傾斜型乗客コンベア
【課題】本発明は、水密溶接箇所を低減してもオイルパン外への潤滑油の流出がない傾斜型乗客コンベアを提供することにある。
【解決手段】本発明は、本体枠4に、複数枚の薄板10A〜10Dを傾斜方向に配列して形成したオイルパン10の幅方向両端部を水密溶接W1,W2すると共に、上方の薄板の下端部の幅方向両側に切欠き部11A,11B,13A,13Bを形成し、この切欠き部の縁と下側の薄板とを水密溶接W4〜W7したのである。
上記構成により、水密溶接が施されていない上下の薄板の重なり合い部から潤滑油が遡上し横方向に移動してきても、水密溶接W4〜W7で阻止され、その後切欠き部の水密溶接部に沿って下方に落下して下側の薄板上に戻ってくる。したがって、オイルパン外への漏油は防止されるのである。
【解決手段】本発明は、本体枠4に、複数枚の薄板10A〜10Dを傾斜方向に配列して形成したオイルパン10の幅方向両端部を水密溶接W1,W2すると共に、上方の薄板の下端部の幅方向両側に切欠き部11A,11B,13A,13Bを形成し、この切欠き部の縁と下側の薄板とを水密溶接W4〜W7したのである。
上記構成により、水密溶接が施されていない上下の薄板の重なり合い部から潤滑油が遡上し横方向に移動してきても、水密溶接W4〜W7で阻止され、その後切欠き部の水密溶接部に沿って下方に落下して下側の薄板上に戻ってくる。したがって、オイルパン外への漏油は防止されるのである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエスカレーターや傾斜型電動道路等の傾斜型乗客コンベアに係り、特に、駆動部分に供給した潤滑油の滴下を受けるオイルパンの設置を工夫した傾斜型乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、駆動部分に供給した潤滑油の滴下を受けるオイルパンは、図10及び図11に示すように、傾斜方向に配列して重ね合わせた複数枚の薄板10C,10Dの幅方向の両端を、本体枠4の左右に位置する下弦材4A,4Bに水密溶接W1,W2し、さらに、薄板10C,10Dの重ね合わせ部の下端も水密溶接W3して構成している。
【0003】
尚、関連する技術として特許文献1が存在する。
【0004】
【特許文献1】特開2004−35168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景技術に記載のオイルパンによれば、滴下して流下する潤滑油aをオイルパン10の外部に流出させることなく捕集することができる。
【0006】
しかしながら、水密溶接W1,W2,W3を行う箇所が多く、溶接作業時間が多大となる問題があった。
【0007】
そこで、溶接作業時間を短縮するために、図12に示すように、上側の薄板10Cと下側の薄板10Dとの重なり合い部の水密溶接W3を省略することも検討された。しかしながら、水密溶接W3を省略すると、薄板10Cと薄板10Dとの重なり合い部の下端に流下してきた潤滑油aの一部asが停滞し、これが重なり合い部の間から毛細管現象により破線矢印bに示すように遡上し、遡上した潤滑油は破線矢印cに示すように横方向に移動し、図10に示す水密溶接されていない薄板10Cと薄板10Dとの重なり合い部の隙間Gから、オイルパン10の外部に流出する問題が生じることが判明した。そして、遡上する潤滑油(破線矢印b)や横方向に移動する潤滑油(破線矢印c)は、傾斜型乗客コンベアの運転時の振動が加わると顕著になり、外部への潤滑油漏れ量を多量にすることが確認された。
【0008】
したがって、従来においては、図10及び図11に示す、水密溶接W1,W2,W3を必須としていた。
【0009】
本発明の目的は、水密溶接箇所を低減してもオイルパン外への潤滑油の流出がない傾斜型乗客コンベアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために、本体枠に、複数枚の薄板を傾斜方向に配列して形成したオイルパンの幅方向両端部を水密溶接すると共に、上方の薄板の下端部の幅方向両側に切欠き部を形成し、この切欠き部の縁と下側の薄板とを水密溶接したのである。
【0011】
上記構成により、水密溶接が施されていない上下の薄板の重なり合い部から潤滑油が遡上し横方向に移動してきても、そこには切欠き部において上下の薄板が水密溶接されているので、横方向はそこで阻止され、切欠き部の水密溶接部に沿って下方に落下して下側の薄板上に戻ってくる。したがって、オイルパン外への漏油は防止されるのである。
【0012】
そして望ましくは、上方の薄板と下側の薄板の重なり合い部に隙間を保持するように構成すれば、潤滑油遡上の毛細管現象を低下させることができるので、切欠き部を小さくして水密溶接寸法を短くすることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、水密溶接箇所を低減してもオイルパン外への潤滑油の流出がない傾斜型乗客コンベアを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明による傾斜型乗客コンベアの第1の実施の形態を、図1〜図5に示すエスカレーターに基づいて説明する。
【0015】
エスカレーター1は、建築構造物の上階床2と下階床3との間に跨って設置された本体枠4と、この本体枠4内を踏段チェーン6によって無端状に連結されて循環移動する複数の踏段5と、踏段チェーン6を巻き掛けて踏段5を循環移動させる駆動スプロケット7Aと従動スプロケット7Bと、駆動スプロケット7Aを駆動する図示しない駆動系と、前期踏段5の移動方向に沿う両側に対向する本体枠4に立設された欄干8と、この欄干8の周縁を前記踏段5と同期して循環移動する移動手摺9と、本体枠4の下部全長に亘って設置されたオイルパン10とを有する。
【0016】
前記オイルパン10は、複数の薄板10A〜10Dを、上方の薄板の下端部が下方の薄板の上端部の上に重なるように傾斜方向に配列されており、これら薄板10A〜10Dの幅方向両端部は前記本体枠4を構成する左右の下弦材4A,4Bの下側に当接され、そこを水密溶接W1,W2されている。
【0017】
さらに、下方の薄板の上端部の上に重なる上方の薄板の下端部の幅方向両側には切欠き部が形成されているが、これを薄板10C,10Dを一例に具体的に説明する。尚、この薄板10C,10Dとの関係は、薄板10A,10Cと、薄板10D,10Bにも適用される。
【0018】
上方の薄板10Cの下端部の幅方向両側に、例えば45度斜めに切り落として切欠き部11A,11Bを形成している。この切欠き部11A,11Bは、上方の薄板10Cと下方の薄板10Dの重なり寸法Lの範囲内に形成されている。そして、この切欠き部11A.11Bの縁に沿って上方の薄板10Cと下方の薄板10Dとを夫々水密溶接W4,W5している。そして両方の水密溶接W4,W5の下端部の間Waは、溶接せずに上方の薄板10Cと下方の薄板10Dとを重ね合わせたままとしている。
【0019】
このように構成することで、上方の薄板10Cと下方の薄板10Dとの重ね合わせ部を全幅に亘って水密溶接していた場合に比べて水密溶接W4,W5の寸法は短縮されるので、その分、溶接作業時間を短縮することができる。
【0020】
また、水密溶接W4,W5の下端部の間Waは溶接されずに上方の薄板10Cと下方の薄板10Dとが重なったままであり、そのため、図3に示すように、ここに流下してきた潤滑油aの一部asが停滞し、それが破線矢印bに示すように薄板10Cと薄板10Dとの重なり合い部から重遡上する。しかしながら遡上した潤滑油が横方向に破線矢印cのように移動しても、その移動方向先端部には水密溶接W4(W5)が進路を塞いでいるので、水密溶接W4(W5)に達した潤滑油は、水密溶接W4(W5)の傾斜に沿って流下し、前記水密溶接W4(W5)の下端部の間Waから薄板10D上に戻ることになる。
【0021】
したがって、水密溶接W4,W5の寸法を短縮させたとしてもオイルパン10に滴下した潤滑油aの外部への漏洩を防止することができる。
【0022】
ところで、以上の説明は、薄板10Cと薄板10Dとの重なり合い部が接触しているので、毛細管現象により潤滑油の遡上は容易になる。そのため、図6に示すように、薄板10Cと薄板10Dの端部の幅方向の数箇所を変形させて互いに向き合う突起12を設け、これにより薄板10Cと薄板10Dとの重なり合い部に積極的に隙間Gを形成することで、毛細管現象を低下させて潤滑油の遡上距離を短縮させることができる。
【0023】
このように、潤滑油の遡上距離を短縮させることができれば、前記切欠き部11A,11Bを小さくしても潤滑油の漏洩を防止できるので、水密溶接W4,W5の寸法を短縮させることができる。
【0024】
図7及び図8は、本発明による第2の実施の形態を示すもので、図1〜図6と同一符号は同一構成部材を示すので、再度の詳細な説明は省略する。
【0025】
本実施の形態において、第1に実施の形態と異なる構成は、切欠き部13A,13Bが、上方の薄板10Cの下端部の幅方向両側を角型に切り落として形成した点である。
【0026】
この切欠き部13A,13Bは、上方の薄板10Cと下方の薄板10Dの重なり寸法Lの範囲内に形成されている。そして、この切欠き部13A,13Bの縁に沿って上方の薄板10Cと下方の薄板10Dとを夫々水密溶接W6,W7している。そして両方の水密溶接W6,W7の下端部の間Wbは、溶接せずに上方の薄板10Cと下方の薄板10Dとを重ね合わせたままとしている。
【0027】
このように構成することで、上方の薄板10Cと下方の薄板10Dとの重ね合わせ部を全幅に亘って水密溶接していた場合に比べて水密溶接W6,W7の寸法は短縮されるので、その分、溶接作業時間を短縮することができる。
【0028】
また、水密溶接W6,W7の下端部の間Wbは溶接されずに上方の薄板10Cと下方の薄板10Dとが重なったままであり、そのため、図9に示すように、ここに流下してきた潤滑油aの一部asが停滞し、それが破線矢印bに示すように薄板10Cと薄板10Dとの重なり合い部から重遡上する。しかしながら遡上した潤滑油が横方向に破線矢印cのように移動しても、その移動方向先端部には水密溶接W6(W7)のうち縦方向の水密溶接部が進路を塞いでいるので、そこに達した潤滑油は、水密溶接W6(W7)の縦方向に沿って流下し、前記水密溶接W6(W7)の下端部の間Wbから薄板10D上に戻ることになる。
【0029】
したがって、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。また、本実施の形態においても、図6に示すように、薄板10Cと薄板10Dの上下端部の幅方向の数箇所に互いに向き合う突起12を設けて薄板10Cと薄板10Dとの重なり合い部に積極的に隙間Gを形成することで、前記切欠き部13A,13Bの切り落とす角型面積を小さくすることができ、これにより水密溶接W6(W7)の寸法を短縮することができる。
【0030】
以上説明したように、各実施の形態によれば、水密溶接箇所を低減してもオイルパン外への潤滑油の流出がないエスカレーター1を得ることができる。
【0031】
ところで、各実施の形態において切欠き部11A,11B,13A,13Bは、最短寸法で水密溶接を行うために直線的に切り落としたものであるが、多少溶接寸法が長くなるが曲線的に切り落とすようにしてもよいのは勿論である。
さらに、各実施の形態においては、乗客コンベアとしてエスカレーターを一例に説明したが、エスカレーターと基本構成が同じな電動道路にも適用できるのは云うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による乗客コンベアの第1の実施の形態を示すエスカレーターのオイルパンの平面図。
【図2】図1のオイルパンの一部を示す斜視図。
【図3】図2に示すオイルパンの滴下した潤滑油の移動を示す説明図。
【図4】図1に示すオイルパンが適用されたエスカレーターを示す概略側面図。
【図5】図4に用いられたオイルパンの側面図。
【図6】オイルパンを構成する上下の薄板の重なり合い部の一例を示す拡大側面図。
【図7】本発明による乗客コンベアの第2の実施の形態を示すエスカレーターのオイルパンの図1相当図。
【図8】図7のオイルパンの一部を示す図2相当図。
【図9】図8に示すオイルパンの滴下した潤滑油の移動を示す図3相当図。
【図10】従来におけるオイルパンの上下の薄板の重なり合い部を示す拡大側面図。
【図11】図10の水密溶接状態を示す斜視図。
【図12】図11の変形例を示す斜視図。
【符号の説明】
【0033】
1…エスカレーター、2…上階床、3…下階床、4…本体枠、4A,4B…下弦材、5…踏段、6…踏段チェーン、7A…駆動スプロケット、7B…従動スプロケット、8…欄干、9…移動手摺、10…オイルパン、10A〜10D…薄板、11A,11B,13A,13B…切欠き部、12…突起、W1〜W7…水密溶接。
【技術分野】
【0001】
本発明はエスカレーターや傾斜型電動道路等の傾斜型乗客コンベアに係り、特に、駆動部分に供給した潤滑油の滴下を受けるオイルパンの設置を工夫した傾斜型乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、駆動部分に供給した潤滑油の滴下を受けるオイルパンは、図10及び図11に示すように、傾斜方向に配列して重ね合わせた複数枚の薄板10C,10Dの幅方向の両端を、本体枠4の左右に位置する下弦材4A,4Bに水密溶接W1,W2し、さらに、薄板10C,10Dの重ね合わせ部の下端も水密溶接W3して構成している。
【0003】
尚、関連する技術として特許文献1が存在する。
【0004】
【特許文献1】特開2004−35168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景技術に記載のオイルパンによれば、滴下して流下する潤滑油aをオイルパン10の外部に流出させることなく捕集することができる。
【0006】
しかしながら、水密溶接W1,W2,W3を行う箇所が多く、溶接作業時間が多大となる問題があった。
【0007】
そこで、溶接作業時間を短縮するために、図12に示すように、上側の薄板10Cと下側の薄板10Dとの重なり合い部の水密溶接W3を省略することも検討された。しかしながら、水密溶接W3を省略すると、薄板10Cと薄板10Dとの重なり合い部の下端に流下してきた潤滑油aの一部asが停滞し、これが重なり合い部の間から毛細管現象により破線矢印bに示すように遡上し、遡上した潤滑油は破線矢印cに示すように横方向に移動し、図10に示す水密溶接されていない薄板10Cと薄板10Dとの重なり合い部の隙間Gから、オイルパン10の外部に流出する問題が生じることが判明した。そして、遡上する潤滑油(破線矢印b)や横方向に移動する潤滑油(破線矢印c)は、傾斜型乗客コンベアの運転時の振動が加わると顕著になり、外部への潤滑油漏れ量を多量にすることが確認された。
【0008】
したがって、従来においては、図10及び図11に示す、水密溶接W1,W2,W3を必須としていた。
【0009】
本発明の目的は、水密溶接箇所を低減してもオイルパン外への潤滑油の流出がない傾斜型乗客コンベアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために、本体枠に、複数枚の薄板を傾斜方向に配列して形成したオイルパンの幅方向両端部を水密溶接すると共に、上方の薄板の下端部の幅方向両側に切欠き部を形成し、この切欠き部の縁と下側の薄板とを水密溶接したのである。
【0011】
上記構成により、水密溶接が施されていない上下の薄板の重なり合い部から潤滑油が遡上し横方向に移動してきても、そこには切欠き部において上下の薄板が水密溶接されているので、横方向はそこで阻止され、切欠き部の水密溶接部に沿って下方に落下して下側の薄板上に戻ってくる。したがって、オイルパン外への漏油は防止されるのである。
【0012】
そして望ましくは、上方の薄板と下側の薄板の重なり合い部に隙間を保持するように構成すれば、潤滑油遡上の毛細管現象を低下させることができるので、切欠き部を小さくして水密溶接寸法を短くすることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、水密溶接箇所を低減してもオイルパン外への潤滑油の流出がない傾斜型乗客コンベアを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明による傾斜型乗客コンベアの第1の実施の形態を、図1〜図5に示すエスカレーターに基づいて説明する。
【0015】
エスカレーター1は、建築構造物の上階床2と下階床3との間に跨って設置された本体枠4と、この本体枠4内を踏段チェーン6によって無端状に連結されて循環移動する複数の踏段5と、踏段チェーン6を巻き掛けて踏段5を循環移動させる駆動スプロケット7Aと従動スプロケット7Bと、駆動スプロケット7Aを駆動する図示しない駆動系と、前期踏段5の移動方向に沿う両側に対向する本体枠4に立設された欄干8と、この欄干8の周縁を前記踏段5と同期して循環移動する移動手摺9と、本体枠4の下部全長に亘って設置されたオイルパン10とを有する。
【0016】
前記オイルパン10は、複数の薄板10A〜10Dを、上方の薄板の下端部が下方の薄板の上端部の上に重なるように傾斜方向に配列されており、これら薄板10A〜10Dの幅方向両端部は前記本体枠4を構成する左右の下弦材4A,4Bの下側に当接され、そこを水密溶接W1,W2されている。
【0017】
さらに、下方の薄板の上端部の上に重なる上方の薄板の下端部の幅方向両側には切欠き部が形成されているが、これを薄板10C,10Dを一例に具体的に説明する。尚、この薄板10C,10Dとの関係は、薄板10A,10Cと、薄板10D,10Bにも適用される。
【0018】
上方の薄板10Cの下端部の幅方向両側に、例えば45度斜めに切り落として切欠き部11A,11Bを形成している。この切欠き部11A,11Bは、上方の薄板10Cと下方の薄板10Dの重なり寸法Lの範囲内に形成されている。そして、この切欠き部11A.11Bの縁に沿って上方の薄板10Cと下方の薄板10Dとを夫々水密溶接W4,W5している。そして両方の水密溶接W4,W5の下端部の間Waは、溶接せずに上方の薄板10Cと下方の薄板10Dとを重ね合わせたままとしている。
【0019】
このように構成することで、上方の薄板10Cと下方の薄板10Dとの重ね合わせ部を全幅に亘って水密溶接していた場合に比べて水密溶接W4,W5の寸法は短縮されるので、その分、溶接作業時間を短縮することができる。
【0020】
また、水密溶接W4,W5の下端部の間Waは溶接されずに上方の薄板10Cと下方の薄板10Dとが重なったままであり、そのため、図3に示すように、ここに流下してきた潤滑油aの一部asが停滞し、それが破線矢印bに示すように薄板10Cと薄板10Dとの重なり合い部から重遡上する。しかしながら遡上した潤滑油が横方向に破線矢印cのように移動しても、その移動方向先端部には水密溶接W4(W5)が進路を塞いでいるので、水密溶接W4(W5)に達した潤滑油は、水密溶接W4(W5)の傾斜に沿って流下し、前記水密溶接W4(W5)の下端部の間Waから薄板10D上に戻ることになる。
【0021】
したがって、水密溶接W4,W5の寸法を短縮させたとしてもオイルパン10に滴下した潤滑油aの外部への漏洩を防止することができる。
【0022】
ところで、以上の説明は、薄板10Cと薄板10Dとの重なり合い部が接触しているので、毛細管現象により潤滑油の遡上は容易になる。そのため、図6に示すように、薄板10Cと薄板10Dの端部の幅方向の数箇所を変形させて互いに向き合う突起12を設け、これにより薄板10Cと薄板10Dとの重なり合い部に積極的に隙間Gを形成することで、毛細管現象を低下させて潤滑油の遡上距離を短縮させることができる。
【0023】
このように、潤滑油の遡上距離を短縮させることができれば、前記切欠き部11A,11Bを小さくしても潤滑油の漏洩を防止できるので、水密溶接W4,W5の寸法を短縮させることができる。
【0024】
図7及び図8は、本発明による第2の実施の形態を示すもので、図1〜図6と同一符号は同一構成部材を示すので、再度の詳細な説明は省略する。
【0025】
本実施の形態において、第1に実施の形態と異なる構成は、切欠き部13A,13Bが、上方の薄板10Cの下端部の幅方向両側を角型に切り落として形成した点である。
【0026】
この切欠き部13A,13Bは、上方の薄板10Cと下方の薄板10Dの重なり寸法Lの範囲内に形成されている。そして、この切欠き部13A,13Bの縁に沿って上方の薄板10Cと下方の薄板10Dとを夫々水密溶接W6,W7している。そして両方の水密溶接W6,W7の下端部の間Wbは、溶接せずに上方の薄板10Cと下方の薄板10Dとを重ね合わせたままとしている。
【0027】
このように構成することで、上方の薄板10Cと下方の薄板10Dとの重ね合わせ部を全幅に亘って水密溶接していた場合に比べて水密溶接W6,W7の寸法は短縮されるので、その分、溶接作業時間を短縮することができる。
【0028】
また、水密溶接W6,W7の下端部の間Wbは溶接されずに上方の薄板10Cと下方の薄板10Dとが重なったままであり、そのため、図9に示すように、ここに流下してきた潤滑油aの一部asが停滞し、それが破線矢印bに示すように薄板10Cと薄板10Dとの重なり合い部から重遡上する。しかしながら遡上した潤滑油が横方向に破線矢印cのように移動しても、その移動方向先端部には水密溶接W6(W7)のうち縦方向の水密溶接部が進路を塞いでいるので、そこに達した潤滑油は、水密溶接W6(W7)の縦方向に沿って流下し、前記水密溶接W6(W7)の下端部の間Wbから薄板10D上に戻ることになる。
【0029】
したがって、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。また、本実施の形態においても、図6に示すように、薄板10Cと薄板10Dの上下端部の幅方向の数箇所に互いに向き合う突起12を設けて薄板10Cと薄板10Dとの重なり合い部に積極的に隙間Gを形成することで、前記切欠き部13A,13Bの切り落とす角型面積を小さくすることができ、これにより水密溶接W6(W7)の寸法を短縮することができる。
【0030】
以上説明したように、各実施の形態によれば、水密溶接箇所を低減してもオイルパン外への潤滑油の流出がないエスカレーター1を得ることができる。
【0031】
ところで、各実施の形態において切欠き部11A,11B,13A,13Bは、最短寸法で水密溶接を行うために直線的に切り落としたものであるが、多少溶接寸法が長くなるが曲線的に切り落とすようにしてもよいのは勿論である。
さらに、各実施の形態においては、乗客コンベアとしてエスカレーターを一例に説明したが、エスカレーターと基本構成が同じな電動道路にも適用できるのは云うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による乗客コンベアの第1の実施の形態を示すエスカレーターのオイルパンの平面図。
【図2】図1のオイルパンの一部を示す斜視図。
【図3】図2に示すオイルパンの滴下した潤滑油の移動を示す説明図。
【図4】図1に示すオイルパンが適用されたエスカレーターを示す概略側面図。
【図5】図4に用いられたオイルパンの側面図。
【図6】オイルパンを構成する上下の薄板の重なり合い部の一例を示す拡大側面図。
【図7】本発明による乗客コンベアの第2の実施の形態を示すエスカレーターのオイルパンの図1相当図。
【図8】図7のオイルパンの一部を示す図2相当図。
【図9】図8に示すオイルパンの滴下した潤滑油の移動を示す図3相当図。
【図10】従来におけるオイルパンの上下の薄板の重なり合い部を示す拡大側面図。
【図11】図10の水密溶接状態を示す斜視図。
【図12】図11の変形例を示す斜視図。
【符号の説明】
【0033】
1…エスカレーター、2…上階床、3…下階床、4…本体枠、4A,4B…下弦材、5…踏段、6…踏段チェーン、7A…駆動スプロケット、7B…従動スプロケット、8…欄干、9…移動手摺、10…オイルパン、10A〜10D…薄板、11A,11B,13A,13B…切欠き部、12…突起、W1〜W7…水密溶接。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造物の上階床と下階床との間に設置された本体枠と、この本体枠の底面部に上方の薄板の下端部が下方の薄板の上端部の上に重なるように複数枚の薄板を傾斜方向に配列して形成したオイルパンとを備え、このオイルパンの幅方向両端部を前記本体枠に水密溶接してなる傾斜型乗客コンベアにおいて、前記上方の薄板の下端部の幅方向両側に切欠き部を形成し、この切欠き部の縁と下側の薄板とを水密溶接したことを特徴とする傾斜型乗客コンベア。
【請求項2】
建築構造物の上階床と下階床との間に設置された本体枠と、この本体枠の底面部に上方の薄板の下端部が下方の薄板の上端部の上に重なるように複数枚の薄板を傾斜方向に配列して形成したオイルパンとを備え、このオイルパンの幅方向両端部を前記本体枠に水密溶接してなる傾斜型乗客コンベアにおいて、前記上方の薄板の下端部の幅方向両側に切欠き部を形成し、この切欠き部の縁と下側の薄板とを水密溶接すると共に、前記切欠き部の高さ寸法を潤滑油の遡上寸法よりも高く形成したことを特徴とする傾斜型乗客コンベア。
【請求項3】
建築構造物の上階床と下階床との間に設置された本体枠と、この本体枠の底面部に上方の薄板の下端部が下方の薄板の上端部の上に重なるように複数枚の薄板を傾斜方向に配列して形成したオイルパンとを備え、このオイルパンの幅方向両端部を前記本体枠に水密溶接してなる傾斜型乗客コンベアにおいて、前記上方の薄板の下端部を下方の薄板の上端部の上に隙間を介して重ね合わせると共に、前記上方の薄板の下端部の幅方向両側に切欠き部を形成し、この切欠き部の縁と下側の薄板とを水密溶接したことを特徴とする傾斜型乗客コンベア。
【請求項4】
建築構造物の上階床と下階床との間に設置された本体枠と、この本体枠の底面部に上方の薄板の下端部が下方の薄板の上端部の上に重なるように複数枚の薄板を傾斜方向に配列して形成したオイルパンとを備え、このオイルパンの幅方向両端部を前記本体枠に水密溶接してなる傾斜型乗客コンベアにおいて、前記上方の薄板の下端部を下方の薄板の上端部の上に隙間を介して重ね合わせ、かつ、前記上方の薄板の下端部の幅方向両側に切欠き部を形成し、この切欠き部の縁と下側の薄板とを水密溶接すると共に、前記切欠き部の高さ寸法を潤滑油の遡上寸法よりも高く形成したことを特徴とする傾斜型乗客コンベア。
【請求項5】
前記切欠き部は、前記上方の薄板の下端部の幅方向両側を斜めに切り落として形成したことを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の傾斜型乗客コンベア。
【請求項6】
前記切欠き部は、前記上方の薄板の下端部の幅方向両側を角型に切り落として形成したことを特徴とする請求1,2,3又は4記載の傾斜型乗客コンベア。
【請求項1】
建築構造物の上階床と下階床との間に設置された本体枠と、この本体枠の底面部に上方の薄板の下端部が下方の薄板の上端部の上に重なるように複数枚の薄板を傾斜方向に配列して形成したオイルパンとを備え、このオイルパンの幅方向両端部を前記本体枠に水密溶接してなる傾斜型乗客コンベアにおいて、前記上方の薄板の下端部の幅方向両側に切欠き部を形成し、この切欠き部の縁と下側の薄板とを水密溶接したことを特徴とする傾斜型乗客コンベア。
【請求項2】
建築構造物の上階床と下階床との間に設置された本体枠と、この本体枠の底面部に上方の薄板の下端部が下方の薄板の上端部の上に重なるように複数枚の薄板を傾斜方向に配列して形成したオイルパンとを備え、このオイルパンの幅方向両端部を前記本体枠に水密溶接してなる傾斜型乗客コンベアにおいて、前記上方の薄板の下端部の幅方向両側に切欠き部を形成し、この切欠き部の縁と下側の薄板とを水密溶接すると共に、前記切欠き部の高さ寸法を潤滑油の遡上寸法よりも高く形成したことを特徴とする傾斜型乗客コンベア。
【請求項3】
建築構造物の上階床と下階床との間に設置された本体枠と、この本体枠の底面部に上方の薄板の下端部が下方の薄板の上端部の上に重なるように複数枚の薄板を傾斜方向に配列して形成したオイルパンとを備え、このオイルパンの幅方向両端部を前記本体枠に水密溶接してなる傾斜型乗客コンベアにおいて、前記上方の薄板の下端部を下方の薄板の上端部の上に隙間を介して重ね合わせると共に、前記上方の薄板の下端部の幅方向両側に切欠き部を形成し、この切欠き部の縁と下側の薄板とを水密溶接したことを特徴とする傾斜型乗客コンベア。
【請求項4】
建築構造物の上階床と下階床との間に設置された本体枠と、この本体枠の底面部に上方の薄板の下端部が下方の薄板の上端部の上に重なるように複数枚の薄板を傾斜方向に配列して形成したオイルパンとを備え、このオイルパンの幅方向両端部を前記本体枠に水密溶接してなる傾斜型乗客コンベアにおいて、前記上方の薄板の下端部を下方の薄板の上端部の上に隙間を介して重ね合わせ、かつ、前記上方の薄板の下端部の幅方向両側に切欠き部を形成し、この切欠き部の縁と下側の薄板とを水密溶接すると共に、前記切欠き部の高さ寸法を潤滑油の遡上寸法よりも高く形成したことを特徴とする傾斜型乗客コンベア。
【請求項5】
前記切欠き部は、前記上方の薄板の下端部の幅方向両側を斜めに切り落として形成したことを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の傾斜型乗客コンベア。
【請求項6】
前記切欠き部は、前記上方の薄板の下端部の幅方向両側を角型に切り落として形成したことを特徴とする請求1,2,3又は4記載の傾斜型乗客コンベア。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−111442(P2010−111442A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282660(P2008−282660)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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