説明

傾斜した遠位先端部腔を有するニードルカテーテル

患者の体腔の壁内へ薬剤を注射するように構成されたニードルカテーテルであって、当該カテーテルの遠位先端部から体腔の壁内へと、シャフトの軸線に対してある傾斜角で針を導くものである。その結果として生じる傾斜した注射経路が、注射部位での組織に対する最適な押し付けのためにカテーテルの遠位部分を体腔壁に対して略垂直に保ちつつ、体腔壁内での薬剤の保持を改善してくれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
なし。
【0002】
本発明は、概して医療用装置の分野に関し、より特定的には、心臓疾患の治療や診断のために患者の人体へ薬剤を投与(送達)するのに用いられるカテーテルに関する。
【背景技術】
【0003】
心臓疾患の治療においては、多くの方法(それらの方法では、カテーテルや他の治療用装置が心臓の心腔内へと挿入され、その装置の作用遠位端構成要素が、心臓の内壁上に処置を行うのに用いられる)が提案されてきた。例えば、薬剤投与カテーテル(これは、典型的には屈撓性の遠位部分を有する)は、患者の脈管系内に、そして心腔内へと進行するように構成されており、このカテーテルの遠位先端部から薬剤を噴射したり針注射したりすることによって、薬剤が心臓壁内へと直接的に投与される。しかしながら、搏動している心臓は、装置の作用遠位端を所望の治療部位に精確に置いて維持することを困難にし得る。その結果、ある困難性が、患者の心腔内における所望の部位へ薬剤を精確に投与するカテーテルをもたらし続けている。その上、一旦投与されたならば、本当に効果的な治療には、薬剤がある一定の最低限の持続時間に渡って治療部位に保持されることが必要である。特に、薬剤保持を改善するやり方での、心臓壁内への(例えば心筋層への)、若しくは(心内膜、心筋層、および心外膜を貫くことによる)心嚢内への、遺伝子治療や他の治療用の薬剤の標的投与のために構成されたカテーテルを提供することは、重大な進歩であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、患者の体腔の壁内へと薬剤を注射するように構成されたニードルカテーテルであって、当該カテーテルの遠位先端部から患者の体腔の壁内へと、シャフトの軸線に対してある傾斜角で針を導くものを対象としている。その結果として生じる傾斜した注射経路が、注射部位での組織に対する最適な押し付けのために、カテーテルの遠位部分を体腔壁に対して略垂直に保ちつつ、体腔壁内での薬剤の保持を改善してくれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のニードルカテーテルは概して、近位端と、遠位端と、内部の針通し腔とを有する細長いカテーテル・シャフトであって、その針通し腔が、近位端から当該カテーテルの遠位端面(即ち、当該カテーテルの最も遠位側の先端面)内の針通しポートまで延びると共に、縦軸線に対して0度より大きく90度より小さい角度で針通しポートまで延びる傾斜遠位部分を有している、カテーテル・シャフトと、シャフトの針通し腔内に滑動可能に配置されると共に、穿孔遠位先端と、この穿孔遠位先端におけるポートと流体連通状態にある内腔とを有する中空針と、を備えている。遠位端面および針通し腔のポートは、患者の体腔の壁に押し付けられるように構成されている。針は、引込み形態と延伸形態とを有し、引込み形態においては、当該針の穿孔遠位先端がシャフトの針通し腔内にあり、延伸形態においては、注射部位で患者の体腔の壁にカテーテルの遠位端面が押し付けられた状態で、針通し腔の傾斜遠位部分の傾斜角にて当該針を患者の体腔の壁内へと導くことによって、患者の体腔の壁内に傾斜した注射経路を形成すべく当該カテーテルが構成されるように、穿孔遠位先端が針通しポートの外へ遠位方向に延びる。目下の好適な実施形態において、カテーテルは屈撓性の遠位部分を有し、カテーテル・シャフトの近位端上のハンドルが、カテーテル遠位先端部の屈撓と、針の進行および引込みとをもたらすように構成されている。
【0006】
本発明の方法は、本発明のニードルカテーテルを、針が引込み形態にある状態で、患者の脈管系などの患者の体腔内に導入および進行させて、当該カテーテルの遠位端を患者の体腔内に定置すること、並びに、所望の注射部位で患者の体腔壁に遠位端面(および、好ましくは針通しポート)を押し付けること、および、針を延伸形態へと進行させることであって、その延伸形態においては、針通し腔の傾斜遠位部分の傾斜角にて針が患者の体腔壁内へと延びて、これにより患者の体腔壁内に傾斜した注射経路を形成するように、針の穿孔遠位先端が針通しポートの外へ遠位方向に延びること、を含んでいる。それから、針の近位端と流体連通状態にある薬剤源からの薬剤が、針の内腔を通じて流され、これにより患者の体腔壁内の傾斜した注射経路の中へと当該薬剤を送達する。目下の好適な実施形態において、患者の体腔は心臓の心腔、例えば左心室であり、薬剤は、心臓疾患、特に心不全の治療のための治療薬である。但し、患者の様々な適当な解剖学上の位置において、診断用の薬剤を含む様々な適当な薬剤を用いることができる。
【0007】
カテーテルの針通し腔の傾斜遠位部分より結果として生じる組織内の傾斜した注射経路は、薬剤の保持(滞留)時間を好ましく改善してくれる。例えば、心臓の組織内へと真っ直ぐに(即ち、当該組織の表面に対して垂直な方向に)延びる針と比べて、傾斜した注射経路は、心臓の組織内へと注射された薬剤の、注射経路から排出されてしまう傾向を好ましく防止し、ないしは低減してくれる。その上、当該傾斜角は、ニードルカテーテルの改善された安定化を好ましくもたらし、この改善された安定化は、針の延伸中および心臓の壁内への薬剤の注入中に、搏動している心臓の壁に遠位端面を押し付けた状態に保つことを容易にする。さらに、本発明のカテーテルは、所望の注射部位におけるカテーテルの遠位端の定置のために、卓越した操作性および押圧性(シャフトの近位端からの押す力の伝達性)を有するように構成されている。本発明における、これらの、および他の利点は、以下の詳細な説明、並びに添付の例示図面から、より明らかになることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の特徴を具体化しているニードルカテーテルの立面図であって、カテーテルの針が延伸形態で例示され、遠位シャフト部分の屈撓が鎖線で例示された図。
【図2】図1のカテーテルにおける遠位シャフト部分の(一部縦断面での)拡大図であって、カテーテルの針が引込み形態で例示された図。
【図3】図2の3−3線に沿って切った横断面図。
【図4】図2の4−4線に沿って切った横断面図。
【図5】本発明の特徴を具体化しているニードルカテーテルの代替的実施形態の遠位シャフト部分(そこでは、針通し腔が針通しポートへと螺旋状に延びている)を例示する図。
【図6】薬剤注射の医療処置中に患者の心臓の左心室内にある図1のカテーテルを例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の特徴を具体化している薬剤投与ニードルカテーテル10の立面図を例示している。このニードルカテーテル10は概して、近位端および遠位端を有する細長いカテーテル・シャフト11と、このシャフト内に滑動可能に配置された針12とを備えている。その針12は、引込み形態と延伸形態とを有している。その延伸形態において、針は、カテーテルの遠位端面14内にある針通しポート13から延びる。目下の好適な実施形態において、カテーテル10は、遠位シャフト部分を可逆的に屈撓させるように構成されている。図1は、患者の脈管系内に導入して進行させるための弛緩形態にあるカテーテル・シャフト11を例示すると共に、カテーテル10の屈撓させられた遠位部分を鎖線で例示している。針12は、カテーテル・シャフトから延ばされた状態で図1に例示されているが、患者の人体内へのカテーテル10の導入および定置の間は、この針がシャフト内へと引き込まれる、ということが理解されるべきである。
【0010】
図2は、カテーテル10の遠位シャフト部分の拡大図を一部縦断面で例示している。カテーテル・シャフトは、このシャフト11の近位端から、カテーテルの遠位端面14内の針通しポート13まで延びる針通し腔16を内部に有している。その針通し腔は、遠位シャフト部分においてカテーテルの外側へ開いた、シャフトの単一の内腔であり、また針通しポートは、シャフトの遠位先端部分における単一のポートであることが好ましい。図2の実施形態において、針通し腔は、軸線方向整列部分17と、この軸線方向整列部分の遠位側にある傾斜部分18とを有している。その傾斜部分18は、シャフトの縦軸線に対してある傾斜角で、針通しポート13まで延びている。中空の針12は、シャフト11の針通し腔16内へ滑動可能に配置されると共に、穿孔遠位先端19と、この穿孔遠位先端におけるポート21と流体連通状態にある内腔20とを有している。この場合、カテーテルは、注射部位で患者の体腔の壁に遠位端面14が接した状態で、針通し腔の傾斜遠位部分18の傾斜角にて針12を患者の体腔の壁内へと導くことによって、患者の体腔の壁内に傾斜した注射経路を形成するように構成されている。針通し腔16の軸線方向整列部分17と傾斜部分との間の接合部分における腔屈曲部の位置は、当該屈曲部の角度などの要素によって左右されるが、この位置はまた、針通し腔16内で遠位端面14の組織接触ポート13へと針12を滑動させるのを容易にするように設計される。図2に例示した実施形態において、腔屈曲部は急に(短く)なっているが、これは腔16の傾斜部分が軸線方向整列部分と直接的に交わっているからである。但し、これに代えて、針通し腔16が、軸線方向整列部分17から傾斜部分18へと、より緩やかな湾曲の形状を介して推移していてもよい。また、代替的な実施形態においては、針12をある傾斜角でカテーテルから出るように導くために、以下でより詳細に議論するように、針通し腔16が針通しポート13へと(少なくとも部分的に)螺旋状に延びている。傾斜部分18は、典型的には、シャフトの縦軸線を横切って延びている。その結果、針通しポート13は、典型的にはシャフトの遠位端面14内に偏心して置かれるが、傾斜部分18の角度や長さによっては、代わりにポート13が遠位端面14内に同軸状に置かれるかもしれない。傾斜部分18の長さおよび角度、並びに遠位先端部の曲率は、針通しポート13を患者の体腔の壁に対して定置するのを容易にするように構成されることが好ましい(即ち、ポート13は、薬剤注入中にカテーテルの組織接触面となるように構成された表面内に置かれているのである)。針通し腔16の傾斜部分18の近位端は、典型的には、丸められた遠位端面14の近位側に配置され、このことは、丸められた先端部の組織接触面に対する傾斜角を、針通し腔の傾斜部分18が単に遠位先端部材26内を延びている場合よりも浅くすることを可能とする。
【0011】
図2に最もよく例示されるように、図示の実施形態において、針通し腔16は、シャフト11の近位端から遠位端へと延びる第1の内側管状部材22によって画成されている。シャフト内を延びる屈撓部材、例えばテンドンワイヤ29は、当該テンドンワイヤ29が近位方向へ引っ張られたときに遠位シャフト部分を屈撓させるように構成されている。このテンドンワイヤ29は、図示された実施形態では、第2の内側管状部材23の内腔内にある。図示を容易にするために、第2の内側管状部材23は、図2において縦断面では示されていない。遠位シャフト部分を効果的に屈撓させるためには、テンドンワイヤ29が屈撓(湾曲)部分におけるシャフトの表面に近いことが好ましい。テンドンワイヤ29は、当該テンドンワイヤの遠位端を遠位シャフト部分内に(例えば、以下で議論する遠位先端部材26に対して)結合させることによって、シャフトに対して固定的に取り付けられる。屈撓性のカテーテルが好ましいが、本発明のカテーテルは、非屈撓性の構成を含む様々な適当なカテーテル・シャフト構成を有することができる。図2に例示される実施形態においては、第1および第2の内側管状部材22,23を包む可撓性の遠位シャフト部分の中に、高分子安定化部材24がある。但し、シャフト11は、様々な適当な構成、典型的には、端部同士が接合されたりシャフト11の複数の層を形成したりする複数の管状部材を内包した構成を有することができる。本発明に合致したカテーテルを形成するために用いるのに適した、可撓性遠位シャフト部分のニードルカテーテルにおけるシャフトの構造に関する詳細は、米国特許出願第10/676,616号(その全体が本明細書に援用される)に見出すことができる。高分子安定化管状部材24の遠位端において、充填材料25が大まかに示されている。この充填材料25は、典型的には、高分子や金属の管状部材、若しくはその延長部分であって、シャフトの当該部分の内部空間を全体的に、若しくは部分的に満たしている。遠位先端部材26は、近位側に隣接したシャフト11の管状部材27の遠位端に対して結合された近位端を有している。遠位先端部材26は、シャフトの管状部材の遠位端に対して突合せ接合された比較的短い部材として図示されているが、本発明のカテーテルに対しては、様々な適当な遠位先端部材の構成を用いることができる。例えば、遠位先端部材は、近位側に隣接したシャフトの部分に対して重ね接合することができ、および/または、近位側に隣接したシャフトの部分内へと近位方向に延びる(例えば、充填材料25の一部を形成する)ステムを有することができる。遠位先端部材を有する実施形態においては、傾斜部分18の近位端は典型的に(例えば、図2に例示した実施形態のように)遠位先端部材26の近位端に近位側に配置されるか、若しくは遠位先端部材26の近位端と半径方向に整列させられる。目下の好適な実施形態において、遠位先端部材26は、高分子部材であり、比較的低い(近位側に隣接したシャフト11の部分を形成する高分子材料よりも低い)ショア押込硬さを有した高分子材料で形成されている。これにより、遠位先端部材26は、患者内へのカテーテル10の進行中に患者の人体に対する損傷を最小限にする、比較的柔軟な非外傷性の遠位端をもたらしてくれる。
【0012】
シャフト11の近位端に取り付けられた近位側アダプタ30が、シャフトの屈撓、針の延伸長さ、および針の位置を制御すると共に、コネクタ31のような操作コネクタを与えている。コネクタ31は、流体送出源や真空源と連結するように構成されると共に、針12の内腔19を通じた薬剤の投与や吸引のための針12へのアクセスを提供するポート32を有している。カテーテル10の所望の用途に応じて、近位側アダプタ30の所に様々な操作コネクタを設けてもよい。図示の実施形態においては、(コネクタ31と同様の)第2のコネクタ33が、流体送出源と連結するように構成されると共に、針通し腔16と流体連通状態に置かれている。その結果、腔16を洗い流して、凝固した血液が針の外面やシャフトの内面に固着するのを防止することができる(さもなければ、腔16内での針12の動きを妨げることがあり得る)。近位側アダプタ30の所の屈撓制御機構34が、カテーテルの遠位端を屈撓させるためのテンドンワイヤ29に連結されている。所望の治療位置へ薬剤を投与するためには、カテーテルが、患者の曲がりくねった脈管系を通じて、患者の体腔内、例えば患者の心臓の心腔内における所望の治療位置へと進行させられ、針12が、治療位置の所で針通し腔16から体腔の壁の中へと延ばされ、コネクタ31に連結された薬剤源(図示せず)からの薬剤が、針12から体腔壁内へと注入され、それから、針12がカテーテル10内へと引き戻され、カテーテルが定置し直されるか、若しくは患者の体腔から取り去られる。
【0013】
図3および図4は、図2の3−3線および4−4線に沿って切った横断面をそれぞれ例示している。図2の実施形態において、針通し腔16は、少なくとも遠位シャフト部分における軸線方向整列部分17に沿って、典型的には傾斜部分18から腔16の近位端まで近位側へ延びる全長に沿って、シャフト内に偏心して設置されている。但しこれに代えて、軸線方向整列部分17を、傾斜部分18に対して近位側にある長さの全部ないし一部に沿って、シャフト内に同軸状に設置することができる。図2の実施形態において、針通し腔16は典型的には、シャフト11の近位端までの傾斜部分18に対して近位側の全長に沿って軸線方向に整列させられている。但し、針通し腔16は、螺旋形の渦巻状形態などの様々な適当な代替形態を有することができる。
【0014】
図5は、本発明の特徴を具体化するニードルカテーテル35の代替的実施形態の遠位端を例示している。そのカテーテル35は、少なくともシャフト11の遠位部分に沿って針通し腔16が螺旋状に延びており、これにより、本発明に従って遠位端面14からある傾斜角でカテーテルより出るように針を導くことを除いて、図10のニードルカテーテル10と同様である。図示の実施形態において、螺旋状に延びる針通し腔16は、(テンドンワイヤ29腔を画成する)第2の内側管状部材23におけるシャフト内に同軸状に置かれた部分の周りに螺旋を描いている。もっとも、針通し腔16が代わりに第2の内側管状部材23の横を螺旋状に延びるかもしれず、第2の内側管状部材23が代わりに、図2の実施形態のようにシャフト内に(同軸状ではなく)偏心的に置かれるかもしれない。(単数ないし複数の)同軸状の内腔は、一実施形態において、少なくとも部分的に好ましいかもしれない。これは、改善されたトルク応答性がカテーテルにもたらされるためである。傾斜遠位部分18は、螺旋状に延びる針通し腔16の遠位端によって形成される(即ち、針は、ポート13の位置で螺旋形の腔16の軸線と整列したベクトルでカテーテル35の外へ導かれる)。図5に例示するものは、全周回ないし全巻回を巡って(シャフトの周りに360度)螺旋状に延びているが、ある傾斜角でカテーテルから出るように針を導くためには、これに代えて、針通し腔16における螺旋形の遠位傾斜部分18が、シャフトの一部だけに沿って針通しポート13まで(即ち、シャフトにおける完全な360度巻回よりも少なく)螺旋状に延びるように構成されるかもしれない。かくして、螺旋形の傾斜遠位部分18が、図2の実施形態と同様に、軸線方向整列部分へと近位方向に推移するかもしれない。これは、針通し腔16内での針12の滑動中の摩擦を最小限にするであろう。軸線方向に整列した近位部分から螺旋形の遠位部分へと推移する針通し腔16の一実施形態において、その比較的短い遠位側の螺旋形部分は、約1cmから約10cmの長さを有している。或いは、より均等な重さのカテーテルにするために、針通し腔16は、傾斜遠位部分18から近位方向に、その長さの相当の部分(若しくは全部)に沿って螺旋状に延びることができる。螺旋状に延びる腔16は、一定の角度で延びることができ、或いは可変ピッチを有することができる。図2の実施形態におけるものと同じ安定化部材24、充填材料25、遠位先端部材26、およびシャフト管状部材27を伴って図示されているが、螺旋状に延びる針通し腔16に対しては、異なるシャフト構成が有用となり得る、ということが理解されるべきである。本明細書で用いられるような術語「螺旋状」は、実質的に真っ直ぐ延びる(即ち、意図的に引き起こされたカテーテル縦軸線周りの螺旋や曲線を描くことの全くない)軸線方向整列部材とは違って、螺旋を描いている形態を一般的に表すものと理解されるべきである。
【0015】
カテーテル10,35の遠位端面14は、ずれの危険を冒すことなく患者の体腔壁に対して安定して定置することに備えるため、少なくとも部分的に、シャフトの遠位部分の縦軸線に対して略垂直である(即ち90度+/−約30度から約45度の平面内にある)。また、遠位端面14と、その中の針通し腔ポート13とは、患者の体腔壁に押し付けられるように構成されている。カテーテルは、所望の注射部位でのポート13の定置を容易にするように構成されている。また、遠位端面14にの近位側にあるシャフトの側壁におけるポートとは違って、面14、および遠位端面内のポート13は、カテーテルの近位端を遠位方向に(軸線方向に押す力が、カテーテルを通じてその遠位先端部へと伝えられるように)押すことによって、遠位シャフト部分が患者の体腔の壁(例えば心筋層)に対して垂直になっている間に、その壁に対して効果的に押し付けることができる。遠位シャフト部分が屈撓性であるため、遠位端面14は、屈撓形態においては遠位シャフト部分の縦軸線に対して、非屈撓(弛緩)形態においてはシャフトの全長の縦軸線に対して、それぞれ略垂直である、ということに留意すべきである。典型的に、カテーテルの遠位端面14は、カテーテルが患者の人体内へ進行させられて注射部位で組織に押し付けられるときに患者の人体に対する外傷を最小限にするように構成された、湾曲した表面を有している。図示の実施形態において、遠位端面14は比較的大きい曲率半径を有し(即ち、比較的より緩やかに湾曲し)、その結果として、ポート13がシャフトの縦軸線に対して略垂直になっている。図示の実施形態においては、高分子遠位先端部材30が、シャフトの遠位端面を形成している。
【0016】
針通し腔16は、典型的には、略均一な直径を有し(即ち、その直径が、その全長に沿って同様であり)、その内部に直針や予め賦形された曲針を滑動可能に受け入れることができる。例えば、予め賦形された曲針は、図2の実施形態の針通し腔16における軸線方向整列部分17と傾斜部分18との接合部分での屈曲に対応した屈曲部を有している。かくして、予め賦形された曲針を有するカテーテルの実施形態は、ポート13から針が出てくる角度を変化させることはなく(即ち、予め曲げられた針が、直針と同じ角度で出てきて)、寧ろ、曲針が、その針の屈曲部より遠位側の針の長さに対応する予め決められた延伸長さで針通し腔内に静止するようになることを可能とする。針は、針通し腔16の軸線方向整列部分17と傾斜部分18との間の接合部分に針の屈曲部を置くのを容易にするために、典型的にはニッケル−チタニウム(NiTi)合金で形成される。もっとも、全体ないし一部がステンレス鋼やコバルトクロムや他の類似の合金で形成された針を含む、様々な適当な針を用いることができる。
【0017】
本発明に従って、針通し腔16の傾斜部分18は、遠位シャフト部分の縦軸線に対して(若しくは、屈撓していないシャフトの縦軸線に対して)0度より大きく90度より小さい角度で、針通しポート13まで延びている。より正確に言えば、遠位傾斜/湾曲部分18の出口傾斜角は、約30度から約60度であることが好ましい。図2に例示した実施形態においては、傾斜部分18が、遠位シャフト部分の縦軸線に対して約45度の角度で延びている。傾斜部分18は、典型的に約1mmから約20mmの、若しくは、典型的に針通し腔16の全長の比較的少ない割合の長さを有している。カテーテルの全長は変動するが、一実施形態において、その長さは約105cmから約115cmであってよい。
【0018】
患者の体腔の壁における注射部位へ薬剤を投与する方法において、本発明のカテーテルは、針が引込み形態にあって、遠位シャフト部分が弛緩(非屈撓)形態にある状態で、患者の脈管系内へ導入される。具体的には、引込み形態にある針の穿孔遠位先端は、典型的に、図2の実施形態における針通し腔16の軸線方向整列部分17内に置かれている。これにより、患者の体腔内における所望の位置へのカテーテルの経皮的な進行中に、カテーテルの遠位先端部の可撓性が改善される。例えば、目下の好適な実施形態においては、生体適合物質(細胞)などの薬剤を心臓の心筋層内へと注射するために、カテーテルが患者の心臓の左心室内へと進行させられる。
【0019】
図6は、本発明のニードルカテーテルを、当該カテーテルの遠位端が患者の心臓46の左心室45内にある状態で例示している。このカテーテルは、典型的には、大腿動脈内へと挿入されるイントロデューサ(誘導針)シースの内腔を通じて、逆行するやり方で大動脈47内に進行させられる。図示の実施形態におけるカテーテルは、ガイドワイヤ上での進行のためには構成されていない。もっとも、これに代わる実施形態や投与部位においては、内部にガイドワイヤを滑動可能に受け入れるためのガイドワイヤ腔がシャフト11内に設けられる。最初にイントロデューサ・シース内へと挿入されるガイディング・カテーテル44を用いて、カテーテルを所定位置内へと挿入してもよい。好適な心臓内の適用では、屈撓機構が望まれる。屈撓制御機構34を用いて屈撓部材(例えばテンドンワイヤ29)を作動させることにより、カテーテルの遠位端が、(例えば図6に例示するように)心臓の壁上における所望の注射部位に向かって、シャフト11の縦軸線から遠ざかって屈撓させられる。
【0020】
当該方法は、注射部位で患者の体腔壁に遠位端面14を押し付けることを含んでいる。図示の実施形態においては、遠位端面14が丸められているが、これによりカテーテルのポート13が心臓壁に押し付けられるように構成されている。面14が壁に接した状態で、当該方法は、針の穿孔遠位先端19がポート13の外へ遠位方向に延びる延伸形態へと針を進行させることを含んでいる。その針の進行は、針12が、針通し腔16の傾斜部分18の傾斜角で体腔壁内へと延びて、これにより患者の体腔壁内に傾斜した注射経路を形成するように行われる。図6は、穿孔遠位先端19が心臓壁内にある状態の延伸形態にある針12を例示している(針通し腔の中にある針12の部分は、図6に仮想線で例示されている)。傾斜部分18の近位端において、針通し腔16は、ポート13に向かって針を滑動可能に進行させるのを容易にするように構成されていることが好ましい。例えば、図2に例示した引込み形態から図6の延伸形態への針12の進行中に、針12の遠位穿孔先端部19は傾斜部分18の壁と接触するが、この傾斜部分18の壁は、針通しポート13に向かって傾斜した傾斜路状の形状を有すると共に、針通し腔16を画成している。傾斜部分18内への針12の進行を容易にするためには、針通し腔16の軸線方向整列部分17の遠位端において、補強された壁や付加された傾斜路を用いることもできる。かくして、針通し腔16内で針が遠位方向へ進行させられるとき、これにより針通し腔16の傾斜部分18内へと針が導かれる。
【0021】
針12の進行中、遠位シャフト部分が所望の注射部位に対して略垂直に向けられているので、押す力が、カテーテルの近位端から遠位端へと軸線方向に伝えられ、これにより遠位端面14およびポート13を心臓壁に押し付ける。本発明の方法は、図示しない薬剤源(この薬剤源は、コネクタ31に連結され、これにより針12の近位端と流体連通状態にある)からの薬剤を、針の内腔20を通じて流し、これにより当該薬剤を、患者の体腔壁内の傾斜した注射経路の中へと送達する。従来の直入形(straight-in)の(即ち心臓壁面に対して垂直な)注射経路と比べて、傾斜した注射経路は、搏動している心臓壁からの投与された薬剤の排出をより少なくすることに備えていることで好ましい。傾斜した注射経路が有する心臓壁内での所与の注射深さまでの長さは、同じ注射深さまでの対応する直入形の注射経路の場合よりも長い。その上、針12は、心臓壁内での針12の傾斜角のおかげで、搏動している心臓壁に対するカテーテルの遠位端の改善された安定化をもたらす。傾斜していない針通し腔を有すると共に、予め賦形された曲針(この曲針は、傾斜していない針通し腔からその屈曲部が出て行くときの屈撓/傾斜形態を想定してバイアスがかけられている)を有したカテーテルとは違って、本発明のカテーテルにおける針通し腔16の傾斜部分18は、針が針通し腔から出て組織に入る瞬間から、また、既に針が中へと延びている周囲の体腔壁によってバイアスのかけられた形態へと屈撓するのを潜在的に抑えられている間でさえも、ある傾斜角で針を延びさせる。本発明のカテーテル設計は、ポート13外への針12の進行中、および、その後の針12から心臓壁内への薬剤の注入中、改善された薬剤投与のために、カテーテルの遠位端を心臓壁に接した状態に好ましく保つ。
【0022】
カテーテル10,35の寸法は、カテーテルの型式や、カテーテルが通過せねばならぬ体腔の大きさなどの要素によって決まる。例として、カテーテルの外径は、典型的に約7−8フレンチ互換から約10−11フレンチ互換で作られる。針は、典型的に約25ゲージから31ゲージ、より具体的には約27ゲージの針である。カテーテル10の全長は、約100cmから約150cmに及んでよく、典型的には約110cmである。
【0023】
本発明のカテーテルおよび方法を用いて、様々な適当な薬剤を投与することができる。薬剤は、典型的に、冠状動脈、神経血管、および/または他の脈管系における疾患の治療および/または診断用のものであり、患部組織の一次治療として、或いは、血管形成術やステント留置などの他の介入療法と関連した二次治療としてとして有用なものであってもよい。適当な治療用薬剤は、血栓溶解薬、抗炎症剤、増殖抑制剤、内皮機能を回復させ、および/または内皮機能を保つ薬品などを含むが、これらに限定はされない。ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、細胞などを含む(但し、これらに限定されない)様々な生体活性薬剤を用いることができる。目下の好適な実施形態において、薬剤は細胞である。治療用の薬剤に加えて、本発明により、様々な診断用の薬剤を用いることができる。薬剤は、リポソーム、ポリメロソーム、ナノ粒子、マイクロ粒子、リピド/ポリマー・ミセル、並びに、リピドおよび/またはポリマーを伴う薬剤の複合体などを含む様々な適当な担体や調合で提供されてもよい。
【0024】
主として、カテーテルの遠位先端部が高分子の非外傷性先端部材である実施形態の観点から議論したが、本発明のカテーテルは、異なる用途のために、また様々な適当な代替的設計で構成することができる、ということが理解されるべきである。例えば、一実施形態において、遠位先端部材は、典型的に診断および/または治療の目的のために構成される金属製の遠位端面を有した、カテーテルの近位端で電気コネクタ(図示せず)と電気的な連絡状態にある電極である。本発明に対しては、その範囲から逸脱することなく、他の修正や改良を加えることができる。その上、本発明の一実施形態における個々の特徴が本明細書で議論されたり、当該一実施形態の図面に示されたりしたかもしれないが、本発明の一実施形態における個々の特徴は、別の実施形態の1つないし複数の特徴や、複数の実施形態からの特徴と組み合わされてもよい、ということが明らかなはずである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体腔の壁における注射部位で薬剤を注射するように構成された薬剤投与ニードルカテーテルであって、
a)近位端と、遠位端と、近位端から当該カテーテルの遠位端面内の針通しポートまで内部を延びる針通し腔とを有する細長いカテーテル・シャフトであって、遠位端面および遠位端面内の針通し腔ポートが患者の体腔の壁に押し付けられるべく構成されるように、遠位端面が少なくとも部分的に当該シャフトの遠位部分の縦軸線に対して略垂直になっており、針通し腔が、縦軸線に対して0度より大きく90度より小さい角度で針通しポートまで延びる傾斜遠位部分を有している、カテーテル・シャフトと、
b)シャフトの針通し腔内に滑動可能に配置された中空針であって、穿孔遠位先端と、この穿孔遠位先端におけるポートと流体連通状態にある内腔とを有すると共に、引込み形態と延伸形態とを有し、引込み形態においては、当該針の穿孔遠位先端がシャフトの針通し腔内にあり、延伸形態においては、注射部位で患者の体腔の壁に遠位端面が接した状態で、針通し腔の傾斜遠位部分の傾斜角にて当該針を患者の体腔の壁内へと導くことによって、患者の体腔の壁内に傾斜した注射経路を形成すべく当該カテーテルが構成されるように、穿孔遠位先端が針通しポートの外へ遠位方向に延びる、中空針と、
を備えた薬剤投与ニードルカテーテル。
【請求項2】
遠位端面が丸められている、請求項1記載のカテーテル。
【請求項3】
シャフトは遠位先端部材を有し、この遠位先端部材は、当該カテーテルの丸められた遠位端面を形成する遠位端と、シャフトの管状部材の遠位端に結合された近位端とを有しており、針通し腔の傾斜部分の近位端が、遠位先端部材の近位端と半径方向に整列させられるか、または遠位先端部材の近位端に近位側にある、請求項2記載のカテーテル。
【請求項4】
遠位先端部材は、少なくとも部分的に、当該遠位先端部材に結合されたシャフトの管状部材を形成する高分子材料よりも低いショア押込硬さを有した高分子材料で形成されている、請求項3記載のカテーテル。
【請求項5】
針通し腔は、傾斜遠位部分に対して近位側に置かれた軸線方向整列部分を有している、請求項1記載のカテーテル。
【請求項6】
針通し腔の軸線方向整列部分はシャフト内に偏心して置かれ、傾斜部分はシャフトの縦軸線を横切って延びている、請求項5記載のカテーテル。
【請求項7】
針通し腔は、傾斜部分から、当該針通し腔の近位端まで、シャフト内で軸線方向に整列させられ偏心して設置されている、請求項1記載のカテーテル。
【請求項8】
傾斜部分は、シャフトの少なくとも一部に沿って螺旋状に延びている、請求項1記載のカテーテル。
【請求項9】
針通し腔は、遠位シャフト部分において当該カテーテルの外側へと開いたシャフトの単一の内腔であり、針通しポートは、シャフトの遠位先端部分における単一のポートである、請求項1記載のカテーテル。
【請求項10】
針通し腔は、略均一な直径を有している、請求項1記載のカテーテル。
【請求項11】
傾斜部分は、縦軸線に対して約30度から約60度の角度で延びている、請求項1記載のカテーテル。
【請求項12】
患者の体腔の壁における注射部位へ薬剤を投与する方法であって、
a)患者の脈管系内にカテーテルを導入することであって、当該カテーテルが細長いカテーテル・シャフトと中空針とを備え、そのカテーテル・シャフトが、近位端と、遠位端と、近位端から当該カテーテルの遠位端面内の針通しポートまで延びる針通し腔とを有すると共に、遠位端面および遠位端面内の針通し腔ポートが患者の体腔の壁に押し付けられるべく構成されるように、遠位端面が少なくとも部分的に当該シャフトの遠位部分の縦軸線に対して略垂直になっていて、針通し腔が、縦軸線に対して0度より大きく90度より小さい角度で針通しポートまで延びる傾斜遠位部分を有しており、その中空針が、シャフトの針通し腔内に滑動可能に配置されると共に、穿孔遠位先端と、この穿孔遠位先端におけるポートと流体連通状態にある内腔と、穿孔遠位先端がカテーテル・シャフトの針通し腔内にある引込み形態とを有している、カテーテルを導入すること、および、針が引込み形態にある状態で、導入されたカテーテルを経皮的に進行させて、カテーテルの遠位端を患者の体腔内に定置すること、
b)注射部位で患者の体腔壁に遠位端面を押し付けること、および、針を延伸形態へと進行させることであって、その延伸形態においては、針通し腔の傾斜部分の傾斜角にて針が患者の体腔壁内へと延びて、これにより患者の体腔壁内に傾斜した注射経路を形成するように、患者の体腔壁に遠位端面が接した状態で、針の穿孔遠位先端がポートの外へ遠位方向に延びること、並びに、
c)針の近位端と流体連通状態にある薬剤源からの薬剤を、針の内腔を通じて流し、これにより患者の体腔壁内の傾斜した注射経路の中へと当該薬剤を送達すること、
を備えた方法。
【請求項13】
針通し腔は、傾斜遠位部分に対して近位側に置かれた軸線方向整列部分を含んでおり、b)は、針の穿孔遠位先端を腔屈曲部を通じて延伸形態へと滑動可能に進行させることを含んでいる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
遠位端面は丸められており、b)において患者の体腔の壁にポートが押し付けられる、請求項12記載の方法。
【請求項15】
b)において、針の穿孔遠位先端は、針が針通し腔内を遠位方向に進行させられるときに、針通しポートに向かって傾斜した傾斜路形状を有して針通し腔を画成する壁と接触し、これにより針通し腔の傾斜部分内へと導かれる、請求項12記載の方法。
【請求項16】
b)においてカテーテルの遠位先端部へと軸線方向に伝えられる押す力が遠位端面およびポートを壁に押し付けるように、b)およびc)の間はシャフトの遠位シャフト部分が注射部位に対して略垂直に向けられる、請求項12記載の方法。
【請求項17】
薬剤は細胞を含む生体適合物質であり、体腔は患者の心臓の心腔であり、針の穿孔遠位先端は、c)における心筋層内への薬剤投与のために、b)において患者の心臓壁の心筋層内へと進行させられる、請求項12記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−526807(P2011−526807A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516467(P2011−516467)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/047833
【国際公開番号】WO2010/002604
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(591040889)アボット、カーディオバスキュラー、システムズ、インコーポレーテッド (42)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT CARDIOVASCULAR SYSTEMS INC.
【Fターム(参考)】