるサーボモータ、前記取鍋を前後動させるサーボモータおよび前記取鍋を上下動させるサーボモータへの入力電圧を獲得し、
この獲得した入力電圧に基づき、前記3つのサーボモータを制御することを特徴とする取鍋用傾動制御プログラムを記憶した記憶媒体。
【請求項5】
前記落下位置を推定する際に、縮流の影響に加えて前記取鍋の出湯口に設けられたガイド部の影響を考慮して推定することを特徴とする請求項4記載の取鍋用傾動制御プログラムを記憶した記憶媒体。
【請求項6】
前記取鍋の側方に設置される撮像装置により前記取鍋から流出する金属溶湯の落下位置を計測し、該計測された落下位置と、前記推定された落下位置とに誤差が生じた場合に、この誤差を抑制して、目標位置に正確に金属溶湯を落下させることを特徴とする請求項5記載の取鍋用傾動制御プログラムを記憶した記憶媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−224631(P2011−224631A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98401(P2010−98401)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】
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